【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題の解決に向けて鋭意検討を行った結果、次の(1)〜(6)に示す特徴を有する希土類元素と酸とを分離回収する方法を見出し、本発明に到達した。
【0014】
(1)希土類元素を含有した液体から軽希土及び重希土を含む2種類以上の希土類元素を分離回収する方法であって、希土類元素を含有する液体を抽出試薬担持吸着材料に接触させて希土類元素を吸着させる第1工程、吸着済みの吸着材に薄い酸を接触させ軽希土を溶出する第2工程、濃い酸を接触させることによって重希土を溶出する第3工程を含む2種類以上の希土類元素を含有する液体から酸と希土類元素を分離回収する方法
【0015】
(2) 前記、第1工程で希土類を吸着させた後の液体を酸回収装置で処理し酸を回収する第4工程、第2工程で得られた酸の溶離液を酸回収装置で処理し酸を回収すると同時に酸濃度の低下した希土類元素溶液を回収する第5工程、第3工程で得られた酸の溶離液を酸回収装置で処理し、酸を回収すると同時に酸濃度の低下した希土類溶液を回収する第6工程、を含む請求項1記載の2種類以上の希土類元素を含有する液体から酸と希土類元素を分離回収する方法
【0016】
(3)前記、酸回収装置は電気透析装置であり、回収された酸を前記第1工程の前段の酸溶解工程、第2工程及び第3工程より選択された工程で再利用することを含む請求項1又は2記載の2種類以上の希土類元素を含有する液体から酸と希土類元素を分離回収する方法
【0017】
(4)前記、第2工程で使用する薄い酸が0.5規定以下、第3工程で使用する酸が0.5規定以上である請求項1、2又は3記載の2種類以上の希土類元素を含有する液体から酸と希土類元素を分離回収する方法
【0018】
(5)前記、第2工程及び第3工程で得られた酸濃度の低下した希土類元素溶液をキレート樹脂での吸着固定、シュウ酸塩として沈殿生成、水酸化物として沈殿生成より選択された手段により減容化する請求項1、2、3又は4記載の2種類以上の希土類元素を含有する液体から希土類元素を分離回収する方法
【0019】
(6)前記抽出試薬担持材料は、
ア. 基材が高分子粒子、多孔性中空糸、膜、繊維、布帛、不織布、空隙性高分子基 材であり、
イ. 放射線グラフト重合法によって、グリシジルメタクリレート又はグリシジルア クリレート、ヒドロキシルメタクリレート,ビニルピロリドン,ジメチルアク リルアミド,エチレングリコールジメタクリレート,アルキルメタクリレート ,又はアルキルアクリレートより選択される重合性単量体がグラフト重合され 、
ウ. グラフト側鎖にアルキル基,アルカノール基、アルカノールアミノ基、アルキ ルアミノ基、エポキシ基、ジオール基より選択される抽出試薬担持機能を有す る官能基が導入され、
エ. 抽出試薬としてビス(2‐エチルヘキシル)ホスフェイト、ビス(2,4,4 ‐トリメチルペンチル)ホスフィン酸、トリオクチルメチルアンモニウムクロ ライドより選択される、抽出試薬が担持される
ことにより製造された材料である(1)、(2)、(3)、(4)又は
(5)記載の2種類以上の希土類元素を含有する液体から希土類元素を分離回収する方法
【0020】
本発明者らは放射線グラフト重合法を用いて、アンモニア、有機酸などの悪臭や水中の有害金属を除去できる材料を開発してきた。特開2005−331510に記載の抽出試薬担持材料には次のような特徴を有する材料が開示されている。
【0021】
繊維基材に付与したグラフト高分子鎖に抽出試薬担持機能をもつ官能基を導入した材料であって,メタクリル酸グリシジル等のグラフト高分子鎖に抽出試薬担持のためのつなぎの役割を果たす疎水性のアルキルアミン基などが結合され、さらにビス(2‐エチルヘキシル)ホスフェイト(HDEHP)など抽出試薬が担持されている。
【0022】
本特許においても同様の材料を用いるが、希土類元素の中でも軽希土(ガドリニウムより原子番号が小さい)と重希土(ガドリニウムより原子番号が大きい)の複数種類含有する溶液を処理し、複数の希土類元素イオンを吸着させる。
【0023】
そして、0.5規定以下の薄い酸で軽希土を溶離し、0.5規定以上の濃い酸で重希土を溶離する。抽出試薬担持材料を充填したカラムに濃淡2種類の酸を接触させることで、吸着した2種類の希土類を99%以上溶離でき、またそれぞれの金属を99%以上の純度で分離回収することができる。バッチ処理でも良いが、カラム方式が好適に適用できる。
【0024】
分かりやすく説明するため、Nd(ネオジム)及びDy(ジスプロシウム)を含有する希土類磁石の例をとり説明する。希土類磁石の製造工程から発生する切削屑や廃磁石製品から回収された廃磁石は、塩酸溶解などによりNd、Dy含有溶液として得られる。ここで、鉄は磁石の主要成分であるが、消磁工程での高温酸化処理によって酸化物を生成するため、塩酸中への溶出が抑制される。したがって、0.5規定以下の比較的低濃度の塩酸では、NdとDyは比較的容易に溶出する。
【0025】
この塩酸溶液中に溶解したNdとDyはpHを調製しpH2程度の酸性にした後、HDEHP担持繊維に接触させ吸着される。そして、0.1規定から0.5規定程度の塩酸、例えば0.2規定程度の薄い酸に接触させてNdが溶離できる。0.5規定以上の塩酸、例えば1.5規定の塩酸に接触させDyが溶離する。これによって、NdとDyを分離できる。ここで、鉄が存在するとHDEHP担持繊維へ吸着するため、所定濃度以下に除去しておく必要がある。例えば、アルカリ等によってpHを調整し、鉄の水酸化物で沈殿除去するなど、先行技術を利用することができる。
【0026】
Nd及びDyを含有する塩酸酸性溶液をHDEHP担持繊維に吸着させた後の酸、Ndを溶離するために使用した0.5規定以下の薄い酸及びDyを溶離するために使用した0.5規定以上の濃い酸を電気透析装置で処理し、それぞれ所定濃度の酸と酸濃度の低下したNd溶液及び酸濃度の低下したDy溶液が得られる。
【0027】
回収した酸は廃磁石や切削屑の溶解に再利用できる。また、HDEHP樹脂の溶離に再利用でき、省資源が図れる。さらに、酸濃度の低下したNd溶液をアルカリで中和し水酸化物として減容固化する際にもアルカリ消費量が少なくなり省資源化が図れる。Dy溶液についても同様である。Nd及びDy溶液をシュウ酸と接触させ、シュウ酸沈殿物として次工程に移行する際にも、沈殿物の洗浄水量が少なくなり便利である。そして、Nd、Dyの溶液をイオン交換樹脂やキレート樹脂等の吸着材で処理する場合も酸濃度を低下させておくことにより、吸着容量の増加が図れる。
【0028】
図1に本発明の希土類元素と酸を回収する処理プロセスの基本フローを示した。酸としては塩酸を使用しているが他の酸でも良い。Nd、Dy含有する塩酸溶液が抽出試薬担持吸着材を充填したカラムに通液され、NdとDyが吸着除去された処理液が処理液タンクに貯留される。所定量吸着が終了すると、0.2規定程度の薄い塩酸を通液し、Ndを溶離させる。次いで、1.5規定程度の濃い塩酸を通液し、Dyを溶離させる。Ndを含む塩酸溶離液は電気透析装置で処理され、Ndの除去された塩酸と塩酸濃度の低下したNd溶液とに分離される。Dyを含む濃い塩酸溶離液も電気透析装置で処理され、Dyの除去された濃い塩酸と塩酸濃度の低下したDy溶液とに分離される。また、回収した酸を図示したフローの上流に戻し廃磁石を溶解するために利用することもできる。また、塩酸や鉄濃度が高い場合は抽出試薬担持材料で吸着させる前に電気透析装置で処理し、鉄クロロ錯体としてNdやDyから分離することもできる。
【0029】
図2は電気透析の原理図を示すものであるが、この図の範囲に限定されるわけではない。塩酸とNd、Dyを含有する液体5が脱塩室7に入り塩素イオンは陰イオン交換膜1を通過して陽極側の濃縮室8に、Nd及びDyは陽イオン交換膜2を通過し、陰極側の濃縮室に入る。ここで、カチオン交換膜に1価イオン選択膜を利用することもできる。その場合は脱塩室の出口6からNd及びDyが回収できる。いかなるイオン交換膜を利用するかは回収する金属の種類や使用条件によって適宜決定できる。ホウ素は酸性溶液中では解離しないため、両イオン交換膜を通過せず、脱塩室出口6からでる。
【0030】
本発明の回収フローは連続式でもバッチ式でも可能であるが、希土類元素を含有する液量が多量でなければ、バッチ処理が向いている。その場合、各工程で発生する酸と金属の混合液を1台の電気透析装置で処理し、それぞれの工程に適した酸を回収することができる。もちろん、各工程それぞれに適した電気透析装置を別々に設置してもよい。
図1では1台の例を示した。
【0031】
吸着材の形状が粒子の場合は吸着塔に充填して、流通方式の処理プロセスを採用することができる。繊維状の材料も吸着塔に充填できるが、例えば繊維やスポンジ状の空隙材料では、
図3に示すように吸着材を吊るし、各工程に対応する処理槽の間を移動させてもよい。
【0032】
図3においては、モール状(洗車場のブラシのようなもの)、不織布、スポンジ状、綿塊状、カット繊維などのような吸着材料をそのままか又は使用条件によって適宜容器に収納してレールを介して移動させることができる。吸着や溶離操作における撹拌操作を吸着材の上下動で兼ねることにより設備を簡素化できる。
【0033】
電気透析装置を使用して酸回収を行った後、希土類元素溶液は酸濃度が低下しているため、例えばイミノジ酢酸基やアミノリン酸基などキレート基を使用して再吸着させることができる。酸濃度が低下しているため、吸着容量が大きくなり好ましい。また、シュウ酸や水酸化ナトリウムで沈殿を生成する場合も中和や洗浄に要する薬剤を低減できる。
【0034】
本発明に利用される抽出試薬担持材料は放射線グラフト重合法により、繊維、スポンジや多孔膜のように表面積の大きな有機高分子を基材としている。また、基材内部のみでなく基材の外へグラフト鎖が成長しているため。抽出試薬の担持に有利である。
【0035】
放射線グラフト重合法とは、γ線や電子線等の電離性放射線を基材に照射し、基材表面あるいは基材内部に生成したラジカルを利用して重合性単量体(以下、「モノマー」と称する。)を重合させ、基材からグラフト鎖を成長させる方法である。放射線グラフト重合法に用いる電離性放射線としては、アルファ線、ベータ線、ガンマ線、電子線、紫外線などを用いることができるが、工業的に利用できるガンマ線や電子線が本発明に適している。
【0036】
グラフト側鎖の長さはグラフト率にもよるが、通常エチレンユニットとして数個から数百個以上(分子量で数万以上)にもなる。また、グラフトは「接ぎ木」と訳されているように、高分子鎖の一端が主鎖に結合し、他端は自由端であるため、抽出試薬とのつなぎの役割を果たすアルキル基,アルカノール基などを導入するのに有利である。そのため、抽出試薬担持にも有利である。
【0037】
放射線グラフト重合法で利用できる有機高分子は様々なものから選択できる。例えば、繊維を例にとると、合成繊維の他、綿などのセルロース系繊維、動物性繊維、鉱物系繊維、若しくは再生繊維、またはそれらの混合繊維が挙げられる。合成繊維にはポリエステル系、ポリアミド系、アクリル系、ポリ塩化ビニル系、ポリ塩化ビニリデン系、ポリエチレン系、ポリプロピレン系、ポリウレタン系、ポリビニルアルコール系、フッ素系等が含まれる。セルロース系繊維には、綿、麻等の天然セルロース系繊維、ビスコースレーヨン、銅アンモニア法レーヨン、ポリノジック等の再生セルロース繊維、テンセル等の精製セルロース繊維、アセテート、ジアセテート等の半合成繊維が含まれる。動物性繊維には、羊毛等の獣毛繊維、絹等が含まれる。再生繊維には、キチン・キトサン繊維、コラーゲン繊維などが含まれる。これら繊維素材の混紡を用いることもまた可能である。
繊維以外にも、中空糸膜、フィルム、スポンジなどの空隙材料も利用できる。
【0038】
基材に放射線照射を行うタイミングにより、前照射グラフト重合法と同時照射グラフト重合法があるが、どちらの重合方法も利用できる。前者は基材に放射線を照射した後、モノマーと接触させてグラフト重合を行う。後者は基材とモノマーが同時に存在する状態で放射線照射を行う。いずれの方法も採用できるが、単独重合物の生成量が少ない前照射グラフト重合法が分離材料として好ましい。
【0039】
また、グラフト重合をモノマー液中で行う液相グラフト重合法、モノマー蒸気中で行う気相グラフト重合法、グラフト重合させたい量のモノマーを付与した後、不活性ガス中で反応させる含浸気相グラフト重合法などいずれのグラフト重合法も利用できる。
【0040】
グラフト重合用のモノマーとしては抽出試薬を担持させるためのアルキル基、アルカノール基、アルカノールアミノ基、アルキルアミノ基,エポキシ基、ジオール基、チオール基を導入しやすいものの中から選択できる。グリシジルメタクリレート又はグリシジルアクリレート、ヒドロキシルエチルメタクリレート,ビニルピロリドン,ジメチルアクリルアミド,エチレングリコールジメタクリレート,アルキルメタクリレート,又はアルキルアクリレートより選択されモノマーが好適である。特に、グリシジルメタクリレート又はグリシジルアクリレートが好適である。
【0041】
これらモノマーをグラフト重合した後、アルキル基を導入する場合、例えばアルキルアミノ基を有する薬剤が導入される。グラフトポリマーに対して導入しやすく、抽出試薬担持能力に優れたアミノ基を有する薬剤としては、エチルアミン、ブチルアミン、ペンチルアミン、ドデシルアミン、オクタデシルアミンなど直鎖アルキルアミンの他、ジメチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミンなども利用できる。また、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンなどのようにアミノ基を複数有するアミンも利用できる。ピペラジン、1,4ジアザビシクロ[2.2.2]オクタンなども利用できる。さらに、ジエチレントリアミン、トリエチレントリテトラミン、ポリエチレンイミンなどのアミンを利用することができる。
【0042】
この中で、アルキル基の炭素数が20より大きくなると、疎水性が大きくなるため、グラフト鎖同士が相互に引き合い、抽出試薬の担持に必要な空間が保持できなくなる結果、吸着性能を十分に発揮できない。また炭素数1では、疎水部が小さいため疎水性相互作用が小さくなるのに加え、アミン臭が強く作業環境上問題である。炭素数2以上が好ましい。
【0043】
アルカノールアミン類もアミンの場合と同様に利用することができる。モノエタノールアミンやジエタノールアミンは好適に利用できる。水酸基を有しているため、親水性が大きくなるが、沸点が非常に高く、アミン臭発生による環境問題が軽減される。
【0044】
抽出試薬とその担持機能を有する官能基の組み合わせとして,ビス(2‐エチルヘキシル)ホスフェイト(HDEHP)とオクタデシルアミノ基との組み合わせ,ビス(2‐エチルヘキシル)ホスフェイトとドデシルアミノ基との組み合わせ,ビス(2,4,4‐トリメチルペンチル)ホスフィン酸とオクタデシルアミノ基の組み合わせ,ビス(2,4,4‐トリメチルペンチル)ホスフィン酸とドデシルアミノ基の組み合わせ,トリオクチルメチルアンモニウムクロライドと6‐アミノヘキサン酸基の組み合わせ,トリオクチルメチルアンモニウムクロライドとオクタデシルアミノ基及び6‐アミノヘキサン酸基の組み合わせ,トリ−n−オクチルホスフィンオキシドとオクタデカンチオール基との組み合わせ等が挙げられる。組み合わせは、回収金属の種類、使用環境や製造条件等により、適宜選択できる。
【0045】
本発明は、放射線グラフト重合法を利用して製造した抽出試薬担持材料及びそれを利用した2種類以上の希土類元素を含有する酸性液体から酸と希土類元素を分離回収する方法であって、軽希土及び重希土の2種類の希土類元素と酸を分離回収することを特徴としている。
【0046】
希土類元素に限らず、希少金属を使用した製品の製造工程から発生する工程屑や使用済みの廃製品には有用金属が含まれる。それらを回収するために、先ず物理的な処理により有用金属含有固体を粉砕し、塩酸や硝酸を利用して溶解した後、その溶液から有用金属を分離回収することが行われている。本発明はそのような箇所に適用でき、有用金属の分離効率を飛躍的に高め、薬品使用量を大幅に低減できる。廃棄物の発生量も低減することができる。
【0047】
また、各種吸着材、例えば活性炭、イオン交換樹脂、キレート樹脂、ゼオライトなどは使用後、再生するために酸を多量消費するが、そのような廃液から酸を回収し、有用金属ばかりでなく、有害金属イオンの濃縮減容化を図ることができる。省資源・省エネルギー・安全の社会的要求に合致した有用金属分離・酸回収プロセスを提供できる。