特許第6093549号(P6093549)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ハイレックスコーポレーションの特許一覧

<>
  • 特許6093549-操作用ステンレスワイヤ 図000003
  • 特許6093549-操作用ステンレスワイヤ 図000004
  • 特許6093549-操作用ステンレスワイヤ 図000005
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6093549
(24)【登録日】2017年2月17日
(45)【発行日】2017年3月8日
(54)【発明の名称】操作用ステンレスワイヤ
(51)【国際特許分類】
   D07B 1/06 20060101AFI20170227BHJP
   F16C 1/20 20060101ALI20170227BHJP
【FI】
   D07B1/06 Z
   F16C1/20 Z
【請求項の数】5
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-238313(P2012-238313)
(22)【出願日】2012年10月29日
(65)【公開番号】特開2014-88634(P2014-88634A)
(43)【公開日】2014年5月15日
【審査請求日】2015年9月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】390000996
【氏名又は名称】株式会社ハイレックスコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】特許業務法人朝日奈特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100098464
【弁理士】
【氏名又は名称】河村 洌
(74)【代理人】
【識別番号】100149630
【弁理士】
【氏名又は名称】藤森 洋介
(74)【代理人】
【識別番号】100184826
【弁理士】
【氏名又は名称】奥出 進也
(72)【発明者】
【氏名】森本 敬三
(72)【発明者】
【氏名】清水 大地
【審査官】 加賀 直人
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−028644(JP,A)
【文献】 特公昭54−003805(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D07B 1/06
F16C 1/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
操作部と操作対象物との間に配索され、素材にステンレスを用いた操作用ステンレスワイヤであって、ワイヤのねじれ回数が15回以上であり、引張強度がそれぞれ2400〜3000N/mm2であり、耐久回数が12万回以上である
操作用ステンレスワイヤ。
【請求項2】
前記操作用ステンレスワイヤはステンレス素線の撚り線であり、前記ステンレス素線は、引張強度がそれぞれ2500〜2800N/mm2である請求項に記載の操作用ステンレスワイヤ。
【請求項3】
請求項1または2の操作用ステンレスワイヤを用いたウインドレギュレータ。
【請求項4】
請求項1または2の操作用ステンレスワイヤを用いたパーキングブレーキ。
【請求項5】
請求項1または2の操作用ステンレスワイヤを用いたフューエルリッドアクチュエータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は操作用ステンレスワイヤに関する。さらに詳しくは、耐久性に優れた操作用ステンレスワイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
操作用ワイヤは、曲げ部分を設けるなどの配索自由度を確保した状態で操作部と操作対象物との間に配索され、操作部の操作に応じて引き若しくは押引きされて操作対象物に操作力を伝える。通常、ワイヤでは、ワイヤの引張強度が、引き操作における耐久性の代用特性としての物性値として、鋼線を用いたワイヤの配索状態での耐久性評価に相関性よく用いられていた。
【0003】
特許文献1には、複数本のワイヤを撚り合わせてなる心ストランドを複数本撚り合せた鋼心部と、この鋼心部の周囲に撚り合せられる複数本の側ストランドからなる側部と、を具備する高張力ワイヤロープにおいて、前記鋼心部の構成ワイヤは引張強度が1760±20N/mm2のステンレス鋼線からなり、前記側部の構成ワイヤは引張強度が1860±20N/mm2のステンレス鋼線からなり、前記鋼心部の伸びを前記側部の伸びと実質的に同等にすることを特徴とする高張力ワイヤロープが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−093089号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、ステンレスを素材に用いたワイヤにおいては鋼線とは異なって、引張強度と引き操作についての耐久性とが相関せず、引張強度の良いワイヤであっても耐久性が悪いものがある。そのため、ステンレス素線を用いたワイヤについては耐久性の良いステンレスワイヤを得ることは困難であった。そして、特許文献1に記載されたステンレス素線を用いたワイヤロープは、ワイヤの引張強度のみに着目しているため、充分な耐久性を有するステンレスワイヤは必ずしも得ることができない。そこで、本発明はかかる事情に鑑みて、ワイヤの引張強度のみに依存せずに耐久性に優れた操作用ステンレスワイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の操作用ステンレスワイヤは、操作部と操作対象物との間に配索され、素材にステンレスを用いた操作用ステンレスワイヤであって、ワイヤのねじれ回数が15回以上であることを特徴とする。
【0007】
前記操作用ステンレスワイヤはステンレス素線の撚り線であり、各ステンレス素線はねじれ回数がそれぞれ10回以上であることが好ましい。
【0008】
前記ステンレス素線は、引張強度がそれぞれ2400〜3000N/mm2であることが好ましい。
【0009】
前記ステンレス素線は、引張強度がそれぞれ2500〜2800N/mm2であることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
従来のステンレスワイヤにおいては、耐久性試験において3万回程度の耐久性であったが、本発明のステンレスワイヤを用いれば、12万回以上の耐久性が得られ、繰り返しの操作が要求される部位においても問題なく使用することができる。さらに、本発明のステンレスワイヤは、耐久性が良好であるために、負荷荷重に対するワイヤの破断荷重に対応した径とする範囲内での小径化が可能であり、また、より曲げ半径の小さい曲げ配索に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の操作用ステンレスワイヤの構造の一例を示す断面図である。
図2】ステンレスワイヤの引張強度と耐久回数の関係を示すグラフである。
図3】ステンレスワイヤのねじれ回数と耐久回数の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照し、本発明の操作用ステンレスワイヤ(以下、単にワイヤという)を説明する。
【0013】
本発明のワイヤは、ワイヤに引き若しくは押引き操作を加えるために操作される操作部と、操作部が操作されることによりワイヤが引き若しくは押引きされ、ワイヤを介して操作部から離れた位置において操作される操作対象物との間に配索される。操作部および操作対象物は、ワイヤを操作することができ、また、ワイヤにより操作されるものであれば特に限定されない。本発明のワイヤは、ウインドレギュレータや、パーキングブレーキ、フューエルリッドアクチュエータ、バイクスクリーン等に用いることができる。また、本発明のワイヤは、車両以外の用途にも適用可能である。
【0014】
本発明のワイヤの構造の一例を図1に示す。図1に示されるワイヤ1は、心ストランド11と、心ストランド11のまわりの8本の側ストランド12とが撚り合わされる、いわゆる複撚り構造を有している。心ストランド11は、19本の素線がウォーリントン撚りで撚り合わされ、側ストランド12は、7本の素線が撚り合わされることによりそれぞれ構成されている(W(19)+8×7)。
【0015】
図1に示される実施形態では、心ストランド11は、1本の心ストランド心素線11aの周囲に6本の心ストランド第1側素線11bが配置され、隣接する2本の心ストランド第1側素線11b同士の間に、当該2本の心ストランド第1側素線11bに接するように6本の心ストランド第2側素線11cが配置されている。さらに、6本の心ストランド第2側素線11cの間には、心ストランド第1側素線11bより細径の6本の心ストランド第3側素線11dが配置され、心ストランド第2側素線11cと心ストランド第3側素線11dとが1つの円に内接するように構成されている。側ストランド12は、側ストランド心素線12aの周囲に6本の側ストランド側素線12bが撚り合わされて形成されている。
【0016】
心ストランド11および側ストランド12の撚り方(S撚り、Z撚り等)やピッチは、使用する用途に応じて適宜変更することができる。また、図1に示されるワイヤ1は、ウォーリントン型の平行撚り構造であるが、シール型、フィラー型、ウォーリントンシール型などでもよく、また交差撚りでもよい。さらに、用いられる素線の直径に差異が設けられているが、同じ直径であってもよい。また、図1では、複撚り構造のワイヤ1が示されているが、後述する効果と同等の効果を有することができる限りにおいて、他の複撚り構造や、単撚り構造とすることもできる。また、ワイヤ1に用いられる各素線の径や、ワイヤ1全体の径は、後述する効果を得られるものであれば、用いられる用途に応じて適宜変更が可能である。つまり、ワイヤ全体としては、基本的には、ワイヤ全体を構成する素線の耐久性に依存するために、当該素線の耐久性が向上すればそれだけ耐久性も向上するので、ステンレスワイヤの構造として選択の自由度が広がることとなるのである。
【0017】
本発明のワイヤ1は、素線の素材にステンレスを用いている。ステンレスとしては、オーステナイト系ステンレスであればよく、たとえば、SUS302、SUS304、SUS316などが用いられ、これらのステンレス鋼材を伸線加工することにより、素線を得ることができる。
【0018】
本発明は、このような素材にステンレスを用いたワイヤにおいて、ワイヤ1のねじれ回数が15回以上となるものを用いている。ここで、ワイヤ1の「ねじれ回数」とは、素線をその直径の100倍長さの間隔を置いて固くつかみ、素線がたわまない程度に緊張させながら、一方方向にねじれ速度60rpmで回転し、切断するまでのねじれ回数を求め、ワイヤ1に使用される全素線のねじれ回数の平均により求められる回数である。本発明者は、鋭意検討を重ねた結果、このねじれ回数を15回以上とすることにより、ワイヤ1の耐久性が顕著に向上することを見出した。本発明は、曲げ部分が設けられた操作部と操作対象物との間に配索されるワイヤの耐久性向上の指標として、従来は用いられていなかったねじれ回数に着目することによって、後述するように、従来の引張強度のみに着目したワイヤと比較して、顕著な耐久性を安定して得ることを実現したものである。特に、引張強度と引き操作についての耐久性とが相関しないステンレスを素材として用いたワイヤにおいて、本発明は、確実に耐久性を向上させ、しかも従来のワイヤと比較して顕著な耐久性を得ることを実現したものである。
【0019】
なお、上記ねじれ回数は、素線間でのねじれ回数のバラツキはあってもよいが、ワイヤ1に使用される各ステンレス素線はねじれ回数がそれぞれ10回以上であることが好ましい。各素線のねじれ回数をそれぞれ10回以上にすることにより、素線間のバラツキがなく、ワイヤ1内のバランスがよくなり、優れた耐久性を得ることができる。
【0020】
本発明のワイヤ1が顕著な耐久性を有する要因として、ワイヤ1に用いられるステンレスのオーステナイト組織とマルテンサイト組織の存在が関係していると考えられる。一般的に、オーステナイト系ステンレスは加工によって歪が加わると、加工誘起マルテンサイト変態が起こり、オーステナイト組織の一部がマルテンサイト組織に変態することが知られている。オーステナイト組織は、強度は比較的低いが延性があり、また、マルテンサイト組織は強度は高いが脆い。したがって、オーステナイト系ステンレスを加工すると、オーステナイト組織とマルテンサイト組織が共存することになるが、マルテンサイト組織の体積比率が高くなると延性は低下するが、強度は高くなる。すなわち、ワイヤ1が配索され押し引き操作が繰り返されると、曲げ部分で歪が加わってマルテンサイト組織が生成され、新たに生成された強度の高いマルテンサイト組織が局所的な変形を抑制するために、ワイヤ1にかかる負荷が分散され、ワイヤ1の耐久性が向上するものと考えられる。そして、ねじれ回数が15回以上のワイヤ1は、このようにワイヤ1にかかる負荷を分散することができ、ワイヤ1の耐久性を向上させることを本発明者は見出したのである。
【0021】
ワイヤ1に使用されるステンレス素線は、引張強度がそれぞれ2400〜3000N/mm2であることが好ましく、2500〜2800N/mm2であることがさらに好ましいい。ワイヤ1の引張強度を2400〜3000N/mm2とすることにより、さらにワイヤ1の耐久性を向上させ、かつ、ワイヤ1を操作部と操作対象物との間で容易に配索することができる優れたワイヤを提供することができ、ワイヤ1の引張強度を2500〜2800N/mm2とすることにより、さらに耐久性を向上させることができる。引張強度が2400N/mm2より小さいと、ワイヤ1の破断強度が低くなり、操作に耐えることができない。一方、引張強度が3000N/mm2より大きいものは、オーステナイト系ステンレスでは製造は難しくなる。
【0022】
以上述べたように、従来のステンレスワイヤにおいては、耐久性試験において3万回程度の耐久性であったが、本発明の操作用ステンレスワイヤを用いれば12万回以上においても問題なく使用することができる。
【0023】
また、本発明の操作用ステンレスワイヤは、耐久性が良好であるために、より曲げ半径の小さい曲げ配索に用いることができる。さらに、耐久性に優れているために、従来と同等の性能のワイヤとしての使用においては、ワイヤの径を小さくすることができ、省スペース・省資源とすることができる。
【実施例】
【0024】
以下、実施例および比較例を挙げて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0025】
まず、実施例および比較例において測定したねじれ回数、引張強度、耐久性について説明する。
【0026】
(ねじれ回数)
ねじれ回数は、素線をその直径の100倍長さの間隔を置いて固くつかみ、素線がたわまない程度に緊張させながら、一方方向にねじれ速度60rpmで回転し、切断するまでのねじれ回数をカウントすることにより求めた。ワイヤのねじれ回数は、ワイヤを構成する全素線の平均値とした。
【0027】
(引張強度)
引張強度は、JIS Z 2241に準拠して行い、その破断荷重から引張強度を算出した。ワイヤの引張強度は、ワイヤを構成する全素線の平均値とした。
【0028】
(耐久性試験)
耐久性試験は、特開平5−230783に記載の「ローラーによる耐久テスト方法」と同様のテスト方法で測定した。すなわち、まず全長10000mmの試験対象のワイヤの一端に10kgのウェイトを連結し、ワイヤの他端はエアシリンダーに固定した。このワイヤを、ローラで90°反転したのちもう一つのローラで180°反転状態となるようにし、ワイヤが所定ストローク移動した際にウェイトがストッパと当接して移動が停止されるように配索した。ローラについては、エアシリンダーが往復運動すればそれぞれ回動するようにし、下記ローラ条件のものを用いた。エアシリンダーを、ウェイトがストッパに付き当ってワイヤの張力が35kgfになるまで力を発生するように動かした後に、その張力を0.5秒間保持し、その後反対方向に動かして、この往復運動を耐久性試験の1サイクルとした。このとき、ワイヤの往復運動の1ストロークは100mm、速度は20往復/分であり、ワイヤとローラとの接触部にはオレフィン系グリースを充分塗布した。前記エアシリンダーを、試験対象のワイヤが破断するまで往復運動を繰り返し、破断したときの往復運動のサイクル回数を耐久回数とした。
ローラ条件:溝底径30mm、材質ナイロン6、溝底断面の内半径1.0mm、溝角度30°
【0029】
(実施例1)
オーステナイト系ステンレスSUS302の鋼材を、伸線速度300m/min、潤滑油温度40℃の条件で伸線加工して、直径が0.13mm、0.14mm、0.15mm、0.16mm、0.17mmの素線を得た。これらの素線を撚り合わせて図1に示される構造を有する直径1.5mmのワイヤを作製した。なお、図1における心ストランド心素線11aには、直径0.17mmの素線を用い、心ストランド第1側素線11bには、直径0.16mmの素線を用い、心ストランド第2側素線11cには、直径0.17mmの素線を用い、心ストランド第3側素線11dには、直径0.13mmの素線を用い、側ストランド心素線12aには、直径0.15mmの素線を用い、側ストランド側素線12bには、直径0.14mmの素線を用いた。
【0030】
(実施例2)
オーステナイト系ステンレスSUS302の鋼材を、伸線速度300m/min、潤滑油温度45℃の条件で伸線加工した以外は、実施例1と同様の条件、構造でワイヤを作製し、実施例2のワイヤを得た。
【0031】
(実施例3)
オーステナイト系ステンレスSUS302の鋼材を、伸線速度150m/min、潤滑油温度50℃の条件で伸線加工した以外は、実施例1と同様の条件、構造でワイヤを作製し、実施例3のワイヤを得た。
【0032】
(実施例4)
オーステナイト系ステンレスSUS302の鋼材を、伸線速度300m/min、潤滑油温度25℃の条件で伸線加工した以外は、実施例1と同様の条件、構造でワイヤを作製し、実施例4のワイヤを得た。
【0033】
(実施例5)
オーステナイト系ステンレスSUS302の鋼材を、伸線速度600m/min、潤滑油温度35℃の条件で伸線加工した以外は、実施例1と同様の条件、構造でワイヤを作製し、実施例5のワイヤを得た。
【0034】
(実施例6)
オーステナイト系ステンレスSUS302の鋼材を、伸線速度600m/min、潤滑油温度45℃の条件で伸線加工した以外は、実施例1と同様の条件、構造でワイヤを作製し、実施例6のワイヤを得た。
【0035】
(実施例7)
オーステナイト系ステンレスSUS302の鋼材を、伸線速度600m/min、潤滑油温度40℃の条件で伸線加工した以外は、実施例1と同様の条件、構造でワイヤを作製し、実施例7のワイヤを得た。
【0036】
(実施例8)
オーステナイト系ステンレスSUS302の鋼材を、伸線速度300m/min、潤滑油温度35℃の条件で伸線加工した以外は、実施例1と同様の条件、構造でワイヤを作製し、実施例8のワイヤを得た。
【0037】
(比較例1)
オーステナイト系ステンレスSUS302の鋼材を、伸線速度150m/min、潤滑油温度15℃の条件で伸線加工した以外は、実施例1と同様の条件、構造でワイヤを作製し、比較例1のワイヤを得た。
【0038】
(比較例2)
オーステナイト系ステンレスSUS302の鋼材を、伸線速度300m/min、潤滑油温度15℃の条件で伸線加工した以外は、実施例1と同様の条件、構造でワイヤを作製し、比較例2のワイヤを得た。
【0039】
(比較例3)
オーステナイト系ステンレスSUS302の鋼材を、伸線速度600m/min、潤滑油温度15℃の条件で伸線加工した以外は、実施例1と同様の条件、構造でワイヤを作製し、比較例3のワイヤを得た。
【0040】
(比較例4)
オーステナイト系ステンレスSUS302の鋼材を、伸線速度600m/min、潤滑油温度20℃の条件で伸線加工した以外は、実施例1と同様の条件、構造でワイヤを作製し、比較例4のワイヤを得た。
【0041】
上記実施例1〜8、比較例1〜4のワイヤについて、ワイヤを構成する全素線の平均のねじれ回数、および全素線の平均の引張強度は、以下の表1に示す値であった。また、実施例1〜8、比較例1〜4について上述の耐久性試験を行った。その結果を表1に示す。また、図2に、表1のデータに基づく引張強度と耐久回数の関係を示し、図3に、表1のデータに基づくねじれ回数と耐久回数の関係を示す。
【0042】
【表1】
【0043】
表1において実施例1〜8と比較例1〜4とを比較すると、ワイヤのねじれ回数が15回以上であるいずれの実施例も12万回以上の耐久回数を有し、比較例と比べて耐久回数が非常に多いことがわかる。特に、従来のウインドレギュレータ等に用いられるねじれ回数が4.5回、5回、6回の比較例のワイヤと比較して、いずれの実施例も3〜14倍以上の耐久回数を有している。以上のことから、本実施例のワイヤは比較例のワイヤと比較して顕著に優れた耐久性を有していることがわかる。
【0044】
また、ワイヤのねじれ回数が15回以上である実施例のうち実施例1、2、および4〜8は、引張強度が2500〜2800N/mm2の範囲内にあり、前述のねじれ回数が4.5回、5回、6回の比較例1〜4のワイヤと比較して3.75〜14倍以上の15万回以上の耐久回数を有していることがわかる。このことから、ねじれ回数が15回以上であり、かつ引張強度が2500〜2800N/mm2の範囲内にあるワイヤは、さらに顕著に優れた耐久性を有していることがわかる。
【0045】
次に、図2のグラフから、引張強度と耐久回数に明確な相関関係がないことがわかる。特に、比較例1〜4は、いずれの引張強度においても、耐久回数が実施例に比べて非常に少ないことがわかる。このことから、ワイヤの引張強度のみを制御しても、12万回以上の耐久回数を得ることはできず、耐久性に優れたワイヤを安定して得ることができないことがわかる。一方、図3のグラフから、ねじれ回数の増加にともなって耐久回数が増加していることがわかる。引張強度の値に関らず、ねじれ回数が15回以上であれば、耐久回数が12万回以上得られていることがわかる。このことから、ワイヤのねじれ回数を制御することにより、12万回以上の耐久回数を得ることができ、耐久性に優れたワイヤを得ることができることがわかる。さらに、図3のグラフから、ねじれ回数が同じ場合においては、引張強度が大きい方が耐久回数が多くなっていることがわかる。このことから、基本的にはワイヤのねじれ回数を15回以上に制御することで十分に耐久性の優れたワイヤが得られるが、引張強度もあわせて制御することにより、さらに優れた耐久性を有するワイヤを得ることができることがわかる。
【符号の説明】
【0046】
1 操作用ステンレスワイヤ
11 心ストランド
11a 心ストランド心素線
11b 心ストランド第1側素線
11c 心ストランド第2側素線
11d 心ストランド第3側素線
12 側ストランド
12a 側ストランド心素線
12b 側ストランド側素線
図1
図2
図3