特許第6093795号(P6093795)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 積水化成品工業株式会社の特許一覧

特許6093795ポリプロピレン系樹脂発泡シートの製造方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6093795
(24)【登録日】2017年2月17日
(45)【発行日】2017年3月8日
(54)【発明の名称】ポリプロピレン系樹脂発泡シートの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 255/02 20060101AFI20170227BHJP
   C08J 9/14 20060101ALI20170227BHJP
【FI】
   C08F255/02
   C08J9/14CES
【請求項の数】2
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2015-64828(P2015-64828)
(22)【出願日】2015年3月26日
(65)【公開番号】特開2016-89143(P2016-89143A)
(43)【公開日】2016年5月23日
【審査請求日】2016年7月15日
(31)【優先権主張番号】特願2014-221005(P2014-221005)
(32)【優先日】2014年10月30日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002440
【氏名又は名称】積水化成品工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100074332
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 昇
(74)【代理人】
【識別番号】100114432
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 寛昭
(72)【発明者】
【氏名】田積 皓平
(72)【発明者】
【氏名】福山 英司
(72)【発明者】
【氏名】林 道弘
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 翔太
(72)【発明者】
【氏名】山下 洵史
【審査官】 佐藤 のぞみ
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−306171(JP,A)
【文献】 特開平09−095550(JP,A)
【文献】 特開平10−130416(JP,A)
【文献】 特開平10−081775(JP,A)
【文献】 特開2000−273232(JP,A)
【文献】 特開平09−188728(JP,A)
【文献】 特開2011−058008(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 255/00−255/10
C08L 23/00−23/36
C08L 51/00−51/10
C08J 9/00−9/42
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リプロピレン系樹脂、下記一般式(X)で表される構造を有する有機過酸化物、及び、芳香族ビニルモノマーを含む樹脂組成物を溶融混練し、且つ、前記有機過酸化物が前記ポリプロピレン系樹脂100質量部に対して0.3質量部以上1.0質量部以下含有され、前記芳香族ビニルモノマーが前記ポリプロピレン系樹脂100質量部に対して0.1質量部以上質量部以下含有されている前記樹脂組成物を溶融混練し、200℃での周波数分散動的粘弾性測定で求められる位相角が周波数0.01Hzにおいて30°以上70°以下となる改質ポリプロピレン系樹脂を作製し、
該改質ポリプロピレン系樹脂を含むポリプロピレン系樹脂組成物を押出発泡してポリプロピレン系樹脂発泡シートを作製するポリプロピレン系樹脂発泡シートの製造方法
【化1】
(但し、Rは、置換若しくは非置換のフェニル基又は置換若しくは非置換のアルコキシ基を表し、Rは1価の有機基を表している。)
【請求項2】
前記改質ポリプロピレン系樹脂の作製に用いられる前記有機過酸化物が、t−ブチルパーオキシベンゾエート、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、及び、t−ブチルパーオキシ2−エチルヘキシルカーボネートの内の何れかである請求項1記載のポリプロピレン系樹脂発泡シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリプロピレン系樹脂発泡シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリプロピレン系樹脂は、機械的性質及び耐薬品性などに優れることから、種々の成形品の原材料として利用されている。
ポリプロピレン系樹脂製の成形品は、一般的には、押出成形、ブロー成形、発泡成形などによって作製されている。
ポリプロピレン系樹脂は一般的に結晶性を有することから、溶融時の粘度及び溶融張力が低い。
このため、特にポリプロピレン系樹脂製の発泡成形品などを得ようとした場合には、連続気泡率の低い発泡シートが得られ難いという問題を有している。
【0003】
このような問題を解決するために、ポリプロピレン系樹脂をスチレンモノマーなどの芳香族ビニルモノマーで改質して、溶融特性を調整することが検討されている。
例えば、下記の特許文献1には、溶融状態で測定した伸長粘度が歪量の増加に伴い急激に上昇する性質(以下、“歪硬化性”ともいう)を有する改質ポリプロピレン系樹脂を得る方法について記載されている。
そして、この特許文献1には、実施例などにおいて、ポリプロピレン系樹脂100質量部に対してスチレンモノマーを10質量部以上反応させることで、スチレンモノマーを2質量部反応させただけでは発揮されなかった歪硬化性が発揮され、ロッド状の発泡体が良好な発泡状態で得られるようになることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平09−188728号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
改質により優れた歪硬化性が付与されたポリプロピレン系樹脂は、発泡成形などにおいて気泡が急激に成長する際に、気泡膜の急激な伸長による破膜が防止され、連続気泡率が低い発泡成形品の形成に有利であると考えられる。
しかしながら、従来、歪硬化性に優れた改質ポリプロピレン系樹脂を用いても、連続気泡率の低い発泡成形品を得難い場合がある。
これは改質された樹脂が歪硬化性を示すものの特定の粘弾性を示すものとなっていないことに起因する。
このような問題は、サイジングダイを用いてロッド状の発泡成形体や、ボード状の発泡成形体を押出発泡するような場合に比べ、サーキュラーダイなどからの押出発泡によって発泡シートを製造する際に顕著なものとなっている。
そして、発泡成形体、特に発泡シートの製造において、その形成に歪硬化性に優れた改質ポリプロピレン系樹脂を用いても連続気泡率の低い発泡シートとすることが困難になっているため、その対策が強く要望されているが、このような対策は、いまだ確立されていない。
【0006】
本発明は、このような要望を満足させることを課題としており、連続気泡率の低い発泡シートを容易に得ることができる改質ポリプロピレン系樹脂を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は上記課題を解決すべく鋭意検討を行ったところ、比較的緩やかな歪を与えた場合に特定の粘弾性を示す改質ポリプロピレン系樹脂が連続気泡率の低い発泡シートを得るのに適していることを見出した。
【0008】
即ち、上記課題を解決するための本発明は、
ポリプロピレン系樹脂、下記一般式(X)で表される構造を有する有機過酸化物、及び、芳香族ビニルモノマーを含む樹脂組成物を溶融混練し、且つ、前記有機過酸化物が前記ポリプロピレン系樹脂100質量部に対して0.3質量部以上1.0質量部以下含有され、前記芳香族ビニルモノマーが前記ポリプロピレン系樹脂100質量部に対して0.1質量部以上3質量部以下含有されている前記樹脂組成物を溶融混練し、200℃での周波数分散動的粘弾性測定で求められる位相角が周波数0.01Hzにおいて30°以上70°以下となる改質ポリプロピレン系樹脂を作製し、
該改質ポリプロピレン系樹脂を含むポリプロピレン系樹脂組成物を押出発泡してポリプロピレン系樹脂発泡シートを作製するポリプロピレン系樹脂発泡シートの製造方法である。
(但し、Rは、置換若しくは非置換のフェニル基又は置換若しくは非置換のアルコキシ基を表し、Rは1価の有機基を表している。)
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、発泡に適した改質ポリプロピレン系樹脂を得ることができ、連続気泡率の低い発泡シートを容易に得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施の形態について説明する。
(改質ポリプロピレン系樹脂)
本実施形態に係る改質ポリプロピレン系樹脂は、200℃での周波数分散動的粘弾性測定で求められる位相角が周波数0.01Hzにおいて30°以上70°以下を示す。
周波数分散動的粘弾性測定においては、低周波数領域に粘性項の影響が現れやすい。
即ち、本実施形態の改質ポリプロピレン系樹脂は、低周波数領域における位相角が小さく、分子間の“ズリ”が生じ難いものとなっている。
従って、本実施形態の改質ポリプロピレン系樹脂は、発泡シートを形成すべく発泡させるのに際して程良い伸びを示し、気泡の成長に伴って気泡膜が急激に薄くなってしまうことが抑制されることから連続気泡率の低い発泡シートを得るのに有利なものとなっている。
【0013】
なお、前記位相角については、下記のようにして求められるものである。
(位相角の求め方)
動的粘弾性測定は、粘弾性測定装置PHYSICA MCR301(Anton Paar社製)、温度制御システムCTD450にて測定する。
まず、試料となる改質ポリプロピレン系樹脂を熱プレス機にて、温度200℃×5分加熱の条件下で直径25mm、厚さ3mmの円盤サンプルを作製する。
次にサンプルを測定温度(200℃)に加熱した粘弾性測定装置のプレート上にセットし窒素雰囲気下にて5分間に亘って加熱し溶融させる。
その後、直径25mmのパラレルプレートにて間隔を2.0mmまで押しつぶし、プレートからはみ出した樹脂を取り除く。
更に測定温度±1℃に達してから5分間加熱後、歪み5%、周波数0.01〜100(Hz)、測定点の点数を21(5点/桁)、測定温度200℃の条件下にて、動的粘弾性測定を行い、位相角δ(°)を測定する。
なお、測定開始は高周波数側(100Hz)からとする。
そして、周波数0.01Hzにおける位相角δを求める。
【0014】
このような改質ポリプロピレン系樹脂は、(A)ポリプロピレン系樹脂、(B)有機過酸化物、及び、(C)芳香族ビニルモノマーを含む樹脂組成物を反応させることで得ることができる。
特に本実施形態に係る改質ポリプロピレン系樹脂は、前記有機過酸化物が前記ポリプロピレン系樹脂100質量部に対して0.1質量部以上1.5質量部以下含有され、且つ、前記芳香族ビニルモノマーが前記ポリプロピレン系樹脂100質量部に対して記芳香族ビニルモノマーが0.1質量部以上10質量部以下含有されている樹脂組成物を溶融混練することで容易に得ることができる。
【0015】
本実施形態に係る改質ポリプロピレン系樹脂は、外観が良好で強度に優れた発泡成形品の形成に適したものである。
本実施形態に係る改質ポリプロピレン系樹脂は、発泡させた際に内部で破泡が生じにくく、連続気泡率の低い外観が良好な発泡成形品を得ることができる。
また、本実施形態に係る改質ポリプロピレン系樹脂は、低い連続気泡率を有する発泡シートが得られ易いという利点を有する。
【0016】
本実施形態に係る改質ポリプロピレン系樹脂を得るために用いる前記樹脂組成物は、「(D)ラジカル捕捉剤」を含むことが好ましく、(A)〜(D)成分以外の「(E)他成分」を含んでいてもよい。
【0017】
以下、本実施形態に係る改質ポリプロピレン系樹脂を得るために用いられる各成分について説明する。
【0018】
[(A)ポリプロピレン系樹脂]
(A)ポリプロピレン系樹脂は、プロピレンモノマーを重合させることにより得られる重合体である。
本実施形態においては、プロピレンモノマーの単独重合体及びプロピレンモノマーを主成分とする重合成分の共重合体の内の1種以上を(A)ポリプロピレン系樹脂として前記樹脂組成物に含有させ得る。
前記共重合体は、例えば、重合成分100質量%中、プロピレンモノマーの含有量が50質量%以上であることが好ましく、プロピレンモノマーの含有量が80質量%以上であることがより好ましく、プロピレンモノマーの含有量が90質量%以上であることが特に好ましい。
共重合は、ランダム共重合であってもよく、ブロック共重合であってもよい。
ポリプロピレン系樹脂は、共重合体である場合、プロピレンモノマー以外の成分が、エチレンモノマー及び炭素数4〜8のαオレフィンモノマーの内の1種以上であることが好ましく、エチレンモノマー及び1−ブテンモノマーの内の1種以上であることがより好ましい。
【0019】
(A)ポリプロピレン系樹脂としては、具体的には、プロピレンホモポリマー、プロピレンランダムポリマー及びプロピレンブロックポリマー等が挙げられる。
(A)ポリプロピレン系樹脂は、プロピレンモノマーの単独重合体であることが好ましく、プロピレンホモポリマーであることが好ましい。
【0020】
(A)ポリプロピレン系樹脂は、メルトマスフローレイト(MFR)が、0.2g/10分以上であることが好ましい。
(A)ポリプロピレン系樹脂は、通常、メルトマスフローレイトの値が低いほど、改質ポリプロピレン系樹脂に高い溶融張力を与える上において有利である。
その一方で(A)ポリプロピレン系樹脂は、通常、メルトマスフローレイトの値が高いほど、樹脂組成物を押出機などで溶融混練する際に機器の負荷を軽減し得る。
このような点から、(A)ポリプロピレン系樹脂のメルトマスフローレイト(MFR)は、0.3g/10分以上であることがより好ましく、0.5g/10分以上であることが特に好ましい。
また、前記メルトマスフローレイト(MFR)は、15g/10分以下であることが好ましく、10g/10分以下であることがより好ましくは、5g/10分以下であることが特に好ましい。
なお、(A)ポリプロピレン系樹脂の前記MFRは、JIS K7210:1999のB法に準拠して、試験温度230℃、荷重21.18Nの条件で測定される。
【0021】
[(B)有機過酸化物]
本実施形態の(B)有機過酸化物は、ポリプロピレン系樹脂に対する水素引抜能を有するものであり、特に限定されず、例えば、ハイドロパーオキサイド、ジアルキルパーオキサイド、パーオキシエステル、ジアシルパーオキサイド、パーオキシジカーボネート、パーオキシケタール及びケトンパーオキサイド等が挙げられる。
【0022】
前記ハイドロパーオキサイドとしては、例えば、パーメタンハイドロパーオキシド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、及びt−ブチルハイドロパーオキサイド等が挙げられる。
前記ジアルキルパーオキサイドとしては、例えば、ジクミルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、及び、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)−ヘキシン−3等が挙げられる。
前記パーオキシエステルとしては、例えば、t−ブチルパーオキシ2−エチルヘキシルカーボネート、t−ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ヘキシルパーオキシベンゾエート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、t−ブチルパーオキシラウレート、t−ブチルパーオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシアセテート、2,5−ジメチル2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、及びt−ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート等が挙げられる。
前記ジアシルパーオキサイドとしては、例えば、ジベンゾイルパーキサイド、ジ(4−メチルベンゾイル)パーオキサイド、及びジ(3−メチルベンゾイル)パーオキサイド等が挙げられる。
前記パーオキシジカーボネートとしては、例えば、ジ(2−エチルヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート等が挙げられる。
前記パーオキシケタールとしては、例えば、1,1−ジ−t−ブチルパーオキシ−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ジ−t−ブチルパーオキシシクロヘキサン、2,2−ジ(t−ブチルパーオキシ)−ブタン、n−ブチル4,4−ジ-(t−ブチルパーオキシ)バレレート、及び2,2−ビス(4,4−ジ−t−ブチルパーオキシシクロヘキシル)プロパン等が挙げられる。
前記ケトンパーオキシドとしては、例えば、メチルエチルケトンパーオキサイド、アセチルアセトンパーオキサイド等が挙げられる。
【0023】
本実施形態の(B)有機過酸化物は、パーオキシエステル、ジアシルパーオキサイド、又は、パーオキシジカーボネートであることが好ましい。
前記有機過酸化物は、下記一般式(X)で表される構造を有していることが好ましい。
【0024】
【化1】
(但し、Rは、置換若しくは非置換のフェニル基又は置換若しくは非置換のアルコキシ基を表し、Rは1価の有機基を表している。)
【0025】
なお、一般式(X)の内、「R」がアルコキシ基である場合、「R」は、炭素数が3〜8個の分枝構造を有するアルキル基(例えば、イソプロピル、t−ブチル、t−ヘキシル、2−エチルヘキシルなど)に酸素原子が結合したアルコキシ基であることが好ましい。
「R」が2−エチルヘキシルに酸素原子が結合したアルコキシ基以外の場合、酸素原子は、2級炭素か3級炭素かに結合していることが好ましく下記一般式(Y)で表される構造を有していることが好ましい。
【0026】
【化2】
(但し、式中の「R11」、「R12」は、何れか一方がメチル基で他方が水素原子で、「R14」が炭素数1〜6の直鎖アルキル基を表し、「R13」が2級炭素か3級炭素であることを表している。)
【0027】
なお、「R」が置換又は非置換のフェニル基かの何れかである場合、「R」は、非置換のフェニル基か、又は、1つの水素原子がメチル基で置換された置換フェニルであることが好ましい。
【0028】
また、「R」も分枝アルキルやフェニルなどの嵩高い構造を有することが好ましい。
具体的には、下記一般式(Z)で表される構造を有していることが好ましい。
【0029】
【化3】
(但し、式中の「R21」は、炭素数1〜6の直鎖アルキル基か、又は、フェニル基を有する1価の有機基かの何れかであることを表している。)
【0030】
一般式(X)で表される構造を有する有機過酸化物としては、例えば、t−ブチルパーオキシ2−エチルヘキシルカーボネート、t−ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ヘキシルパーオキシベンゾエート、2,5-ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)へキサン、ジベンゾイルパーオキサイド、ジ(4−メチルベンゾイル)パーオキサイド、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、などが挙げられる。
【0031】
前記樹脂組成物において、(A)ポリプロピレン系樹脂100質量部に対して(B)有機過酸化物の含有量は0.1質量部以上1.5質量部以下である。
本実施形態の改質ポリプロピレン系樹脂は、(B)有機過酸化物の含有量が過少であると、樹脂組成物の反応性が低くなるため、良好な改質効果が発揮されないおそれがある。
本実施形態の改質ポリプロピレン系樹脂は、(B)有機過酸化物の含有量が過大であると、溶融混練時にポリプロピレン系樹脂の分解反応が起こり易くなるため弾性成分が小さくなり良好な改質効果が発揮されないおそれがある。
即ち、(B)有機過酸化物の含有量が0.1質量部以上1.5質量部以下であることにより、前記樹脂組成物は、溶融混練時における反応条件を高い精度でコントロールしなくても優れた溶融張力を有する改質ポリプロピレン系樹脂を作製することができる。
【0032】
本実施形態において、優れた溶融張力を有する改質ポリプロピレン系樹脂をより確実に作製するためには、(A)ポリプロピレン系樹脂100質量部に対して(B)有機過酸化物の含有量は、0.3質量部以上であることが好ましく、1.0質量部以下であることが好ましい。
【0033】
[(C)芳香族ビニルモノマー]
(C)芳香族ビニルモノマーは、(A)ポリプロピレン系樹脂に化学的結合をし、分岐構造を形成するとともにポリプロピレン系樹脂どうしを架橋する架橋剤として作用する成分である。
本実施形態の樹脂組成物に含有させる(C)芳香族ビニルモノマーは、1種のみでも、2種以上でもよい。
前記芳香族ビニルモノマーとしては、たとえばスチレン;o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、α−メチルスチレン、β−メチルスチレン、ジメチルスチレン、トリメチルスチレンなどのメチルスチレン;α−クロロスチレン、β−クロロスチレン、o−クロロスチレン、m−クロロスチレン、p−クロロスチレン、ジクロロスチレン、トリクロロスチレンなどのクロロスチレン;o−ブロモスチレン、m−ブロモスチレン、p−ブロモスチレン、ジブロモスチレン、トリブロモスチレンなどのブロモスチレン;o−フルオロスチレン、m−フルオロスチレン、p−フルオロスチレン、ジフルオロスチレン、トリフルオロスチレンなどのフルオロスチレン;o−ニトロスチレン、m−ニトロスチレン、p−ニトロスチレン、ジニトロスチレン、トリニトロスチレンなどのニトロスチレン;o−ヒドロキシスチレン、m−ヒドロキシスチレン、p−ヒドロキシスチレン、ジヒドロキシスチレン、トリヒドロキシスチレンなどのビニルフェノール;o−ジビニルベンゼン、m−ジビニルベンゼン、p−ジビニルベンゼンなどのジビニルベンゼン;o−ジイソプロペニルベンゼン、m−ジイソプロペニルベンゼン、p−ジイソプロペニルベンゼンなどのイソプロペニルベンゼンが挙げられる。
なかでも、芳香族ビニルモノマーは、スチレンであることが好ましい。
【0034】
前記樹脂組成物における(C)芳香族ビニルモノマーの含有量は、(A)ポリプロピレン系樹脂100質量部に対して、0.1質量部以上10質量部以下である。
改質ポリプロピレン系樹脂は、(C)芳香族ビニルモノマーの含有量が過少であると、溶融混練において分岐、架橋構造が十分に形成されず、また、過酸化物による樹脂の分解抑制も不十分になるため、良好な改質効果を発揮できないおそれがある。
改質ポリプロピレン系樹脂は、(C)芳香族ビニルモノマーの含有量が過大であると、溶融混練で(C)芳香族ビニルモノマーの一部が未反応となり易いため、改質ポリプロピレン系樹脂にオリゴマーを多く含有させたり、ミクロ相分離などを原因とした白濁の問題を有するものになり、結果、弾性成分が大きくなりノビが悪く良好な改質効果が得られないおそれがある。
即ち、(C)芳香族ビニルモノマーの含有量が0.1質量部以上10質量部以下であることにより、前記樹脂組成物は、溶融混練時における反応条件を高い精度でコントロールしなくても連続気泡率の低い発泡シートを得ることができる改質ポリプロピレン系樹脂を作製することができる。
【0035】
[(D)ラジカル捕捉剤]
前記改質ポリプロピレン系樹脂を得るために、前記樹脂組成物は、その反応性を制御すべく(D)ラジカル捕捉剤を含むことが好ましい。
(D)ラジカル捕捉剤の使用は、改質ポリプロピレン系樹脂の溶融張力を高くするのに有効である。
即ち、(D)ラジカル捕捉剤は、改質ポリプロピレン系樹脂を使って外観が良好な樹脂発泡体を得る上において有効なものである。
【0036】
(D)ラジカル捕捉剤は、アルキルラジカル種と反応可能である。
(D)ラジカル捕捉剤は、アルキルラジカルと結合した後の芳香族ビニルモノマーと結合可能であることが好ましい。
(D)ラジカル捕捉剤は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0037】
(D)ラジカル捕捉剤としては、キノン化合物(キノン類)、ナフトキノン化合物(ナフトキノン類)及びフェノチアジン化合物(フェノチアジン類)等が挙げられる。
【0038】
前記キノン化合物としては、p−ベンゾキノン、p−ナフトキノン、2−t−ブチル−p−ベンゾキノン、及び2,5−ジフェニル−p−ベンゾキノン等が挙げられる。前記ナフトキノン化合物としては、1,4−ナフトキノン、2−ヒドロキシ−1,4−ナフトキノン、及びビタミンK等が挙げられる。
前記フェノチアジン化合物としては、フェノチアジン、ビス−(α−メチルベンジル)フェノチアジン、3,7−ジオクチルフェノチアジン、及びビス−(α−ジメチルベンジル)フェノチアジン等が挙げられる。
【0039】
前記樹脂組成物において、(A)ポリプロピレン系樹脂100質量部に対する(D)ラジカル捕捉剤の含有量は好ましくは0.005質量部以上、より好ましくは0.05質量部以上である。
また、(A)ポリプロピレン系樹脂100質量部に対する(D)ラジカル捕捉剤の含有量は、好ましくは1質量部以下である。
(D)ラジカル捕捉剤の含有量が前記下限以上及び前記上限以下であると、改質ポリプロピレン系樹脂の溶融張力が効果的に高くなり、発泡体の外観がより一層良好になる。
【0040】
これら以外に樹脂組成物に含有させる(E)他成分としては、各種添加剤が挙げられる。
【0041】
[(E)添加剤]
(E)添加剤は、様々な目的に応じて適宜用いられ、特に限定されない。
(E)添加剤の具体例としては、耐候性安定剤、帯電防止剤、酸化防止剤、消臭剤、光安定剤、結晶核剤、顔料、滑材、すべり性の付与又はアンチブロッキング性の付与を目的とした界面活性剤、無機充填剤、並びに無機充填剤の分散性を向上させる分散性向上剤等が挙げられる。
前記分散性向上剤としては、高級脂肪酸、高級脂肪酸エステル及び高級脂肪酸アミド等が挙げられる。
【0042】
前記の(E)添加剤は、溶融混練される前、又は、溶融混練時に前記樹脂組成物に含有させてもよい。
また、(E)添加剤は、溶融混練後に添加して改質ポリプロピレン系樹脂に含有させるようにしてもよい。
(E)添加剤は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0043】
(改質ポリプロピレン系樹脂の製造方法)
改質ポリプロピレン系樹脂の製造方法では、(A)ポリプロピレン系樹脂100質量部と、(B)有機過酸化物0.1質量部以上1.5質量部以下と、(C)芳香族ビニルモノマー0.1質量部以上10質量部以下とを含む樹脂組成物を溶融混練して、改質ポリプロピレン系樹脂を得る。
前記樹脂組成物の溶融混練時に、前記樹脂組成物を溶融状態とするために、前記樹脂組成物は加熱される。
前記樹脂組成物は、その溶融混練時における加熱により反応する。
即ち、前記加熱により有機過酸化物がラジカルを発生させ、当該ラジカルがポリプロピレン系樹脂の三級炭素に結合している水素を攻撃してアルキルラジカルを形成させる。
なお、そのままの状態ではβ開裂が生じポリプロピレン系樹脂の分子切断が生じることになるが本実施形態においては芳香族ビニルモノマーが当該箇所に結合し、分岐構造(架橋構造)を形成する。
【0044】
(C)芳香族ビニルモノマーは、その添加効果を顕著なものとする観点から、(A)ポリプロピレン系樹脂と(B)有機過酸化物とを混合して混合物を得た後に、得られた混合物に添加することが好ましい。
但し、(A)ポリプロピレン系樹脂と(B)有機過酸化物と(C)芳香族ビニルモノマーとは、一括で混合されてもよい。
(D)ラジカル捕捉剤は、(C)芳香族ビニルモノマーを添加する前に添加されてもよく、(C)芳香族ビニルモノマーを添加した後に添加されてもよく、他の成分と一括で混合されてもよい。
(E)添加剤は、(C)芳香族ビニルモノマーを添加する前に添加されてもよく、(C)芳香族ビニルモノマーを添加した後に添加されてもよく、他の成分と一括で混合されてもよい。
【0045】
なお、樹脂組成物の溶融混練は、ニーダー、バンバリーミキサー、押出機などの一般的な機器を用いて実施することができる。
前記樹脂組成物を溶融混練する際には、押出機を用いることが好ましい。
押出機に前記樹脂組成物を供給して、押出機内で架橋反応をさせて、改質ポリプロピレン系樹脂を形成しつつ、押出機から改質ポリプロピレン系樹脂を押し出すことが好ましい。
押出機に前記樹脂組成物を連続的に供給し、押出機から改質ポリプロピレン系樹脂を連続的に押し出すことにより、改質ポリプロピレン系樹脂が効率的に得られる。
【0046】
前記押出機としては、単軸押出機及び二軸押出機等が挙げられる。
前記押出機は、単独で、又は複数連結したタンデム型の押出機として、改質ポリプロピレン系樹脂の製造に用いることができる。
特に、ベース樹脂であるポリプロピレン系樹脂に対して、他の成分の分散性及び反応性をより一層高める観点からは、二軸押出機が好ましい。
【0047】
(樹脂発泡体)
本実施形態に係る改質ポリプロピレン系樹脂は、樹脂発泡体を得るために好適に用いることができる。
本実施形態に係る改質ポリプロピレン系樹脂を用いることで、外観が良好な樹脂発泡体を得ることができる。
前記樹脂発泡体は、シート状に押出発泡されてなるポリプロピレン系樹脂発泡シート(以下、単に「発泡シート」ともいう)が好ましい。
【0048】
前記発泡シートは、前記改質ポリプロピレン系樹脂を発泡させることにより得られ、例えば、発泡剤を用いて前記改質ポリプロピレン系樹脂を発泡させることで得られる。
前記発泡シートは、改質ポリプロピレン系樹脂以外にもポリマー成分を含んでいても良い。
該ポリマー成分としては、ポリプロピレン系樹脂が好ましい。
このポリプロピレン系樹脂としては、改質ポリプロピレン系樹脂の出発物質として前記に例示したものが挙げられる。
改質ポリプロピレン系樹脂とともに発泡シートを構成するポリプロピレン系樹脂としては、多段重合法によって得られる軟質系のものが好ましい。
即ち、前記ポリプロピレン系樹脂としては、プロピレンの単独重合又はプロピレンとエチレンとのランダム共重合を行う第1段階と、該第1段階後にエチレンと1種類以上の炭素数3以上のα−オレフィンとの共重合を行う第2段階との少なくとも2段階の工程を経て得られるものが好ましい。
なお、改質ポリプロピレン系樹脂以外のポリマー成分を発泡シートに含有させる場合、改質ポリプロピレン系樹脂と他のポリマー成分とは、例えば、8:2〜2:8(改質ポリプロピレン系樹脂:他のポリマー)の質量比率で発泡シートに含有させることができる。
なお、発泡シートの形成に改質ポリプロピレン系樹脂以外に他のポリマー成分を用いる場合、当該発泡シートに含有させる全てのポリマー(改質ポリプロピレン系樹脂を含む)を混合した混合物についても改質ポリプロピレン系樹脂と同様に200℃での周波数分散動的粘弾性測定で求められる位相角が周波数0.01Hzにおいて30°以上70°以下を示すことが好ましい。
【0049】
前記発泡剤は特に限定されない。
前記発泡剤は、化学的発泡剤であってもよく、物理的発泡剤であってもよい。
前記発泡剤は、易揮発性発泡剤であることが好ましい。
前記発泡剤の沸点は、前記改質ポリプロピレン系樹脂の軟化温度以下であることが好ましい。
前記発泡剤としては、プロパン、n−ブタン、i−ブタン、n−ペンタン、i−ペンタン、シクロペンタン等の炭化水素やこれらのハロゲン化物、炭酸ガス及び窒素が挙げられる。
前記発泡剤は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0050】
前記発泡シートの密度は、好ましくは0.025g/cm以上、より好ましくは0.045g/cm以上である。
また、前記発泡シートの密度は、好ましくは0.5g/cm以下、より好ましくは0.25g/cm以下である。
前記発泡シートの密度が前記下限以上であると、発泡シートの剛性及び耐熱性が高くなる。
前記密度が前記上限以下であると、発泡シートの断熱性が高くなる。
また、一般に、高い発泡倍率で発泡させて発泡シートの密度を低くすると、発泡シートの外観が悪くなる傾向がある。
これに対して、前記改質ポリプロピレン系樹脂を用いることで、高い発泡倍率で発泡させて発泡シートの密度を低くしたとしても、外観が良好な発泡シートを得ることができる。
【0051】
前記発泡シートの密度は、JIS K7222:1999「発泡プラスチックおよびゴム−見掛け密度の測定」に記載される方法により測定され、具体的には下記のような方法で測定される。
(密度測定方法)
発泡シートから、100cm以上の試料を元のセル構造を変えないように切断し、この試料をJIS K7100:1999の記号23/50、2級環境下で16時間状態調節した後、その寸法、質量を測定して、密度を下記式により算出する。
見掛け密度(g/cm)=発泡体の質量(g)/発泡体の体積(cm
なお、試験片の寸法測定には、例えば、Mitutoyo Corporation社製「DIGIMATIC」CD−15タイプを用いることができる。
【0052】
前記発泡シートの連続気泡率は好ましくは30%以下、より好ましくは20%以下である。
前記連続気泡率が低いほど、発泡シートの外観が良好になり、かつ発泡シートの強度が高くなる。
なお、連続気泡率とは発泡シートの気泡構造において、連続気泡の占める割合を意味する。セル(気泡構造の単位)が隣接するセルと連続している気泡を連続気泡といい、また各セルが完全に独立している気泡を独立気泡という。
【0053】
前記発泡シートの連続気泡率は、以下の方法で測定される。
すなわち、発泡シートから、縦25mm、横25mmのシート状サンプルを複数枚切り出し、切り出したサンプルを隙間があかないようにして重ね合わせて厚み25mmの測定用試料とし、この測定用試料の外寸をミツトヨ社製「デジマチックキャリパ」を使用して1/100mmまで測定し、見掛けの体積(cm)を求める。
次に空気比較式比重計1000型(東京サイエンス社製)を使用して、1−1/2−1気圧法により測定用試料の体積(cm)を求める。
これらの求めた値と下記式とにより連続気泡率(%)を計算し、試験数5個の平均値を求める。
なお、測定は、測定用試料をJIS K7100−1999 記号23/50、2級の環境下で16時間状態調節した後、JIS K7100−1999 記号23/50、2級の環境下で行う。
また、空気比較式比重計は、標準球(大28.9cc 小8.5cc)にて補正を行う。

連続気泡率(%)=100×(見掛け体積−空気比較式比重計での測定体積)/見掛け体積
【0054】
なお、本実施形態の改質ポリプロピレン系樹脂を含むポリプロピレン系樹脂組成物は、サーキュラーダイなどを使って押出発泡させることで高発泡倍率で外観美麗な発泡シートを得ることができる。
サイジングダイでロッド状の発泡体やボード状の発泡体を作製する場合、押出機内で溶融状態となったポリプロピレン系樹脂組成物は、ダイによって冷却されて特定の形状となって押し出される。
このとき、押出機からサイジングダイに押出されたポリプロピレン系樹脂組成物は、ダイ内部の空間に充満する状態になるまでしか発泡できず、発泡がある程度規制され状態となる。
また、サイジングダイから押出されるロッド状やボード状の発泡成形品とサイジングダイの内壁面との間に生じる摩擦抵抗によりダイ内部においてはある程度の圧力が生じる。
したがって、押出機からサイジングダイに押出されたポリプロピレン系樹脂組成物は、サーキュラーダイやフラットダイを使って発泡シートを作製する場合と違って、一気に圧力が解放されるわけではない。
一方でポリプロピレン系樹脂組成物は、サーキュラーダイなどでの発泡シートを作製する際には、全くの開放空間へ押出され、ダイスリットから吐出された瞬間に急激な体積膨張(発泡)を生じる。
従って、発泡シートの製造時においては、ロッド状やボード状の発泡成形品を押出発泡させる場合と違って、ポリプロピレン系樹脂組成物がダイスリットにおいて高速でせん断を受けるとともに気泡膜の伸長スピードも早くなる。
そのため、従来の改質ポリプロピレン系樹脂は、ロッド状やボード状の発泡成形品を良好な発泡状態にできるものであっても発泡シートを外観美麗で高発泡倍率とすることは難しい。
本実施形態の改質ポリプロピレン系樹脂は、溶融時において特定の粘弾性を示すことから、外観美麗で高発泡倍率の発泡シートを得ることができる。
【0055】
なお、本実施形態に係る改質ポリプロピレン系樹脂を作製するのに際しては、一部に、きわだって高分子量化したものを発生させる場合がある。
このような高分子量化物は、他のものに比べて熱溶融挙動が大きく異なるため、発泡シートに過度に含まれると当該発泡シートの外観が損なわれるおそれがある。
この高分子量化物が改質ポリプロピレン系樹脂や発泡シートにどのような割合で含まれているかは、いわゆる「ゲル含有量」によって求めることができる。
発泡シートの形成に用いられる改質ポリプロピレン系樹脂、及び、発泡シートは、ゲル含有量が20wt%以下であることが好ましく、5wt%以下であることが好ましい。
ただし、ゲル含有量を「0wt%」とするためには、改質ポリプロピレン系樹脂の製造条件が狭い範囲に限られるおそれがある。
そのような観点からは、前記ゲル含有量は、0.5〜5wt%程度が好ましいと考えられる。
【0056】
なお、改質ポリプロピレン系樹脂や発泡シートのゲル含有量は、下記のような方法で求めることができる。
[ゲル含有量測定方法]
試料は、測定対象がペレットである場合はそのまま使用し、発泡シートである場合は1cm角程度にカットする。
そして、これらから測定試料0.8gを精秤する。
ソックスレー抽出装置を用いてキシレン80mL中で試料を3時間沸騰加熱後、液が冷めないうちに200メッシュ金網でろ過する。
金網上の樹脂不溶物をドラフト内で自然乾燥させてキシレンを蒸発させ、最後に樹脂不溶物を金網ごと恒温乾燥器で120℃、2時間乾燥させる。
デシケーター内で放冷後金網ごと質量を測定し、ゲル含有量(wt%)を次式で算出する。

ゲル含有量(wt%)=金網上の不溶樹脂質量(g)/試料質量(0.8g) ×100

(金網上の不溶樹脂質量=ろ過乾燥後の金網質量−ろ過前金網のみ質量)
【0057】
また、改質ポリプロピレン系樹脂や発泡シートは、特定の溶融張力を示す状態になっていることが好ましく、具体的には、230℃において4cN以上25cN以下の溶融張力を示すことが好ましい。
【0058】
なお、改質ポリプロピレン系樹脂や発泡シートの溶融張力は、下記のような方法で求めることができる。
[溶融張力測定方法]
試料は、測定対象がペレットの場合はそのまま使用し、発泡シートの場合は当該発泡シートを株式会社東洋精機製作所製のペレタイザ「ハンドトゥルーダ 型式PM−1」を使用し、シリンダ温度220℃、試料充填から押し出し開始までの待機時間2.5分の条件でペレット化したものを用いる。
溶融張力は、ツインボアキャピラリ−レオメ−タ−Rheologic5000T(イタリア チアスト社製)を用いて測定する。
すなわち、試験温度230℃に加熱された径15mmのバレルに測定試料樹脂を充填後、5分間予熱したのち、上記測定装置のキャピラリーダイ(口径2.095mm、長さ8mm、流入角度90度(コニカル))からピストン降下速度(0.07730mm/s)を一定に保持して紐状に押出しながら、この紐状物を上記キャピラリーダイの下方27cmに位置する張力検出のプーリーに通過させた後、巻取りロールを用いて、その巻取り速度を初速3.94388mm/s、加速度12mm/sで徐々に増加させつつ巻き取っていき、紐状物が切断する直前の極大値と極小値の平均を試料の溶融張力とする。
なお、張力チャートに極大点が1個しかない場合はその極大値を溶融張力とした。
【0059】
本実施形態の発泡シートは、そのままの状態でも緩衝シートなどの発泡成形品として有用であるとともに熱成形などによって立体形状が付与された発泡成形品の原材料としても有用である。
【0060】
該熱成形としては、例えば、真空成形、圧空成形、真空圧空成形、マッチモールド成形、プレス成型などが挙げられる。
この熱成形により作製する具体的な製品としては、容器が好ましい。
このようにして作製される発泡樹脂製容器は、軽量且つ高強度であるばかりでなく大量生産が容易であることから各種の包装用容器として利用されることが好ましい。
また、発泡樹脂製容器は、断熱性などにおいても優れることから食品包装に用いられることが好ましい。
【0061】
本実施形態の発泡成形品の表面には、用途に応じて、不織布、金属箔、化粧紙、印刷フィルム等を積層してもよい。
なお、本実施形態においては、改質ポリプロピレン系樹脂やその作製方法について上記のような例示を行っているが、本発明は上記例示に限定されるものではない。
また、本実施形態においては、改質ポリプロピレン系樹脂として作製する樹脂発泡体としてもっぱら発泡シートを例示しているが、本発明の改質ポリプロピレン系樹脂は発泡シート以外の樹脂製品に広く活用可能なものである。
【実施例】
【0062】
以下に実施例を示して、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例示に限定されるものでもない。
(実施例1)
(1)改質ポリプロピレン系樹脂の作製
ポリプロピレン系樹脂(ホモポリプロピレン樹脂、プライムポリマー社製「E200GP」、MFR=2.0g/10分、密度=0.9g/cm)100質量部と、t−ブチルパーオキシベンゾエート(日油社製「パーブチルZ」、1分間半減期温度:166.8℃)0.3質量部とをリボンブレンダーにて攪拌混合して、混合物を得た。
得られた混合物を、口径が30mmの二軸押出機(L/D=47)に供給し、液体注入ポンプを用いて二軸押出機の途中から、スチレンモノマーをポリプロピレン系樹脂100質量部に対する割合が0.5質量部となるように供給した。
フィード部の設定温度を160℃、スチレン注入位置までの温度T1を200℃、それ以降の温度T2を200℃に設定し、回転数72rpmの条件にて二軸押出機中で、樹脂組成物を溶融混練させ、第二押出機の先端に取り付けた口径4mm、ランド5mm、孔数2個のダイスから、5kg/hの吐出量で、樹脂組成物をストランド状に押し出した。
次いで、押し出されたストランド状の樹脂組成物を、30℃の水を収容した長さ2mの冷却水槽中を通過させて、冷却した。
冷却されたストランド状の樹脂組成物を、ペレタイザーでカットして、改質ポリプロピレン系樹脂のペレットを得た。
【0063】
(2)発泡体の作製
得られた改質ポリプロピレン系樹脂100質量部と、気泡調整剤(大日精化工業社製「ファインセルマスターHCPO410K」)0.2質量部とをドライブレンドして、混合物を得た。
口径φ50mmの第1押出機及び口径φ65mmの第2押出機を備えたタンデム押出機において、口径φ50mmの第1の押出機に、得られた混合物をホッパーを通じて供給し、加熱溶融させた。
その後、発泡剤としてブタン(イソブタン/ノルマルブタン=70/30)を第1押出機に圧入し、前記混合物とともに溶融混合させた。
次いで、この溶融混合物を口径65mmの第2の押出機に移送して押出発泡に適した温度に均一に冷却した後、口径60mmの円筒状ダイから吐出量30kg/時間で押出発泡させて、円筒状発泡体を得た。
得られた円筒状発泡体を内部が約20℃の水で冷却されているφ170のマンドレル上を沿わせ、またその外面をその径よりも大きいエアリングによりエアーを吹き付けることにより冷却成形し、円周上の1点でカッターにより切開して、帯状の発泡シートを得た。
【0064】
(実施例2〜12、比較例1〜6)
使用したポリプロピレン系樹脂、スチレン量、有機過酸化物の種類と量、二軸押出機の設定温度(T1、T2)を以下の表どおりに変更した以外は上記と同様にして実施した。
なお、表の「E111G」とは、以下のようなポリプロピレン系樹脂を意味する。
また、表の有機過酸化物の詳細については下記の通り。

「E111G」:
ホモポリプロピレン樹脂、プライムポリマー社製「E111G」、MFR=0.5g/10分、密度=0.9g/cm

「t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート:
化薬アクゾ社製、商品名「カヤカルボンBIC−75」、1分間半減期温度:156℃

「t−ブチルパーオキシ2-エチルヘキシルカーボネート」:
化薬アクゾ社製、商品名「トリゴノックス117」、1分間半減期温度:156℃

「2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)−ヘキサン」
日油社製、商品名「パーヘキサ25B」、1分間半減期温度:179.8℃

「1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン」:
日油社製、商品名「パーブチルC」、1分間半減期温度:153.8℃
【0065】
【表1】
【0066】
(1)改質ポリプロピレン系樹脂との混合樹脂の作製
(実施例13)
実施例11で得られた改質ポリプロピレン系樹脂と軟質系ポリプロピレン樹脂(サンアロマー社製、商品名「Q100F」、MFR:0.6g/10分、密度0.88g/cm)とをブレンド比8:2になるようにしてリボンブレンダーにて攪拌混合し、混合物を得た。
東洋精機製作所社製の商品名「ラボプラストミル」(型式:4M150(本体)に型式:2D15W(2軸押出機、口径:15mm、L/D:17)と直径3mmの円状の開口を有する金型を取り付けたもの)」を使用して2軸押出機の全ゾーンの温度を230℃に設定するとともにスクリューの回転数を65rpmに固定して、前記混合物を溶融混練して1.0kg/hの吐出量でストランド状に押し出した。
次いで、押し出されたストランド状の樹脂組成物を、30℃の水を収容した長さ1mの冷却水槽中を通過させて冷却した。
冷却されたストランド状の樹脂組成物をペレタイザーでカットして改質ポリプロピレン系樹脂を含む樹脂組成物ペレットを得た。
【0067】
(2)発泡体の作製
発泡体の作製については実施例1と同様にして作製した。
【0068】
(実施例14〜17)
改質ポリプロピレン系樹脂に混合する樹脂のブレンド比、混合する樹脂を以下の表どおりに変更した以外は上記と同様にして実施した。
【0069】
【表2】
【0070】
得られた樹脂組成物ペレット、及び、発泡シートについての特性評価を行った結果を表3に示す。
なお、位相角は、200℃での周波数分散動的粘弾性測定で求めた周波数0.01Hzでの値である。
【0071】
なお、表における発泡シートの外観についての判定基準は以下の通りである。
[外観]
◎:発泡シート表面に凹凸が目視で確認されず、表面状態(平滑性)が良好である。
○:発泡シート表面に凹凸が目視で確認されるが、実用上問題ないレベルである。
×:発泡シート表面に凹凸が目視で確認できる、または破泡がひどく表面状態が悪い。
【0072】
【表3】
【0073】
なお、実施例17においては、改質ポリプロピレン系樹脂と「E200GP」との混合物の位相角は76.1°となり、見掛け密度や連続気泡率が他の実施例の発泡シートに劣るものとなっていた。また、実施例17の発泡シートは、外観も他の実施例の発泡シートに劣るものとなっていた。このことから改質ポリプロピレン系樹脂とは別のポリマーを改質ポリプロピレン系樹脂とともに発泡シートの原材料とする場合には、単に改質ポリプロピレン系樹脂の位相角が30°以上70°以下であるばかりでなく、発泡シートを構成する全てのポリマーを混合した混合物の位相角が30°以上70°以下であることが連続気泡率の低い発泡シートを得る上において特に有利になることがわかる。
【0074】
以上のことからも、本発明によれば連続気泡率の低い発泡シートを得ることが容易な改質ポリプロピレン系樹脂並びに良好な発泡状態の発泡シートが得られることがわかる。