(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6094935
(24)【登録日】2017年2月24日
(45)【発行日】2017年3月15日
(54)【発明の名称】人工股関節用ステムおよびそれを備える人工股関節システム、並びに人工股関節
(51)【国際特許分類】
A61F 2/36 20060101AFI20170306BHJP
A61F 2/46 20060101ALI20170306BHJP
【FI】
A61F2/36
A61F2/46
【請求項の数】15
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-554823(P2015-554823)
(86)(22)【出願日】2014年12月19日
(86)【国際出願番号】JP2014083666
(87)【国際公開番号】WO2015098729
(87)【国際公開日】20150702
【審査請求日】2016年2月17日
(31)【優先権主張番号】14/141,640
(32)【優先日】2013年12月27日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】504418084
【氏名又は名称】京セラメディカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104318
【弁理士】
【氏名又は名称】深井 敏和
(72)【発明者】
【氏名】スレイター ニコラス
(72)【発明者】
【氏名】アーネット ジェフリー ディー
(72)【発明者】
【氏名】バターズ ジョシュア エー
(72)【発明者】
【氏名】宮下 高利
(72)【発明者】
【氏名】数実 昇
(72)【発明者】
【氏名】井田 貴夫
【審査官】
石川 薫
(56)【参考文献】
【文献】
特開平10−272148(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/32−2/36
A61F 2/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステム本体の肩部に位置している凹部を備え、
前記凹部は、
前記肩部に開口している開口部と、
前記ステム本体のステム中心軸に沿って延びている壁部と、を有し、
前記壁部は、
互いに対向している内壁部および外壁部と、
互いに対向している前壁部および後壁部と、を有し、
前記ステム中心軸に平行であり前記内壁部および前記外壁部を含む断面視において、前記内壁部および前記外壁部は、前記開口部から離れるにつれて互いの間の距離が小さくなっており、
前記ステム中心軸に平行であり前記前壁部および前記後壁部を含む断面視において、前記前壁部および前記後壁部はいずれも、平坦状の領域を有する、人工股関節用ステム。
【請求項2】
前記ステム中心軸に平行であり前記内壁部および前記外壁部を含む断面視において、前記内壁部および前記外壁部はいずれも、円弧状またはテーパ状である、請求項1に記載の人工股関節用ステム。
【請求項3】
前記ステム中心軸に平行であり前記前壁部および前記後壁部を含む断面視において、前記前壁部および前記後壁部は、互いに平行である、請求項1に記載の人工股関節用ステム。
【請求項4】
前記前壁部は、
前記ステム中心軸に沿って延びている前溝部と、
前記前溝部を介して互いに離れて位置している前内領域および前外領域と、を有し、
前記後壁部は、
前記ステム中心軸に沿って延びている後溝部と、
前記後溝部を介して互いに離れて位置している後内領域および後外領域と、を有する、請求項1に記載の人工股関節用ステム。
【請求項5】
前記前溝部は、前記前壁部の中央部に位置しており、
前記後溝部は、前記後壁部の中央部に位置している、請求項4に記載の人工股関節用ステム。
【請求項6】
前記凹部は、前記壁部の前記開口部側に位置している縁部を面取りしてなる面取り部をさらに有する、請求項1に記載の人工股関節用ステム。
【請求項7】
前記凹部の一部は、前記ステム中心軸上に位置している、請求項1に記載の人工股関節用ステム。
【請求項8】
前記凹部は、前記凹部の遠位端部側に位置しているネジ穴をさらに有する、請求項1に記載の人工股関節用ステム。
【請求項9】
前記ステム本体の近位端部から延びているネック部をさらに備える、請求項1に記載の人工股関節用ステム。
【請求項10】
請求項1に記載の人工股関節用ステムと、
円盤状の先端部を備えるステムインサーターと、を備え、
前記ステムインサーターは、前記先端部の上面および下面が前記凹部の前記前壁部および前記後壁部にそれぞれ対向し、かつ前記上面および前記下面の間を貫通するインサーター中心軸を中心に傾斜可能に、前記凹部内に収容される、人工股関節システム。
【請求項11】
前記ステムインサーターの正面視において、前記ステムインサーターの傾斜角度が、±35〜45°である、請求項10に記載の人工股関節システム。
【請求項12】
前記ステムインサーターは、
前記先端部の前記上面および前記下面がいずれも、平坦状であり、
前記先端部が、前記上面および前記下面のそれぞれと接続している曲面状の側面を有する、請求項10に記載の人工股関節システム。
【請求項13】
前記ステムインサーターの前記先端部は、前記上面および前記側面の交線部を面取りしてなる上面取り部と、前記下面および前記側面の交線部を面取りしてなる下面取り部と、をさらに有する、請求項12に記載の人工股関節システム。
【請求項14】
前記ステムインサーターは、
柱状のシャフトと、
前記先端部および前記シャフトのそれぞれと接続している接続部と、をさらに備え、
前記接続部の幅および厚みがいずれも、前記先端部側から前記シャフト側に向かうにつれて大きくなっている、請求項10に記載の人工股関節システム。
【請求項15】
請求項9に記載の人工股関節用ステムと、
前記ネック部に嵌合する人工骨頭と、
前記人工骨頭を摺動可能に収容するソケットと、
を備える、人工股関節。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工股関節用ステム、ステムインサーターおよびそれらを備える人工股関節システム、並びに人工股関節に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、疾患または事故等で機能が低下した股関節の機能を回復させるために、股関節を人工のものに置換する人工股関節置換術が行われている。人工股関節を構成する部材のうち人工股関節用ステム(以下、「ステム」と言うことがある。)は、湾曲した略棒状の部材であり、以下のステップ(i)〜(iii)を経て大腿骨の髄腔に埋入される。
【0003】
(i)まず、皮膚および筋肉を切開し、大腿骨頭を切除する。
(ii)次に、大腿骨頭を切除した大腿骨の髄腔に、ステム軸となる第1穴を形成するとともに、第1穴に沿ってステムと同一形状の第2穴を形成する。
(iii)最後に、ステムを第2穴に打ち込み、ステムを大腿骨の髄腔に埋入する。
【0004】
ここで、上述したステップ(i)〜(iii)のうちステップ(iii)におけるステムの埋入は、略柱状のステムインサーター(以下、「インサーター」と言うことがある。)を使用して行う(例えば、非特許文献1参照)。すなわち、ステップ(iii)では、ステムにインサーターを取り付け、インサーターの後端部をハンマーで叩いてステムを第2穴に打ち込むことによって、ステムの埋入を行う。
【0005】
ところで、非特許文献1に記載されている構成は、ステムの肩部に位置しているネジ穴に、インサーターの先端部に位置しているネジ部をネジ固定する構成である。そのため、非特許文献1に記載されている構成では、ステムの肩部からステムの長手方向に沿って略柱状のインサーターがネジ固定されており、結果としてステムの打ち込みが、ステムの直上からに限定されている。ステムの打ち込みが、ステムの直上からに限定されると、手技によってはステムを打ち込み難いことがあり、無理に斜め方向から打ち込むと、ステムとインサーターとが噛み込んで両者の取り外しが困難になるおそれや、破損のおそれがある。この問題は、患者の腹部が打ち込みの妨げになり易い、前方進入等の仰臥位(仰向け)で行う手技において顕著である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】“Accolade TMZF Cementless Hip System”、4頁、[online]、2011年、日本ストライカー株式会社、[平成25年9月12日検索]、インターネット<URL: http://www.stryker.co.jp/mpsite2/product/data/01-01/HE01-135.pdf>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、打ち込み性に優れる人工股関節用ステム、ステムインサーターおよびそれらを備える人工股関節システム、並びに人工股関節を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の人工股関節用ステムは、ステム本体の肩部に位置している凹部を備え、前記凹部は、前記肩部に開口している開口部と、前記ステム本体のステム中心軸に沿って延びている壁部と、を有し、前記壁部は、互いに対向している内壁部および外壁部と、互いに対向している前壁部および後壁部と、を有し、前記ステム中心軸に平行であり前記内壁部および前記外壁部を含む断面視において、前記内壁部および前記外壁部は、前記開口部から離れるにつれて互いの間の距離が小さくなっており、前記ステム中心軸に平行であり前記前壁部および前記後壁部を含む断面視において、前記前壁部および前記後壁部はいずれも、平坦状の領域を有する。
【0009】
本発明のステムインサーターは、円盤状の先端部を備える。
【0010】
本発明の人工股関節システムは、上述した本発明に係る人工股関節用ステムと、上述した本発明に係るステムインサーターと、を備え、前記ステムインサーターは、前記先端部の上面および下面が前記凹部の前記前壁部および前記後壁部にそれぞれ対向し、かつ前記上面および前記下面の間を貫通するインサーター中心軸を中心に傾斜可能に、前記凹部内に収容される。
【0011】
本発明の人工股関節は、ステム本体の近位端部から延びているネック部をさらに備える本発明に係る人工股関節用ステムと、前記ネック部に嵌合する人工骨頭と、前記人工骨頭を摺動可能に収容するソケットと、を備える。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ステムの打ち込み性に優れるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施形態に係る人工股関節システムを示す図であり、(a)は正面側から見た概略説明図、(b)は(a)の部分拡大図である。
【
図2】
図1に示す人工股関節システムを示す図であり、(a)は
図1(a)の矢印X1方向から見た概略説明図、(b)は(a)の部分拡大図である。
【
図3】
図1に示す人工股関節システムが備える人工股関節用ステムを示す図であり、
図1(a)の矢印X2方向から見た拡大平面図である。
【
図4】
図1に示す人工股関節システムが備える人工股関節用ステムを正面側から見た拡大図であり、
図3のY1−Y1線における破断面図である。
【
図5】
図1に示す人工股関節システムが備える人工股関節用ステムを外側面側から見た拡大図であり、
図3のY2−Y2線における破断面図である。
【
図6】
図1に示す人工股関節システムが備えるステムインサーターを示す正面図である。
【
図7】
図6に示すステムインサーターの先端部近傍を示す図であり、(a)は部分拡大正面図、(b)は部分拡大側面図である。
【
図8】本発明の一実施形態に係る人工股関節を示す概略説明図である。
【
図9】本発明の他の実施形態に係る人工股関節用ステムを正面側から見た部分拡大概略説明図であり、
図4に相当する図である。
【
図10】本発明のさらに他の実施形態に係る人工股関節用ステムを示す拡大平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態に係るステム、インサーターおよびそれらを備える人工股関節システム、並びに人工股関節について、
図1〜
図8を参照して詳細に説明する。なお、以下の説明においては、ステムを左足に設置する場合を例にとって説明するが、本発明のステムは右足に設置することもできる。その場合は、左右が線対称となるのみである。
【0015】
図1および
図2に示すように、本実施形態の人工股関節システム20は、ステム1およびインサーター10を備えている。
【0016】
本実施形態のステム1は、湾曲した略棒状の部材であり、
図8に示すように、大腿骨100の髄腔に埋入されて人工股関節30を構成する部材である。このような本実施形態のステム1は、
図4および
図5に示すように、ステム本体2を備えている。
【0017】
本実施形態のステム本体2は、近位部に位置しているステム近位部2Aと、遠位部に位置しているステム遠位部2Bと、に区分されている。近位部とは、人工股関節30を取り付けたとき、比較対象と比べて人体の頭部に近い側に位置している部位のことを意味するものとする。また、遠位部とは、人工股関節30を取り付けたとき、比較対象と比べて人体の頭部から遠い側に位置している部位のことを意味するものとする。言い換えれば、遠位部は、人体のつま先側に位置している部位である。
【0018】
本実施形態のステム本体2は、ステム近位部2Aのうち近位端部側および外側に位置している肩部3を有する。外側とは、人工股関節30を取り付けたとき、比較対象と比べて人体の中心線から遠い側に位置している部位のことを意味するものとする。なお、後述する内側とは、人工股関節30を取り付けたとき、比較対象と比べて人体の中心線に近い側に位置している部位のことを意味するものとする。
【0019】
本実施形態のステム1は、
図3〜
図5に示すように、肩部3に位置している凹部4をさらに備えている。本実施形態の凹部4は、肩部3に開口している開口部5と、ステム本体2のステム中心軸S1に沿って延びている壁部6と、を有する。
【0020】
本実施形態のステム中心軸S1は、
図5に示すように、ステム遠位部2Bにおける厚み方向Dの中点を、ステム本体2の長手方向Eに沿って連続して得られる構成である。また、本実施形態のステム中心軸S1は、
図4に示すように、ステム遠位部2Bに位置しており互いに対向している側面同士のなす角の2等分線でもある。具体的に説明すると、本実施形態のステム本体2は、ステム遠位部2Bに位置している内側面2B1および外側面2B2をさらに有する。内側面2B1は、ステム遠位部2Bの内側に位置しており、外側面2B2は、ステム遠位部2Bの外側に位置している。本実施形態において、内側面2B1および外側面2B2は、互いに対向しており、ステム遠位部2Bの遠位端部2B4に向かうにつれて互いの間の距離が小さくなっている。したがって、本実施形態のステム中心軸S1は、内側面2B1および外側面2B2同士のなす角αの2等分線でもある。
【0021】
なお、内側面2B1および外側面2B2が互いに平行な場合には、ステム遠位部2Bにおける幅方向Fの中点を、ステム本体2の長手方向Eに沿って連続して得られる構成を、ステム中心軸S1とする。また、本実施形態では、大腿骨100の髄腔に対するステム1の埋入性を向上させる観点から、上述した外側面2B2が、遠位端部2B4側に位置している傾斜面2B3を有する。本実施形態のように外側面2B2が傾斜面2B3を有する場合、ステム中心軸S1を判断するときの外側面2B2は、傾斜面2B3がない構成を基準にするものとする。
【0022】
上述したステム中心軸S1に沿って延びている本実施形態の壁部6は、
図3〜
図5に示すように、互いに対向している内壁部61および外壁部62と、互いに対向している前壁部63および後壁部64と、を有する。内壁部61は、壁部6の内側に位置しており、外壁部62は、壁部6の外側に位置している。また、前壁部63は、壁部6の前側に位置しており、後壁部64は、壁部6の後側に位置している。前側とは、人工股関節30を取り付けたとき、人体の顔が向いている方向側のことを意味するものとする。後側とは、人工股関節30を取り付けたとき、人体の背部が向いている方向側のことを意味するものとする。
【0023】
本実施形態では、
図4に示すように、ステム中心軸S1に平行であり内壁部61および外壁部62を含む断面視において、内壁部61および外壁部62が、開口部5から離れるにつれて、言い換えれば凹部4の遠位端部側に向かうにつれて、互いの間の距離が小さくなっている。
【0024】
また、本実施形態では、
図5に示すように、ステム中心軸S1に平行であり前壁部63および後壁部64を含む断面視において、前壁部63および後壁部64がいずれも、平坦状の領域を有する。本実施形態では、
図3に示すように、前壁部63が有する前内領域632および前外領域633、並びに後壁部64が有する後内領域642および後外領域643が、上述した平坦状の領域である。
【0025】
一方、上述したステム1とともに人工股関節システム20を構成する本実施形態のインサーター10は、ステム1を大腿骨100の髄腔に打ち込んで埋入するときに使用する部材である。本実施形態のインサーター10は、
図6および
図7に示すように、略円盤状の先端部11を備えている。
【0026】
本実施形態の先端部11は、少なくとも一部が上述した凹部4内に収容される部位であり、凹部4に対応する形状を有する。具体的に説明すると、本実施形態の先端部11は、
図7に示すように、平坦状の上面111と、平坦状の下面112と、上面111および下面112のそれぞれと接続している曲面状の側面113と、を有する。本実施形態において、上面111および下面112は、互いの大きさが同一である。また、本実施形態の先端部11は、その厚みd11が、
図5に示す凹部4の距離d4よりも若干小さい。距離d4は、前壁部63における平坦状の領域(前内領域632)および後壁部64における平坦状の領域(後内領域642)の間の距離である。
【0027】
ここで、本実施形態のインサーター10は、
図2(b)に示すように、先端部11の上面111および下面112が、凹部4の前壁部63および後壁部64にそれぞれ対向するように、凹部4内に収容される。また、本実施形態のインサーター10は、
図1(b)に示すように、上面111および下面112の間を貫通するインサーター中心軸O1を中心に傾斜可能に、凹部4内に収容される。これらの構成によれば、以下のような優れた打ち込み性を発揮することが可能となる。
【0028】
すなわち、本実施形態では、凹部4の内壁部61および外壁部62が、上述のとおり、開口部5から離れるにつれて互いの間の距離が小さくなっている。したがって、インサーター10を上述した位置関係で凹部4内に収容すると、
図1(a)に示すように、インサーター10がインサーター中心軸O1を中心に矢印A1、A2方向に傾斜可能になる。それゆえ、本実施形態によれば、ステム1を大腿骨100の髄腔に打ち込むとき、インサーター中心軸O1を中心に矢印A1、A2方向にインサーター10を自由に傾斜させて、様々な角度からステム1を打ち込むことが可能となる。その結果、ステム1とインサーター10とが噛み込むことを抑制することができ、両者の取り外しが困難になることを抑制することができる。また、ステム1およびインサーター10の破損を抑制することができる。さらに、ステム1を埋入しているときに打ち込む角度が変わったとしても、インサーター10を傾斜させることによって打ち込む角度をコントロールしながらステム1を打ち込むことができる。
【0029】
また、本実施形態では、凹部4の前壁部63および後壁部64がいずれも、上述のとおり、平坦状の領域を有する。したがって、インサーター10を、
図2(a)に示すように、インサーター中心軸O1に垂直なインサーター回旋軸O2を中心に矢印B1、B2方向に回旋させると、上面111および下面112が、前壁部63および後壁部64に当接し、結果としてステム1を矢印b1、b2方向に回旋させることができる。それゆえ、本実施形態によれば、ステム1の回旋角度を調節しながらステム1を打ち込むことが可能となる。
【0030】
なお、本実施形態では、凹部4内へのインサーター10の収容性を向上させる観点から、インサーター10の先端部11が、
図7(b)に示すように、上面111および側面113の交線部を面取りしてなる上面取り部114をさらに有する。同様に、本実施形態の先端部11は、下面112および側面113の交線部を面取りしてなる下面取り部115をさらに有する。
【0031】
また、本実施形態のインサーター10は、
図6に示すように、上述した先端部11から順に、接続部12、柱状のシャフト13、グリップ14および天板15をさらに備えている。
【0032】
本実施形態の接続部12は、
図7に示すように、先端部11およびシャフト13のそれぞれと接続している部位であり、幅w12および厚みd12がいずれも、先端部11側からシャフト13側に向かうにつれて大きくなっている。このような構成によれば、下記で説明するインサーター10の傾斜角度θを大きく設定することができる。
【0033】
本実施形態では、
図1(b)に示すように、インサーター10の正面視において、インサーター10の傾斜角度θが、±35〜45°である。このような構成によれば、インサーター10の傾斜角度θが大きくなり、かつステム1を打ち込むときの力が、ステム1に加わり易くなる。
【0034】
インサーター10の正面視とは、先端部11の上面111側からインサーター10を見た状態を意味するものとする。また、インサーター10の傾斜角度θとは、インサーター回旋軸O2と、ステム中心軸S1か、またはステム中心軸S1に平行な基準線S2とのなす角の角度を意味するものとする。本実施形態では、インサーター回旋軸O2と基準線S2とのなす角の角度が、インサーター10の傾斜角度θである。インサーター10の傾斜角度θは、ステム中心軸S1または基準線S2よりも外側の角度をプラス(+)、ステム中心軸S1または基準線S2よりも内側の角度をマイナス(−)と判断するものとする。
【0035】
本実施形態のインサーター10において、先端部11、接続部12およびシャフト13は、一体に成形されている。先端部11、接続部12およびシャフト13の構成材料としては、ガンマ線滅菌等の医療用具の滅菌処理に耐え得る材質である限り、特に限定されない。なお、本実施形態のインサーター10において、グリップ14は術者によって握られる部位であり、天板15はハンマーによって叩かれる部位である。
【0036】
一方、本実施形態では、
図4に示すように、凹部4の内壁部61および外壁部62がいずれも、円弧状の曲面に構成されている。すなわち、本実施形態では、ステム中心軸S1に平行であり内壁部61および外壁部62を含む断面視において、内壁部61および外壁部62がいずれも、円弧状である。このような構成によれば、後述するネック部9の強度を確保しつつ、インサーター10の傾斜角度θを大きく設定することができる。
【0037】
また、本実施形態では、
図5に示すように、ステム中心軸S1に平行であり前壁部63および後壁部64を含む断面視において、前壁部63および後壁部64が、互いに平行である。このような構成によれば、インサーター中心軸O1を中心にインサーター10をスムーズに傾斜させることができる。
【0038】
本実施形態では、
図3および
図5に示すように、前壁部63が、ステム中心軸S1に沿って延びている前溝部631をさらに有する。そして、上述した前内領域632および前外領域633が、前溝部631を介して互いに離れて位置している。同様に、本実施形態では、後壁部64が、ステム中心軸S1に沿って延びている後溝部641をさらに有し、上述した後内領域642および後外領域643が、後溝部641を介して互いに離れて位置している。本実施形態では、前溝部631が、前壁部63の略中央部に位置しており、後溝部641が、後壁部64の略中央部に位置している。なお、前内領域632、前外領域633、後内領域642および後外領域643の4面によって、インサーター10を保持することができる。
【0039】
本実施形態では、
図3に示すように、凹部4が、壁部6の開口部5側に位置している縁部を面取りしてなる面取り部7をさらに有する。このような構成によれば、凹部4内へのインサーター10の収容性を向上させることができる。なお、本実施形態の面取り部7は、開口部5の全周にわたって位置している。
【0040】
また、本実施形態では、
図1(b)および
図2(b)に示すように、凹部4の一部が、ステム中心軸S1上に位置している。このような構成によれば、ステム1を打ち込むときの力が、ステム1に加わり易くなる。
【0041】
本実施形態では、
図3〜
図5に示すように、凹部4が、凹部4の遠位端部側に位置しているネジ穴8をさらに有する。本実施形態のネジ穴8は、上述した従来のインサーターの先端部に位置しているネジ部とネジ固定可能な部位である。したがって、本実施形態のステム1は、必要に応じて、従来のインサーターを使用して打ち込むことができる。また、本実施形態のステム1は、従来のインサーターを使用してステム1を抜去することもできる。
【0042】
なお、本実施形態のステム1は、ステム本体2の近位端部から延びているネック部9をさらに備えている。このようなステム1の構成材料としては、例えばチタン合金、コバルト−クロム合金等が挙げられる。
【0043】
本実施形態のステム1は、上述のとおり、
図8に示す人工股関節30を構成する部材である。本実施形態の人工股関節30は、上述したステム1の他に、ステム1のネック部9に嵌合している人工骨頭31と、人工骨頭31を摺動可能に収容しており寛骨110の臼蓋111に固定されているソケット32と、を備えている。
【0044】
本実施形態の人工骨頭31は、略球状であり、その底面中央部に位置している有底円筒状の凹部31aを有する。本実施形態の人工骨頭31は、凹部31aを介してステム1のネック部9に嵌合している。このような人工骨頭31の構成材料としては、例えばコバルト−クロム合金等の金属、アルミナ、ジルコニア等のセラミックス等が挙げられる。
【0045】
本実施形態のソケット32は、略カップ状であり、その底面中央部に位置している略半球状の凹部32aを有する。本実施形態のソケット32は、凹部32a内に人工骨頭31を摺動可能に収容している。このようなソケット32の構成材料としては、例えばポリエチレン樹脂等の合成樹脂等が挙げられる。
【0046】
以上、本発明に係る好ましい実施形態について例示したが、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない限り任意のものとすることができることは言うまでもない。
【0047】
例えば、上述の一実施形態では、ステム中心軸S1に平行であり内壁部61および外壁部62を含む断面視において、内壁部61および外壁部62がいずれも、円弧状であるが、これに代えて、内壁部61および外壁部62を、
図9に示す構成にすることができる。すなわち、
図9に示すように、上述した断面視において、内壁部61および外壁部62をいずれも、テーパ状にすることができる。言い換えれば、内壁部61および外壁部62をいずれも、傾斜面で構成することができる。このような構成によれば、凹部4の構成が簡単になることから、ステム1の生産性を向上させることができる。また、インサーター10における先端部11のサイズを、凹部4内に収容可能な限り、自由に変更することができる。
【0048】
また、上述の一実施形態では、前壁部63が前溝部631を有し、後壁部64が後溝部641を有するが、これに代えて、前壁部63に前溝部631がなく、前溝部631の略全面が平坦状の領域を有し、後壁部64に後溝部641がなく、後壁部64の略全面が平坦状の領域を有する構成にすることができる。
【0049】
また、上述の一実施形態の構成に代えて、凹部4の位置を、
図10に示すように、ステム本体2の強度を維持可能な限り、矢印G方向に調整することができる。