(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6094485
(24)【登録日】2017年2月24日
(45)【発行日】2017年3月15日
(54)【発明の名称】ビリルビン排泄促進剤
(51)【国際特許分類】
A61K 38/00 20060101AFI20170306BHJP
A61P 39/02 20060101ALI20170306BHJP
C07K 14/765 20060101ALN20170306BHJP
【FI】
A61K37/02ZNA
A61P39/02
!C07K14/765
【請求項の数】5
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-528062(P2013-528062)
(86)(22)【出願日】2012年8月9日
(86)【国際出願番号】JP2012070310
(87)【国際公開番号】WO2013022058
(87)【国際公開日】20130214
【審査請求日】2015年3月3日
(31)【優先権主張番号】特願2011-175403(P2011-175403)
(32)【優先日】2011年8月10日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000135036
【氏名又は名称】ニプロ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100163647
【弁理士】
【氏名又は名称】進藤 卓也
(74)【代理人】
【識別番号】100182084
【弁理士】
【氏名又は名称】中道 佳博
(74)【代理人】
【識別番号】100123489
【弁理士】
【氏名又は名称】大平 和幸
(72)【発明者】
【氏名】小田切 優樹
(72)【発明者】
【氏名】丸山 徹
(72)【発明者】
【氏名】異島 優
(72)【発明者】
【氏名】蓑毛 藍
【審査官】
光本 美奈子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−172277(JP,A)
【文献】
特表2008−543323(JP,A)
【文献】
米国特許第05780594(US,A)
【文献】
米国特許出願公開第2007/0041987(US,A1)
【文献】
VEDROVA,D.,The influence of human albumin on hyperbiliaubin in the newborn,ACTA FAC.MED. UNIV. BRUN.,1965年,Vol.21, No.47,p.47-57
【文献】
ZUNSZAIN,P.A. et al,Crystallographic Analysis of Human Serum Albumin Complexed with 4Z,15E-Bilirubin-IXα,Journal of Molecular Biology,2008年,Vol.381, No.2,p.394-406
【文献】
Ahmad B, et al.,Biochemical and Biophysical Research Communications,2004年,Vol.314,p.166-173
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/00
A61P 39/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
血清アルブミンサブドメインIIAを含み、分子量が22kDa以下である血清アルブミンドメインIIタンパク質を有効成分とするビリルビン排泄促進剤。
【請求項2】
前記血清アルブミンサブドメインIIAが配列番号1のアミノ酸配列を有する、請求項1に記載のビリルビン排泄促進剤。
【請求項3】
前記血清アルブミンドメインIIが配列番号4のアミノ酸配列を有する、請求項1または2に記載のビリルビン排泄促進剤。
【請求項4】
尿中排泄促進剤である請求項1から3のいずれかに記載のビリルビン排泄促進剤。
【請求項5】
4Z,15Z−ビリルビン−IXα排泄促進剤である請求項1から4のいずれかに記載のビリルビン排泄促進剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はビリルビン排泄促進剤に関し、より詳細には血清アルブミンのサブドメインIIAを含む血清アルブミンドメインII様タンパク質を有効成分とするビリルビン排泄促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ビリルビンは赤血球の構成成分であるヘムの最終分解産物である。様々な異性体が存在する中、生体内に最も豊富に存在する異性体は、4Z,15Z−ビリルビン−IXα(以下、4Z,15Z−BRという。)である。新生児は4Z,15Z−BRの代謝組織である肝臓が未発達なため、高ビリルビン血症になりやすく黄疸ができやすい。ビリルビンが高値になると脳神経に沈着し、脳症を引き起こすこともある。現在、新生児黄疸の第一選択療法は光療法である。光療法とは、新生児の皮膚に光を照射することで水溶性の低い4Z,15Z−BRから水溶性の高い異性体である4Z,15E−ビリルビン−IXα(4Z,15E−BR)やZ−ルミルビンなどへと変換し、ビリルビンの尿排泄や胆汁排泄を促す療法である。ビリルビンの光療法のメカニズムを
図1に示す。しかし、光療法は皮膚に沈着したビリルビンには奏効するが、血液中のビリルビンには光が届かないため効果がない。また、成人の皮膚は光をほとんど透過しないため、光療法は新生児にしか適応されない。
【0003】
そこで、現状では、血液中の血漿を交換することによってビリルビン濃度を低減させる血漿交換や、ビリルビン吸着カラムを用いたビリルビンの吸着除去が行われている。しかし、吸着除去法は感染症のリスクが高く、生体に有用なタンパク質やビタミンも除去されてしまう。
【0004】
ヒト血清アルブミン(以下、HSAという。)は、成人の血清中に存在する主要な蛋白質であり、肝臓で生産され、種々の血清分子を運搬する担体としての機能をもっている。また、ビリルビンはHSAと結合して肝臓に運ばれ、肝臓でビリルビンがグルクロン酸と結合してより水に溶けやすい抱合型ビリルビンとなる。この抱合型ビリルビンは肝臓から胆汁として分泌される。
【0005】
HSAは585個のアミノ酸からなる一本鎖の構造のタンパク質(配列番号10)であり、その基本構造は相同性の高い3つのドメイン(ドメインI、IIおよびIII)からなり、それぞれサブドメイン(A,B)に細分化される。ドメインIは、アミノ酸1位〜197位であり、ドメインIIはアミノ酸187位〜385位であり、ドメインIIIはアミノ酸381位〜585位である。
【0006】
ビリルビンに関しては、サイトI(ドメインII)が高親和性結合サイトであることが報告されている。本発明者らは、高いビリルビン結合活性を有しているアルブミン変異体を得、195位および199位のアミノ酸がビリルビン結合に関与していることを見出した(特許文献1)。また、本発明者等は、HSAのドメインIを含むタンパク質を遺伝子組換えにより生産した(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−172277号公報
【特許文献2】特開2005−245268号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、高ビリルビン血症の新たな治療方法の確立をめざして、ビリルビン排泄促進剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために、ビリルビン、特に、4Z,15Z−BRを、直接排泄させる方法を鋭意研究した結果、血清アルブミンのサブドメインIIAを含む血清アルブミンドメインII様タンパク質が、ビリルビンと結合して尿中に排出されることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
本発明は、血清アルブミンサブドメインIIAを含む血清アルブミンドメインII様タンパク質を有効成分とするビリルビン排泄促進剤を提供する。
【0011】
1つの実施態様では、上記血清アルブミンサブドメインIIAが配列番号1のアミノ酸配列を有する。
【0012】
1つの実施態様では、上記血清アルブミンドメインII様タンパク質が血清アルブミンドメインIIである。
【0013】
1つの実施態様では、上記血清アルブミンドメインIIが配列番号4のアミノ酸配列を有する。
【0014】
1つの実施態様では、上記血清アルブミンドメインII様タンパク質が血清アルブミンサブドメインIBを含む。
【0015】
1つの実施態様では、尿中排泄促進剤である。
【0016】
1つの実施態様では、4Z,15Z−ビリルビン−IXα排泄促進剤である。
【発明の効果】
【0017】
本発明のビリルビン排泄促進剤の有効成分である血清アルブミンドメインII様タンパク質は、ビリルビンに結合し、ビリルビンを尿中に速やかに排泄することができる。特に、通常尿中には排泄されない難水溶性の4Z,15Z−BRに結合して、腎排泄を促すことができる。よって、ビリルビン排泄促進剤、および高ビリルビン血症の治療剤として有効である。また、HSAは体内に存在するものであり、安全性にも優れており、大人はもちろん、新生児にも安心して投与可能である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】ビリルビンの光療法のメカニズムを示す図である。
【
図2】実施例1および実施例2で得られた血清アルブミンドメインII様タンパク質の4Z,15Z−BR結合能を示すグラフである。
【
図3】実施例1で得られたヒト血清アルブミンドメインII様タンパク質による4Z,15Z−BRの排泄促進効果を示すグラフである。
【
図4】実施例1で得られたヒト血清アルブミンドメインII様タンパク質による4Z,15Z−BRの排泄促進効果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明における血清アルブミンサブドメインIIAとは、血清アルブミンのドメインIIのサブドメインAを形成している領域、およびその領域からなる血清アルブミン断片をいう。
【0020】
本発明において血清アルブミンとは、血清中に含まれるアルブミンであり、例えば、ヒトまたは他の温血動物(例えば、ウシ、サル、ブタ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、イヌ、ネコ、ウサギ、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、ニワトリ、ウズラ)由来であり得る。医薬への利用を考慮すると、ヒト血清アルブミンが好ましい。
【0021】
野生型のヒト血清アルブミン(以下HSAという。)は、分子量66.5kDaであり、配列表の配列番号10の1位から585位までのアミノ酸配列を有する。本願発明の血清アルブミンは、HSAの遺伝子多型、および、これらの変異体を含む。HSAの遺伝子多型は現在までのところ、60種以上が報告されている。変異体とは、HSAのアミノ酸の1つ以上が欠失、置換、または付加したものである。
【0022】
本発明における血清アルブミンサブドメインIIAには、血清アルブミンのサブドメインIIA、その遺伝子多型、および、これらの変異体が含まれる。好ましくは、HSAのサブドメインIIA(以下、HSAサブドメインIIAという。)である。血清アルブミンサブドメインIIAにはビリルビン結合部位が含まれる。
【0023】
HSAサブドメインIIAは、少なくとも、配列番号1(配列番号10の187位〜248位)のアミノ酸配列を有する。より好ましくは、配列番号2(配列番号10の187位〜295位)のアミノ酸配列を有する。さらに好ましくは、配列番号3(配列番号10の187位〜298位)のアミノ酸配列を有する。
【0024】
HSAサブドメインIIAには、HSAサブドメインIIAの遺伝子多型、および、これらの変異体が含まれる。変異体とは、HSAサブドメインIIAのアミノ酸の1または複数個のアミノ酸が欠失、置換、または付加しているものであり、ビリルビンとの親和性を有する限り制限されるものではない。好ましくは、1〜20個のアミノ酸、さらに好ましくは、1〜10個のアミノ酸、より好ましくは、1〜5個のアミノ酸が欠失、置換、または付加されたものである。好ましいHSAサブドメインIIA変異体としては、F211R / R218L、F211L / R218S / R222Wが挙げられる。F211R / R218Lは211位のフェニルアラニンがアルギニンに、218位のアルギニンがロイシンに置換しているHSAサブドメインIIA変異体であり、F211L / R218S / R222Wは211位のフェニルアラニンがロイシンに、218位のアルギニンがセリンに、222位のアルギニンがトリプトファンに置換しているHSAサブドメインIIA変異体である。
【0025】
HSAサブドメインIIAは、配列番号1、2または3のアミノ酸配列を有するHSAのサブドメインIIAとは異なる配列であるが、実質的に同一のアミノ酸配列を有し、かつ配列番号1、2または3のアミノ酸配列を有するHSAのサブドメインIIAと同等またはそれ以上のビリルビンとの親和性を有し、ビリルビンと結合して腎排泄作用を有するタンパク質を含む。
【0026】
本発明において、配列番号1、2または3のアミノ酸配列を有するHSAのサブドメインIIAと実質的に同一のアミノ酸配列とは、配列番号1、2または3のアミノ酸配列を有するHSAのサブドメインIIAと好ましくは約80%以上、より好ましくは約90%以上、さらに好ましくは約95%以上の相同性を有するアミノ酸配列である。
【0027】
ここで「相同性」とは、当該技術分野において公知の数学的アルゴリズムを用いて2つのアミノ酸配列のアラインメントにおいて、最適なアラインメント(好ましくは、該アルゴリズムは最適なアラインメントのために配列の一方もしくは両方へのギャップの導入を考慮し得るものである)における、オーバーラップする全アミノ酸残基に対する同一アミノ酸および類似アミノ酸残基の割合(%)を意味する。「類似アミノ酸」とは物理化学的性質において類似したアミノ酸を意味し、例えば、芳香族アミノ酸(Phe、Trp、Tyr)、脂肪族アミノ酸(Ala、Leu、Ile、Val)、極性アミノ酸(Gln、Asn)、塩基性アミノ酸(Lys、Arg、His)、酸性アミノ酸(Glu、Asp)、水酸基を有するアミノ酸(Ser、Thr)、側鎖の小さいアミノ酸(Gly、Ala、Ser、Thr、Met)などの同じグループに分類されるアミノ酸が挙げられる。このような類似アミノ酸による置換はタンパク質の表現型に変化をもたらさない(すなわち、保存的アミノ酸置換である)ことが予測される。保存的アミノ酸置換の具体例は、当該技術分野で周知であり、種々の文献に記載されている(例えば、Bowieら,Science, 247: 1306-1310 (1990)を参照)。
【0028】
本発明の血清アルブミンドメインII様タンパク質は、血清アルブミンサブドメインIIAを含む血清アルブミンの断片であり、分子量は血清アルブミンの2分の1以下である。好ましくは、3分の1以下である。ヒト血清アルブミンドメインII様タンパク質(以下、HSAドメインII様タンパク質という。)は、HSAサブドメインIIAを含むHSA断片であり、分子量はHSAの2分の1(33kDa)以下であり、好ましくは、3分の1(22kDa)以下である。
【0029】
本発明の血清アルブミンドメインII様タンパク質は、本発明における血清アルブミンサブドメインIIAを含む血清アルブミンの断片である。好ましい血清アルブミンドメインII様タンパク質は、HSAドメインII様タンパク質である。HSAドメインII様タンパク質は、本発明におけるHSAサブドメインIIAを含むHSA断片である。例えば、サブドメインIIAからなるHSA断片、ドメインIIからなるHSA断片、サブドメインIBとサブドメインIIAからなるHSA断片、ドメインIIとサブドメインIBからなるHSA断片、ドメインIとサブドメインIIAからなるHSA断片などが挙げられる。本発明の血清アルブミンドメインII様タンパク質は、好ましくは、ドメインIIIを含有しない。
【0030】
血清アルブミンドメインII様タンパク質中のサブドメインIIAは、血清アルブミン中のサブドメインIIAと同様の立体構造を有していなくてもよく、サブドメインIIAがその立体構造をほとんど保持していない構造も含む。また、血清アルブミンドメインII様タンパク質のサブドメインIIA領域以外の領域は、ドメインを形成していても形成していなくてもよく、サブドメインIIA領域を含んでいる限り、N末端、C末端の位置は制限されない。
【0031】
本発明の血清アルブミンドメインII様タンパク質の1つの実施態様である血清アルブミンドメインIIAは、前記血清アルブミンドメインIIA領域からなるタンパク質である。
【0032】
本発明の血清アルブミンドメインII様タンパク質の1つの実施態様である血清アルブミンドメインIIには、血清アルブミンのドメインII、その遺伝子多型、および、これらの変異体が含まれる。好ましくは、HSAのドメインII(以下、HSAドメインIIという。)である。
【0033】
HSAドメインIIは、好ましくは、配列番号4(配列番号10の187位〜341位)のアミノ酸配列を有する。より好ましくは、配列番号5(配列番号10の187位〜361位)のアミノ酸配列を有する。さらに好ましくは、配列番号6(配列番号10の187位〜385位)のアミノ酸配列を有する。
【0034】
HSAドメインIIには、HSAドメインIIの遺伝子多型、および、これらの変異体が含まれる。変異体とは、HSAドメインIIのアミノ酸の1または複数個のアミノ酸が欠失、置換、または付加しているものであり、ビリルビンとの親和性を有する限り制限されるものではない。好ましくは、1〜20個のアミノ酸、さらに好ましくは、1〜10個のアミノ酸、より好ましくは、1〜5個のアミノ酸が欠失、置換、または付加されたものである。
【0035】
HSAドメインIIには、配列番号4、5または6のアミノ酸配列を有するHSAのドメインIIとは異なる配列であるが、実質的に同一のアミノ酸配列を有し、かつ配列番号4、5または6のアミノ酸配列を有するHSAドメインIIと同等またはそれ以上のビリルビンとの親和性を有し、ビリルビンと結合して腎排泄作用を有するタンパク質を含む。
【0036】
本発明において、配列番号4、5または6のアミノ酸配列を有するHSAのドメインIIと実質的に同一のアミノ酸配列とは、配列番号4、5または6のアミノ酸配列を有するHSAのドメインIIと好ましくは約80%以上、より好ましくは約90%以上、さらに好ましくは約95%以上の相同性を有するアミノ酸配列である。相同性については、上述したとおりである。
【0037】
本発明の血清アルブミンドメインII様タンパク質は、サブドメインIIA領域を含み、さらに、ドメインI、サブドメインIB、またはサブドメインIIBを含んでいてもよい。これらには、その遺伝子多型およびその変異体が含まれる。
【0038】
本発明の血清アルブミンドメインII様タンパク質の1つの実施態様である血清アルブミンサブドメインIBを含むタンパク質は、サブドメインIBとサブドメインIIAを含む。該タンパク質には、その遺伝子多型およびその変異体が含まれる。好ましくは、HSAドメインIBとHSAサブドメインIIAからなるHSA断片である。
【0039】
HSAドメインIBとHSAサブドメインIIAからなるHSA断片は、好ましくは、配列番号7(配列番号10の187位〜298位)のアミノ酸配列を有する。より好ましくは、配列番号8(配列番号10の150位〜298位)のアミノ酸配列を有する。さらに好ましくは、配列番号9(配列番号10の124位〜298位)のアミノ酸配列を有する。
【0040】
HSAドメインIBとHSAサブドメインIIAからなるHSA断片には、その遺伝子多型およびその変異体が含まれる。変異体とは、HSAドメインIBとHSAサブドメインIIAからなるHSA断片の1または複数個のアミノ酸が欠失、置換、または付加したものであり、ビリルビンとの親和性を有する限り制限されるものではない。好ましくは、1〜20個のアミノ酸、さらに好ましくは、1〜10個のアミノ酸、より好ましくは、1〜5個のアミノ酸が欠失、置換、または付加されたものである。
【0041】
HSAドメインIBとHSAサブドメインIIAからなるHSA断片には、配列番号7、8または9のアミノ酸配列を有するHSA断片とは異なる配列であるが、実質的に同一のアミノ酸配列を有し、配列番号7、8または9のアミノ酸配列を有するHSA断片と同等またはそれ以上のビリルビンとの親和性を有し、ビリルビンと結合して腎排泄作用を有するタンパク質を含む。
【0042】
本発明において、配列番号7、8または9のアミノ酸配列を有するHSA断片と実質的に同一のアミノ酸配列とは、配列番号7、8または9のアミノ酸配列を有するHSA断片と好ましくは約80%以上、より好ましくは約90%以上、さらに好ましくは約95%以上の相同性を有するアミノ酸配列である。相同性については、上述したとおりである。
【0043】
本発明のビリルビン排泄促進剤の有効成分であるHSAドメインII様タンパク質は、血漿から得られたHSAを薬剤、例えば、CNBr等により切断して、サブドメインIIAを含有する断片を精製して得ることができる。また、目的とするタンパク質をコ−ドするDNAを、発現ベクタ−に組み込み、好適な宿主を形質転換して、宿主を培養する等、遺伝子組換え法により得ることができる。例えば、特開2010−172277号公報、および特開2005−245268に記載されている方法に従い製造し、精製することにより得ることができる。
【0044】
本発明で排泄が促進されるビリルビンは、4Z,15Z−BR、4Z,15E−BR等の立体異性体、および、Z−ルミルビン等の構造異性体を含む。
【0045】
本発明のビリルビン排泄促進とは、体内のビリルビンの体外への排泄を促進し、体内、特に血中のビリルビン量を減少させることである。好ましくは、ビリルビンの尿への排泄を促進する。より具体的には、本発明のHSAドメインII様タンパク質とビリルビンの結合体が腎臓で濾過を受けて排泄されることにより、ビリルビンの体外排泄が促進される。
【0046】
本発明のビリルビン排泄促進剤の製剤形態としては錠剤、丸剤、散剤、懸濁剤、カプセル剤、坐剤、注射剤、軟膏剤、貼付剤等が例示される。好ましくは、精製したHSAドメインII様タンパク質から得られる液状製剤や、凍結乾燥して得られる凍結乾燥製剤である。凍結乾燥製剤は、溶解用液剤と共にキット製剤とすることもできる。
【0047】
製剤中には、糖、糖アルコ−ル、アミノ酸等の安定化剤やpH調節剤、賦形剤を添加することができる。また、必要に応じて、製剤化する前または製剤化後にウイルス不活性化処理や滅菌処理を行うことができる。
【0048】
本発明のビリルビン排泄促進剤の投与経路は制限されない。経静脈、経動脈、経口、経皮、経粘膜などが挙げられる。患者の症状、年齢、性別、体重、食事などを考慮して症状を観察しながら、投与量、投与回数を調整する。例えば、注射剤の場合、一回の投与量、10〜50mg/体重を一日に1〜3回投与することができる。また、数日に一回投与とすることができる。必要時のみに投与することもできる。
【0049】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0050】
(実施例1)
HSAは化学及血清療法研究所から恵与されたものを用いた。CNBrとHSA中のメチオニン残基のモル濃度比が200:1になるように、30mgのHSAに70%ギ酸溶液に溶解したCNBrを10mL加え、暗所にて24時間室温でインキュベートした。その後、反応を停止させるためイオン交換水を40mL加え、Speed vac(登録商標) plus(Savant社)にて遠心濃縮し、バッファー置換後、AKTA Prime plus(GEヘルスケア社)を用いたHiTrap Blue HPによる精製を行った。平衡化は20mMリン酸ナトリウム(pH7.0)、溶出は2Mチオシアン酸カリウム+20mMリン酸ナトリウム(pH7.0)によるグラジエントによって行った。SDS−PAGEによって20kDaのタンパク質が溶出されているフラクションを確認し、実験に供した。
【0051】
得られた20kDaのタンパク質は、ドメインIBとIIAからなるHSAドメインII様タンパク質(配列番号9(配列番号10のCys124−Met298))であることを非還元SDS−PAGEにより確認した。得られたHSAドメインII様タンパク質を常法により凍結乾燥して、凍結乾燥製剤を得た。
【0052】
(実施例2)
特開2010−172277に記載の方法に従って、HSAドメインII遺伝子(配列番号11)を得て、ピキア属酵母のゲノムに挿入し、HSAドメインIIの発現細胞を作製した。その後、当該酵母を培養し、HSAドメインIIの発現・精製を行った。精製したHSAドメインIIをSDS−PAGEによって確認した。得られたHSAドメインII様タンパク質は、ドメインIIからなるタンパク質であって、配列番号6(配列番号10の187位〜385位)のアミノ酸配列を有し、分子量は22kDaであった。得られたHSAドメインII様タンパク質を常法により凍結乾燥して、凍結乾燥製剤を得た。
【0053】
(試験例1)
実施例1で得られたHSAドメインII様タンパク質(以下、20kDaフラグメントという。)と実施例2で得られたHSAドメインII様タンパク質(以下、ドメインIIともいう。)について、4Z,15Z−BRとの結合能について測定した。
【0054】
遊離BR(4Z,15Z−BR)濃度はBrodersenの方法(Brodersen et al. J Clin Invest 1974;54:1353-64)を改良して行った。60μM BRと30μMタンパク質の混合溶液200μLを96穴イムノプレートに加え、37℃、20分間放置した。1.75mM H
2O
2 10μLを加え、3分間放置した後、1μg/mLペルオキシダーゼ(horseradish由来)(シグマ)10μLを加え反応を開始した。添加後10分間、各ウェルの450nmにおける吸光度をイムノプレートリーダーで測定した。初期酸化速度とBR濃度をプロットした検量線を作成し、遊離BR濃度を算出した。結果を
図2に示す。4Z,15Z−BRに対する20kDaフラグメントの結合能とドメインIIの結合能は、同等であった。
【0055】
(試験例2)
20kDaフラグメントによる4Z,15Z−BRの腎排泄促進効果を調べた。ラットを3匹ずつ3群に分けて第1群(BR群)には、4Z,15Z−BR(560μg/体重)を投与し、第2群(BR−HSA群)には、4Z,15Z−BR(560μg/体重)およびHSA(62800μg/体重)を投与し、第3群(BR−20kDa群)には、4Z,15Z−BR(560μg/体重)および20kDaフラグメント(18900μg/体重)を投与した。2時間後に採血、採尿して、血清中の4Z,15Z−BRの濃度および尿0.75〜2.25ml中の4Z,15Z−BR濃度を測定した。血清中、及び尿中BR濃度は、QuantiChrom
TM Bilirubin Assay Kit(BioAssay Systems社)を用いて測定した。キットの手順に従い、総BR、間接BR濃度を測定した。結果を
図3に示す。血中総4Z,15Z−BR濃度は、20kDaフラグメント併用投与でHSA併用投与と比べて有意に低下した。特にタンパク質結合型4Z,15Z−BR濃度が顕著に低下した。尿中総4Z,15Z−BR量は20kDaフラグメント併用投与でHSA併用投与と比べて有意に増加した。また、尿中のタンパク質量を測定した。結果を
図4に示す。尿中タンパク質は20kDaフラグメント併用投与でHSA併用投与と比較して有意に増加した。これは、20kDaフラグメントは4Z,15Z−BRと結合して尿中に排泄されたことを示す。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明のビリルビン排泄促進剤は、体内のビリルビンと結合して体外に排出されるので、体内のビリルビン排泄、除去に効果を有し、高ビリルビン血症などの治療に有効である。
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]