特許第6094590号(P6094590)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6094590電解液、電気化学デバイス、リチウム電池、及び、モジュール
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6094590
(24)【登録日】2017年2月24日
(45)【発行日】2017年3月15日
(54)【発明の名称】電解液、電気化学デバイス、リチウム電池、及び、モジュール
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0569 20100101AFI20170306BHJP
   H01M 10/0568 20100101ALI20170306BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20170306BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20170306BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20170306BHJP
   H01M 10/0525 20100101ALI20170306BHJP
【FI】
   H01M10/0569
   H01M10/0568
   H01M4/505
   H01M4/525
   H01M10/052
   H01M10/0525
【請求項の数】6
【全頁数】59
(21)【出願番号】特願2014-538521(P2014-538521)
(86)(22)【出願日】2013年9月25日
(86)【国際出願番号】JP2013075879
(87)【国際公開番号】WO2014050873
(87)【国際公開日】20140403
【審査請求日】2014年12月3日
(31)【優先権主張番号】特願2012-218674(P2012-218674)
(32)【優先日】2012年9月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】桑嶋 佳子
(72)【発明者】
【氏名】高 明天
(72)【発明者】
【氏名】山内 昭佳
(72)【発明者】
【氏名】坂田 英郎
(72)【発明者】
【氏名】宮脇 瞳
(72)【発明者】
【氏名】谷 明範
(72)【発明者】
【氏名】木下 信一
【審査官】 赤樫 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2006/106655(WO,A1)
【文献】 国際公開第2008/096729(WO,A1)
【文献】 Yuki Matsuda, 他6名,Safety improvement of lithium ion batteries by organo-fluorine compounds,Journal of Fluorine Chemistry,2011年,132,1174-1181p
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/05−10/0587
H01M 4/00− 4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオンを吸蔵又は放出可能な負極及び正極、セパレータ、ならびに、電解液を備えるリチウム電池であって、
前記電解液は、非水系溶媒及び電解質塩を含有し、
一般式(1)で示される化合物を非水系溶媒100体積%中10体積%以上含有し、
一般式(1)で示される化合物は、下記式(I−b)で示される化合物及び式(I−c)で示される化合物からなる群より選択される少なくとも1種であり、
前記電解質塩はLiPFであり、
前記電解質塩の含有量が電解液中0.2モル/リットル以上であり、
リチウムイオンを吸蔵又は放出可能な正極は、リチウム遷移金属酸化物からなる正極活物質を含み、
前記リチウム遷移金属酸化物は、リチウム・ニッケル複合酸化物又はリチウム・マンガン複合酸化物、若しくは、これらのリチウム遷移金属複合酸化物の主体となる遷移金属原子の一部をNa、K、B、F、Al、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Li、Ni、Cu、Zn、Mg、Ga、Zr、Si、Nb、Mo、Sn又はWで置換したものである
ことを特徴とするリチウム電池。
【化1】
(式中、R、R及びRは、同じか又は異なっていてもよく、それぞれ水素原子、フッ素原子、炭素数1〜20のアルキル基、又は、炭素数1〜20のフッ素化アルキル基である。ただし、R、R及びRがすべて水素原子の場合及びフッ素原子の場合を除く。)
【化2】
【化3】
【請求項2】
リチウム遷移金属酸化物は、LiNi0.5Mn0.5、LiNi0.85Co0.10Al0.05、LiNi0.33Co0.33Mn0.33、LiNi0.45Co0.10Al0.45、LiMn1.8Al0.2、LiMn1.5Ni0.5である請求項1記載のリチウム電池。
【請求項3】
リチウムイオンを吸蔵又は放出可能な正極は、一般式(2):
Li1+WMnNiCo(2)
(式中、w、x、y及びzは、0≦w<0.4、0.3<x<1、0≦y<0.4、0≦z<0.4、0<y+z、及び、w+x+y+z=1を満たす。)
で表されるリチウム遷移金属酸化物からなる正極活物質を含む請求項1又は2記載のリチウム電池。
【請求項4】
リチウムイオンを吸蔵又は放出可能な負極は、炭素質材料及び金属材料からなる群より選択される少なくとも1種の負極活物質を含む請求項1、2又は3記載のリチウム電池。
【請求項5】
正極の電位が、金属リチウム基準で4.3V以上である請求項1、3又は4記載のリチウム電池。
【請求項6】
請求項1、2、4又は5記載のリチウム電池を備えることを特徴とするモジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解液、電気化学デバイス、リチウム電池、及び、モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話、ノートパソコン等の携帯電子機器用電源から自動車用等の駆動用車載電源や定置用大型電源等に至るまでの広範な電源として非水系電解液電池等の非水系電解液電池が実用化されつつある。しかしながら、近年の電子機器の高性能化や駆動用車載電源や定置用大型電源への適用等に伴い、適用される二次電池への要求はますます高まり、二次電池の電池特性の高性能化、例えば、高容量化、高温保存特性、サイクル特性等の特性向上化がより一層求められている。
【0003】
非水系電解液電池に用いる電解液は通常、主として、電解質と非水系溶媒とから構成されている。非水系溶媒の主成分としては、エチレンカーボネートやプロピレンカーボネート等の高誘電性溶媒である環状カーボネートやジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート等の低粘性溶媒である鎖状カーボネート、また、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン等の環状カルボン酸エステルなどが用いられている。
【0004】
また、これらの非水系電解液を用いた電池の負荷特性、サイクル特性、保存特性、低温特性等の電池特性を改良するために、種々の非水系溶媒や電解質、助剤等も提案されている。例えば、負極に炭素材料を用いた非水系電解液において、ビニレンカーボネート及びその誘導体やビニルエチレンカーボネート誘導体を使用することにより、二重結合を有する環状カーボネートが負極と優先的に反応して負極表面に良質の皮膜を形成し、これにより電池の保存特性やサイクル特性が向上することが特許文献1および2に開示されている。
【0005】
また、フッ素化環状カーボネートを電解液として使用することが提案されている。たとえばエチレンカーボネートの水素原子の一部をフッ素原子で置換した化合物を使用する提案(特許文献3〜7)、プロピレンカーボネートのメチル基の水素原子の一部または全部をフッ素原子で置換した化合物を使用する提案(特許文献8〜9)がある。
【0006】
また、特許文献10では、含フッ素エーテル基または炭素数2以上のフッ素化アルキル基を有する含フッ素環状カーボネートと電解質塩とを含む電解液が提案された。
【0007】
更に、非特許文献1〜3には、含フッ素エーテル基または炭素数2以上のフッ素化アルキル基を有するフッ素化環状カーボネートを含む有機フッ素化合物について、リチウムイオン電池における電気化学的な挙動、熱的安定性及び電気化学的特性が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平8−45545号公報
【特許文献2】特開平4−87156号公報
【特許文献3】特開平5−325985号公報
【特許文献4】特開平10−189043号公報
【特許文献5】特開平10−247519号公報
【特許文献6】特開2001−313075号公報
【特許文献7】特開2003−168480号公報
【特許文献8】特開平10−233345号公報
【特許文献9】国際公開第2006/106655号パンフレット
【特許文献10】特開平8−37025号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Takashi Achiha,外6名,“Electrochemical Behavior of Nonflammable Organo−Fluorine Compounds for Lithium Ion Batteries”, Journal of The Electrochemical Society,156(6),A483−A488(2009)
【非特許文献2】Takashi Achiha,外6名,“Thermal Stability and Electrochemical Properties of Fluorine Compounds as Nonflammable Solvents for Lithium−Ion Batteries”, Journal of The Electrochemical Society,157(6),A707−A712(2010)
【非特許文献3】Yuki Matsuda,外6名,“Safety improvement of lithium ion batteries by organo−fluorine compounds”,Journal of Fluorine Chemistry,132(2011)1174−1181
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記のように、近年の電池の高性能化への要求が高まる中では、非水系電解液を用いた電池の特性向上、すなわち、高容量化、高温保存特性、サイクル特性等の向上が求められている。このような背景の下、特許文献1、2に記載されている電解液を用いた非水系電解液電池では、充電状態の電池を高温で放置、または、連続充放電サイクルを行うと、正極上で不飽和環状カーボネートまたはその誘導体が酸化分解して、炭酸ガスを発生するという問題があった。このような使用環境下で炭酸ガスが発生すると、例えば、電池の安全弁が適切でないタイミングで作動したり、電池が膨張する等により電池が使用不能になる場合がある。
【0011】
また、特許文献3〜10に記載されている電解液を用いた非水系電解液電池においても上記の問題を解決するには十分ではない。
【0012】
本発明は、これらの問題点を解決しようとするものであって、高電圧で使用した場合でも高温保存後の残存容量が高いリチウム電池とそれに使用される電解液を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、下記に示す一般式(1)で示される化合物が特定量含有された非水系溶媒及び電解質塩を含む電解液を用いることで、高電圧で使用した場合でも高温保存後の残存容量が高いリチウム電池が実現できることを見出した。
【0014】
すなわち、本発明は、非水系溶媒及び電解質塩を含有する電解液であって、一般式(1)で示される化合物を非水系溶媒100体積%中10体積%以上含有することを特徴とする電解液である。
【0015】
【化1】
【0016】
(式中、R、R及びRは、同じか又は異なっていてもよく、それぞれ水素原子、フッ素原子、炭素数1〜20のアルキル基、又は、炭素数1〜20のフッ素化アルキル基である。ただし、R、R及びRがすべて水素原子の場合及びフッ素原子の場合を除く。)
上記電解質塩はLiPFであり、上記電解質塩の含有量が0.2モル/リットル以上であることが好ましい。
本発明はまた、上述の電解液を備えることを特徴とする電気化学デバイスでもある。
本発明はまた、リチウムイオンを吸蔵又は放出可能な負極及び正極、セパレータ、ならびに、上述の電解液を備えることを特徴とするリチウム電池である。
上記リチウムイオンを吸蔵又は放出可能な正極は、一般式(2):
Li1+WMnNiCo(2)
(式中、w、x、y及びzは、0≦w<0.4、0.3<x<1、0≦y<0.4、0≦z<0.4、0<y+z、及び、w+x+y+z=1を満たす。)
で表されるリチウム遷移金属酸化物からなる正極活物質を含むことが好ましい。
上記リチウムイオンを吸蔵又は放出可能な負極は、炭素質材料及び金属材料からなる群より選択される少なくとも1種の負極活物質を含むことが好ましい。
上記リチウム電池において、正極の電位が、金属リチウム基準で4.3V以上であることが好ましい。
本発明はまた、上述のリチウム二次電池を備えることを特徴とするモジュールでもある。
【発明の効果】
【0017】
本発明の電解液を用いることで、電池の高温保存等の耐久特性や負荷特性が改善された非水系電解液電池が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、非水系溶媒及び電解質塩を含有する電解液であって、一般式(1)で示される化合物を含有することを特徴とする電解液である。
【化2】
【0019】
(式中、R、R及びRは、同じか又は異なっていてもよく、それぞれ水素原子、フッ素原子、炭素数1〜20のアルキル基、又は、炭素数1〜20のフッ素化アルキル基である。ただし、R、R及びRがすべて水素原子の場合及びフッ素原子の場合を除く。)
【0020】
本発明の電解液は、一般式(1)で示される化合物を含有する。
一般式(1)において、R、R及びRは、同じか又は異なっていてもよく、それぞれ水素原子、フッ素原子、炭素数1〜20のアルキル基、又は、炭素数1〜20のフッ素化アルキル基である。
ただし、R、R及びRのすべてが水素原子である場合及びはフッ素原子である場合を除くものである。
本明細書において、「フッ素化アルキル基」とは、アルキル基の水素原子の一部または全部がフッ素原子で置換されたアルキル基である。
【0021】
上記アルキル基及びフッ素化アルキル基は、炭素数が20よりも大きくなると分子量が大きくなり、粘度が上がって、抵抗が大きくなることから、炭素数が1〜20であり、1〜10であることが好ましく、1であることがより好ましい。
【0022】
一般式(1)において、R、R及びRは、少なくとも1つがフッ素原子又はフッ素化アルキル基であることが好ましく、少なくとも1つがフッ素原子であることがより好ましく、少なくともフッ素原子及びCFが含まれていることが更に好ましい。
【0023】
一般式(1)で示される化合物としては、例えば、具体的には、以下が挙げられる。
【0024】
【化3】
【0025】
【化4】
【0026】
ただし、一般式(1)で示される化合物として、式中のR、R及びRのすべてが水素原子である場合及びフッ素原子である場合の、以下の化合物は除く。
【0027】
【化5】
【0028】
なかでも、より優れた電気特性を有する点で、一般式(1)で示される化合物としては、以下の化合物が好ましい。
【0029】
【化6】
【0030】
一般式(1)で示される化合物の含有量は、非水系溶媒100体積%中10体積%以上である。
一般式(1)で示される化合物の含有量が、非水系溶媒100体積%中10体積%以上であると、高温保存特性、放電容量維持率、負荷特性等の電池特性が優れた電解液とすることができる。
一般式(1)で示される化合物の含有量は、非水系溶媒100体積%中15体積%以上が好ましい。また、90体積%以下が好ましく、85体積%以下がより好ましい。この範囲であれば、非水系電解液電池が十分なサイクル特性向上効果を発現しやすく、抵抗の増加による負荷特性の低下や、高温保存特性の低下、ガス発生量の増加により、放電容量維持率が低下することを回避しやすい。
【0031】
本発明の電解液は、更に、非水系溶媒及び電解質塩を含む。
上記非水系溶媒としては、飽和環状カーボネート、鎖状カーボネート、環状及び鎖状カルボン酸エステル、エーテル化合物、スルホン系化合物等を使用することができる。
【0032】
(飽和環状カーボネート)
飽和環状カーボネートとしては、炭素数2〜4のアルキレン基を有するものが挙げられ、具体的には、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート等が挙げられる。なかでも、エチレンカーボネートとプロピレンカーボネートがリチウムイオン解離度の向上に由来する電池特性向上の点から、特に好ましい。
これら飽和環状カーボネートは、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0033】
飽和環状カーボネートの配合量は、特に制限されず、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、1種を単独で用いる場合の配合量の下限は、非水系溶媒100体積%中、好ましくは5体積%以上、より好ましくは10体積%以上である。この範囲であると、非水系電解液の誘電率の低下に由来する電気伝導率の低下を回避し、非水系電解液電池の大電流放電特性、負極に対する安定性、サイクル特性を良好な範囲としやすくなる。また、上限は、好ましくは95体積%以下、より好ましくは90体積%以下、さらに好ましくは85体積%以下である。この範囲であると、非水系電解液の粘度を適切な範囲とし、イオン伝導度の低下を抑制し、負荷特性等の電池特性を良好な範囲としやすくなる。
【0034】
また、フッ素化環状カーボネートも好適に用いることができる。フッ素化環状カーボネートは、本発明では、上述の一般式(1)で示される化合物とは異なる環状カーボネート化合物であり、一般式(1)で示される化合物を含まないものである。
上記フッ素化環状カーボネートとしては、下記一般式(A):
【0035】
【化7】
【0036】
(式中、X〜Xは同じか又は異なり、それぞれ−H、−F、エーテル結合を有してもよいフッ素化アルキル基、又は、エーテル結合を有してもよいフッ素化アルコキシ基を表す。ただし、X〜Xの少なくとも1つは−F、エーテル結合を有してもよいフッ素化アルキル基、又は、エーテル結合を有してもよいフッ素化アルコキシ基である。)で表されるフッ素化環状カーボネート(A)が挙げられる。
上記フッ素化環状カーボネート(A)を含むと、本発明の電解液をリチウム電池等に適用した場合に、負極に安定な被膜を形成することができ、負極での電解液の副反応を充分に抑制することができる。その結果、極めて安定で優れた充放電特性が得られる。
なお、本明細書中で「エーテル結合」は、−O−で表される結合である。
【0037】
上記一般式(A)において、低温での粘性の低下、引火点の上昇、更には電解質塩の溶解性の向上が期待できることから、X〜Xは、−H、−F、フッ素化アルキル基(a)、エーテル結合を有するフッ素化アルキル基(b)、又は、フッ素化アルコキシ基(c)であることが好ましい。
【0038】
上記一般式(A)において、低温での粘性の低下、引火点の上昇、更には電解質塩の溶解性の向上が期待できることから、X〜Xは、−H、−F、フッ素化アルキル基(a)、エーテル結合を有するフッ素化アルキル基(b)、又は、フッ素化アルコキシ基(c)であることが好ましい。
【0039】
上記一般式(A)において、誘電率、耐酸化性が良好な点から、X〜Xの少なくとも1つ又は2つが、−F、エーテル結合を有してもよいフッ素化アルキル基、又は、エーテル結合を有してもよいフッ素化アルコキシ基であることが好ましい。
【0040】
上記フッ素化アルキル基(a)は、アルキル基が有する水素原子の少なくとも1つをフッ素原子で置換したものである。フッ素化アルキル基(a)の炭素数は、1〜20が好ましく、2〜17がより好ましく、2〜7が更に好ましく、2〜5が特に好ましい。
炭素数が大きくなりすぎると低温特性が低下したり、電解質塩の溶解性が低下したりするおそれがあり、炭素数が少な過ぎると、電解質塩の溶解性の低下、放電効率の低下、更には粘性の増大等がみられることがある。
【0041】
上記フッ素化アルキル基(a)のうち、炭素数が1のものとしては、CFH−、CFH−及びCF−が挙げられる。
【0042】
上記フッ素化アルキル基(a)のうち、炭素数が2以上のものとしては、下記一般式(a−1):
−R− (a−1)
(式中、Rはフッ素原子を有していてもよい炭素数1以上のアルキル基;Rはフッ素原子を有していてもよい炭素数1〜3のアルキレン基;ただし、R及びRの少なくとも一方はフッ素原子を有している)で示されるフッ素化アルキル基が、電解質塩の溶解性が良好な点から好ましく例示できる。
なお、R及びRは、更に、炭素原子、水素原子及びフッ素原子以外の、その他の原子を有していてもよい。
【0043】
は、フッ素原子を有していてもよい炭素数1以上のアルキル基である。Rとしては、炭素数1〜16の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基が好ましい。Rの炭素数としては、1〜6がより好ましく、1〜3が更に好ましい。
【0044】
として、具体的には、直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基として、CH−、CHCH−、CHCHCH−、CHCHCHCH−、
【0045】
【化8】
【0046】
等が挙げられる。
【0047】
また、Rがフッ素原子を有する直鎖状のアルキル基である場合、CF−、CFCH−、CFCF−、CFCHCH−、CFCFCH−、CFCFCF−、CFCHCF−、CFCHCHCH−、CFCFCHCH−、CFCHCFCH−、CFCFCFCH−、CFCFCFCF−、CFCFCHCF−、CFCHCHCHCH−、CFCFCHCHCH−、CFCHCFCHCH−、CFCFCFCHCH−、CFCFCFCFCH−、CFCFCHCFCH−、CFCFCHCHCHCH−、CFCFCFCFCHCH−、CFCFCHCFCHCH−、HCF−、HCFCH−、HCFCF−、HCFCHCH−、HCFCFCH−、HCFCHCF−、HCFCFCHCH−、HCFCHCFCH−、HCFCFCFCF−、HCFCFCHCHCH−、HCFCHCFCHCH−、HCFCFCFCFCH−、HCFCFCFCFCHCH−、FCH−、FCHCH−、FCHCF−、FCHCFCH−、FCHCFCF−、CHCFCH−、CHCFCF−、CHCHCH−、CHCFCHCF−、CHCFCFCF−、CHCHCFCF−、CHCFCHCFCH−、CHCFCFCFCH−、CHCFCFCHCH−、CHCHCFCFCH−、CHCFCHCFCH−、CHCFCHCFCHCH−、CHCFCHCFCHCH−、HCFClCFCH−、HCFCFClCH−、HCFCFClCFCFClCH−、HCFClCFCFClCFCH−等が挙げられる。
【0048】
また、Rがフッ素原子を有する分岐鎖状のアルキル基である場合、
【0049】
【化9】
【0050】
【化10】
【0051】
等が好ましく挙げられる。ただし、−CHや−CFという分岐を有していると粘性が高くなりやすいため、その数は少ない(1個)かゼロであることがより好ましい。
【0052】
はフッ素原子を有していてもよい炭素数1〜3のアルキレン基である。Rは、直鎖状であってもよく、分岐鎖状であってもよい。このような直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基を構成する最小構造単位の一例を下記に示す。Rはこれらの単独又は組み合わせで構成される。
【0053】
(i)直鎖状の最小構造単位:
−CH−、−CHF−、−CF−、−CHCl−、−CFCl−、−CCl
【0054】
(ii)分岐鎖状の最小構造単位:
【0055】
【化11】
【0056】
なお、以上の例示のなかでも、塩基による脱HCl反応が起こらず、より安定なことから、Clを含有しない構成単位から構成されることが好ましい。
【0057】
は、直鎖状である場合には、上述した直鎖状の最小構造単位のみからなるものであり、なかでも−CH−、−CHCH−又はCF−が好ましい。電解質塩の溶解性をより一層向上させることができる点から、−CH−又は−CHCH−がより好ましい。
【0058】
は、分岐鎖状である場合には、上述した分岐鎖状の最小構造単位を少なくとも1つ含んでなるものであり、一般式−(CX)−(XはH、F、CH又はCF;XはCH又はCF。ただし、XがCFの場合、XはH又はCHである)で表されるものが好ましく例示できる。これらは特に電解質塩の溶解性をより一層向上させることができる。
【0059】
好ましいフッ素化アルキル基(a)としては、例えばCFCF−、HCFCF−、HCFCF−、CHCF−、CFCFCF−、HCFCFCF−、HCFCFCF−、CHCFCF−、
【0060】
【化12】
【0061】
【化13】
【0062】
等が挙げられる。
【0063】
上記エーテル結合を有するフッ素化アルキル基(b)は、エーテル結合を有するアルキル基が有する水素原子の少なくとも1つをフッ素原子で置換したものである。上記エーテル結合を有するフッ素化アルキル基(b)は、炭素数が2〜17であることが好ましい。炭素数が多過ぎると、フッ素化環状カーボネート(A)の粘性が高くなり、また、フッ素含有基が多くなることから、誘電率の低下による電解質塩の溶解性低下や、他の溶剤との相溶性の低下がみられることがある。この観点から上記エーテル結合を有するフッ素化アルキル基(b)の炭素数は2〜10がより好ましく、2〜7が更に好ましい。
【0064】
上記エーテル結合を有するフッ素化アルキル基(b)のエーテル部分を構成するアルキレン基は直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基でよい。そうした直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基を構成する最小構造単位の一例を下記に示す。
【0065】
(i)直鎖状の最小構造単位:
−CH−、−CHF−、−CF−、−CHCl−、−CFCl−、−CCl
【0066】
(ii)分岐鎖状の最小構造単位:
【0067】
【化14】
【0068】
アルキレン基は、これらの最小構造単位単独で構成されてもよく、直鎖状(i)同士、分岐鎖状(ii)同士、又は、直鎖状(i)と分岐鎖状(ii)との組み合わせにより構成されてもよい。好ましい具体例は、後述する。
【0069】
なお、以上の例示のなかでも、塩基による脱HCl反応が起こらず、より安定なことから、Clを含有しない構成単位から構成されることが好ましい。
【0070】
更に好ましいエーテル結合を有するフッ素化アルキル基(b)としては、一般式(b−1):
−(ORn1− (b−1)
(式中、Rはフッ素原子を有していてもよい、好ましくは炭素数1〜6のアルキル基;Rはフッ素原子を有していてもよい、好ましくは炭素数1〜4のアルキレン基;n1は1〜3の整数;ただし、R及びRの少なくとも1つはフッ素原子を有している)で示されるものが挙げられる。
【0071】
及びRとしては以下のものが例示でき、これらを適宜組み合わせて、上記一般式(b−1)で表されるエーテル結合を有するフッ素化アルキル基(b)を構成することができるが、これらのみに限定されるものではない。
【0072】
(1)Rとしては、一般式:XC−(Rn2−(3つのXは同じか又は異なりいずれもH又はF;Rは炭素数1〜5のフッ素原子を有していてもよいアルキレン基;n2は0又は1)で表されるアルキル基が好ましい。
【0073】
n2が0の場合、Rとしては、CH−、CF−、HCF−及びHCF−が挙げられる。
【0074】
n2が1の場合の具体例としては、Rが直鎖状のものとして、CFCH−、CFCF−、CFCHCH−、CFCFCH−、CFCFCF−、CFCHCF−、CFCHCHCH−、CFCFCHCH−、CFCHCFCH−、CFCFCFCH−、CFCFCFCF−、CFCFCHCF−、CFCHCHCHCH−、CFCFCHCHCH−、CFCHCFCHCH−、CFCFCFCHCH−、CFCFCFCFCH−、CFCFCHCFCH−、CFCFCHCHCHCH−、CFCFCFCFCHCH−、CFCFCHCFCHCH−、HCFCH−、HCFCF−、HCFCHCH−、HCFCFCH−、HCFCHCF−、HCFCFCHCH−、HCFCHCFCH−、HCFCFCFCF−、HCFCFCHCHCH−、HCFCHCFCHCH−、HCFCFCFCFCH−、HCFCFCFCFCHCH−、FCHCH−、FCHCF−、FCHCFCH−、FCHCFCH−、CHCF−、CHCH−、CHCFCH−、CHCFCF−、CHCHCH−、CHCFCHCF−、CHCFCFCF−、CHCHCFCF−、CHCHCHCH−、CHCFCHCFCH−、CHCFCFCFCH−、CHCFCFCHCH−、CHCHCFCFCH−、CHCFCHCFCH−、CHCFCHCFCHCH−、CHCHCFCFCHCH−、CHCFCHCFCHCH−等が例示できる。
【0075】
n2が1であり、かつRが分岐鎖状のものとしては、
【0076】
【化15】
【0077】
等が挙げられる。
【0078】
ただし、−CHや−CFという分岐を有していると粘性が高くなりやすいため、Rが直鎖状のものがより好ましい。
【0079】
(2)上記一般式(b−1)の−(ORn1−において、n1は1〜3の整数であり、好ましくは1又は2である。なお、n1=2又は3のとき、Rは同じでも異なっていてもよい。
【0080】
の好ましい具体例としては、次の直鎖状又は分岐鎖状のものが例示できる。
【0081】
直鎖状のものとしては、−CH−、−CHF−、−CF−、−CHCH−、−CFCH−、−CFCF−、−CHCF−、−CHCHCH−、−CHCHCF−、−CHCFCH−、−CHCFCF−、−CFCHCH−、−CFCFCH−、−CFCHCF−、−CFCFCF−等が例示できる。
【0082】
分岐鎖状のものとしては、
【0083】
【化16】
【0084】
等が挙げられる。
【0085】
上記フッ素化アルコキシ基(c)は、アルコキシ基が有する水素原子の少なくとも1つをフッ素原子で置換したものである。上記フッ素化アルコキシ基(c)は、炭素数が1〜17であることが好ましい。より好ましくは、炭素数1〜6である。
【0086】
上記フッ素化アルコキシ基(c)としては、一般式:XC−(Rn3−O−(3つのXは同じか又は異なりいずれもH又はF;Rは好ましくは炭素数1〜5のフッ素原子を有していてもよいアルキレン基;n3は0又は1;ただし3つのXのいずれかはフッ素原子を含んでいる)で表されるフッ素化アルコキシ基が特に好ましい。
【0087】
上記フッ素化アルコキシ基(c)の具体例としては、上記一般式(a−1)におけるRとして例示したアルキル基の末端に酸素原子が結合したフッ素化アルコキシ基が挙げられる。
【0088】
フッ素化環状カーボネート(A)におけるフッ素化アルキル基(a)、エーテル結合を有するフッ素化アルキル基(b)、及び、フッ素化アルコキシ基(c)のフッ素含有率は10質量%以上が好ましい。フッ素含有率が低過ぎると、低温での粘性低下効果や引火点の上昇効果が充分に得られないおそれがある。この観点から上記フッ素含有率は12質量%以上がより好ましく、15質量%以上が更に好ましい。上限は通常76質量%である。なお、フッ素化アルキル基(a)、エーテル結合を有するフッ素化アルキル基(b)、及び、フッ素化アルコキシ基(c)のフッ素含有率は、各基の構造式に基づいて、{(フッ素原子の個数×19)/各基の式量}×100(%)により算出した値である。
【0089】
また、誘電率、耐酸化性が良好な点からは、フッ素化環状カーボネート(A)全体のフッ素含有率は10質量%以上が好ましく、15質量%以上がより好ましい。上限は通常76質量%である。なお、フッ素化環状カーボネート(A)のフッ素含有率は、フッ素環状カーボネート(A)の構造式に基づいて、{(フッ素原子の個数×19)/フッ素化環状カーボネート(A)の分子量}×100(%)により算出した値である。
【0090】
上記フッ素化環状カーボネート(A)の具体例としては、例えば、
【0091】
【化17】
【0092】
等が挙げられる。
【0093】
他に、
【0094】
【化18】
【0095】
等が使用できる。
【0096】
上記フッ素化カーボネート(A)において、X〜Xの少なくとも1つがフッ素化アルキル基(a)であり、かつ残りが全て−Hであるフッ素化飽和環状カーボネート(A)(ただし、上述の一般式(1)で示される化合物とは異なる環状カーボネート化合物であり、一般式(1)で示される化合物を含まないもの)の具体例としては、
【0097】
【化19】
【0098】
【化20】
【0099】
【化21】
【0100】
等が挙げられる。
【0101】
上記一般式(A)において、X〜Xの少なくとも1つが、エーテル結合を有するフッ素化アルキル基(b)、又は、フッ素化アルコキシ基(c)であり、かつ残りが全て−Hであるフッ素化環状カーボネート(A)の具体例としては、
【0102】
【化22】
【0103】
【化23】
【0104】
【化24】
【0105】
【化25】
【0106】
【化26】
【0107】
【化27】
【0108】
等が挙げれる。
【0109】
なお、上記フッ素化環状カーボネート(A)は、上述した具体例のみに限定されるものではない。
【0110】
上記フッ素化環状カーボネート(A)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。フッ素化環状カーボネートの配合量は、特に制限されず、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、非水系溶媒100体積%中、0.01体積%以上であることが好ましく、0.1体積%以上がより好ましく、0.2体積%以上がさらに好ましい。また、上記含有量は、95体積%以下であることが好ましく、90体積%以下であることがより好ましい。この範囲であれば、非水系電解液電池が十分なサイクル特性向上効果を発現しやすく、高温保存特性の低下や、ガス発生量の増加により、放電容量維持率が低下することを回避しやすい。
【0111】
(鎖状カーボネート)
鎖状カーボネートとしては、炭素数3〜7のものが好ましい。
具体的には、炭素数3〜7の鎖状カーボネートとしては、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジ−n−プロピルカーボネート、ジイソプロピルカーボネート、n−プロピルイソプロピルカーボネート、エチルメチルカーボネート(EMC)、メチル−n−プロピルカーボネート、n−ブチルメチルカーボネート、イソブチルメチルカーボネート、t−ブチルメチルカーボネート、エチル−n−プロピルカーボネート、n−ブチルエチルカーボネート、イソブチルエチルカーボネート、t−ブチルエチルカーボネート等が挙げられる。
【0112】
中でも、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジ−n−プロピルカーボネート、ジイソプロピルカーボネート、n−プロピルイソプロピルカーボネート、エチルメチルカーボネート(EMC)、メチル−n−プロピルカーボネートが好ましく、特に好ましくは、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)である。
【0113】
また、鎖状カーボネートとして、フッ素化鎖状カーボネート類も好適に用いることができる。フッ素化鎖状カーボネートが有するフッ素原子の数は、1以上であれば特に制限されないが、通常6以下であり、4以下であることが好ましい。フッ素化鎖状カーボネートが複数のフッ素原子を有する場合、それらは互いに同一の炭素に結合していてもよく、異なる炭素に結合していてもよい。フッ素化鎖状カーボネートとしては、フッ素化ジメチルカーボネート誘導体、フッ素化エチルメチルカーボネート誘導体、フッ素化ジエチルカーボネート誘導体等が挙げられる。
【0114】
フッ素化ジメチルカーボネート誘導体としては、フルオロメチルメチルカーボネート、ジフルオロメチルメチルカーボネート、トリフルオロメチルメチルカーボネート、ビス(フルオロメチル)カーボネート、ビス(ジフルオロ)メチルカーボネート、ビス(トリフルオロメチル)カーボネート等が挙げられる。
フッ素化エチルメチルカーボネート誘導体としては、2−フルオロエチルメチルカーボネート、エチルフルオロメチルカーボネート、2,2−ジフルオロエチルメチルカーボネート、2−フルオロエチルフルオロメチルカーボネート、エチルジフルオロメチルカーボネート、2,2,2−トリフルオロエチルメチルカーボネート、2,2−ジフルオロエチルフルオロメチルカーボネート、2−フルオロエチルジフルオロメチルカーボネート、エチルトリフルオロメチルカーボネート等が挙げられる。
【0115】
フッ素化ジエチルカーボネート誘導体としては、エチル−(2−フルオロエチル)カーボネート、エチル−(2,2−ジフルオロエチル)カーボネート、ビス(2−フルオロエチル)カーボネート、エチル−(2,2,2−トリフルオロエチル)カーボネート、2,2−ジフルオロエチル−2‘−フルオロエチルカーボネート、ビス(2,2−ジフルオロエチル)カーボネート、2,2,2−トリフルオロエチル−2’,2’−ジフルオロエチルカーボネート、ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)カーボネート等が挙げられる。
【0116】
なかでも、より優れた電気特性を有する点で、以下の化合物が好ましい。
CFCHOCOOCHCF、CFCFCHOCOOCHCFCF、CFCFCHOCOOCH、CFCHOCOOCH、CFCFCHOCOOCH、HCFCFCHOCOOCH、CFOCOOCH、HCFCFCHOCOOC、HCFCFCHOCOOC
【0117】
鎖状カーボネートおよびフッ素化鎖状カーボネートは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
鎖状カーボネートの配合量は、非水系溶媒100体積%中、好ましくは5体積%以上、より好ましくは、10体積%以上、さらに好ましくは15体積%以上である。この範囲であると、非水系電解液の粘度を適切な範囲とし、イオン伝導度の低下を抑制し、非水系電解液電池の大電流放電特性等を良好な範囲としやすくなる。また、鎖状カーボネートは、非水系溶媒100体積%中、90体積%以下、より好ましくは85体積%以下であることが好ましい。この範囲であると、非水系電解液の誘電率の低下に由来する電気伝導率の低下を回避し、非水系電解液電池の大電流放電特性等を良好な範囲としやすくなる。
【0118】
特定の鎖状カーボネートに対して、エチレンカーボネートを特定の配合量で組み合わせることにより、電池性能を著しく向上させることができる。例えば、特定の鎖状カーボネートとしてDMC、またはEMC、またはDECを選択した場合、エチレンカーボネートの配合量が10体積%以上、80体積%以下、DMC、またはEMC、またはDECの配合量が20体積%以上、90体積%以下であることが好ましい。このような配合量を選択することで、電解質の低温析出温度を低下させながら、非水系電解液の粘度も低下させてイオン伝導度を向上させ、低温でも高出力を得ることができる。
【0119】
特定の鎖状カーボネートを2種類以上併用することも好ましい。特定の鎖状カーボネートとしてDMCとEMCを併用して用いる場合、エチレンカーボネートの配合量が10体積%以上、60体積%以下、DMCの配合量が10体積%以上、70体積%以下、EMCの配合量が10体積%以上、80体積%以下であるものが特に好ましい。また、特定の鎖状カーボネートとしてDMCとDECを併用して用いる場合、エチレンカーボネートの配合量が10体積%以上、60体積%以下、DMCの配合量が10体積%以上、70体積%以下、DECの配合量が10体積%以上、70体積%以下であるものが特に好ましい。更に、特定の鎖状カーボネートにEMCとDECを併用して用いる場合、エチレンカーボネートの配合量が10体積%以上、60体積%以下、EMCの配合量が10体積%以上、80体積%以下、DECの配合量が10体積%以上、70体積%以下であるものが特に好ましい。
【0120】
(環状カルボン酸エステル)
環状カルボン酸エステルとしては、その構造式中の全炭素原子数が3〜12のものが挙げられる。具体的には、ガンマブチロラクトン、ガンマバレロラクトン、ガンマカプロラクトン、イソプシロンカプロラクトン等が挙げられる。中でも、ガンマブチロラクトンがリチウムイオン解離度の向上に由来する電池特性向上の点から特に好ましい。
【0121】
環状カルボン酸エステルの配合量は、通常、非水系溶媒100体積%中、好ましくは5体積%以上、より好ましくは10体積%以上である。この範囲であると、非水系電解液の電気伝導率を改善し、非水系電解液電池の大電流放電特性を向上させやすくなる。また、環状カルボン酸エステルの配合量は、好ましくは50体積%以下、より好ましくは40体積%以下である。このように上限を設定することにより、非水系電解液の粘度を適切な範囲とし、電気伝導率の低下を回避し、負極抵抗の増大を抑制し、非水系電解液電池の大電流放電特性を良好な範囲としやすくする。
【0122】
また、フッ素化環状カルボン酸エステル(含フッ素ラクトン)も好適に用いることができる。含フッ素ラクトンとしては、例えば、下記式(C):
【0123】
【化28】
【0124】
(式中、X15〜X20は同じか又は異なり、いずれも−H、−F、−Cl、−CH又はフッ素化アルキル基;ただし、X15〜X20の少なくとも1つはフッ素化アルキル基である)で示される含フッ素ラクトンが挙げられる。
【0125】
15〜X20におけるフッ素化アルキル基としては、例えば、−CFH、−CFH、−CF、−CHCF、−CFCF、−CHCFCF、−CF(CF等が挙げられ、耐酸化性が高く、安全性向上効果がある点から−CHCF、−CHCFCFが好ましい。
【0126】
15〜X20の少なくとも1つがフッ素化アルキル基であれば、−H、−F、−Cl、−CH又はフッ素化アルキル基は、X15〜X20の1箇所のみに置換していてもよいし、複数の箇所に置換していてもよい。好ましくは、電解質塩の溶解性が良好な点から1〜3箇所、更には1〜2箇所である。
【0127】
フッ素化アルキル基の置換位置は特に限定されないが、合成収率が良好なことから、X17及び/又はX18が、特にX17又はX18がフッ素化アルキル基、なかでも−CHCF、−CHCFCFであることが好ましい。フッ素化アルキル基以外のX15〜X20は、−H、−F、−Cl又はCHであり、特に電解質塩の溶解性が良好な点から−Hが好ましい。
【0128】
含フッ素ラクトンとしては、上記式で示されるもの以外にも、例えば、下記式(D):
【0129】
【化29】
【0130】
(式中、A及びBはいずれか一方がCX2627(X26及びX27は同じか又は異なり、いずれも−H、−F、−Cl、−CF、−CH又は水素原子がハロゲン原子で置換されていてもよくヘテロ原子を鎖中に含んでいてもよいアルキレン基)であり、他方は酸素原子;Rf12はエーテル結合を有していてもよいフッ素化アルキル基又はフッ素化アルコキシ基;X21及びX22は同じか又は異なり、いずれも−H、−F、−Cl、−CF又はCH;X23〜X25は同じか又は異なり、いずれも−H、−F、−Cl又は水素原子がハロゲン原子で置換されていてもよくヘテロ原子を鎖中に含んでいてもよいアルキル基;n=0又は1)で示される含フッ素ラクトン等も挙げられる。
【0131】
式(D)で示される含フッ素ラクトンとしては、下記式(E):
【0132】
【化30】
【0133】
(式中、A、B、Rf12、X21、X22及びX23は式(D)と同じである)で示される5員環構造が、合成が容易である点、化学的安定性が良好な点から好ましく挙げられ、更には、AとBの組合せにより、下記式(F):
【0134】
【化31】
【0135】
(式中、Rf12、X21、X22、X23、X26及びX27は式(D)と同じである)で示される含フッ素ラクトンと、下記式(G):
【0136】
【化32】
【0137】
(式中、Rf12、X21、X22、X23、X26及びX27は式(D)と同じである)で示される含フッ素ラクトンがある。
【0138】
これらのなかでも、高い誘電率、高い耐電圧といった優れた特性が特に発揮できる点、そのほか電解質塩の溶解性、内部抵抗の低減が良好な点で本発明における電解液としての特性が向上する点から、
【0139】
【化33】
【0140】
等が挙げられる。
フッ素化環状カルボン酸エステルを含有させることにより、イオン伝導度の向上、安全性の向上、高温時の安定性向上といった効果が得られる。
【0141】
(鎖状カルボン酸エステル)
鎖状カルボン酸エステルとしては、その構造式中の全炭素数が3〜7のものが挙げられる。具体的には、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸−n−プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸−n−ブチル、酢酸イソブチル、酢酸−t−ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸−n−プロピル、プロピオン酸イソプロピル、プロピオン酸−n−ブチル、プロピオン酸イソブチル、プロピオン酸−t−ブチル、酪酸メチル、酪酸エチル、酪酸−n−プロピル、酪酸−n−プロピル、酪酸イソプロピル、イソ酪酸メチル、イソ酪酸エチル、イソ酪酸−n−プロピル、イソ酪酸イソプロピル等が挙げられる。
【0142】
中でも、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸−n−プロピル、酢酸−n−ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸−n−プロピル、プロピオン酸イソプロピル、酪酸メチル、酪酸エチル等が粘度低下によるイオン伝導度の向上の点から好ましい。
【0143】
鎖状カルボン酸エステルの配合量は、通常、非水系溶媒100体積%中、好ましくは10体積%以上、より好ましくは15体積%以上がある。このように下限を設定することで、電解液の電気伝導率を改善し、非水系電解液電池の大電流放電特性を向上させやすくなる。また、鎖状カルボン酸エステルの配合量は、非水系溶媒100体積%中、好ましくは60体積%以下、より好ましくは50体積%以下である。このように上限を設定することで、負極抵抗の増大を抑制し、非水系電解液電池の大電流放電特性、サイクル特性を良好な範囲としやすくなる。
【0144】
また、フッ素化鎖状カルボン酸エステルも好適に用いることができる。含フッ素エステルとしては、下記式(H):
Rf10COORf11 (H)
(式中、Rf10は炭素数1〜2のフッ素化アルキル基、Rf11は炭素数1〜4のフッ素化アルキル基)で示されるフッ素化鎖状カルボン酸エステルが、難燃性が高く、かつ他溶媒との相溶性や耐酸化性が良好な点から好ましい。
【0145】
Rf10としては、例えばCF−、CFCF−、HCFCF−、HCF−、CHCF−、CFCH−等が例示でき、なかでもCF−、CFCF−が、レート特性が良好な点から特に好ましい。
【0146】
Rf11としては、例えばCF、−CFCF、−CH(CF、−CHCF、−CHCHCF、−CHCFCFHCF、−CH、−CHCFCFH、−CHCH、−CHCFCF、−CHCFCFCF等が例示でき、なかでも−CHCF、−CH(CF−CH、−CHCFCFHが、他溶媒との相溶性が良好な点から特に好ましい。
【0147】
フッ素化鎖状カルボン酸エステルの具体例としては、例えばCFC(=O)OCHCF、CFC(=O)OCHCHCF、CFC(=O)OCH、CFC(=O)OCHCFCFH、CFC(=O)OCH(CF等の1種又は2種以上が例示でき、なかでもCFC(=O)OCH、CFC(=O)OCHCFCFH、CFC(=O)OCHCF、CFC(=O)OCH(CFが、他溶媒との相溶性及びレート特性が良好な点から特に好ましい。
【0148】
フッ素化鎖状カルボン酸エステルを配合するときは、耐酸化性向上という効果が期待できる。
【0149】
(エーテル化合物)
エーテル化合物としては、炭素数3〜10の鎖状エーテル、及び炭素数3〜6の環状エーテルが好ましい。
炭素数3〜10の鎖状エーテルとしては、ジエチルエーテル、ジ−n−ブチルエーテル、ジメトキシメタン、メトキシエトキシメタン、ジエトキシメタン、ジメトキシエタン、メトキシエトキシエタン、ジエトキシエタン、エチレングリコールジ−n−プロピルエーテル、エチレングリコールジ−n−ブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル等が挙げられる。
【0150】
また、フッ素化エーテルも好適に用いることができる。
上記フッ素化エーテルとしては、下記一般式(I):
Rf−O−Rf (I)
(式中、Rf及びRfは同じか又は異なり、炭素数1〜10のアルキル基又は炭素数1〜10のフッ素化アルキル基である。ただし、Rf及びRfの少なくとも一方は、フッ素化アルキル基である。)で表されるフッ素化エーテル(I)が挙げられる。フッ素化エーテル(I)を含有させることにより、電解液の難燃性が向上するとともに、高温高電圧での安定性、安全性が向上する。
【0151】
上記一般式(I)においては、Rf及びRfの少なくとも一方が炭素数1〜10のフッ素化アルキル基であればよいが、電解液の難燃性及び高温高電圧での安定性、安全性を一層向上させる観点から、Rf及びRfが、ともに炭素数1〜10のフッ素化アルキル基であることが好ましい。この場合、Rf及びRfは同じであってもよく、互いに異なっていてもよい。
なかでも、Rf及びRfが、同じか又は異なり、Rfが炭素数3〜6のフッ素化アルキル基であり、かつ、Rfが炭素数2〜6のフッ素化アルキル基であるであることが好ましい。
【0152】
RfおよびRfの合計炭素数が少な過ぎるとフッ素化エーテルの沸点が低くなりすぎ、また、Rf又はRfの炭素数が多過ぎると、電解質塩の溶解性が低下し、他の溶媒との相溶性にも悪影響が出始め、また粘度が上昇するためレート特性(粘性)が低減する。Rfの炭素数が3又は4、Rfの炭素数が2又は3のとき、沸点およびレート特性に優れる点で有利である。
【0153】
上記フッ素化エーテル(I)は、フッ素含有率が40〜75質量%であることが好ましい。この範囲のフッ素含有率を有するとき、不燃性と相溶性のバランスに特に優れたものになる。また、耐酸化性、安全性が良好な点からも好ましい。
上記フッ素含有率の下限は、45質量%がより好ましく、50質量%が更に好ましく、55質量%が特に好ましい。上限は75質量%がより好ましく、70質量%が更に好ましく、66質量%が特に好ましい。
なお、本発明において、フッ素含有率は、フッ素化エーテル(I)の構造式に基づいて、{(フッ素原子の個数×19)/フッ素化エーテル(I)の分子量}×100(%)により算出した値である。
【0154】
Rfとしては、例えば、CFCFCH−、CFCFHCF−、HCFCFCF−、HCFCFCH−、CFCFCHCH−、CFCFHCFCH−、HCFCFCFCF−、HCFCFCFCH−、HCFCFCHCH−、HCFCF(CF)CH−等が挙げられる。また、Rfとしては、例えば、−CHCFCF、−CFCFHCF、−CFCFCFH、−CHCFCFH、−CHCHCFCF、−CHCFCFHCF、−CFCFCFCFH、−CHCFCFCFH、−CHCHCFCFH、−CHCF(CF)CFH、−CFCFH、−CHCFH、−CFCH等が挙げられる。
【0155】
上記フッ素化エーテル(I)の具体例としては、例えばHCFCFCHOCFCFH、CFCFCHOCFCFH、HCFCFCHOCFCFHCF、CFCFCHOCFCFHCF、C13OCH、C13OC、C17OCH、C17OC、CFCFHCFCH(CH)OCFCFHCF、HCFCFOCH(C、HCFCFOC、HCFCFOCHCH(C、HCFCFOCHCH(CH等が挙げられる。
【0156】
なかでも、片末端又は両末端にHCF−又はCFCFH−を含むものが分極性に優れ、沸点の高いフッ素化エーテル(I)を与えることができる。フッ素化エーテル(I)の沸点は、67〜120℃であることが好ましい。より好ましくは80℃以上、更に好ましくは100℃以上である。
【0157】
このようなフッ素化エーテル(I)としては、例えば、CFCHOCFCFHCF、CFCFCHOCFCFHCF、HCFCFCHOCFCFHCF、HCFCFCHOCHCFCFH、CFCFHCFCHOCFCFHCF、HCFCFCHOCFCFH、CFCFCHOCFCFH等の1種又は2種以上が挙げられる。
なかでも、高沸点、他の溶媒との相溶性や電解質塩の溶解性が良好な点で有利なことから、HCFCFCHOCFCFHCF(沸点106℃)、CFCFCHOCFCFHCF(沸点82℃)、HCFCFCHOCFCFH(沸点88℃)及びCFCFCHOCFCFH(沸点68℃)からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましく、HCFCFCHOCFCFHCF(沸点106℃)及びHCFCFCHOCFCFH(沸点88℃)からなる群より選択される少なくとも1種であることがより好ましい。
【0158】
炭素数3〜6の環状エーテルとしては、1,3−ジオキサン、2−メチル−1,3−ジオキサン、4−メチル−1,3−ジオキサン、1,4−ジオキサン等、及びこれらのフッ素化化合物が挙げられる。中でも、ジメトキシメタン、ジエトキシメタン、エトキシメトキシメタン、エチレングリコール−n−プロピルエーテル、エチレングリコールジ−n−ブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテルが、リチウムイオンへの溶媒和能力が高く、イオン解離度を向上させる点で好ましく、特に好ましくは、粘性が低く、高いイオン伝導度を与えることから、ジメトキシメタン、ジエトキシメタン、エトキシメトキシメタンである。
【0159】
エーテル化合物の配合量は、通常、非水系溶媒100体積%中、好ましくは5体積%以上、より好ましくは10体積%以上、さらに好ましくは15体積%以上、また、好ましくは70体積%以下、より好ましくは60体積%以下、さらに好ましくは50体積%以下である。この範囲であれば、鎖状エーテルのリチウムイオン解離度の向上と粘度低下に由来するイオン伝導度の向上効果を確保しやすく、負極活物質が炭素質材料の場合、鎖状エーテルがリチウムイオンと共に挿入されて容量が低下するといった事態を回避しやすい。
【0160】
本発明の電解液において、上記溶媒以外に、目的に応じてその他の成分を含んでも良い。その他の成分としては、例えば、不飽和環状カーボネート、窒素含有化合物、ホウ素含有化合物、有機ケイ素含有化合物、過充電防止剤等が挙げられる。
【0161】
不飽和環状カーボネートは、環状カーボネートであって、分子内に炭素−炭素不飽和結合を少なくとも1つ有するものである。本発明の電解液において、非水系電解液電池の負極表面に皮膜を形成し、電池の長寿命化を達成するために、不飽和環状カーボネートを含有させることができる。
【0162】
不飽和環状カーボネートとしては、ビニレンカーボネート(VC)、メチルビニレンカーボネート、エチルビニレンカーボネート、4,5−ジメチルビニレンカーボネート、4,5−ジエチルビニレンカーボネート等のビニレンカーボネート化合物;4−ビニルエチレンカーボネート(VEC)、4−メチル−4−ビニルエチレンカーボネート、4−エチル−4−ビニルエチレンカーボネート、4−n−プロピル−4−ビニレンエチレンカーボネート、5−メチル−4−ビニルエチレンカーボネート、4,4−ジビニルエチレンカーボネート、4,5−ジビニルエチレンカーボネート、4,4−ジメチル−5−メチレンエチレンカーボネート、4,4−ジエチル−5−メチレンエチレンカーボネート等のビニルエチレンカーボネート化合物等が挙げられる。このうち、ビニレンカーボネート、4−ビニルエチレンカーボネート、4−メチル−4−ビニルエチレンカーボネート又は4,5−ジビニルエチレンカーボネートが好ましく、ビニレンカーボネート又は4−ビニルエチレンカーボネートが特に好ましい。
【0163】
不飽和環状カーボネートの分子量は、特に制限されず、本発明の効果を著しく損なわない限り任意である。分子量は、好ましくは、50以上、250以下である。この範囲であれば、非水系電解液に対する不飽和環状カーボネートの溶解性を確保しやすく、本発明の効果が十分に発現されやすい。不飽和環状カーボネートの分子量は、より好ましくは80以上であり、また、より好ましくは150以下である。
【0164】
不飽和環状カーボネートは、1種を単独で用いても、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。また、不飽和環状カーボネートの配合量は、特に制限されず、本発明の効果を著しく損なわない限り任意である。不飽和環状カーボネートの配合量は、非水系電解液100質量%中、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上、さらに好ましくは0.2質量%以上であり、また、好ましくは5質量%以下、より好ましくは4質量%以下、さらに好ましくは3質量%以下である。この範囲であれば、非水系電解液電池が十分なサイクル特性向上効果を発現しやすく、また、高温保存特性が低下し、ガス発生量が多くなり、放電容量維持率が十分に発揮しない場合があり、また、多すぎる場合は、抵抗が増加して出力や負荷特性が低下する場合がある。
【0165】
また、フッ素化不飽和環状カーボネートも好適に用いることができる。
フッ素化不飽和環状カーボネートが有するフッ素原子の数は1以上があれば、特に制限されない。中でもフッ素原子が通常6以下、好ましくは4以下であり、1個又は2個のものが最も好ましい。
【0166】
フッ素化不飽和環状カーボネートとしては、フッ素化ビニレンカーボネート誘導体、芳香環又は炭素−炭素二重結合を有する置換基で置換されたフッ素化エチレンカーボネート誘導体等が挙げられる。
フッ素化ビニレンカーボネート誘導体としては、4−フルオロビニレンカーボネート、4−フルオ−5−メチルビニレンカーボネート、4−フルオロ−5−フェニルビニレンカーボネート、4−アリル−5−フルオロビニレンカーボネート、4−フルオロ−5−ビニルビニレンカーボネート等が挙げられる。
【0167】
芳香環又は炭素−炭素二重結合を有する置換基で置換されたフッ素化エチレンカーボネート誘導体としては、4−フルオロ−4−ビニルエチレンカーボネート、4−フルオロ−4−アリルエチレンカーボネート、4−フルオロ−5−ビニルエチレンカーボネート、4−フルオロ−5−アリルエチレンカーボネート、4,4−ジフルオロ−4−ビニルエチレンカーボネート、4,4−ジフルオロ−4−アリルエチレンカーボネート、4,5−ジフルオロ−4−ビニルエチレンカーボネート、4,5−ジフルオロ−4−アリルエチレンカーボネート、4−フルオロ−4,5−ジビニルエチレンカーボネート、4−フルオロ−4,5−ジアリルエチレンカーボネート、4,5−ジフルオロ−4,5−ジビニルエチレンカーボネート、4,5−ジフルオロ−4,5−ジアリルエチレンカーボネート、4−フルオロ−4−フェニルエチレンカーボネート、4−フルオロ−5−フェニルエチレンカーボネート、4,4−ジフルオロ−5−フェニルエチレンカーボネート、4,5−ジフルオロ−4−フェニルエチレンカーボネート等が挙げられる。
【0168】
フッ素化不飽和環状カーボネートの分子量は特に制限されず、本発明の効果を著しく損なわない限り任意である。分子量は、好ましくは、50以上であり、また、500以下である。この範囲であれば、非水系電解液に対するフッ素化環状カーボネートの溶解性を確保しやすく、本発明の効果が発現されやすい。
【0169】
フッ素化不飽和環状カーボネートは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。また、フッ素化不飽和環状カーボネートの配合量は、特に制限されず、本発明の効果を著しく損なわない限り任意である。フッ素化不飽和環状カーボネートの配合量は、通常、電解液100質量%中、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上、さらに好ましくは0.2質量%以上であり、また、好ましくは10質量%以下、より好ましくは8質量%以下、さらに好ましくは6質量%以下である。この範囲であれば、非水系電解液電池が十分なサイクル特性向上効果を発現しやすく、また、高温保存特性が低下し、ガス発生量が多くなり、放電容量維持率が低下するといった事態を回避しやすい。
【0170】
窒素含有化合物としては、例えば、1−メチル−2−ピロリジノン、1−メチル−2−ピペリドン、3−メチル−2−オキサジリジノン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン及びN−メチルスクシンイミドといった、ニトリル、含フッ素ニトリル、カルボン酸アミド、含フッ素カルボン酸アミド、スルホン酸アミド及び含フッ素スルホン酸アミド等が挙げられる。
【0171】
ホウ素含有化合物としては、例えば、トリメチルボレート、トリエチルボレート等のホウ酸エステル、ホウ酸エーテル、及び、ホウ酸アルキル等が挙げられる。
【0172】
有機ケイ素含有化合物としては、例えば、(CH−Si、(CH−Si−Si(CH等が挙げられる。
【0173】
過充電防止剤としては、過充電等のときに電池の破裂・発火を抑制することができる点で、芳香環を有する過充電防止剤であることが好ましい。上記芳香環を有する過充電防止剤としては、具体的には、例えば、シクロヘキシルベンゼン、ジクロロアニリン、トルエン、ビフェニル、アルキルビフェニル、ターフェニル、ターフェニルの部分水素化物、t−ブチルベンゼン、t−アミルベンゼン、ジフェニルエーテル、ベンゾフラン及びジベンゾフラン等の芳香族化合物;ヘキサフルオロベンゼン、フルオロベンゼン、2−フルオロビフェニル、o−シクロヘキシルフルオロベンゼン、p−シクロヘキシルフルオロベンゼン等の芳香族化合物のフッ素化物;2,4−ジフルオロアニソール、2,5−ジフルオロアニソール及び2,6−ジフルオロアニソール、3,5−ジフルオロアニソール等の含フッ素アニソール化合物等が挙げられる。中でも、ビフェニル、アルキルビフェニル、ターフェニル、ターフェニルの部分水素化体、シクロヘキシルベンゼン、t−ブチルベンゼン、t−アミルベンゼン、ジフェニルエーテル、ジベンゾフラン等の芳香族化合物が好ましい。これらは1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。2種以上併用する場合は、特に、シクロヘキシルベンゼンとt−ブチルベンゼン又はt−アミルベンゼンとの組み合わせ、ビフェニル、アルキルビフェニル、ターフェニル、ターフェニルの部分水素化体、シクロヘキシルベンゼン、t−ブチルベンゼン、t−アミルベンゼン等の酸素を含有しない芳香族化合物から選ばれる少なくとも1種と、ジフェニルエーテル、ジベンゾフラン等の含酸素芳香族化合物から選ばれる少なくとも1種を併用するのが過充電防止特性と高温保存特性のバランスの点から好ましい。
【0174】
過充電防止剤の配合量は、特に制限されず、本発明の効果を著しく損なわない限り任意である。過充電防止剤は、電解液100質量%中、好ましくは、0.1質量%以上であり、また、5質量%以下である。この範囲であれば、過充電防止剤の効果を十分に発現させやすく、また、高温保存特性等の電池の特性が低下するといった事態も回避しやすい。過充電防止剤は、より好ましくは0.2質量%以上、さらに好ましくは0.3質量%以上、特に好ましくは0.5質量%以上であり、また、より好ましくは3質量%以下、さらに好ましくは2質量%以下である。
【0175】
上記非水系溶媒はまた、上述した成分の他に、不燃(難燃)化剤、界面活性剤、高誘電化添加剤、サイクル特性及びレート特性改善剤等、公知のその他の助剤を含んでいてもよい。
【0176】
不燃(難燃)化剤としては、(CHO)P=O、(CFCHO)P=O等のリン酸エステルやホスファゼン系化合物が挙げられる。
【0177】
界面活性剤としては、カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、両性界面活性剤のいずれでもよいが、含フッ素界面活性剤が、サイクル特性、レート特性が良好な点から好ましい。
界面活性剤を含むことにより、容量特性、レート特性の改善を図ることができる。
【0178】
高誘電化添加剤としては、例えば、スルホラン、メチルスルホラン、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、アセトニトリル、プロピオニトリル等が挙げられる。
【0179】
サイクル特性及びレート特性改善剤としては、例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等が挙げられる。
【0180】
上記公知のその他の助剤としては、例えば、エリスリタンカーボネート、スピロ−ビス−ジメチレンカーボネート、メトキシエチル−メチルカーボネート等のカーボネート化合物;無水コハク酸、無水グルタン酸、無水マレイン酸、無水シトラコン酸、無水グルタコン酸、無水イタコン酸、無水ジグリコール酸、シクロヘキサンジカルボン酸無水物、シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物及びフェニルコハク酸無水物等のカルボン酸無水物;2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、3,9−ジビニル−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン等のスピロ化合物;エチレンサルファイト、1,3−プロパンスルトン、1−フルオロ−1,3−プロパンスルトン、2−フルオロ−1,3−プロパンスルトン、3−フルオロ−1,3−プロパンスルトン、1−プロペン−1,3−スルトン、1−フルオロ−1−プロペン−1,3−スルトン、2−フルオロ−1−プロペン−1,3−スルトン、3−フルオロ−1−プロペン−1,3−スルトン、1,4−ブタンスルトン、1−ブテン−1,4−スルトン、3−ブテン−1,4−スルトン、フルオロスルホン酸メチル、フルオロスルホン酸エチル、メタンスルホン酸メチル、メタンスルホン酸エチル、ブスルファン、スルホレン、ジフェニルスルホン、N,N−ジメチルメタンスルホンアミド、N,N−ジエチルメタンスルホンアミドといった鎖状スルホン、含フッ素鎖状スルホン、鎖状スルホン酸エステル、含フッ素鎖状スルホン酸エステル、環状スルホン、含フッ素環状スルホン、環状スルホン酸エステル、含フッ素環状スルホンエステル、スルホン酸ハライド及び含フッ素スルホン酸ハライド等の含硫黄化合物;ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、シクロヘプタン等の炭化水素化合物、フルオロベンゼン、ジフルオロベンゼン、ヘキサフルオロベンゼン、ベンゾトリフルオライド等の含フッ素芳香族化合物等が挙げられる。これらは1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。これらの助剤を添加することにより、高温保存後の容量維持特性やサイクル特性を向上させることができる。
【0181】
本発明の電解液は、更に、電解質塩を含む。
上記電解質塩としては、従来公知の金属塩、液体状の塩(イオン性液体)、無機高分子型の塩、有機高分子型の塩等が挙げられる。
【0182】
これらの電解質塩は電解液の使用目的によって、適宜好適な公知の化合物を使用することができるが、なかでもリチウム塩が好ましい。
【0183】
まず、上記リチウム塩としては、例えば、LiPF及びLiBF等の無機リチウム塩;LiCFSO、LiC(CFSO、LiPF(CF、LiPF(C、LiPF(CFSO、LiPF(CSO、LiBF(CF、LiBF(C、LiBF(CFSO、LiBF(CSO、リチウムジフルオロ(オキサレート)ボレート、リチウムビス(オキサレート)ボレート、LiPOF、LiFSI及び、式:LiPF(C2n+16−a(式中、aは0〜5の整数であり、nは1〜6の整数である)で表される塩等の含フッ素有機酸リチウム塩等が挙げられる。これらは、単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
ただし、出力特性やハイレート充放電特性、高温保存特性、サイクル特性等を向上させる効果がある点で、少なくとも1種のリチウム塩がLiPFであることが好ましい。
【0184】
式:LiPF(C2n+16−aで表される塩としては、例えば、LiPF(CF、LiPF(C5)3、LiPF(C、LiPF(C、LiPF(CF、LiPF(C、LiPF(C、LiPF(C(ただし、式中のC、Cで表されるアルキル基は、直鎖、分岐構造のいずれであってもよい。)等が挙げられる。
【0185】
電解質塩の濃度は、要求される電流密度、用途、電解質塩の種類等によって異なるが、電解液中0.2モル/リットル以上であることが好ましい。より好ましくは、0.5モル/リットル以上、更に好ましくは0.7モル/リットル以上である。電解質塩の濃度が低すぎると、電解液の電気伝導率が不十分な場合がある。電解質塩の濃度はまた、電解液中3.0モル/リットル以下が好ましく、2.0モル/リットル以下がより好ましい。濃度が高すぎると、粘度上昇のため電気伝導度が低下する場合があり、電池性能が低下する場合がある。上記の範囲であれば、低温特性、サイクル特性、高温特性等の効果が向上する。
【0186】
また、本発明の電解液は、更に高分子材料と組み合わせてゲル状(可塑化された)のゲル電解液としてもよい。
【0187】
かかる高分子材料としては、従来公知のポリエチレンオキシドやポリプロピレンオキシド、それらの変性体(特開平8−222270号公報、特開2002−100405号公報);ポリアクリレート系ポリマー、ポリアクリロニトリルや、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体等のフッ素樹脂(特表平4−506726号公報、特表平8−507407号公報、特開平10−294131号公報);それらフッ素樹脂と炭化水素系樹脂との複合体(特開平11−35765号公報、特開平11−86630号公報)等が挙げられる。特には、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体をゲル電解質用高分子材料として用いることが望ましい。
【0188】
そのほか、本発明の電解液は、特願2004−301934号明細書に記載されているイオン伝導性化合物も含んでいてもよい。
【0189】
このイオン伝導性化合物は、式(1−1):
A−(D)−B (1−1)
[式中、Dは式(2−1):
−(D1)−(FAE)−(AE)−(Y)− (2−1)
(式中、D1は、式(2a):
【0190】
【化34】
【0191】
(式中、Rfは架橋性官能基を有していてもよい含フッ素エーテル基;R10はRfと主鎖を結合する基又は結合手)で示される側鎖に含フッ素エーテル基を有するエーテル単位;
FAEは、式(2b):
【0192】
【化35】
【0193】
(式中、Rfaは水素原子、架橋性官能基を有していてもよいフッ素化アルキル基;R11はRfaと主鎖を結合する基又は結合手)で示される側鎖にフッ素化アルキル基を有するエーテル単位;
AEは、式(2c):
【0194】
【化36】
【0195】
(式中、R13は水素原子、架橋性官能基を有していてもよいアルキル基、架橋性官能基を有していてもよい脂肪族環式炭化水素基又は架橋性官能基を有していてもよい芳香族炭化水素基;R12はR13と主鎖を結合する基又は結合手)で示されるエーテル単位;
Yは、式(2d−1)〜(2d−3):
【0196】
【化37】
【0197】
の少なくとも1種を含む単位;
nは0〜200の整数;mは0〜200の整数;pは0〜10000の整数;qは1〜100の整数;ただしn+mは0ではなく、D1、FAE、AE及びYの結合順序は特定されない);
A及びBは同じか又は異なり、水素原子、フッ素原子及び/又は架橋性官能基を含んでいてもよいアルキル基、フッ素原子及び/又は架橋性官能基を含んでいてもよいフェニル基、−COOH基、−OR(Rは水素原子又はフッ素原子及び/又は架橋性官能基を含んでいてもよいアルキル基)、エステル基又はカーボネート基(ただし、Dの末端が酸素原子の場合は−COOH基、−OR、エステル基及びカーボネート基ではない)]で表される側鎖に含フッ素基を有する非晶性含フッ素ポリエーテル化合物である。
【0198】
本発明の電解液には必要に応じて、さらに他の添加剤を配合してもよい。他の添加剤としては、例えば、金属酸化物、ガラス等が挙げられる。
【0199】
本発明の電解液は、難燃性、低温特性、耐電圧、電解質塩の溶解性及び炭化水素系溶媒との相溶性を同時に向上させることができるので、非水系電解液電池等の電気化学デバイスの電解液として好適であり、本発明の電解液を備えることを特徴とする電気化学デバイスも本発明の一つである。
【0200】
電気化学デバイスとしては、リチウムイオン二次電池、キャパシタ(電解二重層キャパシタ)、ラジカル電池、太陽電池(特に色素増感型太陽電池)、燃料電池、各種電気化学センサー、エレクトロクロミック素子、電気化学スイッチング素子、アルミニウム電解コンデンサ、タンタル電解コンデンサ等が挙げられ、なかでも、リチウムイオン二次電池が好適である。
【0201】
本発明の電解液は、非水系電解液電池の中でもリチウム電池の電解液として用いるのに好適である。
そのなかでも、リチウムイオンを吸蔵又は放出可能な正極、負極、セパレータ及び本発明の電解液を備えるリチウム電池用として使用することが好適である。
リチウムイオンを吸蔵又は放出可能な負極および正極、セパレータ、ならびに、上述した電解液を備えることを特徴とするリチウム電池もまた、本発明の一つである。
【0202】
<負極>
(負極活物質)
以下に負極に使用される負極活物質について述べる。負極活物質としては、電気化学的にリチウムイオンを吸蔵・放出可能なものであれば、特に制限はない。具体例としては、炭素質材料、金属材料、リチウム含有金属複合酸化物材料等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、また2種以上を任意に組み合わせて併用してもよい。
なかでも、特に一般式(1)の化合物を含有する本発明の電解液と併用する場合に、高温保存特性、放電容量維持率、負荷特性、エネルギー密度等の電池特性向上の点から、負極活物質は、炭素質材料及び金属材料からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましく、金属材料であることがより好ましい。
このように、本発明のリチウム電池は、特定の化合物を含む電解液と、特定の負極活物質を含む負極とを備えるものであるため、高温保存特性、放電容量維持率、負荷特性等に優れ、良好な電池特性を有する。
【0203】
上記負極活物質として用いられる炭素質材料としては、天然黒鉛、人造黒鉛、人造炭素質物質並びに人造黒鉛質物質を400〜3200℃の範囲で1回以上熱処理した炭素質材料、負極活物質層が少なくとも2種類以上の異なる結晶性を有する炭素質からなり、かつ/又はその異なる結晶性の炭素質が接する界面を有している炭素質材料、負極活物質層が少なくとも2種以上の異なる配向性の炭素質が接する界面を有している炭素質材料、から選ばれるものが、初期不可逆容量、高電流密度充放電特性のバランスがよく好ましい。また、これらの炭素材料は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0204】
上記の人造炭素質物質並びに人造黒鉛質物質を400〜3200℃の範囲で1回以上熱処理した炭素質材料としては、天然黒鉛、石炭系コークス、石油系コークス、石炭系ピッチ、石油系ピッチ及びこれらピッチを酸化処理したもの、ニードルコークス、ピッチコークス及びこれらを一部黒鉛化した炭素剤、ファーネスブラック、アセチレンブラック、ピッチ系炭素繊維等の有機物の熱分解物、炭化可能な有機物及びこれらの炭化物、又は炭化可能な有機物をベンゼン、トルエン、キシレン、キノリン、n−ヘキサン等の低分子有機溶剤に溶解させた溶液及びこれらの炭化物等が挙げられる。
【0205】
上記負極活物質として用いられる金属材料(但し、リチウムチタン複合酸化物を除く)としては、リチウムを吸蔵・放出可能であれば、リチウム単体、リチウム合金を形成する単体金属及び合金、又はそれらの酸化物、炭化物、窒化物、ケイ化物、硫化物若しくはリン化物等の化合物のいずれであってもよく、特に制限されない。リチウム合金を形成する単体金属及び合金としては、13族及び14族の金属・半金属元素を含む材料であることが好ましく、より好ましくはアルミニウム、ケイ素及びスズ(以下、「特定金属元素」と略記)の単体金属及びこれら原子を含む合金又は化合物である。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0206】
特定金属元素から選ばれる少なくとも1種の原子を有する負極活物質としては、いずれか1種の特定金属元素の金属単体、2種以上の特定金属元素からなる合金、1種又は2種以上の特定金属元素とその他の1種又は2種以上の金属元素とからなる合金、並びに、1種又は2種以上の特定金属元素を含有する化合物、及びその化合物の酸化物、炭化物、窒化物、ケイ化物、硫化物若しくはリン化物等の複合化合物が挙げられる。負極活物質としてこれらの金属単体、合金又は金属化合物を用いることで、電池の高容量化が可能である。
【0207】
また、これらの複合化合物が、金属単体、合金又は非金属元素等の数種の元素と複雑に結合した化合物も挙げられる。具体的には、例えばケイ素やスズでは、これらの元素と負極として作動しない金属との合金を用いることができる。例えば、スズの場合、スズとケイ素以外で負極として作用する金属と、さらに負極として動作しない金属と、非金属元素との組み合わせで5〜6種の元素を含むような複雑な化合物も用いることができる。
【0208】
具体的には、Si単体、SiB、SiB、MgSi、NiSi、TiSi、MoSi、CoSi、NiSi、CaSi、CrSi、CuSi、FeSi、MnSi、NbSi、TaSi、VSi、WSi、ZnSi、SiC、Si、SiO、SiOv(0<v≦2)、LiSiOあるいはスズ単体、SnSiO、LiSnO、MgSn、SnOw(0<w≦2)が挙げられる。
また、SiまたはSnを第一の構成元素とし、それに加えて第2、第3の構成元素を含む複合材料が挙げられる。第2の構成元素は、例えば、コバルト、鉄、マグネシウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、ニッケル、銅、亜鉛、ガリウム及びジルコニウムのうち少なくとも1種である。第3の構成元素は、例えば、ホウ素、炭素、アルミニウム及びリンのうち少なくとも1種である。
特に、高い電池容量および優れた電池特性が得られることから、上記金属材料として、ケイ素またはスズの単体(微量の不純物を含んでよい)、SiOv(0<v≦2)、SnOw(0≦w≦2)、Si−Co−C複合材料、Si−Ni−C複合材料、Sn−Co−C複合材料、Sn−Ni−C複合材料が好ましい。
【0209】
負極活物質として用いられるリチウム含有金属複合酸化物材料としては、リチウムを吸蔵・放出可能であれば、特に制限されないが、高電流密度充放電特性の点からチタン及びリチウムを含有する材料が好ましく、より好ましくはチタンを含むリチウム含有複合金属酸化物材料が好ましく、さらにリチウムとチタンの複合酸化物(以下、「リチウムチタン複合酸化物」と略記)が好ましい。すなわち、スピネル構造を有するリチウムチタン複合酸化物を、非水系電解液電池用負極活物質に含有させて用いると、出力抵抗が大きく低減するので特に好ましい。
【0210】
上記リチウムチタン複合酸化物としては、一般式(J):
LiTi (J)
[一般式(J)中、Mは、Na、K、Co、Al、Fe、Ti、Mg、Cr、Ga、Cu、Zn及びNbからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を表わす。]
で表される化合物であることが好ましい。
上記の一般式(J)で表わされる組成の中でも、
(i)1.2≦x≦1.4、1.5≦y≦1.7、z=0
(ii)0.9≦x≦1.1、1.9≦y≦2.1、z=0
(iii)0.7≦x≦0.9、2.1≦y≦2.3、z=0
の構造が、電池性能のバランスが良好なため特に好ましい。
【0211】
上記化合物の特に好ましい代表的な組成は、(i)ではLi4/3Ti5/3、(ii)ではLiTi、(iii)ではLi4/5Ti11/5である。また、Z≠0の構造については、例えば、Li4/3Ti4/3Al1/3が好ましいものとして挙げられる。
【0212】
(負極の構成と作製法)
電極の製造は、本発明の効果を著しく損なわない限り、公知のいずれの方法を用いることができる。例えば、負極活物質にバインダー、溶媒、必要に応じて、増粘剤、導電剤、充填材等を加えてスラリーとし、これを集電体に塗布、乾燥した後にプレスすることによって形成することができる。
【0213】
また、合金材料を用いる場合には、蒸着法、スパッタ法、メッキ法等の手法により、上述の負極活物質を含有する薄膜層(負極活物質層)を形成する方法も用いられる。
【0214】
また、集電体の形状は、集電体が金属材料の場合は、例えば、金属箔、金属円柱、金属コイル、金属板、金属薄膜、エキスパンドメタル、パンチメタル、発泡メタル等が挙げられる。中でも好ましくは、金属薄膜、より好ましくは銅箔であり、さらに好ましくは圧延法による圧延銅箔と、電解法による電解銅箔があり、どちらも集電体として用いることができる。
【0215】
集電体の厚さは、通常1μm以上、好ましくは5μm以上であり、通常100μm以下、好ましくは50μm以下である。負極集電体の厚さが厚すぎると、電池全体の容量が低下し過ぎることがあり、逆に薄すぎると取扱いが困難になることがある。
【0216】
負極活物質を結着するバインダーとしては、非水系電解液や電極製造時に用いる溶媒に対して負極活物質を結着するバインダーとしては、非水系電解液や電極製造時に用いる溶媒に対して安定な材料であれば、特に制限されない。
具体例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリメチルメタクリレート、芳香族ポリアミド、ポリイミド、セルロース、ニトロセルロース等の樹脂系高分子;SBR(スチレン・ブタジエンゴム)、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、フッ素ゴム、NBR(アクリロニトリル・ブタジエンゴム)、エチレン・プロピレンゴム等のゴム状高分子;スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体又はその水素添加物;EPDM(エチレン・プロピレン・ジエン三元共重合体)、スチレン・エチレン・ブタジエン・スチレン共重合体、スチレン・イソプレン・スチレンブロック共重合体又はその水素添加物等の熱可塑性エラストマー状高分子;シンジオタクチック−1,2−ポリブタジエン、ポリ酢酸ビニル、エチレン・酢酸ビニル共重合体、プロピレン・α−レフィン共重合体等の軟質樹脂状高分子;ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素化ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン・エチレン共重合体等のフッ素系高分子;アルカリ金属イオン(特にリチウムイオン)のイオン伝導性を有する高分子組成物等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いても、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0217】
負極活物質を結着するバインダーの割合は、0.1質量%以上が好ましく、0.5質量%以上がさらに好ましく、0.6質量%以上が特に好ましく、また、20質量%以下が好ましく、15質量%以下がより好ましく、10質量%以下がさらに好ましく、8質量%以下が特に好ましい。負極活物質に対するバインダーの割合が、上記範囲を上回ると、バインダー量が電池容量に寄与しないバインダー割合が増加して、電池容量の低下を招く場合がある。また、上記範囲を下回ると、負極電極の強度低下を招く場合がある。
【0218】
特に、SBRに代表されるゴム状高分子を主要成分に含有する場合には、負極活物質に対するバインダーの割合は、通常0.1質量%以上であり、0.5質量%以上が好ましく、0.6質量%以上がさらに好ましく、また、通常5質量%以下であり、3質量%以下が好ましく、2質量%以下がさらに好ましい。また、ポリフッ化ビニリデンに代表されるフッ素系高分子を主要成分に含有する場合には負極活物質に対する割合は、通常1質量%以上であり、2質量%以上が好ましく、3質量%以上がさらに好ましく、また、通常15質量%以下であり、10質量%以下が好ましく、8質量%以下がさらに好ましい。
【0219】
スラリーを形成するための溶媒としては、負極活物質、バインダー、並びに必要に応じて使用される増粘剤及び導電材を溶解又は分散することが可能な溶媒であれば、その種類に特に制限はなく、水系溶媒と有機系溶媒のどちらを用いてもよい。
水系溶媒としては、水、アルコール等が挙げられ、有機系溶媒としてはN−メチルピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸メチル、アクリル酸メチル、ジエチルトリアミン、N,N−ジメチルアミノプロピルアミン、テトラヒドロフラン(THF)、トルエン、アセトン、ジエチルエーテル、ジメチルアセトアミド、ヘキサメチルホスファルアミド、ジメチルスルホキシド、ベンゼン、キシレン、キノリン、ピリジン、メチルナフタレン、ヘキサン等が挙げられる。
【0220】
特に水系溶媒を用いる場合、増粘剤に併せて分散剤等を含有させ、SBR等のラテックスを用いてスラリー化することが好ましい。なお、これらの溶媒は、1種を単独で用いても、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0221】
増粘剤は、通常、スラリーの粘度を調製するために使用される。増粘剤としては、特に制限されないが、具体的には、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、エチルセルロース、ポリビニルアルコール、酸化スターチ、リン酸化スターチ、カゼイン及びこれらの塩等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いても、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0222】
さらに増粘剤を用いる場合には、負極活物質に対する増粘剤の割合は、通常0.1質量%以上であり、0.5質量%以上が好ましく、0.6質量%以上がさらに好ましく、また、通常5質量%以下であり、3質量%以下が好ましく、2質量%以下がさらに好ましい。負極活物質に対する増粘剤の割合が、上記範囲を下回ると、著しく塗布性が低下する場合がある。また、上記範囲を上回ると、負極活物質層に占める負極活物質の割合が低下し、電池の容量が低下する問題や負極活物質間の抵抗が増大する場合がある。
【0223】
負極活物質を電極化した際の電極構造は特に制限されないが、集電体上に存在している負極活物質の密度は、1g・cm−3以上が好ましく、1.2g・cm−3以上がさらに好ましく、1.3g・cm−3以上が特に好ましく、また、2.2g・cm−3以下が好ましく、2.1g・cm−3以下がより好ましく、2.0g・cm−3以下がさらに好ましく、1.9g・cm−3以下が特に好ましい。集電体上に存在している負極活物質の密度が、上記範囲を上回ると、負極活物質粒子が破壊され、初期不可逆容量の増加や、集電体/負極活物質界面付近への非水系電解液の浸透性低下による高電流密度充放電特性悪化を招く場合がある。また、上記範囲を下回ると、負極活物質間の導電性が低下し、電池抵抗が増大し、単位容積当たりの容量が低下する場合がある。
【0224】
負極板の厚さは用いられる正極板に合わせて設計されるものであり、特に制限されないが、芯材の金属箔厚さを差し引いた合材層の厚さは通常15μm以上、好ましくは20μm以上、より好ましくは30μm以上、また、通常300μm以下、好ましくは280μm以下、より好ましくは250μm以下が望ましい。
【0225】
また、上記負極板の表面に、これとは異なる組成の物質が付着したものを用いてもよい。表面付着物質としては酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化ホウ素、酸化アンチモン、酸化ビスマス等の酸化物、硫酸リチウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、硫酸アルミニウム等の硫酸塩、炭酸リチウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等の炭酸塩等が挙げられる。
【0226】
<正極>
(正極活物質)
以下に正極に使用される正極活物質について述べる。
正極活物質としては、電気化学的にリチウムイオンを吸蔵・放出可能なものであれば特に制限されないが、例えば、リチウムと少なくとも1種の遷移金属を含有する物質が好ましい。具体例としては、リチウム遷移金属複合酸化物、リチウム含有遷移金属リン酸化合物が挙げられる。なかでも、正極活物質としては、リチウム遷移金属複合酸化物であることが好ましい。
【0227】
リチウム遷移金属複合酸化物の遷移金属としてはV、Ti、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu等が好ましく、具体例としては、LiCoO等のリチウム・コバルト複合酸化物、LiNiO等のリチウム・ニッケル複合酸化物、LiMnO、LiMn、LiMnO等のリチウム・マンガン複合酸化物、これらのリチウム遷移金属複合酸化物の主体となる遷移金属原子の一部をNa、K、B、F、Al、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Li、Ni、Cu、Zn、Mg、Ga、Zr、Si、Nb、Mo、Sn、W等の他の元素で置換したもの等が挙げられる。置換されたものの具体例としては、例えば、LiNi0.5Mn0.5、LiNi0.85Co0.10Al0.05、LiNi0.33Co0.33Mn0.33、LiNi0.45Co0.10Al0.45、LiMn1.8 Al0.2、LiMn1.5Ni0.5等が挙げられる。
【0228】
なかでも、上記リチウム遷移金属複合酸化物としては、一般式(2):
Li1+WMnNiCo(2)
(式中、w、x、y及びzは、0≦w<0.4、0.3<x<1、0≦y<0.4、0≦z<0.4、0<y+z、及び、w+x+y+z=1を満たす。)
で表されるリチウム遷移金属酸化物であることが好ましい。
【0229】
リチウム含有遷移金属リン酸化合物の遷移金属としては、V、Ti、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu等が好ましく、具体例としては、例えば、LiFePO 、LiFe(PO 、LiFeP 等のリン酸鉄類、LiCoPO等のリン酸コバルト類、これらのリチウム遷移金属リン酸化合物の主体となる遷移金属原子の一部をAl、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Li、Ni、Cu、Zn、Mg、Ga、Zr、Nb、Si等の他の元素で置換したもの等が挙げられる。
【0230】
また、正極活物質にリン酸リチウムを含ませると、連続充電特性が向上するので好ましい。リン酸リチウムの使用に制限はないが、前記の正極活物質とリン酸リチウムを混合して用いることが好ましい。使用するリン酸リチウムの量は上記正極活物質とリン酸リチウムの合計に対し、下限が、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.3質量%以上、さらに好ましくは0.5質量%以上であり、上限が、好ましくは10質量%以下、より好ましくは8質量%以下、さらに好ましくは5質量%以下である。
【0231】
また、上記正極活物質の表面に、これとは異なる組成の物質が付着したものを用いてもよい。表面付着物質としては酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化ホウ素、酸化アンチモン、酸化ビスマス等の酸化物、硫酸リチウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、硫酸アルミニウム等の硫酸塩、炭酸リチウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等の炭酸塩、炭素等が挙げられる。
【0232】
これら表面付着物質は、例えば、溶媒に溶解又は懸濁させて該正極活物質に含浸添加、乾燥する方法、表面付着物質前駆体を溶媒に溶解又は懸濁させて該正極活物質に含浸添加後、加熱等により反応させる方法、正極活物質前駆体に添加して同時に焼成する方法等により該正極活物質表面に付着させることができる。なお、炭素を付着させる場合には、炭素質を、例えば、活性炭等の形で後から機械的に付着させる方法も用いることもできる。
【0233】
表面付着物質の量としては、上記正極活物質に対して質量で、下限として好ましくは0.1ppm以上、より好ましくは1ppm以上、さらに好ましくは10ppm以上、上限として、好ましくは20%以下、より好ましくは10%以下、さらに好ましくは5%以下で用いられる。表面付着物質により、正極活物質表面での電解液の酸化反応を抑制することができ、電池寿命を向上させることができるが、その付着量が少なすぎる場合その効果は十分に発現せず、多すぎる場合には、リチウムイオンの出入りを阻害するため抵抗が増加する場合がある。
【0234】
本発明においては、正極活物質の表面に、これとは異なる組成の物質が付着したものを「正極活物質」という。
【0235】
(形状)
正極活物質の粒子の形状は、従来用いられるような、塊状、多面体状、球状、楕円球状、板状、針状、柱状等が挙げられる。また、一次粒子が凝集して、二次粒子を形成していてもよい。
【0236】
(タップ密度)
正極活物質のタップ密度は、好ましくは0.5g/cm以上、より好ましくは0.8g/cm以上、さらに好ましくは1.0g/cm以上である。該正極活物質のタップ密度が上記下限を下回ると正極活物質層形成時に、必要な分散媒量が増加すると共に、導電材や結着剤の必要量が増加し、正極活物質層への正極活物質の充填率が制約され、電池容量が制約される場合がある。タップ密度の高い複合酸化物粉体を用いることにより、高密度の正極活物質層を形成することができる。タップ密度は一般に大きいほど好ましく、特に上限はないが、大きすぎると、正極活物質層内における電解液を媒体としたリチウムイオンの拡散が律速となり、負荷特性が低下しやすくなる場合があるため、上限は、好ましくは4.0g/cm以下、より好ましくは3.7g/cm以下、さらに好ましくは3.5g/cm以下である。
なお、本発明では、タップ密度は、正極活物質粉体5〜10gを10mlのガラス製メスシリンダーに入れ、ストローク約20mmで200回タップした時の粉体充填密度(タップ密度)g/ccとして求める。
【0237】
(メジアン径d50)
正極活物質の粒子のメジアン径d50(一次粒子が凝集して二次粒子を形成している場合には二次粒子径)は好ましくは0.3μm以上、より好ましくは0.5μm以上、さらに好ましくは0.8μm以上、最も好ましくは1.0μm以上であり、上限は、好ましくは30μm以下、より好ましくは27μm以下、さらに好ましくは25μm以下、最も好ましくは22μm以下である。上記下限を下回ると、高タップ密度品が得られなくなる場合があり、上限を超えると粒子内のリチウムの拡散に時間がかかるため、電池性能の低下をきたしたり、電池の正極作成、即ち活物質と導電材やバインダー等を溶媒でスラリー化し、薄膜状に塗布する際に、スジを引く等の問題を生ずる場合がある。ここで、異なるメジアン径d50をもつ上記正極活物質を2種類以上混合することで、正極作成時の充填性をさらに向上させることができる。
【0238】
なお、本発明では、メジアン径d50は、公知のレーザー回折/散乱式粒度分布測定装置によって測定される。粒度分布計としてHORIBA社製LA−920を用いる場合、測定の際に用いる分散媒として、0.1質量%ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液を用い、5分間の超音波分散後に測定屈折率1.24を設定して測定される。
【0239】
(平均一次粒子径)
一次粒子が凝集して二次粒子を形成している場合には、上記正極活物質の平均一次粒子径としては、好ましくは0.05μm以上、より好ましくは0.1μm以上、さらに好ましくは0.2μm以上であり、上限は、好ましくは5μm以下、より好ましくは4μm以下、さらに好ましくは3μm以下、最も好ましくは2μm以下である。上記上限を超えると球状の二次粒子を形成し難く、粉体充填性に悪影響を及ぼしたり、比表面積が大きく低下するために、出力特性等の電池性能が低下する可能性が高くなる場合がある。逆に、上記下限を下回ると、通常、結晶が未発達であるために充放電の可逆性が劣る等の問題を生ずる場合がある。
【0240】
なお、本発明では、一次粒子径は、走査電子顕微鏡(SEM)を用いた観察により測定される。具体的には、10000倍の倍率の写真で、水平方向の直線に対する一次粒子の左右の境界線による切片の最長の値を、任意の50個の一次粒子について求め、平均値をとることにより求められる。
【0241】
(BET比表面積)
正極活物質のBET比表面積は、好ましくは0.1m/g以上、より好ましくは0.2m/g以上、さらに好ましくは0.3m/g以上であり、上限は好ましくは50m/g以下、より好ましくは40m/g以下、さらに好ましくは30m/g以下である。BET比表面積がこの範囲よりも小さいと電池性能が低下しやすく、大きいとタップ密度が上がりにくくなり、正極活物質層形成時の塗布性に問題が発生しやすい場合がある。
【0242】
なお、本発明では、BET比表面積は、表面積計(例えば、大倉理研製全自動表面積測定装置)を用い、試料に対して窒素流通下150℃で30分間、予備乾燥を行なった後、大気圧に対する窒素の相対圧の値が0.3となるように正確に調整した窒素ヘリウム混合ガスを用い、ガス流動法による窒素吸着BET1点法によって測定した値で定義される。
【0243】
(正極活物質の製造法)
正極活物質の製造法としては、無機化合物の製造法として一般的な方法が用いられる。特に球状ないし楕円球状の活物質を作成するには種々の方法が考えられるが、例えば、遷移金属の原料物質を水等の溶媒中に溶解ないし粉砕分散して、攪拌をしながらpHを調節して球状の前駆体を作成回収し、これを必要に応じて乾燥した後、LiOH、LiCO、LiNO等のLi源を加えて高温で焼成して活物質を得る方法等が挙げられる。
【0244】
正極の製造のために、前記の正極活物質を単独で用いてもよく、異なる組成の1種以上を、任意の組み合わせ又は比率で併用してもよい。この場合の好ましい組み合わせとしては、LiCoOとLiNi0.33Co0.33Mn0.33などのLiMn若しくはこのMnの一部を他の遷移金属等で置換したものとの組み合わせ、あるいは、LiCoO若しくはこのCoの一部を他の遷移金属等で置換したものとの組み合わせが挙げられる。
【0245】
<正極の構成と作製法>
以下に、正極の構成について述べる。本発明において、正極は、正極活物質と結着剤とを含有する正極活物質層を、集電体上に形成して作製することができる。正極活物質を用いる正極の製造は、常法により行うことができる。即ち、正極活物質と結着剤、並びに必要に応じて導電材及び増粘剤等を乾式で混合してシート状にしたものを正極集電体に圧着するか、又はこれらの材料を液体媒体に溶解又は分散させてスラリーとして、これを正極集電体に塗布し、乾燥することにより、正極活物質層を集電体上に形成されることにより正極を得ることができる。
【0246】
正極活物質の、正極活物質層中の含有量は、好ましくは80質量%以上、より好ましくは82質量%以上、特に好ましくは84質量%以上である。また上限は、好ましくは99質量%以下、より好ましくは98質量%以下である。正極活物質層中の正極活物質の含有量が低いと電気容量が不十分となる場合がある。逆に含有量が高すぎると正極の強度が不足する場合がある。
【0247】
塗布、乾燥によって得られた正極活物質層は、正極活物質の充填密度を上げるために、ハンドプレス、ローラープレス等により圧密化することが好ましい。正極活物質層の密度は、下限として好ましくは1.5g/cm以上、より好ましくは2g/cm以上、さらに好ましくは2.2g/cm以上であり、上限としては、好ましくは5g/cm以下、より好ましくは4.5g/cm以下、さらに好ましくは4g/cm以下の範囲である。この範囲を上回ると集電体/活物質界面付近への電解液の浸透性が低下し、特に高電流密度での充放電特性が低下し高出力が得られない場合がある。また下回ると活物質間の導電性が低下し、電池抵抗が増大し高出力が得られない場合がある。
【0248】
(導電材)
導電材としては、公知の導電材を任意に用いることができる。具体例としては、銅、ニッケル等の金属材料;天然黒鉛、人造黒鉛等の黒鉛(グラファイト);アセチレンブラック等のカーボンブラック;ニードルコークス等の無定形炭素等の炭素材料等が挙げられる。なお、これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。導電材は、正極活物質層中に、通常0.01質量%以上、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは1質量%以上であり、また上限は、通常50質量%以下、好ましくは30質量%以下、より好ましくは15質量%以下含有するように用いられる。含有量がこの範囲よりも低いと導電性が不十分となる場合がある。逆に、含有量がこの範囲よりも高いと電池容量が低下する場合がある。
【0249】
(結着剤)
正極活物質層の製造に用いる結着剤としては、特に限定されず、塗布法の場合は、電極製造時に用いる液体媒体に対して溶解又は分散される材料であればよいが、具体例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリメチルメタクリレート、ポリイミド、芳香族ポリアミド、セルロース、ニトロセルロース等の樹脂系高分子;SBR(スチレン−ブタジエンゴム)、NBR(アクリロニトリル−ブタジエンゴム)、フッ素ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、エチレン−プロピレンゴム等のゴム状高分子;スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体又はその水素添加物、EPDM(エチレン・プロピレン・ジエン三元共重合体)、スチレン・エチレン・ブタジエン・エチレン共重合体、スチレン・イソプレン・スチレンブロック共重合体又はその水素添加物等の熱可塑性エラストマー状高分子;シンジオタクチック−1,2−ポリブタジエン、ポリ酢酸ビニル、エチレン・酢酸ビニル共重合体、プロピレン・α−オレフィン共重合体等の軟質樹脂状高分子;ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素化ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン・エチレン共重合体等のフッ素系高分子;アルカリ金属イオン(特にリチウムイオン)のイオン伝導性を有する高分子組成物等が挙げられる。なお、これらの物質は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0250】
正極活物質層中の結着剤の割合は、通常0.1質量%以上、好ましくは1質量%以上、さらに好ましくは1.5質量%以上であり、上限は、通常80質量%以下、好ましくは60質量%以下、さらに好ましくは40質量%以下、最も好ましくは10質量%以下である。結着剤の割合が低すぎると、正極活物質を十分保持できずに正極の機械的強度が不足し、サイクル特性等の電池性能を悪化させてしまう場合がある。一方で、高すぎると、電池容量や導電性の低下につながる場合がある。
【0251】
(スラリー形成溶媒)
スラリーを形成するための溶媒としては、正極活物質、導電材、結着剤、並びに必要に応じて使用される増粘剤を溶解又は分散することが可能な溶媒であれば、その種類に特に制限はなく、水系溶媒と有機系溶媒のどちらを用いてもよい。水系媒体としては、例えば、水、アルコールと水との混合媒等が挙げられる。有機系媒体としては、例えば、ヘキサン等の脂肪族炭化水素類;ベンゼン、トルエン、キシレン、メチルナフタレン等の芳香族炭化水素類;キノリン、ピリジン等の複素環化合物;アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;酢酸メチル、アクリル酸メチル等のエステル類;ジエチレントリアミン、N,N−ジメチルアミノプロピルアミン等のアミン類;ジエチルエーテル、プロピレンオキシド、テトラヒドロフラン(THF)等のエーテル類;N−メチルピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド類;ヘキサメチルホスファルアミド、ジメチルスルホキシド等の非プロトン性極性溶媒等が挙げられる。
【0252】
特に水系媒体を用いる場合、増粘剤と、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)等のラテックスを用いてスラリー化するのが好ましい。増粘剤は、通常、スラリーの粘度を調製するために使用される。増粘剤としては、特に制限はないが、具体的には、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、エチルセルロース、ポリビニルアルコール、酸化スターチ、リン酸化スターチ、カゼイン及びこれらの塩等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いても、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。さらに増粘剤を添加する場合には、活物質に対する増粘剤の割合は、0.1質量%以上、好ましくは0.2質量%以上、より好ましくは0.3質量%以上であり、また、上限としては5質量%以下、好ましくは3質量%以下、より好ましくは2質量%以下の範囲である。この範囲を下回ると、著しく塗布性が低下する場合がある。上回ると、正極活物質層に占める活物質の割合が低下し、電池の容量が低下する問題や正極活物質間の抵抗が増大する問題が生じる場合がある。
【0253】
(集電体)
正極集電体の材質としては特に制限されず、公知のものを任意に用いることができる。
具体例としては、アルミニウム、ステンレス鋼、ニッケルメッキ、チタン、タンタル等の金属材料;カーボンクロス、カーボンペーパー等の炭素材料が挙げられる。中でも金属材料、特にアルミニウムが好ましい。
【0254】
集電体の形状としては、金属材料の場合、金属箔、金属円柱、金属コイル、金属板、金属薄膜、エキスパンドメタル、パンチメタル、発泡メタル等が挙げられ、炭素材料の場合、炭素板、炭素薄膜、炭素円柱等が挙げられる。これらのうち、金属薄膜が好ましい。なお、薄膜は適宜メッシュ状に形成してもよい。薄膜の厚さは任意であるが、通常1μm以上、好ましくは3μm以上、より好ましくは5μm以上、また上限は、通常1mm以下、好ましくは100μm以下、より好ましくは50μm以下である。薄膜がこの範囲よりも薄いと集電体として必要な強度が不足する場合がある。逆に、薄膜がこの範囲よりも厚いと取り扱い性が損なわれる場合がある。
【0255】
また、集電体の表面に導電助剤が塗布されていることも、集電体と正極活物質層の電子接触抵抗を低下させる観点で好ましい。導電助剤としては、炭素や、金、白金、銀等の貴金属類が挙げられる。
集電体と正極活物質層の厚さの比は特には限定されないが、(電解液注液直前の片面の正極活物質層の厚さ)/(集電体の厚さ)の値が20以下であることが好ましく、より好ましくは15以下、最も好ましくは10以下であり、下限は、0.5以上が好ましく、より好ましくは0.8以上、最も好ましくは1以上の範囲である。この範囲を上回ると、高電流密度充放電時に集電体がジュール熱による発熱を生じる場合がある。この範囲を下回ると、正極活物質に対する集電体の体積比が増加し、電池の容量が減少する場合がある。
【0256】
(電極面積)
本発明の電解液を用いる場合、高出力かつ高温時の安定性を高める観点から、正極活物質層の面積は、電池外装ケースの外表面積に対して大きくすることが好ましい。具体的には、二次電池の外装の表面積に対する正極の電極面積の総和が面積比で15倍以上とすることが好ましく、さらに40倍以上とすることがより好ましい。電池外装ケースの外表面積とは、有底角型形状の場合には、端子の突起部分を除いた発電要素が充填されたケース部分の縦と横と厚さの寸法から計算で求める総面積をいう。有底円筒形状の場合には、端子の突起部分を除いた発電要素が充填されたケース部分を円筒として近似する幾何表面積である。正極の電極面積の総和とは、負極活物質を含む合材層に対向する正極合材層の幾何表面積であり、集電体箔を介して両面に正極合材層を形成してなる構造では、それぞれの面を別々に算出する面積の総和をいう。
【0257】
(正極板の厚さ)
正極板の厚さは特に限定されないが、高容量かつ高出力の観点から、芯材の金属箔厚さを差し引いた合材層の厚さは、集電体の片面に対して下限として、好ましくは10μm以上、より好ましくは20μm以上で、上限としては、好ましくは500μm以下、より好ましくは450μm以下である。
【0258】
(正極板の表面被覆)
また、上記正極板の表面に、これとは異なる組成の物質が付着したものを用いてもよい。表面付着物質としては酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化ホウ素、酸化アンチモン、酸化ビスマス等の酸化物、硫酸リチウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、硫酸アルミニウム等の硫酸塩、炭酸リチウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等の炭酸塩、炭素等が挙げられる。
【0259】
<セパレータ>
本発明に使用できるセパレータの材料や形状については特に制限されず、本発明の効果を著しく損なわない限り、公知のものを任意に採用することができる。なかでも、本発明の電解液に対し安定な材料で形成された、樹脂、ガラス繊維、無機物等が用いられ、保液性に優れた多孔性シート又は不織布状の形態の物等を用いるのが好ましい。
【0260】
樹脂、ガラス繊維セパレータの材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、芳香族ポリアミド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエーテルスルホン、ガラスフィルター等を用いることができる。ポリプロピレン/ポリエチレン2層フィルム、ポリプロピレン/ポリエチレン/ポリプロピレン3層フィルム等、これらの材料は1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0261】
セパレータの厚さは任意であるが、通常1μm以上であり、5μm以上が好ましく、8μm以上がさらに好ましく、また、通常50μm以下であり、40μm以下が好ましく、30μm以下がさらに好ましい。セパレータが、上記範囲より薄過ぎると、絶縁性や機械的強度が低下する場合がある。また、上記範囲より厚過ぎると、レート特性等の電池性能が低下する場合があるばかりでなく、非水系電解液電池全体としてのエネルギー密度が低下する場合がある。
【0262】
さらに、セパレータとして多孔性シートや不織布等の多孔質のものを用いる場合、セパレータの空孔率は任意であるが、通常20%以上であり、35%以上が好ましく、45%以上がさらに好ましく、また、通常90%以下であり、85%以下が好ましく、75%以下がさらに好ましい。空孔率が、上記範囲より小さ過ぎると、膜抵抗が大きくなってレート特性が悪化する傾向がある。また、上記範囲より大き過ぎると、セパレータの機械的強度が低下し、絶縁性が低下する傾向にある。
【0263】
また、セパレータの平均孔径も任意であるが、通常0.5μm以下であり、0.2μm以下が好ましく、また、通常0.05μm以上である。平均孔径が、上記範囲を上回ると、短絡が生じ易くなる。また、上記範囲を下回ると、膜抵抗が大きくなりレート特性が低下する場合がある。
【0264】
一方、無機物の材料としては、例えば、アルミナや二酸化ケイ素等の酸化物、窒化アルミや窒化ケイ素等の窒化物、硫酸バリウムや硫酸カルシウム等の硫酸塩が用いられ、粒子形状もしくは繊維形状のものが用いられる。
【0265】
形態としては、不織布、織布、微多孔性フィルム等の薄膜形状のものが用いられる。薄膜形状では、孔径が0.01〜1μm、厚さが5〜50μmのものが好適に用いられる。上記の独立した薄膜形状以外に、樹脂製の結着剤を用いて上記無機物の粒子を含有する複合多孔層を正極及び/又は負極の表層に形成させてなるセパレータを用いることができる。例えば、正極の両面に90%粒径が1μm未満のアルミナ粒子を、フッ素樹脂を結着剤として多孔層を形成させることが挙げられる。
【0266】
<電池設計>
(電極群)
電極群は、上記の正極板と負極板とを上記のセパレータを介してなる積層構造のもの、及び上記の正極板と負極板とを上記のセパレータを介して渦巻き状に捲回した構造のもののいずれでもよい。電極群の体積が電池内容積に占める割合(以下、電極群占有率と称する)は、通常40%以上であり、50%以上が好ましく、また、通常90%以下であり、80%以下が好ましい。
【0267】
電極群占有率が、上記範囲を下回ると、電池容量が小さくなる。また、上記範囲を上回ると空隙スペースが少なく、電池が高温になることによって部材が膨張したり電解質の液成分の蒸気圧が高くなったりして内部圧力が上昇し、電池としての充放電繰り返し性能や高温保存等の諸特性を低下させたり、さらには、内部圧力を外に逃がすガス放出弁が作動する場合がある。
【0268】
(集電構造)
集電構造は、特に制限されないが、本発明の電解液による高電流密度の充放電特性の向上をより効果的に実現するには、配線部分や接合部分の抵抗を低減する構造にすることが好ましい。この様に内部抵抗を低減させた場合、本発明の電解液を使用した効果は特に良好に発揮される。
【0269】
電極群が上記の積層構造のものでは、各電極層の金属芯部分を束ねて端子に溶接して形成される構造が好適に用いられる。一枚の電極面積が大きくなる場合には、内部抵抗が大きくなるので、電極内に複数の端子を設けて抵抗を低減することも好適に用いられる。電極群が上記の捲回構造のものでは、正極及び負極にそれぞれ複数のリード構造を設け、端子に束ねることにより、内部抵抗を低くすることができる。
【0270】
(外装ケース)
外装ケースの材質は用いられる電解液に対して安定な物質であれば特に制限されない。具体的には、ニッケルめっき鋼板、ステンレス、アルミニウム又はアルミニウム合金、マグネシウム合金等の金属類、又は、樹脂とアルミ箔との積層フィルム(ラミネートフィルム)が用いられる。軽量化の観点から、アルミニウム又はアルミニウム合金の金属、ラミネートフィルムが好適に用いられる。
【0271】
金属類を用いる外装ケースでは、レーザー溶接、抵抗溶接、超音波溶接により金属同士を溶着して封止密閉構造とするもの、若しくは、樹脂製ガスケットを介して上記金属類を用いてかしめ構造とするものが挙げられる。上記ラミネートフィルムを用いる外装ケースでは、樹脂層同士を熱融着することにより封止密閉構造とするもの等が挙げられる。シール性を上げるために、上記樹脂層の間にラミネートフィルムに用いられる樹脂と異なる樹脂を介在させてもよい。特に、集電端子を介して樹脂層を熱融着して密閉構造とする場合には、金属と樹脂との接合になるので、介在する樹脂として極性基を有する樹脂や極性基を導入した変成樹脂が好適に用いられる。
【0272】
本発明のリチウム電池(リチウムイオン二次電池)の形状は任意であり、例えば、円筒型、角型、ラミネート型、コイン型、大型等の形状が挙げられる。なお、正極、負極、セパレータの形状及び構成は、それぞれの電池の形状に応じて変更して使用することができる。
【0273】
本発明のリチウム電池(リチウムイオン二次電池)では、正極の電位が、金属リチウム基準で4.3V以上であることが好ましい。このように電圧が高い場合であっても、優れた電気特性を示すものである。
また、本発明のリチウム二次電池(リチウムイオン二次電池)を備えることを特徴とするモジュールも本発明の一つである。
【実施例】
【0274】
次に本発明を実施例及び比較例に基づいて説明するが、本発明はかかる例のみに限定されるものではない。以下の実施例及び比較例で使用した各化合物は以下のとおりである。
【0275】
(実施例1〜15、比較例1〜2)
表1〜2に示す割合となるように、乾燥アルゴン雰囲気下、下記に示す成分(I)、成分(II−a)、成分(III−a)、成分(III−b)の混合物に、乾燥したLiPFを溶解し、電解液を調製した。
【0276】
使用した各化合物を以下に示す。
成分(I)
成分(I−a):
【0277】
【化38】
【0278】
成分(I−b):
【0279】
【化39】
【0280】
成分(I−c):
【0281】
【化40】
【0282】
成分(II−a):
【0283】
【化41】
【0284】
成分(III−a):エチレンカーボネート(EC)
成分(III−b):フルオロエチレンカーボネート(FEC)
成分(IV):LiPF
【0285】
得られた電解液を用いて、下記のように二次電池を作製して、二次電池の高温保存特性について評価した。評価結果を表1〜2に示す。
【0286】
(負極の作製)
製造例1 負極Aの製造
負極活物質として人造黒鉛粉末、増粘剤としてカルボキシルメチルセルロースナトリウムの水性ディスパージョン(カルボキシメチルセルロースナトリウムの濃度1質量%)、結着剤としてスチレン−ブタジエンゴムの水性ディスパージョン(スチレン−ブタジエンゴムの濃度50質量%)を97.6/1.2/1.2(質量%比)にて水溶媒中で、混合してスラリー状とした負極合剤スラリーを準備した。厚さ20μmの銅箔に均一に塗布、乾燥した後、プレス機により圧縮形成して、負極Aとした。
【0287】
(正極の作製)
正極活物質としてLiNi1/3Mn1/3Co1/3、導電材としてアセチレンブラック、結着剤としてポリフッ化ビニリデン(PVdF)を92/3/5(質量%比)で混合した正極材料をN−メチル−2−ピロリドンに分散してスラリー状とした正極合剤スラリーを準備した。厚さ21μmのアルミ箔集電体上に、得られた正極合剤スラリーを均一に塗布し、乾燥して正極合剤層を形成し、その後、プレス機により圧縮成形して、正極とした。
【0288】
(二次電池Aの製造)
製造例1で製造した負極A、正極及びポリエチレン製セパレータを負極、セパレータ、正極の順に積層して、電池要素を作製した。
この電池要素を、アルミニウム(厚さ40μm)の両面を樹脂層で被覆したラミネートフィルムからなる袋内に正極と負極の端子を突設させながら挿入した後、実施例及び比較例の電解液をそれぞれ袋内に注入し、真空封止を行い、シート状のリチウムイオン二次電池Aを作製した。
【0289】
<高温保存特性評価試験>
二次電池Aを、板で挟み加圧した状態で、25℃において、0.2Cに相当する電流で4.35Vまで定電流−定電圧充電(以下、(CC/CV充電)と表記する。)(0.1Cカット)した後、0.2Cの定電流で3Vまで放電し、これを1サイクルとして、3サイクル目の放電容量から初期放電容量を求めた。ここで、1Cとは電池の基準容量を1時間で放電する電流値を表わし、例えば、0.2Cとはその1/5の電流値を表わす。
初期放電容量評価後、4.35VまでCC/CV充電(0.1Cカット)を行った後、85℃12時間の条件で高温保存を行った。電池を十分に冷却させた後、25℃において0.2Cで3Vまで放電させ、高温保存後の残存容量を測定し、初期放電容量に対する残存容量の割合を求め、これを保存容量維持率(%)とした((残存容量)÷(初期放電容量)×100=保存容量維持率(%))。
【0290】
【表1】
【0291】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0292】
本発明の電解液を用いて得られる非水系電解液電池は、高温保存試験やサイクル試験といった耐久試験後においても、容量維持率が高く、入出力性能に優れ、また、低温での入出力特性にも優れており、有用である。そのため、本発明の電解液およびこれを用いた非水系電解液電池は、公知の各種の用途に用いることができる。具体例としては、例えば、ノートパソコン、ペン入力パソコン、モバイルパソコン、電子ブックプレーヤー、携帯電話、携帯ファックス、携帯コピー、携帯プリンター、ヘッドフォンステレオ、ビデオムービー、液晶テレビ、ハンディークリーナー、ポータブルCD、ミニディスク、トランシーバー、電子手帳、電卓、メモリーカード、携帯テープレコーダー、ラジオ、バックアップ電源、モーター、自動車、バイク、原動機付自転車、自転車、照明器具、玩具、ゲーム機器、時計、電動工具、ストロボ、カメラ、負荷平準化用電源、自然エネルギー貯蔵電源等が挙げられる。