【実施例】
【0011】
図5は、LDMOSFETのサージ電流と寄生トランジスタ動作及びゲートパルス幅との関係を示す図である。ここで、
図5(a)に示すのは、ゲートパルス信号VgがLDMOSFETに流れるサージ電流が流れる期間tsgより充分長い場合の波形を示し、通常の動作波形となる。また、
図5(b)に示すのは、ゲートパルス信号VgがLDMOSFETに流れるサージ電流が流れる期間tsgと同等以下の場合の波形を示し、ゲートパルス信号VgがLowになったにも関わらず、寄生トランジスタがオン動作となって数10マイクロ秒台のオン状態が持続する。
図5(a)、(b)から明らかなように、逆説的に、ゲートパルス信号Vgのパルス幅がサージ電流Isgのパルス幅tsgよりも充分長い条件であれば寄生トランジスタがオン動作しないことが分かる。
以下に説明する実施例では、一例としてサージ電流Isgのパルス幅tsgを100〜200nSと仮定し、寄生トランジスタの誤動作を回避できる時間を400nSとして設定する。
【0012】
図6は、LDMOSFETのASOと許容時間との関係を示す図である。ここで、スイッチング電源装置の負荷短絡時において、ブランキング回路によりターンオン時のブランキング期間tasは過電流保護回路が動作しないためドレイン電流が増加し、ドレイン電流の増加に伴いドレイン電圧も上昇しASO損失が増加する。ブランキング期間tasのLDMOSFETのASO損失によりチャンネル温度を超えなければ破壊に至らないが、ブランキング期間が
図6の点線で示すtasx期間の場合にはチャンネル温度を超えて破損に至ることが分かる。
【0013】
以上のことから、LDMOSFETのサージ電流と寄生トランジスタ動作及びゲートパルス幅との関係、及びLDMOSFETのASO損失の限界の条件の論理積をとることで、LDMOSFETの保護回路を構成することができる。
【0014】
図1は、本発明の実施例1に係るLDMOSFETのサージ電流保護回路を備えたスイッチング電源装置1の構成図である。
図1を用いて、本実施例に係るLDMOSFETのサージ電流保護回路の構成について説明する。
図1で示したスイッチング電源装置の構成図において、従来の構成図と異なるのは、LDMOSFETQ1のサージ電流保護回路10が追加されている点である。
サージ電流保護回路10は、センスMOSのソースと電流検出抵抗Rsとの接続点から制御部CONT間に接続され、制御部CONTのゲートパルス信号はサージ電流保護回路10を介してゲート駆動部BFに出力されている。
ここで、サージ電流保護回路10は、サージ電流保護部とASO保護部からなり、LDMOSFETQ1に流れるドレイン電流を検出し、検出したドレイン電流が所定の基準値以上かを比較し、かつ流れている期間からサージ電流保護かASO保護かを行う。
図2は、
図1に係るLDMOSFETのサージ電流保護回路10の一例を示した詳細な回路図である。
サージ電流保護回路は、コンパレータCP1、CP2、基準電圧Vr1、Vr2、論理積回路AND1〜4、論理和回路OR1、OR2、S−Rフリップフロップ回路FF1、FF2、タイマーTM1、遅延回路DL1、DL2、ワンショット回路SH1からなる。
また内訳は、サージ電流保護部がコンパレータCP2、基準電圧Vr2、論理積回路AND1〜4、S−Rフリップフロップ回路FF2、タイマーTM1、遅延回路DL2、ワンショット回路SH1で構成され、ASO保護部がコンパレータCP1、基準電圧Vr1、論理和回路OR2、S−Rフリップフロップ回路FF1、遅延回路DL1で構成されている。ここで、基準電圧Vr1、Vr2はVr1<Vr2に設定されているものとして、以下に説明を行う。ただし、LDMOSFETの特性により、基準電圧Vr1、Vr2の設定電圧は同一であっても良く、基準電圧Vr1はASO破損とならない電流未満に設定する値であり、基準電圧Vr2は、サージ電流により寄生トランジスタが誤動作開始する電流設定値とする。
【0015】
図3は、
図2に係るLDMOSFETのサージ電流保護回路動作を示すシーケンス図である。
次に、LDMOSFETのサージ電流保護回路動作の詳細について、
図1及び
図2を参照しながら説明する。
図3(1)は定常動作時の各部波形を示したものである。
時刻t10〜t12にかけてオンパルス信号ON_PULSが入力されると、LDMOSFETQ1のゲート電圧Vgが印加され、オン状態になる。ここでLDMOSFETQ1のドレイン電流Id、すなわち抵抗Rs電圧VRsは、基準電圧Vr1、Vr2に達していないため、コンパレータCP1,CP2の出力はLのままとなっている。従って、定常動作時においては、サージ電流保護もASO保護も動作せず、オンパルス信号ON_PULSと同一のゲート電圧Vgが印加されている。
なお、タイマー回路TM1は、オンパルス信号ON_PULSが入力されるとタイマーのカウント動作を開始し、200nS後にワンパルス(200nS)出力を行い自己リセットする。
【0016】
図3(2)は、負荷短絡時の場合におけるサージ電流保護動作時の各部波形を示したものである。
図3(2)に示すオンパルス信号ON_PULSの(a)〜(c)のパルス幅は、(a)tg1=500nS、(b)tg2=200nS、(c)tg3=100nSである。
まず、(a)tg1=500nSのオンパルス信号ON_PULSが入力されると、S−Rフリップフロップ回路FF1がセットされ、論理和回路OR1にHレベルが入力されてLDMOSFETQ1のゲート電圧Vgが印加されオン状態になる。ここでLDMOSFETQ1のドレイン電流Id、すなわち抵抗Rs電圧VRsは負荷短絡により過電流が流れ、基準電圧Vr1、Vr2に達し、コンパレータCP1,CP2の出力はHレベルを出力する。コンパレータCP2がHレベルになるとS−Rフリップフロップ回路FF2はセット状態になり、Q出力はHレベルを出力する。論理積回路AND4は、S−Rフリップフロップ回路FF2のQ出力がHレベルになった時点で、タイマー回路TM1の出力が接続されている反転入力端子がLレベルにあるため、Hレベルを論理和回路OR1へ出力する。
また、tg1=500nSのオンパルス信号ON_PULSが入力されると同時にタイマー回路TM1がカウント開始し、時間設定された200nS後にHレベルを論理積回路AND1、AND2、AND4へ出力する。タイマー回路TM1のHレベル出力により論理積回路AND1を介して論理積回路AND3がワンショット回路ST1へHレベル出力して、ワンショットパルス200nSを論理和回路OR1へ出力させて、少なくともLDMOSFET Q1を400nSオン状態にさせる動作をおこなう。ただし、(a)のtg1=500nSのオンパルス信号ON_PULSであれば、前述のゲート信号は400nSであるため、保護回路の効果としては現れない。なお、400nS以上のオン状態であれば、サージ電流が流れても寄生トランジスタによる誤動作は十分回避できる値である。
次に、(b)tg2=200nSのオンパルス信号ON_PULSが入力されると、同時にタイマー回路TM1がカウント開始し、時間設定された200nS後にHレベルを論理積回路AND1、AND2、AND4へ出力する。タイマー回路TM1のHレベル出力により論理積回路AND1を介して論理積回路AND3がワンショット回路ST1へHレベル出力して、ワンショットパルス200nSを論理和回路OR1へ出力させる。
これにより論理和回路OR1からLDMOSFETのゲート電圧Vgへバッファ回路BFを介して少なくとも400nSのパルス信号が出力される。従って、200nS幅のサージ電流により寄生トランジスタが動作しても、少なくとも400nSのゲート信号Vgが出力されることで、寄生トランジスタのベース・エミッタ間の容量c1が放電されてLDMOSFETのドレイン電流が継続して流れる現象を防止することが可能になる。
また、(c)tg3=100nSのオンパルス信号ON_PULSが入力されると、同時にタイマー回路TM1がカウント開始し、時間設定された200nS後にHレベルを論理積回路AND1、AND2、AND4へ出力する。ここで、論理積回路AND4の反転入力端子には、タイマー回路出力からLレベル、非反転端子にはS−Rフリップフロップ回路FF2のQ出力からHレベル信号が入力されHレベル出力を論理和回路OR1へ出力し、タイマー回路TM1出力がHレベルになるまでHレベル出力を維持する。これにより、オンパルス信号ON_PULS信号がtg3=100nSと短くても、タイマー回路TM1のHレベル出力がなされるまでゲート信号を途切れることなく出力することができる。また、前述同様に、タイマー回路TM1のHレベル出力により論理積回路AND1を介して論理積回路AND3がワンショット回路ST1へHレベル出力して、ワンショットパルス200nSを論理和回路OR1へ出力させることで、合計400nSのゲート信号Vgを出力することができる。
すなわち、オンパルス信号ON_PULS信号がtg3=100nSと短く、サージ電流により寄生トランジスタが動作しても、400nSのゲート信号Vgが出力されるので寄生トランジスタのベース・エミッタ間の容量c1が放電され、LDMOSFETのドレイン電流が継続して流れる現象を防止することが可能になる。
なお、(a)〜(c)のオンパルス信号ON_PULS信号が入力された後のコンパレータCP1出力はHレベルになった後、抵抗Rs電圧VRsが基準電位Vr1電圧未満になるとLレベルに変化し、ASO保護回路動作は行われない。
【0017】
図3(3)は、負荷短絡時の場合におけるASO保護動作時の各部波形を示したものである。
ここで、
図3(3)の負荷短絡状態の前提として、
図1の制御回路IC1のブランキング回路を備えた過電流保護回路が動作しており、ブランキング時間は250nSと仮定する。
まず、時刻t30においてtg4=250nSのオンパルス信号ON_PULSが入力されると、S−Rフリップフロップ回路FF1がセットされ、論理和回路OR1にHレベルが入力されてLDMOSFETのゲート電圧Vgが印加されオン状態になる。ここでLDMOSFETのドレイン電流Id、すなわち抵抗Rs電圧VRsは負荷短絡により過電流が流れ、基準電圧Vr1、Vr2に達し、コンパレータCP1,CP2の出力はHレベルを出力する。コンパレータCP2がHレベルになるとS−Rフリップフロップ回路FF2はセット状態になり、Q出力はHレベルを出力する。論理積回路AND4は、S−Rフリップフロップ回路FF2のQ出力がHレベルになった時点で、タイマー回路TM1の出力が接続されている反転入力端子がLレベルにあるため、Hレベルを論理和回路OR1へ出力し、タイマー回路TM1の出力がHレベルに変化するまで出力状態を保持する。
ここで、コンパレータCP1出力はHレベルを時刻t31まで保持するので、ディレイ回路DL1のディレイ時間200nSに達すると論理和回路OR2の非反転入力端子へHレベルが入力され、S−Rフリップフロップ回路FF1をリセットする。これにより論理和回路OR1の出力はLレベルとなり、時刻t31でゲート信号VgはLレベルとなり、ドレイン電流IdをオフすることでLDMOSFETのASO損失の増加を抑制することが可能になる。
なお、時刻t31において、タイマー回路TM1の出力がHレベルとなるが、論理積回路AND1の反転入力端子はコンパレータCP1出力のHレベルが入力されているので、論理積回路AND3はHレベル出力せずワンショット回路ST1から200nSのワンショットパルスは発生しない。即ち、サージ電流保護部は動作しない。
【0018】
以上のように、定常動作時には、サージ電流保護部、ASO保護部ともに動作せず、負荷短絡時にサージ電流が流れる場合においては、サージ電流保護部が動作し、かつASO保護部は動作せず、負荷短絡時に過電流が流れる場合においては、ASO保護部が動作し、かつサージ電流保護部は動作しないので、安定した保護機能を得られることになる。
【0019】
以上、本発明の実施例の一例について説明したが、本発明は係る特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形、変更が可能である。
例えば、スイッチング電源装置はフライバック方式を用いて説明したが、フォワード方式等でも、共振型方式でも、モーター駆動装置などへの変更が可能である。