特許第6094953号(P6094953)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ NOK株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6094953-密封構造 図000002
  • 特許6094953-密封構造 図000003
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6094953
(24)【登録日】2017年2月24日
(45)【発行日】2017年3月15日
(54)【発明の名称】密封構造
(51)【国際特許分類】
   F16J 15/3232 20160101AFI20170306BHJP
   F16J 15/447 20060101ALI20170306BHJP
【FI】
   F16J15/3232 201
   F16J15/447
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-568074(P2016-568074)
(86)(22)【出願日】2016年8月29日
(86)【国際出願番号】JP2016075166
【審査請求日】2016年11月16日
(31)【優先権主張番号】特願2015-174180(P2015-174180)
(32)【優先日】2015年9月3日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100114292
【弁理士】
【氏名又は名称】来間 清志
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】樽川 雄一
(72)【発明者】
【氏名】佐座 孝治
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 敦志
(72)【発明者】
【氏名】神前 剛
【審査官】 中尾 麗
(56)【参考文献】
【文献】 実開平06−078666(JP,U)
【文献】 国際公開第2009/130933(WO,A1)
【文献】 国際公開第2010/061688(WO,A1)
【文献】 実開平05−094573(JP,U)
【文献】 特開2013−113319(JP,A)
【文献】 特開2014−214831(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/3204−15/3236
F16J 15/447
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線方向に延びる軸と、前記軸線方向に延びる貫通孔が形成されており該貫通孔に空間を持って前記軸が挿通される回動体との間の空間を密封するための密封構造であって、
前記軸又は前記回動体の一方に相対回動不能に取り付けられる密封装置と、
前記軸又は前記回動体の他方に相対回動不能に形成される被当接部とを備え、
前記密封装置は、内側シール部と、外側シール部と、ダストカバーとを備え、
前記被当接部は、前記軸線を中心とする環状の周面を有しており、
前記内側シール部は、前記軸又は前記回動体の一方に相対回動不能に取り付けられる前記軸線を中心とする環状の内側取付環と、該内側取付環に取り付けられている前記軸線を中心とする環状の弾性体から形成された内側シールリップとを有しており、該内側シールリップは、前記内側取付環から前記軸線方向における一方が面する側である外側に向かって延びており、外側の部分において前記被当接部に摺動可能に当接し、
前記外側シール部は、前記内側シール部の前記内側取付環に嵌着される前記軸線を中心とする環状の外側取付環と、該外側取付環に取り付けられている前記軸線を中心とする環状の弾性体から形成された外側シールリップと、前記外側取付環に前記外側シールリップよりも前記被当接部から離れる側において取り付けられている前記軸線を中心とする環状の弾性体から形成されたサイドリップとを有しており、前記外側シールリップは、前記内側シールリップよりも外側に位置しており、前記外側取付環から外側に向かって延びており、外側の部分において前記ダストカバーに摺動可能に当接し、前記サイドリップは、前記外側取付環から外側に向かって延びており、外側の端部において前記ダストカバーに摺動可能に当接し、
前記ダストカバーは、前記被当接部の周面に取り付けられた環状の部材であり、前記内側取付環が取り付けられる部材との間に隙間を形成していることを特徴とする密封構造。
【請求項2】
前記被当接部の周面は、外側に向かうに連れて前記密封装置の側に近付いていく環状の移行部を有しており、該移行部は、前記内側シールリップと前記外側シールリップとの間に位置することを特徴とする請求項1記載の密封構造。
【請求項3】
前記密封装置は外周側において、前記軸が保持されるブラケットに嵌着されており、前記被当接部は前記回動体の内側の端部に形成されており、前記被当接部の周面は外周側に面する面であり、前記ダストカバーは外周側の端部において前記ブラケットとの間に前記隙間を形成していることを特徴とする請求項1又は2記載の密封装置。
【請求項4】
前記外側取付環は、前記サイドリップが取り付けられる部分が、前記内側取付環に取り付けられる部分の外側の端部よりも内側に位置していることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の密封構造。
【請求項5】
前記ダストカバーはステンレス製であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項記載の密封構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、密封構造に関し、特に、トラックのサスペンション等に用いられる潤滑剤の補充がなされる密封構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、回転軸を有する機構において、内部からの潤滑剤の漏洩の防止を図りつつ、外部からの泥水や雨水、ダスト等の異物の侵入の防止を図るために密封構造が用いられており、このような密封構造の中には、外部から潤滑剤の補充が可能となっている密封構造がある。例えば、トラックの後輪に用いられているトラニオン式サスペンションにおいては、車体のフレームに取り付けられた軸とこの軸が回動自在に挿入されたリーフスプリングの取付孔との間の空間を密封するために密封構造が設けられている。この軸とリーフスプリングの取付孔との間の空間には、滑り軸受が設けられ、潤滑剤が充填されており、摺動部が形成されているが、この摺動部からの潤滑剤の漏れの防止、及び摺動部への外部からの異物の侵入の防止を図るためにこの密封構造は設けられている。また、このような従来の密封構造の中には、外部から潤滑剤の供給(補充)が可能となっているものがある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
トラックのトラニオン式サスペンションにおけるこのような従来の密封構造においては、密封装置の弾性体から形成されたシールリップが例えばトラニオンシャフトの外周面に摺動可能に直接又は間接的に当接している。これにより、トラニオンシャフトとリーフスプリングとの間の空間の密封が図られており、潤滑剤の漏れの防止及び内部への異物の侵入の防止が図られている。シールリップには潤滑剤が塗布されており、この潤滑剤の消耗に対し、トラニオンシャフトの摺動部への潤滑剤の補充に伴って潤滑剤がシールリップに供給されて補充される。シールリップは、潤滑剤の補充の際に、内部から供給される潤滑剤によって押し動かされるが、この時、変形して反り返ってしまうことがないように、夫々外側に延びている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開昭62−139705号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような従来の密封構造においては、潤滑剤の供給により、シールリップとトラニオンシャフトとの間の摺動部の摩耗を防止しつつ、外側からの異物の侵入の防止を図っている。しかしながら、トラック等の車両の使用環境の多様化に伴って、密封構造に対してはより過酷な環境における密封性の維持が求められるようになっており、異物に対する密封性能の更なる向上が求められてきている。
【0006】
本発明は、上述の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、泥水や雨水、ダスト等の異物に対する密封性能を向上させることができる密封構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明に係る密封構造は、軸線方向に延びる軸と、前記軸線方向に延びる貫通孔が形成されており該貫通孔に空間を持って前記軸が挿通される回動体との間の空間を密封するための密封構造であって、前記軸又は前記回動体の一方に相対回動不能に取り付けられる密封装置と、前記軸又は前記回動体の他方に相対回動不能に形成される被当接部とを備え、前記密封装置は、内側シール部と、外側シール部と、ダストカバーとを備え、前記被当接部は、前記軸線を中心とする環状の周面を有しており、前記内側シール部は、前記軸又は前記回動体の一方に相対回動不能に取り付けられる前記軸線を中心とする環状の内側取付環と、該内側取付環に取り付けられている前記軸線を中心とする環状の弾性体から形成された内側シールリップとを有しており、該内側シールリップは、前記内側取付環から前記軸線方向における一方が面する側である外側に向かって延びており、外側の部分において前記被当接部に摺動可能に当接し、前記外側シール部は、前記内側シール部の前記内側取付環に嵌着される前記軸線を中心とする環状の外側取付環と、該外側取付環に取り付けられている前記軸線を中心とする環状の弾性体から形成された外側シールリップと、前記外側取付環に前記外側シールリップよりも前記被当接部から離れる側において取り付けられている前記軸線を中心とする環状の弾性体から形成されたサイドリップとを有しており、前記外側シールリップは、前記内側シールリップよりも外側に位置しており、前記外側取付環から外側に向かって延びており、外側の部分において前記ダストカバーに摺動可能に当接し、前記サイドリップは、前記外側取付環から外側に向かって延びており、外側の端部において前記ダストカバーに摺動可能に当接し、前記ダストカバーは、前記被当接部の周面に取り付けられた環状の部材であり、前記内側取付環が取り付けられる部材との間に隙間を形成していることを特徴とする。
【0008】
本発明の一態様に係る密封構造において、前記被当接部の周面は、外側に向かうに連れて前記密封装置の側に近付いていく環状の移行部を有しており、該移行部は、前記内側シールリップと前記外側シールリップとの間に位置する。
【0009】
本発明の一態様に係る密封構造において、前記密封装置は外周側において、前記軸が保持されるブラケットに嵌着されており、前記被当接部は前記回動体の内側の端部に形成されており、前記被当接部の周面は外周側に面する面であり、前記ダストカバーは外周側の端部において前記ブラケットとの間に前記隙間を形成している。
【0010】
本発明の一態様に係る密封構造において、前記外側取付環は、前記サイドリップが取り付けられる部分が、前記内側取付環に取り付けられる部分の外側の端部よりも内側に位置している。
【0011】
本発明の一態様に係る密封構造において、前記ダストカバーはステンレス製である。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る密封構造によれば、泥水や雨水、ダスト等の異物に対する密封性能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施の形態に係る密封構造の概略構成を示すための軸線xに沿う断面における断面図である。
図2図1に示す本発明の実施の形態に係る密封構造の変形例に係る密封構造の概略構成を示すための断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0015】
図1は、本発明の実施の形態に係る密封構造1の概略構成を示すための軸線xに沿う断面における断面図である。図1においては、密封構造1の軸線xに沿う断面(以下、単に「断面」ともいう。)の一部が示されている。本実施の形態に係る密封構造1は、トラックのトラニオン式サスペンションにおいて、トラニオンシャフトとリーフスプリングが保持される回動体との間の空間を密封するための密封構造である。
【0016】
図1に示すように、密封構造1は、密封装置10と、被当接部30とを備えており、トラニオンシャフトとしての軸線x方向に延びる軸40と、スプリングシートとしての回動体50との間の空間を密封するために用いられる。具体的には、回動体50は、図示しないリーフスプリングが取り付けられてこれを保持しており、また、軸線x方向に延びる貫通孔51が形成されている。軸40は、回動体50の貫通孔51に空間を持って挿通されている。密封構造1は、回動体50と軸40との間の空間gを密封する。軸40は、図示しない車体のフレームに固定されたブラケット41に固定されており、ブラケット41は、外周側において軸40を覆う軸線xを中心とする環状のフランジ部42を備えており、フランジ部42の内周側の空間43は、内側において、回動体50と軸40との間の空間gに連通している。トラニオン式サスペンションにおいて、密封装置10は、軸40又は回動体50の一方に相対回動不能に取り付けられており、被当接部30は、軸40又は回動体50の他方に相対回動不能に形成されている。ここで、軸線x方向における一方(図1における矢印a方向)が面する側を外側とし、軸線x方向における他方(図1における矢印b方向)が面する側を内側とする。つまり、外側は、ブラケット41に対して軸40が延びている側である。
【0017】
回動体50は、具体的には、貫通孔51内に軸40の一部を収容しており、軸40の周りを回動自在になっており、また、Uボルト等によってリーフスプリングが固定される。回動体50は、軸40を中心にリーフスプリングを揺動可能にしている。また、回動体50は、内側の端の部分である内側端部52が、図1に示すように、軸線xを中心とする円筒状の形状を呈しており、この内側端部52をブラケット41のフランジ部42が外周側において取り囲んでおり、空間43が形成されている。回動体50と軸40との間の空間gには、図示しない滑り軸受、例えばメタルブッシュが設けられて摺動部が形成されており、空間gには潤滑剤が充填されて滑り軸受には潤滑剤が塗布されている。潤滑剤は例えばグリースである。これにより、回動体50は、軸40の周りを滑らかに回動することができる。滑り軸受には、例えば、軸線xに沿って延びる溝が形成されており、回動体50に設けられた図示しない潤滑剤供給口を介して滑り軸受にグリースが供給可能になっており、また、密封装置10にグリースが供給可能になっている。また、グリースは回動体50に設けられている図示しない潤滑剤排出口を介して排出可能になっている。
【0018】
密封装置10は、内側シール部11と、外側シール部12と、ダストカバー13とを備えている。密封装置10は、本実施の形態においては、軸10に対して相対回動不能に取り付けられており、具体的には図1に示すように、ブラケット41のフランジ部42の内周面44に嵌着されている。被当接部30は、軸線xを中心とする環状の周面31を有しており、本実施の形態においては、被当接部30は、回動体50に対して相対回動不能に形成されており、具体的には図1に示すように、回動体50の内側端部52に形成されており、被当接部30の周面31は、回動体50の内側端部52の外周面を形成している。
【0019】
内側シール部11は、外周側においてブラケット41のフランジ部42の内周面44に嵌着される軸線xを中心とする環状の内側取付環14と、内側取付環14に内周側において取り付けられている軸線xを中心とする環状の弾性体から形成された内側シールリップ15とを有している。内側シールリップ15は、内側取付環14から外側に向かって延びており、外側の端部において被当接部30の周面31に摺動可能に当接している。より具体的には、被当接部30の周面31が内側シールリップ15に対して摺動可能に接触している。
【0020】
内側シール部11において、内側取付環14は、具体的には図1に示すように、断面形状が略L字状の形状を呈しており、軸線x方向に延びる円筒状の部分である円筒部14aと、円筒部14aの内側の端部から内周側に向かって広がる円環板状の部分であるフランジ部14bとを有している。内側取付環14の円筒部14aは、ブラケット41のフランジ部42が形成する空間43に圧入されて嵌め込まれており、円筒部14aの外周面がフランジ部42の内周面44に密着している。これにより、内側取付環14がブラケット41に嵌着される。また、内側取付環14のフランジ部14bの内周側の端部には、内側シールリップ15が取り付けられている。
【0021】
内側シールリップ15は、具体的には、軸線x方向に延びる環状のリップ基部16と、リップ基部16の外側の端部に形成された環状のリップ先端部17とを有している。リップ基部16は、内側の端部において内側取付環14のフランジ部14bに取り付けられている。リップ先端部17は、断面形状が内周側に向かって凸の楔形状の環状の部分であり、被当接部30の周面31に摺動可能に当接している。つまり、被当接部30の周面31がリップ先端部17に対して摺動可能に接触している。また、内側シールリップ15の外周側には、リップ先端部17に背向する位置に、ガータスプリング18が嵌着されており、ガータスプリング18は、内側シールリップ15のリップ先端部17を径方向において内周側に付勢して、リップ先端部17に被当接部30に対する所定の大きさの緊迫力を与えている。リップ先端部17は、後述するように被当接部30の周面31に当接して、内側シール部11と被当接部30との間の密封を図る。
【0022】
外側シール部12は、外周側において内側シール部11の内側取付環14に嵌着されている軸線xを中心とする環状の外側取付環19と、外側取付環19に内周側において取り付けられている軸線xを中心とする環状の弾性体から形成されている外側シールリップ20とを有している。また、外側シール部12は、外側取付環19に外側シールリップ20よりも被当接部30から離れる側である外周側において取り付けられている軸線xを中心とする環状の弾性体から形成されたサイドリップ21を有している。外側シールリップ20は、外側取付環19から外側に向かって延びており、後述するように、外側の端部においてダストカバー13に摺動可能に当接しており、サイドリップ21は、外側取付環19から外側に向かって延びており、外側の端部においてダストカバー13に摺動可能に当接している。
【0023】
外側シール部12において、外側取付環19は、具体的には、断面形状が略L字状の形状を呈しており、軸線x方向に延びる円筒状の部分である円筒部22と、円筒部22の外側の端部から内周側に向かって広がる略円環板状の部分であるフランジ部23とを有している。外側取付環19の円筒部22は、ブラケット41に嵌着された内側取付環14の円筒部14aの内周側に圧入されて嵌め込まれており、円筒部22の外周面が内側取付環14の円筒部14aの内周面に密着している。これにより、外側取付環19が内側シール部11に嵌着される。また、外側取付環19のフランジ部23の内周側の端部には、外側シールリップ20が取り付けられており、外側取付環19の外側シールリップ20の外周側にはサイドリップ21が取り付けられている。
【0024】
外側シールリップ20は、具体的には、外側に向かって延びる環状のシール基部24と、シール基部24の外側の端部に形成された環状のリップ先端部25とを有している。シール基部24は、内側の端部において外側取付環19のフランジ部23に取り付けられている。リップ先端部25は、断面形状が内周側に向かって凸の楔形状の環状の部分であり、後述するようにダストカバー13に摺動可能に当接して、外側シール部12とダストカバー13との間の密封を図る。
【0025】
サイドリップ21は、具体的には、外側取付環19のフランジ部23から外側及び外周側に向かって斜めに延びる環状の弾性部材であり、軸線xを中心とする外側に向かって広がる円錐筒状の形状を有している。サイドリップ21は、図1に示すように、外側シールリップ20と同一の材料から一体に形成されている。つまり、サイドリップ21は、内側の端部において、外側シールリップ20のリップ基部24に結合している。
【0026】
上述の内側シール部11の内側取付環14及び外側シール部12の外側取付環19は、金属材から形成されており、この金属材としては、例えば、ステンレス鋼やSPCC(冷間圧延鋼)がある。また、内側シール部11の内側シールリップ15、並びに外側シール部12の外側シールリップ20及びサイドリップ21の弾性体としては、例えば、各種ゴム材がある。各種ゴム材としては、例えば、ニトリルゴム(NBR)、水素添加ニトリルゴム(H−NBR)、アクリルゴム(ACM)、フッ素ゴム(FKM)等の合成ゴムである。
【0027】
内側取付環14及び外側取付環19は、例えばプレス加工や鍛造によって製造され、内側シールリップ15、外側シールリップ20、及びサイドリップ21は成形型を用いて架橋(加硫)成型によって成形される。この架橋成型の際に、内側取付環14及び外側取付環19は夫々成形型の中に配置されており、内側シールリップ15、並びに外側シールリップ20及びサイドリップ21が架橋接着により夫々内側取付環14及び外側取付環19に接着され、外側シールリップ20が内側取付環14と、また、外側シールリップ20及びサイドリップ21が外側取付環19と一体的に成形される。
【0028】
ダストカバー13は、被当接部30の周面31に取り付けられた環状の部材であり、内側取付環14が取り付けられる部材との間に隙間を形成している。つまり、本実施の形態においては、ダストカバー13は、ブラケット41のフランジ部42との間に隙間を形成している。ダストカバー13は、具体的には、断面形状が略コ字(U字)であり、内周側において軸線x方向に延びる円筒状の部分である内周フランジ部13aと、内周フランジ部13aの外側の端部から外周側に向かって広がる円環板状の部分である円環部13bと、円環部13bの外周側の端部から内側に向かって延びる円筒状の部分である外側フランジ部13cとを有している。ダストカバー13の内側フランジ部13aは、被当接部30に圧入されて嵌め込まれており、内側フランジ部13aの内周面は、被当接部30の周面31に密着している。ダストカバー13は、これにより、被当接部30に嵌着されて固定されている。また、ダストカバー13は、円環部13bの外側面において、回動体50の外周に突出する環状の段部53の側面に当接して位置決めがなされている。図1に示すように、外側シールリップ20のリップ先端部25は、ダストカバー13の内側フランジ部13aの外周面に摺動可能に当接しており、サイドリップ21の先端は、ダストカバー13の円環部13bの内側面に摺動可能に当接している。より具体的には、ダストカバー13の内側フランジ部13aが摺動可能に外側シールリップ20のリップ先端部25に接触しており、ダストカバー13の円環部13bが摺動可能にサイドリップ21の先端に接触している。
【0029】
また、図1に示すように、外側取付環19のフランジ部23は、円筒部22の外側の端部よりも、または、円筒部22に接続している外周側の部分である外周部分23aよりも、サイドリップ21が取り付けられている内周側の部分である内周部分23bが内側に位置するように、内周部分23bが内側に凹んだ形状になっている。このフランジ部23の形状により、軸線x方向において密封装置10とダストカバー13との間の間隔が狭い場合であっても、外側取付環19のフランジ部23の内周部分23bとダストカバー13との間に、サイドリップ21が所望の姿勢でダストカバー13に接触するようになる間隔を確保することができる。
【0030】
ダストカバー13は、図1に示すように、外側フランジ部13cにおいてブラケット41のフランジ部42を外周側から覆っており、外側フランジ部13cとフランジ部42との間に隙間2を形成している。また、ダストカバー13は、円環部13bにおいてブラケット41のフランジ部42に外側から対向しており、円環部13bとフランジ部42との間に隙間3を形成している。そして、これらの微小な隙間2,3はラビリンスシールを形成している。このラビリンスシールにより、外部からの泥水や雨水、ダスト等の異物の密封構造1(密封装置10)の内部への侵入の防止を図ることができる。
【0031】
ダストカバー13は、ステンレス製であり、耐錆性、防錆性に優れている。これにより、外側シールリップ20やサイドリップ21の摺動部に錆が発生することを抑制することができ、外側シールリップ20やサイドリップ21の密封機能や密封性能を長く維持することができる。ダストカバー13は、ステンレス製に限らず他の金属から作成されていてもよい。但し、その表面、特に摺動面には、防錆メッキ処理等の防錆処理がなされていることが好ましい。
【0032】
また、図1に示すように、被当接部30は、外側に向かうに連れて密封装置10の側に近付いていく環状の移行部32を有しており、移行部32は、内側シールリップ15と外側シールリップ20との間に位置している。本実施の形態においては、移行部32において、被当接部30は、内側から外側に向かうに連れて径が大きくなっている。つまり、被当接部30の周面31は、移行部32よりも内側の部分が小径部33となっており、移行部32よりも外側の部分が大径部34となっており、小径部33において被当接部30の径は、大径部34における被当接部30の径よりも小さくなっている。移行部32は小径部33と大径部34とを滑らかに繋いでいる。そして、内側シールリップ15のリップ先端部17は、小径部33において被当接部30の周面31に当接しており、また、ダストカバー13の内側フランジ部13aは、大径部34において被当接部30に嵌着されている。具体的には、移行部32においては、被当接部30の径は外側に向かうに連れて漸次大きくなっており、滑らかに大きくなっている。移行部32は、例えば、円錐面状の形状をしており、内周側に凹む曲面状の形状をしており、または、外周側に凸の曲面状の形状をしている。
【0033】
密封構造1の使用状態において、内側シールリップ15と外側シールリップ20との摺動部がグリースによって潤滑されるように、密封装置10の内側シール部11と外側シール部12との間の空間にはグリースが充填されていることが好ましい。このため、内側シール部11と外側シール部12との間の空間にグリースを補充するために、回動体50に設けられた図示しない潤滑剤供給口からグリースが供給される。供給されたグリースは、貫通孔51の空間を介して被当接部30の周面31に沿って内側シールリップ15に達し、リップ先端部17を外周側に押して退けて内側シール部11と外側シール部12との間の空間に達する。このとき、被当接部30の周面31には、内側シールリップ15と外側シールリップ20と間において、外周側に向かって延びる移行部32が形成されているので、供給されたグリースは、移行部32に沿って外周側に誘導されて、内側シール部11と外側シール部12との間に供給されやすくなっている。また、移行部32は、グリースの供給の際のグリースの流路抵抗を低減することができる。このように、密封構造1においては、被当接部30の有する移行部32によって、内側シール部11と外側シール部12との間へのグリースの補充が容易に、また、効率的に行えるようになっている。
【0034】
また、被当接部30が移行部32を有することにより、大径部34に取り付けられるダストカバー13の取り付けの際に、小径部33における周面31に、ダストカバー13が接触することを抑制することができ、内側シールリップ15の当接部である被当接部30の小径部33における周面31に損傷を与えることを抑制することができる。
【0035】
上述の構成を有する密封構造1によれば、ダストカバー13が密封装置10が嵌着されるブラケット41のフランジ部42との間に微小な隙間2,3を形成し、この隙間2,3がラビリンスシールを形成する。このため、このラビリンスシールにより、外部からの泥水や雨水、ダスト等の異物の密封構造1の内部への侵入を、異物の侵入経路の上流側において防ぐことができ、異物に対する密封性能を向上させることができる。
【0036】
また、密封構造1においては、外側シールリップ20に加えて、異物の侵入経路において外側シールリップ20より上流側に、サイドリップ21が設けられており、サイドリップ21がダストカバー13に当接して、異物の侵入経路を遮断している。このため、異物の密封構造1の内部への侵入をより防ぐことができ、異物に対する密封性能をより向上させることができる。
【0037】
また、密封構造1においては、サイドリップ21の当接部としてダストカバー13が設けられているため、回動体50の段部53の被当接部30の周面31からの径方向の突出幅が小さい場合等、回動体50の形状に拘らず、サイドリップ21の軸線x方向への変位や軸線xからの偏心があった場合でも、サイドリップ21の当接を維持することができる。
【0038】
このように、本発明の実施の形態に係る密封構造1によれば、異物に対する密封性能を向上させることができる。
【0039】
次いで、上記本発明の実施の形態に係る密封構造1の変形例について説明する。図2は、上記本発明の実施の形態に係る密封構造1の変形例に係る密封構造5の概略構成を示すための断面図である。本変形例に係る密封構造5は、上述の密封構造1に対して、ダストカバーの形状が異なる。以下、上述の密封構造1に対して、同一の又は類似する構成については同一の符号を付してその説明を省略し、異なる部分のみ説明する。
【0040】
図2に示すように、本変形例に係る密封構造5は、上述の密封構造1のダストカバー13とは異なり、ダストカバー60を有している。ダストカバー60は、上述のダストカバー13とは異なり、ブラケット41のフランジ部42を外周側から覆う外側フランジ部13cを有しておらず、内側フランジ部13aと円環部13bとのみを有している。従って、ダストカバー60は、隙間2を有しておらず、円環部13bがフランジ部42に外側から対向して隙間3を形成し、隙間3のみにおいてラビリンスシールを形成している。本変形例に係る密封構造5は、上記密封構造1と同様の効果を奏することができる。
【0041】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は上記本発明の実施の形態に係る密封構造1,5に限定されるものではなく、本発明の概念及び特許請求の範囲に含まれるあらゆる態様を含む。また、上述した課題及び効果の少なくとも一部を奏するように、各構成を適宜選択的に組み合わせてもよい。例えば、上記実施の形態における、各構成要素の形状、材料、配置、サイズ等は、本発明の具体的使用態様によって適宜変更され得る。
【0042】
例えば、密封装置10は、軸40又は回動体50の一方に相対回動不能に取り付けられていればよく、被当接部30は、軸40又は回動体50の他方に相対回動不能に形成されていればよく、密封装置10は、上述のように、ブラケット41のフランジ部42に取り付けられているものに限られず、また、被当接部30は、上述のように、回動体50の内側端部52に形成されているものに限られない。
【0043】
例えば、図1,2において密封装置10及び被当接部30が外周側及び内周側方向において反転したような形状を有するようにしてもよい。つまり、密封装置10は、内側取付環14が回動体50の内側端部52に嵌着されて、内側シールリップ15がブラケット41のフランジ部42の内周面44に当接するようにしてもよい。この場合、被当接部30は、ブラケット41のフランジ部42の内周面44に形成され、図2に示すダストカバー60がブラケット41のフランジ部42の内周面44に嵌着される。そして、ダストカバー60の円盤部13bの内周側の端部と回動体50の内側端部52との間に隙間が形成され、ラビリンスシールが形成される。
【0044】
また、例えば、密封装置10は、回動体50と軸40との間に配設され、内側取付環14が回動体50の貫通孔51の内周面に嵌着され、内側シールリップ15が軸40の外周面に当接するようにしてもよい。この場合、被当接部30は、軸40の外周面に形成され、ダストカバー13,50は、回動体50の外側の端部との間に隙間2,3又は隙間3を形成する。また、この場合、軸40にスリーブを嵌着させて、スリーブに被当接部30を形成してもよい。
【0045】
また、例えば、密封装置10は、回動体50と軸40との間に配設され、内側取付環14が軸40の外周面に嵌着され、内側シールリップ15が回動体50の貫通孔51の内周面に当接するようにしてもよい。この場合、被当接部30は、回動体50の貫通孔51の内周面に形成され、図2に示すダストカバー60が回動体50の貫通孔51の内周面に嵌着される。そして、ダストカバー60の円盤部13bの内周側の端部と軸40の外周面との間に隙間が形成され、ラビリンスシールが形成される。
【0046】
また、本発明の実施の形態に係る密封構造1,5は、トラックのトラニオン式サスペンションにおいて用いられるものとしたが、本発明に係る密封構造は、トラックのトラニオン式サスペンションにおける密封構造に限られるものではなく、トラックや他の車両における所謂足回り部品等の同種の機構、一般機産業機械や農業機械、建築機械においても適用することができる。
【符号の説明】
【0047】
1,5,100 密封構造
2,3 隙間
10 密封装置
11 内側シール部
12 外側シール部
13,60 ダストカバー
13a 内周フランジ部
13b 円環部
13c 外周フランジ部
14 内側取付環
15 内側シールリップ
17,25 リップ先端部
19 外側取付環
20 外側シールリップ
21 サイドリップ
30 被当接部
31 周面
32 移行部
40 軸
41 ブラケット
42 フランジ部
43 空間
44 内周面
50 回動体
51 貫通孔
52 内側端部
【要約】
泥水や雨水、ダスト等の異物に対する密封性能を向上させることができる密封構造を提供する。
密封構造(1)において、密封装置(10)は回動体(50)と軸(40)との間の空間を密封する。密封装置(10)は、内側シール部(11)と、外側シール部(12)と、ダストカバー(13)とを備える。内側シール部(11)の内側シールリップ(15)は、内側取付環(14)から外側に向かって延び、被当接部(30)に摺動可能に当接している。外側シール部(12)は、外側シールリップ(20)と、外側シールリップ(20)よりも外周側にサイドリップ(21)とを有し、外側シールリップ(20)及びサイドリップ(21)は、外側取付環(19)から外側に向かって延び、ダストカバー(13)に摺動可能に当接している。ダストカバー(13)は、内側取付環(14)が取り付けられるブラケット(41)のフランジ部(42)との間に隙間(2,3)を形成している。
図1
図2