【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成24年度、文部科学省イノベーションシステム整備事業、地域イノベーション戦略支援プログラム(グローバル型)、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記直線方向に沿って複数の前記変換部が連結した状態で並んで設けられており、これら変換部それぞれに対して前記バルーン駆動部が設けられている請求項1又は2に記載の直線駆動装置。
動作可能な可動部を一端側に有しかつこの可動部から他端側に変形自在な軟性部を有している長尺体と、前記長尺体に組み込まれ前記可動部を動作させる駆動機構部と、を備え、
前記駆動機構部は、張力が付与されることにより当該可動部を動作させる操作ワイヤと、直線方向の動作を行って前記操作ワイヤを引っ張るアクチュエータと、を有し、
前記アクチュエータが、請求項1〜4のいずれか一項に記載の直線駆動装置であり、当該直線駆動装置が出力する前記直線方向の動作によって前記操作ワイヤを引っ張ることを特徴とする長尺ツール。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の曲げ駆動装置は、エア等の流体を供給することによって膨張するバルーン(バルーン駆動部)を備えている。このバルーンは、エア圧の変化により膨張・収縮することができ、シース(長尺部材)のうち曲げたい方向と反対側の側面を、膨張することによって押すと、シース(長尺部材)は自立的に曲げ動作を行うことが可能となる。このように、流体によって駆動するバルーン駆動部によって、曲げ動作を出力する曲げ駆動装置が提供されている。
【0006】
そこで本発明では、バルーン駆動部によって直線動作を行うことが可能となる直線駆動装置を提供すること、及び、このような直線駆動装置によって動作する可動部を備えている長尺ツールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明の直線駆動装置は、流体が供給されることにより膨張するバルーン駆動部と、このバルーン駆動部の膨張動作を直線方向の動作として出力する変換部とを備え、前記バルーン駆動部は、前記直線方向に平行な面に沿って設けられるベース部、前記ベース部の一方側に設けられ当該ベース部との間に供給された流体の圧力によって表面積を広げつつ伸びて膨張する第一膜体、及び、前記ベース部の他方側に設けられ当該ベース部との間に供給された流体の圧力によって表面積を広げつつ伸びて膨張する第二膜体を有し、
前記ベース部、前記第一膜体及び前記第二膜体によって積層体が構成され、前記変換部は、
前記バルーン駆動部の膨張動作に追従して変形可能である非伸縮性の部材により前記第一膜体側と前記第二膜体側とから前記バルーン駆動部を包囲して
構成されたパンタグラフ機構を備え、前記非伸縮性の部材の前記直線方向一方側の先端部は、前記直線方向に変位自在及び自由に曲がり変形することができる自由端であり、かつ、前記直線方向他方側の基端部は、前記積層体に対して変位は拘束されているが自由に曲がり変形することができる固定端であり、前記バルーン駆動部の膨張動作により前記基端部に対して前記先端部が前記直線方向に接近する短縮動作が得られ、この短縮動作を前記直線方向の動作として出力することを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、流体が供給されて第一膜体及び第二膜体が膨張することにより、変換部を、ベース部が設けられている面(仮想面)に直交する方向に拡大させると、変換部はその面に平行な方向、つまり前記直線方向に沿って短縮動作する。このため、この変換部のうち前記直線方向の一方側の端部を固定端とすれば、他方側の端部は一方側の端部(固定端)へと接近する動作が得られ、この動作を直線方向の動作として出力することが可能となる。
【0009】
(2)また、前記変換部は、前記第一膜体を覆う第一シート体及び前記第二膜体を覆う第二シート体を
前記非伸縮性の部材として有し、これら第一シート体及び第二シート体の前記直線方向の端部同士は結合されており、これら第一シート体及び第二シート体は、非伸縮性であるが柔軟性を有しているのが好ましい。
この場合、バルーン駆動部に流体が供給されない状態では、全体として薄い構造となる。そして、バルーン駆動部に流体が供給されると、第一シート体及び第二シート体は、膨張する第一膜体及び第二膜体に追従して変形し、ベース部が設けられている面(仮想面)に直交する方向に拡大すると、この面に平行な方向、つまり前記直線方向に短縮動作することができる。
【0010】
(3)また、前記直線方向に沿って複数の前記変換部が連結した状態で並んで設けられており、これら変換部それぞれに対して前記バルーン駆動部が設けられているのが好ましい。
これにより、複数の変換部及び複数のバルーン駆動部が直列的に並んだ直線駆動装置が得られる。そして、複数のバルーン駆動部を同時に駆動させた場合、複数の変換部が直線方向に沿って同時に機能することができ、全体として、出力が大きくストロークの大きい直線方向の動作を得ることが可能となる。
【0011】
(4)また、前記直線駆動装置は、前記面に平行な方向に沿って短縮動作する前記変換部の一部が、
前記積層体の一部に、前記直線方向から当接することで、当該変換部の更なる短縮動作を制限するストッパ部を有しているのが好ましい。
この場合、短縮動作する変換部の一部が、積層体の一部に、前記直線方向から当接することで、この変換部の更なる短縮動作が制限されることにより、直線駆動装置による直線方向の動作のストロークエンドを規定することができる。つまり、このストロークエンドまで、変換部は直線方向に沿って短縮動作することができる。
【0012】
(5)また、本発明の長尺ツールは、動作可能な可動部を一端側に有しかつこの可動部から他端側に変形自在な軟性部を有している長尺体と、前記長尺体に組み込まれ前記可動部を動作させる駆動機構部とを備え、前記駆動機構部は、張力が付与されることにより当該可動部を動作させる操作ワイヤと、直線方向の動作を行って前記操作ワイヤを引っ張るアクチュエータとを有し、前記アクチュエータが、前記(1)〜(4)のいずれか一つの直線駆動装置であり、当該直線駆動装置が出力する前記直線方向の動作によって前記操作ワイヤを引っ張ることを特徴とする。
本発明によれば、前記(1)〜(4)のいずれか一つの直線駆動装置の短縮動作により操作ワイヤが引っ張られ、長尺体の可動部を動作させることが可能となる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の直線駆動装置によれば、流体が供給されることにより膨張するバルーン駆動部によって直線動作を行うことが可能となる。
本発明の長尺ツールによれば、前記直線駆動装置の短縮動作により操作ワイヤが引っ張られ、長尺体の可動部を動作させることが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
〔1. 直線駆動装置について〕
図1は、本発明の直線駆動装置のモデル図であり、(A)は駆動前の状態(自然状態)、(B)は駆動途中の状態、(C)はストロークエンドまで駆動した状態を示している。この直線駆動装置12は、エア(流体)が供給されることにより膨張するバルーン駆動部20と、このバルーン駆動部20の膨張動作を直線方向の動作として出力する変換部30とを備えている。
図1の場合、バルーン駆動部20が膨張する方向は上下方向であり、変換部30により出力される直線方向の動作は、左右方向の直線的な動作である。膨張する方向をZ方向とし、出力される動作の直線方向をX方向とする。
【0016】
図2は、バルーン駆動部20を説明するモデル図であり、説明を容易にするために
図1に示す直線駆動装置12から変換部30を除いて示している。また、
図3は、変換部30を説明するモデル図であり、説明を容易にするために
図1に示す直線駆動装置12からバルーン駆動部20を除いて示している。
【0017】
図1と
図2に示すように、バルーン駆動部20は、直線方向(X方向)に平行な面(仮想面)に沿って設けられる薄板状のベース部21と、このベース部21の一方側(一面22側)に設けられている第一膜体24と、このベース部21の他方側(他面23側)に設けられている第二膜体25とを有している。なお、一面22及び他面23は、前記仮想面と平行な面である。
【0018】
第一膜体24は、ベース部21の一面22側に積層状として設けられており、ベース部21の全周縁部と第一膜体24の全周縁部との間は接合されて密封状態となり、ベース部21の全周縁部を除く中央部と第一膜体24の全周縁部を除く中央部とは接合されておらず、これら中央部の間には隙間が形成される。
これと同様に、第二膜体25は、ベース部21の他面23側に積層状として設けられており、ベース部21の全周縁部と第二膜体25の全周縁部との間は接合されて密封状態となり、ベース部21の全周縁部を除く中央部と第二膜体25の全周縁部を除く中央部とは接合されておらず、これら中央部の間には隙間が形成される。
【0019】
第一膜体24及び第二膜体25それぞれは、弾性変形に基づく伸縮が可能な薄膜部材からなり、本実施形態では、ジメチルポリシロキサン(PDMS)の薄膜部材からなる。また、ベース部21を、PDMSとしてもよいが、膜体24,25に比べて伸縮しない構成である必要がある。そのために、ベース部21は膜体24,25に比べて厚く、ベース部21の剛性は膜体24,25それぞれの剛性よりも充分に高くしており、ベース部21は変形しない(変形しにくい)。なお、ベース部21は、膜体24,25と異なる材質、特に伸縮性の乏しい材質であってもよく、ポリイミドフィルムとすることができる。
【0020】
第一膜体24及び第二膜体25は伸縮可能であることから、第一膜体24は、ベース部21との間に供給されたエアAの圧力によって、表面積を広げつつ伸びて膨張することができる。また、第二膜体25も、ベース部21との間に供給されたエアの圧力によって、表面積を広げつつ伸びて膨張することができる。第一膜体24及び第二膜体25の膨張方向は、ベース部21の面22,23に直交する方向、つまり、X方向に直交するZ方向である。
【0021】
なお、第一膜体24及び第二膜体25のX方向の膨張は、ベース部21により規制されている。つまり、この直線駆動装置12は、エアが供給されることにより一方向(Z方向)両側に膨張するバルーン駆動部20と、このバルーン駆動部20の膨張動作をその膨張の方向とは異なる直線方向(X方向)の動作として出力する変換部30とを備えたものである。
【0022】
ベース部21、第一膜体24及び第二膜体25からなる積層体26の基端部26bに、エアが流れるチューブ27が接続されており、チューブ27を通じてエアAがベース部21と第一膜体24との間及びベース部21と第二膜体25との間に供給される。このエアAの圧力の変化により、第一膜体24及び第二膜体25は膨張・収縮することができる。なお、収縮は、膨張した(伸びた)第一膜体24及び第二膜体25の復元力に基づく。
【0023】
図1と
図3に示すように、本実施形態に係る変換部30は、第一膜体24を覆う第一シート体34と、第二膜体25を覆う第二シート体35とを有している。これら第一シート体34と第二シート体35との間に、バルーン駆動部20(積層体26)が設けられている。
図3において、第一シート体34及び第二シート体35それぞれの直線方向(X方向)の端部同士は結合されている。つまり、第一シート体34の先端部34aと第二シート体35の先端部35aとは接合されており、第一シート体34の基端部34bと第二シート体35の基端部35bとは、積層体26の基端部26bを間に挟んで連結されている。なお、シート体34,35のうち、先端部34a,35a及び基端部34b,35b以外の領域(先端部と基端部との間の領域)は接合されていない。
【0024】
図1において、第一シート体34の基端部34b及び第二シート体35の基端部35bは、積層体26の基端部26bに連結されており、この基端部26bに対して基端部34b,35bの変位は拘束されている。
図1に示すように、この部分(34b,35b)を固定端として扱う。なお、基端部34b,35bの曲げは拘束されておらず自由に曲がることができる(
図1(C)参照)。
これに対して、第一シート体34の先端部34a及び第二シート体35の先端部35aは、積層体26の先端部26aに連結されておらず、この先端部26aに対して先端部34a,35aは、X方向に所定範囲について変位自在であり、この部分(34a,35a)を自由端として扱う。また、先端部34a,35aでは、曲げが拘束されておらず自由に曲がることができる(
図1(C)参照)。
【0025】
これら第一シート体34及び第二シート体35は、非伸縮性であるが柔軟性を有している。なお、本発明における「非伸縮性」とは、第一膜体24及び第二膜体25に比べて伸縮性が低いことを言う。つまり、本発明の直線駆動装置12において使用されるエアの圧力によれば、第一膜体24及び第二膜体25は表面積を広げつつ伸びて膨張するのに対して、第一シート体34及び第二シート体35は、膨張する膜体24,25の形状に追従して変形するが、これら膜体24,25から受ける力(膨張力)によって表面積を広げることなく、
図3(A)に示す状態から
図3(C)に示す状態に変化する。
なお、本実施形態では、第一シート体34及び第二シート体35それぞれは、ポリイミドのフィルムからなる。
【0026】
このように、本実施形態の変換部30は、X方向の両端部が連結された第一シート体34と第二シート体35とからなり、その先端部34a,35aでは自由に変位及び曲がり変形することができ、かつ、その基端部34b,35bでは積層体26に対して変位は拘束されているが自由に曲がり変形することができる。
また、
図2(C)に示すように、第一膜体24の膨張した姿は、中央が最も高くなる山型であり、
図3(C)に示すように、第一シート体34のうち、この山型の頂部28が当接する部分(第一の途中部34c)において、第一シート体34は方向を変えて折れ曲がり変形する。これと同様に、第二膜体25の膨張した姿は、中央が最も高くなる山型であり、第二シート体35のうち、この山型の頂部29が当接する部分(第二の途中部35c)において、第二シート体35は方向を変えて折れ曲がる。
そして、第一シート体34及び第二シート体35は伸びないことから、先端部34a,35aから途中部34c,35cまでの長さは変化せず、基端部34b,35bから途中部34c,35cまでの長さは変化しない。
これにより、本実施形態の変換部30は、先端部34a,35a、基端部34b,35b、第一の途中部34c及び第二の途中部35cの四カ所を節点とするパンタグラフ機構を備えていると言える。
【0027】
以上より、変換部30は、第一膜体24側と第二膜体25側とからバルーン駆動部20(積層体26)を包囲して設けられた構成であり、また、第一膜体24及び第二膜体25の膨張動作に追従して変形可能であり、そして、変換部30は、この膨張動作によりベース部21の面22に直交する方向(Z方向)に拡大すると、この面22に平行な方向(X方向)に短縮動作することができる(
図3(B)(C)参照)。
このような変換部30及びバルーン駆動部20を備えた直線駆動装置12の実際の動作の様子を、
図4に示す。
図4(A)が短縮動作する前の状態であり、(B)が短縮動作した状態である。
【0028】
図1(A)に示すように、バルーン駆動部20に加圧エアAが供給されない状態では、ベース部21のZ方向の両側に第一膜体24及び第二膜体25が層状となって設けられた状態にあり、全体として薄く柔軟な構造である。しかし、
図1(B)(C)に示すように、バルーン駆動部20に加圧エアAが供給され第一膜体24及び第二膜体25が膨張することにより、変換部30(シート体34,35)をベース部21の面22に直交する方向(Z方向)に拡大させると、その変換部30は、その面22に平行な方向(X方向)に、つまり直線方向に沿って短縮動作する。
このため、シート体34,35の基端部34b,35bを、固定端とすることで、他方側の先端部34a,35aは、基端部34b,35b(固定端)へとX方向に沿って接近する動作が得られる。つまり、この動作を直線方向の動作(線形収縮運動)として出力することが可能となる。
【0029】
ここで、前記特許文献1(特開2011−326号公報)に記載のエアが供給されて膨張するバルーン駆動部90は、曲げ運動(
図5の矢印r)を行うことができる。そこで、このようなバルーン駆動部90を、
図5に示すように、2つ連結することにより、直線方向の動作を出力可能な直線駆動装置(比較例)とすることが考えられる。この比較例の場合、一対のバルーン駆動部90は「膨張→曲げ→線形収縮」というステップにより、直線方向(X方向)の動作を出力する。
【0030】
これに対して、本実施形態の直線駆動装置12の場合、バルーン駆動部20と、前記のようなパンタグラフ構造を備えた変換部30とによって、「膨張→線形収縮」というステップにより、直線方向(X方向)の動作を出力する。つまり、本実施形態に係る変換部30によれば、バルーン駆動部20の膨張動作を直接的に直線方向(X方向)の収縮動作に変換して出力することが可能となる。このため、直線駆動装置12は、小型ではあるが効率がよく、比較例に比べて出力密度の高い直線型アクチュエータとなる。
【0031】
例えば、直線駆動装置12を、縦6mm×横6mm×厚さ400μmの大きさで成形することができ(
図4参照)、この場合、バルーン駆動部20(エア室)は縦5mm×横5mmとなり、80キロパスカルの加圧エアAをバルーン駆動部20に供給することで、1.2ニュートンのX方向の力を出力することが可能となる。
【0032】
このような直線駆動装置12は、PDMSによりバルーン駆動部20を作成し、これを二枚のポリイミドフィルムからなる第一シート体34及び第二シート体35によって挟むことで構成される。バルーン駆動部20は、エポキシ樹脂(SU−8)の型によるPDMSの成型技術(MEMS技術)を用いて作成される。
なお、本実施形態では、ベース部21は1枚の板状部材からなるが、2枚の板状部材を積層して1枚のベース部としてもよい。
そして、第一膜体24及び第二膜体25は、同じ材質、同じ厚さからなり、同じ圧力のエアによって対称に膨張動作する。
【0033】
図6は、本実施形態の直線駆動装置12の機能を説明する説明図であり、特に変換部30によるパンタグラフ構造のメカニズムを示している。変換部30は、Z方向の膨張動作をX方向の収縮動作に変換することができる。
図6によれば、変換部30により出力されるX方向の力(収縮力)Fxは、次の式(1)のとおりになる。また、変換部30から出力されるX方向の変位ΔXは、次の式(2)のとおりになる。
【0036】
なお、Fzは、膨張するバルーン駆動部20から出力されるZ方向の推力である。また、bは、膨張するバルーン駆動部20の節点(途中部34c,35c)のZ方向の変位である。Cは、収縮動作時の節点(先端部34a,35a)から節点(基端部34b、35b)までのX方向の長さである。X
0は、節点(先端部34a,35a)から節点(途中部34c,35c)までの長さであり、aは、節点(基端部34b,35b)から節点(途中部34c,35c)までの長さである。θ
1は、X方向の直線と、節点(先端部34a,35a)と節点(途中部34c,35c)とを結ぶ直線との成す角度であり、θ
2は、X方向の直線と、節点(基端部34b,35b)と節点(途中部34c,35c)とを結ぶ直線との成す角度である。
図6ではθ
1=θ
2=θである。
【0037】
前記式(1)によれば、バルーン駆動部20を膨張させてθ=45°の時に、X方向の力(収縮力)Fxは最大となる。つまり、バルーン駆動部20を更に膨張させてθ=45°を越えさせても、それ以上の力Fxを出力することができない。
そこで、この最大の力(収縮力)Fxを出力させるために、直線駆動装置12は、θ=45°でX方向の収縮のストロークエンドとさせるストッパ部を備えている。つまり、θ=45°でZ方向からX方向への力の変換が最大の効率により実行され、このストロークエンドは、ストッパ部による「力伝達の最大効率地点」であると言える。
また、前記式(2)によれば、前記角度θを大きくする程、変換部30から出力されるX方向の変位ΔXを大きくすることができる。しかし、前記ストッパ部を備えている場合、X方向の収縮ストロークは、そのストッパ部による前記「力伝達の最大効率地点」で制限される。
【0038】
すなわち、
図1において、変換部30が直線方向(X方向)に短縮動作すると、この変換部30の一部である先端部34a,35aが、積層体26の一部である先端部26aに接近し、やがて、X方向から当接する(
図1(C)参照)。これにより、変換部30の更なる短縮動作は制限され、変換部30の一部である先端部34a,35aが、X方向へそれ以上変位することができなくなる。
すなわち、積層体26の先端部26aは、変換部30のX方向の収縮動作を制限するストッパ部として機能する。
【0039】
そこで、本実施形態の直線駆動装置12では、θ=45°となる状態でストッパ部によって変換部30のX方向の収縮動作を制限するように、積層体26の先端部26aと、変換部30の節点(先端部34a,35a)との間隔を、所定の値に設定すればよい。厳密には、積層体26の先端部26aと、先端部34a,35aのうちの先端部26aに当接する内側部分との間隔を、所定の値に設定すればよい。
これにより、直線駆動装置12による直線方向(X方向)の動作のストロークエンドを規定することができる。つまり、このストロークエンドまで、変換部30は直線方向(X方向)に沿って短縮動作することができる。
なお、ストッパ部によるストロークエンドの位置は、θ=45°の状態が得られる位置とする以外にも、他の位置であってもよい。
【0040】
〔2. 他の形態〕
前記実施形態では、直線駆動装置12が一つのバルーン駆動部20及び一つの変換部30を有している場合について説明したが、
図7(B)に示すように、複数(4つ)のバルーン駆動部20及び複数(4つ)の変換部30を有していてもよい。なお、
図7(A)は、直線駆動装置12の分解斜視図であり、
図7(B)は、その組み立て図である。
【0041】
図7の場合、直線方向(X方向)に沿って複数のバルーン駆動部20が並んで設けられており、さらに、直線方向(X方向)に沿って複数の変換部30が並んで設けられている。そして、バルーン駆動部20同士は直接連結されていないのに対して、隣り合う変換部30同士は連結されている。つまり、一つの変換部30の基端部が、その隣りの変換部30の先端部と連結されている。そして、これら変換部30それぞれに対してバルーン駆動部20が設けられている。なお、本実施形態では、各変換部30の第一シート体は、他の変換部30の第一シート体と共通する一枚の帯状のシート体34からなり、各変換部30の第二シート体は、他の変換部30の第二シート体と共通する一枚の帯状のシート体35からなる。
【0042】
これにより、複数の変換部30を直列的に接続した直線駆動装置12が得られる。そして、
図8に示すように、複数のバルーン駆動部20全てを同時に膨張させると、複数の変換部30が直線方向に沿って同時に機能することができ、全体として、出力が大きくストロークの大きい直線方向の動作を得ることが可能となる。
【0043】
単体の変換部30ではX方向の収縮動作の最大ストロークがΔxであっても、
図8に示す直列接続型の直線駆動装置12によれば、このΔxに変換部30の数(n)を乗じた総ストローク(Δx×n)を得ることができる。なお、
図7の場合、n=4である。
また、単体の変換部30によるX方向の力(収縮力)がFxであっても、直列接続型の直線駆動装置12によれば、このFxに変換部30の数(n)を乗じた総出力(Fx×n)を得ることができる。
【0044】
〔3. 長尺ツールについて〕
図1に示す単体の変換部30及び単体のバルーン駆動部20を有する直線駆動装置12を、長尺ツールに適用してもよいが、
図7に示す直列接続型の直線駆動装置12を長尺ツールに適用することが可能である。
図9は、直線駆動装置が適用されている長尺ツールの概略図であり、本実施形態の長尺ツールはファイバスコープであり、特に医療用の内視鏡1である。
【0045】
この内視鏡1は、ユーザ(医師)が操作する操作部2と、この操作部2から延び(体腔内の)挿入経路に沿って変形する挿入部3とを備えている。挿入部3は、長尺体からなり、その先部3a側に、湾曲動作可能な可動部5を有していると共に、この可動部5と操作部2との間に変形自在な軟性部6を有している。そして、この内視鏡1は、可動部5を湾曲動作させる駆動機構部4を備えている。駆動機構部4の駆動、つまり、可動部5の湾曲動作は、ユーザによる操作部2の操作に基づく。
【0046】
挿入部3の大部分は、挿入経路に沿って自由に曲がる軟性部6であり、この軟性部6の基部6aが操作部2と連結されている。軟性部6の先部6bには、可動部5が連結されており、可動部5の先端には硬質部8が設けられている。硬質部8(
図10参照)には、ライト8a、ノズル8b、レンズ8c及び鉗子等の処置具を挿通させる開口8d等が設けられている。また、操作部2からはケーブル9(
図9参照)が延びて設けられており、レンズ8cによって写された被写体の画像のデータは、このケーブル9を通じてモニタ(図示せず)に出力される。
【0047】
可動部5は、先部3aを所望の方向へ向けるために、
図10に示すように、複数の節輪5aが設けられており、これら節輪5aによって湾曲動作が可能となる。これら節輪5aの径方向外側には、チューブ状の被覆部材5bが設けられている。なお、可動部5を湾曲動作可能とするための構成は、節輪5aによるもの以外であってもよく、従来知られている他の構成を採用することができる。軟性部6は、ゴム製等の筒部材7を有しており、この筒部材7及び節輪5aの中心側に、光ファイバー(図示せず)等が設けられる。
【0048】
駆動機構部4は、操作ワイヤ11と、この操作ワイヤ11を引っ張るアクチュエータとを有している。本実施形態のアクチュエータは、エアを作動媒体とする直線駆動装置12であり、特に直列接続型の直線駆動装置12(
図7参照)が採用されている。
直線駆動装置12が短縮動作する直線方向を、直線状とした操作ワイヤ11の長手方向と一致させて、この直線駆動装置12を内視鏡1内に設けている。直線駆動装置12の基端部12bは内視鏡本体(筒部材7)に固定されており、この基端部12bは操作ワイヤ11の長手方向に変位不能の状態とされている。
本実施形態では、直線駆動装置12は、挿入部3のうち、可動部5よりも操作部2側にある途中部であって可動部5の近傍に組み込まれている。つまり、直線駆動装置12は、軟性部6の先部6b側にのみ設けられている。
【0049】
さらに、駆動機構部4は、直線駆動装置12にエアを供給する流路を有しており、本実施形態の流路は、チューブ13からなる。このチューブ13が、
図1に示すチューブ27に相当する。このチューブ13は、軟性部6に追従して変形可能な(フレキシブルな)材料からなる。チューブ13は、直線駆動装置12から操作部2側まで、軟性部6に沿って組み込まれており、操作部2側に設けられているポンプ26によって吐出されたエアが、チューブ13内を流れ、そのエアが直線駆動装置12に供給される。
【0050】
可動部5は、様々な自由度で湾曲することができ、このために、操作ワイヤ11とこの操作ワイヤ11を操作する直線駆動装置12とからなるユニットが、断面円形の挿入部3の周方向に複数配設されている。各ユニットは周方向に等間隔で設けられており、本実施形態では、4つのユニットが90度間隔で配設されており、可動部5は、上下の二方向と左右の二方向とに湾曲することができる。
【0051】
操作ワイヤ11は、金属製のワイヤからなり、主に可動部5に組み込まれており、その端部11aが先端側の節輪5aに連結固定され、操作ワイヤ11は可動部5の長手方向に沿って設けられている。操作ワイヤ11は、可動部5に組み込まれている本体ワイヤ部15と、この本体ワイヤ部15から延長して軟性部6の一部に(長手方向に沿って)組み込まれている連結ワイヤ部16とを有している。連結ワイヤ部16は、直線駆動装置12の先端に連結されている。直線駆動装置12は直列接続型であることから、最も可動部5側に配置されている変換部30(第一シート体34、第二シート体35)の先端部34a,35aが、直列接続型の直線駆動装置12の先端となる。
そして、エアが供給されることにより直線駆動装置12が直線方向の短縮動作を行うことで、操作ワイヤ11に張力が付与され、これにより可動部5を湾曲動作させることができる。
【0052】
以上のように、本実施形態の内視鏡1(長尺ツール)は、湾曲動作可能な可動部5を一端側に有しかつ変形自在な軟性部6を可動部5から他端側に有している長尺体である挿入部3と、可動部5を動作させる駆動機構部4とを備えている。駆動機構部4は、可動部5に組み込まれ張力が付与されることにより可動部5を動作させる操作ワイヤ11と、挿入部3のうち可動部5の近傍に組み込まれエアを作動媒体として一方向の直線動作を行って操作ワイヤ11を引っ張るアクチュエータとを有している。そして、このアクチュエータが、前記直線駆動装置12からなり、この直線駆動装置12が出力する直線方向(X方向)の動作によって操作ワイヤ11を引っ張る。
また、駆動機構4は、更に、この直線駆動装置12から他端側まで軟性部6に沿って設けられ直線駆動装置12にエアを供給する流路としてチューブ13を有しており、このチューブ13は、軟性部6に追従して変形可能である。
【0053】
このような構成を備えた内視鏡1によれば、操作ワイヤ11を引っ張る直線駆動装置12は、挿入部3のうち可動部5の近傍に組み込まれている。そして、直線駆動装置12から操作部2側へはチューブ13が組み込まれており、このチューブ13を通じてエアを直線駆動装置12に供給することで、直線駆動装置12は短縮動作し、操作ワイヤ11を引っ張って、可動部5を湾曲動作させる。
そして、可動部5の近傍に組み込まれている直線駆動装置12から操作部2側まで軟性部6に沿ってチューブ13が組み込まれており、しかも、このチューブ13は、軟性部6に追従して変形可能である。このため、軟性部6において、従来の内視鏡において必要であった剛性を有する可動部を湾曲動作させるための長い操作ワイヤを削減することができ、操作ワイヤの剛性により可撓性(軟性)が低下するのを抑えることが可能となる。
【0054】
図11は、内視鏡1の模型に対して直線駆動装置12を適用し、操作ワイヤ11を引っ張ることで、可動部5を湾曲させる動作を行った様子を示している。
図11(A)は、バルーン駆動部の膨張前であり、操作ワイヤ11を引っ張る前の状態であり、(B)が、バルーン駆動部20が膨張し、操作ワイヤ11を引っ張った状態である。この
図11に示すように、本発明の直線駆動装置12によれば、内視鏡1の可動部5を湾曲動作させるだけの出力と変位を得ることができる。
【0055】
なお、直線駆動装置12は、
図11のように可動部5を曲げ動作させるためのアクチュエータとして用いられるのみならず、可動部5に設けられる鉗子を動作させるためのアクチュエータとしても用いられる。
すなわち、
図12は、内視鏡の可動部に設けられる鉗子10の開閉動作を直線駆動装置12に行わせた様子を示している。この鉗子10は操作ワイヤ18と接続されており、操作ワイヤ11が引っ張られると、鉗子10は閉じ(
図12(B)参照)、操作ワイヤ11の引っ張りを解除すると、鉗子10は開く(
図12(A)参照)。この操作ワイヤ11の引っ張りを、本発明の直線駆動装置12により行っている。
図12に示すように、本発明の直線駆動装置12によれば、鉗子10を開閉動作させるだけの出力と変位を得ることができる。
【0056】
また、内視鏡1では、挿入部3の断面形状を小さくする(細くする)のが好ましいことから、この挿入部3に組み込む直線駆動装置12を小型化している。直線駆動装置12のバルーン駆動部20を小型化すると、直線駆動装置12による操作ワイヤ11を引っ張る力が弱くなる。しかし、本実施形態では、単一の操作ワイヤ11を、直列接続型の直線駆動装置12が引っ張る構成としている。このため、バルーン駆動部20それぞれを小型化しても、可動部5を湾曲動作させるために必要となる大きな操作力を発生させることが可能となる。
【0057】
また、バルーン駆動部20が、柔軟性を有するPDMS製の薄い部材からなり、変換部30が柔軟性を有するポリイミド製のフィルムからなるため、バルーン駆動部20に流体がエアされない状態では、全体として薄く柔軟な構造となる。このため、直線駆動装置12を内視鏡1の軟性部6内に設置しても、軟性部6の柔軟性を低下させない。
また、バルーン駆動部20は、エアを作動媒体としていることで、人体に対して低侵襲であり、電気的なエネルギを可動部に供給していないことから、例えば発火のおそれもなく、特に医療用の装置として安全である。
【0058】
また、本発明の長尺ツールは、図示する形態に限らず本発明の範囲内において他の形態のものであってもよい。本発明の長尺ツールは、医療用である内視鏡以外に、工業用のファイバスコープであってもよく、又は、人が侵入困難である災害現場に向かう災害救助ロボットに組み込まれるファイバスコープであってもよい。
また、本発明の直線駆動装置12は、長尺ツールに適用するのみならず、他の装置に組み込み可能である。例えば、ロボットのアーム、ロボットハンド、マニピュレータ等に適用可能である。
作動媒体をエアとして説明したが、作動媒体は他の流体であってもよく、例えば水とすることができる。
【0059】
また、前記実施形態では、変換部30を、一対のシート体34,35によって構成したフレキシブルなパンタグラフ構造としたが、これ以外に、複数本の剛性の高いリンクアームを菱形に連結して構成したメカニカルなパンタグラフ構造であってもよい。
そして、
図1(C)で説明したように、バルーン駆動部20の膜体24,25が山型に膨張した際に、膜体24,25の頂部28,29が、シート体34,35のX方向の中央部に当接してシート体34,35をZ方向に拡大させる場合について説明したが、変換部30を、複数本のリンクアームを組み合わせて構成したメカニカルなパンタグラフ構造とした場合、膜体24,25の頂部28,29が当接する位置は、X方向の中央部よりも、固定端側であってもよい。この場合、バルーン駆動部20によるZ方向の小さな膨張量で、X方向に大きな変位を出力させることが可能となる。