特許第6093933号(P6093933)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6093933
(24)【登録日】2017年2月24日
(45)【発行日】2017年3月15日
(54)【発明の名称】海生生物の付着防止方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/50 20060101AFI20170306BHJP
   C02F 1/72 20060101ALI20170306BHJP
   G21D 1/00 20060101ALI20170306BHJP
   E02B 5/00 20060101ALI20170306BHJP
【FI】
   C02F1/50 510E
   C02F1/50 520F
   C02F1/50 531Q
   C02F1/50 540B
   C02F1/50 550L
   C02F1/72 Z
   G21D1/00 R
   E02B5/00 A
【請求項の数】1
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2012-283657(P2012-283657)
(22)【出願日】2012年12月26日
(65)【公開番号】特開2014-126467(P2014-126467A)
(43)【公開日】2014年7月7日
【審査請求日】2015年7月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】593006630
【氏名又は名称】学校法人立命館
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】505112048
【氏名又は名称】ナルコジャパン合同会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000154727
【氏名又は名称】株式会社片山化学工業研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】特許業務法人池内・佐藤アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】森▲崎▼ 久雄
(72)【発明者】
【氏名】土屋 雄揮
(72)【発明者】
【氏名】大谷 武之
(72)【発明者】
【氏名】太田 文清
【審査官】 片山 真紀
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−055693(JP,A)
【文献】 特開2000−070954(JP,A)
【文献】 米国特許第04324784(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/50
A01N 25/00−65/00
A01P 1/00−15/00
Japio−GPG/FX
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
過酸化水素化合物を添加して海水冷却系へのフジツボ、ムラサキイガイ、カンザシゴカイ、イガイ、ミドリイガイ、ヒドロ虫、及びシマメノウフネガイからなる群から選択される少なくとも一つを含む海生生物の付着を防止する方法であって、
前記海水冷却系から採取したバイオフィルム中のThiotrichaceae Thiothrix disciformis、Thiotrichaceae Thiothrix spp.、及びThioalkalispiraceae Thioprofundum lithotrophicaからなる群から選択される硫黄酸化細菌の検出を行うこと、及び
前記検出において前記硫黄酸化細菌が検出されなかった場合には、前記海水冷却水系への過酸化水素化合物の添加量及び/又は添加頻度を増加させるように決定を行い、又は、前記検出において検出された前記硫黄酸化細菌が優占種である場合には、過酸化水素化合物の添加量及び/又は添加頻度を維持又は減少させるように決定を行うことを含む、
海生生物の付着防止方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、海生生物の付着防止方法、及び海水冷却系における海生生物の付着防止効果の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発電所、製鐵所及び石油化学プラント等では、工業用冷却用水として海水が使用されている。一方、海水にはフジツボ、ムラサキイガイ、カンザシゴカイ、ヒドロ虫、及びコケムシ等の海生生物が生息していることから、これらの海生生物が海水とともに熱交換器、配管及び復水器等の中に入り、その内壁に付着する場合がある。海生生物が内壁に付着すると、配管や熱交換器内の通水を阻害して冷却効率を低下させる等の原因となる。
【0003】
このため、海生生物の付着を防止するために、例えば、環境負荷の少ない過酸化水素が用いられている(例えば、特許文献1等)。過酸化水素はそれ自身の毒性が低く、分解すると酸素ガスと水になることから環境に与える影響も少ない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許3103309号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
環境によりやさしく、また、経済的な面からより効率よく海生生物の付着を防止する方法が求められている。そこで、本開示は、海水冷却系における過酸化水素化合物を用いた海生生物の付着をより効率的に防止できる方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、一態様において、過酸化水素化合物を添加して海水冷却系への海生生物の付着を防止する方法であって、前記海水冷却系から採取したバイオフィルム中の細菌の検出を行うこと、及び前記検出された細菌の種類及び/又はその割合を指標とし、前記海水冷却系への過酸化水素化合物の添加量及び/又は添加頻度を制御することを含む海生生物の付着防止方法に関する。
【0007】
また、本開示は、一態様において、過酸化水素化合物を添加した海水冷却系における海生生物の付着防止効果を評価する方法であって、前記海水冷却系から採取したバイオフィルム中の細菌の検出を行うこと、及び硫黄酸化細菌又はその近縁種が検出された場合は、過酸化水素化合物によって前記海水冷却系における海生生物の付着が抑制されていると評価することを含む評価方法に関する。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、過酸化水素化合物を添加した海水冷却系における海生生物の付着をより効率的に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1A図1Aは、実施例1のDGGEの結果の一例を示す写真である。
図1B図1Bは、図1Aのゲルにおいて菌種同定したバンドを示す写真である。
図2A図2Aは、実施例2のDGGEの結果の一例を示す写真である。
図2B図2Bは、図2Aのゲルにおいて菌種同定したバンドを示す写真である。
図3A図3Aは、実施例3のDGGEの結果の一例を示す写真である。
図3B図3Bは、図3Aのゲルにおいて菌種同定したバンドを示す写真である。
図4図4は、実施例4のDGGEの結果の一例を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本開示は、海水冷却系に形成されるバイオフィルム中の細菌の種類及び/又は割合と、過酸化水素化合物による海生生物の付着防止効果との間に関連性があることから、バイオフィルムを構成する細菌の種類及び/又はその種類を指標として、過酸化水素化合物による海生生物の付着防止効果を評価することができるとの知見に基く。
【0011】
過酸化水素化合物を用いて海生生物の付着を防止するに当たり、その効果の様子をモニターする点から、従来、海水冷却系における過酸化水素の濃度を測定したり、海水冷却系内における海生生物の稚貝数を観察・評価したりすること等が行われている。しかしながら、前者の場合、連続測定では、過酸化水素濃度の連続測定装置が必要となりイニシャルコストが高くなるという問題があり、一方、色見本等を利用した比色法が代表的であるが、バッチ測定では、誤差が大きくなり、また、過酸化水素の濃度と付着防止効果との相関は、経験則のみに基くことから正確性に欠けるという問題がある。また、過酸化水素化合物の添加方法として、連続添加と間欠添加が考えられる。連続添加の場合は、課題があるものの上記方法を適用することが可能である。しかし、間欠添加の場合は、薬剤濃度のみを指標に添加を判断することになると、数多くの測定点の濃度を測定しなければならず煩雑であるという問題もある。一方、後者の場合、安価に確認できるが、海生生物が付着・成長するまで目視できず、効果判断まで長期間を要するという問題がある。
【0012】
本開示の方法によれば、海水冷却系から採取したバイオフィルム中の細菌の種類及び/又はその割合を指標とすることから、過酸化水素化合物を添加した海水冷却系における海生生物の付着防止効果をより簡単・正確に評価することができる。また、本開示の方法によれば、細菌の種類及び/又はその割合を指標として、海水冷却系への過酸化水素化合物の添加量及び/又は添加頻度を制御することから、海生生物の付着をより効率的に防止することができる。
【0013】
指標とする細菌としては、一又は複数の実施形態において、硫黄酸化細菌又はその近縁種(以下、「硫黄酸化細菌等」ともいう)等が挙げられる。硫黄酸化細菌等としては、一または複数の実施形態において、Thiotrichaceae Thiothrix disciformis、Thiotrichaceae Thiothrix sp、Tioalkalispiraceae Tioprofundum lithotrophica、及びTioalkalispiraceae Tioprofundum sp.等が挙げられる。
【0014】
本開示における「海水冷却系」とは、海水を冷却媒体とし、熱エネルギーを外界へ放出させるエネルギーシステムをいい、より具体的には冷却媒体である海水が循環されることで、熱エネルギーの流れが生じることによって、熱エネルギーが大気などの外界へ放出させるためのシステムをいう。海水冷却系としては、一又は複数の実施形態において、製鐵所、石油化学工場及び化学工場等の各種工場、火力発電所及び原子力発電所等の発電所等に用いられる海水を使用した冷却系等が挙げられる。海水冷却系としては、一又は複数の実施形態において、熱交換器及び復水器、並びにそれらに付帯する配管、海水取水路、導水路、ボール洗浄施設、ゴミ除けオートストレーナー、ポンプ、バースクリーン及びトラベルスクリーン等が挙げられる。
【0015】
本開示における「海生生物」とは、海水中の基質/基盤に付着して生息する生き物であって、一又は複数の実施形態において、付着性海生生物等が挙げられる。付着性海生生物としては、一又は複数の実施形態において、フジツボ類、イガイ類、多毛類、ヒドロ虫類、及び巻貝類等が挙げられる。イガイ類としては、ムラサキイガイ、及びミドリイガイ等が挙げられる。多毛類としては、カンザシゴカイ等が挙げられる。巻貝類としては、シマメノウフネガイ等が挙げられる。なお、本開示における「海生生物」は、一又は複数の実施形態において、海水中に生息する細菌を含まない。
【0016】
本開示における「過酸化水素化合物」とは、過酸化水素又は水中で過酸化水素を放出可能な化合物であり、一又は複数の実施形態において、過酸化水素、無機過酸化物及び有機過酸化物並びにこれらの塩類等が挙げられる。水中で過酸化水素を放出可能な無機過酸化物としては、一又は複数の実施形態において、過ホウ酸、過炭酸、及びペルオキシ硫酸又はこれらの塩類等が挙げられる。有機過酸化物又は有機過酸化水素化合物としては、一又は複数の実施形態において、過酢酸等が挙げられる。
【0017】
[海生生物の付着防止方法]
本開示は、一態様において、過酸化水素化合物を添加して海水冷却系への海生生物の付着を防止する方法であって、前記海水冷却系から採取したバイオフィルム中の細菌の検出を行うこと、及び前記検出された細菌の種類及び/又はその割合を指標とし、前記海水冷却系への過酸化水素化合物の添加量及び/又は添加頻度を制御することを含む海生生物の付着防止方法に関する(以下、「本開示の付着防止方法」ともいう)。
【0018】
本開示の付着防止方法は、海水冷却系から採取したバイオフィルム中の細菌の検出を行うことを含む。バイオフィルムは、一又は複数の実施形態において、海水冷却系、又は前記海水冷却系から分岐させた分岐路から採取することができる。バイオフィルムとしては、一又は複数の実施形態において、海水冷却系又は分岐路に配置された確認板及びカラムに形成されるバイオフィルム等があげられる。本開示の付着防止方法は、一又は複数の実施形態において、海水冷却系又は分岐路に確認板及び/又はカラムを配置すること、確認板及び/又はカラムに形成されたバイオフィルムから試料を採取することを含んでいてもよい。確認板及びカラムの材質は特に限定されるものではないが、一又は複数の実施形態として、樹脂、無機類、金属類、及びスレート等が挙げられる。樹脂としては、塩化ビニル及びアクリル等が挙げられる。無機類としては、ガラス等が挙げられる。金属類としては、チタン、SUS及び銅合金等が挙げられる。
【0019】
細菌の検出は、一又は複数の実施形態において、微生物群集合解析、特定微生物の定量解析、及び培養学等を用いることにより行うことができる。微生物群集合解析としては、一又は複数の実施形態において、クローニング、PCR−DGGE法、PCR−TGGE法、T−RFLP法、及び次世代シークエンス(1分子シークエンス)等が挙げられる。特定微生物の定量解析としては、一又は複数の実施形態として、リアルタイムPCR法、PCR−RFLP法、及びFISH法等が挙げられる。上記検出手法は、必要に応じて、これらを組み合わせることによって行ってもよい。細菌の検出は、特異的配列を利用しない方法によって行うことが好ましく、手間及びコストの点から、PCR−DGGE法が好ましい。
【0020】
本開示の付着防止方法は、検出された細菌の種類及び/又はその割合を指標とし、海水冷却系への過酸化水素化合物の添加量及び/又は添加頻度を制御することを含む。前記指標は、一又は複数の実施形態として、硫黄酸化細菌又はその近縁種の検出の有無、及び硫黄酸化細菌又はその近縁種が検出された場合、硫黄酸化細菌又はその近縁種が優占種であるか否か等が挙げられる。優占種であるか否かの判断は、一又は複数の実施形態として、採取された試料を構成する細菌群において、硫黄酸化細菌又はその近縁種が非常に大きく影響を及ぼしているか否かで判断することができる。一又は複数の実施形態として、採取された試料から検出された細菌群で硫黄酸化細菌及びその近縁種の個体数又は現存数等が多い場合等に、硫黄酸化細菌又はその近縁種が優占種であると判断することもできる。
【0021】
本開示の付着防止方法における制御は、一又は複数の実施形態として、前記指標と前記海水冷却系への過酸化水素化合物の添加量及び/又は添加頻度とに基き、新たな添加量及び/又は添加頻度を決定することを含む。
【0022】
本開示の付着防止方法における制御は、一又は複数の実施形態において、前記決定された新たな添加量及び/又は添加頻度に基き、海水冷却系に過酸化水素化合物を添加することを含んでいてもよい。添加する過酸化水素化合物としては、上述の通りであり、一又は複数の実施形態において、市販の過酸化水素水溶液等が使用できる。使用する過酸化水素水溶液の濃度は特に限定されるものではなく、一又は複数の実施形態において、3〜60重量%等が挙げられる。
【0023】
本開示の付着防止方法における制御は、一又は複数の実施形態において、前記指標、ブルーム期の有無、ならびに前記海水冷却系への過酸化水素化合物の添加量及び/又は添加頻度に基き、新たな添加量及び/又は添加頻度を決定することを含んでいてもよい。
【0024】
[付着防止効果の評価方法]
本開示は、その他の態様として、過酸化水素化合物を添加した海水冷却系における海生生物の付着防止効果を評価する方法であって、前記海水冷却系から採取したバイオフィルム中の細菌の検出を行うこと、及び硫黄酸化細菌又はその近縁種が検出された場合は、過酸化水素化合物によって前記海水冷却系における海生生物の付着が抑制されていると評価することを含む評価方法(以下、「本開示の評価方法」ともいう)に関する。細菌の検出及び評価は、本開示の付着防止方法と同様に行うことができる。
【0025】
[キット]
本開示は、さらにその他の態様として、本開示の評価方法を行うためのキットであって、本開示の評価方法における細菌を検出できるように設計されたプライマー及び試薬を含むキットに関する。
【0026】
本開示のキットは、さらに、説明書を含んでいてもよい。説明書には、本開示の評価方法、及び/又は、本開示の付着防止方法を行うための説明を含んでいてもよい。
【0027】
以下に、本開示を好適な実施の形態を示しながら詳細に説明する。但し、本開示は以下に示す実施の形態に限定されない。
【0028】
まず、海水冷却系に又は海水冷却系から分岐させた分岐路に、海生生物付着防止効果を確認するための確認板又はカラムを取り付ける。なお、確認板又はカラムに変えて、海水冷却系における水路表面における所定の箇所にて効果の確認を行ってもよい。
【0029】
つぎに、海水冷却系に、過酸化水素化合物を添加する。過酸化水素化合物の添加量及び添加頻度は、効果の評価が容易になることから、予め設定しておくことが好ましい。
【0030】
確認板、カラム又は上記所定の水路表面に形成されたバイオフィルムを採取し、細菌の検出を行い、硫黄酸化細菌の有無を確認する。細菌の検出は、上記の方法によって行うことができ、なかでもPCR−DGGE法が好ましい。硫黄酸化細菌であるか否かは、PCR−DGGE後にバンドからDNA配列を読み取ることで確認できる。また、硫黄酸化細菌によるバンドの位置が予め分かっている場合は、バンドパターンの比較のみで硫黄酸化細菌が優占種であるか否かを判断してもよい。
【0031】
優占種であるかは、硫黄酸化細菌が顕著に検出されているか否かによって判断できる。より具体的には、特に限定されない一又は複数の実施形態において、他のバンドと比較して明確に濃いバンドで確認可能な場合に優占種であると判断することができる。
【0032】
硫黄酸化細菌が優占種である場合、十分な付着防止効果が得られていると判断でき、その結果、過酸化水素化合物の添加量及び添加頻度は適正又は過剰であると評価できる。また、硫黄酸化細菌が優占種ではない場合、十分な付着防止効果が得られていないと判断でき、その結果、過酸化水素化合物の添加量及び添加頻度は不十分であると評価できる。
【0033】
上記評価結果に基き、過酸化水素化合物の新たな添加量及び添加頻度を決定し、決定した添加量・添加頻度に基き過酸化水素化合物の添加を行う。具体的には、硫黄酸化細菌が優占種である場合、過酸化水素化合物の添加量及び添加頻度は適正又は過剰であると評価できることから、現在の添加量及び/又は添加頻度を維持する、又は現在の添加量及び/又は添加頻度を減少するという決定を行うことができる。一方、硫黄酸化細菌が優占種ではない場合、過酸化水素化合物の添加量及び添加頻度は適正ではないと評価できることから、現在の添加量及び/又は添加頻度を増加するという決定を行う。また、海生生物はブルーム期等では発生量が増加することが見込まれることから、優占種の有無に限らずこのような判断基準を加えて添加量等の決定を行うことが好ましい。
【0034】
これらの付着防止効果の評価、新たな添加量等の決定、及び過酸化水素化合物の添加を繰返し行うことにより、海水冷却系への海生生物の付着をより効率的に防止することができる。
【0035】
本開示は、さらに以下の一又は複数の実施形態に関する。
〔1〕 過酸化水素化合物を添加して海水冷却系への海生生物の付着を防止する方法であって、
前記海水冷却系から採取したバイオフィルム中の細菌の検出を行うこと、及び
前記検出された細菌の種類及び/又はその割合を指標とし、前記海水冷却系への過酸化水素化合物の添加量及び/又は添加頻度を制御すること、を含む、
海生生物の付着防止方法。
〔2〕 前記指標とする細菌は、硫黄酸化細菌又はその近縁種である、〔1〕記載の防止方法。
〔3〕 前記制御は、前記指標と前記海水冷却系への過酸化水素化合物の添加量及び/又は添加頻度とに基き、新たな添加量及び/又は添加頻度を決定することを含む、〔1〕又は〔2〕に記載の防止方法。
〔4〕 前記細菌の検出において硫黄酸化細菌又はその近縁種が検出されなかった場合には、過酸化水素化合物の添加量及び/又は添加頻度を増加させるように前記決定を行う、〔3〕記載の防止方法。
〔5〕 前記細菌の検出において検出された硫黄酸化細菌又はその近縁種が優占種である場合には、過酸化水素化合物の添加量及び/又は添加頻度を維持又は減少させるように前記決定を行う、〔3〕記載の防止方法。
〔6〕 前記制御は、前記決定された新たな添加量及び/又は添加頻度に基き、海水冷却系に過酸化水素化合物を添加することを含む、〔1〕から〔5〕のいずれかに記載の防止方法。
〔7〕 前記海生生物は、付着性海生生物である、〔1〕から〔6〕のいずれかに記載の防止方法。
〔8〕 前記海生生物は、フジツボ、ムラサキイガイ、カンザシゴカイ、イガイ、ミドリイガイ、ヒドロ虫、及びシマメノウフネガイからなる群から選択される少なくとも一つを含む、〔1〕から〔7〕のいずれかに記載の防止方法。
〔9〕 前記制御は、前記指標、ブルーム期の有無、ならびに前記海水冷却系への過酸化水素化合物の添加量及び/又は添加頻度に基き、新たな添加量及び/又は添加頻度を決定することを含む、〔1〕から〔8〕のいずれかに記載の防止方法。
〔10〕 前記硫黄酸化細菌又はその近縁種は、Thiotrichaceae Thiothrix disciformis、Thiotrichaceae Thiothrix sp、Tioalkalispiraceae Tioprofundum lithotrophica、及びTioalkalispiraceae Tioprofundum sp.からなる群から選択される、〔2〕から〔9〕のいずれかに記載の防止方法。
〔11〕 前記検出は、クローニング、PCR−DGGE法、PCR−TGGE法、T−RFLP法、及び次世代シークエンスからなる群から選択される方法を用いて行う、〔1〕から〔10〕のいずれかに記載の防止方法。
〔12〕 前記バイオフィルムは、前記海水冷却系又は前記海水冷却系から分岐させた分岐路から採取する、〔1〕から〔11〕のいずれかに記載の防止方法。
〔13〕 前記バイオフィルムは、前記海水冷却系又は分岐路に配置された確認板及びカラムに形成されるバイオフィルムである、〔11〕又は〔12〕に記載の防止方法。
〔14〕 前記確認板及びカラムは、樹脂、無機類、金属類、及びスレートからなる群から選択されるいずれかで形成される、〔13〕記載の防止方法。
〔15〕 前記海水冷却系は、熱交換器、復水器、及びボイラーからなる群から選択される少なくとも一つを含む、〔1〕から〔15〕のいずれかに記載の防止方法。
〔16〕 過酸化水素化合物を添加した海水冷却系における海生生物の付着防止効果を評価する方法であって、
前記海水冷却系から採取したバイオフィルム中の細菌の検出を行うこと、及び
硫黄酸化細菌又はその近縁種が検出された場合は、過酸化水素化合物によって前記海水冷却系における海生生物の付着が抑制されていると評価することを含む、評価方法。
【0036】
以下、以下の実施例に基いて本開示を説明するが、本開示はこれに限定されるものではない。
【実施例】
【0037】
(実施例1)
[バイオフィルム形成]
太平洋に面する和歌山県沿岸で、水中ポンプを用い揚水した海水を2系統に分岐する水路試験装置を組み立て、試験を実施した。水路試験装置内にはバイオフィルム形成用のアクリル板が浸漬できる箇所を設けた。試験区は、過酸化水素無添加と過酸化水素添加(測定濃度:1.75mg/L)との2区を設けた。なお、過酸化水素としては35重量%過酸化水素水溶液を使用した。アクリル板の浸漬は、2011年3月16日に開始し、浸漬後3、4、5、6、8及び10週間でアクリル板を取り出し、バイオフィルムを採取した。
【0038】
[バイオフィルムのサンプリング]
取り出したアクリル板から、歯ブラシを用いてバイオフィルムを擦りとり、滅菌人工海水に懸濁させることによってバイオフィルムをサンプリングした。得られた懸濁液は、解析を行うまで冷凍保存した。また、アクリル板の取り出しと同時に、海水を採取し、PCR-DGGEに供した。
【0039】
[DNA抽出・精製・16SrDNAを用いたPCR-DGGE・菌種同定]
PCR-DGGE及び菌種同定は、Microbes Environ. Vol. 24, No. 1, 43-51, 2009及びMicrobes Environ. Vol. 26, No. 2, 113-119, 2011に準拠して行った。すなわち、まず、凍結したバイオフィルム懸濁液1.5mlを、VD-31(製品番号、Taitec製)を用いて約12時間減圧下で凍結乾燥させた。乾燥バイオフィルム及び採取した海水について、Quick Gene(商品名:Quick Gene 8000、富士フィルム社製)を用いてDNAの抽出及び精製を行った。PCRは、プライマーセット25f-1401rと341fGC-907rによるNested-PCRを採用し、Go-Taq(Promega製)及びthermal cyclerを用いて行った。増幅条件は、95℃30秒、52℃30秒、72℃1分の30サイクルとした。DGGEは、BioRad 社製DCodeシステム(微生物群集解析 基本システム)を用いた。具体的には、勾配35-65%の変性剤(100%変性剤:7M尿素、40%[w/v]ホルムアミド)を含むアクリルアミドを用い、60℃、75Vで14時間泳動することによって行った。ゲルは、SYBR Gold (インビトロジェン社製色素)で30分染色した。DGGEゲルからDGGEバンドを切り出し、凍結融解によってDNAを回収した。回収したDNAを上記と同じ条件で増幅させ、DGGEゲルでの移動を確認した後、ゲルからバンドを切り出し、凍結融解によってDNAを回収した。回収したDNAを341f-907rでPCRを行い、単一のDNAを得た。907rからのサイクルシーケンス及びシーケンスは、外注した。シーケンス結果から、DDBJのBLASTによって菌種同定を行った。DGGEの結果の一例を図1A及びBに示す。図1Aにおいて、レーン1〜6が海水、レーン7〜10が過酸化水素無添加のバイオフィルム、レーン11〜16が過酸化水素添加(濃度:1.75mg/L)のバイオフィルムを示し、矢印で硫黄酸化細菌の近縁種のバンドを示す。図1Bに、図1Aにおけるレーン2、4、8、10、12及び14において菌種同定したバンドを示し、各バンドのシーケンス結果から得られた近縁種を下記表1〜3に示す。表1は海水のシーケンス結果から得られた近縁種、表2は過酸化水素無添加の試験区から採取したバイオフィルムのシーケンス結果、表3は過酸化水素添加の試験区から採取したバイオフィルムのシーケンス結果である。
【0040】
【表1】

【表2】

【表3】
【0041】
図1A及びB並びに表1〜3に示すように、海水及び過酸化水素無添加の試験区からはこれらは検出されなかったのに対し、過酸化水素を添加した試験区から採取したバイオフィルムではThiothirix属(硫黄酸化細菌)近縁種が検出された。また、過酸化水素を添加することによって、硫黄酸化細菌の近縁種が定常的に検出されることがわかった。さらに、過酸化水素を添加した試験区では、Thiothirix属(硫黄酸化細菌)近縁種のバンドが濃く現れ、Thiothirix属(硫黄酸化細菌)近縁種の優占度が高かった。また、過酸化水素を添加しなかった試験区では、熱交換器の障害となるようなフジツボの付着及び成長が浸漬時間の経過とともに増加し、浸漬後8及び10週目では大型のフジツボが多数付着していることが確認されたのに対し、過酸化水素を添加した試験区ではこれらの付着及び成長は確認されなかった。
【0042】
(実施例2)
東京湾に面した製鐵所及び瀬戸内海に面した化学工場において、海水放流ピット内に塩ビ板を浸漬してバイオフィルムを形成させた。なお、同製鐵所及び化学工場では、過酸化水素を添加して熱交換器の生物付着防止を行い、海水放流ピットにおける過酸化水素濃度はともに0.6mg/Lであった。塩ビ板の浸漬は2011年12月21日に開始し、浸漬後4週間でバイオフィルムを採取した。また、同時期に、実施例1で使用した水路試験装置を用いて試験を行い、3系統に分岐し、試験区は、過酸化水素無添加及び過酸化水素添加(濃度:0.6mg/L、1.75mg/L)の3区を設けた。バイオフィルムのサンプリング及びPCR-DGGE・菌種同定は実施例1と同様に行った。DGGEの結果の一例を図2A及びBに示す。図2Aにおいて、レーンA〜Cが海水、レーンD〜Iが採取したバイオフィルムを示し、矢印で硫黄酸化細菌の近縁種のバンドを示す。図2Bに、菌種同定したバンドを示し、各バンドのシーケンス結果から得られた近縁種を下記表4〜7に示す。表4は海水(A:東京湾、B:瀬戸内海、C:和歌山)のシーケンス結果から得られた近縁種、表5は東京湾に面した製鐵所から採取したバイオフィルムのシーケンス結果、表6は瀬戸内海に面した化学工場から採取したバイオフィルムのシーケンス結果、表7は水路試験装置から採取したバイオフィルムのシーケンス結果である。
【0043】
【表4】

【表5】

【表6】
【表7】
【0044】
図2A及びB、表5及び6に示すように、過酸化水素が添加されて生物付着防止が行われた海水放流ピットで形成されたバイオフィルムでは、優占度が増加していたE11、G7、I7及びJ3のバンドはいずれもThiothrix属(硫黄酸化細菌)近縁種であった。また、実施例1及び2の結果から、硫黄酸化細菌の近縁種は、季節に関わらず過酸化水素を含有する海水中で形成されたバイオフィルムで検出されることが確認できた。また、いずれの製鐵所及び工場においても熱交換器の障害となるようなフジツボの付着及び成長が確認されなかった。
【0045】
(実施例3)
実施例1で使用した水路試験装置を用いて試験を行った。3系統に分岐し、試験区は、過酸化水素無添加及び過酸化水素添加(濃度:0.6mg/L、1.75mg/L)の3区を設けた。アクリル板の浸漬は2012年5月14日及び2012年6月13日に開始し、浸漬開始後1又は2週間でバイオフィルムを採取した。バイオフィルムのサンプリング及びPCR-DGGE・菌種同定は実施例1と同様に行った。DGGEの結果の一例を図3A及びBに示す。図3Aにおいて、レーンA〜Bが海水、レーンC〜Kが採取したバイオフィルムを示し、矢印で硫黄酸化細菌の近縁種のバンドを示す。図3Bに、菌種同定したバンドを示し、各バンドのシーケンス結果から得られた近縁種を下記表8〜10に示す。表8は海水のシーケンス結果から得られた近縁種、表9は2012年5月22日又は30日に採取したバイオフィルムのシーケンス結果、表10は浸漬を2012年6月26日に採取したバイオフィルムのシーケンス結果である。
【0046】
【表8】

【表9】

【表10】
【0047】
図3A及びB並びに表8〜10に示すように、過酸化水素を含有する海水中で形成されたバイオフィルムでは、硫黄酸化細菌の近縁種が検出された。また、過酸化水素を添加しなかった試験区では、熱交換器の障害となるようなフジツボの付着及び成長が確認されたのに対し、過酸化水素を添加した試験区ではこれらの付着及び成長が確認されなかった。
【0048】
(実施例4)
実施例1で使用した水路試験装置を用いて試験を行った。5系統に分岐し、試験区は、過酸化水素無添加及び過酸化水素添加(濃度:0.07mg/L、0.175mg/L、0.35mg/L、0.525mg/L)の5区を設けた。アクリル板の浸漬は2012年5月14日及び2012年2月2日に開始し、浸漬開始後2週間でバイオフィルムを採取した。バイオフィルムのサンプリング及びPCR-DGGE・菌種同定は実施例1と同様に行った。DGGEの結果の一例を図4に示す。図4において、レーンAが海水、レーンB〜Fが採取したバイオフィルムを示し、矢印で硫黄酸化細菌の近縁種のバンドを示す。
【0049】
図4に示すように、過酸化水素濃度が0.175mg/L以上の海水中で形成されたバイオフィルムから硫黄酸化細菌が検出され、また熱交換器の障害となるようなフジツボの付着はなかった。一方、過酸化水素濃度が0.07mg/Lの海水中で形成されたバイオフィルムでは硫黄酸化細菌の近縁種が検出されず、また熱交換器の障害となるようなフジツボの付着及び成長が確認された。
図1A
図1B
図2A
図2B
図3A
図3B
図4