(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
油圧ポンプから供給される作動油によって動作する作業機を有するハイブリッド作業機械に搭載され、かつ発生した動力で発電電動機及び前記油圧ポンプを駆動する内燃機関を制御する制御装置において、
前記内燃機関の運転中に前記発電電動機が電力を発生する場合、前記発電電動機に電力を発生させるために必要なトルクを時間の経過とともに増加させ、かつ前記油圧ポンプが吸収する吸収トルクを低下させる処理部を含み、
前記処理部は、前記発電電動機が発生した電力を蓄電する蓄電装置に蓄電されている電力量に基づいて、前記発電電動機に電力を発生させるために必要なトルクを時間の経過とともに増加させる割合を変更する、
ハイブリッド作業機械の機関制御装置。
油圧ポンプによって動作する作業機を有するハイブリッド作業機械に搭載され、かつ発生した動力で発電電動機及び前記油圧ポンプを駆動する内燃機関を制御するにあたり、
前記内燃機関の運転中に前記発電電動機が電力を発生するか否かを判定することと、
前記内燃機関の運転中に前記発電電動機が電力を発生する場合、前記発電電動機に電力を発生させるために必要なトルクを時間の経過とともに増加させ、かつ前記油圧ポンプが吸収する吸収トルクを低下させることと、
前記発電電動機が発生した電力を蓄電する蓄電装置に蓄電されている電力量に基づいて、前記発電電動機に電力を発生させるために必要なトルクを時間の経過とともに増加させる割合を変更することと、
を含む、ハイブリッド作業機械の機関制御方法。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明を実施するための形態(実施形態)につき、図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0017】
<作業機械の全体構成>
図1は、実施形態に係る作業機械である油圧ショベル1を示す斜視図である。油圧ショベル1は、車両本体2と作業機3とを有する。車両本体2は、下部走行体4と上部旋回体5とを有する。下部走行体4は、一対の走行装置4a,4aを有する。各走行装置4a,4aは、それぞれ履帯4b、4bを有する。各走行装置4a,4aは、走行モータ21を有する。
図1に示される走行モータ21は、左側の履帯4bを駆動する。
図1には記載されていないが、油圧ショベル1は、右側の履帯4bを駆動する走行モータも有している。左側の履帯4bを駆動する走行モータを左走行モータ、右側の履帯4bを駆動する走行モータを右走行モータと称する。右走行モータと左走行モータとは、それぞれ履帯4b、4bを駆動することによって、油圧ショベル1を走行又は旋回させる。
【0018】
旋回体の一例である上部旋回体5は、下部走行体4上に旋回可能に設けられている。油圧ショベル1は、上部旋回体5を旋回させるための旋回モータによって旋回する。旋回モータは、電力を回転力に変換する電動モータであってもよいし、作動油の圧力(油圧)を回転力に変換する油圧モータであってもよいし、油圧モータと電動モータとの組合せであってもよい。実施形態において、旋回モータは電動モータである。
【0019】
上部旋回体5は、運転室6を有する。さらに、上部旋回体5は、燃料タンク7と作動油タンク8と機関室9とカウンタウェイト10とを有する。燃料タンク7は、エンジンを駆動するための燃料を貯める。作動油タンク8は、油圧ポンプからブームシリンダ14、アームシリンダ15及びバケットシリンダ16の油圧シリンダ、走行モータ21等の油圧機器へ吐出される作動油を貯める。機関室9は、油圧ショベルの動力源となる機関及び油圧機器に作動油を供給する油圧ポンプ等の機器を収納する。カウンタウェイト10は、機関室9の後方に配置される。上部旋回体5の上部には、手すり5Tが取り付けられている。
【0020】
作業機3は、上部旋回体5の前部中央位置に取り付けられる。作業機3は、ブーム11、アーム12、バケット13、ブームシリンダ14、アームシリンダ15及びバケットシリンダ16を有する。ブーム11の基端部は、上部旋回体5に対してピン結合される。このような構造により、ブーム11は、上部旋回体5に対して動作する。
【0021】
ブーム11は、アーム12とピン結合される。より詳細には、ブーム11の先端部とアーム12の基端部とがピン結合される。アーム12の先端部とバケット13とは、ピン結合される。このような構造により、アーム12はブーム11に対して動作する。また、バケット13は、アーム12に対して動作する。
【0022】
ブームシリンダ14、アームシリンダ15及びバケットシリンダ16は、油圧ポンプ18から吐出された作動油によって駆動する油圧シリンダである。ブームシリンダ14は、ブーム11を動作させる。アームシリンダ15は、アーム12を動作させる。バケットシリンダ16は、バケット13を動作させる。このように、作業機3は、ブームシリンダ14、アームシリンダ15及びバケットシリンダ16を介して油圧ポンプ18から供給される作動油によって動作する。
【0023】
<油圧ショベル1の駆動システム1PS>
図2は、実施形態に係る油圧ショベル1の駆動システムを示す概略図である。実施形態において、油圧ショベル1は、内燃機関17と、内燃機関17によって駆動されて発電する発電電動機19と、電力を蓄える蓄電装置22と、発電電動機19が発電した電力又は蓄電装置22から放電される電力が供給されて駆動する電動機とが組み合わせられたハイブリッド作業機械である。より詳細には、油圧ショベル1は、上部旋回体5を電動機24(以下、適宜旋回モータ24と称する)で旋回させる。
【0024】
油圧ショベル1は、内燃機関17、油圧ポンプ18、発電電動機19及び旋回モータ24を有する。内燃機関17は、油圧ショベル1の動力源である。実施形態において、内燃機関17はディーゼルエンジンである。発電電動機19は、内燃機関17の出力シャフト17Sに連結されている。このような構造により、発電電動機19は、内燃機関17によって駆動されて電力を発生する。また、発電電動機19は、内燃機関17の発生する動力が不足したとき、蓄電装置22から供給される電力によって駆動されて、内燃機関17を補助する。
【0025】
実施形態において、内燃機関17はディーゼルエンジンであるが、これに限定されない。発電電動機19は、例えば、SR(スイッチドリラクタンス)モータであるが、これに限定されない。実施形態において、発電電動機19は、ロータ19Rが内燃機関17の出力シャフト17Sに直結されているが、このような構造に限定されない。例えば、発電電動機19は、ロータ19Rと内燃機関17の出力シャフト17SとがPTO(Power Take Off)を介して接続されてもよい。発電電動機19のロータ19Rは、内燃機関17の出力シャフト17Sに接続された減速機等の伝達手段に連結されて、内燃機関17によって駆動されてもよい。実施形態において、内燃機関17と発電電動機19との組合せが、油圧ショベル1の動力源となる。内燃機関17と発電電動機19との組合せを、適宜、機関36と称する。機関36は、内燃機関17と発電電動機19とが組み合わされて、作業機械である油圧ショベル1が必要とする動力を発生する、ハイブリッド方式の機関である。
【0026】
油圧ポンプ18は、油圧機器に作動油を供給し、例えば作業機3を動作させる。本実施形態において、油圧ポンプ18は、例えば、斜板式油圧ポンプのような可変容量型油圧ポンプが用いられる。油圧ポンプ18の入力部18Iは、発電電動機19のロータ19Rに連結された動力伝達シャフト19Sに連結されている。このような構造により、油圧ポンプ18は、内燃機関17によって駆動される。
【0027】
駆動システム1PSは、旋回モータ24を駆動させるための電動駆動システムとして、蓄電装置22及び旋回モータ制御装置24Iを有する。実施形態において、蓄電装置22はキャパシタ、より詳細には電気二重層キャパシタであるが、これに限定されず、例えば、ニッケル水素電池、リチウムイオン電池及び鉛蓄電池のような二次電池であってもよい。旋回モータ制御装置24Iは、例えばインバータである。
【0028】
発電電動機19が発電した電力又は蓄電装置22から放電される電力が、電力ケーブルを介して旋回モータ24に供給されて、
図1に示す上部旋回体5を旋回させる。すなわち、旋回モータ24は、発電電動機19から供給(発電)される電力又は蓄電装置22から供給(放電)される電力で力行動作することで上部旋回体5を旋回させる。旋回モータ24は、上部旋回体5が減速する際に回生動作することによって電力を蓄電装置22に供給(充電)する。また、発電電動機19は、自身が発電した電力を蓄電装置22に供給(充電)する。すなわち、蓄電装置22は、発電電動機19が発電した電力を蓄えることもできる。
【0029】
発電電動機19は、内燃機関17によって駆動されて電力を発生したり、蓄電装置22から供給される電力によって駆動されて内燃機関17を駆動したりする。ハイブリッドコントローラ23は、発電電動機制御装置19Iを介して発電電動機19を制御する。すなわち、ハイブリッドコントローラ23は、発電電動機19を駆動するための制御信号を生成して発電電動機制御装置19Iに与える。発電電動機制御装置19Iは、制御信号に基づいて発電電動機19に電力を発生させたり(回生)、発電電動機19に動力を発生させたり(力行)する。発電電動機制御装置19Iは、例えばインバータである。
【0030】
発電電動機19には、回転センサ25mが設けられている。回転センサ25mは、発電電動機19の回転速度、すなわち、ロータ19Rの単位時間あたりの回転数を検出する。回転センサ25mは、検出した回転速度を電気信号に変換して、ハイブリッドコントローラ23に出力する。ハイブリッドコントローラ23は、回転センサ25mが検出した発電電動機19の回転速度を取得し、発電電動機19及び内燃機関17の運転状態の制御に用いる。回転センサ25mは、例えば、レゾルバ又はロータリーエンコーダ等が用いられる。実施形態において、発電電動機19の回転速度と内燃機関17の回転速度とは、同一の回転速度となる。実施形態において、回転センサ25mは、発電電動機19のロータ19Rの回転数を検出し、ハイブリッドコントローラ23が回転数を回転速度に変換するものであってもよい。発電電動機19の回転速度は、内燃機関17の回転速度検出センサ17nによって検出された値で代用できる。
【0031】
旋回モータ24には、回転センサ25mが設けられている。回転センサ25mは、旋回モータ24の回転速度を検出する。回転センサ25mは、検出した回転速度を電気信号に変換して、ハイブリッドコントローラ23に出力する。旋回モータ24は、例えば、埋め込み磁石同期電動機が用いられる。回転センサ25mは、例えば、レゾルバ又はロータリーエンコーダ等が用いられる。
【0032】
ハイブリッドコントローラ23は、発電電動機19、旋回モータ24、蓄電装置22、旋回モータ制御装置24I及び後述する発電電動機制御装置19Iに備えられた、サーミスタ又は熱電対等の温度センサによる検出値の信号を取得する。ハイブリッドコントローラ23は、取得した温度に基づいて、蓄電装置22等の各機器の温度を管理するとともに、蓄電装置22の充放電制御、発電電動機19による発電制御/内燃機関17の補助制御、及び旋回モータ24の力行制御/回生制御を実行する。また、ハイブリッドコントローラ23は、実施形態に係る機関制御方法を実行する。
【0033】
蓄電装置22は変圧器22Cと接続されている。変圧器22Cは、発電電動機制御装置19I及び旋回モータ制御装置24Iと接続されている。変圧器22Cは、発電電動機制御装置19I及び旋回モータ制御装置24Iと直流電力を授受する。ハイブリッドコントローラ23は、変圧器22Cと発電電動機制御装置19I及び旋回モータ制御装置24Iとの間で直流電力を授受させ、また変圧器22Cと蓄電装置22との間で直流電力を授受させる。
【0034】
駆動システム1PSは、
図1に示される車両本体2に設けられた運転室6内のオペレータ着座位置に対して左右の位置に設けられる操作レバー26R,26Lを有する。操作レバー26R,26Lは、作業機3の操作及び油圧ショベル1の走行の操作を行う装置である。操作レバー26R,26Lは、それぞれの操作に応じて作業機3及び上部旋回体5を動作させる。
【0035】
操作レバー26R、26Lの操作量に基づいてパイロット油圧が生成される。パイロット油圧は、後述するコントロールバルブに供給される。コントロールバルブは、パイロット油圧に応じ作業機3のスプールを駆動する。スプールの移動にともなって、ブームシリンダ14、アームシリンダ15及びバケットシリンダ16へ作動油が供給される。その結果、例えば、操作レバー26Rの前後の操作に応じてブーム11の下げ・上げ動作が行われ、操作レバー26Rの左右の操作に応じてバケット13の掘削・ダンプが行われる。また、例えば、操作レバー26Lの前後操作により、アーム12のダンプ・掘削操作が行われる。また、操作レバー26R,26Lの操作量は、レバー操作量検出部27によって電気信号に変換される。レバー操作量検出部27は、圧力センサ27Sを備える。圧力センサ27Sは、操作レバー26L,26Rの操作に応じて発生するパイロット油圧を検知する。圧力センサ27Sは、検知したパイロット油圧に対応した電圧を出力する。レバー操作量検出部27は、圧力センサ27Sが出力した電圧を操作量に換算することによって、レバー操作量を求める。
【0036】
レバー操作量検出部27は、レバー操作量を電気信号としてポンプコントローラ33及びハイブリッドコントローラ23の少なくとも一方へ出力する。操作レバー26L,26Rが電気式レバーである場合、レバー操作量検出部27は、ポテンショメータ等の電気式の検出装置を備える。レバー操作量検出部27は、レバー操作量に応じて電気式の検出装置が生成した電圧をレバー操作量に換算して、レバー操作量を求める。その結果、例えば、操作レバー26Lの左右操作によって旋回モータ24が左右の旋回方向に駆動される。また図示しない左右の走行レバーにより、走行モータ21が駆動される。
【0037】
燃料調整ダイヤル28は、
図1に示す運転室6内に設けられる。以下において、燃料調整ダイヤル28は適宜、スロットルダイヤル28と称される。スロットルダイヤル28は、内燃機関17への燃料供給量を設定する。スロットルダイヤル28の設定値(指令値とも称される)は、電気信号に変換されて内燃機関の制御装置(以下、適宜エンジンコントローラと称される)30に出力される。
【0038】
エンジンコントローラ30は、内燃機関17の状態を検出するセンサ類17Cから、内燃機関17の回転速度及び水温等のセンサの出力値を取得する。そして、エンジンコントローラ30は、取得したセンサ類17Cの出力値から内燃機関17の状態を把握し、内燃機関17に対する燃料の噴射量を調整することで、内燃機関17の出力を制御する。実施形態において、エンジンコントローラ30は、CPU(Central Processing Unit)等のプロセッサ及びメモリを有するコンピュータを含む。
【0039】
エンジンコントローラ30は、スロットルダイヤル28の設定値に基づいて、内燃機関17の動作を制御するための制御指令の信号を生成する。エンジンコントローラ30は、生成した制御信号をコモンレール制御部32に送信する。この制御信号を受信したコモンレール制御部32は、内燃機関17に対する燃料噴射量を調整する。すなわち、実施形態において、内燃機関17は、コモンレール式による電子制御が可能なディーゼルエンジンである。エンジンコントローラ30は、コモンレール制御部32を介して内燃機関17への燃料噴射量を制御することで、目標の出力を内燃機関17に発生させることができる。また、エンジンコントローラ30は、ある瞬間における内燃機関17の回転速度において出力可能なトルクを自由に設定することもできる。ハイブリッドコントローラ23及びポンプコントローラ33は、エンジンコントローラ30からスロットルダイヤル28の設定値を受け取る。
【0040】
内燃機関17は、回転速度検出センサ17nを備えている。回転速度検出センサ17nは、内燃機関17の出力シャフト17Sの回転速度、すなわち、出力シャフト17Sの単位時間あたりの回転数を検出する。エンジンコントローラ30及びポンプコントローラ33は、回転速度検出センサ17nが検出した内燃機関17の回転速度を取得し、内燃機関17の運転状態の制御に用いる。実施形態において、回転速度検出センサ17nは、内燃機関17の回転数を検出し、エンジンコントローラ30及びポンプコントローラ33が回転数を回転速度に変換するものであってもよい。実施形態において、内燃機関17の実回転速度は、発電電動機19の回転センサ25mによって検出された値で代用できる。
【0041】
ポンプコントローラ33は、油圧ポンプ18から吐出される作動油の流量を制御する。実施形態において、ポンプコントローラ33は、CPU等のプロセッサ及びメモリを有するコンピュータを含む。ポンプコントローラ33は、エンジンコントローラ30及びレバー操作量検出部27から送信された信号を受信する。そして、ポンプコントローラ33は、油圧ポンプ18から吐出される作動油の流量を調整するための制御指令の信号を生成する。ポンプコントローラ33は、生成した制御信号を用いて油圧ポンプ18の斜板角を変更することにより、油圧ポンプ18から吐出される作動油の流量を変更する。
【0042】
ポンプコントローラ33には、油圧ポンプ18の斜板傾転角を検出する斜板角センサ18aからの信号が入力される。斜板角センサ18aが斜板角を検出することで、ポンプコントローラ33は、油圧ポンプ18のポンプ容量を演算することができる。コントロールバルブ20内には、油圧ポンプ18の吐出圧力(以下、適宜ポンプ吐出圧力という)を検出するためのポンプ圧検出部20aが設けられている。検出されたポンプ吐出圧力は、電気信号に変換されてポンプコントローラ33に入力される。
【0043】
エンジンコントローラ30とポンプコントローラ33とハイブリッドコントローラ23とは、例えば、CAN(Controller Area Network)のような車内LAN(Local Area Network)35で接続されている。このような構造により、エンジンコントローラ30とポンプコントローラ33とハイブリッドコントローラ23とは、相互に情報をやり取りすることができる。
【0044】
実施形態において、少なくともエンジンコントローラ30が内燃機関17の運転状態を制御する。この場合、エンジンコントローラ30は、ポンプコントローラ33及びハイブリッドコントローラ23のうち少なくとも一方が生成した情報も用いて内燃機関17の運転状態を制御する。このように、実施形態においては、エンジンコントローラ30、ポンプコントローラ33及びハイブリッドコントローラ23のうち少なくとも1つが、ハイブリッド作業機械の機関制御装置(以下、適宜機関制御装置と称する)として機能する。すなわち、これらのうち少なくとも1つが実施形態に係るハイブリッド作業機械の機関制御方法(以下、適宜機関制御方法と称する)を実現して、機関36の運転状態を制御する。以下において、エンジンコントローラ30、ポンプコントローラ33及びハイブリッドコントローラ23を区別しない場合、これらを機関制御装置と称することもある。実施形態においては、ハイブリッドコントローラ23が、機関制御装置の機能を実現する。
【0045】
<機関36の制御>
図3は、実施形態に係る機関36の制御に用いられるトルク線図の一例を示す図である。トルク線図は、機関36、より詳細には内燃機関17の制御に用いられる。トルク線図は、内燃機関17の出力シャフト17SのトルクT(N・m)と、出力シャフト17Sの回転速度n(rpm:rev/min)との関係を示している。実施形態において、内燃機関17の出力シャフト17Sに発電電動機19のロータ19Rが連結されているので、内燃機関17の出力シャフト17Sの回転速度nは、発電電動機19のロータ19Rの回転速度に等しい。以下において、回転速度nというときには、内燃機関17の出力シャフト17Sの回転速度及び発電電動機19のロータ19Rの回転速度のうち、少なくとも一方をいうものとする。実施形態において、内燃機関17の出力、発電電動機19が電動機として動作する場合の出力は馬力であり、単位は仕事率である。
【0046】
トルク線図は、最大トルク線TLと、制限線VLと、ポンプ吸収トルク線PLと、マッチングルートMLと、出力指示線ILとを含む。最大トルク線TLは、
図1に示される油圧ショベル1の運転中、内燃機関17が発生可能な最大の出力を示している。最大トルク線TLは、内燃機関17の回転速度nと、各回転速度nにおいて内燃機関17が発生可能なトルクTとの関係を示す。
【0047】
トルク線図は、内燃機関17の制御に用いられる。実施形態において、エンジンコントローラ30は、トルク線図を記憶部に記憶しており、内燃機関17の制御に用いる。ハイブリッドコントローラ23及びポンプコントローラ33の少なくとも一方も、記憶部にトルク線図を記憶していてもよい。
【0048】
最大トルク線TLで示される内燃機関17のトルクTは、内燃機関17の耐久性及び排気煙限界等を考慮して決定されている。このため、内燃機関17は、最大トルク線TLに対応したトルクTよりも大きいトルクを発生することが可能である。実際には、機関制御装置、例えばエンジンコントローラ30は、内燃機関17のトルクTが最大トルク線TLを超えないように内燃機関17を制御する。
【0049】
制限線VLと最大トルク線TLとの交点Pcntにおいて、内燃機関17が発生する出力、すなわち馬力は、最大となる。交点Pcntを定格点という。定格点Pcntにおける内燃機関17の出力を定格出力という。最大トルク線TLは、前述したように排気煙限界から定められる。制限線VLは、最高回転速度に基づいて定められる。したがって、定格出力は、内燃機関17の排気煙限界と最高回転速度とに基づいて定められた、内燃機関17の最大出力である。
【0050】
制限線VLは、内燃機関17の回転速度nを制限する。すなわち、内燃機関17の回転速度nは、制限線VLを超えないように、機関制御装置、例えばエンジンコントローラ30によって制御される。制限線VLは、内燃機関17の最大の回転速度を規定する。すなわち、機関制御装置、例えばエンジンコントローラ30は、内燃機関17の最大の回転速度が、制限線VLによって規定される回転速度を超えて過回転とならないように制御する。
【0051】
ポンプ吸収トルク線PLは、内燃機関17の回転速度nに対して、
図2に示される油圧ポンプ18が吸収可能な最大トルクを示している。実施形態において、内燃機関17は、内燃機関17の出力と油圧ポンプ18の負荷とをマッチングルートML上でバランスさせる。
図3には、マッチングルートMLaと、マッチングルートMLbとが示されている。マッチングルートMLbの方が、マッチングルートMLaよりも最大トルク線TLに近くなっている。
【0052】
マッチングルートMLbは、所定の出力で内燃機関17が動作する際に、例えば、同じ出力であれば、マッチングルートMLaよりも回転速度nが低くなるように設定されている。このようにすることで、内燃機関17が同じトルクTを発生する場合、マッチングルートMLbの方がより低い回転速度nで内燃機関17を運転できるので、内燃機関17の内部摩擦による損失を低減できる。
【0053】
マッチングルートMLは、内燃機関17の回転速度nが増加すると、トルクTも増加する。制限線TLで規定される最大トルク点Pmaxのときの回転速度ntmaxと、定格出力点Pcntのときの回転速度ncntとの間の領域で、マッチングルートMLと制限線TLとが交差する。最大トルク点Pmaxにおいて、内燃機関1が発生するトルクTは最大となる。
【0054】
マッチングルートMLは、燃料消費率が良い点を通るように設定されてもよい。マッチングルートMLbは、内燃機関17が最大のトルクTを発生するまでの範囲において、最大トルク線TLで定まるトルクTの80%以上95%以下になるように設定される。
【0055】
出力指示線ILは、内燃機関17の回転速度n及びトルクTの目標を示す。すなわち、内燃機関17は出力指示線ILから得られる回転速度n及びトルクTとなるように制御される。このように、出力指示線ILは、内燃機関17が発生する動力の大きさを規定するために用いられる、内燃機関17のトルクTと回転速度nとの関係を示す第2の関係に相当する。出力指示線ILは、内燃機関17に発生させる馬力、すなわち出力の指令値(以下、適宜出力指令値と称する)となる。すなわち、機関制御装置、例えばエンジンコントローラ30は、出力指令値に対応する出力指示線IL上のトルクT及び回転速度nとなるように、内燃機関17のトルクT及び回転速度nを制御する。例えば、出力指令値に出力指示線ILtが対応する場合、内燃機関17のトルクT及び回転速度nは、出力指示線ILt上の値となるように制御される。
【0056】
トルク線図は、複数の出力指示線ILを含む。隣接する出力指示線ILの間の値は、例えば補間によって求められる。実施形態において、出力指示線ILは、等馬力線である。等馬力線は、内燃機関17の出力が一定となるように、トルクTと回転速度nとの関係が定められたものである。実施形態において、出力指示線ILは、等馬力線に限定されるものではなく、等スロットル線であってもよい。等スロットル線は、燃料調整ダイヤル、すなわち、スロットルダイヤル28の設定値(スロットル開度)が等しい場合のトルクTと回転速度nとの関係を示している。スロットルダイヤル28の設定値とは、コモンレール制御部32が内燃機関17に噴射する燃料の噴射量を規定するための指令値である。出力指示線ILが等スロットル線である例については後述する。
【0057】
実施形態において、内燃機関17は、マッチング点MPのトルクT及び回転速度nmとなるように制御される。マッチング点MPは、
図3中に実線で示されるマッチングルートMLと、
図3中に実線で示される出力指示線ILeと、実線で示されるポンプ吸収トルク線PLとの交点である。マッチング点MPは、内燃機関17の出力と油圧ポンプ18の負荷とがバランスする点である。実線で示される出力指示線ILeは、マッチング点MPで油圧ポンプ18が吸収する内燃機関17の出力の目標及び内燃機関17の目標とする出力に対応する。
【0058】
発電電動機19が発電する場合、発電電動機19が吸収する馬力、すなわち出力Pgaの分だけ、油圧ポンプ18が吸収する内燃機関17の出力は小さくなるように、ポンプコントローラ33及びハイブリッドコントローラ23へ指令が与えられる。ポンプ吸収トルク線PLは、点線で示される位置に移動する。このときのポンプ吸収馬力に対応するのが出力指示線ILpである。ポンプ吸収トルク線PLは、マッチング点MPaのときの回転速度nmで、出力指示線ILpと交差する。出力指示線ILpに発電電動機19が吸収する出力Pgaを加算したものが、マッチング点MPaを通る出力指示線ILeである。
【0059】
実施形態においては、マッチングルートMLaと、出力指示線ILeと、ポンプ吸収トルク線PLとの交点であるマッチング点MPaで内燃機関17の出力と油圧ポンプ18の負荷とをバランスさせる例を示している。この例に限定されるものではなく、マッチングルートMLbと、出力指示線ILeと、ポンプ吸収トルク線PLとの交点であるマッチング点MPbで内燃機関17の出力と油圧ポンプ18の負荷とをバランスさせてもよい。
【0060】
このように、機関36、すなわち内燃機関17及び発電電動機19は、トルク線図に含まれる最大トルク線TLと、制限線VLと、ポンプ吸収トルク線PLと、マッチングルートMLと、出力指示線ILとに基づいて制御される。次に、機関36の発電電動機19が内燃機関17に駆動されて、発電電動機19が電力を発生、すなわち発電する場合について説明する。
【0061】
<発電電動機19が発電する場合>
図4は、発電電動機19が内燃機関17によって駆動されて発電し、発電出力がPga以上になった場合における内燃機関17の運転状態を説明するための図である。
図4の出力指示線ILeは、内燃機関17が単独で運転されている場合の出力指示線である。
図4の出力指示線ILgは、発電電動機19が内燃機関17に駆動されて発電する場合の目標とする出力を示す出力指示線である。出力指示線ILe及び出力指示線ILgは、後述する
図6及び
図7においても同様である。
【0062】
図4において、発電電動機19が発電していない状態の内燃機関17に与えられる出力指令値は、出力指示線ILeで示される。発電電動機19が発電している状態の内燃機関17に与えられる出力指令値は、出力指示線ILgで示される。発電電動機19が発電している場合、発電のためのエネルギが必要になるので、発電時における出力指示線ILgの方が、発電していない非発電時の出力指示線ILeよりも大きくなる。すなわち、内燃機関17は、発電時の方が非発電時よりも大きな出力を発生することになる。
【0063】
図4において、発電電動機19が発電していない状態の内燃機関17は、マッチングルートMLと、出力指示線ILeと、ポンプ吸収トルク線PL0との交点であるマッチング点MP0で、出力と油圧ポンプ18の負荷とがバランスしている。マッチング点MP0において、内燃機関17の回転速度はnm1となる。
【0064】
図2に示されるハイブリッドコントローラ23から発電電動機19に発電指令が与えられて発電電動機19が発電を開始すると、内燃機関17は発電電動機19を駆動する動力を発生する。発電時における内燃機関17への出力指令値は、出力指示線ILgとなるので、マッチング点は、例えばMP1になる。マッチング点MP1の回転速度は、マッチング点MP1の回転速度nmよりも大きくなる。発電電動機19が発電を停止すると、内燃機関17は発電電動機19を駆動する必要がなくなる。このため、発電停止時における内燃機関17への出力指令値は、出力指示線ILgから出力指示線ILeになるので、マッチング点はMP0に戻る。マッチング点MP0の回転速度nm1は、マッチング点MP1の回転速度よりも小さくなる。
【0065】
発電電動機19の発電にともなって、内燃機関17の出力が急増する結果、内燃機関17の回転速度nは急増する。その結果、油圧ショベル1のオペレータは、違和感を覚える可能性がある。例えば、油圧ショベル1による上部旋回体5の動作をともなわない作業であるスキトリ中又は掘削中に、蓄電装置22の電圧が自然放電により発電を開始する電圧まで低下すると、発電電動機19が発電を開始する。この場合、油圧ショベル1の操作レバー26L,26Rに対するオペレータの操作は変わらないが、オペレータは、内燃機関17の回転速度nが変動したり、内燃機関17の回転速度nが変動することによりポンプ流量が変動し、作業機3の飛び出し感につながる操作感が変動したり、内燃機関17の音が変動したりすることに違和感を覚える可能性がある。
【0066】
実施形態において、
図2に示されるハイブリッドコントローラ23は、内燃機関17の運転中に発電電動機19が電力を発生する場合、発電電動機19に電力を発生させるために必要なトルクである発電トルクにモジュレーションをかける、すなわち発電トルクを、時間の経過とともに増加させる。このような制御により、発電時において、内燃機関17の回転速度n及びトルクTは、時間の経過とともに徐々に増加するので、内燃機関17の回転速度nの急増が抑制されて、前述した違和感が低減される。次に、発電時における発電電動機19及び内燃機関17の制御例について、より詳細に説明する。
【0067】
<発電電動機19が発電する場合の制御例>
図5は、実施形態において、発電電動機19が発電する場合の発電トルクTgの時間tに対する変化の一例を示す図である。
図6及び
図7は、発電電動機19が内燃機関17によって駆動されて発電する場合における内燃機関17の運転状態を説明するための図である。
図6は、時間t=t1のときの状態を示し、
図7は、時間t=t2のときの状態を示す。
【0068】
実施形態において、発電電動機19が発電する場合、発電トルクを負の値で表し、発電電動機19が電動機として動作して内燃機関17を補助する場合、発電電動機19が発生するトルクである駆動トルクを正の値で表す。実施形態において、発電トルクTg及び発電トルク指令値Tgcは、時間tの経過とともに小さくなる。これは、
図5に示されるように、発電トルクTg及び発電トルク指令値Tgcは、時間tの経過とともに絶対値が大きくなることを意味する。実施形態において、発電トルクTg及び発電トルク指令値Tgcの絶対値は、時間tの一次関数に従って変化するが、発電トルクTg及び発電トルク指令値Tgcの絶対値の変化はこれに限定されない。例えば、発電トルクTg及び発電トルク指令値Tgcの絶対値は、時間tの二次関数、三次間数又は指数関数等に従って変化してもよい。
【0069】
発電電動機19が発電していない場合、
図6に示されるように、内燃機関17は、マッチング点MP0で動作する。マッチング点MP0は、マッチングルートMLと、出力指示線ILeと、ポンプ吸収トルク線PL0との交点である。マッチング点MP0において、内燃機関17の回転速度はnm0となる。
【0070】
蓄電装置22の蓄電量が少なくなった等により発電電動機19が発電する場合、
図2に示されるハイブリッドコントローラ23は、発電電動機19が発電する際に必要な馬力、すなわち出力である目標発電出力Pgtを求める。そして、ハイブリッドコントローラ23は、得られた目標発電出力Pgtから、発電電動機19が発電する際に必要な発電トルクである目標発電トルクTgtを求める。目標発電出力Pgt及び目標発電トルクTgtは負の値である。
【0071】
ハイブリッドコントローラ23は、得られた目標発電出力Pgt及び目標発電トルクTgtの絶対値|Pgt|及び|Tgt|を、時間tの経過とともに増加させて、
図2に示される発電電動機制御装置19Iに出力する。ハイブリッドコントローラ23が出力する発電出力Pg及び発電トルクTgを、以下においては適宜、発電出力Pgot及び発電トルクTgotと称する。
【0072】
図2に示されるポンプコントローラ33は、車内LAN35を介して、ハイブリッドコントローラ23から発電出力Pgotを取得する。ポンプコントローラ33が取得する発電出力は目標発電出力Pgtの絶対値|Pgt|でもよい。ポンプコントローラ33は、発電電動機19が発電していないときに内燃機関17に与えられる出力指令値である出力指示線ILeが示す出力に発電出力Pgotの絶対値|Pgot|を加算して、発電時における出力指令値を求める。
図6に示される例では、発電時における出力指令値は、出力指示線ILg1である。
【0073】
トルクTeは、発電電動機19が発電していないときに内燃機関17が発生するトルクに、発電トルクTgotの絶対値|Tgot|を加算した値である。トルクTeは、発電時における内燃機関17の出力指令値である出力指示線ILg1が示す出力とマッチングルートMLとの交点から求められるトルクに等しい。
【0074】
発電電動機19が発電を開始し、時間t=t1が経過すると、
図6に示されるように、内燃機関17は、マッチング点MP1で動作する。マッチング点MP1は、マッチングルートMLと、出力指示線ILg1との交点である。マッチング点MP1において、内燃機関17の回転速度はnm1となる。
【0075】
発電電動機19が発電する場合、発電電動機19が吸収する馬力、すなわち発電出力Pgotの絶対値|Pgot|の分だけ、油圧ポンプ18が吸収する内燃機関17の出力は小さくなる。ポンプ吸収トルク線PL0は、点線で示されるポンプ吸収トルク線PL1に移動する。ポンプ吸収トルク線PL1は、発電電動機19が発電していないときの出力指示線ILeと、マッチング点MP1における内燃機関17の回転速度nm1との交点を通る。
図2に示される油圧ポンプ18が吸収するトルクはTpとなる。発電時においては、油圧ポンプ18が吸収するトルクTpと発電トルクTgotの絶対値|Tgot|とを加算した値が、内燃機関17のトルクTeとなる。
【0076】
時間tが経過してt0からt2になると、発電出力Pgot及び発電トルクTgotは小さくなる。すなわち、発電出力Pgot及び発電トルクTgotの絶対値|Pgot|及び|Tgot|は大きくなる。時間t=t2のとき、発電時における内燃機関17の出力指令値は、出力指示線ILg2になる。時間t=t2における発電出力Pgot及び発電トルクTgotの絶対値|Pgot|及び|Tgot|は、時間t=t1における値よりも大きくなる。このため、時間t=t2における出力指令値である出力指示線ILg2は、時間t=t1における出力指令値である出力指示線ILg1よりも大きくなる。
【0077】
時間t=t2になると、
図7に示されるように、内燃機関17は、マッチング点MP2で動作する。マッチング点MP2は、マッチングルートMLと、出力指示線ILg2との交点である。マッチング点MP2において、内燃機関17の回転速度はnm2となる。時間t=t2において、発電していないときのポンプ吸収トルク線PL0は、実線で示されるポンプ吸収トルク線PL2に移動する。ポンプ吸収トルク線PL2は、発電電動機19が発電していないときの出力指示線ILeと、マッチング点MP2における内燃機関17の回転速度nm2との交点を通る。
【0078】
発電電動機19が発電する場合、発電電動機19が発電できるように、
図2に示されるポンプコントローラ33は、ポンプ吸収トルクをトルクTeからトルクTpに低下させる。トルクTeとトルクTpとの差分が、発電時に発電電動機19が吸収するトルクになる。
図2に示されるポンプコントローラ33は、油圧ポンプ18によって吸収されるトルクがTeからTpになるように、ポンプ吸収トルク線PLの指令値をポンプ吸収トルク線PL0からポンプ吸収トルク線PL2へ変更して油圧ポンプ18に出力する。すなわち、ポンプコントローラ33は、油圧ポンプ18が吸収するトルクである吸収トルクを低下させる。その結果、
図6及び
図7に示されるように、ポンプ吸収トルク線は、PL0、PL1、PL2の順に変化する。
【0079】
油圧ポンプ18の動作には応答遅れが存在するため、ポンプ吸収トルクを低下させる指令値が出力された後、実際のポンプ吸収トルクは徐々に低下する。これに対して発電電動機19の動作は、ほぼ時間遅れなく応答する。このため、ハイブリッドコントローラ23から目標発電トルクTgtが発電電動機制御装置19Iに与えられると、発電電動機19が吸収するトルク、すなわち内燃機関17が発電電動機19を駆動するトルクの増加の方が、ポンプ吸収トルクの低下よりも速くなる。その結果、過大な負荷が内燃機関17に作用することによって内燃機関17の回転速度nが急激に低下し、その後、ポンプ吸収トルクが目標値まで低下すると再び内燃機関17の回転速度nが増加する現象が発生する可能性がある。
【0080】
実施形態において、発電出力Pgot及び発電トルクTgotの絶対値|Pgot|及び|Tgot|は時間tの経過とともに大きくなる。このため、内燃機関17の出力指令値も時間tの経過とともに大きくなるので、内燃機関17のトルクTeも時間の経過とともに大きくなる。内燃機関17の出力指令値及びトルクTeが時間tの経過とともに大きくなることにより、マッチング点MPは、
図7の矢印trgで示されるように、発電電動機19が発電していないときのマッチング点MP0から、マッチングルートMLに沿ってマッチング点MP2に移動する。このため、発電電動機19が発電開始から、内燃機関17により目標発電出力Pgt及び目標発電トルクTgtで駆動されるまでの間に、内燃機関17のトルクTeが最大トルク線TLを超えることが抑制される。その結果、内燃機関17の回転速度nが急激に低下した後、再び増加する現象が抑制される。すなわち、実施形態は、発電出力Pgot及び発電トルクTgotの絶対値|Pgot|及び|Tgot|を時間tの経過とともに大きくすることにより、ポンプ吸収トルクが目標値まで低下するまでの時間を確保することで、内燃機関17の回転速度nの低下及び増加を抑制する。
【0081】
発電電動機19が発電開始から、内燃機関17により目標発電出力Pgt及び目標発電トルクTgtで駆動されるまでの時間は、発電トルクTgの絶対値|Tg|の単位時間あたりにおける増加量、すなわち発電トルク増加率によって変更される。発電トルク増加率が小さいと、発電出力Pgot及び発電トルクTgotの絶対値|Pgot|及び|Tgot|の増加速度は相対的に遅くなる。発電トルク増加率が大きいと、発電出力Pgot及び発電トルクTgotの絶対値|Pgot|及び|Tgot|の増加速度は相対的に速くなる。
【0082】
実施形態において、発電トルク増加率の単位は、N・m/秒である。発電トルク増加率は、予め定められた一定の値でもよいし、油圧ショベル1の運転条件又は油圧ショベル1の状態によって変更されてもよい。
【0083】
実施形態において、ハイブリッドコントローラ23は、発電トルクTgotの絶対値|Tgot|を、第1の値の絶対値から第2の値の絶対値まで、時間tの経過に従って増加させる。第1の値は、例えば0[N/m]であり、第2の値は、例えば最低発電トルクである。最低発電トルクは、発電電動機19が最低発電トルク未満では、効率的に発電できないため、発電しても蓄電装置22の電力量が増加しにくい。実施形態において、ハイブリッドコントローラ23は、目標発電トルクTgtの絶対値|Tgt|が最低発電トルク以上となったら、発電電動機19に発電を開始させる。最低発電トルク及びそのときの内燃機関17の回転速度nで定まる出力を、最低発電出力と称する。
【0084】
実施形態において、第2の値の絶対値を最低発電トルクとし、ハイブリッドコントローラ23は、発電トルクTgotの絶対値|Tgot|が、第1の値から第2の値まで、時間tの経過に従って増加させる。このような処理により、発電トルクTgotの絶対値|Tgot|は、第2の値になると遅れなく目標発電トルクTgtの絶対値|Tgt|になるので、発電の応答遅れが抑制される。また、発電トルクTgotの絶対値|Tgot|は、第1の値から第2の値まで、時間tの経過に従って増加するので、発電開始時に内燃機関17の回転速度nが急激に増加することによる違和感が抑制される。
【0085】
<発電トルク増加率を変更する例>
実施形態において、発電トルク増加率は、上部旋回体5を旋回させるために必要な旋回馬力に基づいて変更されてもよい。旋回馬力は、
図2に示される旋回モータ24が上部旋回体5を旋回させるために必要な馬力である。
【0086】
発電電動機19が発電するか否かは、蓄電装置22に蓄電されている電力量、実施形態では蓄電装置22の端子間電圧に基づいて決定される。蓄電装置22の端子間電圧に基づいて発電トルク増加率を変更、例えば、端子間電圧が低くなるに従って発電トルク増加率を大きくすることもできる。上部旋回体5が加速する場合、旋回馬力が増加するため、旋回モータ24を駆動するために発電電動機19が発生する電力も増加する。このため、蓄電装置22の端子間電圧に基づいて発電トルク増加率を変更しても、旋回馬力の増加分を補うことができないため、発電電動機19の発電量が不足する可能性がある。
【0087】
実施形態において、ハイブリッドコントローラ23は、旋回馬力が大きくなるに従って発電トルク増加率を大きくする。この場合、ハイブリッドコントローラ23は、旋回馬力が0から所定の大きさまでは発電トルク増加率を一定の値とし、旋回馬力が所定の大きさ以上の範囲で、旋回馬力が大きくなるに従って発電トルク増加率を大きくすることができる。旋回馬力が大きくなるに従って発電トルク増加率を大きくする場合、例えば、旋回馬力の一次関数、二次関数又は指数関数等に従って発電トルク増加率を大きくすることができる。ハイブリッドコントローラ23は、トルク増加率を大きくするだけでなく、指令トルクをTe0からTepへ変更してもよい。
【0088】
旋回馬力が大きくなるに従って発電トルク増加率が大きくされることにより、発電電動機19が効率的に発電できる発電トルクを内燃機関19が発生するまでの応答時間が短くなるので、上部旋回体5の旋回に必要な電力を確保しやすくなる。発電トルク増加率が大きくなると、内燃機関17の回転速度nの増加速度も増加するが、上部旋回体5の旋回中は、作業機3の正確な操作は行われない。このため、上部旋回体5の旋回中に発電トルク増加率を大きくしても、油圧ショベル1のオペレータに与える影響はほとんどない。このため、内燃機関17の回転速度nの増加速度の増加は許容される。
【0089】
発電電動機19が電動機として動作することにより、内燃機関17を補助することができる。発電電動機19が電動機として動作する場合、発電電動機19は蓄電装置22に蓄えられた電力を使用する。発電電動機19による内燃機関17の補助が頻発すると、蓄電装置22に蓄えられた電力が減少し、端子間電圧が大きく低下する。発電電動機19が発電する場合、発電トルクTgを時間tの経過とともに増加させると発電量が不足し、蓄電装置22の端子間電圧が異常低下する可能性がある。
【0090】
例えば、内燃機関17の補助には回転数アシストがある。回転数アシストはレバー中立状態で内燃機関17の回転速度nを低くしている状態から操作レバー26R,26Lを操作し回転速度nを増加させる。回転数アシストによって回転速度nが増加した後は、アシストから発電に切り替わるが、その時の内燃機関17の回転速度nの変動を抑制したいという要請がある。
【0091】
実施形態において、
図2に示されるハイブリッドコントローラ23は、蓄電装置22に蓄電されている電力量に基づいて発電トルク増加率を変更することができる。例えば、ハイブリッドコントローラ23は、蓄電装置22に蓄電されている電力量が少なくなる、すなわち蓄電装置22の端子間電圧が低下すると発電トルク増加率を大きくすることができる。
【0092】
実施形態において、ハイブリッドコントローラ23は、蓄電装置22の目標とする端子間電圧と、現在の端子間電圧との偏差である電圧偏差から決定される目標発電出力に基づいて、発電トルク増加率を変更する。より詳細には、目標発電出力が大きくなる、すなわち電圧偏差が大きくなると、発電トルク増加率が大きくなる。電圧偏差は、蓄電装置22に蓄電されている電力量が少なくなると大きくなるので、蓄電装置22に蓄電されている電力量が少なくなると発電トルク増加率を大きくすることになる。発電電動機19の動作がアシスト状態から発電状態に移るときに、内燃機関17の回転速度nの変動を抑制しつつ、発電電動機19の発電量を確保したいという要請がある。
【0093】
目標発電出力に基づいて発電トルク増加率を変更する場合、ハイブリッドコントローラ23は、目標発電出力の絶対値が0から所定の大きさまでは発電トルク増加率を一定の値とし、目標発電出力の絶対値が所定の大きさ以上の範囲で、目標発電出力の絶対値が大きくなるに従って発電トルク増加率を大きくすることができる。目標発電出力の絶対値としているのは、目標発電出力は負の値であるからである。
【0094】
このような処理により、発電電動機19による内燃機関17の補助が頻発しても、蓄電装置22の端子間電圧が異常低下する可能性を低減できる。発電電動機19による内燃機関17の補助が頻発するような状況は、内燃機関17の回転速度nが変動している状態である。このため、発電トルク増加率を大きくすることにより内燃機関17の回転速度nが急激に増加したとしても許容される。
【0095】
<実施形態及び比較例>
図8は、比較例において、発電電動機19が内燃機関17によって駆動されて発電する場合における内燃機関17の運転状態を説明するための図である。
図9は、比較例において、発電電動機が内燃機関によって駆動されて発電する場合における内燃機関の運転状態を説明するためのタイミングチャートである。
図9の縦軸は、発電出力Pg、油圧ポンプ18の吸収トルクTP及び内燃機関17の回転速度nである。
図9の横軸はいずれも時間tであり、時間t0で発電電動機19による発電が開始される。
図9の実線は実施形態を示し、破線は比較例を示す。比較例は、マッチングルートMLと、出力指示線ILeと、ポンプ吸収トルク線PL0との交点であるマッチング点MP0で内燃機関17の出力と油圧ポンプ18の負荷とをバランスさせる。そして、発電電動機19が発電する場合、ハイブリッドコントローラ23は、目標発電トルクTgtを時間とともに変化させずに発電電動機制御装置19Iに与える。
【0096】
比較例は、時間t0で発電電動機19による発電が開始されると、
図9に示されるように発電出力Pgが0から目標発電出力Pgtに変化する。内燃機関17に対する出力指令値は、目標発電出力Pgtを出力指示線ILeに加算した出力指示線ILg2となる。出力指示線ILeとマッチングルートMLとの交点を通るポンプ吸収トルク線PL0は、ポンプ吸収トルク線PL2に変更される。ポンプ吸収トルク線PL2は、出力指示線ILg2、マッチングルートMLとの交点の回転速度nm2、及び回転速度nm2に対応した出力指示線ILeにおけるトルクTe2pで定まる座標を通る。
【0097】
出力指示線ILeとマッチングルートMLとの交点において、内燃機関17のトルクはTe0であり、回転速度はnm0である。出力指示線ILg2とマッチングルートMLとの交点において、内燃機関17のトルクはTe2であり、回転速度はnm2である。ポンプ吸収トルク線PL2と出力指示線ILg2との交点において、内燃機関17のトルクはTe2pであり、回転速度はnm2である。
【0098】
発電電動機19が発電する場合、ポンプ吸収トルクは、Te0からTe2pになる。
図2に示されるポンプコントローラ33は、油圧ポンプ18によって吸収されるトルクがTe0からTe2pになるように、ポンプ吸収トルクの指令値を生成して油圧ポンプ18に出力する。その結果、ポンプ吸収トルク線は、PL0からPL2に遷移するので、ポンプ吸収トルクも、ポンプ吸収トルク線PL0に対応するトルクTe0からポンプ吸収トルク線PL2に対応するトルクTe2pに変化する。油圧ポンプ18の動作には応答遅れが存在するため、変更後のポンプ吸収トルクの指令値が出力された後、実際のポンプ吸収トルクは徐々に低下する。
【0099】
発電電動機19の動作は、指令が与えられるとほぼ遅れなく応答する。このため、比較例において、発電電動機19は、
図9の破線に示されるように時間t0から目標発電出力Pgtに対応する電力を発生する。ハイブリッドコントローラ23から目標発電トルクTgtが発電電動機制御装置19Iに与えられると、内燃機関17に対する出力指令値は、時間t0において出力指示線ILeから出力指示線ILg2に変化する。その結果、内燃機関17には出力指示線ILg2とマッチングルートMLとの交点におけるトルクTe2が作用する。
【0100】
発電が開始すると、発電電動機19の発電開始前においてトルクTe0で動作していた内燃機関17には、内燃機関17の回転速度nが回転速度nm2においてポンプ吸収トルクがTe2pになる前に、内燃機関17の回転速度nが回転速度nm0において発電トルクTgtを加算したトルクTe2が作用する。その結果、内燃機関17には最大トルク線TLを超えるトルクが作用するため、
図9の時間t0から時間t2の間の破線で示されるように、内燃機関17の回転速度nが低下する。その後、ポンプ吸収トルクがTe2pに近づくにしたがって、内燃機関17の回転速度nが増加する。内燃機関17の回転速度nが回転速度nm2になると、マッチングルートMLと、出力指示線ILg2との交点であるマッチング点MP2で内燃機関17が動作する。
【0101】
比較例は、発電電動機19が発電する場合、マッチングルートMLと出力指示線ILgとの交点における回転速度nm2を、目標とする回転速度として、時間tの経過とともに内燃機関17の回転速度nを目標とする回転速度nm2まで増加させることもできる。しかし、内燃機関17の回転速度nを時間tの経過とともに増加させても、内燃機関17の回転速度nが回転速度n2において、ポンプ吸収トルクがTe2pになる前に、内燃機関17の回転速度nが回転速度n0においてトルクTe2が内燃機関17に作用することは回避できない。その結果、内燃機関17には最大トルク線TLを超えるトルクが作用するため、内燃機関17の回転速度nが低下し、その後に増加する現象が発生する可能性がある。特に、マッチングルートMLが、
図3に示されるマッチングルートMLbのように最大トルク線TLに近くなると、内燃機関17がマッチングルートMLで定まるトルクTよりも大きいトルクTを発生できる余裕が少なくなる。このため、比較例は、マッチングルートMLが最大トルク線TLに近くなる程、発電電動機19の発電時に、内燃機関17の回転速度nが低下する現象が発生しやすくなる。
【0102】
実施形態は、発電電動機19が発電する場合、内燃機関17の回転速度nではなく、発電トルクPgを時間tの経過とともに大きくする。このような処理により、実施形態は、出力指令値に対応する出力指令線ILが徐々に増加し、
図9に示されるように、ポンプ吸収トルク線は、PL0からPL2まで徐々に低下する。その結果、実施形態は、発電電動機19の発電時において、内燃機関17の回転速度nを時間tの経過とともに徐々に増加させることができるので、回転速度nの急激な増加を抑制することができる。
【0103】
実施形態は、発電トルクTgを時間tの経過とともに大きくするので、発電電動機19が内燃機関17により目標発電トルクTgtで駆動されるまでの間に、内燃機関17のトルクTeが最大トルク線TLを超えることが抑制される。その結果、内燃機関17に過大な負荷が加わることによって内燃機関17の回転速度nが急激に落ち込む現象が抑制される。実施形態は、燃費効率の良好な低回転速度側で内燃機関17を運転するためにマッチングルートMLを最大トルク線TLに近くした場合でも、発電電動機19の発電時に内燃機関17の回転速度nが低下する現象を抑制できる。このように、実施形態は、発電電動機19の発電時に、内燃機関17の回転速度nの増減を抑制できる。
【0104】
<ハイブリッドコントローラ23の構成例>
図10は、ハイブリッドコントローラ23、エンジンコントローラ30及びポンプコントローラ33の構成例を示す図である。ハイブリッドコントローラ23、エンジンコントローラ30及びポンプコントローラ33は、処理部100Pと、記憶部100Mと、入出力部100IOとを有する。処理部100Pは、CPU、マイクロプロセッサ(microprocessor)、マイクロコンピュータ(microcomputer)等である。処理部100Pは、実施形態に係るハイブリッド作業機械の機関制御方法を実行する。
【0105】
処理部100Pが専用のハードウェアである場合、例えば、各種回路、プログラム化したプロセッサ(Processor)、及びASIC(Application Specific Integrated Circuit)から1つ又は組み合わせたものが処理部100Pに該当する。
【0106】
記憶部100Mは、例えば、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)等の不揮発性又は揮発性の各種メモリ、磁気ディスク等の各種ディスクのうち少なくとも1つが用いられる。記憶部100Mは、実施形態に係る機関制御を処理部100Pに実行させるためのコンピュータプログラム、及び処理部100Pが実施形態に係る機関制御を実行する際に使用される情報を記憶する。処理部100Pは、記憶部100Mから前述したコンピュータプログラムを読み込んで実行することにより、実施形態に係る機関制御を実現する。
【0107】
入出力部100IOは、ハイブリッドコントローラ23、エンジンコントローラ30又はポンプコントローラ33と、機器類とを接続するためのインターフェース回路である。
【0108】
<油圧ショベルの制御系>
図11は、油圧ショベル1の制御系1CTを示す図である。ハイブリッドコントローラ23には、蓄電装置22の端子間電圧Ec、発電電動機19の回転速度ng、旋回モータ24の回転速度nrm及び旋回モータ24のトルクTrmが入力される。ハイブリッドコントローラ23は、これらの入力を用いて、発電電動機19が発電する場合の発電トルクTgの指令値である発電トルク指令値Tgcを生成する。
【0109】
発電トルク指令値Tgcは、発電電動機制御装置19Iに発電トルク指令値Tgcを送信して、発電電動機19に発電させる。エンジンコントローラ30は、車内LAN35を介してハイブリッドコントローラ23から発電トルク指令値Tgcを取得し、内燃機関17の制御に用いる。ポンプコントローラ33は、車内LAN35を介してハイブリッドコントローラ23から発電トルク指令値Tgcを取得し、油圧ポンプ18の制御に用いる。油圧ポンプ18は、斜板18SPの角度が変更されることにより、吐出する作動油の流量が制御される。
【0110】
<ハイブリッドコントローラ23の制御ブロック>
図12から
図14は、実施形態に係るハイブリッド作業機械の機関制御方法を実行するハイブリッドコントローラ23の制御ブロック図である。
図15は、入力値演算部の処理を示すフローチャートである。
図16は、実施形態に係るハイブリッド作業機械の機関制御方法を実行するハイブリッドコントローラ23の制御ブロック図である。
【0111】
図12に示されるように、ハイブリッドコントローラ23は、目標発電出力演算部50と、旋回馬力演算部51と、目標発電トルク演算部52と、発電トルクモジュレーション演算部53と、ポンプ指令値演算部57とを含む。これらは、実施形態に係るハイブリッド作業機械の制御方法を実行する。これらの機能は、ハイブリッドコントローラ23の処理部100Pが実現する。処理部100Pは、例えば、実施形態に係るハイブリッド作業機械の制御方法を実行するコンピュータプログラムを記憶部100Mから読み出して実行することにより、目標発電出力演算部50、旋回馬力演算部51、目標発電トルク演算部52及び発電トルクモジュレーション演算部53の機能を実現する。
【0112】
目標発電出力演算部50は、蓄電装置22の端子間電圧Ecを用いて、目標発電出力Pgtを求める。目標発電出力Pgtは、蓄電装置22の目標とする端子間電圧Ectと、現在の端子間電圧Ecとの偏差である電圧偏差ΔEcに、負の値であるゲインGを乗ずることにより求められる。前述したように、実施形態では、発電トルクTg及び発電出力Pgを負の値として表すからである。目標発電出力演算部50は、求めた目標発電出力Pgtを目標発電トルク演算部52に出力する。実施形態において、目標とする端子間電圧Ectは固定値であり、ハイブリッドコントローラ23の記憶部100Mに記憶されている。
【0113】
旋回馬力演算部51は、旋回モータ24の回転速度nrm及び旋回モータ24のトルクTrmを用いて旋回馬力Prを求め、発電トルクモジュレーション演算部53に出力する。旋回馬力Prは、式(1)で求めることができる。式(1)中のHは係数である。実施形態において、係数Hは固定値であり、ハイブリッドコントローラ23の記憶部100Mに記憶されている。
Pr=2×π/60×nrm×Trm/1000×H・・・(1)
【0114】
目標発電トルク演算部52は、目標発電出力Pgtを用いて目標発電トルクTgtを求め発電トルクモジュレーション演算部53に出力する。発電トルクモジュレーション演算部53は、目標発電出力Pgt、目標発電トルクTgt及び旋回馬力Prを用いて発電トルク指令値Tgcを生成し、出力する。
【0115】
ポンプ指令値演算部57は、内燃機関17の回転速度に、発電トルク指令値Tgcで定まるトルクを乗算して、油圧ポンプ18の吸収馬力を求める。この例では、発電電動機19は内燃機関17によって駆動されるため、内燃機関17の回転速度として発電電動機19の回転速度ngを用いている。ポンプ指令値演算部57は、求めた油圧ポンプ18の吸収馬力から、油圧ポンプ18に与えられる指令値PLcを求める。指令値PLcは、油圧ポンプ18の斜板18SPの傾転角を、油圧ポンプ18が吸収馬力を吸収するために必要な大きさとするための命令である。ポンプ指令値演算部57は、油圧ポンプ18の吸収馬力を変更することにより、油圧ポンプ18の吸収トルクを増加させたり低下させたりすることができる。
【0116】
発電トルクモジュレーション演算部53は、
図13に示されるように、発電トルク増加率変更部54と、入力値演算部55と、モジュレーション処理部56とを含む。発電トルク増加率変更部54は、旋回馬力Prと目標発電出力Pgtとから、発電トルク増加率の最大値を決定する第1の値Tgmmaxと、発電トルク増加率の最小値を決定する第2の値Tgmminとを求めてモジュレーション処理部56に出力する。
【0117】
入力値演算部55は、目標発電トルクTgtと、前回値Tgtmbと、最低発電トルクTgminとを用いて、無効フラグFmiと、発電トルク入力値INmとを求めてモジュレーション処理部56に出力する。モジュレーション処理部56は、第1の値Tgmmaxと、第2の値Tgmminと、無効フラグFmiと、発電トルク入力値INmとを用いて、発電トルク指令値Tgcを生成し、出力する。前回値Tgtmbは、ハイブリッドコントローラ23の制御周期の1周期前に、モジュレーション処理部56が出力した発電トルク指令値Tgcである。
【0118】
図14に示されるように、発電トルク増加率変更部54は、第1変換部54Aと、第2変換部54Bと、最大値選択部54Cと、反転部54Dとを含む。第1変換部54Aは、旋回馬力Prを用いて、発電トルク増加率を変更するための第1パラメータTgmfを求め、出力する。第2変換部54Bは、目標発電出力Pgtを用いて、発電トルク増加率を変更するための第2パラメータTgmsを求め、出力する。
【0119】
第1変換部54Aは、第1変換テーブルMPAを用いて第1パラメータTgmfを求める。第1変換テーブルMPAは、旋回馬力Prと第1パラメータTgmfとの関係が記述されている。第1変換テーブルMPAは、旋回馬力Prが所定の値Pr1までは第1パラメータTgmfが一定値Tgmf1であり、旋回馬力Prが所定の値Pr1以上になると旋回馬力Prの増加とともに第1パラメータTgmfが大きくなっている。
【0120】
第2変換部54Bは、第2変換テーブルMPBを用いて第2パラメータTgmsを求める。第2変換テーブルMPBは、目標発電出力Pgtと第2パラメータTgmsとの関係が記述されている。第2変換テーブルMPBは、目標発電出力Pgtの絶対値が所定の値Pgt1までは第2パラメータTgmsが一定値Tgms1であり、目標発電出力Pgtの絶対値が所定の値Pft1以上になると目標発電出力Pgtの増加とともに第2パラメータTgmsが大きくなっている。
【0121】
実施形態において、第1パラメータTgmf及び第2パラメータTgmsは、いずれもトルクであり、単位はN・mである。第1パラメータTgmf及び第2パラメータTgmsは、ハイブリッドコントローラ23の制御周期毎に求められるので、1制御周期あたりの第1パラメータTgmf及び第2パラメータTgmsは、発電トルク増加率となる。
【0122】
最大値選択部54Cは、第1パラメータTgmfと第2パラメータTgmsとのうち大きい方を選択して出力する。最大値選択部54Cが出力した値は、第1の値Tgmmaxとなる。最大値選択部54Cが出力した値は反転部54Dを通過する。反転部54Dは、最大値選択部54Cが出力した値に負の符号を付して出力する。反転部54Dが出力した値は、第2の値Tgmminとなる。第1の値Tgmmaxの絶対値と第2の値Tgmminの絶対値とは等しくなる。
【0123】
図15を用いて入力値演算部55の処理を説明する。入力値演算部55は、ステップS1において、前回値Tgtmbと最低発電トルクTgminとを比較する。前回値Tgtmbが最低発電トルクTgminよりも小さい場合(ステップS1,Yes)、ステップS2において、入力値演算部55は、目標発電トルクTgtと最低発電トルクTgminとを比較する。
【0124】
目標発電トルクTgtが最低発電トルクTgminよりも小さい場合(ステップS2,Yes)、ステップS3において、入力値演算部55は、無効フラグFmiをTRUEとし、ステップS4において発電トルク入力値INmを目標発電トルクTgtとする。
【0125】
前回値Tgtmbが最低発電トルクTgmin以上である場合(ステップS1,No)、ステップS5において、入力値演算部55は、無効フラグFmiをFALSEとし、ステップS6において発電トルク入力値INmを目標発電トルクTgtとする。
【0126】
目標発電トルクTgtが最低発電トルクTgmin以上である場合(ステップS2,No)、ステップS7において、入力値演算部55は、無効フラグFmiをTRUEとし、ステップS8において発電トルク入力値INmを最低発電トルクTgminとする。
【0127】
このような処理により、入力値演算部55は、発電トルクTgが0から最低発電トルクTgminの間だけ、発電トルクTgを時間tの経過とともに増加させることができる。そして、入力値演算部55は、発電トルクTgが最低発電トルクTgmin以上になったら、発電トルクTgを目標発電トルクTgtとすることができる。
【0128】
モジュレーション処理部56は、
図16に示されるように、第1加減算器56Aと、最小値選択部56Bと、最大値選択部56Cと、第2加減算器56Dと、選択部56Eと、無効フラグ出力部56Fと、前回値記憶部56Gとを含む。第1加減算器56Aは、入力値演算部55から出力された発電トルク入力値INmから前回値Tgtmbを減算して最小値選択部56Bに出力する。
【0129】
最小値選択部56Bは、第1加減算器56Aからの出力値と、発電トルク増加率変更部54によって求められた第1の値Tgmmaxとのうち小さい方を選択して、最大値選択部56Cに出力する。最大値選択部56Cは、最小値選択部56Bから出力された値と、発電トルク増加率変更部54によって求められた第2の値Tgmminとのうち大きい方を選択して、第2加減算器56Dに出力する。
【0130】
第2加減算器56Dは、最大値選択部56Cから出力された値と、前回値Tgtmbとを加算して、選択部56Eに出力する。選択部56Eは、無効フラグ出力部56Fから選択部56Eに出力された無効フラグFmiの値に応じて、入力を選択して出力する。無効フラグFmiがFALSEの場合、ハイブリッドコントローラ23は、発電トルクTgを時間の経過とともに増加させる。このため、選択部56Eは第2加減算器56Dが演算した結果を今回値Tgtmとして出力する。今回値Tgtmは、発電トルク指令値Tgcである。
【0131】
無効フラグFmiがTRUEの場合、ハイブリッドコントローラ23は、発電トルクTgを時間の経過とともに増加させず、発電トルク入力値INmをそのまま出力する。このため、選択部56Eは、モジュレーション処理部56に入力された発電トルク入力値INmを今回値Tgtm、すなわち発電トルク指令値Tgcとして出力する。前回値記憶部56Gは、モジュレーション処理部56の前回値Tgtmbがハイブリッドコントローラ23の記憶部100Mに記憶されることを意味する。
【0132】
発電トルク入力値INmが、第1加減算器56A、最小値選択部56B、最大値選択部56C及び第2加減算器56Dのそれぞれで処理されることにより、選択部56Eの出力にはモジュレーションがかけられる。その結果、発電トルク指令値Tgcは、時間tの経過とともに増加する。その結果、発電電動機19が発電する際に内燃機関17の回転速度nが急激に増加することが抑制される。
【0133】
実施形態において、ハイブリッドコントローラ23は、モジュレーション処理部56が出力した発電トルク指令値Tgcの前回値と、発電トルク増加率を決定するための第1の値Tgmmax及び第2の値Tgmminとを用いて、時間tの経過とともに発電トルク指令値Tgcを増加させる。時間tの経過とともに発電トルク指令値Tgcを増加させる方法は実施形態のものに限定されない。例えば、モジュレーション処理部56は、発電トルク入力値INmに対する発電トルク指令値Tgcを、一次遅れに従って変化させてもよい。この場合、発電トルク指令値Tgcと発電トルク入力値INmとの関係は、例えば、式(2)で表される。Δtcはハイブリッドコントローラ23の制御周期、τは時定数である。
Tgc=INm×Δtc/(Δtc+τ)+Tgtmb×τ/(Δtc+τ)・・・(2)
【0134】
<実施形態に係る機関制御方法>
図17は、実施形態に係るハイブリッド作業機械の機関制御方法の一例を示すフローチャートである。ステップS101において、
図2に示されるハイブリッドコントローラ23は、蓄電装置22に蓄電されている電力量に基づいて、発電電動機19が発電するか否かを判定する。例えば、ハイブリッドコントローラ23は、蓄電装置22の目標とする端子間電圧と、現在の端子間電圧との偏差である電圧偏差が閾値以下になった場合に、発電電動機19が発電すると判定する。
【0135】
発電電動機19が発電する場合(ステップS101,Yes)、ハイブリッドコントローラ23は、発電トルクTgにモジュレーションをかけて出力する(ステップS102)。すなわち、ハイブリッドコントローラ23は、発電トルクTgを時間の経過とともに増加させて出力し、かつ油圧ポンプ18が吸収する吸収トルクを低下させる。その結果、内燃機関17のトルクTも時間tの経過とともに増加するので、発電電動機19が発電する際に内燃機関17の回転速度nが急激に増加することが抑制される。
【0136】
発電電動機19が発電しない場合(ステップS101,No)、ハイブリッドコントローラ23は、発電トルクTgにモジュレーションをかけないで出力する。
【0137】
<出力指示線の変形例>
図18は、実施形態に係る出力指示線の変形例を説明するための図である。前述したように、
図4、
図6及び
図7に示される出力指示線ILは等馬力線であったが、変形例に係る出力指示線は、等スロットル線である。
図18に示されるトルク線図は、等スロットル線EL1、EL2、EL3と、等馬力線EP0、EPと、制限線VLと、内燃機関17の最大トルク線TLと、マッチングルートMLとが示されている。
【0138】
等スロットル線EL1、EL2、EL3は、燃料調整ダイヤル、すなわち、
図2に示されるスロットルダイヤル28の設定値(スロットル開度)が等しい場合のトルクTと回転速度nとの関係を示している。スロットルダイヤル28の設定値とは、コモンレール制御部32が内燃機関17に噴射する燃料の噴射量を規定するための指令値である。
【0139】
等スロットル線EL1は、スロットルダイヤル28の設定値が100%、すなわち、内燃機関17に対する燃料噴射量が最大となる場合に対応する。等スロットル線EL2は、スロットルダイヤル28の設定値が0%となる場合に対応する。等スロットル線EL3は、この順に、スロットルダイヤル28の設定値が大きい値に対応する複数の線である。等スロットル線EL3は、燃料噴射量が最大値と最小値との間の値となる。
【0140】
第1等スロットル線EL1は、内燃機関17に対する燃料噴射量が最大になる場合に対応した、トルクTと回転速度nとの関係を表している。以下において、第1等スロットル線EL1は、内燃機関17の定格出力となる回転速度での出力が、定格出力以上に設定されている。
【0141】
第2等スロットル線EL2は、内燃機関17に対する燃料噴射量が0になる場合に対応した、トルクTと回転速度nとの関係を表している。等スロットル線EL2は、内燃機関17のトルクTが0、かつ回転速度nが0を起点として、内燃機関17の回転速度nが増加するにしたがって、内燃機関17のトルクTが低下するように定められている。トルクTが低下する割合は、内燃機関17の内部摩擦によって発生する摩擦トルクTfに基づいて定められる。
【0142】
第3等スロットル線EL3は、第1等スロットル線EL1と第2等スロットル線EL2との間に複数存在する。第3等スロットル線EL3は、第1等スロットル線EL1と第2等スロットル線EL2との値を補間することにより得られる。
【0143】
第1等スロットル線EL1、第2等スロットル線EL2及び第3等スロットル線EL3は、いずれも、内燃機関17の回転速度n及びトルクTの目標を示している。特にこの中で、内燃機関17は、第3等スロットル線EL3から得られる回転速度n及びトルクTとなるように制御される。等馬力線EPは、内燃機関17の出力が一定となるように、トルクTと回転速度nとの関係が定められている。第3スロットル線EL3と任意の等馬力線EPとが交差するある一点は、例えばマッチングルート上MLで交差するように定められてもよい。
【0144】
制御装置、例えば
図2に示されるエンジンコントローラ30及びポンプコントローラ33は、第3等スロットル線EL3とを用いて、実施形態と同様に内燃機関17の運転状態を制御する。
【0145】
実施形態においては、内燃機関17を備えた油圧ショベル1を作業機械の例としたが、実施形態が適用できる作業機械はこれに限定されない。例えば、作業機械は、ホイールローダ、ブルドーザ及びダンプトラック等であってもよい。作業機械が搭載するエンジンの種類も限定されない。
【0146】
以上、実施形態を説明したが、前述した内容により実施形態が限定されるものではない。また、前述した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。さらに、前述した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。さらに、実施形態の要旨を逸脱しない範囲で構成要素の種々の省略、置換又は変更を行うことができる。