特許第6094917号(P6094917)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6094917反射防止膜を最適設計する方法及び太陽光発電装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6094917
(24)【登録日】2017年2月24日
(45)【発行日】2017年3月15日
(54)【発明の名称】反射防止膜を最適設計する方法及び太陽光発電装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 31/0216 20140101AFI20170306BHJP
   G02B 1/113 20150101ALI20170306BHJP
【FI】
   H01L31/04 240
   G02B1/113
【請求項の数】4
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2016-123952(P2016-123952)
(22)【出願日】2016年6月7日
【審査請求日】2016年7月12日
【権利譲渡・実施許諾】特許権者において、実施許諾の用意がある。
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】515130463
【氏名又は名称】勝又 紘一
(72)【発明者】
【氏名】勝又 紘一
【審査官】 森江 健蔵
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−168363(JP,A)
【文献】 特開2007−067176(JP,A)
【文献】 特開2000−261022(JP,A)
【文献】 特開2009−054902(JP,A)
【文献】 特開2010−165856(JP,A)
【文献】 特開2014−167621(JP,A)
【文献】 特開2014−052261(JP,A)
【文献】 特開2014−209585(JP,A)
【文献】 特開2000−101124(JP,A)
【文献】 特開昭53−080188(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0301437(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0096006(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 31/0216
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
太陽光発電装置における光電変換層の受光面側に設けられた反射防止膜を最適設計する方法であって、
前記太陽光発電装置の設置場所における一定期間において、日の出から日の入りまでの太陽の方位角及び高度角の時系列データに基づいて、前記反射防止膜への太陽光の入射角を算出することと、
該入射角に基づいて、太陽光の反射量の前記一定期間についての積算値の最小を与える前記反射防止膜の設計条件を決定することと、
を含み、
前記反射防止膜の設計条件は、前記反射防止膜の膜厚及び屈折率であり、膜厚を縦軸に、屈折率を横軸にとったグラフ上に、前記積算値の最小を与えるように決めた数値をプロットし、該膜厚と該屈折率の関係を最小自乗法で決定した直線で近似し、該直線をもとに、前記反射防止膜の膜厚及び屈折率を設定することを特徴とする、最適設計方法。
【請求項2】
前記反射防止膜の屈折率を与えられたものとして固定値とし、
前記時系列データに基づいて算出された入射角をφとし、太陽光の波長をλとするとき、太陽光の反射量の前記一定期間についての積算値の最小を与える前記反射防止膜の膜厚dを、前提条件として与えられる2以上の波長λについて全て計算し、
該計算された膜厚dの値の平均値を最適膜厚とすることを特徴とする、請求項1に記載の最適設計方法。
【請求項3】
前記一定期間は、1年間であることを特徴とする、請求項1〜2のいずれか1項に記載の最適設計方法。
【請求項4】
前記一定期間は、春分の日又は秋分の日の1日間であることを特徴とする、請求項1〜2のいずれか1項に記載の最適設計方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽光発電装置における光電変換層の受光面側に設けられた反射防止膜を最適設計する方法及び該方法により最適設計された反射防止膜を備える太陽光発電装置に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽光発電装置の効率を決める要素はいくつか知られているが、その一つに、発電素子である半導体(以下「光電変換層」という)の表面からの反射による損失が挙げられる。例えば、シリコンの屈折率は可視光領域で約3.7〜5.0の値(例えば、非特許文献1参照)をとるが、屈折率が4では、反射率は約35%となり、かなりの損失である。この反射を無くす試みとして、光電変換層の受光面側にそれより屈折率の小さな膜(以下「反射防止膜」という)をつけ、反射防止膜の表面で反射された光の位相と、光電変換層の表面から反射され、反射防止膜を通って空気中に出てくる光の位相を制御することにより、両者を打ち消し、実効的に光電変換層の表面からの反射光を消す方法が確立されている。この時、反射防止膜の光学的厚さを可視光線の波長の1/4に選び、反射防止膜の屈折率を光電変換層の屈折率の平方根に等しくとったとき反射をゼロにすることが出来(例えば、非特許文献2及び3参照)、製品でそのような処理がなされている。上記の膜厚や屈折率の値は、太陽光が反射防止膜に垂直に入射する場合のものであり、光電変換層に入る太陽光の方向が時間と共に変化する場合、反射をゼロにする条件は太陽光の方向とともに変化する。
【0003】
単層の反射防止膜では、シリコン光電変換層の作動域である400〜1200ナノメートルの波長の全部について有効な反射防止効果が得られないという考察から、特許文献1において2層の反射防止膜、特許文献2においては3層の反射防止膜が提案されている。さらには、特許文献3及び4においては膜厚方向に沿って屈折率に傾斜を付けた反射防止膜、特許文献5においては構造をもつ屈折率調整膜が提案されている。
【0004】
反射防止膜の膜厚に関しては、特許文献6において、膜厚0.1μmの二酸化珪素の膜が実施されている。特許文献7においては、反射防止膜として、厚さ0.1〜1μmのSiO膜を用い、その膜厚はシリコン基板の屈折率と反射防止膜の屈折率とで最適値を選ぶ必要がある、とされているが、その方法は開示されていない。特許文献7の実施例では、反射防止膜として1000Å(=0.1μm)の酸化珪素膜を用いている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第4055442号明細書
【特許文献2】特公昭61−046070号公報
【特許文献3】特許第5532327号公報
【特許文献4】特許第5542025号公報
【特許文献5】特許第5216937号公報
【特許文献6】特開2001−168363号公報
【特許文献7】特許第4197193号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Handbook of Optical Constants of Solids(ed.E.D.Palik,Academic Press,1998).
【非特許文献2】長倉三郎他編「岩波 理化学辞典」第5版、岩波書店、1998年.
【非特許文献3】M.Born and E.Wolf:Principles of Optics(7▲th▼ ed.Cambridge University Press,2015).
【非特許文献4】砂川重信著「理論電磁気学」第3版、紀伊國屋書店、2010年.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1から5に記載の各発明においては、太陽光発電装置の製造工程が複雑になり、コストアップにつながる。また、特許文献6及び7に記載の膜厚の値は、光電変換層に入射する光の角度に依存するので、一定期間(一日、一年など)を通して最適化されたものとはいえず、固定式の太陽光発電装置において発電効率を高める際の障害となる。そこで、本発明では、太陽光発電装置における光電変換層の受光面側に設けられた反射防止膜を最適設計して、一定の期間内(1日、1年など)における表面反射量の積算値を最小化する方法及び最小化された太陽光発電装置を提案する。反射量の積算値を最小化することにより、発電量が最大化されると考えられる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の最適設計方法は、
太陽光発電装置における光電変換層の受光面側に設けられた反射防止膜を最適設計する方法であって、
前記太陽光発電装置の設置場所における太陽の方位角及び高度角の少なくとも一定期間内の時系列データに基づいて、前記太陽光発電装置の受光面への太陽光の入射角を算出することと、
該入射角に基づいて、太陽光の反射量の前記一定期間についての積算値の最小を与える前記反射防止膜の設計条件を決定することと、
を含み、
前記反射防止膜の設計条件は、前記反射防止膜の膜厚、又は、前記反射防止膜の膜厚及び屈折率であることを特徴とする。
【0009】
この特徴によれば、反射防止膜の設計条件より定められる光電変換層の受光面からの太陽光の反射量を一定期間について積算して反射量の積算値を算出し、その反射量の積算値の最小を与える反射防止膜の設計条件を決定する。太陽光発電装置の受光面への太陽光の入射角は、太陽光発電装置の設置場所における太陽の方位角及び高度角の少なくとも一定期間内の時系列データに基づいて算出されることで、一定期間における太陽光の入射角の変化を考慮して、太陽光の反射量を最小にする反射防止膜の設計条件を決定することが可能となる。
【0010】
本発明の最適設計方法は、さらに、
前記反射防止膜の屈折率を与えられたものとして固定値とし、
前記時系列データに基づいて算出された入射角をφとし、入射太陽光の波長をλとするとき、太陽光の反射量の前記一定期間についての積算値の最小を与える前記反射防止膜の膜厚dを、前提条件として与えられる2以上の波長λの各々について全て計算し、
該計算された膜厚dの値の平均値を最適膜厚とすることを特徴とする。
【0011】
この特徴によれば、反射防止膜の材質を定め、その材質の屈折率を求めて固定値とし、膜厚のみを最適設計することができる。波長については、例えば5程度の数の代表的な値を前提条件として定めておけばよい。
【0012】
本発明の最適設計方法は、さらに、
前記一定期間は、1年間であることを特徴とする。
【0013】
この特徴によれば、1年間を通じての反射光量を最適設計することができる。
【0014】
本発明の最適設計方法は、さらに、
前記一定期間は、春分の日又は秋分の日の1日間であることを特徴とする。
【0015】
この特徴によれば、1日分の計算のみで、1年間を通じての反射光量の最適設計に近い設計条件を得ることができる。
【0016】
本発明の太陽光発電装置は、
光電変換層と、
上述の最適設計方法により最適設計され、前記光電変換層の受光面側に設けられる反射防止膜と、
を備えることを特徴とする。
【0017】
この特徴によれば、本発明の最適設計方法により最適設計された反射防止膜を備えることで、一定期間において太陽光の反射量が最小となる太陽光発電装置を提供することができる。
【0018】
本発明の太陽光発電装置は、さらに、
前記反射防止膜は、ガラス状二酸化シリコンから成形され、膜厚123〜192ナノメートルを有することを特徴とする。
【0019】
この特徴によれば、最適設計された膜厚となる。特許文献6及び7において100ナノメートルの膜厚が示されているが、最適設計された値は、それよりも明らかに大きい。
【0020】
本発明の太陽光発電装置は、さらに、
前記反射防止膜の空気に対する相対屈折率をn12、膜厚をd(ナノメートル)とするとき、−2≦400−147.5×n12−d≦2であることを特徴とする。
【0021】
この特徴によれば、相対屈折率と膜厚とを合わせて最適設計される。
【発明の効果】
【0022】
従来の方式よりも効率の良い太陽光発電装置が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】反射防止膜における多重反射を示す概念図である。
図2】複数の界面における反射係数、透過係数の定義を示す図である。
図3】入射波、反射波、屈折波の電場成分の定義を示す図である。
図4】空気中での波長472.8ナノメートルの光がシリコン光電変換層に入射するときに、p成分、およびs成分の反射率をゼロにする反射防止膜の屈折率の入射角依存性を表すグラフである。
図5】最適化屈折率及び最適化膜厚を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
太陽光発電装置の表面に任意の角度で入射する太陽光の反射率を、入射角、反射防止膜の膜厚と屈折率、及び、光電変換層の屈折率の関数として一般的に求め、太陽光発電装置を設置する場所における太陽の方位角及び高度角の時系列データを例えば天文台から入手し、求めた式に入れて、一定の期間内における反射率の積算値を最小にするよう反射防止膜の膜厚や屈折率を最適化する方法及び最適化された膜厚や屈折率を有する反射防止膜を備える太陽光発電装置を提案する。まず、最適化の前提となる理論的背景を説明する。
【0025】
図1に示すように、太陽光発電装置においては、反射防止膜に入った太陽光の一部は光電変換層の表面で反射され、残りは光電変換層に入る。光電変換層表面で反射された光は反射防止膜を通り、その一部は空気との界面で反射され、残りは空気中に出て行く。このプロセスが無限に続くことになる。
【0026】
この多重反射による反射率を、一例として非特許文献3に記載の方法を拡張して計算する。空気、反射防止膜、光電変換層の屈折率を各々、n、n、n、とする。また、反射防止膜の物理的な厚さをdとする。直線偏光した単色平面波が入射するとし、入射波の電場の振幅をA(i)とする。
【0027】
反射波CとC、CとC…..の位相差δは
【数1】
で与えられる。ここで、λは真空中における光の波長を、χは空気から反射防止膜への屈折角を表す。
【0028】
図2に示すように、空気から反射防止膜へ入る波について、反射係数(反射波の振幅と入射波の振幅の比)をr、透過係数(透過波と入射波の振幅比)をtとする。また、反射防止膜から空気中に出て行く波の、界面での反射係数をr、透過係数をtとする。反射防止膜から光電変換層へ入る波の、界面における反射係数をr、透過係数をtとする。
【0029】
ただし、実際の太陽光発電装置においては、入射光の一部は光電変換層を通り抜けて下方の空気中に出たり、光電変換層の底に付けた反射板によって元に戻ったりするが、ここでは簡単のために、光電変換層に入った太陽光は全て吸収されるものとする。
【0030】
最初のp個の反射波C、C、....Cを重ね合わせると、反射波の電場ベクトルの振幅A(r)(p)は、
【数2】
となる。
【0031】
反射率は1より小さいので(r<1,r<1)、p→∞のとき、反射波の電場ベクトルの振幅A(r)は、
【数3】
となる。
【0032】
反射防止膜の表面で反射される光の強度I(r)は、
【数4】
で表される。右肩の星印は、括弧内の物理量の複素共役を表す。
【0033】
(3)、(4)より、
【数5】
となる。(6)で、I(i)=A(i)(A(i)は入射光強度である。反射率は、I(r)/I(i)で表される。
【0034】
以下では、先に定義した反射係数や透過係数(図2参照)を、電磁気学を使って、入射角、反射角、屈折角、及び屈折率の関数として計算する。電磁気現象はマクスウェル方程式により厳密な解析が可能であることが知られている(例えば、非特許文献3及び4)。
【0035】
図3に示すように、太陽光発電装置の受光面をxy面内にとり、太陽光は反射防止膜面に垂直なz軸から角度φ傾いた方向から入射するとする。z軸から角度χで屈折した光は反射防止膜を通り、光電変換層に入る。電磁波は横波なので、進行方向に垂直な電磁波成分だけがあり、紙面内の成分を添字pで、紙面に垂直な成分を添字sで表す。
【0036】
先ず、空気と反射防止膜との境界における光の反射と屈折について考える。z=0における境界条件「電場の接線成分は連続」より、電場のx成分について、
【数6】
ここで、k,kは、各々、空気中、および反射防止膜中の光の波数ベクトルである。
【0037】
(7)が任意のxについて成立するためには、
【数7】
(7)、(8)より、
【数8】
(8)を屈折率を使って書き直すと、
【数9】
z=0における境界条件「電場の接線成分は連続」より、電場のy成分について、
【数10】
【0038】
(8)、(11)より、
【数11】
【0039】
反射防止膜及び光電変換層の材料は非磁性体なので、反射防止膜、および光電変換層の透磁率は空気の透磁率と等しいとしてよい(μ=μ=μ=μ)。このとき、全領域で、磁束密度ベクトルBは磁場ベクトルHとB=μHなる関係にある。マクスウェル方程式から、磁束密度ベクトルが波数ベクトルkと電場ベクトルEを用いて、B=k×E/ωと表されること(非特許文献3及び4)を利用して、z=0における境界条件「磁場の接線成分は連続」より、磁場のx成分について、
【数12】
を得る。ここで、v,vは各々、空気中及び、反射防止膜中における光の速度、ωは電磁波の角振動数である。
【0040】
(8)、(13)より、
【数13】
【0041】
z=0における境界条件「磁場の接線成分は連続」より、磁場のy成分について、
【数14】
【0042】
(8)、(15)より、
【数15】
(16)より、
【数16】
(17)を(9)に代入して、
【数17】
【0043】
光の速度と屈折率の関係、v=v/n,v=v/n(vは真空中の光速度)を使って、(18)は
【数18】
(10)、(19)より、
【数19】
(20)より、
【数20】
【0044】
(21)を(17)に代入して、
【数21】
(12)、(14)より、
【数22】
【0045】
次に、反射防止膜と光電変換層の境界における光の反射と屈折について考える。反射防止膜を通過した光の一部は光電変換層表面で反射され、残りは光電変換層内部に角度ψで入射するとする。
【0046】
x=a,z=dにおける境界条件「電場の接線成分は連続」より、電場のx成分について、
【数23】
上式が任意のaについて成り立つためには、
【数24】
ここで、kは、光電変換層における光の波数ベクトルである。(26)は屈折率を使って以下のように表される、
【数25】
【0047】
(25)、(26)より、
【数26】
【0048】
x=a、z=dにおける境界条件「電場の接線成分は連続」より、電場のy成分について、
【数27】
(29)を導く際に、(26)を用いた。
【0049】
x=a、z=dにおける境界条件「磁場の接線成分は連続」より、磁場のx成分について、
【数28】
ここで、vは光電変換層中の光の速度を表す。
【0050】
x=a、z=dにおける境界条件「磁場の接線成分は連続」より、磁場のy成分について、
【数29】
(30)、(31)は、光速度と屈折率との関係、v=v/n,v=v/nを使って以下のように表される、
【数30】
【0051】
(28)にnを掛けたものから、(33)にcosψを掛けたものを引くと、
【数31】
(34)より、
【数32】
(33)、(35)より、
【数33】
【0052】
(29)にncosψを掛けたものに、(32)を加えると、
【数34】
(37)より、
【数35】
(32)、(37)より、
【数36】
【0053】
続いて、反射防止膜から空気中への光の反射と屈折について考える。x=2a、z=0における境界条件「電場の接線成分は連続」より、電場のx成分について、
【数37】
上式が任意のaについて成立するためには、
【数38】
(41)は、(8)と同じであり、光の屈折現象が可逆的であるという物理的に正しい結果を与える。
【0054】
(40)、(41)より、
【数39】
【0055】
x=2a、z=0における境界条件「電場の接線成分は連続」より電場のy成分について、
【数40】
(41)、(43)より、
【数41】
【0056】
x=2a、z=0における境界条件「磁場の接線成分は連続」より、磁場のx成分について、
【数42】
(41)、(45)より、
【数43】
【0057】
x=2a,z=0における境界条件「磁場の接線成分は連続」より、磁場のy成分について、
【数44】
(47)を導く際に(41)を用いた。屈折率を使って(46)、(47)を書き直すと、
【数45】
【0058】
(44)にncosφを掛け、(48)を引くと、
【数46】
(50)より、
【数47】
(44)、(51)より、
【数48】
【0059】
(42)にnを掛けたものに、(49)にcosφを掛けたものを加えると、
【数49】
(53)より、
【数50】
(49)、(54)より、
【数51】
【0060】
先に定義した反射係数r,r,r、透過係数t,tについて(図2参照)、各々の面内成分を上付きの添え字pで、垂直成分を添え字sで区別する。(21)、(23)より、
【数52】
(54)、(51)より、
【数53】
【0061】
反射防止膜と光電変換層との境界における反射の場合には、図3の電場成分U、U及びD、Dにそれぞれ位相項
【数54】
【0062】
が付け加わることに注意して、(35)、(38)より、
【数55】
【0063】
(22)、(24)より、
【数56】
(55)、(52)より、
【数57】
【0064】
(56)、(57)、(58)、(59)より、
【数58】
なので、
【数59】
【0065】
(6)、(66)より、
【数60】
(56)、(57)、(62)、(63)、(64)、(65)より、
【数61】
なので、(67)は、
【数62】
となる。
【0066】
反射率をゼロにするには、(68)の分子をゼロにすれば良い。即ち、
【数63】
干渉で入射光と反射光を打ち消すためには、位相差δ=πであればよい。この時、(69)は、
【数64】
となり、
【数65】
を得る。
【0067】
(56)、(60)、(70)より、p成分について、反射率ゼロの条件は、
【数66】
(57)、(61)、(70)より、s成分について、反射率ゼロの条件は、
【数67】
【0068】
(71)より、
【数68】
(73)より、
【数69】
(10)、(27)より、
【数70】
(74)、(75)、(76)より、sinψ≠0のとき、
【数71】
(77)より、
【数72】
【0069】
(72)より、
【数73】
(75)、(76)、(79)より、sinψ≠0のとき、
【数74】
(80)より、
【数75】
【0070】
sinψ=0のときは、以下のように計算する。
【数76】
なので、sinψ=0のとき、ψ=0である。ψが小さいときは、sinψ〜ψ、cosψ〜1とおける。ψが小さいときは、φ、χも小さいので、
【数77】
とおける。
【0071】
(75)、(76)より、φ,χが小さいとき、
【数78】
と与えられる。このとき、(74)の左辺は、ψ→0のとき、
【数79】
(74)の右辺は、
【数80】
(82)、(83)を等しいとおいて、n=nを得る。これは、(78)で、φ=χ=ψ=0としたときの結果と一致する。従って、(78)は、ψ=0の場合も含む。s成分についての(81)も同様である。
【0072】
δ=πのとき(1)より、
【数81】
(84)より、
【数82】
【0073】
これまでの議論を纏めると、以下のようになる。先ず、反射防止膜、及び、光電変換層の空気に対する相対屈折率を次のように定義しておく。
【数83】
【0074】
反射防止膜に任意の角度(入射角)φで入射した、空気中での波長λの光について、表面反射率をゼロにする反射防止膜の膜厚dは、(10)、(85)より、
【数84】
p成分の反射率をゼロにする反射防止膜の屈折率は、(78)より、
【数85】
ここで、
【数86】
s成分の反射率をゼロにする反射防止膜の屈折率は、(81)より、
【数87】
【0075】
光電変換層の材料が決まると(例えば、シリコン)λに対する屈折率n13が表(例えば、非特許文献1)から求まる。このn13を使って、(88)、(90)より、p,s各成分について反射率をゼロにするn12の値が求まる。図4には、λ=472.8nmの光に対する計算結果を示している。図4から分かるように、p、s各成分について、n12の角度依存性が異なっているので、両方を同時に満たすn12の値は、入射角が小さいときにしか求まらない。一般の入射角については、(68)で与えられる反射強度のp,s各成分の和を最小にするようにn12の値を決めることになる。
【0076】
反射防止膜として既存の材料を使う場合には、屈折率は与えられているので、最適化パラメータは、反射防止膜の膜厚だけとなる。
【0077】
以上、最適化の前提となる理論的背景について説明した。
【0078】
具体的な実施例を3つ以下に示すが、3つの実施例に共通する計算手順を先ず説明する。
【0079】
太陽光発電装置が水平に置かれた状態から出発し、任意の方向に傾けられた場合の計算を行う。南方向にξ軸を、東方向にη軸を、垂直方向にζ軸をとる。太陽光発電装置の受光面をζ軸の回りに反時計向きに角度α回転させ、(ξ,η,ζ)系から(ξ’,η’,ζ)系に移る。次に、η’軸の回りに反時計向きに角度β回転させ、(ξ’,η’,ζ)系から(ξ”,η’,ζ’)系に移ることで、実用的には十分一般的な受光面の配置を記述出来る。(ξ,η,ζ)系と(ξ”,η’,ζ’)系との関係は、
【数88】
で与えられる。
【0080】
(ξ,η,ζ)系での太陽の方位角をφ、高度角をαとすると、
【数89】
【0081】
(ξ”,η’,ζ’)系での入射角φは、
【数90】
で与えられる。
【0082】
(91)、(92)、(93)、(94)より、
【数91】
となる。
【0083】
太陽光パネルの設置方向としては、水平に置かれた場合(α=0°,β=0°)、水平面から南方向に30°起こして設置する場合(α=0°,β=30°)、水平面から南方向に60°起こして設置する場合(α=0°,β=60°)及び垂直に立てる場合(α=0°,β=90°)の4例について計算した。
【0084】
太陽光発電装置の設置場所が決まると、必要な年月日時刻の太陽の方位角や高度角が定まる。国立天文台天文情報センター暦計算室のホームページ(http://eco.mtk.nao.ac.jp/koyomi/)から東京での春分の日における1分ごとの太陽の高度角と方位角のデータを取得した。そのデータを(95)に代入して入射角φの各時刻における値を求めた。その結果を(1)、(56)、(57)、(60)、(61)に入れ、反射率(1分ごとの)を(68)より定まる比I(r)/I(i)のp、s両成分の和として求めた。なお、1年の平均的な状態である春分の日について最適化することで、1年全体に係る膨大な計算を行わずとも1年全体に対する近似的な最適化となる。
【0085】
反射率は、反射防止膜の屈折率及び膜厚、並びに、入射光の波長に依存して変動する。そこで、入射光の波長を固定値とし、1分ごとの反射率の積算値を最小とする屈折率及び膜厚の値を、数学的最適化手法により求めた。この計算には、Wolfram Research社(Wolfram Research,100 Trade Center Drive Champaign,IL 61820−7237 USA)の数式処理ソフトMathematica(登録商標)を用いた。
【0086】
固定値とした入射光の波長については、以下の2つを行った。(A)400〜800ナノメートルの範囲について、100ナノメートル刻み(5つの波長)で変動させる。すなわち、400ナノメートル、500ナノメートル、...、800ナノメートルについて最適値を求め、その平均値を総合的な最適値とする。(B)600〜1100ナノメートルの範囲について、100ナノメートル刻み(6つの波長)で変動させる。すなわち、600ナノメートル、700ナノメートル、...、1100ナノメートルについて最適値を求め、その平均値を総合的な最適値とする。
【実施例1】
【0087】
具体的な例として、先ず、反射防止膜の材料がガラス状二酸化シリコン(SiO)である太陽光発電装置について、反射防止膜の最適膜厚を求める。ガラス状二酸化シリコンの屈折率は表(例えば、非特許文献1)から読み取れるので、膜厚のみの最適化となる。
【0088】
結果は表1のようになった。
【表1】
【0089】
表1に示した最適化膜厚によって、反射率が従来品と比べてどの程度改善されたかを検討した。先に述べたように、従来品では、反射防止膜の光学的厚さは入射光の波長の1/4に設定されている。入射光の波長が400〜800ナノメートルの範囲については、中心波長600ナノメートルで膜厚(λ/4n12)を計算し、また、波長600〜1100ナノメートルの範囲については、中心波長850ナノメートルで、膜厚を計算し、それを用いて、(68)で与えられる反射率(I(r)/I(i))のp、s両成分の和の一日(少なくとも日照時間を含む)における積算値を計算した。同様の計算を表1の最適化膜厚について計算し、後者と前者の比(後者/前者)を改善率として求めた結果を、下記表2に示している。
【0090】
ここでは、光電変換層の材料として、結晶性シリコン(c−Si)とアモルファスシリコン(a−Si)を取り上げ、それらの屈折率を表(例えば、非特許文献1)から読み取り、計算に用いた。
【0091】
【表2】
【0092】
表2から分かるように、垂直置きの場合には、反射光量が約30%減少する。その他の角度についても、かなりの改善が見られる。
【実施例2】
【0093】
第2の具体例として、反射防止膜の材料が結晶性二酸化シリコンである太陽光発電装置について、反射防止膜の最適膜厚を求める。手順は実施例1と同様である。
【0094】
結果は表3、表4のようになった。
【表3】
【0095】
【表4】
【0096】
実施例1と同様に、垂直置きの場合には、反射光量が30%近く減少する。その他の角度についても、かなりの改善が見られる。
【実施例3】
【0097】
第3の具体例として、光電変換層の材料がシリコンである太陽光発電装置について,反射防止膜の材質を限定せずに(すなわち、屈折率と膜厚の両方が可変であるとして)、反射率を最小とする屈折率及び膜厚を求めた。
【0098】
結果は表5のとおりである。
【表5】
【0099】
表5より、最適化屈折率と最適化膜厚との間には負の相関を有する関係があることがわかる。図5にデータを示す。
【0100】
8つのデータにおける屈折率n12と膜厚dとの関係は、回帰直線d=400−147.5×n12により近似される。シリコンの相違等により、2nm程度の誤差があるので、屈折率n12と膜厚dとをこの誤差範囲において調整することで、シリコンの屈折率に合わせた最適化が可能となる。
【0101】
以上、実施例1〜3において、東京の春分の日を例にとって述べたが、本方法は太陽の方位角と高度角のデータが得られる又は求められる地点であれば、国内外、時間範囲を問わず、適応可能なものである。なお、太陽の方位角と高度角のデータは、天文台から入手するに限らず、例えば天文学に基づくモデルに従って作成するなど、任意に作成してもよい。また、反射防止膜の材料が何であれ、その屈折率の波長依存性のデータが得られれば、膜厚の最適値が求まる。更には、最適な屈折率をもつ反射防止膜を開発するための指針を与える。
【0102】
すなわち、東京以外の地点でも同様の計算が行えることは明白である。また、春分の日の1日について最適化した膜厚は1年を通じた期間について最適化したものに近いが、1年を通じて最適化してもよい(この場合には計算量が増大する)。また、春分の日に替えて秋分の日としても同様である。
【0103】
最近、太陽光発電装置による反射光の被害が問題となっている。本発明の方法を使えば、住民被害を軽減するように太陽光発電装置の設置方法を決める事が可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0104】
メガソーラーと呼ばれる大規模太陽光発電施設においては、太陽光を追従する装置がつけられ、常に最適な条件で発電が行われる例が多い。しかしながら、家庭用などの小規模太陽光発電装置は固定式であり、太陽光発電装置に入射する太陽光の方向が季節や時刻により変動する効果を取り入れる事が出来ない。本発明はこの欠点を補い、社会全体のエネルギー効率の向上に寄与すると期待できる。
【要約】
【課題】太陽光発電装置の発電効率を高める。
【解決手段】本発明では、太陽光発電装置の表面に任意の角度で入射する太陽光の反射率を、入射角、反射防止膜の膜厚と屈折率、及び、光電変換層の屈折率の関数として一般的に求め、太陽光発電装置を設置する場所における太陽の方位角及び高度角の時系列データを例えば天文台から入手し、求めた式に入れて、一定の期間内における反射率の積算値を最小にするよう反射防止膜の膜厚や屈折率を最適化する方法及び最適化された膜厚や屈折率を有する反射防止膜を備える太陽光発電装置を提案する。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5