(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上記特許文献1に記載された従来の回転伝達装置においては、電磁クラッチが、制御保持器に連結されたアーマチュアと、そのアーマチュアとの間に間隙をおいて軸方向に対向配置されたロータと、静止部材に支持されてロータと軸方向で対向する電磁石を有し、上記電磁石に対する通電によりアーマチュアに磁気吸引力を付与してロータに吸着し、そのアーマチュアと共に制御保持器を軸方向に移動させるようにしており、上記アーマチュアがロータに吸着される際、アーマチュアがロータに衝撃的に当接するため、衝突音や振動が発生して、不快感や不安感を与えるおそれがあり、改善すべき点が残されている。
【0008】
この発明の課題は、衝突音および振動の低減を図ることができるようにした回転伝達装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するため、この発明においては、入力軸と、その入力軸と同軸上に配置された出力軸の相互間において回転の伝達と遮断とを行なう2方向クラッチおよびその2方向クラッチの係合および解除を制御する電磁クラッチを有し、前記2方向クラッチが、前記出力軸の軸端部に設けられた外輪の内周と前記入力軸の軸端部に設けられた内輪の外周間に、制御保持器および回転保持器のそれぞれに設けられた柱部が周方向に交互に配置されるよう組込み、隣接する柱部間に形成されたポケット内に前記外輪の内周および内輪の外周に対して係合可能な一対の係合子と、その一対の係合子を離反する方向に付勢する弾性部材とを組込んだ構成とされ、前記電磁クラッチが、前記制御保持器に連結されたアーマチュアと、そのアーマチュアとの間に間隙をおいて軸方向に対向配置されたロータと、静止部材に支持されてロータと軸方向で対向し、通電により前記アーマチュアに磁気吸引力を付与してロータに吸着させる電磁石とからなり、前記電磁石に対する通電によりアーマチュアと共に制御保持器をロータに向けて軸方向に移動させ、その軸方向への移動を運動変換機構により制御保持器と回転保持器をポケットの周方向幅が小さくなる方向の相対回転運動に変換して一対の係合子を係合解除させるようにした回転伝達装置において、前記アーマチュアとロータの対向面における一方に、前記アーマチュアの吸着時の衝撃力を緩衝する緩衝部材を設けた構成を採用したのである。
【0010】
上記の構成からなる回転伝達装置において、電磁クラッチの電磁石に通電すると、アーマチュアに磁気吸引力が付与され、アーマチュアがロータに向けて移動して、ロータに吸着される。その吸着時の衝撃力は緩衝部材により緩衝され、衝突音や振動が低減される。
【0011】
この発明に係る回転伝達装置において、緩衝部材は、ゴムや合成樹脂を素材とする非金属製の弾性リングからなるものであってもよい。弾性リングからなる緩衝部材においては、アーマチュアとロータの対向面における一方に形成された環状溝内に、その一部が外部に突出するよう嵌合して抜止めする。
【0012】
また、緩衝部材は、環状板部の外周に円筒部が設けられた金属環と、その金属環における環状板部の内表面に接着された弾性を有する突出部からなるものであってもよい。
【0013】
上記緩衝部材においては、アーマチュアとロータのいずれか一方の取付け対象の外周に金属環の円筒部を嵌合して、その取付け対象の対向面の外周部に形成された環状凹部の軸方向端面に環状板部が対向し、突出部がその軸方向端面で支持され、かつ、環状板部の外表面が対向面から突出する取付けとする。
【0014】
上記のような緩衝部材の取付けに、円筒部の内径面に複数の突起部を周方向に間隔をおいて向け、その複数の突起部のそれぞれを前記取付け対象の外周に形成された環状溝に嵌合して、その環状溝の端壁に突起部を係合させることにより、緩衝部材の脱落を防止し、安定した取付け状態を得ることができる。
【0015】
ここで、突出部は、周方向に連続する環状のものであってもよく、あるいは、周方向に不連続な環状配置の複数の円弧状突起からなるものであってもよい。
【0016】
さらに、緩衝部材は、金属薄板を素材とする環状板部の外周部または内周部の少なくとも一方に弾性を有する複数の折曲げ片を周方向に間隔をおいて形成された構成からなるものであってもよい。
【0017】
上記緩衝部材においては、アーマチュアとロータの対向面における一方に形成された環状溝内に環状板部を嵌合し、複数の折曲げ片の先端部が対向面から外部に突出する状態で環状板部を抜止めする。その抜止めには、前述の弾性リングの抜止めと同様に、加締める方法や接着する方法を採用することができる。
【発明の効果】
【0018】
この発明においては、上記のように、アーマチュアとロータの対向面における一方に緩衝部材を設けたことにより、ロータに対するアーマチュアの吸着時の衝撃力を緩衝部材によって緩衝することができ、衝突音や振動を低減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、この発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、この発明に係る回転伝達装置の実施の形態を示す。図示のように、回転伝達装置は、入力軸1と、その入力軸1と同軸上に配置された出力軸2と、その両軸の軸端部を覆う静止部材としてのハウジング3と、そのハウジング3内に組み込まれて入力軸1から出力軸2への回転の伝達と遮断とを行なう2方向クラッチ10およびその2方向クラッチ10の係合、解除を制御する電磁クラッチ50とからなる。
【0021】
ハウジング3は円筒状をなし、その一端部には小径の軸受筒4が設けられ、その軸受筒4内に組み込まれた軸受5によって出力軸2が回転自在に支持されている。
【0022】
図1および
図2に示すように、2方向クラッチ10は、出力軸2の軸端部に設けられた外輪11の内周に円筒面12を設け、入力軸1の軸端部に設けられた内輪13の外周に複数のカム面14を周方向に等間隔に形成し、その複数のカム面14のそれぞれと円筒面12間に一対の係合子としてのローラ15と弾性部材20とを組込み、そのローラ15を保持器16で保持し、上記内輪13の一方向への回転により一対のローラ15の一方を円筒面12およびカム面14に係合させて内輪13の回転を外輪11に伝達し、また、内輪13の他方向への回転時に他方のローラ15を円筒面12およびカム面14に係合させて内輪13の回転を外輪11に伝達するようにしている。
【0023】
ここで、外輪11の閉塞端部の内面側には小径の凹部17が形成され、その凹部17内に組み込まれた軸受18によって内輪13の端部が回転自在に支持されている。
【0024】
内輪13は入力軸1の軸端部に対してセレーション嵌合とされて回り止めされているが、入力軸1に一体に設けるようにしてもよい。その内輪13の外周に形成されたカム面14は、相反する方向に傾斜する一対の傾斜面14a、14bから形成されて外輪11の円筒面12との間に周方向の両端が狭小のくさび形空間を形成しており、上記一対の傾斜面14a、14b間には内輪13の接線方向に向く平坦なばね支持面19が設けられ、そのばね支持面19によって弾性部材20が支持されている。
【0025】
弾性部材20はコイルばねからなる。この弾性部材20は一対のローラ15間に配置される組込みとされ、その弾性部材20により一対のローラ15は離反する方向に付勢されて、円筒面12およびカム面14に係合するスタンバイ位置に配置されている。
【0026】
保持器16は、制御保持器16Aと、回転保持器16Bとからなる。
図1および
図6に示すように、制御保持器16Aは、環状のフランジ21の片面外周部にカム面14と同数の柱部22を周方向に等間隔に設け、その隣接する柱部22間に円弧状の長孔23を形成し、外周には柱部22と反対向きに筒部24を設けた構成とされている。
【0027】
一方、回転保持器16Bは、環状のフランジ25の外周にカム面14と同数の柱部26を周方向に等間隔に設けた構成とされている。
【0028】
制御保持器16Aと回転保持器16Bは、制御保持器16Aの長孔23内に回転保持器16Bの柱部26が挿入されて、その柱部22、26が周方向に交互に並ぶ組み合わせとされている。そして、その組み合わせ状態で柱部22、26の先端部が外輪11と内輪13間に配置され、制御保持器16Aのフランジ21および回転保持器16Bのフランジ25が外輪11の外部に位置する組込みとされている。
【0029】
上記のような保持器16A、16Bの組込みによって、
図2に示すように、制御保持器16Aの柱部22と回転保持器16Bの柱部26間にポケット27が形成される。ポケット27は内輪13のカム面14と径方向で対向し、各ポケット27内に対向一対の係合子としてのローラ15および弾性部材20が組込まれている。
【0030】
図1に示すように、制御保持器16Aのフランジ
21は、入力軸1の外周に形成されたスライド案内面28に沿ってスライド自在に支持されている。
【0031】
スライド案内面28の電磁クラッチ50側の端部には鍔部29が設けられ、その鍔部29と回転保持器16Bのフランジ25間に組み込まれたスラスト軸受30によって回転保持器16Bが電磁クラッチ50側に移動するのが防止される状態で回転自在に支持されている。
【0032】
図1に示すように、制御保持器16Aのフランジ21と回転保持器16Bのフランジ25間には、制御保持器16Aの軸方向への移動を、その制御保持器16Aと回転保持器16Bの相対的な回転運動に変換する運動変換機構としてのトルクカム40が設けられている。
【0033】
図7(a)、(b)に示すように、トルクカム40は、制御保持器16Aのフランジ21と回転保持器16Bのフランジ25の対向面それぞれに周方向の中央部で深く両端に至るに従って次第に浅くなる対向一対のカム溝41、42を設け、一方のカム溝41の一端部と他方のカム溝42の他端部間にボール43を組み込んだ構成としている。
【0034】
カム溝41、42として、ここでは円弧状の溝を示したが、V溝であってもよい。
【0035】
上記トルクカム40は、制御保持器16Aのフランジ21が回転保持器16Bのフランジ25に接近する方向に制御保持器16Aが軸方向に移動した際に、
図7(a)に示すように、ボール43がカム溝41、42の溝深さの最も深い位置に向けて転がり移動し、制御保持器16Aと回転保持器16Bをポケット27の周方向幅が小さくなる方向に相対回転させるようになっている。
【0036】
図1に示すように、内輪13には、入力軸1に形成されたスライド案内面28側の端部に、そのスライド案内面28とほぼ同径のホルダ嵌合面44が形成され、そのホルダ嵌合面44にローラ15および弾性部材20の軸方向への脱落を防止する環状のばねホルダ45が嵌合されている。
【0037】
ばねホルダ45は、内輪13の軸方向端面に衝合する状態で軸方向に位置決めされている。
図4および
図5に示すように、ばねホルダ45の外周には制御保持器16Aの柱部22と回転保持器16Bの柱部26間に配置される複数の制動片46が形成されている。
【0038】
複数の制動片46は、制御保持器16Aと回転保持器16Bとがポケット27の周方向幅を縮小する方向に相対回転した際に、制御保持器16Aの柱部22および回転保持器16Bの柱部26を両側縁で受け止めて対向一対のローラ15を係合解除する中立位置に保持するようになっている。
【0039】
複数の制動片46のそれぞれ外周部には、軸方向に延びて弾性部材20の外側に張り出すばね保持片47が形成され、そのばね保持片47の内径側に形成された切欠部48に弾性部材20の外周部が嵌合し、その嵌合によって、弾性部材20はローラ15の軸方向に移動するのが防止され、かつ、対向一対のローラ15間から脱落するのが防止されている。
【0040】
図1に示すように、電磁クラッチ50は、制御保持器16Aに形成された筒部24の端面と軸方向で対向するアーマチュア51と、そのアーマチュア51と軸方向で対向するロータ52と、そのロータ52と軸方向で対向する電磁石53とを有している。
【0041】
アーマチュア51は、入力軸1に設けられた前述の鍔部29によって回転自在かつスライド自在に支持され、そのアーマチュア51の外周部に連結筒54が形成され、その連結筒54の内径面に制御保持器16Aの筒部24が圧入されて、制御保持器16Aとアーマチュア51が連結一体化されている。その連結によってアーマチュア51は、鍔部29の外周と入力軸1の外周のスライド案内面28の軸方向の2箇所においてスライド自在の支持とされている。
【0042】
ロータ52は、入力軸1に嵌合されて軸方向に位置決めされ、かつ、入力軸1に対して回り止めされている。
【0043】
電磁石53は、電磁コイル53aと、その電磁コイル53aを支持するコア53bとからなり、上記コア53bは静止部材としてのハウジング3の他端部開口内に嵌合され、その他端部開口内に取付けた止め輪55によって抜止めされている。また、コア53bは入力軸1に嵌合された軸受56を介して入力軸1と相対的に回転自在とされている。
【0044】
図8に示すように、アーマチュア51には、ロータ52に対する対向面の外周部に環状溝60が形成され、その環状溝60内に緩衝部材61が嵌合されている。緩衝部材61はゴムまたは合成樹脂を素材とする弾性リングからなる。この緩衝部材61は、一部がロータ52に対する対向面から突出する組込みとされ、かつ、抜止めされている。
【0045】
実施の形態で示す回転伝達装置は上記の構造からなり、
図1は、電磁石53の電磁コイル53aに対する通電の遮断状態を示し、アーマチュア51はロータ52から離反する状態にある。また、2方向クラッチ10の対向一対のローラ15は、
図3に示すように、外輪11の円筒面12および内輪13のカム面14に対して係合するスタンバイ位置に位置している。
【0046】
2方向クラッチ10のスタンバイ状態において、電磁コイル53aに通電すると、アーマチュア51に吸引力が作用し、アーマチュア51が軸方向に移動してロータ52に吸着される。
【0047】
ここで、アーマチュア51は制御保持器16Aに連結一体化されているため、アーマチュア51の軸方向への移動に伴って制御保持器16Aは、そのフランジ21が回転保持器16Bのフランジ25に接近する方向に移動する。
【0048】
このとき、
図7(b)に示すボール43が
図7(a)に示すように、カム溝41、42の溝深さの最も深い位置に向けて転がり移動し、制御保持器16Aと回転保持器16Bはポケット27の周方向幅が小さくなる方向に相対回転し、対向一対のローラ15は制御保持器16Aの柱部22と回転保持器16Bの柱部26で押されて互いに接近する方向に移動する。このため、ローラ15は、円筒面12およびカム面14から係合解除して中立状態となり、2方向クラッチ10は係合解除状態とされる。
【0049】
2方向クラッチ10の係合解除状態において、入力軸1に回転トルクを入力して内輪13を一方向に回転すると、ばねホルダ45に形成された制動片46が制御保持器16Aの柱部22と回転保持器16Bの柱部26の一方を押圧するため、内輪13と共に制御保持器16Aおよび回転保持器16Bが回転する。このとき、対向一対のローラ15は係合解除された中立位置に保持されているため、内輪13の回転は外輪11に伝達されず、内輪13はフリー回転する。
【0050】
ここで、制御保持器16Aと回転保持器16Bがポケット27の周方向幅を小さくなる方向に相対回転すると、制御保持器16Aの柱部22と回転保持器16Bの柱部26がばねホルダ45の制動片46の両側縁に当接して相対回転量が規制される。
【0051】
このため、弾性部材20は必要以上に収縮することはなくなり、伸長と収縮が繰り返し行われても疲労によって破損するようなことはない。
【0052】
内輪13のフリー回転状態において、電磁コイル53aに対する通電を解除すると、アーマチュア51は吸着が解除されて回転自在となる。その吸着解除により、弾性部材20の押圧によって制御保持器16Aと回転保持器16Bがポケット27の周方向幅が大きくなる方向に相対回転し、対向一対のローラ15のそれぞれが、
図2に示すように、円筒面12およびカム面14に係合するスタンバイ状態とされ、その対向一対のローラ15の一方を介して内輪13と外輪11の相互間で一方向の回転トルクが伝達される。
【0053】
ここで、入力軸1を停止して、その入力軸1の回転方向を切換えると、他方のローラ15を介して内輪13の回転が外輪11に伝達される。
【0054】
このように、電磁コイル53aに対する通電の遮断により、制御保持器16Aと回転保持器16Bがポケット27の周方向幅が大きくなる方向に相対回転して、対向一対のローラ15のそれぞれが円筒面12およびカム面14に直ちに噛み込むスタンバイ状態とされるため、回転方向ガタは小さく、また、内輪13は入力軸1に一体化されているため、入力軸1の回転を内輪13から外輪11に直ちに伝達することができる。
【0055】
また、内輪13から外輪11への回転トルクの伝達は、カム面14と同数のローラ15を介して行われるため、内輪13から外輪11に大きな回転トルクを伝達することができる。
【0056】
なお、制御保持器16Aと回転保持器16Bがポケット27の周方向幅が大きくなる方向に相対回転すると、ボール43は対向一対のカム溝41、42の浅溝部に向けて転がり移動して、
図7(b)に示す状態となる。
【0057】
ここで、電磁コイル53aに対する通電によりロータ52にアーマチュア51が吸着されるとき、アーマチュア51はロータ52に衝撃的に当接しようとする。このとき、アーマチュア51のロータ52に対する対向面には、
図8に示すように、環状溝60が形成され、その環状溝60内に弾性リングからなる緩衝部材61が組み込まれて一部が対向面から外部に突出しているため、アーマチュア51の吸着時、緩衝部材61はロータ52に対する当接により弾性変形し、その弾性変形によりアーマチュア51がロータ52に衝撃的に当接するのが防止され、衝突音や振動が大幅に低減されることになる。
【0058】
図8では、緩衝部材61として弾性リングからなるものを示したが、緩衝部材61はこれに限定されるものではない。
図9乃至
図12は、緩衝部材61の他の例を示している。
【0059】
図9および
図10に示す緩衝部材61は、環状板部63の外周および内周に同方向に向く円筒部64、65が設けられた金属環62と、その金属環62における環状板部63の内表面に設けられた弾性を有する突出部66からなり、上記環状板部63の外周に形成された外側円筒部64には外径面から内径面へのプレス押出しによって複数の突起部67が周方向の間隔をおいて設けられている。
【0060】
突出部66はゴムからなり、環状板部63の内表面に加硫接着されている。ここで、突出部66は、
図10(d)に示すように、周方向に連続する環状のものであってもよく、あるいは、
図10(e)に示すように、周方向に不連続な環状配置の複数の円弧状突起からなるものであってもよい。
【0061】
上記緩衝部材61においては、アーマチュア51の外周に金属環62の外側円筒部64が嵌合し、その外側円筒部64に設けられた突起部67がアーマチュア51の外径面に形成された環状溝68のロータ52側の端壁に係合する取付けとする。
【0062】
上記のような緩衝部材61の取付けによって、環状板部63がアーマチュア51のロータ52に対する対向面の外周部に形成された環状凹部69の軸方向端面69aと軸方向で対向して突出部66が軸方向端面69aで支持され、また、環状板部63の内周に形成された内側円筒部65の先端部が軸方向端面69aの内周部に形成された環状溝70に位置し、環状板部63の外表面がロータ52に対する対向面から突出する状態とされる。
【0063】
アーマチュア51に対する上記緩衝部材61の取付け状態において、電磁石53の電磁コイル53aに対する通電によりロータ52にアーマチュア51を吸着すると、金属環62の環状板部63がロータ52に当接して押し込まれ、ゴムからなる突出部66が弾性変形し、その弾性変形により、アーマチュア51がロータ52に吸着される際の衝撃が吸収され、衝突音や振動の発生が抑制される。
【0064】
図10(e)に示すように、突出部66を周方向に不連続な環状配置の複数の円弧状突起とすると、ゴムの弾性力を任意に設定でき、衝撃力を効果的に吸収することができる。
【0065】
図11および
図12に示す緩衝部材61は、金属薄板を素材とする環状板部71の外周部に弾性を有する複数の折曲げ片72を周方向に間隔をおいて形成した構成としている。
【0066】
上記の構成からなる緩衝部材61においては、アーマチュア51のロータ52に対する対向面に形成された環状溝73内に環状板部71を嵌合し、複数の折曲げ片72の先端部が上記対向面から外部に突出する状態で環状板部71を抜止めする。その抜止めに際し、ここでは、環状溝73の開口周縁部を開口部に向けて加締めて複数の加締め片74を設け、その加締め片74によって環状板部71を抜止めしているが、環状板部71を環状溝73の軸方向端面に接着してもよい。
【0067】
図11に示す緩衝部材61の取付け状態において、電磁石53の電磁コイル53aに対する通電によりロータ52にアーマチュア51を吸着すると、複数の折曲げ片72がロータ52に当接して弾性変形し、その弾性変形によってアーマチュア51がロータ52に吸着される際の衝撃が緩衝される。
【0068】
図8乃至
図12に示す例においては、緩衝部材61をアーマチュア51に取付けるようにしたが、ロータ52のアーマチュア51に対する対向面側に緩衝部材61を取付けるようにしてもよい。
【0069】
図1および
図2に示す実施の形態においては、2方向クラッチ10として、電磁石53に対する通電により制御保持器16Aを軸方向に移動させて、その制御保持器16Aと回転保持器16Bを相対回転させ、係合子としてのローラ15を外輪11の内周と内輪13の外周に係合させるようにしたローラタイプのものを示したが、2方向クラッチ10はこれに限定されるものではない。
【0070】
例えば、
図13に示すように、径の異なる一対の保持器C
1、C
2を内外に配置し、径の大きな外側保持器C
2を、
図1乃至
図3に示す実施の形態と同様に、制御保持器16Aと回転保持器16Bとで形成し、上記制御保持器16Aの柱部22と回転保持器16Bの柱部26間に形成されたポケット27内に一対の係合子としてのスプラグ31と、その一対のスプラグ31間に弾性部材32とを組込み、上記一対のスプラグ31のそれぞれ内端部を小径側保持器C
1に形成されたポケット33内に挿入して、その内端部を中心に揺動自在に支持したスプラグタイプのものであってもよい。
【0071】
上記スプラグタイプの2方向クラッチ10においては、電磁クラッチ50の電磁石53に対する通電を解除すると、一対のスプラグ31が弾性部材32の押圧により外端部が離反する方向に揺動して外輪11の内周円筒面12と内輪13の外周円筒面13aに係合し、また、電磁石53に通電し、制御保持器16Aの軸方向への移動により、その制御保持器16Aと回転保持器16Bを相対回転させると、一対のスプラグ31の外端部が各保持器の柱部22、26で押圧されて外端部が近接する方向に揺動し、外輪11の内周円筒面12および内輪13の外周円筒面13aに対して係合解除するようになっている。