【実施例1】
【0017】
以下、本発明の実施例1について、先ずその基本構造から説明する。
図1は本発明の実施例1に係る過荷重負荷表示具Aをベルト3に取り付けた状態を示した斜視図であり、
図2はそのベルト3長手方向の断面斜視図である。これらの図に示すように、過荷重負荷表示具Aは、支持体11と分離体12と連結部13とから成る表示具本体1と、支点材2とから構成され、ベルト3に取り付けられている。ここで、ベルト3は後述するハーネス型安全帯Hを構成する肩掛けベルト部HK又は腿ベルト部HM何れかのベルトをいう。
【0018】
図3(a)から(c)は本発明の実施例1に係る過荷重負荷表示具Aを示した平面図、正面図及び左側面図であり、
図4は本発明の実施例1に係る表示具本体1を斜め上方(
図3(b)における上側)から見た斜視図であり、
図5は同じく斜め下方から見た斜視図である。これらの図に示すように、表示具本体1は、第一ベルト挿通長孔14と当該第一ベルト挿通長孔14と平行に配置された第二ベルト挿通長孔15を有している。これら第一ベルト挿通長孔14と第二ベルト挿通長孔15(以下「両ベルト挿通長孔14,15」という)の大きさは、ベルト3が挿通可能な長さと溝幅である。
【0019】
また、表示具本体1は下面近傍の両ベルト挿通長孔14,15でベルト3を保持し、上面近傍は両ベルト挿通長孔14,15と略同幅で開放して、両側側に対向した一対の立片部111,111を形成している。その立片部111,111には、対向した一対の貫通孔112,112を備えている。そして、長尺円柱状の支点材2を貫通孔112,112に挿通し、立片部111,111間に配置する。この支点材2は、上方(
図3(b)における上側)から見て両ベルト挿通長孔14,15の間に位置している。
【0020】
図1から
図5に示すように、支持体11は上下方向(
図3(b)の上側を上方向、下側を下方向という)に貫通した第一ベルト挿通長孔14を有しており、当該第一ベルト挿通長孔14と平行に配された支点材2を備えている。また、分離体12は上下方向に貫通した第二ベルト挿通長孔15を有しており、当該第二ベルト挿通長孔15と支点材2とは平行に配されている。そして、支持体11と分離体12とが当該支点材2より脆弱な連結部13で連結されている。
【0021】
図1及び
図2に示すように、ベルト3が第一ベルト挿通長孔14から挿入され、支点材2で略U字状に折り返され、第二ベルト挿通長孔15から繰出されている。このベルト3の長手方向に引張荷重が加わったときに、当該ベルト3が第一ベルト挿通長孔14の一端で略L字状に屈曲して進入し、支点材2を巻き込んで略U字状に折曲し、第二ベルト挿通長孔15の一端で再び略L字状に屈曲して延伸する。
【0022】
図6は本発明の実施例1に係る過荷重負荷表示具Aをハーネス型安全帯Hに取り付けた状態を示した説明図である。この図に示すように、ハーネス型安全帯Hは肩掛けベルト部HKと腿ベルト部HMとから構成され、過荷重負荷表示具Aはそれら何れかのベルトに、1セットまたは複数セットが取り付けられている。本実施例では、肩掛けベルト部HKのベルト3の作業者の背部となる位置に、左右対称となるよう2セットを取り付けている。
【0023】
図7は本発明の実施例1に係る連結部13の破断状態を示した説明図である。万一墜落事故が発生したとき、主として腿ベルト部HMで人体を保持し、その落下衝撃荷重は腿ベルト部HM、肩掛けベルト部HK、ランヤードHLから構造物に伝わって、落下を阻止する。このとき、ベルト3の長手方向に加わる荷重が閾値を超えると過荷重負荷表示具Aの連結部13が破断し、
図7に示すように支持体11と分離体12とが分離する。作業者或いは監督者はこの状態を見て、ハーネス型安全帯に一定値以上の過荷重が加わったこと、つまり墜落事故の発生等により衝撃荷重等の大きな荷重が加わったことを判断できる。
【0024】
図7を参照して、この支持体11と分離体12とが分離する仕組みを説明する。
図7左図は連結部13が破断する前を示した一部断面図であり、
図7右図は連結部13が破断した後を示した一部断面図である。ベルト3の長手方向に大きな引張荷重(図面Y方向)が加わったとき、ベルト3は第一ベルト挿通長孔14の一端と支点材2と第二ベルト挿通長孔15の一端に接触し、両ベルト挿通長孔14,15のそれぞれの一端には引張荷重の分力が作用し、支点材2には引張荷重の2倍の荷重が図面X方向に加わる。
【0025】
このとき、連結部13を定めた荷重近辺で確実に破断させる必要がある。そのために、表示具本体1を構成する支持体11と分離体12と連結部13とを、同一材料で一体的に形成し、連結部の断面積(ベルト長手方向と直交する面の面積)を、支持体11及び分離体12の当該方向の断面積に比して小さくしている。これにより、連結部13の部分で確実に破断させることができる。この表示具本体1の材質は、鍛造や鋳造で製作した金属材でもよく、成型した樹脂材でもよい。何れの場合も連結部13を薄肉にしたり、切欠きを設けたりして、連結部13が所定荷重近辺で破断させる必要がある。
【0026】
ここで、支持体11と分離体12とが支点材2より脆弱な連結部13で連結されていると前述したが、具体的には、高強度が必要な支点材2を鋼製のリベットとし、破断させる連結部13を有する表示具本体1をポリカーボネイトやポリアセタール等の樹脂で一体成型することにより、大きな強度差を持たせることができる。
【0027】
好ましくは、連結部13が一対の対称な連結片131,131から成り、ベルト3の長手方向に加わる荷重が閾値を超えたとき、両連結片131,131が共に破断するように構成することにより、作動荷重を安定させることができる。本実施例では、表示具本体1の両側側に設けた立片部111,111と連結片131,131が連続しているが、この連結片131,131の位置は両側側でなくともよく、連結片131は一対でなくともよい。例えば、支持体11の第一ベルト挿通長孔14と分離体12の第二ベルト挿通長孔15とが隣接する両辺をその中央部近傍一箇所で架橋してもよい。また、後述する両ベルト挿通長孔14,15を切欠したタイプでは、その切欠部近傍二箇所を架橋してもよい。何れの場合も、ベルト3を第一ベルト挿通長孔14から挿入し、支点材2で略U字状に折り返し、第二ベルト挿通長孔15から繰出すことが可能である。
【0028】
更に好ましくは、連結部13に作動荷重調整孔132を設け、当該作動荷重調整孔132の大きさを変えることにより、ベルト3の長手方向に加わる荷重の閾値設定を調整することができる。また、作動荷重調整孔132を複数個設けることによっても、ベルトの長手方向に加わる荷重の閾値設定を調整することができる。例えば、ハーネス型安全帯Hの種類が変わったり、過荷重負荷表示具Aのハーネス型安全帯Hへの取り付け位置を変更したりするとき、作動荷重(連結部13が破断する荷重)が変わるが、作動荷重調整孔132の孔径を大きくしたり、作動荷重調整孔132を追加で設けたりすることにより作動荷重を調整することができる。具体的には、支持体11と分離体12と連結部13とを一体成型し、作動荷重を調整するためにその金型を変更する際、金型のピンの大きさを変えたり、ピンを追加したりするだけで、外形の金型は共用できるので経済的である。
【0029】
また、2セットの過荷重負荷表示具A,Aを、肩掛けベルト部HKのベルト3,3の作業者の背部となる位置に、左右対称となるように取り付ける。これによって過荷重負荷表示具A,Aが確実に作動し、また、その作動荷重を安定させることができるので、使用時の信頼(確実)性が向上する。もし、片方のみに取り付けた場合、左右のベルト3,3の長さが過荷重負荷表示具A内略U字状に折り返す分違うので、落下阻止時において左右のベルト3に略均等に加わった衝撃荷重が過荷重負荷表示具Aの取付部で不均等となり、設定荷重で破断しなかったり、作動荷重が不安定となる原因となる。また、予め左右のベルト長さを違わしておく必要があるので、加工性も悪くなる。
【0030】
図8は本発明の実施例1に係るハーネス型安全帯Hに取り付けた過荷重負荷表示具Aの連結部13が破断した状態を示した説明図(写真)である。この図に示すように、ベルト3の長手方向に加わる荷重が閾値を超えて連結部13が破断したとき、分離した支持体11と分離体12がそれぞれ両ベルト挿通長孔14,15において挿通状態を保持し、何れも当該ベルト3より脱落することない状態を保持している。且つ、破断した連結部13等の何れの部品の欠片も飛散することがない。これは工事や点検の作業を行う現場が、例えば食品工場であった場合など、またそうでなくとも部品の欠片が飛散したときに施主等に迷惑を掛けることがないようにするためである。
【0031】
尚、ハーネス型安全帯Hを構成する各部品は、「安全帯の規格」及び「安全帯構造指針」に定められた強度を有するものである。具体的には、肩掛けベルト部HKや腿ベルト部HMを構成するベルト3の材質は、ナイロン等の合成繊維であり、その幅と厚さは、摩耗や紫外線等による劣化を考慮した上で、落下衝撃時に加わる荷重に耐えうるものであり、「安全帯構造指針」では、幅40mm以上で15.0kN以上の引張強度を有するものと定められている。本実施例では、幅45mm、厚さ1.6mmのベルトを採用しているので、前述した両ベルト挿通長孔14,15のベルト3が挿通可能な長さ×溝幅を、47mm×2mmとしている。
【0032】
ここで、本発明の過荷重負荷表示具Aの作動荷重を具体的に説明する。前述のように、この過荷重負荷表示具Aは肩掛けベルト部HKのベルト3に左右対称となるよう2セットを取り付けて使用するので、本実施例では過荷重負荷表示具Aが2セット(ベルトは4本)でランヤードの構造物取付点に加わる衝撃荷重が約3.5kNを越えたときに連結部13が破断するように設定している。これは、ハーネス型安全帯Hはショックアブソーバ(衝撃荷重緩衝装置)又は衝撃荷重緩衝機能を有したランヤードを備える必要があり、その緩衝性能により落下衝撃荷重は3.5〜5.0kNとなるので、下限値の3.5kNに設定している。
【0033】
但し、通常作業において過荷重負荷表示具Aが作動してはならないので、2セットでランヤードの構造物取付点に引張荷重(静荷重)1.5kNを2分間加えても連結部13に異常がないように設定している。これは、「安全帯構造指針」においてショックアブソーバの強さが「1.5kNの引張荷重をかけた場合において機能しないこと」と定められている値に依拠している。衝撃荷重は動荷重であり引張試験の荷重は静荷重であるので単純に数値の比較はできないが、過荷重負荷表示具Aに永久変形が残らないための安全率を考慮すると、その作動荷重の設定下限値は約2.5kNと考えられる。
【0034】
以上のことから、過荷重負荷表示具Aの2セットでの作動荷重は、1.5kNの引張荷重を加えても連結部13に異常がなく、2.5〜3.5kNの衝撃荷重が加わったときに作動することが望ましい。
【0035】
次に、ハーネス型安全帯Hの縫製・組立工程が完了した後であっても、所定位置に後付けができる構造と、その組込方法について説明する。
図3から
図5に示すように、表示具本体1は、支持体11の第一ベルト挿通長孔14の分離体12側の一辺の中央部近傍を所定長切欠して第一切欠部141を形成し、分離体12の第二ベルト挿通長孔15の支持体11側の一辺の中央部近傍を所定長切欠して第二切欠部151を形成している。言い換えると、支持体11の第一ベルト挿通長孔14の一辺所定長を切欠し、分離体12の第二ベルト挿通長孔15の一辺所定長を切欠して、第一ベルト挿通長孔14と第二ベルト挿通長孔15とを連通している。
【0036】
図9(a)及び(b)は本発明の実施例1に係る表示具本体1にベルト3の中間部を略U字状として挿入する状態を示した説明図(写真)であり、
図10(a)及び(b)は本発明の実施例1に係る表示具本体1にベルト3の中間部を略U字状として挿入した状態を示した正面図及び側面のD−D断面図である。これらの図と
図5を参照して、ハーネス型安全帯Hの縫製・組立工程が完了した後、肩掛けベルト部HK或いは腿ベルト部HMの何れかのベルト3の中間部所定位置に組み込む方法を説明する。先ず、
図9(a)に示すようにベルト3の中間部を略U字状として第一切欠部141及び第二切欠部151に表示具本体1の下方側からベルト3を挿入し、
図9(b)に示すようにベルト3を折り曲げるようにして更に挿入すると、
図10(a)及び(b)に示す状態となる。次に、その状態(ベルト3の略U字が上方に位置する状態)で、支点材2を支持体11の貫通孔112,112に挿通し、立片部111,111間に配置する。そして、ベルト3を両端側へ引くことにより
図1に示す状態となる。
【0037】
前述した第一ベルト挿通長孔14及び第二ベルト挿通長孔15の一辺の中央部近傍を所定長切欠する長さ、つまり第一切欠部141及び第二切欠部151の長さは、ベルト3の剛性に影響されるが、本発明ではベルト3の幅の約半分程度である。具体的にはベルト幅幅45mmに対し20〜25mmの長さとしている。
【0038】
本実施例において、支点材2を鋼製のリベットとしたが材質は特定するものではなく、落下阻止時に衝撃荷重が加わったときに耐えうる強度を有するものであればよい。また、回転や回動する必要がないので円柱状でなくともよい。また、ハーネス型安全帯Hに用いる場合は安全上の観点からリベットかしめとしているが、ボルト・ナットで締結する手法でもよい。このボルト・ナット締結方式は、リベットかしめとは違って工事現場等でも取り付けができるという利点があり、両ベルト挿通長孔14,15を切欠して連通させたのはこのように後付けをするためである。しかしながら、工場での縫製・組立工程の前に、過荷重負荷表示具Aを予めベルト3にセットするのであれば、支点材2は表示具本体1と一体でもよく、両ベルト挿通長孔14,15に切欠を設けなくとも(開放していなくとも)よい。
【0039】
本発明の過荷重負荷表示具Aを用いることで、ハーネス型安全帯Hがどのようなタイプであっても過荷重負荷表示具Aを設けることができ、且つ衝撃荷重等が加わったことを容易に判断できるので安全性が向上する。また、ハーネス型安全帯Hの縫製・組立工程が完了した後であっても、所定位置に後付けができるので組込の加工性が向上し、作業能率がアップしてコストダウンが図れる。
【実施例2】
【0040】
以下、本発明の実施例2について説明する。上記実施例1と説明の重複する部分については同一の符号を付して説明を省略し、実施例1に対し、実施例2のうち差異を有する構造のみについて説明する。実施例1に係る過荷重負荷表示具Aは、表示具本体1を構成する支持体11と分離体12と連結部13とを同一材料で一体的に形成したが、実施例2に係る過荷重負荷表示具Bは、支持体51と連結部53を有する分離体52とが別体とされている。
【0041】
図11(a)から(c)は本発明の実施例2に係る過荷重負荷表示具Bを示した正面図、側面図及び底面図であり、
図12(a)から(c)は同じく支持体51を示した正面図、側面図及び底面図であり、
図13(a)から(c)は同じく分離体52を示した正面図、側面図及び底面図である。これらの図に示すように、支持体51は一対の対称な貫通孔511,511と連結底辺部512とを有しており、分離体52は一対の対称な連結部53,53と一対の対称な貫通孔521,521と第二ベルト挿通長孔55とを有している。実施例1と同様に、第二ベルト挿通長孔55は切り欠かれており、ベルト3の中間部所定位置に取り付けることができる。
【0042】
図14(a)及び(b)は本発明の実施例2に係る過荷重負荷表示具Bをベルト3に取り付けた状態を示した底面図及び側面図である。これらの図と
図11から
図13に示すように、支持体51と分離体52とが別体であるので、それぞれをベルト3の中間部所定位置に取り付けた後、支持体51の貫通孔511と分離体52の貫通孔521を合わせ、支点材2でベルト3を略U字状に折り返すようにして、支点材2を配置する。このように支持体51と連結部53を有する分離体52とを別体とすることにより、ハーネス型安全帯Hの縫製・組立工程が完了した後で過荷重負荷表示具Bを取り付ける作業が容易になる。このとき、実施例1と同様に、支点材2をリベットかしめ方式とすると絶対外れないので安全であり、ボルト・ナット締結方式とすると工事現場等でも取り付けができる、つまり完全後付けができる。
【0043】
ここで、分離体52の連結部53は、その断面積が小さくされており、墜落事故が発生したとき、その落下衝撃荷重によるベルト3の長手方向に加わる荷重が閾値を超えると、この連結部13が破断し、図示しないが支持体51と分離体52とが分離する。作業者或いは監督者はこの状態を見て、ハーネス型安全帯に一定値以上の過荷重が加わったこと、つまり墜落事故の発生等により衝撃荷重等の大きな荷重が加わったことを判断できる。このとき、分離体52は実施例1と同様に第二ベルト挿通長孔55にベルト3が挿通されているので脱落しない。また、支持体51は連結底辺部512と支点材2との間にベルト3が挿通されているので脱落しない。
【0044】
本発明の過荷重負荷表示具Bは、ベルト3の長手方向に加わる荷重が閾値を超えると連結部53が破断して支持体51と分離体52とが分離するので、ハーネス型安全帯Hに過荷重が加わったことが判断できる。また、ハーネス型安全帯Hの縫製・組立工程が完了した後であっても、所定位置に後付けができる。本発明の過荷重負荷表示具Bを用いることで、安全性の向上、作業能率等、実施例1と同様の作用・効果が得られる。