特許第6094717号(P6094717)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6094717
(24)【登録日】2017年2月24日
(45)【発行日】2017年3月15日
(54)【発明の名称】圧縮機
(51)【国際特許分類】
   H02K 1/18 20060101AFI20170306BHJP
   F04B 39/00 20060101ALI20170306BHJP
【FI】
   H02K1/18 C
   F04B39/00 106E
【請求項の数】4
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-207885(P2016-207885)
(22)【出願日】2016年10月24日
【審査請求日】2016年10月24日
(31)【優先権主張番号】特願2015-219489(P2015-219489)
(32)【優先日】2015年11月9日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081422
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 光雄
(74)【代理人】
【識別番号】100084146
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100176463
【弁理士】
【氏名又は名称】磯江 悦子
(74)【代理人】
【識別番号】100183232
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 敏行
(72)【発明者】
【氏名】青田 桂治
(72)【発明者】
【氏名】藤井 秀樹
【審査官】 小林 紀和
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/105261(WO,A1)
【文献】 特開2013−132127(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 1/18
F04B 39/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧縮機構部(2)と、
上記圧縮機構部(2)を駆動するモータ(3,203)と
を備え、
上記モータ(3,203)は、複数のコア片(111a〜111f)が環状に連結されたステータコア(105,305)を有し、
上記ステータコア(105,305)は、上記モータ(3,203)の負荷の脈動がピークであるときの上記ステータコア(105,305)全体の平均の磁束密度よりも磁束密度が低い領域内において、上記複数のコア片(111a〜111f)が連結された箇所のうちの少なくとも1箇所が溶接された溶接部(114,314)を有する一方、上記平均の磁束密度よりも磁束密度が高い領域内に溶接された箇所がない構成としていることを特徴とする圧縮機。
【請求項2】
請求項1に記載の圧縮機において、
上記ステータコア(105,305)は、上記モータ(3,203)の負荷の脈動がピークでかつ上記モータ(3,203)のトルクリップルがピークであるときの上記平均の磁束密度よりも磁束密度が低い領域内において、上記溶接部(114,314)を有することを特徴とする圧縮機。
【請求項3】
請求項1または2に記載の圧縮機において、
上記ステータコア(105,305)の上記溶接部(114,314)は1つであることを特徴とする圧縮機。
【請求項4】
請求項1から3までのいずれか1つに記載の圧縮機において、
上記モータ(3,203)の負荷の脈動のピークは、上記モータ(3,203)のロータ(6,206)の1回転あたり1つであることを特徴とする圧縮機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、圧縮機としては、圧縮機構部とその圧縮機構部を駆動するモータとを備え、モータのステータコアが、連結部を介して連結された複数のコア片を環状に折り曲げて両端同士を突き合わせて形成されたものがある(例えば、特開2002−95193号公報(特許文献1)参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−95193号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記圧縮機のステータコアでは、複数のコア片の各連結部を折り曲げて環状にした後、最終的に両端のつなぎ目の部分を溶接している。
【0005】
このため、上記圧縮機では、ステータコアの溶接部において磁束が妨げられ、モータ駆動時に効率低下や振動による異音の発生という問題があり、特に、モータ負荷の脈動が大きいロータリ圧縮機や揺動型圧縮機では、ステータコアの溶接部の箇所が適切でないと、モータ駆動時の効率低下や異音発生の問題が顕著になる。
【0006】
そこで、この発明の課題は、モータ駆動時の効率低下や異音の発生を抑制できる圧縮機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、この発明の圧縮機は、
圧縮機構部と、
上記圧縮機構部を駆動するモータと
を備え、
上記モータは、複数のコア片が環状に連結されたステータコアを有し、
上記ステータコアは、上記モータの負荷の脈動がピークであるときの上記ステータコア全体の平均の磁束密度よりも磁束密度が低い領域内において、上記複数のコア片が連結された箇所のうちの少なくとも1箇所が溶接された溶接部を有する一方、上記平均の磁束密度よりも磁束密度が高い領域内に溶接された箇所がない構成としていることを特徴とする。
【0008】
ここで、「モータの負荷の脈動のピーク」は、定格出力におけるモータの負荷のピークである。
【0009】
上記構成によれば、複数のコア片が環状に連結されたステータコアにおいて、モータの負荷の脈動がピークのときのステータコア全体の平均の磁束密度よりも磁束密度が低い領域内に溶接部を設けることにより、ステータコアの溶接部において磁束に対する影響が少なくなる一方で、溶接部があると影響の大きいステータコアの磁束密度の高い領域には溶接部を設けていないので、モータ駆動時に効率低下や異音が発生を効果的に抑制できる。
【0010】
また、一実施形態の圧縮機では、
上記ステータコアは、上記モータの負荷の脈動がピークでかつ上記モータのトルクリップルがピークであるときの上記平均の磁束密度よりも磁束密度が低い領域内において、上記溶接部を有する。
【0011】
上記実施形態によれば、ステータコアにおいて、モータの負荷の脈動がピークでかつモータのトルクリップルがピークであるときの上記平均の磁束密度よりも磁束密度が低い領域内に溶接部を設けることによって、ステータコアの溶接部において磁束に対する影響をさらに少なくできる。
【0012】
また、一実施形態の圧縮機では、
上記ステータコアの上記溶接部は1つである。
【0013】
上記実施形態によれば、ステータコアの溶接部を1つにすることによって、溶接工程を少なくできると共に、磁束に対する影響をより確実に低減できる。
【0014】
また、一実施形態の圧縮機では、
上記モータの負荷の脈動のピークは、上記モータのロータの1回転あたり1つである。
【0015】
上記実施形態によれば、モータの負荷の脈動のピークが、モータのロータの1回転あたり1つであるので、モータのトルクリップルがピークでかつモータの負荷の脈動がピークのとき(またはモータのトルクリップルがピークでそのトルクリップルのピークがモータの負荷の脈動のピークに隣接するとき)に形成されるステータコアの磁束密度が低い領域と磁束密度が高い領域のパターンが1つに特定され、そのときの磁束密度が低い領域内において溶接部を設けることが容易にできる。すなわち、モータの負荷の脈動のピークが、ロータの1回転あたり複数ある場合に比べ、溶接部を設ける箇所を容易に設定できる。
【発明の効果】
【0016】
以上より明らかなように、この発明によれば、モータのトルクリップルがピークでかつモータ負荷の脈動がピークのとき(またはモータのトルクリップルがピークでそのトルクリップルのピークがモータの負荷の脈動のピークに隣接するとき)にステータコアの磁束密度が低い領域内において溶接部を設け、磁束密度が高い領域に溶接部を設けないことにより、モータ駆動時の効率低下や異音の発生を抑制できる圧縮機を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1はこの発明の第1実施形態の圧縮機の縦断面図である。
図2図2は帯状のステータコアの平面図である。
図3図3は環状に形成されたステータコアの平面図である。
図4図4はモータの磁束分布とトルクリップルおよびモータ相電流の関係を示す図である。
図5図5はモータ負荷の脈動がピークのときのモータの磁束分布を示す図である。
図6図6はこの発明の第2実施形態の圧縮機の縦断面図である。
図7図7は上記圧縮機のモータのステータコアとロータの平面図である。
図8図8は上記モータの回転機械角度とモータ軸のトルクの関係を示す図である。
図9図9はモータ負荷の脈動がピークのときのステータコアの磁束分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、この発明の圧縮機を図示の実施の形態により詳細に説明する。
【0019】
〔第1実施形態〕
図1はこの発明の第1実施形態の圧縮機の縦断面図を示している。
【0020】
この第1実施形態の圧縮機は、図1に示すように、密閉容器1と、この密閉容器1内に配置された圧縮機構部2と、密閉容器1内に配置され、圧縮機構部2を駆動軸12を介して駆動するモータ3とを備えている。この第1実施形態の圧縮機は、1シリンダ構成のロータリ圧縮機である。
【0021】
この圧縮機は、密閉容器1内の下側に、圧縮機構部2を配置し、その圧縮機構部2の上側にモータ3を配置している。このモータ3のロータ6によって、駆動軸12を介して、圧縮機構部2を駆動するようにしている。
【0022】
上記圧縮機構部2は、アキュームレータ10から吸入管11を通して冷媒ガスを吸入する。この冷媒ガスは、この圧縮機とともに、冷凍システムの一例としての空気調和機を構成する図示しない凝縮器、膨張機構、蒸発器を制御することによって得られる。
【0023】
上記圧縮機は、圧縮した高温高圧の冷媒ガスを、圧縮機構部2から吐出して密閉容器1の内部に満たすと共に、モータ3のステータ5とロータ6との間の隙間を通して、モータ3を冷却した後、モータ3の上側に設けられた吐出管13から外部に吐出するようにしている。
【0024】
上記密閉容器1内の高圧領域の下部には、潤滑油が溜められた油溜まり部9が形成されている。この潤滑油は、油溜まり部9から、駆動軸12に設けられた油通路(図示せず)を通って、圧縮機構部2等の摺動部に移動して、この摺動部を潤滑する。
【0025】
上記圧縮機構部2は、密閉容器1の内面に取り付けられるシリンダ21と、このシリンダ21の上下の開口端のそれぞれに取り付けられている上側の端板部材50(フロントヘッド)および下側の端板部材60(リアヘッド)とを備える。上記シリンダ21と上側の端板部材50と下側の端板部材60によって、シリンダ室22を形成する。上記上側の端板部材50は、第1ヘッドの一例であり、下側の端板部材60は、第2ヘッドの一例である。
【0026】
上記上側の端板部材50は、円板状の本体部51と、この本体部51の中央に上方へ設けられたボス部52とを有する。本体部51およびボス部52は、駆動軸12が挿通されている。
【0027】
上記本体部51には、シリンダ室22に連通する吐出口51aが設けられている。上記本体部51に関してシリンダ21と反対側に位置するように、本体部51に吐出弁31が取り付けられている。この吐出弁31は、例えば、リード弁であり、吐出口51aを開閉する。
【0028】
上記本体部51には、シリンダ21と反対側に、吐出弁31を覆うようにカップ型のマフラカバー40が取り付けられている。このマフラカバー40は、ボルト35などによって本体部51に固定されている。上記マフラカバー40は、ボス部52が挿通されている。
【0029】
上記マフラカバー40および上側の端板部材50によって、マフラ室42を形成する。上記マフラ室42とシリンダ室22とは、吐出口51aを介して連通されている。
【0030】
上記マフラカバー40は、マフラ室42とマフラカバー40の外側とを連通する孔部43を有する。
【0031】
上記下側の端板部材60は、円板状の本体部61と、この本体部61の中央に下方へ設けられたボス部62とを有する。上記本体部61およびボス部62は、駆動軸12が挿通されている。
【0032】
このように、駆動軸12の一端部は、上側の端板部材50および下側の端板部材60に支持されている。上記駆動軸12の一端部(支持端側)は、シリンダ室22の内部に進入している。
【0033】
上記駆動軸12の支持端側には、圧縮機構部2側のシリンダ室22内に位置するように、偏心軸部26を設けている。この偏心軸部26は、ピストン28のローラ27に嵌合している。このピストン28は、シリンダ室22内で、公転可能に配置され、このピストン28の公転運動で圧縮作用を行うようにしている。
【0034】
言い換えると、駆動軸12の一端部は、偏心軸部26の両側において、圧縮機構部2のハウジング7で支持されている。このハウジング7は、上側の端板部材50および下側の端板部材60を含む。
【0035】
図2はステータ5のステータコア105に用いられる帯状のステータ板110の平面図を示し、図3はステータコア105に用いられる環状に形成されたステータ板110の平面図を示している。このステータ板110は、厚さ0.2mm〜0.5mm程度の電磁鋼板を打ち抜いて製作される。
【0036】
このステータ板110は、図2に示すように、6つのコア片111a〜111fが連結部113を介して直線状に展開されている。このコア片111a〜111fは、ティース部112a〜112fを有する。
【0037】
そして、図3に示すように、コア片111a〜111fが直線状に展開されたステータ板110を積層した後、環状に変形させて、つき合わせた端部を溶接することにより溶接部114を設けている。これにより、環状のステータコア105が形成される。ここで、この第1実施形態では、溶接部114の溶接にレーザー溶接やスポット溶接などを用いているが、溶接方法はこれに限らない。
【0038】
次に、環状に変形されたステータコア105のティース105aにコイル(図5に示す)を巻回する。
【0039】
なお、図2に示すコア片111a〜111fが直線状に展開されたステータ板110を積層した後、ティース105aにコイル(図示せず)を巻回してもよい。
【0040】
また、この発明の圧縮機構部を駆動するモータのステータコアは、図2,図3に示すステータ板110を積層したものに限らず、複数のコア片が環状に連結されたものであればよい。
【0041】
図4はモータ3の磁束分布とトルクリップルおよびモータ相電流の関係を示している。
【0042】
図4の上側には、反時計方向に回転するロータ6の30度毎の回転位置(a)〜(k),(m)において、ロータ6およびステータ5の磁束分布を示している。
【0043】
また、ロータ6およびステータ5の磁束分布を示す図の下側には、30度間隔で周期的に変動するモータ3のトルクリップルの変化を示すグラフを示している。
【0044】
また、このトルクリップルに重ねてモータ負荷の脈動を太い点線で示している。このモータ負荷の脈動は、ロータ6の1回転あたり1つのピークを有する。ここで、モータ負荷は、圧縮機構部2(図1に示す)である。詳しくは、モータ3(図1に示す)のロータ6の回転に伴って駆動軸12(図1に示す)を介して圧縮機構部2内のピストン28(図1に示す)が公転運動し、冷媒の圧縮が進むにつれてモータ負荷が徐々に大きくなり、シリンダ室22内の圧力が一定以上になると吐出弁31(図1に示す)が開いて高圧冷媒がシリンダ室22内から吐出されて、シリンダ室22内の圧力が下がり、モータ負荷が小さくなる。
【0045】
さらに、図4の下側には、ステータ5のコイル120(図5に示す)に流れるモータ相電流(三相)を示している。上記トルクリップルとモータ相電流のグラフの横軸は、回転角度[deg]を表し、縦軸は任意目盛である。
【0046】
図4に示すように、モータ相電流における回転角度が180degのとき、トルクリップルのピークおよびモータ負荷のピークが重なる。
【0047】
例えば、ロータ6の回転位置(a)では、モータ相電流の三相のうちの一相が最大電流のとき、ロータ6のN極側に発生するトルクが大きくなり、ロータ6のS極側に発生するトルクが小さくなる。ここで、ステータ5(図1に示す)の最大電流が流れる極とその極に隣接する極間で磁束密度が高くなり、他の極および他の極間の磁束密度は低くなる。
【0048】
次に、ロータ6の回転位置(b)では、モータ相電流の三相のうちの他の一相が最大電流のとき、ロータ6のS極側に発生するトルクが大きくなり、ロータ6のN極側に発生するトルクが小さくなる。同様に、ステータ5の最大電流が流れる極とその極に隣接する極間で磁束密度が高くなり、他の極および他の極間の磁束密度は低くなる。
【0049】
図5はトルクリップルがピークでかつモータ負荷の脈動がピークのときのモータ3の磁束分布(ロータ6の回転位置(f))を示している。なお、図5において、図を見やすくするため、図3に示したコア片111a〜111fの境界や連結部113を省略している。また、106a〜106dは、ロータ6に間隔をあけて軸方向に挿入された磁石である。
【0050】
ここで、磁石106a,106cの外側がS極、磁石106b,106dの外側がN極である。このモータ3は、4極のロータ6と三相6スロットルのステータ5で構成されている。
【0051】
図5に示す領域S1,S1は、駆動中のロータ6の回転位置(f)においてステータコア105の磁束密度が最大となる領域である。これに対して、図5に示す領域S2,S2は、ステータコア105の磁束密度が低い領域である。
【0052】
上記構成の圧縮機によれば、複数のコア片111a〜111fが環状に連結されたステータコア105において、モータ負荷の脈動がピークであるときのステータコア105全体の平均の磁束密度よりも磁束密度が低い領域内に溶接部114を設けることにより、ステータコア105の溶接部114において磁束に対する影響が少なくなる。
【0053】
一方で、ステータコア105全体の平均の磁束密度よりも磁束密度の高い領域に溶接部を設けると、積層鋼板を積層方向に溶接された溶接部内には交番磁束により渦電流が発生するため、磁束が妨げられる。これに対して、この第1実施形態では、ステータコア105全体の平均の磁束密度よりも磁束密度の高い領域には溶接部を設けていないので、モータ3の駆動時に効率低下や異音が発生を効果的に抑制することができる。
【0054】
また、上記ステータコア105において、モータ3の負荷の脈動がピークでかつモータ3のトルクリップルがピークであるときの上記平均の磁束密度よりも磁束密度が低い領域内に溶接部114を設けることによって、ステータコア105の溶接部114において磁束に対する影響をさらに少なくできる。
【0055】
また、上記ステータコア105の溶接部114を1つにすることによって、溶接工程を少なくできると共に、磁束に対する影響をより確実に低減できる。
【0056】
また、上記モータ負荷の脈動のピークが、モータ3のロータ6の1回転あたり1つであるので、モータ負荷の脈動がピークのときに形成されるステータコア105の磁束密度が低い領域と磁束密度が高い領域のパターンが1つに特定され、そのときの磁束密度が低い領域内において溶接部114を設けることが容易にできる。すなわち、モータ負荷の脈動の1回転あたりのピーク数が複数である場合に比べ、溶接部114を設ける箇所を容易に設定できる。
【0057】
上記第1実施形態では、モータ3のトルクリップルがピークでかつモータ負荷の脈動がピークであるときのステータコア105全体の平均の磁束密度よりも磁束密度が低い領域内において溶接部114を設けたが、モータ3のトルクリップルがピークでそのトルクリップルのピークがモータ負荷の脈動のピークに隣接するときのステータコア105の磁束密度が低い領域内において溶接部114を設けてもよい。この場合も、上記第1実施形態と同様の効果を有する。
【0058】
ここで、「モータ3のトルクリップルがピークでそのトルクリップルがピークがモータ負荷の脈動のピークに隣接するとき」とは、モータ3のトルクリップルのピークにおいて、前後の互いに隣接するトルクリップルのピーク間の中間点よりも内側にモータ負荷の脈動のピークがあるときである。
【0059】
〔第2実施形態〕
図6はこの発明の第2実施形態の圧縮機の縦断面図を示している。この第2実施形態の圧縮機は、モータ203を除いて第1実施形態の圧縮機と同一の構成をしており、同一構成部には同一参照番号を付している。
【0060】
この第2実施形態の圧縮機に用いられるモータ203は、図6に示すように、環状のステータ205と、ステータ205の内周に配置された円筒状のロータ206を備える。
【0061】
また、図7は上記圧縮機のモータ203のステータコア305とロータ206の平面図を示している。図7に示すように、ステータコア305は、環状のバックヨーク305aと、そのバックヨーク305aの内周側に径方向内側に向かって突出する複数のティース305bとを有する。また、上記モータ203は、円筒状のロータ206と、そのロータ206に間隔をあけて軸方向に挿入された8つの磁石206aを備えている。
【0062】
ここで、複数の磁石206aは、外側がS極の磁石と外側がN極の磁石を周方向に交互に配置している。このモータ203は、8極のロータ206と三相12スロットルのステータ205で構成されている。
【0063】
上記ステータコア305は、第1実施形態のステータコア105と同様にして、複数のコア片(図示せず)を環状に連結することにより環状のステータコア305を形成する(図2,図3参照)。
【0064】
まず、厚さ0.2mm〜0.5mm程度の電磁鋼板を打ち抜いて、12のコア片(図示せず)が連結部を介して直線状に展開された帯状のステータ板を製作する。
【0065】
そして、上記コア片が直線状に展開されたステータ板を積層した後、環状に変形させて、つき合わせた端部を溶接することにより溶接部314を設けている。これにより、環状のステータコア305が形成される。ここで、溶接部314の溶接にレーザー溶接やスポット溶接などを用いているが、溶接方法はこれに限らない。
【0066】
次に、環状に変形されたステータコア305のティース305aにコイル(図示せず)を巻回する。
【0067】
図8は上記モータ203の回転機械角度[deg]とモータ軸のトルク[任意目盛]の関係を示している。図8に示すように、モータ軸のトルク(モータ負荷に相当)は、回転機械角度が0deg付近から略180degまで上昇してピークに達した後、ピークから360deg付近まで下降して、1回転周期で脈動している。
【0068】
図9は上記モータ軸のトルク(モータ負荷)の脈動がピークのときのステータコア305の磁束分布を示している。
【0069】
図9に示す領域S201は、駆動中のロータ206の負荷の脈動がピークのときのステータコア305全体の平均の磁束密度よりも磁束密度が高い領域である。これに対して、図9に示す領域S202は、ステータコア305全体の平均の磁束密度よりも磁束密度が低い領域である。
【0070】
ここで、ステータ205の回転磁界は、図7に示すように、回転機械角度が領域A(150deg〜170deg)と領域B(170deg〜190deg)と領域C(190deg〜210deg)の順に反時計方向に回転する。この場合、モータ軸のトルク(モータ負荷)の脈動がピークのときのステータコア305全体の平均の磁束密度よりも磁束密度が低い領域Bにおいて溶接部314を設けることになる。
【0071】
上記構成の圧縮機によれば、複数のコア片が環状に連結されたステータコア305において、モータ負荷の脈動がピークであるときのステータコア305全体の平均の磁束密度よりも磁束密度が低い領域内に溶接部314を設けることにより、ステータコア305の溶接部314において磁束に対する影響が少なくなる。
【0072】
一方で、ステータコア305全体の平均の磁束密度よりも磁束密度の高い領域に溶接部を設けると、積層鋼板を積層方向に溶接された溶接部内には交番磁束により渦電流が発生するため、磁束が妨げられる。これに対して、この実施形態では、ステータコア305全体の平均の磁束密度よりも磁束密度の高い領域には溶接部を設けていないので、モータ203の駆動時に効率低下や異音が発生を効果的に抑制することができる。
【0073】
また、上記ステータコア305の溶接部314を1つにすることによって、溶接工程を少なくできると共に、磁束に対する影響をより確実に低減できる。
【0074】
また、上記モータ負荷の脈動のピークが、モータ203のロータ206の1回転あたり1つであるので、モータ負荷の脈動がピークのときに形成されるステータコア305の磁束密度が低い領域と磁束密度が高い領域のパターンが1つに特定され、そのときの磁束密度が低い領域内において溶接部314を設けることが容易にできる。すなわち、モータ負荷の脈動の1回転あたりのピーク数が複数である場合に比べ、溶接部314を設ける箇所を容易に設定できる。
【0075】
上記第1,第2実施形態では、1シリンダ構造の圧縮機について説明したが、2シリンダ構造の圧縮機にこの発明を適用してもよい。
【0076】
また、上記第1,第2実施形態では、ロータリ圧縮機について説明したが、揺動型圧縮機やスクロール圧縮機などのモータ負荷が脈動する圧縮機にこの発明を適用してもよい。
【0077】
また、上記第1実施形態では、溶接部を除いてコア片111a〜111fが連結部113を介して連結された帯状のステータ板110をステータコア105に用いた圧縮機について説明したが、ステータコアはこれに限らず、溶接部を除いて複数のコア片が蝶番などを介して連結されたステータ板を用いてもよい。このことは、上記第2実施形態においても同様である。
【0078】
また、上記第1,第2実施形態では、永久磁石埋め込み型のモータを備えた圧縮機について説明したが、リラクタンスモータなどの他の構成のモータでもよい。
【0079】
この発明の具体的な実施の形態について説明したが、この発明は上記第1,第2実施形態に限定されるものではなく、この発明の範囲内で種々変更して実施することができる。例えば、上記第1,第2実施形態で記載した内容を適宜組み合わせたものを、この発明の一実施形態としてもよい。
【0080】
また、この発明の圧縮機は、
圧縮機構部と、
上記圧縮機構部を駆動するモータと
を備え、
上記モータは、複数のコア片が環状に連結されたステータコアを有し、
上記モータのトルクリップルがピークのときに上記ステータコアに磁束密度が低い領域と磁束密度が高い領域が形成され、
上記ステータコアは、上記モータのトルクリップルがピークでかつ上記モータの負荷の脈動がピークであるときの上記磁束密度が低い領域内において、または、上記モータのトルクリップルがピークでそのトルクリップルのピークが上記モータの負荷の脈動のピークに隣接するときの上記磁束密度が低い領域内において、上記複数のコア片が連結された箇所のうちの少なくとも1箇所が溶接された溶接部を有する一方、上記磁束密度が高い領域内に溶接された箇所がない構成としていることを特徴とする。
【0081】
上記構成によれば、モータのトルクリップルがピークでかつモータの負荷の脈動がピークのときにステータコアの磁束密度が低い領域内において溶接部を設けるか、または、モータのトルクリップルがピークでそのトルクリップルのピークがモータの負荷の脈動のピークに隣接するときにステータコアの磁束密度が低い領域内において溶接部を設けることにより、ステータコアの溶接部において磁束に対する影響が少なくなる一方で、溶接部があると影響の大きいステータコアの磁束密度の高い領域には溶接部を設けていないので、モータ駆動時に効率低下や異音が発生を効果的に抑制できる。
【0082】
また、一実施形態の圧縮機では、
上記ステータコアの上記溶接部は1つである。
【0083】
上記実施形態によれば、ステータコアの溶接部を1つにすることによって、溶接工程を少なくできると共に、磁束に対する影響をより確実に低減できる。
【0084】
また、一実施形態の圧縮機では、
上記モータの負荷の脈動のピークは、上記モータのロータの1回転あたり1つである。
【0085】
上記実施形態によれば、モータの負荷の脈動のピークが、モータのロータの1回転あたり1つであるので、モータのトルクリップルがピークでかつモータの負荷の脈動がピークのとき(またはモータのトルクリップルがピークでそのトルクリップルのピークがモータの負荷の脈動のピークに隣接するとき)に形成されるステータコアの磁束密度が低い領域と磁束密度が高い領域のパターンが1つに特定され、そのときの磁束密度が低い領域内において溶接部を設けることが容易にできる。すなわち、モータの負荷の脈動のピークが、ロータの1回転あたり複数ある場合に比べ、溶接部を設ける箇所を容易に設定できる。
【符号の説明】
【0086】
1…密閉容器
2…圧縮機構部
3,203…モータ
5,205…ステータ
6,206…ロータ
7…ハウジング
9…油溜まり部
10…アキュームレータ
11…吸入管
12…駆動軸
13…吐出管
21…シリンダ
22…シリンダ室
22a…吸入室(低圧室)
22b…吐出室(高圧室)
25…ブッシュ
26…偏心軸部
27…ローラ
28…ピストン
31…吐出弁
35…ボルト
40…マフラカバー
42…マフラ室
43…孔部
50…端板部材
51…本体部
51a…吐出口
52…ボス部
60…端板部材
61…本体部
62…ボス部
105,305…ステータコア
105a,305b…ティース
110…ステータ板
111a〜111f…複数のコア片
112a〜112f…ティース部
113…連結部
114,314…溶接部
120…コイル
【要約】
【課題】モータ駆動時の効率低下や異音の発生を抑制できる圧縮機を提供する。
【解決手段】圧縮機は、圧縮機構部と、圧縮機構部を駆動するモータを備える。モータは、複数のコア片が環状に連結されたステータコア(105)を有する。ステータコア(105)は、モータ負荷の脈動がピークであるときのステータコア(105)全体の平均の磁束密度よりも磁束密度が低い領域(S2)内において、複数のコア片が連結された箇所のうちの1箇所が溶接された溶接部(114)を有する一方、上記平均の磁束密度よりも磁束密度が高い領域(S1,S1)内に溶接された箇所がない。
【選択図】図5
図1
図2
図3
図5
図6
図7
図8
図9
図4