(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
二液硬化型アクリル系組成物は、(メタ)アクリル系モノマー(本発明において(メタ)アクリルは、アクリルまたはメタクリルを意味するものとする)および有機過酸化物を含有する第一液と、(メタ)アクリル系モノマーおよび有機過酸化物とレドックス触媒系を形成する還元剤を含有する第二液から構成される。この二液硬化型アクリル系組成物は、混合することにより室温において短時間で硬化し、かつ化学量論的な意味での二液の正確な計量混合を必要とせず、取扱いが簡単であるという特徴から、接着剤、塗料およびコーティング剤等の分野で広く用いられている。
【0003】
しかしながら、二液硬化型アクリル系組成物は空気中の酸素により硬化阻害を受け、空気に接触した表面、例えば、接着剤として用いた場合には接着箇所からはみ出し空気に接触する表面部分の硬化が不充分で硬化物表面にベタツキが残り、埃が付着したり、他の部品や作業者の衣服を汚したりするなどの問題を有していた。これに対し、特許文献1には、二液硬化型アクリル系接着剤の第二液へバナジウム化合物を配合することにより、はみ出し部分の硬化性が良好となることが記載されている。しかしながら、バナジウム化合物を第二液に配合した二液硬化型アクリル系組成物は表面硬化性が良好となるものの、硬化させると人体に有害なホルムアルデヒドやアセトアルデヒドなどのアルデヒド類を発生させるという問題がある。特に、密閉された空間で使用する物品、例えば車内で使用するスピーカー、カーナビなどに使用される用途には、硬化時にアルデヒド類の発生が少ない二液硬化型アクリル系組成物が求められている。
【0004】
それに対し、特許文献2には、ホルムアルデヒドやアセトアルデヒドの発生量が少ない二液硬化型アクリル系組成物として、第一液に重合開始剤、第二液に3価のバナジウム化合物を含有してなる硬化性組成物が提案されているが、ホルムアルデヒドやアセトアルデヒド等のアルデヒド類の発生を抑えるには不充分である。さらに、特許文献3には、ホルムアルデヒドやアセトアルデヒドの発生量が少ない二液硬化型アクリル系組成物として、第一液にモノマーとしてアルキル(メタ)アクリレート及びヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートを含有してなる(メタ)アクリレートおよび有機過酸化物、第二液に前記モノマーおよびチオ尿素誘導体を含有してなる硬化性組成物が提案されている。この硬化性組成物はバナジウム化合物を含有せず、チオ尿素化合物を用いているためアルデヒド類の発生は少なくなっているものの、表面硬化性が悪いという問題がある。また、アルデヒド類と反応性を有する種々の化合物が知られているが、これらの化合物を二液硬化型アクリル系組成物へ適用すると、硬化し難くなる、あるいは保存安定性が悪くなるなどの問題があった。
【0005】
以上のように、アルデヒド類の発生を抑えるためにバナジウム化合物の代わりにチオ尿素化合物を配合した二液硬化型アクリル系組成物は表面硬化性が悪くなり、表面硬化性を向上させる目的でバナジウム化合物を配合した二液硬化型アクリル系組成物は、硬化させるとホルムアルデヒドやアセトアルデヒドなどのアルデヒド類を発生するという問題がある。特に密閉された空間で使用する物品にバナジウム化合物を配合した二液硬化型アクリル系組成物を用いると、硬化物から放散されたアルデヒド類が人体へ悪影響を与えるという問題がある。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明をより詳細に説明する。
一般に、二液硬化型アクリル系組成物は重合性を有する(メタ)アクリル系モノマーおよび有機過酸化物を含有する第一液と、有機過酸化物とレドックス触媒系を形成する還元剤を含有する第二液とから構成されるもので、二液主剤型とプライマー型に分類される。そして、二液主剤型は有機過酸化物を含有する第一液と還元剤を含有する第二液とから構成され、第一液、第二液とも重合性(メタ)アクリル系モノマーを主成分として含有するものであり、一方、プライマー型は、重合性を有する(メタ)アクリル系モノマーと有機過酸化物とを含有する主剤と呼ばれる第一液と、プライマーと呼ばれる還元剤を含有する第二液とから構成されるものである。本発明の二液硬化型アクリル系組成物は二液主剤型、プライマー型のいずれのタイプであっても差しつかえない。
【0011】
本発明において(メタ)アクリル系モノマーとしては、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、多価アルコールのポリ(メタ)アクリレート、エポキシ樹脂に(メタ)アクリル酸を付加反応させて得られるエポキシ(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物のジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらは単独或いは2種以上が組み合わされて用いられ、(メタ)アクリル酸のようにカルボキシル基を有する(メタ)アクリル系モノマーや、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート等の水酸基を有する(メタ)アクリル系モノマーを適宜併用すると、硬化物に良好な機械的強度と接着性を付与できるので好ましい。
【0012】
本発明の二液硬化型アクリル系組成物には、第一液および/または第二液に酸性リン酸エステルを配合することもでき、酸性リン酸エステルとしては、モノメチルフォスフェート、ジメチルフォスフェート、モノエチルフォスフェート、ジエチルフォスフェート、モノブチルフォスフェート、ジブチルフォスフェート、モノ−β−クロロエチルフォスフェート、ジ−β−クロロエチルフォスフェート、モノエトキシエチルフォスフェート、ジエトキシエチルフォスフェート、フェニルフォスフェート、ジフェニルフォスフェート、モノ(メタ)アクリロイルオキシエチルフォスフェート、ジ(メタ)アクリロイルオキシエチルフォスフェート、モノ(メタ)アクリロイルオキシプロピルフォスフェート、ジ(メタ)アクリロイルオキシプロピルフォスフェート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレートフォスフェート等が挙げられ、これらが単独で、或いは、2種以上組み合わせて用いられる。
【0013】
酸性リン酸エステルが第一液に配合される場合は、その配合量は保存安定性の観点から、第一液に配合される(メタ)アクリル系モノマー100重量部に対して0〜5重量部が好ましく、更には、0〜2重量部がより好ましい。酸性リン酸エステルの配合量が5重量部を超えると保存安定性が低下する恐れがある。酸性リン酸エステルが第二液に配合される場合は、第二液に配合される(メタ)アクリル系モノマー100重量部に対して0.1〜20重量部が好ましく、更には、0.5〜10重量部がより好ましい。酸性リン酸エステルの配合量が0.1重量部未満であると保存安定性を向上させる効果がなく、また、逆に20重量部を超えると保存安定性が低下する恐れがある。
【0014】
第一液には有機過酸化物が必須で、有機過酸化物としては、t−ブチルハイドロパーオキサイド、p−メンタンハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド等のハイドロパーオキサイド類、t−ブチルパーオキシラウレート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、t−ブチルパーオキシドデカノエート等のパーオキシエステル類、1,5−ジ−t−ブチルパーオキシ−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン等のパーオキシケタール類、アセト酢酸エチルパーオキサイド等のケトンパーオキサイド類、過酸化ベンゾイル等のジアシルパーオキサイド類を挙げることができ、これらを単独、或いは、2種以上組み合わせて用いることができるが、これらのうちハイドロパーオキサイド類が特に好ましい。有機過酸化物の配合量は第一液に配合される(メタ)アクリル系モノマー100重量部に対して0.5〜10重量部が好ましく、更には、1〜5重量部がより好ましい。有機過酸化物の配合量が0.5重量部未満であると、硬化速度が低下し好ましくなく、逆に、10重量部を超えると第一液の保存安定性が悪化し好ましくない。
【0015】
さらには、本発明の第一液中には、硬化速度を速くするための硬化促進剤としてα−ヒドロキシカルボニル化合物を配合することができる。α−ヒドロキシカルボニル化合物としては、乳酸、酒石酸、リンゴ酸、グリコール酸、クエン酸等のα−ヒドロキシカルボン酸、乳酸メチル、乳酸エチル、グリコール酸エチル等のα−ヒドロキシカルボン酸エステル、ヒドロキシアセトン、ジヒドロキシアセトン、アセトイン、ベンゾイン等のα−ケトール類、α−ヒドロキシカルボン酸と、エポキシ化合物あるいはオキサゾリン化合物との付加反応物等が挙げられ、これらを単独で、或いは、2種以上組み合わされて配合することもできる。
【0016】
第一液中にα−ヒドロキシカルボニル化合物を配合する場合は、第一液に配合される(メタ)アクリル系モノマー100重量部に対して0.01〜10重量部が好ましく、更には、0.05〜5重量部がより好ましい。α−ヒドロキシカルボニル化合物の配合量が0.01重量部未満であると硬化速度の向上効果が少なく、逆に10重量部を超えても配合量に比例した硬化速度の向上が見られなくなるだけでなく、保存安定性が低下するため好ましくない。
【0017】
一方、本発明の二液硬化型アクリル系組成物には還元剤として第二液にバナジウム化合物が配合される。バナジウム化合物は二液硬化型アクリル系組成物を硬化させる際、表面硬化性を向上させるという効果がある反面、アルデヒド類を発生させるという作用も有する。バナジウム化合物としては、3価または4価のバナジウム化合物であり、具体的にはバナジルアセチルアセトネート、バナジルステアレート、バナジルナフテネート、バナジウムベンゾイルアセトネート、バナジウムプロポキシド、バナジウムブトキシド、五酸化バナジウム等が挙げられ、これらが単独で、或いは、2種以上組み合わせて用いられる。バナジウム化合物の配合量は、二液主剤型の場合は、第二液中に配合される重合性(メタ)アクリル系モノマー100重量部に対して0.05〜7重量部が好ましく、0.1〜5重量部がより好ましく、更には、0.1〜3重量部が好ましい。バナジウム化合物の配合量が0.05重量部未満であると硬化速度が遅いため好ましくない。逆に10重量部を超えると配合量に比例した硬化速度の向上が見られず、保存安定性が低下すると共に、硬化物からのアルデヒド類の放散量が多くなるため好ましくない。
【0018】
また、二液硬化型アクリル系組成物がプライマー型の場合は、第一液中に配合される(メタ)アクリル系モノマー100重量部に対して0.05〜5重量部となるように第二液中に配合するのが好ましい。この場合、バナジウム化合物は、有機溶剤や可塑剤または液状の還元剤等に溶解して使用される。
【0019】
これらのバナジウム化合物は、エチレンチオ尿素、ジメチルチオ尿素、トリメチルチオ尿素、テトラメチルチオ尿素、ジフェニルチオ尿素、アセチルチオ尿素、ベンゾイルチオ尿素等のチオ尿素化合物、サッカリン、α,α−ジピリジル、アスコルビン酸、バルビツール酸、塩化ベンジル、p−トルエンスルホニルクロライド、アルデヒドとアミンとの縮合物等の還元剤と併用してもさしつかえない。前記チオ尿素化合物等の還元剤の配合量は第二液中に配合される(メタ)アクリル系モノマー100重量部に対して0.05〜5重量部が好ましく、更には、0.1〜3重量部がより好ましい。チオ尿素化合物等の還元剤の配合量が0.05重量部未満であると硬化速度が遅いため好ましくなく、逆に5重量部を超えても配合量に比例した硬化速度の向上が見られなくなるだけでなく、保存安定性が低下するため好ましくない。なお、二液硬化型アクリル系組成物の硬化物からのアルデヒド類の放散量を抑えるためにバナジウム化合物の配合量を少なくした場合は、硬化時間を短くするためにチオ尿素化合物等の還元剤の配合量を増やすと良い。
【0020】
また、二液硬化型アクリル系組成物がプライマー型の場合、前記チオ尿素化合物等の還元剤の配合量は、第一液中に配合される(メタ)アクリル系モノマー100重量部に対して0.05〜3重量部となるように第二液中に配合するのが好ましい。この場合、チオ尿素化合物等の還元剤は、有機溶剤や可塑剤等に溶解して使用される。
【0021】
第二液には、アルミニウムトリス(アセチルアセトネート)、アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)、エチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムイソプロポキシド、アルミニウム−s−ブトキシド等のアルミニウム化合物を配合することもできる。アルミニウム化合物の配合量は第二液中に配合される(メタ)アクリル系モノマー100重量部に対して0.1〜5重量部が好ましく、特に0.2〜2.0重量部が好ましい。アルミニウム化合物の配合量が0.1重量部未満であると短い硬化時間を長期間維持することが難しくなり、5重量部を超えても配合量に比例した硬化時間の短縮効果が見られないばかりか、第二液の保存安定性の低下をもたらす。二液硬化型アクリル系組成物の硬化物からのアルデヒド類の放散量を抑えるためにバナジウム化合物の配合量を少なくした場合は、硬化時間を短くするためにアルミニウム化合物の配合量を増やすのが好ましい。前記アルミニウム化合物は、酸性リン酸エステルおよび後述する1置換ハイドロキノンまたは2置換ハイドロキノンの中から選ばれるハイドロキノン系化合物を併用することにより、硬化時間が短く、且つ保存安定性が良好で、経時による硬化時間の変化もほとんどない二液硬化型アクリル系組成物が得られる。
【0022】
本発明の二液硬化型アクリル系性組成物には、室温での長期保存安定性の向上を目的に安定剤として、第一液および/または第二液に2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、2,2−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、1,4−ベンゾキノン、1,4−ナフトキノン、ハイドロキノン、メチルハイドロキノン、ジメチルハイドロキノン、メトキシハイドロキノン、2,5−ジ−t−ブチルハイドロキノン、キンヒドロン、エチレンジアミン四酢酸四ナトリウム、シュウ酸、N−メチル−N−ニトロソアニリン、N−ニトロソジフェニルアミン等の安定剤を適宜選択して用いることができ、これらを単独で、或いは、2種以上組み合わされて配合することができる。
【0023】
上記の安定剤は、第一液および/または第二液に配合される(メタ)アクリル系モノマー100重量部に対して0.1〜5重量部が好ましく、更には、0.2〜1重量部がより好ましい。安定剤の配合量が0.1重量部未満であると保存安定性が低下し、逆に5重量部を超えると組成物の硬化時間が長くなるので好ましくない。なお、第二液の安定剤として1置換ハイドロキノンや2置換ハイドロキノンを用いると、保存安定性を維持しつつ硬化時間を短縮することができるので特に好ましい。
【0024】
本発明の二液硬化型アクリル系組成物には、硬化物からのアルデヒド類の放散量を抑える目的で、ヒドラジド化合物または尿素化合物の中から選ばれる少なくとも一つの化合物が、第一液および/または第二液に配合される。ヒドラジン化合物と尿素化合物は、共に−NH
2構造を有しており、ヒドラジン化合物および尿素化合物の当該構造部分がアルデヒド類と反応性を示すため、アルデヒド類の放散を抑える効果を有する。その際、ヒドラジド化合物が配合される場合は第一液に、尿素化合物が配合される場合は第二液に配合するのが好ましい。
【0025】
ヒドラジド化合物としては、モノヒドラジド化合物、ジヒドラジド化合物、ポリヒドラジド化合物等が挙げられる。
具体的には、モノヒドラジド化合物として、一般式
R−CO−NHNH
2 (1)
(式中、Rは水素原子、炭素数1〜12の直鎖状または分岐状のアルキル基、フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基等のアリール基または置換基を有するアリール基を示す。)で表される化合物を挙げることができる。
【0026】
上記一般式(1)のヒドラジド化合物としては、ラウリル酸ヒドラジド、サリチル酸ヒドラジド、ホルムヒドラジド、アセトヒドラジド、プロピオン酸ヒドラジド、p−ヒドロキシ安息香酸ヒドラジド、ナフトエ酸ヒドラジド、3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸ヒドラジド等を例示できる。
【0027】
ジヒドラジド化合物としては、一般式
H
2NHN−X−NHNH
2 (2)
(式中Xは基−CO−又は基−CO−A−CO−を示す。Aは炭素数1〜12の直鎖状または分岐状アルキレン基、置換基を有するアルキレン基、フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基等のアリーレン基または置換基を有するアリーレン基を示す。)で表わされる化合物を挙げることができる。
【0028】
上記一般式(2)のジヒドラジド化合物としては、具体的には、例えば、シュウ酸ジヒドラジド、マロン酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、スベリン酸ジヒドラジド、アゼライン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、ドデカン−2酸ジヒドラジド、マレイン酸ジヒドラジド、フマル酸ジヒドラジド、ジグリコール酸ジヒドラジド、酒石酸ジヒドラジド、リンゴ酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、テレフタル酸ジヒドラジド、ダイマー酸ジヒドラジド、2,6−ナフトエ酸ジヒドラジド等の各種2塩基酸ジヒドラジド化合物が挙げられる。更に、2,4−ジヒドラジノ−6−メチルアミノ−sym−トリアジン等も本発明のジヒドラジドとして用いることができる。
【0029】
さらに、ポリヒドラジド化合物は、具体的には、ポリアクリル酸ヒドラジド等を例示できる。これらの中でも、ジヒドラジド化合物が好ましく、ジヒドラジド化合物は二液硬化型アクリル系組成物が硬化反応過程で発生するアルデヒド類を効率よく捕捉し、硬化物からのアルデヒド類の放散量を著しく低減させる。
【0030】
前記のヒドラジド化合物は、二液硬化型アクリル系組成物の第二液へ配合すると第二液の保存安定性が悪くなる恐れがあるが、第一液へ配合した場合は二液硬化型アクリル系組成物の硬化特性および第一液の保存安定性等を阻害しない。したがって、ヒドラジド化合物は第一液に配合するのが好ましい。第一液中に配合されるヒドラジド化合物の配合量は、(メタ)アクリル系モノマー100重量部に対して0.5〜5重量部が好ましい。ヒドラジド化合物の配合量が0.5重量部未満であると硬化物より発生するアルデヒド類の量を低減させる効果が少なく、逆に5重量部を超えると硬化物の表面硬化性が悪くなるので好ましくない。
【0031】
硬化物からのアルデヒド類の放散量を抑えるために本発明の二液硬化型アクリル系組成物に配合される尿素化合物としては、尿素、メチル尿素、ジメチル尿素、エチレン尿素、ジエチル尿素、アセチル尿素などを挙げることができる。尿素化合物は、二液硬化型アクリル系組成物の第一液へ配合すると尿素化合物が第一液中に配合した有機過酸化物と反応する可能性があるため、第一液の保存安定性が悪くなる恐れがあるが、第二液へ配合した場合は二液硬化型アクリル系組成物の硬化特性および第二液の保存安定性等を阻害しない。したがって、尿素化合物は第二液に配合するのが好ましい。第二液に配合される尿素化合物の配合量は、(メタ)アクリル系モノマー100重量部に対して0.5〜5重量部が好ましい。尿素化合物の配合量が0.5重量部未満であると硬化物から発生するアルデヒド類の量を低減させる効果が少なく、逆に5重量部を超えると硬化物の表面硬化性が悪くなるので好ましくない。
【0032】
本発明においては、その他に、第一液中および/または第二液中に、改質剤として、粘度調整および硬化物の柔軟性を向上させることを目的にポリメチルメタクリレート、ポリビニルブチラール、アクリロニトリル−スチレン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、メタクリル酸エステル−ブタジエン−スチレン共重合体、メタクリル酸エステル−ブタジエン−アクリロニトリル−スチレン共重合体等の熱可塑性樹脂、スチレン−ブタジエンゴム、ポリブタジエンゴム、ポリイソプレンゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、塩化ゴム、アクリルゴム、エピクロルヒドリンゴム等のゴム、液状ポリブタジエン、末端アクリル変性液状ポリブタジエン、液状アクリロニトリル−ブタジエン共重合体等の液状ゴムを配合することができる。また、揺変性の付与を目的として微粉末ポリエチレン、ジベンジリデン−D−ソルビトール、セルローストリアセテート、ステアリン酸アミド、ベントナイト、微粉末ケイ酸等の揺変性付与剤を配合することができる。さらに、空気接触面の硬化性を改良するためのパラフィン、蜜ロウ等および着色のための染料や顔料を配合することができる。
【0033】
本発明の二液硬化型アクリル系組成物をプライマー型とする場合に用いられる溶剤としては、バナジウム化合物やチオ尿素化合物等の還元剤を溶解し、揮発性を有するものが用いられる。これらの溶剤としては、具体的には、トルエン、キシレン、酢酸エチル、プロピオン酸エチル、アセトン、メチルエチルケトン、メチルブチルケトン、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等を挙げることができる。
【実施例】
【0034】
以下に、本発明を実施例により更に詳細に説明する。なお、これらの例において、添加量の部は、重量部を表す。また、以下の実施例および比較例のアルデヒド類の放散量、可使時間、表面硬化開始時間、引張剪断強度の測定は次の方法で行った。
【0035】
(1)アルデヒド類の放散量
ポリエチレン製のチャック袋に二液硬化型アクリル系組成物の硬化物(1mm×100mm×100mm)を入れ、窒素ガスを2L充填し、チャック袋ごと65℃のオーブン中に2時間放置した。その後、チャック袋をオーブンから取り出して23℃まで冷却し、チャック袋中のホルムアルデヒドを北川式ガス検知管171SC(光明理化学工業株式会社製)にて測定し、アセトアルデヒドを気体検知管No.92L(株式会社ガステック製)にて測定した。
【0036】
(2)可使時間
第一液0.5g、第二液0.5gを23℃で10秒間混合し、混合後に粘度上昇が始まるまでの時間を測定した。
【0037】
(3)表面硬化開始時間
第一液0.1g、第二液0.1gを23℃で10秒間混合し、混合物の表面にパラフィンが浮き出し、タック性が少なくなるまでの時間を測定した。
【0038】
(4)引張剪断強度
23℃の雰囲気中で、長さ100mm×幅25mm×厚さ1.6mmの冷間圧延鋼板の一方に第一液、第二液を等量塗布し、その後、もう一方の冷間圧延鋼鈑を12mmのラップで擦り合わせるようにして貼り合わせて固定し、24時間後に23℃雰囲気中でASTM D 1002−64に準拠して引張剪断強度を測定した。
【0039】
[実施例1〜5]
表1に示した二液硬化型アクリル系組成物の第一液へヒドラジド化合物を配合・調製し、調製した各組成物について、アルデヒド類の放散量、可使時間、表面硬化開始時間および冷間圧延鋼鈑を接着した際の引張剪断強度を測定した。測定結果を表1に示す。
【0040】
[実施例6]
表1に示した二液硬化型アクリル系組成物の第二液へ尿素化合物を配合・調製し、調製した組成物について、アルデヒド類の放散量、可使時間、表面硬化開始時間および冷間圧延鋼鈑を接着した際の引張剪断強度を測定した。測定結果を表1に併せて示す。
【0041】
[比較例1〜5]
表1に示した二液硬化型アクリル系組成物(ヒドラジド化合物及び尿素化合物を配合しない組成物)を調製し、調製した組成物について、アルデヒド類の放散量、可使時間、表面硬化開始温度および冷間圧延鋼鈑を接着した際の引張剪断強度を測定した。測定結果を表1に併せて示す。
【0042】
【表1】
【0043】
表1より明らかなように、バナジウム化合物の配合量が0.75重量部である実施例1と比較例1とを比較すると、ヒドラジド化合物を配合する実施例1はホルムアルデヒドおよびアセトアルデヒドのアルデヒド類の放散量がともに比較例1の1/2以下と大幅に減少し、ヒドラジド化合物を配合した効果が見られた。また、バナジウム化合物の配合量が0.2重量部である実施例2乃至6と比較例2乃至4とを比較しても、ヒドラジド化合物または尿素化合物を配合する実施例2乃至6はホルムアルデヒド放散量が2/3〜1/8、アセトアルデヒド放散量が1/2〜1/8と大幅に減少し、ヒドラジド化合物および尿素化合物を配合した効果が見られた。そして、ヒドラジド化合物および尿素化合物を配合したことによる表面硬化性および接着性への悪影響もほとんど見られず、二液硬化型アクリル系組成物としての優れた性能を維持していた。尚、実施例1乃至6はバナジウム化合物の代わりにチオ尿素化合物を配合した比較例5よりも表面硬化性が良い結果となった。