特許第6094922号(P6094922)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6094922
(24)【登録日】2017年2月24日
(45)【発行日】2017年3月15日
(54)【発明の名称】複合分離膜
(51)【国際特許分類】
   B01D 69/10 20060101AFI20170306BHJP
   B01D 69/12 20060101ALI20170306BHJP
   B01D 71/38 20060101ALI20170306BHJP
   B01D 71/52 20060101ALI20170306BHJP
   B01D 71/68 20060101ALI20170306BHJP
   B01D 71/82 20060101ALI20170306BHJP
【FI】
   B01D69/10
   B01D69/12
   B01D71/38
   B01D71/52
   B01D71/68
   B01D71/82
【請求項の数】7
【全頁数】31
(21)【出願番号】特願2016-570053(P2016-570053)
(86)(22)【出願日】2016年9月1日
(86)【国際出願番号】JP2016075698
【審査請求日】2016年11月28日
(31)【優先権主張番号】特願2015-201732(P2015-201732)
(32)【優先日】2015年10月13日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103816
【弁理士】
【氏名又は名称】風早 信昭
(74)【代理人】
【識別番号】100120927
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 典子
(72)【発明者】
【氏名】大亀 敬史
【審査官】 河野 隆一朗
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2014/054346(WO,A1)
【文献】 国際公開第2015/141653(WO,A1)
【文献】 特開2013−223852(JP,A)
【文献】 特開平04−367715(JP,A)
【文献】 特開昭52−111888(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/22
B01D 61/00 − 71/82
C02F 1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔性支持膜の表面に分離層を形成させた、液体からイオンおよび溶質を分離するための複合分離膜において、以下の(1)〜(4)の条件を満足することを特徴とする複合分離膜:
(1)前記多孔性支持膜はポリフェニレンエーテルを50質量%以上含む。
(2)前記分離層は第一分離層と第二分離層から構成される。
(3)第一分離層は、多孔性支持膜の表面に厚さ50nm以上1μm以下で形成されており、下記式(IV)で表される疎水性セグメントと、下記式(V)で表される親水性セグメントの繰り返し構造からなるスルホン化ポリアリーレンエーテル共重合体からなる
(4)第二分離層は、第一分離層の表面に厚さ1nm以上50nm未満で形成されており、1種類以上のアイオノマーから構成される交互積層体である。
上記式中、
であり、
であり、
であり、
であり、
YとWは同じものが選択されることはなく、
aおよびbはそれぞれ1以上の自然数を表し、
およびRは、−SOMあるいは−SOHを表し、Mは金属元素を表し、
スルホン化ポリアリーレンエーテル共重合体中の式(IV)の繰り返し数と式(V)の繰り返し数の合計に対する式(V)の繰り返し数の百分率割合として表されるスルホン化率が、5%よりも大きく、80%よりも小さい。
【請求項2】
第一分離層を構成するスルホン化ポリアリーレンエーテル共重合体が、下記式(I)で表わされる疎水性セグメントと、下記式(II)で表わされる親水性セグメントからなることを特徴とする請求項1に記載の複合分離膜。
上記式中、mおよびnはそれぞれ1以上の自然数を表し、RおよびRは、−SOMあるいは−SOHを表し、Mは金属元素を表し、スルホン化ポリアリーレンエーテル共重合体中の式(I)の繰り返し数と式(II)の繰り返し数の合計に対する式(II)の繰り返し数の百分率割合として表されるスルホン化率が、5%よりも大きく、80%よりも小さい。
【請求項3】
第二分離層の交互積層体を構成するアイオノマーのうち、少なくとも1種類が、カチオン性官能基を有するポリビニルアルコールまたはアニオン性官能基を有するポリビニルアルコールであり、ポリビニルアルコール成分のヒドロキシル基の一部が、アルデヒド類によって架橋処理されていることを特徴とする請求項1または2に記載の複合分離膜。
【請求項4】
多孔性支持膜はポリフェニレンエーテルを80質量%以上含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の複合分離膜。
【請求項5】
第二分離層の厚さが1nm以上30nm以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の複合分離膜。
【請求項6】
ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドンおよびγ−ブチロラクトンから選択される少なくとも1種を含む非プロトン性極性溶媒に、スルホン化ポリアリーレンエーテル共重合体を溶解して得られるコーティング溶液を、ポリフェニレンエーテルを50質量%以上含む多孔性支持膜の表面に塗布した後、前記溶媒がポリフェニレンエーテル多孔性支持膜を溶解しない温度範囲において、塗布表面を乾燥処理することにより、第一分離層を有する複合分離膜を作製する工程と、前記第一分離層の表面に、少なくとも1種類のアイオノマーの水溶液を交互に接触させ、第二分離層を形成させる工程とを含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の複合分離膜の製造方法。
【請求項7】
第二分離層の形成中および/または形成後に、アルデヒド類の水溶液を接触させて、第二分離層を架橋処理する工程を含むことを特徴とする請求項6に記載の複合分離膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体処理膜、特にナノろ過膜および逆浸透膜として好適な複合分離膜であって、従来のスルホン化ポリアリーレンエーテル複合分離膜の欠点であった中性低分子に対する低い分画特性を劇的に改善しながら、優れた透水性を有しており、さらに塩素、酸、アルカリへの長期曝露に対して、膜性能を良好に維持することができるため長寿命な複合分離膜およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ナノろ過膜および逆浸透膜は、膜の孔径がナノメートルからオングストロームのオーダーであるか、あるいは明確な孔を有しないとみなされるフィルム状構造であるため、ろ過抵抗が大きく、透水量が小さくなりがちである。そのため、ナノろ過膜および逆浸透膜として、機械強度と透水性に優れた多孔性支持膜の表面に、分離機能を有する分離層の薄膜を可能な限り薄くかつ欠陥なく形成させることで、高い透水性と分離性を両立させる複合分離膜の構造が好ましく用いられている。さらに分離層を構成するポリマーとして、洗浄性および長期使用に対する安定性の観点から、化学耐久性、特に塩素耐性およびアルカリ耐性に優れることが要求されている。
【0003】
従来の主要な複合分離膜の構造としては、界面重合法により、架橋芳香族ポリアミドの薄膜を、多孔性支持膜の表面上に形成させる技術がある。例えば特許文献1には、多孔性支持膜の表面に、界面重合により架橋されたポリアミドの薄膜を形成させたシート状複合物が開示されている。
【0004】
特許文献2には、中空糸状の多孔性支持膜の表面に、界面重合により架橋されたポリアミドの薄膜を形成させた中空糸複合分離膜が開示されている。
【0005】
特許文献3には、多孔性の中空糸状の支持膜の表面に、界面重合により架橋されたポリアミドの薄膜を形成させる中空糸複合分離膜において、界面重合による複合化の工程中に、フッ素化合物を含む液を含浸させる工程を与えることにより、より均一な分離層を有する中空糸複合分離膜を形成させる技術も開示されている。
【0006】
ポリアミド系素材以外で、ナノろ過膜や逆浸透膜に適用可能な合成ポリマーとしては、スルホン酸基などのイオン性官能基を分子内に有するポリマーがある。例えば特許文献4には、スルホン化ポリアリーレンエーテルを、蟻酸からなる溶媒に溶解し、得られたコーティング溶液を、多孔性支持膜の表面に塗布、乾燥して皮膜を形成させることにより複合分離膜を得る技術が開示されている。
【0007】
しかしながら、特許文献1のようなポリアミド系複合分離膜によるナノろ過膜および逆浸透膜は、塩除去性、透水性に優れるが、塩素耐性が低く、次亜塩素酸ナトリウムを含む水を処理することが不可能であり、また塩素洗浄も不可能である。そのため一度、次亜塩素酸ナトリウムを除去した状態の供給液を該分離膜により脱塩処理し、その後に得られたろ過水に再度次亜塩素酸ナトリウムを添加する処理が必要となり、ろ過プロセスが煩雑かつ高コストになるという問題を有する。
【0008】
特許文献2および特許文献3においても、ポリアミド系の複合分離膜であるため、塩素耐性が低いという欠点を有し、さらに中空糸状の複合分離膜を製造する工程において、界面重合反応による構造形成を行うプロセスは、平膜やシート状物と比較して、煩雑なものとなってしまう問題を有する。
【0009】
特許文献4のようなスルホン化ポリアリーレンエーテル(SPAE)を分離層に持つ複合分離膜は、ポリアリーレンエーテル分子骨格の高い化学安定性のために、塩素耐性に非常に優れ、次亜塩素酸ナトリウムによる洗浄が可能であるため実用上好ましい。
【0010】
しかしながら、例えば非特許文献1に指摘されているようにSPAEは、一般的な多孔性支持膜のポリマー素材であるポリスルホンあるいはポリエーテルスルホンと化学構造が類似しているために、SPAEを溶解可能なほとんどの溶媒は、同時にポリスルホンあるいはポリエーテルスルホンも溶解可能である。このような溶媒をコーティング溶液として多孔性支持膜に塗布した場合には、多孔性支持膜が溶解するか、著しく膨潤させてしまい、複合膜が得られないという問題を生じる。
【0011】
そのため、ポリスルホンやポリエーテルスルホンからなる多孔性支持膜を侵さない限定的な溶媒(蟻酸などの低級カルボン酸またはアルコール、アルキレンジオールあるいはトリオール、アルキレングリコールアルキルエーテル)を選択せざるをえないが、これらの溶媒はSPAEに対する溶解性も低い傾向に陥らざるを得ない。特により剛直な分子骨格を有するSPAEに対する溶媒溶解性の許容範囲は狭く、これらの溶解性の不十分な溶媒を用いて、複合分離膜を作製したときには、SPAEの皮膜が多孔性支持膜と強固に接着しにくく、分離特性が不十分となる傾向にあり、剥離による長期の性能低下を招きやすいという問題があった。
【0012】
かかる問題を解決するために、出願人は、ポリフェニレンエーテルを主成分とした多孔性支持膜の表面に、塩素、酸、アルカリ等の薬品に対する耐性に優れ、かつ剛直な分子骨格を有し、分離特性に優れたSPAE共重合体を塗布してなる複合分離膜を提案した(特許文献5参照)。
【0013】
しかしながら、特許文献5におけるSPAEの分離層は、1価イオンまたは多価イオンの阻止率が優れている一方で、中性低分子、すなわちイオン性官能基を有しない低分子のうち、特に分子量400以下の物質の阻止率が十分でないという課題があった。より具体的には、特許文献5の製造方法の工夫の範囲内において、SPAE分離層を緻密に形成することで、中性低分子の阻止率を向上させることはできるが、その代償として、膜の透水性が実用的な水準を著しく下回ってしまうために、実質的に分子量400以下の物質を効率的に阻止する複合分離膜を得ることが容易でなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開昭55−147106号
【特許文献2】特開昭62−95105号
【特許文献3】特許第3250644号
【特許文献4】特開昭63−248409号
【特許文献5】特許第5578300号
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】Chang Hyun Lee et al.,Journal of Membrane Science,389(2012),363−371,“Disulfonated poly(arylene ether sulfone)random copolymer thin film composite membrane fabricated using a benign solvent for reverse osmosis applications”
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、上記の従来技術の問題を克服するためになされたものであり、その目的は、多孔性支持膜の表面にSPAEからなる分離層を有する複合分離膜において、中性低分子の分画特性が劇的に改善され、しかも高い透水性を有し、さらには多孔性支持膜と分離層が強固に接着され、塩素、酸、アルカリに曝露しても長期間優れた分離特性と透水性を持続するもの、及びその好適な製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者は、上記目的を達成するために特に前述の特許文献5で提案された複合分離膜の課題を克服する手段について鋭意検討した結果、前記の複合分離膜におけるSPAE分離層(第一分離層)の表面に、極めて薄いアイオノマーの分離層(第二分離層)を交互積層法により形成することで、分子量400以下の中性低分子に対する阻止率を劇的に向上させ、しかも高い透水性と耐薬品性を実現することができることを見出し、本発明の完成に至った。
【0018】
本発明は、上記の知見に基づいて完成されたものであり、以下の[1]〜[7]の構成を有するものである。
[1]多孔性支持膜の表面に分離層を形成させた、液体からイオンおよび溶質を分離するための複合分離膜において、以下の(1)〜(4)の条件を満足することを特徴とする複合分離膜:
(1)前記多孔性支持膜はポリフェニレンエーテルを50質量%以上含む。
(2)前記分離層は第一分離層と第二分離層から構成される。
(3)第一分離層は、多孔性支持膜の表面に厚さ50nm以上1μm以下で形成されており、下記式(IV)で表される疎水性セグメントと、下記式(V)で表される親水性セグメントの繰り返し構造からなるスルホン化ポリアリーレンエーテル共重合体からなる
(4)第二分離層は、第一分離層の表面に厚さ1nm以上50nm未満で形成されており、1種類以上のアイオノマーから構成されている交互積層体である。
上記式中、
であり、
であり、
であり、
であり、
YとWは同じものが選択されることはなく、
aおよびbはそれぞれ1以上の自然数を表し、
およびRは、−SOMあるいは−SOHを表し、Mは金属元素を表し、
スルホン化ポリアリーレンエーテル共重合体中の式(IV)の繰り返し数と式(V)の繰り返し数の合計に対する式(V)の繰り返し数の百分率割合として表されるスルホン化率が、5%よりも大きく、80%よりも小さい。
[2]第一分離層を構成するスルホン化ポリアリーレンエーテル共重合体が、下記式(I)で表わされる疎水性セグメントと、下記式(II)で表わされる親水性セグメントからなることを特徴とする[1]に記載の複合分離膜。
上記式中、mおよびnはそれぞれ1以上の自然数を表し、RおよびRは、−SOMあるいは−SOHを表し、Mは金属元素を表し、スルホン化ポリアリーレンエーテル共重合体中の式(I)の繰り返し数と式(II)の繰り返し数の合計に対する式(II)の繰り返し数の百分率割合として表されるスルホン化率が、5%よりも大きく、80%よりも小さい。
[3]第二分離層の交互積層体を構成するアイオノマーのうち、少なくとも1種類が、カチオン性官能基を有するポリビニルアルコールまたはアニオン性官能基を有するポリビニルアルコールであり、ポリビニルアルコール成分のヒドロキシル基の一部が、アルデヒド類によって架橋処理されていることを特徴とする[1]または[2]に記載の複合分離膜。
[4]多孔性支持膜はポリフェニレンエーテルを80質量%以上含むことを特徴とする[1]〜[3]のいずれかに記載の複合分離膜。
[5]第二分離層の厚さが1nm以上30nm以下であることを特徴とする[1]〜[4]のいずれかに記載の複合分離膜。
[6]ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドンおよびγ−ブチロラクトンから選択される少なくとも1種を含む非プロトン性極性溶媒に、スルホン化ポリアリーレンエーテル共重合体を溶解して得られるコーティング溶液を、ポリフェニレンエーテルを50質量%以上含む多孔性支持膜の表面に塗布した後、前記溶媒がポリフェニレンエーテル多孔性支持膜を溶解しない温度範囲において、塗布表面を乾燥処理することにより、第一分離層を有する複合分離膜を作製する工程と、前記第一分離層の表面に、少なくとも1種類のアイオノマーの水溶液を交互に接触させ、第二分離層を形成させる工程とを含むことを特徴とする[1]〜[5]のいずれかに記載の複合分離膜の製造方法。
[7]第二分離層の形成中および/または形成後に、アルデヒド類の水溶液を接触させて、第二分離層を架橋処理する工程を含むことを特徴とする[6]に記載の複合分離膜の製造方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明の複合分離膜は、ポリフェニレンエーテルを主成分とする多孔性支持膜の表面に、特定のSPAEからなる分離層(第一分離層)を設けているので、多孔性支持膜とSPAE分離層(第一分離層)の接着性が極めて良好である。また、本発明の複合分離膜は、SPAE分離層(第一分離層)の表面に極めて薄いアイオノマーの分離層(第二分離層)を設けているので、従来、SPAE分離層の不得手なところである中性低分子の高度な阻止性を付与し、かつ高い透水性をも保持することができる。さらに、本発明の複合分離膜は、塩素、酸、アルカリに曝露しても優れた分離特性と透水性を長期間維持することができるため、長寿命であり、水処理膜、特にナノろ過膜および逆浸透膜に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、本発明の複合分離膜(平膜)の一例の模式図である。
図2図2は、本発明の複合分離膜(中空糸膜)の一例の模式図である。
図3図3は、本発明の複合分離膜(中空糸膜)の別の例の模式図である。
図4図4は、本発明の複合分離膜の一例の膜断面の拡大SEM(Scanning Electron Microscope)像である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の複合分離膜は、ポリフェニレンエーテルを主成分として含む多孔性支持膜の表面に第一分離層を有し、第一分離層が、特定の繰り返し構造からなるスルホン化ポリアリーレンエーテル共重合体からなり、さらに第一分離層の表面に、第二分離層を有し、第二分離層が、少なくとも1種類以上のアイオノマーから構成される極めて薄い交互積層体であることを特徴とする。
【0022】
本発明の複合分離膜は、液体処理膜、特にナノろ過膜および逆浸透膜として好適である。ナノろ過膜および逆浸透膜は、孔径が数nm以下であるか、あるいは明確な孔を有していないとみなされる緻密なフィルム状の分離層を有する分離膜であり、グルコースのような低分子量の有機分子や、無機塩の溶質が、溶液から分離される場合に用いられる。ナノろ過膜は、逆浸透膜よりは孔径が大きく、低分子量の有機分子や2価イオンおよび多価イオンを部分的に除去できる液体処理膜であり、逆浸透膜は、ナノろ過膜より孔径が小さく、ナトリウムイオンのような1価イオンまでほぼ完全に分離除去できる液体処理膜である。
【0023】
本発明の複合分離膜は、直径が概ね10nm〜数100nmの表面孔を有する多孔性支持膜の表面に、第一分離層として、特定のSPAEからなる薄膜を形成させ、さらに第一分離層の表面に、第二分離層として、極めて薄い交互積層体を形成させたものである。ここで本発明における第一分離層の薄膜とは、ポリマー塗布法により実質的に形成可能な、欠陥を生じることなく、かつ透水抵抗を大きくしないような塗布厚みを有する膜を指し、その厚みは50nm以上1μm以下である。一方、第二分離層の極めて薄い交互積層体とは、交互積層法によって形成されるアイオノマーの吸着層のことを指し、実質的に欠陥なく形成可能な分離層の厚みが1nm以上50nm未満となる膜を指す。多孔性支持膜の厚みは、薄膜より十分厚く、少なくとも5μm以上である。図1に示すような平膜の場合、ポリエステルなどの不織布4の上に多孔性支持膜3を載せて、さらに多孔性支持膜3の表面に第一分離層2の薄膜を形成させ、さらに第一分離層2の表面に第二分離層1を形成させる。また、図2図3に示すような中空糸膜の場合、中空糸状の多孔性支持膜3の上に第一分離層2の薄膜を形成させ、さらに第一分離層2の表面に第二分離層1を形成させる。図4に本発明の複合分離膜の一例の膜断面の拡大SEM像を示す。
【0024】
一方、本発明の複合分離膜とは異なる膜構造として、非対称膜が存在する。非対称膜は、製膜原液を相分離法により凝固させて得られた膜であり、膜の表層が緻密であり、かつ膜の内層側は多孔性となるように制御されたものである。非対称膜は、ポリマーブレンド法などを用いて、1種類以上のポリマー成分から構成されていても構わないが、基本的に膜中のポリマー密度の勾配を制御することのみで得られる膜であって、分離層と多孔性支持層において、ポリマー成分は同一である。一般的に複合分離膜のほうが、多孔性支持膜の構造と厚み、および分離層の構造と厚みを独立して制御可能なため、透水性能がより高くなり、膜構造としては好ましい。
【0025】
次に、本発明の複合分離膜の多孔性支持膜、第一分離膜、第二分離膜、及びその作製方法を順に詳述する。
【0026】
本発明の複合分離膜の多孔性支持膜に使用されるポリフェニレンエーテルは下記式(III)で表される。
上記式(III)中、kは1以上の自然数を表す。
【0027】
ポリフェニレンエーテルの数平均分子量は、5,000以上500,000以下であることが好ましい。この範囲であれば、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、γ−ブチロラクトン(GBL),およびこれらの少なくとも1種を含む混合溶媒(以下、溶媒群1とする)に示される非プロトン性溶媒の一部に、高温では溶解可能であり、製膜原液の粘度が十分なものとなり、十分な強度の多孔性支持膜を作製することができる。
【0028】
多孔性支持膜の強度を向上させたり、あるいは膜性能を好適化する観点から、上記のポリフェニレンエーテルに対して、ポリフェニレンエーテルと完全相溶することで知られるポリスチレンをはじめとして、各種ポリマーによるポリマーブレンドが行われてもよい。あるいはポリフェニレンエーテルにフィラーを含めてもよい。さらに、疎水性ポリマーであるポリフェニレンエーテルの多孔性膜に、親水性を付与する観点から、イオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、あるいはポリエチレングリコールやポリビニルピロリドンなどの親水性ポリマーを含めてもよい。ただし、多孔性支持膜を構成するポリフェニレンエーテルの割合は、50質量%以上であることが好ましい。さらに好ましくは80質量%以上である。この範囲であれば、ポリフェニレンエーテル多孔性支持膜の溶媒群1に対して侵されることなく、さらに高い機械強度と耐薬品性を有するポリフェニレンエーテルの特徴も保持されているために、複合分離膜の製造工程において有利である。
【0029】
ポリフェニレンエーテルから、多孔性支持膜を得るための製膜溶媒としては、溶媒群1の非プロトン性極性溶媒のうち、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)が、例えば約60℃以上の高温下では、均一な製膜原液が得られ、それ以下の温度では不溶であるような、いわゆる「潜在溶媒」であるために、好ましい。ただし、この潜在溶媒において、ポリフェニレンエーテルを溶解可能な温度領域については、ポリフェニレンエーテルの分子量や、製膜原液のポリマー濃度や、別途添加した物質とポリマーおよび潜在溶媒との間の相互作用によって変化しうるため、適宜調整されるべきである。このなかでもN−メチル−2−ピロリドンが、製膜原液の溶液安定性が良好であり、特に好ましい。一方、溶媒群1のうち、例えばジメチルスルホキシド、γ−ブチロラクトンは、100℃以上の高温条件でもポリフェニレンエーテルを溶解しない非溶媒であるため、多孔性支持膜を得るための製膜溶媒としてはあまり好ましくない。
【0030】
ここで、本発明において、「潜在溶媒」とは、多孔性支持膜の製膜原液において、溶質であるポリマー(本発明ではポリフェニレンエーテルである)に対し、溶媒固有のFloryのシータ温度(ポリマー鎖のセグメント間に働く相互作用が見かけ上ゼロとなる温度、すなわち第2ビリアル係数がゼロとなる温度)が存在し、シータ温度が、常温または溶媒の沸点以下であるような溶媒を示す。シータ温度以上では、均一な製膜原液が得られ、シータ温度以下では、ポリマーは溶媒に不溶である。なお実際には本発明における製膜溶液の見かけのシータ温度は、ポリマー濃度や溶媒組成によってある程度変化するものである。また「良溶媒」とは、製膜原液において、ポリマー鎖のセグメント間に働く斥力が引力を上回り、温度に依らず、常温で均一な製膜原液が得られるような溶媒を示す。「非溶媒」とは、シータ温度を有しないか、あるいはシータ温度が極端に高いため、ポリマーが温度に依らず、全く不溶であるような溶媒を示す。
【0031】
ポリフェニレンエーテルは、前記の潜在溶媒以外に、常温でも溶解可能な良溶媒も存在することが知られており、例えば、公知文献(例えばG.Chowdhury,B.Kruczek,T.Matsuura,Polyphenylene Oxide and Modified Polyphenylene Oxide Membranes Gas,Vapor and Liquid Separation,2001,Springer参照)にまとめられているように、四塩化炭素、二硫化炭素、ベンゼン、トルエン、クロロベンゼン、ジクロロメタン、クロロホルムの非極性溶媒(以下、溶媒群3とする)が知られている。しかしながら、これらの溶媒は、前記の溶媒群1と異なり、ポリフェニレンエーテルを常温で溶解できる反面、環境負荷が大きく、また人体への有害性も非常に高いために、製膜原液として産業上利用することは好ましくない。
【0032】
前記の潜在溶媒に、ポリフェニレンエーテルを溶解した製膜原液から、多孔性支持膜を得る製膜手法については、湿式製膜法、乾湿式製膜法が好ましく用いられる。湿式製膜法は、均一な溶液状の製膜原液を、製膜原液中の良溶媒とは混和し、ポリマーは不溶であるような、非溶媒からなる凝固浴中に浸漬させ、ポリマーを相分離させて、析出させることで、膜構造を形成させる方法である。また、乾湿式製膜法は、製膜原液を凝固浴に浸漬する直前に、製膜原液の表面から、溶媒を一定期間、蒸発乾燥させることにより、より膜表層のポリマー密度が緻密となった非対称構造を得る方法である。本発明では、乾湿式製膜法が選択されることがより好ましい。
【0033】
本発明の複合分離膜は、膜の形状は特に限定されず、平膜または中空糸膜が好ましい。これらの膜はいずれも当業者に従来公知の方法で製造することができるが、例えば、平膜の場合は、製膜原液を基板上にキャスティングし、所望により、一定期間の乾燥期間を与えた後に、凝固浴に浸漬することにより製造することができる。中空糸膜の場合には、二重円筒型の紡糸ノズルの外周スリットから、製膜原液を中空円筒状となるように吐出させ、その内側のノズル内孔からは、非溶媒、潜在溶媒、良溶媒あるいはこれらの混合溶媒、または製膜溶媒とは相溶しない液体や、さらには、窒素、空気などの気体など、から選択された流体を、製膜原液と一緒に押出して、所望により、一定期間の乾燥期間を与えた後に、凝固浴に浸漬することにより製造することができる。
【0034】
製膜原液におけるポリフェニレンエーテルの濃度は、支持膜の機械強度を十分にしつつ、多孔性支持膜の透水性能や表面孔径を適切にするという観点から、5質量%以上60質量%以下であることが好ましい。さらに10質量%以上50質量%以下であることがより好ましい。
【0035】
また、製膜原液の温度は少なくとも40℃以上であることが好ましい。より好ましくは60℃以上であることが好ましい。温度の上限としては、前記の製膜溶媒の沸点以下、より好ましくは、150℃以下、さらに好ましくは100℃未満であることが好ましい。製膜原液の温度が前記範囲より低くなると、ポリフェニレンエーテルは、前述したシータ温度以下となり、ポリマーが析出してしまうために好ましくない。本発明者の経験上、前記製膜溶液をシータ温度以下に静置することで得られるポリフェニレンエーテル固形物は脆いため、分離膜として好ましくない。シータ温度以上で、均一状態にある製膜原液の状態から、非溶媒で満たされた凝固浴に浸漬させることにより、非溶媒誘起相分離を引き起こさせて、膜構造を形成させた方が、より好ましい膜構造が得られる。一方、製膜原液の温度が、前記範囲より高くなりすぎた場合には、製膜原液の粘度が低下し、成形が難しくなり、好ましくない。また、製膜原液中の良溶媒の蒸発速度や、凝固浴中での溶媒交換速度が大きくなりすぎるため、膜表面のポリマー密度が緻密になりすぎて、支持膜としての透水性が著しく低下するなどの問題も生じるため好ましくない。
【0036】
乾湿式製膜法においては、凝固浴に製膜原液を浸漬させる工程の前に、一定の溶媒乾燥時間が付与される。乾燥時間や温度は特に限定されず、最終的に得られる多孔性支持膜の非対称構造が、所望のものとなるように調節されるべきであり、例えば、5〜200℃の雰囲気温度において、0.01〜600秒間、部分的に溶媒を乾燥させることが好ましい。
【0037】
湿式製膜法あるいは乾湿式製膜法に用いる凝固浴の非溶媒としては、特に限定されず、公知の製膜法に従い、水、アルコール、多価アルコール(エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、グリセリンなど)が好ましく、これらの混合液体であってもよい。簡便性、経済性の観点からは、水を成分として含有させることが好ましい。
【0038】
また、同様に公知の製膜法に従い、前記凝固浴の非溶媒に他の物質が加えられてもよい。例えば凝固過程における溶媒交換速度を制御し、膜構造を好ましいものにするという観点からは、凝固浴に溶媒群1の溶媒や、なかでもN−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミドの潜在溶媒を好ましく添加することができる。また、凝固浴の粘度を制御するために、多糖類や水溶性ポリマーなどが加えられてもよい。
【0039】
凝固浴の温度は特に限定されず、多孔性支持膜の孔径制御の観点、あるいは経済性、作業安全の観点から適宜選択されればよい。具体的には、0℃以上100℃未満が好ましく、10℃以上80℃以下であることが好ましい。温度がこの範囲より低ければ、凝固液の粘度が高くなりすぎるために、より遅延的に脱混合過程が進行する結果、膜構造が緻密化し、膜の透水性能が低下する傾向があり、好ましくない。また、温度がこの範囲より高ければ、より瞬間的に脱混合過程が進行する結果、膜構造が疎になって、膜強度が低下する傾向があるため、好ましくない。
【0040】
凝固浴に浸漬する時間は、相分離により、多孔性支持膜の構造が十分生成される時間を調整すればよい。十分凝固を進行させて、なおかつ工程を無駄に長くしないという観点からは、0.1〜1000秒の範囲内であることが好ましく、1〜600秒の範囲内であることがより好ましい。
【0041】
凝固浴での膜構造形成を完了して得られた多孔性支持膜は、水洗されることが好ましい。水洗方法は特に限定されず、十分な時間、多孔性支持膜を水に浸漬しても良いし、搬送しながら流水で一定期間、洗浄されても良い。
【0042】
水洗された多孔性支持膜は、後述する複合膜化工程にとって好ましい状態になるように後処理がなされることが好ましい。例えば、アルコール、アルキレンジオールあるいはトリオール、アルキレングリコールアルキルエーテル、水などの液体、あるいはこれらの混合液体を、多孔性支持膜に含浸させて、支持膜中の孔を目詰めする処理が好ましく行われる。この目詰め処理により、複合化工程で、コーティング液を塗布した際に、多孔性支持膜中へ、過度にSPAE分子が浸透して、透水性が低下する問題が解決される。さらに/または目詰め処理に用いる液体が孔径保持剤として働き、多孔性支持膜の乾燥収縮を抑制できるうえ、さらに/または疎水性である多孔性支持膜を親水化した状態にしておくことができる。
【0043】
前記の目詰め処理がなされた多孔性支持膜は、適度に過剰な水分や溶媒を乾燥することが好ましい。この乾燥条件は、複合分離膜としての性能を適切なものにするために、適宜調整されるべきであり、具体的には20〜200℃の温度で0.01秒〜一晩程度、乾燥されることが好ましい。
【0044】
得られた多孔性支持膜は、巻取り装置により巻き取られて保管され、後に別工程として巻きだした後、複合化工程に供されてもよいし、巻取り装置を経ずに、連続搬送させながら複合化処理が行われてもよい。
【0045】
複合分離膜に用いる多孔性支持膜の厚みとしては、5μm以上500μm以下であることが好ましい。この範囲より薄い場合には、耐圧性が十分確保できない問題を生じやすく、この範囲より厚い場合には、透水抵抗が大きくなるために好ましくない。より好ましい範囲としては、10μm以上100μm以下である。また、中空糸状の多孔性支持膜については、膜の外径は50μm以上2000μm以下であることが好ましい。この範囲より小さい場合には、中空内部を流れる透過液あるいは供給液の流動圧損が大きくなりすぎ、運転圧力が大きくなるため好ましくない。また、この範囲より大きい場合には、膜の耐圧性が低下するため好ましくない。より好ましい範囲は、80μm以上1500μm以下である。
【0046】
本発明の複合分離膜の第一分離層に使用されるSPAEは、スルホン酸基を有する親水性モノマーと、スルホン酸基を有しない疎水性モノマーの組合せを、共重合させて得られるポリマーであることが好ましい。このSPAEは、スルホン酸基を有する親水性モノマーと、疎水性モノマーのそれぞれの化学構造を好適に選択することが可能であり、具体的には、剛直性の高い化学構造を適切に選択することにより、膨潤しにくい強固なSPAEの皮膜を形成可能である。さらに共重合反応において、各モノマーの仕込み量を調節することで、スルホン酸基の導入量を再現性よく精密に制御することができる。他にSPAEを得る方法として、公知のポリアリーレンエーテルを硫酸により、スルホン化する手法もあるが、スルホン酸基の導入量を精密に制御することが難しく、また反応時に分子量の低下が起きやすいなどの問題点を有するので好ましくない。直接共重合により得られるSPAEの構造としては、ベンゼン環がエーテル結合で繋がった下記式(IV)で表される疎水性セグメントと、下記式(V)で表される親水性セグメントの繰り返し構造からなるポリマーを基本骨格としたものが、剛直な分子骨格および優れた化学耐久性を発現するために好ましい。さらに、下記式(IV)、下記式(V)の基本骨格において、特にX,Y,Z,Wを下記の組合せから選択した場合において、分子構造全体がより剛直なものとなり、高いガラス転移温度を有するポリマーが得られ、かつ良好な化学耐久性をも維持することができるので好ましい。
上記式中、
であり、
であり、
であり、
であり、
YとWは同じものが選択されることはなく、
aおよびbはそれぞれ1以上の自然数を表し、
およびRは、−SOMあるいは−SOHを表し、Mは金属元素を表し、
スルホン化ポリアリーレンエーテル共重合体中の式(IV)の繰り返し数と式(V)の繰り返し数の合計に対する式(V)の繰り返し数の百分率割合として表されるスルホン化率が、5%よりも大きく、80%よりも小さい。
【0047】
上記のような化学構造を有するSPAEの複合分離膜用途に好ましいイオン交換容量IEC(すなわち、スルホン化ポリマー1g当りのスルホン酸基のミリ当量)は、0.5〜3.0meq./gであり、スルホン化率DSの好ましい範囲は、5%より大きく80%より小さい。IECおよびDSが上記範囲より低い場合は、スルホン酸基が少なすぎるため、第一分離層の表面のアニオン電荷密度が小さくなる。そのため、後述される交互積層法による第二分離層のクーロン力を介した吸着層形成の工程が均一に進行しない傾向があるため好ましくない。また、IECおよびDSが上記範囲より高い場合、ポリマーの親水性が大きくなりすぎ、SPAE分離層が過度に膨潤するため好ましくない。さらに好ましいIECの範囲は0.7〜2.9meq./gであり、さらに好ましいスルホン化率DSの範囲は10%から70%である。
【0048】
本発明の第一分離層に使用されるSPAEは、下記式(I)で表される疎水性セグメントと、下記式(II)で表される親水性セグメントの繰り返し構造からなることがさらに好ましい。
【0049】
上記式中、mおよびnはそれぞれ1以上の自然数を表し、RおよびRは、−SOMあるいは−SOHを表し、Mは金属元素を表し、スルホン化ポリアリーレンエーテル共重合体中の式(I)の繰り返し数と式(II)の繰り返し数の合計に対する式(II)の繰り返し数の百分率割合として表されるスルホン化率が、5%よりも大きく、80%よりも小さい。
【0050】
前記式(II)および(V)のRおよびRは、−SOHあるいは−SOMを表すが、後者の場合の金属元素Mは特に限定されず、カリウム、ナトリウム、マグネシウム、アルミニウム、セシウムなどが好ましい。より好ましくは、カリウム、ナトリウムである。
【0051】
前記式(I)、(II)および(IV)、(V)で表されるSPAEの数平均分子量は、コーティング溶液の粘度を適切にし、分離層として十分な分離特性と機械強度を有する薄膜を形成する観点から、1,000〜1,000,000であることが好ましい。
【0052】
前記式(I)、(II)および(IV)、(V)で表されるSPAEは、分子構造の剛直性が高いために、機械強度が高く、膨潤しにくい皮膜を形成可能であるために、複合分離膜として優れている。さらに、前記式(I)、(II)で表されるSPAEにおいては、前記式(I)の疎水性セグメントにベンゾニトリル構造を含むため、優れた化学耐久性を有し、また疎水性部の凝集力が強くなるために、強固な疎水性マトリクスに親水性ドメインが支えられた皮膜構造が形成される結果、分離層の膨潤が抑制されるという特徴を有する。
【0053】
前記のSPAEのコーティング溶媒としては、溶媒群1の非プロトン性溶媒であるジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン、γ−ブチロラクトンのうち、少なくとも1成分を含む溶媒が好ましい。さらに溶媒群1の溶媒のなかでも、ジメチルスルホキシド、γ−ブチロラクトンが、前記のポリフェニレンエーテル多孔性支持膜が高温でも侵されないため、より好ましい。また、ジメチルスルホキシド、γ−ブチロラクトンに、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドンのいずれかを混合した溶媒も好ましく用いることができる。さらには、溶媒群1の溶媒に、より溶解性に劣る溶媒や蒸気圧の異なる溶媒を添加して、コーティング溶液の蒸発速度を変更し、さらに/または溶液安定性を変更することで、複合分離膜における分離層の構造が制御されてよい。例えば蟻酸などの低級カルボン酸またはアルコール、アルキレンジオールあるいはトリオール、アルキレングリコールアルキルエーテル(以下、溶媒群2とする)の溶媒が、溶媒群1の溶媒に含有されていてもよい。
【0054】
また、SPAEのコーティング溶液の粘度、親水性を変更するためにポリエチレングリコールやポリビニルピロリドンなどの公知の親水性ポリマーが添加されてもよい。これらの添加剤の使用は、コーティング工程において、コーティング溶液を多孔性支持膜の表面に適切な量の分だけ塗布させ、さらに/または複合分離膜の膜構造を制御することで、複合分離膜の性能を好適化するための通常の範囲の工夫として行われるべきである。
【0055】
コーティング溶液におけるSPAEの濃度は、特に限定されず、複合分離膜における第一分離層の厚さを制御するために適宜調節されるべきである。最終的な第一分離層の厚さは、多孔性支持膜の表面にコーティング液を塗布する速度や、温度などにも影響されるが、SPAEの濃度は、好ましくは0.01〜20質量%であり、より好ましくは0.1〜10質量%である。SPAEの濃度がこの範囲より小さすぎる場合には、第一分離層の厚さが薄すぎて、欠陥を生じやすいため好ましくない。また、この範囲より大きすぎる場合には、第一分離層の厚さが厚すぎて、ろ過抵抗が大きくなるので、複合分離膜として十分な透水性が得られないため好ましくない。最終的なSPAEによる第一分離層の厚みは、50nm以上1μm以下であることが好ましく、より好ましくは50nm以上500nm以下である。
【0056】
多孔性支持膜の表面に、前記のコーティング溶液を塗布する方法は、特に限定されず公知の手段が用いられる。例えば、平膜の場合には、簡便には手作業で多孔性支持膜の表面に、はけ塗りにより、コーティング液が塗布される方法が好ましい。より工業的な方法としては、連続搬送された多孔性支持膜の表面にスライドビードコーターにより、コーティング溶液が塗布される方法が好ましく用いられる。また、中空糸膜の場合には、連続搬送された中空糸膜を、コーティング溶液が満たされた浴に浸漬した後、引き上げられて、中空糸膜の外表面に塗布が行われるディップコート法が好ましく用いられる。あるいは、中空糸膜を束にしたモジュールの端面から、中空糸膜内へ、コーティング溶液を挿入した後、気体でコーティング溶液を押出すか、あるいはモジュールの片面側から、真空で引き抜くことにより、中空糸膜の内表面に塗布を行う方法も好ましく用いられる。
【0057】
多孔性支持膜の表面に、塗布されたコーティング溶液は乾燥処理されて、SPAEの薄膜が形成される。乾燥方法は特に限定されないが、例えば強制対流された乾燥炉のなかにコーティング処理された多孔性支持膜を、一定時間通過させて乾燥が行われる方法がとられる。または赤外線による加熱乾燥が行われてもよい。乾燥温度、乾燥時間、あるいは強制対流された乾燥炉における通風速度は、複合分離膜の性能を特定の所望の値にするために、適宜調節されるべき条件であって、溶媒を速やかに乾燥させ、過度な高温により多孔性支持膜が侵されることなく、分離性に優れた複合分離膜が得られるように適切に調整されればよい。
【0058】
このようにして得られたSPAE複合分離膜において、第一分離層であるSPAE分離層の表面に、公知の交互積層法(Layer−by−Layer法)を適用し、第二分離層を形成させる。具体的には、アニオン性であるSPAEからなる第一分離層の表面に、カチオン性官能基を含むアイオノマーの水溶液を接触させることにより、SPAEのアニオン性官能基(スルホン酸基)と、アイオノマーのカチオン性官能基の間に働くクーロン力を介して、吸着層を形成させる。
【0059】
その後、好ましくは、アニオン性の官能基を含むアイオノマーの水溶液を接触させて、前記のカチオン性官能基を含むアイオノマーの吸着層表面に、さらにアニオン性吸着層を形成させることができる。
【0060】
このように正負のイオン性官能基を含むアイオノマーの水溶液への接触を任意回数繰り返して、吸着層の厚みを成長させることにより、極めて薄い第二分離層を形成させることができる。
【0061】
交互積層の層数は、1層以上20層以下が好ましい。より好ましくは2層以上10層以下である。層数が多すぎると第二分離層の厚みが大きくなりすぎ、透水性が低下するため好ましくない。
【0062】
第二分離層の厚みは、1nm以上50nm未満が好ましい。50nm以上では、透水性が十分でないため好ましくない。1nm未満では欠陥を生じうるため好ましくない。より好ましくは5nm以上30nm以下である。
【0063】
第二分離層を交互積層法によって形成させる起点としての、第一分離層のSPAE層は、透水性が高く、荷電密度が高いことが好ましい。好ましくは、第一分離層のSPAEのIEC=0.5〜4.0meq./gであり、より好ましくは1.0〜3.0meq./gである。IECがこの範囲より小さい場合、透水性が小さくなるうえ、第一分離層の表面の荷電量が小さく、アイオノマーの吸着量が少なくなるため好ましくない。またIECがこの範囲より大きい場合、第一分離層が水によって膨潤しすぎて機械強度が実用的な水準を下回るため好ましくない。
【0064】
上記の第二分離層の形成中および/または形成後に、アルデヒド類の水溶液を第二分離層に接触させることで、アルデヒドに対して反応性のある官能基を有するアイオノマーを架橋処理することが好ましい。架橋処理によって、第二分離層が緻密化し、中性低分子を、より高度に阻止することが可能となる。アルデヒドに対して反応性のある官能基とは、例えば第1級〜第3級のアミノ基、ヒドロキシル基であり、これらの官能基を含むアイオノマーを架橋処理の対象として挙げることができる。
【0065】
本発明の第二分離層を構成するアイオノマーの化学構造は、特に限定されないが、カチオン性基を含むアイオノマーとしては、第1級〜第3級アミノ基、第4級アンモニウム基、ホスホニウム基、スルホニウム基を含むポリマーが挙げられる。好ましくは、作製が比較的容易な第1級〜第3級アミノ基、第4級アンモニウム基を含むポリマーである。具体的には、ポリエチレンイミン、ポリアリルアミンなどを用いることができる。さらに好ましくは、塩素の曝露に対する耐性が優れているという観点から、第4級アンモニウム基を有するポリマーを用いることができる。具体的には、ポリジアリルジメチルアンモニウム、第4級アンモニウム基を有する変性ポリビニルアルコールなどを好適に用いることができる。
【0066】
アニオン性官能基を含むアイオノマーとしては、スルホン酸基、ホスホン酸基、カルボキシル基などを有するポリマーを用いることができる。好ましくは、作製や入手が容易な観点から、スルホン酸基またはカルボキシル基を有するポリマーを用いることができる。具体的には、ポリスチレンスルホン酸、スルホン酸基またはカルボキシル基を有する変性ポリビニルアルコールを好適に用いることができる。
【0067】
これらのアイオノマーは、イオン性官能基に各種の対イオンが結合された塩の形であってよい。具体的には、カチオン性官能基には、塩化物イオンなどのハロゲン化物イオン、アニオン性官能基には、カリウムやナトリウムなどのアルカリ金属イオンが、結合しているものを好ましく用いることができる。また、例示したもの以外の対イオンが結合されていても構わない。
【0068】
アルデヒド類による架橋処理を行い、第二分離層の中性低分子に対する阻止性を向上させる観点から、上記の第1級〜第3級アミノ基を有するポリアリルアミン、ポリエチレンイミン、4級アンモニウム基、スルホン酸基、カルボキシル基等を有する変性ポリビニルアルコールを好ましく用いることができる。上記のアイオノマーに含まれるアミノ基、ヒドロキシル基はアルデヒドと比較的容易に反応するため、好適である。さらに好ましくは、酸、アルカリ、塩素に対する耐性に優れていることから、ヒドロキシル基を有するアニオン性またはカチオン性の官能基を有する変性ポリビニルアルコールを用いることが好ましい。
【0069】
架橋処理に用いられるアルデヒド類は、好ましくは、ホルムアルデヒド、グルタルアルデヒド、グリオキサール、ベンズアルデヒド、オルトフタルアルデヒド、イソフタルアルデヒド、テレフタルアルデヒドなどを用いることができる。より好ましくは、水溶性が高く、比較的毒性が低く、架橋処理後の分離膜の性能が良好である点から、グルタルアルデヒドを用いることができる。
【0070】
前記の架橋処理において、架橋反応を促進する観点から、好ましくはアルデヒド水溶液に酸触媒を添加することができる。具体的には、塩酸、リン酸、硝酸、硫酸、クエン酸などを用いることができ、揮発性がなく、取り扱いが容易であるという観点から、より好ましくは硫酸を用いることができる。架橋反応を十分促進するために好ましいpHは4以下であり、より好ましくは2以下である。
【0071】
交互積層法において、アイオノマー水溶液のポリマー濃度、温度、第一分離層との接触時間、水溶液中のイオン濃度、接触方法については、当業者の工夫の範囲内で適切な条件が選択されるべきである。アイオノマー水溶液のポリマーの濃度は、0.01〜1質量%であることが好ましい。低すぎれば、ポリマーの吸着層が形成されず、高すぎれば、吸着層が厚くなりすぎる。アイオノマー水溶液の温度は10〜60℃であることが好ましい。低すぎれば、吸着速度が遅くなり、高すぎれば、複合分離膜が膨潤するなどの悪影響を生ずる。第一分離層との接触時間は、10秒〜24時間であることが好ましい。接触時間が短すぎれば、吸着層が十分形成されず、長すぎれば、吸着層が厚くなりすぎるか、または製造工程において無駄な時間を生ずる。アイオノマー水溶液中にはNaClのような無機塩を加えて、ポリマーの吸着速度や吸着量を適宜調整することができる。イオン濃度は0〜3mol/Lであることが好ましい。イオン濃度が高すぎると、ポリマーが析出するなどの悪影響があり、好ましくない。第一分離層をアイオノマー水溶液に接触する方法は特に限定されない。ロール上を搬送される複合分離膜を、アイオノマー水溶液を満たした槽に浸漬する方法が取られてもよいし、複合分離膜をモジュール化した状態で、第一分離層とアイオノマー水溶液を接触させてもよい。各種のアイオノマー水溶液を第一分離層に交互に接触させる際に、水で第一分離層の表面をリンスすることが、吸着されたもの以外の過剰なアイオノマーを除去することができるため好ましい。
【0072】
本発明の複合分離膜の具体的な特徴は、以下に記載するとおりである。選択されたSPAEにより形成された第一分離層は、機械強度に優れ、多孔性支持膜に強固に接着されているため、複合分離膜として優れた物理および化学耐久性を有している。
この第一分離層の表面は、平滑であり、かつアニオン電荷密度が高い。この表面を、交互積層法の起点とすることで、クーロン力を介したアイオノマーの吸着層の形成は、極めて円滑かつ均一に進行する。そのため、吸着層の総厚みが50nm未満と極めて薄いものであっても、欠陥のない、高い分画性を有する第二分離層を得ることができる。
【0073】
本発明の製造方法における特徴は、アイオノマーによる第二分離層の交互積層工程、およびアルデヒド類による第二分離層の架橋処理工程が、終始、液相の下で行われることである。乾燥工程を経ないため、乾燥による膜構造の収縮を生じず、第二分離層の形成過程でクラックやピンホール等の深刻な欠陥を生じることがない。また架橋工程においても、架橋によって生じる第二分離層内の収縮応力を、水和して柔軟な状態にあるSPAEからなる第一分離層が、これを緩衝層として吸収することができる。そのため、本発明の複合分離膜の製造方法によれば、従来のポリマー塗布・乾燥法では実質的に実現不可能であった、50nm未満の極めて薄い第二分離層を欠陥なく形成することができる。
【実施例】
【0074】
<実施例1>
(多孔性支持膜の作製)
多孔性支持膜のポリマーとして、三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社製のポリフェニレンエーテルPX100L(以下、PPEと略す。)を準備した。PPEが20質量%となるように、N−メチル−2−ピロリドン(以下、NMPと略す。)を加えて混練しながら、130℃で溶解させて、均一な製膜原液を得た。
【0075】
続いて、製膜原液を二重円筒管ノズルより、中空状に押出しながら、内液として35質量%NMP水溶液を同時に押出して成形させ、常温の空気中を空走させて、乾燥処理を行ったあと30質量%のNMP凝固浴に40℃にて浸漬させ、PPE多孔性支持膜を作製した後、水洗処理を行った。
【0076】
得られたPPE多孔性支持膜の外径は260μm、膜厚は50μmであった。純水透過試験を行ったところ、純水透過量FRは0.5MPaの試験圧力において、10,000L/m/日であった。
【0077】
(複合分離膜の作製)
上記の式(I)で表される疎水性セグメントと式(II)で表される親水性セグメントの繰り返し構造を有するSPAEを以下のようにして準備した。
【0078】
3,3′−ジスルホ−4,4′−ジクロロジフェニルスルホン2ナトリウム塩(以下S−DCDPSと略す。)30.000g、2,6−ジクロロベンゾニトリル(以下DCBNと略す)17.036gを計り取り、S−DCDPSとDCBNの仕込みモル比を38:62とした。さらに4,4′−ビフェノール29.677g、炭酸カリウム24.213g、およびモレキュラーシーブを四つ口フラスコに計り取り、窒素を流した。NMP259gを加えて、150℃で50分撹拌した後、反応温度を195℃〜200℃に上昇させて系の粘性が十分上がるのを目安に反応を続けた。その後、放冷し、放冷後、沈降しているモレキュラーシーブを除いて水中に沈殿させた。得られたポリマーは、沸騰水中で1時間洗浄した後、純水で丁寧に水洗することで、残留した炭酸カリウムを完全に除去した。その後、炭酸カリウムを除去した後のポリマーを乾燥させることによって、目的物であるスルホン化度(DS)=38%のSPAEを得た。スルホン酸基はほぼカリウムで中和されていた。
【0079】
得られたSPAEにDMSO溶媒を加えて、常温で撹拌させながら溶解させ1質量%濃度のコーティング溶液を得た。
【0080】
PPE多孔性支持膜をSPAEコーティング溶液中にディップコートし、垂直乾燥炉内にて120℃で乾燥させた。その後、SPAEからなる第一分離層を有する複合分離膜をワインダーに巻き取った。
【0081】
さらに、上記の複合分離膜に対して、交互積層処理を実施した。具体的には、4級アンモニウム基で修飾されたカチオン性ポリビニルアルコール(以下CPVAと略)である日本合成化学社製のK434の0.1質量%水溶液に、上記の複合分離膜を浸漬し、CPVAを第一分離層の表面に30分間吸着させた。続いて、複合分離膜を純水で洗浄した後、スルホン酸基で修飾されたアニオン性ポリビニルアルコール(以下APVAと略。)である日本合成化学社製のCKS50の0.1質量%水溶液に、複合分離膜を浸漬し、APVAの吸着処理を30分間行い、同様に水洗を行った。以上の2層の積層処理の後、1質量%のグルタルアルデヒド(以下GAと略)水溶液に、複合分離膜を浸漬し、架橋処理を行った。その後、複合分離膜を十分洗浄した。その後、さらにCPVAとAPVAの交互積層処理およびGA水溶液による架橋処理を全く同一の条件で、もう一度繰り返した(交互積層数は4)。かくして第一分離層及び第二分離層を有する複合分離膜を得た。得られた複合分離膜の詳細と評価結果を表1に示す。
【0082】
<実施例2>
(多孔性支持膜の作製)
多孔性支持膜のポリマーとして、PPEが30質量%となるようにしたこと以外は、実施例1と同じ方法にて、PPE多孔性支持膜を得た。外径は260μm、膜厚は45μmであった。純水透過試験を行ったところ、純水透過量FRは0.5MPaの試験圧力において、5,900L/m/日であった。
【0083】
(複合分離膜の作製)
多孔性支持膜を変更した以外は、実施例1と全く同一の方法で、第一分離層および第二分離層を有する複合分離膜を得た。得られた複合分離膜の詳細と評価結果を表1に示す。
【0084】
<実施例3>
(多孔性支持膜の作製)
実施例1と同じ方法でPPE多孔性支持膜を作製した。
【0085】
(複合分離膜の作製)
S−DCDPSおよびDCBNの仕込み量のモル比を44:56に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法でDS=44%のSPAEを得た。
【0086】
第一分離層のSPAEのDSを変更した以外は、実施例1と全く同一の方法で、第一分離層および第二分離層を有する複合分離膜を得た。得られた複合分離膜の詳細と評価結果を表1に示す。
【0087】
<実施例4>
(多孔性支持膜の作製)
実施例1と同じ方法でPPE多孔性支持膜を作製した。
【0088】
(複合分離膜の作製)
実施例1と同じ方法で第一分離層を有する複合分離膜を作製した。
【0089】
さらに、CPVA(日本合成化学社製のK434)の0.1質量%水溶液に、複合分離膜を浸漬し、CPVAを第一分離層の表面に30分間吸着させた。続いて、複合分離膜を純水で洗浄した後、カルボキシル基で修飾されたAPVA(日本合成化学社製T300H)の0.1質量%水溶液に、複合分離膜を浸漬し、APVAの吸着処理を30分間行い、同様に水洗を行った。以上の2層の積層処理の後、1質量%のGA水溶液に、複合分離膜を浸漬し、架橋処理を行った。その後、複合分離膜を十分洗浄した(交互積層数2)。かくして第一分離層及び第二分離層を有する複合分離膜を得た。得られた複合分離膜の詳細と評価結果を表1に示す。
【0090】
<実施例5>
(多孔性支持膜の作製)
実施例1と同じ方法でPPE多孔性支持膜を作製した。
【0091】
(複合分離膜の作製)
S−DCDPSおよびDCBNの仕込み量モル比を65:35に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法でDS=65%のSPAEを作製し、第一分離層を有する複合分離膜を作製した。
【0092】
さらに、CPVA(日本合成化学社製のK434)の0.1質量%水溶液に、複合分離膜を浸漬し、CPVAを第一分離層の表面に30分間吸着させた。続いて、複合分離膜を純水で洗浄した後、APVA(日本合成化学社製CKS50)の0.1質量%水溶液に、複合分離膜を浸漬し、APVAの吸着処理を30分間行い、同様に水洗を行った。続いて、CPVA(日本合成化学社製のK434)の0.1質量%水溶液に、複合分離膜を浸漬し、CPVAを第一分離層の表面に30分間吸着させた。最後に、1質量%のGA水溶液に、複合分離膜を浸漬し、架橋処理を行った。その後、複合分離膜を十分洗浄した(交互積層数3)。かくして第一分離層及び第二分離層を有する複合分離膜を得た。得られた複合分離膜の詳細と評価結果を表1に示す。
【0093】
<実施例6>
(多孔性支持膜の作製)
実施例1と同じ方法でPPE多孔性支持膜を作製した。
【0094】
(複合分離膜の作製)
前記式(IV)、(V)の組合せのなかから選択し、下記の式(VI)で表される疎水性セグメントと式(VII)で表される親水性セグメントの繰り返し構造を有するSPAEを以下のようにして準備した。
【0095】
まず3,3’−ジスルホ−4,4’−ジクロロジフェニルスルホン2ナトリウム塩(以下S−DCDPSと略す)30.000g、4,4’−ジクロロジフェニルスルホン(以下DCDPSと略す)70.936gを計り取り、S−DCDPSとDCDPSの仕込みモル比を20:80とした。さらに4,4’−ビフェノール56.386g、炭酸カリウム46.004g、およびモレキュラーシーブを四つ口フラスコに計り取り、窒素を流した。NMPを534g加えて、150℃で50分撹拌した後、反応温度を195℃〜200℃に上昇させて系の粘性が十分上がるのを目安に反応を続けた。その後、放冷し、放冷後、沈降しているモレキュラーシーブを除いて水中に沈殿させた。得られたポリマーは、沸騰水中で1時間洗浄した後、純水で丁寧に水洗することで、残留した炭酸カリウムを完全に除去した。その後、炭酸カリウムを除去した後のポリマーを乾燥させることによって、目的物であるスルホン化度DS=20%のSPAEを得た。スルホン酸基はほぼカリウムで中和されていた。
【0096】
上記式中、aおよびb、RおよびRについては上記の式(IV)(V)で規定されているのと同じ意味を表す。
【0097】
第一分離層として異なるSPAE構造を用いたこと以外は、実施例1と全く同一の方法で、第一分離層および第二分離層を有する複合分離膜を得た。得られた複合分離膜の詳細と評価結果を表1に示す。
【0098】
<実施例7>
(多孔性支持膜の作製)
実施例1と同じ方法でPPE多孔性支持膜を作製した。
【0099】
(複合分離膜の作製)
S−DCDPSおよびDCBNの仕込み量モル比を20:80に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法でDS=20%のSPAEを得た。
【0100】
第一分離層としてSPAEのDSを変更したこと以外は、実施例1と全く同一の方法で、第一分離層および第二分離層を有する複合分離膜を得た。得られた複合分離膜の詳細と評価結果を表1に示す。
【0101】
<実施例8>
(多孔性支持膜の作製)
実施例1と同じ方法でPPE多孔性支持膜を作製した。
【0102】
(複合分離膜の作製)
実施例1と全く同一の方法で第一分離層を有する複合分離膜を作製した。
【0103】
さらに、CPVA(日本合成化学社製のK434)の0.1質量%水溶液に、複合分離膜を浸漬し、CPVAを第一分離層の表面に30分間吸着させた。続いて、複合分離膜を純水で洗浄した後、APVA(日本合成化学社製CKS50)の0.1質量%水溶液に、複合分離膜を浸漬し、APVAの吸着処理を30分間行い、同様に水洗を行った。以上の2層の積層処理を合計4回繰り返した。最後に1質量%のGA水溶液に、複合分離膜を浸漬し、架橋処理を行った。その後、複合分離膜を十分洗浄した(交互積層数8)。かくして第一分離層及び第二分離層を有する複合分離膜を得た。得られた複合分離膜の詳細と評価結果を表1に示す。
【0104】
<実施例9>
(多孔性支持膜の作製)
実施例1と同じ方法でPPE多孔性支持膜を作製した。
【0105】
(複合分離膜の作製)
実施例1と全く同一の方法で第一分離層を有する複合分離膜を作製した。
【0106】
さらに、架橋剤を1質量%のオルトフタルアルデヒド(OPAと略)水溶液に変更した以外は、実施例1と全く同一の方法で、第一分離層の上に第二分離層を作製した。かくして第一分離層及び第二分離層を有する複合分離膜を得た。得られた複合分離膜の詳細と評価結果を表1に示す。
【0107】
<実施例10>
(多孔性支持膜の作製)
実施例1と同じ方法でPPE多孔性支持膜を作製した。
【0108】
(複合分離膜の作製)
実施例1と全く同一の方法で第一分離層を有する複合分離膜を作製した。
【0109】
さらに、架橋剤を0.1質量%のテレフタルアルデヒド(TPAと略)水溶液に変更した以外は、実施例1と全く同一の方法で、第一分離層の上に第二分離層を作製した。かくして第一分離層及び第二分離層を有する複合分離膜を得た。得られた複合分離膜の詳細と評価結果を表1に示す。
【0110】
<実施例11>
(多孔性支持膜の作製)
多孔性支持膜のポリマーとして、実施例1と同様に、三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社製のポリフェニレンエーテルPX100L(以下、PPEと略す。)を準備した。PPEが15質量%となるように、N−メチル−2−ピロリドン(以下、NMPと略す。)を加えて混練しながら、130℃で溶解させて、均一な製膜原液を得た。
【0111】
続いて、保温したガラス基板上に、グリセリン水溶液を適度に含浸させたポリエステル抄紙(廣瀬製紙社製05TH−60)を置き、その上から、100℃の製膜原液を均一にハンドコーターで塗布した。これを20℃の凝固浴中に浸漬して、平膜状の多孔性支持膜を得た。その後、水洗処理を行った。
【0112】
(複合分離膜の作製)
実施例1と同一の方法でDS=38%のSPAEを得た。
【0113】
得られたSPAEにDMSO溶媒を加えて、常温で撹拌させながら溶解させ1.0質量%のコーティング溶液を得た。複合膜化は、30cm角の平膜状PPE多孔性支持膜の表面にハンドコーターを用いて行った。80℃で30分間、熱風乾燥を行った。かくしてSPAEからなる第一分離層を有する平膜状の複合分離膜を作製した。
【0114】
さらに、実施例1と全く同一の方法で、平膜状の複合分離膜を交互積層処理し、第一分離層の上に第二分離層を作製した。かくして第一分離層及び第二分離層を有する平膜状の複合分離膜を得た。得られた複合分離膜の詳細と評価結果を表1に示す。
【0115】
<実施例12>
(多孔性支持膜の作製)
実施例1と同じ方法でPPE多孔性支持膜を作製した。
【0116】
(複合分離膜の作製)
実施例1と全く同一の方法で第一分離層を有する複合分離膜を作製した。
【0117】
さらに、カチオン性のポリエチレンイミン(PEIと略。和光純薬社製)の0.02質量%水溶液に、複合分離膜を浸漬し、PEIを第一分離層の表面に30分間吸着させた。続いて、複合分離膜を純水で洗浄した後、APVA(日本合成化学社製CKS50)の0.1質量%水溶液に、複合分離膜を浸漬し、APVAの吸着処理を30分間行い、同様に水洗を行った。以上の2層の積層処理の後、1質量%のグルタルアルデヒド(以下GAと略)水溶液に、複合分離膜を浸漬し、架橋処理を行った。その後、複合分離膜を十分洗浄した。その後、さらにPEIとAPVAの交互積層処理およびGA水溶液による架橋処理を全く同一の条件で、もう一度繰り返した(交互積層数は4)。かくして第一分離層及び第二分離層を有する複合分離膜を得た。得られた複合分離膜の詳細と評価結果を表1に示す。
【0118】
<実施例13>
(多孔性支持膜の作製)
実施例1と同じ方法でPPE多孔性支持膜を作製した。
【0119】
(複合分離膜の作製)
実施例1と全く同一の方法で第一分離層を有する複合分離膜を作製した。
【0120】
さらに、カチオン性のポリアリルアミン塩酸塩(PAAと略。日東紡メディカル社製PAA−HCL−3L)の0.03質量%水溶液に、複合分離膜を浸漬し、PAAを第一分離層の表面に30分間吸着させた。続いて、複合分離膜を純水で洗浄した後、APVA(日本合成化学社製CKS50)の0.1質量%水溶液に、複合分離膜を浸漬し、APVAの吸着処理を30分間行い、同様に水洗を行った。以上の2層の積層処理の後、1質量%のグルタルアルデヒド(以下GAと略)水溶液に、複合分離膜を浸漬し、架橋処理を行った。その後、複合分離膜を十分洗浄した。その後、さらにPAAとAPVAの交互積層処理およびGA水溶液による架橋処理を全く同一の条件で、もう一度繰り返した(交互積層数は4)。かくして第一分離層及び第二分離層を有する複合分離膜を得た。得られた複合分離膜の詳細と評価結果を表1に示す。
【0121】
<実施例14>
(多孔性支持膜の作製)
実施例1と同じ方法でPPE多孔性支持膜を作製した。
【0122】
(複合分離膜の作製)
実施例1と全く同一の方法で第一分離層を有する複合分離膜を作製した。
【0123】
さらに、カチオン性のポリジアリルジメチルアンモニウム塩酸塩(PDADMAと略。Sigma−Aldrich社製)の0.03質量%水溶液に、複合分離膜を浸漬し、PDADMAを第一分離層の表面に30分間吸着させた。続いて、複合分離膜を純水で洗浄した後、APVA(日本合成化学社製CKS50)の0.1質量%水溶液に、複合分離膜を浸漬し、APVAの吸着処理を30分間行い、同様に水洗を行った。以上の2層の積層処理の後、1質量%のグルタルアルデヒド(以下GAと略)水溶液に、複合分離膜を浸漬し、架橋処理を行った。その後、複合分離膜を十分洗浄した。その後、さらにPDADMAとAPVAの交互積層処理およびGA水溶液による架橋処理を全く同一の条件で、もう一度繰り返した(交互積層数は4)。かくして第一分離層及び第二分離層を有する複合分離膜を得た。得られた複合分離膜の詳細と評価結果を表1に示す。
【0124】
<実施例15>
(多孔性支持膜の作製)
実施例1と同じ方法でPPE多孔性支持膜を作製した。
【0125】
(複合分離膜の作製)
実施例1と全く同一の方法で第一分離層を有する複合分離膜を作製した。
【0126】
さらに、CPVA(日本合成化学社製のK434)の0.1質量%水溶液に、複合分離膜を浸漬し、CPVAを第一分離層の表面に30分間吸着させた。続いて、複合分離膜を純水で洗浄した後、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム(PSSと略。Sigma−Aldrich社製243051)の0.03質量%水溶液に、複合分離膜を浸漬し、APVAの吸着処理を30分間行い、同様に水洗を行った。以上の2層の積層処理の後、1質量%のグルタルアルデヒド(以下GAと略)水溶液に、複合分離膜を浸漬し、架橋処理を行った。その後、複合分離膜を十分洗浄した。その後、さらにCPVAとPSSの交互積層処理およびGA水溶液による架橋処理を全く同一の条件で、もう一度繰り返した(交互積層数は4)。かくして第一分離層及び第二分離層を有する複合分離膜を得た。得られた複合分離膜の詳細と評価結果を表1に示す。
【0127】
<比較例1>
(多孔性支持膜の作製)
実施例1と同じ方法でPPE多孔性支持膜を作製した。
【0128】
(複合分離膜の作製)
実施例1と同様の方法でDS=38%のSPAEを得た。
【0129】
実施例1と同じ方法で、第一分離層を有する複合分離膜を作製した。
【0130】
比較のため、交互積層処理を行わず、第二分離層を形成しなかった。即ち、第一分離層のみの複合分離膜を得た。得られた複合分離膜の詳細と評価結果を表1に示す。比較例1の複合分離膜は、実施例のものと比較すると、透水性と中性低分子(スクロースおよびグルコース)の阻止率に劣ることが明らかであった。
【0131】
<比較例2>
(多孔性支持膜の作製)
実施例1と同じ方法でPPE多孔性支持膜を作製した。
【0132】
(複合分離膜の作製)
S−DCDPSおよびDCBNの仕込み量比を変更したこと以外は、実施例1と同様の方法でDS=20%のSPAEを得た。
【0133】
垂直乾燥炉の温度を160℃としたこと以外は、実施例1と同じ方法で、第一分離層を有する複合分離膜を作製した。
【0134】
比較のため、交互積層処理を行わず、第二分離層を形成しなかった。即ち、第一分離層のみの複合分離膜を得た。得られた複合分離膜の詳細と評価結果を表1に示す。比較例2の複合分離膜は、実施例のものと比較すると、透水性と中性低分子(スクロースおよびグルコース)の阻止率に劣ることが明らかであった。
【0135】
<比較例3>
(多孔性支持膜の作製)
実施例1と同じ方法でPPE多孔性支持膜を作製した。
【0136】
(複合分離膜の作製)
実施例1と同様の方法でDS=38%のSPAEを得た。
【0137】
実施例1と同じ方法で、第一分離層を有する複合分離膜を作製した。
【0138】
さらに、交互積層法との比較のため、第一分離層を有する複合分離膜に対して、塗布・乾燥法により、第二分離層を形成させることを検討した。具体的には、ロール搬送させた複合分離膜を、CPVA(日本合成化学社製のK434)の0.8質量%水溶液を満たした槽に浸漬した後、引き上げてディップコートし、垂直乾燥炉を用いて80℃にて1分間乾燥させた。その後、APVA(日本合成化学社製CKS50)の0.8質量%水溶液を満たした槽に浸漬した後、引き上げてディップコートし、垂直乾燥炉を用いて80℃にて1分間乾燥させた。その後、ワインダーに巻き取った複合分離膜を、1質量%のグルタルアルデヒド水溶液に浸漬し、架橋処理を行った。複合分離膜を十分に水洗した後、アルコールによる膜の湿潤処理を行った。その後、膜を完全に純水に置換した。かくして第一分離層及び第二分離層を有する複合分離膜を得た。得られた複合分離膜の詳細と評価結果を表1に示す。比較例3の複合分離膜は、実施例のものと比較すると、第二分離層が厚いうえに、製造過程、特に乾燥工程において欠陥が生成しがちであったため、透水性と中性低分子(スクロースおよびグルコース)の阻止率に劣ることが明らかであった。
【0139】
<比較例4>
(非対称中空糸膜の作製)
上記の式(I)で表される疎水性セグメントと式(II)で表される親水性セグメントの繰り返し構造を有するSPAEを用いて、非対称中空糸膜を作製した。S−DCDPSおよびDCBNの仕込み量モル比を20:80に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法でDS=20%のSPAEを得た。
【0140】
SPAEが35質量%となるように、NMPを加えて混練しながら、170℃で一晩窒素雰囲気下にて溶解させ、均一な製膜原液を得た。
【0141】
続いて、製膜原液を二重円筒管ノズルより、中空状に押出しながら、内液としてNMPとエチレングリコールの混合液を同時に押出して成形し、常温の空気中を空走させて、乾燥処理を行ったあと凝固浴に浸漬させ、SPAE非対称中空糸膜を作製した後、水洗処理を行ったのち、90℃の純水で20分間アニール処理を行った。
【0142】
この中空糸膜に、交互積層処理を実施例1と全く同一の方法で行った。得られた非対称中空糸膜の詳細と評価結果を表1に示す。比較例4の非対称中空糸膜は、実施例のものと比較すると、イオン・溶質阻止率は良好であったが、透水量が著しく低い結果であった。また中空糸膜全体がSPAEで構成されているため、つぶれ圧が低い結果であった。
【0143】
<SPAEポリマーの評価>
SPAEポリマーのスルホン化度、イオン交換容量(IEC)は以下のように評価した。
【0144】
(スルホン化度)
真空乾燥器で100℃、1晩乾燥させたポリマー20mgを、ナカライテスク社の重水素化DMSO(DMSO−d6)1mLに溶解させ、これをBRUKER社 AVANCE500(周波数500.13MHz、温度30℃、FT積算32回)にてプロトンNMR測定した。得られたスペクトルチャートにおいて、疎水性セグメントおよび親水性セグメントに含まれる各プロトンとピーク位置の関係を同定し、疎水性セグメントにおけるプロトンのうち独立したピークと、親水性セグメントにおけるプロトンのうち独立したピークの1個のプロトンあたりの積分強度の比から求めた。
【0145】
(IEC)
窒素雰囲気下で一晩乾燥したSPAEポリマーの重量を測定し、水酸化ナトリウム水溶液と攪拌処理した後、塩酸水溶液による逆滴定を行うことでイオン交換容量(IEC)を評価した。
【0146】
<複合分離膜の評価方法>
上記のようにして作製された実施例1〜15および比較例1〜4の複合分離膜について、以下の方法で、膜形状の評価、分離層の厚み評価、イオンおよび溶質の阻止性能および透過性能の評価を行なった。
【0147】
(多孔性支持膜の形状)
実施例1〜10,12〜15、比較例1〜4の多孔性支持膜サンプル(中空糸膜)の形状評価は以下の方法で行った。3mmφの孔を空けた2mm厚のSUS板の孔に、適量の中空糸膜束を詰め、カミソリ刃でカットして断面を露出させた後、Nikon社製の顕微鏡(ECLIPSE LV100)およびNikon社製の画像処理装置(DIGITAL SIGHT DS−U2)およびCCDカメラ(DS−Ri1)を用いて、断面の形状を撮影し、画像解析ソフト(NIS Element D3.00 SP6)により、中空糸膜断面の外径および内径を、該解析ソフトの計測機能を用いて測定することで中空糸膜の外径および内径および厚みを算出した。実施例11の多孔性支持膜サンプル(平膜)の形状評価は、含水状態のサンプルを液体窒素で凍結させ、割断し、風乾させて、その割断面にPtをスパッタリングさせて、(株)日立製作所社製の走査型電子顕微鏡S−4800を用いて、加速電圧5kVで観察し、ポリエステル不織布部分を除く、多孔性支持膜の厚みを計測した。
【0148】
(複合分離膜サンプルの第一分離層の厚み)
実施例1〜15および比較例1〜4の複合分離膜または非対称中空糸膜をエタノール水溶液で親水化処理した後、水に浸漬したものを液体窒素で凍結させ、割断し、風乾させて、その割断面にPtをスパッタリングさせて、(株)日立製作所社製の走査型電子顕微鏡S−4800を用いて、加速電圧5kVで観察した。
【0149】
(複合分離膜サンプルの第二分離層の厚み)
第二分離層の厚みは、透過型電子顕微鏡で厚みを測定することが可能であり、以下に測定法を示す。
実施例1〜15および比較例3、4の交互積層処理された複合分離膜を、マツモトファインケミカル社製のチタンラクテート架橋剤(TC310)の10倍希釈液に、24時間、40℃の条件で浸漬させ、第二分離層中のポリビニルアルコール中に含まれるヒドロキシル基の残余の一部を架橋処理し、チタン元素を第二分離層に導入することで、電子密度のコントラストを付与した。その後、同サンプルを十分水洗した後、電子染色した後、エポキシ樹脂に包埋した。包埋した試料をウルトラミクロトームで超薄切片化し、カーボン蒸着を施した。TEM観察には、日本電子社製JEM−2100透過電子顕微鏡を使用し、観察条件は、加速電圧200kVにて行った。
【0150】
(複合分離膜の分離性能および透過性能)
実施例1〜10、12〜15および比較例1〜4の中空糸膜を30本、プラスチック製スリーブに挿入した後、熱硬化性樹脂をスリーブに注入し、硬化させ封止した。熱硬化性樹脂で硬化させた中空糸膜の端部を切断することで中空糸膜の開口面を得て、評価用モジュールを作製した。この評価用モジュールを供給水タンク、ポンプからなる中空糸膜性能試験装置に接続し、性能評価した。実施例11の平膜は、上記と同様、供給水タンク、ポンプの構成からなる平膜性能評価装置に設置し、性能評価した。評価条件は以下のとおりである。溶質として、塩化ナトリウム(NaCl)、硫酸マグネシウム(MgSO)、スクロース(分子量342)、グルコース(分子量180)をそれぞれ用いた。溶質濃度は、全て1500mg/Lに調製した。各溶質を含む水溶液を供給液として、25℃、圧力0.5MPaで約30〜1時間ろ過運転を行った。その後、膜からの透過水を採取して、電子天秤(島津製作所社 LIBROR EB−3200D)で透過水重量を測定した。透水性能はNaCl水溶液を供給液としてろ過運転した際の透過水量を表2に記載した。透水性能は、下記式にて25℃の透過水量に換算した。
透過水量(L)=透過水重量(kg)/0.99704(kg/L)
透水量(FR)は下記式より算出した。
FR[L/m/日]=透過水量[L]/膜面積[m]/採取時間[分]×(60[分]×24[時間])
【0151】
供給液がNaClまたはMgSOの場合には、前記透水量測定で採取した膜透過水と、供給水溶液について、電気伝導率計(東亜ディーケーケー社CM−25R)を用いて導電度を測定し、イオン阻止率を下記式より算出した。
阻止率[%]=(1−ろ過液の導電率[μS/cm]/供給水溶液の導電率[μS/cm])×100
【0152】
供給液がスクロースまたはグルコースの場合には、前記透水量測定で採取した膜透過水と、供給水溶液の糖濃度を、公知のフェノール硫酸法により評価した。具体的には、試験管に1.0mLの上記の供給液または透過液を、純水で10倍に希釈したものを入れ、5%フェノール水溶液を1.0mL加えて攪拌する。そのうえに濃硫酸(96%濃度)を5.0mL速やかに加えて、攪拌する。呈色した溶液を、490nmにて吸光度測定を行い、あらかじめ作成した検量線から濃度を算出し、10倍した値を実際の濃度値とする。フェノール硫酸法において、各糖濃度と吸光度の間の線形性が良好な範囲は、0〜200mg/Lまでであるため、上記の1500mg/Lの供給液またはろ過液は10倍に希釈して測定を行う。溶質の阻止率は下記式から算出した。
阻止率[%]=(1−ろ過液の糖濃度[mg/L]/供給水溶液の糖濃度[mg/L])×100
【0153】
膜のつぶれ圧は、標準の測定圧力0.5MPaから0.05MPaずつ運転圧力を上昇させ、各圧力において30分間運転した後、透水量測定を行った。膜つぶれが生じると、透水量が著しく低下し、透水量変化率が負に転じるので、透水量変化率が負に転じる直前の圧力値をつぶれ圧として記録した。
【0154】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0155】
本発明の複合分離膜は、中性低分子の分画特性が劇的に改善され、しかも高い透水性を有し、さらには多孔性支持膜と分離層が強固に接着され、塩素、酸、アルカリに曝露しても長期間優れた分離特性と透水性を持続するので、ナノろ過処理および逆浸透処理に極めて有用である。
【符号の説明】
【0156】
1 第二分離層
2 第一分離層
3 多孔性支持膜
4 不織布
【要約】
本発明は、多孔性支持膜の表面にSPAEからなる分離層を有する複合分離膜において、中性低分子の分画特性が劇的に改善され、しかも高い透水性を有し、さらには多孔性支持膜と分離層が強固に接着され、塩素、酸、アルカリに曝露しても長期間優れた分離特性と透水性を持続するものを提供する。本発明は、多孔性支持膜の表面に分離層を形成させた、液体からイオンおよび溶質を分離するための複合分離膜であって、前記多孔性支持膜がポリフェニレンエーテルを50質量%以上含み、前記分離層が第一分離層と第二分離層から構成され、第一分離層が、多孔性支持膜の表面に厚さ50nm以上1μm以下で形成されており、疎水性セグメントと、親水性セグメントの繰り返し構造からなる特定の疎水性セグメントと、特定の親水性セグメントの繰り返し構造からなるスルホン化ポリアリーレンエーテル共重合体であり、第二分離層が、第一分離層の表面に厚さ1nm以上50nm未満で形成されており、1種類以上のアイオノマーから構成される交互積層体である。
図1
図2
図3
図4