(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6094786
(24)【登録日】2017年2月24日
(45)【発行日】2017年3月15日
(54)【発明の名称】フィラメント交換器及びフィラメント交換構造
(51)【国際特許分類】
H01J 27/08 20060101AFI20170306BHJP
H01J 37/08 20060101ALI20170306BHJP
H01J 37/067 20060101ALI20170306BHJP
【FI】
H01J27/08
H01J37/08
H01J37/067
【請求項の数】7
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2012-117041(P2012-117041)
(22)【出願日】2012年5月22日
(65)【公開番号】特開2013-243098(P2013-243098A)
(43)【公開日】2013年12月5日
【審査請求日】2015年2月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】302054866
【氏名又は名称】日新イオン機器株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100113468
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 明子
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 真大
(72)【発明者】
【氏名】滝上 佳宏
(72)【発明者】
【氏名】中矢 良
(72)【発明者】
【氏名】田村 茂久
【審査官】
佐藤 仁美
(56)【参考文献】
【文献】
特開平11−250846(JP,A)
【文献】
特開平04−292841(JP,A)
【文献】
特開昭58−035851(JP,A)
【文献】
特開2009−245725(JP,A)
【文献】
特開2008−246380(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 27/00−27/26、37/04、37/06−37/08、
37/248
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空室の外部へ一部が露出するフィラメント支持構造に支持されて当該真空室内に配置されているフィラメントを前記真空室外へと取り出して交換する際に前記真空室に対して取り付けられ、前記フィラメントの交換終了後に前記真空室から取り外されるフィラメント交換器であって、
前記真空室外において前記フィラメント支持構造を覆うように着脱可能に取り付けられる取り付け口が形成された補助真空容器と、
前記補助真空容器を貫通してその先端部が補助真空容器内において前記フィラメント支持構造に取り付けられ、前記補助真空容器内が真空排気された状態において前記取り付け口を通過させて前記真空室内から当該補助真空容器内へと前記フィラメント支持構造及びフィラメントを引き抜くための操作ロッドとを備え、
前記補助真空容器が、
前記取り付け口と、前記フィラメントの交換時に当該フィラメントを取り出すための取り出し口とが形成された容器本体と、
前記取り出し口を開閉可能な蓋体とを備えたことを特徴とするフィラメント交換器。
【請求項2】
前記蓋体が、前記容器本体に対して着脱可能に取り付けられている請求項1記載のフィラメント交換器。
【請求項3】
前記操作ロッドの先端部及び前記フィラメント支持構造の間を接続するブラケットをさらに備え、
前記容器本体が、前記操作ロッドの軸方向に沿って延びており、その先端側に前記取り付け口を有するとともに、前記取り付け口とは反対側において前記軸方向の基端側に突出する凸部を有しており、
前記凸部が、前記フィラメントが当該容器本体内に引き抜かれた状態において前記ブラケットを収容するとともに、前記軸方向から視た場合に当該凸部及び当該ブラケットが前記フィラメント支持構造よりも小さく形成してある請求項1又は2記載のフィラメント交換器。
【請求項4】
前記容器本体内に対して取り付けられた前記操作ロッドの軸方向に延びるレール及び前記レール上をスライド移動可能に取り付けられたスライダからなるガイドをさらに備え、
前記スライダと前記フィラメント支持構造が接続されている請求項1乃至3いずれかに記載のフィラメント交換器。
【請求項5】
前記容器本体の外表面に持ち運び用の取っ手が設けられた請求項1乃至4いずれかに記載のフィラメント交換器。
【請求項6】
載置された際に前記取っ手とともに三点支持をなす2つの脚部が前記容器本体の外表面に設けられた請求項5記載のフィラメント交換器。
【請求項7】
請求項1乃至6いずれかに記載のフィラメント交換器と、
前記真空室の外側に設けられた前記フィラメント支持構造が固定される固定構造と、からなるフィラメント交換構造であって、
前記固定構造が、前記フィラメント交換器内を真空排気するための真空排気用バルブと、前記フィラメント交換器が前記フィラメント支持構造を囲うように取り付けられた際に前記真空排気用バルブ及び前記補助真空容器内を連通する排気流路とを備えているフィラメント交換構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン源や電子源等の真空室内で使用されるフィラメントの交換の際に用いられるフィラメント交換器及びフィラメント交換構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば液晶ディスプレイや半導体装置の製造において、液晶ガラス基板や半導体基板にイオン注入を行うために、イオン注入装置が用いられる。イオン注入装置には、プラズマを発生させイオンビームを引き出すためのイオン源が設けられている。
【0003】
前記イオン源は、基板にイオンビームが照射される真空に保たれた処理室と連通するプラズマ生成室に複数のフィラメントを突出させてあり、フィラメントから熱電子を放出させることでプラズマ生成室に導入されたガスを電離させてプラズマを発生させる。
【0004】
ところで、前記イオン源は運転時間の累積に伴って前記フィラメントが劣化、あるいは、破損することがあり、定期的に交換する必要がある。このフィラメントを交換する際に、前記処理室や前記プラズマ生成室といった真空室内を大気圧に戻してしまうと、前記真空室の容積が非常に大きいため真空度を元に戻してイオン注入装置を再稼働するまでには長い時間がかかり、装置の稼働率が低下してしまう。
【0005】
そこで、前記プラズマ生成室内を大気開放せずにフィラメントの交換を行うことができるように、特許文献1には
図9に示すようにプラズマ生成室Cに隣接して固定された小型の真空ボックス1Aが設けてあり、前記真空ボックス1Aから前記プラズマ生成室Cと連通するゲートバルブEを介して支持アーム62Aに支持されたフィラメント61Aを前記プラズマ生成室C内に配置するように構成されたイオン源300Aが示されている。
【0006】
このものは、まず真空ボックス1A内を真空排気し、前記ゲートバルブEを介してフィラメント61Aをプラズマ生成室Cから真空ボックス1A内へと移動させ、その後ゲートバルブEを閉止して真空ボックス1A内の蓋を開けて大気開放してフィラメント61Aを支持アーム62Aから取り外すようにしてある。従って、小型の真空ボックス1A内だけで真空排気と大気開放が行われるので、プラズマ生成室Cまで大気開放してフィラメント61Aを交換した場合に比べてイオン注入装置の再稼働までにかかる時間は短縮できる。
【0007】
しかしながら、
図9にも示されるように前記真空ボックス1Aは前記プラズマ生成室Cの外側に突出した状態で常にスペースを占有することになる。例えば、プラズマ生成室C内に多数のフィラメント61Aが一列に並んで配置されるマルチフィラメントタイプのイオン源300Aの場合、それぞれのフィラメントの配置ごとに前記真空ボックス1Aを配置する必要があり、さらに占有されるスペースが大きくなり、イオン源300A全体も非常に大きなものとなってしまう。
【0008】
一方、前記真空ボックス1Aを前記イオン生成室Cに隣接させて常時固定しておくのではなく、特許文献2の
図10に示すような前記イオン生成室Cの外表面に対して着脱可能なフィラメント交換器100Aを用いてフィラメント61Aの交換することも行われている。
【0009】
このフィラメント交換器100Aは、フランジ付電流導入端子62Aの外部露出部周辺を覆う開口を先端面に有した概略直方体形状の補助真空容器1Aと、前記補助真空容器1Aの内外を貫通し、前記フランジ付電流導入端子62Aに接続される操作ロッド2Aとを備えたものである。
【0010】
このフィラメント交換器100Aの使用方法について詳述すると、まず、前記補助真空容器1Aは、前記フランジ付電流導入端子62Aの取り付けられている固定構造5Aに当該フランジ付き電流導入端子62Aを囲うように固定され、前記操作ロッド2Aの先端も前記フランジ付電流導入端子6
2Aに固定される。そして、前記補助真空容器1A内を真空排気した後に、操作ロッド2Aを引き抜くことで前記フランジ付電流導入端子62A及びフィラメント61Aが補助真空容器1A内へと引き抜かれる。そして、前記補助真空容器1A内と前記イオン生成室C内とを仕切る図示しない真空弁を閉じた上で、図示しないベント弁を開放して前記補助真空容器1A内が大気開放される。さらに、前記補助真空容器1Aを前記固定構造5Aから取り外したあと、前記フランジ付電流端子62Aからフィラメント61Aを外す。
【0011】
新たなフィラメント61Aが前記フランジ付導入端子62Aの先端に取り付けられると再び前記補助真空容器1Aが前記固定構造5Aに取り付けられて、前述した手順を逆向きに繰り返し、その後、前記補助真空容器1Aが取り外される。
【0012】
このようなフィラメント交換器100Aであれば、フィラメント交換時にのみ前記イオン源300Aに取り付けられるので、常時スペースを占有することはない。
【0013】
しかしながら、上述した交換時の動作から分かるように1つのフィラメントを交換完了するためには、前記補助真空容器1Aを前記固定構造5Aに対する取り付け、取り外しを2回ずつ繰り返す必要がある。
【0014】
前記補助真空容器1Aは内部が真空排気された際に大気圧により圧壊しないようにするために金属体により形成されており、重量が大きいので、補助真空容器1Aの取り付け、取り外し作業が複数回繰り返されると交換作業者の負担も大きくなってしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2008−234895号公報
【特許文献2】特許3518320号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は上述したような問題を一挙に解決することを意図してなされたものであり、フィラメントの交換のために無駄なスペースを常時占有することがなく、イオン源や電子源等の構成をコンパクトにできるとともに、交換時における補助真空容器の着脱回数を減らして交換作業者の負担を大幅に減らすことができるフィラメント交換器及びフィラメント交換構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
すなわち、本発明のフィラメント交換器は、真空室の外部へ一部が露出するフィラメント支持構造に支持されて当該真空室内に配置されているフィラメントを前記真空室外へと取り出して交換する際に用いられるフィラメント交換器であって、前記真空室外において前記フィラメント支持構造を覆うように着脱可能に取り付けられる取り付け口が形成された補助真空容器と、前記補助真空容器を貫通してその先端部が補助真空容器内において前記フィラメント支持構造に取り付けられ、前記補助真空容器内が真空排気された状態において取り付け口を通過させて前記真空室内から当該補助真空容器内へと前記フィラメント支持構造及びフィラメントを引き抜くための操作ロッドとを備え、前記補助真空容器が、前記取り付け口と、前記フィラメントの交換時に当該フィラメントを取り出すための取り出し口とが形成された容器本体と、前記フィラメント取り出し口を開閉可能な蓋体とを備えたことを特徴とする。
【0018】
このようなものであれば、前記補助真空容器は、前記真空室の外部に着脱可能に取り付けられるので、フィラメントの交換時以外は取り外しておくことができ、フィラメント交換用のスペースとして常時余分なスペースを占有することがない。
【0019】
また、前記補助真空容器は、前記容器本体と前記蓋体とから構成されており、前記蓋体により前記フィラメント取り出し口を開閉可能であるので、前記取り付け口を前記真空室の外側に取り付けた状態で、前記フィラメント取り出し口を前記蓋体で閉じておき前記補助真空容器内を密閉して真空排気することができる。従って、前記補助真空容器内を真空にした状態でフィラメントを前記真空室内から前記補助真空容器内へと引き抜くことができるので、前記真空室内の真空度を保つことができる。
【0020】
さらに、引き抜かれたフィラメントを前記補助真空室内から外部へと取り出し交換する際には、前記真空室と前記補助真空容器とを仕切る真空弁を閉じ、前記容器本体を前記真空室の外表面に取り付けたまま前記蓋体を前記フィラメント取り出し口から外して前記フィラメント取り出し口を介して古いフィラメントから新しいフィラメントへと前記フィラメント支持構造に付け替えることができる。
【0021】
その後、前記蓋体で前記フィラメント取り出し口を閉じて前記補助真空容器を密閉して内部を真空排気した後に前記真空弁を開放して前記補助真空容器内と前記真空室内を連通させて、前記操作ロッドにより前記フィラメント支持構造及びフィラメントを真空室内へ押し込むことにより、前記真空室内の真空度を損なうことなく新しいフィラメントを前記真空室内に戻すことができる。
【0022】
このように前記蓋体の開閉により前記容器本体を前記真空室の外側に取り付けた状態のまま古いフィラメントと新しいフィラメントの交換ができるので、1つのフィラメントの交換において前記補助真空容器の前記真空室の外側に対する取り付け、取り外しをそれぞれ1度だけ行えばよく、交換作業者の負担を大幅に減らすことができる。
【0023】
前記補助真空容器内において古いフィラメントから新しいフィラメントへと前記フィラメント支持構造に付け替える際に前記フィラメント取り出し口から内部へと手や工具等をいれやすくし、交換作業をしやすくするには、前記蓋体が、前記容器本体に対して着脱可能に取り付けられているものであればよい。このような構造であれば、前記フィラメント取り出し口を最も広く開けることができる。
【0024】
前記補助真空容器内の容積を必要最小限にし、フィラメント交換時に前記補助真空容器内を真空排気するのにかかる時間を短くできるようにするには、前記操作ロッドの先端部及び前記フィラメント支持構造の間を接続するブラケットをさらに備え、前記容器本体が、前記操作ロッドの軸方向に沿って延びており、その先端側に前記取り付け口を有するとともに、前記取り付け口とは反対側において前記軸方向の基端側に突出する凸部を有しており、前記凸部が、前記フィラメントが当該容器本体内に引き抜かれた状態において前記ブラケットを収容するとともに、前記軸方向から視た場合に当該凸部及び当該ブラケットが前記フィラメント支持構造よりも小さく形成してあればよい。
【0025】
前記フィラメント支持構造及び前記フィラメントを前記操作ロッドによって前記真空室内から引き抜く、あるいは、前記真空室内に戻す際に回転するなどして壁等にフィラメントが接触して破損してしまうことを防ぐには、前記
容器本体内に対して取り付けられた軸方向に延びるレール及び前記レール上をスライド移動可能に取り付けられたスライダからなるガイドをさらに備え、前記スライダと前記フィラメント支持構造が接続されていればよい。このようなものであれば、常に前記フィラメント支持構造及び前記フィラメントを前記レールに沿って移動させて回転等を生じさせることがなく、より安全にフィラメントを交換できる。
【0026】
フィラメントの交換時に前記フィラメント交換器を真空室まで持ち運びやすくするには、前記容器本体の外表面に持ち運び用の取っ手が設けられたものであればよい。
【0027】
フィラメント交換時に前記フィラメント支持構造を前記真空室から取り外せるようにする下準備中等に前記フィラメント交換器を倒れないように安全に載置できるようにするには、載置された際に前記取っ手とともに三点支持をなす2つの脚部が前記容器本体の外表面に設けられたものであればよい。
【0028】
前記フィラメント交換器に真空排気用の配管等を取り付けなくてもよくし、前記真空室の外側へ前記フィラメント交換器を取り付ける際等に配管等が邪魔にならないようにして作業しやすくするには、フィラメント交換器と、前記真空室の外側に設けられた前記フィラメント支持構造が固定される固定構造と、からなるフィラメント交換構造であって、前記固定構造が、前記フィラメント交換器内を真空排気するための真空排気用バルブと、前記フィラメント交換器が前記フィラメント支持構造を囲うように取り付けられた際に前記真空排気用バルブ及び前記補助真空容器内を連通する排気流路とを備えているフィラメント交換構造であればよい。
【発明の効果】
【0029】
このように本発明のフィラメント交換器及びフィラメント交換構造によれば、前記フィラメント交換器が前記真空室の外側に対して着脱可能であるのでフィラメントを交換する時にしか使用されない補助真空室のためのスペースを常時設けておく必要がない。したがって、真空室の周囲の空間を大きく占有することがない。また、前記蓋体が設けられているので前記容器本体は前記真空室の外側に取り付けた状態のまま前記フィラメント取り出し口を開けることでフィラメントの交換ができる。したがって、1度のフィラメントの交換において1度だけ前記フィラメント交換器を真空室の外側へ取り付け、取り外しすればよく、交換作業者の負担を減らすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】本発明の一実施形態に係るフィラメント交換器の使用例を示す模式図。
【
図2】同実施形態におけるフィラメント交換器を示す模式的斜視図。
【
図3】同実施形態におけるフィラメント交換器及び固定構造の分離状態を示す模式的斜視図。
【
図4】同実施形態におけるフィラメント交換器を固定構造に取り付けた状態を示す模式的斜視図。
【
図5】同実施形態におけるフィラメント交換器をフランジ付電流導入端子に取り付けた状態を示す模式図。
【
図6】同実施形態におけるフランジ付電流導入端子及びフィラメントの移動態様を示す模式的斜視図。
【
図7】同実施形態におけるフィラメントが真空室内から抜かれた時のフィラメント交換器の状態を示す模式的断面図。
【
図8】同実施形態におけるフィラメント交換器内からフィラメントが取りはずされた状態を示す模式的斜視図。
【
図10】従来の別のフィラメント交換器を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明の一実施形態に係るフィラメント交換器100及びフィラメント交換構造200について各図を参照しながら説明する。
【0032】
本実施形態のフィラメント交換器100は、例えば液晶ディスプレイや半導体装置の製造において、液晶ガラス基板や半導体基板にイオン注入を行うためのイオンビームを生成するイオン源300のフィラメント61の交換に用いられるものである。また、電子ビームを生成する電子源のフィラメント61の交換にも用いることができる。以下では、イオン源300の真空室Cであるプラズマ生成室中に配置されるフィラメント61の交換を例として説明する。
【0033】
例えば前記イオン源300は、
図1に示すように上下方向に複数のフィラメント61が配置されたマルチフィラメント型のものがある。より具体的には、前記イオン源300の真空室Cの外側には、前記フィラメント61を前記真空室C内に支持するためのフィラメント支持構造であるフランジ付電流導入端子62が露出してあり、上下方向に2列に並んで複数配置してある。また、各フランジ付電流導入端子62は、前記イオン源300に設けられた各固定構造5に固定してある。この固定構造5は、
図1、
図3、
図5(b)等に示すように真空室C内部と外部を仕切る閉塞状態と、内部と外部を連通させる開放状態とをとれる真空弁54と、前記フィラメント交換器100を取り付けるための交換器取付穴52と、前記フィラメント交換器100内を真空排気するために用いられる真空排気用バルブ51と、前記真空排気用バルブ51及び前記フィラメント交換器100内を連通する排気流路53を備えている。各真空排気用バルブ51は、排気管により互いに接続されており、弁の開閉を切り替えることにより前記真空排気用バルブ51のいずれか一つから取り付けられたフィラメント交換器100内の真空排気を行えるように構成してある。
【0034】
各フランジ付電流導入端子62の外部露出側は通常使用時には
図1において想像線で示すように前記フィラメント交換器100は取り付けられておらず、交換作業の必要なフィラメント61が固定されている前記固定構造5にだけ実線で示すように前記フィラメント交換器100が取り付けられて、フィラメント61の交換作業が行われる。そして、新しいフィラメント61が前記真空室C内に戻されて交換終了した後に前記フィラメント交換器100は前記固定構造5から取り外される。
【0035】
図2及び
図3に示すように前記フィラメント交換器100は、中空の概略長尺直方体形状のものであり、先端面の開口により前記固定構造5の中央部に露出しているフランジ付電流導入端子62の頭部を覆うことができる。そして、先端面の周囲4か所に設けられた取り付けねじS1を、前記フランジ付電流導入端子62の周囲4か所にある交換器取付穴52に対して取り付けられるものである。すなわち、前記フィラメント交換器100は前記固定構造5に対して着脱可能であるとともに、
図4に示すように前記フィラメント交換器100は前記フランジ付電流導入端子62の外側に前記真空室Cとは別の密閉された空間を形成することができる。
【0036】
前記フィラメント交換器100について主要な構成要素について説明すると、当該フィラメント交換器100は、前記フランジ付電流導入端子62の周囲に取り付けられた際に密閉空間を形成する概略直方体形状の補助真空容器1と、前記真空室C内にあるフィラメント61を前記
補助真空容器1内へ引き抜くための引き抜き機構2と、前記補助真空容器1内の圧力を調節するための圧力調節機構3とを備えたものである。
【0038】
前記補助真空容器1は、
図2に示すように概略直方体形状で先端面と側面にそれぞれ開口を有する金属製の箱体である容器本体11と、前記容器本体11の側面の開口を開閉するための透明樹脂製の蓋体12とから構成してある。
【0039】
前記容器本体11は、先端面に前記フランジ付電流導入端子62の周囲を囲い前記固定構造5に対して接触させて取り付けられる取り付け口11aと、側面に形成された前記取り付け口11aよりも大きいフィラメント取り出し口11bとが形成してあり、さらに基端面側に凸部11cが形成してある。
【0040】
前記取り付け口11aは、長手方向から見た場合において前記フランジ付電流導入端子62と略同じ大きさに開口させてある。
【0041】
前記フィラメント取り出し口11bは、概略長方形状の開口に形成してあり、短辺が人の手が入る程度の大きさに形成してあり、開口周囲を囲むように密閉用のシール構造SLであるOリングが設けてある。前記フィラメント取り出し口11bが形成してある側面に隣接する上下側面には、前記フィラメント交換器100を持ち運ぶ際の取っ手41がそれぞれ設けてある。また、上下側面が載置された場合に、前記取っ手41と三点支持をなし安定するように2つの脚部42がそれぞれ設けてある。さらに、上下側面のそれぞれ4か所には、前記蓋体12により前記Oリングを押しつぶしつつ当該フィラメント取り出し口11bを閉塞するための取り付け金具43も設けてある。
【0042】
前記蓋体12は概略長方形状の平板であって、前記取り付け金具43と係合する取付け部が側面に4か所設けてあり、また中央部に取り外し用取っ手12aが設けてある。
図2等から明らかなようにこの蓋体12は前記容器本体11から完全に分離することができ、フィラメント61の交換作業時において前記フィラメント取り出し口11bから交換作業者が手を内部へ入れる際に邪魔にならようにすることができる。
【0043】
前記引き抜き機構2は、前記凸部11cを貫通して前記補助真空容器1内の長手方向に延びる操作ロッド21と、前記操作ロッド21の先端部と前記フランジ付電流導入端子62の頭部とを連結するブラケット23と、前記ブラケット23を前記操作ロッド21の軸方向にのみ移動するように案内するガイド22と、から構成してある。
【0044】
前記操作ロッド21は、前記補助真空容器1の外部にあり、交換作業者が把持し当該操作ロッド21を進退させるためのT字状の把持部21bと、前記把持部21bと前記ブラケット23との間を接続するロッド21a部とから構成してある。前記ロッド21a部と、前記凸部11cとの間の摺動部にもシール構造が形成してあり、摺動部を介して前記補助真空容器1内外の空気が出入りするのを防ぐようにしてある。
【0045】
前記ガイド22は、前記容器本体11の内側面において前記操作ロッド21の軸方向に延びるレール22aと、前記レール22a上をスライド移動可能に取り付けられたスライダ22bとからなる。前記スライダ22bは前記ブラケット23の側面と接続してあり、前記ブラケット23及び前記フランジ付電流導入端子62が回転を生じずに直動のみで移動させられるようにしてある。したがって、前記補助真空容器1の容積を前記フランジ付電流導入端子62の大きさに合わせたものにしても、移動の際に壁面に接触することがなく、フィラメント61を安全に移動させることができる。
【0046】
前記ブラケット23は、前記操作ロッド21が最大まで引き抜かれた際に前記凸部11cの内部に収容されるように構成してある。言い換えると、前記凸部11cが、前記フィラメント61が当該容器本体11内に引き抜かれた状態において前記ブラケット23を収容するとともに、前記軸方向から視た場合に当該凸部11c及び当該ブラケット23が前記フランジ付電流導入端子62よりも小さく形成してある。
【0047】
前記圧力調節機構3は、前記補助真空容器1の基端面において前記凸部11cが形成されておらず平面となっている部分に各構成部材を配置してある。すなわち、前記補助真空容器1内の圧力をチェックするための圧力計32と、前記補助真空容器1内を真空排気された状態から大気圧に開放するためのベント弁31とが基端面に設けてある。
【0048】
このように構成されたフィラメント交換器100を用いたフィラメント61の交換作業時の工程について説明する。
【0049】
まず、交換作業者は前記固定構造5に取り付けられている前記フランジ付電流導入端子62のねじ止めを予め外しておく。このとき、真空室C内は大気圧に比べて非常に圧力が低いので、前記フランジ付電流導入端子62は大気圧により前記真空室C内部側へと押しつけられるため勝手に外れることはない。
【0050】
その後、
図3及び
図4に示すように前記イオン源300の前記固定構造5に対して、前記取り付け口11aにより前記フランジ付電流導入端子62の頭部を囲うように前記フィラメント交換器100を取り付ける。
【0051】
次に
図5(a)に示すように、前記容器本体11から前記蓋体12を取り外すし、前記ブラケット23と前記フランジ付電流導入端子62の頭部とをねじ止めして固定し、その後再び前記蓋体12を容器本体11に対して取り付けて前記補助真空容器1内を密閉する。そして、凸部11c側に設けられている前記ベント弁31を閉じた状態にしたうえで、
図5(b)に示すように前記固定構造5が具備する前記真空排気用バルブ51により前記固定構造5内に排気流路53を介して前記補助真空容器1内の真空排気が行われる。この真空排気は、前記凸部11c側に設けられている圧力計32が所定の真空度を指し示すまで継続される。
【0052】
前記補助真空容器1内が前記真空室C内と略同じ真空度まで減圧されると、
図6に示すように交換作業者は前記操作ロッド21を前記凸部11c側へと引き抜いていくことにより、前記フランジ付電流導入端子62及びフィラメント61を前記取り付け口11aを通過させて前記補助真空容器1内へと移動させていく。この際、前記ブラケット23は前記ガイド22のスライダ22bに連結されているので、直動しか生じず、
図6(a)に示すように前記フランジ付電流導入端子62及び前記フィラメント61は平行移動のみを行いながら前記補助真空容器1内を先端側から基端側へと移動していく。前記蓋体12が透明樹脂製であるので、前記フィラメント取り出し口11bを介して前記フランジ付電流導入端子62及びフィラメント61の移動状態について交換作業者は常に確認することができ、前記補助真空容器1内でフィラメント61が壁に接触し、破損してしまう等といった事態を未然に防ぐことができる。
【0053】
そして、
図6(b)及び
図7の断面図に示すように前記ブラケット23が前記凸部11c内に収容されるまで移動が完了すると、前記フィラメント61の全体が前記補助真空容器1内に収容された状態となる。
図7に示すように前記フランジ付電流導入端子62が通過しない領域である前記凸部11cは前記ブラケット23のみが収容されるのに必要十分な容積にしてあるので、前記補助真空容器1内の容積を小さくすることができ、真空排気にかかる時間を短縮できる。
【0054】
その後、前記固定構造5に設けられた真空弁54を閉塞することにより、前記真空室C内と前記補助真空容器1内とを完全に仕切る。そして、前記ベント弁31を開放して前記補助真空容器1内の圧力を大気圧にしたうえで、
図8に示すように前記蓋体12を前記容器本体11から取り外し、前記フィラメント取り出し口11bを開口させる。
図8から明らかなように前記容器本体11は前記取り付け口11aを前記固定構造5に取り付けたまま前記蓋体12は取り外される。そして、交換作業者は、前記フィラメント取り出し口11bから前記補助真空容器1内に手を入れて、前記フランジ付電流導入端子62の先端に取り付けられている前記フィラメント61を取り外し、前記フィラメント61を前記補助真空容器1内から取り出す。その後、交換作業者は、新しいフィラメント61を前記フィラメント取り出し口11bから前記補助真空容器1内へと入れて、前記フランジ付電流導入端子62の先端に取り付ける。このように前記フィラメント交換器100の大部分の構成部材を前記固定構造5に取り付けたまま、前記蓋体12を取り外すことで前記フィラメント61の交換を容易に行うことができる。
【0055】
その後は上述してきたフィラメント61の取り外し時における作業工程を逆向きに行っていくことで、新しいフィラメント61を前記真空室C内に配置するとともに、最後に前記フィラメント交換器100を前記固定構造5から取り外すことができる。
【0056】
このように本発明のフィラメント交換器100及びフィラメント交換構造200によれば、前記フィラメント取り出し口11bを開閉するための前記蓋体12があるので、1つのフィラメント61の交換時において前記フィラメント交換器100の取り付け取り外しはそれぞれ1回ずつだけ行えばよい。
【0057】
従って、従来であれば1つのフィラメント61交換のためにフィラメント交換器100を固定構造5に対して取り付け・取り外しするのをそれぞれ2回ずつ行う必要があったのに比べて大幅に取り付け取り外し作業の手間を減らすことができる。つまり、フィラメント交換作業者が、重量物である前記フィラメント交換器100を持ち上げたり、下ろしたりする回数を従来よりも少なくすることができ、交換作業者の負担を減らすことができる。
【0058】
さらに、前記固定構造5に対して前記フィラメント交換器100が着脱可能であるので、通常使用時には前記フィラメント交換器100をイオン源300から取り外しておくことができ、前記イオン源300周辺のスペースを通常使用時により広くすることができる。このような効果は
図1に示すようなマルチフィラメント型のイオン源300において特に顕著となる。また、前記固定構造5にフィラメント61交換用の小型の真空室Cが常には設けられていないので、フィラメント交換作業時に他の固定構造5から突出しているものがなく、広くスペースを使用できるのでフィラメント交換作業がしやすい。
【0059】
また、前記フィラメント交換器100自体は内部を真空排気するための配管を接続されるのではなく、前記固定構造5の真空排気用バルブ51及び排気流路53からなる排気構造を利用して内部の真空排気を行えるようにフィラメント構造200は構成してある。したがって、フィラメント交換器100自体に真空排気用の配管を直接接続する等の作業が不要であり、フィラメント交換器100の取り付け、取り外し作業時にそのような配管が邪魔になることがなく、さらに作業の負担を軽減することができる。
【0061】
前記実施形態ではイオン源の真空室内に配置されているフィラメントの交換を一例として挙げたが、例えば電子ビームを生成するための電子源の真空室内に配置されているフィラメントの交換に本発明のフィラメント交換器を用いても構わない。
【0062】
前記フィラメント交換器は、補助真空容器内に前記フランジ付電流導入端子及びフィラメントの移動を規制するためにガイドを設けていたが、場合によってはガイドを設けずに前記操作ロッドだけで引き抜くように構成しても構わない。
【0063】
前記実施形態では、前記補助真空容器内の真空排気は前記固定構造に設けられた真空排気用弁を用いていたが、前記フィラメント交換器自体に排気用バルブが直接接続されるようにしてもよい。
【0064】
前記蓋体は前記容器本体から完全に取り外して前記フィラメント取り出し口を全開にできるように構成していたが、例えば、前記蓋体が前記容器本体に対して蝶番等により連結されており、完全には取り外せないようにしてもよい。
【0065】
その他、本発明の趣旨に反しない限りにおいて、様々な変形や実施形態の組み合わせを行っても構わない。
【符号の説明】
【0066】
1 :補助真空容器
11 :容器本体
11a :取り付け口
11b :フィラメント取り出し口
11c :凸部
12 :蓋体
21 :操作ロッド
22 :ガイド
23 :ブラケット
42 :脚部
51 :真空排気用バルブ
53 :排気流路
61 :フィラメント
62 :フランジ付電流導入端子(フィラメント支持構造)
100 :フィラメント交換器
200 :フィラメント交換構造
C :真空室