特許第6095043号(P6095043)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6095043バンドラインナップ装置及びその測定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6095043
(24)【登録日】2017年2月24日
(45)【発行日】2017年3月15日
(54)【発明の名称】バンドラインナップ装置及びその測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 23/227 20060101AFI20170306BHJP
   G01N 21/00 20060101ALI20170306BHJP
【FI】
   G01N23/227
   G01N21/00 Z
【請求項の数】15
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2012-170994(P2012-170994)
(22)【出願日】2012年8月1日
(65)【公開番号】特開2013-167621(P2013-167621A)
(43)【公開日】2013年8月29日
【審査請求日】2015年7月1日
(31)【優先権主張番号】特願2012-6887(P2012-6887)
(32)【優先日】2012年1月17日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(72)【発明者】
【氏名】柳生 進二郎
(72)【発明者】
【氏名】後藤 真宏
(72)【発明者】
【氏名】吉武 道子
(72)【発明者】
【氏名】知京 豊裕
【審査官】 越柴 洋哉
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−121841(JP,A)
【文献】 特開2003−042939(JP,A)
【文献】 特開昭61−148329(JP,A)
【文献】 米国特許第04841150(US,A)
【文献】 特開平08−122150(JP,A)
【文献】 特開平02−247543(JP,A)
【文献】 特開平01−113643(JP,A)
【文献】 特許第2690572(JP,B2)
【文献】 特開2007−303924(JP,A)
【文献】 中島嘉之,大気中紫外線光電子分析装置AC−1有機エレクトロルミネッセンス素子への応用,月刊新素材,1996年 5月 1日,第7巻,第5号,P.37−39
【文献】 石井久夫、外5名,「光電子収量分光による有機エレクトロニクス材料・界面の電子構造評価」,表面化学,2007年 6月 3日,vol.28,No.5,p.264-270
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 23/00−23/227
G01N 21/00−21/61
G01J 3/00− 3/52
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
赤外域の波長、可視光域の波長、紫外域の波長の少なくとも1種類を含む連続光を放射する光源部と、
前記連続光から特定波長の光を取りだす分光器と、
前記特定波長の光を照射光として試料に照射する光照射部と、
前記照射光に起因する、前記試料の表面より反射する光を測定する反射光測定部と、前記試料を透過する光を測定する透過光測定部の少なくとも一方を備える光量測定部と、
前記光照射部と前記試料との間に設けられたコレクター電極と、
前記照射光に起因する、前記試料と前記コレクター電極との間に流れる電流を、前記光量測定部による光の測定と同時に測定する電流測定部と、
前記分光器の取りだす特定波長を制御する制御装置と、
を具備し、前記光量測定部と前記電流測定部の測定結果から前記試料の価電子帯上端エネルギー(EVBM)と伝導帯下端エネルギー(ECBM)を算出できることを特徴とするバンドラインナップ装置。
【請求項2】
さらに、前記試料を照射する光の光軸に対し、垂直方向又は平行方向の少なくとも一方を含んで移動する移動機構を有し、
前記制御装置は前記移動機構を制御して、前記光照射部が照射する前記試料の表面の位置を制御することを特徴とする請求項1に記載のバンドラインナップ装置。
【請求項3】
さらに、前記試料を設置する試料ホルダーと、
前記試料と前記光照射部との間に設けられる前記コレクター電極と、
前記試料ホルダーと前記コレクター電極の少なくとも一方に直流電圧を印加する直流電圧源とを有することを特徴とする請求項1又は2に記載のバンドラインナップ装置。
【請求項4】
前記コレクター電極は金属製であり、前記コレクター電極と前記試料との間の距離が大気圧下の測定では1.0mm以下であることを特徴とする請求項3に記載のバンドラインナップ装置。
【請求項5】
前記コレクター電極形状は、前記照射光の光路上で前記照射光のビーム径を邪魔しないリング状、前記照射光のビーム径の一部にかかる短針状、又は照射光のビーム径と同程度のメッシュ状の少なくとも1つであることを特徴とする請求項3又は4に記載のバンドラインナップ装置。
【請求項6】
前記光源部がハロゲン光源と重水素光源の両方を有することを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項に記載のバンドラインナップ装置。
【請求項7】
前記光照射部は、前記分光器の取りだす特定波長の光から、前記照射光及び前記反射光を分けるハーフミラーを含む光学系、又は前記照射光及び前記反射光のそれぞれを分岐するファイバーを含む光学系を有することを特徴とする請求項1乃至6の何れか1項に記載のバンドラインナップ装置。
【請求項8】
前記光照射部は、さらに、前記分光器の取りだす特定波長の光から参照光を分ける、ハーフミラーを含む前記光学系、又はファイバーを含む前記光学系を有すると共に、
前記光量測定部は、光照射の一部を取り出し参照光として測定する参照部を有することを特徴とする請求項7に記載のバンドラインナップ装置。
【請求項9】
前記光照射部は、照射光用光ファイバーを有すると共に、当該照射光用光ファイバーをグランド電位にすることで、前記コレクター電極に相当する機能を持たせることを特徴とする請求項1乃至8の何れか1項に記載のバンドラインナップ装置。
【請求項10】
前記試料の価電子帯上端エネルギー(EVBM)と伝導帯下端エネルギー(ECBM)を用いて、イオン化ポテンシャルの値(IP)とバンドギャップの値(Eg)についての下記の式(i)、(ii)から、バンドラインナップ(EVAC、EVBM、ECBM)を演算することを特徴とする請求項1に記載のバンドラインナップ装置。
IP=EVAC−EVBM (i)
Eg=ECBM−EVBM (ii)
【請求項11】
請求項1に記載のバンドラインナップ装置によるバンドラインナップ測定方法であって、
反射測定又は透過測定の少なくとも一方に必要なバックグラウンド(dark)スペクトルと参照(ref)スペクトルを取得するステップと、
試料又はコレクター電極の少なくとも一方に直流電圧を印加するステップと、
分光器で分離された特定波長の単色光を前記試料に照射するステップと、
当該単色光を前記試料に照射したときに前記コレクター電極と前記試料間に流れる電流値を電流計で計測するステップと、
前記試料の表面で反射した反射光又は前記試料を透過した透過光の少なくとも一方を、前記電流計による前記電流値の計測と同時に光量計で計測するステップと、
前記測定された電流値及び前記反射光又は前記透過光の計測光量を用いて、前記試料のイオン化ポテンシャルの値、バンドギャップの値及びバンドラインナップの少なくとも一つを決定するステップと、
を有することを特徴とするバンドラインナップ測定方法。
【請求項12】
請求項11に記載のバンドラインナップ装置によるバンドラインナップ測定方法であって、
前記試料に照射するステップは、分光器で分離された特定波長の単色光のうち、ハーフミラーを含む光学系又は分岐ファイバーを用いて、一部を参照光として測定し、当該参照光以外の単色光を前記試料に照射するステップであることを特徴とするバンドラインナップ測定方法。
【請求項13】
請求項11又は12に記載のバンドラインナップ装置によるバンドラインナップ測定方法であって、さらに、
光源部より射出される赤外域から紫外域までの波長のうちから、制御装置からの制御信号により前記分光器を操作して、所望の波長の光だけを単色光に分離するステップと、
測定波長範囲の測定が終了したか否かを判断し、終了していない場合は、前記分光器を操作して単色光の波長を変更し、終了した場合には前記試料又は前記コレクター電極の少なくとも一方の直流電圧印加をオフするステップと、
を有し、前記イオン化ポテンシャル値と前記バンドギャップ値からバンドラインナップの演算をすることを特徴とするバンドラインナップ測定方法。
【請求項14】
請求項11乃至13の何れか1項に記載のバンドラインナップ装置によるバンドラインナップ測定方法であって、さらに、
前記単色光が照射された前記試料の表面上の位置と共に、前記測定された電流値及び前記反射光又は前記透過光の計測光量値を記憶装置に記録するステップと、
前記単色光を前記試料に照射する位置を変更するステップと、
を有し、前記試料の測定位置の変更行うようにしたことを特徴とするバンドラインナップ測定方法。
【請求項15】
請求項1乃至10の何れか1項に記載のバンドラインナップ装置において、
さらに前記光照射部に対して前記試料の反射光を測定する側に設けられた蛍光用分光器を有することを特徴とする蛍光測定機能を有するバンドラインナップ測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はバンドラインナップ測定装置に関し、特にバンドラインナップ測定精度を向上させたバンドラインナップ測定装置に関する。また、本発明はバンドラインナップ測定方法に関し、特にバンドラインナップ測定精度を向上させたバンドラインナップ測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より物質・材料のバンドラインナップは、水を分解する物質の探索や、次世代Si集積回路(SiULSI)テクノロジーにおける高誘電率ゲート絶縁膜(High−K材料)の探索、P型及びN型有機半導体材料の探索などにおけるその指標として使われている。今後、高精度の制御が必要なデバイスや、有機物又は酸化物などの多様な材料がデバイスに使われることから、高精度で多種多様な材料でのバンドラインナップ計測が求められる。
【0003】
固体の電子状態は、縦軸にエネルギー、横軸に波数ベクトルの大きさをとったバンド図によって表現される。例えば図1は、バンド図を簡略的に表したものである。電子状態で重要なパラメータは、価電子帯上端EVBMと伝導帯下端ECBMである。価電子帯上端EVBMは、分子の場合の最高占有軌道(HOMO)に相当する価電子帯の最上部(Va1ence Band Maximum,以下VBM)のエネルギーである。伝導帯下端ECBMは、分子の場合の最低非占有軌道(LUMO)に相当する伝導帯の最底部(Conduction Band Minimum、以下CBM)のエネルギーである。また、電子の占有と非占有状態の境界のエネルギーを示すフェルミレベル(E)である。電子が物質に束縛されなくなるエネルギーが真空準位(Evac)と呼ばれ、これを電子のエネルギーの原点と定義される。Evac−ECBMは電子親和力(χ)、Evac−EVBMはイオン化ポテンシャル(IP)と呼ばれる。バンドラインナップは、Evacを基準として、ECBMとEVBMの位置に相当するもので、バンドギャップはECBMとEVBMのエネルギーの差である(非特許文献1)。
【0004】
バンドラインナップでは、Evacから測ったECBMとEVBMの位置を決める必要がある。このバンドラインナップは複数の測定を組み合わせることで決めることができる。測定法のひとつとして、紫外光電子分光法(UPS)と逆光電子分光法(IPES)を用いた方法がある。この方法では、ECBMとEVBMの値と詳細なバンド図を求めることができる。他方、この測定法では、以下の理由から真空環境の利用と試料の帯電から測定対象材料が限られるといった問題がある。
第1に、UPSではHeの放電による紫外光源と電子分光器、IPESでは低速エネルギー可変電子源と光検出器が必要でありそれぞれ超高真空中での動作環境が必要なことから、試料を超高真空中にいれなければならない。そのため、当該測定法では水を含んだ有機物や蒸気圧の高い物質などを測定できない。
第2に、測定中に試料の帯電によって電子分光器のエネルギー基準がずれるために、当該測定法では比較的導電性の高い試料しか測定できない。
【0005】
測定対象材料が格段に広い計測方法として、次の二つがある。
(a)EVBMの測定に光電子収量分光装置(別名イオン化ポテンシャル測定装置)(非特許文献2)によるイオン化ポテンシャル測定、
(b)分光光度計を用いた光の反射、透過、並びに吸収測定によるバンドギャップの測定。
上記2つの計測法を用いることで、ECBMとEVBMを求めることができる。これらの計測法は、光源及び検出器は真空環境を必要としないため、大気中での計測が行えるため、水を含む有機物や蒸気圧の高い物質も測定が行えるほか、帯電の影響をあまり受けないため(非特許文献3)、導電性の低い材料(絶縁物)に対しても計測でき、測定対象材料が格段に広い。
なお、イオン化ポテンシャル測定装置は、特許文献2、4にも開示されている。特許文献2には、試料に分光された紫外光を照射し、放出される光電子の収量を測定することにより、試料の仕事関数またはイオン化ポテンシャルを測定する仕事関数またはイオン化ポテンシャル測定装置が提案されている。また、特許文献4には、試料に紫外光を照射することで得られる電流値からイオン化ポテンシャルを測定するためのイオン化ポテンシャル測定装置が提案されている。
【0006】
イオン化ポテンシャル測定では、紫外域の光源が用いられ、通常、重水素ランプ又はキセノンランプ光源が用いられる。光の波長は、フォトンエネルギーと反比例の関係にあり、試料に照射する光の波長(フォトンエネルギー)を掃引し、その際に試料に流れる電流値を測定する。また、予めもしくは同時に照射光の光強度を測定し、照射フォトン数に換算する。ここで、電流値を電子数に換算し、照射フォトン数で除した値が光電子収量であるが、その変化点のフォトンエネルギーがイオン化ポテンシャルとされる。
【0007】
同様に、バンドギャップ計測では、赤外域から紫外域の光源が用いられ、通常、重水素ランプとハロゲンランプを組み合わせたもの、あるいはキセノンランプが用いられる。試料に照射する光の波長を掃引し、その際に試料から反射又は透過する光強度を測定する。反射では反射率が変わる変曲点のフォトンエネルギー、透過では透過せず吸収されるフォトンエネルギーがバンドギャップになる。
【0008】
材料探索ではデバイス材料の高精度化に伴い、高い精度でのバンドラインナップの値が必要である。別々の目的で開発された装置を使ってのバンドラインナップの測定においては、以下の理由から精度のよい測定が行えない。
第1に各々の測定装置の光学特性が異なる。例えば、光源ランプの出力や種類による波長範囲、光量や透過率及び特性線の違い、光学レンズの配置による入射光量変化、分光器の特性による二次光や迷光といった課題がある。
第2に、別々の光学装置では試料の形状や測定面を鉛直にするか水平にするかといった測定器への設置態様が異なる。そのため別々の装置では、試料のホルダーへの設置や、形状の加工など装置によって対応を変える必要が生じ、測定作業が複雑になるという課題がある。
第3に別々の光学装置では、同じ試料に対してエネルギーの高い紫外光を少なくとも2回照射することになり、エネルギーの高い紫外光に対して、ダメージを受けやすい有機物材料では照射によって試料状態が変わってしまい正確に測れないという課題がある。
【0009】
なお、上記第1の課題を克服するための発明が、特許文献1、3に開示されている。例えば、特許文献1には、測定光を分光器に2回透過する分散型分光器において、迷光除去機能をもつ分光器が提案されている。また、特許文献3には、光ファイバーとの接続が容易であると共に、迷光を良好に除去することのできるフィルター機構を備えた分光分析装置が提案されている。
しかし、特許文献1、3によれば、各光学装置ごとに校正を行う必要があるという課題がある。そして個々の光学装置の誤差により、最終的な値の誤差範囲は広がり、精度を落とすことになる。また、別々の装置であるため、光量や分光器の波長精度は各光学装置に強く依存しているために別々の光学装置では同じ条件に合わせることが難しいという課題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平7−55562号公報
【特許文献2】特開平10−267869号公報
【特許文献3】特開2000−131145号公報
【特許文献4】特開2009−085823号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】細野秀雄・神谷利夫:セラミックス38(2003)825.
【非特許文献2】石井久夫・津波大介・末永 保・佐藤信之・木村康男・庭野道夫:表面科学28(2007)264.
【非特許文献3】Yasuo Nakayama, Shinichi Machida, Daisuke Tsunami, Yasuo Kimura, Michio Niwano, Yutaka Noguchi,and Hisao Ishii: Appl. Phys. Lett. 92, 153306 (2008)
【非特許文献4】S.Sakthivel and H.Kisch:Angew. Chem. Int. Ed., 42(2003)4908.
【非特許文献5】高橋博彰・平石次郎・石井紀彦:分光研究 25(3),153−165,(1976)
【非特許文献6】間宮真佐人:分光研究 25(3),99−117,(1976)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、複数の装置によってバンドラインナップを求める場合に、バンドラインナップの測定精度を下げる原因となる各測定装置の光学系と電子系の相違、試料の設置態様の相違、有機材料の照射によるダメージを克服し、測定精度を向上させたバンドラインナップ測定装置及びバンドラインナップ測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上述の目的を達成するために、本発明は、対象とするバンドラインナップ測定に必要な機能を一つの装置内において光(光量)と電子(電流)を同時測定することにより解決する。試料に照射する単色のフォトンエネルギーを掃引し、その際に試料に流れる電流値、試料が不透明の場合には当該試料から反射する光強度を同時測定する。なお、試料が光透過性を有する材料の場合には、当該試料を透過する光強度を同時測定するが、当該試料から反射する光強度を併せて測定しても良い。イオン化ポテンシャルIPは次式で算出される。
IP=EVAC−EVBM (i)
また、バンドギャップEgは次式で算出される。
Eg=ECBM−EVBM (ii)
そこで、イオン化ポテンシャルIPとバンドギャップEgの測定結果を合わせることで、EVAC、EVBM、ECBMのバンドラインナップが決定される。これによりバンドラインナップの測定精度を向上させることができる。
【0014】
本発明のバンドラインナップ装置は、例えば図2図7図8に示すように、赤外域の波長、可視光域の波長、紫外域の波長の少なくとも1種類を含む連続光を放射する光源部(1)と、連続光から特定波長の光を取りだす分光器(4)と、特定波長の光を試料31に照射する光照射部(5、9)と、照射光に起因する、試料31の表面より反射する光を測定する反射光測定部(58)と、試料31を透過する光を測定する透過光測定部(72)の少なくとも一方を備える光量測定部と、光照射部5と試料31との間に設けられたコレクター電極(21)と、照射光に起因する電流であって、試料31とコレクター電極21との間に流れる当該電流を測定する電流測定部(2)と、分光器4の取りだす特定波長を制御する制御装置(83)とを具備し、光量測定部と電流測定部の測定結果から試料31の真空準位を基準とした価電子帯上端エネルギー(EVBM)と伝導帯下端エネルギー(ECBM)を算出できることを特徴とする。好ましくは、解析装置82が、光量測定部と電流測定部の測定結果から試料31の価電子帯上端エネルギー(EVBM)と伝導帯下端エネルギー(ECBM)を算出して、バンドラインナップの測定を行うとよい。
【0015】
このように構成された装置においては、光源部1は、赤外域の波長、可視光域の波長、紫外域の波長の少なくとも1種類を含む連続光を放射する。分光器4は、光源部1の放射する連続光から、単色のフォトンエネルギーとして単色光を得る。光照射部(5、9)は当該単色光を試料に照射する。反射光測定部58は、照射光に起因して、試料31の表面から反射する光を測定するもので、試料31が光透過性のない場合に用いられ、また光透過性のある場合にも用いてよい。透過光測定部72は、試料31を透過する光を測定するもので、試料31が光透過性を有する場合に用いられる。試料31が半透明の場合には、反射光測定部58と透過光測定部72の両方を用いることもできる。電流測定部2は、試料31とコレクター電極21との間に流れる電流を測定する。制御装置83は、分光器4の取りだす特定波長を制御するもので、好ましくは赤外域の波長、可視光域の波長、紫外域の波長の各波長について順次波長を変えてゆくとよい。これにより、光量測定部と電流測定部の測定結果から試料31の価電子帯上端エネルギー(EVBM)と伝導帯下端エネルギー(ECBM)を算出して、バンドラインナップの測定を可能とする。
【0016】
本発明のバンドラインナップ装置において、好ましくは、さらに、試料31を照射する光の光軸に対し、垂直方向又は平行方向の少なくとも一方を含んで移動する移動機構33を有し、制御装置83は移動機構33を制御して、光照射部59が照射する試料31の表面の位置を制御する構成とするとよい。好ましくは、さらに、光照射部59が照射する試料31の表面の位置を制御する位置制御装置(83)を設けるとよい。
【0017】
本発明のバンドラインナップ装置において、好ましくは、さらに、試料31を設置する試料ホルダー32と、試料31と光照射部59との間に設けられるコレクター電極21と、試料ホルダー32とコレクター電極21の少なくとも一方にグランド電位を含む直流電圧を印加する直流電圧源(22、24)とを有するとよい。試料ホルダー32とコレクター電極21の直流電位を調整することで、試料に照射する単色光により流れる電流(電子)が正確に測定できる。
【0018】
本発明のバンドラインナップ装置において、例えば図10図11に示すように、好ましくは、コレクター電極21は金属製であり、コレクター電極21と試料31との間の距離dは大気圧下の測定では1.0mm以下である場合には、試料に照射する単色光により流れる電流(電子)が正確に測定でき、ノイズが少なくなる。また、真空や真空と大気圧の中間圧力での測定では、距離dは、圧力に応じて定まる分子の平均自由行程の距離を基準に適宜変更でき、例えば真空中では数mでもよい。
【0019】
本発明のバンドラインナップ装置において、例えば図10図11に示すように、好ましくは、コレクター電極形状は、照射光の光路上で照射光のビーム径を邪魔しないリング状、照射光のビーム径の一部にかかる短針状、又は照射光のビーム径と同程度のメッシュ状の少なくとも1つであるとよい。
【0020】
本発明のバンドラインナップ装置において、好ましくは、光源部1がハロゲン光源と重水素光源の両方を有するとよい。このように構成すると、光源部1は、赤外域の波長、可視光域の波長、紫外域の波長の3種類を含む連続光を放射できる。好ましくは、さらに補完的にキセノン光源を用いるとよい。
【0021】
本発明のバンドラインナップ装置において、例えば図2図7図8に示すように、好ましくは、光照射部(5、9)は、分光器4の取りだす特定波長の光から、照射光及び反射光を分けるハーフミラー52を含む光学系、又は照射光及び反射光のそれぞれを分岐するファイバー9を含む光学系を有するとよい。このように構成すると、光照射部は照射光及び反射光を分けるハーフミラー又はファイバーを含む光学系を有するため、装置が小型化される。
本発明のバンドラインナップ装置において、好ましくは、光照射部(5、9)は、さらに、分光器4の取りだす特定波長の光から参照光を分ける、ハーフミラー52を含む光学系、又はファイバー9を含む光学系を有すると共に、光量測定部は、光照射の一部を取り出し参照光として測定する参照部(57)を有するとよい。このように構成すると、分光器4の取りだす特定波長の光から参照光が照射光及び反射光と同一の光路から得られるため、連続光から特定波長の光を取りだす際の条件が時間的に実質的に同じと同視でき、ノイズの影響を受け難く正確な測定が行える。
本発明のバンドラインナップ装置において、光照射部5は照射光用光ファイバー59を有すると共に、照射光用光ファイバー59をグランド電位にすることで、コレクター電極に相当する機能を持たせることもできる。この場合には、コレクター電極を照射光用光ファイバーが兼用する。
【0022】
本発明のバンドラインナップ装置において、好ましくは、前記試料の価電子帯上端エネルギー(EVBM)と伝導帯下端エネルギー(ECBM)を用いて、イオン化ポテンシャルの値(IP)とバンドギャップの値(Eg)についての下記の式(i)、(ii)から、バンドラインナップ(EVAC、EVBM、ECBM)を演算するとよい。
IP=EVAC−EVBM (i)
Eg=ECBM−EVBM (ii)
【0023】
上述の目的を達成するために、本方法発明のバンドラインナップ測定方法は、請求項1に記載のバンドラインナップ装置によるバンドラインナップ測定方法であって、例えば図12に示すように、次のステップ(a)〜(f)を有することを特徴とする。
(a)反射測定又は透過測定の少なくとも一方に必要なバックグラウンド(dark)スペクトルと参照(ref)スペクトルを取得するステップ(S302、S304)。
(b)試料又はコレクター電極の少なくとも一方に直流電圧を印加するステップ(S308)。
(c)分光器で分離された特定波長の単色光を試料に照射するステップ(S310)。
(d)当該単色光を試料に照射したときにコレクター電極と試料間に流れる電流値を電流計で計測するステップ(S314)。
(e)試料の表面で反射した反射光又は前記試料を透過した透過光の少なくとも一方を光量計で計測するステップ(S312)。
(f)前記測定された電流値及び前記反射光又は前記透過光の計測光量を用いて、試料のイオン化ポテンシャル、バンドギャップ及びバンドラインナップの少なくとも一つを決定するステップ(S324、S326、S328)。
【0024】
好ましくは、ステップ(b)において、バンドラインナップ装置の所定の位置(例えば、試料台)に試料をセットするステップ(S306)を設けるとよいが、バンドラインナップ装置が製造ラインに設けられる場合には、検査対象となる試料が検査可能な位置に移動したことを検知してもよい。
好ましくは、ステップ(c)は、分光器で分離された特定波長の単色光のうち、ハーフミラーを含む光学系又は分岐ファイバーを用いて、一部を参照光として測定し、参照光以外の単色光を試料に照射するステップとしてもよい。
【0025】
本方法発明のバンドラインナップ測定方法において、好ましくは、さらに、次のステップ(g)〜(i)を有し、イオン化ポテンシャル値とバンドギャップ値からバンドラインナップの演算をすることを特徴とする。
(g)光源部より射出される赤外域から紫外域までの波長のうちから、制御装置からの制御信号により前記分光器を操作して、所望の波長の光だけを単色光に分離するステップ(S310)。
(h)測定波長範囲の測定が終了したか否かを判断し、終了していない場合は、分光器を操作して単色光の波長を変更するステップ(S318・S322)。
(i)終了した場合には試料又はコレクター電極に印加されている直流電圧をオフするステップ(S320)。
【0026】
本方法発明のバンドラインナップ測定方法において、好ましくは、さらに、次のステップ(j)〜(k)を有し、試料の測定位置の変更が行うようにしたことを特徴とする。
(j)単色光が照射された試料の表面上の位置と共に、測定された電流値及び反射光又は透過光の計測光量値を記憶装置に記録するステップ(S316)。
(k)単色光を試料に照射する位置を変更するステップ(S332)。
(l)好ましくは、測定位置の変更を行うかどうかを判断し、変更を行う場合ステージユニットを操作して測定場所を変更するステップ(S330)も設けると良い。
本発明のバンドラインナップ装置において、さらに光照射部5に対して試料の反射光を測定する側に設けられた蛍光用分光器(CCD付分光器または、CCD付マルチチャンネル分光器)を有する、蛍光測定機能を有するバンドラインナップ測定装置を提供することを特徴とする。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、バンドラインナップの測定精度を向上させることができる。具体的には、バンドラインナップの測定において、光と電子の同時測定を行える機能を装置に組み込むことにより、別々の装置の場合に比較し装置特性の違いによる誤差が低減され、試料の装填、試料形状、照射ダメージ、試料の環境も同じであることから測定精度の向上を図ることができる。
また、光と電子の同時測定機能を合わせ持つ装置になり、試料を保持する場所も同じであるため、試料取扱の変更が不要になり、試料取扱に伴うヒューマンエラーを減らすことができる。また、別の測定器で測定する際の測定のタイムラグを減らすことができ同じ条件で測定が行えることから、より精度の高い測定が可能となる。
さらに、測定解析装置の解析ソフトに計算アルゴリズムを組み込むことで、直接EVBMやバンドギャップの値を元にバンドラインナップの値を得ることができ、実験担当者の測定データ解析が容易に行える。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1図1はバンドラインナップ測定のエネルギーの関係を示した図である。
図2図2は本発明の第1の実施形態を示すバンドラインナップ測定装置の要部構成図である。
図3図3図2の装置におけるバンドラインナップ測定手順を説明するフローチャートである。
図4図4図2の装置におけるバンドギャップ演算手順を説明するフローチャートである。
図5図5図2の装置におけるイオン化ポテンシャル演算手順を説明するフローチャートである。
図6図6図2の装置におけるSiサンプルのバンドラインナップ測定結果を説明するもので、(a)はSiサンプルの反射測定例、(b)は同じSiサンプルのイオン化ポテンシャル測定例、(c)はバンドラインナップ値の例を示している。
図7図7は本発明の第2の実施形態を示すバンドラインナップ測定装置の要部構成図で、ハーフミラー光学系を含む場合を示している。
図8図8は本発明の第3の実施形態を示すバンドラインナップ測定装置の要部構成図で、分岐ファイバー光学系を含む場合を示している。
図9図9は分岐ファイバーの詳細を説明する構成図である。
図10図10は電極形状と電極配置の関係を示す図で、図7の装置のようなハーフミラー光学系の使用時を示している。
図11図11は電極形状と電極配置の関係を示した図で、図8の装置のような分岐ファイバー光学系の使用時を示している。
図12図12はバンドラインナップ測定における全体測定の手順を示すフローチャートである。
図13図13はバックグラウンド・参照スペクトル測定における手順を示すフローチャートである。
図14図14はイオン化ポテンシャル演算の手順を示すフローチャートである。
図15図15はバンドギャップ演算の手順を示すフローチャートである。
図16図16はバンドラインナップ演算の手順を示すフローチャートである。
図17図17は有機EL材料の反射測定結果を示す図で、Rubrene、Me-TPD、Alq3、CuPcの其々を示している。
図18図18は有機EL材料の光電子収量測定結果を示す図で、Rubrene、Me−TPD、Alq3、CuPcの其々を示している。
図19図19は有機EL材料のバンドラインナップ値の一例を示す図で、Rubrene、Me−TPD、Alq3、CuPcの其々を示している。
図20図20図8の装置で測定した蛍光ペンの蛍光測定の一例を示す図である。
図21図21図8の装置で測定したMe−TPDにおける照射波長を変えたときの蛍光測定の一例を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明におけるバンドラインナップ測定装置及びバンドラインナップ測定方法を好適に実施した形態について、図面を用いて詳細に説明する。
【0030】
<バンドラインナップ装置>
図2は本発明の第1の実施形態を示すバンドラインナップ測定装置の要部構成図である。図2において、バンドラインナップ測定装置は、光源部1、電気系測定部2、試料設置部3、分光器4、照射・参照・反射光学系5、透過光学系7、論理制御部8を備えている。
【0031】
光源部1は、ハロゲンランプ12、レンズ13、重水素光源ランプ14、レンズ15を備えている。光源部1は、連続光を放出するものであり、例えばハロゲンランプ12と重水素光源ランプ14を組み合わせることにより赤外から紫外の波長帯をカバーできる。光源部1には、補完的にキセノンランプも使うことができる。光源部1では、各ランプから発生する異なる波長帯の光を用いてバンドラインナップを測定することができる。
【0032】
電気系測定部2は、コレクター電極21と、試料ホルダー32に接続された負電圧源Vee22と電流計23を備えている。電流計23は、試料31とコレクター電極21と流れる電流を測定する。コレクター電極21は、照射・反射用光ファイバー59の先端部と試料31との間に設けられている。
【0033】
試料設置部3は、試料31、試料ホルダー32、ステージユニット33、大気・真空容器34、電気的接続用窓部36を備えている。試料ホルダー32は、試料31を保持してバンドラインナップ測定に適した状態に置く。ステージユニット33は、試料ホルダー32を置く試料台で、併せて左右前後の平面方向や上下の垂直方向に試料ホルダー32を移動させる機構も備えている。大気・真空容器34には、試料31、試料ホルダー32、ステージユニット33が収容されていると共に、照射及び反射用光ファイバー59の先端部、透過用光ファイバー又はレンズ71の先端部が収容されている。大気・真空容器に真空ポンプまたは、ガス導入口をつなぐことで、大気・真空容器内の圧力、湿度あるいは雰囲気ガスなどを制御することができる。電気的接続用窓部36は、試料ホルダー32と電流計23とを接続する電気配線を収容する窓で、大気・真空容器34の圧力及び測定環境を維持する。
【0034】
分光器4は、内部にミラー41、42、44と回折格子43を有する。分光器4は、光源部1から入力される赤外域から紫外域の光に対して、分光器内のミラー41、42、回折格子43、並びにミラー44の経路を経て、入射角度に対して異なる方向に角度を替えることで分光器4から特定の波長の光(単色光)を出力することができる。
【0035】
光照射部5としての照射・参照・反射光学系5は、レンズ51、ハーフミラー52、レンズ53、54、55、筐体部56、照射及び反射用光ファイバー59を備えている。また、光照射部5とは独立して、参照光用光量計57、反射光用光量計58が設けられている。なお、照射光学系としては、照射・参照・反射光学系5のうち、レンズ51、ハーフミラー52、レンズ53、筐体部56、照射用光ファイバー59が対応している。参照光学系としては、レンズ55と参照光用光量計57が対応している。反射光学系としてはレンズ54、反射光用光量計58、反射用光ファイバー59が対応している。なお、参照光用光量計57、反射光用光量計58としては、CCD付きマルチチャンネル分光器(CMM)でもよく、また例えば、フォトダイオード(PD)、サーモパイルを用いてもよい。レンズ51、53、54、55は、光の集光に用いられるもので、ここでは凸レンズを示しているが、色収差を取り除いたアクロマテックレンズでもよく、要は集光できるものであればよい。
【0036】
透過光学系7は、透過用光ファイバー71と透過光用光量計72を備えている。透過用光ファイバー71に代えてレンズでもよい。透過光用光量計72としては、CCD付きマルチチャンネル分光器(CMM)でもよく、また例えば、フォトダイオード(PD)、サーモパイルを用いてもよい。
論理制御部8は、電流計23、参照光用光量計57、反射光用光量計58、透過光用光量計72の各種測定データを記憶する記憶装置81と、この記憶装置81から各種測定データを入力して解析する解析装置82と、記憶装置81と解析装置82のデータに基づいて分光器4及び、ステージユニット33に操作信号を出力する制御装置83を有する。
【0037】
このように構成された装置における、測定の原理を次に説明する。
光源部1から放出された連続光は、分光器4にて特定の波長の光が選択されて、照射・参照・反射光学系5に送られる。照射・参照・反射光学系5では、ハーフミラー52によって通過した単色光の一部(数%)を参照光用光量計57にある方向に反射させ、残りの多くの単色光を照射及び反射用光ファイバー59へ導く。そして、試料31で散乱、反射した単色光を反射光用光量計58に導く。また、試料が光透過性を有する材料の場合は、透過光を透過光学系7の透過光用光量計72に導く。なお、図2の実施例では、反射用光ファイバー59と透過用光ファイバー71を用いているが、光ファイバーを用いないでレンズを使用して構成してもよい。また、試料が光透過性を有しない材料の場合は、バンドラインナップ装置において、透過光学系7と透過光用光量計72を省略しても良い。
【0038】
電子を効率よく測定するために、試料ホルダー32に負電圧源Veeを接続して、試料に負の電圧として数十〜数百ボルトを印加する。この際、試料直上に設置されたコレクター電極21はグランド電位にする。また、照射に用いる照射及び反射用光ファイバー59をグランド電位にすることでコレクター電極21として用いてもよい。電流計23は、電圧印加も行えるソースメータを用いることができる。
【0039】
照射光は、試料に対して垂直位置(Z方向)から照射される。ステージユニット33は、試料を置く平面を有するXYZステージで、このXYZステージ上に試料ホルダー32を置いて試料31を設置し、ステッピングモーター又は手動の制御により設置した試料を保持したまま、光軸に対してX,Y、Z軸方向に移動させることができる。これにより、ステージユニット33の上に置かれた試料ホルダー32及び試料31を所定の位置に移動させることができる。また試料ホルダー32及びステージユニット33には、透過測定が行えるようにホールおよび、透過光学系が入るスペースが設けられている。
【0040】
<測定方法>
次に、バンドラインナップの測定方法について、図及びフローチャートを用いて説明する。図3は、バンドラインナップ測定手順の一例を示すフローチャートである。
初めに、光源部1から出射する赤外域から紫外域の光のうち、制御装置83からの制御信号により、分光器4を操作し所望の波長の光だけを単色光として出力する(S01)。照射・参照・反射光学系5を用いて、分光器4から出力された単色光の一部を参照光として測定し、その余は照射及び反射光用光ファイバー59を通じて試料31に照射する(S02)。
【0041】
次に、光が試料31に照射されたときに接地グランドから試料に流れる電流値を電流計23で計測し、同時に試料面で反射した反射光を反射光用光量計58で計測し、試料が透過性のある材料の時は、透過光を透過光用光量計72で計測する(S03)。測定された電流値及び参照光光量、反射光光量、透過光光量を記憶装置81に記録する(S04)。
ここで、制御装置83は、最初に設定した測定波長範囲の測定が終了したか否かを判断し(S05)、全測定波長による測定が終了していない場合(S05において、NO)、分光器4を操作し、波長を変更する(S06)。また、S06の処理が終了後は、S02に戻り、S02以降の処理を行う。
【0042】
全測定波長による測定が終了した場合(S05において、YES)、記憶装置81に記録された測定結果を解析装置82に送り、イオン化ポテンシャルを決定し(S07)、次にバンドギャップを決定する(S08)。その後、イオン化ポテンシャルの値およびバンドギャップの値からバンドラインナップを決定する(S09)。
【0043】
そして、制御装置83では、測定位置の変更を行うかどうかを判断し(S10)、測定位置の変更を行う場合(S10において、YES)、ステージユニット33を操作して測定場所を変更する(S11)。また、S11の処理が終了後は、S01に戻り、S01以降の処理を行う。
また、S10の処理において、測定位置の変更しない場合(S10において、NO)、測定を終了する。
このように、同一の光源及び光学系を用いて、そして、同一試料で同一の場所の電流値及び光量の測定を同時に行える機能設備を有し、記録した複数の測定結果を解析することにより、バンドラインナップの測定精度を向上させることができる。
【0044】
<バンドラインナップの測定例>
図4は、図3のS08のバンドギャップを決定するアルゴリズムの詳細図で、図2の装置におけるバンドラインナップ演算手順を説明するフローチャートである。図4のバンドギャップ決定アルゴリズムは、得られた反射光量、参照光量または透過光量からバンドギャップを決定するアルゴリズムになる。光量の測定はフォトダイオードを用いる。フォトダイオードは波長によって感度係数が異なるので、感度係数で校正する必要がある。また、測定材料によっては、透過測定ができないものもある。
【0045】
参照光量(rPD)は、測定器の波長感度特性(rSENS)を用いて、校正された光量に変換される(S102)。
C−rPD=rPD/rSENS (1)
また、反射光量(fPD)は、測定器の波長感度特性(fSENS)を用いて、校正された光量に変換される(S104)。
C−fPD=fPD/fSENS (2)
その際、透過光がある場合とない場合によって、解析装置82での、その後の処理が変わる(S106)。透過光がある場合は、透過光光量(tPD)も波長感度係数(tSENS)によって校正される(S108)。
C−tPD=tPD/tSENS (3)
次に、解析装置82は校正透過光量を校正参照光量で割り、透過率(Trans)を求める(S110)。
Trans=C−tPD/C−rPD (4)
そして、入射フォトンエネルギーに対する透過率のグラフを作成し(S112)、当該グラフの透過率からバンドギャップが得られる(S114)。
【0046】
一方、透過光がない場合、校正反射光量と校正参照光量の比を計測し、相対反射率(Refl)を求める(S116)。
Refl=C−fPD/C−rPD (5)
次に、解析装置82は、Kubelka−Munk変換を用いて相対反射率から相対吸収率(abs)に変換する(S118)(非特許文献4、6)。
abs=(1−Refl)/(2xRefl) (6)
そして、解析装置82は、横軸が照射エネルギー(E)、縦軸がabsの入射フォトンエネルギーに対するグラフを作成し(S120)、そのグラフの吸収率からバンドギャップが得られる(S122)。
【0047】
図5は、図3のS07のイオン化ポテンシャルを決定するアルゴリズムの詳細図で、図2の装置におけるイオン化ポテンシャル演算手順を説明するフローチャートである。図5のイオン化ポテンシャル決定アルゴリズムは、参照光量及び電流値からイオン化ポテンシャルを決定するアルゴリズムになる。前述の通り、参照光量測定はフォトダイオードで行っており波長感度補正が必要である。まず波長感度校正を行う(S202)。
C−rPD=rPD/rSENS (7)
そして光子数に変換するために、校正光量C−rPDを各波長での光子のエネルギー(E)で割り相対光子数(NP)にする(S204)。
NP=(C−rPD)/E (8)
1光子あたりの収量(PYS)にするために、電流値(CI)を相対光子数で割る(S206)。
PYS=CI/NP (9)
Fowler関数で閾値を求めるために、S206で得られた値の平方根を取る(S208)。グラフを作成し(S210)、イオン化ポテンシャルを決定する(S212)。
【0048】
この2つの値からバンドラインナップを求める。EVBMはイオン化ポテンシャルと一致する。EVBMはこの値にバンドギャップの値を加算したものとなる。
【0049】
ここで、バンドラインナップの測定例について図を用いて説明する。図6(a)は、Siサンプルの反射測定の結果から図4のアルゴリズムを用いて求めたバンドギャップの一例を示す図である。また、図6(b)は、同じSiサンプルの電流測定の結果から図5のアルゴリズムを用いて求めたイオン化ポテンシャルの一例を示す図である。そして、図6(c)は、(a)及び(b)によって得られた測定値から求められるバンドラインナップの値の一例である。
【0050】
Siサンプルはウエハー状の単結晶である。このサンプルでは、透過測定ができないために反射測定からバンドギャップを求める。前述の通り、反射測定の結果より図6(a)より、バンドギャップは1.10eVと得られる。図6(b)よりイオン化ポテンシャルは、5.22eVと得られる。従って、図6(c)のようにEVBM=5.22eV、ECBM=4.12eVと求めることができる。
【0051】
図7は本発明の第2の実施形態を示すバンドラインナップ測定装置の要部構成図で、ハーフミラー光学系を含む場合を示している。なお、図7において、前述した図2と同一作用をするものには同一符号を付して説明を省略する。
図7の実施形態は、図2の実施形態の改良型である。電気系測定部2には、さらに正電圧源Vcc24及び電流計25が設けられている。照射・参照・反射光学系5には、さらに二次光・迷光フィルター60と集光レンズユニット61が設けてある。
【0052】
正電圧源Vcc24は、一端が接地され、他端が電気的接続用窓部36を介してコレクター電極21と接続されている。正電圧源Vcc24は、電子を効率よく測定するために、コレクター電極21に数ボルトから数百ボルトの電圧を印加する。
二次光・迷光フィルター60は、ノイズとなる二次光や迷光を除去して、信号成分の光からより正確な測定値が得られるようにするもので、分光器4から出力された単色光を透過して、ハーフミラー52に送る。集光レンズユニット61は、照射及び反射用光ファイバー59の先端部に設けられ、照射光を試料31の表面に集光すると共に、試料表面からの反射光が反射用光ファイバー59に入射しやすいようにする。
第2の実施形態によれば、別々の測定装置で測定する場合における、試料のセッティングなどの測定環境や装置特性の影響が除去でき、高精度なバンドラインナップの測定を実現することができる。
【0053】
図8は本発明の第3の実施形態を示すバンドラインナップ測定装置の要部構成図で、分岐ファイバー光学系を含む場合を示している。なお、図8において、前述した図2と同一作用をするものには同一符号を付して説明を省略する。
図8の実施形態は、図2図7の実施形態における照射・参照・反射光学系の光学部品を分岐ファイバーで置き換えたものである。分岐ファイバー9は、分光器側ファイバー91、参照光ファイバー92、反射光ファイバー93、照射光ファイバー94、ファイバー分岐部95で構成される。
【0054】
図9は分岐ファイバーの詳細を説明する構成図で、(A)は装置全体図、(B)は照射光側の端面図、(C)は参照光側の端面図、(D)は反射光側の端面図、(E)は分光器側の端面図である。分光器側ファイバー91は、分光器4の出口では単色光が直線状に出射するため、分光器4の出射する単色光の分布と適合するようにファイバー縦に配置されている。参照光ファイバー92は、分光器側ファイバー91に入射した単色光を、参照光用としてファイバー分岐部95で分岐して取り出す。反射光ファイバー93は、一端が反射光を反射光用光量計58に導くと共に、他端は照射光ファイバー94とバンドルされて、試料に対向する。照射光ファイバー94は、照射参照光用以外の照射された単色光を、試料照射用としてファイバー分岐部95で配置し直して試料に照射する。
このように構成された分岐ファイバーにおいて、試料上で反射した光は、照射光ファイバー94とバンドルされている反射光ファイバー93を通り、ファイバー分岐部95で分岐され、反射光ファイバー93を通って、反射光用光量計58へと導かれる。
【0055】
図10は電極形状と電極配置の関係を示す図で、図7の装置のようなハーフミラー光学系の使用時を示している。図10において、(a1)はリング状電極の側面図、(a2)はリング状電極の平面図、(b1)は短針形電極の側面図、(b2)は短針形電極の平面図、(c1)はメッシュ形電極の側面図、(c2)はメッシュ形電極の平面図を示している。
【0056】
図10において、照射及び反射用光ファイバー59、集光レンズ61、コレクター電極21、試料31の順に垂直方向に位置している。コレクター電極21は、試料31の直上に配置されており、電子を計測するももので、コレクター電極21と試料31との距離は、例えば、大気圧下での測定では、1.0mm以下とすると測定精度と測定作業効率が両立できて好ましいが、電子の平均自由行程を考慮して0.5mm以下として測定精度を高めてもよい。電極形状としては例えば、照射ビームの光路上で、照射ビーム径を邪魔しないリング状の電極21a、照射ビーム径の一部にかかる短針状の電極21b、あるいは、照射ビーム径と同程度のメッシュ状の電極21cを用いる。
【0057】
図11は電極形状と電極配置の関係を示した図で、図8の装置のような分岐ファイバー光学系の使用時を示している。図11において、(a1)はリング状電極の側面図、(a2)はリング状電極の平面図、(b1)は短針形電極の側面図、(b2)は短針形電極の平面図、(c1)はメッシュ形電極の側面図、(c2)はメッシュ形電極の平面図を示している。
【0058】
<測定方法>
次に、バンドラインナップの測定方法について、図及びフローチャートを用いて説明する。図12はバンドラインナップ測定における全体測定の手順を示すフローチャートである。
初めに、制御装置83は、透過及び反射測定に必要なバックグラウンド(Dark)スペクトル及び、参照(Ref)スペクトルをすでに取得しているかどうかを判断する(S302)。取得していなければ、後述のバックグラウンド・参照スペクトル測定フローチャートに従い取得する(S304)。取得していた場合は、試料ホルダー32に測定試料31をセットする(S306)。試料31もしくは電極21あるいは両方に、電圧を印加する(S308)。光源部1から出射する赤外域から紫外域の光のうち、制御装置83からの制御信号により、分光器4を操作し所望の波長の光だけを単色光として出力する(S310)。分光器4から出力された単色光はハーフミラー52を含む光学系5または、分岐ファイバー9を用いて、一部は参照光として残りは照射光として、そして試料で反射した光を分離する。参照光用光量計57、反射光用光量計58、透過光用光量計72は、それぞれ参照光、反射光、試料が光透過性を有する材料の場合は透過光の光量を測定する(S312)。
【0059】
次に、光が試料31に照射されたときに試料31とコレクター電極21間に流れる電流値を電流計23または、24で計測する(S314)。測定された電流値及び光量は記憶装置81に記録される(S316)。
ここで、最初に設定した測定波長範囲の測定が終了したか否かを判断し(S318)、全測定波長による測定が終了していない場合(S318において、NO)、制御装置83は分光器4を操作し、単色光の波長を変更する(S322)。また、S322の処理が終了した後は、S312に戻り、S312以降の処理を行う。
【0060】
全測定波長による測定が終了した場合(S318において、YES)、試料31もしくはコレクター電極21あるいは両方に、印加された直流電圧をOFFにする(S320)。記憶装置81に記録された測定結果が解析装置82に送られる。解析装置82は、後述のイオン化ポテンシャル決定フローチャート(S324)、続いてバンドギャップ決定フローチャート(S326)に従い、それぞれの値を決定する。その後、イオン化ポテンシャルの値およびバンドギャップの値から、解析装置82はバンドラインナップ決定フローチャートによりバンドラインナップを決定する(S328)。
【0061】
そして、制御装置83は測定位置の変更を行うかどうかを判断し(S330)、測定位置の変更を行う場合(S330において、YES)、ステージユニット33を操作して測定場所を変更する(S332)。また、S332の処理が終了した後は、制御装置83はS310に戻り、S310以降の処理を行う。
他方、S330の処理において、測定位置の変更しない場合(S330において、NO)、測定を終了する。
【0062】
次に、図13を用いてバックグラウンド・参照スペクトル測定フローチャートについて説明する。
相対透過率及び相対反射率を求めるためには、バックグラウンドスペクトル・参照スペクトルの両方を測定しなければならない。まず、制御装置83はバックグランド(Dark)スペクトルを測定するか、それとも参照(Ref)スペクトルのどちらを測定するかを判断する(S402)。バックグランドスペクトルの場合には、試料ホルダー32には、何もセットしない(S404)。参照スペクトルの場合には、試料ホルダー32に参照物質をセットする(S406)。その後の操作は同じであり、光源部1から出射する赤外域から紫外域の光のうち、制御装置83からの制御信号により、分光器1を操作し所望の波長の光だけを単色光として出力する(S408)。参照光用光量計57、反射光用光量計58、透過光用光量計72は、それぞれ参照光、反射光、試料が光透過性を有する材料の場合は透過光の光量を測定する(S410)。測定された光量は記憶装置81に記録される(S412)。
【0063】
次に、制御装置83は、最初に設定した測定波長範囲の測定が終了したか否かを判断し(S414)、全測定波長による測定が終了していない場合(S414において、NO)、分光器4を操作し、波長を変更する(S416)。また、S416の処理が終了後は、S410に戻り以降の処理を行う。
【0064】
<バンドラインナップの測定例>
記憶装置81は、図12のフローチャートに従って、波長を走査しながら測定される光量と電流値を記録する。得られたスペクトルから、解析装置82によってイオン化ポテンシャル決定フローチャート、バンドギャップ決定フローチャートおよびバンドラインナップ決定フローチャートに従ってバンドラインナップを決定する。
【0065】
図12のS324のイオン化ポテンシャル決定フローチャートは、図14のように参照光量及び電流値からイオン化ポテンシャルを決定する。前述の通り、参照光量測定は、フォトダイオードで行っており波長感度補正が必要である。感度補正は、測定波長ごとにその場で感度補正を行うものと、ある波長を基準にして、測定後補正するものとがある。ここでは、感度補正された光量(C−rPD)とする。解析装置82は、波長感度校正された光量から、光子数に変換するために、C−rPDを各波長での光子のエネルギーで割り相対光子数(NP)を求める(S502)。
NP=(C−rPD)/E (10)
【0066】
1光子あたりの収量(光電子収量:PYS)にするために、解析装置82は、電流値(CI)を相対光子数(NP)で割る(S504)。
PYS=CI/NP (11)
Fowler関数を仮定して閾値を求めるために、S504で得られた値の平方根を取る(S506)。
S−PYS=(PYS)1/2 (12)
解析装置82は、横軸を照射エネルギー、縦軸をS−PYSとしてグラフを作成する(S508)。そして、グラフにおける変曲点の位置で接線を引き、バックグラウンドのラインとの交点におけるエネルギーをイオン化ポテンシャルと決定する(S510)。
【0067】
図12のS326のバンドギャップ決定フローチャートは、図15のように反射測定あるいは、透過測定からバンドギャップを決定する。
解析装置82は、測定装置に透過測定の設備が取り付けられているか、又は、透過性のある試料かによって透過測定があるかないかを判断する(S602)。透過測定がある場合は、透過測定データ(TM)からバックグランドデータ(Tdark)と参照データ(Tref)を用いて相対透過率(RT)を求める(S604)。
RT=(TM−Tdark)/(Tref−Tdark) (13)
その次に、縦軸:RT、横軸:Eのグラフを作成する(S620)。グラフより吸収端を求める(S622)。
【0068】
透過測定がない場合(S602でNO)は、反射測定データ(RM)からバックグランドデータ(Rdark)と参照データ(Rref)を用いて相対反射率(RR)を求める(S606)。
RR=(RM−Rdark)/(Rref−Rdark) (14)
相対反射率RRを求めてからは2つの計算方法を使って吸収係数(a)を求めることになる。RRを用いてKramers - Kronig変換(非特許文献5)を用いて屈折率(n)と消光係数(k)を求める(S608)。そして消光係数を用いて吸収係数(a)を求める(S612)。
a=4πk/λ (15)
ここでλは波長である。
一方で、Kubelka - Munk変換(非特許文献6)を用いて吸収係数(a)を求める(S610)。
a/s=(1−RR)(1−RR)/(2RR) (16)
ここで、s=1とする。
【0069】
それぞれの変換方法で吸収係数が求まったので、その後の処理は同じになる。直接遷移を仮定した場合、次式の関係より縦軸:(aE)、横軸:Eのグラフを作成する(S614)。
a=A・(E−Eg)1/2/E (17)
間接遷移を仮定した場合、次式の関係より縦軸:(aE)1/2、横軸:Eのグラフを作成する(S616)。
a=B・(E−Eg)/E (18)
グラフにおけるもっとも低いエネルギーでの変曲点の位置で接線を引き、バックグラウンドのラインとの交点におけるエネルギーをバンドギャップとする(S618)。それぞれよりバンドギャップが求まるが、測定対象の材料特性などを考慮して、どの値を使用するかを決め、バンドギャップを決定する(S624)。
【0070】
図12のS326のバンドラインナップ決定フローチャートは、図16のようにバンドギャップの値とイオン化ポテンシャルの値からバンドラインナップを決定する。まず、バンドギャップ(Eg)及びイオン化ポテンシャル(IP)の値を読み込む(S702)。次に、伝導体下端(LUMO):電子親和力(χ)の準位を求める(S704)。
χ=IP−Eg (19)
そして、真空準位、χ、IP、Egを表示した図表を作成する(S706)。
【0071】
図17は、有機EL材料に使われるRubrene、Me−TPD、Alq3、CuPCの反射測定より求めたバンドギャップの一例を示す図である。なお、Rubrene(5,6,11,12-tetraphenyl naphthacene)は、テトラセン誘導体の芳香族炭化水素である。Rubrene単結晶は有機半導体で最も高い移動度をもち、有機EL(OLED)、有機電界効果トランジスタ(OFET)などに用いられる。Me−TPD(N,N,N’, N’-Tetrakis (4−methylphenyl) Benzidine)は、芳香族のアミンである。高い正孔移動度を持つことから有機EL材料では、正孔輸送材として用いられる。Alq3は、トリス (8-キノリノラト)アルミニウム(tris (8-hydroxyquinolinato) aluminium)のことで、アルミニウム金属と3つの8−キノリノール配位子の二座配位による錯体であり、有機ELパネルの発光材料である。CuPCは、銅フタロシアニン (Phthalocyanine, Copper complex)のことで、4つのフタル酸イミドが窒素原子で架橋された構造をもつ環状化合物の銅錯体である。
【0072】
また、図18は、同じサンプルのイオン化ポテンシャル測定の一例を示す図で、ここでは光電子収量測定結果として表示してある。そして、図19は、図17及び図18によって得られた測定値から求められるバンドラインナップの値の一例である。
測定に用いたサンプルでは、粉状物質であり、透過測定ができないために反射測定からバンドギャップを求める。前述の通り、反射測定の結果である図17より、バンドギャップはRubrene、Me−TPD、Alq3及びCuPCの其々について、2.2eV、3.1eV、2.9eV、1.6eVと得られる。図18より其々のイオン化ポテンシャルは、5.35eV、5.5eV、5.9eV、5.25eVと得られる。従って、図19のように其々の価電子帯上端EVBMはイオン化ポテンシャルと等しくなり、其々の伝導帯下端ECBMは3.15eV、2.4eV、3.0eV、3.65eVと求めることができる。
【0073】
<蛍光測定機能>
蛍光機能測定を有するバンドラインナップ装置は、図7または、図8に示す装置をベースとし、反射測定部58に蛍光用分光器を設置する。蛍光用分光器は、CCD付分光器または、CCD付マルチチャンネル分光器を用いることができる。蛍光測定は、分光器4の分光した入射波長とは別の波長を測定する。試料が蛍光物質である場合には、紫外光を照射したときに、照射した紫外光の波長とは異なる別の波長の反射光又は発光が観測されるので、この蛍光をCCD付分光器または、CCD付マルチチャンネル分光器で測定する。
【0074】
図20図8の装置で測定した蛍光測定の一例を示す図で、(A)は分光図で縦軸は発光強度(Photoluminecence:PL[a.u.])、横軸は波長を示してあり、(B)は蛍光ペンの緑色、黄色、オレンジ色、ピンクを示してある。ここでは、分光器4の分光した入射波長は395nmの場合を示している。蛍光ペンの緑色に対して、入射波長の395nmと510nm付近をピークとする蛍光波長が観測される。蛍光ペンの黄色に対して、入射波長の395nmと510nm付近をピークとする蛍光波長が観測される。蛍光ペンのオレンジ色に対して、入射波長の395nmと590nm付近をピークとする蛍光波長が観測される。蛍光ペンのピンクに対して、入射波長の395nmと600nm付近をピークとする蛍光波長が観測される。
【0075】
図21図8の装置で反射測定部58にCCD付マルチチャンネル分光器を設置し、蛍光測定の一例を示す図である。測定サンプルはMe−TPDである。縦軸は、発光強度で横軸は波長で示してある。照射波長を変えても発光波長に変化はないが、波長により強度の変化が見られる。最大値発光における波長は、420nm付近である。
【0076】
なお、上記の実施形態においては、光源部の放射する連続光として、赤外域の波長、可視光域の波長、紫外域の波長の全ての領域に渡るものを示したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、測定対象材料の既知の性質を基礎にバンドラインナップの特定事項に関して測定する場合のように、光源部は赤外域の波長、可視光域の波長、紫外域の波長のうち一部のみを含む連続光を放射するものでもよい。
また、上記の実施形態においては、透過光測定部と反射光測定部の双方を備える場合を示しているが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、測定対象試料が光透過性を有する場合には、透過光測定部だけでもよい。また、測定対象試料が光透過性のない場合には、反射光測定部だけを用いてもよい。
【0077】
さらに、上記の実施形態においては、解析装置における解析式として、Kramers - Kronig変換、Kubelka - Munk変換を示しているが、本発明はこれに限定されるものではなく、同一の目的を達成する同等の変換式を用いることができる。また、上記の実施形態は、本発明を例示するものに過ぎず、当業者にとって自明な装置や機器・材料による変更を含むものである。
さらに、上記の実施形態においては、バンドラインナップ測定装置としてバッチ処理で試料の特性値を測定する場合を示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、製造ラインに設置して製造される試料を連続的に測定するように構成されてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0078】
上述したように、本発明のバンドラインナップ測定装置によれば、エネルギーの高い紫外光に対してダメージを受けやすい有機物材料でも、照射によって試料状態が変わることなくバンドラインナップを正確に測定できる。そこで、半導体分野やナノ材料創製等の材料分野、蛋白質科学や遺伝子工学などの分野でも、高い精度でのバンドラインナップ測定が行え、本発明は産業の発展に大きく寄与しうる。
【符号の説明】
【0079】
1 光源部
2 電気系測定部
21 コレクター電極
22、24 電圧源
23、25 電流計
3 試料設置部
31 試料
32 試料ホルダー
33 ステージユニット、移動機構、試料台
4 分光器
5 光照射部、照射光学系、照射・参照・反射光学系
52 ハーフミラー
57 参照光用光量計、参照光測定部
58 反射光用光量計又はCCD付きマルチチャンネル分光器、反射光測定部
59 照射及び反射用光ファイバー
60 二次光・迷光フィルター
61 集光レンズ
7 透過光学系
71 透過用光ファイバー又はレンズ
72 透過光用光量計又はCCD付きマルチチャンネル分光器、透過光測定部
8 論理制御部
81 記憶装置
82 解析装置
83 制御装置
9 光照射部、照射及び反射用光分岐ファイバー
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
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図14
図15
図16
図17
図18
図19
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図21