特許第6094573号(P6094573)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 住友ベークライト株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6094573-半導体装置 図000008
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6094573
(24)【登録日】2017年2月24日
(45)【発行日】2017年3月15日
(54)【発明の名称】半導体装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/60 20060101AFI20170306BHJP
【FI】
   H01L21/60 301F
   H01L21/60 301P
   H01L21/60 301A
【請求項の数】4
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2014-506004(P2014-506004)
(86)(22)【出願日】2013年3月12日
(86)【国際出願番号】JP2013001592
(87)【国際公開番号】WO2013140746
(87)【国際公開日】20130926
【審査請求日】2016年1月7日
(31)【優先権主張番号】特願2012-68100(P2012-68100)
(32)【優先日】2012年3月23日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 慎吾
【審査官】 ▲高▼須 甲斐
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/093038(WO,A1)
【文献】 特開平07−086325(JP,A)
【文献】 特開2009−059962(JP,A)
【文献】 特開2004−064033(JP,A)
【文献】 特開2009−152561(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板に搭載された半導体素子と、
前記半導体素子に設けられた電極パッドと、
前記基板に設けられた接続端子と前記電極パッドとを接続する銅ワイヤと、
前記半導体素子及び前記銅ワイヤを封止する封止樹脂と、
を有し、
前記銅ワイヤとの接合面から深さ方向に3μm以下の範囲における前記電極パッドの領域が、アルミニウムよりイオン化傾向が小さい金属を主成分として含み、
前記銅ワイヤ中の硫黄含有量が、前記銅ワイヤ全体に対して15ppm以上100ppm以下であ
前記銅ワイヤ中の塩素含有量が、前記銅ワイヤ全体に対して5ppm以上100ppm以下である、半導体装置。
【請求項2】
前記電極パッドは、アルミニウムよりイオン化傾向が小さい前記金属を主成分として含む、請求項1に記載の半導体装置。
【請求項3】
アルミニウムよりイオン化傾向が小さい前記金属がニッケル、金、パラジウム、銀、銅及び白金からなる群から選択される、請求項1または2に記載の半導体装置。
【請求項4】
前記基板が、リードフレーム又は回路基板である、請求項1乃至いずれか一項に記載の半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、金ワイヤに代わるボンディングワイヤとして、銅ワイヤが提案されている。
【0003】
一般に、銅ワイヤの原料となる銅は、不純物を取り除き精製させて使用される。しかし、このような高純度の銅は、ワイヤに加工される際や銅ワイヤに加工された後において、酸化されやすいといった問題があった。そのため、銅ワイヤを用いたボンディングは不良を起こしやすく、特に高温で保管した場合に劣化しやすい傾向があった。
【0004】
銅ワイヤボンディングを用いた技術としては、例えば特許文献1記載のものがある。
【0005】
特許文献1には、半導体素子の電極とリードとを銅のボンディングワイヤで接続導出した半導体装置において、ワイヤと電極との接合界面に銅−アルミニウム系金属間化合物が形成されている半導体装置が記載されている。特許文献1の記載によれば、銅のボールとアルミニウム電極との界面にCuAl層を形成させることで、銅ボールと電極とが密着した状態になるため、耐食性等の点から信頼性が向上するとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭62−265729号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、銅ワイヤとアルミニウムパッドとの接合部をさらに熱処理することで、銅ワイヤからCuAl層にCuが拡散し、CuAlよりCu組成比の高い合金層が形成される。本発明者の知見によれば、CuAlよりCu組成比の高い合金層は、ハロゲンによる腐食を受け易く、断線しやすいことが明らかとなった。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、銅ワイヤと電極パッドとの接続信頼性を向上させて、耐湿性および高温保管特性を高めることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、
基板に搭載された半導体素子と、
前記半導体素子に設けられた電極パッドと、
前記基板に設けられた接続端子と前記電極パッドとを接続する銅ワイヤと、
前記半導体素子及び前記銅ワイヤを封止する封止樹脂と、
を有し、
前記銅ワイヤとの接合面から深さ方向に3μm以下の範囲における前記電極パッドの領域が、アルミニウムよりイオン化傾向が小さい金属を主成分として含み、
前記銅ワイヤ中の硫黄含有量が、前記銅ワイヤ全体に対して15ppm以上100ppm以下であ
前記銅ワイヤ中の塩素含有量が、前記銅ワイヤ全体に対して5ppm以上100ppm以下である、半導体装置
が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、銅ワイヤと電極パッドとの接続信頼性を向上させて、耐湿性および高温保管特性に優れた半導体装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施の形態に係る半導体装置を模式的に示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。尚、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0013】
図1は、本実施の形態に係る半導体装置10を模式的に示す断面図である。この半導体装置10は、基板として、ダイパッド部3aと、インナーリード部3bとを有するリードフレーム3を備え、ダイパッド部3aに搭載された半導体素子1と、半導体素子1に設けられた電極パッド6と、基板に設けられた接続端子(インナーリード部3b)と電極パッド6とを接続する銅ワイヤ4と、半導体素子1及び銅ワイヤ4を封止する封止樹脂5と、を有する。
【0014】
半導体素子1としては、特に限定されるものではなく、例えば、集積回路、大規模集積回路、固体撮像素子等が挙げられる。
【0015】
リードフレーム3としては特に制限はなく、リードフレーム3に代えて回路基板を用いてもよい。具体的には、デュアル・インライン・パッケージ(DIP)、プラスチック・リード付きチップ・キャリア(PLCC)、クワッド・フラット・パッケージ(QFP)、ロー・プロファイル・クワッド・フラット・パッケージ(LQFP)、スモール・アウトライン・Jリード・パッケージ(SOJ)、薄型スモール・アウトライン・パッケージ(TSOP)、薄型クワッド・フラット・パッケージ(TQFP)、テープ・キャリア・パッケージ(TCP)、ボール・グリッド・アレイ(BGA)、チップ・サイズ・パッケージ(CSP)、クワッド・フラット・ノンリーデッド・パッケージ(QFN)、スモールアウトライン・ノンリーデッド・パッケージ(SON)、リードフレーム・BGA(LF−BGA)、モールド・アレイ・パッケージタイプのBGA(MAP−BGA)などの従来公知の半導体装置に用いられるリードフレーム又は回路基板を用いることができる。
【0016】
半導体素子1は、複数の半導体素子が積層されたものであってもよい。この場合、1段目の半導体素子はフィルム接着剤、熱硬化性接着剤等のダイボンド材硬化体2を介してダイパッド部3aに接着される。2段目以降の半導体素子は絶縁性のフィルム接着剤等により順次積層させることができる。そして、各層の適切な場所に、予め前工程で電極パッド6が形成されている。
【0017】
本発明では、銅ワイヤ4との接合面から深さ方向に一定距離、離れている電極パッド6の領域が、Alよりイオン化傾向が小さい金属を主成分として含むものであればよい。ここで、「接合面」とは、電極パッドを形成した後電極パッド表面に自然に生成する酸化膜や意図的に形成した保護膜は本発明の接合面の概念に含まれず、ボンディング時にワイヤと実質的に導通を取ることを目的として形成した電極パッド表面を意味する。また電極パッド6の「深さ方向」とは、銅ワイヤ4と電極パッド6との接合面に対して垂直方向に銅ワイヤ4から離れる方向をいう。
【0018】
「銅ワイヤ4との接合面から深さ方向に少なくとも3μm以下の範囲」とは、電極パッド6の厚みが3μm未満の場合は、電極パッド6全体を示し、電極パッド6の厚みが3μm以上の場合は、銅ワイヤ4との接合面から深さ3μmまでの領域を示す。また、電極パッド6の表面が、Alよりイオン化傾向が小さい金属を主成分として含んでもよい。電極パッド6には、少なくとも銅ワイヤ4と接合する表面から深さ方向に3μm以下、好ましくは1nm以上3μm以下の領域が、Alよりイオン化傾向が小さい金属を主成分として含むものが用いられるが、電極パッド6全体が、Alよりイオン化傾向が小さい金属を主成分として含むことがより好ましい。
【0019】
本発明において、「Alよりイオン化傾向が小さい金属を主成分として含む」とは、電極パッド6の一定の領域中の「Alよりイオン化傾向が小さい金属」の含有量が90質量%以上であることが好ましく、95質量%以上であることがより好ましい。具体的には、電極パッド6中のAlよりイオン化傾向が小さい金属の含有量は、電極パッド6全体に対して90質量%以上が好ましく、98質量%以上がより好ましく、99.5質量%以上が更に好ましい。
【0020】
Alよりイオン化傾向が小さい金属は、ニッケル、金、パラジウム、銀、銅及び白金からなる群から選択されることが好ましく、金、パラジウム及び銅からなる群から選択されることがより好ましい。これらは、一種でもよいし、二種以上選択してもよい。
【0021】
電極パッド6は、例えば一般的なチタン系バリア層を形成し、さらにAlよりイオン化傾向が小さい金属を蒸着、スパッタリング、電解メッキ、無電解メッキなど、従来の半導体素子用のAlパッドの形成方法等を適用することにより作製することができる。
【0022】
電極パッド6中のAlよりイオン化傾向が小さい金属成分以外の成分としては、前記パッド形成工程で採用される蒸着、スパッタリング、電解メッキ、無電解メッキ等で不可避的に混入する不純物は許容される。
【0023】
また、本発明の電極パッド6は前記のように銅ワイヤ4と接合する表面から少なくとも3μm以下、好ましくは1nm以上3μm以下の深さ方向の領域が、Alよりイオン化傾向が小さい金属を前記好ましい範囲含んでいればよいが、電極パッド6は、Alよりイオン化傾向が小さい金属1層で形成されていてもよいし、Alよりイオン化傾向が小さい金属層で被覆された、一層又は複数層からなる金属層であってもよい。例えば、電極パッド6は、Alよりイオン化傾向が小さい金属層で被覆されたAlパッドであってもよい。なお、「被覆」とは、連続であっても一部であってもよい。
【0024】
「銅ワイヤ4との接合面から深さ方向に少なくとも3μm以下の範囲における電極パッド6の領域が、アルミニウムよりイオン化傾向が小さい金属を主成分として含む」とは、当該電極パッド6の領域中の少なくとも一部において、アルミニウムよりイオン化傾向が小さい金属を主成分として含むことを意味し、領域全体に限られない。
【0025】
銅ワイヤ4は、リードフレーム3と、リードフレーム3のダイパッド部3aに搭載された半導体素子1とを電気的に接続するために使用される。銅ワイヤ4の表面には、自然に又はプロセス上不可避的に酸化膜が形成されている。本発明において、銅ワイヤ4とは、このようにワイヤ表面に形成された酸化膜を具備するものも含まれる。
【0026】
銅ワイヤ4のワイヤ径は、30μm以下、さらに好ましくは25μm以下でありかつ15μm以上であることが好ましい。この範囲であれば銅ワイヤ先端のボール形状が安定し、接合部分の接続信頼性を向上させることができる。また、銅ワイヤ自身の硬さによりワイヤ流れを低減することが可能となる。
【0027】
銅ワイヤ4中の銅の含有量は、銅ワイヤ4から硫黄及び塩素を除いた銅ワイヤ4全体に対して、99.9〜100質量%であることが好ましく、99.99〜99.999質量%であることがより好ましい。
【0028】
銅ワイヤ4は、芯線である銅にBa、Ca、Sr、Be、Al又は希土類金属を0.001質量%〜0.1質量%ドープすることで、さらに接合強度を改善することができる。
【0029】
銅ワイヤ4と電極パッド6との接合部において、銅ワイヤ4の先端には、銅ボール4aが形成されている。
【0030】
銅ワイヤ4中の硫黄含有量は、銅ワイヤ4全体に対して、原料となる銅の煩雑な精製工程を不要としつつ、酸化を抑制し良好なワイヤボンディングを行う観点から、15ppm以上が好ましく、20ppm以上がより好ましい。一方、接合面の腐食を抑制し、実用的かつ良好な接続性を得る観点から、硫黄含有量は、銅ワイヤ4全体に対して、100ppm以下であることが好ましく、80ppm以下含有量がより好ましい。硫黄含有量を15ppm以上100ppm以下、より好ましくは20ppm以上80ppm以下の範囲とすることにより、半導体装置の高温保管特性を向上できる。
【0031】
銅ワイヤ4中の塩素含有量は、銅ワイヤ4全体に対して、原料となる銅の煩雑な精製工程を不要としつつ、酸化を抑制し良好なワイヤボンディングを行う観点から、5ppm以上が好ましく、10ppm以上がより好ましい。一方、接合面の腐食を抑制し、実用的かつ良好な接続性を得る観点から、塩素含有量は、銅ワイヤ4全体に対して、100ppm以下であることが好ましく、80ppm以下含有量がより好ましい。塩素含有量を5ppm以上100ppm以下、より好ましくは10ppm以上80ppm以下の範囲とすることにより、半導体装置の高温保管特性を向上できる。
【0032】
封止樹脂5は、硬化性樹脂の硬化体であり、具体的には、(A)エポキシ樹脂及び(B)硬化剤を含むエポキシ樹脂組成物を硬化させたものであることがより好ましい。
【0033】
本発明では、電極パッド6と銅ワイヤ4との接合面が、アルミニウムよりイオン化傾向が小さい金属からなるため、封止樹脂5中の塩化物(Cl)イオン濃度によらず、接続信頼性を向上させることができる。しかしながら、封止樹脂5中のClイオン濃度は、500ppm以下であることが好ましく、10〜300ppmがより好ましく、20〜250ppmの範囲であると更に好ましい。
封止樹脂5中のClイオン濃度は、例えば硬化物である封止樹脂5を微粉砕し、5gの粉砕品に50mlの蒸留水を加え、125℃20時間の処理を行い、処理後の上澄み液をイオンクロマトグラフ分析することで、定量することができる。
また、他の例として封止樹脂5を形成する前のエポキシ樹脂組成物を、金型温度175℃、注入圧力7.5MPa、硬化時間2分で低圧トランスファー成型機を用いて50mmφ×3mmの試験片を成形し、175℃、8時間の後硬化することで硬化させたものを用いて微粉砕した後、同様に測定することによっても、封止樹脂5中のClイオン濃度を測定することができる。
【0034】
(A)エポキシ樹脂としては、1分子内にエポキシ基を2個以上有するモノマー、オリゴマー、ポリマー全般であり、その分子量、分子構造を特に限定するものではないが、例えば、ビフェニル型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、テトラメチルビスフェノールF型エポキシ樹脂等のビスフェノール型エポキシ樹脂、スチルベン型エポキシ樹脂;フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂;トリフェノールメタン型エポキシ樹脂、アルキル変性トリフェノールメタン型エポキシ樹脂等の多官能エポキシ樹脂;フェニレン骨格を有するフェノールアラルキル型エポキシ樹脂、ビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル型エポキシ樹脂等のアラルキル型エポキシ樹脂;ジヒドロキシナフタレン型エポキシ樹脂、ジヒドロキシナフタレンの2量体をグリシジルエーテル化して得られるエポキシ樹脂等のナフトール型エポキシ樹脂;トリグリシジルイソシアヌレート、モノアリルジグリシジルイソシアヌレート等のトリアジン核含有エポキシ樹脂;ジシクロペンタジエン変性フェノール型エポキシ樹脂等の有橋環状炭化水素化合物変性フェノール型エポキシ樹脂が挙げられ、これらは1種類を単独で用いても2種類以上を併用してもよい。
なお、前記ビフェニル型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、テトラメチルビスフェノールF型エポキシ樹脂等のビスフェノール型エポキシ樹脂、スチルベン型エポキシ樹脂は結晶性を有するものが好ましい。
【0035】
好ましくは、エポキシ樹脂(A)として、下記式(1)で表されるエポキシ樹脂、下記式(2)で表されるエポキシ樹脂、及び、下記式(3)で表されるエポキシ樹脂からなる群から選択される少なくとも1種を含有するものを用いることができる。
【0036】
【化1】
【0037】
〔式(1)中、Arはフェニレン基又はナフチレン基を表し、Arがナフチレン基の場合、グリシジルエーテル基はα位、β位のいずれに結合していてもよく、Arはフェニレン基、ビフェニレン基及びナフチレン基のうちのいずれか1つの基を表し、R及びRはそれぞれ独立に炭素数1〜10の炭化水素基を表し、gは0〜5の整数であり、hは0〜8の整数であり、nは重合度を表し、その平均値は1〜3である。〕
【0038】
【化2】
【0039】
〔式(2)中、複数存在するRはそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1〜4の炭化水素基を表し、nは重合度を表し、その平均値は0〜4である。〕
【0040】
【化3】
【0041】
〔式(3)中、複数存在するR10及びR11はそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1〜4の炭化水素基を表し、nは重合度を表し、その平均値は0〜4である。〕
【0042】
(A)エポキシ樹脂の含有量は、エポキシ樹脂組成物全体に対して、3質量%以上であることが好ましく、5質量%以上であることがより好ましく、8質量%以上がさらに好ましい。こうすることで、粘度上昇によるワイヤ切れを引き起こす恐れを少なくすることができる。また、エポキシ樹脂(A)の含有量は、エポキシ樹脂組成物全体に対して、18質量%以下であることが好ましく、13質量%以下であることがより好ましく、11質量%以下がさらに好ましい。こうすることで、吸水率増加による耐湿信頼性の低下等を引き起こす恐れを少なくすることができる。
【0043】
(B)硬化剤としては、例えば重付加型の硬化剤、触媒型の硬化剤、縮合型の硬化剤の3タイプに大別することができる。
【0044】
重付加型の硬化剤としては、例えば、ジエチレントリアミン(DETA)、トリエチレンテトラミン(TETA)、メタキシレリレンジアミン(MXDA)などの脂肪族ポリアミン、ジアミノジフェニルメタン(DDM)、m−フェニレンジアミン(MPDA)、ジアミノジフェニルスルホン(DDS)などの芳香族ポリアミンのほか、ジシアンジアミド(DICY)、有機酸ジヒドララジドなどを含むポリアミン化合物;ヘキサヒドロ無水フタル酸(HHPA)、メチルテトラヒドロ無水フタル酸(MTHPA)などの脂環族酸無水物、無水トリメリット酸(TMA)、無水ピロメリット酸(PMDA)、ベンゾフェノンテトラカルボン酸(BTDA)などの芳香族酸無水物などを含む酸無水物;ノボラック型フェノール樹脂、ポリビニルフェノールなどのフェノール樹脂系硬化剤;ポリサルファイド、チオエステル、チオエーテルなどのポリメルカプタン化合物;イソシアネートプレポリマー、ブロック化イソシアネートなどのイソシアネート化合物;カルボン酸含有ポリエステル樹脂などの有機酸類などが挙げられる。
【0045】
触媒型の硬化剤としては、例えば、ベンジルジメチルアミン(BDMA)、2,4,6−トリスジメチルアミノメチルフェノール(DMP−30)などの3級アミン化合物;2−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール(EMI24)などのイミダゾール化合物;BF3錯体などのルイス酸などが挙げられる。
【0046】
縮合型の硬化剤としては、例えば、レゾール型フェノール樹脂;メチロール基含有尿素樹脂のような尿素樹脂;メチロール基含有メラミン樹脂のようなメラミン樹脂などが挙げられる。
【0047】
これらの中でも、耐燃性、耐湿性、電気特性、硬化性、保存安定性等のバランスの点からフェノール樹脂系硬化剤が好ましい。フェノール樹脂系硬化剤は、一分子内にフェノール性水酸基を2個以上有するモノマー、オリゴマー、ポリマー全般であり、その分子量、分子構造を特に限定するものではないが、例えば、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、ビスフェノールノボラック等のノボラック型樹脂;トリフェノールメタン型フェノール樹脂等の多官能型フェノール樹脂;テルペン変性フェノール樹脂、ジシクロペンタジエン変性フェノール樹脂等の変性フェノール樹脂;フェニレン骨格及び/又はビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル樹脂、フェニレン及び/又はビフェニレン骨格を有するナフトールアラルキル樹脂等のアラルキル型樹脂;ビスフェノールA、ビスフェノールF等のビスフェノール化合物等が挙げられ、これらは1種類を単独で用いても2種類以上を併用してもよい。
【0048】
好ましくは、(B)硬化剤として、下記式(4)で表される化合物からなる群から選択される少なくとも1種の硬化剤を用いることができる。
【0049】
【化4】
【0050】
〔式(4)中、Arはフェニレン基又はナフチレン基を表し、Arがナフチレン基の場合、水酸基はα位、β位のいずれに結合していてもよく、Arはフェニレン基、ビフェニレン基及びナフチレン基のうちのいずれか1つの基を表し、R及びRはそれぞれ独立に炭素数1〜10の炭化水素基を表し、iは0〜5の整数であり、jは0〜8の整数であり、nは重合度を表し、その平均値は1〜3である。〕
【0051】
(B)硬化剤の含有量は、エポキシ樹脂組成物中に、2質量%以上であることが好ましく、3質量%以上であることがより好ましく、6質量%以上であることがさらに好ましい。こうすることで、充分な流動性を得ることができる。また、(B)硬化剤の含有量は、エポキシ樹脂組成物中に、15質量%以下であることが好ましく、11質量%以下であることがより好ましく、8質量%以下であることがさらに好ましい。こうすることで、吸水率増加による耐湿信頼性の低下等を引き起こす恐れを少なくすることができる。
【0052】
また、(B)硬化剤としてフェノール樹脂系硬化剤を用いる場合におけるエポキシ樹脂とフェノール樹脂系硬化剤との配合比率としては、全エポキシ樹脂のエポキシ基数(EP)と全フェノール樹脂系硬化剤のフェノール性水酸基数(OH)との当量比(EP)/(OH)が0.8〜1.3であることが好ましい。当量比がこの範囲であると、エポキシ樹脂組成物の硬化性の低下、又は樹脂硬化物の物性の低下等を引き起こす恐れが少ない。
【0053】
また、封止樹脂5を形成するエポキシ樹脂組成物には、(C)充填材、及び必要に応じて(D)中和剤や(E)硬化促進剤を含んでいてもよい。
【0054】
(C)充填材としては、一般の半導体封止用エポキシ樹脂組成物に使用されているものを用いることができる。例えば、溶融球状シリカ、溶融破砕シリカ、結晶シリカ、タルク、アルミナ、チタンホワイト、窒化珪素等の無機充填材、オルガノシリコーンパウダー、ポリエチレンパウダー等の有機充填材が挙げられ、中でも、溶融球状シリカが特に好ましい。これらの充填材は、1種を単独で用いても2種以上を併用しても差し支えない。また、(C)充填材の形状としては、エポキシ樹脂組成物の溶融粘度の上昇を抑え、更に充填材の含有量を高めるためには、できるだけ真球状であり、かつ粒度分布がブロードであることが好ましい。また、充填材がカップリング剤により表面処理されていてもかまわない。さらに、必要に応じて充填材をエポキシ樹脂又はフェノール樹脂等で予め処理して用いてもよく、処理の方法としては、溶媒を用いて混合した後に溶媒を除去する方法や、直接充填材に添加し、混合機を用いて混合処理する方法等がある。
【0055】
(C)充填材の含有量は、エポキシ樹脂組成物の充填性、半導体装置の信頼性の観点から、エポキシ樹脂組成物全体に対して、65質量%以上であることが好ましく、75質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上がさらに好ましい。こうすることで、低吸湿性、低熱膨張性が得られるため耐湿信頼性が不十分となる恐れを少なくすることができる。また、(C)充填材の含有量は、成形性を考慮すると、エポキシ樹脂組成物全体に対して、93質量%以下であることが好ましく、91質量%以下であることがより好ましく、86質量%以下がさらに好ましい。こうすることで、流動性が低下し成形時に充填不良等が生じたり、高粘度化による半導体装置内のワイヤ流れ等の不都合が生じたりする恐れを少なくすることができる。
【0056】
(D)中和剤は、エポキシ樹脂組成物、又は、その硬化体である封止樹脂5の加熱により発生する酸性の腐食性ガスを中和するものを用いることができる。これにより、銅ワイヤ4と半導体素子1の電極パッド6との接合部の腐食(酸化劣化)を抑制することができる。具体的には、(D)中和剤として、塩基性金属塩、特にカルシウム元素を含む化合物、アルミニウム元素を含む化合物及びマグネシウム元素を含む化合物からなる群から選択される少なくとも1種を用いることができる。
【0057】
上記カルシウム元素を含む化合物としては、炭酸カルシウム、硼酸カルシウム、メタケイ酸カルシウムなどが挙げられ、中でも、不純物の含有量、耐水性及び低吸水率の観点から炭酸カルシウムが好ましく、炭酸ガス反応法により合成された沈降性炭酸カルシウムがより好ましい。
【0058】
上記アルミニウム元素を含む化合物としては水酸化アルミニウム、ベーマイト等が挙げられる。中でも、水酸化アルミニウムが好ましく、水酸化アルミニウムでは、2段階バイヤー法で合成された低ソーダ水酸化アルミニウムがより好ましい。
【0059】
上記マグネシウム元素を含む化合物としては、ハイドロタルサイト、酸化マグネシウム、炭酸マグネシウムなどが挙げられ、中でも、不純物の含有量及び低吸水率の観点から、下記式(5)で表されるハイドロタルサイトが好ましい。
Al(OH)2a+3b−2c(CO・mHO (5)
〔式(5)中、Mは少なくともMgを含む金属元素を表し、a、b、cは、それぞれ2≦a≦8、1≦b≦3、0.5≦c≦2を満たす数であり、mは0以上の整数である。〕
【0060】
具体的なハイドロタルサイトとしては、MgAl(OH)16(CO)・mHO、MgZnAl(OH)12(CO)・mHO、Mg4.3Al(OH)12.6(CO)・mHOなどが挙げられる。
【0061】
(D)中和剤の含有量としては、エポキシ樹脂組成物全体に対して0.01〜10質量%が好ましい。(D)中和剤の含有量を0.01質量%以上とすることで、中和剤の添加効果を十分に発揮させることができ、銅ワイヤ4と電極パッド6との接合部の腐食(酸化劣化)をより確実に防止して、半導体装置の高温保管特性を向上させることができる。また、(D)中和剤の含有量を10質量%以下とすることで、吸湿率を低下させることができるため、耐半田クラック性が向上する傾向にある。特に、腐食防止剤として炭酸カルシウムやハイドロタルサイトを用いた場合には、上記と同様の観点から、その含有量は、エポキシ樹脂組成物全体に対して0.05〜2質量%であることが好ましい。
【0062】
(E)硬化促進剤は、エポキシ樹脂のエポキシ基と硬化剤(たとえば、フェノール樹脂系硬化剤のフェノール性水酸基)との架橋反応を促進させるものであればよく、一般の半導体封止用エポキシ樹脂組成物に使用するものを用いることができる。例えば、1、8−ジアザビシクロ(5、4、0)ウンデセン−7等のジアザビシクロアルケン及びその誘導体;トリフェニルホスフィン、メチルジフェニルホスフィン等の有機ホスフィン類;2−メチルイミダゾール等のイミダゾール化合物;テトラフェニルホスホニウム・テトラフェニルボレート等のテトラ置換ホスホニウム・テトラ置換ボレート;ホスフィン化合物とキノン化合物との付加物等が挙げられ、これらは1種類を単独で用いても2種以上を併用しても差し支えない。
【0063】
(E)硬化促進剤の含有量は、エポキシ樹脂組成物全体に対して、0.05質量%以上であることが好ましく、0.1質量%以上であることがより好ましい。こうすることで、硬化性の低下を引き起こす恐れを少なくすることができる。また、(E)硬化促進剤の含有量は、エポキシ樹脂組成物全体に対して、1質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以下であることがより好ましい。こうすることで、流動性の低下を引き起こす恐れを少なくすることができる。
【0064】
封止樹脂5を形成するためのエポキシ樹脂組成物には、さらに必要に応じて、水酸化ジルコニウム等のアルミニウム腐食防止剤;酸化ビスマス水和物等の無機イオン交換体;γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、エポキシシラン等のカップリング剤;カーボンブラック、ベンガラ等の着色剤;シリコーンゴム等の低応力成分;カルナバワックス等の天然ワックス、合成ワックス、ステアリン酸亜鉛等の高級脂肪酸及びその金属塩類もしくはパラフィン等の離型剤;水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、ホウ酸亜鉛、モリブデン酸亜鉛、ホスファゼン等の難燃剤、酸化防止剤等の各種添加剤を適宜配合してもよい。
【0065】
封止樹脂5を形成するためのエポキシ樹脂組成物は、前述の各成分を、例えば、ミキサー等を用いて15℃〜28℃で混合したもの、さらにその後、ロール、ニーダー、押出機等の混練機で溶融混練し、冷却後粉砕したものなど、必要に応じて適宜分散度や流動性等を調整したものを用いることができる。
【0066】
つづいて、本実施の形態に係る半導体装置10の製造方法の一例について説明する。
まず、公知の半導体製造プロセス(主として前工程)によって本発明の電極パッド6の下地層まで形成し、本発明の電極パッド6を、Alよりイオン化傾向が小さい金属を蒸着、スパッタリング、無電解メッキなど、従来の半導体素子用のAlパッドの形成方法を適用することにより作製する。その後電極パッド形成以降のプロセスを実施する。図の保護膜8はSiN等の絶縁膜から形成される。次いで、更に公知の後工程プロセスにより電極パッド6を備えた半導体素子1をリードフレーム3上のダイパッド部3aに設置し、銅ワイヤ4により電極パッド6とインナーリード3bとをワイヤボンディングする。
【0067】
ボンディングは、たとえば以下の手順で行う。まず、銅ワイヤ4の先端に所定の径の銅ボール4aを形成する。ついで、銅ボール4aを電極パッド6上面に対して実質的に垂直に降下させ、銅ボール4aと電極パッド6とを接触させながら、超音波振動を与える。
【0068】
これにより、銅ボール4aの底部が電極パッド6に接触して接合面が形成される。
【0069】
なお、リードフレーム3のインナーリード部3bと半導体素子1とは、ワイヤのリバースボンドで接合されていてもよい。リバースボンドでは、まず半導体素子1の電極パッド6に銅ワイヤ4の先端に形成されたボールを接合し、銅ワイヤ4を切断してステッチ接合用のバンプを形成する。次にリードフレーム3の金属メッキされたインナーリード部3bに対してワイヤの先端に形成されたボールを接合し、半導体素子のバンプにステッチ接合する。リバースボンドでは正ボンディングより半導体素子1上のワイヤ高さを低くすることができるため、半導体素子1の接合高さを低くすることができる。
【0070】
次いで、トランスファーモールド、コンプレッションモールド、インジェクションモールド等の従来からの成形方法で、硬化性樹脂(例えば、上述のエポキシ樹脂組成物)を硬化成形して、半導体素子1、銅ワイヤ4及びインナーリード3bを封止し、80℃〜200℃程度の温度で、10分〜24時間程度の時間をかけて後硬化を行う。後硬化は、150℃〜200℃で2〜16時間行うことがより好ましい。その後、封止樹脂5により封止された半導体素子1は、電子機器等に搭載することができる。
【0071】
このように製造された半導体装置によれば、製造プロセスや使用時に、銅ワイヤ4と電極パッド6との接合部に熱がかかっても、銅ボール4aからCuが拡散しないため、銅ワイヤ4と電極パッド6との接合部に腐食性の高いCuAl合金層が形成されない。また、銅ワイヤ4は、硫黄含有量が銅ワイヤ4全体に対して15ppm以上100ppm以下となっているため、酸化および腐食が抑制されている。したがって、耐湿性および高温保管特性に優れた半導体装置が提供される。
【0072】
以上、図面を参照して本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
以下、参考形態の例を付記する。
1.基板に搭載された半導体素子と、
前記半導体素子に設けられた電極パッドと、
前記基板に設けられた接続端子と前記電極パッドとを接続する銅ワイヤと、
前記半導体素子及び前記銅ワイヤを封止する封止樹脂と、
を有し、
前記銅ワイヤとの接合面から深さ方向に3μm以下の範囲における前記電極パッドの領域が、アルミニウムよりイオン化傾向が小さい金属を主成分として含み、
前記銅ワイヤ中の硫黄含有量が、前記銅ワイヤ全体に対して15ppm以上100ppm以下である、半導体装置。
2.前記銅ワイヤ中の塩素含有量が、前記銅ワイヤ全体に対して5ppm以上100ppm以下である、1に記載の半導体装置。
3.前記電極パッドは、アルミニウムよりイオン化傾向が小さい前記金属を主成分として含む、1または2に記載の半導体装置。
4.アルミニウムよりイオン化傾向が小さい前記金属がニッケル、金、パラジウム、銀、銅及び白金からなる群から選択される、1乃至3いずれかに記載の半導体装置。
5.前記基板が、リードフレーム又は回路基板である、1乃至4いずれかに記載の半導体装置。
【実施例1】
【0073】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0074】
製造例1〜4
表1に示す各成分をミキサーを用いて15〜28℃で混合し、次いで70℃〜100℃でロール混練した。冷却後、粉砕してエポキシ樹脂組成物を得た。なお、表1中、各成分の詳細は下記のとおりである。また、表1中の単位は、質量%である。
【0075】
<(A)エポキシ樹脂>
EP−BA:NC3000P、日本化薬株式会社製、エポキシ当量276、Clイオン濃度280ppm
EP−BA2:NC3000(高塩素)、日本化薬株式会社製、エポキシ当量275、Clイオン濃度6680ppm
【0076】
<(B)硬化剤>
HD−BA:MEH−7851SS、明和化成株式会社製、水酸基当量203
【0077】
<(C)充填材>
溶融球状シリカ:FB−820、電気化学工業株式会社製、平均粒径26.5μm、105μm以上の粒子1%以下
【0078】
<(D)中和剤>
ハイドロタルサイト:DHT−4A(登録商標)(上記式(5)において、aが4.3であり、bが2であり、cが1であるハイドロタルサイト、協和化学工業株式会社製
【0079】
<(E)硬化促進剤>
トリフェニルホスフィン(TPP)、北興化学工業株式会社製
【0080】
<その他の成分>
カップリング剤:エポキシシラン
着色剤:カーボンブラック
離型剤:カルナバワックス
【0081】
【表1】
【0082】
製造例1〜4で得られたエポキシ樹脂組成物の物性を以下の方法により測定した。その結果を表1に示す。
【0083】
<スパイラルフロー(SF)>
低圧トランスファー成形機(コータキ精機株式会社製「KTS−15」)を用いて、EMMI−1−66に準じたスパイラルフロー測定用の金型に、金型温度175℃、注入圧力6.9MPa、硬化時間120秒の条件で、製造例1〜4のエポキシ樹脂組成物をそれぞれ注入し、流動長(単位:cm)を測定した。
【0084】
<ゲルタイム(GT)>
175℃に加熱した熱板上で製造例1〜4のエポキシ樹脂組成物をそれぞれ溶融後、へらで練りながら硬化するまでの時間を測定した。
【0085】
<塩化物イオン(Cl)濃度の測定>
金型温度175℃、注入圧力7.5MPa、硬化時間2分で低圧トランスファー成型機(コータキ精機株式会社製「KTS−15」)を用いて50mmφ×3mmの試験片を成形した。175℃、8時間の後硬化の後に微粉砕し、5gの粉砕品に50mlの蒸留水を加え、テフロン(登録商標)ライニングした容器に入れ、125℃20時間の処理を行い、処理後の上澄み液をイオンクロマトグラフ分析によりClイオンの定量を行った。
【0086】
実施例1〜8、比較例1〜3
表2に示す電極パッドを備えるTEG(TEST ELEMENT GROUP)チップ(3.5mm×3.5mm)を352ピンBGA(基板は厚さ0.56mm、ビスマレイミド・トリアジン樹脂/ガラスクロス基板、パッケージサイズは30mm×30mm、厚さ1.17mm)のダイパッド部に接着し、TEGチップの電極パッドと基板の電極パッドとをデイジーチェーン接続となるように、銅ワイヤa(銅純度99.99質量%、径25μm)を用いてワイヤピッチ80μmでワイヤボンディングした。これを、低圧トランスファー成形機(TOWA製「Yシリーズ」)を用いて、金型温度175℃、注入圧力6.9MPa、硬化時間2分の条件で、表2に示すように製造例1〜4のいずれかのエポキシ樹脂組成物を用いて封止成形して、352ピンBGAパッケージを作製した。このパッケージを175℃、4時間の条件で後硬化した後、半導体装置を得た。
【0087】
なお、表2中、電極パッドの詳細は下記のとおりである。
Au:Au純度99.9質量%の金パッド(厚み1μm)
Cu:Cu純度99.9質量%の銅パッド(厚み1μm)
Al:Al純度99.9質量%のアルミニウムパッド(厚み1μm)
【0088】
上記銅ワイヤa(銅純度99.99質量%、径25μm)の詳細は下記のとおりである。
・銅ワイヤa
硫黄濃度(ppm)19ppm
塩素濃度(ppm)15ppm
【0089】
比較例4
上記銅ワイヤaの替わりに、下記の銅ワイヤbを用いた以外は、実施例1と同様にして、半導体装置を得た。
・銅ワイヤb
硫黄濃度(ppm)1ppm未満
塩素濃度(ppm)1ppm未満
【0090】
また、銅ワイヤ中の硫黄濃度、塩素濃度は、グロー放電質量分析にて測定した。
【0091】
<TEM分析>
実施例1〜8及び比較例1〜4の半導体装置について、175℃16時間大気中で加熱した後、銅ワイヤと電極パッドとの接合部の構造を透過型電子顕微鏡(TEM)で解析した。
実施例1〜8の半導体装置では、銅ワイヤと電極パッドとの接合面は、実施例1〜4では金からなり、実施例5〜8では、銅からなるものであり、実施例1〜8では銅ワイヤと電極パッドとの間にCuAl合金層が形成されておらず、Alよりイオン化傾向の小さい金属とCuの合金が形成されているか、合金層の形成がみられなかった。これに対し、比較例1〜3の半導体装置では、銅ワイヤとアルミニウムパッドとの間にCuAl合金層が形成されていた。このCuAl合金層はCuAl等の腐食しやすい合金層を形成するため信頼性が低下する可能性を有するものである。
また比較例4は銅ワイヤ中の硫黄含有量が他の比較例より少ないものであり、比較例1〜3とは挙動が異なるものの、実施例より半導体装置の信頼性が劣る結果となった。
【0092】
<耐湿性および高温保管特性>
実施例1〜8、比較例1〜4の半導体装置について半導体装置のHAST(不飽和耐湿性試験)及びHTSL(高温保管試験)を行った。その結果を表2に示す。
具体的には、HASTは、IEC68−2−66に準拠して実施した。試験条件は、温度を130℃又は140℃とし、85%RH、印加電圧20V、96時間の処理を行い、10個のパッケージにおける不良発生個数を調べた。
また、HTSLは、温度を175℃とし、1000時間処理を行い、10個のパッケージにおける不良発生個数を調べた。
なお、HAST及びHTSLにおいて不良の判定は、作製したパッケージ10個を用いて評価し、初期抵抗に対する処理後の抵抗値が1.2倍を超えたパッケージの個数をカウントした。
【0093】
【表2】
【0094】
実施例1〜8で示すように、硫黄濃度19ppm、塩素濃度15ppmの銅ワイヤを用い、イオン化傾向がAlより小さい金属からなるパッドでは、高温耐湿特性に優れており、特に高温特性については、封止樹脂を形成するエポキシ樹脂組成物の種類によらずに良好な結果が得られた。金パッドは、Clイオン濃度を200ppm以上含むエポキシ樹脂組成物により封止樹脂を形成させても、耐湿性および高温保管特性に優れる半導体装置が得られ、特に優れていた。
【0095】
この出願は、2012年3月23日に出願された日本特許出願特願2012−068100を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。
図1