特許第6093574号(P6093574)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6093574
(24)【登録日】2017年2月17日
(45)【発行日】2017年3月8日
(54)【発明の名称】電気コネクタおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01R 13/04 20060101AFI20170227BHJP
   H01R 43/16 20060101ALI20170227BHJP
   H01R 13/03 20060101ALI20170227BHJP
【FI】
   H01R13/04 E
   H01R43/16
   H01R13/03 D
【請求項の数】9
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-3151(P2013-3151)
(22)【出願日】2013年1月11日
(65)【公開番号】特開2013-165059(P2013-165059A)
(43)【公開日】2013年8月22日
【審査請求日】2015年11月10日
(31)【優先権主張番号】特願2012-5023(P2012-5023)
(32)【優先日】2012年1月13日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006895
【氏名又は名称】矢崎総業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】506365131
【氏名又は名称】DOWAメタルテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101557
【弁理士】
【氏名又は名称】萩原 康司
(74)【代理人】
【識別番号】100096389
【弁理士】
【氏名又は名称】金本 哲男
(74)【代理人】
【識別番号】100095957
【弁理士】
【氏名又は名称】亀谷 美明
(74)【代理人】
【識別番号】100076130
【弁理士】
【氏名又は名称】和田 憲治
(72)【発明者】
【氏名】中村 将寿
(72)【発明者】
【氏名】小野寺 暁史
(72)【発明者】
【氏名】菅原 章
(72)【発明者】
【氏名】成枝 宏人
【審査官】 片岡 弘之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−267584(JP,A)
【文献】 特開2006−228669(JP,A)
【文献】 特開平10−032063(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0205290(US,A1)
【文献】 中国特許出願公開第1825712(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01R 13/03
H01R 13/04
H01R 13/11
H01R 13/115
H01R 43/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
雌型コネクタと雄型コネクタを係脱自在に接続させる電気コネクタであって、
前記雄型コネクタには、雄タブが設けられ、
前記雌型コネクタには、前記雄タブを挿入させるハウジング部が設けられ、
前記ハウジング部には、前記雄タブを挟持するためのばね状の接触片とビート片が設けられ、
前記接触片および前記ビート片の少なくとも一方には、前記ハウジング部に挿入された前記雄タブに向かって突出する突出部が設けられ、
前記突出部は、前記ハウジング部に挿入された前記雄タブに接触する接触部分と、前記接触部分の周囲に設けられた側壁部分を有し、
前記接触部分は、平面視で、前記ハウジング部に挿入される際の前記雄タブの進行方向と逆向きに突出する逆方向側頂部と、前記雄タブの進行方向と交差する方向に突出する一対の交差側頂部を有し、
前記逆方向側頂部は平面視において尖っており、
前記接触部分の周縁の形状が、前記逆方向側頂部と前記交差側頂部の間において、前記逆方向側頂部と前記交差側頂部を結ぶ直線よりも前記接触部分の中央側に凹んでいる、電気コネクタ。
【請求項2】
前記接触部分は、平面視で、前記ハウジング部に挿入される際の前記雄タブの進行方向と同じ向きに突出する進行方向側頂部を更に有し、
前記進行方向側頂部は平面視において尖っており、
前記接触部分の周縁の形状が、前記進行方向側頂部と前記交差側頂部の間において、前記進行方向側頂部と前記交差側頂部を結ぶ直線よりも前記接触部分の中央側に凹んでいる、請求項1に記載の電気コネクタ。
【請求項3】
前記接触部分の周縁の形状が、複数の直線の組み合わせである、請求項1または2に記載の電気コネクタ。
【請求項4】
前記接触部分の周縁の形状が、曲線である、請求項1または2に記載の電気コネクタ。
【請求項5】
前記接触部分の周縁の形状が、曲線と直線の組み合わせである、請求項1または2に記載の電気コネクタ。
【請求項6】
平面視で、前記逆方向側頂部の角度、および、前記交差側頂部の角度が、いずれも30°以下である、請求項1に記載の電気コネクタ。
【請求項7】
平面視で、前記進行方向側頂部の角度が、30°以下である、請求項2に記載の電気コネクタ。
【請求項8】
請求項1〜のいずれかに記載の電気コネクタを製造する方法であって、
前記突出部が、金型を用いたプレス加工によって形成される、電気コネクタの製造方法。
【請求項9】
請求項1〜のいずれかに記載の電気コネクタを製造する方法であって、
前記突出部が、めっきで形成される、電気コネクタの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気接続と離脱を容易かつ確実に行うための電気コネクタおよびその製造方法に関する。本願は、2012年1月13日に日本に出願された特願2012−5023号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
例えば自動車や電子機器などの電気接続用に、雌型コネクタと雄型コネクタを係脱自在に接続させる電気コネクタが利用されている。かかる電気コネクタの接続時および離脱時には、雌型コネクタに挿入される雄型コネクタ側の雄タブと、雌型コネクタ側において雄タブと電気的に接続されるばね状の接触片とが互いに摺動し合い、摩耗粉が発生する。
【0003】
一般に、雄型コネクタ側の雄タブと雌型コネクタ側の接触片にはSnめっきが施され、雌型コネクタ側の接触片と雄型コネクタ側の雄タブの摺動で、Snの摩耗粉が発生する。Snの摩耗粉は、酸化すると電気的抵抗が高くなるので、摩耗粉によって電気コネクタの接触抵抗が高くなってしまう懸念がある。
【0004】
そこで、特許文献1には、Snめっき上に薄いAg−Sn合金層を更に形成することで耐微摺動摩耗性を向上させる技術が開示されている。また、特許文献2には、雌型コネクタ側の接触片に多角形の凸形状を設けることで、摺動時に発生する摩耗粉を除去し、接触面の抵抗上昇を抑制する技術が開示されている。また、特許文献3には、接点部に複数の溝を設け、多点接触として安定した接触を確保する技術が開示されている。また、特許文献4には、摺動距離を摺動痕よりも小さい距離に抑えることにより、大気に曝されないガスタイト面を確保する技術が開示されている。更に、特許文献5、6には、端子の構造により接点部を動きにくくして、摺動が生じないようにする技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−37629号公報
【特許文献2】特開2010−267584号公報
【特許文献3】特開2001−266990号公報
【特許文献4】特開2005−141993号公報
【特許文献5】特開2006−134681号公報
【特許文献6】特開2006−80004号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、近年では電気コネクタの端子数(ピン数)が増える傾向にあり、それに伴って端子の小型化が要求されている。しかし、小型端子では、雄型コネクタ側の雄タブや雌型コネクタ側の接触片に用いられる材料の板厚が薄くなるのでばね力が小さくなり、更に、十分なばね変位量もとることができないので、両者の接触荷重が小さくなってしまう。端子接点の電気的信頼性を保証するために広く用いられているSnめっきの場合、接触荷重が小さいと、微小な摺動による微摺動摩耗により電気的信頼が損なわれることが知られている。
【0007】
かような不具合の対策として、Au、Agなどの高価な貴金属めっきを用いたり、また、高強度材料を用いて接触荷重を大きくすると、コストアップとなってしまう。また、端子形状を工夫して動かない接点とする対策も挙げられるが、接触荷重が小さい場合は接点が動きやすくなり、微小距離の摺動でも摺動摩耗が生じるため微摺動摩耗を抑えることは困難である。加えて、従来の端子構造では、摺動で発生した摩耗粉が雄タブと接触片と間に入り込みやすく、それに起因する接触抵抗の上昇を生じる懸念がある。
【0008】
本願発明の目的は、接触荷重が小さい場合でも摺動摩耗をなるべく少なくでき、しかも、摺動で発生した摩耗粉が雄タブと接触片と間に入り込みにくい電気コネクタおよびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明によれば、雌型コネクタと雄型コネクタを係脱自在に接続させる電気コネクタであって、前記雄型コネクタには、雄タブが設けられ、前記雌型コネクタには、前記雄タブを挿入させるハウジング部が設けられ、前記ハウジング部には、前記雄タブを挟持するためのばね状の接触片とビート片が設けられ、前記接触片および前記ビート片の少なくとも一方には、前記ハウジング部に挿入された前記雄タブに向かって突出する突出部が設けられ、前記突出部は、前記ハウジング部に挿入された前記雄タブに接触する接触部分と、前記接触部分の周囲に設けられた側壁部分を有し、前記接触部分は、平面視で、前記ハウジング部に挿入される際の前記雄タブの進行方向と逆向きに突出する逆方向側頂部と、前記雄タブの進行方向と交差する方向に突出する一対の交差側頂部を有し、前記逆方向側頂部は平面視において尖っており、前記接触部分の周縁の形状が、前記逆方向側頂部と前記交差側頂部の間において、前記逆方向側頂部と前記交差側頂部を結ぶ直線よりも前記接触部分の中央側に凹んでいることを特徴とする、電気コネクタが提供される。
【0010】
この電気コネクタにおいて、前記接触部分は、平面視で、前記ハウジング部に挿入される際の前記雄タブの進行方向と同じ向きに突出する進行方向側頂部を更に有し、前記進行方向側頂部は平面視において尖っており、前記接触部分の周縁の形状が、前記進行方向側頂部と前記交差側頂部の間において、前記進行方向側頂部と前記交差側頂部を結ぶ直線よりも前記接触部分の中央側に凹んでいても良い。また、前記接触部分の周縁の形状が、複数の直線の組み合わせであっても良い。また、前記接触部分の周縁の形状が、曲線であっても良い。また、前記接触部分の周縁の形状が、曲線と直線の組み合わせであっても良い。また、平面視で、前記逆方向側頂部の角度、および、前記交差側頂部の角度が、いずれも30°以下であっても良い。また、平面視で、前記進行方向側頂部の角度が、30°以下であっても良い。
【0011】
また、本発明によれば、これら電気コネクタを製造する方法であって、前記突出部が、金型を用いたプレス加工あるいはめっきによって形成されることを特徴とする、電気コネクタの製造方法が提供される。また、前記突出部が、めっきによって形成されても良い。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、接触片やビート片に設けられる突出部の接触部分を、平面視でいわゆる星型の形状にすることにより、摩耗粉が接触部分と雄タブの間に入り込むことを回避できるようになる。また、接触部分と雄タブとの接触面積が小さくなっても、雄タブの進行方向と交差する方向に突出する一対の交差側頂部が有るので、それら交差側頂部が摺動の際の抵抗となり、摺動距離を抑制することが可能となる。このため、接触荷重が小さい場合でも摺動摩耗をなるべく少なくできる。なお、いわゆる星型の突出部は、例えば、金型を用いたプレス加工やめっきによって容易に形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施の形態に係る電気コネクタの断面図である。
図2】ハウジング部に雄タブを挿入させた状態の、電気コネクタの要部の拡大図である。
図3】接触片の斜視図である。
図4】接触片の平面図である。
図5】接触片の側面図である。
図6】接触部分の平面図であり、周縁の形状が、複数の直線の組み合わせである。
図7図4中のA−A断面図である。
図8図4中のB−B断面図である。
図9】雄タブ挿入時における摩耗粉の除去作用を示す斜視図である。
図10】雄タブ抜き取り時における摩耗粉の除去作用を示す斜視図である。
図11】嵌合状態を示す雄タブと接触片の平面図である。
図12】従来の菱形形状の接触部分の説明図である。
図13】接触部分の平面図であり、周縁の形状が曲線である。
図14】接触部分の平面図であり、周縁の形状が、曲線と直線の組み合わせである。
図15】本発明の別の実施の形態に係る突出部の斜視図であり、雄タブと突出部との接触が、線接触である。
図16図15中のA−A断面図である。
図17図15中のB−B断面図である。
図18】突出部の断面形状の変形例の説明図である。
図19】突出部の断面形状の変形例の説明図である。
図20】突出部の断面形状の変形例の説明図である。
図21】突出部の断面形状の変形例の説明図である。
図22】突出部の断面形状の変形例の説明図である。
図23】突出部の断面形状の変形例の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態の一例を図面を参照にして説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。図1に示すように、この実施の形態にかかる電気コネクタ1は、互いに係脱自在に接続可能な雄型コネクタ2と雌型コネクタ3とを有している。
【0015】
図1の左方に示す雄型コネクタ2は、雄側樹脂モールド部10の先端面に、雄端子としての、導電材料からなる雄タブ11が突出している。雄側樹脂モールド部10には、雄タブ11の周囲を囲むように配置された、筒状の雄側カバー12が設けられている。雄側カバー12の内周面には、雄側係止ロック13が、内側に向かって設けられている。
【0016】
一方、図1の右方に示す雌型コネクタ3は、雌側樹脂モールド部20の内部に、前述の雄タブ11を挿入させる箱型のハウジング部(キャビティ)21が設けられている。このハウジング部21の内部には、雌側樹脂モールド部(キャビティ)20の後面側(図1において右面側)から、導電材料からなる雌端子22が挿入されている。雌端子22の後端(図1の右端)には、電線23が電気的に接続されている。ハウジング部21に挿入された雌端子22は、弾性を有するランス24によって、抜け落ちないように押さえられている。
【0017】
図2に示すように、雌端子22の内部には、ばね状の接触片30とビート片31を有している。接触片30は、金属板を折り返して全体が弾性を有するように構成されている。これら接触片30とビート片31は、所定の隙間を空けて、互いに対向するように配置されている。図1に示すように、雄タブ11を雌端子22に挿入することにより、ハウジング部21内において、雄タブ11が接触片30とビート片31の間に挿入される。その結果、接触片30の弾性により、これら接触片30とビート片31の間で雄タブ11が挟持され、雄型コネクタ2の雄端子(雄タブ11)と、雌型コネクタ3の雌端子22が電気的に接続された状態となる。
【0018】
なお、図1において、雌型コネクタ3に対して雄型コネクタ2を右方向に移動させる方向が、雄タブ11の進行方向X1(ハウジング部21に挿入される際の雄タブ11の進行方向X1)である。また、雌型コネクタ3に対して雄型コネクタ2を左方向に移動させる方向が、雄タブ11の進行方向X1と逆向きとなる逆方向X2(ハウジング部21から雄タブ11を抜き出す方向X2)である。
【0019】
ハウジング部21は、筒状の雌側カバー32で覆われている。雌側カバー32の外周面には、雌側樹脂モールド部20に対して弾性変形自在に支持された雌側係止ロック33が、外側に向かって設けられている。図1に示すように、雄型コネクタ2を進行方向X1に移動させ、雄型コネクタ2の雄側カバー12の内側に雌型コネクタ3の雌側カバー32を挿入して、雄側係止ロック13と雌側係止ロック33を係合させることにより、電気コネクタ1の接続状態が保持される。また、このように電気コネクタ1の接続状態では、上述のように、雄タブ11が雌端子22に挿入されて、接触片30とビート片31の間に進入し、雄型コネクタ2の雄端子(雄タブ11)と、雌型コネクタ3の雌端子22が電気的に接続された状態となる。
【0020】
なお、雌側樹脂モールド部(キャビティ)20の外周面に形成された解除用突起34を押すことにより、雌側係止ロック33が押し込まれ、雄側係止ロック13と雌側係止ロック33の係合が外れた状態となる。これにより、雌型コネクタ3から雄型コネクタ2を抜き取ることができ、雄型コネクタ2の雄端子(雄タブ11)と、雌型コネクタ3の雌端子22との電気的な接続が開放される。
【0021】
図2に示すように、接触片30の表面には、ハウジング部21に挿入された雄タブ11の表面に向かって突出する突出部40が設けられている。また、ビート片31の表面には、ハウジング部21に挿入された雄タブ11の表面に向かって突出するビート部41が設けられている。ハウジング部21に挿入された雄タブ11の表面にこれら突出部40とビート部41が接触し、突出部40とビート部41の間で、雄タブ11が挟持される。
【0022】
図3〜5に示すように、接触片30に形成された突出部40は、ハウジング部21に挿入された雄タブ11に接触する接触部分42と、この接触部分42の周囲に設けられた側壁部分43を有している。この実施の形態では、突出部40の頂上が平面状の接触部分42になっており、ハウジング部21に挿入された雄タブ11の表面に対して、接触部分42が面接触するようになっている。
【0023】
また、接触部分42は、平面視で、いわゆる星型の形状をなしており、進行方向X1に突出する進行方向側頂部45と、逆方向X2に突出する逆方向側頂部46と、進行方向X1(逆方向X2)と略直角に交差する方向に突出する一対の交差側頂部47、47を有している。なお、「平面視」とは、ハウジング部21に挿入された雄タブ11側から、接触片30の表面を見た状態である。
【0024】
図6に示すように、突出部40の頂上をなしている接触部分42の周縁の形状は、進行方向側頂部45と交差側頂部47の間において、進行方向側頂部45と交差側頂部47を結ぶ直線L1よりも接触部分42の中央O側に凹んだ形状になっている。同様に、逆方向側頂部46と交差側頂部47の間においても、逆方向側頂部46と交差側頂部47を結ぶ直線L2よりも接触部分42の中央O側に凹んだ形状になっている。
【0025】
即ち、図6に示す実施の形態では、進行方向側頂部45は、平面視で、二つの直線45a、45aで挟まれた鋭角となっており、進行方向側頂部45のなす角度θ45は、進行方向側頂部45における直線L1、L1同士の交差角度よりも小さい。同様に、逆方向側頂部46は、平面視で、二つの直線46a、46aで挟まれた鋭角となっており、逆方向側頂部46のなす角度θ46は、逆方向側頂部46における直線L2、L2同士の交差角度よりも小さい。また、交差側頂部47は、平面視で、二つの直線47a、47aで挟まれており、交差側頂部47における交差側頂部47のなす角度θ47は、交差側頂部47における直線L1と直線L2の交差角度よりも小さい。
なお、摩耗粉が接触部分と雄タブの間に入り込むことを回避し、且つ摺動距離を抑制するという、本発明の効果を高めるために、前記進行方向側頂部45のなす角度θ45、前記逆方向側頂部46の角度θ46、前記交差側頂部47のなす角度θ47は、30°以下であることが好ましい。
【0026】
図6に示す実施の形態では、接触部分42は、各直線45a、46a、47aで囲まれた、進行方向側頂部45、交差側頂部47、逆方向側頂部46、交差側頂部47という4つの頂点を有する、いわゆる星型の平面形状になっている。
【0027】
また、この実施の形態では、接触部分42の周囲に設けられた側壁部分43は、接触片30の表面に近づくほど外側に広がる傾斜面となっており、図7、8に示すように、進行方向側頂部45、逆方向側頂部46、交差側頂部47のいずれにおいても、略台形の断面形状を有している。
【0028】
以上のように構成された電気コネクタ1において、雄型コネクタ2と雌型コネクタ3を電気的に接続するため、雄型コネクタ2を進行方向X1に移動させることにより、雌型コネクタ3のハウジング部21内に雄タブ11が挿入される。こうして、ハウジング部21内において、雄タブ11が接触片30とビート片31の間に挿入され、雄型コネクタ2の雄端子(雄タブ11)と、雌型コネクタ3の雌端子22が電気的に接続された状態となる。
【0029】
このように雄型コネクタ2と雌型コネクタ3を接続する場合、接触片30に形成された突出部40の頂上である接触部分42と雄タブ11の表面が面接触した状態で摺動するので、両者間で摩耗粉50が発生する。しかしながら、本発明の実施の形態に係る電気コネクタ1では、図9に示すように、逆方向側頂部46が先頭となって雄タブ11の表面に接触部分42が接触していき、雄タブ11の挿入に伴って進行方向X1に進行していく際に、摩耗粉50が逆方向側頂部46で両側に押し分けられることとなる。これにより、雄タブ11の表面と接触部分42の間に摩耗粉50が侵入しにくくなる。
【0030】
この場合、図6で説明したように、接触部分42の周縁の形状は、逆方向側頂部46と交差側頂部47の間において中央O側に凹んだ形状であり、逆方向側頂部46のなす角度θ46は、鋭く尖っているので、雄タブ11の表面と接触部分42の間に摩耗粉50が侵入することはほとんどない。このため、接触片30とビート片31の間に挿入された雄タブ11の表面に、接触片30に形成された突出部40の接触部分42が密着して面接触し、雄型コネクタ2の雄端子(雄タブ11)と雌型コネクタ3の雌端子22とが確実に電気的に接続され、高接触抵抗による電圧低下、発熱等の事故を未然に防止できる。
【0031】
また一方、雄型コネクタ2と雌型コネクタ3の電気的な接続を開放するため、雄型コネクタ2が逆方向X2に引っ張られ、雌型コネクタ3から雄型コネクタ2が抜き取られる。このように雌型コネクタ3から雄型コネクタ2を抜き取る場合も同様に、接触片30に形成された突出部40の頂上である接触部分42と雄タブ11の表面が面接触した状態で摺動するので、両者間で摩耗粉50が発生する。
【0032】
しかしながら、本発明の実施の形態に係る電気コネクタ1では、図10に示すように、このように雌型コネクタ3から雄型コネクタ2が抜き取られる場合は、進行方向側頂部45が先頭となって雄タブ11の表面に接触部分42が接触していき、雄タブ11の抜き取りに伴って逆方向X2に進行していく際に、摩耗粉50が進行方向側頂部45で両側に押し分けられることとなる。このように、雌型コネクタ3から雄型コネクタ2が抜き取られる場合も、雄タブ11の表面と接触部分42の間に摩耗粉50が侵入しにくく、接触部分42への摩耗粉50の付着が抑制される。
【0033】
また、このように雌型コネクタ3から雄型コネクタ2が抜き取られる場合も同様に、図6で説明したように、接触部分42の周縁の形状は、進行方向側頂部45と交差側頂部47の間において中央O側に凹んだ形状であり、進行方向側頂部45のなす角度θ45は、鋭く尖っているので、雄タブ11の表面と接触部分42の間に摩耗粉50が侵入することはほとんどない。このため、雌型コネクタ3から雄型コネクタ2が抜き取られる場合も、接触部分42への摩耗粉50の付着が回避される。
【0034】
更に、図11に示すように、雄型コネクタ2の雄端子(雄タブ11)と、雌型コネクタ3の雌端子22が電気的に接続された状態では、接触片30に形成された突出部40の頂上である接触部分42の表面全体が雄タブ11の表面に面接触し、接触片30とビート片31の間で雄タブ11をしっかりと挟持することにより、両者間の相対的な移動が最小限に抑えられる。
【0035】
即ち、図12に示すように、例えば四方を直線で囲まれた菱形の接触部分42’を雄タブ11の表面に接触させた場合、上述のように、雄型コネクタ2と雌型コネクタ3を接続する場合や雌型コネクタ3から雄型コネクタ2を抜き取る場合に、接触部分42’への摩耗粉50の付着を回避するためには、逆方向側頂部46’の角度θ46’および進行方向側頂部45’の角度θ45’はいずれも小さくすることが望ましい。しかしながら、逆方向側頂部46’の角度θ46’と進行方向側頂部45’の角度θ45’を小さくすると、接触部分42’の幅b’も小さくなり、接触部分42’全体の面積が著しく減少する。そして、接触部分42’の面積減少により、雄タブ11の表面に対する接触面積が減少し、抵抗が大きくなってしまう。また、接触面積の減少により、接触片30とビート片31の間で雄タブ11をしっかりと挟持しにくくなり、両者間の相対的な移動が生じやすくなる。更に、両者間の相対的な移動により、摩耗粉50がより多く発生してしまう。
【0036】
この点、本発明の実施の形態に係る電気コネクタ1にあっては、接触片30に形成された突出部40の頂上である接触部分42の形状がいわゆる星型の形状をなしている。このため、逆方向側頂部46の角度θ46と進行方向側頂部45の角度θ45を小さくしても、接触部分42の幅b(一対の交差側頂部47、47同士の間隔)を大きくでき、接触部分42の表面積を大きくできる。その結果、雄タブ11の表面に対する接触面積が増加し、抵抗が小さくなる。また、接触面積の増加により、接触片30とビート片31の間で雄タブ11をしっかりと挟持でき、両者間の相対的な移動が生じにくくなり、摩耗粉50の発生も低減できるようになる。特に、雄タブ11の進行方向X1や逆方向X2に対して垂直方向に延びる交差側頂部47が摺動の際の抵抗となり、摺動距離を抑制することが可能となる。
【0037】
本発明の電気コネクタ1は端子の挿抜時の接触部分42への摩耗粉50の付着を抑制するとともに、微小荷重(例えば接点の接触荷重が3N以下)且つ微小距離の摺動で摺動摩耗が生じる微摺動摩耗についても効果がある。接触荷重が小さい場合は接点が動きやすくなり、微小距離の摺動でも摺動摩耗が生じるが、本発明の場合、接触部分42の幅bを大きくでき、接触面積を大きくできるので、従来の端子構造と比較して微摺動そのものを抑制する効果がある。また、接触部分42への摩耗粉50の付着を進行方向側頂部45と逆方向側頂部46により抑制することができ、接触抵抗の上昇が抑えられる。
【0038】
以上、本発明の実施の形態を例示して説明したが、本発明はここに示した形態に限定されない。例えば、図6に示す実施の形態では、接触部分42の形状として、各直線45a、46a、47aで囲まれた例を示した。しかしながら、接触部分42の周縁の形状は、図13に示すように、曲線で囲まれていても良い。また、図14に示すように、接触部分42の周縁の形状は、曲線と直線の組み合わせで囲まれていても良い。このように、接触部分42の周縁の形状を曲線にすることにより、雄タブ11の表面に対する接触部分42の接触面積が増加し、抵抗が更に小さくなる。
【0039】
また、雄タブ11の表面に対する接触部分42の接触は、面接触に限らず、線接触あるいは点接触でも良い。図15〜17に示す実施の形態では、突出部40の頂上をなしている接触部分42の形状が、十字形の線状になっている。この図15に示す形状の接触部分42とすることにより、雄タブ11の表面に対し、接触部分42を線接触で押し付けることが可能となる。
【0040】
また、突出部40を形成する箇所は接触片30に限られず、突出部40をビート部41に形成しても良い。また、突出部40を接触片30とビート部41の両方に形成しても良い。更に、突出部40を複数個所に形成しても良い。複数の突出部40を設けることにより、より信頼性の高い端子構造にすることが可能となる。
【0041】
なお、上述したように、本発明によれば雄タブ11の表面と接触部分42の間への摩耗粉50の侵入を抑制できるので、雄タブ11の表面や接触片30、ビート片31の表面には、従来同様のSnめっきを施すことができ、Au、Agなどの高価な貴金属めっきを用いずに、信頼性の高い電気コネクタを得ることが可能となる。Snめっきを施す場合、皮膜構造としては、接触片30、ビート片、雄タブ11などの導電性基材の表面側からSnのみ、Ni−Cu−Sn、Ni−Cu−CuSn化合物−Sn、CuSn化合物−Sn、Ni−Sn等の複数層のめっき構造が考えられる。但し、本発明においても、Au、Agなどの貴金属めっきを用いて構わないことはもちろんである。
【0042】
なお、接触片30、ビート片31などのめす端子はBe銅、チタン銅など高強度、高コストの銅合金からなる導電性基材を使用してもよいが、これらの銅合金は高コストであるため、より低コストのCu−Ni−Si系(コルソン)合金、Cu−Ni−Sn−P系合金(例えば、DOWAメタルテック株式会社製のNB109、NB105等の銅合金)、りん青銅などが使用可能であり好ましい。雄タブ11などのおす端子は黄銅が好ましい。また、おす端子またはめす端子の材料として、ステンレス(SUS)などの鉄系材料やアルミニウム合金などからなる導電性材料を使用してもよい。また、めっき処理は電気めっきで形成するのがコスト面で好ましく、必要に応じてリフロー処理を用いる。
【0043】
また、突出部40は、例えば金型を用いたプレス加工によって形成することができる。本発明のようにいわゆる星型の突出部40を形成するのは、めす端子のプレス金型の一部を変更すれば良い。プレス加工を行うタイミングは、めっき処理の前後を問わない。但し、同様の形状を得ることができれば、例えばSnめっきで突出部を形成するなど、加工方法はプレス加工に限定されるものではない。
【0044】
本発明の電気コネクタは、めす端子の突出部40の形状だけを変更すればよく、おす端子は従来通りで構わない。なお、突出部40をビート部41に形成する場合、ばね状の接触片30と異なり、ビート部41はプレス加工により容易に突出部40を設けることができる。
【0045】
また、以上の実施の形態では、突出部40は、進行方向X1に突出する進行方向側頂部45と、逆方向X2に突出する逆方向側頂部46の両方を有する例を示したが、雄型コネクタ2と雌型コネクタ3を接続する際の摩耗粉50の侵入を防ぐ観点に鑑みれば、突出部40は、進行方向X1に突出する進行方向側頂部45と、逆方向X2に突出する逆方向側頂部46と交差側頂部47のみを有していれば足り、進行方向側頂部45は省略しても良い。
【0046】
更に、図7、8では、接触部分42の周囲に設けられた側壁部分43が傾斜する平面の例を示したが、図18に示すように、側壁部分43は外側に凸の曲面、あるいは、図19に示すように、側壁部分43は内側に凸の曲面でも構わない。また、図20に示すように、側壁部分43は、垂直な平面でも構わない。同様に、図16、17でも、接触部分42の周囲に設けられた側壁部分43が傾斜する平面の例を示したが、図21に示すように、側壁部分43は外側に凸の曲面、あるいは、図22に示すように、側壁部分43は内側に凸の曲面でも構わない。また、図23に示すように、側壁部分43は、垂直な平面でも構わない。
【符号の説明】
【0047】
X1 進行方向
X2 逆方向
1 電気コネクタ
2 雄型コネクタ
3 雌型コネクタ
10 雄側樹脂モールド部
11 雄タブ
12 雄側カバー
13 雄側係止ロック
20 雌側樹脂モールド部
21 ハウジング部
22 雌端子
23 電線
24 ランス
30 接触片
31 ビート片
32 雌側カバー
33 雌側係止ロック
34 解除用突起
40 突出部
41 ビート部
42 接触部分
43 側壁部分
45 進行方向側頂部
46 逆方向側頂部
47 交差側頂部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
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図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23