(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記熱交換部が、前記基板保持部と保持されている基板との間の空間であり、基板冷却時にガスが貯留されるガス貯留部と、前記ガス貯留部へのガスの供給又は当該ガス貯留部からのガスの排出を行うためのガス経路と、前記ガス経路の少なくとも一部と接触し、冷媒が流通する冷媒流通部とから構成されている請求項1に記載のイオンビーム照射装置。
前記熱交換部が、前記基板保持部と保持されている基板との間の空間であり、基板冷却時にガスが貯留されるガス貯留部と、前記ガス貯留部へのガスの供給又は当該ガス貯留部からのガスの排出を行うためのガス経路と、前記ガス経路の少なくとも一部と接触し、冷媒が流通する冷媒流通部とから構成されている請求項2に記載のイオンビーム照射装置。
【背景技術】
【0002】
例えばイオン注入によりシリコン基板に急峻で極浅の接合を形成する場合、基板表面をアモルファス化する事が望ましい。そして、シリコン基板をアモルファス化するには、イオン注入時において基板温度を低温に保つ必要ある。
【0003】
基板冷却機構を備えたイオン注入装置100Aの一例としては特許文献1に示されるようなものがある。具体的にこのものは、基板Wが所定位置に固定された状態でイオンビーム自体を走査することによりイオン注入が行われるものであって、
図6に示すように真空室VRの側壁に固定されて真空室VR内に突出するよう設けられており、外部から供給される冷媒が内部を循環する冷却体9Aと、前記冷却体9Aに固定された放熱板9Bと、放熱板9Bに対して放熱面が固定され、吸熱面が基板Wをチャックする静電チャック9Dの裏面に固定されたペルチェ素子9Cとを備えたものである。そして、このペルチェ素子9Cにより放熱面と吸熱面との間に温度差を形成して、基板Wの熱を静電チャック9D、ペルチェ素子9C、放熱板9B、冷却体9A、の順番で移動させて基板Wをマイナス数十℃程度に冷却するよう構成されている。
【0004】
また、逆にイオンビームの照射位置が固定されており、基板搬送機構により基板を搬送することで基板表面に対してイオンビームが走査されるように構成されているイオン注入装置もある。このものは真空室を形成する壁体から真空室内の基板搬送機構において基板をチャックしている静電チャックまでの間に柔軟性を有した樹脂製配管を設け、その樹脂製配管により冷却用の冷媒を静電チャックに対して供給することで基板を冷却するように構成されている。このような柔軟性を有した樹脂製配管を用いているのは、基板搬送機構により基板が移動してもその位置に合わせて配管が変形又は移動するようにし、基板移動時に冷媒用の配管が破損するのを防ぐためである。
【0005】
ところで、特許文献2に示されるようにイオン注入時に基板表面をアモルファス化する場合には、例えば−40℃〜−100℃といった極低温まで基板を冷却する事が求められつつある。
【0006】
しかしながら、上述したような従来の基板冷却機構ではこのような極低温に基板を冷却する事は難しい。例えば特許文献1に記載のイオン注入装置は、ペルチェ素子単体でその放熱面と吸熱面との間に室温から極低温までの温度差を形成しようとして大電流を流すと、それに伴ってジュール熱の発生量も大きくなってしまい、基板の冷却効率が大きく低下してしまう。そして、ペルチェ素子に流す電流が大きくなりすぎるとこれ以上基板の温度を低下させられない点に到達するため、ペルチェ素子単体では特許文献1に記載されているように−20〜−30℃程度までにしか冷却できない。
【0007】
一方、ペルチェ素子を用いるのではなく、極低温まで冷却した冷媒を基板がチャックされている静電チャックまで供給することにより基板を極低温まで冷却する事も考えられる。
【0008】
しかしながら、このような極低温の冷媒を前記樹脂製配管に流すと、樹脂の耐寒限界温度を下回ることになり、樹脂製配管は脆化して柔軟性が失われてしまう。このため、極低温の冷媒を流通させながら基板搬送機構により基板を移動させると、前記樹脂製配管は破損してしまうことになる。かといって、極低温の冷媒でもその特性に変化がほとんど生じない金属製の配管を用いると、配管の柔軟性や自由度はほとんどないため、配管を破損させないようにするためには基板の位置を固定せざるを得ない。そして、基板の位置が固定されてしまうと、基板表面に対してイオンビームを照射できる領域が限定されるなどイオン注入時の自由度が損なわれてしまう。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上述したような問題を鑑みてなされたものであり、冷媒を用いた基板の冷却を行いつつも例えば−60℃〜−100℃等の極低温に基板を冷却することを可能にし、冷媒が流通する樹脂製配管の柔軟性を損なうことがなく、イオンビーム照射時に自由に基板を移動させることができるイオンビーム照射装置及び基板冷却方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち、本発明のイオンビーム照射装置は、基板搬送機構の基板保持部に保持されている基板を冷却するよう構成されたイオンビーム照射装置であって、基板と冷媒との間で熱交換が行われる熱交換部と、前記熱交換部に冷媒を流通させるための柔軟性を有した樹脂製配管とを具備する第1冷却機構と、熱移送によって前記基板を冷却する第2冷却機構と、少なくとも前記基板の目標基板冷却温度が前記樹脂製配管の耐寒限界温度以下の場合に、前記樹脂製配管に耐寒限界温度より高い温度の冷媒を流通させつつ、前記第2冷却機構により前記基板を冷却させる冷却機構制御部とを備えたことを特徴とする。
【0012】
また、本発明の基板冷却方法は、基板と冷媒との間で熱交換が行われる熱交換部と、前記熱交換部に冷媒を流通させるための柔軟性を有した樹脂製配管とを具備する第1冷却機構と、熱移送によって前記基板を冷却する第2冷却機構とを備え、基板搬送機構の基板保持部に保持されている基板を冷却するよう構成されたイオンビーム照射装置に用いられる基板冷却方法であって、少なくとも前記基板の目標基板冷却温度が前記樹脂製配管の耐寒限界温度以下の場合に、前記樹脂製配管に耐寒限界温度より高い温度の冷媒を流通させつつ、前記第2冷却機構により前記基板を冷却させることを特徴とする。
【0013】
このようなものであれば、基板の目標基板冷却温度が前記樹脂製配管の耐寒限界温度以下の場合には、前記第1冷却機構の前記熱交換部において
耐寒限界温度よりも高い温度の冷媒を流して前記基板を一次冷却するとともに、前記第1冷却機構により目標基板冷却温度まで冷却しきれない分については前記第2冷却機構の熱移送による二次冷却によって冷却するので、前記基板の温度を目標基板冷却温度まで低下させることができる。
【0014】
この際、前記樹脂製配管には耐寒限界温度よりも高い温度の冷媒しか流通していないので、当該樹脂製配管の柔軟性は損なわれることがなく、極低温に基板を冷却しながら前記基板搬送機構により基板の位置を変更しても、樹脂製配管が破損することはない。したがって、基板を冷却しながら前記基板搬送機構により基板を自由に動かすことができ、基板表面にイオンビームを様々な態様で照射する事が可能となる。
【0015】
さらに、前記第1冷却機構により前記基板を一次冷却して、基板の温度をある程度低下させているので、前記第2冷却機構は基板からそれほど大きな熱量を熱移送しなくても、目標基板冷却温度まで前記基板を冷却することができる。すなわち、第2冷却機構がそれほど大きな熱移送の仕事をしなくてもよく、過大な冷却能力を要求されていないので、例えば現状のペルチェ素子等を用いて目標基板冷却温度まで基板を冷却する事が可能となる。
【0016】
例えばイオン注入等において基板表面をアモルファス化し、極浅の接合が形成されるようにして高品質のイオン注入が行えるようにするには、目標基板冷却温度が−60℃以下であればよい。
【0017】
前記第2冷却機構により基板から移送される熱を外部へ効率よく排出して、基板を好適に冷却できるようにするための具体的な構成としては、前記第2冷却機構が、吸熱面が前記基板保持部と接触し、放熱面が前記熱交換部と接触するペルチェ素子であるものが挙げられる。
【0018】
前記熱交換部と前記基板保持部に保持されている基板との直接又は間接的な接触面積をより増加させ、冷媒と基板との間の熱交換が効率よく行われることにより第1冷却機構による基板の冷却能力をより大きくするには、前記熱交換部が、前記基板保持部と保持されている基板との間の空間であり、基板冷却時にガスが貯留されるガス貯留部と、前記ガス貯留部へのガスの供給又は当該ガス貯留部からのガスの排出を行うためのガス経路と、前記ガス経路の少なくとも一部と接触し、冷媒が流通する冷媒流通部とから構成されていればよい。このようなものであれば、前記基板保持部を介してだけでなく、前記ガス貯留部及びガス経路にあるガスを介して冷媒は基板との熱交換を行うことができるので、第1冷却機構だけでもより効率よく基板を冷却することができる。
【0019】
前記ペルチェ素子の熱移送により基板から奪われた熱を効率よく外部へと排出できるようにし、当該ペルチェ素子の冷却効率を高い状態に保てるようにするには、前記ペルチェ素子の放熱面が前記冷媒流通部と接触していればよい。
【0020】
例えばイオンビームが照射されて基板に熱が与えられることにより基板の温度が目標基板冷却温度から上昇したとしてもすぐに目標基板冷却温度までフィードバック制御され常時その温度で保たれるようにするには、前記基板保持部に保持されている基板と接触して、当該基板の温度を測定する接触式温度センサをさらに備え、前記冷却機構制御部が、前記第1冷却機構における冷媒の温度を目標冷媒温度で一定に保つように制御するとともに、前記接触式温度センサで測定される基板測定温度と目標基板冷却温度との偏差が小さくなるように前記第2冷却機構を制御するよう構成されていればよい。
【発明の効果】
【0021】
このように本発明のイオンビーム照射装置及び基板冷却方法によれば、極低温に基板を冷却する場合には、耐寒限界温度よりも高い温度の冷媒を前記樹脂製配管に流して前記第1冷却機構による基板の一次冷却を行い、残りの基板の冷却を第2冷却機構の熱移送により実現するように構成されているので、冷媒の流通する樹脂製配管が脆化するのを防ぎつつ、目標基板冷却温度まで基板を冷却する事が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の一実施形態について
図1乃至5を参照しながら説明する。
【0024】
本実施形態のイオンビーム照射装置は、例えばヒ素やリン、ボロン等をイオン種として含むイオンビームを半導体基板に対して照射し、そのイオン種を注入するイオン注入装置100である。そして、このイオン注入装置100は、イオン注入時において基板表面をアモルファス化し、極浅の接合が形成されるように基板Wを所定の極低温に冷却した状態で低温イオン注入ができるように構成してある。
【0025】
図1に示すように前記イオン注入装置100は、内部が真空に保たれた真空室VRが隔壁4によって上下に仕切ってある。そして、基板搬送機構3の上部構造3Uと下部構造3Bをそれぞれの部屋にまたがって配置しており、前記隔壁4に形成された連結スリット41を介して前記上部構造3Uと下部構造3Bを連結してある。
【0026】
より具体的には、前記イオン注入装置100は、基板Wを基板保持部31に保持し、その基板Wのイオンビームに対する位置や姿勢を適宜変更する前記基板搬送機構3と、前記基板搬送機構3の上部構造3Uが収容される前記真空室VRの上側の部屋であり、基板Wにイオンビームが照射されるイオン注入室1と、前記真空室VRの下側の部屋であり、前記基板搬送機構3の下部構造3B及び各種給電用コードや冷媒供給用の樹脂製配管5Bの一部が収容される直動機構収容室2と、前記基板保持部31に保持されている基板Wを冷却するための冷却システムFSとを備えている。
【0027】
各部について説明する。
前記基板搬送機構3は、上部構造3Uが主として保持されている基板Wの姿勢制御を行うものであり、下部構造3Bが保持されている基板Wをイオンビームに対して横切らせるための水平方向への移動を行うためのものである。すなわち、前記上部構造3Uは、垂直軸回りの回転を行うための垂直軸回り回転機構3Rと、基板Wを着脱可能に保持する前記基板保持部31とから構成してある。前記基板保持部31は、保持されている基板Wの表面に対して垂直な軸回りに回転可能に構成してある静電チャックである。この基板保持部31の近傍には、保持されている基板Wを冷却するために前記冷却システムFSの一部が構成してある。
【0028】
前記下部構造3Bはモータ32、ボールネジ33、ナット34、案内(図示しない)からなる直動機構であり、イオンビームの短辺方向を横切るように前記上部構造3Uを移動させるものである。
【0029】
前記上部構造3U及び前記下部構造3Bは、前記隔壁4に形成された連結スリット41を介して連結部材により連結されており、前記下部構造3Bの水平方向への直動運動により前記上部構造3U全体も移動することにより前記基板保持部31に保持されている基板Wも移動する。そして、前記連結部材は、上部構造3Uは下部構造3Bとは独立して回転運動を行えるように連結している。
【0030】
前記イオン注入室1は、概略中空直方体形状をなす部屋であり、その側面中央部にイオンビームが導入されるイオンビーム導入口11が形成してあり、上下方向に延びるリボン状のイオンビームが内部に導入されるようにしてある。このイオン注入室1には、隣接して設けられた基板待機室(図示しない)が設けられており、前記基板待機室から前記基板搬送機構3が基板Wを受け取り、イオンビーム照射位置へと基板Wを搬送し、基板表面に対してイオン注入が行われる。イオン注入が終わった基板Wはイオン注入室1に隣接して設けられた基板搬出室(図示しない)へと搬出される。
【0031】
前記直動機構収容室2は、前記基板搬送機構3の下部構造3Bの一部を収容するものであって、より具体的には前記モータ32は前記直動機構収容室2の外側、つまり、大気側に設けてあり、それ以外のボールネジ33、ナット34、案内に関しては前記直動機構収容室2の内部に収容してある。また、前記イオン注入室1よりも前記直動機構収容室2の方が真空度を高くするようにも構成してある。
【0032】
前記冷却システムFSは、保持されている基板Wと冷媒との熱交換により基板Wを冷却する第1冷却機構5と、基板Wからの熱移送により基板Wを冷却する第2冷却機構であるペルチェ素子6と、前記第1冷却機構5及び第2冷却機構の動作を制御する冷却機構制御部7と、から構成してある。以下の説明では
図1の斜視図及び
図2の基板保持部31の周辺拡大断面図を参照しながら説明する。
【0033】
前記第1冷却機構5は、いわゆる冷凍サイクルを営むものであり、真空室VRの外に配置されたチラー54(
図1においては図示しない)と、真空室VR内の前記基板保持部31に設けられており、基板Wと冷媒との熱交換が行われる熱交換部5Aとの間で冷媒が循環するように冷媒回路を構成してある。さらに、前記第1冷却機構5は、
図1に示すように前記チラー54と前記熱交換部5Aとの間をつなぐ配管のうち、少なくとも真空室VR内において前記熱交換部5Aまで伸びる配管については樹脂製配管5Bを用いている。この樹脂製配管5Bは、柔軟性を有したものであり、前記基板搬送機構3の移動により前記熱交換部5Aの位置が移動しても、その移動に合わせてある程度追従し、基板搬送機構3の移動を妨げないように構成してある。より具体的には、前記直動機構収容室2内を通る前記樹脂製配管5Bは、前記基板搬送機構3に対して外部から電力を供給するための電力ケーブル(図示しない)、制御用の信号線(図示しない)とともに蛇腹状のケーブルガイド35内に収容してあり、所定の範囲内で基板搬送機構3の動きに合わせて移動するようにしてある。そして、この樹脂製配管5Bは樹脂の特性上、耐寒限界温度以下の温度になると脆化が進み柔軟性が失われて、基板搬送機構3の移動に追従する際に破損する恐れがあるため、本実施形態では耐寒限界温度よりも高い温度の冷媒しか流れないように構成してある。なお、ここでいう耐寒限界温度とは例えばメーカによる使用推奨温度、あるいは、柔軟性が低下し基板搬送機構3の動きによって樹脂製配管5Bが破損する恐れがある温度のことをいい、本実施形態では耐寒限界温度を−60℃に設定している。
【0034】
前記熱交換部5Aは、機能的に説明すると
図2に示すように前記基板保持部31と保持されている基板Wとの間の空間であり、基板W冷却時にガスが貯留されるガス貯留部51と、前記ガス貯留部51へのガスの供給又は当該ガス貯留部51からのガスの排出を行うためのガス経路52と、前記ガス経路52の少なくとも一部と接触し、冷媒が流通する冷媒流通部53とから構成してある。各部材の配置について説明すると、基板W、前記ガス貯留部51、基板保持部31、第2冷却機構、冷媒流通部53の順番で配置してある。
【0035】
より具体的には、前記基板保持部31の先端面は概略薄円環状の突条311を有しており、その突条311の平面に基板Wの裏面を静電チャックするように構成してある。したがって、前記突条311の内周側は基板Wが保持されている状態において空間が形成されることになり、この空間を基板W冷却時にガスが貯留されるガス貯留部51としている。
【0036】
前記ガス経路52は、本実施形態では前記ガス貯留部51にガスを供給するガス供給管と、当該ガス貯留部51からガスを排出するためのガス排出管とからなるものであり、前記ガス供給管及び前記ガス排出管は、前記冷媒流通部53の内部を通り、ガスと冷媒との間で熱交換が生じるように構成してある。
【0037】
前記冷媒流通部53は、概略中空平円筒状に形成したものであり、前記チラー54により冷却された冷媒が前記樹脂製配管5Bを介して流入し、その内部において冷媒が一時的に滞留してガスとの間で熱交換が行われた後に、再び前記樹脂製配管5Bを介してチラー54へ冷媒が戻っていくようにしてある。
【0038】
このような第1冷却機構5の冷却作用について説明する。基板Wの冷却時において前記ガス貯留部51にガスが貯留されると、真空雰囲気中に配置されている基板Wに対してその裏面の微小な凹凸形状とも隙間なく接触する熱伝導体が配置されることになり、基板Wからの熱伝達効率を向上させることができる。したがって、前記ガス経路52を介して前記冷媒流通部53の冷媒は前記基板Wと直接熱交換を行うことができるので、仮に前記第2冷却機構がなかったとしても熱伝導が生じ、基板Wを冷却することができる。言い換えると、前記第1冷却機構5は単体でも基板Wとの熱交換が生じ得るように構成してある。なお、本実施形態では前記冷媒流通部53は、良好な熱伝導体である前記ペルチェ素子6を介して前記基板保持部3とも接触しているので、この熱経路を通じても熱交換によって前記基板Wを冷却できるようにしてある。
【0039】
次に第2冷却機構について説明する。
前記第2冷却機構は、第1冷却機構5と異なり熱交換による基板Wの冷却ではなく、基板Wから基板W外への熱移送により基板Wを冷却するように構成してある。ここで、熱移送による冷却とは、例えば冷媒を用いずに低温側の物体から高温側の物体へ熱を移送することにより低温側の物体のさらなる温度低下が可能な冷却方法を含む。なお、第1冷却機構5のような熱交換による冷却では、基板Wよりも冷媒が低温の場合のみ基板Wが冷却されるので、基板Wの温度は冷媒の温度よりも低い温度となることはない。
【0040】
より具体的には、前記第2冷却機構は、吸熱面61が前記基板保持部31と接触し、放熱面62が前記冷媒流通部53と接触するように設けられたペルチェ素子6であり、電子の流れにより基板Wから前記基板保持部31を介して熱を奪い、その奪った熱を前記冷媒流通部53へと放出するように構成してある。
【0041】
前記冷却機構制御部7は、CPU、メモリ、AC/DCコンバータ、入出力手段等を具備するいわゆるコンピュータにおいて、前記メモリに格納されているプログラムが実行されることによりその機能が実現されるものである。そして、この冷却機構制御部7は、少なくとも基板Wの目標基板冷却温度が前記樹脂製配管5Bの耐寒限界温度以下の場合に、前記樹脂製配管5Bに耐寒限界温度より高い温度の冷媒を流通させつつ、前記第2冷却機構により前記基板Wを冷却させるように構成してある。
【0042】
また、
図3に示すように前記基板保持部31に保持されている基板Wに対して裏面側から直接接触して、当該基板Wの温度を測定する接触式温度センサTSを設けてある。前記接触式温度センサTSは、
図2に示すように基板Wの複数個所の温度を測定できるように複数個所に設けてあり、基板保持部31側から、前記ガス貯留部51を通って基板Wの裏側に接触するようにしてある。前記冷却機構制御部7はこの接触式温度センサTSから得られる基板測定温度を用いて前記第1冷却機構5及び前記第2冷却機構を制御する。
【0043】
より具体的には、
図4の機能ブロック図に示すように本実施形態では前記冷却機構制御部7は、前記第1冷却機構5を制御する第1冷却機構制御部71と、前記第2冷却機構の冷却能力を制御する第2冷却機構制御部72とからなる。そして、前記第1冷却機構制御部71による冷媒の温度の制御では、前記接触式温度センサTSで測定される基板測定温度は、樹脂製配管5Bの耐寒限界温度よりも高い温度で目標冷媒温度を目標値として何℃に設定するのかを決定するために用いられる。一方、前記第2冷却機構制御部72では、前記接触式温度センサTSの基板測定温度が常時フィードバックされて、目標基板冷却温度と基板測定温度の偏差が小さくなるように前記ペルチェ素子6に印加する電圧についてフィードバック制御を行うように構成してある。
【0044】
各制御部について詳述する。前記第1冷却機構制御部71は、前記冷媒流通部53へ供給される冷媒の温度を目標冷媒温度となるように制御する冷媒温度制御部73と、前記ガス貯留部51へのガスの供給及び排出を制御するガス制御部74とを備える。
【0045】
前記冷媒温度制御部73は、目標基板冷却温度に応じてその動作が切り替わるように構成してあり、目標基板冷却温度が前記樹脂製配管5Bの耐寒限界温度以下の場合にはその耐寒限界温度よりも予め定めた温度分だけ高い温度に目標冷媒温度を設定し、目標基板冷却温度が前記樹脂製配管5Bの耐寒限界温度よりも高い場合には、目標冷媒温度を目標基板冷却温度と同じ温度に設定するよう構成してある。そして、前記冷媒温度制御部73は、例えば前記チラー54等からなる冷凍サイクル内に設けられた温度センサで測定される冷媒温度が設定した目標冷媒温度で保たれるように冷凍サイクルの各機器を制御する。
【0046】
前記ガス制御部74は、前記基板保持部31により基板Wが保持されると前記ガス貯留部51に対して予め定めた所定量のガスを前記ガス経路52により供給し、前記基板保持部31から基板Wが外される前、すなわち、静電チャックに印加される電圧を解除する前に前記ガス貯留部51からガスを排出させて前記真空室VR内と略同じ圧力となるようにして、静電チャックが解除された際に基板Wが圧力差によって真空室VR内へと飛び出さないように制御する。
【0047】
前記第2冷却機構制御部72は、前記ペルチェ素子6に印加される電圧を目標基板冷却温度と前記接触式温度センサTSにより測定される基板測定温度との偏差に基づいて制御するものである。ここで、前記冷媒温度制御部73は、目標冷媒温度で冷媒の温度を一定に保つように制御しているので、前記第2冷却機構制御部72は目標基板冷却温度と目標冷媒温度との差分に相当する熱量と、イオンビームが基板Wに照射されることにより発生する熱量を基板Wから前記冷媒流通部53へと熱移送するようにペルチェ素子6に印加する電圧を制御することとなる。
【0048】
このように構成されたイオン注入装置100による基板冷却時の動作について目標基板冷却温度が前記樹脂製配管5Bの耐寒限界温度よりも低い場合と高い場合についてそれぞれ
図5の温度変化グラフを参照しながら説明する。
【0049】
目標基板冷却温度が前記樹脂製配管5Bの耐寒限界温度である−60℃よりも低い−100℃に設定されている場合、前記冷媒温度制御部73は目標冷媒温度を耐寒限界温度よりも高い温度である例えば−55℃に設定し、冷媒の温度をこの温度で一定に保つように前記チラー54等を制御する。そして、目標基板冷却温度である−100℃と目標冷媒温度である−55℃の差分温度に相当する分の熱に関しては前記ペルチェ素子6によって基板Wから熱移送されるように前記第2冷却機構制御部72は前記ペルチェ素子6に対して電圧を印加する。例えば前記第2冷却機構制御部72は、吸熱面61と放熱面62との間に設定するべき温度差に比例又は相関した電圧をペルチェ素子6に印加する。
【0050】
図5(a)に示すようにイオンビームが基板Wに対して照射されていないイオンビーム非照射期間においては、第1冷却機構5と第2冷却機構の働きにより略−100℃で基板Wの温度は保たれるが、イオンビームが基板Wに対して照射されると、その分基板Wに対して熱量が与えられるため、
図5(a)のイオンビーム照射期間に示されるように前記接触式温度センサTSにより測定される基板測定温度は−100℃から上昇する。この場合、目標基板冷却温度と基板測定温度との間に生じる偏差の大きさが変動するので、前記第2冷却機構制御部72は、その偏差の変動に応じて前記ペルチェ素子6に印加する電圧を変更し、−100℃で保たれるようにフィードバックをかけることになる。
【0051】
すなわち、
図5(a)のイオンビーム非照射期間においては目標冷媒温度と目標基板冷却温度の設定温度差分について前記ペルチェ素子6は冷却を継続しているのに対して、イオンビーム照射期間において前記ペルチェ素子6は、前述した設定温度差分だけでなく、温度上昇による変動分も含めて冷却して目標基板冷却温度が基板Wで維持されるように動作する。また、イオンビーム照射期間では前記第1冷却機構5は目標冷媒温度を変更せず、イオンビーム非照射期間と同じ温度で一定に保つようにし、基板Wの近くに設けられており印加電圧が変更されると即時に冷却量を変更できるペルチェ素子6のみ測定基板温度によるフィードバックがかかるようにしているので、温度変化が生じたとしても時間遅れをほとんど発生させることなく、
基板Wの温度を−100℃で略一定に保つことができる。
【0052】
次に目標基板冷却温度が前記樹脂製配管5Bの耐寒限界温度よりも高い温度の場合の動作について
図5(b)を参照しながら説明する。ここでは具体例として目標基板冷却温度が−40℃、耐寒限界温度が−60℃の場合を考えている。
【0053】
この場合、前記冷媒温度制御部73は目標冷媒温度を目標基板冷却温度と同じ温度である−40℃に設定する。ここで、
図5(b)のイオンビーム非照射期間においては、外部から真空中にある基板Wに流入する熱はほとんど存在しないため、実質的に第1冷却機構5の動作のみで基板Wの温度が−40℃に保たれる。一方、イオンビーム照射期間においては、基板Wに対してイオンビームが照射されると基板温度が上昇するため、目標基板冷却温度と前記接触式温度センサTSにより測定される基板測定温度との間に偏差が生じる。したがって、
図5(b)のイオンビーム照射期間においては、前記ペルチェ素子6にその偏差に応じた電圧が印加されて冷却動作を実施することになる。すなわち、前記第1冷却機構5は基板測定温度にかかわらず、−40℃の冷媒による基板Wの冷却を継続しているのに対して、前記ペルチェ素子6は、イオンビーム非照射期間においてはほとんど冷却することはなく、イオンビーム照射期間において基板測定温度が−40℃から変動している場合にのみ動作することになる。
【0054】
このように基板Wの近傍に設けられている前記ペルチェ素子6が目標基板冷却温度から変動した温度分のみを対象として冷却するので、変動が生じた場合でも非常に応答性よく基板Wの温度を極低温で一定に保つことができる。より具体的には、イオンビームが基板Wに照射されることによる温度上昇分の冷却を第1冷却機構5でフィードバック制御しようとすると、真空室VRの外側にあり基板Wから遠く離れたチラー54の動作を変更して、その結果が表れるまで大きな時間遅れが発生する。このため、第1冷却機構5だけでは、温度上昇を即時にキャンセルするように基板Wの温度制御を行うことは難しい。これに対して、温度上昇分については真空室VR内において基板Wの近傍に設けられているペルチェ素子6により温度制御するので、時間遅れをほとんど生じさせることなく、すぐに目標基板冷却温度まで基板Wを冷却し、その温度で一定に保つことができる。
【0055】
以上のように詳述してきた本実施形態のイオン注入装置100によれば、基板Wの目標基板冷却温度が前記樹脂製配管5Bの耐寒限界温度以下の場合には、目標冷媒温度を耐寒限界温度よりも高い温度に設定して前記第1冷却機構5の前記熱交換部5Aにおいて
耐寒限界温度よりも高い温度の冷媒を流して前記基板Wを一次冷却するとともに、前記第1冷却機構5により目標基板冷却温度まで冷却しきれない分の基板Wの熱量については前記ペルチェ素子6の熱移送による二次冷却によって冷却するので、基板Wの温度を目標基板冷却温度まで低下させることができる。
【0056】
この際、前記樹脂製配管5Bには耐寒限界温度よりも高い温度の冷媒しか流通していないので、当該樹脂製配管5Bの柔軟性は損なわれることがなく、極低温に基板Wを冷却しながら前記基板搬送機構3により基板Wの位置を変更しても、樹脂製配管5Bが破損することはない。したがって、耐寒限界温度よりも低い温度に基板Wを冷却しながら前記基板搬送機構3により基板Wを自由に動かすことができ、基板表面にイオンビームを様々な態様で照射する事が可能となる。
【0057】
さらに、前記第1冷却機構5により前記基板Wを一次冷却して、基板Wの温度をある程度低下させているので、前記ペルチェ素子6は基板Wからそれほど大きな熱量を熱移送しなくても、目標基板冷却温度まで基板Wを冷却することができ、ペルチェ素子6に過大な能力が要求されることもない。
【0058】
また、前記接触式温度センサTSによりイオンビーム照射時にも基板Wの温度をリアルタイムでモニタリングし、目標基板冷却温度と基板測定温度との偏差によって前記ペルチェ素子6をフィードバック制御するように構成してあるので、イオンビーム照射中も目標基板冷却温度で略一定に保つことができる。
【0059】
したがって、従来よりも低温イオン注入における温度制御精度が向上することになるので、低温イオン注入された基板Wの特性についても従来以上のものとすることが可能となる。
【0061】
本発明のイオンビーム照射装置は、イオン注入装置100だけでなく、例えばイオンドーピング装置、イオンビームデポジション装置、イオンビームエッチング装置等様々な用途を含む概念である。また、基板Wとしてはシリコンウエハに限られるものではなく、ガラス基板や半導体基板等に対して温度管理をしながらイオンビームを照射する用途に用いることができる。また、ガラス基板等に対してイオンビームを照射する場合には、基板が基板搬送機構の基板保持部に保持されるように静電チャック以外のチャック方法によりチャックされるようにすればよい。
【0062】
前記実施形態では、前記第2冷却機構はペルチェ素子6を用いたが、その他の熱移送により基板Wを冷却するものであってもよい。例えば、ペルチェ素子6のように半導体で形成されたものではなく、異種金属を用いてペルチェ効果が発揮されるように構成したものであってもかまわない。
【0063】
前記冷却機構制御部7は、耐寒限界温度よりも目標基板冷却温度のほうが高い温度の場合には、目標基板冷却温度と目標冷媒温度を一致させていたが、目標冷媒温度を目標基板冷却温度よりも高い温度に設定してもかまわない。すなわち、前記第1冷却機構7単体の作用だけでも基板Wの温度制御が可能な場合でも、
図5(a)において示したように目標基板冷却温度から変動が生じていない状態で前記第2冷却機構による基板Wの冷却を行うとともに変動分にたいしても作用するように構成してもかまわない。
【0064】
前記ペルチェ素子6は、基板Wの冷却のためだけではなく、何らかの原因で前記第1冷却機構5により基板Wが冷却されすぎている場合に加熱するために用いてもかまわない。すなわち、前記第2冷却機構制御部72が、前記ペルチェ素子6に印加する電圧の大きさだけでなく、その向きまで合わせて制御可能に構成してあるものであってもよい。この場合でも目標基板冷却温度と基板測定温度との間に偏差が発生した場合には前記実施形態で示した制御則を用いて基板Wの温度を制御することができる。
【0065】
前記樹脂製配管5Bの耐寒限界温度よりも高い温度に目標基板冷却温度が設定されており、応答性がそれほど求められていない場合には、前記第2冷却機構を全く動作させず、前記第1冷却機構5において目標基板冷却温度と基板測定温度との偏差によるフィードバック制御を行ってもかまわない。
【0066】
前記実施形態では接触式温度センサTSにより基板Wの温度を常時モニタリングしていたが、非接触の温度センサにより基板Wの温度を測定して温度制御を行ってもかまわない。
【0067】
その他、本発明の趣旨に反しない限りにおいて様々な変形や実施形態の組み合わせを行ってもかまわない。