特許第6094486号(P6094486)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6094486PD−1アゴニストからなる自己免疫疾患治療剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6094486
(24)【登録日】2017年2月24日
(45)【発行日】2017年3月15日
(54)【発明の名称】PD−1アゴニストからなる自己免疫疾患治療剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/395 20060101AFI20170306BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20170306BHJP
   A61P 5/48 20060101ALI20170306BHJP
   A61K 38/00 20060101ALI20170306BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20170306BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20170306BHJP
   A61P 17/06 20060101ALI20170306BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20170306BHJP
   C07K 16/28 20060101ALN20170306BHJP
【FI】
   A61K39/395 NZMD
   A61P3/10
   A61P5/48
   A61K37/02
   A61P37/06
   A61P29/00
   A61P17/06
   A61P17/00
   !C07K16/28ZNA
【請求項の数】20
【全頁数】30
(21)【出願番号】特願2013-528081(P2013-528081)
(86)(22)【出願日】2012年8月10日
(86)【国際出願番号】JP2012070498
(87)【国際公開番号】WO2013022091
(87)【国際公開日】20130214
【審査請求日】2015年6月24日
(31)【優先権主張番号】特願2011-176022(P2011-176022)
(32)【優先日】2011年8月11日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000185983
【氏名又は名称】小野薬品工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】柴山 史朗
(72)【発明者】
【氏名】今井 雅道
【審査官】 中尾 忍
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2003/011911(WO,A1)
【文献】 特開2010−229134(JP,A)
【文献】 Okazaki,T. et al.,PD-1 and PD-1 ligands: from discovery to clinical application,Int. Immunol.,日本,2007年 7月,Vol.19,No.7,P.813-824
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 39/395
A61K 45/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
PD−1−CD3二重特異性抗体を有効成分とする薬剤であって、
(a)最初の投与から1カ月以内の期間に1〜10回投与され、
(b)該PD−1−CD3二重特異性抗体の合計投与量が少なくとも20μg/kgであり、
(c)最後の投与から3カ月以上投与の必要のないことを特徴とする自己免疫疾患の予防、症状進展抑制および/または治療剤。
【請求項2】
PD−1−CD3二重特異性抗体を有効成分とする薬剤であって、
(a)最初の投与から1カ月以内の期間に1〜10回投与され、
(b)該PD−1−CD3二重特異性抗体の合計投与量が少なくとも20μg/kgであり、
(c)最後の投与から3カ月以上投与を行わないことを特徴とする自己免疫疾患の予防、症状進展抑制および/または治療剤。
【請求項3】
自己免疫疾患が、I型糖尿病、全身性エリテマトーデス、乾癬、関節リウマチ、炎症性腸疾患、甲状腺機能亢進症、自己免疫性副腎機能不全、自己免疫性溶血性貧血、多発性硬化症、乾癬性関節炎、シェーグレン症候群、多発性筋炎、皮膚筋炎、重症筋無力症、特発性血小板減少性紫斑病、自己免疫性視神経症または強皮症である請求項1または2記載の予防、症状進展抑制および/または治療剤。
【請求項4】
自己免疫疾患が、I型糖尿病、多発性硬化症、シェーグレン症候群、重症筋無力症または炎症性腸疾患である請求項1または2記載の予防、症状進展抑制および/または治療剤。
【請求項5】
自己免疫疾患が、I型糖尿病、多発性硬化症または炎症性腸疾患である請求項1または2記載の予防、症状進展抑制および/または治療剤。
【請求項6】
I型糖尿病の患者が、発症初期の患者もしくは症状軽度の患者である請求項5記載の症状進展抑制および/または治療剤。
【請求項7】
最初の投与から3〜11日間に4〜6回投与される請求項1〜6のいずれかに記載の予防、症状進展抑制および/または治療剤。
【請求項8】
最初の投与から4日間に1〜5回投与される請求項1〜6のいずれかに記載の予防、症状進展抑制および/または治療剤。
【請求項9】
最初の投与から3日間に1〜4回投与される請求項1〜6のいずれかに記載の予防、症状進展抑制および/または治療剤。
【請求項10】
最初の投与から2日間に1〜3回投与される請求項1〜6のいずれかに記載の予防、症状進展抑制および/または治療剤。
【請求項11】
最初の投与日に1回投与される請求項1〜6のいずれかに記載の予防、症状進展抑制および/または治療剤。
【請求項12】
最後の投与から6ヵ月以上投与の必要のないあるいは投与を行わない請求項1〜11記載の予防、症状進展抑制および/または治療剤。
【請求項13】
最後の投与から12ヵ月以上投与の必要のないあるいは投与を行わない請求項1〜11記載の予防、症状進展抑制および/または治療剤。
【請求項14】
PD−1−CD3二重特異性抗体の合計投与量が160μg/kg〜960μg/kgである請求項1〜13のいずれかに記載の予防、症状進展抑制および/または治療剤。
【請求項15】
PD−1−CD3二重特異性抗体の合計投与量が300μg/kg〜960μg/kgである請求項1〜13のいずれかに記載の予防、症状進展抑制および/または治療剤。
【請求項16】
PD−1−CD3二重特異性抗体が、PD−1−CD3二重特異性ハイブリッド抗体である請求項1〜15のいずれかに記載の予防、症状進展抑制および/または治療剤。
【請求項17】
PD−1−CD3二重特異性抗体が、PD−1−CD3ε二重特異性抗体である請求項1〜15のいずれかに記載の予防、症状進展抑制および/または治療剤。
【請求項18】
PD−1−CD3ε二重特異性抗体が、PD−1−CD3ε二重特異性ハイブリッド抗体である請求項17記載の予防、症状進展抑制および/または治療剤。
【請求項19】
PD−1−CD3二重特異性抗体を構成するPD−1抗体の抗原結合部位が、配列番号5のアミノ酸配列からなるVのCDR1、配列番号6のアミノ酸配列からなるVのCDR2および配列番号7のアミノ酸配列からなるVのCDR3を有する重鎖可変領域、並びに
配列番号8のアミノ酸配列からなるVLのCDR1、配列番号9のアミノ酸配列からなるVLのCDR2および配列番号10のアミノ酸配列からなるVLのCDR3を有する軽鎖可変領域を含むモノクローナル抗体の抗原結合部位である請求項1〜18のいずれかに記載の予防、症状進展抑制および/または治療剤。
【請求項20】
PD−1−CD3二重特異性抗体を構成するCD3抗体の抗原結合部位が、OKT3、OKT3γ1(ala−ala)、ChAglyCD3またはHUM291の抗原結合部位である請求項17〜19のいずれかに記載の予防、症状進展抑制および/または治療剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PD−1アゴニストを有効成分として含む自己免疫疾患治療剤に関する。具体的には、PD−1アゴニストを特定の用量及び用法で投与することを特徴とする自己免疫疾患治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
自己免疫疾患とは、自己の組織に対する免疫反応が異常に亢進してしまう疾患であり、その治療には一般的にステロイド投与、さらにはシクロスポリンやメトトレキサート等の免疫抑制剤の持続的な投与による治療が行われている。しかしながら、これらの薬剤は、自己に対する免疫反応を抑えるだけでなく、病原体感染に対する免疫反応をも抑制してしまうため、それらの投薬管理は患者並びに医療関係者の負担となっている。
【0003】
ところで、PD−1は免疫グロブリンファミリーに属する免疫抑制受容体であり、抗原レセプターからの刺激により活性化したT細胞の免疫活性化シグナルを抑制する機能を持つ分子である。PD−1ノックアウトマウスの解析等から、PD−1シグナルは、自己免疫性拡張型心筋症、ループス様症候群、自己免疫性脳脊髄炎、全身性ループスエリテマトーデス、移植片対宿主病、I型糖尿病およびリウマチ性関節炎などの自己免疫疾患の抑制に重要な役割を果たすことが知られている。したがって、PD−1シグナルを増強するPD−1アゴニストは自己免疫疾患の予防または治療剤となり得ることが指摘されている。
【0004】
これまでにPD−1アゴニストとしてPD−1二重特異性抗体が知られている(特許文献1ないし3)。この二重特異性抗体は、T細胞受容体複合体のメンバーであるCD3を認識する抗体の抗原認識部位とPD−1を認識する抗体の抗原認識部位とを遺伝子工学的に連結されたものであり、PD−1をT細胞受容体複合体近傍に位置させる頻度を上げることによって、T細胞受容体複合体に対するPD−1の抑制シグナルを増強する作用をもつ。さらに、同特許文献には、PD−1二重特異性抗体が自己免疫疾患の予防または治療に使用できることも記載されている。
【0005】
しかしながら、感染症の罹患リスクを低減させつつ、一方で少数回の投与のみで治療効果を持続でき、患者への投薬負担を軽減するPD−1アゴニストの処方については知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第01/014557号パンフレット
【特許文献2】国際公開第03/011911号パンフレット
【特許文献3】国際公開第04/072286号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、感染症の罹患リスクが低く、しかも患者への投薬負担を軽減した自己免疫疾患に対する予防、症状進展抑制または治療剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の発明者らは鋭意検討した結果、かかる課題を解決し得る物質としてPD−1アゴニストに着目し、さらにこれを特定の用量および用法で処方することによって上記課題を解決することを見出して、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
[1] PD−1アゴニストを有効成分とする薬剤であって、
(a)最初の投与から1カ月以内の期間に1〜10回投与され、
(b)該PD−1アゴニストの合計投与量が20μg/kg〜1250μg/kgであり、
(c)最後の投与から3カ月以上投与の必要のないことを特徴とする自己免疫疾患の予防、症状進展抑制および/または治療剤。
[2] PD−1アゴニストを有効成分とする薬剤であって、
(a)最初の投与から1カ月以内の期間に1〜10回投与され、
(b)該PD−1アゴニストの合計投与量が20μg/kg〜1250μg/kgであり、
(c)最後の投与から3カ月以上投与を行わないことを特徴とする自己免疫疾患の予防、症状進展抑制および/または治療剤。
[3] 自己免疫疾患が、I型糖尿病、全身性エリテマトーデス、乾癬、関節リウマチ、炎症性腸疾患(例えば、潰瘍性大腸炎、クローン病)、甲状腺機能亢進症、自己免疫性副腎機能不全、自己免疫性溶血性貧血、多発性硬化症、乾癬性関節炎、シェーグレン症候群、多発性筋炎、皮膚筋炎または強皮症である前記[1]または[2]記載の予防、症状進展抑制および/または治療剤。
[4] 自己免疫疾患が、I型糖尿病、多発性硬化症、炎症性腸疾患(例えば、潰瘍性大腸炎、クローン病)である前記[1]または[2]記載の予防、症状進展抑制および/または治療剤。
[5] 自己免疫疾患が、I型糖尿病である前記[4]記載の予防、症状進展抑制および/または治療剤。
[6] I型糖尿病の患者が、発症初期の患者もしくは症状軽度の患者である前記[5]記載の症状進展抑制および/または治療剤。
[7] 発症が確認されていないI型糖尿病の素因保有者に投与される前記[5]記載の予防剤。
[8] I型糖尿病の発症初期の患者あるいは症状軽度の患者が、インスリン分泌能あるいはβ細胞機能が健常人の10%以上残存している患者である前記[6]記載の症状進展抑制および/または治療剤。
[9] 発症が確認されていないI型糖尿病の素因保有者が、
(I)糖尿病の臨床診断基準における境界型である者、
(II)発症前診断において、抗ランゲルハンス氏島抗体、抗GAD抗体、抗インスリン抗体および抗IA−2抗体から選択される1種以上が陽性の者、あるいは
(III)一または二親等以内の血族に自己免疫疾患の家族歴を持つ者である前記[7]記載の予防剤。
[10] 最後の投与から3カ月以上、
(i)インスリンの平均1日投与量が該PD−1アゴニストの最初の投与前から増加しないか、
(ii)インスリンの平均投与量が0.25IU/kg/日以下に維持できるか、
(iii)HbA1cが7.5%未満であるか、あるいは
(iv)血中Cペプチド濃度が該PD−1アゴニストの最初の投与前の90%以上を維持できる前記[3]〜[6]のいずれかに記載または[8]記載の症状進展抑制剤。
[11] 最後の投与から4カ月以上投与の必要のない前記[1]または[3]〜[10]のいずれかに記載の予防、症状進展抑制および/または治療剤。
[12] 最後の投与から5カ月以上投与の必要のない前記[1]または[3]〜[10]のいずれかに記載の予防、症状進展抑制および/または治療剤。
[13] 最後の投与から6カ月以上投与の必要のない前記[1]または[3]〜[10]のいずれかに記載の予防、症状進展抑制および/または治療剤。
[14] 最後の投与から7カ月以上投与の必要のない前記[1]または[3]〜[10]のいずれかに記載の予防、症状進展抑制および/または治療剤。
[15] 最後の投与から8カ月以上投与の必要のない前記[1]または[3]〜[10]のいずれかに記載の予防、症状進展抑制および/または治療剤。
[16] 最後の投与から9カ月以上投与の必要のない前記[1]または[3]〜[10]のいずれかに記載の予防、症状進展抑制および/または治療剤。
[17] 最後の投与から12カ月以上投与の必要のない前記[1]または[3]〜[10]のいずれかに記載の予防、症状進展抑制および/または治療剤。
[18] 最後の投与から15カ月以上投与の必要のない前記[1]または[3]〜[10]のいずれかに記載の予防、症状進展抑制および/または治療剤。
[19] 最後の投与から18カ月以上投与の必要のない前記[1]または[3]〜[10]のいずれかに記載の予防、症状進展抑制および/または治療剤。
[20] 最後の投与から21カ月以上投与の必要のない前記[1]または[3]〜[10]のいずれかに記載の予防、症状進展抑制および/または治療剤。
[21] 最後の投与から24カ月以上投与の必要のない前記[1]または[3]〜[10]のいずれかに記載の予防、症状進展抑制および/または治療剤。
[22] 最後の投与から36カ月以上投与の必要のない前記[1]または[3]〜[10]のいずれかに記載の予防、症状進展抑制および/または治療剤。
[23] 最後の投与から4カ月以上投与を行わない前記[2]〜[9]のいずれかに記載の予防、症状進展抑制および/または治療剤。
[24] 最後の投与から5カ月以上投与を行わない前記[2]〜[9]のいずれかに記載の予防、症状進展抑制および/または治療剤。
[25] 最後の投与から6カ月以上投与を行わない前記[2]〜[9]のいずれかに記載の予防、症状進展抑制および/または治療剤。
[26] 最後の投与から7カ月以上投与を行わない前記[2]〜[9]のいずれかに記載の予防、症状進展抑制および/または治療剤。
[27] 最後の投与から8カ月以上投与を行わない前記[2]〜[9]のいずれかに記載の予防、症状進展抑制および/または治療剤。
[28] 最後の投与から9カ月以上投与を行わない前記[2]〜[9]のいずれかに記載の予防、症状進展抑制および/または治療剤。
[29] 最後の投与から12カ月以上投与を行わない前記[2]〜[9]のいずれかに記載の予防、症状進展抑制および/または治療剤。
[30] 最後の投与から15カ月以上投与を行わない前記[2]〜[9]のいずれかに記載の予防、症状進展抑制および/または治療剤。
[31] 最後の投与から18カ月以上投与を行わない前記[2]〜[9]のいずれかに記載の予防、症状進展抑制および/または治療剤。
[32] 最後の投与から21カ月以上投与を行わない前記[2]〜[9]のいずれかに記載の予防、症状進展抑制および/または治療剤。
[33] 最後の投与から24カ月以上投与を行わない前記[2]〜[9]のいずれかに記載の予防、症状進展抑制および/または治療剤。
[34] 最後の投与から36カ月以上投与を行わない前記[2]〜[9]のいずれかに記載の予防、症状進展抑制および/または治療剤。
[35] 最初の投与から19日間に1〜10回投与される前記[1]〜[34]のいずれかに記載の予防、症状進展抑制および/または治療剤。
[36] 最初の投与から17日間に1〜10回投与される前記[1]〜[34]のいずれかに記載の予防、症状進展抑制および/または治療剤。
[37] 最初の投与から15日間に1〜10回投与される前記[1]〜[34]のいずれかに記載の予防、症状進展抑制および/または治療剤。
[38] 最初の投与から13日間に1〜10回投与される前記[1]〜[34]のいずれかに記載の予防、症状進展抑制および/または治療剤。
[39] 最初の投与から11日間に1〜10回投与される前記[1]〜[34]のいずれかに記載の予防、症状進展抑制および/または治療剤。
[40] 最初の投与から9日間に1〜10回投与される前記[1]〜[34]のいずれかに記載の予防、症状進展抑制および/または治療剤。
[41] 最初の投与から8日間に1〜9回投与される前記[1]〜[34]のいずれかに記載の予防、症状進展抑制および/または治療剤。
[42] 最初の投与から7日間に1〜8回投与される前記[1]〜[34]のいずれかに記載の予防、症状進展抑制および/または治療剤。
[43] 最初の投与から6日間に1〜7回投与される前記[1]〜[34]のいずれかに記載の予防、症状進展抑制および/または治療剤。
[44] 最初の投与から5日間に1〜6回投与される前記[1]〜[34]のいずれかに記載の予防、症状進展抑制および/または治療剤。
[45] 最初の投与から4日間に1〜5回投与される前記[1]〜[34]のいずれかに記載の予防、症状進展抑制および/または治療剤。
[46] 最初の投与から3日間に1〜4回投与される前記[1]〜[34]のいずれかに記載の予防、症状進展抑制および/または治療剤。
[47] 最初の投与から2日間に1〜3回投与される前記[1]〜[34]のいずれかに記載の予防、症状進展抑制および/または治療剤。
[48] 最初の投与日に1回投与される前記[1]〜[34]のいずれかに記載の予防、症状進展抑制および/または治療剤。
[49] PD−1アゴニストの合計投与量が、30μg/kg〜960μg/kgである前記[1]〜[48]のいずれかに記載の予防、症状進展抑制および/または治療剤。
[50] PD−1アゴニストの合計投与量が、48μg/kg〜960μg/kgである前記[1]〜[48]のいずれかに記載の予防、症状進展抑制および/または治療剤。
[51] PD−1アゴニストの合計投与量が、48μg/kg〜480μg/kgである前記[1]〜[48]のいずれかに記載の予防、症状進展抑制および/または治療剤。
[52] PD−1アゴニストの合計投与量が、48μg/kg〜160μg/kgである前記[1]〜[48]のいずれかに記載の予防、症状進展抑制および/または治療剤。
[53] PD−1アゴニストの合計投与量が、160μg/kg〜960μg/kgである前記[1]〜[48]のいずれかに記載の予防、症状進展抑制および/または治療剤。
[54] PD−1アゴニストの合計投与量が、160μg/kg〜480μg/kgである前記[1]〜[48]のいずれかに記載の予防、症状進展抑制および/または治療剤。
[55] PD−1アゴニストの合計投与量が、480μg/kg〜960μg/kgである前記[1]〜[48]のいずれかに記載の予防、症状進展抑制および/または治療剤。
[56] PD−1アゴニストの合計投与量が、30μg/kg〜600μg/kgである前記[1]〜[48]のいずれかに記載の予防、症状進展抑制および/または治療剤。
[57] PD−1アゴニストの合計投与量が、30μg/kg〜300μg/kgである前記[1]〜[48]のいずれかに記載の予防、症状進展抑制および/または治療剤。
[58] PD−1アゴニストの合計投与量が、30μg/kg〜100μg/kgである前記[1]〜[48]のいずれかに記載の予防、症状進展抑制および/または治療剤。
[59] PD−1アゴニストの合計投与量が、100μg/kg〜600μg/kgである前記[1]〜[48]のいずれかに記載の予防、症状進展抑制および/または治療剤。
[60] PD−1アゴニストの合計投与量が、100μg/kg〜300μg/kgである前記[1]〜[48]のいずれかに記載の予防、症状進展抑制および/または治療剤。
[61] PD−1アゴニストの合計投与量が、100μg/kg〜160μg/kgである前記[1]〜[48]のいずれかに記載の予防、症状進展抑制および/または治療剤。
[62] PD−1アゴニストの合計投与量が、300μg/kg〜480μg/kgである前記[1]〜[48]のいずれかに記載の予防、症状進展抑制および/または治療剤。
[63] PD−1アゴニストの合計投与量が、300μg/kg〜600μg/kgである前記[1]〜[48]のいずれかに記載の予防、症状進展抑制および/または治療剤。
[64] PD−1アゴニストの合計投与量が、300μg/kg〜960μg/kgである前記[1]〜[48]のいずれかに記載の予防、症状進展抑制および/または治療剤。
[65] PD−1アゴニストが、PD−1二重特異性抗体、PD−1アゴニスト抗体またはPD−1二重特異性タンパクである前記[1]〜[64]のいずれかに記載の予防、症状進展抑制および/または治療剤。
[66] PD−1二重特異性抗体が、PD−1−CD3二重特異性抗体である前記[65]記載の予防、症状進展抑制および/または治療剤。
[67] PD−1−CD3二重特異性抗体が、PD−1−CD3二重特異性sc(Fv)である前記[66]記載の予防、症状進展抑制および/または治療剤。
[68] PD−1二重特異性抗体を構成するPD−1抗体の抗原結合部位が、国際公開第2006/121168号に記載のハイブリドーマ17D8、2D3、4H1、5C4、4A11、7D3もしくは5F4クローン由来のモノクローナル抗体の抗原結合部位である前記[65]〜[67]のいずれかに記載の予防、症状進展抑制および/または治療剤。
[69] PD−1二重特異性抗体を構成するCD3抗体の抗原結合部位が、OKT3、OKT3γ1(ala−ala)、ChAglyCD3(国際公開第93/19196号)またはHUM291の抗原結合部位である前記[65]〜[68]のいずれかに記載の予防、症状進展抑制および/または治療剤。
[70] PD−1アゴニストを有効成分とする薬剤であって、
(a)インスリン分泌能あるいはβ細胞機能が健常人の10%以上残存しているI型糖尿病患者に対して、1回投与もしくは最初の投与から24時間〜11日間に2〜6回投与され、
(b)該PD−1アゴニストの合計投与量が30μg/kg〜960μg/kgであり、
(c)最後の投与から12カ月以上、
(i)インスリンの平均1日投与量が該PD−1アゴニストの最初の投与前から増加しないか、
(ii)インスリンの平均投与量が0.25IU/kg/日以下に維持できるか、
(iii)HbA1cが7.5%未満であるか、あるいは
(iv)Cペプチド反応が該PD−1アゴニストの最初の投与前の90%以上を維持できることを特徴とするI型糖尿病の症状進展抑制および/または治療剤。
[71] PD−1アゴニストを有効成分とする薬剤であって、
(a)インスリン分泌能あるいはβ細胞機能が健常人の10%以上残存しているI型糖尿病患者に対して、1回投与もしくは最初の投与から24時間〜11日間に2〜6回投与され、
(b)該PD−1アゴニストの合計投与量が30μg/kg〜960μg/kgであり、
(c)最後の投与から12カ月以上投与を行わないことを特徴とするI型糖尿病の症状進展抑制および/または治療剤。
[72] PD−1アゴニストを有効成分とする薬剤であって、
(a)インスリン分泌能あるいはβ細胞機能が健常人の10%以上残存しているI型糖尿病患者に対して、最初の投与から3〜11日間に4〜6回投与され、
(b)該PD−1アゴニストの合計投与量が300μg/kg〜960μg/kgであり、
(c)最後の投与から12カ月以上、
(i)インスリンの平均1日投与量が該PD−1アゴニストの最初の投与前から増加しないか、
(ii)インスリンの平均投与量が0.25IU/kg/日以下に維持できるか、
(iii)HbA1cが7.5%未満であるか、あるいは
(iv)Cペプチド反応が該PD−1アゴニストの最初の投与前の90%以上を維持できることを特徴とするI型糖尿病の症状進展抑制および/または治療剤。
[73] PD−1アゴニストを有効成分とする薬剤であって、
(a)インスリン分泌能あるいはβ細胞機能が健常人の10%以上残存しているI型糖尿病患者に対して、最初の投与から3〜11日間に4〜6回投与され、
(b)該PD−1アゴニストの合計投与量が300μg/kg〜960μg/kgであり、
(c)最後の投与から12カ月以上投与を行わないことを特徴とするI型糖尿病の症状進展抑制および/または治療剤。
[74] PD−1アゴニストを有効成分とする薬剤であって、
(a)(I)糖尿病の臨床診断基準における境界型である者、
(II)発症前診断において、抗ランゲルハンス氏島抗体、抗GAD抗体、抗インスリン抗体および抗IA−2抗体から選択される1種以上が陽性の者あるいは
(III)一または二親等以内の血族に自己免疫疾患の家族歴を持つ者に対して、最初の投与から3〜11日間に4〜6回投与され、
(b)該PD−1アゴニストの合計投与量が30μg/kg〜960μg/kgであり、
(c)最後の投与から12カ月以上発症させないI型糖尿病の予防剤。
[75] PD−1アゴニストを有効成分とする薬剤であって、
(a)(I)糖尿病の臨床診断基準における境界型である者、
(II)発症前診断において、抗ランゲルハンス氏島抗体、抗GAD抗体、抗インスリン抗体および抗IA−2抗体から選択される1種以上が陽性の者あるいは
(III)一または二親等以内の血族に自己免疫疾患の家族歴を持つ者に対して、最初の投与から3〜11日間に4〜6回投与され、
(b)該PD−1アゴニストの合計投与量が300μg/kg〜960μg/kgであり、
(c)最後の投与から12カ月以上発症させないI型糖尿病の予防剤。
[76] PD−1アゴニストが、PD−1−CD3二重特異性sc(Fv)である前記[70]〜[75]のいずれかに記載のI型糖尿病の予防、症状進展抑制および/または治療剤。
[77] PD−1アゴニストを自己免疫疾患患者に対して、1〜10回、最初の投与から1カ月以内の期間に投与し、該PD−1アゴニストの合計投与量が20μg/kg〜1250μg/kgであり、最後の投与から3カ月以上、該自己免疫疾患の症状進展を抑制および/または治療効果が持続する方法。
[78] 自己免疫疾患患者に対して最初の投与から1カ月以内の期間に1〜10回投与され、その合計投与量が20μg/kg〜1250μg/kgであり、最後の投与から3カ月以上、該自己免疫疾患の症状進展を抑制すること、および/または治療効果を持続させることにおける使用のためのPD−1アゴニスト。
[79] PD−1アゴニストを発症が確認されていないI型糖尿病の素因保有者に対して最初の投与から1カ月以内の期間に1〜10回投与し、該PD−1アゴニストの合計投与量が20μg/kg〜1250μg/kgであり、最後の投与から3カ月以上、I型糖尿病の発症を予防する方法。
[80] 発症が確認されていないI型糖尿病の素因保有者に対して、最初の投与から1カ月以内の期間に1〜10回投与され、その合計投与量が20μg/kg〜1250μg/kgであり、最後の投与から3カ月以上、I型糖尿病の発症を予防するためのPD−1アゴニスト。
【発明の効果】
【0010】
本発明にかかる自己免疫疾患の予防、症状進展抑制および/または治療剤は、感染症の罹患リスクを低減しつつ、少数回の投与のみで、自己免疫疾患の予防効果、症状進展抑制効果および/または治療効果を一定期間持続させることができるため、自己免疫疾患の発症リスクを有する者もしくは患者あるいはその医療関係者の投薬管理負担を軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】自然発症I型糖尿病動物モデル(NODマウス)における、対照群(リン酸緩衝液投与群)での血糖値の推移を表わす。ここで、図中の各グラフは各々の個体の結果を表わす。
図2】自然発症I型糖尿病動物モデルにおける、PD−1アゴニスト(0.3μg/日)の5回連日投与群の血糖値降下作用を表わす。ここで、図中の各グラフはPD−1アゴニストを投与された各々の個体の結果を表わす。
図3】自然発症I型糖尿病動物モデルにおける、PD−1アゴニスト(1μg/日)の5回連日投与群の血糖値降下作用を表わす。ここで、図中の各グラフはPD−1アゴニストを投与された各々の個体の結果を表わす。
図4】自然発症I型糖尿病動物モデルにおける、PD−1アゴニスト(6μg/日)の5回連日投与の血糖値降下作用を表わす。ここで、図中の各グラフはPD−1アゴニストを投与された各々の個体の結果を表わす。
図5】自然発症I型糖尿病動物モデルにおける、PD−1アゴニスト(6μg/日)の週3回(8週間)投与群の血糖値降下作用を表わす。ここで、図中の各グラフはPD−1アゴニストを投与された各々の個体の結果を表わす。
図6】自然発症I型糖尿病動物モデルにおける、対照群とPD−1アゴニスト(0.3、1または6μg/日)の5回連日投与群の糖尿病発症状態を発症率で表わす。図中、○、□および△印は各々のPD−1アゴニスト投与群を表わし、◇印は対照群を表わす。
図7】自然発症I型糖尿病動物モデルにおける、リン酸緩衝液1回投与である対照群の血糖値降下作用を表わす。ここで、図中の各グラフは各々の個体の結果を表わす。
図8】自然発症I型糖尿病動物モデルにおける、PD−1アゴニスト(3μg/日)の1回投与群の血糖値降下作用を表わす。ここで、図中の各グラフはPD−1アゴニストを投与された各々の個体の結果を表わす。
図9】自然発症I型糖尿病動物モデルにおける、PD−1アゴニスト(3μg/日)の2回連日投与群の血糖値降下作用を表わす。ここで、図中の各グラフはPD−1アゴニストを投与された各々の個体の結果を表わす。
図10】自然発症I型糖尿病動物モデルにおける、PD−1アゴニスト(3μg/日)の3回連日投与群の血糖値降下作用を表わす。ここで、図中の各グラフはPD−1アゴニストを投与された各々の個体の結果を表わす。
図11】自然発症I型糖尿病動物モデルにおける、PD−1アゴニスト(3μg/日)の4回連日投与群の血糖値降下作用を表わす。ここで、図中の各グラフはPD−1アゴニストを投与された各々の個体の結果を表わす。
図12】自然発症I型糖尿病動物モデルにおける、PD−1アゴニスト(3μg/日)の5回連日投与群の血糖値降下作用を表わす。ここで、図中の各グラフはPD−1アゴニストを投与された各々の個体の結果を表わす。
図13】多発性硬化症動物モデル(実験的自己免疫性脳脊髄炎:EAE)における、免疫処置日から5回連日(3μg/日)投与したPD−1アゴニストによる多発性硬化症発症抑制効果を表わす。図中、○印はPD−1アゴニスト投与群を表わし、×印は対照群(リン酸緩衝液投与群)を表わす。
図14】多発性硬化症動物モデルにおける、免疫処置日当日あるいは6日目から5回連日投与したPD−1アゴニストによる多発性硬化症発症抑制効果を表わす。図中、□印は6μg/日のPD−1アゴニストを免疫処置日から5回連日投与した群を表わし、△印は6μg/日のPD−1アゴニストを免疫処置日から6日目より5回連日投与した群を表わし、×印は対照群(リン酸緩衝液投与群)を表わす。
図15】多発性硬化症動物モデルにおける、免疫処置日から6日目より5回連日投与したPD−1アゴニストによる多発性硬化症発症抑制効果を表わす。図中、□印は1μg/kg/日のPD−1アゴニストを5回連日投与した群を表わし、△印は3μg/kg/日のPD−1アゴニストを5回連日投与した群を表わし、×印は対照群(リン酸緩衝液投与群)を表わす。
図16】多発性硬化症動物モデルにおける、免疫処置日から7日目より5回連日投与したPD−1アゴニストによる多発性硬化症発症抑制効果を表わす。△印は6μg/日のPD−1アゴニストを免疫処置日から7日目より5回連日投与した群を表わし、×印は対照群(リン酸緩衝液投与群)を表わす。
図17】多発性硬化症動物モデルにおける、免疫処置日から13日目より5回連日投与したPD−1アゴニストによる多発性硬化症治療効果を表わす。△印は0.3μg/kg/日のPD−1アゴニストを免疫処置日から13日目より5回連日投与した群を表わし、×印は対照群(リン酸緩衝液投与群)を表わす。
図18】多発性硬化症動物モデルにおける、PD−1アゴニストによる多発性硬化症発症抑制効果を表わす。図中、○印は、惹起剤による最初の免疫処置日を0日目としたとき、0日目と22日目に惹起剤で2回免疫処置して、その間の7日目から連日5日間に0.22mg/kg/日のPD−1アゴニストを投与した群を表わし、□印は、上記0日目は惹起剤による免疫処置を行い、7日目から連日5日間、リン酸緩衝液を投与した群を表わし、△印は、上記0日目に惹起剤による免疫処置を行わず、22日目に惹起剤により免疫し、7日目から連日5日間にリン酸緩衝液を投与した群を表わす。
図19】多発性硬化症動物モデルにおける、PD−1アゴニストによる多発性硬化症発症抑制効果を表わす。図中、○印は、図18の実験における0日目には惹起剤による免疫を行わず、7日目から連日5日間に0.22mg/kg/日のPD−1アゴニストを投与し、22日目に惹起剤により免疫した群を表わし、□印は、0日目に惹起剤による免疫処置を行わず、22日目に惹起剤により免疫し、7日目から連日5日間にリン酸緩衝液を投与した群を表わす。
図20】大腸炎動物モデルにおける、PD−1アゴニストによる大腸炎発症抑制効果を表わす。図中、●印は6μg/匹のPD−1アゴニストを週に2〜3回(2週間)投与した群を表し、×印は10mg/kg/日のプレドニゾロンを一日一回投与した群を表わし、▲印は対照群を表し、□印は健常対照群を表わす。
図21】大腸炎動物モデルにおける、PD−1アゴニストによる大腸炎発症抑制効果を表わす。図中、○印は1μg/匹のPD−1アゴニストを5日間連日投与した群を表わし、●印は3μg/匹のPD−1アゴニストを5日間連日投与した群を表わし、▲印は対照群を表し、□印は健常対照群を表わす。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明明細書において特に限定しないかぎり、PD−1はヒトPD−1を意味し、免疫活性化受容体、その免疫受容体複合体を構成する膜タンパクおよび免疫活性化受容体と同じ免疫シナプスに位置する膜タンパクはヒト由来のものを意味する。
【0013】
ここで、免疫活性化受容体としては、例えば、T細胞受容体(TCR)、B細胞受容体(BCR)、サイトカイン受容体、LPS受容体、補体受容体およびFc受容体であり、免疫活性化受容体複合体を構成する膜タンパクとしては、例えば、CD3およびCD79等であり、免疫活性化受容体と同じ免疫シナプスに位置する膜タンパクとしては、例えば、CD2およびCD19等が挙げられる。
【0014】
本発明明細書において、PD−1アゴニストとしては、例えば、PD−1二重特異性抗体、PD−1アゴニスト抗体およびPD−1二重特異性タンパク等が挙げられる。
【0015】
PD−1二重特異性抗体とは、PD−1および免疫活性化受容体、その免疫活性化受容体複合体を構成する膜タンパクもしくは免疫活性化受容体と同じ免疫シナプスに位置する膜タンパクの両者を認識する抗体を意味し、例えば、PD−1を認識する抗体の抗原結合部位と免疫活性化受容体、その免疫活性化受容体複合体を構成する膜タンパクもしくは免疫活性化受容体と同じ免疫シナプスに位置する膜タンパクを認識する抗体の抗原結合部位を少なくとも含む改変抗体あるいは改変低分子化抗体である。ここで、PD−1を認識する抗体の抗原結合部位は、抗PD−1抗体がPD−1上のエピトープに結合する部位であって、抗PD−1抗体の重鎖可変領域(以下、Vと略記する。)と軽鎖可変領域(以下、Vと略記する。)に相当する部分から構成される。一方、免疫活性化受容体、その免疫活性化受容体複合体を構成する膜タンパクまたは免疫活性化受容体と同じ免疫シナプスに位置する膜タンパクを認識する抗体の抗原結合部位は、その抗体が上記免疫活性化受容体、その免疫活性化受容体複合体を構成する膜タンパクまたは免疫活性化受容体と同じ免疫シナプスに位置する膜タンパク上のエピトープに結合する部位であって、その抗体のVとVに相当する部分から構成される。
【0016】
PD−1二重特異性抗体の形態には、例えば、ダイアボディ、二重特異性sc(Fv)、二重特異性ミニボディ、二重特異性F(ab′)、二重特異性ハイブリッド抗体、共有結合型ダイアボディ(二重特異性DART)(国際公開第2006/113665号または国際公開第2008/157379号)、二重特異性(FvCys)(J. Immunol.,1992, Vol.149, No.1, p.120-126)、二重特異性F(ab′−ジッパー)(J. Immunol.,1992, Vol.148, No.5, p.1547-1553)、二重特異性(Fv−ジッパー)(Biochemistry, 1992, Vol.31, No.6, p.1579-1584)、二重特異性三鎖抗体(Proc.Natl.Acad.Sci.USA, 1993, Vol.90, No.14, p.6444-6448)および二重特異性mAb(www.f-star.com/technology_mab.html)等がある。
【0017】
ダイアボディとは、異なる抗原を認識するV、V同士をペプチドリンカーで連結された一本鎖ペプチドの二量体である(Proc.Natl.Acad.Sci.USA, 1993, Vol.90, No.14, p.6444-6448)。例えば、2つの異なる抗原aおよび抗原bを認識する各々の抗体のVおよびVを各々VaおよびVaならびにVbおよびVbと表わし、ペプチドリンカーを(L)と表わす場合、VaおよびVaの会合ならびにVbおよびVbの会合によって、Va−(L)−VbおよびVb−(L)−Vaが会合した二量体である。各々のVおよびVとペプチドリンカーはペプチド結合によって結合されており、ダイアボディで選択されるペプチドリンカーは、その両末端に結合するVおよびVの発現ならびにダイアボディの形成を阻害するものでなければ特に限定されないが、例えば、Ser、(Gly)−Ser、Ser−(Gly)、((Gly)−Ser)、(Ser−(Gly)[nは1〜6の整数を表わし、Serはセリンを表わし、Glyはグリシンを表わす。]などを選択することができる(J. Immunol. Meth., 1999, Vol.231, p.177-189)。
【0018】
二重特異性sc(Fv)とは、異なる抗原を認識する2つの抗体の2組のV/Vがペプチドリンカーを介して連続する一本鎖の形態で産生されるよう改変された低分子化抗体である(J. Biological Chemistry, 1994, 269: 199-206)。ここで、二重特異性sc(Fv)の形態には、2つの異なる抗原cおよび抗原dを認識する各々の抗体のVおよびVを各々VcおよびVcならびにVdおよびVdと表わし、ペプチドリンカーを各々(L)、(L)および(L)と表わす場合、N末端側から、
(1)Vc−(L)−Vc−(L)−Vd−(L)−Vdで配列されているタイプ、
(2)Vc−(L)−Vc−(L)−Vd−(L)−Vdで配列されているタイプ、
(3)Vc−(L)−Vc−(L)−Vd−(L)−Vdで配列されているタイプ、
(4)Vc−(L)−Vd−(L)−Vd−(L)−Vcで配列されているタイプ、
(5)Vc−(L)−Vd−(L)−Vd−(L)−Vcで配列されているタイプおよび
(6)Vc−(L)−Vd−(L)−Vd−(L)−Vcで配列されているタイプ等が挙げられ、VおよびVとペプチドリンカーはペプチド結合によって結合されている。二重特異性sc(Fv)は、VcおよびVcが会合し、VdおよびVdが会合することによって形成される。ここで、選択されるペプチドリンカーは、二重特異性sc(Fv)の発現ならびに形成を阻害するものでなければ特に限定されないが、例えば、Ser、(Gly)−Ser、Ser−(Gly)、((Gly)−Ser)、(Ser−(Gly)[各記号は上記と同じ意味を表わす。]などを挙げることができる。また、3つのペプチドリンカー(L)、(L)および(L)は同じでも異なっていてもよい。
【0019】
二重特異性ハイブリッド抗体とは、異なる2つの抗原を認識する抗体の重鎖/軽鎖複合体がジスルフィド結合等によって共有結合したインタクトな抗体である。二重特異性ハイブリッド抗体は、例えば、ハイブリッドハイブリドーマ法(米国特許第4474893号)で作製されたハイブリドーマから産生させることができる。また、異なる抗原を認識する抗体の重鎖および軽鎖を各々コードする計4種類のcDNAを哺乳動物細胞に共発現ならびに分泌させて製造することができる。
【0020】
二重特異性F(ab′)とは、異なる2つの抗原を認識する抗体のFab′断片が、ジスルフィド結合等により共有結合した低分子化抗体である。ここで、Fab′断片は、インタクトな抗体をペプシンで消化したF(ab′)の2つの重鎖間のジスルフィド結合の切断により調製される抗体断片である。二重特異性F(ab′)は、例えば、一方の抗体から調製したFab′断片をo−フェニレンジマレイミドにてマレイミド化し、もう一方の抗体から調製したFab′断片を反応させることにより作製することができる(Cancer Research 1997, 57: 4008-4014)。また、Fab′断片−チオニトロ安息香酸誘導体と一方のFab′−SH等の抗体断片を化学的に結合する方法も知られている(Science 1985, 229: 81-83)。
【0021】
二重特異性ミニボディとは、各々異なる抗原を認識するscFvに抗体の定常領域CH3ドメインが連結されるよう改変された低分子抗体断片を、そのCH3ドメイン上のジスルフィド結合等によって共有結合した低分子化抗体である(Biochemistry, 1992, Vo.31, No.6, p.1579-1584)。ここで、scFvとは、VおよびVがペプチドリンカー等によって連結された形態を有する一本鎖の改変低分子抗体断片である(J. Immunol. Meth., 1999, Vol.231, p.177-189)。
【0022】
本発明におけるPD−1二重特異性抗体は、PD−1抗体、免疫活性化受容体、その免疫活性化受容体複合体を構成する膜タンパクおよび/または免疫活性化受容体を同じ免疫シナプスに位置する膜タンパクを認識する抗体が非ヒト由来である場合、これをヒト化あるいはキメラ抗体としたものを用いて作製することができる。さらに、各々の抗体がヒト型抗体のものを用いて作製することもできる。ここで、ヒト化抗体とは、例えば、マウスのような別の哺乳動物に由来する抗体の相補性決定領域(以下、CDRと記載する。)をヒト抗体のフレームワーク(以下、FRと記載する。)配列上に移植した抗体を言うが、例えば、米国特許第4816567号、米国特許第5225539号および米国特許第5530101号ならびに米国特許第5585089号および米国特許第6180370号に記載された方法に基づき製造することができる。また、ヒト化抗体のCDRが適切な抗原結合部位を形成するように抗体の可変領域中のFRのアミノ酸を置換してもよい(Cancer Research, Vol.53, p.851-856(1993))。また、キメラ抗体とは、抗体の可変領域配列がヒト以外の哺乳動物由来であって、定常領域配列がヒト由来である抗体を言い、例えば、可変領域配列がマウス抗体またはラット抗体に由来し、定常領域配列がヒト抗体に由来する抗体である。ヒト型抗体とは、可変領域のCDRおよびFRならびに定常領域のすべての構成がヒトに由来する抗体であり、HuMAbマウス(商品名)(米国特許第5545806号、米国特許第5569825号、米国特許第5625126号および米国特許第5633425号など参照)、KMマウス(商品名)(国際公開第2002/43478号参照)、ゼノマウス(商品名)(米国特許第5939598号、米国特許第6075181号、米国特許第6114598号、米国特許第6150584号および米国特許第6162963号参照)、TCマウス(商品名)(Proc.Natl.Acad.Sci.USA, Vol.97, No.2,p.722-727(2000))またはヒト免疫細胞を再構築したSCIDマウス(米国特許第5476996号および米国特許第5698767号参照)を用いて製造することができる。また、ヒト型抗体は、ヒトイムノグロブリン遺伝子ライブラリースクリーニングのためのファージディスプレイ法(米国特許第5565332号、米国特許第5733743号もしくは米国特許第5858657号などまたは米国特許第5223409号、米国特許第5403484号もしくは米国特許第5571698号など参照)でも調製できる。
【0023】
本発明におけるPD−1二重特異性抗体の形態として挙げられる一連の改変抗体は、その抗原認識部位を構成するVおよびVに相当する部分を各々コードする遺伝子の改変によって製造することができる。VおよびVに相当する部分を各々コードする遺伝子は、主に抗体遺伝子ライブラリーから、あるいはモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマから遺伝子クローニングして取得することがでできる。
【0024】
抗体遺伝子ライブラリーから取得する方法、例えば、抗体ファージライブラリー(EMBO J., 1993, Vol.12, No.2, p.725-34, 米国特許第5565332号)はよく知られており、GE Healthcare社のRecombinant Phage Antibody SystemやStratagene社のSurfZAP(商品名) Phage Display Kitを用いて実施することができる。
【0025】
モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマから遺伝子クローニングして取得する方法も既によく知られており、ミルステインらの方法(Methods Enzymol., 1981, Vol.73, p.3-46)等に準じて取得したハイブリドーマから、周知の方法により、産生される抗体のVおよびVに相当する部分を各々コードするcDNAをクローニングすることができる。
【0026】
本発明におけるPD−1二重特異性抗体は、VおよびVに相当する部分を各々コードする単離cDNAを発現ベクターに挿入し、発現細胞で発現・分泌させて製造することができる。例えば、ダイアボディの場合、ダイアボディを構成する各々の一本鎖ペプチドを発現するベクターは、ペプチドリンカーをコードするDNAを挟むように、異なる抗原を認識するV、Vに相当する部分を各々コードするcDNAをインフレームで連結し、これを発現ベクターに挿入して作製することができる。各々の一本鎖ペプチドを発現するDNAは同一の発現ベクターに挿入されてもよく、また、別々の発現ベクターに挿入されてもよい。この発現ベクターを適当な発現細胞に導入して発現させると、発現細胞からダイアボディを直接分泌させることができる。また、二重特異性sc(Fv)を 発現するベクターは、二重特異性sc(Fv)の場合、例えば、異なる抗原を認識するVおよびVをコードするcDNAを各々dVaおよびdVaならびにdVbおよびdVbと表わし、ペプチドリンカーをコードするDNAを各々dL、dLおよびdLと表わすとき、5′末端からdVa−(dL)−dVa−(dL)−dVb−(dL)−dVb等の順序で、ペプチドリンカーをコードするDNAを挟むようにインフレームで連結し、これを発現ベクターに挿入して作製することができる。この発現ベクターを適当な発現細胞に導入して発現させると、発現細胞から二重特異性sc(Fv)を直接分泌させることができる。ここで、ダイアボディあるいは二重特異性sc(Fv)の発現に使用できる発現ベクターとしては、例えば、pCANTAB5E(GEヘルスケア バイオサイエンス社製)などが挙げられる。
【0027】
本発明におけるPD−1二重特異性抗体を作製する上で使用できるPD−1抗体としては、例えば、国際公開第2010/089411号に記載のPD1.3で特定される抗ヒトPD−1抗体(CNCM寄託番号1-4122で特定されるハイブリドーマ由来)、国際公開第2010/063011号に記載のEH12−1540で特定される抗ヒトPD−1抗体、国際公開第2010/036959号に記載のEH−12.2H7で特定される抗ヒトPD−1抗体、国際公開第2010/029435号に記載の各々クローン2(HPA Culture Collection番号08090903)、クローン10(同番号08090902)およびクローン19(同番号08090901)で特定される抗ヒトPD−1抗体、国際公開第2009/114335号に記載の各々1B8、28.11、1.8A10、1G7、20B3.1、7G3、3H4、6D10および2.3A9で特定される抗ヒトPD−1抗体、国際公開第2008/156712号に記載の各々hPD−1.08AおよびhPD−1.09Aで特定される抗ヒトPD−1抗体、国際公開第2003/042402号に記載の各々10F.9G2および10F.2H11で特定される抗ヒトPD−1抗体、国際公開第2004/072286号に記載のJ110(国際受託番号:FERM BP-8392)で特定される抗ヒトPD−1抗体およびImmunology Letters, 2002, Vol.83, Issue 3, p.215-220に記載の各々J105、J108およびJ116で特定される抗ヒトPD−1抗体などが挙げられる。なお、本発明明細書において特に限定しない限り、PD−1抗体は抗ヒトPD−1モノクローナル抗体を意味する。
【0028】
ところで、免疫活性化受容体、その免疫活性化受容体複合体を構成する膜タンパクとして挙げられるT細胞受容体はαサブユニットおよびβサブユニットからなり、T細胞受容体複合体は、T細胞受容体にε、δ、γおよびζサブタイプから構成されるCD3が会合した複合体である。
【0029】
本発明におけるPD−1二重特異性抗体がCD3を認識する場合、本明細書において、これをPD−1−CD3二重特異性抗体と言い、本発明におけるPD−1−CD3二重特異性抗体が認識するCD3は、ε、δ、γおよびζサブタイプであってもよい。
【0030】
ここで、本発明におけるPD−1二重特異性抗体を作製する上で使用できるCD3抗体としては、例えば、OKT3(ATCC受託番号CRL8001)(米国特許第4658019号)、7D6、12F6、38.1、89b1、131F26、BL−A8、BW239/347、BW264/56、CD3−4B5、CLB−T3/3、CRIS−7、F111−409、G19−4.1、HIT3a、ICO−90、IP30、Leu−4、LY17.2G3、M−T301、M−T302、MEM−57、MEM−92、NU−T3、OKT3D、SMC2、T3、T3(2Ad2)、T3/2Ad2A2、T3/2AD、T3(2ADA)、T3/2T8−2F4、T3/RW2−4B6、T3/RW2−8C8、T10B9、T101−01、UCHT1、VIT3、VIT3b、X35−3、XXIII.46、XXIII.87、XXIII.141、YTH12.5、YTH12.5、CLB−T3.4.2、WT31、WT32、SPv−T3b、11D8、M291、Leu4、500A2、SP34、RIV−9、BH11、T2/30、AG3およびBC3などが挙げられる。
【0031】
また、CD3抗体については、OKT3γ1(ala−ala)(米国特許第6491916号)、ChAglyCD3(国際公開第93/19196号)およびHUM291(国際公開第97/44362号)等のヒト化抗体が知られている。なお、本発明明細書において特に限定しない限り、CD3抗体は抗ヒトCD3モノクローナル抗体を意味する。
【0032】
一方、PD−1抗体については、例えば、国際公開第2006/121168号に記載の17D8、2D3、4H1、5C4、4A11、7D3もしくは5F4で特定される抗体や国際公開第2004/056875号に記載の各々PD1−17、PD1−28、PD1−33およびPD1−35で特定される抗体等のヒト型抗体が知られている。
【0033】
PD−1アゴニスト抗体とは、PD−1二重特異性抗体を除き、PD−1の免疫抑制シグナルを増強する作用を有するインタクトな抗体であり、例えば、国際公開第2010/029435号に記載の各々クローン2(HPA Culture Collection番号08090903)、クローン10(同番号08090902)およびクローン19(同番号08090901)で特定される抗ヒトPD−1抗体等が挙げられる。本発明において、複数のPD−1アゴニスト抗体を同時にあるいは併用して用いてもよい。
【0034】
PD−1二重特異性タンパクとは、PD−1並びに免疫活性化受容体、その免疫活性化受容体複合体を構成する膜タンパクもしくは免疫活性化受容体を同じ免疫シナプスに位置する膜タンパクの両者を認識する非免疫グロブリンタンパクであり、その形態としては、例えば、アドネクチン(Adnectin)(国際公開第2001/64942号)、アフィボディ(Affibody)(商品名)(国際公開第95/19374号、国際公開第2000/63243号)、アンチカリン(Anticalin)(商品名)(国際公開第99/16873号)、アビマー(Avimer)(Nature Biotechnology (2005), Vol.23, pp.1556-1561)、DARPin(Nature Biotechnology (2004), Vol.22, pp.575-582)、LRRP(Nature (2004), Vol.430, No.6996, pp.174-180)、アフィチン(Affitin)(Journal of molecular biology (2008), Vol.383, No.5, pp.1058-1068)、フィノマー(Fynomer)(国際公開第2011/023685号)等が挙げられる。
【0035】
本発明におけるPD−1アゴニストが予防、症状進展抑制および/または治療可能な自己免疫疾患としては、例えば、ベーチェット病、全身性エリテマトーデス、多発性硬化症(全身性強皮症、進行性全身性硬化症)、強皮症、多発性筋炎、皮膚筋炎、結節性動脈周囲炎(結節性多発動脈炎、顕微鏡的多発血管炎)、大動脈炎症候群(高安動脈炎)、悪性関節リウマチ、関節リウマチ、ウェゲナー肉芽腫症、混合性結合組織病、シェーグレン症候群、成人スティル病、アレルギー性肉芽腫性血管炎、過敏性血管炎、コーガン症候群、RS3PE、側頭動脈炎、リウマチ性多発筋痛症、線維筋痛症、抗リン脂質抗体症候群、好酸球性筋膜炎、IgG4関連疾患(例えば、原発性硬化性胆管炎、自己免疫性膵炎など)、ギラン・バレー症候群、重症筋無力症、慢性萎縮性胃炎、自己免疫性肝炎、原発性胆汁性肝硬変、大動脈炎症候群、グッドパスチャー症候群、急速進行性糸球体腎炎、巨赤芽球性貧血、自己免疫性溶血性貧血、自己免疫性好中球減少症、特発性血小板減少性紫斑病、バセドウ病(甲状腺機能亢進症)、橋本病、自己免疫性副腎機能不全、原発性甲状腺機能低下症、特発性アジソン病(慢性副腎皮質機能低下症)、I型糖尿病、慢性円板状エリテマトーデス、限局性強皮症、乾癬、乾癬性関節炎、天疱瘡、類天疱瘡、妊娠性疱疹、線状IgA水疱性皮膚症、後天性表皮水疱症、円形脱毛症、尋常性白斑、原田病、自己免疫性視神経症、特発性無精子症、習慣性流産、炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎、クローン病)などが挙げられる。また、本発明の処方は、移植片対宿主病(GVHD)の予防または治療にも応用することができる。
【0036】
本発明におけるPD−1アゴニストによる予防、症状進展抑制および/または治療剤が有効な自己免疫疾患患者としては、例えば、その診断が確定した患者および急性増悪期の患者に加えて、発症が確認されていない自己免疫疾患の素因保有者、発症初期の患者もしくは症状軽度の患者または再発した患者が含まれる。
【0037】
ここで、発症が確認されていない自己免疫疾患の素因保有者については、
(I)各疾患の発症前診断において、各種診断マーカーが陽性であって将来的に発症するリスクのある者、
(II)各疾患の診断基準を満たさないが、いわゆる境界領域にある者、
(III)一または二親等以内の血族に自己免疫疾患の家族歴のある者等が対象となる。
【0038】
例えば、I型糖尿病の場合では、
(I)発症前診断において、例えば、抗ランゲルハンス氏島抗体(抗ICA512抗体)、抗GAD65抗体および抗GAD67抗体等の抗グルタミン酸脱炭酸酵素抗体(抗GAD抗体)、抗インスリン抗体ならびに抗IA−2抗体から選択される1種以上が陽性である者、
(II)2010年7月1日に施行された日本糖尿病学会による糖尿病の臨床診断基準(2010年)により糖尿病型とも正常型とも判断されない、いわゆる境界型にある者、
(III)一または二親等以内の血族にI型糖尿病を含む自己免疫疾患の家族歴を持つ者、さらには
(IV)HLA型DR7を有する白人系、HLA型DR4を有する黒人系もしくはHLA型DR9を有する日本人、あるいは
(V)幼児期ウイルス(例えば、コクサッキーBウイルス、腸内ウイルス、アデノウイルス、風疹、サイトメガロウイルス、エプスタイン・バーウイルス)に感染歴のある者等が挙げられる。
【0039】
一方、抗ランゲルハンス氏島抗体(抗ICA512抗体)、抗GAD65抗体および抗GAD67抗体等の抗グルタミン酸脱炭酸酵素抗体(抗GAD抗体)、抗インスリン抗体ならびに抗IA−2抗体から選択される1種以上が陽性である者、あるいは一または二親等以内の血族にI型糖尿病を含む自己免疫疾患の家族歴を持つ者には、既にII型糖尿病と診断されている患者も含まれる場合がある。
【0040】
一方、自己免疫疾患の症状発症初期の患者あるいは症状軽度の患者としては、例えば、I型糖尿病の場合では、上記糖尿病臨床診断基準により初めて糖尿病と診断されたかあるいは既にインスリン投与等の治療を開始している患者であって、β細胞機能が健常人の10%以上残存している者が挙げられる。なお、β細胞機能は、血中Cペプチド濃度を測定することによって評価することができ、血中Cペプチド濃度測定は公知の方法で実施できる。また、I型糖尿病発症初期の患者あるいは症状軽度の患者には、いわゆる、緩徐進行I型糖尿病(SPIDDM)もしくは成人性潜伏型自己免疫性糖尿病(LADA)と分類される患者も含まれる。
【0041】
一方、多発性硬化症の場合では、その素因保有者あるいは発症初期もしくは症状軽度の患者としては、例えば
(I)HLA−DRB1、IL7R−αまたはIL2R−αをコードする遺伝子上に変異を有する者、
(II)エプスタイン・バーウイルス等に感染歴のある者、
(III)2005年改定McDonald基準において、多発性硬化症とは診断されないが、Millerらが示す鑑別診断法(Mult Scler, 2008, Vol.14, p.1157-1174)において定義される多発性硬化症に移行する可能性がある状態である「Clinically isolated syndrome」あるいは「最初の臨床症状からなる症候群」の患者、もしくは2回以上の臨床症状および2個以上の臨床的他覚的病巣が確認されていない脱髄性疾患患者、
(IV)視神経脊髄炎患者、抗アクアポリン抗体陽性患者もしくはMRIにおいて3椎体以上に及ぶ長大な脊髄病巣が観察される患者(NMO spectrum disorder)、
(V)厚生労働省免疫性神経疾患調査研究班による多発性硬化症診断基準(2003年)において、最初の臨床症状は認められるが、再発が確認できない者等が挙げられる。
【0042】
ここで、最初あるいは再発される臨床症状としては、例えば、視神経炎の臨床症状、視覚のぶれ、複視、不随意性の早い目の動き、失明、平衡の欠如、振戦、運動失調、めまい、肢のおぼつかなさ、協調の欠如、1以上の四肢の虚弱、筋緊張の変化、筋硬直、攣縮、刺痛、感覚異常、焼けつくような感じ、筋肉の痛み、顔の痛み、三叉神経痛、刺すような鋭い痛み、焼けつくような三叉神経の痛み、発語の遅延、言語不明瞭、発語のリズムの変化、嚥下障害、疲労、膀胱の問題(切迫、頻尿、不完全な排尿および失禁が含まれる)、腸の問題(便秘、腸のコントロールの損失が含まれる)、インポテンス、性的欲求の低下、感覚の欠如、熱に対する敏感さ、短期記憶の損失、集中力の損失、または判断もしくは推論の損失等が挙げられる。
【0043】
また、臨床的他覚的病巣としては、例えば、大脳、小脳、脳幹、脊髄、視神経および末梢神経である。
【0044】
本発明において、「最初の投与」とは、本発明にかかる薬剤を過去に全く処方されていない場合における最初の投与を意味するが、さらに本発明にかかる薬剤を過去に1回以上処方されることによって、少なくとも1回以上の予防、症状進展抑制あるいは治療効果が一定期間認められたが、その後、本発明にかかる薬剤の再投与が必要になった場合における再投与のうちの最初の投与をも含む。仮に、最初の投与から1カ月以内の期間における投与が単回投与である場合には、その投与が最初の投与を意味する。
【0045】
本発明において、「最後の投与」とは、直近の最初の投与から1カ月以内の期間に複数回投与されたうちの最後の投与を意味し、単回投与の場合にはその投与が最後の投与を意味する。
【0046】
本発明において、「投与の必要のない」状態とは、PD−1アゴニストを本発明の用法および用量で投与後、さらに追加投与あるいは他の薬剤を投与もしくは増量しなくても、自己免疫疾患の臨床症状が認められないか、症状が進展しないかあるいは疾患が治癒されていることを意味する。
【0047】
例えば、I型糖尿病においては、発症が確認されていないI型糖尿病の素因保有者の場合、上記日本糖尿病学会による糖尿病の臨床診断基準(2010年)により糖尿病型と診断されない状態にあることを意味する。一方、I型糖尿病発症初期もしくは症状軽度の患者の場合には、
(i)インスリンの平均1日投与量がPD−1アゴニストの最初の投与前から増加しないか、
(ii)インスリンの平均投与量が0.25IU/kg/日以下に維持されているか、
(iii)HbA1cが7.5%未満であるか、あるいは
(iv)血中Cペプチド濃度がPD−1アゴニストの最初の投与前の90%以上である状態、さらには
(v)I型糖尿病が治癒されていると診断される状態を意味する。
【0048】
一方、本発明にかかる薬剤の再投与の必要のある状態とは、例えば、I型糖尿病の場合、本発明にかかる薬剤の最後の投与後一定期間(3ヶ月以上)の後に、上記糖尿病の臨床診断基準(2010年)により糖尿病型と診断される状態になると推測される状態を意味し、I型糖尿病発症初期もしくは症状軽度の患者の場合には、該状態は、PD−1アゴニストの投与後一定期間の後に、
(i)インスリンの平均1日投与量がPD−1アゴニストの最初の投与前における量から増加せざるを得ないか、
(ii)インスリンの平均投与量が0.25IU/kg/日以下が維持できないか、
(iii)HbA1cが7.5%以上であるか、あるいは
(iv)血中Cペプチド濃度が最初の投与前の90%未満である状態になることを意味する。
【0049】
また、多発性硬化症の場合、その素因保有者に対して、本発明におけるPD−1アゴニストの再投与が必要になる状態とは、例えば、(I)2005年改定McDonald基準において、多発性硬化症とは診断されないが、多発性硬化症に移行する可能性がある状態である「Clinically isolated syndrome」あるいは「最初の臨床症状からなる症候群」と診断された患者、もしくは(II)厚生労働省免疫性神経疾患調査研究班による多発性硬化症診断基準(2003年)において、最初の臨床症状が認められた場合が挙げられる。
【0050】
また、改定McDonald基準あるいは厚生労働省免疫性神経疾患調査研究班による多発性硬化症診断基準(2003年)において、多発性硬化症と診断された患者、多発性硬化症と診断されていない脱髄性疾患患者、Clinically isolated syndromeと診断された患者もしくは視神経脊髄炎あるいはNMO spectrum disorderと診断された患者であって、本発明におけるPD−1アゴニストの投与によって臨床症状の再発あるいは進行が抑制されていたが、再発の兆候が認められる場合も挙げられる。ここで、臨床症状の2回目の発症あるいは再発の兆候は、例えば、頭部MRI画像もしくは脊髄MRI画像、IgGインデックスおよびオリゴクローナルバンド等の髄液所見、視覚誘発電位測定、体性感覚誘発電位測定、聴性脳幹反応測定および磁気誘発電位測定等、脱髄による伝導速度の遅延を誘発脳波でとらえる方法で検査できる。
【0051】
なお、本発明において「治療」とは自己免疫疾患もしくはその症状を治癒させることまたは改善させることを意味し、「治療効果の持続」とは、PD−1アゴニストの投与により、最初の投与前よりもその症状が増悪しないか改善されている状態が続いていることを意味し、「予防」とは自己免疫疾患もしくは症状の発現を未然防止するあるいは一定期間遅延させることを意味し、「症状進展抑制」とは自己免疫疾患の症状の進展または悪化を抑制して病態の進行を止めることを意味する。なお、「予防」の意味には再発予防も含まれる。
【0052】
本発明において、「投与の必要のない」期間、言いかえれば、本発明にかかる薬剤の最後の投与から再投与を必要とするまでの期間は、少なくとも3カ月以上である。例えば、4カ月以上、5カ月以上、6カ月以上、7カ月以上、8カ月以上、9カ月以上、12カ月以上、15カ月以上、18カ月以上、21カ月以上、24カ月以上または36カ月以上である。当該期間は、本発明にかかる薬剤の投与を行わないことができる。但し、PD−1アゴニストの最後の投与から、その効果が平坦域(プラトー域)に達するまでの期間(具体的には、例えば、1〜2カ月間)もPD−1アゴニスト投与の必要のない期間に含まれるものとする。
【0053】
本発明におけるPD−1アゴニストの投与回数は、最初および最後の投与を含め1〜10回であるが、患者の年齢、体重、自己免疫疾患のうちの各疾患もしくはその症状、投与量、投与方法、投与期間あるいは患者への負担を考慮して適宜決定することができ、例えば、1回、2回、3回、4回、5回、6回、7回、8回、9回または10回のうちで選択できる。通常、1日における投与回数は1回である。
【0054】
本発明におけるPD−1アゴニストの投与期間は、最初の投与から1カ月以内の期間であるが、自己免疫疾患のうちの各疾患もしくはその症状、患者への負担、投与量あるいは投与回数を考慮して適宜決定することができ、例えば、複数回投与が必要な場合には、「1カ月以内の期間」は、最初の投与から24時間、2日間、3日間、4日間、5日間、6日間、7日間、8日間、9日間、11日間、13日間、15日間、17日間、19日間または1カ月間から選択できる。ここで、最後の投与日は投与期間の最終日である。
【0055】
最初の投与から1カ月以内の期間における複数回の投与間隔は同じであっても各々異なっていてもよい。
【0056】
本発明におけるPD−1アゴニストの「合計投与量」とは、「最初の投与から1カ月以内の期間」における1〜10回投与(すなわち、最初の投与から最後の投与までの全投与)の総量であるが、患者の年齢、各疾患もしくはその症状、投与方法あるいは投与時間に応じて、20μg/kg〜1250μg/kgの範囲から適宜決定することができる。例えば、30μg/kg〜960μg/kgの範囲から選択される量、具体的には、(i)30μg/kg、48μg/kg、60μg/kg、96μg/kg、100μg/kg、120μg/kg、160μg/kg、180μg/kg、192μg/kg、240μg/kg、288μg/kg、300μg/kg、384μg/kg、480μg/kgもしくは600μg/kg以上、かつ、960μg/kg以下である量、(ii)30μg/kg、48μg/kg、60μg/kg、96μg/kg、100μg/kg、120μg/kg、160μg/kg、180μg/kg、192μg/kg、240μg/kg、288μg/kg、300μg/kg、384μg/kgもしくは480μg/kg以上、かつ、600μg/kg以下である量、(iii)30μg/kg、48μg/kg、60μg/kg、96μg/kg、100μg/kg、120μg/kg、160μg/kg、180μg/kg、192μg/kg、240μg/kg、288μg/kg、300μg/kgもしくは384μg/kg以上、かつ、480μg/kg以下である量、(iv)30μg/kg、48μg/kg、60μg/kg、96μg/kg、100μg/kg、120μg/kg、160μg/kg、180μg/kg、192μg/kg、240μg/kg、288μg/kgもしくは300μg/kg以上、かつ、384μg/kg以下である量、(v)30μg/kg、48μg/kg、60μg/kg、96μg/kg、100μg/kg、120μg/kg、160μg/kg、180μg/kg、192μg/kg、240μg/kgもしくは288μg/kg以上、かつ、300μg/kg以下である量、(vi)30μg/kg、48μg/kg、60μg/kg、96μg/kg、100μg/kg、120μg/kg、160μg/kg、180μg/kg、192μg/kgもしくは240μg/kg以上、かつ、288μg/kg以下である量、(vii)30μg/kg、48μg/kg、60μg/kg、96μg/kg、100μg/kg、120μg/kg、160μg/kg、180μg/kgもしくは192μg/kg以上、かつ、240μg/kg以下である量、(viii)30μg/kg、48μg/kg、60μg/kg、96μg/kg、100μg/kg、120μg/kg、160μg/kgもしくは180μg/kg以上、かつ、192μg/kg以下である量、(ix)30μg/kg、48μg/kg、60μg/kg、96μg/kg、100μg/kg、120μg/kgもしくは160μg/kg以上、かつ、180μg/kg以下である量、(x)30μg/kg、48μg/kg、60μg/kg、96μg/kg、100μg/kgもしくは120μg/kg以上、かつ、160μg/kg以下である量、(xi)30μg/kg、48μg/kg、60μg/kg、96μg/kgもしくは100μg/kg以上、かつ、120μg/kg以下である量、(xii)30μg/kg、48μg/kg、60μg/kgもしくは96μg/kg以上、かつ、100μg/kg以下である量、(xiii)30μg/kg、48μg/kgもしくは60μg/kg以上、かつ、96μg/kg以下である量、(xiv)30μg/kgもしくは48μg/kg以上、かつ、60μg/kg以下である量、または(xv)30μg/kg〜48μg/kgである量から適宜選択することができる。さらに具体的には、例えば、48μg/kg〜960μg/kg、48μg/kg〜480μg/kg、48μg/kg〜384μg/kg、48μg/kg〜288μg/kg、48μg/kg〜192μg/kg、48μg/kg〜160μg/kg、48μg/kg〜96μg/kg、96μg/kg〜960μg/kg、96μg/kg〜480μg/kg、96μg/kg〜384μg/kg、96μg/kg〜288μg/kg、96μg/kg〜192μg/kg、96μg/kg〜160μg/kg、160μg/kg〜960μg/kg、160μg/kg〜480μg/kg、160μg/kg〜384μg/kg、160μg/kg〜288μg/kg、160μg/kg〜192μg/kg、192μg/kg〜960μg/kg、192μg/kg〜480μg/kg、192μg/kg〜384μg/kg、192μg/kg〜288μg/kg、288μg/kg〜960μg/kg、288μg/kg〜480μg/kg、288μg/kg〜384μg/kg、384μg/kg〜960μg/kg、384μg/kg〜480μg/kgもしくは480μg/kg〜960μg/kgまたは30μg/kg〜600μg/kg、30μg/kg〜300μg/kg、30μg/kg〜240μg/kg、30μg/kg〜180μg/kg、30μg/kg〜120μg/kg、30μg/kg〜100μg/kg、30μg/kg〜60μg/kg、100μg/kg〜600μg/kg、100μg/kg〜300μg/kg、100μg/kg〜240μg/kg、100μg/kg〜180μg/kg、100μg/kg〜120μg/kg、120μg/kg〜600μg/kg、120μg/kg〜200μg/kg、120μg/kg〜240μg/kg、120μg/kg〜180μg/kg、180μg/kg〜600μg/kg、180μg/kg〜300μg/kg、180μg/kg〜240μg/kg、240μg/kg〜600μg/kg、240μg/kg〜300μg/kgもしくは300μg/kg〜600μg/kgの範囲における任意の投与量を選択することができ、1〜10回投与における各々の投与量は同じであっても各々異なっていてもよい。
【0057】
本発明において、PD−1アゴニストとして好ましくは、PD−1二重特異性抗体であり、より好ましくはPD−1−CD3二重特異性抗体であり、さらに好ましくはPD−1およびCD3εを同時に認識する二重特異性抗体(以下、PD−1−CD3ε二重特異性抗体と記載することがある。)であり、より好ましくはPD−1およびCD3εを同時に認識する二重特異性sc(Fv)(以下、PD−1−CD3ε二重特異性sc(Fv)と記載することがある。)である。
【0058】
PD−1−CD3二重特異性抗体の製造に使用されるPD−1抗体として好ましくは、ヒト化またはヒト型PD−1抗体であり、より好ましくはヒト型PD−1抗体である。ヒト化PD−1抗体の作製に使用されるPD−1非ヒト抗体として好ましくは、J110(国際受託番号:FERM BP-8392)で特定される抗ヒトPD−1抗体およびImmunology Letters, 2002, Vol.83, Issue 3, p.215-220に記載の各々J105、J108およびJ116で特定される抗ヒトPD−1抗体であり、より好ましくはJ110(国際受託番号:FERM BP-8392)で特定される抗ヒトPD−1抗体である。ここで、J110のVおよびVのアミノ酸配列は、各々配列番号1および配列番号2で表わされる。
【0059】
一方、ヒト型PD−1抗体として好ましくは、国際公開第2006/121168号に記載の17D8、2D3、4H1、5C4、4A11、7D3もしくは5F4で特定されるヒト型PD−1抗体であり、より好ましくは、5C4で特定されるヒト型PD−1抗体である。ここで、5C4のVおよびVのアミノ酸配列は、各々配列番号3および配列番号4で表わされ、VのCDR1、CDR2およびCDR3は各々配列番号5、配列番号6および配列番号7で表わされ、VのCDR1、CDR2およびCDR3は各々配列番号8、配列番号9および配列番号10で表わされる。
【0060】
一方、PD−1−CD3二重特異性抗体の製造に使用されるCD3抗体として好ましくは、ヒト化またはヒト型CD3抗体である。ヒト化CD3抗体として好ましくは、OKT3のヒト化抗体であり、より好ましくはOKT3γ1(ala−ala)、ChAglyCD3またはHUM291である。ここで、OKT3のVおよびVのアミノ酸配列は、各々配列番号11および配列番号12で表わされ、そのVのCDR1、CDR2およびCDR3は各々配列番号13、配列番号14および配列番号15で表わされ、VのCDR1、CDR2およびCDR3は各々配列番号16、配列番号17および配列番号18で表わされる。
【0061】
本発明にかかる薬剤が予防、症状進展抑制および/または治療により効果的な自己免疫疾患としては、I型糖尿病、多発性硬化症、全身性エリテマトーデス、乾癬、関節リウマチ、炎症性腸疾患(例えば、潰瘍性大腸炎、クローン病)、甲状腺機能亢進症、自己免疫性副腎機能不全、自己免疫性溶血性貧血、乾癬性関節炎、シェーグレン症候群、多発性筋炎、皮膚筋炎または強皮症であり、さらに効果的であるのはI型糖尿病、多発性硬化症または炎症性腸疾患である。
【0062】
本発明にかかる薬剤の投与回数として好ましくは1〜6回であり、より好ましくは4〜6回であり、さらに好ましくは5回である。一方、前記の至適な複数投与回数における投与期間として好ましくは、最初の投与から24時間〜11日間であり、より好ましくは最初の投与から3日間、4日間、5日間、7日間、9日間または11日間であり、さらに好ましくは最初の投与から4日間または9日間である。
【0063】
本発明にかかる薬剤におけるPD−1アゴニストの投与量として好ましくは、300μg/kg〜960μg/kgであり、より好ましくは300μg/kg〜600μg/kgであり、さらに好ましくは480μg/kg〜600μg/kgである。
【0064】
本発明においてPD−1アゴニストは、注射剤または点滴のための輸液として製剤化されて用いられる。注射剤または輸液は、水溶液、懸濁液または乳濁液のいずれの形態であってもよく、また用時に溶剤を加えることにより、溶解、懸濁または乳濁して使用されるように固形剤として製剤化されていてもよい。注射剤または点滴のための輸液に使用される溶剤として、例えば、注射用蒸留水、生理食塩水、ブドウ糖溶液および等張液(例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、グリセリン、マンニトール、ソルビトール、ホウ酸、ホウ砂、プロピレングリコール等の溶液)等を用いることができる。
【0065】
ここで、薬学的に許容できる担体としては、例えば、安定剤、溶解補助剤、懸濁化剤、乳化剤、無痛化剤、緩衝剤、保存剤、防腐剤、pH調整剤および抗酸化剤等が挙げられる。安定剤としては、例えば、各種アミノ酸、アルブミン、グロブリン、ゼラチン、マンニトール、グルコース、デキストラン、エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、アスコルビン酸、亜硫酸水素ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、エデト酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、ジブチルヒドロキシトルエン等を用いることができる。溶解補助剤としては、例えば、アルコール(例えば、エタノール等)、ポリアルコール(例えば、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等)、非イオン性界面活性剤(例えば、ポリソルベート80(商品名)、HCO−50等)等を用いることができる。懸濁化剤としては、例えば、モノステアリン酸グリセリン、モノステアリン酸アルミニウム、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ラウリル硫酸ナトリウム等を用いることができる。乳化剤としては、例えば、アラビアゴム、アルギン酸ナトリウム、トラガント等を用いることができる。無痛化剤としては、例えば、ベンジルアルコール、クロロブタノール、ソルビトール等を用いることができる。緩衝剤としては、例えば、リン酸緩衝液、酢酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、炭酸緩衝液、クエン酸緩衝液、トリス緩衝液、グルタミン酸緩衝液、イプシロンアミノカプロン酸緩衝液等を用いることができる。保存剤としては、例えば、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル、パラオキシ安息香酸ブチル、クロロブタノール、ベンジルアルコール、塩化ベンザルコニウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、エデト酸ナトリウム、ホウ酸、ホウ砂等を用いることができる。防腐剤としては、例えば、塩化ベンザルコニウム、パラオキシ安息香酸、クロロブタノール等を用いることができる。pH調整剤としては、例えば、塩酸、水酸化ナトリウム、リン酸、酢酸等を用いることができる。抗酸化剤として、例えば、(1)アスコルビン酸、システインハイドロクロライド、重硫酸ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム等のような水溶性抗酸化剤、(2)アスコルビルパルミテート、ブチル化ハイドロキシアニソール、ブチル化ハイドロキシトルエン、レシチン、プロピルガレート、α−トコフェロール等のような油溶性抗酸化剤および(3)クエン酸、エチレンジアミン四酢酸、ソルビトール、酒石酸、リン酸等のような金属キレート剤等を用いることができる。
【0066】
注射剤または点滴のための輸液は、その最終工程において滅菌するかあるいは無菌操作法、例えば、フィルター等で濾過して滅菌し、次いで無菌的な容器に充填することによって製造することができる。また、注射剤または点滴のための輸液は、真空乾燥および凍結乾燥による無菌粉末(薬学的に許容できる担体の粉末を含んでいてもよい。)を、適切な溶剤に用時溶解して使用することもできる。
【0067】
さらに、本発明にかかる薬剤において、その有効成分としてのPD−1アゴニストは、自己免疫疾患の予防および/または治療に使用される他の薬剤とともに組み合わせて使用してもよい。PD−1アゴニストとの併用により、その他の薬剤の予防および/または治療効果を補完したり、投与量あるいは投与回数を維持ないし低減することができる。本発明においてPD−1アゴニストと他の薬剤を別々に投与する場合には、一定期間同時投与し、その後、他の薬剤のみを投与してもよい。また、本発明にかかる薬剤におけるPD−1アゴニストを先に投与し、その投与終了後に他の薬剤を投与してもよいし、他の薬剤を先に投与し、本発明にかかる薬剤におけるPD−1アゴニストを後に投与してもよく、それぞれの投与方法は同じでも異なっていてもよい。本発明においては、PD−1アゴニストを含む製剤と他の薬剤を含む製剤のキットとして提供することもできる。ここで、他の薬剤の投与量は、臨床上用いられている用量を基準として適宜選択することができる。また、他の薬剤は任意の2種以上を適宜の割合で組み合わせて投与してもよい。また、前記他の薬剤には、現在までに見出されているものだけでなく今後見出されるものも含まれる。
【0068】
例えば、本発明にかかる薬剤をI型糖尿病の予防、症状進展抑制および/または治療に適用する場合、その有効成分としてのPD−1アゴニストをインスリン製剤(例えば、ヒトインスリン、インスリングラルギン、インスリンリスプロ、インスリンデテミル、インスリンアスパルト等)、スルホニルウレア剤(例えば、グリベンクラミド、グリクラジド、グリメピリド等)、速攻型インスリン分泌促進薬(例えば、ナテグリニド等)、ビグアナイド製剤(例えば、メトホルミン等)、インスリン抵抗性改善薬(例えば、ピオグリタゾン等)、α−グルコシダーゼ阻害薬(例えば、アカルボース、ボグリボース等)、糖尿病性神経症治療薬(例えば、エパルレスタット、メキシレチン、イミダプリル等)、GLP−1アナログ製剤(例えば、リラグルチド、エクセナチド、リキシセナチド等)、DPP−4阻害剤(例えば、シタグリプチン、ビルダグリプチン、アログリプチン等)等と組み合わせて使用してもよい。
【0069】
また、例えば、本発明にかかる薬剤を多発性硬化症の予防および/または治療に適用する場合、その有効成分としてのPD−1アゴニストをステロイド薬(例えば、酢酸コルチゾン、ヒドロコルチゾン、リン酸ヒドロコルチゾンナトリウム、コハク酸ヒドロコルチゾンナトリウム、酢酸フルドロコルチゾン、プレドニゾロン、酢酸プレドニゾロン、コハク酸プレドニゾロンナトリウム、ブチル酢酸プレドニゾロン、リン酸プレドニゾロンナトリウム、酢酸ハロプレドン、メチルプレドニゾロン、酢酸メチルプレドニゾロン、コハク酸メチルプレドニゾロンナトリウム、トリアムシノロン、酢酸トリアムシノロン、トリアムシノロンアセトニド、デキサメタゾン、酢酸デキサメタゾン、リン酸デキサメタゾンナトリウム、パルミチン酸デキサメタゾン、酢酸パラメタゾン、ベタメタゾン等)、インターフェロンβ−1a、インターフェロンβ−1b、酢酸グラチラマー、ミトキサントロン、アザチオプリン、シクロホスファミド、シクロスポリン、メトトレキサート、クラドリビン、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)、コルチコトロピン、ミゾリビン、タクロリムス、フィンゴリモドおよびアレムツズマブ等と組み合わせて使用してもよい。
【0070】
また、例えば、本発明にかかる薬剤を全身エリテマトーデスの予防および/または治療に適用する場合、その有効成分としてのPD−1アゴニストをステロイド薬(例えば、上記記載のステロイド薬)あるいは免疫抑制剤(例えば、シクロスポリン、タクロリムス、フィンゴリモド等)と組み合わせて使用してもよい。
【0071】
例えば、本発明にかかる薬剤を関節リウマチの予防および/または治療に適用する場合、その有効成分としてのPD−1アゴニストをステロイド薬(例えば、上記記載のステロイド薬)、抗リウマチ薬(例えば、メトトレキサート、スルファサラジン、ブシラミン、レフルノミド、ミゾリビン、タクロリムス等)あるいは抗サイトカイン薬(例えば、インフリキシマブ、アダリムマブ、トシリズマブ、エタネルセプト、アバタセプト)等と組み合わせて使用してもよい。
【0072】
本発明を以下の実施例によってさらに詳しく説明するが、本発明の範囲はこれに限定されない。本発明の記載に基づき種々の変更、修飾が当業者には可能であり、これらの変更、修飾も本発明に含まれる。
【実施例】
【0073】
実施例1:自然発症I型糖尿病動物モデル(NODマウス)におけるPD−1アゴニストの血糖降下作用の評価
NODマウスを16週齢より週に1回、尾静脈より1〜5μL採血し、採取した血液中のグルコース濃度をACCU−CHECK active(ロシュダイアグノスティックス株式会社)を用いて測定した。血中グルコース濃度200mg/dL以上を連続2回計測された個体を糖尿病発症個体と判断して、各群に割り付けた。
【0074】
割り付け当日から、PD−1アゴニスト0.3、1または6μg/日(対照群はリン酸緩衝液)を腹腔内又は静脈内に5日間連日投与した。その後、週1回上記と同様に採血し、血液中のグルコース濃度を測定した。なお、PD−1アゴニストは、国際公開第2003/011911号に記載された実施例1〜9に基づいて作製されたものを用いた。
【0075】
投与量0.3、1および6μg/日(合計投与量:1.5、5および30μg)の何れの場合においても、対照群(図1)と比較して、最初の投与から23週以上にわたる血糖降下作用ないし正常血糖維持作用が確認された(図2〜4および図6)。投与量6μg/日の場合では、最初の投与から27週まで観察したところ、血糖降下作用ないし正常血糖維持作用が維持されており(図4)、12〜27週にかけての作用の固体差は少なかった。PD−1アゴニストを5日間連日投与したときの作用は、PD−1アゴニストを6μg/日の用量での週3回投与を8週間継続した場合と同等であった(図5)。
【0076】
さらに、PD−1アゴニストを3μg/日の用量で各々1回投与ならびに2回、3回、4および5回連日投与した場合でも、対照群(図7)と比較して、図2〜4に示される作用と同等の血糖降下作用ないし正常血糖維持作用が確認された(図8〜12)。投与から最長52週まで観察したところ、投与量3μg/日を1回投与した群において、血糖降下作用ないし正常血糖維持作用が確認された。
【0077】
実施例2:多発性硬化症動物モデル(実験的自己免疫性脳脊髄炎:EAE)におけるPD−1アゴニストの治療効果の評価(1)
4mg/mLのミエリン・オリゴデンドロサイト・糖タンパク質(MOG)のリン酸緩衝溶液と等量の完全アジュバンドH37Ra(日本ベクトン・ディッキンソン株式会社)を混合してエマルジョンを調製し、これを惹起剤とした。調製した惹起剤100μLをマウスの尾根部に皮下投与した。惹起剤による最初の免疫処置日及びその2日目に1μg/mLのP百日咳毒素(SIGMA−ALDRICH)のリン酸緩衝溶液を200μL尾静脈内投与した。
【0078】
惹起剤による最初の免疫処置日から、各々3μg/日および6μg/日のPD−1アゴニストを5回連日投与した(図13及び14)。また、惹起剤による最初の免疫処置日を0日として、その6あるいは7日目から、各々1μg/日、3μg/日および6μg/日のPD−1アゴニストを5回連日投与した(図14〜16)。一方、惹起剤による免疫処置後、全ての個体がEAEを発症した13日目から0.3μg/日のPD−1アゴニストを5回連日投与した(図17)。
【0079】
なお、免疫処置日以降の神経症状の評価は大貫らの方法(Microscopy research and technique, 2001, Vol.252, P.731-739)に準じて行った。即ち、麻痺の程度をスコア化し(正常:0、尾弛緩:1、後肢部分麻痺:2、後肢麻痺:3、前肢麻痺:4、瀕死または死亡:5)、複数の症状が認められる場合は高い値を評価日の神経症状スコアとして採用した。死亡例は観察終了まで神経症状スコアを5とし、瀕死となった動物は炭酸ガスにて安楽死させた。
【0080】
惹起剤による最初の免疫処置日からPD−1アゴニストを投与した場合、いずれの投与量においても完全なEAE発症抑制が観察され、6μg/日投与では免疫30日まで観察しても抑制効果が維持された。また、最初の免疫処置日から6あるいは7日目からPD−1アゴニストを投与した場合には、その対照群(リン酸緩衝液投与群)が10日目付近で発症してEAE症状を悪化させたのとは対照的に、PD−1アゴニスト投与群は20〜22日目まで発症を抑制した。同様に、最初の免疫処置日から13日目からPD−1アゴニストを投与した場合でも、EAE症状の悪化は顕著に抑制された。なお、最初の免疫処置日から13日目より、PD−1アゴニストを投与した場合における治療的効果は、一日当たり同用量のPD−1アゴニストを43日目まで継続して週3回投与を実施した場合と同等のものであった。
【0081】
以上から、PD−1アゴニストの少数回投与によってもEAEの発症に対して予防ならびに治療的効果を示すことが確認された。
【0082】
実施例3:多発性硬化症動物モデルにおけるPD−1アゴニストの治療効果の評価(2)
実施例2と同様の操作によって作製された多発性硬化症動物モデルに対するPD−1アゴニストの効果を以下に示した方法で評価した。なお、神経症状の評価も実施例2で示した方法で実施した。
【0083】
惹起剤による最初の免疫処置日を0日目としたとき、0日目と22日目に惹起剤で2回免疫処置して、その間の7日目から連日5日間に0.22mg/kg/日のPD−1アゴニストを投与した群をA群(図18中、○印で表わされる群)とした。上記0日目には惹起剤による免疫を行わず、A群と同様にPD−1アゴニストを投与した後、22日目に惹起剤により免疫した群をB群(図19中、○印で表わされる群)とした。上記0日目は惹起剤による免疫処置を行い、7日目から連日5日間、リン酸緩衝液を投与した群をC群(図18中、□印で表わされる群)とした。上記0日目に惹起剤による免疫処置を行わず、22日目に惹起剤により免疫し、7日目から連日5日間にリン酸緩衝液を投与した群をD群(図18中では△印、図19中では□印で表わされる群)とした。なお、PD−1アゴニストは実施例1に記載された文献に基づいて作製されたものを用いた。
【0084】
図18に示されるように、0日目の免疫処置により11日目付近からEAE症状を発症するC群に比較して、PD−1アゴニストを5日間連日投与したA群は、11日目付近からの発症が完全に抑制された。また、22日目の免疫処置により30日目付近から発症するD群に比較して、A群は2回目の免疫処置に対して神経症状が有意に改善した。従って、0日目の免疫処置に対して発症抑制を示したPD−1アゴニストは、10日間以上後の同じ免疫処置に対しても、免疫抑制効果を有する。一方、図19に示されるように、免疫惹起前にPD−1アゴニストを投与したB群では、10日間以上後の免疫処置に対して、D群と同様に神経症状の改善は示さなかった。
【0085】
以上の結果から、PD−1アゴニストは、抗原惹起による免疫反応に対して抗原特異的な抑制効果とその持続を示すが、抗原非特異的な免疫抑制効果は示さないことが示唆された。
【0086】
実施例4:大腸炎動物モデルにおけるPD−1アゴニストの治療効果の評価
CD4+T cell アイソレーションキットII(マウス)(Miltenyi Biotec)、CD25マイクロビーズキット(Miltenyi Biotec)、PE標識抗マウスCD45RB抗体(BD Biosciences)および抗PEマイクロビーズ(Miltenyi Biotec)を用いて、autoMACS(Miltenyi Biotec)による細胞分離を行い、BALB/cマウスの脾臓細胞からCD4+CD25−CD45RBhighT細胞を精製した。CD4+CD25−CD45RBhighT細胞細胞をSCIDマウスに養子移入(4×10細胞/匹 腹腔投与)して大腸炎を惹起した。PD−1アゴニストは養子細胞移入後4〜5週間目に大腸炎の発症が確認された個体に腹腔内投与した。
【0087】
大腸炎の評価はCooperらの方法(Laboratory Investigation, 1993, vol.69, No.2, p.238-249)に従って行った。すなわち、体重スコア(減少率0〜1%;0点,1〜5%;1点,5〜10%;2点,10〜20%;3点,>20%;4点)、下痢スコア(正常:0点,軟便:2点,下痢:4点)および血便スコア(正常:0点,潜血:2点,目に見える出血:4点)の合計を大腸炎症状スコアとした。
【0088】
図21に示されるように、3μg/匹のPD−1アゴニストを5日間連日投与した群は、6μg/匹のPD−1アゴニストを週に2〜3回(2週間)投与した群(図20)と同等の治療効果を示した。また、その効果は1μg/匹のPD−1アゴニストを5日間連日投与した群でも維持された。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明の自己免疫疾患の予防または治療剤は、感染症の懸念を低減しつつ治療効果の持続を達成することができるため、該患者並びに医療関係者の投薬管理負担を軽減できる点で有用である。
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【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]