特許第6094969号(P6094969)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6094969
(24)【登録日】2017年2月24日
(45)【発行日】2017年3月15日
(54)【発明の名称】ヒドロキシスチレン誘導体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 67/08 20060101AFI20170306BHJP
   C07C 69/157 20060101ALI20170306BHJP
   C07C 68/06 20060101ALI20170306BHJP
   C07C 69/96 20060101ALI20170306BHJP
   C07C 41/18 20060101ALN20170306BHJP
   C07C 43/215 20060101ALN20170306BHJP
【FI】
   C07C67/08
   C07C69/157
   C07C68/06 Z
   C07C69/96 Z
   !C07C41/18
   !C07C43/215
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-131311(P2013-131311)
(22)【出願日】2013年6月24日
(65)【公開番号】特開2015-3890(P2015-3890A)
(43)【公開日】2015年1月8日
【審査請求日】2016年3月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000187046
【氏名又は名称】東レ・ファインケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100182785
【弁理士】
【氏名又は名称】一條 力
(72)【発明者】
【氏名】橋本 昌和
(72)【発明者】
【氏名】石川 学哉
(72)【発明者】
【氏名】中谷 仁郎
【審査官】 水島 英一郎
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2007/110881(WO,A1)
【文献】 特表2007−530548(JP,A)
【文献】 特開2003−252828(JP,A)
【文献】 特開2002−179621(JP,A)
【文献】 特開平04−253939(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 39/20
C07C 37/50
C07C 43/178
C07C 69/157
C07C 69/96
C07C 67/08
C07C 43/14
C07C 39/19
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の一般式(1)
【化1】
(式中、R、R、RおよびRは、互いに独立して、H、OH基、または、OCH基のいずれかである)で示されるヒドロキシ桂皮酸化合物を、水とN,N−ジメチルホルムアミドを合計した量に対して、0.2重量%から50重量%の水を使用して、水の存在下、N,N−ジメチルホルムアミド中で、脱炭酸反応させて、下記の一般式(2)
【化2】
(式中、R、R、RおよびRは、互いに独立して、H、OH基、または、OCH基のいずれかである)で示されるヒドロキシスチレン化合物を製造し、次いで、アシル化剤および/または炭酸エステル化剤とを反応させて得られる下記の一般式(3)
【化3】
(式中、R、R、RおよびRは、互いに独立して、H、OR基、または、OCH基のいずれかであり、Rは炭素数2〜4のアシル基、炭素数2〜15の炭化水素が結合したオキシカルボニル基のいずれかである)で示されるヒドロキシスチレン誘導体の製造方法であって、脱炭酸反応で得られた反応混合物中に含有するヒドロキシスチレン化合物を単離することなく、ヒドロキシスチレン誘導体に変換するヒドロキシスチレン誘導体の製造方法。
【請求項2】
脱炭酸反応における反応温度が100℃以上の温度である請求項1に記載のヒドロキシスチレン化合物の製造方法。
【請求項3】
ヒドロキシ桂皮酸化合物が、p−ヒドロキシ桂皮酸である請求項1または2に記載のヒドロキシスチレン化合物の製造方法。
【請求項4】
ヒドロキシスチレン化合物からヒドロキシスチレン誘導体への変換反応における反応温度が0〜100℃の温度である請求項1〜のいずれかに記載のヒドロキシスチレン誘導体の製造方法。
【請求項5】
ヒドロキシスチレン誘導体が、p−アセトキシスチレン、または、p−(tert−ブトキシカルボニルオキシ)スチレンである請求項1〜のいずれかに記載のヒドロキシスチレン誘導体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は工業的に有用なヒドロキシスチレン誘導体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒドロキシスチレン化合物およびその誘導体は、多種多様な工業用途において潜在的な有用性を有する芳香族化合物である。例えば、これらの化合物、および分子中の水酸基を保護して得られる化合物は、樹脂、エラストマー、接着剤、コーティング、自動車仕上げ塗装およびインクの製造用のモノマー用途、ならびに電子材料用途に用いられる。ここで、保護とは、反応性の高い水酸基を反応不活性、かつ元の水酸基に変換可能な官能基に誘導化する操作を指す。
【0003】
特に、近年の半導体デバイスの微細化と高集積化を背景として、高解像度と高感度を有するフォトレジスト材料が要望される中、酸発生剤との組み合わせで、光照射によって容易に脱離する保護基にて水酸基を保護したヒドロキシスチレン化合物のポリマーが有用であることが知られている。しかし、この原料モノマーであるヒドロキシスチレン化合物自体は不安定であるため、一般に溶媒に希釈もしくは水酸基を保護した化合物が使用されている。すなわち、ヒドロキシスチレン化合物のポリマーの原料となり得る、水酸基を保護したヒドロキシスチレン誘導体はレジスト材料の原料として非常に有用な化合物であり、例えば、p−アセトキシスチレン、p−(tert−ブトキシカルボニルオキシ)スチレンが挙げられる。
【0004】
水酸基を保護したヒドロキシスチレン誘導体の製造方法としては、従来、種々のものが知られており、例えば、ヒドロキシベンズアルデヒドをアセチル化してアセトキシベンズアルデヒド、tert−ブトキシカルボニル化してtert−ブトキシカルボニルオキシベンズアルデヒドとし、続いて、亜鉛金属とトリメチルクロロシランや塩化アセチルのような活性な塩化物を触媒としてジブロモメタンを反応させ、アセトキシスチレン、tert−ブトキシカルボニルオキシスチレンを得る方法が開示されている(特許文献1参照)。また、1−(4−アセトキシフェニル)エチルカルボキシレートを、不活性熱媒中、酸性触媒および重合防止剤の存在下、160〜200℃、0.1〜300ミリバール(10kPa〜30MPa)で脱カルボン酸反応することにより、p−アセトキシスチレンを製造する方法(特許文献2参照)、p−(tert−ブトキシ)スチレンを出発原料として、硫酸、リン酸等の鉱酸、メタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸等の有機スルホン酸、ポリスチレンスルホン酸等のカチオン交換樹脂等の触媒存在下に、無水酢酸、塩化アセチル等のアセチル化剤と反応させ、p−アセトキシスチレンを製造する方法(特許文献3参照)が既に知られている。
【0005】
しかしながら、上記各方法では目的物を得るまでに多段階の反応が必要であり、また、高価な原料や反応試薬、特殊な反応を行うための設備が必要となることから、経済性および安全性に優れた製法として満足できるものではない。
【0006】
一方、ヒドロキシ桂皮酸化合物の脱炭酸反応によりヒドロキシスチレン化合物が得られることが古くから知られている。また、この方法で得られたヒドロキシスチレン化合物の水酸基を保護したヒドロキシスチレン誘導体を得ることもできる。
【0007】
例えば、p−ヒドロキシベンズアルデヒドとマロン酸からp−ヒドロキシ桂皮酸を得た後、キノリン中で銅触媒を添加し、225℃で加熱し、その後、減圧蒸留を行うことでp−ヒドロキシスチレンが得られることが報告されている(非特許文献1参照)。しかし、この方法で得られるp−ヒドロキシスチレンの収率は41%と低く、銅触媒の使用や高温での反応など工業化および経済性の面で満足できるものではない。
【0008】
また、特許文献4にはアミン触媒を用いたp−ヒドロキシ桂皮酸の脱炭酸方法が記載されている。その方法では、アミン触媒、すなわち1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]ウンデカ−7−エンおよびヒドロキノンの存在下にて、p−ヒドロキシ桂皮酸をジメチルスルホキシド中で135℃にて脱炭酸反応して、p−ヒドロキシスチレンが生成することが記載されている。さらには、得られたp−ヒドロキシスチレンの水酸基をテトラヒドロピラニル基で保護し、4−テトラヒドロピラン−2−イルオキシスチレンが生成することが記載されている。しかし、この方法では脱炭酸反応で得られた反応液をジエチルエーテルで希釈した後、5回の水洗と、2回のn−ヘキサン溶媒による再結晶を行うなど、反応液中に含まれるp−ヒドロキシスチレンと、アミン触媒を初めとする共存不純物を分離するために煩雑な後処理を必要とし、工業化および経済性の面で満足できるものではない。
【0009】
また、特許文献5には非アミン塩基触媒として酢酸カリウムなどの金属塩を使用し、極性非プロトン性溶媒中でp−ヒドロキシ桂皮酸を脱炭酸反応して、p−ヒドロキシスチレンを高収率で得る方法が開示されている。しかしながら、電子材料等、その用途によっては極微量の金属の含有を嫌う場合があり、金属塩を触媒として使用すると生成物であるヒドロキシスチレン誘導体に残存するリスクが伴い、満足できるものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】日本国特開平8−157410号公報
【特許文献2】日本国特開平6−192172号公報
【特許文献3】日本国特開2000−178227号公報
【特許文献4】米国特許第5,274,060号明細書
【特許文献5】日本国特許第4764416号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】R. C. Sovish, J. Org. Chem., 24, 1345 (1959).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、比較的安価で除去が容易な試薬を用い、比較的穏やかな条件を使用して、簡便に且つ高い収率で、ヒドロキシスチレン誘導体を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記従来技術の現状に鑑み、鋭意検討の結果、比較的穏やかな条件の下で、安価で除去の容易な試薬を用い、高収率でヒドロキシスチレン化合物を製造する方法を見出した。すなわち、上記目的を達成するために、本発明にかかるヒドロキシスチレン誘導体の製造方法は、下記の一般式(1)
【0014】
【化1】
【0015】
(式中、R、R、RおよびRは、互いに独立して、H、OH基、または、OCH基のいずれかである)で示されるヒドロキシ桂皮酸化合物を、水とN,N−ジメチルホルムアミドを合計した量に対して、0.2重量%から50重量%の水を使用して、水の存在下、N,N−ジメチルホルムアミド中で脱炭酸反応させ、下記の一般式(2)
【0016】
【化2】
【0017】
(式中、R、R、RおよびRは、互いに独立して、H、OH基、または、OCH基のいずれかである)で示されるヒドロキシスチレン化合物を製造し、次いで、一般式(2)の水酸基を保護して下記一般式(3)
【0018】
【化3】
【0019】
(式中、R、R、RおよびRは、互いに独立して、H、OR基、または、OCH基のいずれかであり、Rは炭素数2〜4のアシル基、炭素数2〜15の炭化水素が結合したオキシカルボニル基のいずれかである)で示されるヒドロキシスチレン誘導体を得るヒドロキシスチレン誘導体の製造方法であって、脱炭酸反応で得られた反応混合物中に含有するヒドロキシスチレン化合物を単離することなく、ヒドロキシスチレン誘導体に変換することを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明のヒドロキシスチレン誘導体の製造方法では、短時間の反応でヒドロキシスチレン化合物を得ることが出来る。このため反応時の熱履歴を低減でき、不純物の副生を抑制することができるため、高収率でヒドロキシスチレン誘導体を製造することができる。
【0021】
また、反応に用いた水および/または水酸基含有化合物、およびアミド結合含有溶媒は、反応後に水洗や濃縮操作で容易に除去することができるため、ヒドロキシスチレン誘導体の単離が容易となる。
【0022】
また、本発明のヒドロキシスチレン誘導体の製造方法では、水の存在下に反応を行い、N,N−ジメチルホルムアミド中で脱炭酸反応を行うので、水が共存しても良い。このため、たとえば原料に水を含む未乾燥のヒドロキシ桂皮酸化合物を用いることができる。また、同様に水を含むN,N−ジメチルホルムアミドを使用することができるため、たとえば、脱炭酸反応後に水洗除去したN,N−ジメチルホルムアミドを、単蒸留などの簡単な精製を施しただけで繰り返し使用することが出来るため、経済的であり、環境に優しい。
【0023】
本発明により得られるヒドロキシスチレン誘導体は、製造過程で触媒などに金属塩を使用しないため、金属塩の残存リスクが無く、電子材料等の極微量の金属の含有を嫌う用途に好適に使用することが出来る。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に、本発明のヒドロキシスチレン誘導体の製造方法について詳細に記載する。
【0025】
本発明のヒドロキシスチレン誘導体の製造方法は、下記の一般式(1)
【0026】
【化4】
【0027】
(式中、R、R、RおよびRは、互いに独立して、H、OH基、または、OCH基のいずれかである)で示される4位に水酸基を有するヒドロキシ桂皮酸化合物を基質に用いる。ヒドロキシ桂皮酸化合物の二重結合における立体配置としてトランス体とシス体とが存在し、いずれの異性体を用いても良い。本発明で用いられるヒドロキシ桂皮酸化合物は、その安定性から、トランス体が好ましい。また、本発明で用いられるヒドロキシ桂皮酸化合物は、天然に得られるものを用いることもできる。
【0028】
本発明で用いられるヒドロキシ桂皮酸化合物は、具体的には、p−ヒドロキシ桂皮酸(クマル酸)(R=R=R=R=H)、4−ヒドロキシ−3−メトキシ桂皮酸(フェルラ酸)(R=R=R=H、R=OCH)、3,4−ジヒドロキシ桂皮酸(カフェー酸)(R=R=R=H、R=OH)、4−ヒドロキシ−3、5−ジメトキシ桂皮酸(シナピン酸)(R=R=H、R=R=OCH)などが挙げられる。上記ヒドロキシ桂皮酸化合物の中でもp−ヒドロキシ桂皮酸(クマル酸)、4−ヒドロキシ−3−メトキシ桂皮酸(フェルラ酸)が好ましく用いられる。
【0029】
ヒドロキシ桂皮酸化合物は乾燥状態のものを用いても良いし、水、水酸基含有化合物および/またはその他の溶媒を含む未乾燥状態のものを用いても良い。
【0030】
本発明のスチレン誘導体の製造方法は、好ましくは、脱炭酸反応は、100℃以上で行う。100℃未満で行うと、脱炭酸反応の速度が遅く、効率的でない。
【0031】
本発明のヒドロキシスチレン誘導体の製造方法は、ヒドロキシ桂皮酸化合物を脱炭酸反応する際に、水および/または水酸基含有化合物を、少なくとも1種のアミド結合含有溶媒を含む溶媒と共に用いる。
【0032】
水としては、特に限定されないが、一般的な工業用水を用いることができる。すなわち、河川、地下水、湖沼、海水、かん水等を水源とし、沈殿、凝析、ろ過、蒸留、イオン交換、限外ろ過、逆浸透法等で精製したものである。
【0036】
上記のうち、本発明では、水が用いられ水を使用することで、その沸点が100℃であることから、反応に必要な100℃の温度の維持が容易となり、化合物の水溶性が高いことから水洗による反応液からの除去を容易にすることができる。
【0038】
水の使用量は、水とN,N−ジメチルホルムアミドを合計した量に対して、0.2重量%から50重量%であり、好ましくは0.2重量%から30重量%であり、さらに好ましくは0.5重量%から20重量%である。0.2重量%から50重量%の範囲内とすることで脱炭酸反応を速やかに進めることができ、高収率でスチレン誘導体を製造することができる。水の使用量を0.2重量%から50重量%の範囲内に調整する方法としては、水とN,N−ジメチルホルムアミドを、それぞれ事前に計量して混合することによって調整しても良いし、基質であるヒドロキシ桂皮酸化合物、水、N,N−ジメチルホルムアミドなど、反応に供する原料を仕込んで混合した後に、蒸留操作を行い、水を系外に除去することによって、0.2重量%から50重量%の範囲内に調整しても良い。
【0039】
本発明のヒドロキシスチレン誘導体の製造方法では、ヒドロキシ桂皮酸化合物を脱炭酸反応する際にN,N−ジメチルホルムアミドを用いる。
【0043】
とN,N−ジメチルホルムアミドの混合比は、水とN,N−ジメチルホルムアミドを合計した量に対して、水の使用量を、0.2重量%から10重量%とするのが好ましく、より好ましくは1重量%から5重量%とするのが好ましい。
【0044】
本発明のヒドロキシスチレン誘導体の製造方法において、脱炭酸反応の際に、重合禁止剤を用いても良い。重合禁止剤としては、例えば、ヒドロキノン、4−メトキシフェノール、2−tert−ブチルヒドロキノン、4−tert−ブチルカテコール、フェノチアジン、2−メトキシフェノチアジン、ビス(1−オキシル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)セバケート、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル、1,6−ヘキサメチレン−ビス(N−ホルミル−N−(1−オキシル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)アミン)、N−ニトロソ−N−フェニルヒドロキシルアミンアンモニウム、N−ニトロソ−N−フェニルヒドロキシルアミンアルミニウムが挙げられる。
【0045】
前記のようにして得られたp−ヒドロキシスチレン化合物を用い、水酸基を保護することで、下記の一般式(3)
【0046】
【化5】
【0047】
(式中、R、R、RおよびRは、互いに独立して、H、OR基、または、OCH基のいずれかであり、Rは炭素数2〜4のアシル基、炭素数2〜15の炭化水素が結合したオキシカルボニル基のいずれかである)で示されるヒドロキシスチレン誘導体が得られる。Rは、好ましくは、アセチル基、プロピオニル基、ブチロニル基、tert−ブトキシカルボニル基、ベンジルオキシカルボニル基、アリルオキシカルボニル基、9−フルオレニルメチル基であり、より好ましくは、アセチル基、tert−ブトキシカルボニル基である。
【0048】
本発明のヒドロキシスチレン誘導体の製造方法により製造されるヒドロキシスチレン誘導体は、さらにより好ましくは、p−ヒドロキシスチレン、4−ヒドロキシ−3−メトキシスチレン、3,4−ジヒドロキシスチレン、4−ヒドロキシ−3、5−ジメトキシスチレン、p−アセトキシスチレン、p−(tert−ブトキシカルボニルオキシ)スチレンである。
【0049】
本発明のヒドロキシスチレン誘導体の製造方法において、ヒドロキシスチレン化合物は、ヒドロキシスチレン化合物を含む脱炭酸反応液から、単離せず反応に供する
【0050】
本発明のヒドロキシスチレン誘導体の製造方法において、脱炭酸反応時に、水を使用した場合、反応混合物から水を取り除く操作を実施しても良い。水を取り除く操作としては、共沸による水の除去、過剰の酸無水物投入による水の除去、無水硫酸ナトリウム、無水硫酸マグネシウム、モレキュラーシーブスなどの固体乾燥剤を用いる水の除去が挙げられるが、操作の簡便さ、経済性、金属含有の懸念を考慮すると、共沸による水の除去が好ましく用いられる。共沸溶媒としては、アクリルアルデヒド、アクリル酸エチル、アクリロニトリル、アセチルアセトン、アニソール、アニリン、安息香酸エチル、エタノール、1−オクタノール、2−オクタノール、オクタン、ギ酸、クロロベンゼン、クロロホルム、酢酸エチル、酢酸メチル、四塩化炭素、1,4−ジオキサン、シクロヘキサノール、シクロヘキサノン、シクロヘキサン、ジデカン、トリメチルアミン、トルエン、ナフタレン、ニトロエタン、ピリジン、フェノール、1−ブタノール、2−ブタノール、フルフリルアルコール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ヘキサノール、ヘキサン、ヘキシルアミン、1−ヘプタノール、3−ヘプタノン、4−ヘプタノン、ベンゼン、1−ペンタノール、2−ペンタノール、メタクリル酸メチル、2−メチルピリジン、3−メチルピリジン、4−メチルピリジン、酪酸メチルが挙げられるが、好ましくは、酢酸エチル、シクロヘキサノール、シクロヘキサノン、トルエン、ピリジン、フェノール、1−ブタノール、2−ブタノール、フルフリルアルコール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ヘキサノール、1−ヘプタノール、3−ヘプタノン、4−ヘプタノン、1−ペンタノール、2−ペンタノール、2−メチルピリジン、3−メチルピリジン、4−メチルピリジンであり、より好ましくはシクロヘキサノン、トルエンである。
【0051】
本発明のヒドロキシスチレン誘導体の製造方法において、アシル化反応の溶媒は、脱炭酸反応の溶媒と同一でも良いし、異なっていても良い。例えば、疎水性有機溶媒と水を加えて有機相にヒドロキシスチレン誘導体を、水相にアミド結合含有溶媒、アルコール化合物および/またはフェノール化合物を分配、分離の後、疎水性有機溶媒に含有するヒドロキシスチレン誘導体をアシル化反応に供しても良い。疎水性有機溶媒としては、ヘキサン、2−メチルペンタン、2,2−ジメチルブタン、2,3−ジメチルブタン、ヘプタン、オクタン、イソオクタン、ノナン、トリメチルエチル、デカン、ドデカン、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、クメン、メシチレン、シクロヘキシルベンゼン、ジエチルベンゼン、シクロペンタン、メチルシクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジヘキシルエーテル、アニソール、フェネトール、ジフェニルエーテル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチルおよび酢酸イソブチルなどが挙げられるが、好ましくは、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、酢酸エチルである。これら溶媒は単一で使用しても良いし、二つ以上の溶媒を混合して用いても良い。有機相にわずかに残留する水分は、上述の如き水を取り除く操作で除去しても良い。
【0052】
ヒドロキシ桂皮酸化合物を脱炭酸反応して得られたヒドロキシスチレン化合物を含む溶液にアシル化剤を添加することで、アシロキシスチレン化合物を得ることができる。アシル化剤としては、酢酸、プロピオン酸、酪酸、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸、塩化アセチル、塩化プロピオニルが挙げられるが、薬品の安定性、取り扱いの容易さから無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸が好ましく用いられ、特に無水酢酸が好ましく用いられる。アシル化剤の添加量は、ヒドロキシスチレン類の水酸基当量に対して1.1〜10モル倍量、好ましくは1.1〜5モル倍量、より好ましくは1.1〜3モル倍量である。また、アシル化は触媒存在下実施しても良い。触媒としては、有機第三級アミン、例えばトリメチルアミン、トリエチルアミン、トリ(n−プロピル)アミン、トリ(イソプロピル)アミン、トリ(n−ブチルアミン)、ピリジン、2−メチルピリジン、3−メチルピリジン、4−メチルピリジン、N,N−ジメチルアミノピリジンが挙げられ、好ましくは、トリエチルアミン、ピリジン、N,N−ジメチルアミノピリジンである。これら触媒は単一で使用しても良いし、二つ以上の触媒を混合して用いても良い。触媒の添加量は、ヒドロキシスチレン類の水酸基当量に対して各々0.01〜10モル倍量、好ましくは各々0.01〜5モル倍量、より好ましくは各々0.05〜3モル倍量である。
【0053】
ヒドロキシ桂皮酸化合物を脱炭酸反応して得られたヒドロキシスチレン類のアシル化は、好ましくは、0〜100℃の範囲で行う。0℃より低いと、反応の進行が遅く、効率的でない。100℃より高いと、ヒドロキシスチレン誘導体が多量化し、収率が低下するおそれがある。
【0054】
本発明のヒドロキシスチレン誘導体の製造方法において、炭酸エステル化反応の溶媒は、脱炭酸反応の溶媒と同一でも良いし、異なっていても良い。例えば、疎水性有機溶媒と水を加えて有機相にヒドロキシスチレン誘導体を、水相にアミド結合含有溶媒、アルコール化合物および/またはフェノール化合物を分配、分離の後、疎水性有機溶媒に含有するヒドロキシスチレン誘導体を炭酸エステル化反応に供しても良い。疎水性有機溶媒としては、ヘキサン、2−メチルペンタン、2,2−ジメチルブタン、2,3−ジメチルブタン、ヘプタン、オクタン、イソオクタン、ノナン、トリメチルエチル、デカン、ドデカン、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、クメン、メシチレン、シクロヘキシルベンゼン、ジエチルベンゼン、シクロペンタン、メチルシクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジヘキシルエーテル、アニソール、フェネトール、ジフェニルエーテル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチルおよび酢酸イソブチルなどが挙げられるが、好ましくは、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、酢酸エチルである。これら溶媒は単一で使用しても良いし、二つ以上の溶媒を混合して用いても良い。有機相にわずかに残留する水分は、上述の如き水を取り除く操作で除去しても良い。
【0055】
ヒドロキシ桂皮酸化合物を脱炭酸反応して得られたヒドロキシスチレン化合物を含む溶液に炭酸エステル化剤を添加することで、ヒドロキシスチレン化合物の炭酸エステル化合物を得ることができる。炭酸エステル化剤としては、二炭酸ジtert−ブチル、2−(tert−ブトキシカルボニルオキシイミノ)−2−フェニルアセトニトリル、アジ化tert−ブトキシカルボニル、クロロギ酸ベンジル、クロロギ酸アリル、クロロギ酸9−フルオレニルメチルが挙げられ、好ましくは、二炭酸ジtert−ブチルが用いられる。炭酸エステル化剤の添加量は、ヒドロキシスチレン化合物の水酸基当量に対して1.1〜20モル倍量、好ましくは1.1〜10モル倍量、より好ましくは1.1〜5モル倍量である。また、炭酸エステル化は触媒存在下実施しても良い。触媒としては、水素化ナトリウム、水素化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸マグネシウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリ(n−プロピル)アミン、トリ(イソプロピル)アミン、トリ(n−ブチルアミン)、ピリジン、2−メチルピリジン、3−メチルピリジン、4−メチルピリジン、N,N−ジメチルアミノピリジンが挙げられ、好ましくは、トリエチルアミン、ピリジン、N,N−ジメチルアミノピリジンである。これら触媒は単一で使用しても良いし、二つ以上の触媒を混合して用いても良い。触媒の添加量は、ヒドロキシスチレン類の水酸基当量に対して各々0.01〜10モル倍量、好ましくは各々0.01〜5モル倍量、より好ましくは各々0.05〜3モル倍量である。
【0056】
ヒドロキシ桂皮酸化合物を脱炭酸反応して得られたヒドロキシスチレン類の炭酸エステル化は、好ましくは、0〜100℃の範囲で行う。0℃より低いと、反応の進行が遅く、効率的でない。100℃より高いと、ヒドロキシスチレン誘導体が多量化し、収率が低下するおそれがある。
【0057】
前記のようにして得られたヒドロキシスチレン誘導体の精製は、(1)反応溶媒の留去、(2)疎水性溶媒による抽出、(3)抽出溶媒の留去、(4)蒸留および(5)晶析などの一般的な単位操作の組み合わせにより達成できる。
【0058】
例えば、反応終了後の混合物に水と有機溶媒を加え、目的物を有機相に抽出し、水相を分離除去する。得られた有機相から溶媒を留去することで目的物を取得できる。
【0059】
目的物が液体である場合、これを蒸留することで高純度の目的物を取得できる。熱履歴によるヒドロキシスチレン化合物およびその誘導体の多量化を抑制するため、蒸留は減圧下で実施することが好ましい。蒸留方法としては、単蒸留、精留、分子蒸留が挙げられ、好ましくは、分子蒸留である。
【0060】
また、得られた粗液に重合禁止剤を加え、蒸留を実施しても良い。重合禁止剤としては、例えば、ヒドロキノン、4−メトキシフェノール、2−tert−ブチルヒドロキノン、4−tert−ブチルカテコール、フェノチアジン、2−メトキシフェノチアジン、ビス(1−オキシル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)セバケート、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル、1,6−ヘキサメチレン−ビス(N−ホルミル−N−(1−オキシル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)アミン)、N−ニトロソ−N−フェニルヒドロキシルアミンアンモニウム、N−ニトロソ−N−フェニルヒドロキシルアミンアルミニウムが挙げられる。
【0061】
目的物が固体である場合、これを晶析することで高純度の目的物を取得できる。晶析方法としては、冷却晶析、濃縮晶析および貧溶媒晶析などが挙げられる。
【0062】
本発明により、下記の一般式(3)
【0063】
【化6】
【0064】
(式中、R、R、RおよびRは、互いに独立して、H、OR基、または、OCH基のいずれかであり、Rは炭素数2〜4のアシル基、炭素数2〜15の炭化水素が結合したオキシカルボニル基のいずれかである)で示されるヒドロキシスチレン誘導体を得ることができる。
【実施例】
【0065】
以下、実施例により具体的に説明する。
【0066】
本発明において、化学純度とは、高速液体クロマトグラフィー法(以下、「HPLC」と略)で、以下の分析条件で分析したものである。
【0067】
・カラム: YMC―Pack ODS−AM303 4.6φ×250mm
・カラム温度: 40℃
・移動相: 実施例1は、0.1%(v/v)リン酸水溶液/メタノール=60/40(v/v)、実施例2は、0.1%(v/v)リン酸水溶液/メタノール=50/50(v/v)
・流量: 1ml/min
・注入量: 1μl
・検出: 紫外(UV)検出 波長254nm
・分析時間: 60分
・サンプル調製と純度の算出:
生成物0.03gを採取し、メタノール50mlで均一に溶解した後、条件の整ったHPLCに注入した。ヒドロキシスチレン誘導体のピークを面積百分率として計算した。
【0068】
ただし、上記の分析条件に基づく分析結果と同じ結果が得られる限り、この分析条件に限定されるものではない。
【0069】
また、本発明において用いた試薬は市販のものを用い、溶媒については含水率が0.1%以下のものを使用した。
【0070】
(実施例1) p−アセトキシスチレンの合成
撹拌機、温度計、還流冷却器を備えた200mlフラスコにp−ヒドロキシ桂皮酸13.12g(80mmol)、重合禁止剤としてp−メトキシフェノール0.50g(4mmol)、および溶媒としてN,N−ジメチルホルムアミド73.53g、水2.27g(溶媒の水分率3.0%)を仕込み、撹拌下、150℃に温調したオイルバスに浸して加熱した。温度上昇に伴い還流が観察され、反応液の温度は136℃に達した。6時間加熱を継続した後、速やかに冷却した。次いでピリジン12.7g(160mmol)を加え、撹拌下、無水酢酸12.3g(120mmol)を30 ℃で30分かけて滴下した。引き続き30℃で6時間撹拌した。反応液をトルエン40gで希釈し、80gの水を加えて良く撹拌した後、水層と油層を分離し、油層から溶媒を減圧留去することにより褐色液体を得た。得られた液体を110℃のオイルバスで加熱、圧力1Torrの条件で単蒸留を実施し、89℃から92℃の留分を分取することで無色透明液体9.67gを得た(理論収量の75%)。HPLCを用いて上述の方法で化学純度を分析したところ、化学純度は96.0%(面積百分率)であった。また、水素核磁気共鳴(H−NMR)スペクトルを測定し、以下の結果が得られたことから、得られた無色透明液体はp−アセトキシスチレンと同定した。
【0071】
H−NMR(CDCl,400MHz)δ:2.26(s,3H,−COCH),5.21(d,1H,=CH),5.68(d,1H,=CH),6.67(dd,1H,−CH=),7.03(d,2H,ArH),7.38(d,2H,ArH).
(実施例2) p−(tert−ブトキシカルボニルオキシ)スチレンの合成
撹拌機、温度計、還流冷却器を備えた200mlフラスコにp−ヒドロキシ桂皮酸13.12g(80mmol)、重合禁止剤としてp−メトキシフェノール0.50g(4mmol)、および溶媒としてN,N−ジメチルホルムアミド73.53g、水2.27g(溶媒の水分率3.0%)を仕込み、撹拌下、150℃に温調したオイルバスに浸して加熱した。温度上昇に伴い還流が観察され、反応液の温度は136℃に達した。6時間加熱を継続した後、速やかに冷却し、トルエン45.40gを加え、60℃のウォーターバスで加熱、圧力40Torrの条件で水を共沸除去した。次いでトリエチルアミン8.09g(80mmol)、N,N−ジメチルアミノピリジン0.49g(4mmol)を加え、撹拌下、二炭酸ジtert−ブチル43.64g(200mmol)とトルエン21.82gの混合物を40 ℃で1時間かけて滴下した。引き続き40℃で5時間撹拌した。反応液をトルエン20gで希釈し、80gの水を加えて良く撹拌した後、水層と油層を分離し、油層から溶媒を減圧留去することにより褐色液体を得た。得られた液体を150℃のオイルバスで加熱、圧力2Torrの条件で単蒸留を実施し、109℃から111℃の留分を分取することで淡黄色透明液体13.28gを得た(理論収量の75%)。HPLCを用いて上述の方法で化学純度を分析したところ、化学純度は96.9%(面積百分率)であった。また、水素核磁気共鳴(H−NMR)スペクトルを測定し、以下の結果が得られたことから、得られた淡黄色透明液体はp−(tert−ブトキシカルボニルオキシ)スチレンと同定した。
【0072】
H−NMR(CDCl,400MHz)δ:1.54(s,9H,−COC(CH),5.21(d,1H,=CH),5.68(d,1H,=CH),6.69(dd,1H,−CH=),7.11(d,2H,ArH),7.38(d,2H,ArH).