【実施例】
【0028】
つぎに、実施例について説明する。
(試料試験)
まず、
図1に示すプラズモンチップ1に相当する試料を作成した。
始めに、イオンビームスパッタを用いて、10
-5Paの真空条件下で、基層として厚さ100μmのシリコンウエハおよび表層として厚さ100nmの窒化珪素(Si
3N
4)からなる基板上に厚さ300nmの金薄膜を成膜した。つぎに、集束イオンビームを用いて、
図1に示すプラズモンチップ1の構造を作製した。ここで、金属梁11の幅寸法、および隣り合う金属梁11間のギャップを、それぞれ400nmとした。また組となる金属梁11a、11bを22組形成した。また、電極23、24を100μm四方の矩形に形成した。
【0029】
図7に、作成した試料を走査型電子顕微鏡で確認した結果を示す。
図7に示すように、所望の構造、寸法を有するプラズモンチップを得ることができた。
【0030】
つぎに、
図8に示す透過型顕微分光光学系を用いて、作成した試料に光を照射し、その透過光を観側した。
より詳細には、顕微鏡下に試料を配置し、TM偏光保持したハロゲン光を明視野系において照射した。そして、試料の透過光を紫外可視マルチチャンネル分光器により観測した。ここで、試料の電極23、24間には、ファンクションジェネレータを用いて1V刻みで1V〜10Vの電圧を印加した。
【0031】
図9に、上記透過型顕微分光光学系を用いて観測した試料の透過光のスペクトルを示す。
図9に示すように、波長420nmから510nmの領域において共鳴ピークが得られることが分かった。この共鳴ピークは、印加電圧が大きくなる(金属梁間のギャップが小さくなる)に従い長波長側へ最大100nm程度シフトすることが分かった。
【0032】
(数値計算1)
つぎに、2次元有限差分時間領域法を用いた数値計算によりプラズモンチップの光学特性を評価した。
図10に示すように、数値計算におけるプラズモンチップの構造を、厚さ100nmの窒化珪素(Si
3N
4)の基板上に厚さ300nmの金薄膜が形成された構造とした。ここで、金の誘電率として、A.D.Rakicらの実験データ(Rakic, A. D., Djurisic, A.
B., Elazar, J. M. & Majewski, M. L. Optical Properties of Metallic Films
for Vertical-Cavity Optoelectronic Devices. Appl. Opt. 37, 5271-5283 (1998))をドルーデ・ローレンツモデルで表現したものを用いた。また、波長619.9nmのときの窒化珪素(Si
3N
4)の誘電率を、実部4.08、虚部0.00とした。また、金属梁の幅寸法Mwを400nmとし、組となる金属梁を22組とした。また、金属梁間のギャップ幅として、組となる金属梁間のギャップ幅を可変ギャップGvとし、組と組の間のギャップ幅を固定ギャップGfとした。
【0033】
プラズモンチップの金薄膜側からTM偏光させた光を入射させた。入射光の偏光方向は金属梁の幅方向(x方向)とした。この入射光のスポット径(半値幅)は、金属梁の幅方向(x方向)に11.6μm、金属梁の長手方向(y方向)に無限とした。
そして、可変ギャップGvを400nm〜0nmの間で40nm間隔で変化させるとともに、固定ギャップGfを800nm-Gvとして、それぞれの条件におけるプラズモンチップの透過光および反射光のスペクトルを遠方解により算出した。
なお、2次元有限差分時間領域法におけるメッシュ間隔は、金属梁の幅方向(x方向)および金属梁の厚み方向(z方向)にそれぞれ10nmとした。
【0034】
図11に、数値計算により算出したプラズモンチップの透過光および反射光のスペクトルを示す。
図11(a)に示すように、波長500nmから650nmの領域の透過光スペクトルにおいて共鳴ピークが得られた。この共鳴ピークは、可変ギャップGvが小さくなる(印加電圧が大きくなることに相当する)に従い長波長側へシフトすることが分かった(
図11(b)参照)。
以上のように、試料試験と数値計算の双方において、共鳴ピークのレッドシフトが確認された。
【0035】
つぎに、可変ギャップGvが200nm、固定ギャップGfが600nmの場合において、共鳴波長583.10nmの光(
図11(b)におけるα)を入射した場合、および非共鳴波長482.56nmの光(
図11(b)におけるβ)を入射した場合における電界強度分布を数値計算により求めた。
図12(a)に共鳴波長の光を入射した場合の電界強度分布、
図12(b)に非共鳴波長の光を入射した場合の電界強度分布を示す。なお、スケールバーは電界強度を示し、黒色はその最小値を、白色はその最大値を表す。また、電界強度分布内で示す白矢印は、ある瞬間における電気力線の方向を示す。
【0036】
図12(a)に示すように、共鳴波長の光を入射した場合には、金属端、固定ギャップGf側の側面、および金属-基板界面に大きな電界増強が見られた。また、電気力線が金属表面へ垂直に生じていることから、金属表面において電荷の粗密波が形成され、表面プラズモンが励起されていることが分かる。また、金属界面にて、電気力線が密になることから、金属端において強い電場増強を形成したことが裏付けられる。
【0037】
一方、
図12(b)に示すように、非共鳴波長の光を入射した場合には、金属界面に大きな電界増強は見られなかった。しかし、電気力線が金属表面へ垂直に生じており、共鳴波長から外れても弱い光共鳴を持ったと考えられる。ただし、金属内への光吸収が少しでもあれば、非共鳴波長でも光共鳴を有することは想像される。
【0038】
以上より、試料試験および数値計算において確認された共鳴ピークはプラズモン共鳴ピークであることが確認された。これにより、プラズモン共鳴ピークのレッドシフトが確認された。そして、本発明に係るプラズモンチップが1つのチップでプラズモン共鳴波長を変更できることが明らかとなった。
なお、試料試験と数値計算において、透過光スペクトルに若干の違いが見られるが、これは、試料における金属梁の角の削れや、金属梁やギャップの若干のばらつきに起因すると考えられる。
【0039】
(数値計算2)
上記2次元有限差分時間領域法を用いた数値計算1において、可変ギャップGvを400nm〜0nmの間で40nm間隔で変化させるとともに、固定ギャップGfを800nm-Gvとして、それぞれの条件におけるプラズモンチップの透過光スペクトルおよび反射光スペクトルの赤外領域(波長1,100nm〜2,000nm)を算出した。その余の条件は、数値計算1と同様である。
【0040】
その結果、
図13に示すように、透過光スペクトルおよび反射光スペクトル共に、波長1,700nm〜1,900nmの領域において、Q値の高い共鳴ピークが現れることが分かった。しかも、この共鳴ピークは可変ギャップGvが小さくなるに従い短波長側へシフトすることが分かった。なお、この共鳴ピークはWood’s anomalyという異常回折であることが考えられる。
以上より、本発明に係るプラズモンチップは、異常回折による共鳴ピークも変更できることが明らかとなった。
【0041】
(数値計算3)
図14に示すように、上記2次元有限差分時間領域法を用いた数値計算1において、入射光の偏光方向を金属梁の長手方向(y方向)とし、可変ギャップGvを400nm〜0nmの間で40nm間隔で変化させるとともに、固定ギャップGfを800nm-Gvとして、それぞれの条件におけるプラズモンチップの透過光スペクトルおよび反射光スペクトルを算出した。その余の条件は、数値計算1と同様である。
【0042】
その結果、
図15(a)に示すように、透過光スペクトルにおいては、可変ギャップGvが小さくなるに従い波長1,600nm付近の領域にピークが表れ、透過率が約0%から約65%まで上昇することが確認された。また、
図15(b)に示すように、反射光スペクトルにおいては、可変ギャップGvが大きくなるに従い波長1,000nm〜1,600nmの領域の反射率が約10%から約90%まで上昇することが確認された。
【0043】
以上より、本発明に係るプラズモンチップは、特定波長の光の透過および反射のオン・オフを制御可能であり、光シャッタとして利用できることが確認された。なお、数値計算3における構造のプラズモンチップ(
図14参照)では、光ファイバーなどで用いられる光通信波長帯である1,260〜1,625nmの領域の光の制御が可能である。構造条件や金属の種類を選択することで、その他の波長領域の光を制御可能にすることもできる。