【文献】
日本食生活学会誌 2011, Vol.22 No.1. p.13-19
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)NAGASAKI MU−1(受託番号:NITE P−1370)である乳酸菌。
ラクトバチルス・カルバタス(Lactobacillus curvatus)NAGASAKI OK−9(受託番号:NITE P−1372)である乳酸菌。
ラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)NAGASAKI OI−6(受託番号:NITE P−1373)である乳酸菌。
ラクトバチルス・カルバタス(Lactobacillus curvatus)NAGASAKI OTd−2(受託番号:NITE P−1374)である乳酸菌。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明は、上記従来技術の問題を解決するためになされたものである。すなわち、本発明は、長崎県産の発酵食品や農産物より植物性乳酸菌を単離して、新たな乳酸菌の探索を行い、新たな乳酸菌(および乳酸菌培養液)、およびこれらを用いた新規機能性組成物(医薬用組成物、肝細胞保護剤)を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本件発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、種々の機能を有する、新たな乳酸菌(および乳酸菌培養液)、およびこれらを用いた新規機能性組成物(医薬用組成物、肝細胞保護剤)に関する発明を完成させた。具体的には、以下の態様を有する発明を完成させた。
【0009】
本発明の第一態様は、上記課題を解決するためになされたものであって、ラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)NAGASAKI MU−1(
受託番号:NITE P−1370)である乳酸菌であることを特徴としている。
【0010】
また、本発明の第二態様は、上記課題を解決するためになされたものであって、ラクトバチルス・サケイ(Lactobacillus sakei)NAGASAKI OH−20(
受託番号:NITE P−1371)である乳酸菌であることを特徴としている。
【0011】
また、本発明の第三態様は、上記課題を解決するためになされたものであって、ラクトバチルス・カルバタス(Lactobacillus curvatus)NAGASAKI OK−9(
受託番号:NITE P−1372)である乳酸菌であることを特徴としている。
【0012】
また、本発明の第四態様は、上記課題を解決するためになされたものであって、ラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)NAGASAKI OI−6(
受託番号:NITE P−1373)である乳酸菌であることを特徴としている。
【0013】
また、本発明の第五態様は、上記課題を解決するためになされたものであって、ラクトバチルス・カルバタス(Lactobacillus curvatus)NAGASAKI OTd−2(
受託番号:NITE P−1374)である乳酸菌であることを特徴としている。
【0014】
さらに、本発明の第六態様は、上記課題を解決するためになされたものであって、上述した第一態様〜第五態様の少なくとも一つの乳酸菌から得られる乳酸菌培養液であることを特徴としている。
【0015】
さらに、本発明の第七態様は、上記課題を解決するためになされたものであって、上述した第六態様にかかる乳酸菌培養液を用いて構成された医薬用組成物であることを特徴としている。
【0016】
さらに、本発明の第八態様は、上記課題を解決するためになされたものであって、上述した第一態様〜第五態様の少なくとも一つの乳酸菌を用いて構成された医薬用組成物であることを特徴としている。
【0017】
さらに、本発明の第九態様は、上記課題を解決するためになされたものであって、上述した第一態様〜第五態様の少なくとも一つの乳酸菌またはその乳酸菌培養液を有効成分とする肝細胞保護剤であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、長崎県産の発酵食品や農産物より植物性乳酸菌を単離して、新たな乳酸菌(および乳酸菌培養液)、およびこれらを用いた新規機能性組成物(医薬用組成物、肝細胞保護剤)を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0021】
本件発明者らは、長崎県内産の発酵食品等から単離した植物性乳酸菌を活用することを目的として、県内各所の協力の下、長崎県産の発酵食品や農産物を収集し、これらから多数の植物性乳酸菌を単離した。そして、本件発明者らは、人々の健康増進に寄与するバイオジェニックスとしての新規植物性乳酸菌およびこれを用いた新規組成物等の発明を目指し、これを実現するに至った。
【0022】
より具体的には、まず、長崎県内の発酵食品製造企業等から提供されたサンプルから、620株の植物性乳酸菌の単離を行った。次いで、単離乳酸菌の中からより高い機能性を有する乳酸菌を選別するために、各乳酸菌を用いて調製した乳酸菌培養液に対して抗酸化活性を指標としたスクリーニング試験を実施した(第一スクリーニング試験)。さらに、第一スクリーニング試験にて選別した乳酸菌培養液について、ガン細胞増殖抑制活性(第二スクリーニング試験)および肝細胞保護活性(第三スクリーニング試験)を測定した。これらの第一スクリーニング試験〜第三スクリーニング試験において、強い陽性反応を示したのは、5株の乳酸菌培養液であった。
【0023】
以下、長崎県産物からの乳酸菌単離方法、三つの生理活性(抗酸化活性、ガン細胞増殖抑制活性、肝細胞保護活性)を指標としたスクリーニング試験、それぞれの試験結果、および各新規乳酸菌(乳酸菌培養液)等について具体的に説明する。
【0024】
<1.乳酸菌の単離等について>
○1−1.実験材料および試薬
DPPH(1,1-diphenyl-2-picrylhydrazyl)は、和光純薬工業社(大阪市)製のものを使用した。また、ヒト前骨髄性白血病細胞株HL60細胞は、(独)理化学研究所筑波研究所バイオリソースセンター(茨城県つくば市)より購入した。さらに、生存細胞の計数に用いたCell Counting Kit−8は、株式会社同仁化学研究所(熊本県上益城郡益城町)より入手した。その他の試薬については、すべて特級のものを使用した。
【0025】
○1−2.植物性乳酸菌の単離
本件発明者らは、長崎県内の発酵食品製造企業から製品や原料等の提供を受け、これらの提供試料(漬物、果物、焼酎粕)から植物性乳酸菌を単離した。具体的には、以下のような方法にて単離を行った。
【0026】
まず、試料(5g)に10倍量の滅菌した生理食塩水を加えてストマッカー処理し、回収した懸濁液を同生理食塩水を用いて段階希釈した。次いで、この一部(100μl)を0.5%CaCO
3を含むOXOID社製MRS寒天培地に塗抹し、ヒラサワ社製嫌気性培養器ANX−1を用いて、コロニーの形成が確認できるまで36℃で嫌気培養した。次いで、これらのコロニーの中からクリアゾーンが確認できたものを釣菌し、OXOID社製MRS液体培地(5ml)に懸濁して36℃で48時間嫌気培養して増殖させた。次いで、得られた培養液の一部(100μl)を0.5%CaCO
3を含むMRS寒天培地に再度塗抹し、さらに48時間の嫌気培養を行った。そして、単離した菌についてグラム染色(判定基準:陽性)およびカタラーゼ活性(判定基準:陰性)の測定を実施し、乳酸菌特有の性質を示したコロニーを乳酸菌と判断した。また、顕微鏡観察から形状(桿菌または球菌)についても確認を行った。
【0027】
○1−3.乳酸菌培養液の調整
単離した乳酸菌をMRS液体培地(5ml)に接種後、36℃で48時間嫌気培養した。次いで、この培養液を遠心分離(3,000xg、10分間)し、得られた上清を0.22μmのフィルターを用いてろ過し、乳酸菌を除去したものを「乳酸菌培養液」とした。乳酸菌培養液については、後述するスクリーニング試験等に供するまで、全て−30℃で保存した。
【0028】
<2.第一スクリーニング試験:抗酸化活性の測定>
乳酸菌培養液の抗酸化活性の評価は、DPPHラジカルに対する消去能を指標にした須田らの方法(食品機能研究法,218−223,光琳(2000))を一部改変して行った。
具体的には、まず、乳酸菌培養液を純水で12.5倍に希釈し、96穴マイクロプレートに50μlずつ分注した。次いで、99.5%EtOHを用いて調製した400μM DPPH液、0.2M MES緩衝液(pH6.0)、およびEtOHの3液を各10ml混合し、この混合液(150μl)を96穴マイクロプレートに添加した。次いで、室温で20分間反応後、Thermo Electron社製マイクロプレートリーダーVarioskanを用いて反応液の吸光度(520nm)を測定した。
なお、ブランクには純水を、コントロール(Control)には菌を未接種のMRS培地を12.5倍希釈したものを各々使用した。試験は、全て2連で実施し、各乳酸菌培養液の抗酸化活性はControl群が示した吸光度を100%として処理し、その比活性の平均値を算出した。
【0029】
<3.第二スクリーニング試験:ガン細胞増殖抑制活性の測定>
乳酸菌培養液のガン細胞増殖抑制活性の測定は、従来のMTTアッセイ法を改良したIshiyama M.らの細胞増殖アッセイ法に従った。
具体的には、まず、10%ウシ血清を含むRPMI−1640培地を用いて、HL60細胞を96穴マイクロプレート中に1.0×10
4cells/well(100μl)となるように播種した。次いで、培養液中に各乳酸菌培養液(終濃度4および10μl/ml)を添加し、37℃、5%CO
2条件下で48時間培養した。次いで、生存細胞を検出するために、Cell Counting Kit−8(10μl/well)を添加後、37℃で3時間反応させ、TECAN社製マイクロプレートリーダーinfiniteM200を用いて吸光度(450nm)を測定した。試験は、全て3連で実施し、吸光度の平均値を算出した。
【0030】
<4.第三スクリーニング試験:肝細胞保護活性の測定>
ラット(7週齢、♂、Kud:Wistar系)肝臓を摘出・灌流し、コラゲナーゼによる酵素消化を経て分離した初代培養肝実質細胞を、10%FBSを含むWilliam’sE培地を用いて2.5×10
4cells/mlとなるようにφ35mmコラーゲンコートディッシュに播種した。次いで、37℃で24時間培養後、この肝細胞に100mM EtOH(ヒトの慢性アルコール中毒症患者の血中濃度と同等)を作用させ、アルコール性肝硬変の肝細胞モデルを構築した。
さらに、この肝細胞モデルに各乳酸菌培養液(終濃度1μl/ml)を作用させ、24時間後の生存細胞数に与える変化をNeutral red法にて分光学的(吸光度:540nm)に解析した。試験は、全て3連で実施し、Control群が示した吸光度を100%として処理し、その比活性の平均値を算出した。
【0031】
<5.統計処理について>
ガン細胞増殖抑制活性(第二スクリーニング試験)および肝細胞保護活性(第三スクリーニング試験)の測定試験により得られた結果は、平均値±標準誤差で示した。統計学的検定法として対応のあるt検定を用い、各試験の対照群に対する両側検定において、p<0.05の場合を有意差有りと判定した。
【0032】
<6.結果>
○6−1.長崎県産物からの植物性乳酸菌の単離と乳酸菌培養液の調製
長崎県内の発酵食品製造企業から提供されたサンプルから、620株の植物性乳酸菌の単離を行い、これらを用いて乳酸菌培養液を調製した。単離した各乳酸菌およびその乳酸菌培養液には、適宜番号を付して識別した。
【0033】
○6−2.抗酸化活性について
ここで、
図1は、単離した新規の乳酸菌(NAGASAKI MU−1(
受託番号:NITE P−1370))の培養液(本発明の「乳酸菌培養液」に相当)をDPPHラジカルに作用させた際の抗酸化活性の結果を示したグラフである。この
図1は、DPPHラジカルに乳酸菌(NAGASAKI MU−1(
受託番号:NITE P−1370))の培養液を作用させて、室温で20分間反応させた。試験は、全て2連で実施し、試験結果は、Control群が示した吸光度を100%として処理し、その比活性の平均値±標準誤差で示した。つまり、この
図1においては、Control群が示した吸光度を示す棒グラフL01と、上記乳酸菌培養液をDPPHラジカルに作用させた際の抗酸化活性の結果を示した棒グラフL11とを示している。
【0034】
この
図1から、乳酸菌の培養に使用したMRS培地をControlとして用いた場合の抗酸化活性を100%とすると、新規の乳酸菌(NAGASAKI MU−1(
受託番号:NITE P−1370))の培養液を作用させた群は104.9%となり、本発明にかかる乳酸菌培養液は、若干の抗酸化活性を示すことが明らかとなった。
【0035】
上記と同様の手法によって、全620株の乳酸菌の培養液(本発明の「乳酸菌培養液」に相当)の抗酸化活性を測定し、各乳酸菌培養液が示した活性の程度を、3段階評価(++:DPPHラジカルに対する抗酸化活性レベルがControlの120%以上、+:わずかに抗酸化活性有り、−:抗酸化活性なし)した結果、219株の乳酸菌培養液が陽性の抗酸化活性を示した。そこで、これらの乳酸菌培養液の中から
図2の表に示した17株の乳酸菌培養液をランダムに選抜し、以下の2つの生理活性(ガン細胞増殖抑制活性および肝細胞保護活性)を指標としたスクリーニング試験に供した。
【0036】
○6−3.ガン細胞増殖抑制活性について
ここで、
図3は、単離した新規の乳酸菌(NAGASAKI MU−1(
受託番号:NITE P−1370))の培養液(本発明の「乳酸菌培養液」に相当)をHL60細胞に作用させた際の生存細胞数の変化を示したグラフである。
【0037】
この
図3に示すように、Control条件下では、HL60細胞の増殖を反映して経時的に吸光度が大きくなり、試験開始48時間後には試験開始時の2.67倍に達した(
図3のL02およびL03参照)。一方、乳酸菌(NAGASAKI MU−1(
受託番号:NITE P−1370))の培養液を培地に添加した群(
図3のL31(4μl/ml添加)およびL32(10μl/ml添加)参照)では、HL60細胞の増殖が有意に抑制され、終濃度4および10μl/mlの際の生存細胞数は、各々Control群の37.0%および20.9%に抑制された。
【0038】
上記と同様の手法によって、抗酸化活性を指標とした第一スクリーニング試験で陽性反応を示した全17株の乳酸菌(
図2参照)の培養液のHL60細胞に対するガン細胞増殖抑制活性を測定した。各乳酸菌培養液が示した48時間後のガン細胞増殖抑制活性の程度を、3段階評価(++:ガン細胞増殖レベルがControlの50%以下、+:わずかに抑制効果有り、−:抑制効果なし)した結果を
図4の表に示した。全17株の乳酸菌培養液のうち、13株の乳酸菌培養液がHL60細胞に対して陽性のガン細胞増殖抑制活性を示し、そのうちの8株については、特に強い活性を示した。
【0039】
○6−4.肝細胞保護活性について
ここで、
図5は、単離した新規の乳酸菌(NAGASAKI MU−1(
受託番号:NITE P−1370))の培養液(本発明の「乳酸菌培養液」に相当)をラットから単離した肝細胞を用いて構築したアルコール性肝硬変の肝細胞モデルに作用させ、24時間培養した際の生存細胞数の変化を示したグラフである。
【0040】
この
図5に示すように、本実施形態においては、肝細胞が培地中に添加したEtOHの影響を受けて壊死を生じ、生存細胞率は約82%に低下した(
図5のL05参照)。これに対して、乳酸菌(NAGASAKI MU−1(
受託番号:NITE P−1370))の培養液(乳酸菌培養液)をEtOHと同時に培地に添加した群では、肝細胞に対するEtOHの障害が有意に抑制され、生存肝細胞数は99.9%に達し(
図5のL51参照)、Controlレベル(
図5のL04参照)を維持することが確認された。
【0041】
上記と同様の手法によって、抗酸化活性を指標とした第一スクリーニング試験で陽性反応を示した全17株の乳酸菌(
図2参照)の培養液について、肝細胞保護活性を測定した。各乳酸菌培養液が示した24時間後の肝細胞保護活性の程度を、3段階評価(++:Controlレベルに達した、+:抑制傾向は有るが顕著ではない、−:抑制効果なし)した結果を
図6の表に示した。全17株の乳酸菌培養液のうち、14株の乳酸菌培養液がEtOHによって引き起こされる肝細胞の障害に対して陽性の保護活性を示し、そのうちの10株については、特に強い活性を示した。
【0042】
<7.まとめ>
本実施形態においては、長崎県内資源を活用した新規乳酸菌発酵食品を開発するために、アンチエイジングに効果を示す抗酸化活性、ガン細胞に対する増殖抑制活性、および肝細胞のEtOH誘導性壊死からの保護活性を指標に、長崎県産物からより高い機能性を示す培養液を産生する植物性乳酸菌の単離・選別を行った。
【0043】
まず、DPPHラジカルに対する消去能を指標にした第一スクリーニング試験で選別された219株の植物性乳酸菌の培養液には、活性酸素種の除去に有効な抗酸化化合物が含まれていることが示唆された。生体内では、抗酸化低分子化合物(グルタチオン、アスコルビン酸、トコフェロール等)や抗酸化酵素(スーパーオキシドジスムターゼ、ペルオキシダーゼ、カタラーゼ等)が過剰に発生した活性酸素種に対する防御の一翼を担っているが、食事として外因的に摂取したポリフェノールなどの抗酸化化合物は生体内活性酸素種の除去を行い、その結果としてグルタチオン等の生体内抗酸化化合物の消費を防いでいることが報告されている。
【0044】
したがって、本実施形態にて選別された乳酸菌および乳酸菌培養液の少なくとも一方を用いて製造された組成物(食品、薬剤等)は、活性酸素種を原因とする疾病や老化の予防に寄与すると考えられる。
【0045】
また、ガン細胞の増殖に対して抑制的に作用する天然物由来の化合物も数多く報告されており、これらの化合物を用いたガンの予防や進行阻止に寄与する新規医薬品や機能性食品の開発が大いに期待されている。ガン細胞増殖抑制活性を示す機能性化合物においては、多くの場合でガン細胞内Caspaseの活性化によるアポトーシスの誘導、Pyruvate kinaseやLactate dehydrogenase等の解糖系酵素の阻害によるエネルギー産生機能の低下、あるいは、CyclinやCyclin-dependent kinaseの抑制による細胞周期への異常誘発等を介して、ガン細胞増殖抑制活性を示すことが示唆されている。
【0046】
本実施形態において、ガン細胞増殖抑制活性を指標にした第二スクリーニング試験では13株の乳酸菌培養液がHL60細胞の増殖を有意に抑制したことから、これらの乳酸菌培養液中に上記ガン細胞増殖抑制経路に関与するような成分化合物が含まれていると考えられる。
【0047】
したがって、これらの13株の乳酸菌培養液にはガン細胞増殖抑制化合物と抗酸化化合物の両方が含有されていることになり、抗酸化化合物が細胞内の活性酸素濃度の制御に寄与してガンの発生を妨げる機能を有していることを考慮すると、ガン予防の観点からは非常に好ましい結果を得ることができたと考えられる。また、HL60細胞に強力に作用して試験開始時の生細胞数以下に至らしめたものが8株あったことから、生化学・分子生物学的観点からは、活性成分の同定および作用機序の解明に対してより関心が高まった。メタボローム解析やプロテオーム解析等の網羅的量的解析によって乳酸菌培養液に含まれる化合物を多面的に「可視化」すれば、乳酸菌培養液と活性強度との相関をより深く理解することが可能になり、今後の発酵食品の製造上で参考となる重要な知見を得ることができたと考えられる。
【0048】
通常、肝細胞においては、アルコール脱水素酵素やアセトアルデヒド脱水素酵素を中心としたAlchol dehydrogenase pathwayによるアルコール分解反応が進行する。しかしながら、大過剰のアルコールが摂取された場合は、ミクロソームにおけるMicrosomal ethanol-oxidizing systemが稼働する。後者の反応系においては、アルコールからアセトアルデヒドを産生する際に活性酸素種が発生し、肝細胞の障害の有力な要因となることが問題とされている。本件発明者らは、これまでに、アルコール性肝硬変の肝細胞モデルを用いた実験により、乳酸菌発酵物PS-B1が肝細胞保護活性を示すことを見出すとともに、有意な抗酸化活性を有することを明らかにしている。すなわち、肝細胞内に取り込まれたPS-B1含有抗酸化化合物が、EtOH処理によって引き起こされる肝細胞内の活性酸素種濃度の上昇を緩和・制御し、活性酸素種による肝細胞の障害の軽減に寄与したと示唆された。実際、肝硬変への第一段階である肝細胞の変性や壊死を阻止するためには、肝細胞内の酸化ストレスの回避が極めて重要である報告がなされており、本実施形態にかかるスクリーニング試験において14株の乳酸菌培養液が示した肝細胞保護活性についても、その活性発現の根拠の一つとして同様の作用機序を介した可能性が考えられる。また、これらの14株の乳酸菌培養液が示す抗酸化活性が、肝硬変への第二段階である肝星細胞のコラーゲン産出(線維化)に対しても併せて抑制的に作用する可能性が考えられる。
【0049】
抗酸化活性を示した219株の乳酸菌培養液の中からランダムに17株を選抜し、ガン細胞増殖抑制活性および肝細胞保護活性を指標にした本実施形態にかかる第二および第三スクリーニング試験において、いずれの試験に対しても強い陽性結果を示した乳酸菌は、以下の5株であった。
・NAGASAKI MU−1(
受託番号:NITE P−1370)
・NAGASAKI OH−20(
受託番号:NITE P−1371)
・NAGASAKI OK−9(
受託番号:NITE P−1372)
・NAGASAKI OI−6(
受託番号:NITE P−1373)
・NAGASAKI OTd−2(
受託番号:NITE P−1374)
【0050】
図7は、上述した5株の乳酸菌(乳酸菌培養液)に関する生理活性をまとめた表であり、具体的には、5株の乳酸菌と、それぞれの単離源、抗酸化活性の評価、ガン細胞増殖抑制活性の評価、および肝細胞保護活性の評価をまとめている。
【0051】
この
図7から明らかなように、ここでまとめた5株の乳酸菌は、本実施形態にて評価した三つの生理活性について、非常に高い値を示した。
したがって、本実施形態においては、この5株の乳酸菌の少なくとも一つを用いて、医薬用組成物、肝細胞保護剤等の種々の組成物を構成することが好ましい。この際、必要に応じて、これら5株の乳酸菌を適宜組み合わせてもよい。このような構成によれば、抗酸化、ガン細胞増殖抑制、および肝細胞保護の機能を効果的に発揮可能な種々の組成物を得ることができる。
また、本実施形態においては、これらの5株の乳酸菌の少なくとも一つから得られる乳酸菌培養液を用いて、医薬用組成物、肝細胞保護剤等の種々の組成物を構成することが好ましい。この際、上記乳酸菌と同様、必要に応じて、これらの5株から得られる乳酸菌培養液を適宜組み合わせてもよい。このような構成によれば、抗酸化、ガン細胞増殖抑制、および肝細胞保護の機能を効果的に発揮可能な種々の組成物を得ることができる。
さらに、本実施形態においては、これらの乳酸菌および乳酸菌培養液を用いて、医薬用組成物(例えば、肝細胞保護剤)を構成することが好ましい。
【0052】
<その他の実施形態>
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、必要に応じて種々の変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0053】
例えば、上記実施形態においては、新規の乳酸菌の培養液(乳酸菌培養液)について、種々の作用効果が存在することを説明し、かかる乳酸菌培養液を医薬用組成物等に利用する場合について説明したが、本発明はこの構成に限定されない。したがって、例えば、乳酸菌そのもの、乳酸菌を嫌気培養した培養液そのもの(すなわち、培養液から乳酸菌を遠心分離しない状態のもの)を医薬用組成物等として使用してもよい。
【符号の説明】
【0056】
L01…Control群が示した吸光度を示す棒グラフ
L11…新規乳酸菌(NAGASAKI MU−1(
受託番号:NITE P−1370))の培養液(乳酸菌培養液)をDPPHラジカルに作用させた際の抗酸化活性の結果を示す棒グラフ
L02…Control条件下における培養開始時におけるHL60細胞の生存細胞数を示す棒グラフ
L03…Control条件下における培養開始48時間後におけるHL60細胞の生存細胞数を示す棒グラフ
L31…新規乳酸菌(NAGASAKI MU−1(
受託番号:NITE P−1370))の培養液(乳酸菌培養液:終濃度4μl/ml)をHL60細胞に作用させた際の生存細胞数の変化を示す棒グラフ
L32…新規乳酸菌(NAGASAKI MU−1(
受託番号:NITE P−1370))の培養液(乳酸菌培養液:終濃度10μl/ml)をHL60細胞に作用させた際の生存細胞数の変化を示す棒グラフ
L04…Control群が示した吸光度を示す棒グラフ
L05…培地中に添加したEtOHの影響を受けた群の状態を示す棒グラフ
L51…新規乳酸菌(NAGASAKI MU−1(
受託番号:NITE P−1370))の培養液(乳酸菌培養液:終濃度1μl/ml)をEtOHと同時に添加した群の状態を示す棒グラフ