(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6095046
(24)【登録日】2017年2月24日
(45)【発行日】2017年3月15日
(54)【発明の名称】耐候性鋼及びこれを用いた溶接継ぎ手
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20170306BHJP
C22C 38/06 20060101ALI20170306BHJP
【FI】
C22C38/00 301F
C22C38/06
【請求項の数】9
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-234603(P2012-234603)
(22)【出願日】2012年10月24日
(65)【公開番号】特開2014-84503(P2014-84503A)
(43)【公開日】2014年5月12日
【審査請求日】2015年10月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(72)【発明者】
【氏名】中村 照美
(72)【発明者】
【氏名】津崎 兼彰
(72)【発明者】
【氏名】邱 海
(72)【発明者】
【氏名】西村 俊弥
(72)【発明者】
【氏名】目黒 奨
【審査官】
相澤 啓祐
(56)【参考文献】
【文献】
特開2004−211150(JP,A)
【文献】
特開2005−105325(JP,A)
【文献】
特開2003−049236(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00−38/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Fe-Mn-Si-Al系の耐候性鋼であって、質量%で表して、
Alを0.1−3.5、
Siを0.57−0.60、
Mnを0.4−2.5、
Cを0.11−0.21、
Bを0.0004−0.0035、
含有し、残部がFe及び不可避成分からなることを特徴とする耐侯性鋼。
【請求項2】
請求項1に記載のFe-Mn-Si-Al系の耐候性鋼であって、Alを0.7−1.2、含有することを特徴とする耐侯性鋼。
【請求項3】
請求項1に記載のFe-Mn-Si-Al系の耐候性鋼であって、Alを0.60−0.63、含有することを特徴とする耐侯性鋼。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れか1項に記載のFe-Mn-Si-Al系の耐候性鋼であって、Mnを1.35−1.65、含有することを特徴とする耐侯性鋼。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れか1項に記載のFe-Mn-Si-Al系の耐候性鋼であって、Cを0.12−0.18、含有することを特徴とする耐侯性鋼。
【請求項6】
請求項1乃至5の何れか1項に記載のFe-Mn-Si-Al系の耐候性鋼であって、Bを0.0007−0.0029、含有することを特徴とする耐侯性鋼。
【請求項7】
請求項1乃至6の何れか1項に記載の耐侯性鋼を使用した溶接継手であって、ボンド部の金属組織の主相が、ベイナイト相であり、フェライト相が0.1%以下の体積分率であることを特徴とする溶接継手。
【請求項8】
請求項7に記載の溶接継手であって、ボンド部の硬さがヴィッカース硬さ(Hv)で237以上、かつ、室温(20℃)でのシャルピー吸収エネルギーが60J以上であることを特徴とする溶接継手。
【請求項9】
請求項7に記載の溶接継手であって、ボンド部の硬さがヴィッカース硬さ(Hv)で297以上、かつ、室温(20℃)でのシャルピー吸収エネルギーが100J以上であることを特徴とする溶接継手。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、橋梁、建築、海洋構造物、その他の構造物に用いる溶接性を考慮した耐候性鋼に関し、特に溶接後に生じるボンド部(以下ボンド部と称する)の靱性低下を防ぐことができる耐候性鋼に関する。また、本発明は、前述の耐候性鋼を用いた溶接継ぎ手に関し、特に、溶接部強度低下がなく良好なボンド部の靱性を持つ溶接継ぎ手に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼材は自然環境中において不可逆的に腐食あるいは錆化してゆくため、鋼橋のような構造物では、適切な防錆防食の処置を講じる必要がある。鋼材の防錆防食法には、表面被覆、表面改質、電気防食、鋼材自体の改質など、多くの方法がある。そして、鋼材の代表的な防錆防食法には、塗装、耐候性鋼材、亜鉛メッキ、金属溶射が知られている。このうち、耐候性鋼材は、鋼材に適量の合金元素を添付することで、鋼材表面に緻密な錆層を形成させ、これが鋼材表面を保護することで、以降の錆の進展が抑止され、腐食速度が普通鋼に比べて低下する(非特許文献1)。
耐候性鋼材は、例えばJIS G 3114(ISO 4952)に規定されており、現在搭載されている合金の組成元素には、マンガン、銅、クロムを必須元素とし、ニッケル、モリブデン、ニオブ、チタン、及びバナジウムを任意元素としている。
【0003】
しかしながら、現在JISに規定された耐候性鋼材では、任意元素や必須元素にトランプエレメントを含むため、鉄鋼材料のリサイクル使用の際に分離困難な不純物成分となると共に、昨今の金属価格の上昇期には合金の組成元素の調達が困難となり、鋼材の生産に支障を生ずるという課題があった。
そこで、本出願人は、特許文献1や非特許文献2に示すように、Fe―Mn―Si−Alを基本成分とした耐候性鋼(以下ではAl-Si鋼と称する)を開発している。この耐候性鋼はAlの組成が0.1から3.5質量%、Siの組成が0.3から3.5質量%含むことにより優れた耐候性を示すもので、微細粒鋼であることを特徴としている。
【0004】
しかし、微細粒鋼は溶接を行うと熱影響部(以下ではHAZ部と称する)で軟化が生じるという課題がある。HAZ部の軟化を防ぐためにはC量を増やすことが必要である(非特許文献3、4)。しかし、SiとMnを含むSi−Mn系の鉄鋼材料はC量を多くするとボンド部の靱性が低下する。
図1に示すように、Al-Si鋼ではC量が増えると、靱性(シャルピー吸収エネルギー)が低下している。このため、C量の高いAl-Si鋼では、ボンド部の靱性が低下し良好な溶接継ぎ手とならないという課題があった。
【0005】
そこで、靱性(シャルピー吸収エネルギー)を向上させるためにはC量を少なくすることが有効であるが、他方で、C量が少ないAl-Si鋼では、溶接によりHAZ部に軟化が生じる。このように、Al-Si鋼の靱性を確保し溶接時の軟化を同時に防止することは困難である。このため現在に至るまで、溶接部強度低下がなく良好なボンド部の靱性を持つAl-Si鋼は知られていない。そこで、鋼橋のような構造物において、鋼材としてAl-Si鋼を用いる場合に、溶接継ぎ手の強度が充分に得られないため、耐候性鋼としての用途が限られるという課題があった。
【0006】
他方、特許文献2では、2質量%のSiで、Alをほとんど含まない低炭素ベイナイト鋼(Fe-0.05C―0.2Mn−0.2Si)の厚板を作る時にはBの添加が有効であるとされている。その理由は、Bが添加されると連続冷却変態(CCT)図上のフェライト相が長時間側に移動するので、厚板中央部の冷却速度がベイナイト析出域のみを通るようになるためである。
【0007】
しかしながら、Al-Si鋼では、フェライトフォーマーであるAlやSiを低炭素ベイナイト鋼よりも多量に含むため、低炭素ベイナイト鋼(Fe-0.05C―0.2Mn−0.2Si)と同じようにBを添加しただけでは、初析フェライトや粒界フェライトの生成を防ぐことはできないことが、理論的に判明している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005―105325号公報
【特許文献2】特開平8−144019号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】道路橋示方書・同解説II鋼橋編、日本道路協会、2002年、第181頁−第185頁
【非特許文献2】小冊子「近未来の鉄鋼材料を知る」no.6、物質・材料研究機構 超鉄鋼研究センター編、2004年11月20日発行 http://www.nims.go.jp/ stx-21/jp/publications/stpanf/pdf/corrosion6.pdf
【非特許文献3】伊藤礼輔、川口善昭、志賀千晃、溶接学会全国大会講演概要、第65集(1999)p.178−179
【非特許文献4】松岡範幸、中田毅、伊藤礼輔、中村照美、平岡和雄、溶接学会全国大会講演概要、第79集(2006)p.24−25
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本出願人が開発したAl-Si鋼では、HAZ部の軟化を抑えるためにC量を高くすることが必要であった。しかし、C量が増えるとボンド部での靱性が低下し、良好な靱性を持つ溶接継ぎ手が得られなかった。そこで、本発明では、ボンド部の靱性及び強度がともに満足できる耐候性鋼及び溶接継ぎ手を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の耐候性鋼は、Fe-Mn-Si-Al系の耐候性鋼であって、質量%で表して、Alを0.1−3.5、Siを
0.57−0.60、Mnを0.4−2.5、Cを
0.11−0.21、Bを0.0004−0.0035、含有し、残部がFe及び不可避成分からなることを特徴とする。
本発明の耐候性鋼において、好ましくは、Alを0.7−1.2、含有するとよい。耐候性鋼を製造する場合に、Alを0.95質量%を中心に、±0.25質量%の許容範囲を設けて、製造歩留まりを高めるものである。
本発明の耐候性鋼において、好ましくは、Alを0.60−0.63、含有するとよい。
本発明の耐候性鋼において、好ましくは、Mnを1.35−1.65、含有するとよい。耐候性鋼を製造する場合に、Mnを1.50質量%を中心に、±10%の許容範囲を設けて、製造歩留まりを高めるものである。
本発明の耐候性鋼において、好ましくは、Cを0.12−0.17、含有するとよい。耐候性鋼を製造する場合に、Cを0.12−0.17質量%含有すると、ボンド部のシャルピー衝撃値として100J以上の靱性値を確保でき、かつボンド部の硬さがヴィッカース硬さ(Hv)で297以上となる。
本発明の耐候性鋼において、好ましくは、Bを0.0007−0.0029、含有するとよい。耐候性鋼を製造する場合に、Bを0.0007−0.0029質量%含有すると、ボンド部のシャルピー衝撃値として100J以上の靱性値を確保でき、かつボンド部の硬さがヴィッカース硬さ(Hv)で297以上となる。
【0012】
本発明の溶接継手は、上記の耐侯性鋼を使用した溶接継手であって、ボンド部の金属組織の主相が、ベイナイト相であり、フェライト相が0.1%以下の体積分率であることを特徴とする。
本発明の溶接継手において、好ましくは、ボンド部の硬さがヴィッカース硬さ(Hv)で237以上、かつ、室温(20℃)でのシャルピー吸収エネルギーが60J以上であるとよい。
本発明の溶接継手において、好ましくは、ボンド部の硬さがヴィッカース硬さ(Hv)で297以上、かつ、室温(20℃)でのシャルピー吸収エネルギーが100J以上であるとよい。
【0013】
Alは耐食性を向上させる元素であるが、靱性と溶接性を劣化させる元素であり、3.5%を超えて添加できない。したがって、Alの組成は0.1から3.5質量%が望ましく、特に好ましくは0.7−1.2質量%がよい。
【0014】
Siは耐食性を向上させる元素であるが、靱性と溶接性を劣化させる元素であり、3.5%を超えて添加できない。したがって、Siの組成は0.3から3.5質量%が望ましく、特に好ましくは0.15−0.65質量%がよい。
【0015】
Mnは強度を向上させる元素であるが、2.5%を超えると延性と溶接性を劣化させる。したがって、Mnの組成は0.4から2.5質量%が望ましく、特に好ましくは1.35−1.65質量%がよい。
【0016】
Cは引張強度を高める元素であり、0.11質量%以上であれば、Si−Mn系の鉄鋼材料では、590MPa以上の溶接継ぎ手の引張強度を得ることができる。しかし、C量が高くなるとボンド部の靱性が低下する。590MPa級鋼のボンド部のシャルピー衝撃値である60J以上の靱性値を確保するためには0.21質量%以下のC量とする。更に、炭素鋼で590MPa以上の引張強度となるのはHvが200以上であるので、Hvが237以上であれば590MPa以上の引張強度を確保できる。特に好ましくは、Cを0.12−0.17質量%、含有すると、ボンド部のシャルピー衝撃値として100J以上の靱性値を確保でき、かつボンド部の硬さがヴィッカース硬さ(Hv)で297以上となる。
【0017】
ボンド部のシャルピー吸収エネルギーは溶接部のB量によって変化する。C量が0.16質量%でBが0.004質量%以下の溶接継ぎ手では、590MPa級の鉄鋼材料のボンド部よりも低いシャルピー吸収エネルギーとなる。また、C量が0.16質量%でBが0.0035質量%以上の継ぎ手は590MPa級の鉄鋼材料のボンド部よりも低いシャルピー吸収エネルギーとなる。このため、Bの範囲は0.0004質量%以上、0.0035質量%以下であることが望ましい。
特に好ましくは、Bを0.0007−0.0029質量%、含有するとボンド部のシャルピー衝撃値として100J以上の靱性値を確保でき、かつボンド部の硬さがヴィッカース硬さ(Hv)で297以上となる。
【0018】
Al-Si鋼では、フェライトフォーマーであるAlやSi多量に含むため、ボンド部の靭性を低下するフェライト相の生成は避けられないが、上述のようにBを添加することによりボンド部のフェライト相の生成を抑制することが可能であり、ボンド部の靭性を改善することが可能となる。Bの範囲を0.0004質量%以上、0.0035質量%以下にした発明鋼を使用した溶接継ぎ手では、ボンド部の金属組織の主相がベイナイト相であり、フェライト相が0.1%以下の金属組織を有するので、溶接継ぎ手に必要とされる靭性が確保できる。
【0019】
本発明に拠るAl-Si鋼のボンド部の組織は従来の耐候性鋼に比較し、
図3に示すようにフェライトが少ない組織が得られた。
図2に示す従来の耐候性鋼では白く見える粒界フェライトの割合が47%と多い。これに対し本発明に拠るAl-Si鋼のボンド部の粒界フェライトの割合は0.1%以下と少なくなり優れたボンド靱性を有す。更に、HAZ軟化を防ぐためにC量を0.11質量%から0.21質量%まで高めた本発明によるAl-Si鋼のボンド靱性は、従来の耐候性鋼のボンド靱性よりも改善され(
図4)、この特性を利用することにより良好な溶接継ぎ手を提供できる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の耐候性鋼によれば、鉄鋼材料のリサイクル使用の際に分離困難な不純物成分となるトランプエレメントを含まないため、鉄鋼材料のリサイクル使用が容易にできる。また、本発明の耐候性鋼によれば、溶接を行っても熱影響部で軟化が生じにくいと共に、靱性(シャルピー吸収エネルギー)を良好に保持できる。そこで、本発明の耐候性鋼によれば、ボンド部の靱性を高く維持して、良好な溶接継ぎ手となるため、橋梁のような鋼構造物の防錆防食用として最適である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図2】ボンド靱性が低下した粒界フェライトが生成した組織。
【
図3】B添加により粒界フェライトの生成が0.1%以下に抑制された組織。
【
図5】開発鋼(0.16質量%C)のB量とボンド靭性の関係。
【
図6】開発鋼(0.11質量%C)のB量とボンド靭性の関係。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0022】
[実施例1]
表1は目標組成をAlは0.6質量%、Siを0.6質量%、Mnを1.50質量%とし、C量は0.10質量%から0.20質量%まで0.02質量%ずつ増加させ、Bを添加しない比較鋼と、同じ目標組成でB添加した開発鋼の成分の分析値とシャルピー吸収エネルギーを示したものである。比較鋼ではC量が0.10質量%(分析値:0.11質量%)から0.20質量%の範囲では、シャルピー吸収エネルギーの値は最大99.2J、最小21.5Jであり、C量を変えても100J以下のシャルピー吸収エネルギーしか得られない。開発鋼では、C量を0.10(分析値:0.11質量%)から0.20質量%(分析値:0.21質量%)の範囲では、シャルピー吸収エネルギーの値は最大199.7J、最小81.2Jであった。Bを添加した開発鋼のシャルピー吸収エネルギーとBを添加しない比較鋼のそれとを同じC量で比較した結果を
図4に示す。0.10質量%Cの時には開発鋼のシャルピー吸収エネルギーは比較鋼の2.0倍、0.12質量%Cの時には2.4倍、0.14質量%Cの時には4.3倍、0.16質量%Cの時には4.7倍、0.18質量%Cの時には4.6倍、0.20質量%Cの時には3.8倍となり、開発鋼では比較鋼に対しシャルピー吸収エネルギーが大きく改善されている。
【0023】
【表1】
【0024】
[実施例2]
Si−Mn系の微細粒鋼では溶接部の軟化防止のためには0.16質量%以上のCが必要である(非特許文献1)。そこで溶接部の軟化を防止するために、目標組成をCは0.16質量%、Alは0.6質量%、Siは0.6質量%、Mnは1.50質量%とし、Bを0.0006質量%、0.0008質量%、0.0010質量%、0.0016質量%、0.0030質量%、0.0050質量%とした開発鋼を試作し、シャルピー吸収エネルギーを調べた。表2は開発鋼の成分の分析値とシャルピー吸収エネルギーを示したものである。Bを添加しないものは表1の比較鋼6に相当している。B添加量に対するシャルピー吸収エネルギーの変化を
図5に示す。Bが0.0012質量%から0.0016質量%付近でシャルピー吸収エネルギーは最大値(142.2J)を示す。この範囲よりBが少なくなると吸収エネルギーは低下する。またこの範囲よりBが多くなってもシャルピー吸収エネルギーは低下している。
【0025】
【表2】
【0026】
[実施例3]
市販の590MPa級鋼と同等以上の強度を持つためにはC量は0.10質量%以上が必要である。そこで、目標組成をCは0.10質量%、Alは0.6質量%、Siは0.6質量%、Mnは1.50質量%とし、Bを0.0006質量%、0.0012質量%、0.0030質量%、0.0060質量%とした開発鋼を試作し、シャルピー吸収エネルギーを調べた。開発鋼の成分とシャルピー吸収エネルギーを表3に示す。Bを添加しないものは表1の比較鋼3に相当している。シャルピー吸収エネルギーの結果を
図6に示す。Bが0.0007質量%から0.0013質量%付近でシャルピー吸収エネルギーは最大値(192.7J)を示す。この値よりBが少なくなるとシャルピー吸収エネルギーは低下し、この値よりBが多くなるとシャルピー吸収エネルギーは低下している。
【0027】
【表3】
【0028】
[実施例4]
比較鋼のボンド部の組織の一例として比較鋼6の組織を
図2に示す。白く見える粗大な粒界フェライトが見られる。この粗大な粒界フェライトの体積分率は47%であった。これに対し、開発鋼のボンド部の組織の一例として開発鋼6の組織を
図3に示す。開発鋼では粗大な粒界フェライト組織は認められず微細組織が認められた。比較鋼のように白く見える粒界フェライトの体積分率は0.1%と少なくなっている。比較鋼のボンド部では粗大な粒界フェライトが多く存在する部分から破壊が生じるのでシャルピー吸収エネルギーは低くなる。これに対し、開発鋼のボンド部では粒界フェライトが微細で、かつ、量が少ないので破壊の基点になることはなく、シャルピー吸収エネルギーは高くなる。
【0029】
[比較例1]
比較鋼1から9は、目標組成をAlは0.6質量%、Siを0.6質量%、Mnを1.50質量%とし、Bを添加せずに、C量を0.06質量%から0.24質量%まで0.02質量%ずつ増加させたものである。比較鋼の成分と硬さ及びシャルピー吸収エネルギーを表4に示す。Cの増加に伴い、シャルピー吸収エネルギーが減少し0.15質量%C(分析値)以上では40J以下となっている。C量が少なくなると硬さが増えるが、逆に、シャルピー吸収エネルギーは低下している。0.1質量%C量のボンド部のHvは216.9となり、590MPa級鋼と同等である。より高強度とするにはC量をこの値より高くする必要があるが、0.12質量%を超える範囲ではHvは261.0以上となるものの、シャルピー吸収エネルギーが79.9J以下の値となる。したがって、比較鋼では、強度と靭性の両方(Hvが237以上、かつ、室温(20℃)で60J以上のボンド靱性)を満足する溶接継手を作ることはできない。
【0030】
【表4】
【0031】
開発鋼について、硬さとシャルピー吸収エネルギーの関係を求めた結果を表5に示す。開発鋼では、引張強度が590MPa級鋼以上を満足するための硬さHvが237以上となり、かつ、室温(20℃)で60J以上のボンド部靱性を持つ溶接継手を作ることができた。
【0032】
【表5】
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明のAl-Si鋼を使用すれば、溶接で生じるHAZ軟化とボンド靱性低下の両方を同時に抑えた溶接継ぎ手の作製が可能となり、優れた耐候性を持った各種の鋼構造物を製作することができる。また、従来、塗装や表面処理が不可欠であった溶接用鋼材による鋼構造物を本発明鋼に置き換えることにより、メンテナンスフリーの鋼構造物となり、建設費及び維持管理費コストの低減化が図られる。