特許第6094172号(P6094172)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6094172
(24)【登録日】2017年2月24日
(45)【発行日】2017年3月15日
(54)【発明の名称】電動機の制御装置、及び方法
(51)【国際特許分類】
   H02P 7/29 20160101AFI20170306BHJP
【FI】
   H02P7/29 G
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-259032(P2012-259032)
(22)【出願日】2012年11月27日
(65)【公開番号】特開2014-107946(P2014-107946A)
(43)【公開日】2014年6月9日
【審査請求日】2015年10月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】アイシン精機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089118
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 宏明
(72)【発明者】
【氏名】長田 耕一
【審査官】 マキロイ 寛済
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−062020(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/077227(WO,A1)
【文献】 特開2002−078378(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/000350(WO,A1)
【文献】 特開2012−34513(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 7/29
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブラシ付き回転電動機に通電している電流値を検出する電流値検出部と、
前記ブラシ付き回転電動機の移動量を検出する移動量検出部と、
前記ブラシ付き回転電動機の発熱に基づいてブラシの摩耗に影響を与える度合いを示した影響係数を取得する取得部と、
前記電流値と前記移動量と前記影響係数とに基づいて、前記ブラシ付き回転電動機に設けられたブラシの摩耗量を算出する摩耗量算出部と、
前記摩耗量算出部により算出された前記摩耗量が所定の閾値を超えた場合に、超えた旨を出力する出力部と、
前記出力部が出力を行う原因となった前記ブラシ付き回転電動機の使用を限定して、前記ブラシ付き回転電動機のブラシの摩耗量を低減させる制御を行う制御部と、
を備える電動機の制御装置。
【請求項2】
前記摩耗量算出部は、前記電流値と前記移動量と前記影響係数との乗算結果に基づいて、前記摩耗量を算出する、
請求項に記載の電動機の制御装置。
【請求項3】
前記取得部は、前記電流値を積算した電流積算値を算出する際に、前記ブラシ付き回転電動機に通電していない場合に、当該電流積算値に対して減算を行い、当該電流積算値に基づいた前記影響係数を取得する、
請求項又はに記載の電動機の制御装置。
【請求項4】
前記電流積算値と、当該電流積算値の場合に推定される前記ブラシ付き回転電動機の発熱による前記影響係数と、を対応付けて記憶する記憶部をさらに備え、
前記取得部は、前記電流積算値と、前記記憶部で対応付けられている前記影響係数を取得する、
請求項に記載の電動機の制御装置。
【請求項5】
ブラシ付き回転電動機に通電している電流値を検出する電流値検出ステップと、
前記ブラシ付き回転電動機の移動量を検出する移動量検出ステップと、
前記ブラシ付き回転電動機の発熱に基づいてブラシの摩耗に影響を与える度合いを示した影響係数を取得する取得ステップと、
前記電流値と前記移動量と前記影響係数とに基づいて、前記ブラシ付き回転電動機に設けられたブラシの摩耗量を算出する摩耗量算出ステップと、
前記摩耗量算出ステップにより算出された前記摩耗量が所定の閾値を超えた場合に、超えた旨を出力する出力ステップと、
前記出力ステップが出力を行う原因となった前記ブラシ付き回転電動機の使用を限定して、前記ブラシ付き回転電動機のブラシの摩耗量を低減させる制御を行う制御ステップと、
を含む電動機の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、電動機の制御装置、及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ブラシ付き回転電動機において、ブラシと整流子間は接触しているため、電動機で回転制御を行うとブラシに摩耗が生じる。このブラシの整流性能を維持するためには、ブラシの摩耗状態を確認し、ブラシが摩耗限界になった場合に、ブラシを交換する必要がある。
【0003】
ブラシの摩耗状態を確認するためには、ハウジングを外すのみならず、ブラシ保持具からブラシを取り出して視認する必要があった。視認するための作業は複雑であるため、通電量に基づいた摩耗量を推定する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−141513号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来技術では、通電している場合にモータが回転していることを前提としているが、通電時に回転しない制御態様も存在する。したがって、モータの通電量のみからブラシの摩耗量を推定するのは難しい。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態の電動機の制御装置は、電流値検出部と、移動量検出部と、取得部と、摩耗量算出部と、出力部と、制御部と、を備える。電流値検出部は、ブラシ付き回転電動機に通電している電流値を検出する。移動量検出部は、ブラシ付き回転電動機の移動量を検出する。取得部は、ブラシ付き回転電動機の発熱に基づいてブラシの摩耗に影響を与える度合いを示した影響係数を取得する。摩耗量算出部は、電流値と移動量とに基づいて、ブラシ付き回転電動機に設けられたブラシの摩耗量を算出する。出力部は、摩耗量算出部により算出された摩耗量が所定の閾値を超えた場合に、超えた旨を出力する。制御部は、出力部が出力を行う原因となったブラシ付き回転電動機の使用を限定して、ブラシ付き回転電動機のブラシの摩耗量を低減させる制御を行う。当該構成により一例として、ブラシ付き回転電動機の移動量を考慮して、ブラシの摩耗量を算出するため、ブラシの摩耗量の推定がより高精度になるという効果を奏する。
【0008】
実施形態の電動機の制御装置は、前記摩耗量算出部が、前記電流値と前記移動量と前記影響係数との乗算結果に基づいて、前記摩耗量を算出すると好適である。当該構成により一例として、移動量が検出されない場合に、ブラシの摩耗量が‘0’になるため、電動機の実態に応じたブラシの摩耗量を算出することになり、ブラシの摩耗量の推定がより高精度になるという効果を奏する。
【0009】
実施形態の電動機の制御装置は、前記取得部が、前記電流値を積算した電流積算値を算出する際に、前記ブラシ付き回転電動機に通電していない場合に、当該電流積算値に対して減算を行い、当該電流積算値に基づいた前記影響係数を取得すると好適である。当該構成により一例として、ブラシ付き回転電動機に通電しているか否かに応じて、電流の積算とを導出するため、ブラシの摩耗量の推定がより高精度になるという効果を奏する。
【0010】
実施形態の電動機の制御装置は、前記電流積算値と、当該電流積算値の場合に推定される前記ブラシ付き回転電動機の発熱による前記影響係数と、を対応付けて記憶する記憶部をさらに備え、前記取得部は、前記電流積算値と、前記記憶部で対応付けられている前記影響係数を取得すると好適である。当該構成により一例として、ブラシ付き回転電動機の電流積算値と影響係数との対応関係から、影響係数を導出するため、処理負担を軽減できるという効果を奏する。
【0013】
実施形態の電動機の制御装置は、ブラシ付き回転電動機に通電している電流値を検出する電流値検出ステップと、ブラシ付き回転電動機の移動量を検出する移動量検出ステップと、ブラシ付き回転電動機の発熱に基づいてブラシの摩耗に影響を与える度合いを示した影響係数を取得する取得ステップと、電流値と移動量と影響係数とに基づいて、ブラシ付き回転電動機に設けられたブラシの摩耗量を算出する摩耗量算出ステップと、摩耗量算出ステップにより算出された摩耗量が所定の閾値を超えた場合に、超えた旨を出力する出力ステップと、出力ステップが出力を行う原因となったブラシ付き回転電動機の使用を限定して、ブラシ付き回転電動機のブラシの摩耗量を低減させる制御を行う制御ステップと、を含む。当該構成により一例として、ブラシ付き回転電動機の移動量を考慮して、ブラシの摩耗量を算出するため、ブラシの摩耗量の推定がより高精度になるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、実施形態にかかる車両のモータ制御・監視装置の構成の例を示したブロック図である。
図2図2は、実施形態にかかる変換マップの概念を示した図である。
図3図3は、実施形態にかかる電流値取得部により算出される電流積算値を説明した図である。
図4図4は、実施形態にかかるモータ制御・監視装置における、全体的な処理の手順を示すフローチャートである。
図5図5は、実施形態にかかるモータ制御・監視装置におけるモータの発熱による影響係数の取得処理の手順を示すフローチャートである。
図6図6は、変形例1にかかるモータ制御・監視装置における、全体的な処理の手順を示すフローチャートである。
図7図7は、変形例2にかかるモータ制御・監視装置における、全体的な処理の手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の電動機の制御装置、及び方法を適用したモータ制御・監視装置の実施形態について説明する。本実施形態にかかるモータ制御・監視装置は、当該モータを駆動源とする自動車(電気自動車、燃料電池自動車等)に搭載しても良いが、搭載先を制限するものではなくモータを駆動させる他の装置(システム、部品等)に搭載しても良い。
【0016】
図1は、実施形態にかかる車両のモータ制御・監視装置100の構成の例を示したブロック図である。図1に示す様に、モータ制御・監視装置100には、メータ表示装置150と、バッテリ160と、が接続されている。バッテリ160は、モータ103に対して電力を供給する。
【0017】
モータ制御・監視装置100は、マイコン101と、モータドライバ102と、モータ103と、移動量検出器104と、電流検出器105とを備える。
【0018】
モータドライバ102は、マイコン101から入力されたパルス信号に従って、モータ103を回転させるためのICとする。
【0019】
モータ103は、バッテリ160で駆動するブラシ付き回転電動機とする。本実施形態は、交流電源又は直流電源で駆動するのかについて制限するものではない。本実施形態では、当該モータ103のハウジングを外した後のブラシ保持具内に設けられたブラシの摩耗度合いを検出する。
【0020】
移動量検出器104は、モータ103(ブラシ付き回転電動機)のストローク(移動)量を検出し、検出結果を示した信号を、A/D変換器116を介してマイコン101に出力する。
【0021】
電流検出器105は、モータ103(ブラシ付き回転電動機)に通電している電流を検出し、検出結果を示した信号を、A/D変換器116を介してマイコン101に出力する。
【0022】
マイコン101は、CPU111と、D/A変換器112と、変調器113と、RAM114と、ROM115と、A/D変換器116を備える。
【0023】
D/A変換器112は、CPU111から出力されたモータ103を制御するためのデジタル制御値を、当該モータ103を制御するためのアナログ波形の信号に変換する。CPU111から出力されたモータ103を制御するためのデジタル制御値を、当該モータ103を制御するためのアナログ波形の信号に変換する。
【0024】
変調器113は、D/A変換器112に変換されたアナログ波形の信号に対して、スレッショールドレベルを変換(例えばPWM変換)することで、モータ103を制御するためのパルス信号を出力する。
【0025】
A/D変換器116は、電流検出器105、及び移動量検出器104から出力されたアナログ波形の信号を、デジタル値に変換する。
【0026】
ROM115は、フラッシュROMなどの書き換え可能であり、且つ電源を切ってもデータが消えない不揮発性の記憶部とする。ROM115には、CPU111で実行されるプログラムの他に、電流の積算値から発熱量を求めるための変換マップを記憶している。RAM114は、CPU111が作業領域として用いる。
【0027】
EEPROM(Electrically Erasable Programmable Read-Only Memory)117は、電源を切ってもデータが消えないため、データを保持するために適した不揮発性の記憶部である。本実施形態にかかるEEPROM117は、摩耗パラメータの積算値を記憶する。
【0028】
摩耗パラメータは、モータ103に格納されているブラシの摩耗度合いとして算出されたパラメータとする。摩耗パラメータの積算値は、ブラシを交換してから摩耗パラメータを積算した値とする。
【0029】
変換マップは、モータ103に通電している電流の積算値から、当該モータ103で生じている発熱量を求めるために用いる変換テーブルとする。図2は、変換マップの概念を示した図である。図2に示す様に電流の積算値Iintと、積算値の場合にモータ103の発熱によりブラシの摩耗に影響を与える度合いを示した係数T(以下、影響係数Tとも称す)と、の対応関係を記憶している。
【0030】
つまり、後述する温度取得部123は、図2に示す変換マップを参照して、電流積算値から、モータ103の発熱による影響係数Tを求めることができる。
【0031】
図1に戻り、CPU111は、ROM115に格納されていたソフトウェアを読み込むことで、電流値取得部121と、移動量取得部122と、温度取得部123と、摩耗量算出部124と、判定部125と、制御部126とを実現する。
【0032】
電流値取得部121は、電流検出器105から入力された信号から、モータ103(ブラシ付き回転電動機)に通電している電流値Imotを取得する。
【0033】
さらに、電流値取得部121は、取得した電流値Imotに基づいて、モータ103が始動してから流れた電流値Imotを積算した電流積算値Iintを算出する。本実施形態にかかる電流値取得部121は、電流積算値Iintを算出する際、モータ103に通電している場合に当該電流値Imotを積算していき、モータ103に通電していない場合に、電流積算値に対して所定値Isubで減算する。なお、所定値Isubは、モータ仕様・特性により異なる値となる。このため、所定値Isubは、発熱後、通電しないときのモータの温度低下と、積算値の低下との相関が取れるように、実測等に基づいて設定する。
【0034】
図3は、本実施形態にかかる電流値取得部121により算出される電流積算値Iintを説明した図である。図3に示す例では、期間301がモータ103に通電する電流値Imotが小さい期間とし、期間302がモータ103に通電していない期間とし、期間303がモータ103に通電する電流値Imotが大きい期間とする。このように、モータ103に通電していない期間302では、電流値取得部121は、電流積算値Iintから、所定値Isubを減算していくこととする。
【0035】
図1に戻り、移動量取得部122は、移動量検出器104から入力された信号から、モータ103(ブラシ付き回転電動機)のストローク(移動)量ΔDを取得する。
【0036】
温度取得部123は、モータ103の発熱による影響係数Tを取得する。本実施形態にかかる温度取得部123は、電流値取得部121が取得した電流積算値Iintに、図2に示した変換マップで対応付けられている、モータ103の発熱による影響係数Tを取得する。本実施形態では、電流積算値Iintに基づいて発熱による影響係数Tを推定する例について説明するが、他の態様でも良く、モータ103で実測された温度に基づいて発熱による影響係数Tを算出しても良い。
【0037】
摩耗量算出部124は、電流値取得部121で取得された電流値Imotと、移動量取得部122で取得された移動量ΔDと、温度取得部123で取得された発熱による影響係数Tと、に基づいて、モータ103内のブラシの摩耗量(以下、ブラシの摩耗量を示したパラメータを摩耗パラメータと称する)を算出する。本実施形態では、電流の絶対値|Imot|と、移動量ΔDと、発熱による影響係数Tとによる乗算結果に基づいて、摩耗パラメータを算出するが、他の手法で算出しても良い。
【0038】
さらに、判定部125は、算出された摩耗パラメータの積算値が、予め定められた摩耗量の閾値を超えたか否かを判定する。超えたと判定した場合に限り、その旨の通知をメータ表示装置150に出力する。
【0039】
メータ表示装置150は、ブザー151と、ランプ152とを備え、判定部125から摩耗の積算値が閾値を超えた場合の通知を受け取った場合に、ブザー151による警告音の出力と、ランプ152による摩耗した旨を示したランプ152の点灯とを行う。
【0040】
制御部126は、判定部125から摩耗の積算値が閾値を超えた場合に、モータ103内のブラシが摩耗しないように、D/A変換器112を介してモータを制御する。
【0041】
次に、本実施形態にかかるモータ制御・監視装置100における、全体的な処理について説明する。図4は、本実施形態にかかるモータ制御・監視装置100における上述した処理の手順を示すフローチャートである。
【0042】
まず、電流値取得部121が、電流検出器105からの信号により電流値Imotを算出する(ステップS401)。
【0043】
次に、移動量取得部122が、移動量検出器104からの信号により、モータ103の移動(ストローク)量ΔDを算出する(ステップS402)。
【0044】
その後、温度取得部123が、電流値Imotに基づいて推定したモータ103の発熱によるブラシの摩耗への影響係数Tを取得する(ステップS403)。なお、具体的な取得手法については後述する。
【0045】
その後、摩耗量算出部124が、電流値Imotの絶対値と、モータ103の移動(ストローク)量ΔDと、モータ103の発熱による影響係数Tとの積から、摩耗パラメータWを算出する(ステップS404)。具体的には以下に示す式(1)により算出される。
【0046】
W=|Imot|*ΔD*T…(1)
【0047】
式(1)に示されるように、|Imot|*ΔDとの積をとることで、通電するが回転していない場合には、|Imot|*ΔD=0となるため、摩耗パラメータWも‘0’となる。一方、高速でモータ103が駆動する場合には、摩耗パラメータWの増加量が大きくなる。このように、本実施形態では、電流、回転量に応じた摩耗パラメータWの算出が可能となる。
【0048】
そして、摩耗量算出部124は、算出された摩耗パラメータWを、摩耗パラメータ積算値Wintに加算し、摩耗パラメータ積算値Wintを積算する(ステップS405)。具体的には以下に示す式(2)により算出される。
【0049】
Wint=Wint+W…(2)
【0050】
摩耗パラメータ積算値Wintは、モータ103のブラシを交換してから蓄積された摩耗パラメータの積算値とする。摩耗パラメータ積算値Wintは、車両システムの電源がオフになったか否かに拘わらず、不揮発性メモリであるEEPROM117に保持される。そして、モータ103が再始動した時には、摩耗量算出部124は、前回電源がオフになった時に保持された摩耗パラメータ積算値Wintに対して、積算を行う。
【0051】
次に判定部125が、摩耗パラメータ積算値Wintが、ブラシの交換を促すための閾値(摩耗閾値)Whtrより小さいか否かを判定する(ステップS406)。小さいと判定した場合(ステップS406:Yes)、そのまま処理を終了する。なお、摩耗閾値Whtrは、実際の態様に応じて適切な値が設定されるものとする。
【0052】
一方、判定部125が、摩耗パラメータ積算値Wintが、摩耗閾値Whtrより小さくない、換言すれば閾値以上と判定した場合(ステップS406:No)、メータ表示装置150が備えるブザー151、ランプ152等の警告手段により、車両を運転している運転手を含む利用者に対して警告を行い、交換等の措置を促す(ステップS407)。
【0053】
その後、制御部126が、警告を発生させる原因となったモータ103の使用を限定して、モータ103のブラシの摩耗を低減させる制御を行う(ステップS408)。この制御としては、例えば、通常時より低電流で動作させる、又はオプション機能を動作させず最低限度の動作とする等がある。
【0054】
上述した処理を、予め定められた周期毎(例えば2ms毎)に行うことで、常に車両などのシステムで使用されるモータ内のブラシの摩耗状況を監視できる。
【0055】
次に、本実施形態にかかるモータ制御・監視装置100における、図4のステップS403のモータ103の発熱による影響係数Tの取得処理について説明する。図5は、本実施形態にかかるモータ制御・監視装置100における上述した処理の手順を示すフローチャートである。
【0056】
次に、電流値取得部121は、モータ103に通電しているか否か、換言すれば電流値Imot>0Aであるか否かを判定する(ステップS501)。なお、0Aであるか否かの判定においては、電流検出器105の精度、モータ103の特性等に基づく許容誤差を予め設定しておく。
【0057】
そして、電流値取得部121が、通電している(電流値|Imot|>0A)と判定した場合(ステップS501:Yes)、電流積算値Iintに電流値Imotを2乗した値を加算し、積算値を更新する(ステップS502)。具体的には以下に示す式(3)により算出される。
【0058】
Iint=Iint+Imot^2…(3)
【0059】
ところで、モータを抵抗体とした場合に、発熱量は電力P(=電流I*電圧V=電流I^2*抵抗R)に比例する。モータの抵抗を固定値とすると、発熱量は電流の2乗に比例する。このため、式(3)では、電流値Imotの2乗を、電流積算値Iintに加算することとした。
【0060】
一方、電流値取得部121が、通電していない(電流値|Imot|=0A)と判定した場合(ステップS501:No)、電流積算値Iintから、所定値Isubを減算し、積算値を更新する(ステップS503)。具体的には以下に示す式(4)により算出される。なお、電流積算値Iintの下限値は‘0’として、負の値にならないようにする。
【0061】
Iint=Iint−Isub…(4)
【0062】
このように、本実施形態では、図3に示す様な、連続通電時に通電電流の大きさに応じて増加し、通電していない時にモータ仕様・特性に応じて減少する電流積算値Iintを取得できる。
【0063】
ステップS502、S503の後、温度取得部123が、図2に示した変換マップを参照し、電流積算値Iintに対応する、モータ103の発熱による影響係数Tを取得する(ステップS504)。
【0064】
上述した処理を、定周期で繰り返すことで、常時、モータ103の発熱による影響係数Tを導出するための電流積算値Iintの算出を実行できる。例えば、定周期としては、例えば500μsなど、モータ電流制御のFB周期と同周期が好ましい。
【0065】
従来から用いられているモータ(ブラシ付き回転電動機)では、回転に応じてブラシが摩耗していた。このため、摩耗具合を確認したいという要望があった。ブラシの摩耗は通電により回転し、ブラシと整流子が接触する際に生じるのが主である。しかしながら、押しつける制御や、メカの反力と等しいトルクを生じさせる制御など、通電するが回転しない利用方法もある。この場合、通電しているが、ほとんど摩耗は生じない。このため、従来技術で提案されている、通電量に基づくブラシの摩耗パラメータの算出手法では、実際の摩耗量との間にずれが生じていた。
【0066】
さらに、摩耗を促進させる要因としては、連続通電によるモータの発熱がある。従来は、連続通電によるモータ発熱に基づく摩耗促進は考慮されていなかった。
【0067】
そこで、本実施形態では、モータ発熱に基づく摩耗促進を考慮することとした。本実施形態にかかるモータ制御・監視装置100では、モータ103の通電電流だけではなく、モータ103の回転量(移動量)と、モータ103の発熱量と、に基づいて、モータ103のブラシの摩耗量を推定することとした。これにより、モータ103に通電されるが回転しない利用態様や、通電の際の発熱も考慮しているため、より高精度なブラシの摩耗量の推定が可能となる。これによりモータ103のブラシの効率的な交換や検査等を実現できる。
【0068】
また、本実施形態にかかるモータ制御・監視装置100では、ブラシが完全に摩耗する前にメータ表示装置150のランプ152及びブザー151のうちいずれか一つ以上で警告することで、ブラシが完全に摩耗して制御不能になるのを抑止することができる。
【0069】
さらには、警告後には、モータブラシに付加が少ない制御に移行させることとした。これにより、摩耗進行の低減を図ることができる。これにより、摩耗進行の低減を実現することで、ブラシの交換等が行われるまで、継続動作時間を伸ばすことができる。
【0070】
(変形例1)
上述した実施形態においては、モータ103の移動(ストローク)量と、モータ103の発熱量と、を考慮して、モータ103の摩耗状態を導出する例について説明した。しかしながら、上述した実施形態は、モータ103の移動(ストローク)量と、モータ103の発熱量と、を組み合わせて、モータ103の摩耗状態を導き出すことに制限するものではない。そこで、変形例1では、モータ103の移動(ストローク)量から、モータ103の摩耗状態を導き出す例について説明する。なお、本変形例は、実施形態と同様の構成で実現可能として、構成の説明を省略する。
【0071】
次に、本変形例にかかるモータ制御・監視装置100における、全体的な処理について説明する。図6は、変形例1にかかるモータ制御・監視装置100における上述した処理の手順を示すフローチャートである。
【0072】
まず、電流値取得部121が、電流検出器105からの信号により電流値Imotを算出する(ステップS601)。
【0073】
次に、移動量取得部122が、移動量検出器104からの信号により、モータ103の移動(ストローク)量ΔDを算出する(ステップS602)。
【0074】
その後、摩耗量算出部124が、電流値Imotの絶対値と、モータ103の移動(ストローク)量ΔDとの積から、摩耗パラメータWを算出する(ステップS603)。具体的には以下に示す式(5)により算出される。
【0075】
W=|Imot|*ΔD…(5)
【0076】
そして、摩耗量算出部124は、算出された摩耗パラメータWを、摩耗パラメータ積算値Wintに加算し、摩耗パラメータ積算値Wintを更新する(ステップS604)。この式は、上述した実施形態で示した式(2)となる。
【0077】
次に判定部125が、摩耗パラメータ積算値Wintが、ブラシの交換を促すための閾値(摩耗閾値)Whtr1より小さいか否かを判定する(ステップS605)。小さいと判定した場合(ステップS605:Yes)、そのまま処理を終了する。なお、摩耗閾値Whtr1は、実際の態様に応じて適切な値が設定されるものとする。
【0078】
一方、判定部125が、摩耗パラメータ積算値Wintが、摩耗閾値Whtr1以上と判定した場合(ステップS605:No)、メータ表示装置150が備えるブザー151、ランプ152等の警告手段により、車両を運転している運転手を含む利用者に対して警告を行い、交換等の措置を促す(ステップS606)。
【0079】
その後、制御部126が、警告を発生させる原因となったモータ103の使用を限定して、モータ103のブラシの摩耗を低減させる制御を行う(ステップS607)。
【0080】
本変形例では、上述した処理により、モータ103の移動(ストローク)量に応じた摩耗状態の検出を実現できる。
【0081】
(変形例2)
変形例2では、モータ103の発熱から、モータ103の摩耗状態を導き出す例について説明する。なお、本変形例は、実施形態と同様の構成で実現可能として、構成の説明を省略する。
【0082】
次に、本変形例にかかるモータ制御・監視装置100における、全体的な処理について説明する。図7は、変形例2にかかるモータ制御・監視装置100における上述した処理の手順を示すフローチャートである。
【0083】
まず、電流値取得部121が、電流検出器105からの信号により電流値Imotを算出する(ステップS701)。
【0084】
その後、温度取得部123が、電流値Imotに基づいて推定したモータ103の発熱による影響係数Tを取得する(ステップS702)。なお、影響係数Tの具体的な取得手法は、実施形態と同様として説明を省略する。
【0085】
その後、摩耗量算出部124が、電流値Imotの絶対値と、発熱の影響係数Tとの積から、摩耗パラメータWを算出する(ステップS703)。具体的には以下に示す式(6)により算出される。
【0086】
W=|Imot|*T…(6)
【0087】
そして、摩耗量算出部124は、算出された摩耗パラメータWを、摩耗パラメータ積算値Wintに加算し、摩耗パラメータ積算値Wintを更新する(ステップS704)。
【0088】
次に判定部125が、摩耗パラメータ積算値Wintが、ブラシの交換を促すための閾値(摩耗閾値)Whtr2より小さいか否かを判定する(ステップS705)。小さいと判定した場合(ステップS705:Yes)、そのまま処理を終了する。なお、摩耗閾値Whtr2は、実際の態様に応じて適切な値が設定されるものとする。
【0089】
一方、判定部125が、摩耗パラメータ積算値Wintが、摩耗閾値Whtr2以上と判定した場合(ステップS705:No)、メータ表示装置150が備えるブザー151、ランプ152等の警告手段により、車両を運転している運転手を含む利用者に対して警告を行い、交換等の措置を促す(ステップS706)。
【0090】
その後、制御部126が、警告を発生させる原因となったモータ103の使用を限定して、モータ103のブラシの摩耗を低減させる制御を行う(ステップS707)。
【0091】
本変形例では、上述した処理により、モータ103の発熱量に応じた摩耗状態の検出を実現できる。
【0092】
上述した実施形態にかかるモータ制御・監視装置100は、クラッチやステアリング等に利用することが考えられるが、利用先を制限するものではなく、ブラシ付き回転電動機を有する構成であれば良い。
【0093】
本発明の実施形態を説明したが、この実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。この新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。この実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0094】
100…モータ制御・監視装置、101…マイコン、102…モータドライバ、103…モータ、104…移動量検出器、105…電流検出器、111…CPU、112…D/A変換器、113…変調器、114…RAM、115…ROM、116…A/D変換器、117…EEPROM、121…電流値取得部、122…移動量取得部、123…温度取得部、124…摩耗量算出部、125…判定部、126…制御部、150…メータ表示装置、151…ブザー、152…ランプ、160…バッテリ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7