【実施例】
【0014】
以下に、締付工具にかかる実施例について、図面を参照して説明する。
(実施例1)
本例の締付工具1は、
図1〜
図3に示すように、回転軸3、回転駆動源2、締付ヘッド4、操作ハンドル41、クラッチ機構51、空転リング6及び操作スイッチレバー7を備えている。
図1に示すように、回転軸3は、締付具と係合するソケット11が取り付けられる先端部31を有している。回転駆動源2は、回転軸3を回転させる動力を出力軸21に発生させ、出力軸21に規定値以上のトルクが作用したときには、出力軸21から回転軸3への動力の伝達を遮断するよう構成されている。締付ヘッド4は、回転軸3の先端部31を露出させる状態で回転軸3の外周側に配置されている。操作ハンドル41は、締付ヘッド4から外周側に延設されて、締付ヘッド4を回転操作するための部位である。
【0015】
クラッチ機構51は、回転軸3と締付ヘッド4との間に配置され、回転軸3が締付方向に回転する際には、回転軸3と締付ヘッド4との連結を解除し、一方、回転軸3に対して締付ヘッド4を締付方向に回転させる際には、回転軸3と締付ヘッド4とを連結するよう構成されている。空転リング6は、締付ヘッド4の外周側に空転可能に配置されている。
図2、
図3に示すように、操作スイッチレバー7は、空転リング6の外周側に操作先端部71が位置して、回転駆動源2を始動させるための部位である。なお、締付方向とは、締付具を被締付部位に締め付ける際に回転させる方向のことをいう。
【0016】
以下に、本例の締付工具1について、
図1〜
図4を参照して詳説する。
本例の締付工具1は、回転駆動源2によって回転軸3を回転させて締付具の締付を行うナットランナーの機能と、操作ハンドル41によって回転軸3を回転させて締付具の締付を行うトルクレンチの機能とを併せ持つものである。また、締付工具1は、締付具が被締付部位に着座するまでは、回転駆動源2によって回転軸3を回転させて、高速で締付具の仮締めを行う。また、締付工具1は、締付具が被締付部位に着座した後には、操作ハンドル41によって回転軸3を回転させて、所定の締付トルクで本締めを行う。また、本例の締付具はボルトである。締付具は、これ以外にもナット等とすることができる。
【0017】
図4に示すように、回転駆動源2は、モータによって動作する電動式のものである。回転駆動源2の出力軸21は、回転軸3と直接連結されておらず、非圧縮性の流体であるオイルを介して回転軸3と連結される。回転駆動源2の出力軸21と回転軸3との連結部分には、オイルが入った空間、空間内に配置されて出力軸21の動力を回転軸3へ伝達するためのブレード、空間からオイルを抜き出すためのリリーフバルブ等が設けられている。回転駆動源2の出力軸21から回転軸3への動力の伝達が遮断されるトルクの規定値は、リリーフバルブの開度によって調整することができる。
【0018】
締付工具1は、オイルに生じる抵抗が減少したときに、回転駆動源2の出力軸21の回転を停止させる回転停止手段を備えている。この回転停止手段は、リリーフバルブが作動したことを検出する圧力スイッチ等のセンサと、回転駆動源2及び操作スイッチレバー7が電気的に接続された制御装置とを用いて構成されている。制御装置は、操作スイッチレバー7の操作を受けて、回転駆動源2の出力軸21を回転させ、回転停止手段の検出を受けて、回転駆動源2の出力軸21の回転を停止させるよう構成されている。
【0019】
締付具の仮締めを行う際に、回転駆動源2の出力軸21に規定値未満のトルクが作用するときには、回転駆動源2の出力軸21は、オイルに生じる抵抗を利用して回転軸3を駆動する。また、仮締めを行う締付具が被締付部位に着座したときには、オイルの圧力が上昇して、回転駆動源2に規定値以上のトルクが作用する。そして、リリーフバルブが作動し、オイルの圧力が減少して、回転駆動源2の出力軸21は回転軸3の駆動を解除する。このとき、リリーフバルブが作動したことが圧力スイッチ等によって検出され、回転停止手段が、回転駆動源2の出力軸21の回転を停止させる。
【0020】
クラッチ機構51は、ワンウェイクラッチによって構成されている。ワンウェイクラッチは、相対的に回転可能な外輪及び内輪を有している。外輪の内側又は内輪の外側にはポケット(凹部)が設けられており、ポケットには、スプリングによって付勢されたローラが配置されている。そして、ワンウェイクラッチは、外輪が内輪に対して一方向に回転しようとすると、ローラがポケットに接触する圧力が高くなって、外輪の動力を内輪に伝達するよう構成されている。一方、ワンウェイクラッチは、外輪が内輪に対して他方向に回転しようとすると、ローラがポケットを滑って、外輪が内輪に対して空転して、外輪の動力を内輪に伝達しないよう構成されている。
【0021】
図4に示すように、締付ヘッド4は、回転軸3を挿通させる中心穴422を有しており、クラッチ機構51及びベアリング52によって回転軸3と相対的に回転可能になっている。クラッチ機構51は、締付ヘッド4の中心穴422に配置されており、ベアリング52は、締付ヘッド4の中心穴422の基端側の端部に配置されている。本例のベアリング52は、回転軸3の軸線方向に垂直な方向に作用する荷重を受けるラジアルベアリングである。締付ヘッド4の中心穴422にクラッチ機構51が配置され、クラッチ機構51の内周側に回転軸3が配置される。
【0022】
締付ヘッド4は、中心穴422が形成された締付ヘッド本体部42と、締付ヘッド本体部42の基端側に連結された締付ヘッド円筒部43とによって構成されている。ベアリング52は、締付ヘッド本体部42の中心穴422の基端側の端部に配置され、締付ヘッド円筒部43の先端側部分によって抜け防止がなされる。締付ヘッド円筒部43は、締付ヘッド本体部42に締め付けられて一体化されている。また、締付ヘッド本体部42の外周面421と締付ヘッド円筒部43の外周面431とは、略同一の半径を有している。
【0023】
図4に示すように、空転リング6は、締付ヘッド本体部42の外周面421と締付ヘッド円筒部43の外周面431とに跨って配置されている。締付ヘッド円筒部43の基端側には、回転駆動源2を覆う円筒ケース44が締め付けられている。空転リング6の外周面61の半径は、円筒ケース44の外周面441の半径よりも大きい。また、円筒ケース44の外周面441の半径は、締付ヘッド本体部42の外周面421及び締付ヘッド円筒部43の外周面431の半径よりも大きく、かつ空転リング6の外周面61の半径よりも小さい。締付ヘッド本体部42の外周面421及び締付ヘッド円筒部43の外周面431と空転リング6の内周面61との間には僅かな隙間が形成されており、空転リング6は、締付ヘッド本体部42及び締付ヘッド円筒部43の外周を摺動して空転する。
【0024】
図2、
図3に示すように、操作スイッチレバー7は、円筒ケース44の基端側の位置に設けられた回動支点部72を中心に、空転リング6に接近する方向に回動可能である。操作スイッチレバー7は、作業者が空転リング6の外周面61を握る動作に伴って回動操作される。作業者が操作スイッチレバー7を空転リング6に接近する方向に回動するときには、回転駆動源2の回転が開始され、作業者が操作スイッチレバー7を空転リング6から離隔する方向に回動するときには、回転駆動源2の回転が停止される。なお、
図2は、締付工具1の側面を、
図1とは90°異なる方向から見た状態で示し、
図3は、締付工具1を、回転軸3の先端部31の側から見た状態で示す。
【0025】
以下に、本例の締付工具1を用いて締付具の締付を行う動作、及び本例の作用効果について説明する。
締付具の締付を行うに当たっては、作業者は、一方の手で、操作スイッチレバー7の操作先端部71を回動操作しながら空転リング6を握り、他方の手で操作ハンドル41を握る。このとき、仮に、作業者の手が空転リング6以外に円筒ケース44を握ったとしても、空転リング6の外周面61が、円筒ケース44の外周面441よりも外周側に位置することにより、空転リング6に握りの圧力が一番掛かりやすくすることができる。これにより、作業者が締付工具1を握る際の作業負担を低減することができる。
【0026】
また、操作スイッチレバー7が回動操作されると、回転駆動源2が始動し、回転軸3が締付方向に回転しようとする。このとき、回転駆動源2に作用するトルクは規定値よりも小さく、回転駆動源2の出力軸21の動力がオイルを介して回転軸3に伝達される。また、クラッチ機構51が回転軸3と締付ヘッド4との連結を解除し、回転軸3が締付ヘッド4及び円筒ケース44に対して締付方向に回転する。これにより、締付具の仮締めが行われる。
【0027】
その後、締付具が被締付部位に着座すると、回転駆動源2に規定値以上のトルクが作用し、回転駆動源2の出力軸21の動力が回転軸3に伝達されなくなる。また、回転停止手段が回転駆動源2の出力軸21の回転を停止させる。そして、作業者が操作ハンドル41を締付方向に回転させるときには、クラッチ機構51が回転軸3と締付ヘッド4とを連結し、操作ハンドル41及び締付ヘッド4によって回転軸3が締付方向に回転する。これにより、締付具の本締めが行われる。
【0028】
作業者が操作ハンドル41を回転させるときには、回転軸3に回転駆動源2の出力軸21のイナーシャ(慣性)が作用しない。そのため、作業者による操作ハンドル41の操作負担を低減することができる。また、締付具の本締めが行われるときには、作業者は、一方の手に操作スイッチレバー7及び空転リング6を握ったままの状態で、他方の手に握る操作ハンドル41を回転操作することができる。これにより、仮締め及び本締めの作業性を向上させることができる。
【0029】
また、空転リング6が締付ヘッド4の外周側に空転可能に配置された構造により、本締めの際には、操作ハンドル41、締付ヘッド4、円筒ケース44、クラッチ機構51及び回転軸3の全体を、空転リング6に対して回転させることができる。特に、締付ヘッド4と円筒ケース44とが一体化されていることにより、回転軸3を締付ヘッド4と円筒ケース44とに別々に回転させる必要がない。
それ故、本例の締付工具1によれば、空転リング6を用いることにより、締付ヘッド4及び円筒ケース44の周辺の細部構造を簡単にすることができる。
【0030】
(実施例2)
本例は、
図5に示すように、回転軸3A及び締付ヘッド4Aが締付工具1Aに対して着脱可能であり、回転軸3A及び締付ヘッド4Aがソケット11及び締付具の種類に応じて適宜変更可能である例である。この場合、締付ヘッド4Aは、回転駆動源2を収容する円筒ケース44に取り付けられた締付ヘッド円筒部43Aと、締付ヘッド円筒部43Aに対して着脱可能に係合される組付ヘッド本体部42Aとによって構成されている。組付ヘッド本体部42Aは、回転軸3A及びクラッチ機構51と一体的に組み付けられている。
【0031】
締付ヘッド円筒部43Aの基端側部分432は、円筒ケース44の先端側部分442の外周側に覆い被さっている。そして、空転リング6の外周面61は、締付ヘッド円筒部43Aの基端側部分432の外周面431よりも外周側に位置している。また、回転軸3には、その全周の径方向外方へ突出する鍔部32が設けられており、鍔部32と締付ヘッド本体部42Aとの間には、回転軸3の軸線方向に作用する荷重を受けるスラストベアリング52Aが配置されている。本例においては、回転軸3A及び締付ヘッド4Aを変更することが容易である。本例においても、明示しない締付工具1の構成及び図中の符号は実施例1と同様であり、実施例1と同様の作用効果を得ることができる。