特許第6093711号(P6093711)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6093711
(24)【登録日】2017年2月17日
(45)【発行日】2017年3月8日
(54)【発明の名称】インクジェット印刷用記録媒体
(51)【国際特許分類】
   B41M 5/52 20060101AFI20170227BHJP
【FI】
   B41M5/52 110
【請求項の数】14
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-544775(P2013-544775)
(86)(22)【出願日】2011年12月15日
(65)【公表番号】特表2013-545646(P2013-545646A)
(43)【公表日】2013年12月26日
(86)【国際出願番号】US2011065147
(87)【国際公開番号】WO2012083015
(87)【国際公開日】20120621
【審査請求日】2014年10月31日
(31)【優先権主張番号】61/423,408
(32)【優先日】2010年12月15日
(33)【優先権主張国】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】505468978
【氏名又は名称】ニューページ コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100096884
【弁理士】
【氏名又は名称】末成 幹生
(72)【発明者】
【氏名】ロマーノ,チャールズ,イー.,ジュニア
(72)【発明者】
【氏名】ニーミーク,ジェームズ,ピー
(72)【発明者】
【氏名】シュリースマン,レオナルド,ジェイ.,ジュニア
【審査官】 野田 定文
(56)【参考文献】
【文献】 特表2007−524006(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0131570(US,A1)
【文献】 特開2010−228301(JP,A)
【文献】 特開2006−150931(JP,A)
【文献】 特開2004−276423(JP,A)
【文献】 特開2006−076828(JP,A)
【文献】 特表2010−528197(JP,A)
【文献】 特開2004−001449(JP,A)
【文献】 特表2005−500921(JP,A)
【文献】 特表2012−510563(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/005750(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41M 5/00 − 5/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
紙基材と、
インクジェット受容コーティングとからなるインクジェット記録媒体であって、
前記インクジェット受容コーティングは、
少なくとも96重量%の粒子が2μm未満の粒子径を有する粒度分布を有する第1顔料と、
3μm以下の平均粒子径を有する第2顔料と、
多価金属塩と、
バインダーとを含有し
前記バインダーは、全顔料100重量部あたり、2〜15重量部の量で存在し、
前記バインダーは、400nm未満の平均粒子径を有する澱粉ナノ粒子からなることを特徴とするインクジェット記録媒体。
【請求項2】
前記コーティングは、全顔料100部あたり、0.1〜1部の量で存在する保持助剤を含有することを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録媒体。
【請求項3】
前記第1顔料は、炭酸カルシウムを含有することを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録媒体。
【請求項4】
前記第1顔料は、アラゴナイトを含有することを特徴とする請求項に記載のインクジェット記録媒体。
【請求項5】
さらに、炭酸カルシウムおよび可塑性顔料からなる群から選択された少なくとも一つの第2顔料を含有することを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録媒体。
【請求項6】
前記媒体は、顔料インクジェットインクで印刷された際に密度/斑点の値が少なくとも1.5であることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録媒体。
【請求項7】
前記コーティングはさらに、たんぱく質バインダー、ポリビニルアルコール、澱粉、およびこれらの混合物からなる群から選択された補助バインダーを含有することを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録媒体。
【請求項8】
前記第1顔料は、全顔料100部あたり、35〜85部の量で存在することを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録媒体。
【請求項9】
前記コーティングはさらに、全顔料100部あたり2〜12部の量で存在する可塑性顔料を含有することを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録媒体。
【請求項10】
前記コーティングは、2〜8ポンド(0.907〜3.63kg)/ream(連、3300ft、306.58m)のコート重量で存在することを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録媒体。
【請求項11】
前記多価金属塩は、塩化カルシウム、酢酸カルシウム、硝酸カルシウム、塩化マグネシウム、酢酸マグネシウム、硝酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化バリウム、硝酸バリウム、塩化亜鉛、硝酸亜鉛、塩化アルミニウム、水酸化塩化アルミニウム、硝酸アルミニウム、およびこれらの混合物からなる群から選択されることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録媒体。
【請求項12】
前記多価金属塩は、塩化カルシウムからなることを特徴とする請求項11に記載のインクジェット記録媒体。
【請求項13】
前記コーティング組成物は、分散剤を含有することを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録媒体。
【請求項14】
前記分散剤は、ポリエーテルポリカルボキシレート塩含有分散剤、ポリオキシアルキレン塩含有分散剤およびこれらの組み合わせからなる群から選択されたものであることを特徴とする請求項13に記載のインクジェット記録媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2010年12月15日に出願された米国仮出願61/423,408号に基づく優先権を主張し、その全体を参考文献として本願明細書に援用する。
【0002】
本願は、インクジェット記録媒体およびインクジェット記録媒体を形成するコーティング組成物に関する。特に、ここで開示されるインクジェットコーティング組成物は多価塩を含み、得られる記録媒体は、高速インクジェット印刷といった高速多色印刷に特に有用である。
【背景技術】
【0003】
従来、商業印刷では、印刷カタログ、パンフレット、およびダイレクトメールをオフセット印刷によって作製している。しかしながら、インクジェット技術が進歩し、商業印刷店に浸透している。インクジェット技術は、応答速度、コスト削減、および製品需要の喚起といった改善のためにオフセット印刷に高品質な選択肢を与えている。様々な高品質画像や文章を印刷するのに加え、これらのプリンタは、高速で高容量の印刷を可能にするロール紙送りシステムを備えている。いまやインクジェット技術は、世界規模で、地域刊行物、新聞、小ロット印刷、教科書、およびトランザクション印刷のオンデマンド(需要に応じた)製造に利用されている。
【0004】
高容量商業的用途のためのデジタル印刷の充分な恩恵と共にオフセットクラスの品質、生産性、信頼性およびコストを可能にする、連続インクジェットシステムが開発されている。これらのシステムによれば、連続インクジェット印刷を、トランザクション印刷および二次的刷り込みの中核の基礎を超えて高容量商業的装置まで拡張することができる。コダック社のSTREAMインクジェット技術がそのようなシステムの一例である。
【0005】
本発明のある態様に従えば、記録媒体は、商業的印刷用途に用いられる高速インクジェット装置を使用して印刷された場合に、早い乾燥時間、高い光沢および高画質を実現することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国出願2009/0131570号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
Schliesmanらによる「多機能印刷用紙およびコーティング媒体」と題する特許文献1は、オフセット、インクジェットおよびレーザー印刷に適合したインクジェット記録媒体を開示している。開示されている組成物は、多くの商業的インクジェットプリンタにおいて良好に機能するが、コダック社のSTREAMプリンタにおいては性能に乏しかった。この特許文献1の内容を、ここで参照する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願明細書は、インクジェット記録媒体およびインクジェット記録媒体を形成するためのコーティング組成物を開示する。本発明の一態様に従えば、紙基材に塗布されたインクジェット受容コーティングからなるインクジェット記録媒体として開示される。このインクジェット受容コーティングは、顔料、バインダーおよび多価塩の相乗的組み合わせを含有し、インクジェット記録媒体は、改善されたインクジェット印刷性能を、特に顔料または染料系インクを使用し高速インクジェットプリンタで印刷された際の性能を、発揮できるようにされている。
【0009】
本発明のある実施形態に従えば、紙コーティングは、第1顔料および第2顔料の組み合わせを含有する。第1顔料は通常、少なくとも96重量%の粒子が2μm未満の粒子径を有するという粒度分布を有するアニオン性粒子を含有する。第2顔料は、平均粒子径が3μm以下の粗粒非含有のカチオン性の顔料とすることができる。コーティングはまた、バインダーと、選択的に補助バインダーを含有する。通常、多価塩および分散剤をコーティング組成物に含有させることができる。
【0010】
粒子形状および粒度分布の両方において、アラゴナイトは、炭酸カルシウムの他の形態とは異なり、特に有用な沈降炭酸カルシウムである。アラゴナイトは第1顔料として特に有用である。アラゴナイトは針状構造を有しかつ狭い粒度分布を有していて、これにより第1顔料として特に好ましい。理論で裏付けられている訳ではないが、この構造によって、顔料の粒子が密に詰まることが抑制され、異なる印刷技術からの良好なインク吸収に必要とされる空孔率を提供するものと考えられる。アラゴナイト形状を使用することにより、処理された紙の表面を、制御された空孔率にし、どのような印刷工程においても良好に機能させることができる。
【0011】
別の実施形態は、紙基材に上記コーティングを適用してなるコートシートに関する。コートシートは、多くの種類のインクに対し高い吸収性を有する。インクジェットプリンタを幾つも通過しても、速やかにインクを吸収する。
【0012】
本願発明のコーティングおよびコート紙は、染料および顔料インクジェットインクの両方に特に有用である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
インクジェット記録媒体を製造するためのコーティングは、通常、少なくとも2種の顔料、第1顔料および第2顔料を含有する。第1顔料は、狭い粒度分布を有し、沈降の、アニオン性顔料とすることができる。第2顔料は、カチオン性顔料とすることができる。顔料は、通常、無機顔料である。さらに、コーティングは通常、バインダーと、選択的に補助バインダーを含有する。顔料は通常、乾燥重量基準で、コーティング組成物の最大部分を占める。特に断らない限り、成分物質の量は、重量基準で、全顔料100重量部に対する成分重量部の形で表現する。
【0014】
コーティングの第1成分は、96重量%の粒子が2μm未満の粒子径を有するという狭い粒度分布を有するアニオン性顔料とすることができる。好ましくは、粒子の重量の少なくとも80%が1μm未満、0.1〜1μmの範囲内であるべきである。他の実施形態では、その分布は、少なくとも粒子の85%が1μm未満、0.1〜1μmの範囲内である。他の実施形態では、粒子の98%が直径で2μm未満である。さらに他の実施形態では、約98%の粒子が0.1〜1μmの範囲内である炭酸カルシウムが使用される。ある実施形態に従えば、第1顔料は、全顔料の重量の約35〜約85部であり、より好ましくは約60〜約76部である。
【0015】
炭酸カルシウムは、アラゴナイト、カルサイトまたはそれらの混合物を含むどのような態様であれ、第1顔料として有用である。炭酸カルシウムは、第1顔料として存在する場合、通常、乾燥重量基準でコーティング顔料の35〜85部を占める。ある実施形態においては、炭酸カルシウムは、顔料重量の約60〜76部とすることができる。アラゴナイトは、特に好ましい炭酸カルシウムである。第1顔料としてアラゴナイトを使用することの利点は、コーティングの多孔質構造が、光沢仕上げを付与するためのカレンダー塗装によく耐えることにある。コーティングに他の形態の炭酸カルシウムが用いられた場合、表面空孔が埋められ、充分な光沢が達成される前にある程度の吸収性が失われてしまう。特に有用なアラゴナイトは、スペシャルティーミネラルズ社のOPACARB A40顔料(ペンシルベニア州ベツレヘム、スペシャルティーミネラルズ社)である。A40は、99%の粒子の粒子径が約0.1〜約1.1μmである粒度分布を有している。
【0016】
第1顔料用の狭い粒度分布を有する代替炭酸カルシウムとしては、OMYA CoverCarb85粉砕カルサイト炭酸カルシウム(スイス、オフトリンゲン、OMYA AG社)である。これによれば、インク吸収が良好な多孔質構造が提供されるが、紙の光沢達成はやや劣る。ある実施形態に従えば、この炭酸カルシウムは、99%の粒子の粒子径が2μm未満である粒度分布を有している。
【0017】
第2顔料は通常、カチオン性顔料である。この顔料は、通常、完全に混合後に全体としてアニオン性質を有するコーティングに添加される。アニオン性コーティングとカチオン性顔料との間に働く吸引力は、コーティング中の表面空孔を開け、空孔率およびインク吸収率を向上させると考えられる。インク乾燥時間も短縮される。さらに、イオン性相互作用はきわめて小さいスケールであるので、改善された空孔率は、コーティング表面に亘って均一である。
【0018】
第2顔料の粒度分布は通常、平均粒子径3.0μm未満であり、通常、粗粒非含有である。この用語「粗粒非含有」は、325メッシュスクリーン上に実質的に粒子が残らないことを意味する。幾つかの実施形態においては、第2顔料の実質的に全ての粒子は、1μm未満のサイズである。第2顔料の含有量は通常、全顔料100重量部あたり20部未満である。過剰のカチオン性成分の使用は、コーティングの性質を変えてしまう好ましくないイオン性相互作用および化学反応の原因となる。第2顔料は、全顔料100部あたりカチオン性顔料5部より多い量で存在させることができる。第2顔料は、約5〜50重量部、より好ましくは約8〜16部で存在させることができる。第2顔料の例としては、炭酸塩、ケイ酸塩、シリカ、二酸化チタン、酸化アルミニウム、およびアルミニウム三水和物が挙げられる。特に好ましい第2顔料は、カチオン性OMYAJET Bおよび5010顔料(スイス、オフトリンゲン、OMYA AG社)が挙げられる。
【0019】
補助的顔料を追加させることができ、補助的顔料は、光沢、白色度または他のコーティング特性を向上させるために必要に応じて、組成物に使用されるアニオン性顔料を含むことができる。最大で乾燥コーティング顔料の30重量部を追加でアニオン性補助的顔料とすることができる。顔料のうち最大で25部、より好ましくは20部未満を、粗大粉砕炭酸カルシウム、他の炭酸塩、可塑性顔料、TiO、またはこれらの混合物とすることができる。粉砕炭酸カルシウムの例としては、Carbital35炭酸カルシウム(ジョージア州ロズウェル、イメリーズ社)が挙げられる。他の補助的顔料はアニオン性二酸化チタンであり、伊藤忠化学アメリカ社(ニューヨーク、ホワイトプレーンズ)から市販されている。紙の光沢にとって、中空球は、特に有用な可塑性顔料である。中空球顔料の例としては、ROPAQUE1353およびROPAQUE AF−1055(ペンシルベニア州、フィラデルフィア、ローム&ハース社)が挙げられる。小粒子径の微粒顔料が使用されると、高光沢紙が得られる。補助的顔料の相対量は、白色度と、所望の光沢レベルにより変動する。
【0020】
第1バインダーは、接着のためにコーティングに添加される。第1バインダーは通常、コーティング組成物中の多価塩と顔料との組み合わせに親和性が高く、また、通常、非イオン性である。ある実施形態に従えば、バインダーは、澱粉やたんぱく質といった生体高分子とすることができる。特に有用な実施形態に従えば、高分子は、生体高分子粒子からなることができ、特に好ましくは、生体高分子マイクロ粒子である。また、ある実施形態に従えば、生体高分子ナノ粒子である。特に有用な態様に従えば、生体高分子粒子は、澱粉粒子からなり、特に好ましくは、平均粒子径が400nm未満の澱粉ナノ粒子である。WO2010/065750に開示されている架橋剤と反応させた生体高分子付加物複合体からなる生体高分子ラテックス共役体を含む組成物は、特に有用である。生体高分子系バインダーと、特に生体高分子粒子を含むこれらバインダーは、コーティング組成物中の多価塩の内包物と親和性が高く、コーティング製造および工程を容易にすることが明らかになっている。例えば、幾つかの場合において、コーティング組成物は、コーティング組成物として受け入れ可能な粘度を維持しつつ、高い固形分で調製することができる。本願明細書において使用できることが明らかな生体高分子バインダーは、米国特許第6677386号、6825252号、6921430号、7285586号、および7452592号およびWO2010/065750号に開示されており、これら文献のそれぞれの関連する開示をここで参照する。生体高分子ナノ粒子を含む好適なバインダーの例は、Ecosythetix社から市販されているEcosphere(登録商標)2240がある。
【0021】
バインダーはまた、合成高分子バインダーとすることもできる。ある実施形態に従えば、バインダーとしては、アクリレートまたはアクリレート共重合体といった非イオン性合成ラテックスとすることができる。他の実施形態に従えば、バインダーは、カルシウム安定酢酸ビニルまたはスチレンブタジエンラテックスとすることができる。
【0022】
バインダーはまた、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンオキサイド、アクリレート、ポリウレタン等といった合成高分子バインダーとすることができる。
【0023】
第1バインダーの合計量は通常、全顔料100部あたり、約2〜約15部、特に好ましくは、約5〜約12部である。ある実施形態に従えば、生体高分子粒子を含有するバインダーを、コーティング組成物中唯一のバインダーとすることができる。
【0024】
コーティングはまた、第1バインダーに加えて補助バインダーを含むことができる。有用な補助バインダーの例としては、ポリビニルアルコールおよびたんぱく質バインダーが挙げられる。補助バインダーが存在する場合、通常、乾燥重量基準で顔料100部あたり約1〜約8部の補助バインダーの量で使用され、特に好ましくは、乾燥顔料100部あたり約2〜約5部の補助バインダーである。いくつかの実施形態における有用な他の補助バインダーは、澱粉である。カチオン性およびアニオン性の両方の澱粉が、補助バインダーとして使用することができる。ADM Clineo716澱粉は、エチル化コーンスターチ(アイオワ州、クリントン、アーチャーダニエルズミッドランド社)である。ペンフォードPG260は、使用することができる他の澱粉補助バインダーである。カチオン性補助バインダーが使用される際、コーティングの全体としてのアニオン性質が維持されるように、使用量は通常、制限される。バインダーレベルは注意深く制御される。バインダーが少なすぎると、コーティング構造は、物理的な統合性を欠き、一方、過多なバインダーが使用されると、コーティングは空孔が減少し、インク乾燥時間が増大してしまう。
【0025】
いくつかの実施形態に従えば、コーティングは、カルシウム安定ではないあらゆるSBRラテックスバインダーを実質的に含まない(例えば、0.2部以下)。
【0026】
コーティング組成物はまた、多価塩を含む。本発明のある実施形態においては、多価金属は、2価または3価のカチオンである。特に好ましくは、多価金属塩は、Mg+2,Ca+2,Ba+2,Zn+2およびAl+3から選択されるカチオンと、組み合わせられる好適な対イオンである。Ca+2およびMg+2の2価カチオンが特に有用である。複数のカチオンの組み合わせもまた、用いられる。
【0027】
コーティングで使用される塩の具体例は、塩化カルシウム、酢酸カルシウム、硝酸カルシウム、塩化マグネシウム、酢酸マグネシウム、硝酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化バリウム、硝酸バリウム、塩化亜鉛、硝酸亜鉛、塩化アルミニウム、水酸化塩化アルミニウム、および硝酸アルミニウムが挙げられるが、これらのみに限定されない。当業者による同様の塩も評価される。特に有用な塩は、CaCl、MgCl、MgSO、Ca(NO、およびMg(NO、また、これら塩の水和物が挙げられる。これら塩の組み合わせもまた、用いられる。コーティング中の塩は、全顔料100重量部あたり、約2.5〜25部、特に好ましくは約4〜12.5部の量で含有される。
【0028】
水分保持助剤もまた、水分保持の改善のためにコーティングに含有させることができる。多価イオンを含有するコーティングは、商業的用途のために充分な水分保持能力を欠く場合がある。水分保持を増大させるのに加え、第2の利点は、生体高分子の結合強度を予想以上に強化することである。保持助剤を含有するコーティング組成物においては、テープ引き剥がしにおいてより良い強度を示す。ここで用いられる水分保持助剤の例としては、ポリエチレンオキサイド、ヒドロキシエチルセルロース、ポリビニルアルコール、澱粉、および他の市販されているそのような用途の製品が挙げられるが、これらのみに限定されない。好適な保持助剤の具体例は、NatrasolGR(アクアロン社)である。ある実施形態に従えば、水分保持助剤は、全顔料100部に対して約0.1〜2部の量で存在し、特に好ましくは約0.2〜1部である。
【0029】
幾つかの態様に従えば、コーティング組成物は、組成物を受け入れ可能な粘度を維持しつつ高い固形分含有量とすることができる分散剤を含有させることができる。しかしながら、高固形分コーティングを調製するために用いられた特定の成分に起因して、通常使用される分散剤は、受け入れられない粘度の原因となり、好ましくないであろう。組成物に含有される場合、分散剤は通常、全顔料100部に対して約0.2〜2部、特に好ましくは、約0.5〜1.5部の量で使用されるであろう。コーティング組成物のこの特定の用途に好適であると判明した分散剤としては、ポリエーテルポリカルボキシレート塩およびポリオキシアルキレン塩を含む分散剤が挙げられる。具体例は、下記に挙げられるが、これらに限定されない。
【0030】
【表1】
【0031】
他の選択可能な添加剤は、コーティングの特性を変化させるのに使用されるであろう。ClariantT26光学増白剤(イリノイ州マクヘンリー、クラリアントコーポレーション社)といった増白剤が使用できる。不溶化剤または架橋剤も有用であろう。特に有用な架橋剤は、Sequarez755(オハイオ州アクロン、ロームノバ社)である。コーティングをブレードコーターで使用する場合にドラッグ(引き摺り)を減少させるために、潤滑剤を追加で加えても良い。ある実施形態に従えば、ジグリセリド潤滑剤が特に有用である。これらの追加の添加剤が存在する場合、通常、全顔料100部あたり約0.1〜5部、特に好ましくは、約0.2〜2部添加される。
【0032】
このコーティングを作製する際は、従来の混合技術が用いられる。澱粉が使用される場合、通常、澱粉蒸解器を用いて、コーティングを調製する前に処理される。ある実施形態に従えば、澱粉は、約35%の固形分まで落とされる。これとは別に、第1顔料、第2顔料およびあらゆる補助的顔料を含む全顔料が数分間混合され、凝集が起こらないようにされる。研究室では、パドルミキサーを使用して、ドリルプレスミキサーによって顔料が混合される。その後、第1バインダーがミキサーに加えられ、続いて1、2分後に補助バインダーが入れられる。澱粉を用いる場合、通常、蒸解器によってまだ暖かい状態、約190°F(約87.8℃)でミキサーに加えられる。最終的に、混合成分を水中に分散させて、コーティングが完成する。分散液の固形含有量は通常、約35重量%から約60重量%である。特に好ましくは、固形含有量は分散液の約45重量%から約55重量%である。
【0033】
さらに別の実施形態は、紙基材の少なくとも一方の面にコーティングを施してなる改良印刷紙に関する。ロールコーター、ジェットコーター、ブレードコーターまたはロッドコーターを含むあらゆるコーティング方法または装置が使用されるが、これらのみに限定されない。コーティング重量は通常、滲み止め(サイズプレス)された、または予備コーティングされた、または滲み止めされていない基材紙の一側面の3300ft(306.6m、以下同じ)あたり、約2〜約10ポンド(0.91〜4.54kg)、特に好ましくは約5〜約8ポンド(2.27〜3.63kg)である。コーティングされた紙は通常、紙の表面3300ftあたり約30〜250ポンド(13.61〜113.4kg)の範囲である。コーティングされた紙は続いて、従来の方法を用いて追加的に所望の光沢仕上げがされる。
【0034】
基板または基材シートは、従来の基材シートとすることができる。有用な基材シートの例としては、いずれもNewpage Corporation(ウィスコンシン州、ウィスコンシンラピッズ)のNewpage45lb、Pub Matte、NewPage45lb New Era、NewPage60lb、ウェブオフセット基材紙、Orion、およびNewPage105lb Satin Return Card Base Stockが挙げられる。
【0035】
仕上げされたコーティング紙は、印刷に有用である。インクがコーティングに施され、画像形成する。画像形成後、インク媒体はコーティングを浸透し、そこで吸収される。何層ものインクが施されたとしても、コーティング空孔の数と均一性は、均一かつ速やかなインク吸収をもたらす。このコーティング紙はまた、インクジェットプリンタからの染料または顔料、レーザープリンタからのトナー、およびグラビアまたはフレキソ印刷からのインク、の組み合わせによってコーティング紙媒体上の画像が形成される多機能印刷にも適している。
【実施例】
【0036】
以下に述べる例は、本発明の特定の態様を示すが、それらのみに限定はされない。
【0037】
9.5部の粗大炭酸塩、12部のOmyajet5010、10部のEcosphere、10部の塩化カルシウム、10.5部のRopaqueAF−1353、68部のOpacarb A−40からなる組成物は、Kodak5300プリンタで印刷された際に、優れた乾燥時間および画像品質を示した。このプリンタは、Kodak高速STREAMプリンタで観察された性能をシミュレートする。
【0038】
ケンタッキー州ミル、ウィックリフのNewPage社製60#基材紙に、ブレードコーターによって6.5ポンド(2.95kg)(3300ftあたり)の下記の組成物が塗装された。この例で使用される基材紙は通常、軟質木材と硬質木材繊維の混合物を含む。通常、軟質木材繊維は約0〜25%、硬質木材繊維は約100〜75%の量で含まれる。特に有用な基材紙に従えば、軟質木材および硬質木材はそれぞれ15%と85%の比で含まれる。基材紙は通常、約40〜50lb/ton(18.14〜22.68kg/t)で澱粉サイズプレスがなされ、ある実施形態では、45lb/ton(20.41kg/t)で澱粉サイズプレスがなされる。
【0039】
インクジェット受容コーティングは、1面あたり3ニップで1200PLI/100°F(37.8℃)にてカレンダリングされた。標準Kodak顔料インクを含むKodak5300プリンタを用いて、得られた紙にテスト対象を印刷した。QEA社製のパーソナルIAS画像分析システムを使用して、斑点について青のDmax(最大濃度)パッチを測定した。斑点とは、低い空間的頻度で生じる、密度の不均一性(巨視的には、ノイズ)である。斑点の単位は、ソフトウェアで特定され、初期密度標準およびカラーフィルターを用いた反射率%である。斑点数値は、低いほど良い性能を示す。青パッチの密度は、X−Rite418密度計で測定された。斑点に対するその密度比が測定された。高密度かつ低斑点が好ましいので、より高い比が良い性能ということになる。本発明のある態様に従えば、密度/斑点の値は、1.6超であり、あるケースにおいては1.8超のものが得られた。ある実施形態に従えば、密度/斑点比が少なくとも1.0、特に好ましくは、少なくとも1.3、また、あるケースにおいては少なくとも1.5のインクジェット記録媒体が製造される。
【0040】
Kodak5300プリンタを用いて比較例もまた印刷され、実施例と同様にして評価した。比較例1のNewPage80lb Sterling Ultra Gloss (SUG)は、クレイ、炭酸カルシウムおよびラテックスバインダーを含むコーティングで両面が塗装された市販のコート紙である。各面のコーティング重量は通常、公称重量80ポンド(36.29kg)のコートシートのための62ポンド(28.12kg)の基材シートに対して約8〜9ポンド/ream(連)(3.63〜4.08kg/連)である。比較例2は、米国特許公報2009/0131570号「多機能印刷用の紙およびコーティング媒体」(Schliesmanら)に開示された組成物のうち一つに相当する。
【0041】
表2および3に示す結果は、比較例と比較して斑点および密度/斑点の値が改善された本発明例を示す。
【0042】
【表2】
【0043】
【表3】
【0044】
【表4】
【0045】
組成物に分散剤を組み合わせることの効果は、異なる分散剤と共にEcosphere2240を含む組成物を用意し、表5および6に示すように粘度(90°F(32.2℃)でのブルックフィールド粘度)を測定することで評価を行った。
【0046】
【表5】
【0047】
【表6】
【0048】
組成物に分散剤を組み合わせることの効果は、異なる分散剤と共に従来のSBラテックス(Gencryl 9525)を含む組成物を用意し、表7および8に示すように粘度(90°F(32.2℃)でのブルックフィールド粘度)を測定することで評価を行った。
【0049】
【表7】
【0050】
【表8】
【0051】
組成物に分散剤を組み合わせることの効果は、異なる分散剤と共に非イオン性SBラテックス(XL2800)を含む組成物を用意し、表9および10に示すように粘度(90°F(32.2℃)でのブルックフィールド粘度)を測定することで評価を行った。
【0052】
【表9】
【0053】
【表10】
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XP−1838およびCarbosperse分散剤は、コーティング組成物の粘度に関して最良の結果をもたらした。