(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記クリーン室内には、前記菌床排出口から前記袋詰め手段へ前記発酵菌床を搬送する第1搬送手段と、前記袋詰め手段にて包装された前記発酵菌床を前記袋詰め手段から前記包装菌床搬送口へと搬送する第2搬送手段とが更に設けられることを特徴とする請求項6又は7に茸類栽培システム。
【背景技術】
【0002】
(従来の栽培方法)
従来の茸類の栽培方法には、原木栽培と菌床栽培とが挙げられる。さらに菌床栽培には、ビン栽培や袋栽培が挙げられる(特許文献1〜3参照)。主流のビン栽培を一例として説明すると、その方法とは、ミキサーを用いた培地調製、充填機を用いたビン詰め、殺菌釜やボイラーを用いた殺菌、接種機を用いた接種、培養、掻き出し機を用いた菌掻き、芽出し、さし芽の単離、さし芽の移植、生育、収穫等の各工程からなる(非特許文献1及び本明細書に添付の
図5参照)。
【0003】
(1.培地原料と原料調達コスト増の課題)
ところで、上述した従来の栽培方法のいずれも、広葉樹や針葉樹のオガコ等、何らかの木質系原料を使用しているのが通常である。先の大震災に伴う原子力発電所での事故により、東日本産の木質系原料が使用できなくなったことから、限られた地域の原料を使用せざるを得なくなったこと、電気料金も値上げとなったこと、など、茸類生産者を取り巻く経営環境は厳しいものとなっている。
【0004】
(2.殺菌釜と稼働コスト増の課題)
また、従来のビン栽培や袋栽培では、殺菌釜を使用して基材内の微生物を加熱して死滅させる「殺菌工程」(例えば、高圧殺菌あるいは常圧殺菌)を経て培地(菌床)の製造を行うため、化石燃料を多量に使用する必要がある。さらには、最近の為替変動(円安)により原油価格が高騰しており、茸類生産者を取り巻く経営環境は一層厳しいものとなっている。
【0005】
(3.高額な設備投資の課題)
さらに、従来のビン栽培や袋栽培では、上述した殺菌釜の他、ボイラー、充填機、接種機、菌掻き機など多種多様な専用装置が必要であり、このため高額な設備投資も必要とすることも問題である。
【0006】
(4.収穫量や味・香の改善への要望)
また、従来法では、木質系材料だけでは茸の生育に必要な栄養分を供給できないことから、米糠、ふすま、トウモロコシ等の栄養剤の添加も必要である。このような添加処理を追加した従来方法であっても、その方法で得られる茸類は収穫量が十分とは言えないばかりか、その味・香にも改善の余地があった。また、従来法では、培地のビン詰めの後工程で接種工程が実施され、しかも、種菌がビン開口部に近い培地の中央部にのみ接種されるため、培地全体に菌糸が蔓延するのに時間が掛ることも指摘されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、従来技術に比べて、菌床の製造コスト及び廃棄コストを削減しつつ収穫量を増やし、味・香に優れた茸類を栽培可能な新規な茸類の栽培方法、発酵菌床生成ミキサー及び栽培システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、鋭意検討の末、栄養剤の添加を必要とせず、かつ、従来方法では別々の機器で個別に行っていた、培地の調製、殺菌、及び接種の少なくとも3つの工程を統合して一つの新規な機器(菌床発酵生成ミキサー)で実行可能な栽培システム及び栽培方法を見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち本発明は、例えば、以下の構成・特徴を備えるものである。
(態様1)
基材を用意する工程と、
該基材を
閉鎖された格納容器内で攪拌しながら発酵させる発酵菌床を生成する工程と、
該発酵菌床に茸類の種菌を
前記格納容器内で接種する工程と、
を含み、かつ、
発酵菌床を生成する前記工程では、
前記格納容器内に投入した前記基材を攪拌しながら加温して、前記基材に好気性発酵を引き起こ
し、
発酵菌床を生成する前記工程では、前記基材の攪拌中に該基材に対して予め除菌された外気を送風することを特徴とする茸類栽培方法。
(態様2)
発酵菌床を生成する前記工程
で使用する前記外気は予め冷却され、前記格納容器内に送風した際に前記基材を冷却することを特徴とする態様1に記載の茸類栽培方法。
(態様3)
前記加水工程で使用する前記水が温水であることを特徴とする態様1
又は2に記載の茸類栽培方法。
(態様4)
前記発酵菌床を袋状体で包装する袋詰め工程を更に含むことを特徴とする態様1〜
3のいずれかに記載の茸類栽培方法。
(態様5)
閉鎖された格納容器が設けられかつ該格納容器内で発酵菌床を生成可能な発酵菌床生成ミキサーであって、
基材を前記格納容器内へ投入可能な材料投入口と、
前記発酵菌床に茸類の種菌を接種する種菌投入口と、
前記格納容器に水又は温水を供給する加水手段と、
前記格納容器内で前記基材を攪拌可能な攪拌手段と、
を備え、かつ、
前記基材を加温可能な加温手段
と、
前記基材の攪拌中に該基材に対して予め除菌された外気を送風する外気給気口と、
を更に備えることを特徴とする発酵菌床生成ミキサー。
(態様6)
発酵菌床を排出する菌床排出口が更に設けられた態様
5に記載の発酵菌床生成ミキサーと、
包装菌床搬送口が設けられかつ外壁によって区画されたクリーン室と、
前記クリーン室内に設けられかつ前記ミキサーで製造された発酵菌床を包装する袋詰め手段と、
を備えた茸類栽培システム。
(態様7)
前記クリーン室内には、室内の空気を冷却する冷房手段と、冷却された前記空気を収集して前記ミキサーの前記
外気給気口に送るブロアとが設けられて、前記ミキサーの送風手段を構成することを特徴とする態様
6に記載の茸類栽培システム。
(態様8)
前記クリーン室内には、前記菌床排出口から前記袋詰め手段へ前記発酵菌床を搬送する第1搬送手段と、前記袋詰め手段にて包装された前記発酵菌床を前記袋詰め手段から前記包装菌床搬送口へと搬送する第2搬送手段とが更に設けられることを特徴とする態様
6又は7に茸類栽培システム。
(態様9)
前記ミキサーは、前記クリーン室
外側に向いた第1側と、前記クリーン室
内側に向いた第2側とを有するように設置され、かつ、
第1側には前記材料投入口が設けられる一方、第2側には前記菌床排出口又は該排出口及び前記送風手段が設けられることを特徴とする態様
6〜8のいずれかに記載の茸類栽培システム。
【0012】
ここで、本発明で利用可能な基材(培地材料)として、広葉樹や針葉樹のオガコなどの木質系原料に加え、非木質農業副産物も利用可能である。なお、非木質農業副産物の例示として、コーンコブ、コットンハル、ビートバルブ、稲わら、落下生殻、籾殻、ハト麦殻などが挙げられるが、必ずしもこれらに限定されない。本発明の基材の主原料に、この非木質農業副産物を主に利用すれば、上述した原料調達コスト増の課題が大幅に解消し得る。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、基材を好気性発酵させるというユニークな菌床発酵工程を導入することにより、従来の菌床栽培では必須の殺菌釜による殺菌やビン詰めの工程を完全に不要とする。具体的には、従来方法での培地調製(攪拌)、殺菌、接種等の製造工程が、本発明では菌床発酵(好気性発酵)という一つの製造工程や製造装置・システムに置き換わる。
【0014】
これにより、本発明では、従来の殺菌工程で必須の巨大で高価な殺菌釜やボイラーや、ビン詰め工程で必須の高価なビンを利用しなくて良いため、設備投資コストを大幅に抑えられるだけでは無く、ランニングコストも大幅に抑えられる。
【0015】
また、本発明では、従来方法での培地調製、殺菌、接種等の製造工程を採用せず、上記各工程を一工程(発酵工程)に置き換えて調製した発酵培地を用いる為、従来方法に比べ、収穫量の増加を達成可能である。
【0016】
さらに、従来法では、通常、培地のビン詰め後にビン開口部付近の培地の一部に穴を開けて種菌を植え付ける(接種する)ので、そこから培地全体に菌糸が蔓延するのに時間が掛っている。これに対し、本発明の方法では発酵工程の「直ぐ後」に新規な接種工程を導入し、好ましくは、その接種工程において培地(好ましくは、培地(発酵菌床)が収容された同一容器内)に種菌を投入し、これを「培地全体」によく混ぜ合わせる(攪拌させる)処理を行った上で培地を袋詰めするため、菌糸の広がりが格段に良くなり、培養期間を大幅に短縮できる。
【0017】
加えて、好気性発酵された培地によって培養・育成された本発明の茸類は、従来方法の殺菌工程を経て育成された茸類に比べて、まろやかで芳醇なものとなり、味・香に大変優れたものとなる。
【0018】
また、本発明の方法で茸類の育成に使用された使用済み菌床は、(1)再利用、(2)有機たい肥の原料、(3)豚の飼料等として利用できることが分かっている(既に実績有り)。すなわち、廃棄コストも不要となり、環境調和型の栽培方法であるといえよう。
【0019】
さらに、本発明の好適な態様によれば、加水工程で温水を利用するため、攪拌手段や加温手段を使用した菌床発酵に要する期間を大幅に短縮することが可能となる。
【0020】
さらに、本発明の好適な態様によれば、上述の発酵菌床を袋状体でもって包装する袋詰め工程をさらに含むため、茸類の培養・移動に使用される収容体が袋状体となり、従来のビンに比べて安価なものとなる。さらに、従来方法では、ビン詰め工程後の菌掻き工程(ビン開口部上の菌床表面での種菌の除去)では専用の菌掻き機が必須であったが、本発明の栽培方法では、発酵菌床を収容した上記袋状体にカッター等の市販の刃物で切れ込みを入れるだけで済むようになり、製造設備の簡素化及び製造コストの更なる抑制が可能となる。
【0021】
また、本発明の茸類栽培システムによれば、基材を好気性発酵させることを主眼にした新規な発酵菌床生成ミキサーを有しているため、従来方法の上記複数の工程をそれぞれ実施する為の個別の装置(培地調製の為の攪拌器、殺菌釜やボイラー、接種室や接種機など)が不要となり、栽培設備が極めてコンパクトになる。
【0022】
さらに、本発明の好適な態様の茸類栽培システムでは、発酵菌床を取り出すクリーン室自体が冷房手段を備えているため、温度及び湿度の管理が可能となるとともに、これにより空調管理された冷却空気の一部を本発明のミキサーの送風用空気としても利用できる。この際、培地の雑菌汚染を完全に防ぐために、冷却空気を除菌可能なフィルタが更に設置されていることが好ましい。このクリーン室にはクリーンな環境で本発明のミキサーから発酵菌床を取り出し、袋状体を用いてこれを包装するための袋詰め手段をも備えたものでもよい。このように本発明のクリーン室は、本発明において茸類を栽培するために多種の機能・重要な役割を果たす優れた設備であるといえよう。
【0023】
さらに、本発明の好適な態様の栽培システムによれば、本発明のミキサーの一部分をクリーン室内側へ設ける一方、他部分をクリーン室外側へ設けた特殊な構成を採用している。これにより、雑菌に汚染されている基材の投入は広い室外から自由に行うことができるとともに、ミキサーにより殺菌された発酵菌床は環境条件が制御されたクリーン室内で実行できる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明を図面に示す実施の形態に基づき説明するが、本発明は、下記の具体的な実施形態に何等限定されるものではない。
【0026】
(従来のビン詰め菌床栽培)
本発明の茸類栽培方法の新規なポイントや特有さを説明するためにも、先ず、従来の茸類栽培方法で主流となっている通常のビン詰め菌床栽培について
図5を参照しながら説明する。
【0027】
先ず、従来方法の製造工程は、通常、培地調製(工程S101)、ビン詰め(工程S102)、殺菌(工程S103)、冷却(工程S104)、接種(工程S105)、培養(工程S106)、菌掻き・芽出し(工程S107)、生育(工程S108)、収穫(工程S109)を含む。なお、収穫工程S109の後には、図示しないパック詰めや出荷の工程を含むことは言うまでも無い。
【0028】
ここで、培地調製工程S101とは、菌床栽培に用いる基材(例えば、ヒラタケ栽培の場合は、通常、オガコ)を計量し、加水(S101A)し、ミキサーにてこれを攪拌(S101B)して茸類の菌床栽培に適した水湿潤状態になるように水分調整する工程をいう。なお、基材原料のオガコは、先の大震災に伴う原子力発電所での事故により、東日本産のものが使用できなくなったことから、限られた地域の原料を使用せざるを得ず、輸送コストや原料価格の高騰を招いている。
【0029】
さらに、この工程S101〜S101Bでは、通常、栄養剤(ヒラタケ栽培の場合、米糠、フスマ、トウモロコシ等)を添加しなければならない。つまり、投入すべき原料が増える為、配合割合の管理を一層徹底する必要や、原料置き場のスペースをさらに確保する必要があり、比較的多くの原料を保管する必要も生じるので、従来の方法の作業が煩雑化する要因の一つになっている。
【0030】
ビン詰め工程S102とは、上記培地調製工程S101〜S101Bで調製された培地を耐熱性広口培養ビンに充填する工程である。通常、このビン詰め工程S102を行う為の専用の充填機を利用しなければならない。
【0031】
殺菌工程S103とは、殺菌釜を利用して常圧下又は高圧下で培地を加熱することで培地中の実質的に全ての微生物を死滅させる工程である。収穫量を増やすためには、殺菌釜は多数の培養ビンを収容する為の容積が必要となり、通常、巨大で高価なものとなっている。また、上述の常圧殺菌又は高圧殺菌を実現させるには、大きなエネルギーが必要となる。従って、従来技術の設備投資コストやランニングコストの上昇の主要因となっている。
【0032】
殺菌工程S103で殺菌されたビン詰め菌床は、通常、コンテナと台車とを利用して、専用の冷却室へと運ばれ、冷却される(工程S104)。
【0033】
その次の接種工程S105とは、殺菌後、常温程度まで放冷された培地に種菌を植え付ける工程である。ここで、培地への種菌の接種は、ビン(菌床)を冷却室からクリーンな環境下の接種室に運んでから実行され、また種菌の接種には接種機と呼ばれる専用装置が使用される。従って、冷却室から接種室への搬送作業・搬送時間の無駄、高額な設備投資、ランニングコストの増大等の欠点(接種時の第1の欠点)が指摘されている。
【0034】
また、従来法の接種工程S105は、
図5に示すように、培地のビン詰め工程S102を終了した後(実際には上述した幾つかの工程S103、S104もさらに行った後)に実施され、しかも、この従来の工程S105では、ビン開口部付近の培地の一部(通常、中央部)のみに穴を開けて種菌を植え付けるだけであるため、培地全体に菌糸が蔓延するのに時間(生育時間)が掛るとの欠点(接種時の第2の欠点)も指摘されている。
【0035】
さらに、培養工程S106では、温度・湿度・CO
2の条件が管理された部屋(培養室)で菌糸を生育、熟成させる工程である。
【0036】
菌掻き・芽出し工程S107とは、培養工程S106を終了した後にビンの栓を外し、菌掻きを行い、子実体原基から幼子実体を形成する工程であり、生育工程S108でこれを子実体に生育させる工程である。なお菌掻き工程S107では、従来、専用の菌掻き機が必要とされている。
【0037】
以上説明したように、従来の茸類の栽培方法や栽培設備は、これを実践する茸生産者が中小企業規模である場合、その経営に影響を及ぼす程の設備投資コストやランニングコストが掛るものである。従って、資力が潤沢な大企業で無ければ、新規参入を躊躇させる要因となっており、茸生産業自体が活性化しにくい状況となっている。
【0038】
これに対し、以下に詳述する本発明の栽培方法及び栽培システムは、従来技術での上記課題を解決すべく生み出されたものである。
【実施例1】
【0039】
(本発明の栽培方法)
図1に本発明の茸類栽培方法の各工程S1〜S7を示すフローチャートである。本発明の栽培方法は、先ず、
図1からも視覚的に明らかなように、後述する新規な発酵菌床生成ミキサー10(以下、単に「発酵ミキサー」や「ミキサー」とも呼ぶ。)を使用して菌床2(
図2及び
図3参照)の発酵(好気性発酵)を行う工程S1が導入されていることに留意されたい。この菌床発酵工程S1は、具体的には、オガコ等の木質系材料や非木質農業副産物を含んだ基材を用意(ミキサー1へ投入)する工程S1Aと、該基材に水を加える加水工程S1Bと、を含む。なお、基材に採用する非木質農業副産物として、コーンコブ、コットンハル、ビートバルブ、稲わら、落下生殻、籾殻、ハト麦殻などが挙げられるが、必ずしもこれらに限定されない。
【0040】
また、本発明では、該基材を攪拌しながら発酵させる発酵菌床を生成(攪拌及び加温)する工程S1Cを含むことに留意されたい。この発酵菌床生成工程S1Cでは、格納容器11内に基材を投入された水湿潤状態の基材を攪拌させながらこの基材に対して加温することで、この基材には好気性発酵が引き起こされる。
【0041】
また、工程S1Cでは、この基材を攪拌しながら送風することも好ましい。加えて、加温した後に基材を冷却すること(さらに好ましくは、冷却かつ除菌した外気を導入して、これを菌床へ吹き付けること)も好ましく、このような処理を行った基材では好気性発酵が極めて効果的に引き起こされるようになる。
【0042】
ここで、菌床の加温は、
図3や
図4(b)に例示したヒーター15A等の加温手段15によって実行できる。望ましい菌床の好気性発酵を実現するには、格納容器11内に室内温度を計測可能な図示しない温度センサにより計測しつつ、ヒーター15A等に付与する電圧・電力を制御することで室内温度が所望の温度帯に留まるように維持することがさらに好ましい。加温工程S1Cの温度帯としては、40℃〜90℃、好ましくは50℃〜80℃の範囲内であることが好ましい。
【0043】
本発明者らは、好気性発酵された培地から時後の生育工程S6で必要となる栄養分が得られることにより、従来技術(の工程S101)に必須の栄養剤の添加処理も不要となることが分かった。言い換えれば、本発明の方法では、栄養剤を添加しなくても、収穫量が高くて味・香にも優れた茸類を安価に育成できることが分かった。
【0044】
また、
図1と
図5とに示す各フローチャートを見比べて分かるように、本発明の手法では、従来技術に必須であってその製造コスト上昇の一因となっていた殺菌工程S103が不要であることにも留意されたい。つまり、本発明では、殺菌釜を加熱して培地中の全ての微生物を実質的に死滅させなくても茸類は適切に育つことが分かった。そして、本発明の発酵工程S1の後に生き残る培地中の微生物は茸類の生育に有益な微生物であり、この微生物の存在により、従来技術で行っていた栄養剤の添加も不要とし、本発明の結果物たる茸類の味・香に著しく良好な影響を及ぼすこと(例えば、茸類への芳醇さの付与)が分かった。
【0045】
また、本発明の加水工程S1Bでは温水を供給することが好ましい。これにより、発酵工程S1(S1C)でのヒーター15A等の加温手段15による加熱時間ひいては発酵時間を短縮することができるようになる。
【0046】
以上の発酵工程S1が完了すると、好気性発酵された菌床が出来上がる。本発明では、この発酵菌床を発酵ミキサー10内に入れたままの状態で、接種を行うことが可能である(接種工程S2)。より具体的には、所定量の図示しない茸類の種菌を
種菌投入口18から投入し、攪拌手段14を用いて発酵菌床全体に混ぜ合わせることが好ましい。
【0047】
また、発酵菌床2を袋状体3で包装する袋詰め工程S3を更に含むことが好ましい(
図3参照)。これにより、従来のビン詰め工程S103に必須であった比較的高価でかつ充填量に制限がある耐熱性広口培養ビンを使用する必要が無い。また、袋状体3の使用により、より多くの分量を充填したり、充填量を調節したりできるだけでなく、落下した場合に破損の恐れも無く、取扱いや作業がより安全なものとなる。
【0048】
なお、袋状体3には袋面全体に図示しない多数の小孔が設けられていることが好ましい。袋状体3に小孔が設けられると、外部から酸素が供給され、茸類の生育促進が促され易くなるからである。孔が大き過ぎると外部からの雑菌で培地が汚染する危険性があるため、小孔は小さい方が良く、酸素が通過できれば良い。従って、小孔は、サブミクロンオーダからミクロンオーダ(0.1mm〜1μmの範囲)の直径を有するものが好ましい。
【0049】
さらに、培養工程S4の後の菌掻き工程S5でも、袋状体3であることの利点が発揮される。すなわち、発酵菌床2を包んだ袋状体3の上面に図示しない市販カッター等で数cmだけ切れ込みを入れるだけで良く、従来のビン詰め栽培で必須であった専用の菌掻き機を導入・使用する必要が無い。つまり、本発明の発酵ミキサー10は極めて多くの機能を担うことができるため、従来方法で個別の機械で行っていた多種多様な工程を一つの装置(発酵ミキサー10)で実行できるため、本発明の栽培システム1が極めてコンパクトになり、また、製造中の菌床等の材料の搬送に係る距離や時間を大幅に短縮できるようになる。ひいては、本発明により、設備投資コストや製造コストの低減や収穫量の増加など、茸生産者とって大変有難い恩恵を受けられるようになるのである。
【0050】
また、本発明の接種工程S2では、上述の工程S1に使用した発酵ミキサー10自体に茸類の種菌を投入し、その攪拌手段14により発酵菌床と混合することを特徴とする。これにより、従来のビン詰め栽培で必須であった専用の接種機を導入・使用する必要が無い。
【0051】
生育工程S6や収穫工程S7の内容自体は、従来技術と余り変わりは無いため、ここでは詳しい説明を省略する。なお、収穫工程S7を経た使用済み菌床(好ましくは、基材に非木質農業副産物を用いて製造された菌床)は、(1)再利用、(2)有機たい肥の原料、(3)豚の飼料等として利用できることが分かっている(本発明者らにより既に実証済み)。すなわち、製造中に発生した廃棄物に関する廃棄コストも不要となるため、本発明は環境調和型の栽培方法であるともいえよう。
【0052】
本発明者らは、ヒラタケ属の茸類の種菌を用いて、上述した本発明の栽培方法や栽培システムの実証試験を行ったところ、従来手法に比して極めて高い収穫量が得られることや、生産されたヒラタケのサンプルを実際に試験モニターに食べてみてもらったところ、極めて味・香が優れたものであるとの評価を受けた。従って、本発明の栽培方法は、少なくともヒラタケ属の茸類の製造には極めて好適であることが実証されている。
【実施例2】
【0053】
(本発明の栽培システム)
次に、上述した本発明の栽培方法を具体的に具現可能な栽培システム1について詳述する。この栽培システム1は発酵菌床生成ミキサー10を備える。このミキサー10は本発明の栽培システム1には欠かせない最も重要な構成要素の一つであるため、先ず、この要素から説明する。
【0054】
(発酵菌床生成ミキサーの概要)
発酵菌床生成ミキサー10には、
図4に示すように、内側に基材(培地材料)を投入可能な格納容器が11設けられかつ該容器11内で発酵菌床を生成可能である。このミキサー10は、さらに、上述した基材を格納容器11内へ投入可能な材料投入口12と、格納容器11に水又は温水を供給する加水手段13と、格納容器11内で基材を攪拌可能な攪拌手段14と、格納容器11内に設けられかつ基材を加温可能な加温手段15と、格納容器11内に設けられかつ基材へ空気(後述の好適な形態では予め除菌及び冷却された空気)を供給する送風手段16と、を備えることを特徴とする。
【0055】
(発酵菌床生成ミキサーの各構成要素)
より具体的には、材料投入口12はミキサー10の上面に、後述する菌床排出口17はミキサー10の下部側面に設置されていることが好ましい。これらの投入口12や排出口17は、ヒンジ付き開閉扉12A,17Aによって開閉可能にしてもよく、これにより、基材投入時や菌床排出時以外での雑菌や埃のミキサー10への侵入を阻止することが可能となる。
【0056】
(ミキサー内の格納容器及び加水手段の構成)
ミキサー10内で基材を収容する格納容器11の形状は特に限定されないが、後述の攪拌手段14の利用を考慮すると鉛直方向下側部分11Bが中空円筒状を成すことが好ましい。加水手段13は、外部から給水口13Bを経て格納容器11に水を供給する給水ライン13Aと、格納容器11から排水口13Cを経て外部へ水を排出する排水ライン13Dと、によって構成される(
図2〜
図4参照)。ここで、給水ライン13A供給用の水として、温水(例えば、一般の家庭や工場に供給される温水)を利用することが好ましく、これにより、菌床発酵期間(つまり、後述する加温手段15の使用時間)を大幅に減らすことが可能となり、ひいては、栽培期間の短縮、収穫量の増加や製造コストの低減につながる。
【0057】
(ミキサー内の格納容器及び攪拌手段の構成)
攪拌手段14は、例えば、格納容器11の中心軸に沿って延びた回転軸14Aと、この回転軸14Aの長手方向に所定間隔だけ離間して取り付けられかつ半径方向に延びた複数の攪拌用羽根14Bと、この回転軸14Aを回転させるための駆動モータ14C、回転速度を調整する制御部14Dと、を備えたものが考えられる。なお、本実施例では、回転軸14Aの長手方向に沿って長尺の棒体14Eが回転軸14Aの回りに螺旋状に延び、各攪拌用羽根14Bの径方向先端部に接合されており、これにより、羽根14Bに基材の攪拌に耐えうる機械的強度や剛性を付与することができる。
【0058】
(ミキサー内の格納容器及び加温手段の構成)
また、加温手段15は、例えば、格納容器11の内壁付近に面状ヒーター15Aを貼るように構成しても良い。さらに、格納容器11内の室温を計測する図示しない温度センサ(例えば、熱電対、測温抵抗体やサーミスタ等の抵抗式温度計、放射温度計やサーモグラフィ等の非接触温度計)やヒーター15Aへの投入電圧(電力)を制御可能な制御部15B(例えば、インバータ)等が設置されていてもよい。これにより、室内温度を、所定期間、上述した好適な温度帯(40℃〜90℃、好ましくは50℃〜80℃の範囲内)に維持することができるようになり、茸育成に望ましい菌床の好気性発酵を実現することが可能となる。
【0059】
(ミキサー内の格納容器及び送風手段の構成)
また、このミキサー10には、外部からの空気又は冷却空気を格納容器11内に導入し、収容・攪拌される菌床に吹き付ける送風手段16が設けられていることが好ましい。上記構成の格納容器11を使用している場合、長手方向の端部に位置する端面に外気導入用の給気口16Aを設け、格納容器11内で加熱された蒸気を排出する為の排気口16B及びこの排気口16Bから上側に延びた排気路(煙突)16Cを設けることが好ましい。
【0060】
(ミキサー内の格納容器及び送風手段の構成)
なお、送風手段16によってミキサー10に供給される外気は、上述の発酵工程S1での好気性発酵を促進するために、クリーンな空気を導入することが好ましい。
【0061】
加えて、菌床を一旦、加温した後に菌床を冷却する処理を加えることも更に好ましく、ミキサー10へ導入する空気(外気)を上述の加温温度帯よりも低い所定温度まで冷却する冷却手段が送風手段24A,24Bに更に設けられていることが好ましい。さらに、外気導入による格納容器11(発酵領域)内への雑菌の侵入や繁殖を防止するためにも、フィルタ部23A,16D
1が送風手段16に更に設けられていることが好ましい。
【0062】
これらの要望を好適に実現するには、後述のクリーン室20と上述のミキサー10とを組み合わせたユニークな装置構成を用いるのが良く、以下に具体的に説明する。
【0063】
(ミキサー併設のクリーン室の構成)
本発明の栽培システム1は、主要な構成要素として、さらにクリーン室20を備える(
図2及び
図3参照)。クリーン室20の外周の多くは、断熱パネル等によって構成された外壁21によって区画されるが、作業員出入扉21Aと包装菌床搬送口21Bとがさらに設置されている。加えて、クリーン室20の室内に外気が簡単に入り込むのを防ぎ、空気の清浄度の保持を容易にする為に、作業員出入扉21Aと外部環境との間に入場室22及び入場扉22Aを追加設置するようにしてもよい。
【0064】
クリーン室20は
、フィルタ部23Aを有した外気導入クリーンユニット23を備え、このフィルタ部23Aにより、外気中の埃やゴミの侵入を防ぎながら外気を室内に導入することが可能となる。また、後述するブロア16Dにも、室内に入った空気がミキサー10に導入される際にさらに除菌を行う目的で、フィルタ部16D
1が設けられている。なお、フィルタ部23A,16D
1には、公知の様々なフィルタを利用可能であるが、培地への雑菌の侵入や汚染を確実に防ぐためには、HEPAフィルタ(High Efficiency Particulate Air Filter)等の高性能な除菌フィルタを利用することが好ましい。また、クリーン室20の室内空気の温度や湿度をコントロールできる空調設備(冷却手段)24がさらに設けられる。空調設備24として、例えば、クーラー(エアコン)室内機24A、クーラー(エアコン)室外機24B、換気扇24C、陽圧ダンパー24D等が設けられる。
【0065】
なお、クリーン室20への陽圧ダンパー24Dの設置により、クリーン室20は使用時には室内が陽圧に保たれるようになるため、クリーン室20に散在し得る接合部や隙間を介して雑菌で汚染された外部の空気等が流入しにくくなる。つまり、漏れにより発生する気流の方向を、絶えず、クリーン室20の内側から外側へ向く方向に置くことができるようになる。
【0066】
(クリーン室内へのミキサーへの送風手段の設置)
さらに、クリーン室20内には、室内の空気を冷却する冷房手段24A,24Bと、冷却された空気を収集してミキサー10の給気口16Aに送るブロア16D及び冷気供給ライン16Eと、が設けられていることが好ましく、これらの構成要素によって、ミキサー10における前述の好ましい送風手段16を構成することができ、極めて清浄でかつ冷たい外気をミキサー10に導入・案内することができるようになる。
【0067】
(袋詰め手段)
また、クリーン室20の室内には、袋詰め手段25が設けられることが好ましい。より具体的には、菌床排出口17からクリーン室20へ発酵菌床2を搬送する第1搬送手段(例えば、チェーンコンベア)25Aと、この第1搬送手段25Aにて搬送された発酵菌床2を回収口25B
1で回収し、これを袋状体3で包装する袋詰め機構本体25Bと、この袋詰め機構本体25Bにて包装された発酵菌床2を袋詰め機構本体25Bから包装菌床搬送口21Bへと搬送する第2搬送手段(例えば、ベルトコンベア)25Cとが更に設けられることが好ましい。
【0068】
なお、袋詰め手段25には、クリーン室20外に設けられかつ袋詰め手段25に圧縮空気を供給するコンプレッサ25Dが圧縮空気供給ライン25Gを通して接続されていても良く、この圧縮空気を利用して袋詰め機構本体25Bに運ばれてきた菌床2を袋状体3の内部への充填を容易かつ効果的に行うことができる。また、袋詰め手段25には作業机25Eやシール機25Fを備えていても良く、袋状体3の開口部を容易に接合(好ましくは、熱溶着)することができるようになる。
【0069】
(本発明の栽培システムの利点及び作用効果)
以上説明したミキサー10、袋詰め手段25、冷房機能付きクリーン室20を一つに統合した本発明の栽培システム1により、前述した本発明の製造方法の全工程S1〜S7のうち、前述した基材(培地材料)の投入工程S1Aから袋詰め工程S3までを、ほぼ一つの設備空間(ミキサー10及びクリーン室20内)で実行できるようになる。
【0070】
一方、従来技術の対応する各工程S101〜S106では、前述したとおり、各工程を個別の専用機で処理するため、多数の専用装置(培地調製の為の攪拌器、ビン詰め装置、殺菌釜やボイラー、冷却室、接種機等)が必要であるため、これらの装置間の搬送手段等の設置など菌床の搬送する為の設備が複雑化かつ大型化するだけでは無く、搬送時間や作業時間も増え、設備投資コストやランニングコストが跳ね上がる等の多くの課題が山積していた。
【0071】
従って、従来手法が抱えていた課題の多くを本発明の栽培システム1の一つで解決してしまうのである。つまり、発酵菌床2を取り出すクリーン室20自体が冷房手段24を備えているため、温度及び湿度の管理が可能となるとともに、これにより空調管理(好ましくは、更に除菌)された冷却空気の一部を本発明のミキサー10の送風用空気としても利用できる。このクリーン室20にはクリーンな環境で本発明のミキサーから発酵菌床2を取り出し、袋状体3を用いてこの菌床2を包装するための袋詰め手段25をも備えたものでもあり、このクリーン室20は、本発明の茸類を栽培するために多種の機能・役割を果たす優れた設備である。
【0072】
(ミキサーとクリーン室との融合)
加えて、ミキサー10は、クリーン室20の内側に向いた第1側AAと、クリーン室2の外側に向いた第2側BBとを有するようにクリーン室20に設置されていることが好ましい。言い換えれば、ミキサー10の一部がクリーン室20から外側に張り出した構成を成す。さらに、好ましくは、第2側BBには材料投入口12は設けられる一方、第1側AAには菌床排出口17と送風手段16が設けられることが好ましい。
【0073】
このように、本発明のミキサー10の一部分をクリーン室20の内側へ設ける一方、他部分をクリーン室20の外側へ設けた特殊な構成を採用することにより、環境育成条件の制御が必要な発酵菌床2の排出をクリーン室20内で確実に実行できるととともに、環境育成条件の考慮する必要が余り無い基材の投入は広い室外で自由に行うことが可能となり、本発明の栽培方法の各工程での作業性や作業能率を向上できるようになる。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明の栽培方法及び栽培システムは、基材を好気性発酵させるというユニークな菌床発酵工程を導入することにより、従来の菌床栽培では必須の殺菌釜による殺菌やビン詰めの工程を完全に不要とする。具体的には、従来方法での培地調製(攪拌)、ビン詰め、及び殺菌等の工程が、本発明では菌床発酵という一つの工程や装置システムに置き換わる。
【0075】
これにより、本発明では、従来の殺菌工程で必須の巨大で高価な殺菌釜やボイラーや、ビン詰め工程で必須の高価なビンを利用しなくて良いため、設備投資コストを大幅に抑えられるだけでは無く、ランニングコストや廃棄物の処理コストも大幅に抑えられる。
【0076】
また、本発明では、従来のビン詰め工程を採用せず、上記各工程が一工程に置き換わるために、従来方法に比べ、収穫量の増加を実現可能である。例えば、従来のビン栽培だと、1本の培養ビン(500mL〜800mL)から通常1回(多くても2回)しか収穫出来ず、充填している基材当たりの収穫量は必ずしも多くない。これに対し、本発明の方法では袋状体に10kg近い発酵培地を入れることも可能であり、少なくとも3回程度は茸を発生させることが出来るために非常に多くの茸を生産し得る。さらに、本発明の方法では種菌を発酵培地全体に攪拌しながら混ぜ込むため、種菌が混ぜ込まれて袋状体内に充填された培地では、菌糸の回りが比較的早く、従来法に比べて著しく短期間での収穫が可能であり、年間の収量も多いと考えられる。
【0077】
このように、本発明では、従来法に比べ、基材重量当たりの収穫量でも単位期間当たりの収穫量でも大幅な増加が見込まれる。
【0078】
加えて、好気性発酵された培地によって培養・育成された本発明の茸類は、従来方法の殺菌工程を経て育成された茸類より、まろやかで芳醇なものとなり、味・香に大変優れたものとなる。
【0079】
このように、本発明は、産業上の利用価値及び産業上の利用可能性が非常に高い。