(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記多孔質表面層の無作為抽出した400nm視野角内における柱状体断面の周囲の長さの合計の平均値が、1000〜27000nmである、請求項1に記載の金属樹脂複合材料。
前記アルミニウム基材の表面に形成する酸化アルミニウム被膜の多孔質表面層が、無作為抽出した400nm視野角内における柱状体断面の周囲の長さの合計の平均値が1000〜27000nmである、請求項4に記載の金属樹脂複合材料の製造方法。
前記多孔質表面層の無作為抽出した400nm視野角内における柱状体断面の周囲の長さの合計の平均値が、1000〜27000nmである、請求項7に記載の酸化アルミニウム被膜を有するアルミニウム基材。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0026】
[金属樹脂複合材料]
本発明の金属樹脂複合材料は、酸化アルミニウム被膜を有するアルミニウム基材と前記酸化アルミニウム被膜を介して接合している樹脂とを備える金属樹脂複合材料であって、前記酸化アルミニウム被膜が、平均高さが10〜100nmの柱状体が分散配置されてなる多孔質表面層を有しており、前記多孔質表面層の無作為抽出した400nm視野角内における柱状体の断面の面積の合計の平均値が8000〜128000nm
2であり、かつ、前記多孔質表面層の無作為抽出した400nm視野角内における柱状体の数の平均値が10〜430個である、ものである。
【0027】
(アルミニウム基材)
本発明にかかるアルミニウム基材としては、特に制限はなく、酸化アルミニウム被膜を形成できるアルミニウム材料であればどのようなものでもよい。例えば、公知の純アルミニウム又はアルミニウム合金が用いられる。具体的には、アルミニウム合金の成分には特に制限はなく、日本工業規格(JIS)に規定される合金をはじめとする各種合金を使用することができる。例えば、JISで規定されている1000〜8000番系のもの、また、ダイキャストグレードの各種のものが使用できる。1000番系は高純度アルミ系の合金であるが、その他はアルミニウム以外に銅(Al−Cu合金系、2000番系)、マンガン(Al−Mn合金系、3000番系)、珪素(Al−Si合金系、4000番系)、マグネシウム(Al−Mg合金系、5000番系)、マグネシウム−珪素(Al−Mg−Si合金系、6000番系)、亜鉛−マグネシウム(Al−Zn−Mg合金系、7000番系)、多種の目的に合わせたその他の金属(Al−その他の金属合金系、8000番系)を含む合金系である。高純度アルミニウム合金のみならず、現在使用されている各種アルミニウム合金が使用できる。このようなアルミニウム材料の形状としては特に制限はなく、例えば、切断、プレス、切削、研削などの公知の金属加工方法により、所望の形状に加工したものを使用することが可能である。
【0028】
(酸化アルミニウム被膜を有するアルミニウム基材)
本発明の酸化アルミニウム被膜を有するアルミニウム基材は、酸化アルミニウム被膜を有するアルミニウム基材であって、前記酸化アルミニウム被膜が、平均高さが10〜100nmの柱状体が分散配置されてなる多孔質表面層を有しており、前記多孔質表面層の無作為抽出した400nm視野角内における柱状体の断面の面積の合計の平均値が8000〜128000nm
2であり、かつ、前記多孔質表面層の無作為抽出した400nm視野角内における柱状体の数の平均値が10〜430個である、ものである。
【0029】
本発明にかかる酸化アルミニウム被膜を有するアルミニウム基材は、表面に前記特定の形状及び構造の多孔質表面層を有する酸化アルミニウム被膜を有するので樹脂との密着性に優れており、樹脂との密着性に優れたアルミニウム基材は金属樹脂複合材料作製用の金属基材として有用である。
【0030】
このような本発明の酸化アルミニウム被膜を有するアルミニウム基材としては、前記アルミニウム基材の表面に分散配置された柱状体の平均高さが10〜100nmであることが必要である。柱状体の平均高さが前記下限未満になると、高さのコントロールが難しくなるとともに、樹脂層に嵌入する(喰いこむ)ことが不十分となる。他方、前記柱状体の平均高さが前記上限を超えると、処理に時間がかかりコストが増加するという問題が生じる。また、このような柱状体の平均高さとしては、性能面及び生産性という観点から、10〜80nmであることが好ましく、20〜70nmであることが特に好ましい。
【0031】
また、このような本発明の金属樹脂複合材料の酸化アルミニウム被膜における多孔質表面層としては、無作為抽出した400nm視野角内における柱状体の断面の面積の合計の平均値が8000〜128000nm
2であることが必要である。柱状体の断面の面積の合計の平均値が前記下限未満になると、柱状体構造が細過ぎて柱状体自身の強度が不十分となる。他方、前記柱状体の断面の面積の合計の平均値が前記上限を超えると、柱状体の側面部の空間が狭くなり、樹脂等が侵入することができる空間の大きさが不十分となる。また、このような無作為抽出した400nm視野角内における柱状体の断面の面積の合計の平均値としては、柱状体の強度と樹脂等の侵入空間の確保という観点から、16000〜104000nm
2であることが好ましく、32000〜80000nm
2であることが特に好ましい。
【0032】
また、このような本発明の金属樹脂複合材料の酸化アルミニウム被膜における多孔質表面層としては、無作為抽出した400nm視野角内における柱状体の数の平均値が10〜430個であることが必要である。柱状体の数の平均値が前記下限未満になると、樹脂に嵌入する(喰いこむ)表面積が不十分となる。他方、前記柱状体の数の平均値が前記上限を超えると、樹脂等が侵入することができる空間の確保が不十分となる。また、このような無作為抽出した400nm視野角内における柱状体の数の平均値としては、樹脂に嵌入する(喰いこむ)量と樹脂等が侵入する空間の確保という観点から、50〜350個であることが好ましく、80〜250個であることが特に好ましい。
【0033】
<多孔質表面層の柱状体の平均高さの測定>
本発明の前記酸化アルミニウム被膜における多孔質表面層の柱状体の平均高さは、次のようにして得られる。
【0034】
先ず、SEM又は透過型電子顕微鏡(TEM)により酸化アルミニウム被膜の多孔質表面層の断面を撮影し、多孔質表面層の断面の画像(例えば、SEM像又はTEM像)を得る。次に、得られたSEM像又はTEM像を観察することにより、多孔質表面層の柱状体の平均高さを測定する。測定方法の具体的な例を以下に示す。
(1−a)アルミニウム基材と樹脂との接合界面の縦断面のSEM像又はTEM像から酸化アルミニウム被膜の多孔質表面層上端と中間層(中間層が無い場合はアルミニウム基材)との境界面の距離を測定し、無作為抽出した断面30〜100個の前記距離の平均値を算出することにより多孔質表面層の平均高さ(柱状体の平均高さ)とする。
(1−b)断面画像の最大と最小を選び、最大と最小の中間を平均値とし、平均値と最大値(若しくは最小値)との差を標準偏差の3倍として正規分布を求め、多孔質表面層の平均高さ(柱状体の平均高さ)及び分布(標準偏差)を評価する。
【0035】
<多孔質表面層の柱状体の断面の面積、柱状体断面の周囲の長さ、及び柱状体の数の測定>
本発明の前記酸化アルミニウム被膜における多孔質表面層の柱状体の断面の面積の合計の平均値、柱状体断面の周囲の長さの合計の平均値及び柱状体の数の平均値は、次のようにして得られる。
【0036】
先ず、酸化アルミニウム被膜の多孔質表面層の表面及び断面の画像(例えば、SEM像)を得る。次に、必要によりノイズ除去など行った後の画像において、輝度閾値設定処理を行なう。例えば、8bit画像で所定以上の輝度を選択する。次に、設定された閾値以上の輝度で選択された粒子の分離処理を行なう。この粒子分離処理は、任意の公知の手法によって行う。例えば、代表的な手法としては、画像区分け方法などがあり、自動閾値、エッジベース手法、Watershed変換などの接触した対象物の区分けに使用される形態学に基づく手法など様々な画像区分け方法がある。具体的には、例えば、Watershed細分化処理に基づいて、粒子を分離する。この分離手法は、別々の粒子が触れている部分を自動的に切ったり、分けたりする手法であり、具体的な手段として、まず、Euclidean distance map(EDM、ユークリッド距離地図)を作成し、次いで、EDMの最終的な侵食点(UEPs)を作成し、各UEP(極限侵食点、EDMの極大又は頂点)を可能な限り、粒子の縁に到達するまで、若しくは他のUEP(成長している)の領域の縁に到着するまで拡張することによって成される。得られた結果を基に、上記多孔質表面層の柱状体の断面の面積、柱状体断面の周囲の長さ、柱状体の数を算出することができる。なお、上記一連の解析は、一つの画像解析ソフト又は複数の画像解析ソフトや各種解析処理ソフトを組み合わせて行うことができる。具体的には、ImageJ(画像処理ソフトウェア、アメリカ国立衛生研究所にて開発)や市販の画像解析ソフトを用いることができる。
【0037】
具体的な例としては、例えば、酸化アルミニウム被膜の多孔質表面層の表面及び断面のSEM像を撮影し、撮影した画像の解析を、画像解析ソフトImageJを用いて二値化した後Watershed細分化処理等により行い、多孔質表面層の柱状体の断面の面積、柱状体断面の周囲の長さ、柱状体の数を得る。
【0038】
すなわち、先ず、酸化アルミニウム被膜の多孔質表面層の表面及び断面のSEM像を撮影する。
【0039】
次に、ノイズ除去後の画像の解析を画像解析ソフトImageJ1.47(アメリカ国立衛生研究所にて開発、http://rsbweb.nih.gov/ij/より入手)を用いて行う。最初に、二値化処理を行う。輝度閾値設定処理は、目視で第一層と認識できる境目として所定の閾値を選択し、画像より所定の閾値以上の輝度を選択する。閾値の設定については、具体的には、中間層及び第一層(表面層)が認識できるSEM像を8bit化し、中間層末端(アルミニウム基材と反対側、中間層が無い場合はアルミニウム基材末端)の輝度(例えば130)を閾値とする。
【0040】
次に、設定された閾値以上の輝度で選択された粒子の分離処理を行なう。この粒子分離処理は、Watershed細分化処理に基づいて粒子を分離する。まず、EDM(ユークリッド距離地図)を作成し、次に、EDMの最終的な侵食点(UEPs)を作成し、各UEP(極限侵食点、EDMの極大又は頂点)を可能な限り、粒子の端(縁)に到達するまで、又は他(隣)の成長(膨張)しているUEPの領域の境界(縁)に到着するまで拡張することにより、隣接面(境界面)を確定する。次いで、最小値を決めて該値以上のサイズの塊をカウントし、更に、ImageJによりそれぞれの塊のエリア面積、外周、座標を得る。
(2)多孔質表面層の無作為抽出した400nm視野角内における柱状体の断面の面積の合計の平均値:無作為抽出した400nm視野角内の画像を二値化後、カウントした各塊のエリア面積を足し(SEM像のエリア内すべて)、柱状体の断面の面積の合計値を得る。このような400nm視野角内の画像を無作為に5ケ所抽出し、各画像における柱状体の断面の面積の合計値を求め、これら5個の合計値を平均し、上記無作為抽出した400nm視野角内における柱状体の断面の面積の合計の平均値とする。
(3)多孔質表面層の無作為抽出した400nm視野角内における柱状体断面の周囲の長さの合計の平均値:無作為抽出した400nm視野角内の画像を二値化後、カウントした各塊の外周を足し(SEM像のエリア内すべて)、柱状体断面の周囲の長さの合計値を得る。このような400nm視野角内の画像を無作為に5ケ所抽出し、各画像における柱状体断面の周囲の長さの合計値を求め、これら5個の合計値を平均し、上記無作為抽出した400nm視野角内における柱状体断面の周囲の長さの合計の平均値とする。
(4)多孔質表面層の無作為抽出した400nm視野角内における柱状体の数の平均値:無作為抽出した400nm視野角内の画像を二値化後、Watershed細分化処理により分割したあとの塊の総数を得る。このような400nm視野角内の画像を無作為に5ケ所抽出し、各画像における塊の総数を求め、これら5個の総数を平均し、上記無作為抽出した400nm視野角内における柱状体の数の平均値とする。
【0041】
(酸化アルミニウム被膜を有するアルミニウム基材の好適な態様)
本発明における好適な酸化アルミニウム被膜を有するアルミニウム基材は、酸化アルミニウム被膜を有するアルミニウム基材であって、前記酸化アルミニウム被膜が、平均高さが10〜100nmの柱状体が分散配置されてなる多孔質表面層を有しており、前記多孔質表面層の無作為抽出した400nm視野角内における柱状体の断面の面積の合計の平均値が8000〜128000nm
2であり、前記多孔質表面層の無作為抽出した400nm視野角内における柱状体の数の平均値が10〜430個であり、かつ、前記多孔質表面層の無作為抽出した400nm視野角内における柱状体断面の周囲の長さの合計の平均値が、1000〜27000nmである、ものである。
【0042】
このような本発明にかかる好適な酸化アルミニウム被膜を有するアルミニウム基材は、表面に前記特定の形状及び構造の好適な多孔質表面層を有する酸化アルミニウム被膜を有するので、より樹脂との密着性に優れており、樹脂との密着性が高度に優れたアルミニウム基材として金属樹脂複合材料作製用の金属基材として大変有用である。
【0043】
このような本発明の好適な酸化アルミニウム被膜を有するアルミニウム基材においては、多孔質表面層としては、無作為抽出した400nm視野角内における柱状体断面の周囲の長さの合計の平均値が1000〜27000nmであることが好ましい。柱状体断面の周囲の長さの合計の平均値が前記下限未満になると、柱状体構造が細くなり、柱状体構造の強度が不十分となる傾向にある。他方、前記柱状体断面の周囲の長さの合計の平均値が前記上限を超えると、樹脂等が柱状体間に嵌入する(喰いこむ)空間の大きさが不十分となる傾向にある。また、このような無作為抽出した400nm視野角内における柱状体断面の周囲の長さの合計の平均値としては、柱状体構造の強度と柱状体間に嵌入する空間の確保という観点から3000〜23000nmであることがより好ましく、5000〜20000nmであることが特に好ましい。
【0044】
(酸化アルミニウム被膜を有するアルミニウム基材の他の好適な態様)
本発明の酸化アルミニウム被膜を有するアルミニウム基材においては、前記アルミニウム基材の表面に、平均高さが10〜100nmの柱状体が分散配置されてなる前記多孔質表面層と該多孔質表面層の前記アルミニウム基材側に形成された微細凹部を有する多孔質中間層とを有する酸化アルミニウム被膜を有しており、前記多孔質中間層の平均膜厚が500nm〜20μmであり、前記微細凹部の平均細孔径が5〜50nmであり、かつ、前記微細凹部の平均細孔間距離が5〜90nmである、ことが好ましい。
【0045】
このような本発明にかかる好適な酸化アルミニウム被膜を有するアルミニウム基材は、表面に前記特定の形状及び構造の多孔質表面層と前記特定の形状及び構造の多孔質中間層とを有する酸化アルミニウム被膜を有するのでより高度な樹脂との密着性を有しており、樹脂との密着性がより高度に優れたアルミニウム基材として金属樹脂複合材料作製用の金属基材として大変有用である。
【0046】
このような本発明の酸化アルミニウム被膜を有するアルミニウム基材における多孔質中間層においては、平均膜厚が500nm〜20μmであることが好ましく、500nm〜15μmがより好ましく、500nm〜10μmが特に好ましい。多孔質中間層の平均膜厚が下限未満になると、均質な多孔質中間層が得られにくくなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、処理に時間がかかりコストが増加する傾向にある。
【0047】
また、このような本発明の酸化アルミニウム被膜を有するアルミニウム基材における多孔質中間層においては、微細凹部の平均細孔径が5〜50nmであることが好ましく、5〜30nmがより好ましく、10〜20nmが特に好ましい。微細凹部の平均細孔径が下限未満になると、樹脂等の侵入によるアンカー効果が得られにくくなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、多孔質中間層の均質性が低下する傾向にある。
【0048】
また、このような本発明の酸化アルミニウム被膜を有するアルミニウム基材における多孔質中間層においては、微細凹部の平均細孔間距離が5〜90nmであることが好ましく、10〜70nmがより好ましく、20〜50nmが特に好ましい。微細凹部の平均細孔間距離が下限未満になると、凹部細孔を形成する均質な壁面が得られにくくなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、単位面積当たりの細孔数が減少し、樹脂が嵌入する(喰いこむ)量が低下する傾向にある。
【0049】
また、多孔質中間層に形成された微細凹部の形態は、特に制限はなく、例えば、アルミニウム基材の表面に対して垂直な方向や一定の角度を有する方向に成長し配向性を持たせたもの、アルミニウム基材の表面に対してランダムな方向に成長し配向性を持たないもの(例えば、アリの巣状の構造、3次元的に網目状に凹部孔が絡み合うような3次元網目状構造、ランダム形状の構造など)、ストレートで配向性を持たないもの、などどのような形態であってもよい。目的とする金属樹脂複合体の性能(強度等)を実現するために必要な多孔質中間層の性能を満たすことができるのであれば、どのような微細凹部の形態であってもよい。
【0050】
また、このような本発明の酸化アルミニウム被膜を有するアルミニウム基材における多孔質中間層においては、複数の層から形成することができる。
【0051】
<多孔質中間層の平均膜厚、微細凹部の平均細孔径、及び平均細孔間距離の測定>
本発明の前記酸化アルミニウム被膜においては、多孔質中間層の断面のTEM(透過型電子顕微鏡)観察又はSEM(走査型電子顕微鏡)観察等により、多孔質中間層の平均膜厚、微細凹部の平均細孔径及び微細凹部の平均細孔間距離を測定する。
【0052】
具体的な例としては、例えば、酸化アルミニウム被膜の多孔質中間層の平均膜厚、平均細孔径、平均細孔間距離は、従来法により(例えば、ウルトラミクロトームを用いて)薄片試料を作製し断面のSEM観察することによって測定する。また、それぞれの測定値は、その観察視野における平均値によって測定する。
(5)多孔質中間層の平均膜厚:アルミニウム基材と樹脂との接合界面の縦断面のSEM観察を行い(例えば、倍率20000倍)、SEM像から酸化アルミニウム被膜の中間層上端とアルミニウム基材との境界面の距離を測定し、無作為抽出した断面5ケ所以上の前記距離の平均値を算出することにより中間層の平均膜厚とする。
(6)多孔質中間層の微細凹部の平均細孔径:無作為抽出した酸化アルミニウム被膜の多孔質中間層の表面部又は横断面のSEM観察を行い(例えば、倍率20000倍)、SEM像から5個以上の細孔を無作為抽出し、それぞれの細孔の最も離れた2点間の距離を細孔直径とし、5個以上の細孔直径の平均値とする。
(7)多孔質中間層の微細凹部の平均細孔間距離:無作為抽出した酸化アルミニウム被膜の多孔質中間層の表面部又は横断面のSEM観察を行い(例えば、倍率20000倍)、SEM像から5個以上の細孔を無作為抽出し、それぞれの細孔と該細孔と最も近接する細孔との中心間の距離を細孔間距離とし、5個以上の細孔間距離の平均値とする。
【0053】
(樹脂)
このような本発明の金属樹脂複合材料における樹脂としては、特に制限はなく、どのようなものでもよい。例えば、射出成形や熱プレス成形などの一般的な樹脂成形に利用できる樹脂であることが好ましい。具体的には、汎用プラスチック、汎用エンジニアリングプラスチック、スーパーエンジニアリングプラスチックといった熱可塑性樹脂や、熱硬化性樹脂が挙げられ、各種用途に応じて適宜選択することができる。このような熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂は1種を単独で用いても2種以上を併用しでもよい。
【0054】
前記汎用プラスチックとしては、ポリスチレン、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂)、アクリロニトリル−スチレン共重合体(AS樹脂)、メチルメタクリレート−アクリロニトリル−スチレン共重合体(MAS樹脂)、メチルメタクリレート−アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(MABS樹脂)、スチレン−ブタジエン−スチレン共重合体(SBS樹脂)といった芳香族ビニル系樹脂;ポリメチルメタクリレート、ポリメチルアクリレート、ポリメタクリル酸、これらの共重合体、アクリルゴムといったアクリル系樹脂;ポリアクリロニトリル、アクリロニトリル−メチルアクリレート共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体といったシアン化ビニル系樹脂;ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイソプレン、ポリブタジエン、エチレン−プロピレン−ジエンモノマーゴム、エチレン−プロピレンゴムといったポリオレフィン系樹脂;ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデンといったポリ塩化ビニル系樹脂;ポリビニルアルコール、ポリエチレンテレフタレートなどが挙げられる。
【0055】
前記汎用エンジニアリングプラスチックとしては、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン12といったポリアミド;ポリアセタール(ポリオキシメチレン)、ポリカーボネート、変性ポリフェニレンエーテル、ポリブチレンテレフタレート、超高分子量ポリエチレンなどが挙げられる。
【0056】
前記スーパーエンジニアリングプラスチックとしては、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィドといったポリアリーレンスルフィド、、ポリアリレート、非晶ポリアリレート、熱可塑性ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、熱可塑性ポリイミド、液晶ポリエステルといった液晶ポリマー;ポリテトラフロロエチレン、フッ素化エチレンプロピレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニルといったフッ素樹脂などが挙げられる。
【0057】
また、その他の熱可塑性樹脂としては、耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)、酸または酸無水物変性ポリオレフィン系樹脂、エポキシ変性ポリオレフィン樹脂、環状ポリオレフィン、酸または酸無水物変性アクリル系エラストマー、エポキシ変性アクリルエラストマー、シリコーンゴム、フッ素ゴム、天然ゴム、イミド基含有ビニル系樹脂、ポリ1,4−シクロヘキサンジメチルテレフタレート、ポリ乳酸、ポリエーテルケトンケトン、ポリエーテルアミドなどが挙げられる。
【0058】
前記熱硬化性樹脂としては、特に制限はないが、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、熱硬化性ポリイミド樹指、熱硬化性ポリアミドイミド、熱硬化性シリコーン樹脂、尿素樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ユリア樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、アルキド樹脂、ウレタン樹脂などが挙げられる。
【0059】
(金属樹脂複合材料)
本発明の金属樹脂複合材料は、前記酸化アルミニウム被膜を有するアルミニウム基材と、前記酸化アルミニウム被膜を介して接合している樹脂と、を備えるものである。
【0060】
なお、本発明の金属樹脂複合材料においては、アルミニウム基材と樹脂とが酸化アルミニウム被膜を介して接合していればよく、アルミニウム基材や樹脂に、それぞれ他の層(例えば、他の樹脂層や無機層等)が積層された多層構造のものとしてもよい。このような他の層の構成は特に制限されず、金属樹脂複合材料の用途等に応じて設計を適宜変更できる。
【0061】
また、本発明の金属樹脂複合材料における前記樹脂には、本発明の効果を損なわない範囲において、各種添加剤を配合することができる。添加剤を配合することによって、樹脂の弾性率の向上(炭素繊維、ガラス繊維といった無機フィラーによる効果)、極性変化(ゴム、エラストマー、他の樹脂による効果)、劣化抑制、分解反応の遅延化(酸化防止剤等による効果)などの効果により、接合強度の更なる向上、樹脂−金属界面の濡れ性の向上、界面接着性の更なる向上、長期安定性(耐熱性、耐湿熱性、耐水性など)の向上などが期待できる。
【0062】
このような添加剤としては特に制限はないが、例えば、難燃剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、加水分解抑制剤、光安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、滑剤、離型剤、結晶核剤、粘度調整剤、着色剤、染料、抗菌剤、シランカップリング剤などの表面処理剤;グラファイト、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブ、カーボンナノプレートレット、グラフエン、数層グラフエン、ナノグラファイト(グラフェンナノリボンなど)、ナノグラフェン、カーボンナノホーン、カーボンナノコーン、カーボンナノコイル、フラーレンといったカーボン系ナノフィラー、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維といった合成繊維、セルロース、キチン、キトサンといった天然繊維などの繊維状物質;雲母(マイカ)鉱物およびカオリン鉱物といった層状ケイ酸塩、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、酸化チタン、シリカ、ウイスカー、アルミナ、窒化ホウ素、窒化アルミ、窒化ケイ素、炭化ケイ素、ダイヤモンド、酸化亜鉛といった無機充填剤などが挙げられる。なお、これらの添加剤を多量に加えると衝撃強度の低下を招くおそれがあるので注意を要する。また、ゴム、エラストマー、軟質樹脂成分及び/又は可塑剤などの有機系添加剤を加えてもよい。ただし、有機系添加剤を多量に加えると高温剛性率及び荷重たわみ温度の低下を招くおそれがあるので注意を要する。
【0063】
このような添加剤の種類は特に限定されないが、樹脂との相容性が極端に低下しない成分、もしくは相溶性が低下しても化学的変性や相容化剤の添加により相容性が改善される成分が好ましい。また、このような添加剤は1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0064】
また、このような添加剤の配合方法としては、樹脂中に添加剤を分散させることができる方法であれば特に制限はなく、例えば、溶媒中で樹脂と添加剤とを混合する方法、一軸または多軸のベン卜を有する押出機、ゴムロール機、またはバンバリーミキサーなどを用いて、樹脂と添加剤とを溶融混練する方法など、従来公知の方法を採用することができる。また、樹脂として低粘度の熱硬化性樹脂を用いる場合には自公転ミキサーを用いて複合化処理を施すことにより混合することも可能である。
【0065】
[金属樹脂複合材料の製造方法]
本発明の金属樹脂複合材料の製造方法は、酸化アルミニウム被膜を有するアルミニウム基材と前記酸化アルミニウム被膜を介して接合している樹脂とを備える金属樹脂複合材料の製造方法であって、アルミニウム基材に陽極酸化処理を施し、該アルミニウム基材の表面に平均高さが10〜100nmの柱状体が分散配置されてなる多孔質表面層であって、無作為抽出した400nm視野角内における柱状体の断面の面積の合計の平均値が8000〜128000nm
2であり、無作為抽出した400nm視野角内における柱状体断面の周囲の長さの合計の平均値が1000〜27000nmであり、かつ、無作為抽出した400nm視野角内における柱状体の数の平均値が10〜430個である前記多孔質表面層を有する酸化アルミニウム被膜を形成する表面処理工程と、前記表面処理工程により形成された前記多孔質表面層を有する酸化アルミニウム被膜を介してアルミニウム基材と樹脂とを接合する接合工程と、を含むものである。
【0066】
また、前記本発明の金属樹脂複合材料の製造方法においては、前記表面処理工程において、前記アルミニウム基材に陽極酸化処理を施して、アルミニウム基材の表面に平均高さが10〜100nmの柱状体が分散配置されてなる多孔質表面層であって、該多孔質表面層の平均厚さが10〜100nmであり、無作為抽出した400nm視野角内における柱状体の断面の面積の合計の平均値が8000〜128000nm
2であり、無作為抽出した400nm視野角内における柱状体の数の平均値が10〜430個であり、かつ、無作為抽出した400nm視野角内における柱状体断面の周囲の長さの合計の平均値が1000〜27000nmである前記多孔質表面層を有する酸化アルミニウム被膜を形成することが好ましい。
【0067】
更に、前記本発明の金属樹脂複合材料の製造方法においては、前記表面処理工程において、前記多孔質表面層と、該多孔質表面層の前記アルミニウム基材側に形成された微細凹部を有する多孔質中間層であって、平均膜厚が500nm〜20μmであり、前記微細凹部の平均細孔径が5〜50nmであり、かつ、前記微細凹部の平均細孔間距離が5〜90nmである前記多孔質中間層と、を有する酸化アルミニウム被膜を前記アルミニウム基材の表面に形成することが好ましい。
【0068】
(金属樹脂複合材料の製造方法の好適な態様)
本発明の金属樹脂複合材料の製造方法の好適な態様は、酸化アルミニウム被膜を有するアルミニウム基材と前記酸化アルミニウム被膜を介して接合している樹脂とを備える金属樹脂複合材料の製造方法であって、アルミニウム基材に陽極酸化処理を複数回で施して該アルミニウム基材の表面に前記多孔質表面層を有する酸化アルミニウム被膜を形成し前記本発明の酸化アルミニウム被膜を有するアルミニウム基材を得る表面処理工程と、前記表面処理工程により得られた前記酸化アルミニウム被膜を有するアルミニウム基材の酸化アルミニウム被膜を介してアルミニウム基材と樹脂とを接合する接合工程と、を含むものである。
【0069】
(表面処理工程)
本発明にかかる金属樹脂複合材料の製造方法の好適な態様における表面処理工程においては、複数回で施す陽極酸化処理(陽極酸化処理の複数回処理)としては、特に制限はなく、公知の陽極酸化方法を適宜採用することができる。例えば、アルミニウム基材を陽極とし、不溶性電極を陰極として酸性溶液中で電気分解して、アルミニウム基材表面を複数回で陽極酸化して、前記多孔質表面層及び前記多孔質中間層を有する酸化アルミニウムの酸化アルミニウム被膜(陽極酸化被膜)を形成させることができる。
【0070】
このような陽極酸化処理において用いる電解法、陰極、電解溶液、電解溶液の濃度や温度、電解の電流密度、電圧、電解処理の時間などは、特に制限はなく、目的とする酸化アルミニウム被膜の形状及び構造等、すなわち、目的とする多孔質表面層の形状及び構造等、目的とする多孔質中間層の形状及び構造等を形成することができる陽極酸化処理の方法や条件を適宜選択することができる。
【0071】
本発明にかかる表面処理工程で用いる陽極酸化処理としては、特に制限はなく、公知の陽極酸化方法を適宜採用することができる。例えば、アルミニウム基材を陽極とし、不溶性電極を陰極として酸性溶液中で電気分解して、アルミニウム基材表面を陽極酸化して、前記多孔質表面層を有する酸化アルミニウムの酸化アルミニウム被膜(陽極酸化被膜)を形成させることができる。
【0072】
また、このような陽極酸化処理において用いる電解法としては、特に制限はなく、例えば、サイクリック法、定電流法、定電位法、パルス定電位法及びパルス定電流法等の電解法を用いることができる。
【0073】
また、このような陽極酸化処理において用いる陰極としては、特に制限はなく、例えば、酸性溶液と反応したり、導電性の著しく低いものでない限り、任意のものを使用できるが、通常、白金、鉛、ステンレス、カーボン等の不溶性導電体板を用いることができる。
【0074】
また、このような陽極酸化処理において用いる電解溶液としては、特に制限はなく、例えば、燐酸、クロム酸、シュウ酸、硫酸溶液などの酸性溶液が例示でき、これらを1種又は2種以上混合して用いることができる。
【0075】
また、このような酸性溶液の濃度としては、用いる電解溶液の種類や形成する多孔質表面層及び/又は多孔質中間層の形状や構造等、他の条件により適宜選択され、例えば、酸性溶液として硫酸水溶液を用いた場合0.01〜10mol/L、シュウ酸水溶液を用いた場合0.01〜10mol/Lであることがより好ましい。また、酸性溶液の温度としては、−10〜80℃が好ましく、−10〜60℃がより好ましい。当該温度で陽極酸化処理を実施することにより、アルミニウム基材の表面に前記多孔質表面層及び/又は多孔質中間層を容易に形成することができ、したがって、アルミニウム基材表面と樹脂との接触(密着)が容易になると共に、前記多孔質表面層に接触する樹脂が前記柱状体に絡まり酸化アルミニウム被膜の微細孔への侵入が促進され、更に前記金属接合表面の微細な柱状体が樹脂層に嵌入する(喰いこむ)ことにより、アルミニウム基材と樹脂材料とを簡便にかつ強固に接合することが可能となる。このような酸性溶液の温度が前記下限未満では、本発明にかかる多孔質表面層の前記柱状体及び/又は多孔質中間層が形成できにくくなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると陽極酸化被膜の溶解が激しくなるため前記柱状体及び/又は多孔質中間層が形成しにくくなる傾向にある。
【0076】
また、このような陽極酸化処理において用いる電解の電流密度としては、特に制限はなく、例えば、0.002〜2.5A/dm
2であることが好ましく、0.002〜1.0A/dm
2であることがより好ましい。このような電解の電流密度が前記下限未満では多孔質表面層及び/又は多孔質中間層の形成速度が非常に遅くなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると陽極酸化被膜の溶解が激しくなるため前記柱状体が形成できにくくなる傾向にある。なお、陽極酸化処理における電解処理の時間は30秒〜100分であることが好ましい。
【0077】
このような陽極酸化処理の複数回処理の好適な具体例としては、アルミニウム基材を陽極とし、白金板を陰極とし、第一段目の陽極酸化処理として、電解液としてりん酸、クロム酸、シュウ酸、硫酸などの酸性溶液のうちの1種又は2種以上の酸性溶液を用い、酸性溶液の濃度が0.01〜10mol/L、処理温度が−10〜60℃、電流密度が0.002〜1.0A/dm
2、電圧が1.0〜30V、処理時間が30秒〜100分の条件で電解して、アルミニウム基材表面に陽極酸化膜を形成する。
【0078】
なお、第一段目の陽極酸化処理のより好適な条件としては、電解液としてシュウ酸及び硫酸のうちの1種又は2種の酸性溶液、酸性溶液の濃度が0.01〜1mol/L、処理温度が−10〜30℃、電流密度が0.002〜0.5A/dm
2、電圧が1.0〜10V、処理時間が30秒〜30分である。
【0079】
次の陽極酸化処理としては、アルミニウム基材を陽極とし、白金板を陰極とし、電解液としてりん酸、クロム酸、シュウ酸、硫酸などの酸性溶液のうちの1種又は2種以上の酸性溶液を用い、酸性溶液の濃度が0.01〜10mol/L、処理温度が−10〜60℃、電流密度が0.002〜1.0A/dm
2、電圧が1.0〜30V、処理時間が30秒〜100分の条件で電解して、アルミニウム基材表面に複数層の陽極酸化膜を形成する。
【0080】
なお、第二段目以降の陽極酸化処理のより好適な条件としては、電解液としてシュウ酸及び硫酸のうちの1種又は2種の酸性溶液、酸性溶液の濃度が0.01〜1mol/L、処理温度が−10〜30℃、電流密度が0.002〜0.5A/dm
2、電圧が1.0〜20V、処理時間が30秒〜60分である。
【0081】
陽極酸化処理の複数回処理においては、(第一段目の処理により形成する層の厚さ)≦(第二段目以降の処理により形成する層の厚さ)となる処理条件とすることがより好ましい。このようにすることにより、本発明の多孔質表面層の前記柱状体を容易に形成することができる
。
【0082】
ここで、本発明において、電流密度は、直流安定化電源(AND社製、製品番号:AD−8735d)で設定した電流値をアルミニウム金属部材の表面積で除した値を示す。
【0083】
以上のように、本発明の金属樹脂複合材料の製造方法の好適な態様により、アルミニウム基材の表面に、平均高さが10〜100nmの柱状体が分散配置されてなる多孔質表面層であって、該多孔質表面層の平均厚さが10〜100nmであり、無作為抽出した400nm視野角内における柱状体の断面の面積の合計の平均値が8000〜128000nm
2であり、かつ、無作為抽出した400nm視野角内における柱状体の数の平均値が10〜430個である前記多孔質表面層(第一層)を有する酸化アルミニウム被膜を形成することができ、前記本発明の酸化アルミニウム被膜を有するアルミニウム基材(前記第一層を有するアルミニウム基材)を得ることができる。
【0084】
また、本発明の金属樹脂複合材料の製造方法の好適な態様により、アルミニウム基材の表面に、平均高さが10〜100nmの柱状体が分散配置されてなる多孔質表面層であって、該多孔質表面層の平均厚さが10〜100nmであり、無作為抽出した400nm視野角内における柱状体の断面の面積の合計の平均値が8000〜128000nm
2であり、無作為抽出した400nm視野角内における柱状体の数の平均値が10〜430個であり、かつ、無作為抽出した400nm視野角内における柱状体断面の周囲の長さの合計の平均値が1000〜27000nmである前記多孔質表面層(好適な第一層)を有する酸化アルミニウム被膜を形成することができ、前記本発明の酸化アルミニウム被膜を有するアルミニウム基材(前記好適な第一層を有するアルミニウム基材)を得ることができる。
【0085】
更に、本発明の金属樹脂複合材料の製造方法の好適な態様により、アルミニウム基材の表面に、前記多孔質表面層と、該多孔質表面層の前記アルミニウム基材側に形成された微細凹部を有する多孔質中間層であって、平均膜厚が500nm〜20μmであり、前記微細凹部の平均細孔径が5〜50nmであり、かつ、前記微細凹部の平均細孔間距離が5〜90nmである前記多孔質中間層(第二層)を有する酸化アルミニウム被膜を形成することができ、前記第第二層を有するアルミニウム基材を得ることができる。
【0086】
なお、このような本発明の陽極酸化処理においては、陽極酸化処理の前に、通常行われる予備処理(バフ研磨、ヘアーライン、梨地・模様付、など)や前処理(脱脂、エッチング、デスマット、電解研磨などの表面の清浄・溶解処理)を適宜行うことができる。また、このような本発明の陽極酸化処理においては、陽極酸化処理の後に、通常行われる後処理(水洗、封孔など)を適宜行うことができる。
【0087】
このような本発明の陽極酸化処理においては、陽極酸化処理の前に行われる前処理としては、表面処理面を脱脂処理、エッチング処理、デスマット処理、又は電解研磨処理のいずれか一種又は二種以上を行うことが好ましい。
【0088】
このような陽極酸化処理の前に行われる脱脂処理としては、例えば、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、界面活性剤等からなる通常の脱脂浴を用いて行うことができ、処理条件としては、浸漬温度が好ましくは15〜55℃、より好ましくは25〜40℃であって、浸漬時間が好ましくは1〜10分、より好ましくは3〜6分である。
【0089】
また、このような陽極酸化処理の前に行われるエッチング処理としては、例えば、水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化カリウム(KOH)、炭酸ナトリウム(Na
2CO
3)等のアルカリ水溶液等を用い、処理条件としては、アルカリ水溶液の濃度が20〜200g/L、好ましくは50〜150g/Lであって、処理条件としては、浸漬温度が好ましくは30〜70℃、より好ましくは40〜60℃であって、浸漬時間が好ましくは0.5〜5分、より好ましくは1〜3分である。また、塩酸、硝酸、硫酸、弗酸等の酸水溶液を用いて酸性エッチング処理を行ってもよい。酸性エッチング処理としては、酸水溶液の濃度が20〜200g/L、浸漬温度が好ましくは30〜70℃、より好ましくは40〜60℃であって、浸漬時間が好ましくは0.5〜5分、より好ましくは1〜3分である。
【0090】
また、このような陽極酸化処理の前に行われるデスマット処理としては、例えば、硝酸又は硫酸などの水溶液を用い、処理条件としては、浸漬温度が好ましくは15〜55℃、より好ましくは25〜40℃であって、浸漬時間が好ましくは1〜10分、より好ましくは3〜6分である。
【0091】
また、このような陽極酸化処理の前に行われる電解研磨処理としては、例えば、リン酸、リン酸−硫酸、リン酸−硫酸−クロム酸、過塩素酸−無水酢酸、過塩素酸−エタノール、硝酸などの水溶液を用い、処理条件としては、電流密度が好ましくは1〜10A/dm
2、浴電圧が好ましくは20〜30V、処理時間が好ましくは1〜5分間である。
【0092】
また、このような本発明の陽極酸化処理においては、陽極酸化処理の後に通常行われる水洗工程としては、例えば、陽極酸化被膜が形成されたアルミニウム基材を、温度5〜60℃で水洗することが好ましく、10〜50℃で水洗することがより好ましい。具体的な一例として、例えば常温の水道水で複数回洗浄した後、50℃程度の水で30秒程度洗浄する。
【0093】
なお、このような本発明の陽極酸化処理の後処理としてはリン酸溶液でアルミニウム基材表面の酸化アルミニウム被膜に処理を施すことが好ましい。
【0094】
(接合工程)tou
このような本発明の金属樹脂複合材料の製造方法における接合工程においては、前記アルミニウム基材と樹脂とを接合する方法としては、特に制限はなく、樹脂を成形する公知の方法を適宜採用することができる。本発明においては、前記表面処理工程により形成された前記多孔質表面層を有する酸化アルミニウム被膜を介してアルミニウム基材と樹脂とを接合することができる方法であればどのような方法でもよい。例えば、射出成形法、圧縮成形法、溶融圧着法、加圧プレス法などの方法を用いることができる。
【0095】
具体的には、射出成形法を用いることが好ましい。このような射出成形法としては、特に制限されず、射出成形機を使用した通常の射出成形法を用いることができる。
【0096】
本発明にかかる接合工程で用いる射出成形法としては、特に制限はなく、公知の射出成形法を適宜採用することができる。具体的には、先ず、表面処理工程で得られた酸化アルミニウム被膜を有するアルミニウム基材を所定の射出成形用金型に装着する。次に、前記酸化アルミニウム被膜を有するアルミニウム基材の酸化アルミニウム被膜の多孔質表面層を含む部位の表面に溶融状態の樹脂を射出する。その後、金型を冷却することによって樹脂を凝固させ、アルミニウム基材と樹脂とを接合させる。前記射出時の樹脂温度としては、接合面の樹脂が流動し得る温度以上であれば特に制限はない。また、その他の射出条件についても各樹脂に応じた公知の条件を採用することができる。
【0097】
また、射出成形法の他の具体例としては、先ず、射出成形金型を用意し、金型を開いてその一方に表面処理工程で得られた酸化アルミニウム被膜を有するアルミニウム基材をインサート部品としてインサートし、金型を閉める。次に、高温高圧の中で溶融した熱可塑性樹脂を射出しインサート成形し、金型を開き離型することにより、アルミニウム基材に熱可塑性樹脂を接合させて、金属樹脂複合材料を製造する。なお、成形圧力や射出速度の条件は、使用する成形機、樹脂の種類及び成形する形状によって適宜設定することができる。
【0098】
本発明にかかる接合工程で用いる溶融圧着法としては、特に制限はなく、公知の溶融圧着による方法を適宜採用することができる。具体的には、先ず、樹脂を射出成形や押出成形など公知の成形方法により所定の形状に予備成形する。この予備成形された樹脂材料を、表面処理工程で得られた酸化アルミニウム被膜を有するアルミニウム基材の酸化アルミニウム被膜の多孔質表面層を含む所望の部位に重ねあわせて金属樹脂複合材料前駆体を作製する。その後、この金属樹脂複合材料前駆体を加熱しながらプレス成形することによって、前記酸化アルミニウム被膜を有するアルミニウム基材に樹脂が溶融圧着され、得られたプレス成形品を冷却することによって、酸化アルミニウム被膜を有するアルミニウム基材と樹脂とが接合された本発明の金属樹脂複合材料が得られる。前記溶融圧着時の加熱温度としては、接合面の樹脂が流動し得る温度以上であれば特に制限はない。また、その他の溶融圧着条件についても各樹脂に応じた公知の条件を採用することができる。
【0099】
本発明にかかる接合工程で用いる加圧プレス法としては、特に制限はなく、公知の加圧プレスによる方法を適宜採用することができる。具体的には、表面処理工程で得られた酸化アルミニウム被膜を有するアルミニウム基材の樹脂を接合させる領域上に、樹脂を配置して加圧(プレス)する。このように加圧する方法を採用する際の圧力(プレス)条件は特に制限されないが、10〜3000kPaとすることが好ましく、100〜1000kPaとすることがより好ましい。このような圧力条件が前記下限未満では樹脂とアルミニウム基材の酸化アルミニウム被膜の多孔質表面層とにより強固な密着層を作ることが困難となり、十分に高度な接合強度を付与することができなくなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、樹脂が広がりすぎてしまい、強固な密着層が得られなくなり、十分に高度な接合強度を付与することができなくなる傾向にある。なお、この加圧プレス法においては、高圧でのプレスをする必要がなく、簡便な方法として採用することができる。
【実施例】
【0100】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0101】
(実施例1〜3)
アルミニウム試料(JIS規格、A1050、10mm×50mm×t1mm)を用意した。次に、アルミニウム試料をアセトンによる脱脂処理後、電解研磨液としてHClO
4(67ml)とC
2H
5OH(160ml)との混合液を用い、温度15〜30℃、電圧8Vの条件でアルミニウム試料の表面に2分間の電解研磨処理を施した後、イオン交換水を用いて洗浄した。
【0102】
次に、電解研磨処理後のアルミニウム試料を、電解液として5〜50wt%硫酸(和光純薬工業社製、純度96〜98%)水溶液を用い、アルミニウム試料を陽極とし、不溶性電極として白金板を陰極とし、表1に示す条件で陽極酸化処理を施し、アルミニウム試料表面上に酸化アルミニウム被膜を形成した後、水で水洗して、乾燥した。
【0103】
次いで、陽極酸化を施したアルミ試験片を、リン酸溶液に浸漬し、室温で5分間攪拌した後、水洗した。更に、同様の処理を行った。
【0104】
次に、酸化アルミニウム被膜が形成されたアルミニウム試料の表面に、樹脂を射出成形装置を用いて射出成形した。すなわち、先ず、射出成形用金型に酸化アルミニウム被膜が形成されたアルミニウム試料を装着した。この金型を射出成形装置(新興セルビック社製、小型射出成形機、C.Mobile)に装着し、樹脂温度330℃、金型温度120〜150℃、保持時間30秒の条件で、ポリフェニレンスルフィド(東レ(株)製PPS樹脂「トレリナ」、非強化A900、融点278℃、以下、「PPS」と略す)を、前記アルミニウム板の酸化アルミニウム被膜が形成された面に射出して、アルミニウム試料(10mm×50mm×t1mm)と樹脂(10mm×40mm×t2mm)が接合(重なり部分10mm×10mm)した射出成形品を作製した。
【0105】
<評価試験:引張せん断試験>
得られた射出成形品(実施例1〜3)を試験片とし、万力型のチャックを備えたインストロン型万能試験機(Instron社製「INSTRON 5566」)を用い、引張速度10mm/分、チャック間距離50mm、ロードセル10kNの条件で引張せん断試験(n=3)を行い、引張強さを測定した。得られた結果を表2に示す。
【0106】
<多孔質表面層の観察>
実施例1〜3において得られた射出成形前の酸化アルミニウム被膜のSEM観察により、多孔質表面層の平均高さ(柱状体の平均高さ)、柱状体の断面の面積の合計の平均値、柱状体断面の周囲の長さの合計の平均値及び柱状体の数の平均値を求めた。
【0107】
先ず、酸化アルミニウム被膜の多孔質表面層の平均高さ(柱状体の平均高さ)を、SEMを用いて求めた。最初に、酸化アルミニウム被膜の多孔質表面層の表面及びアルミニウム基材と樹脂との接合界面の縦断面のSEM像を撮影した。次いで、撮影したアルミニウム基材と樹脂との接合界面の縦断面の画像(SEM像、倍率
200000倍)から酸化アルミニウム被膜の多孔質表面層上端と中間層(中間層が無い場合はアルミニウム基材)との境界面の距離を測定し、断面画像の最大と最小を選び、最大と最小の中間を平均値とし、平均値と最小値との差を標準偏差の3倍として正規分布を求め、多孔質表面層の平均高さ及び分布(標準偏差)を評価した。これより、多孔質表面層の平均高さ(柱状体の平均高さ)を求めた。得られた結果を表2に示す。なお、一例として、実施例2により得られたアルミニウム基材と樹脂との接合界面の縦断面のSEM像及び酸化アルミニウム被膜の多孔質表面層の平均高さ(柱状体の平均高さ)の算出法を説明した図を、
図1に示す。
図1中、(A)は本発明の実施例2において得られたアルミニウム基材と樹脂との接合界面の縦断面のSEM像及び多孔質表面層の平均高さ(柱状体の平均高さ)を距離の平均値より算出する方法を説明する図であり、(B)は多孔質表面層の平均高さ(柱状体の平均高さ)の算出法を説明する正規分布及び数式を示す図である。
【0108】
次に、酸化アルミニウム被膜の多孔質表面層の表面及び断面のSEM像を撮影し、撮影した画像の解析を、画像解析ソフトImageJを用いて二値化した後Watershed細分化処理等により行い、多孔質表面層の柱状体の断面の面積の合計の平均値、柱状体断面の周囲の長さの合計の平均値及び柱状体の数の平均値を求めた。すなわち、先ず、酸化アルミニウム被膜の多孔質表面層の表面及び断面のSEM像を撮影した(8bit画像、グレースケール)。なお、一例として、実施例3により得られた多孔質表面層の断面のSEM像を
図2の(A)に示す。
【0109】
次に、ノイズ除去後の画像(8bit画像)の解析を画像解析ソフトImageJ1.47を用いて行った。先ず最初に、二値化処理を行った。輝度閾値設定処理は、目視で第一層と認識できる境目として130を閾値とし、8bit画像で130以上の輝度を選択した。その結果を、
図2の画像(B)に示す。なお、
図2は、多孔質表面層の断面のSEM像及び画像解析処理の一連の流れを示す図で、一例として実施例3で行った結果を示す。
【0110】
次いで、設定された閾値以上の輝度で選択された粒子の分離処理を行った。この粒子分離処理は、Watershed細分化処理に基づいて粒子を分離した。最初にEDMを作成し、次に、UEPsを作成し(
図2の画像(C)に示す)、各UEPを可能な限り、粒子の端(縁)に到達するまで、又は他(隣)の成長(膨張)しているUEPの領域の境界(縁)に到着するまで拡張することにより、隣接面(境界面)を確定した。その結果を
図2の画像(D)に示す。次いで、最小値を決めて該値以上のサイズの塊をカウントし、更に、ImageJによりそれぞれの塊のエリア面積、外周、座標を得た。
【0111】
なお、多孔質表面層の無作為抽出した400nm視野角内における柱状体の断面の面積の合計の平均値は、無作為抽出した400nm視野角内の画像を二値化後、カウントした各塊のエリア面積を足し(SEM像のエリア内すべて)、柱状体の断面の面積の合計値を得、このような400nm視野角内の画像を無作為に5ケ所抽出し、各画像における柱状体の断面の面積の合計値を求め、これら5個の合計値を平均し、上記無作為抽出した400nm視野角内における柱状体の断面の面積の合計の平均値とした。得られた結果を表2に示す。
【0112】
次に、多孔質表面層の無作為抽出した400nm視野角内における柱状体断面の周囲の長さの合計の平均値は、無作為抽出した400nm視野角内の画像を二値化後、カウントした各塊の外周を足し(SEM像のエリア内すべて)、柱状体断面の周囲の長さの合計値を得、このような400nm視野角内の画像を無作為に5ケ所抽出し、各画像における柱状体断面の周囲の長さの合計値を求め、これら5個の合計値を平均し、上記無作為抽出した400nm視野角内における柱状体断面の周囲の長さの合計の平均値とした。得られた結果を表2に示す。
【0113】
次に、多孔質表面層の無作為抽出した400nm視野角内における柱状体の数の平均値は、無作為抽出した400nm視野角内の画像を二値化後、Watershed細分化処理により分割したあとの塊の総数を得、このような400nm視野角内の画像を無作為に5ケ所抽出し、各画像における塊の総数を求め、これら5個の総数を平均し、上記無作為抽出した400nm視野角内における柱状体の数の平均値とした。得られた結果を表2に示す。
【0114】
なお、実施例1において得られた多孔質表面層のSEM観察結果及び多孔質表面層の平均高さの算出に用いた正規分布を示す説明図を、
図3に示す。多孔質表面層の断面のSEM像を
図3の(A)に、アルミニウム基材と樹脂との接合界面の縦断面のSEM像を
図3の(B)に、多孔質表面層の断面のSEM像の画像解析処理を行った結果を示す図を
図3の(C)に、多孔質表面層の平均高さの算出に用いた正規分布を示す説明図を
図3の(D)にそれぞれ示す。
【0115】
また、実施例2において得られた多孔質表面層のSEM観察結果及び多孔質表面層の平均高さの算出に用いた正規分布を示す説明図を、
図4に示す。多孔質表面層の断面のSEM像を
図4の(A)に、アルミニウム基材と樹脂との接合界面の縦断面のSEM像を
図4の(B)に、多孔質表面層の断面のSEM像の画像解析処理を行った結果を示す図を
図4の(C)に、多孔質表面層の平均高さの算出に用いた正規分布を示す説明図を
図4の(D)にそれぞれ示す。
【0116】
また、実施例3において得られた多孔質表面層のSEM観察結果及び多孔質表面層の平均高さの算出に用いた正規分布を示す説明図を、
図5に示す。多孔質表面層の断面のSEM像を
図5の(A)に、アルミニウム基材と樹脂との接合界面の縦断面のSEM像を
図5の(B)に、多孔質表面層の断面のSEM像の画像解析処理を行った結果を示す図を
図5の(C)に、多孔質表面層の平均高さの算出に用いた正規分布を示す説明図を
図5の(D)にそれぞれ示す。
【0117】
<多孔質中間層の観察>
実施例1〜3により得られた射出成形品(金属樹脂複合材料)における酸化アルミニウム被膜のSEM観察により、多孔質中間層の平均膜厚、微細凹部の平均細孔径及び微細凹部の平均細孔間距離を測定した。先ず、ウルトラミクロトームを用いて薄片試料を作製した。次に、無作為抽出した酸化アルミニウム被膜の多孔質中間層の表面部及びアルミニウム基材と樹脂との接合界面の縦断面のSEM像を撮影した(8bit画像、グレースケール)。次いで、これら断面のSEM観察により、多孔質中間層の平均膜厚、微細凹部の平均細孔径及び微細凹部の平均細孔間距離をそれぞれ測定した。
【0118】
なお、多孔質中間層の平均膜厚は、アルミニウム基材と樹脂との接合界面の縦断面のSEM観察を行い(倍率40000倍)、SEM像から酸化アルミニウム被膜の多孔質中間層上端とアルミニウム基材との境界面の距離を測定し、無作為抽出した断面5ケ所以上の前記距離の平均値を算出することにより中間層の平均膜厚とした。得られた結果を表2に示す。
【0119】
次に、多孔質中間層の微細凹部の平均細孔径は、酸化アルミニウム被膜の多孔質中間層の表面部のSEM観察を行い(倍率40000倍)、SEM像から5個の細孔を無作為抽出し、それぞれの細孔の最も離れた2点間の距離を細孔直径とし、5個の細孔直径の平均値とした。得られた結果を表2に示す。
【0120】
次に、多孔質中間層の微細凹部の平均細孔間距離は、酸化アルミニウム被膜の多孔質中間層の表面部のSEM観察を行い(倍率40000倍)、SEM像から5個の細孔を無作為抽出し、それぞれの細孔と該細孔と最も近接する細孔との中心間の距離を細孔間距離とし、5個の細孔間距離の平均値とした。得られた結果を表2に示す。
【0121】
なお、実施例1において得られた多孔質中間層の縦断面のSEM像を
図6に示す。
【0122】
また、実施例2において得られた多孔質中間層の縦断面のSEM像を
図7に示す。多孔質中間層の縦断面のSEM像を
図7の(A)に、
図7の(A)におけるアルミニウム基材側の一部拡大写真を
図7の(B)にそれぞれ示す。
【0123】
また、実施例3において得られた多孔質中間層の縦断面のSEM像を
図8に示す。多孔質中間層の縦断面のSEM像を
図8の(A)に、
図8の(A)におけるアルミニウム基材側の一部拡大写真を
図8の(B)にそれぞれ示す。
【0124】
(実施例4)
アルミニウム試料としてJIS規格A6063を用い、射出成形樹脂としてナイロン6(宇部興産(株)製ナイロン6「UBEナイロン 1015GU6」、「PA6−1」と略す)を用い、陽極酸化処理の条件を表1に示す条件とした以外は実施例1と同様にして、アルミニウム試料の表面に酸化アルミニウム被膜を形成し、実施例1と同様にして射出成形を施して、アルミニウム試料(10mm×50mm×t1mm)と樹脂(10mm×40mm×t2mm)が接合(重なり部分10mm×10mm)した射出成形品を作製した。得られた射出成形品の引張せん断試験を、実施例1と同様にして行った。得られた結果を表2に示す。
【0125】
(比較例1)
実施例1と同様にしてアルミニウム試料を用意し、このアルミニウム試料の表面に、実施例1と同様にして射出成形を施し、アルミニウム試料(10mm×50mm×t1mm)と樹脂(10mm×40mm×t2mm)が接合(重なり部分10mm×10mm)した比較用射出成形品を作製した。得られた比較用射出成形品の引張せん断試験を、実施例1と同様にして行った。得られた結果を表2に示す。
【0126】
(比較例2)
実施例1と同様にしてアルミニウム試料を用意し、陽極酸化処理の条件を表1に示す条件とした以外は実施例1と同様にして、アルミニウム試料の表面に酸化アルミニウム被膜を形成した。次に、酸化アルミニウム被膜が形成されたアルミニウム試料の表面に、実施例1と同様にして射出成形を施し、アルミニウム試料(10mm×50mm×t1mm)と樹脂(10mm×40mm×t2mm)が接合(重なり部分10mm×10mm)した比較用射出成形品を作製した。得られた比較用射出成形品の引張せん断試験を、実施例1と同様にして行った。得られた結果を表2に示す。
【0127】
また、比較例2により得られた比較用射出成形品における酸化アルミニウム被膜のSEM観察を、実施例1と同様にして行った。得られた結果を表2に示す。
【0128】
なお、比較例2の比較用射出成形品の酸化アルミニウム被膜のSEM観察結果を
図9に示す。アルミニウム試料と酸化アルミニウム被膜の縦断面のSEM像を
図9の(A)に、酸化アルミニウム被膜の表面のSEM像を
図9の(B)に、酸化アルミニウム被膜の表面側の拡大縦断面のSEM像を
図9の(C)にそれぞれ示す。
【0129】
(比較例3〜12)
射出成形樹脂としてナイロン6(宇部興産(株)製ナイロン6「UBEナイロン 1022B」、以下、「PA6−2」と略す)を用い、陽極酸化処理の条件を表1に示す条件とした以外は実施例1と同様にして、アルミニウム試料の表面に酸化アルミニウム被膜を形成し、実施例1と同様にして射出成形を施して、アルミニウム試料(10mm×50mm×t1mm)と樹脂(10mm×40mm×t2mm)が接合(重なり部分10mm×10mm)した比較用射出成形品を作製した。得られた比較用射出成形品の引張せん断試験を、実施例1と同様にして行った。得られた結果を表2に示す。
【0130】
また、比較例3、5により得られた比較用射出成形品における酸化アルミニウム被膜のSEM観察を、実施例1と同様にして行った。得られた結果を表2に示す。
【0131】
(比較例13)
射出成形樹脂としてナイロン6(宇部興産(株)製ナイロン6「UBEナイロン 1022B」、以下、「PA6−2」と略す)を用いた以外は比較例1と同様にして、アルミニウム試料の表面に射出成形を施し、アルミニウム試料(10mm×50mm×t1mm)と樹脂(10mm×40mm×t2mm)が接合(重なり部分10mm×10mm)した比較用射出成形品を作製した。得られた比較用射出成形品の引張せん断試験を、実施例1と同様にして行った。得られた結果を表2に示す。
【0132】
【表1】
【0133】
【表2】
【0134】
(評価試験結果)
図3〜5に示した結果から明らかなように、実施例1〜3において得られた射出成形前の酸化アルミニウム被膜は、柱状体が分散配置されてなる多孔質表面層を有するものであることが確認された。
【0135】
また、表2に示した結果から明らかなとおり、実施例1〜3で得られた射出成形前の酸化アルミニウム被膜において、多孔質表面層の平均高さ(柱状体の平均高さ)が10〜100nmの範囲、多孔質表面層の無作為抽出した400nm視野角内における柱状体の断面の面積の合計の平均値が8000〜128000nm
2の範囲、多孔質表面層の無作為抽出した400nm視野角内における柱状体の数の平均値が10〜430個の範囲、多孔質表面層の無作為抽出した400nm視野角内における柱状体断面の周囲の長さの合計の平均値が1000〜27000nmの範囲にあったことから、実施例1〜3において、アルミニウム基材と樹脂とがより強固に接合した金属樹脂複合材料が得られていることが確認された。特に、実施例1の場合には、アルミニウム基材と樹脂とがより高度に強固に接合した金属樹脂複合材料が得られていることが確認された。
【0136】
一方、
図9に示した結果から明らかなように、比較例2で得られた比較用射出成形品においては、多数の細孔が形成された酸化アルミニウム層を備えていることは確認されたが、柱状体が分散配置されてなる多孔質表面層は観察されなかった。
【0137】
また、表2に示した結果から明らかなとおり、比較例では、実施例1〜4ほど強固に接合した金属樹脂複合材料が得られないことが確認された。