特許第6093944号(P6093944)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6093944希土類元素を含有した溶液から希土類元素及び酸の分離回収方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6093944
(24)【登録日】2017年2月24日
(45)【発行日】2017年3月15日
(54)【発明の名称】希土類元素を含有した溶液から希土類元素及び酸の分離回収方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 59/00 20060101AFI20170306BHJP
   C22B 3/24 20060101ALI20170306BHJP
   C22B 3/44 20060101ALI20170306BHJP
   B01D 15/00 20060101ALI20170306BHJP
   B01J 20/22 20060101ALI20170306BHJP
   B01J 20/34 20060101ALI20170306BHJP
   C02F 1/469 20060101ALI20170306BHJP
   C02F 1/62 20060101ALI20170306BHJP
   B01J 45/00 20060101ALI20170306BHJP
   B01D 61/44 20060101ALI20170306BHJP
   C22B 7/00 20060101ALN20170306BHJP
【FI】
   C22B59/00
   C22B3/24 101
   C22B3/24
   C22B3/44 101
   B01D15/00 N
   B01J20/22 B
   B01J20/34 G
   C02F1/46 103
   C02F1/62 Z
   B01J45/00
   B01D61/44 500
   B01D61/44 520
   !C22B7/00 G
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-30423(P2013-30423)
(22)【出願日】2013年2月1日
(65)【公開番号】特開2014-148738(P2014-148738A)
(43)【公開日】2014年8月21日
【審査請求日】2015年10月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】502017364
【氏名又は名称】株式会社 環境浄化研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】304021831
【氏名又は名称】国立大学法人 千葉大学
(74)【代理人】
【識別番号】100121658
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 昌義
(72)【発明者】
【氏名】須郷 高信
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 晃一
(72)【発明者】
【氏名】藤原 邦夫
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 恭一
(72)【発明者】
【氏名】内山 翔一朗
【審査官】 國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−062465(JP,A)
【文献】 特開2004−028633(JP,A)
【文献】 特開2003−215292(JP,A)
【文献】 特表2014−513212(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/161355(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 1/00−61/00
B01J 20/00−20/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
希土類元素を含有した酸性液体から、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム及びユウロピウムの少なくともいずれかである軽希土類元素、並びに、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウム、イットリウム及びスカンジウムの少なくともいずれかである重希土類元素を含む2種類以上の希土類元素と酸を分離回収する方法であって、希土類元素を含有する液体を抽出試薬担持吸着材料に接触させて希土類元素を吸着させる第1工程、吸着済みの吸着材に薄い酸を通液し、軽希土類元素を溶出する第2工程、濃い酸を通液することによって重希土類元素を溶出する第3工程を含む2種類以上の希土類元素を含有する酸性液体から酸と希土類元素を分離回収する方法。
【請求項2】
前記、第1工程で希土類元素を吸着させた後の液体を酸回収装置で処理し酸を回収する第4工程、第2工程で得られた酸の溶離液を酸回収装置で処理し酸を回収すると同時に酸濃度の低下した希土類元素溶液を回収する第5工程、第3工程で得られた酸の溶離液を酸回収装置で処理し、酸を回収すると同時に酸濃度の低下した希土類元素溶液を回収する第6工程、を含む請求項1記載の2種類以上の希土類元素を含有する酸性液体から酸と希土類元素を分離回収する方法。
【請求項3】
前記、酸回収装置は電気透析装置であり、回収された酸を前記第1工程の前段の酸溶解工程、第2工程及び第3工程より選択された工程で再利用することを含む請求項1又は2記載の2種類以上の希土類元素を含有する酸性液体から酸と希土類元素を分離回収する方法。
【請求項4】
前記、第2工程で使用する薄い酸が0.5規定以下、第3工程で使用する酸が0.5規定以上である請求項1、2又は3記載の2種類以上の希土類元素を含有する酸性液体から酸と希土類元素を分離回収する方法。
【請求項5】
前記、第2工程及び第3工程で得られた酸濃度の低下した希土類元素溶液をキレート樹脂での吸着固定、シュウ酸塩として沈殿生成、水酸化物として沈殿生成より選択された手段により減容化する請求項1、2、3又は4記載の2種類以上の希土類元素を含有する酸性液体から希土類元素を分離回収する方法。
【請求項6】
前記抽出試薬担持材料は、
[1] 基材が多孔性中空糸膜、繊維,布帛,不織布,空隙性高分子基材であり、
[2] 放射線グラフト重合法によって、グリシジルメタクリレート又はグリシジルアクリレート、ヒドロキシルメタクリレート,ビニルピロリドン,ジメチルアクリルアミド,エチレングリコールジメタクリレート,アルキルメタクリレート,又はアルキルアクリレートより選択される重合性単量体がグラフト重合され、
[3] グラフト側鎖にアルキル基,アルカノール基、アルカノールアミノ基、アルキルアミノ基,エポキシ基、ジオール基、チオール基より選択される抽出試薬担持機能を有する官能基が導入され、
[4] 抽出試薬としてビス(2‐エチルヘキシル)ホスフェイト、ビス(2,4,4‐トリメチルペンチル)ホスフィン酸、トリオクチルメチルアンモニウムクロライドより選択される、抽出試薬が担持される
ことにより製造された材料である請求項1、2、3、4又は5記載の2種類以上の希土類元素を含有する液体から希土類元素を分離回収する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、希土類元素を含有した製品の製造工程から発生する切削粉や屑から希土類元素を酸で溶出した液や廃製品中の希土類元素を回収するために酸処理した希土類含有溶液から希土類元素と酸を分離回収する分離回収方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、希土類磁石はHDD用やエアコン用、携帯電話等に使用される各種モーターやセンサー等に広く使用されるようになっている。
【0003】
原料である希土類元素は産出国が中国に偏っており、政治的な思惑を背景として価格が高騰している。そこで希土類元素使用製品の生産時に発生する磁石粉末や屑及び不良スクラップから有価物を回収リサイクルすることが強く求められている。
【0004】
希土類元素を回収する方法として、特開昭62−83433号公報(特許文献1)には希土類元素−鉄含有合金を加熱して空気酸化した後、強酸を用いた酸溶出法により、希土類元素塩を生成して濾液中に溶解し、濾別して分離する方法が開示されている。
【0005】
特開平01−183415号公報(特許文献2)には、希土類磁石のスクラップ等を酸(HCl)に溶解して不溶残渣を分離除去すると共に、酸化剤(HNO)を添加し、蓚酸溶液を加え、かつ所定pHに調整して希土類元素を蓚酸塩として沈殿させることが開示されている。
【0006】
特開平05−287405号公報(特許文献3)には、スラリーを酸化剤の存在下、pH3〜5に酸で維持して希土類元素を選択的に浸出し、得られた浸出液に炭酸アルカリあるいは炭酸水素アルカリを添加し、希土類元素を水に難溶性の塩として分離する方法が開示されている。
【0007】
特開平09−217132号公報(特許文献4)には、スラリーに空気を流通させながら、硝酸希釈溶液を添加してpH5以上に保持し、希土類とコバルトとを含む金属を50℃以下で溶解させて希土類含有硝酸塩溶液とし、鉄を含む不溶解元素化合物と濾別分離する方法及びこの希土類含有硝酸塩溶液にフッ素化合物又は蓚酸を添加して希土類フッ化物又は希土類蓚酸塩を沈殿させ、コバルト含有硝酸溶液と濾別分離する方法が開示されている。
【0008】
特開平11−100622号公報(特許文献5)には、ネオジムやイットリウムイオンなどを含有する水溶液にpH3以上で抽出試薬ビス(2−エチルヘキシル)ホスフィン酸を含む溶媒で希土類元素イオンを分離抽出する方法が開示されている。
【0009】
特開2005−331510(特許文献6)は本願の発明者と同一の発明者から成る。基材に放射線グラフト重合したグラフト高分子鎖に抽出試薬担持機能をもつ官能基を導入した材料の開示があり、実施例には硝酸溶液中からイットリウムを分離する例が記載されている。
【0010】
しかし、これらの方法では、希土類元素のみを回収することに注力されている。酸やそれを中和するためのアルカリが大量に消費され、省資源・省エネルギーの観点から改良が求められていた。また、複数の希土類元素を含有する液体から希土類を分離するために用いられる溶媒抽出法においても多量の溶媒や逆抽出溶媒を消費していた。また、特許文献6は放射線グラフト重合法を利用した抽出試薬担持材料及びそれを利用したイットリウムイオン分離について開示されているが、複数の希土類イオンを吸着した抽出試薬担持材料から各金属イオンを分離することや分離に用いた酸を回収することについては開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開昭62−83433号公報
【特許文献2】特開平01−183415号公報
【特許文献3】特開平05−287405号公報
【特許文献4】特開平09−217132号公報
【特許文献5】特開平11−100622号公報
【特許文献6】特開2005−331510号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は従来の回収方法の問題点、即ち複数種類の希土類元素を含む溶液から、希土類元素を効率よく捕集し、捕集した材料から各金属イオンを分離し、かつ溶離に使用した酸を回収し再利用できる回収方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題の解決に向けて鋭意検討を行った結果、次の(1)〜(6)に示す特徴を有する希土類元素と酸とを分離回収する方法を見出し、本発明に到達した。
【0014】
(1)希土類元素を含有した液体から軽希土及び重希土を含む2種類以上の希土類元素を分離回収する方法であって、希土類元素を含有する液体を抽出試薬担持吸着材料に接触させて希土類元素を吸着させる第1工程、吸着済みの吸着材に薄い酸を接触させ軽希土を溶出する第2工程、濃い酸を接触させることによって重希土を溶出する第3工程を含む2種類以上の希土類元素を含有する液体から酸と希土類元素を分離回収する方法
【0015】
(2) 前記、第1工程で希土類を吸着させた後の液体を酸回収装置で処理し酸を回収する第4工程、第2工程で得られた酸の溶離液を酸回収装置で処理し酸を回収すると同時に酸濃度の低下した希土類元素溶液を回収する第5工程、第3工程で得られた酸の溶離液を酸回収装置で処理し、酸を回収すると同時に酸濃度の低下した希土類溶液を回収する第6工程、を含む請求項1記載の2種類以上の希土類元素を含有する液体から酸と希土類元素を分離回収する方法
【0016】
(3)前記、酸回収装置は電気透析装置であり、回収された酸を前記第1工程の前段の酸溶解工程、第2工程及び第3工程より選択された工程で再利用することを含む請求項1又は2記載の2種類以上の希土類元素を含有する液体から酸と希土類元素を分離回収する方法
【0017】
(4)前記、第2工程で使用する薄い酸が0.5規定以下、第3工程で使用する酸が0.5規定以上である請求項1、2又は3記載の2種類以上の希土類元素を含有する液体から酸と希土類元素を分離回収する方法
【0018】
(5)前記、第2工程及び第3工程で得られた酸濃度の低下した希土類元素溶液をキレート樹脂での吸着固定、シュウ酸塩として沈殿生成、水酸化物として沈殿生成より選択された手段により減容化する請求項1、2、3又は4記載の2種類以上の希土類元素を含有する液体から希土類元素を分離回収する方法
【0019】
(6)前記抽出試薬担持材料は、
ア. 基材が高分子粒子、多孔性中空糸、膜、繊維、布帛、不織布、空隙性高分子基 材であり、
イ. 放射線グラフト重合法によって、グリシジルメタクリレート又はグリシジルア クリレート、ヒドロキシルメタクリレート,ビニルピロリドン,ジメチルアク リルアミド,エチレングリコールジメタクリレート,アルキルメタクリレート ,又はアルキルアクリレートより選択される重合性単量体がグラフト重合され 、
ウ. グラフト側鎖にアルキル基,アルカノール基、アルカノールアミノ基、アルキ ルアミノ基、エポキシ基、ジオール基より選択される抽出試薬担持機能を有す る官能基が導入され、
エ. 抽出試薬としてビス(2‐エチルヘキシル)ホスフェイト、ビス(2,4,4 ‐トリメチルペンチル)ホスフィン酸、トリオクチルメチルアンモニウムクロ ライドより選択される、抽出試薬が担持される
ことにより製造された材料である(1)、(2)、(3)、(4)又は
(5)記載の2種類以上の希土類元素を含有する液体から希土類元素を分離回収する方法
【0020】
本発明者らは放射線グラフト重合法を用いて、アンモニア、有機酸などの悪臭や水中の有害金属を除去できる材料を開発してきた。特開2005−331510に記載の抽出試薬担持材料には次のような特徴を有する材料が開示されている。
【0021】
繊維基材に付与したグラフト高分子鎖に抽出試薬担持機能をもつ官能基を導入した材料であって,メタクリル酸グリシジル等のグラフト高分子鎖に抽出試薬担持のためのつなぎの役割を果たす疎水性のアルキルアミン基などが結合され、さらにビス(2‐エチルヘキシル)ホスフェイト(HDEHP)など抽出試薬が担持されている。
【0022】
本特許においても同様の材料を用いるが、希土類元素の中でも軽希土(ガドリニウムより原子番号が小さい)と重希土(ガドリニウムより原子番号が大きい)の複数種類含有する溶液を処理し、複数の希土類元素イオンを吸着させる。
【0023】
そして、0.5規定以下の薄い酸で軽希土を溶離し、0.5規定以上の濃い酸で重希土を溶離する。抽出試薬担持材料を充填したカラムに濃淡2種類の酸を接触させることで、吸着した2種類の希土類を99%以上溶離でき、またそれぞれの金属を99%以上の純度で分離回収することができる。バッチ処理でも良いが、カラム方式が好適に適用できる。
【0024】
分かりやすく説明するため、Nd(ネオジム)及びDy(ジスプロシウム)を含有する希土類磁石の例をとり説明する。希土類磁石の製造工程から発生する切削屑や廃磁石製品から回収された廃磁石は、塩酸溶解などによりNd、Dy含有溶液として得られる。ここで、鉄は磁石の主要成分であるが、消磁工程での高温酸化処理によって酸化物を生成するため、塩酸中への溶出が抑制される。したがって、0.5規定以下の比較的低濃度の塩酸では、NdとDyは比較的容易に溶出する。
【0025】
この塩酸溶液中に溶解したNdとDyはpHを調製しpH2程度の酸性にした後、HDEHP担持繊維に接触させ吸着される。そして、0.1規定から0.5規定程度の塩酸、例えば0.2規定程度の薄い酸に接触させてNdが溶離できる。0.5規定以上の塩酸、例えば1.5規定の塩酸に接触させDyが溶離する。これによって、NdとDyを分離できる。ここで、鉄が存在するとHDEHP担持繊維へ吸着するため、所定濃度以下に除去しておく必要がある。例えば、アルカリ等によってpHを調整し、鉄の水酸化物で沈殿除去するなど、先行技術を利用することができる。
【0026】
Nd及びDyを含有する塩酸酸性溶液をHDEHP担持繊維に吸着させた後の酸、Ndを溶離するために使用した0.5規定以下の薄い酸及びDyを溶離するために使用した0.5規定以上の濃い酸を電気透析装置で処理し、それぞれ所定濃度の酸と酸濃度の低下したNd溶液及び酸濃度の低下したDy溶液が得られる。
【0027】
回収した酸は廃磁石や切削屑の溶解に再利用できる。また、HDEHP樹脂の溶離に再利用でき、省資源が図れる。さらに、酸濃度の低下したNd溶液をアルカリで中和し水酸化物として減容固化する際にもアルカリ消費量が少なくなり省資源化が図れる。Dy溶液についても同様である。Nd及びDy溶液をシュウ酸と接触させ、シュウ酸沈殿物として次工程に移行する際にも、沈殿物の洗浄水量が少なくなり便利である。そして、Nd、Dyの溶液をイオン交換樹脂やキレート樹脂等の吸着材で処理する場合も酸濃度を低下させておくことにより、吸着容量の増加が図れる。
【0028】
図1に本発明の希土類元素と酸を回収する処理プロセスの基本フローを示した。酸としては塩酸を使用しているが他の酸でも良い。Nd、Dy含有する塩酸溶液が抽出試薬担持吸着材を充填したカラムに通液され、NdとDyが吸着除去された処理液が処理液タンクに貯留される。所定量吸着が終了すると、0.2規定程度の薄い塩酸を通液し、Ndを溶離させる。次いで、1.5規定程度の濃い塩酸を通液し、Dyを溶離させる。Ndを含む塩酸溶離液は電気透析装置で処理され、Ndの除去された塩酸と塩酸濃度の低下したNd溶液とに分離される。Dyを含む濃い塩酸溶離液も電気透析装置で処理され、Dyの除去された濃い塩酸と塩酸濃度の低下したDy溶液とに分離される。また、回収した酸を図示したフローの上流に戻し廃磁石を溶解するために利用することもできる。また、塩酸や鉄濃度が高い場合は抽出試薬担持材料で吸着させる前に電気透析装置で処理し、鉄クロロ錯体としてNdやDyから分離することもできる。
【0029】
図2は電気透析の原理図を示すものであるが、この図の範囲に限定されるわけではない。塩酸とNd、Dyを含有する液体5が脱塩室7に入り塩素イオンは陰イオン交換膜1を通過して陽極側の濃縮室8に、Nd及びDyは陽イオン交換膜2を通過し、陰極側の濃縮室に入る。ここで、カチオン交換膜に1価イオン選択膜を利用することもできる。その場合は脱塩室の出口6からNd及びDyが回収できる。いかなるイオン交換膜を利用するかは回収する金属の種類や使用条件によって適宜決定できる。ホウ素は酸性溶液中では解離しないため、両イオン交換膜を通過せず、脱塩室出口6からでる。
【0030】
本発明の回収フローは連続式でもバッチ式でも可能であるが、希土類元素を含有する液量が多量でなければ、バッチ処理が向いている。その場合、各工程で発生する酸と金属の混合液を1台の電気透析装置で処理し、それぞれの工程に適した酸を回収することができる。もちろん、各工程それぞれに適した電気透析装置を別々に設置してもよい。図1では1台の例を示した。
【0031】
吸着材の形状が粒子の場合は吸着塔に充填して、流通方式の処理プロセスを採用することができる。繊維状の材料も吸着塔に充填できるが、例えば繊維やスポンジ状の空隙材料では、図3に示すように吸着材を吊るし、各工程に対応する処理槽の間を移動させてもよい。
【0032】
図3においては、モール状(洗車場のブラシのようなもの)、不織布、スポンジ状、綿塊状、カット繊維などのような吸着材料をそのままか又は使用条件によって適宜容器に収納してレールを介して移動させることができる。吸着や溶離操作における撹拌操作を吸着材の上下動で兼ねることにより設備を簡素化できる。
【0033】
電気透析装置を使用して酸回収を行った後、希土類元素溶液は酸濃度が低下しているため、例えばイミノジ酢酸基やアミノリン酸基などキレート基を使用して再吸着させることができる。酸濃度が低下しているため、吸着容量が大きくなり好ましい。また、シュウ酸や水酸化ナトリウムで沈殿を生成する場合も中和や洗浄に要する薬剤を低減できる。
【0034】
本発明に利用される抽出試薬担持材料は放射線グラフト重合法により、繊維、スポンジや多孔膜のように表面積の大きな有機高分子を基材としている。また、基材内部のみでなく基材の外へグラフト鎖が成長しているため。抽出試薬の担持に有利である。
【0035】
放射線グラフト重合法とは、γ線や電子線等の電離性放射線を基材に照射し、基材表面あるいは基材内部に生成したラジカルを利用して重合性単量体(以下、「モノマー」と称する。)を重合させ、基材からグラフト鎖を成長させる方法である。放射線グラフト重合法に用いる電離性放射線としては、アルファ線、ベータ線、ガンマ線、電子線、紫外線などを用いることができるが、工業的に利用できるガンマ線や電子線が本発明に適している。
【0036】
グラフト側鎖の長さはグラフト率にもよるが、通常エチレンユニットとして数個から数百個以上(分子量で数万以上)にもなる。また、グラフトは「接ぎ木」と訳されているように、高分子鎖の一端が主鎖に結合し、他端は自由端であるため、抽出試薬とのつなぎの役割を果たすアルキル基,アルカノール基などを導入するのに有利である。そのため、抽出試薬担持にも有利である。
【0037】
放射線グラフト重合法で利用できる有機高分子は様々なものから選択できる。例えば、繊維を例にとると、合成繊維の他、綿などのセルロース系繊維、動物性繊維、鉱物系繊維、若しくは再生繊維、またはそれらの混合繊維が挙げられる。合成繊維にはポリエステル系、ポリアミド系、アクリル系、ポリ塩化ビニル系、ポリ塩化ビニリデン系、ポリエチレン系、ポリプロピレン系、ポリウレタン系、ポリビニルアルコール系、フッ素系等が含まれる。セルロース系繊維には、綿、麻等の天然セルロース系繊維、ビスコースレーヨン、銅アンモニア法レーヨン、ポリノジック等の再生セルロース繊維、テンセル等の精製セルロース繊維、アセテート、ジアセテート等の半合成繊維が含まれる。動物性繊維には、羊毛等の獣毛繊維、絹等が含まれる。再生繊維には、キチン・キトサン繊維、コラーゲン繊維などが含まれる。これら繊維素材の混紡を用いることもまた可能である。
繊維以外にも、中空糸膜、フィルム、スポンジなどの空隙材料も利用できる。
【0038】
基材に放射線照射を行うタイミングにより、前照射グラフト重合法と同時照射グラフト重合法があるが、どちらの重合方法も利用できる。前者は基材に放射線を照射した後、モノマーと接触させてグラフト重合を行う。後者は基材とモノマーが同時に存在する状態で放射線照射を行う。いずれの方法も採用できるが、単独重合物の生成量が少ない前照射グラフト重合法が分離材料として好ましい。
【0039】
また、グラフト重合をモノマー液中で行う液相グラフト重合法、モノマー蒸気中で行う気相グラフト重合法、グラフト重合させたい量のモノマーを付与した後、不活性ガス中で反応させる含浸気相グラフト重合法などいずれのグラフト重合法も利用できる。
【0040】
グラフト重合用のモノマーとしては抽出試薬を担持させるためのアルキル基、アルカノール基、アルカノールアミノ基、アルキルアミノ基,エポキシ基、ジオール基、チオール基を導入しやすいものの中から選択できる。グリシジルメタクリレート又はグリシジルアクリレート、ヒドロキシルエチルメタクリレート,ビニルピロリドン,ジメチルアクリルアミド,エチレングリコールジメタクリレート,アルキルメタクリレート,又はアルキルアクリレートより選択されモノマーが好適である。特に、グリシジルメタクリレート又はグリシジルアクリレートが好適である。
【0041】
これらモノマーをグラフト重合した後、アルキル基を導入する場合、例えばアルキルアミノ基を有する薬剤が導入される。グラフトポリマーに対して導入しやすく、抽出試薬担持能力に優れたアミノ基を有する薬剤としては、エチルアミン、ブチルアミン、ペンチルアミン、ドデシルアミン、オクタデシルアミンなど直鎖アルキルアミンの他、ジメチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミンなども利用できる。また、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンなどのようにアミノ基を複数有するアミンも利用できる。ピペラジン、1,4ジアザビシクロ[2.2.2]オクタンなども利用できる。さらに、ジエチレントリアミン、トリエチレントリテトラミン、ポリエチレンイミンなどのアミンを利用することができる。
【0042】
この中で、アルキル基の炭素数が20より大きくなると、疎水性が大きくなるため、グラフト鎖同士が相互に引き合い、抽出試薬の担持に必要な空間が保持できなくなる結果、吸着性能を十分に発揮できない。また炭素数1では、疎水部が小さいため疎水性相互作用が小さくなるのに加え、アミン臭が強く作業環境上問題である。炭素数2以上が好ましい。
【0043】
アルカノールアミン類もアミンの場合と同様に利用することができる。モノエタノールアミンやジエタノールアミンは好適に利用できる。水酸基を有しているため、親水性が大きくなるが、沸点が非常に高く、アミン臭発生による環境問題が軽減される。
【0044】
抽出試薬とその担持機能を有する官能基の組み合わせとして,ビス(2‐エチルヘキシル)ホスフェイト(HDEHP)とオクタデシルアミノ基との組み合わせ,ビス(2‐エチルヘキシル)ホスフェイトとドデシルアミノ基との組み合わせ,ビス(2,4,4‐トリメチルペンチル)ホスフィン酸とオクタデシルアミノ基の組み合わせ,ビス(2,4,4‐トリメチルペンチル)ホスフィン酸とドデシルアミノ基の組み合わせ,トリオクチルメチルアンモニウムクロライドと6‐アミノヘキサン酸基の組み合わせ,トリオクチルメチルアンモニウムクロライドとオクタデシルアミノ基及び6‐アミノヘキサン酸基の組み合わせ,トリ−n−オクチルホスフィンオキシドとオクタデカンチオール基との組み合わせ等が挙げられる。組み合わせは、回収金属の種類、使用環境や製造条件等により、適宜選択できる。
【0045】
本発明は、放射線グラフト重合法を利用して製造した抽出試薬担持材料及びそれを利用した2種類以上の希土類元素を含有する酸性液体から酸と希土類元素を分離回収する方法であって、軽希土及び重希土の2種類の希土類元素と酸を分離回収することを特徴としている。
【0046】
希土類元素に限らず、希少金属を使用した製品の製造工程から発生する工程屑や使用済みの廃製品には有用金属が含まれる。それらを回収するために、先ず物理的な処理により有用金属含有固体を粉砕し、塩酸や硝酸を利用して溶解した後、その溶液から有用金属を分離回収することが行われている。本発明はそのような箇所に適用でき、有用金属の分離効率を飛躍的に高め、薬品使用量を大幅に低減できる。廃棄物の発生量も低減することができる。
【0047】
また、各種吸着材、例えば活性炭、イオン交換樹脂、キレート樹脂、ゼオライトなどは使用後、再生するために酸を多量消費するが、そのような廃液から酸を回収し、有用金属ばかりでなく、有害金属イオンの濃縮減容化を図ることができる。省資源・省エネルギー・安全の社会的要求に合致した有用金属分離・酸回収プロセスを提供できる。
【発明の効果】
【0048】
本発明が提案する抽出試薬担持材料を用いれば、軽希土と重希土の複数の希土類混合酸溶液から、軽希土と重希土をほぼ完全に分離回収できるうえ、酸を回収することができる。放射線グラフト重合法は様々な形状の基材に適用できるため、使用方法も基材形状の特徴を生かすことができる。従来、希土類元素回収プロセスは溶解槽、抽出槽、ポンプ、配管類など複雑なプラントが必要であり、多額の設備投資が必要であった。本発明は要素技術である電気透析装置を中心に各処理槽間を吸着材自体が移動できるプロセスも可能となり装置費が大幅に低減できる。中小メーカ−にも導入しやすい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0049】
本発明の放射線グラフト重合法を利用した抽出試薬担持材料の作成、その材料を使用した希土類元素溶液の吸着、酸による溶離、溶離液から酸の回収結果を実施例で示しながら詳細に説明する。本実施例は本発明のいくつかの例を示したものであって、この範囲に限定されるものではない。
【実施例1】
【0050】
(抽出試薬担持材料1の製造)
直径約25μmのナイロン繊維の撚糸1kgを窒素雰囲気でガンマ線照射した。照射線量は30kGyであった。この繊維を予め窒素バブリングしたメタクリル酸グリシジル10%メタノール溶液に浸漬し、40℃でグラフト重合を行った。6時間後に取り出し、ジメチルホルムアミド及びアセトンの順に洗浄し、乾燥した。乾燥後の重量を測定し、重量増加率(グラフト率)を算出したところ、83%であった。グラフト重合後の繊維をドデシルアミン20%イソプロピルアルコール溶液に浸漬し、80℃で5時間反応した。重量増加率から1.5mmol/gのドデシルアミンが導入された繊維が製造された。次に、この繊維を約1cmにカットし、60℃のHDEHP20%メタノール溶液に浸漬し、3時間反応した。重量増加率からHDEHPが0.4mmol/g担持された抽出試薬担持材料が製造された。
【0051】
(Nd、Dy吸着実験1)
HDEHP担持繊維2gを内径10mmに層高100mmとなるよう充填した。このカラムにNdを290mg/l、Dyを40mg/l含み、pHが2となるよう塩酸で調整した液を流速1.3ml/分で通液した。2L通液し、Nd及びDyがともに被処理液中の濃度とほぼ同一になっていることを確認した。
【0052】
(塩酸溶離1)
Nd及びDy吸着後の抽出試薬担持材料に0.2規定の塩酸溶液2000mlを通液し、次に1.5規定の塩酸溶液2000mlを通液した。所定時間ごとに溶離廃液をカラム出口からサンプリングし、NdとDyの濃度をICP発光分光分析装置(パーキンエルマー社製、OPTIMA8300DV)で測定した。Nd及びDyの溶離曲線は図5のようになり、99%以上の分離が達成できた。
【0053】
(電気透析装置による酸回収1)
0.2規定の塩酸でNdを溶離した塩酸溶離廃液をマイクロアシライザーS3型((株)アストム製)で処理し、2050mlの0.2規定塩酸を回収した。次に1.5規定塩酸の溶離廃液を処理し、1.3規定の塩酸2200mlを回収した。回収された塩酸は濃度を若干調整するのみで再使用可能であった。そして、pH3程度の弱酸性Nd溶液とDy溶液が回収できた。
【実施例2】
【0054】
(抽出試薬担持材料2の製造)
実施例1においてナイロン繊維の代わりに直径15μmのポリエチレン(鞘)/ポリエチレンテレフタレート(芯)より成る目付40g/m、厚み0.3mmの熱融着不織布を用いた以外は同様の条件でHDEHP抽出試薬担持材料を製造した。この不織布は重量増加率から0.35mmol/gのHDEHPを担持していた。
【0055】
(Nd、Dy吸着実験2)
HDEHP担持不織布を10cm角に切断したもの10枚作製した。この不織布をNdを270mg/l、Dyを35mg/l含むpH2の塩酸溶液1Lに浸漬し30分間撹拌した。不織布をピンセットで取り出し液切りした。溶液中に残存したNd、Dy濃度はそれぞれ5mg/L、1mg/Lであり、97%以上が抽出試薬担持材料に吸着された。
【0056】
(塩酸溶離2)
Nd及びDy吸着後、液切りした抽出試薬担持材料を0.2規定の塩酸1Lの入ったビーカに浸漬し、30分間撹拌した。30分経過後抽出試薬担持材料をピンセットで取り出し、液切りした。次いで、1.5Mの塩酸1Lの入ったビーカに抽出試薬担持材料を浸漬し、30分間撹拌した。撹拌終了後、抽出試薬担持材料をピンセットで取り出し、液切り後純水1Lに浸漬して洗浄した。0.2規定塩酸のビーカーにはNdが250mg/l、1.5規定の塩酸のビーカにはDyが33mg/L含まれており、分離ができた。
【0057】
(電気透析装置による酸回収2)
実施例1と同様に溶離廃液を電気透析装置で処理し、0.2規定の塩酸1Lと1.4規定の塩酸1.05Lを回収した。回収された塩酸は濃度を若干調整するのみで再使用可能であった。そして、pH3程度の弱酸性Nd溶液と弱酸性のDy溶液が回収できた。
【0058】
(Nd、Dy吸着用キレート繊維の作成)
実施例1のメタクリル酸グリシジルをグラフト重合したナイロン繊維に次の条件でイミノジ酢酸基を導入した。イミノジ酢酸ナトリウム/イソプロピルアルコール/水=20/40/40の液組成のイミノジ酢酸基を導入するための溶液を調製した。グラフト繊維をこの溶液に浸漬し、反応温度80℃、反応時間24時間でイミノジ酢酸基を導入した。反応後の重量増加から1.8mmol/gのイミノジ酢酸基が導入された。
【0059】
pH3のNd溶液(濃度250mg/l)及びDy溶液(濃度33mg/l)それぞれ500mlに上記作成したイミノジ酢酸基導入繊維5gを浸漬し、1時間撹拌しNd及びDyの吸着を行った。吸着後の繊維をピンセットで取り出し、溶液に残存したNd及びDy濃度を測定したところ、Ndは3mg/l、Dyが0.2mg/lであり、キレート吸着材でさらに濃縮減容化が可能であることが示唆された。
【図面の簡単な説明】
【0060】
図1】:本発明の希土類元素と酸を回収する処理プロセスの基本フロー
図2】:電気透析装置の原理図
図3】:吸着材を移動させる処理プロセスを示すフロー
図4】:本発明の抽出試薬担持材料の合成経路
図5】:Nd及びDyの酸による溶離曲線
【符号の説明】
【0061】
1. アニオン交換膜
2. カチオン交換膜
3. 酸回収液
4. 金属回収液
5. 被処理液体
6. 処理液
7. 脱塩室
8. 濃縮室
9. 極室
11.抽出試薬担持材料
12.電気透析装置
13.吸着槽
14.第1溶離槽
15.第2溶離槽
16.洗浄槽
図1
図2
図3
図4
図5