特許第6093674号(P6093674)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6093674
(24)【登録日】2017年2月17日
(45)【発行日】2017年3月8日
(54)【発明の名称】マッサージ法を評価するための方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/026 20060101AFI20170227BHJP
   A61H 7/00 20060101ALI20170227BHJP
   A61B 5/02 20060101ALI20170227BHJP
【FI】
   A61B5/02 800Z
   A61H7/00 300A
   A61B5/02ZDM
【請求項の数】9
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-183095(P2013-183095)
(22)【出願日】2013年9月4日
(65)【公開番号】特開2015-47449(P2015-47449A)
(43)【公開日】2015年3月16日
【審査請求日】2015年8月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000135324
【氏名又は名称】株式会社ノエビア
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100100712
【弁理士】
【氏名又は名称】岩▲崎▼ 幸邦
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】新垣 健太
(72)【発明者】
【氏名】川口屋 幸
(72)【発明者】
【氏名】鳥居 宏右
【審査官】 遠藤 直恵
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−161558(JP,A)
【文献】 特開2000−300569(JP,A)
【文献】 特開平07−088105(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/165602(WO,A1)
【文献】 特開2009−297209(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/02,5/06−5/22
A61H 7/00−15/02
G01N 21/00−21/01,21/17−21/61
A61M 21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2種のマッサージ手技を含むマッサージ法を評価するための方法であって、
(1)該マッサージ手技の各々について、被施術者の所定部位に所定時間マッサージを施術する間に測定して収集した被施術者の脳血流変動データを手技間で比較するステップ、及び
上記比較の結果、脳血流変動データに差異が有るとわかった手技のうちの少なくとも2つを、少なくとも一の順番で、被施術者の所定部位に所定時間施術する間に測定して収集した被施術者の脳血流変動データを、(1)で収集した脳血流変動データと比較するステップ、
を含む方法。
【請求項2】
ステップ()及び()が、該脳血流変動データの平均値、及び該脳血流変動データのうちの最大値と最小値の差を比較するステップを含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
ステップ()及び()が、該脳血流変動データの所定時間当たりの差分、及び該差分の絶対値の平均値を比較するステップを含む、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
ステップ()の少なくとも一の順番が、前記平均値、前記最大値と最小値の差、及び/又は前記差分の絶対値の平均値がより大きい手技をより後で施術する順番である、請求項3記載の方法。
【請求項5】
ステップ()及び()が、脳血流変動の測定値を平滑化するステップをさらに含み、前記平均値、前記最大値と最小値の差、及び、前記差分が、平滑化された測定値から求められる、請求項3又は4記載の方法。
【請求項6】
脳血流変動が、機能的近赤外分光分析法により血液中の酸素化ヘモグロビンの量の変動によって測定される、請求項1〜5のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
マッサージを施術する所定部位が、顔面部である、請求項1〜6のいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
少なくとも2種のマッサージ手技が、顔面部の異なる部位を刺激する手技である、請求項7記載の方法。
【請求項9】
該異なる部位が、筋肉とリンパ腺である、請求項8記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マッサージ法の評価法に関し、詳細にはマッサージ被施術者の脳血流変動量を測定し、該測定値に基づき、マッサージ法の効果を客観的に評価する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
認知、記憶、判断などの高次脳機能は加齢により低下する傾向にあることが知られている。これは、前頭前野(PFC: prefrontal cortex)における脳血流変動の低下が影響しているといわれ、加齢による脳機能低下を予防し改善するためには、日常的に脳血流変動を伴う活動を行うことが有効であると考えられている(J.M. Jennifer, S. Hayasaka and P.J. Laurienti, Frontiers in human neuroscience, 4, 16, 2010、
H. Yanagisawa, I. Dan, D. Tsuzuki, M. Kato, M. Okamoto, Y. Kyutoku and H. Soya, Neuroimage, 50, 1702-10, 2010)。
【0003】
脳血流変動をマッサージによりもたらすことが知られている(特許文献1)。また、本発明者らは、高い心理的効果を有する、リンパ腺を刺激するフェイシャルマッサージによってPFCにおける脳血流が大きく変動し、この変動が加齢により減弱すること(非特許文献1)、及び、女性が日常的に行う化粧品を用いたスキンケア行為や単に頬をさするといった行為時においても、類似した変動が認められることを報告している(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−334016号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】S. Kawaguchiya, K. Shingaki, K. Torii and M. Ito, 11th ASCS Conference, Bali, Indonesia, 23-25 April 2013
【非特許文献2】K. Shingaki, Y. Yamaguchi, K. Torii and M. Ito, 27th IFSCC Congress, Johannesburg, South Africa, 15-18 October 2012
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、これまでに為されてきた研究はマッサージ手技を所定のものに固定して行われており、複数の手技を用いるのが通常である実際のマッサージ法を反映したものとはなっていない。また、脳血流変動データの解析方法も確立されているとはいえない。そこで、本発明は、複数のマッサージ手技を用いたマッサージ法における脳血流を変動させる効果を客観的に評価する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
即ち、本発明は、以下のものである。
[1]少なくとも2種のマッサージ手技を含むマッサージ法を評価する方法であって、
(1)該マッサージ手技の各々について、被施術者の所定部位に所定時間マッサージを施術する間、被施術者の脳血流変動を測定するステップ、
(2)(1)で得られた脳血流変動データを手技間で比較し、手技間での脳血流変動特性の差異の有無を判断するステップ、
(3)差異が有ると判断された手技のうちの少なくとも2つを、少なくとも一の順番で、被施術者の所定部位に所定時間施術する間、被施術者の脳血流変動を測定するステップ、
(4)(3)で得られた脳血流変動データを、(1)で得られた脳血流変動データと比較し、脳血流変動がより大きいか否かを判断するステップ、
を含む方法。
[2]ステップ(2)及び(4)が、該脳血流変動データの平均値、及び該脳血流変動データのうちの最大値と最小値の差を比較するステップを含む、上記[1]記載の方法。
[3]ステップ(2)及び(4)が、該脳血流変動データの所定時間当たりの差分、及び該差分の絶対値の平均値を比較するステップを含む、上記[1]又は[2]記載の方法。
[4]ステップ(3)の少なくとも一の順番が、前記平均値、前記最大値と最小値の差、及び/又は前記差分の絶対値の平均値がより大きい手技をより後で施術する順番である、上記[3]記載の方法。
[5]ステップ(2)及び(4)が、脳血流変動の測定値を平滑化するステップをさらに含み、前記平均値、前記最大値と最小値の差、及び、前記差分が、平滑化された測定値から求められる、上記[3]又は[4]記載の方法。
[6]脳血流変動が、機能的近赤外分光分析法により血液中の酸素化ヘモグロビンの量の変動によって測定される、上記[1]〜[5]のいずれか1つに記載の方法。
[7]マッサージを施術する所定部位が、顔面部である、上記[1]〜[6]のいずれか1つに記載の方法。
[8]少なくとも2種のマッサージ手技が、顔面部の異なる部位を刺激する手技である、上記[7]記載の方法。
[9]該異なる部位が、筋肉とリンパ腺である、上記[8]記載の方法。
【発明の効果】
【0008】
上記本発明の方法によれば、脳血流変動データに基づく客観的な判断によって、マッサージ法の効果を評価することができ、より効果的なマッサージ処方の開発につなげることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、マッサージ手技の例を示す模式図である。
図2図2は、本発明で使用したfNIRSのファイバ位置を示す模式図である。
図3図3は、脳血流変動測定のブロックデザインの一例を示す図である。
図4図4は、実施例で測定した脳血流変動データの平均値を手技ごとにプロットしたグラフである。
図5図5は、実施例で測定した脳血流変動データの最大変動幅を手技ごとにプロットしたグラフである。
図6図6は、実施例で測定した脳血流変動データの所定時間当たりの変化値(脳血流変化値)を時間に対してプロットしたグラフである。
図7図7は、脳血流変化値の絶対値の平均値を示すグラフである。
図8a図8aは、アンケートの例を示す図である。
図8b図8bは、アンケートの例を示す図である。
図9図9は、実施例で行ったアンケート調査の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明においてマッサージ手技としては、例えば軽擦法、強擦法、揉捏法、圧迫法、叩打法、振戦法等の施術技法が異なる手技、血液・リンパ循環促進、筋肉の柔軟性向上、リラックス等のマッサージの目的及び効果が異なる手技等、種々のカテゴリのものが包含される。
【0011】
マッサージを施術する部位は、人体の部位、例えば顔面部、頸部、肩、腕部、手、胸部、腹部、腰部、及び脚部等のいずれの箇所でもよい。これらのうち、頭部に近い部位、なかでも顔面部が好ましく、例えば図1に示すような、顔筋を刺激するマッサージやリンパ腺を刺激するマッサージを施術することができる。
【0012】
マッサージの時間は任意であってよく、数十秒から数時間、好ましくは数十秒から数十分行う。また、手技毎に異なる時間であってもよい。
【0013】
脳血流変動を測定する方法としては、測定が比較的簡便である点で、機能的近赤外分光分析法(fNIRS)が好ましい。該方法は、近赤外光(波長700〜900nm)を頭皮上から被施術者の脳内に照射して、照射点から数cm程度離れたところで、大脳皮質で乱反射されて戻ってきた光を検出する。検出された光から、大脳皮質内の血液中の酸素化ヘモグロビン(Oxy-Hb)、還元ヘモグロビン(Deoxy-Hb)、及びこれらの合計である総ヘモグロビン(Total-Hb)の量を推定して、脳血流変動の解析に使用する。マッサージによる刺激をより反映し易いことから、酸素化ヘモグロビン(Oxy-Hb)の量を用いて解析することが好ましい。
【0014】
fNIRSの計測では、通常、近赤外光照射用ファイバと検出用ファイバを交互に正方格子状に並べる。ファイバの設定位置、設定数は任意であるが、データの再現性を確保する点から脳波測定で用いられる国際10−20法に従い標準点を設定し、標準点間の間隔を均一にすることにより、個人差による測定位置の誤差を軽減することが好ましい。後述する実施例においては、脳波測定で用いられる国際10−20法に従い、まず鼻根と後頭結節とを、頭頂を通るように結ぶ線の中央と、左右の耳介前点を頭頂を通るように結ぶ線の中央が交差する部位(Cz)を決定した。次いで鼻根と後頭結節を結ぶ線の長さを100%として鼻根から10%Cz方向に移動した部位(Fpz)を決定した。そして、マッサージによる顔面の変動(皮膚及び筋肉の変化)の影響を受けずに正確な血流変動を測定するために、図2に示すとおり、部位FpzからCz方向へ3 cm移動した位置をAとし、FpzとAをそれぞれ右耳方向に3 cm移動させた位置、及び左耳方向に3 cm移動させた位置に照射用ファイバと検出用ファイバを夫々配置し、ファイバ間の脳血流変動を計測した。
【0015】
計測は施術前後に安静期間を置いたブロックデザインと呼ばれる手法で行うことが好ましい。例えば、施術前安静期間(レスト)、マッサージ施術期間(タスク)、及び施術後安静期間(レスト)を1単位とし、マッサージ開始時からのOxy-Hb変動量を、少なくとも1単位の間、測定する。好ましくは2又は3単位行い、その平均値を解析に用いる。後述する実施例では、図3に示すように、施術前安静期間30秒、施術期間60秒、施術後安静期間60秒を用い、マッサージ手技が2種以上の場合には施術期間60秒を等分に分割して行った。
【0016】
本発明の方法では、少なくとも2種のマッサージ手技の各々について、上記のように脳血流変動データを測定し、得られたデータを手技間で比較し、手技間での脳血流変動特性の差異の有無を判断する。該判断手法としては、脳血流変動データを統計的に処理して有意差検定を行うことが好ましい。他の判断方法、例えばアンケート調査による方法、唾液中のアミラーゼ量やアミラーゼ活性を測定する方法等に比べて、本発明の方法はより客観的かつ直接的である点で優れている。但し、アンケート調査による方法等を本発明の方法と組み合わせて行うことを妨げるものではない。
【0017】
統計的な処理としては、脳血流変動データの(1)平均値、(2)最大変動幅、さらに(3)血流量変化値を求めることによって行うことが好ましい。特に、(3)血流量変化値は、所定時間当たりの脳血流変動量の差分であり、脳血流変動カーブの傾きの大きさを表す。(1)及び(2)が、比較的長い時間で均した変動の大きさを示すのに対して、(3)はより短時間での変動の大きさを示すため、脳血流変動のより細かい違いを捉えることができる。また、後述する実施例で示すように、該血流量変化値を時間に対してプロットすると、脳血流変動の態様の違いを視覚的に捉えることができる。
【0018】
より好ましくは、得られる脳血流変動の測定値を平滑化して、平滑化されたデータについて、上記(1)〜(3)を求める。平滑化の方法は特に限定されず、例えば所定の時間ごとにデータの平均値を求めることによって行うことができる。後述する実施例では、0.1秒毎に採取した血流量データ(x、i=1〜N、Nは総データ数)について、0.5秒毎の平均値(X、k=1〜n、n=(N−1)/5)を取った。
【0019】
得られた平滑化データ(X、k=1〜n)から、(1)平均値(ΣX/n、k=1〜n)、及び(2)最大変動幅(Xmax - Xmin )を算出する。(3)血流量変化値は、隣接する平滑化データの差(Xk+1−X)として求める。さらに、該差分の絶対値の平均値(Σ|Xk+1−X|/(n−1)、k=1〜(n−1))を算出して、比較する。このようにしてブロック毎に求めた値を、ブロック間で平均した後、被施術者間の平均値を求めて、手技毎の平均値、最大変動幅、血流量変化値とする。
【0020】
手技間での脳血流変動特性に差異があると判断されたもののうちの少なくとも2つを、少なくとも一の順番で、被施術者の所定部位に所定時間施術して、上記と同様の方法で、被施術者の脳血流変動を測定する。そして、手技毎のデータと比較して、該異なる手技を組み合わせることによる相乗効果の有無を判定し、より効果的な施術の開発へとつなげる。脳血流変動特性が異なる手技のいずれを組み合わせるか、及び、どのような順番で施術するかについては限定されず、任意のプログラムで行ってよい。好ましくは、平均値、最大変動幅及び/又は脳血流変化値がより大きいものを、より後の順番で施術する。これは、異なる手技を組み合わせた場合、より後に施術した手技により脳血流変動が大きく影響されることが見出されたからである。
【0021】
組み合わせた場合の脳血流変動が、単独の場合に比べて大きいか否かを判断し、大きいと判断された場合には、組合せにより相乗的な効果があると考えることができ、これによって、老化防止等により効果的な処方の開発につなげることができる。
【0022】
既に述べたように、脳血流変動による評価法に加えて、従来行われているアンケート調査による心理的評価を行ってもよい。アンケートの方法は特に限定されず、例えば図8a,bに示すようなリラックス感やリフレッシュ感を9段階で評価して、平均値を求める方法とすることができる。
【0023】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
[実施例]
27歳から32歳の右利きの健常な女性6名(平均28.8歳)を被施術者とし、外光を遮断した部屋で、複数のマッサージ手技各々及びその組合せを評価した。
【0024】
<測定法>
測定にはfNIRSシステム(島津製作所製)を用い、左右前頭前野(PFC)の酸素化ヘモグロビン(Oxy-Hb)、脱酸素化ヘモグロビン(Deoxy-Hb)、総ヘモグロビン(Total-Hb)の変化を測定した。図2に示す位置にプローブを置いた。同図において、Cz及びFpzは、脳波測定に関する国際10−20法に従う部位であり、Czは頭頂を通って鼻根と後頭結節を結ぶ線の中央と、頭頂を通って左右の耳介を結ぶ線の中央が交差する部位であり、Fpzは頭頂を通って鼻根と後頭結節を結ぶ線の長さを100%としたときに鼻根から10%Cz方向に移動した部位である。さらに、部位FpzからCz方向へ3 cm移動した位置をAとし、FpzとAを、それぞれ右耳方向に3cm移動した位置に右PFC測定用の照射用ファイバと検出用ファイバを夫々配置し、及び左耳方向に3cm移動させた位置に、左PFC測定用の照射用ファイバと検出用ファイバを配置し、マッサージ開始時の値(t=0の値)を0として、該値からの脳血流変化値を0.1秒毎に計測した。
【0025】
<手技毎の評価>
図3に示すような、「レスト−タスク−レスト」のブロックデザインに従い、測定を2回繰り返した。被施術者は、簡易ベッド上で閉眼仰臥状態を維持し、マッサージ施術者は前レスト時に被施術者の頬に手をあてた状態で待機し(30秒間)、タスク時に被施術者の頬部位にマッサージを行い(30秒間×2)、後レスト時には前レスト時と同様に被施術者の頬に手をあてた状態で待機し(60秒間)、これを1ブロックとして、2回繰り返した。各施術後に、図8a,bに示すアンケートを行った。
【0026】
マッサージの手技としては、図1上段に示す、比較的浅い層にあるリンパ循環を刺激するマッサージ(LM:Lymphatic drainage massage)と、図1下段に示す、皮膚の下にある顔筋である咬筋を刺激するマッサージ(MM:Face muscle massage)を用いた。
【0027】
<データ解析>
各手技の各ブロックにおける、右側PFC及び左側PFCのデータを、夫々、以下の手順で解析し、ブロック間での平均値を求めた。
ステップ1:得られた0.1秒毎の血流量データ(x)5個ずつの平均値を取り平滑化データ(X、k=1〜n)を得た。
ステップ2:平滑化データの平均値(ΣX/n)、及び標準偏差を算出した。
ステップ3:平滑化データのうちの最大値から最小値を差し引いて、最大変動幅(Xmax - Xmin )を算出した。
ステップ4:隣接する平滑化データの差分(Xk+1−X)を求め、次いで、その絶対値の平均値(Σ|Xk+1−X|/(n−1)、k=1〜(n−1))を算出した。
【0028】
上記各データの、被施術者間の平均値を求めて、手技毎の平均値、最大変動幅、血流量変化値の平均値とした。なお、ステップ2〜4はこの順序で行う必要はなく、いずれのものから行っても、並列で行ってもよい。
また、アンケートの結果を集計して、平均値及び標準誤差を求めた。
【0029】
図4はステップ2で求めた平均値を、手技ごとにプロットしたグラフである。ここで、「両側PFC」は、右側PFCと左側PFCの平均値である。同図におけるLMとMMとを比較すると分かるように、PFCにおけるOxy−Hbをより強く低下させる傾向が認められた。
【0030】
図5はステップ3で求めた最大変動幅を手技ごとにプロットしたグラフである。同図におけるLMとMMとを比較すると分かるように、MMにはLMと比較してPFCにおけるOxy−Hbの最大変動幅をより強く増大させる傾向が認められた。
【0031】
図6は、血流量変化値を時間に対してプロットしたグラフである。同図におけるLMとMMとを比較すると分かるように、LMによってPFCにおけるOxy−Hbが顕著に低下し、MMによってはOxy−Hbの上下動が認められ、両者の手技の違いを視覚的に捉えることができた。
【0032】
図7は脳血流変化値の絶対値の平均値を示すグラフである。図6では差が認められたが、平均的にみるとLMとMMとでの脳血流の変動はほぼ同程度であることが認められた。
【0033】
以上、図4〜7の結果から、LMとMMとで、PFCにおけるOxy−Hbの変化が異なると判断された。
【0034】
<手技の組合せの評価>
次に、LMとMMを組み合わせることによる脳血流の変化を検討した。タスクを2分割してLM(30秒間)→MM(30秒間)、MM(30秒間)→LM(30秒間)の順序で組み合わせた際のOxy−Hb変化を解析し、LM、MMとの比較を行った。
【0035】
図4及び5から分かるように、MM→LMの組み合わせにより、左側PFCにおけるOxy−HbがLM→MMと比較して有意(P<0.05:Paired t-test)に低下し、両側PFCにおける最大変動幅がLMと比較して有意に増加した。
図6から分かるように、LM→MMはMMと、MM→LMはLMと類似した波形を示し、手技の組み合わせを行った場合には後半のマッサージに影響されやすいことが示された。
図7からわかるように、MM→LMは脳血流量の絶対値の変化量が有意に大きく、MM→LMと組み合わせて行うことにより、より大きな脳血流量の変化が認められた。
【0036】
これらの結果から、異なるマッサージ手技であるMMとLMを組み合わせると、単独の場合よりも最大変動幅が大きくなり、より効果的であることが分かった。さらに、MM−LMの順序で行うことにより、PFCにおけるOxy−Hbの変動量と最大変動幅の双方が増加することが分かり、さらに効果的であることが分かった。このことは、アンケート結果(図9)によっても支持された。即ち、MM→LMはLMと同等レベルの高いリラックス効果と、MMと同等レベルの高いリフレッシュ効果を有することが示された。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明の評価方法によれば、脳血流の変動を効果的に誘導することによって老化防止等に有効なマッサージ法を開発することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図7
図8a
図8b
図9
図6