【0021】
ワイヤ1に使用されるステンレス素線は、引張強度がそれぞれ2400〜3000N/mm
2であることが好ましく、2500〜2800N/mm
2であることがさらに好ましいい。ワイヤ1の引張強度を2400〜3000N/mm
2とすることにより、さらにワイヤ1の耐久性を向上させ、かつ、ワイヤ1を操作部と操作対象物との間で容易に配索することができる優れたワイヤを提供することができ、ワイヤ1の引張強度を2500〜2800N/mm
2とすることにより、さらに耐久性を向上させることができる。引張強度が2400N/mm
2より小さいと、ワイヤ1の破断強度が低くなり、操作に耐えることができない。一方、引張強度が3000N/mm
2より大きいものは、オーステナイト系ステンレスでは製造は難しくなる。
【実施例】
【0024】
以下、実施例および比較例を挙げて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0025】
まず、実施例および比較例において測定したねじれ回数、引張強度、耐久性について説明する。
【0026】
(ねじれ回数)
ねじれ回数は、素線をその直径の100倍長さの間隔を置いて固くつかみ、素線がたわまない程度に緊張させながら、一方方向にねじれ速度60rpmで回転し、切断するまでのねじれ回数をカウントすることにより求めた。ワイヤのねじれ回数は、ワイヤを構成する全素線の平均値とした。
【0027】
(引張強度)
引張強度は、JIS Z 2241に準拠して行い、その破断荷重から引張強度を算出した。ワイヤの引張強度は、ワイヤを構成する全素線の平均値とした。
【0028】
(耐久性試験)
耐久性試験は、特開平5−230783に記載の「ローラーによる耐久テスト方法」と同様のテスト方法で測定した。すなわち、まず全長10000mmの試験対象のワイヤの一端に10kgのウェイトを連結し、ワイヤの他端はエアシリンダーに固定した。このワイヤを、ローラで90°反転したのちもう一つのローラで180°反転状態となるようにし、ワイヤが所定ストローク移動した際にウェイトがストッパと当接して移動が停止されるように配索した。ローラについては、エアシリンダーが往復運動すればそれぞれ回動するようにし、下記ローラ条件のものを用いた。エアシリンダーを、ウェイトがストッパに付き当ってワイヤの張力が35kgfになるまで力を発生するように動かした後に、その張力を0.5秒間保持し、その後反対方向に動かして、この往復運動を耐久性試験の1サイクルとした。このとき、ワイヤの往復運動の1ストロークは100mm、速度は20往復/分であり、ワイヤとローラとの接触部にはオレフィン系グリースを充分塗布した。前記エアシリンダーを、試験対象のワイヤが破断するまで往復運動を繰り返し、破断したときの往復運動のサイクル回数を耐久回数とした。
ローラ条件:溝底径30mm、材質ナイロン6、溝底断面の内半径1.0mm、溝角度30°
【0029】
(実施例1)
オーステナイト系ステンレスSUS302の鋼材を、伸線速度300m/min、潤滑油温度40℃の条件で伸線加工して、直径が0.13mm、0.14mm、0.15mm、0.16mm、0.17mmの素線を得た。これらの素線を撚り合わせて
図1に示される構造を有する直径1.5mmのワイヤを作製した。なお、
図1における心ストランド心素線11aには、直径0.17mmの素線を用い、心ストランド第1側素線11bには、直径0.16mmの素線を用い、心ストランド第2側素線11cには、直径0.17mmの素線を用い、心ストランド第3側素線11dには、直径0.13mmの素線を用い、側ストランド心素線12aには、直径0.15mmの素線を用い、側ストランド側素線12bには、直径0.14mmの素線を用いた。
【0030】
(実施例2)
オーステナイト系ステンレスSUS302の鋼材を、伸線速度300m/min、潤滑油温度45℃の条件で伸線加工した以外は、実施例1と同様の条件、構造でワイヤを作製し、実施例2のワイヤを得た。
【0031】
(実施例3)
オーステナイト系ステンレスSUS302の鋼材を、伸線速度150m/min、潤滑油温度50℃の条件で伸線加工した以外は、実施例1と同様の条件、構造でワイヤを作製し、実施例3のワイヤを得た。
【0032】
(実施例4)
オーステナイト系ステンレスSUS302の鋼材を、伸線速度300m/min、潤滑油温度25℃の条件で伸線加工した以外は、実施例1と同様の条件、構造でワイヤを作製し、実施例4のワイヤを得た。
【0033】
(実施例5)
オーステナイト系ステンレスSUS302の鋼材を、伸線速度600m/min、潤滑油温度35℃の条件で伸線加工した以外は、実施例1と同様の条件、構造でワイヤを作製し、実施例5のワイヤを得た。
【0034】
(実施例6)
オーステナイト系ステンレスSUS302の鋼材を、伸線速度600m/min、潤滑油温度45℃の条件で伸線加工した以外は、実施例1と同様の条件、構造でワイヤを作製し、実施例6のワイヤを得た。
【0035】
(実施例7)
オーステナイト系ステンレスSUS302の鋼材を、伸線速度600m/min、潤滑油温度40℃の条件で伸線加工した以外は、実施例1と同様の条件、構造でワイヤを作製し、実施例7のワイヤを得た。
【0036】
(実施例8)
オーステナイト系ステンレスSUS302の鋼材を、伸線速度300m/min、潤滑油温度35℃の条件で伸線加工した以外は、実施例1と同様の条件、構造でワイヤを作製し、実施例8のワイヤを得た。
【0037】
(比較例1)
オーステナイト系ステンレスSUS302の鋼材を、伸線速度150m/min、潤滑油温度15℃の条件で伸線加工した以外は、実施例1と同様の条件、構造でワイヤを作製し、比較例1のワイヤを得た。
【0038】
(比較例2)
オーステナイト系ステンレスSUS302の鋼材を、伸線速度300m/min、潤滑油温度15℃の条件で伸線加工した以外は、実施例1と同様の条件、構造でワイヤを作製し、比較例2のワイヤを得た。
【0039】
(比較例3)
オーステナイト系ステンレスSUS302の鋼材を、伸線速度600m/min、潤滑油温度15℃の条件で伸線加工した以外は、実施例1と同様の条件、構造でワイヤを作製し、比較例3のワイヤを得た。
【0040】
(比較例4)
オーステナイト系ステンレスSUS302の鋼材を、伸線速度600m/min、潤滑油温度20℃の条件で伸線加工した以外は、実施例1と同様の条件、構造でワイヤを作製し、比較例4のワイヤを得た。
【0041】
上記実施例1〜8、比較例1〜4のワイヤについて、ワイヤを構成する全素線の平均のねじれ回数、および全素線の平均の引張強度は、以下の表1に示す値であった。また、実施例1〜8、比較例1〜4について上述の耐久性試験を行った。その結果を表1に示す。また、
図2に、表1のデータに基づく引張強度と耐久回数の関係を示し、
図3に、表1のデータに基づくねじれ回数と耐久回数の関係を示す。
【0042】
【表1】
【0043】
表1において実施例1〜8と比較例1〜4とを比較すると、ワイヤのねじれ回数が15回以上であるいずれの実施例も12万回以上の耐久回数を有し、比較例と比べて耐久回数が非常に多いことがわかる。特に、従来のウインドレギュレータ等に用いられるねじれ回数が4.5回、5回、6回の比較例のワイヤと比較して、いずれの実施例も3〜14倍以上の耐久回数を有している。以上のことから、本実施例のワイヤは比較例のワイヤと比較して顕著に優れた耐久性を有していることがわかる。
【0044】
また、ワイヤのねじれ回数が15回以上である実施例のうち実施例1、2、および4〜8は、引張強度が2500〜2800N/mm
2の範囲内にあり、前述のねじれ回数が4.5回、5回、6回の比較例1〜4のワイヤと比較して3.75〜14倍以上の15万回以上の耐久回数を有していることがわかる。このことから、ねじれ回数が15回以上であり、かつ引張強度が2500〜2800N/mm
2の範囲内にあるワイヤは、さらに顕著に優れた耐久性を有していることがわかる。
【0045】
次に、
図2のグラフから、引張強度と耐久回数に明確な相関関係がないことがわかる。特に、比較例1〜4は、いずれの引張強度においても、耐久回数が実施例に比べて非常に少ないことがわかる。このことから、ワイヤの引張強度のみを制御しても、12万回以上の耐久回数を得ることはできず、耐久性に優れたワイヤを安定して得ることができないことがわかる。一方、
図3のグラフから、ねじれ回数の増加にともなって耐久回数が増加していることがわかる。引張強度の値に関らず、ねじれ回数が15回以上であれば、耐久回数が12万回以上得られていることがわかる。このことから、ワイヤのねじれ回数を制御することにより、12万回以上の耐久回数を得ることができ、耐久性に優れたワイヤを得ることができることがわかる。さらに、
図3のグラフから、ねじれ回数が同じ場合においては、引張強度が大きい方が耐久回数が多くなっていることがわかる。このことから、基本的にはワイヤのねじれ回数を15回以上に制御することで十分に耐久性の優れたワイヤが得られるが、引張強度もあわせて制御することにより、さらに優れた耐久性を有するワイヤを得ることができることがわかる。