(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1耳音響放射処理手段による処理後の音声データについて、予め定められた頭部伝達関数に基づいて、ユーザの頭部までの音声の伝達遅延を調整する頭部伝達調整処理手段を更に備え、
前記音声出力手段は、前記頭部伝達調整処理手段による処理後の音声データを音声信号に変換して出力する
請求項1に記載の音響再生装置。
前記第1耳音響放射処理手段による処理後の音声データについて、予め定められた頭部伝達関数に基づいて、ユーザの頭部までの音声の伝達遅延を調整する頭部伝達調整処理手段としても機能し、
前記音声出力手段は、前記頭部伝達調整処理手段による処理後の音声データを音声信号に変換して出力する
請求項8に記載のプログラム。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示されたものでは、音像定位処理により音像の定位位置を調整しているにすぎず、臨場感を高めるために耳音響放射の原理を取り入れるとの技術的思想は開示も示唆もされていなかった。
【0007】
ここで、耳音響放射には、「誘発耳音響放射」、「自発耳音響放射」及び「歪成分耳音響放射」がある。誘発耳音響放射(TEOAE:Transiently Evoked otoacoustic Emission)とは、クリック音を用いた刺激に対し10ms前後の遅れをもって信号が検出される音響反応をいう。自発耳音響放射(SOAE;Spontaneous Otoacoustic Emission)とは、外部からの刺激音なしに、蝸牛より自発的に放射される信号が検出される音響反応をいう。そして、歪成分耳音響放射(DPOAE;Distortion Product Otoacoustic Emission)とは、2つの異なる周波数信号(f1,f2,f1<f2)を蝸牛に入力することでnf1±mf2(n,mは整数)の周波数の信号が検出される音響反応をいう。
【0008】
しかるに、このような耳音響放射のメカニズムを、例えばHMD等での音響再生において、より臨場感を高めるために活用する技術は、従来存在しなかった。
【0009】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、耳音響放射の原理を用いて臨場感を高めた立体音響を再生する音響再生装置、音響再生方法、及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明の第1の態様に係る音響再生装置は、
実対象までの距離を測定し距離データを得る距離センサと、入力された音声データに対して、誘発耳音響放射と歪成分耳音響放射の効果を付加する第1耳音響放射処理手段と、前記第1耳音響放射処理手段による処理後の音声データを音声信号に変換して出力する音声出力手段と
、を備え、
前記第1耳音響放射処理手段は、前記音声データの所定の周波数帯の音量を前記距離データに基づいて調整する周波数調整処理手段と、前記音声データの音圧を前記距離データに基づいて調整する音圧調整手段と、前記音声データの振幅を調整し音量の低下分を補償増幅する振幅調整処理手段と、前記音声データに10msの遅延効果を付加する遅延調整処理手段と、を有する。
【0011】
本発明の第2の態様に係る音響再生装置は、第1の態様において、前記第1耳音響放射処理手段による処理後の音声データについて、予め定められた頭部伝達関数に基づいて、ユーザの頭部までの音声の伝達遅延を調整する頭部伝達調整処理手段を更に備え、前記音声出力手段は、前記頭部伝達調整処理手段による処理後の音声データを音声信号に変換して出力する。
【0012】
本発明の第3の態様に係る音響再生装置は、第1の態様において、前記第1耳音響放射処理手段による処理後の音声データについて、自発耳音響放射の効果を更に付加する第2耳音響放射処理手段を更に備え、
前記第2耳音響放射処理手段は、自発耳音響放射の効果を音声データに付加する自発耳音響放射処理手段と、ユーザの潜在記憶を基に、サンプリング音を付加する潜在記憶音付加処理手段と、を有し、前記音声出力手段は、前記第2耳音響放射処理手段による処理後の音声データを音声信号に変換して出力する。
【0015】
本発明の第
4の態様に係る音響再生装置は、第
1乃至第3の態様において、前記第1耳音響放射処理手段は、心拍データに基づいて所定の周波数帯の音量を調整することで、心理的作用を高める。
【0017】
本発明の第5の態様に係る音響再生方法は、
実対象までの距離を測定し距離データを得る第1のステップと、音声データの入力を受ける第
2のステップと、入力された音声データに対して、誘発耳音響放射と歪成分耳音響放射の効果を付加する第1耳音響放射処理を行う第
3のステップと、前記第1耳音響放射処理がなされた音声データを音声信号に変換して出力する第
4のステップと、を有し、前記第
3のステップでは、前記音声データの所定の周波数帯の音量を前記距離データに基づいて調整し、前記音声データの音圧を前記距離データに基づいて調整し、前記音声データの振幅を調整し音量の低下分を補償増幅し、前記音声データに10msの遅延効果を付加する。
【0018】
本発明の第
6の態様に係る音響再生方法は、第
5の態様において、前記第
3のステップにおける第1耳音響放射処理後の音声データについて、予め定められた頭部伝達関数に基づいて、ユーザの頭部までの音声の伝達遅延を調整する頭部伝達調整処理を行う第
5のステップを更に備え、前記第
4のステップでは、前記第
5のステップにおける頭部伝達調整処理後の音声データを音声信号に変換して出力する。
【0019】
本発明の第7の態様に係る音響再生方法は、第6の態様において、前記第
3のステップにおける第1耳音響放射処理後の音声データについて、自発耳音響放射の効果を更に付加する第2耳音響放射処理を行う第
6のステップを更に備え、前記第
6のステップでは、自発耳音響放射の効果を音声データに付加し、ユーザの潜在記憶を基にサンプリング音を付加し、前記第
4のステップでは、前記第
6のステップにおける前記第2耳音響放射処理後の音声データを音声信号に変換して出力する。
【0021】
本発明の第8の態様に係るプログラムでは、コンピュータを、入力された音声データに対して、誘発耳音響放射と歪成分耳音響放射の効果を付加する第1耳音響放射処理手段、及び前記第1耳音響放射処理手段による処理がなされた音声データを音声信号に変換して出力する音声出力手段として機能させ、前記第1耳音響放射処理手段は、更に、前記音声データの所定の周波数帯の音量を、
実対象までの距離を測定して得られた距離データに基づいて調整する周波数調整処理手段と、前記音声データの音圧を前記距離データに基づいて調整する音圧調整手段と、前記音声データの振幅を調整し音量の低下分を補償増幅する振幅調整処理手段と、前記音声データに10msの遅延効果を付加する遅延調整処理手段と、して機能する。
本発明の第9の態様に係るプログラムでは、第8の態様において、前記第1耳音響放射処理手段による処理後の音声データについて、予め定められた頭部伝達関数に基づいて、ユーザの頭部までの音声の伝達遅延を調整する頭部伝達調整処理手段としても機能し、前記音声出力手段は、前記頭部伝達調整処理手段による処理後の音声データを音声信号に変換して出力する。
本発明の第10の態様に係るプログラムでは、第9の態様において、前記第1耳音響放射処理手段による処理後の音声データについて、自発耳音響放射の効果を更に付加する第2耳音響放射処理手段として機能し、前記第2耳音響放射処理手段は、更に自発耳音響放射の効果を音声データに付加する自発耳音響放射処理手段と、ユーザの潜在記憶を基に、サンプリング音を付加する潜在記憶音付加処理手段として機能し、前記音声出力手段は、前記第2耳音響放射処理手段による処理後の音声データを音声信号に変換して出力する。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、耳音響放射の原理を用いて臨場感を高めた立体音響を再生する音響再生装置、音響再生方法、及びプログラムを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施形態について説明する。本発明の実施形態に係る音響再生装置は、例えばヘッドマウンテッドディスプレイ(HMD;Head Mounted Display)やヘッドホン等に用いられ、立体音響を再生するものである。
【0026】
図1には本発明の第1実施形態に係る音響再生装置の構成を示し説明する。
【0027】
同図に示されるように、音響再生装置1は、コンピュータで構成されており、CPU(Central Processing Unit)等からなる制御部2を備えている。制御部2には、音源信号を出力する音源3が、A/D変換器4を介して、又は直接的に接続されている。音源信号がアナログ信号である場合にはA/D変換器4にてディジタル信号に変換された後に制御部2に入力され、ディジタル信号である場合には直接的に制御部2に入力される。
【0028】
音源3は、左右のステレオサウンドに係る音声信号を出力するものであり、コンピュータ内に設けられた記憶媒体(HDD、RAMなど)、または外部記憶媒体(光学ディスク、USBメモリなど)であってもよく、インターネット等の通信環境を介して取得される音源であってもよいことは勿論である。
【0029】
制御部2には、さらに加速度センサ5がA/D変換器6を介して接続され、ジャイロセンサ7がA/D変換器8を介して接続され、距離センサ9がA/D変換器10を介して接続され、地磁気センサ16がA/D変換器17を介して接続されている。制御部2には心拍センサ18も接続されている。制御部2には、キーボードやマウス等の入力デバイスからなる入力部11が接続されている。さらに、制御部2には、記憶部15が接続されている。記憶部15は、制御部2にて実行されるプログラム19を記憶しており、頭部伝達関数に関するデータベース(以下、DB)15aも論理的に構築されている。
【0030】
そして、制御部2は、記憶部15のプログラム19を読み出し実行することで、主制御部2a、ノイズ低減処理部(ノイズリダクション)2b、残響音無効化処理部(リバーブリダクション)2c、周波数平均化処理部(グラフィックイコライザ)2d、第1耳音響放射処理部2e、頭部伝達調整処理部2f、残響音調整処理部(リバーブ)2g、及び第2耳音響放射処理部2gとして機能する。
【0031】
制御部2の出力は、D/A変換器12を介して音声出力部14Lに接続され、D/A変換器13を介して音声出力部14Rに接続されている。
【0032】
このような構成において、加速度センサ5は、例えばHMDやヘッドホンに搭載されており、ユーザの頭部の360度の加速度を検出し、加速度信号をA/D変換器6にてディジタルの加速度データに変換した後、制御部2に入力する。制御部2では、主制御部2aが加速度データに基づいて頭部の移動方向と移動量を演算する。
【0033】
ジャイロセンサ7は、例えばHMDやヘッドホンに搭載されており、ユーザの頭部の縦軸方向、及び横軸方向まわりの回転角度を検出し、角速度信号をA/D変換器8にてディジタルの加速度データに変換した後、制御部2に入力する。制御部2では、主制御部2aが角速度データに基づいて頭部の回転角度を演算する。加速度センサ5とジャイロセンサ7は、ユーザの頭部の回転を検出するものとして、選択的に用いることができ、いずれか一方を実装していればよい。
【0034】
距離センサ9は、実対象までの距離を計測するものであり、センサ信号はA/D変換器10で距離データに変換された後、制御部2に入力される。距離データは、臨場感を高めるために後述する各種処理において用いられる。距離センサ9としては、赤外線センサ、超音波センサ、測距センサ、レーザー、又は音波センサなど、各種のものを用いることができる。距離センサ9を備えない場合には、入力部11よりデータ入力するようにしてもよいことは勿論である。ここで、実対象とは、音声等を発生する主体であり、例えばコンサート会場であれば、ステージ上のミュージシャンが実対象となる。
【0035】
地磁気センサ16は、方位データを出力するものであり、A/D変換器17を介して出力された方位データは制御部2に入力される。方位データは、ユーザの頭部の移動の方位を認識するために用いられる。地磁気センサ16を前述したジャイロセンサ7と併用することで、3軸での方位と角速度を求めることができる。
【0036】
心拍センサ18は、ユーザの心拍数に係る心拍データを出力するものであり、出力された心拍データは制御部2に入力される。
【0037】
入力部11は、各種設定データを入力するものである。設定データとしては、アンビエンスデータを入力することができる。アンビエンスデータとは、どのくらいの残響音を付加するかを決定するためのデータであり、空間の広さ等に応じてプリセットデータを選択的に入力するようにしてもよい。また、プリセットデータに対して、ユーザが微調整できるようにしてもよい。また、入力部11より、距離データを入力してもよい。前述した各センサ出力、及び入力部11の入力データに基づいて、左右のステレオサウンドを後述するように処理することで、立体音響が生成される。
【0038】
制御部2において各部は以下のように作用する。ノイズ低減処理部2bは、入力されたステレオサウンドに係る音声データに対してノイズ低減処理を行う。そして、残響音無効化処理部2cは、ステレオサウンドに係る音声データに残響音の要素がある場合には無効化する。周波数平均化処理部2dは、音声データの周波数特性を変更し、全体的な音質の平均化を行う。つまり、音声データにおいて、突出している部分は下げ、少ないものについては上げて、全体的にサウンドの周波数を平均化する。これは、周波数別の音圧の平均化を意味する。
【0039】
続いて、第1耳音響放射処理部2eは、誘発耳音響放射(TEOAE)と歪成分耳音響放射(DPOAE)の効果をステレオサウンドに係る音声データに付加する。
【0040】
第1耳音響放射処理部2eは、より具体的には、
図2に示されるように、周波数調整処理部(パラメトリックイコライザ)20、音圧調整処理部(コンプレッサー)21、振幅調整処理部(アンプ)22、及び遅延調整処理部(ディレイ)23からなる。
【0041】
第1耳音響放射処理部2eにおいて、周波数調整処理部20は、ステレオサウンドに係る音声データの所定の周波数帯(5.28Hzから20KHz)の音量を距離データに基づいて調整する。これは、誘発耳音響放射の効果を付加するもので、距離データに基づいて、距離が近づくにつれて音量が大きくなるような処理を施す。
【0042】
音圧調整部21は、距離データに基づいて、ステレオサウンドに係る音声データの音圧を調整する。例えば、音量が閾値を超える場合には、超過した音量を設定した圧縮比で抑え、設定時間内にリリースすることで、変化している音量の最大値を低下させる。これにより、最大音量と最小音量のダイナミックレンジが圧縮される。これは、誘発耳音響放射の効果を付加するもので、音圧調整部21は、距離データに基づいて、距離が遠いほど音圧を低く、距離が近いほど音圧を高くする。
【0043】
振幅調整処理部22は、距離データに基づいて、例えば、この例では、10dBから20dBの振幅を調整する。これは、音圧調整により、音量が全体的に低下するため、低下分を補償増幅することを意味する。これは、誘発耳音響放射、歪成分耳音響放射の双方の効果を付加することを意味する。尚、振幅調整処理部22は、任意的な構成である。
【0044】
遅延調整処理部23は、ステレオサウンドに係る音声データに10msの遅延効果を付加する。前述したように、誘発耳音響放射とは、入力された音声の刺激に対して10ms前後の遅れをもって信号が検出される音響反応をいうが、そのような効果を擬似的に実現することを意味する。
【0045】
図1に戻り、続いて、頭部伝達調整処理部2fは、頭部伝達関数に基づいて、頭部までのサウンドの伝達遅延を調整する。ここで、頭部伝達関数(HRTF;Head-Related Transfer Function)とは、耳殻、人頭及び肩まで含めた周辺物により生じる音の変化を伝達関数として表現したものをいう。この例では、右耳用(R)と左耳用(L)の組を記憶部15のDB15aにてテーブル形式で保持している。右耳用と左耳用を別にしているのは、頭の位置により音声到達時間が左右で異なるからである。頭部伝達調整処理部2fは、テーブルを参照して、耳介の深さに対応する頭部伝達関数に基づくフィルタリングにより音声データを畳み込み演算することで適応化を図る。
【0046】
残響音調整処理部2gは、音声データにプリセットで指定された空間に好適な残響音を付加する。これは、例えば空間における境界からの跳ね返りの音等を音声データに反映するものであり、空間の広さによって、付加する残響音の大きさは異なる。また、左右の音声データの時間差が小さいほど、大きな空間を想定した残響音を付加する。
【0047】
第2耳音響放射処理部2hは、自発耳音響放射(S0AE)の効果を音声データに付加する。音声データの1KHzから2KHzの周波数帯域にサンプリング音またはカラードノイズを付加する。どのようなサンプリング音、カラードノイズを付加するかは、プリセットの段階で選択できるようにしてよい。
【0048】
以上の処理で生成された立体音響に係る音声データは、右耳用はD/A変換器12を介してアナログ信号に変換された後、音声出力部14Rから出力され、左耳用はD/A変換器13を介してアナログ信号に変換された後、音声出力部14Lから出力される。こうして立体音響に係る音声が再生される。
【0049】
以下、
図3のフローチャートを参照して、第1実施形態に係る音響再生装置による音響再生の処理手順を説明する。この手順は、音響再生方法にも相当する。
【0050】
音源3からのステレオサウンドに係る音声信号がD/A変換器4にて音声データに変換され入力され、入力部11から各種設定情報が入力されると(S1)、ノイズ低減処理部2bは、入力されたステレオサウンドに係る音声データに対してノイズ低減処理を行う(S2)。そして、残響音無効化処理部2cは、ステレオサウンドに係る音声データに残響音の要素がある場合には無効化する(S3)。続いて、周波数平均化処理部2dは、音声データの周波数特性を変更し、全体的な音質の平均化を行う(S4)。
【0051】
続いて、第1耳音響放射処理部2eは、その処理の詳細は
図5で後述するが、誘発耳音響放射(TEOAE)と歪成分耳音響放射(DPOAE)の効果をステレオサウンドに係る音声データに付加する(S5)。
【0052】
続いて、頭部伝達調整処理部2fは、頭部伝達関数に基づいて、頭部までのサウンドの伝達遅延を調整する(S6)。より具体的には、テーブルを参照して、耳介の深さに対応する頭部伝達関数に基づくフィルタリングにより音声データを畳み込み演算することで適応化を図る。
【0053】
残響音調整処理部2gは、音声データにプリセットで指定された空間に好適な残響音を付加する(S7)。そして、第2耳音響放射処理部2hは、自発耳音響放射(S0AE)の効果を音声データに付加する(S8)。より具体的には、音声データの1KHzから2KHzの周波数帯域にサンプリング音またはカラードノイズを付加する。
【0054】
こうして音声データは、右耳用はD/A変換器12を介してアナログ信号に変換された後、音声出力部14Rから出力され、左耳用はD/A変換器13を介してアナログ信号に変換された後、音声出力部14Lから出力される(S9)。以上で、立体音響に係る音声の再生に係る一連の処理を終了する。
【0055】
ここで、
図4のフローチャートには、
図4のステップS4で実行される第1耳音響放射処理の詳細な処理手順を示し説明する。
【0056】
先ず、周波数調整処理部20は、ステレオサウンドに係る音声データの所定の周波数帯(5.28Hzから20KHz)の音量を距離データに基づいて調整する。これは、誘発耳音響放射の効果を付加するもので、距離データに基づいて、距離が近づくにつれて音量が大きくなるような処理を施す(S11)。
【0057】
続いて、音圧調整部21は、距離データに基づいて、ステレオサウンドに係る音声データの音圧を調整する(S12)。つまり、音圧調整部21は、距離データに基づいて、距離が遠いほど音圧を低く、距離が近いほど音圧を高くすることで、誘発耳音響放射の効果を擬似的に音声データに反映させる。
【0058】
次に、振幅調整処理部22は、距離データに基づいて、例えば、10dBから20dBの振幅を調整することで、音量の全体的な低下分を補償増幅する(S13)。つまり、誘発耳音響放射、歪成分耳音響放射の双方の効果を音声データに反映させる。
【0059】
そして、遅延調整処理部23は、ステレオサウンドに係る音声データに10msの遅延効果を付加する(S14)。これは、誘発耳音響放射のもつ、入力された音声の刺激に対して10ms前後の遅れをもって信号が検出されるという音響反応を音声データに反映させるものである。こうして、
図4のステップS6以降の処理にリターンする。
【0060】
ここで、
図5(a)は入力された音声データの特性図、
図5(b)は出力される音声データの特性図である。
図5(a)に示される入力された音声データに対して、OAEに関する物理的なパラメータを動的に変化させ、人間の空間認識における聴覚の構造を擬似的に再現し錯聴を誘発する
図5(b)に示されるような音声データを出力する。バイノーラル録音した音と比較してより臨場感のある立体音響を知覚させることが可能になる。
【0061】
以上説明したように、本発明の第1実施形態によれば、入力された音声データに対して耳音響放射の効果を擬似的に反映させることで、臨場感のある立体音響を再生することが可能となる。また、耳音響放射として、誘発耳音響放射(TEOAE)、自発耳音響放射(SOAE)及び歪成分耳音響放射(DPOAE)の効果を体感させることができるので、より臨場感が高まっている。また、耳音響放射の効果に加えて頭部伝達関するに基づく調整も行うので、より臨場感のある立体音響の再生が実現される。
【0063】
本発明の第2実施形態に係る音響再生装置は、第1耳音響放射処理部2eの構成が第1実施形態と異なる。詳細は後述するが、音響心理学に基づいた心拍データにより周波数調整処理を実施する。その他の構成は、第1実施形態と同様であるので、以下では、
図1及び
図2と同一構成については同一符号を付し、異なる部分を中心に説明する。
【0064】
図6には本発明の第2実施形態に係る音響再生装置の制御部2の第1耳音響放射処理部2eの詳細な構成を示し説明する。
【0065】
同図に示されるように、第1耳音響放射処理部2eは、第1周波数調整処理部(パラメトリックイコライザ)30、第2周波数調整処理部(パラメトリックイコライザ)31、音圧調整処理部(コンプレッサー)32、振幅調整処理部(アンプ)33、及び遅延調整処理部(ディレイ)34からなる。
【0066】
第1耳音響放射処理部2eにおいて、第1周波数調整処理部30は、ステレオサウンドに係る音声データの所定の周波数帯(500Hzから20KHz)の音量を距離データに基づいて調整する。これは、誘発耳音響放射の効果を付加するもので、距離データに基づいて、距離が近づくにつれて音量が大きくなるような処理を施す。
【0067】
第2周波数調整処理部31は、ステレオサウンドに係る音声データの所定の周波数帯(400Hzから10KHz)の音量を、音響心理学の考え方に基づいて、心拍データにより調整する。これは、音響心理学に基づいて、心拍データを基準値と比較して、心拍数に辺がある場合に、ユーザ心理的変化あると認識し、より助長するように上記所定の周波数の音量を上げるものである。音響心理学は音の物理的なパラメータを変化させることにより、音を人間が知覚することに対して様々な心理的影響を与える。
【0068】
音圧調整部32は、距離データに基づいて、ステレオサウンドに係る音声データの音圧を調整する。例えば、音量が閾値を超える場合には、超過した音量を設定した圧縮比で抑え、設定時間内にリリースすることで、変化している音量の最大値を低下させる。これにより、最大音量と最小音量のダイナミックレンジが圧縮される。これは、誘発耳音響放射の効果を付加するもので、音圧調整部21は、距離データに基づいて、距離が遠いほど音圧を低く、距離が近いほど音圧を高くする。
【0069】
振幅調整処理部33は、距離データに基づいて、例えば、この例では、10dBから20dBの振幅を調整する。これは、音圧調整により、音量が全体的に低下するため、低下分を補償増幅することを意味する。これは、誘発耳音響放射、歪成分耳音響放射の双方の効果を付加することを意味する。尚、振幅調整処理部33は、任意的な構成である。
【0070】
遅延調整処理部34は、ステレオサウンドに係る音声データに10msの遅延効果を付加する。前述したように、誘発耳音響放射とは、入力された音声の刺激に対して10ms前後の遅れをもって信号が検出される音響反応をいうが、そのような効果を擬似的に実現することを意味する。
【0071】
第2実施形態に係る音響再生装置による処理手順は
図3と略同様であり、
図3のステップS5の第1耳音響放射処理のみが異なるので、以下、
図7を参照して、第2実施形態による第1耳音響放射処理の処理手順のみを説明する。
【0072】
先ず、第1周波数調整処理部30は、ステレオサウンドに係る音声データの所定の周波数帯(5.28Hzから20KHz)の音量を距離データに基づいて調整する。これは、誘発耳音響放射の効果を付加するもので、距離データに基づいて、距離が近づくにつれて音量が大きくなるような処理を施す(S21)。
【0073】
続いて、第2周波数調整処理部31は、ステレオサウンドに係る音声データの所定の周波数帯(400Hzから10KHz)の音量を、音響心理学の考え方に基づいて、心拍データにより調整する(S22)。
【0074】
そして、音圧調整部32は、距離データに基づいて、ステレオサウンドに係る音声データの音圧を調整する(S23)。つまり、音圧調整部32は、距離データに基づいて、距離が遠いほど音圧を低く、距離が近いほど音圧を高くすることで、誘発耳音響放射の効果を擬似的に音声データに反映させる。
【0075】
次に、振幅調整処理部33は、距離データに基づいて、例えば、10dBから20dBの振幅を調整することで、音量の全体的な低下分を補償増幅する(S24)。つまり、誘発耳音響放射、歪成分耳音響放射の双方の効果を音声データに反映させる。
【0076】
そして、遅延調整処理部34は、ステレオサウンドに係る音声データに10msの遅延効果を付加する(S25)。これは、誘発耳音響放射のもつ、入力された音声の刺激に対して10ms前後の遅れをもって信号が検出されるという音響反応を音声データに反映させるものである。こうして、
図3のステップS6以降の処理にリターンする。
【0077】
以上説明したように、本発明の第2実施形態によれば、前述した第1実施形態の効果に加えて、音響心理学に基づく音響効果を付与することが可能となる。
【0079】
本発明の第3実施形態に係る音響再生装置は、第2耳音響放射処理部2hの構成が第1実施形態と異なる。詳細は後述するが、潜在記憶音を付加することでより臨場感を高めている。その他の構成は、第1実施形態と同様であるので、以下では、
図1、
図2と同一構成については同一符号を付し、異なる部分を中心に説明する。潜在記憶音は従来聴覚においてマスキングされる普遍的な環境音などを指し、これをサンプリング音として付加し変化させる。これにより音の知覚におけるプライミング効果を促進し心理的変化を助長させる。
【0080】
図8には本発明の第2実施形態に係る音響再生装置の制御部2の第2耳音響放射処理部2hの詳細な構成を示し説明する。
【0081】
同図に示されるように、第2耳音響放射処理部2hは、自発耳音響放射処理部40と潜在記憶音付加処理部41とで構成されている。
【0082】
このような構成において、第2耳音響放射処理部2hでは、自発耳音響放射処理部40が、自発耳音響放射(S0AE)の効果を音声データに付加する。音声データの1KHzから2KHzの周波数帯域にサンプリング音またはカラードノイズを付加する。どのようなサンプリング音、カラードノイズを付加するかは、プリセットの段階で選択できるようにしてよい。そして、潜在記憶音付加処理部41が、潜在記憶を基に、サンプリング音を付加する。これは、例えば、高原の野外ステージでは、風がなびく音を感じながらステージ上のミュージシャンの音楽を楽しむことになるが、そのような潜在的に感じている音声をサンプリング音として付加することでより臨場感を高めることができる。
【0083】
第3実施形態に係る音響再生装置による処理手順は
図3と略同様であり、
図3のステップS8の第2耳音響放射処理のみが異なるので、以下、
図9を参照して、第3実施形態による第2耳音響放射処理の処理手順のみを説明する。
【0084】
同処理では、先ず、自発耳音響放射処理部40が、自発耳音響放射(S0AE)の効果を音声データに付加する(S31)。そして、潜在記憶音付加処理部41が、潜在記憶を基に、サンプリング音を付加する(S32)。こうして、
図3のステップS9以降の処理にリターンすることになる。
【0085】
以上説明したように、本発明の第3実施形態によれば、第1実施形態の効果に加えて、潜在的記憶音を更に付加することで、より臨場感を高めることができる。
【0086】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることなくその趣旨を逸脱しない範囲で種々の改良・変更が可能であることは勿論である。例えば、第2実施形態及び第3実施形態を組み合わせた装置としても実現可能である。
【解決手段】音響再生装置1は、入力された音声データに対し、誘発耳音響放射と歪成分耳音響放射の効果を付加する第1耳音響放射処理部2e、処理後の音声データについて予め定められた頭部伝達関数に基づきユーザの頭部までの音声の伝達遅延を調整する頭部伝達調整処理部2fとを備える。これら処理後の音声データを音声信号に変換して臨場感のある立体音響として出力する。