(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6094654
(24)【登録日】2017年2月24日
(45)【発行日】2017年3月15日
(54)【発明の名称】空気入りタイヤの製造方法
(51)【国際特許分類】
B29D 30/30 20060101AFI20170306BHJP
B60C 5/14 20060101ALI20170306BHJP
C08L 21/00 20060101ALI20170306BHJP
C08L 77/00 20060101ALI20170306BHJP
C08L 67/00 20060101ALI20170306BHJP
C08L 29/00 20060101ALI20170306BHJP
【FI】
B29D30/30
B60C5/14 A
C08L21/00
C08L77/00
C08L67/00
C08L29/00
【請求項の数】9
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-215795(P2015-215795)
(22)【出願日】2015年11月2日
(62)【分割の表示】特願2012-169230(P2012-169230)の分割
【原出願日】2012年7月31日
(65)【公開番号】特開2016-52789(P2016-52789A)
(43)【公開日】2016年4月14日
【審査請求日】2015年11月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(74)【代理人】
【識別番号】100138287
【弁理士】
【氏名又は名称】平井 功
(72)【発明者】
【氏名】原 祐一
(72)【発明者】
【氏名】瀬戸 秀樹
【審査官】
岩本 昌大
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−005986(JP,A)
【文献】
特開平10−016082(JP,A)
【文献】
特開2011−037408(JP,A)
【文献】
特開平05−221204(JP,A)
【文献】
特開2009−214632(JP,A)
【文献】
特開2011−046073(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29D 30/00−30/72
B60C 5/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート部材A及びシート部材Bを成形ドラムに巻き付けて円筒体を成形する工程を有する空気入りタイヤの製造方法において、前記シート部材Aがインナーライナー、前記シート部材Bがタイゴム層を形成すると共に、前記シート部材Aを形成する材料aのタック値が、前記シート部材Bを形成する材料bのタック値よりも小さくなるように組み合わせ、かつ前記シート部材Aの外周にシート部材Bを予め積層した積層体を前記成形ドラムに巻き付けると共に、前記シート部材Aの長さを、前記成形ドラムに対する巻き始め端部と巻き終わり端部とが重ならない長さにし、かつ前記シート部材Bの長さを少なくとも巻き終わり端部を、シート部材Aの巻き終わり端部よりも周方向に長く延在させることにより、前記シート部材Bの巻き始め端部の外径側に巻き終わり端部を重ね合わせて接合し、かつ前記成形ドラムに巻き付けた前記積層体の外周にカーカス層を巻き付けるとき、前記積層体の接合部と前記カーカス層の接合部が径方向に重なり合わせることを特徴とする空気入りタイヤの製造方法。
【請求項2】
前記材料aが、熱可塑性樹脂及びエラストマーを含む熱可塑性樹脂組成物であり、前記熱可塑性樹脂が連続相、前記エラストマーが分散相であることを特徴とする請求項1に記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項3】
前記熱可塑性樹脂組成物が、熱可塑性樹脂及びエラストマーからなり、前記熱可塑性樹脂及びエラストマーの合計を100重量%としたとき、前記熱可塑性エラストマーが50〜85重量%であることを特徴とする請求項2に記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項4】
前記熱可塑性樹脂組成物が、ポリアミド系樹脂、ポリビニル系樹脂、ポリエステル系樹脂から選ばれる少なくとも1種の熱可塑性樹脂を含むことを特徴とする請求項2又は3に記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項5】
前記材料bが、天然ゴム、イソプレンゴム、スチレンブタジエンゴム、ブタジエンゴム、ブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴムから選ばれる少なくとも1つからなるゴム組成物であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項6】
前記シート部材Bとシート部材Aを、接着性組成物を使用して接着すると共に、該接着性組成物が、下記式(1)で表わされる化合物、又は下記式(1)で表わされる化合物とホルムアルデヒドの縮合物を含むことを特徴とする請求項1〜
5のいずれかに記載の空気入りタイヤの製造方法。
【化1】
(式中、R
1,R
2,R
3,R
4およびR
5は、水素、ヒドロキシル基または炭素原子数1〜8個のアルキル基である。)
【請求項7】
前記積層体の周方向端部が、タイヤ周方向に対し10°〜85°の角度で傾斜するように成形することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項8】
前記成形ドラムが、ドラム表面の一部に前記シート部材Aを吸着する機構を有することを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項9】
前記シート部材Aを二軸延伸処理した後に、その外周にシート部材Bを積層させることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の空気入りタイヤその製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、目開き故障を抑制するようにした空気入りタイヤの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
チューブレスの空気入りタイヤの製造方法には、そのタイヤ内面に空気透過防止層(インナーライナー)が一体にライニングされ、その材料として非透過性に優れたブチル系ゴムが使用されている。しかし、ブチル系ゴムは比重が大きく重いため、空気入りタイヤの軽量化の障害になっていた。この対策として、特許文献1は、ブチル系ゴムの代わりにバリア性が高く、ブチルゴムよりも薄い熱可塑性樹脂フィルムをインナーライナーに使用することを提案し、タイヤの一層の軽量化を可能にしている。
【0003】
一般に空気入りタイヤを製造するとき、帯状に成形されたシート部材をタイヤ成形ドラムに巻回し、シート部材の端部を重ね合わせて接合することによりグリーンタイヤを成形する。得られたグリーンタイヤを膨径、加硫することにより、空気入りタイヤが得られるが、上述した接合部は、タイヤ加硫時の膨径や走行時の応力により、目開きを起こしタイヤ故障の原因になることがある。
【0004】
特にインナーライナーを熱可塑性樹脂フィルムで構成するときは、ブチル系ゴムからなるシート部材と比べ、熱可塑性樹脂フィルムは弾性率が高くかつ粘着力(タック値)が小さいため、目開き故障を起こしやすいという問題があった。
【0005】
このため特許文献2は、熱可塑性樹脂フィルムの外側にタイゴム層を積層し、この積層体の両端部をタイヤ径方向に重ね合わせて接合するとき、熱可塑性樹脂フィルムの内側に、その接合部を補助ゴムシートで覆うことを提案している。しかし、タイヤ耐久性に対する需要者の要求はより高く更なる改良が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−258506号公報
【特許文献2】特開2009−241855号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、目開き故障を抑制するようにした空気入りタイヤの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成する本発明の空気入りタイヤの製造方法は、シート部材A及びシート部材Bを成形ドラムに巻き付けて円筒体を成形する工程を有する空気入りタイヤの製造方法において、前記シート部材Aがインナーライナー、前記シート部材Bがタイゴム層を形成すると共に、前記シート部材Aを形成する材料aのタック値が、前記シート部材Bを形成する材料bのタック値よりも小さくなるように組み合わせ、かつ前記シート部材Aの外周にシート部材Bを予め積層した積層体を前記成形ドラムに巻き付けると共に、前記シート部材Aの長さを、前記成形ドラムに対する巻き始め端部と巻き終わり端部とが重ならない長さにし、かつ前記シート部材Bの長さを少なくとも巻き終わり端部を、シート部材Aの巻き終わり端部よりも周方向に長く延在させることにより、前記シート部材Bの巻き始め端部の外径側に巻き終わり端部を重ね合わせて接合し、かつ前記成形ドラムに巻き付けた前記積層体の外周にカーカス層を巻き付けるとき、前記積層体の接合部と前記カーカス層の接合部が径方向に重なり合わせることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の空気入りタイヤの製造方法は、タック値が小さいシート部材Aを成形ドラムに巻き付けるとき、タック値が大きいシート部材Bと予め積層しておき、この積層体を成形ドラムに巻き付けると共に、巻き付け時にシート部材Aの周方向端部がシート部材A自身及びシート部材Bの周方向端部と重なり合わず、かつシート部材Bの周方向端部同士を径方向に重ね合わせて接合するようにしたので成形性が良好であり、且つ目開き故障を大幅に抑制することができる。
【0011】
前記シート部材Aを構成する材料aとしては、熱可塑性樹脂及びエラストマーを含む熱可塑性樹脂組成物であり、前記熱可塑性樹脂が連続相、前記エラストマーが分散相であることが好ましく、高いバリア性と耐久性を両立することができる。また前記熱可塑性樹脂及びエラストマーの合計を100重量%としたとき、前記熱可塑性エラストマーが50〜85重量%であることが好ましく、シート部材Aに柔軟で高耐久性を付与することができる。前記熱可塑性樹脂組成物としては、ポリアミド系樹脂、ポリビニル系樹脂、ポリエステル系樹脂から選ばれる少なくとも1種の熱可塑性樹脂を含むことが好ましく、高いバリア性を得ることができる。
【0012】
前記シート部材Bを構成する材料bとしては、天然ゴム、イソプレンゴム、スチレンブタジエンゴム、ブタジエンゴム、ブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴムから選ばれる少なくとも1つからなるゴム組成物であることが好ましい。
【0013】
前記シート部材Bとシート部材Aを、接着性組成物を使用して接着すると共に、該接着性組成物が、下記式(1)で表わされる化合物、又は下記式(1)で表わされる化合物とホルムアルデヒドの縮合物を含むことが好ましく、シート部材Aとシート部材Bを良好に接着させることができる。あるいは、シート部材Bに下記式(1)で表される化合物、又は下記式(1)で表される化合物とホルムアルデヒドの縮合物を含有させることでシート部材Aとシート部材Bを直接接着させることができる。
【化1】
(式中、R
1,R
2,R
3,R
4およびR
5は、水素、ヒドロキシル基または炭素原子数1〜8個のアルキル基である。)
【0014】
前記積層体の周方向端部が、タイヤ周方向に対し10°〜85°の角度で傾斜するように成形することが好ましく、接合部に発生する応力を軽減することでより一層目開きを抑制することができる。
【0015】
前記シート部材Bの巻き始め端部は、シート部材Aの巻き始め端部よりも周方向に長く延在させることが好ましく、成形ドラム巻き付けを容易にすることができる。
【0016】
本発明において、前記シート部材Bの外周に、巻き始め端部と巻き終わり端部の接合部を覆うように帯状部材を貼り付けると共に、該帯状部材を構成する材料cの25℃における20%伸長時引張応力が、前記材料aの25℃における20%伸長時引張応力の1〜3倍であることが好ましく、目開きをいっそう抑制することができる。
【0017】
前記成形ドラムが、ドラム表面の一部に前記シート部材Aを吸着する機構を有することが好ましく、シート部材Bの巻き始め端部がシート部材Aの巻き始め端部と同じ位置であっても成形ドラム巻き付けを容易にすることができる。
【0018】
本発明の空気入りタイヤの製造方法は、前記シート部材Aがインナーライナーであるので、インナーライナーを軽量化すると共に、その目開き故障を大幅に抑制することができる。
【0019】
前記積層体を成形ドラムに巻き付け、その外周にカーカス層を巻き付けるとき、前記積層体の接合部と前記カーカス層の接合部が径方向に重なり合うようにする。このためカーカス層の剛性により一層目開きを抑制することができる。
【0020】
前記シート部材Aを二軸延伸処理した後に、その外周にシート部材Bを積層させることが好ましく、シート部材Aを高バリア、高強度かつ均質な物性にすることができる。
【0021】
上述したいずれかの製造法により得られた空気入りタイヤは、目開き故障を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明で製造する空気入りタイヤの形態の一例を示すタイヤ子午線方向の半断面である。
【
図2】本発明の空気入りタイヤの製造方法において使用する積層体の実施形態の一例を模式的に示す断面図である。
【
図3】本発明の空気入りタイヤの製造方法において、
図2の積層体を成形ドラムに巻き付ける実施形態の一例を模式的に示す断面図である。
【
図4】本発明の空気入りタイヤの製造方法において使用する積層体の他の実施形態の一例を模式的に示す断面図である。
【
図5】本発明の空気入りタイヤの製造方法において使用する積層体の実施形態の一例を模式的に示す平面図である。
【
図6】本発明の空気入りタイヤの製造方法において、積層体を成形ドラムに巻き付ける他の実施形態の一例を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1は、本発明により製造する空気入りタイヤの一例を示すタイヤ子午線方向の半断面である。
【0024】
図1において、1はトレッド部、2はサイドウォール部、3はビード部である。ビード部3に埋設された左右一対のビードコア5間にカーカス層4が装架され、その両端部がそれぞれビードコア5の廻りに、タイヤ内側から外側に折り返されている。トレッド部1においては、カーカス層4の外側に、上下一対のベルト層6がタイヤ1周にわたって配置され、最内側にはインナーライナー7が内貼りされている。
【0025】
本発明の空気入りタイヤの製造方法は、タック値が小さいシート部材Aとタック値が大きいシート部材Bとを成形ドラムに巻き付けて円筒体を成形するとき、シート部材A及びシート部材Bと予め積層して積層体を成形し、この積層体を成形ドラムに巻き付けるとき、シート部材Aの周方向端部がシート部材A自身及びシート部材Bの周方向端部と重なり合わず、かつシート部材Bの周方向端部同士を径方向に重ね合わせて接合するようにする。本発明において、シート部材Aはインナーライナー、シート部材Bはタイゴム層(図示せず)である。
【0026】
本発明において、シート部材Aは材料aにより成形され、シート部材Bは材料bにより成形されている。また材料aのタック値は、材料bのタック値よりも小さいものとする。ここで材料aのタック値及び材料bのタック値は、自着タック値であり、この自着タック値はピックアップタイプのタックテスターを用い、試験温度25℃、圧着荷重100g、圧着時間10秒、圧着速度50cm/min、剥離速度125cm/minの条件下、試験片を同一材料の一方を幅10mmから12mmで該テスターの冶具に巻き付け、もう一方は帯状にして裏打ちを施し、台に固定して試験片を巻き付けた該テスター冶具を前記条件に基づいて降下、圧着、上昇させることで測定されるものとする。また材料a及び材料b間のタック値については、後述の通りとする。
【0027】
図2は、本発明で使用する積層体の実施形態の一例を模式的に示す断面図である。
【0028】
図2に示すように、積層体Mは、タック値が小さいシート部材Aの外周側にタック値が大きいシート部材Bを予め積層し接着したものである。
図2に示すように、シート部材Aとシート部材Bとでは全長が異なり、シート部材Bの全長の方が長くなっている。またシート部材Aの全長は、成形ドラムに巻き付けるとき、両方の端部As,Aeが重ならないように決定される。
【0029】
図2の例示する積層体Mでは、シート部材Aの巻き始め端部Asとシート部材Bの巻き始め端部Bsがほぼ面一に揃っている。一方、シート部材Bの巻き終わり端部Beは、シート部材Aの巻き終わり端部Aeよりも外側へ長く延在している。
【0030】
図3は、この積層体Mを成形ドラムに巻き付けるときの接合部の形態を模式的に示す断面図である。
【0031】
図3において、成形ドラム10の外周に、シート部材A及びシート部材Bの積層体Mが、シート部材Aが成形ドラム10の表面に接するように巻き付けられる。シート部材Aは、成形ドラム10に1周巻回し、その巻き終わり端部Aeが、巻き始め端部Asに突き合わせられる。一方、シート部材Bは、シート部材Aの外周側で成形ドラム10に1周巻回し、その巻き終わり端部Beが、巻き始め端部Bsの外側に重ね合わせられて接合する。本発明において、シート部材Bの巻き始め端部Bsと巻き終わり端部Beとが径方向に重なり合う領域を接合部というものとする。
【0032】
上述した通り、本発明の製造方法では、シート部材Aの巻き終わり端部Aeが、シート部材Aの巻き始め端部As、シート部材Bの巻き終わり端部Beのどちらとも重なり合うことがない。このようにシート部材Aの両端部As,Aeが積層体Mの接合に関与させず、シート部材Bの両端部Bs,Beだけを径方向に重ね合わせて接合することにより、目開き故障を大幅に抑制することができる。
【0033】
本発明で使用する積層体は、
図4に示すように、複数の積層体を重ね合わせることができる。
図4は、一の積層体M1の外側に他の積層体M2を、予め積層・接着させた例である。
図4の例は、2層の積層体M1,M2を積層したものであるが、積層体の数は複数であればよく、3層、4層にしてもよい。
【0034】
図4において、積層体M1及び積層体M2は、それぞれ
図2に示した積層体Mと同じであり、符号1,2を付して識別する。積層体M1及び積層体M2は、長さ方向(成形ドラムの周方向)にずらして積層・接着され、成形ドラムに巻き付けたとき、積層体M1の接合部(シート部材B1の巻き始め端部B1sと巻き終わり端部B1eとが径方向に重なり合う領域)と積層体M2の接合部(シート部材B2の巻き始め端部B2sと巻き終わり端部B2eとが径方向に重なり合う領域)とが、径方向に重なり合わないように配置する。積層体M1及びM2の接合部を径方向外側と内側とで重なり合わないようにすることにより、それぞれの接合部は同一剛性であるM1およびM2のそれぞれ非末端部で覆われるため内圧等で変形した際に目開きを大きく抑制することができる。
【0035】
またそれぞれの積層体M1及びM2において、それぞれのシート部材Aの端部A1s及びA2s間の距離を、タイヤ周長の10%以上にすることが好ましい。例えばシート部材Aの端部A1s及びA2s間の距離をタイヤ周長の50%にするとよい。シート部材Aの端部間の距離を、タイヤ周長の10%以上にすることにより、接合部にかかる応力をよりよく分散させ、目開きを抑制することができる。また3層の積層体Mを予め積層するときは、隣接する積層体間において、シート部材Aの端部間の距離を、タイヤ周長の10%以上にすることが好ましい。より好ましくはシート部材Aの巻き始め端部を周上に均等(タイヤ中心からの配位角が約120°)に配置するとよい。このように距離dをタイヤ周長の10%以上に配置するためには、タイヤのグリーン成形時に、シート部材Aの巻き始め端部間の距離dを、成形ドラムの1周長の10%以上にするとよい。
【0036】
本発明で使用する積層体Mは、
図5に示すように、その周方向端部がタイヤ幅方向(成形ドラムの軸方向)に傾斜して延長することが好ましく、さらに周方向端部の延長方向とタイヤ周方向とがなす角度θが好ましくは10°〜85°であるとよい。角度θを10°〜85°の範囲にすることにより、積層体Mの接合部に係る応力を緩和し、目開き故障を一層低減することができる。
【0037】
また積層体Mは、
図6に示すように、シート部材Bの巻き始め端部Bsを、シート部材Aの巻き始め端部Asよりも周方向に長く延在させること、すなわちシート部材Aの巻き始め端部Asから周方向外側に突出させることができる。このように、シート部材Bの巻き始め端部Bsを、シート部材Aの巻き始め端部Asよりも周方向に長く延在させることにより、成形ドラム巻付けを容易にする効果が得られる。
【0038】
本発明において、シート部材Aを構成する材料aは熱可塑性樹脂組成物であることが好ましい。またシート部材Bを構成する材料bはゴム組成物であることが好ましい。
【0039】
熱可塑性樹脂組成物からなる材料aはタック値が小さく、ゴム組成物からなる材料bはタック値が大きい。本発明で使用する材料aのタック値は、材料bのタック値よりも小さいものとする。
【0040】
材料aのタック値は、材料bのタック値よりも小さい限り特に制限されるものではないが、25℃、10秒の自着のタック値が、好ましくは100g以下であるとよい。また材料bのタック値は、25℃、10秒の自着のタック値が、好ましくは200g〜3000gであるとよい。さらに材料bに対する材料aのタック値は、好ましくは500g〜2000gであるとよい。ここで材料bに対する材料aのタック値は、ピックアップタイプのタックテスターを用い、試験温度25℃、圧着荷重100g、圧着時間10秒、圧着速度50cm/min、剥離速度125cm/minの条件下、材料bからなる試験片を、幅10mmから12mmで該テスターの冶具に巻き付け、材料aからなる試験片を帯状にして裏打ちを施し、台に固定して試験片を巻き付けた該テスター冶具を前記条件に基づいて降下、圧着、上昇させることで測定されるものとする。
【0041】
また材料a及び材料bの25℃における20%伸長時引張応力は、材料aの20%伸長時引張応力の方が、材料bの20%伸長時引張応力より大きいことが好ましい。特に材料aの20%伸長時引張応力が、材料bの20%伸長時引張応力の好ましくは3倍〜100倍であるとよい。材料aの20%伸長時引張応力を材料bの3倍〜100倍にすることにより、材料aをバリア性、耐熱性に優れたものにすることができる。材料a及び材料bの25℃における20%伸長時引張応力は、JIS K−6251に基づいて測定されるものとする。
【0042】
本発明において、シート部材Aを構成する熱可塑性樹脂組成物としては、熱可塑性樹脂及び/又はエラストマーを含む組成物であることが好ましく、より好ましくは熱可塑性樹脂及びエラストマーを含む組成物であるとよい。熱可塑性樹脂組成物をこのように組成することにより、シート部材Aの空気透過防止性と剛性を調整することができる。
【0043】
また熱可塑性樹脂組成物のモルフォロジーとしては、熱可塑性樹脂が連続相、熱可塑性エラストマーが分散相であることが好ましく、高バリア性と高耐久性を両立することができる。
【0044】
さらに熱可塑性樹脂及びエラストマーの合計を100重量%としたとき、熱可塑性エラストマーが50〜85重量%であることが好ましく、柔軟で良好な耐久性を得ることができる。
【0045】
熱可塑性樹脂組成物を構成する熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリアミド系樹脂〔例えばナイロン6(N6)、ナイロン66(N66)、ナイロン46(N46)、ナイロン11(N11)、ナイロン12(N12)、ナイロン610(N610)、ナイロン612(N612)、ナイロン6/66共重合体(N6/66)、ナイロン6/66/610共重合体(N6/66/610)、ナイロンMXD6(MXD6)、ナイロン6T、ナイロン6/6T共重合体、ナイロン66/PP共重合体、ナイロン66/PPS共重合体〕及びそれらのN−アルコキシアルキル化物、例えばナイロン6のメトキシメチル化物、ナイロン6/610共重合体のメトキシメチル化物、ナイロン612のメトキシメチル化物、ポリエステル系樹脂〔例えばポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンイソフタレート(PEI)、PET/PEI共重合体、ポリアリレート(PAR)、ポリブチレンナフタレート(PBN)、液晶ポリエステル、ポリオキシアルキレンジイミドジ酸/ポリブチレンテレフタレート共重合体などの芳香族ポリエステル〕、ポリニトリル系樹脂〔例えばポリアクリロニトリル(PAN)、ポリメタクリロニトリル、アクリロニトリル/スチレン共重合体(AS)、(メタ)アクリロニトリル/スチレン共重合体、(メタ)アクリロニトリル/スチレン/ブタジエン共重合体〕、ポリメタクリレート系樹脂〔例えばポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリメタクリル酸エチル〕、ポリビニル系樹脂〔例えば酢酸ビニル、ポリビニルアルコール(PVA)、ビニルアルコール/エチレン共重合体(EVOH)、ポリ塩化ビニリデン(PDVC)、ポリ塩化ビニル(PVC)、塩化ビニル/塩化ビニリデン共重合体、塩化ビニリデン/メチルアクリレート共重合体、塩化ビニリデン/アクリロニトリル共重合体(ETFE)〕、セルロース系樹脂〔例えば酢酸セルロース、酢酸酪酸セルロース〕、フッ素系樹脂〔例えばポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニル(PVF)、ポリクロルフルオロエチレン(PCTFE)、テトラフロロエチレン/エチレン共重合体〕、イミド系樹脂〔例えば芳香族ポリイミド(PI)〕等を好ましく用いることができる。なかでもポリアミド系樹脂、ポリビニル系樹脂、ポリエステル系樹脂から選ばれる少なくとも1種の熱可塑性樹脂を含むことが好ましく、良好なバリア性と耐熱性を付与することができる。
【0046】
熱可塑性樹脂組成物を構成するエラストマーとしては、例えばジエン系ゴム及びその水添物〔例えば天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、エポキシ化天然ゴム、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR、高シスBR及び低シスBR)、ニトリルゴム(NBR)、水素化NBR、水素化SBR〕、オレフィン系ゴム〔例えばエチレンプロピレンゴム(EPDM、EPM)、マレイン酸変性エチレンプロピレンゴム(M−EPM)、ブチルゴム(IIR)、イソブチレンと芳香族ビニル又はジエン系モノマー共重合体、アクリルゴム(ACM)、アイオノマー〕、含ハロゲンゴム〔例えばBr−IIR、Cl−IIR、イソブチレンパラメチルスチレン共重合体の臭素化物(Br−IPMS)、クロロプレンゴム(CR)、ヒドリンゴム(CHR)、クロロスルホン化ポリエチレンゴム(CSM)、塩素化ポリエチレンゴム(CM)、マレイン酸変性塩素化ポリエチレンゴム(M−CM)〕、シリコンゴム〔例えばメチルビニルシリコンゴム、ジメチルシリコンゴム、メチルフェニルビニルシリコンゴム〕、含イオウゴム〔例えばポリスルフィドゴム〕、フッ素ゴム〔例えばビニリデンフルオライド系ゴム、含フッ素ビニルエーテル系ゴム、テトラフルオロエチレン−プロピレン系ゴム、含フッ素シリコン系ゴム、含フッ素ホスファゼン系ゴム〕、熱可塑性エラストマー〔例えばスチレン−ブタジエン−スチレントリブロックポリマー(SBS)およびその水添物(SEBS)、スチレン−イソプレン−スチレントリブロックポリマー(SIS)およびその水添物(SEPS)、スチレン−イソブチレン−スチレントリブロックポリマー(SIBS)等のスチレン系エラストマー、オレフィン系エラストマー、エステル系エラストマー、ボリアミド系エラストマー、ポリアミドとポリエーテルの共重合体(TPAE)、ポリエステルとポリエーテルの共重合体(TPEE)、ポリウレタンエラストマー(TPU)〕等を好ましく使用することができる。
【0047】
熱可塑性樹脂組成物において、熱可塑性樹脂とエラストマーとの組成比は、特に限定されるものではなく、熱可塑性樹脂のマトリクス中にエラストマーが不連続相として分散した構造をとるように適宜決めればよいが、好ましい範囲は重量比90/10〜30/70である。熱可塑性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂が連続相(マトリックス)を形成し、エラストマーが分散相(ドメイン)となる形態をとることにより、シート部材Aに十分な柔軟性と剛性を併せもつことができると共に、エラストマーの多少によらず、成形に際し、熱可塑性樹脂と同等の成形加工性を得ることができる。
【0048】
上述した熱可塑性樹脂とエラストマーとの相溶性が異なる場合は、第3成分として適当な相溶化剤を用いて両者を相溶化させることができる。相溶化剤を配合することにより、熱可塑性樹脂組成物とエラストマーの界面張力が低下し、分散相を形成しているゴム粒子径が微細になることから、両成分の特性はより有効に発現されることになる。そのような相溶化剤としては、一般的に、熱可塑性樹脂及びエラストマーの両方又は片方の構造を有する共重合体、或いは熱可塑性樹脂又はエラストマーと反応可能なエポキシ基、カルボニル基、ハロゲン基、アミノ基、オキサゾリン基、水酸基等を有した共重合体の構造をとるものとすることができる。これらは混合される熱可塑性樹脂とエラストマーの種類によって選定すれば良いが、通常使用されるものには、無水マレイン酸変性ポリプロピレン、無水マレイン酸変性エチレン−エチルアクリレート共重合体、エポキシ変性エチレンメタクリレート共重合体、エポキシ変性スチレン・ブタジエン・スチレン共重合体、スチレン/エチレン・ブチレンブロック共重合体(SEBS)及びそのマレイン酸変性物、EPDM、EPDM/スチレン又はEPDM/アクリロニトリルグラフト共重合体及びそのマレイン酸変性物、スチレン/マレイン酸共重合体、反応性フェノキシ樹脂等を挙げることができる。かかる相溶化剤の配合量には特に限定はないが、好ましくはポリマー成分(熱可塑性樹脂とエラストマーの合計)100重量部に対して、0.5〜20重量部が良い。また、この相溶化剤により、分散相のゴム粒子径は10μm以下、更には5μm以下、特に0.1〜2μmとすることが好ましい。
【0049】
本発明において、熱可塑性樹脂組成物は、一般にポリマー組成物に配合される充填剤(炭酸カルシウム、酸化チタン、アルミナ等)、カーボンブラック、ホワイトカーボン等の補強剤、軟化剤、可塑剤、加工助剤、顔料、染料、老化防止剤等をシート部材Aとしての必要特性を損なわない限り任意に配合することができる。
【0050】
本発明の製造方法において、シート部材Bを構成する材料bはゴム組成物であることが好ましい。このゴム組成物は、天然ゴム、イソプレンゴム、スチレンブタジエンゴム、ブタジエンゴム、ブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴムから選ばれる少なくとも1つを配合することができる。
【0051】
本発明において、シート部材Bとシート部材Aは、接着性組成物により接着することが好ましい。この接着性樹脂組成物としては、下記式(1)で表わされる化合物、又は下記式(1)で表わされる化合物とホルムアルデヒドの縮合物を含むことが好ましく、シート部材Aとシート部材Bを良好に接着させることができる。あるいは、シート部材Bに下記式(1)で表される化合物、又は下記式(1)で表される化合物とホルムアルデヒドの縮合物を含有させることでシート部材Aとシート部材Bを直接接着させることができる。
【化2】
(式中、R
1,R
2,R
3,R
4およびR
5は、水素、ヒドロキシル基または炭素原子数が1〜8個のアルキル基である。)
【0052】
式(1)で表される化合物の1つの好ましい例は、R
1,R
2,R
3,R
4およびR
5のうち少なくとも1つが炭素原子数1〜8個のアルキル基で、残りが水素または炭素原子数が1〜8個のアルキル基であるものである。式(1)で表される化合物の好ましい具体例の1つはクレゾールである。
【0053】
式(1)で表される化合物のもう1つの好ましい例は、R
1,R
2,R
3,R
4およびR
5のうち少なくとも1つが水酸基で、残りが水素または炭素原子数が1〜8個のアルキル基であるものである。式(1)で表される化合物の好ましい具体例のもう1つはレゾルシンである。
【0054】
式(1)で表される化合物とホルムアルデヒドとの縮合物としては、クレゾール・ホルムアルデヒド縮合体、レゾルシン・ホルムアルデヒド縮合体等が挙げられる。また、これらの縮合物は、本発明の効果を損なわない範囲で、変性されていてもよい。たとえば、エポキシ化合物で変性された変性レゾルシン・ホルムアルデヒド縮合体も本発明に使用することができる。これらの縮合物は、市販されており、本発明に市販品を使用することができる。
【0055】
本発明の製造方法において、シート部材Bの外周に、巻き始め端部Bsと巻き終わり端部Beの接合部を覆うように帯状部材を貼り付けることが好ましい。この帯状部材を構成する材料cとしては、材料cの25℃における20%伸長時引張応力が、シート部材Aを構成する材料aの25℃における20%伸長時引張応力の1〜3倍であることが好ましい。材料cの25℃における20%伸長時引張応力を、材料aの25℃における20%伸長時引張応力の1〜3倍にすることにより、目開きを抑制することができる。ここで材料a及び材料cの25℃における20%伸長時引張応力は、JIS K−6251に基づいて測定するものとする。
【0056】
このような材料cとしては、樹脂とエラストマーを複合させた組成物を例示することができる。
【0057】
本発明の製造方法において、成形ドラムが、ドラム表面の一部にタック値が小さいシート部材Aを吸着する機構を有することが好ましい。成形ドラムが、吸着機構を有することにより、成形ドラムへ、シート部材Aが接するように積層体Mを巻き付けるのを容易に行うことができる。このような吸着機構としては、空気によるバキューム機構を例示することができる。
【0058】
本発明の製造方法において、積層体を成形ドラムに巻き付け、その外周にカーカス層を巻き付けるとき、積層体の接合部とカーカス層の接合部が、成形ドラム上で径方向に重なり合うようにする。積層体の接合部とカーカス層の接合部とを、径方向に重なり合わせることにより、接合部の剛性が増し、目開きを抑制することができる。
【0059】
本発明で使用するシート部材Aは、シート部材Bを積層し接着する前に、二軸延伸処理することが好ましい。予めシート部材Aを二軸延伸処理することにより、高バリア、高強度かつ均質な物性にすることができる。
【0060】
本発明の製造方法により製造された空気リタイヤは、走行時の目開きを抑制し、耐久性を向上することができる。
【符号の説明】
【0061】
7 インナーライナー
10 成形ドラム
11 接合部
A,A1,A2 シート部材A
As,A1s,A2s シート部材Aの巻き始め端部
Ae,A1e,A2e シート部材Aの巻き終わり端部
B,B1,B2 シート部材B
Bs,B1s,B2s シート部材Bの巻き始め端部
Be,B1e,B2e シート部材Bの巻き終わり端部
M,M1,M2 積層体
R タイヤ周方向