特許第6095047号(P6095047)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6095047
(24)【登録日】2017年2月24日
(45)【発行日】2017年3月15日
(54)【発明の名称】窓映り性の評価方法
(51)【国際特許分類】
   B60J 1/02 20060101AFI20170306BHJP
   B60K 35/00 20060101ALI20170306BHJP
   B60R 11/02 20060101ALI20170306BHJP
   B60J 1/20 20060101ALI20170306BHJP
【FI】
   B60J1/02 Z
   B60K35/00 Z
   B60R11/02 C
   B60J1/20 Z
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-236897(P2012-236897)
(22)【出願日】2012年10月26日
(65)【公開番号】特開2014-84071(P2014-84071A)
(43)【公開日】2014年5月12日
【審査請求日】2015年9月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100155457
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】赤阪 太郎
(72)【発明者】
【氏名】永井 真
(72)【発明者】
【氏名】池田 直也
(72)【発明者】
【氏名】石川 千恵
(72)【発明者】
【氏名】吉川 佳佑
【審査官】 菅 和幸
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−075568(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/043117(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60J 1/02
B60J 1/20
B60K 35/00
B60R 11/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車用フロントガラスへのインパネ表面の窓映り性を評価する窓映り性の評価方法であって、
日光又は日光を模した光を所定角度で前記フロントガラスに入射させた際に前記フロントガラスの車内側の表面に映り込んだ前記インパネ表面の像を撮像する撮像工程と
前記撮像工程で撮像して得た前記インパネ表面の画像について、前記インパネ表面のシボを構成する凸部と凹部との明暗差を輝度差又は明度差として算出する明暗差算出工程と、
前記明暗差算出工程で算出した前記輝度差又は前記明度差に基づいて、前記窓映り性の評価を行う窓映り性評価工程とを具備する窓映り性の評価方法。
【請求項2】
前記明暗差算出工程において、さらに、複数の前記凸部及び前記凹部を含む所定面積のエリア単位で輝度又は明度を取得し、該取得したエリア単位の輝度又は明度のうち最大値と最小値との差でもって、エリアレベルでの輝度差又は明度差を算出する請求項1に記載の窓映り性の評価方法。
【請求項3】
前記明暗差算出工程において、さらに、複数の前記凸部及び前記凹部を含む所定面積のエリア単位で輝度又は明度を取得すると共に、互いに隣接するエリア間での前記輝度又は前記明度の差を算出し、該算出した輝度又は明度の差の最大値をエリアレベルでの輝度差又は明度差とする請求項1に記載の窓映り性の評価方法。
【請求項4】
自動車用フロントガラスへのインパネ表面の窓映り性を評価するための装置であって、 前記フロントガラスと、前記インパネ表面を有する部材とを車体組立て時の位置関係で保持可能な保持部と、
前記フロントガラスに光を照射する照射部と、
前記照射部の照射により生じる前記フロントガラスへの前記インパネ表面の映り込みを撮像する撮像部と、
前記撮像部で撮像することにより得た像につき、前記インパネ表面のシボを構成する凸部と凹部との明暗差を輝度差又は明度差として算出する明暗差算出部と、
前記明暗差算出部で算出した輝度差又は明度差に基づいて、窓映り性の評価を行う窓映り性評価部とを具備する窓映り性の評価装置。
【請求項5】
前記保持部は、前記インパネ表面の保持角度及び前記フロントガラスの保持角度を別個独立に調整可能な保持角度調整部を有する請求項に記載の窓映り性の評価装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窓映り性の評価方法に関し、特に自動車用フロントガラスへのインパネ表面の窓映り性を評価する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用フロントガラスにおいては、フロントガラスにインパネ(インスツルーメントパネル)の表面が映り込む、いわゆる「窓映り」を生じることが一般的に知られている。この種の映り込み自体は運転者の視界を遮るものではなく、安全上の問題は特に生じないが、その映り込みの位置や程度によっては、運転者に違和感や不快感を与えるおそれがある。そのため、過度な窓映りの抑制を図るべく、種々の取り組みがなされている。
【0003】
ここで、フロントガラスへのインパネ表面の映り込みの度合いは、インパネ表面の明度が高まるにつれて強くなる(窓映り性が悪化する)ことが知られており、その一方で、インパネ表面は意匠的な側面を有するために、最低限の明度を持たせる必要が生じる。そこで、例えば下記特許文献1には、フロントガラスの反射率を低減することで、インパネ表面の高明度化とフロントガラスへの映り込みの抑制とを図ったものが提案されている。あるいは、下記特許文献2には、フロントガラスの反射率を所定値以下に抑制すると共に、グロス値で表されるインパネ表面の光沢度を所定値以下に設定することで、インパネ表面の高明度化とフロントガラスへの映り込みの抑制とを図ったものが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−211948号公報
【特許文献2】特開2008−260498号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述のようにフロントガラスへの映り込みを抑制するための対策を実際に実施するためには、その前提として、上記映り込みの度合いを定量的かつ適切に評価する必要が生じる。定量的かつ適切に評価できなければ、対策の効果についても適切に評価できないためである。ここで、明度と窓映り性との関係については、上述のように正の相関がある(明度が高いほど窓映り性も悪化する)ことは知られているものの、これは、あくまで経験則的に把握されているものであり、窓映り性を定量的に評価したものではなかった。すなわち、従来は、車体にフロントガラスやインパネを組付けた状態で作業者が実際に運転席からフロントガラスを見て、インパネ表面の映り込みの度合いを目視で確認することにより、窓映り性の評価を行っていたに過ぎず、窓映り性を適切な指標でもって定量的に評価したものはなかった。
【0006】
上記特許文献2には、窓映り性の評価指標として、グロス値を使用することが記載されているが、ここでいうグロス値はあくまでインパネ表面の物理的性質である光沢度を示すものであって、フロントガラスへ映り込んだ状態での乗員の所感(まぶしさ、違和感、不快感)を反映した指標ではない。そのため、インパネ表面の形態や性状によっては、グロス値でもって窓映り性を適切に評価することは難しかった。
【0007】
ここで、例えばフロントガラスに映り込んだインパネ表面の像についての明度を評価指標として、フロントガラスへの窓映り性を評価する方法が考えられる。この場合、上記像における明度はフロントガラスへの映り込みの度合いをある程度反映したものとなるので、当該明度でもってフロントガラスへの窓映り性を評価できるようにも思われる。しかしながら、実際に種々の形態のインパネとフロントガラスとの組み合わせについて、明度と窓映り性との関係を調べたところ、インパネ表面の映り込みに係る像の明度が比較的低い場合であっても、当該映り込みを「煩わしい」と感じることがあることがわかった。これでは、上記明度が、窓映り性の評価指標として適切とは言い難い。
【0008】
以上の事情に鑑み、本発明により解決すべき課題は、フロントガラスへのインパネ表面の窓映り性を、定量的かつ適切に評価することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題の解決は、本発明に係る窓映り性の評価方法によって達成される。すなわち、この評価方法は、自動車用フロントガラスへのインパネ表面の窓映り性を評価する窓映り性の評価方法であって、日光又は日光を模した光を所定角度でフロントガラスに入射させた際にフロントガラスの車内側の表面に映り込んだインパネ表面の像を撮像する撮像工程と撮像工程で撮像して得たインパネ表面の画像について、インパネ表面のシボを構成する凸部と凹部との明暗差を輝度差又は明度差として算出する明暗差算出工程と、明暗差算出工程で算出した輝度差又は明度差に基づいて、窓映り性の評価を行う窓映り性評価工程とを具備する点をもって特徴付けられる。
【0010】
このように、本発明は、インパネ表面の形態や表面性状によらず、窓映りによって運転者が感じる煩わしさと相関の高い新たな評価指標を見出し、この評価指標に基づき窓映り性の新たな評価手法を構築したことを特徴とする。すなわち、本発明者らは、複数の種類のインパネ表面とフロントガラスとの組み合わせについて、フロントガラスへのインパネ表面の映り込みに対して煩わしさを感じるか否かにつき詳細に評価したところ、フロントガラスに映り込んだインパネ表面の像について、特にインパネ表面に設けたシボの凸部に対応する領域と凹部に対応する領域とで明暗差が大きい場合に、フロントガラスへの映り込みを煩わしいと感じる傾向があることを見出した。そこで、シボを構成する凸部と凹部との明暗差に着目し、官能評価である窓映りの煩わしさとの関係をさらに調べたところ、上記明暗差を輝度差又は明度差で表したときに、これら輝度差又は明度差と、窓映りの煩わしさとの間に一定の相関があることが判明した。
【0011】
本発明は以上の知見に基づき成されたもので、フロントガラスへのインパネ表面の映り込みにおいて、インパネ表面のシボを構成する凸部と凹部との間の明暗差を輝度差又は明度差として算出し、この算出した輝度差又は明度差に基づいて窓映り性の評価を行うことを特徴とする。具体的には、フロントガラスへのインパネ表面の映り込みを撮像し、撮像して得た像について、インパネ表面のシボを構成する凸部と凹部との間の明暗差を輝度差又は明度差として算出し、この算出した輝度差又は明度差に基づいて窓映り性の評価を行うことを特徴とする。輝度又は明度は反射面(映り込んだ像が現れる領域)の面積を考慮した光の強さの評価パラメータであり、かつ、上述のように窓映りの煩わしさとの間に一定の相関を示すことから、フロントガラスへ映り込んだインパネ表面の像についての明るさを定量的に評価するのに適していると考えられる。よって、輝度差又は明度差をシボの凹凸間の明暗差を評価するための指標として用いることで、輝度差又は明度差との間に高い相関を示す窓映り性を定量的かつ適切に評価することが可能となる。これにより、例えば輝度差又は明度差のしきい値を設定しておき、新たに生産を予定している車種につき窓映り状態を再現した際の上記輝度差又は明度差をしきい値と比較することで、窓映り性の良否に関する事前評価を行うことができる。これにより、例えば設計試作段階で、フロントガラスへのインパネ表面の映り込みに対して運転者が煩わしさを感じるか否かを判定することができるので、窓映り性について問題がある場合には早期に設計変更を行うことで、生産開始までに要する期間を短縮することができ、コストダウンを図ることが可能となる。
【0012】
なお、上記しきい値の設定は、例えば以下の手順により行うことができる。まず、予め複数の種類の既存車種におけるインパネ表面のフロントガラスへの映り込みを撮像して得た像につき、シボを構成する凸部と凹部との明暗差(輝度差又は明度差)を算出すると共に、各窓映りを実際に見た際に感じる煩わしさの官能評価を行う。そして、これら複数の明暗差データと、対応する煩わしさの官能評価結果とから、輝度差又は明度差がこれ以上大きくなると、映り込みに対して煩わしさを感じると判断される値を見出すことで、しきい値の設定を行うことができる。
【0013】
また、本発明に係る窓映り性の評価方法は、明暗差算出工程において、さらに、複数の凸部及び凹部を含む所定面積のエリア単位で輝度又は明度を取得し、取得したエリア単位の輝度又は明度のうち最大値と最小値との差でもって、上記エリアレベルでの輝度差又は明度差を算出するものであってもよい。
【0014】
本発明は、フロントガラスに映り込むインパネ表面の像において、特にシボ構成する凸部と凹部との明暗差に着目してなされたものであるが、これと併せて、シボの凹凸レベルよりも広範なエリアレベルでの明暗差に着目して窓映り性を評価することも有効である。すなわち、フロントガラスに映り込んだインパネ表面の像について、シボの凸部や凹部を複数含む所定面積のエリア単位で輝度又は明度を取得し、取得したエリア単位の輝度又は明度のうち最大値と最小値との差でもって、上記エリアレベルでの輝度差又は明度差を算出することで、より広範な視点でフロントガラスを見た場合に感じる窓映りに対する煩わしさを併せて評価することができる。これは、例えばフロントガラスへ映り込んだインパネ上面の意匠(特に形状部分)に対して、乗員(運転者)が煩わしさを感じるか否かを評価する場合に有効である。
【0015】
あるいは、本発明に係る窓映り性の評価方法は、明暗差算出工程において、さらに、複数の凸部及び凹部を含む所定面積のエリア単位で輝度又は明度を取得すると共に、互いに隣接するエリア間での輝度又は明度の差を算出し、算出した輝度又は明度の差の最大値をエリアレベルでの輝度差又は明度差とするものであってもよい。
【0016】
この手法によれば、シボの凹凸レベルより広範な視点でフロントガラスを見たときに、その明るさ(輝度又は明度)が急激に変動する箇所が存在し、かつこの変動箇所から窓映りに対する煩わしさを感じるか否かを効果的に評価することができる。例えば、インパネ上面の意匠ライン(キャラクタライン)が映り込んだ際に、当該ラインを境として明暗差が明確に視認される場合、上述のように、エリア単位で輝度又は明度を取得すると共に、互いに隣接するエリア間での輝度又は明度の差を算出し、算出した輝度又は明度の差の最大値をエリアレベルでの輝度差又は明度差とすることで、意匠ラインに起因して生じる窓映りの煩わしさを適正に評価することができる。
【0018】
自動車用インパネを射出成形で形成する場合、射出成形品の表面に塗装を施す場合と、射出成形面をそのまま製品(インパネ)の表面として使用する場合とがある。塗装を施す場合には、インパネ表面のシボを構成する凸部と凹部何れの表面も塗膜により覆われるため、凸部の表面性状と凹部の表面性状(表面粗さやうねりなど)は塗布の前後で均一化され易い。これに対して、未塗装のインパネの場合には、成形金型の成形面性状がそのまま射出成形品の表面性状に反映されるために、金型に対する成形面の形成手法如何によっては、凸部と凹部とで表面性状が大きく異なる事態が想定される。表面性状の違いは光の反射態様(反射率など)に影響すると考えられるため、インパネが未塗装の射出成形品の場合には、窓映り性について、より詳細かつ慎重な検討が必要である。
【0019】
以上の点に鑑み、本発明では、射出成形面でインパネ表面が形成される自動車用インパネとして、対応するフロントガラスへのインパネ表面の映り込みを撮像して得た像において、インパネ表面のシボを構成する凸部と凹部との輝度差が最大で15cd/m2以下であるものを採用した。これは、実際に窓映りに対して煩わしさを感じるか否かにつき、インパネの種類を代えて検証したところ、詳細な実験結果は割愛するが、凸部と凹部との輝度差が最大で15cd/m2以下に収まっていれば、インパネ表面の窓映りに対して煩わしさを感じることはないことが判明したことによる。よって、上記輝度差が最大で15cd/m2以下となるように製造した自動車用インパネであれば、実際の使用時、インパネ表面がフロントガラスに映り込むことで運転者が煩わしさを感じる事態を回避することができ、快適性の向上を図ることが可能となる。また、輝度(輝度差)は絶対値であり、かつ明度と比べて煩わしさに係る官能評価との間により高い相関を示すことから、より信頼性の高い評価に基づきインパネの設計、選定を行うことができる。
【0020】
また、前記課題の解決は、本発明に係る窓映り性の評価装置によっても達成される。すなわち、この評価装置は、自動車用フロントガラスへのインパネ表面の窓映り性を評価するための装置であって、フロントガラスと、インパネ表面を有する部材とを車体組立て時の位置関係で保持可能な保持部と、フロントガラスに光を照射する照射部と、照射部の照射により生じるフロントガラスへのインパネ表面の映り込みを撮像する撮像部と、撮像部で撮像することにより得た画像に基づき、インパネ表面のシボを構成する凸部と凹部との明暗差を輝度差又は明度差として算出する明暗差算出部と、明暗差算出部で算出した輝度差又は明度差に基づいて、窓映り性の評価を行う窓映り性評価部とを具備する点をもって特徴付けられる。
【0021】
この評価装置によれば、上述した本発明に係る評価方法と同様に、フロントガラスへのインパネ表面の映り込みを撮像し、撮像して得た像について、インパネ表面のシボを構成する凸部と凹部との間の明暗差を輝度差又は明度差として算出し、この算出した輝度差又は明度差に基づいて窓映り性の評価を行い得る。これにより、窓映りの煩わしさとの間に一定の相関があり、かつフロントガラスへ映り込んだインパネ表面の像についての明るさを定量的に評価するのに適したパラメータ(輝度又は明度)を用いて窓映り性の評価を行うことができ、フロントガラスへのインパネ表面の窓映り性を定量的かつ適切に評価することができる。これにより、例えば予め設定しておいた輝度差又は明度差のしきい値に基づき、新たに生産を予定している車種につき窓映り性の良否に関する事前評価を行うことができる。従って、窓映り性について問題がある場合には早期に設計変更を行うことができ、生産開始までに要する期間の短縮、ひいてはコストダウンを図ることが可能となる。また、インパネ表面を再現したもので足りるので、実際のインパネ全体を成形するための金型は窓映り性評価の時点では不要であり、これによっても無駄なコストの発生を抑えることができる。
【0022】
また、本発明に係る評価装置は、保持部が、インパネ表面の保持角度及びフロントガラスの保持角度を別個独立に調整可能な保持角度調整部を有するものであってもよい。
【0023】
この構成によれば、車種によらず、実際にインパネとフロントガラスとを車体に組付けた際の幾何学的関係を容易に再現できる。よって、本評価装置の汎用性をさらに高めて、これから生産を予定している新たな車種につき、設計段階での窓映り性の評価を容易かつ迅速に行うことができる。
【発明の効果】
【0024】
以上のように、本発明によれば、フロントガラスへのインパネ表面の窓映り性を、定量的かつ適切に評価することができる。また、上記窓映りに対して煩わしさを感じることのない自動車用インパネのみを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の一実施形態に係る窓映り性の評価方法のフローチャートである。
図2】本発明の一実施形態に係る窓映り性の評価装置の全体構成を示す斜視図である。
図3】フロントガラスにインパネ表面が映り込んだ状態を車内側から見た図である。
図4図3中、1点鎖線で囲われた領域Aの拡大図である。
図5】シボを構成する凸部と凹部の断面形状を示す断面図である。
図6】本発明により得た評価結果に基づき窓映り性を改善したシボ断面形状の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の一実施形態に係る窓映り性の評価方法を図1図4に基づき説明する。
【0027】
図1は、本発明の一実施形態に係る窓映り性の評価方法のフローチャートである。同図に示すように、この評価方法は、フロントガラス1へのインパネ表面2の映り込み3(後述する図3を参照)を撮像する撮像工程(S1)と、撮像工程(S1)で取得した像について、インパネ表面2のシボを構成する凸部4と凹部5(後述する図4を参照)との明暗差を輝度差(D1)又は明度差(D2)として算出する明暗差算出工程(S2)と、明暗差算出工程(S2)で算出した輝度差(D1)又は明度差(D2)に基づいて、窓映り性の評価を行う窓映り性評価工程(S3)と、窓映り性の評価に際して使用する輝度差又は明度差のしきい値を設定するしきい値設定工程(S4)とを具備する。
【0028】
また、図2は、上記工程(S1)〜工程(S4)において使用可能な窓映り性の評価装置10の全体構成を示す斜視図である。同図に示すように、この評価装置10は、フロントガラス1と、インパネ表面2を有する部材6とを車体組立て時の位置関係で保持可能な保持部11と、フロントガラス1に光Lを照射する照射部12と、照射部12の照射により生じるフロントガラス1へのインパネ表面2の映り込み3(図3)を撮像する撮像部13と、撮像部13で撮像することにより得た像につき所定の演算処理を施す演算処理部14と、演算処理部14で処理した結果を表示するディスプレイ15とを具備する。以下、まず評価装置10の各構成要素につき説明する。
【0029】
保持部11は、図2に示すように、フレーム部16と、フレーム部16に支持され、インパネ表面2を有する板状部材6(図示は省略)を載置した状態で保持可能な載置台17と、フロントガラス1を所定の角度で保持可能なガラス保持部材18とを有する。載置台17はヒンジ等で構成される連結部19を介してフレーム部16に連結されており、載置台17を水平方向に対して所定の角度で傾斜させた状態で保持可能としている。ここで、ガラス保持部材18と連結部19は保持角度調整部として機能し、例えばガラス保持部材18は、フロントガラス1の水平方向に対する傾斜角を0°〜80°の範囲で5°単位で変更可能に構成される。また、連結部19についても、載置台17及び載置台17上に載置される板状部材6の水平方向に対する傾斜角を−20°〜20°の範囲で変更可能に構成とされる。
【0030】
照射部12は光源を有するもので、日光がフロントガラス1に入射する角度を想定して、例えば20°〜80°の範囲で光源の向きを調整可能に構成される。
【0031】
撮像部13は、受光部20と、CCDなどの撮像素子(図示は省略)とを有するもので、例えば輝度計やデジタルカメラなどが相当する。受光部20は、乗員、望ましくは運転手の目線で映り込み3を撮像可能な位置及び角度に設定される。また、撮像素子は、平面上に配置された複数の受光素子を有するイメージセンサであり、受光部20で受光した映り込み13に相当する光を二次元イメージとして光電変換可能に構成される。また、二次元デジタルイメージとして画像に変換した際、最小単位の一画素の大きさは、望ましくはシボを構成する個々の凸部4又は凹部5個々の面積レベル以下の面積となるように設定される。なお、撮像部13による撮像領域は、少なくともフロントガラス1へのインパネ表面2の映り込み3全体を含んでおればよく、後述するエリアレベルでの明暗差取得を考慮して、上記撮像領域を拡大する等、適宜調整することも可能である。
【0032】
演算処理部14は、図2に示すように、コンピュータなどのハードウエアに内蔵されるCPUを有するもので、所定のプログラムを実行することにより、窓映り性に対する所定の評価を導出するものである。具体的に、演算処理部14は、インパネ表面2のシボを構成する凸部4と凹部5(図4)との明暗差を輝度差(D1)又は明度差(D2)として算出する明暗差算出部(M1)と、明暗差算出部(M1)で算出した輝度差(D1)又は明度差(D2)に基づいて、窓映り性の評価を行う窓映り性評価部(M2)とを有する。
【0033】
明暗差算出部(M1)は、本実施形態では、シボの凸部4と凹部5との明暗差を算出する第一明暗差算出部(M11)と、複数の凸部4及び凹部5を含む所定面積のエリア単位で輝度(d1’)又は明度(d2’)を取得すると共に、互いに隣接するエリア間での輝度又は明度の差を算出し、算出した輝度又は明度の差の最大値をエリアレベルでの明暗差とする第二明暗差算出部(M12)とで構成される。
【0034】
このうち、第一明暗差算出部(M1)では、撮像部13により取得した像(画像)について、凸部4又は凹部5に含まれる大きさのエリア単位(例えば個々の受光素子レベル、言い換えると1画素レベル)で輝度(d1)又は明度(d2)を取得すると共に、これら取得した輝度(d1)又は明度(d2)の最大値と最小値との差でもって、凸部4と凹部5との明暗差としての輝度差(D1)又は明度差(D2)を算出する。より具体的には、取得した1画素レベルでの輝度(d1)のうち最も大きい値を示すデータ群(数十個)の平均値と、最も小さい値を示すデータ群(数十個)の平均値との差を算出し、これを凸部4と凹部5との輝度差(D1)とする。明度差(D2)についても同様の方法で算出する。
【0035】
窓映り性評価部(M2)は、上述した明暗差算出部(M1)で算出した明暗差としての輝度差(D1)又は明暗差(D2)と、しきい値設定工程(S4)で設定した輝度差又は明度差のしきい値とに基づき、窓映り性の良否の判定を行う。具体的には、明暗差算出部(M1)で算出した輝度差(D1)と、輝度差のしきい値(Dt1)とを比較し、算出した輝度差(D1)がしきい値(Dt1)以下であれば、この際の映り込み3に対して乗員が煩わしさを感じないものと判定し、しきい値(Dt2)を超えていれば、煩わしさを感じるものと判定する。また、算出した輝度差が上述のように凹凸レベルのもの(D1)の場合には、対応する凹凸レベルの輝度差のしきい値(Dt1)が使用され、算出した輝度差が凹凸レベルより広範なエリアレベルのもの(D1’)の場合には、対応するエリアレベルでの輝度差のしきい値(Dt1’)が使用される。これらの窓映り性の評価(煩わしさの良否判定)は、凹凸レベルの輝度差(D1)のみについて行ってもよいし、凹凸レベルと併せて凹凸レベルより広範なエリアレベルの輝度差(D1’)について行ってもよい。もちろん、明度差の場合も同様に実行可能である。
【0036】
次に、上記構成の評価装置10を用いた窓映り性の評価方法の一例について説明する。
【0037】
(S1)撮像工程
まず、評価対象とすべきフロントガラス1とインパネ表面2を有する部材としての板状部材6を用意する。そして、図2に示すように、上述した評価装置10の保持部11に設けたガラス保持部材18と載置台17とにフロントガラス1とインパネ表面2を有する板状部材6をセットし、その角度(保持角度)を車体組付け時の状態に設定する。この状態で、照射部12より日光を模した光Lを所定角度でフロントガラス1に入射させ、このうち、インパネ表面2で反射し、さらにフロントガラス1の内側面(車内側の表面)で車体後方側に向けて反射した光Lを車体後方側に設置した撮像部13で撮像する。これにより、フロントガラス1へのインパネ表面2の映り込み3の像(ここでは画像)を取得する。
【0038】
(S2)明暗差算出工程
こうして、映り込み3の像を取得したら、次に取得した像について、第一明暗差算出部(M11)により、凸部4又は凹部5に含まれる大きさのエリア単位(例えばデジタル画像の場合における1画素レベル)で輝度(d1)を取得すると共に、これら取得した輝度(d1)の最大値と最小値との差でもって、凸部4と凹部5との明暗差としての輝度差(D1)を算出する。この実施形態では、取得した1画素レベルでの輝度(d1)のうち最も大きい値を含むデータ群(20〜30個)の平均値と、最も小さい値を含むデータ群(同数)の平均値との差を算出し、これを凸部4と凹部5との輝度差、すなわち凹凸レベルでの輝度差(D1)として得る。
【0039】
また、この実施形態では、1画素レベルでの輝度差(D1)の算出と併せて、第二明暗差算出部(M12)により、複数の凸部4及び凹部5を含む所定面積のエリア単位(例えば数百〜数千画素レベル)で輝度(d1’)を取得すると共に、互いに隣接するエリア間での輝度の差を算出し、算出した輝度の差の最大値をエリアレベルでの輝度差(D1’)として得る。なお、この際のエリア単位での輝度(d1’)は、例えば第一明暗差算出部(M11)により取得される1画素レベルの輝度(d1)の当該エリア内での平均値として取得される。
【0040】
(S3)窓映り性評価工程
このようにして凸部4と凹部5との輝度差(D1)を取得したら、この輝度差(D1)と、しきい値設定工程(S4)で予め設定した輝度差のしきい値(Dt1)との比較により、映り込み3に対する煩わしさの存否を判定する。この実施形態では、第一明暗差算出部(M11)で算出した凹凸レベルでの輝度差(D1)と、対応する輝度差のしきい値(Dt1)とを比較し、算出した輝度差(D1)がしきい値(Dt1)以下であれば、この際の映り込み3に対して乗員が煩わしさを感じないものと判定し、しきい値(Dt1)を超えていれば、煩わしさを感じるものと判定する。同様に、第二明暗差算出部(M12)で算出したエリアレベルでの輝度差(D1’)と、対応する輝度差のしきい値(Dt1’)とを比較し、算出した輝度差(D1’)がしきい値(Dt1’)以下であれば、この際の意匠レベルでのインパネ表面2のフロントガラス1への映り込みに対して煩わしさを感じないものと判定し、しきい値(Dt1’)を超えていれば、煩わしさを感じるものと判定する。
【0041】
ここで、上記しきい値(Dt1)は、予め複数の種類の既存車種におけるインパネ表面2のフロントガラス1への映り込み3を撮像して得た像につき、シボを構成する凸部4と凹部5との輝度差(D1)を算出すると共に、車種ごとの映り込み3を実際に見た際に感じる煩わしさの官能評価を行う。そして、これら複数の明暗差(輝度差)データと、対応する煩わしさの官能評価結果とから、輝度差(D1)がこれ以上大きくなると、映り込みに対して煩わしさを感じると判断される値を見出すことで、設定されたものである。ここで本発明者らが既存車種について上述の如く輝度差(D1)と煩わしさの官能評価との関係について調べた結果、映り込み3に対して運転者が実質的に煩わしさを感じないときの輝度差(D1)の最大値が15cd/m2であることが判明した。よって、この値を凹凸レベルでの輝度差のしきい値(Dt1)として用いることで信頼性ある窓映り性の評価が期待できる。なお、同工程(S4)で使用される輝度差(D1)のデータは、本発明に係る評価装置10を用いて車種ごとに算出してもよい。また、煩わしさの官能評価は、同車種について実際の車内に窓映りを再現した際に運転者(実験者又はユーザー)が感じる煩わしさの程度を段階的に官能評価することで取得してもよい。
【0042】
このように、本発明では、フロントガラス1へのインパネ表面2の映り込み3を撮像し、撮像して得た像について、インパネ表面2のシボを構成する凸部4と凹部5との間の明暗差を、窓映りの煩わしさとの間に一定の相関を示す輝度差(D1)又は明度差(D2)として算出するようにした。また、この算出した輝度差(D1)又は明度差(D2)に基づいて窓映り性の評価を行うようにした。このように、輝度差(D1)又は明度差(D2)をシボの凹凸間の明暗差を評価するための指標として用いることで、輝度差(D1)又は明度差(D2)との間に高い相関を示す窓映り性を定量的かつ適切に評価することが可能となる。
【0043】
特に、この実施形態のように、しきい値設定工程(S4)で輝度差のしきい値(Dt1)を設定しておき、新たに生産を予定している車種につき窓映り状態を再現した際に取得した上記輝度差(D1)をしきい値(Dt1)と比較することで、信頼性の高い評価基準値に基づき窓映り性の良否に関する事前評価を行うことができる。これにより、例えば設計試作段階で、フロントガラス1へのインパネ表面2の映り込み3に対して運転者が煩わしさを感じるか否かを判定することができるので、窓映り性について問題がある場合には早期に設計変更を行うことで、生産開始までに要する期間を短縮することができ、コストダウンを図ることが可能となる。
【0044】
また、上述のようにして窓映り性の良否を判定した結果、否と判定された(すなわち映り込み3を煩わしいと感じた)車種については、窓映り性の改善のための設計変更が施される。ここで、映り込み3に影響を及ぼす因子としては、フロントガラス1の保持角度やインパネ表面2、特にインパネ上面の保持角度、及びインパネ表面2のシボに関する形態が考えられるが、フロントガラス1やインパネ上面の保持角度については、窓映り性以外の要件充足の観点から、設計変更を施す余地のない場合が多い。そこで、例えば窓映り性改善の一例として、シボを構成する凸部4と凹部5の表面性状の変更が考えられる。例えば、映り込み3を煩わしいと感じる場合の凸部表面4aの表面性状(具体的には表面粗さ)と、凹部表面5aの表面性状とを調べてみたところ、図5に示すように、凸部表面4aと凹部表面5aとで表面性状に大きな違い(表面粗さでいえばその値に大きな差)があることが判明した。よって、この場合、例えば凸部表面4aの粗面化を図って(表面粗さを大きくして)、凹部表面5aに表面性状を近づける(表面粗さの値を近づける)ことで、輝度差(D1)又は明度差(D2)を小さくして、窓映り性の改善を図ることが可能となる。
【0045】
以上、本発明の一実施形態について述べたが、本発明は、その意図を反映した構成を逸脱しない限りにおいて、上記以外の構成を採ることも可能である。
【0046】
例えば、上記実施形態では、フロントガラス1へのインパネ表面2の映り込み3を撮像し、撮像により取得した像について、インパネ表面2のシボを構成する凸部4と凹部5との明暗差を輝度差(D1)又は明度差(D2)として算出する場合を説明したが、必ずしもインパネ表面2の映り込み3を撮像しなくてもよい。本発明の趣旨に鑑みれば、フロントガラス1へのインパネ表面2の映り込み3において、インパネ表面2のシボを構成する凸部4と凹部5との明暗差を輝度差(D1)又は明度差(D2)として算出できればよく、例えば凸部4や凹部5単位で受光可能な受光素子を単独で備えたもの(図示は省略)を用いて、映り込み3中、凸部4に対応する領域の輝度又は明度を取得し、かつ凹部5に対応する領域の輝度又は明度を取得することによって、明暗差を算出するようにしてもよい。
【0047】
また、例えば、上記実施形態では、第二明暗差算出部(M12)による処理として、複数の凸部4及び凹部5を含む所定面積のエリア単位で輝度(d1’)を取得すると共に、互いに隣接するエリア間での輝度の差を算出し、算出した輝度の差の最大値をエリアレベルでの輝度差(D1’)として得る場合を例示したが、これ以外の手法によりエリアレベルの輝度差(D1’)を算出するようにしてもよい。一例として、上述のように所定面積のエリア単位で輝度(d1’)を取得し、取得した複数のエリア単位の輝度(d1’)のうち最も大きい値を示すエリアの輝度(d1’)と、最も小さい値を示すエリアの輝度(d1’)との差を、上記エリアレベルでの輝度差(D1’)としてもよい。
【符号の説明】
【0048】
1 フロントガラス
2 インパネ表面
3 映り込み
4 凸部
5 凹部
6 板状部材
10 評価装置
11 保持部
12 照射部
13 撮像部
14 演算処理部
15 ディスプレイ
16 フレーム部
17 載置台
18 ガラス保持部材
19 連結部
20 受光部
図1
図2
図3
図4
図5
図6