【実施例1】
【0024】
まず、本発明の実施例1に係る燃料噴射装置の構造について、
図1および
図2を参照して説明する。
【0025】
本実施例に係る燃料噴射装置は、
図1に示すように、燃料を貯える燃料タンク1と、燃料タンク1と第一燃料供給流路10を介して連結され燃料に含まれる異物を除去する燃料フィルタ2と、燃料フィルタ2と第二燃料供給流路11を介して連結され燃料タンク1から燃料を吸い上げて下流側へ圧送する燃料供給ポンプ3と、燃料供給ポンプ3と第三燃料供給流路12を介して連結され燃料供給ポンプ3から送られる高圧状態の燃料を蓄圧するコモンレール4と、コモンレール4と第四燃料供給流路13を介して連結され図示しないエンジン気筒内へ燃料を噴射する燃料噴射手段である複数(本実施例では四つ)のインジェクタ5とを備える。
【0026】
また、後述するインジェクタ5における燃料噴射等の動作機構によってリークする燃料(以下、リーク燃料と呼ぶ)を、燃料タンク1へ戻すためにリーク燃料戻し流路20を備え、更に、燃料タンク1を介さずにリーク燃料の一部を燃料フィルタ2へ直接送るためのリーク燃料還流流路21と、リーク燃料還流流路21を介してリーク燃料戻し流路20から燃料フィルタ2へ直接送るリーク燃料の流量を調節する還流バルブ22とを備える。
【0027】
リーク燃料は、図示しないエンジンの近傍を流れ、エンジンからの伝熱によって温められているので、燃料タンク1に貯えられた燃料よりも高温である。よって、燃料の低温時にリーク燃料還流流路21を介してリーク燃料を燃料フィルタ2へ直接送ることにより、燃料フィルタ2における燃料のワックス化を防止すると共にワックスを早期に溶融することができる。
【0028】
なお、リーク燃料には、燃料供給ポンプ3とリーク燃料戻し流路20とを連結する第二の燃料戻し流路(余剰燃料戻し流路)23を介して燃料供給ポンプ3から戻される燃料を含む。燃料供給ポンプ3から戻される燃料とは、燃料供給ポンプ3における図示しない動作機構により燃料が圧送される際にリークする(動作機構の潤滑等に利用される)燃料である。
【0029】
燃料タンク1で貯えられた燃料は、燃料供給ポンプ3によって吸い上げられる。吸い上げられた燃料は、第一燃料供給流路10を通り、燃料フィルタ2において異物を除去され、第二燃料供給流路11を通り、燃料供給ポンプ3において更に下流側へ圧送される。圧送された燃料は、第三燃料供給流路12を通り、コモンレール4において高圧状態で蓄圧された後、第四燃料供給流路13を通り、インジェクタ5に到達する。
【0030】
インジェクタ5は、
図2に示すように、一端(
図2における下端)に噴孔31を有する略円筒状のインジェクタ本体30と、インジェクタ本体30における噴孔31からの燃料の噴射を制御することができるようにインジェクタ本体30に把持されインジェクタ本体30の軸方向(
図2における上下方向)に摺動可能なノズル40と、インジェクタ本体30の軸方向においてノズル40と連結されると共にインジェクタ本体30に把持されインジェクタ本体30の軸方向に摺動可能なピストン41と、インジェクタ本体30におけるピストン41の近傍(
図2におけるピストン41の上方)に設けられたリーク孔32から燃料がリークするのを制御するための制御バルブ50と、制御バルブ50をインジェクタ本体30の軸方向に動作させるための電磁弁60とを有する。
【0031】
図示しない蓄電部から電磁弁60へ通電されていない場合には、
図2に示すように、制御バルブ50がリーク孔32を塞ぎ、リーク孔32とピストン41の間に設けられた第一制御室70に高圧状態の燃料が貯えられている。ピストン41およびノズル40は、第一制御室70における高圧状態の燃料によってインジェクタ本体30の一端側(
図2における下方側)へ押し下げられ、噴孔31はノズル40によって塞がれるので、インジェクタ5は燃料を噴射しない無噴射状態となる。
【0032】
一方、図示しない蓄電部から電磁弁60へ通電されると、制御バルブ50が作動してリーク孔32が開通されるので、第一制御室70における燃料は下流側へ戻される。噴孔31の近傍(
図2における噴孔31の上方)に設けられた第二制御室71における高圧状態の燃料によって、ピストン41およびノズル40はインジェクタ本体30の他端側(
図2における上方側)へ押し上げられるので、噴孔31が開通されて燃料が噴射され、インジェクタ5の燃料噴射動作がなされる。
【0033】
インジェクタ5の動作には、噴孔31から燃料を噴射させずに、リーク孔32から燃料をリークさせるだけの空打ち動作がある。この空打ち動作は、ノズル40が摺動して噴孔31が開通するに至る、つまりインジェクタ5における電磁弁60を開弁駆動してから電磁弁60の弁体が実際に開弁する開弁遅延時間よりも短い時間幅(空打ち駆動時間)で制御バルブ50を作動してリーク孔32を開通させることであり、図示しない蓄電部から電磁弁60への通電時間を短くすることによって行われる。従来では、コモンレール内における燃料が必要以上に高圧状態となった場合に、コモンレール内における燃料の圧力を下げることを目的として行われている(特許文献2参照)。
【0034】
本実施例に係る燃料噴射装置は、
図1に示すように、インジェクタ5および燃料供給ポンプ3等の動作を制御する制御手段としてエレクトロニック・コントロール・ユニット(以下、ECUと呼ぶ)6を備えると共に、燃料供給ポンプ3に流入される燃料の温度を計測する燃料温度検知器である温度センサ7、およびエンジン回転数を計測する回転数検知器である回転数センサ8を備える。
【0035】
ECU6は、温度センサ7によって計測される燃料温度、および回転数センサ8によって計測されるエンジン回転数を検知することができ、また、インジェクタ5における燃料噴射量からエンジントルクの算出するトルク検知器としての機能を有する。
【0036】
本実施例に係る燃料噴射装置は、温度センサ7によって計測された燃料温度が第一の所定温度を超えている場合には、通常運転動作を行い、第一の所定温度以下である場合には、ワックスの溶融およびワックス化の防止のための低温時運転動作を行う。
【0037】
低温時運転動作とは、ワックスを溶融させることを目的として、リーク燃料を増量させる制御を行うことである。本実施例に係る燃料噴射装置では、低温時運転動作として、ECU6において、インジェクタ5を空打ち動作させる空打ち制御(第一の制御)と、燃料供給ポンプ3の燃料圧送圧力を増大させる燃圧増大制御(第二の制御)と、空打ち制御および燃圧増大制御の両方の制御(第三の制御)を選択して行う。つまり、ECU6は、温度センサ7によって計測される燃料温度に応じて、インジェクタ5の空打ち制御および燃料供給ポンプ3の燃圧増大制御をそれぞれ個別に行うことが可能であり、どちらか一方または両方の制御を行うことが可能である。また、本実施例においては、更に、回転数センサ8によって計測されるエンジン回転数およびインジェクタ5における燃料噴射量から算出されるエンジントルクに応じて、空打ち制御、燃圧増大制御、空打ち制御と燃圧増大制御の両方の制御を選択して行う。
【0038】
本実施例においては、温度センサ7によって計測された燃料温度が第一の所定温度(例えば、5℃)以下かつエンジン回転数とトルクとの関係が
図3における第一の所定領域(A+B)にある場合には、ECU6はインジェクタ5に対して空打ち動作をするように制御する。ここで、第一の所定領域は、燃料噴射量が多くなる中回転中トルクから高回転高トルクの領域である。
【0039】
この低温時運転動作におけるインジェクタ5の空打ち制御によって、インジェクタ5の燃料噴射動作だけでなく、空打ち動作においても燃料がリークするので、積極的に燃料のリーク量を増量させることができる。
【0040】
図示しないエンジンからの伝熱によって温められたリーク燃料のリーク量を増量させることにより、ワックスを早期に溶融するだけのエネルギーを得ることができる。そして、インジェクタ5の空打ち動作によって増量させたリーク燃料を、燃料タンク1へ戻さずに、リーク燃料還流流路21を介して燃料フィルタ2へ直接送ることにより、燃料フィルタ2におけるワックスをより早期に溶融することができる。
【0041】
なお、温度センサ7によって計測された燃料温度が第一の所定温度よりも高い場合には、燃料は十分に温かくワックス化する虞がない。また、エンジン回転数とトルクとの関係が
図3における第一の所定領域(A+B)にない場合には、温度センサ7によって計測された燃料温度が第一の所定温度以下であったとしても、エンジンは高回転または高トルクの状態にあり、燃料フィルタ2におけるワックスを十分に早期に溶融することができるので、上記のような低温時運転動作を行う必要がない。
【0042】
また、燃料温度が第二の所定温度(例えば、−10℃)以下かつエンジン回転数とエンジントルクの関係が
図3における第二の所定領域Aにある場合には、ECU6は、インジェクタ5の空打ち制御と燃料供給ポンプ3の燃圧増大制御の両方の制御(第三の制御)を行う。ここで、第二の所定領域は、回転数センサ8によって計測されるエンジン回転数およびインジェクタ5における燃料噴射量から算出されるエンジントルクが、それぞれ第一の所定領域におけるエンジン回転数およびエンジントルクよりも低い状態であり、燃料噴射量が少なく燃焼音の悪化が目立たない低回転低トルクの領域である。
【0043】
本実施例においては、燃圧増大制御による燃料圧力の増加に伴い図示しないエンジンにおける燃焼音が増大するため、燃料供給ポンプ3の増圧を実施する領域を
図3における領域Aに限定している。燃焼音の増大を考慮しなくても良い環境、または燃焼音の増大を他の方法によって抑えることができる場合には、本実施例のような燃料供給ポンプ3の燃圧増大制御を実施する領域を限定しなくても良い。
【0044】
低温時運転動作において、インジェクタ5の空打ち制御と燃料供給ポンプ3の燃圧増大制御の両方の制御を行う場合には、空打ち制御によりインジェクタ5の燃料噴射動作だけでなく空打ち動作においても燃料がリークすると共に、燃圧増大制御によりインジェクタ5の一回の燃料噴射動作および一回の空打ち動作におけるリーク燃料のリーク量が増量する。つまり、インジェクタ5の空打ち制御および燃料供給ポンプ3の燃圧増大制御を同時に行うことにより、リーク燃料のリーク量を増量させる相乗的な効果を得ることができる。
【0045】
また、燃料供給ポンプ3による燃料圧力を増加させることにより、燃料の温度は上昇するので、より温度の高いリーク燃料を得ることができる。つまり、より温度の高いリーク燃料をリークさせると共にそのリーク量を増量させることにより、ワックスをより早期に溶融するだけのエネルギーを得ることができる。そして、リーク燃料を、燃料タンク1へ戻さずに、リーク燃料還流流路21を介してリーク燃料を燃料フィルタ2へ直接送ることにより、燃料フィルタ2におけるワックスを更に早期に溶融することができる。
【0046】
なお、温度センサ7によって計測された燃料温度が第二の所定温度よりも高い場合には、空打ち制御を行うだけでワックスを十分に早期に溶融することができる。また、エンジン回転数とトルクとの関係が
図3における第二の所定領域Aにない場合には、温度センサ7によって計測された燃料温度が第二の所定温度以下であったとしても、エンジンは中回転以上または中トルク以上の状態にあり、空打ち制御を行うだけでワックスを十分に早期に溶融することができるので、低温時運転動作において空打ち制御と燃圧増大制御の両方の制御を行う必要がない。
【0047】
もちろん、インジェクタ5の空打ち制御および燃料供給ポンプ3の燃圧増大制御は、共に燃料フィルタ2におけるワックスを早期に溶融する効果があるので、インジェクタ5の空打ち制御および燃料供給ポンプ3の燃圧増大制御を同時ではなく、個別に作動させても良い。例えば、燃料温度が第二の所定温度以下かつエンジン回転数とエンジントルクの関係が
図3における第二の所定領域Aにある場合に、燃料供給ポンプ3の燃圧増大制御だけを行うようにしても良い。
【0048】
次に、本発明の実施例1に係る燃料噴射装置の動作について、
図1乃至
図3を参照して説明する。
【0049】
図示しないエンジンを始動させると、ECU6において、温度センサ7によって計測された燃料供給ポンプ3に流入する燃料の温度が第一の所定温度(本実施例では5℃)以下かつエンジン回転数とトルクとの関係が
図3における第一の所定領域(A+B)にあるか否かについて判断される。
【0050】
燃料温度が第一の所定温度を超えていると判断された場合には、燃料供給ポンプ3に流入する燃料がワックス化されている可能性はなく、燃料フィルタ2においてワックスによる目詰まりが発生する虞がないので、燃料噴射装置は通常運転動作を行う。
【0051】
また、エンジン回転数とトルクとの関係が
図3における第一の所定領域(A+B)にないと判断された場合には、エンジンは高回転または高トルクの状態にあり、燃料フィルタ2におけるワックスを十分に早期に溶融することができるので、燃料噴射装置は通常運転動作を行う。
【0052】
一方、燃料温度が第一の所定温度以下かつエンジン回転数とトルクとの関係が
図3における第一の所定領域(A+B)にあると判断された場合には、燃料供給ポンプ3に流入する燃料がワックス化されている可能性があると共に、エンジンが高回転または高トルクの状態になく燃料フィルタ2におけるワックスを十分に早期に溶融することができない可能性があり、燃料フィルタ2においてワックスによる目詰まりが発生する虞があるので、燃料噴射装置は低温時運転動作を行う。
【0053】
つまり、ECU6において、インジェクタ5の空打ち制御が開始されると共に、燃料供給ポンプ3の燃圧増大制御の開始条件であるか否かについて判断される。本実施例では、温度センサ7によって計測された燃料供給ポンプ3に流入する燃料の温度が第二の所定温度(本実施例では−10℃)以下かつ燃料供給ポンプ3の燃圧増大制御の開始条件であるエンジン回転数とトルクの関係が第二の所定領域(
図3における領域A)にあるか否かについて判断される。
【0054】
燃料温度が第二の所定温度を超えていると判断された場合には、空打ち制御を行うだけでもワックスを十分に早期に溶融することができる状態であるので、インジェクタ5の空打ち制御だけが行われる。
【0055】
また、エンジン回転数とトルクの関係が
図3における第二の所定領域Aにないと判断された場合には、当該エンジンが少なくとも回転数またはトルクが高い状態にある、つまり、インジェクタ5の空打ち動作だけでも十分に早期にワックスを溶融することができる状態であるので、インジェクタ5の空打ち制御だけが行われる。
【0056】
一方、燃料温度が第二の所定温度以下かつエンジン回転数とトルクの関係が
図3における第二の所定領域Aにあると判断された場合には、当該エンジンが回転数かつトルクが低い状態にある、つまり、インジェクタ5の空打ち動作だけでは十分に早期にワックスを溶融することができない虞のある状態であるので、インジェクタ5の空打ち制御と共に燃料供給ポンプ3の燃圧増大制御が行われる。
【0057】
つまり、本実施例では、インジェクタ5の空打ち制御と共に燃料供給ポンプ3の燃圧増大制御が行われる開始条件として、燃料温度が第二の所定温度以下かつエンジン回転数とトルクの関係が
図3における第二の所定領域Aにあることとしたが、本発明はこれに限定されない。
【0058】
例えば、燃料供給ポンプ3の燃圧増大制御の開始条件を、エンジン回転数とトルクの関係を考慮せず、燃料供給ポンプ3に流入される燃料が前述した第一の所定温度(5℃)よりも低い第二の所定温度(例えば、−10℃)以下となる範囲に設定しても良い。つまり、
図4に示すように、温度センサ7によって計測される燃料供給ポンプ3に流入される燃料の温度が第二の所定温度(−10℃)以下である場合に、燃料供給ポンプ3の燃圧増大制御を実施するように制御し、燃料圧力が従来(
図4における二点鎖線)よりも高くなるようにする。
【0059】
また、燃料供給ポンプ3の燃圧増大制御の開始条件を、低温の燃料がワックス化し、実際に燃料フィルタ2に目詰まりが起こった場合に設定しても良い。つまり、燃料フィルタ2が目詰まりした際の圧力の変化を検知する負圧スイッチを燃料フィルタ2に設け、負圧スイッチの検出結果に基づいて燃料供給ポンプ3の燃圧増大制御を実施するように制御する。