特許第6093780号(P6093780)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6093780アルコール合成用の触媒、アルコールの製造装置及びアルコールの製造方法
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  • 特許6093780-アルコール合成用の触媒、アルコールの製造装置及びアルコールの製造方法 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6093780
(24)【登録日】2017年2月17日
(45)【発行日】2017年3月8日
(54)【発明の名称】アルコール合成用の触媒、アルコールの製造装置及びアルコールの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 23/89 20060101AFI20170227BHJP
   B01J 37/04 20060101ALI20170227BHJP
   C07C 31/08 20060101ALI20170227BHJP
   C07C 29/158 20060101ALI20170227BHJP
   C07C 29/141 20060101ALI20170227BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20170227BHJP
【FI】
   B01J23/89 Z
   B01J37/04 101
   C07C31/08
   C07C29/158
   C07C29/141
   !C07B61/00 300
【請求項の数】5
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2014-553092(P2014-553092)
(86)(22)【出願日】2013年12月11日
(86)【国際出願番号】JP2013083183
(87)【国際公開番号】WO2014097942
(87)【国際公開日】20140626
【審査請求日】2016年8月25日
(31)【優先権主張番号】特願2012-278185(P2012-278185)
(32)【優先日】2012年12月20日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2013-177343(P2013-177343)
(32)【優先日】2013年8月28日
(33)【優先権主張国】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成24年度環境省地球温暖化対策技術開発・実証研究事業(廃棄物系バイオマス熱分解ガスからのエタノール製造に関する技術開発)委託業務、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100146835
【弁理士】
【氏名又は名称】佐伯 義文
(74)【代理人】
【識別番号】100134544
【弁理士】
【氏名又は名称】森 隆一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(72)【発明者】
【氏名】御山 稔人
(72)【発明者】
【氏名】西野 友章
【審査官】 吉野 涼
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−157197(JP,A)
【文献】 特開昭63−162639(JP,A)
【文献】 特表2006−512340(JP,A)
【文献】 特開2013−049023(JP,A)
【文献】 特開2012−131709(JP,A)
【文献】 特開昭61−178939(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00〜38/74
C07C 29/141
C07C 29/158
C07C 31/08
C07B 61/00
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素と一酸化炭素とを含む混合ガスからアルコールを合成するアルコール合成用の触媒において、
一酸化炭素を酸素化物に変換する触媒粒子αと、アルデヒドをアルコールに変換する触媒粒子βとの混合物であり、触媒粒子α及び触媒粒子βは、それぞれ担持触媒であって、
[混合される前記触媒粒子βの粒子群]/[混合される前記触媒粒子αの粒子群]で表される体積比は、2.5〜7である
ことを特徴とするアルコール合成用の触媒。
【請求項2】
前記触媒粒子αはロジウムを含有し、前記触媒粒子βは銅を含有することを特徴とする請求項1に記載のアルコール合成用の触媒。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のアルコール合成用の触媒が充填された反応管と、前記混合ガスを前記反応管内に供給する供給手段と、前記反応管から生成物を排出する排出手段とを備えることを特徴とするアルコールの製造装置。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のアルコール合成用の触媒に、水素と一酸化炭素とを含む混合ガスを接触させてアルコールを得ることを特徴とするアルコールの製造方法。
【請求項5】
前記触媒粒子α及び前記触媒粒子βは、それぞれ独立して、触媒金属が、シリカ、ジルコニア、チタニア、マグネシア、アルミナ、活性炭、及びゼオライトからなる群より選ばれる多孔質担体に担持された担持触媒であることを特徴とする請求項1又は2に記載のアルコール合成用の触媒。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルコール合成用の触媒、アルコールの製造装置及びアルコールの製造方法に関する。
本願は、2012年12月20日に日本に出願された、特願2012−278185、及び2013年8月28日に日本に出願された、特願2013−177343に基づき優先権主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
バイオエタノールは、石油代替燃料としての普及が進められている。バイオエタノールは、主にサトウキビやトウモロコシの糖化及び発酵によって製造されている。近年、食料や飼料と競合しない、廃木材や稲わら等の作物の未利用部分等の木質系及び草本系バイオマス(セルロース系バイオマスともいう)からバイオエタノールを製造する技術が開発されている。
セルロース系バイオマスを原料とし、従来のエタノール発酵法を用いてバイオエタノールを製造するためには、セルロースを糖化させる必要がある。糖化方法としては、濃硫酸糖化法、希硫酸・酵素糖化法、水熱糖化法等があるが、安価にバイオエタノールを製造するためにはいまだ多くの課題が残されている。
【0003】
一方、セルロース系バイオマスを水素と一酸化炭素とを含む混合ガスに変換した後、この混合ガスからアルコールを合成する方法がある。この方法により、アルコール発酵法の適用が難しいセルロース系バイオマスから、効率的にバイオエタノールを製造する試みがなされている。加えて、この方法によれば、木質系・草本系バイオマスに限らず、動物の死骸や糞等由来の動物バイオマス、生ゴミ、廃棄紙、廃繊維といった多様なバイオマスを原料に用いることができる。
さらに、水素と一酸化炭素との混合ガスは、天然ガス、石炭等の石油以外の資源からも得られるため、混合ガスからアルコールを合成する方法は、石油依存を脱却する技術として研究されている。
水素と一酸化炭素との混合ガスからエタノール、アセトアルデヒド、酢酸等の酸素化物を合成する触媒としては、例えば、ロジウム及びアルカリ金属をシリカゲルの担体に担持させた触媒が知られている(例えば、特許文献1)。しかし、特許文献1の技術では、エタノール等のアルコール以外の酸素化物の生成量が多く、アルコールを単離する工程に多くの時間やエネルギーが必要になるという問題があった。
こうした問題に対し、ロジウムを担体担持してなる触媒が上層に充填され、イリジウム及び鉄を単体担持してなる触媒又はイリジウム、鉄及びロジウムを担体担持してなる触媒が下層に充填された反応装置に一酸化炭素と水素との混合ガスを接触させるエタノールの製造方法が提案されている(例えば、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公昭61−36730号公報
【特許文献2】特公昭62−38335号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献2の発明では、生成物である酸素化物中のアルコールの比率を高められるものの、酸素化物の合成効率が早期に低下してアルコールの製造効率が低下する。
そこで、本発明は、長期にわたり、より高い製造効率でアルコールを製造できるアルコール合成用の触媒を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のアルコール合成用の触媒は、水素と一酸化炭素とを含む混合ガスからアルコールを合成するアルコール合成用の触媒において、一酸化炭素を酸素化物に変換する触媒粒子αと、アルデヒドをアルコールに変換する触媒粒子βとの混合物であり、触媒粒子α及び触媒粒子βは、それぞれ担持触媒であって、[混合される前記触媒粒子βの粒子群]/[混合される前記触媒粒子αの粒子群]で表される体積比は、2.5〜7である。
【0007】
本発明のアルコールの製造装置は、前記の本発明のアルコール合成用の触媒が充填された反応管と、前記混合ガスを前記反応管内に供給する供給手段と、前記反応管から生成物を排出する排出手段とを備えることを特徴とする。
【0008】
本発明のアルコールの製造方法は、前記の本発明のアルコール合成用の触媒に、水素と一酸化炭素とを含む混合ガスを接触させてアルコールを得ることを特徴とする。
【0009】
本明細書本明細書および特許請求の範囲において酸素化物は、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール、酢酸等のカルボン酸、アセトアルデヒド等のアルデヒド、蟻酸メチル、蟻酸エチル、酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル等、炭素原子と水素原子と酸素原子からなる分子を意味する。酸素化物の内、炭素数が2である化合物(例えば、酢酸、エタノール、アセトアルデヒド等)をC2酸素化物という。
【発明の効果】
【0010】
本発明のアルコール合成用の触媒によれば、長期にわたり、より高い製造効率でアルコールを製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態にかかるアルコールの製造装置の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(アルコール合成用の触媒)
本発明のアルコール合成用の触媒(以下、「合成触媒」ということがある)は、一酸化炭素を酸素化物に変換する触媒粒子αと、アルデヒドをアルコールに変換する触媒粒子βとの混合物である。触媒粒子αと触媒粒子βとの混合物を合成触媒として用いることで、長期にわたって、水素と一酸化炭素とを含む混合ガス(以下、単に「混合ガス」ということがある)からアルコールをより高い製造効率で製造できる。
【0013】
<触媒粒子α>
触媒粒子αは、一酸化炭素を酸素化物に変換するものであり、水素化活性金属(触媒粒子αに用いられる水素化活性金属を「水素化活性金属α」ということがある)を含有するものである。触媒粒子αとしては、CO転化率が高く、アルコールの選択率が高いものが好ましい。このような触媒粒子αを用いることで、アルコールの製造効率のさらなる向上を図れる。
【0014】
本明細書において、「CO転化率」は、混合ガス中のCOのモル数の内、酸素化物の合成に消費されたCOのモル数が占める百分率である。
また、「選択率」は、混合ガス中の消費されたCOのモル数のうち、特定の酸素化物へ変換されたCのモル数が占める百分率である。例えば、下記(i)式によれば、アルコールであるエタノールの選択率は100モル%である。一方、下記(ii)式によれば、C2酸素化物であるエタノールの選択率は50モル%であり、C2酸素化物であるアセトアルデヒドの選択率も50モル%である。加えて、(i)式及び(ii)式において、C2酸素化物の選択率は100モル%である。
【0015】
4H+2CO→CHCHOH+HO ・・・(i)
7H+4CO→COH+CHCHO+2HO ・・・(ii)
【0016】
水素化活性金属αとしては、従来、混合ガスから酸素化物を合成できる金属として知られているものであればよく、例えば、リチウム、ナトリウム等のアルカリ金属;マンガン、レニウム等、周期表の第7族に属する元素;ルテニウム等、周期表の第8族に属する元素;コバルト、ロジウム等、周期表の第9族に属する元素;ニッケル、パラジウム等、周期表の第10族に属する元素等が挙げられる。
これらの水素化活性金属αは、1種単独で用いられてもよいし、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。水素化活性金属αとしては、CO転化率をより高め、アルコールの選択率をより高める観点から、ロジウム、マンガン及びリチウムを組み合わせたものや、ルテニウム、レニウム及びナトリウムを組み合わせたもの等、ロジウム又はルテニウムとアルカリ金属とその他の水素化活性金属αとを組み合わせたものが好ましい。
【0017】
触媒粒子αは、水素化活性金属αに加え、助活性金属(触媒粒子αに用いられる助活性金属を「助活性金属α」ということがある)を含有してもよい。
助活性金属αとしては、例えば、チタン、バナジウム、クロム、ホウ素、マグネシウム、ランタノイド及び周期表の第13族に属する元素から選択される1種以上が挙げられ、中でも、チタン、マグネシウム、バナジウムが好ましく、チタンがより好ましい。触媒粒子αは、これらの助活性金属αを含有することで、CO転化率をより高め、アルコールの選択率をより高められる。
以下、水素化活性金属αと助活性金属αとを合わせて「触媒金属α」ということがある。
【0018】
触媒粒子αとしては、例えば、ロジウムを含有するものが好ましく、ロジウムと、マンガンと、アルカリ金属とを含有するものがより好ましく、ロジウムと、マンガンと、アルカリ金属と、助活性金属αとを含有するものがさらに好ましい。
【0019】
触媒粒子αは、触媒金属αの集合物であってもよいし、触媒金属αが担体に担持された担持触媒であってもよく、中でも、担持触媒が好ましい。担持触媒とすることで、触媒金属αと混合ガスとの接触効率が高まり、CO転化率をより高められる。
【0020】
担体としては、従来、触媒に用いられている担体を用いることができ、例えば、多孔質担体が好ましい。
多孔質担体の材質は、特に限定されず、例えば、シリカ、ジルコニア、チタニア、マグネシア、アルミナ、活性炭、ゼオライト等が挙げられ、中でも、比表面積や細孔直径が異なる種々の製品が市場で調達できることから、シリカが好ましい。
【0021】
多孔質担体の大きさは、特に限定されないが、例えば、シリカの多孔質担体であれば、粒子径0.5〜5000μmのものが好ましい。多孔質担体の粒子径は、篩分けにより調節される。
加えて、多孔質担体は、粒子径分布ができるだけ狭いものが好ましい。
【0022】
多孔質担体における細孔容積の合計(全細孔容積)は、特に限定されないが、例えば、0.01〜1.0mL/gが好ましく、0.1〜0.8mL/gがより好ましく、0.3〜0.7mL/gがさらに好ましい。全細孔容積が上記下限値未満では、多孔質担体の比表面積が小さくなりすぎて、触媒金属αを担持させる際にその分散性が低下し、CO転化率が低下するおそれがある。全細孔容積が上記上限値超では、細孔直径が小さくなりすぎて、触媒金属αを担持させる際に、触媒金属αを担体内部にまで入れにくくなり、結果として担体の表面積を十分に利用できなかったり、混合ガスが拡散しにくくなり、結果として触媒金属αと混合ガスとが十分に接触できなくなったりして、CO転化率やアルコールの選択率が低くなるおそれがある。
全細孔容積は、水滴定法により測定される値である。水滴定法とは、多孔質担体の表面に水分子を吸着させ、分子の凝縮から細孔分布を測定する方法である。
【0023】
多孔質担体の平均細孔直径は、特に限定されないが、例えば、0.01〜20nmが好ましく、0.1〜8nmがより好ましい。平均細孔直径が上記下限値未満では、触媒金属αを担持させる際に、触媒金属αを担体内部にまで入れにくくなり、結果として担体の表面積を十分に利用できなかったり、混合ガスが拡散しにくくなり、結果として触媒金属αと混合ガスとが十分に接触できなくなったりして、CO転化率やアルコールの選択率が低くなるおそれがある。平均細孔直径が上記上限値超では、担体の比表面積が小さくなりすぎて、触媒金属αを担持させる際にその分散性が低下し、CO転化率が低下するおそれがある。
平均細孔直径は、以下の手法で測定される値である。平均細孔直径が0.1nm以上10nm未満の場合、全細孔容積とBET比表面積とから算出される。平均細孔直径が10nm以上の場合、水銀圧入法ポロシメーターにより測定される。
ここで、全細孔容積は、水滴定法により測定される値であり、BET比表面積は、窒素を吸着ガスとし、その吸着量とその時の圧力から算出される値である。
水銀圧入法は、水銀を加圧して多孔質担体の細孔に圧入させ、その圧力と圧入された水銀量から平均細孔直径を算出するものである。
【0024】
多孔質担体の比表面積は、特に限定されないが、例えば、1〜1000m/gが好ましく、300〜800m/gがより好ましく、400〜700m/gがさらに好ましい。比表面積が上記下限値未満では、担体の比表面積が小さくなりすぎて、触媒金属αを担持させる際にその分散性が低下し、CO転化率が低下するおそれがある。比表面積が上記上限値超では、細孔直径が小さくなりすぎて、触媒金属αを担持させる際に、触媒金属αを担体内部にまで入れにくくなり、結果として担体の表面積を十分に利用できなかったり、混合ガスが拡散しにくくなり、結果として触媒金属αと混合ガスとが十分に接触できなくなったりして、CO転化率やアルコールの選択率が低くなるおそれがある。
比表面積は、窒素を吸着ガスとし、BET式ガス吸着法により測定されるBET比表面積である。
【0025】
触媒粒子αが担持触媒である場合、触媒粒子αの粒子群(触媒粒子群α)の平均粒子径は、担体の種類等を勘案して決定され、例えば、0.5〜5000μmが好ましい。触媒粒子群αの平均粒子径が上記下限値未満では、圧力損失が大きくなって混合ガスが流通しにくくなるおそれがあり、上記上限値超では、合成触媒の充填密度が小さくなって、混合ガスと触媒粒子αとの接触効率が低くなるおそれがある。なお、触媒粒子αとしては、粒子径の小さな触媒粒子をバインダーの存在下で圧力をかけて二次粒子としたり、粒子径の大きな触媒粒子を粉砕する等して、適切な粒子径に調整されたものでもよい。
【0026】
担持触媒における触媒金属αの担持状態は、特に限定されず、例えば、粉体状の金属が多孔質担体に担持された状態であってもよいし、金属元素の形態で多孔質担体に担持された状態であってもよく、中でも、金属元素の形態で多孔質担体に担持された状態が好ましい。金属元素の形態で多孔質担体に担持された状態であれば、混合ガスとの接触面積が大きくなり、CO転化率をより高められる。
【0027】
担持触媒中の水素化活性金属αの担持量は、水素化活性金属αの種類や多孔質担体の種類等を勘案して決定され、例えば、多孔質担体がシリカであれば、多孔質担体100質量部に対して0.05〜30質量部が好ましく、1〜10質量部がより好ましい。上記下限値未満では、水素化活性金属αの量が少なすぎて、CO転化率が低下するおそれがあり、上記上限値超では、水素化活性金属αを均一かつ高分散状態にできず、CO転化率が低下するおそれがある。
【0028】
担持触媒中の助活性金属αの担持量は、助活性金属αの種類や水素化活性金属αの種類等を勘案して決定され、例えば、多孔質担体100質量部に対して0.01〜20質量部が好ましく、0.1〜10質量部がより好ましい。上記下限値未満では、助活性金属αの担持量が少なすぎて、助活性金属αを用いる効果が発揮されにくい。上記上限値超では、多孔質担体の表面が助活性金属αで過剰に被覆されてしまい、CO転化率やアルコールの選択率が低下するおそれがある。
【0029】
触媒金属αの担持量は、触媒金属αの組成、多孔質担体の材質等を勘案して決定され、例えば、多孔質担体100質量部に対して0.05〜30質量部が好ましく、0.1〜10質量部がより好ましい。上記下限値未満では、触媒金属αの担持量が少なすぎて、CO転化率が低下するおそれがあり、上記上限値超では、触媒金属αを均一かつ高分散状態にできず、CO転化率やアルコールの選択率が低下するおそれがある。
【0030】
触媒粒子αが担持触媒であり、ロジウムと、マンガンと、アルカリ金属と、助活性金属αとを含有する触媒としては、下記(I)式で表される組成が好ましい。
aA・bB・cC・dD ・・・・(I) (I)式中、Aはロジウムを表し、Bはマンガンを表し、Cはアルカリ金属を表し、Dは助活性金属を表し、a、b、c及びdはモル分率を表し、a+b+c+d=1である。
(I)式中のaは、D(助活性金属)がチタンの場合、0.053〜0.98が好ましく、0.24〜0.8がより好ましく、0.32〜0.67がさらに好ましい。上記下限値未満であるとロジウムの含有量が少なすぎて、CO転化率を十分に高められないおそれがあり、上記上限値超であると他の金属の含有量が少なくなりすぎて、CO転化率を十分に高められないおそれがある。
(I)式中のbは、D(助活性金属)がチタンの場合、0.0006〜0.67が好ましく、0.033〜0.57がより好ましく、0.089〜0.44がさらに好ましい。上記下限値未満であるとマンガンの含有量が少なすぎて、CO転化率を十分に高められないおそれがあり、上記上限値超であると他の金属の含有量が少なくなりすぎて、CO転化率を十分に高められないおそれがある。
(I)式中のcは、D(助活性金属)がチタンの場合、0.00056〜0.51が好ましく、0.026〜0.42がより好ましく、0.075〜0.33がさらに好ましい。上記下限値未満であるとアルカリ金属の含有量が少なすぎて、CO転化率を十分に高められないおそれがあり、上記上限値超であると他の金属の含有量が少なくなりすぎて、CO転化率を十分に高められないおそれがある。
(I)式中のdは、D(助活性金属)がチタンの場合、0.0026〜0.94が好ましく、0.02〜0.48がより好ましく、0.039〜0.25がさらに好ましい。上記下限値未満であると助活性金属の含有量が少なすぎて、CO転化率を十分に高められないおそれがあり、上記上限値超であると他の金属の含有量が少なくなりすぎて、CO転化率を十分に高められないおそれがある。
【0031】
合成触媒中、触媒粒子αの含有量は、触媒粒子αの能力等を勘案して決定され、例えば、9〜91質量%の範囲で適宜決定される。
合成触媒中の触媒粒子αの種類は、1種でもよいし、2種以上でもよい。
【0032】
触媒粒子αは、従来公知の金属触媒の製造方法に準じて製造される。触媒粒子αの製造方法としては、例えば、含浸法、浸漬法、イオン交換法、共沈法、混練法等が挙げられ、中でも含浸法が好ましい。含浸法を用いることで、得られる触媒は、触媒金属αがより均一に分散され、混合ガスとの接触効率をより高めて、CO転化率をより高められる。
触媒製造に用いられる触媒金属αの原料化合物としては、酸化物、塩化物、硝酸塩、炭酸塩等の無機塩、シュウ酸塩、アセチルアセトナート塩、ジメチルグリオキシム塩、エチレンジアミン酢酸塩等の有機塩又はキレート化合物、カルボニル化合物、シクロペンタジエニル化合物、アンミン錯体、アルコキシド化合物、アルキル化合物等、通常、金属触媒を製造する際に用いられるものが挙げられる。
【0033】
含浸法による触媒粒子αの製造方法の一例について説明する。まず、触媒金属αの原料化合物を水、メタノール、エタノール、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ヘキサン、ベンゼン、トルエン等の溶媒に溶解し、得られた溶液(含浸液)に担体を浸漬する等して、含浸液を担体に付着させる。担体として多孔質体を用いる場合には、含浸液を担体の細孔内に十分浸透させた後、溶媒を蒸発させて触媒とする。
含浸液を担体に含浸させる方法としては、全ての原料化合物を溶解した溶液を担体に含浸させる方法(同時法)、各原料化合物を別個に溶解した溶液を調製し、逐次的に担体に各溶液を含浸させる方法(逐次法)等が挙げられ、中でも、逐次法が好ましい。逐次法で得られた触媒は、CO転化率をより高め、アルコールの選択率をより高められる。
【0034】
逐次法としては、例えば、助活性金属αを含む溶液(一次含浸液)を多孔質担体に含浸させ(一次含浸工程)、これを乾燥して助活性金属αを多孔質担体に担持させた一次担持体を得(一次担持工程)、次いで水素化活性金属αを含む溶液(二次含浸液)を一次担持体に含浸させ(二次含浸工程)、これを乾燥する(二次担持工程)方法が挙げられる。このように、助活性金属αを多孔質担体に担持させ、次いで水素化活性金属αを多孔質担体に担持させることで、触媒粒子αは、触媒金属αがより高度に分散されたものとなり、CO転化率をより高め、アルコールの選択率をより高められる。
【0035】
一次担持工程は、例えば、一次含浸液が含浸された多孔質担体を乾燥し(一次乾燥操作)、これを任意の温度で加熱して焼成する(一次焼成操作)方法が挙げられる。
一次乾燥操作における乾燥方法は特に限定されず、例えば、一次含浸液が含浸された多孔質担体を任意の温度で加熱する方法が挙げられる。一次乾燥操作における加熱温度は、一次含浸液の溶媒を蒸発できる温度であればよく、溶媒が水であれば、80〜120℃とされる。一次焼成操作における加熱温度は、例えば、300〜600℃とされる。一次焼成操作を行うことで、助活性金属の原料化合物に含まれていた成分の内、触媒反応に寄与しない成分を十分に揮散し、触媒活性をより高められる。
【0036】
二次担持工程は、例えば、二次含浸液が含浸された一次担持体を乾燥し(二次乾燥操作)、さらに任意の温度で加熱して焼成する(二次焼成操作)方法が挙げられる。
二次乾燥操作における乾燥方法は特に限定されず、例えば、二次含浸液が含浸された一次担持体を任意の温度で加熱する方法が挙げられる。二次乾燥操作における加熱温度は、二次含浸液の溶媒を蒸発できる温度であればよく、溶媒が水であれば、80〜120℃とされる。二次焼成操作における加熱温度は、例えば、300〜600℃とされる。二次焼成操作を行うことで、水素化活性金属の原料化合物に含まれていた成分の内、触媒反応に寄与しない成分を十分に揮散し、触媒活性をより高められる。
【0037】
得られた触媒粒子αは、還元処理が施されて、活性化される。
還元処理の方法としては、好ましくは200〜600℃で、還元ガスを触媒粒子αに接触させるものが挙げられる。
還元処理における加熱時間は、例えば、1〜10時間が好ましく、2〜5時間がより好ましい。
【0038】
<触媒粒子β>
触媒粒子βは、アルデヒドをアルコールに変換するものであればよく、例えば、銅、銅−亜鉛、銅−クロム、銅−亜鉛−クロム等、銅単独又は銅と銅以外の遷移金属との組み合わせ(本明細書において遷移金属は第12族に属する元素を含む)や、鉄、ロジウム−鉄、ロジウム−モリブデン、パラジウム、パラジウム−鉄、パラジウム−モリブデン、イリジウム−鉄、ロジウム−イリジウム−鉄、イリジウム−モリブデン、レニウム−亜鉛、白金、ニッケル、コバルト、ルテニウム、酸化ロジウム、酸化パラジウム、酸化白金、酸化ルテニウム等(以下、触媒粒子βに含有される金属を「触媒金属β」ということがある)を含有するものが挙げられる。中でも、触媒金属βとしては、銅単独又は銅と銅以外の遷移金属との組み合わせが好ましく、銅、銅−亜鉛、銅−クロム又は銅−亜鉛−クロムが好ましい。
なお、触媒粒子βとしては、アルデヒドのみならず、カルボン酸、エステルをアルコールに変換できるものが好ましい。このような触媒粒子βを用いることで、アルコールの製造効率のさらなる向上が図れる。
【0039】
触媒粒子βは、触媒金属βの集合物であってもよいし、触媒金属βが担体に担持された担持触媒であってもよく、中でも、担持触媒が好ましい。担持触媒とすることで、より効率的にアルデヒドをアルコールに変換できる。
触媒粒子βの担体は、触媒粒子αの担体と同様である。
【0040】
担持触媒中の触媒金属βの担持量は、触媒金属βの種類等を勘案して決定され、例えば、多孔質担体100質量部に対して1〜50質量部が好ましく、3〜25質量部がより好ましく、4〜20質量部がさらに好ましく、5〜15質量部が特に好ましい。上記下限値未満では、触媒金属βの担持量が少なすぎて、活性が低下するおそれがあり、上記上限値超では、多孔質担体の表面が触媒金属βで過剰に被覆されてしまい、活性が低下するおそれがある。
【0041】
触媒粒子βとしては、銅単独又は銅と銅以外の遷移金属とが担体に担持された触媒(以下、銅系担持触媒ということがある)が好ましい。
銅系担持触媒としては、下記(II)式で表されるものが好ましい。
eE・fF ・・・・(II) (II)式中、Eは銅を表し、Fは、銅以外の遷移金属を表し、e及びfはモル分率を表し、e+f=1である。
(II)式中、Fとしては、亜鉛、クロムが好ましい。Fは、1種単独で用いられてもよいし、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。
(II)式中のeは、0.5〜0.9が好ましく、0.5〜0.7がより好ましく、0.5〜0.6が更に好ましい。上記下限値未満であると銅の含有量が少なすぎて、アルデヒドをアルコールに転換する効率が低下するおそれがあり、上記上限値超であるとFの含有量が少なくなりすぎて、アルデヒドやカルボン酸、エステルをアルコールに転換する効率が低下するおそれがある。
(II)式中のfは、0.1〜0.5が好ましく、0.3〜0.5がより好ましく、0.4〜0.5がさらに好ましい。上記下限値未満であるとFの含有量が少なすぎて、アルデヒドやカルボン酸、エステルをアルコールに転換する効率が低下するおそれがあり、上記上限値超であると銅の含有量が少なくなりすぎて、アルデヒドをアルコールに転換する効率が低下するおそれがある。
【0042】
本発明における触媒粒子αと触媒粒子βとの好適な組み合わせとしては、ロジウムを含有し銅を含有しない触媒粒子αと、銅を含有しロジウムを含有しない触媒粒子βとの組み合わせが好ましい。
【0043】
触媒粒子βの粒子群(触媒粒子群β)の平均粒子径は、触媒粒子群αの平均粒子径と同様である。
触媒粒子群βの平均粒子径は、触媒粒子群αの平均粒子径と同じでもよいし、異なってもよい。ただし、触媒粒子αと触媒粒子βとが分級するのを防止する観点から、[触媒粒子群αの平均粒子径]/[触媒粒子群βの平均粒子径]で表される比は、0.5〜2が好ましい。
触媒粒子βの比重と触媒粒子αの比重とは同じでもよいし、異なってもよい。ただし、触媒粒子αと触媒粒子βとが分離するのを防止する観点から、[触媒粒子αの比重]/[触媒粒子βの比重]で表される比は、0.5〜2が好ましい。
【0044】
合成触媒中、触媒粒子βの含有量は、触媒粒子βの能力等を勘案して決定され、例えば、9〜91質量%の範囲で適宜決定される。
合成触媒中の触媒粒子βの種類は、1種でもよいし、2種以上でもよい。
【0045】
触媒粒子β/触媒粒子αで表される質量比(以下、β/α質量比)は、例えば、1以上が好ましく、1超がより好ましく、1超10以下がさらに好ましく、2.5〜5が特に好ましい。β/α質量比が記下限値未満では、早期にCO転化率が低下するおそれがあり、上記上限値超では、合成触媒の単位質量当たりのアルコールの生成量が少なくなり、製造効率が低下するおそれがある。
【0046】
[混合される触媒粒子群βの体積]/[混合される触媒粒子群αの体積]で表される体積比(以下、β/α体積比)は、例えば、1以上が好ましく、1超がより好ましく、1超15以下がさらに好ましく、2.5〜7が特に好ましい。β/α体積比が上記下限値未満では、早期にCO転化率が低下するおそれがあり、上記上限値超では、合成触媒の単位質量当たりのアルコールの生成量が少なくなり、製造効率が低下するおそれがある。なお、[混合される触媒粒子群βの体積]及び[混合される触媒粒子群αの体積]は、混合前の見かけ体積である。
【0047】
触媒粒子βの製造方法としては、触媒粒子αの製造方法と同様の方法が挙げられる。
得られた触媒粒子βは、還元処理が施されて、活性化される。
還元処理の方法としては、好ましくは200〜600℃で、還元ガスを触媒粒子βに接触させるものが挙げられる。
還元処理における加熱時間は、例えば、1〜10時間が好ましく、2〜5時間がより好ましい。
【0048】
<その他の触媒粒子>
合成触媒は、触媒粒子α及び触媒粒子β以外の触媒粒子を含んでもよいが、副次的な反応を制御して、アルコールの製造効率の低下を防止する観点から、合成触媒は、実質的に触媒粒子αと触媒粒子βとからなることが好ましい。「実質的に触媒粒子αと触媒粒子βとからなる」とは、触媒粒子α及び触媒粒子β以外の触媒粒子をまったく含まないか、あるいは本発明の効果に影響しない程度に、触媒粒子α及び触媒粒子β以外の触媒粒子を含むことを意味する。
【0049】
合成触媒の製造方法は、触媒粒子αと触媒粒子βとを混合するものである。触媒粒子αと触媒粒子βとの混合方法は、特に限定されず、例えば、触媒粒子群αと触媒粒子群βとを粉体混合装置等で混合する方法が挙げられる。
【0050】
(アルコールの製造装置)
本発明のアルコールの製造装置(以下、単に製造装置ということがある)は、合成触媒が充填された反応管と、混合ガスを反応管内に供給する供給手段と、反応管から生成物を排出する排出手段とを備えるものである。
【0051】
本発明の製造装置の一例について、図1を用いて説明する。図1は、本発明の一実施形態にかかる製造装置10を示す模式図である。製造装置10は、合成触媒が充填されて反応床2が形成された反応管1と、反応管1に接続された供給管3と、反応管1に接続された排出管4と、反応管1に接続された温度制御部5と、排出管4に設けられた圧力制御部6とを備えるものである。
【0052】
反応床2は、合成触媒のみが充填されたものでもよいし、合成触媒と希釈材とが充填されたものでもよい。希釈材は、アルコールの製造中における合成触媒の過度の発熱を防止するためのものであり、例えば、触媒粒子αに用いられる担体と同様のものや、石英砂、アルミナボール等が挙げられる。
反応床2に希釈材を充填する場合、希釈材/合成触媒で表される質量比は、それぞれの種類や比重等を勘案して決定され、例えば、0.5〜5が好ましい。
ただし、本発明においては、触媒粒子βが、触媒粒子αに対して希釈材としての役割を果たすため、反応床2には、合成触媒のみが充填されていることが好ましい。希釈材を用いなければ、反応床2の単位体積当たりのアルコールの製造量を高め、製造装置10のコンパクト化を図れる。
【0053】
反応管1は、混合ガス及び合成された酸素化物に対して不活性な材料が好ましく、100〜500℃程度の加熱、又は10MPa程度の加圧に耐え得る形状のものが好ましい。
反応管1としては、例えば、ステンレス製の略円筒形の部材が挙げられる。
供給管3は、混合ガスを反応管1内に供給する供給手段であり、例えば、ステンレス製等の配管が挙げられる。
排出管4は、反応床2で合成されたアルコールを含む合成ガス(生成物)を排出する排出手段であり、例えば、ステンレス製等の配管が挙げられる。
温度制御部5は、反応管1内の反応床2を任意の温度にできるものであればよく、例えば、電気炉等が挙げられる。
圧力制御部6は、反応管1内の圧力を任意の圧力にできるものであればよく、例えば、公知の圧力弁等が挙げられる。
また、製造装置10は、マスフロー等、ガスの流量を調整するガス流量制御部等の周知の機器を備えていてもよい。
【0054】
(アルコールの製造方法)
本発明のアルコールの製造方法は、混合ガスを合成触媒に接触させるものである。本発明のアルコールの製造方法の一例について、図1の製造装置を用いて説明する。
まず、反応管1内を任意の温度及び任意の圧力とし、混合ガス20を供給管3から反応管1内に流入させる。
【0055】
混合ガス20は、水素と一酸化炭素とを含むものであれば特に限定されず、例えば、天然ガス、石炭から調製されたものであってもよいし、バイオマスをガス化して得られるバイオマスガス等であってもよいし、廃プラスチック、廃紙、廃衣料等の有機性廃棄物をガス化して得られるもの(以下、リサイクルガスということがある)であってもよい。バイオマスガス、リサイクルガスは、例えば、粉砕したバイオマスや有機性廃棄物を水蒸気の存在下で加熱(例えば、800〜1000℃)する等、従来公知の方法で得られる。
混合ガス20として、バイオマスガス又はリサイクルガスを用いる場合、混合ガス20を反応管1内に供給する前に、タール分、硫黄分、窒素分、塩素分、水分等の不純物を除去する目的で、混合ガス20にガス精製処理を施してもよい。ガス精製処理としては、例えば、湿式法、乾式法等、当該技術分野で知られる各方式を採用できる。湿式法としては、水酸化ナトリウム法、アンモニア吸収法、石灰・石膏法、水酸化マグネシウム法等が挙げられ、乾式法としては、圧力スイング吸着(PSA)法等の活性炭吸着法、電子ビーム法等が挙げられる。
【0056】
混合ガス20は、水素と一酸化炭素とを主成分とするもの、即ち混合ガス20中の水素と一酸化炭素との合計が、50体積%以上であることが好ましく、80体積%以上であることがより好ましく、90体積%以上であることがさらに好ましく、100体積%であってもよい。水素と一酸化炭素との含有量が多いほど、アルコールの製造効率をより高められる。
混合ガス20における水素/一酸化炭素で表される体積比(以下、H/CO比ということがある)は、1/5〜5/1が好ましく、1/2〜3/1がより好ましく、1/1〜2.5/1がさらに好ましい。上記範囲内であれば、触媒反応における酸素化物が生成される反応で、化学量論的に適正な範囲となり、アルコールの製造効率のさらなる向上を図れる。
なお、混合ガス20は、水素及び一酸化炭素の他に、メタン、エタン、エチレン、窒素、二酸化炭素、水等を含んでいてもよい。
【0057】
混合ガス20と触媒とを接触させる際の温度(反応温度)、即ち反応管1内の温度は、例えば、150〜450℃が好ましく、200〜400℃がより好ましく、250〜350℃がさらに好ましい。上記下限値以上であれば、触媒反応の速度を十分に高め、アルコールをより効率的に製造できる。上記上限値以下であれば、アルコールの合成反応を主反応として、アルコールの製造効率のさらなる向上を図れる。
【0058】
混合ガス20と触媒とを接触させる際の圧力(反応圧力)、即ち反応管1内の圧力は、例えば、0.5〜10MPaが好ましく、1〜7.5MPaがより好ましく、2〜5MPaがさらに好ましい。上記下限値以上であれば、触媒反応の速度を十分に高めアルコールをより効率的に製造できる。上記上限値以下であれば、アルコールの合成反応を主反応として、アルコールの製造効率のさらなる向上を図れる。
【0059】
流入した混合ガス20は、反応床2の触媒粒子αと接触し、例えば、下記(1)〜(3)式で表される触媒反応により、その一部がエタノール等のアルコールと、アルデヒドや、カルボン酸、エステル等の副生物とを含む酸素化物となる。副生物の内、アセトアルデヒド等のアルデヒドは、触媒粒子βにより速やかにアルコールに変換される(下記式(4))。
【0060】
2H+2CO→CHCOOH ・・・(1)
3H+2CO→CHCHO+HO ・・・(2)
4H+2CO→CHCHOH+HO ・・・(3)
+CHCHO→CHCHOH ・・・(4)
【0061】
そして、このアルコールを含む合成ガス22は、排出管4から排出される。合成ガス22は、アルコールを含むものであれば特に限定されず、例えば、アルコール以外の酸素化物や、メタン等の炭化水素等を含んでいてもよい。
合成ガス22において、アルコールの選択率は40モル%以上が好ましく、50モル%以上がより好ましい。アルコールの選択率が上記下限値以上であれば、アルコール以外の化合物を除去したりする工程の簡略化を図れる。
【0062】
混合ガス20の供給速度は、例えば、反応床2における混合ガスの空間速度(単位時間当たりのガスの供給量を触媒量(体積換算)で除した値)が標準状態換算で、好ましくは10〜100000L/L−触媒/h、より好ましくは1000〜50000L/L−触媒/h、さらに好ましくは3000〜20000L/L−触媒/hとされる。空間速度は、反応圧力、反応温度、及び原料である混合ガスの組成を勘案して、適宜調整される。
【0063】
必要に応じ、排出管4から排出された合成ガス22を気液分離器等で処理し、アルコールと、未反応の混合ガス20や副生物とを分離してもよい。
【0064】
本実施形態では、固定床の反応床2に混合ガスを接触させているが、例えば、合成触媒を流動床又は移動床等、固定床以外の形態とし、これに混合ガスを接触させてもよい。
【0065】
本発明においては、合成ガス22中の副生物を蒸留等によって、成分毎に分離してもよい。
また、本発明においては、アルコール以外の生成物を水素化してアルコールに変換する工程(アルコール化工程)を設けてもよい。アルコール化工程としては、例えば、アセトアルデヒド、酢酸等を含む酸素化物を水素化触媒に接触させてアルコールに変換する方法が挙げられる。
ここで、水素化触媒としては、当該技術分野で知られる触媒が使用でき、例えば、触媒粒子βと同様のものが挙げられる。
【0066】
本発明の合成触媒は、触媒粒子αと触媒粒子βとの混合物であるため、長期にわたり、より高い製造効率でアルコールを製造できる。
本発明の合成触媒が、長期にわたり、より高い製造効率でアルコールを製造できる理由は定かではないが、以下のように推測される。
合成触媒は、混合ガスから酸素化物を合成するに際し、主目的物であるアルコールと、副生物であるアルデヒドとを生成する。このアルデヒドは、合成触媒の活性を早期に低下させる要因となる。
本発明の合成触媒によれば、触媒粒子αによりアルコールを合成した際の副生物であるアルデヒド(例えばアセトアルデヒド)が、触媒粒子βによって速やかにアルコール(例えばエタノール)に変換するため、触媒粒子αの活性の低下を抑制できると考えられる。
【実施例】
【0067】
以下に、実施例を示して本発明を説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
尚、下記実施例1及び実施例6は参考例である。
【0068】
(製造例1)触媒粒子αの製造
チタンラクテートアンモニウム塩(Ti(OH)[OCH(CH)COO(NH)0.0123gを含む水溶液0.61mLを、粒子径1〜2mmの球形シリカゲル(比表面積:430m/g、平均細孔直径:5.7nm、全細孔容積:0.61mL/g)1.0gに滴下して含浸させた。これを110℃にて3時間乾燥し、さらに450℃にて3時間焼成して一次担持体とした。塩化ロジウム三水和物(RhCl・3HO)0.0768gと、塩化リチウム一水和物(LiCl・HO)0.0048gと、塩化マンガン四水和物(MnCl・4HO)0.0433gとを含む水溶液0.61mLを一次担持体に滴下して含浸させ、110℃にて3時間乾燥し、さらに400℃にて3時間焼成して触媒粒子αを得た。得られた触媒粒子αは、触媒金属αとしてロジウム、マンガン、リチウム及びチタンを含有し、ロジウム担持率=3質量%/SiO、Rh:Mn:Li:Ti=1.00:0.750:0.275:0.143(モル比)であった。
【0069】
(製造例2)触媒粒子β−1の製造
硝酸銅三水和物(Cu(NO・3HO)0.344gと、硝酸亜鉛六水和物(Zn(NO・6HO)0.412gとを含む水溶液0.95mLを、粒子径1〜2mmの球形シリカゲル(比表面積:315m/g、平均細孔直径:10nm、全細孔容積:0.95mL/g)1.0gに滴下して含浸させた。これを110℃にて3時間乾燥し、さらに400℃にて3時間焼成して、触媒粒子βである触媒粒子β−1を得た。得られた触媒粒子β−1は、触媒金属βとして、銅及び亜鉛を含有し、銅担持率=9質量%/SiO、Cu:Zn=1.00:0.97(モル比)であった。
【0070】
(製造例3)触媒粒子β−2の製造
硝酸銅三水和物(Cu(NO・3HO)を0.190gとし、硝酸亜鉛六水和物(Zn(NO・6HO)を0.227gとした以外は、製造例2と同様にして、触媒粒子βである触媒粒子β−2を得た。得られた触媒粒子β−2は、触媒金属βとして、銅及び亜鉛を含有し、銅担持率=5質量%/SiO、Cu:Zn=1.00:0.97(モル比)であった。
【0071】
(製造例4)合成触媒の比較品(比較触媒)の製造
硝酸銅三水和物(Cu(NO・3HO)0.115gと、硝酸亜鉛六水和物(Zn(NO・6HO)0.137gとを含む水溶液0.61mLを、製造例1で得られた触媒粒子α1.045gに滴下して含浸させた。これを110℃にて3時間乾燥し、さらに400℃にて3時間焼成して比較触媒を得た。得られた比較触媒は、ロジウム担持率=3質量%/SiO、Rh:Mn:Li:Ti:Cu:Zn=1.00:0.750:0.275:0.143:1.63:1.58(モル比)であった。
【0072】
(実施例1)
製造例1で得られた触媒粒子αの0.5gと、製造例2で得られた触媒粒子β−1の0.5gとを混合して合成触媒を得た。この合成触媒と、製造例1で用いた粒子径1〜2mmの球形シリカゲル(希釈材)3.0gとを混合した後、これを内径10.7mm、長さ40cmのステンレス製の円筒型の反応管に充填して反応床とし、図1のアルコールの製造装置10と同様のアルコールの製造装置を得た。
反応床に、常圧で還元ガス(水素濃度30体積%、窒素濃度70体積%)を6000L/L−触媒/hで流通させながら、320℃で2時間加熱し、触媒に還元処理を施した。
次いで、以下の手順でアルコール(エタノール)を製造した。
反応床温度を260℃まで降温した後、混合ガス(H/CO比=2)を9000L/L−触媒/hで流通させ、反応圧力を0.9MPaまで昇圧した。その後、反応温度を1℃/1分の速度で280℃まで昇温し、温度が安定した時を反応開始時とした。反応開始時から1時間後に、合成ガスを回収し、ガスクロマトグラフィーにより分析した。得られたデータから、CO転化率(モル%)及び生成物の選択率(モル%)を算出した。反応開始時から24時間後に、合成ガスを回収し、ガスクロマトグラフィーにより分析した。得られたデータから、CO転化率及び生成物の選択率を算出した。下記(10)式により活性維持率を求めた。これらの結果を表1に示す。
表中、本例における反応床の形態を「混合型」と記載する。
なお、表中のβ/α質量比は、合成触媒における触媒粒子β−1又はβ−2と触媒粒子αとの質量比を表し、β/α体積比は、合成触媒における触媒粒子β−1又はβ−2と触媒粒子αとの体積比を表す。
【0073】
活性維持率(%)=[24時間後のCO転化率]÷[1時間後のCO転化率]×100・・・・(10)
【0074】
(実施例2)
0.5gの触媒粒子αと、1.0gの触媒粒子β−1とを混合して合成触媒とし、希釈材を2.5gとした以外は、実施例1と同様にしてアルコールを製造し、CO転化率、生成物の選択率及び活性維持率を求め、その結果を表1に示す。
表中、本例における反応床の形態を「混合型」と記載する。
【0075】
(実施例3)
0.5gの触媒粒子αと、1.5gの触媒粒子β−1とを混合して合成触媒とし、希釈材を2.0gとした以外は、実施例1と同様にしてアルコールを製造し、CO転化率、生成物の選択率及び活性維持率を求め、その結果を表1に示す。
表中、本例における反応床の形態を「混合型」と記載する。
【0076】
(実施例4)
0.5gの触媒粒子αと、1.5gの触媒粒子β−1とを混合して合成触媒とし、希釈材を加えなかった以外は、実施例1と同様にしてアルコールを製造し、CO転化率、生成物の選択率及び活性維持率を求め、その結果を表1に示す。
表中、本例における反応床の形態を「混合型」と記載する。
【0077】
(実施例5)
触媒粒子β−1の代わりに、1.5gの触媒粒子β−2を用いた以外は、実施例4と同様にしてアルコールを製造し、CO転化率、生成物の選択率及び活性維持率を求め、その結果を表1に示す。
表中、本例における反応床の形態を「混合型」と記載する。
【0078】
(実施例6)
触媒粒子β−2を3.0gとした以外は、実施例5と同様にしてアルコールを製造し、CO転化率、生成物の選択率及び活性維持率を求め、その結果を表1に示す。
表中、本例における反応床の形態を「混合型」と記載する。
【0079】
(実施例7)
0.5gの触媒粒子αと1.5gの触媒粒子β−1とを混合した合成触媒を上層とし、1.0gの触媒粒子β−1を下層とした以外は、実施例4と同様にしてアルコールを製造し、CO転化率、生成物の選択率及び活性維持率を求め、その結果を表1に示す。
表中、本例における反応床の形態を「混合二層型」と記載する。
【0080】
(実施例8)
0.5gの触媒粒子αと1.5gの触媒粒子β−2とを混合した合成触媒を上層とし、1.0gの触媒粒子β−2を下層とした以外は、実施例4と同様にしてアルコールを製造し、CO転化率、生成物の選択率及び活性維持率を求め、その結果を表1に示す。
表中、本例における反応床の形態を「混合二層型」と記載する。
【0081】
(比較例1)
0.5gの触媒粒子αと1.0gの球形シリカゲル(希釈材)との混合物を上層とし、1.5gの触媒粒子β−1と1.0gの球形シリカゲル(希釈材)との混合物を下層とし、上層と下層との間に高さ1cmの酸化ケイ素層を設けて反応床とした以外は、実施例1と同様にしてアルコールを製造し、CO転化率、生成物の選択率及び活性維持率を求め、その結果を表1に示す。
表中、本例における反応床の形態を「二層型」と記載する。
【0082】
(比較例2)
0.5gの触媒粒子αと、1.0gの球形シリカゲル(希釈材)とを混合し、これを反応床とした以外は、実施例1と同様にしてアルコールを製造し、CO転化率、生成物の選択率及び活性維持率を求め、その結果を表1に示す。
表中、本例における反応床の形態を「単一型」と記載する。
【0083】
(比較例3)
製造例4で得られた比較触媒0.5gと希釈材の球形シリカゲル1.0gとを混合したものを反応床とした以外は、実施例1と同様にしてアルコールを製造し、CO転化率、生成物の選択率及び活性維持率を求め、その結果を表1に示す。
表中、本例における反応床の形態を「単一型」と記載する。
なお、本例においては、1時間後のCO転化率が著しく低かったため、24時間後のCO転化率、生成物の選択率を測定しなかった。
【0084】
【表1】

【0085】
表1に示すように、本発明を適用した実施例1〜8は、24時間後のCO転化率が6.5モル%以上であり、活性維持率が62%以上であった。
実施例1〜3の比較において、β/α体積比が高いほど、24時間後のCO転化率及び活性維持率が高まっていた。
実施例3〜4の比較において、希釈材を用いなかった実施例4は、希釈材を用いた実施例3に比べてアセトアルデヒドの選択率が高いが、活性維持率が62%であった。この結果から、希釈材を用いなくても、反応床内での局所的な温度上昇や反応暴走を抑制できることが判った。
実施例4〜5の比較において、触媒粒子β−2を用いた実施例5は、触媒粒子β−1を用いた実施例4に比べて、エタノール選択率が高く、C2〜C4炭化水素の選択率が低く、活性維持率が高かった。
実施例5〜6の比較において、触媒粒子β−2を増量した実施例6は、実施例5に比べてエタノール選択率が高く、アセトアルデヒドの選択率が低かった。
実施例4、7の比較、及び実施例5、8の比較において、触媒粒子αと触媒粒子βとを混合した反応床の後段に触媒粒子βの反応床を設けることで、エタノールの選択率をより高め、アセトアルデヒド及び酢酸エチルの選択率をより低められた。
これに対し、反応床を触媒粒子αと触媒粒子βとの二層型とした比較例1、反応床を触媒粒子αのみで形成した比較例2は、24時間後のCO転化率が5.7モル%以下であり、活性維持率が54%以下であった。
また、製造例1における触媒粒子αの触媒金属αと、製造例2における触媒粒子β−1の触媒金属βとが併せて担持された触媒(比較例3)は、初期のCO転化率が2.3モル%であった。
これらの結果から、本発明を適用することで、長期にわたり、より高い製造効率でアルコールを製造できることが判った。
【符号の説明】
【0086】
1 反応管2 反応床3 供給管4 排出管5 温度制御部6 圧力制御部10製造装置20混合ガス22合成ガス
図1