特許第6094325号(P6094325)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6094325
(24)【登録日】2017年2月24日
(45)【発行日】2017年3月15日
(54)【発明の名称】車両用駆動装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 37/02 20060101AFI20170306BHJP
   F16H 3/62 20060101ALI20170306BHJP
   F16H 9/26 20060101ALI20170306BHJP
【FI】
   F16H37/02 Q
   F16H3/62 A
   F16H9/26
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-72118(P2013-72118)
(22)【出願日】2013年3月29日
(65)【公開番号】特開2014-196772(P2014-196772A)
(43)【公開日】2014年10月16日
【審査請求日】2015年9月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000100768
【氏名又は名称】アイシン・エィ・ダブリュ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100082337
【弁理士】
【氏名又は名称】近島 一夫
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼見 重樹
【審査官】 藤村 聖子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−048213(JP,A)
【文献】 特開2010−190286(JP,A)
【文献】 特開平04−285354(JP,A)
【文献】 特開2012−030706(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 19/00−37/16
F16H 3/00− 3/78
F16H 9/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プライマリプーリ及びセカンダリプーリとそれらプーリに巻き掛けられたベルトとを有し、入力軸に入力された回転を無段変速して出力軸に出力し得る第1伝達経路を形成する無段変速機構と、
第1軸上にある前記入力軸上に配置され、前記無段変速機構と並列的に前記入力軸から前記出力軸までの第2伝達経路を形成し、かつ前進段と後進段とを達成し得ると共に、前記入力軸に入力された回転を前記前進段又は前記後進段により変速して前記出力軸に出力し得るプラネタリギヤセットと、
前記第1軸と平行な第2軸上に配置され、前記プラネタリギヤセットの出力回転要素に駆動連結された第1出力ギヤに噛合し、該プラネタリギヤセットからの回転を反転減速して前記第1軸と平行な第3軸である前記出力軸に出力するカウンタシャフトと、を備えた、
ことを特徴とする車両用駆動装置。
【請求項2】
前記プライマリプーリは、前記プラネタリギヤセットと共に前記第1軸上にある前記入力軸上に配置されてなり、
前記セカンダリプーリは、前記第1軸と平行な第4軸上に配置されてなり、
前記第4軸上にあって、前記セカンダリプーリと前記カウンタシャフトとの回転伝達を接続自在なクラッチを備えた、
ことを特徴とする請求項に記載の車両用駆動装置。
【請求項3】
前記第4軸上にあって前記クラッチの出力側部材に駆動連結され、前記カウンタシャフトに噛合する第2出力ギヤを備えた、
ことを特徴とする請求項に記載の車両用駆動装置。
【請求項4】
前記無段変速機構は、前記プラネタリギヤセットの前進段よりも変速比が小さい範囲の変速比幅に設定されてなり、
前記第1軸と平行な第5軸上に配置され、前記無段変速機構と少なくとも一部が径方向視で軸方向に重なる位置に回転電機を備えた、
ことを特徴とする請求項ないしのいずれかに記載の車両用駆動装置。
【請求項5】
前記第5軸上にあって前記回転電機のロータに駆動連結され、前記カウンタシャフトに噛合する第3出力ギヤを備えた、
ことを特徴とする請求項に記載の車両用駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両等に搭載される車両用駆動装置に係り、特に入力軸から無段変速機構を介して出力軸までの第1伝達経路と、該無段変速機構と並列的な入力軸から出力軸までの第2伝達経路とを形成する車両用駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ベルト式無段変速機構を有する自動変速機等の車両用駆動装置が種々提案されている。一般的には、ベルト式無段変速機構を搭載する自動変速機は、入力軸の回転(エンジンの回転)を、前後進切換え装置により正転・逆転回転を切換えた後、ベルト式無段変速装置により無段変速して、前進走行又は後進走行としての回転を出力し得るように構成されている。
【0003】
しかしながら、前後進切換え装置で逆転回転した後進走行としての回転を無段変速する場合、無段変速機構の変速比が大きい場合には前後進切換え装置で大きなトルクを受けることになり、また、無段変速機構の変速比が小さい場合には前後進切換え装置の回転が高回転となるため、前後進切換え装置のトルク容量の増大や高回転化への対応が求められる。
【0004】
そこで、前進走行では無段変速機構を用いた第1伝達経路で回転伝達し、かつ後進走行では無段変速機構と並列的な第2の伝達経路、つまり無段変速機構を通らない第2の伝達経路で回転伝達することで、前後進切換え装置の小型化や低コスト化を図ったものが提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−51213号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1のものは、前進走行において無段変速機構の変速比が大きい場合に、大きなトルクを伝達する必要があって、無段変速機構のベルト挟持圧を高くする必要があり、オイルポンプの負荷が大きくなって、車両用駆動装置としての伝達効率が低下するという問題がある。
【0007】
また、上記特許文献1のものは、上述したように前進走行において無段変速機構の変速比が大きい場合に、大きなトルクを伝達する必要があるので、ベルト強度を高くする必要もあり、かつプライマリプーリ及びセカンダリプーリにおけるシーブの軸支持構造の強度も高くする必要があり、つまり無段変速機構の小型化や低コスト化の妨げとなっているという問題もある。
【0008】
さらに、上記特許文献1のものは、後進段を形成するために後進段専用のカウンタシャフトを設けると共に、無段変速機構からの前進回転が車輪に正転回転として伝達されるように、入力軸とプライマリプーリとの軸を2軸上に分けて配置しており、つまり自動変速機として5つの軸を必要としている(例えばハイブリッド化するためにモータ軸を設けるとすると、6つの軸が必要となる)。そのため、軸の数が多くなり、軸受による摩擦損失等を考慮すると、車両用駆動装置としての伝達効率が低下するという問題がある。
【0009】
そこで本発明は、伝達効率の向上を図ると共に、無段変速機構の小型化や低コスト化を図ることが可能な車両用駆動装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る車両用駆動装置(1)は(例えば図1乃至図4参照)、プライマリプーリ(21)及びセカンダリプーリ(22)とそれらプーリに巻き掛けられたベルト(23)とを有し、入力軸(10)に入力された回転を無段変速して出力軸(62r,62l)に出力し得る第1伝達経路(CO1)を形成する無段変速機構(20)と、
第1軸(AX1)上にある前記入力軸(10)上に配置され、前記無段変速機構(20)と並列的に前記入力軸(10)から前記出力軸(62r,62l)までの第2伝達経路(CO2)を形成し、かつ前進段(1st)と後進段(Rev)とを達成し得ると共に、前記入力軸(10)に入力された回転を前記前進段又は前記後進段により変速して前記出力軸(62r,62l)に出力し得るプラネタリギヤセット(PS)と、
前記第1軸(AX1)と平行な第2軸(AX2)上に配置され、前記プラネタリギヤセット(PS)の出力回転要素(R)に駆動連結された第1出力ギヤ(31)に噛合し、該プラネタリギヤセット(PS)からの回転を反転減速して前記第1軸(AX1)と平行な第3軸(AX3)である前記出力軸(62r,62l)に出力するカウンタシャフト(40)と、を備えたことを特徴とする。
【0012】
さらに、本発明に係る車両用駆動装置(1)は(例えば図1乃至図4参照)、前記プライマリプーリ(21)は、前記プラネタリギヤセット(PS)と共に前記第1軸(AX1)上にある前記入力軸(10)上に配置されてなり、
前記セカンダリプーリ(22)は、前記第1軸(AX1)と平行な第4軸(AX4)上に配置されてなり、
前記第4軸(AX4)上にあって、前記セカンダリプーリ(22)と前記カウンタシャフト(40)との回転伝達を接続自在なクラッチ(C−1)を備えたことを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係る車両用駆動装置(1)は(例えば図1乃至図4参照)、前記第4軸(AX4)上にあって前記クラッチ(C−1)の出力側部材(26)に駆動連結され、前記カウンタシャフト(40)に噛合する第2出力ギヤ(27)を備えたことを特徴とする。
【0014】
さらに、本発明に係る車両用駆動装置(1)は(例えば図1乃至図4参照)、前記無段変速機構(20)は、前記プラネタリギヤセット(PS)の前進段(1st)よりも変速比が小さい範囲の変速比幅(Va)に設定されてなり、
前記第1軸(AX1)と平行な第5軸(AX5)上に配置され、前記無段変速機構(20)と少なくとも一部が径方向視で軸方向に重なる位置に回転電機(50)を備えたことを特徴とする。
【0015】
そして、本発明に係る車両用駆動装置(1)は(例えば図1乃至図4参照)、前記第5軸(AX5)上にあって前記回転電機(50)のロータ(52)に駆動連結され、前記カウンタシャフト(40)に噛合する第3出力ギヤ(54)を備えたことを特徴とする。
【0016】
なお、上記カッコ内の符号は、図面と対照するためのものであるが、これは、発明の理解を容易にするための便宜的なものであり、特許請求の範囲の構成に何等影響を及ぼすものではない。
【発明の効果】
【0017】
請求項1に係る本発明によると、無段変速機構と並列的に入力軸から出力軸までの第2伝達経路を形成し、かつ前進段と後進段とを達成し得ると共に、入力軸に入力された回転を前進段又は後進段により変速して出力軸に出力し得るプラネタリギヤセットを備えているので、無段変速機構を用いずに前進段を達成することができ、特に前進段の変速比を大きくすることで、無段変速機構において大きなトルクを伝達することを不要とすることができ、高いベルトの挟持圧も不要となってオイルポンプの負荷を低減することができ、車両用駆動装置としての伝達効率を向上することができる。
【0018】
また、特に前進段の変速比を大きくすることで、無段変速機構における変速比幅を変速比の小さい範囲に設定することが可能となって、無段変速機構において大きなトルクを伝達することを不要とすることができるので、ベルトの負荷や、プライマリプーリ及びセカンダリプーリにおけるシーブの軸支持構造の負荷を低減することができ、無段変速機構の小型化や低コスト化を図ることができる。
【0019】
さらに、プラネタリギヤセットにより前進段又は後進段を達成して出力軸に出力し得るので、後進段専用のカウンタシャフト等を設けることを不要とすることができ、軸の数を減らすことができて、軸受における摩擦損失等を低減でき、車両用駆動装置としての伝達効率を向上することができる。
【0020】
さらに、第1軸と平行な第2軸上に配置され、プラネタリギヤセットの出力回転要素に駆動連結された第1出力ギヤに噛合し、該プラネタリギヤセットからの回転を反転減速して第1軸と平行な第3軸である出力軸に出力するカウンタシャフトを備えているので、プラネタリギヤセットの出力回転要素の回転が正転回転(前進段)の場合は、カウンタシャフトで逆転回転し、出力軸で再逆転回転して、つまり正転回転としての前進回転を出力することができる。また、プラネタリギヤセットの出力回転要素の回転が逆転回転(後進段)の場合は、カウンタシャフトで逆転回転し、出力軸で再逆転回転して、つまり逆転回転としての後進回転を出力することができる。
【0021】
請求項に係る本発明によると、第1軸に、入力軸、プラネタリギヤセット、プライマリプーリを配置し、第2軸に、カウンタシャフトを配置し、第3軸に、出力軸を配置し、第4軸に、セカンダリプーリを配置するので、一般的なベルト式の無段変速機構を搭載した自動変速機と同様に、4つの軸で車両用駆動装置を構成することができる。また、第4軸に、セカンダリプーリとカウンタシャフトとの回転伝達を接続自在なクラッチを備えているので、無段変速機構を使用しないプラネタリギヤセットによる前進段又は後進段の走行時に、第1伝達経路にある無段変速機構を切離すことができ、反対に無段変速機構を使用する無段変速の走行時に第1伝達経路にある無段変速機構を接続状態にすることができる。
【0022】
請求項に係る本発明によると、第4軸上にあってクラッチの出力側部材に駆動連結され、カウンタシャフトに噛合する第2出力ギヤを備えているので、つまりセカンダリプーリの出力をプラネタリギヤセットの出力と同じカウンタシャフトに伝達することができ、軸の数を低減することができて、車両用駆動装置のコンパクト化を図ることができる。
【0023】
請求項に係る本発明によると、無段変速機構が、プラネタリギヤセットの前進段よりも変速比が小さい範囲の変速比幅に設定されているので、無段変速機構のプライマリプーリ及びセカンダリプーリを小径化することができる。これにより、例えばカウンタシャフトをセカンダリプーリとディファレンシャル装置との間に挟んで配置することを可能とすることができる。それによって、第1軸と平行な第5軸上にあって、無段変速機構と少なくとも一部が径方向視で軸方向に重なる位置に回転電機を配置しても、コンパクトな車両用駆動装置を構成することができる。
【0024】
請求項に係る本発明によると、第5軸上にあって回転電機のロータに駆動連結され、カウンタシャフトに噛合する第3出力ギヤを備えているので、つまり回転電機の出力を、例えばセカンダリプーリの出力やプラネタリギヤセットの出力と同じカウンタシャフトに伝達することができ、軸の数を低減することができて、車両用駆動装置のコンパクト化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明に係る車両用駆動装置を示すスケルトン図。
図2】本車両用駆動装置の概略側面図。
図3】本車両用駆動装置の係合表。
図4】本車両用駆動装置の速度線図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明に係る実施の形態を図1乃至図4に沿って説明する。
【0027】
まず、本実施の形態に係る車両用駆動装置1の概略構造について、図1及び図2に沿って説明する。車両用駆動装置1は、いわゆるベルト式無段変速機としての自動変速機に、モータ・ジェネレータ50(回転電機)(以下、単に「モータ」という)を組合せたハイブリッド駆動装置としての車両用駆動装置1を構成したものである。従って、モータ50(第5軸)を取外せば、例えば不図示のエンジンの回転を変速する自動変速機を行使することになる。
【0028】
車両用駆動装置1は、図1に示すように、不図示のエンジンに、例えばロックアップクラッチ付のトルクコンバータ等の流体伝動装置、或いは発進クラッチなどの発進装置を介して接続される入力軸10を第1軸AX1上に備えており、その第1軸AX1上に、プラネタリギヤセットPSと、ベルト式の無段変速機構20(以下、「CVT20」という)のプライマリプーリ21とが配置されている。
【0029】
また、図1及び図2に示すように、第1軸AX1と平行な第2軸AX2上には、詳しくは後述するプラネタリギヤセットPSの第1出力ギヤ31に噛合するカウンタシャフト40が配置されており、第1軸AX1及び第2軸AX2と平行な第3軸AX3上に、カウンタシャフト40に噛合するディファレンシャル装置60が配置されており、該ディファレンシャル装置60の略々中心から第3軸AX3上に不図示の車輪に駆動連結された出力軸(アスクルシャフト)62r,62lが配置されている。
【0030】
さらに、図1及び図2に示すように、第1軸AX1乃至第3軸AX3と平行な第4軸AX4上には、CVT20のセカンダリプーリ22が配置されていると共に、該セカンダリプーリ22と上記カウンタシャフト40との回転伝達を接続自在なクラッチC−1が配置されている。そして、図1及び図2に示すように、第1軸AX1乃至第4軸AX3と平行な第5軸AX5上には、CVT20と少なくとも一部が径方向視で軸方向に重なる位置にモータ50が配置されている。
【0031】
以上説明した第1軸乃至第5軸AX1〜AX5は、図2に示すように、第1軸AX1から水平方向へ順に、第2軸AX2、第5軸AX5が略々直線状に配置され、また、第4軸AX4から垂直方向に順に、第2軸AX2、第3軸AX3が略々直線状に配置され、つまり第2軸AX2を中心として、側面視で十字状に5つの軸が配置されている。そして、第2軸AX2状にあるカウンタシャフト40の大径ギヤ42は、第1軸AX1上にあるプラネタリギヤセットPSの第1出力ギヤ31、第4軸AX4上にある第2出力ギヤ27、第5軸AX5上にある第3出力ギヤ54、の全てに噛合していると共に、第2軸AX2上にあるカウンタシャフト40の小径ギヤ43は、第3軸AX3上にあるディファレンシャル装置60のデフリングギヤ61に噛合している。
【0032】
続いて、車両用駆動装置1の詳細構成について図1に沿って説明する。上記第1軸AX1上にある入力軸10の軸方向入力側の外周側には、プラネタリギヤセットPSが配置されている。プラネタリギヤセットPSは、入力軸10に一体的に固定された第1サンギヤS1と、第2ブレーキB−2によってケース11に対して回転が固定(係止)自在な第2サンギヤS2と、互いに噛合するロングピニオンLP及びショートピニオンSPを回転自在に支持すると共に第1ブレーキB−1によってケース11に対して回転が固定(係止)自在なキャリヤCRと、上記第1出力ギヤ31に駆動連結されたリングギヤR(出力回転要素)と、を備えており、ロングピニオンLPが第1サンギヤS1及びリングギヤRに噛合すると共に、ショートピニオンSPが第2サンギヤS2に噛合する、いわゆるラビニヨ型からなる。
【0033】
プラネタリギヤセットPSは、第1ブレーキB−1が係合されると、キャリヤCRの回転が固定され、第1サンギヤS1の入力軸10の回転が該キャリヤCRで反転されて、逆転回転としてリングギヤRから第1出力ギヤ31に出力され、つまり後進段が達成される。また、第2ブレーキB−2が係合されると、第2サンギヤS2の回転が固定され、第1サンギヤS1の入力軸10の回転が該キャリヤCRで減速されて、減速された正転回転としてリングギヤRから第1出力ギヤ31に出力され、つまり前進低速段(前進1速段(1st))が達成される。
【0034】
一方、上記第1軸AX1上にある入力軸10の軸方向におけるプラネタリギヤセットPSとは反対側には、CVT20のプライマリプーリ21の固定シーブ21aが該入力軸10に駆動連結されて固定されている。プライマリプーリ21は、固定シーブ21aと、該固定シーブ21aに対して軸方向に可動自在な可動シーブ21bとを有しており、可動シーブ21bの背面に配置された作動油室の油圧によって、それら固定シーブ21aと可動シーブ21bとの間にベルト23を挟持している。
【0035】
また、上記第4軸AX4上には、上記プライマリプーリ21と対向する形で、CVT20のセカンダリプーリ22が配置されている。セカンダリプーリ22は、プライマリプーリ21と同様に、固定シーブ22aと、該固定シーブ22aに対して軸方向に可動自在な可動シーブ22bとを有しており、可動シーブ22bの背面に配置された作動油室の油圧によって、それら固定シーブ22aと可動シーブ22bとの間にベルト23を挟持している。
【0036】
上記第4軸AX4上にあるセカンダリプーリ22の固定シーブ22aには、該第4軸AX4を中心とした第1駆動軸25が駆動連結されて固定されており、該第1駆動軸25の端部には、クラッチC−1が該セカンダリプーリ22と同軸上、つまり第4軸AX4上に配置されている。さらに、クラッチC−1の出力側には、該第4軸AX4を中心とした第2駆動軸26(出力側部材)が駆動連結されて固定されており、第2駆動軸26のクラッチC−1とは軸方向反対側(つまり入力側)には、第2出力ギヤ27が第2駆動軸26に駆動連結されて固定されている。
【0037】
これらプライマリプーリ21及びセカンダリプーリ22からなるCVT20は、詳しくは後述するように、変速比幅が上記プラネタリギヤセットPSの前進低速段よりも変速比が小さい範囲で設定されており、つまり変速比を大きくなるように設定する必要がなく、各シーブ21a,21b,22a,22bの径を大径化しなくていいので、CVT20を小径化することが可能となっている。なお、図1の実線で示す可動シーブ21b,22bの位置では、ベルト23の接触半径がプライマリプーリ21側で小さく、セカンダリプーリ22側で大きいので、変速比が大きい側(Lo側)であり、図1の破線で示す可動シーブ21b,22bの位置では、ベルト23の接触半径がプライマリプーリ21側で大きく、セカンダリプーリ22側で小さいので、変速比が小さい側(Hi側)である(図2参照)。
【0038】
一方、第1軸AX1や第4軸AX4とは平行な第5軸AX5上にあって、プラネタリギヤセットPSやCVT20に対して径方向視で軸方向に重なる位置には、モータ50が配置されている。上述したようにCVT20の変速比幅を小さい範囲で設定してCVT20を小径化したことで、モータ50の少なくとも一部がCVT20に対して径方向視で軸方向に重なる位置に配置することを可能としている。
【0039】
モータ50は、ケース11に対して固定されるステータ51と、該ステータ51の内径側に対向配置されたロータ52とを有しており、該ロータ52には、モータ50の出力軸としてのロータ軸53が軸方向に延びるように固定されている。また、ロータ軸53には、ロータ52とは軸方向反対側にあって、第3出力ギヤ54が駆動連結されて固定されている。
【0040】
上記第2軸AX2上にあっては、カウンタシャフト40が配置されている。カウンタシャフト40は、中心軸41と、その中心軸41の一端部に固定された大径ギヤ42と、その中心軸41の他端部に固定された小径ギヤ43とを有して構成されている。上記大径ギヤ42は、上述したように、プラネタリギヤセットPSのリングギヤRに駆動連結された第1出力ギヤ31と、クラッチC−1を介してセカンダリプーリ22に駆動連結された第2出力ギヤ27と、モータ50のロータ軸53に駆動連結された第3出力ギヤ54と、の3つの出力ギヤに噛合している。そして、小径ギヤ43は、ディファレンシャル装置60のデフリングギヤ61に噛合しており、カウンタシャフト40に入力された回転を、ディファレンシャル部Dを介して左右の出力軸62r,62lに差回転を吸収しつつ回転出力する。
【0041】
以上のように構成された車両用駆動装置1にあっては、図1及び図2に示すように、入力軸10からCVT20、クラッチC−1、第2出力ギヤ27を通って、カウンタシャフト40からディファレンシャル装置60を介して左右の出力軸62r,62lまで、無段変速により動力伝達を行う第1伝達経路CO1を形成することになる。また、入力軸10からプラネタリギヤセットPS、第1出力ギヤ31を通って、カウンタシャフト40からディファレンシャル装置60を介して左右の出力軸62r,62lまで、CVT20と並列的に(CVT20を通らない)プラネタリギヤセットPSにより動力伝達を行う第2伝達経路CO2を形成することになる。さらに、モータ50からカウンタシャフト40及びディファレンシャル装置60を介して左右の出力軸62r,62lまで、第1伝達経路CO1や第2伝達経路CO2の動力伝達と独立してEV走行を可能にする、又はアシストや回生を可能にする第3伝達経路CO3を形成することになる。
【0042】
ついで、本実施の形態に係る車両用駆動装置1の動作について、図1及び図2を参照しつつ図3及び図4に沿って説明する。
【0043】
まず、車両用駆動装置1において、例えばリバースレンジ(Rレンジ)が選択されて不図示の制御部からの指令で、後進段(Rev)を達成する際は、図3に示すように、第1ブレーキB−1を係合し、第2ブレーキB−2及びクラッチC−1を解放する。すると、図4に示すように、プラネタリギヤセットPSにおけるキャリヤCRの回転が固定され、入力軸10から入力された回転は、第1サンギヤS1に入力され、固定されたキャリヤCRによって反転されてリングギヤRが逆転回転する。これにより、図1に示すように、第2伝達経路CO2において、第1出力ギヤ31が第1軸AX1上で逆転回転し、該第1出力ギヤ31に噛合する第2軸AX2上のカウンタシャフト40が正転回転し、該カウンタシャフト40に噛合する第3軸AX3上のディファレンシャル部D及び出力軸62r,62lが逆転回転し、つまり不図示の車輪に後進段としての逆転回転が出力される。
【0044】
次に、車両用駆動装置1において、例えばドライブレンジ(Dレンジ)が選択されて車速に基づき不図示の制御部からの指令で、前進低速段としての第1速段(1st)を達成する際は、図3に示すように、第2ブレーキB−2を係合し、第1ブレーキB−1及びクラッチC−1を解放する。すると、図4に示すように、プラネタリギヤセットPSにおける第2サンギヤS2の回転が固定され、入力軸10から入力された回転は、第1サンギヤS1に入力され、減速回転するキャリヤCRによってさらに減速されてリングギヤRが減速回転する。これにより、図1に示すように、第2伝達経路CO2において、第1出力ギヤ31が第1軸AX1上で正転方向に減速回転し、該第1出力ギヤ31に噛合する第2軸AX2上のカウンタシャフト40が逆転回転し、該カウンタシャフト40に噛合する第3軸AX3上のディファレンシャル部D及び出力軸62r,62lが正転回転し、つまり不図示の車輪に第1速段としての正転回転が出力される。
【0045】
続いて、車両用駆動装置1において、例えばドライブレンジ(Dレンジ)が選択されている状態で車速が所定車速以上に上昇し、不図示の制御部からの指令で、無段変速モード(CVTモード)を達成する際は、図3に示すように、第2ブレーキB−2を解放しつつクラッチC−1を係合し(例えば掴み換え変速し)、第1ブレーキB−1及び第2ブレーキB−2を解放状態にする。すると、図4に示すように、第1伝達経路CO1において、CVT20のプライマリプーリ21の可動シーブ21b及びセカンダリプーリ22の可動シーブ22bの軸方向位置が油圧制御されて、ベルト23の接触半径が例えば車速やアクセル開度に応じて自在に変更され、CVT20の最大変速比Lo(例えば多段変速機における第2速段程度の変速比に設定される)から最小変速比Hiまでの変速比幅Vaで入力軸10の回転を変速する。これにより、図1に示すように、第1駆動軸25、クラッチC−1、第2駆動軸26を介して第2出力ギヤ27が第4軸AX4上で正転方向に無段変速回転し、該第2出力ギヤ27に噛合する第2軸AX2上のカウンタシャフト40が逆転方向に無段変速回転し、該カウンタシャフト40に噛合する第3軸AX3上のディファレンシャル部D及び出力軸62r,62lが正転方向に無段変速回転し、つまり不図示の車輪に変速比幅Vaに基づく無段変速回転が出力される。
【0046】
以上のように説明した後進段(Rev)、第1速段(1st)、無段変速モード(CVTモード)を達成して走行している間にあっては、モータ50によるアシスト(力行)又は回生を行うことが可能である。即ち、図1に示すように、第3伝達経路において、モータ50は、ロータ軸53を介して第3出力ギヤ54に正転回転又は逆転回転の正トルク又は負トルク(回生トルク)を出力自在であり、該第3出力ギヤ54に噛合する第2軸AX2上のカウンタシャフト40が正転又は逆転方向にアシスト又は回生され、該カウンタシャフト40に噛合する第3軸AX3上のディファレンシャル部D及び出力軸62r,62lが正転方向又は逆転方向にアシスト又は回生され、つまり不図示の車輪に対するアシストトルク又は車輪からの回生制御が実行される。
【0047】
さらに、上記後進段(Rev)、第1速段(1st)、無段変速モード(CVTモード)を達成していない状態では、モータ50によるEV走行も可能である。即ち、図1に示すように、第3伝達経路において、モータ50は、ロータ軸53を介して第3出力ギヤ54に正転回転又は逆転回転(正トルク又は負トルク)を出力自在であり、該第3出力ギヤ54に噛合する第2軸AX2上のカウンタシャフト40が正転又は逆転方向に回転され、該カウンタシャフト40に噛合する第3軸AX3上のディファレンシャル部D及び出力軸62r,62lが正転方向又は逆転方向に回転され、つまり不図示の車輪に対するEV走行の回転出力又は車輪からの回生制御が実行される。なお、モータ50は、回転数制御してもよく、トルク制御してもよい。
【0048】
なお、EV走行中は、クラッチC−1を解放することでセカンダリプーリ22(つまりCVT20)をカウンタシャフト40の回転から切離すことができ、また、第1ブレーキB−1及び第2ブレーキB−2を解放することでプラネタリギヤセットPSを空転状態にして入力軸10(及びプライマリプーリ21)をカウンタシャフト40の回転から切離すことができる。これにより、プラネタリギヤセットPSやCVT20を連れ回すことなく(ニュートラル状態として)、EV走行が可能となる。
【0049】
以上説明したように本車両用駆動装置1によると、CVT20と並列的に入力軸10から出力軸62r,62lまでの第2伝達経路CO2を形成し、かつ前進段としての第1速段(1st)と後進段(Rev)とを達成し得ると共に、入力軸10に入力された回転を前進段又は後進段により変速して出力軸62r,62lに出力し得るプラネタリギヤセットPSを備えているので、CVT20を用いずに前進の第1速段(1st)を達成することができ、特に第1速段の変速比を大きくすることで、CVT20において大きなトルクを伝達することを不要とすることができ、高いベルト23の挟持圧も不要となって不図示のオイルポンプの負荷を低減することができ、車両用駆動装置1としての伝達効率を向上することができる。
【0050】
また、特に第1速段の変速比を大きくすることで、CVT20における変速比幅Vaを変速比の小さい範囲(いわゆるアップシフト側)に設定することが可能となって、CVT20において大きなトルクを伝達することを不要とすることができるので、ベルト23の負荷や、プライマリプーリ21及びセカンダリプーリ22における各シーブ21a,21b,22a,22bの軸支持構造の負荷を低減することができ、CVT20の小型化や低コスト化を図ることができる。
【0051】
さらに、プラネタリギヤセットPSにより前進段又は後進段を達成して出力軸62r,62lに出力し得るので、後進段専用のカウンタシャフト等を設けることを不要とすることができ、軸の数を減らすことができて、軸受における摩擦損失等を低減でき、車両用駆動装置1としての伝達効率を向上することができる。
【0052】
なお、本実施の形態では、第5軸AX5上にモータ50を配置したハイブリッド駆動装置としての車両用駆動装置1を一例として説明したが、モータ50を配置しなければ、通常のベルト式無段変速機と同様に4つの軸の自動変速機を構成することができ、かつCVT20を小型化した分、自動変速機として小型化が図れ、さらに、CVT20の挟持圧による油圧負荷を軽減した分、自動変速機としての伝達効率の向上を図ることができる。
【0053】
また、第1軸AX1と平行な第2軸AX2上に配置され、プラネタリギヤセットPSのリングギヤRに駆動連結された第1出力ギヤ31に噛合し、該プラネタリギヤセットPSからの回転を反転減速して第1軸AX1と平行な第3軸AX3である出力軸62r,62lに出力するカウンタシャフト40を備えているので、プラネタリギヤセットPSのリングギヤRの回転が正転回転(前進段)の場合は、カウンタシャフト40で逆転回転し、出力軸62r,62lで再逆転回転して、つまり正転回転としての前進回転を出力することができる。また、プラネタリギヤセットPSのリングギヤRの回転が逆転回転(後進段)の場合は、カウンタシャフト40で逆転回転し、出力軸で再逆転回転して、つまり逆転回転としての後進回転を出力することができる。
【0054】
さらに、第1軸AX1に、入力軸10、プラネタリギヤセットPS、プライマリプーリ21を配置し、第2軸AX2に、カウンタシャフト40を配置し、第3軸AX3に、出力軸62r,62lを配置し、第4軸AX4に、セカンダリプーリ22を配置するので、一般的なベルト式のCVT20を搭載した自動変速機と同様に、4つの軸で車両用駆動装置1を構成することができる。また、第4軸AX4に、セカンダリプーリ22とカウンタシャフト40との回転伝達を接続自在なクラッチC−1を備えているので、CVT20を使用しないプラネタリギヤセットPSによる前進段又は後進段の走行時に、第1伝達経路CO1にあるCVT20を切離すことができ、反対にCVT20を使用する無段変速の走行時に第1伝達経路CO1にあるCVT20を接続状態(動力伝達状態)にすることができる。
【0055】
また、第4軸AX4上にあってクラッチC−1の出力側部材である第2駆動軸26に駆動連結され、カウンタシャフト40に噛合する第2出力ギヤ27を備えているので、つまりセカンダリプーリ22の出力をプラネタリギヤセットPSの出力と同じカウンタシャフト40に伝達することができ、軸の数を低減することができて、車両用駆動装置1のコンパクト化を図ることができる。
【0056】
さらに、CVT1が、プラネタリギヤセットPSの前進段よりも変速比が小さい範囲の変速比幅Vaに設定されているので(図4参照)、CVT20のプライマリプーリ21及びセカンダリプーリ22を小径化することができる。これにより、例えばカウンタシャフト40をセカンダリプーリ22とディファレンシャル装置60との間に挟んで配置することを可能とすることができる(図2参照)。それによって、第1軸AX1と平行な第5軸AX5上にあって、CVT20と少なくとも一部が径方向視で軸方向に重なる位置にモータ50を配置しても、コンパクトな車両用駆動装置1を構成することができる。
【0057】
そして、第5軸AX5上にあってモータ50のロータ52に駆動連結され、カウンタシャフト40に噛合する第3出力ギヤ54を備えているので、つまりモータ50の出力を、例えばセカンダリプーリ22の出力やプラネタリギヤセットPSの出力と同じカウンタシャフト40に伝達することができ、軸の数を低減することができて、車両用駆動装置1のコンパクト化を図ることができる。
【0058】
なお、以上説明した本実施の形態においては、プラネタリギヤセットPSをラビニヨ型で構成したものを説明したが、第1軸AX上にあって、前進段と後進段とを形成できるプラネタリギヤセットであれば、例えばシンプソン型など、どのような構造のものであってもよい。
【0059】
また、以上説明した本実施の形態においては、第1出力ギヤ31、第2出力ギヤ27、第3出力ギヤ54の3つのギヤが、1つのギヤであるカウンタシャフト40の大径ギヤ42に直接的に噛合するものを説明したが、それらのギヤ同士の間にアイドラギヤなどを介在させるなどの変更を施してもよく、つまり必ずしも直接的に噛合せず、他のギヤを介して噛合するように変更しても構わない。
【0060】
また、以上説明した本実施の形態においては、プラネタリギヤセットPSによる第1速段(1st)と、CVT20の最大変速比Loとの間に、ギヤ比の間隔を設けることで、CVT20の小型化を図っているが、多少の大型化を許容して、プラネタリギヤセットPSによる第1速段(1st)とCVT20の最大変速比Loとを同一のギヤ比に構成することで、変速ショックの無い、前進段から無段変速モードへの移行を可能にできるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0061】
1 車両用駆動装置
10 入力軸
20 無段変速機構(CVT)
21 プライマリプーリ
22 セカンダリプーリ
23 ベルト
26 出力側部材(第2駆動軸)
27 第2出力ギヤ
31 第1出力ギヤ
40 カウンタシャフト
50 回転電機(モータ)
52 ロータ
54 第3出力ギヤ
62r,62l 出力軸
AX1 第1軸
AX2 第2軸
AX3 第3軸
AX4 第4軸
AX5 第5軸
CO1 第1伝達経路
CO2 第2伝達経路
C−1 クラッチ
PS プラネタリギヤセット
R 出力回転要素(リングギヤ)
Va 変速比幅
1st 前進段
Rev 後進段
図1
図2
図3
図4