【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述のようにフロントガラスへの映り込みを抑制するための対策を実際に実施するためには、その前提として、上記映り込みの度合いを定量的かつ適切に評価する必要が生じる。定量的かつ適切に評価できなければ、対策の効果についても適切に評価できないためである。ここで、明度と窓映り性との関係については、上述のように正の相関がある(明度が高いほど窓映り性も悪化する)ことは知られているものの、これは、あくまで経験則的に把握されているものであり、窓映り性を定量的に評価したものではなかった。すなわち、従来は、車体にフロントガラスやインパネを組付けた状態で作業者が実際に運転席からフロントガラスを見て、インパネ表面の映り込みの度合いを目視で確認することにより、窓映り性の評価を行っていたに過ぎず、窓映り性を適切な指標でもって定量的に評価したものはなかった。
【0006】
上記特許文献2には、窓映り性の評価指標として、グロス値を使用することが記載されているが、ここでいうグロス値はあくまでインパネ表面の物理的性質である光沢度を示すものであって、フロントガラスへ映り込んだ状態での乗員の所感(まぶしさ、違和感、不快感)を反映した指標ではない。そのため、インパネ表面の形態や性状によっては、グロス値でもって窓映り性を適切に評価することは難しかった。
【0007】
ここで、例えばフロントガラスに映り込んだインパネ表面の像についての明度を評価指標として、フロントガラスへの窓映り性を評価する方法が考えられる。この場合、上記像における明度はフロントガラスへの映り込みの度合いをある程度反映したものとなるので、当該明度でもってフロントガラスへの窓映り性を評価できるようにも思われる。しかしながら、実際に種々の形態のインパネとフロントガラスとの組み合わせについて、明度と窓映り性との関係を調べたところ、インパネ表面の映り込みに係る像の明度が比較的低い場合であっても、当該映り込みを「煩わしい」と感じることがあることがわかった。これでは、上記明度が、窓映り性の評価指標として適切とは言い難い。
【0008】
以上の事情に鑑み、本発明により解決すべき課題は、フロントガラスへのインパネ表面の窓映り性を、定量的かつ適切に評価することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題の解決は、本発明に係る窓映り性の評価方法によって達成される。すなわち、この評価方法は、自動車用フロントガラスへのインパネ表面の窓映り性を評価する窓映り性の評価方法であって、
日光又は日光を模した光を所定角度でフロントガラスに入射させた際にフロントガラス
の車内側の表面に映り込んだインパネ表面の
像を撮像する撮像工程と、
撮像工程で撮像して得たインパネ表面の画像について、インパネ表面のシボを構成する凸部と凹部との明暗差を輝度差又は明度差として算出する明暗差算出工程と、明暗差算出工程で算出した輝度差又は明度差に基づいて、窓映り性の評価を行う窓映り性評価工程とを具備する点をもって特徴付けられる。
【0010】
このように、本発明は、インパネ表面の形態や表面性状によらず、窓映りによって運転者が感じる煩わしさと相関の高い新たな評価指標を見出し、この評価指標に基づき窓映り性の新たな評価手法を構築したことを特徴とする。すなわち、本発明者らは、複数の種類のインパネ表面とフロントガラスとの組み合わせについて、フロントガラスへのインパネ表面の映り込みに対して煩わしさを感じるか否かにつき詳細に評価したところ、フロントガラスに映り込んだインパネ表面の像について、特にインパネ表面に設けたシボの凸部に対応する領域と凹部に対応する領域とで明暗差が大きい場合に、フロントガラスへの映り込みを煩わしいと感じる傾向があることを見出した。そこで、シボを構成する凸部と凹部との明暗差に着目し、官能評価である窓映りの煩わしさとの関係をさらに調べたところ、上記明暗差を輝度差又は明度差で表したときに、これら輝度差又は明度差と、窓映りの煩わしさとの間に一定の相関があることが判明した。
【0011】
本発明は以上の知見に基づき成されたもので、フロントガラスへのインパネ表面の映り込みにおいて、インパネ表面のシボを構成する凸部と凹部との間の明暗差を輝度差又は明度差として算出し、この算出した輝度差又は明度差に基づいて窓映り性の評価を行うことを特徴とする。具体的には、フロントガラスへのインパネ表面の映り込みを撮像し、撮像して得た像について、インパネ表面のシボを構成する凸部と凹部との間の明暗差を輝度差又は明度差として算出し、この算出した輝度差又は明度差に基づいて窓映り性の評価を行うことを特徴とする。輝度又は明度は反射面(映り込んだ像が現れる領域)の面積を考慮した光の強さの評価パラメータであり、かつ、上述のように窓映りの煩わしさとの間に一定の相関を示すことから、フロントガラスへ映り込んだインパネ表面の像についての明るさを定量的に評価するのに適していると考えられる。よって、輝度差又は明度差をシボの凹凸間の明暗差を評価するための指標として用いることで、輝度差又は明度差との間に高い相関を示す窓映り性を定量的かつ適切に評価することが可能となる。これにより、例えば輝度差又は明度差のしきい値を設定しておき、新たに生産を予定している車種につき窓映り状態を再現した際の上記輝度差又は明度差をしきい値と比較することで、窓映り性の良否に関する事前評価を行うことができる。これにより、例えば設計試作段階で、フロントガラスへのインパネ表面の映り込みに対して運転者が煩わしさを感じるか否かを判定することができるので、窓映り性について問題がある場合には早期に設計変更を行うことで、生産開始までに要する期間を短縮することができ、コストダウンを図ることが可能となる。
【0012】
なお、上記しきい値の設定は、例えば以下の手順により行うことができる。まず、予め複数の種類の既存車種におけるインパネ表面のフロントガラスへの映り込みを撮像して得た像につき、シボを構成する凸部と凹部との明暗差(輝度差又は明度差)を算出すると共に、各窓映りを実際に見た際に感じる煩わしさの官能評価を行う。そして、これら複数の明暗差データと、対応する煩わしさの官能評価結果とから、輝度差又は明度差がこれ以上大きくなると、映り込みに対して煩わしさを感じると判断される値を見出すことで、しきい値の設定を行うことができる。
【0013】
また、本発明に係る窓映り性の評価方法は、明暗差算出工程において、さらに、複数の凸部及び凹部を含む所定面積のエリア単位で輝度又は明度を取得し、取得したエリア単位の輝度又は明度のうち最大値と最小値との差でもって、上記エリアレベルでの輝度差又は明度差を算出するものであってもよい。
【0014】
本発明は、フロントガラスに映り込むインパネ表面の像において、特にシボ構成する凸部と凹部との明暗差に着目してなされたものであるが、これと併せて、シボの凹凸レベルよりも広範なエリアレベルでの明暗差に着目して窓映り性を評価することも有効である。すなわち、フロントガラスに映り込んだインパネ表面の像について、シボの凸部や凹部を複数含む所定面積のエリア単位で輝度又は明度を取得し、取得したエリア単位の輝度又は明度のうち最大値と最小値との差でもって、上記エリアレベルでの輝度差又は明度差を算出することで、より広範な視点でフロントガラスを見た場合に感じる窓映りに対する煩わしさを併せて評価することができる。これは、例えばフロントガラスへ映り込んだインパネ上面の意匠(特に形状部分)に対して、乗員(運転者)が煩わしさを感じるか否かを評価する場合に有効である。
【0015】
あるいは、本発明に係る窓映り性の評価方法は、明暗差算出工程において、さらに、複数の凸部及び凹部を含む所定面積のエリア単位で輝度又は明度を取得すると共に、互いに隣接するエリア間での輝度又は明度の差を算出し、算出した輝度又は明度の差の最大値をエリアレベルでの輝度差又は明度差とするものであってもよい。
【0016】
この手法によれば、シボの凹凸レベルより広範な視点でフロントガラスを見たときに、その明るさ(輝度又は明度)が急激に変動する箇所が存在し、かつこの変動箇所から窓映りに対する煩わしさを感じるか否かを効果的に評価することができる。例えば、インパネ上面の意匠ライン(キャラクタライン)が映り込んだ際に、当該ラインを境として明暗差が明確に視認される場合、上述のように、エリア単位で輝度又は明度を取得すると共に、互いに隣接するエリア間での輝度又は明度の差を算出し、算出した輝度又は明度の差の最大値をエリアレベルでの輝度差又は明度差とすることで、意匠ラインに起因して生じる窓映りの煩わしさを適正に評価することができる。
【0018】
自動車用インパネを射出成形で形成する場合、射出成形品の表面に塗装を施す場合と、射出成形面をそのまま製品(インパネ)の表面として使用する場合とがある。塗装を施す場合には、インパネ表面のシボを構成する凸部と凹部何れの表面も塗膜により覆われるため、凸部の表面性状と凹部の表面性状(表面粗さやうねりなど)は塗布の前後で均一化され易い。これに対して、未塗装のインパネの場合には、成形金型の成形面性状がそのまま射出成形品の表面性状に反映されるために、金型に対する成形面の形成手法如何によっては、凸部と凹部とで表面性状が大きく異なる事態が想定される。表面性状の違いは光の反射態様(反射率など)に影響すると考えられるため、インパネが未塗装の射出成形品の場合には、窓映り性について、より詳細かつ慎重な検討が必要である。
【0019】
以上の点に鑑み、本発明では、射出成形面でインパネ表面が形成される自動車用インパネとして、対応するフロントガラスへのインパネ表面の映り込みを撮像して得た像において、インパネ表面のシボを構成する凸部と凹部との輝度差が最大で15cd/m
2以下であるものを採用した。これは、実際に窓映りに対して煩わしさを感じるか否かにつき、インパネの種類を代えて検証したところ、詳細な実験結果は割愛するが、凸部と凹部との輝度差が最大で15cd/m
2以下に収まっていれば、インパネ表面の窓映りに対して煩わしさを感じることはないことが判明したことによる。よって、上記輝度差が最大で15cd/m
2以下となるように製造した自動車用インパネであれば、実際の使用時、インパネ表面がフロントガラスに映り込むことで運転者が煩わしさを感じる事態を回避することができ、快適性の向上を図ることが可能となる。また、輝度(輝度差)は絶対値であり、かつ明度と比べて煩わしさに係る官能評価との間により高い相関を示すことから、より信頼性の高い評価に基づきインパネの設計、選定を行うことができる。
【0020】
また、前記課題の解決は、本発明に係る窓映り性の評価装置によっても達成される。すなわち、この評価装置は、自動車用フロントガラスへのインパネ表面の窓映り性を評価するための装置であって、フロントガラスと、インパネ表面を有する部材とを車体組立て時の位置関係で保持可能な保持部と、フロントガラスに光を照射する照射部と、照射部の照射により生じるフロントガラスへのインパネ表面の映り込みを撮像する撮像部と、撮像部で撮像することにより得た画像に基づき、インパネ表面のシボを構成する凸部と凹部との明暗差を輝度差又は明度差として算出する明暗差算出部と、明暗差算出部で算出した輝度差又は明度差に基づいて、窓映り性の評価を行う窓映り性評価部とを具備する点をもって特徴付けられる。
【0021】
この評価装置によれば、上述した本発明に係る評価方法と同様に、フロントガラスへのインパネ表面の映り込みを撮像し、撮像して得た像について、インパネ表面のシボを構成する凸部と凹部との間の明暗差を輝度差又は明度差として算出し、この算出した輝度差又は明度差に基づいて窓映り性の評価を行い得る。これにより、窓映りの煩わしさとの間に一定の相関があり、かつフロントガラスへ映り込んだインパネ表面の像についての明るさを定量的に評価するのに適したパラメータ(輝度又は明度)を用いて窓映り性の評価を行うことができ、フロントガラスへのインパネ表面の窓映り性を定量的かつ適切に評価することができる。これにより、例えば予め設定しておいた輝度差又は明度差のしきい値に基づき、新たに生産を予定している車種につき窓映り性の良否に関する事前評価を行うことができる。従って、窓映り性について問題がある場合には早期に設計変更を行うことができ、生産開始までに要する期間の短縮、ひいてはコストダウンを図ることが可能となる。また、インパネ表面を再現したもので足りるので、実際のインパネ全体を成形するための金型は窓映り性評価の時点では不要であり、これによっても無駄なコストの発生を抑えることができる。
【0022】
また、本発明に係る評価装置は、保持部が、インパネ表面の保持角度及びフロントガラスの保持角度を別個独立に調整可能な保持角度調整部を有するものであってもよい。
【0023】
この構成によれば、車種によらず、実際にインパネとフロントガラスとを車体に組付けた際の幾何学的関係を容易に再現できる。よって、本評価装置の汎用性をさらに高めて、これから生産を予定している新たな車種につき、設計段階での窓映り性の評価を容易かつ迅速に行うことができる。