(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
Sn(スズ)含有率の多いNiSn(ニッケル/スズ/リン)電気めっき膜(例えば、Sn含有率65重量%)は、優れた耐蝕性を有することが報告されている。しかし、電気めっき法では、被めっき体が導電性を有する必要があり、また、成膜時の電流密度分布により、膜厚だけでなく、組成も変化するため、耐蝕性が劣化するおそれがあった。
【0003】
これに対して、特開平6−256962号公報には、上記問題のない無電解めっき法により、Sn含有率が34原子%の無電解NiSnPめっき膜が成膜できることが開示されている。また、特開平6−256964号公報には、Sn
4+/Ni
2+=0.07/0.10のめっき液を用いて、Sn含有率が43原子%の無電解NiSnBめっき膜が成膜できることが開示されている。Ni
56.3Sn
43.0B
0.7の無電解NiSnBめっき膜のSn含有率は、61重量%である。
【0004】
しかし、前記無電解NiSnBめっき膜の成膜速度は、2.4μm/hrと、一般的な無電解Niめっき膜の成膜速度の半分以下であった。
【0005】
このため、より耐蝕性に優れた無電解NiSnPめっき膜
、前記無電解NiSnPめっき膜を成膜する成膜速度が速い無電解めっき液
、及び前記無電解NiSnPめっき膜の製造方法が求められていた。
【発明を実施するための形態】
【0012】
実施形態の無電解NiSnPめっき膜(以下、「めっき膜」という)10、及びめっき膜10を成膜するための無電解めっき液30について説明する。
【0013】
最初に、
図1に示すフローチャート及び
図2を用いて、めっき膜の成膜方法について簡単に説明する。
【0014】
<ステップS11> 基体準備
基体(被めっき体)20は、銅等の導電性のある金属材料はもちろん、ガラス、セラミック、プラスチックス等の非導電性材料であってもよい。なお、無電解めっき法は電気めっき法と異なり、電流密度分布の影響を受けないため、基体20の表面は複雑な3次元構造であっても良い。
【0015】
また、部分的にめっき膜を成膜する場合、例えば、片面だけに成膜する場合には、マスキング処理等が行われてもよい。
【0016】
<ステップS12> 前処理
前処理は、基体20の被めっき面の表面状態を調整するために行われる無電解めっき方法では公知の工程である。無電解めっき反応の触媒機能のない基体の場合には、触媒金属付与(触媒化)も行われる。触媒化方法としては、パラジウムを付与する方法が広く行われており、例えば、センシタイジング−アクチベーション法、キャタリスト−アクセレレーター法、アルカリキャタリスト法等を用いる。また、パラジウム触媒に変えて銅触媒を用いてもよい。
【0017】
<ステップS21> スズ(Sn)溶液調製
第1錯化剤であるグルコン酸塩により錯体化した高濃度のスズ(II)イオンを含むスズ溶液が調製される。すなわち、スズ塩とグルコン酸塩とが水に溶解される。スズイオン供給源は、例えば硫酸、ホウフッ酸、ケイフッ酸、スルファミン酸、塩酸、ピロリン酸等の無機酸の錫塩である。第1錯化剤としては、グルコン酸Na、グルコン酸K等を用いる。スズイオン/グルコン酸イオンのモル比は、安定錯体形成のため、0.5〜2が好ましい。
【0018】
<ステップS22> ニッケル溶液(主溶液)調製
第2錯化剤で錯体化したニッケルと、次亜リン酸と、硫酸アンモニウムと、を含む主溶液が調製される。硫酸アンモニウムは、無電解めっきの錯化剤等として一般的に使用されている。しかし、後述するように、本実施形態の無電解めっき液30においては、析出促進剤としての機能を有する重要な必須成分である。
【0019】
第2錯化剤としては、公知の各種有機酸、例えば、酒石酸、リンゴ酸、コハク酸等を用いることができ、安定性の観点から特にクエン酸が好ましい。ニッケルイオン/第2錯化剤のモル比は、安定錯体形成のため、0.5〜2が好ましい。
【0020】
ニッケルイオン供給源は、例えば硫酸、ホウフッ酸、ケイフッ酸、スルファミン酸、塩酸、ピロリン酸等の無機酸のニッケル塩である。
【0021】
次亜リン酸は、無電解めっき反応の還元剤である。還元剤としては、リン酸塩、ホウ素化合物、ヒドラジン等を用いることができる。特に、めっき膜にP(リン)を共析する次亜リン酸を用いると、耐蝕性が高くなるため、好ましい。次亜リン酸の供給源は、次亜リン酸Na等の塩であってもよい。
【0022】
ニッケルイオン/次亜リン酸イオンのモル比は、安定析出のため、0.5〜2が好ましい。
【0023】
さらに、安定剤として微量のPbイオンを添加してもよい。なお、ステップS21とステップS22の順序は逆でも同時でもよいことは言うまでも無い。
【0024】
<ステップS23> めっき溶液(主溶液)調製
主溶液に、所定量のスズ溶液が加えられることで、めっき液30が調製される。すなわち、スズ溶液の添加量により、液中のスズ濃度が調整される。スズイオン/ニッケルイオンのモル比は、めっき膜の仕様に応じて適宜選択されるが、例えば、1〜3が好ましい。
【0025】
<ステップS24> pH、温度調整
めっき液30のpH及び温度が所定の値となるように調整される。pH及び温度が高いほど、析出速度が早くなるが、自己分解しやすくなる。このため、析出速度が30μm/hr以下となるように、pHは8〜10、液温は70〜90℃が好ましい。
【0026】
<ステップS25> 無電解めっき
図2に示すように、ステップS12で前処理された基体20が、ステップS24で所定条件に調整されためっき液30に浸漬されることで、基板20の表面にめっき膜10が成膜される。
【0027】
めっき時間は、後述するように要求される耐蝕性の仕様に応じて決定される。
【0028】
次に、基体20として、銅板を用い標準条件で成膜を行った場合について、より詳細に説明する。
【0029】
基体20の前処理として、電解脱脂、アルカリ脱脂、酸活性、触媒化が行われた。なお、各工程の間には、水洗が行われた。
【0030】
<電解脱脂、アルカリ脱脂>
NaOH 10g/dm
3
クエン酸3Na 8g/dm
3
界面活性剤 適量
電解脱脂: 60℃、1分間、1A/dm
2、
アルカリ脱脂: 60℃、3分間
【0031】
<酸活性>
H
2SO
4 10体積%溶液、1分間
【0032】
<触媒化>
PdCl
2 0.1g/dm
3、1分間
【0033】
<スズ溶液>
以下の組成のスズ溶液が調製された。以下、「M」はモルを示す。
SnCl
4・5水和物 0.7M/dm
3
グルコン酸Na 0.7M/dm
3
【0034】
<主溶液>
以下の組成の主溶液(ニッケル溶液)が調製された。
硫酸Ni・6水和物 0.2M/dm
3
クエン酸(無水) 0.4M/dm
3
次亜リン酸Na 0.4M/dm
3
硫酸アンモニウム 0.5M/dm
3
【0035】
<成膜条件>
主溶液に、所定量のスズ溶液を添加することで、例えば以下の組成のめっき液30が調製された。
【0036】
硫酸Ni・6水和物 0.1M/dm
3
クエン酸(無水) 0.2M/dm
3
次亜リン酸Na 0.2M/dm
3
硫酸アンモニウム 0.25M/dm
3
SnCl
4・5水和物 0.2M/dm
3
グルコン酸Na 0.2M/dm
3
【0037】
さらに、めっき液30は、硫酸または水酸化Naを用いて、pH9.5に調整され、液温80℃まで加温された。
【0038】
前処理された基体20を、めっき液30に、浸漬することで、めっき膜10が成膜された。めっき時間は、10〜120分間とした。
【0039】
なお、比較等のため、各種条件を上記標準条件から変化させて複数のめっき膜を成膜した。
【0040】
<解析>
めっき膜の膜厚は質量法により行った。組成分析は、加速電圧15kV、加速電流15mA及び照射ビーム直径100μmの条件としたEPMA(Electron Probe X-ray Microanalyzer :電子線マイクロアナライザ)により行った。上記条件の測定では、電子線の特性から、表面から約3μmの範囲を主とする膜の組成が取得される。すなわち、本発明において表面のSn含有率とは、上記条件で表面から測定された値を意味する。
【0041】
さらに、グロー放電発光分析法(GD−OES)による分析を行った。GD−OESは、めっき膜をArグロー放電領域内で高周波スパッタリングし、そのスパッタされる原子のプラズマ内における発光線を連続的に分光することにより、深さ方向の元素分布を測定する。すなわち、めっき膜を表面から削りながら連続的に元素分析を行う。GD−OESの分析結果の図において、横軸のTime(時間)は表面からの深さと比例関係があり、縦軸のPower(電圧)は、元素含有率と比例関係にある。
【0042】
耐蝕性試験は、室温の濃硝酸に、1分間浸漬した後、外観を目視及び顕微鏡(2000倍)にて観察し、優、可、不可の3段階で評価した。
【0043】
<評価>
以下、上記標準条件で成膜した実施形態のめっき膜10等の評価結果について説明する。
【0044】
図3に示すように、膜厚は、めっき時間に直線比例して増加しており、析出速度は7.2μm/hr(時間)であった。
【0045】
次に、
図4に示すように、EPMAで測定したSn含有率は、めっき時間の増加につれて大きく増加した。すなわち、Sn含有率は、めっき時間10分間では3.7重量%であったが、めっき時間30分間では28.4重量%と急激に増加した。Sn含有率は、めっき時間の増加につれて、さらに増加し、めっき時間120分では42.8重量%であった。
【0046】
すでに説明したように、EPMAで測定したSn含有率は、めっき膜の表面近傍の組成を示している。このため、めっき時間により組成が変化するめっき膜10は、Sn含有率が底面側から表面側に向かって単調増加している組成傾斜膜であることが判明した。
【0047】
ここで、めっき時間30分以上のめっき膜では、めっき時間10分のめっき膜(膜厚1.6μm)の表面のSn含有率を、底面のSn含有率と見なすことができる。このため、例えば、めっき時間30分では、表面のSn含有率は底面のSn含有率の7.6倍(28.4/3.7)であり、120分では、11.6倍(42.8/3.7)である。
【0048】
次に、めっき液中のSnCl
4・5水和物を、0.07M/dm
3に減じて、めっき膜を成膜した。
図5に示すように、やはりSn含有率は、めっき時間の増加につれて大きく増加した。なお、成膜速度は、7.1μm/hrであった。
【0049】
図6は、めっき時間120分のめっき膜のGD−OES測定結果を示す。すでに説明したようにGD−OESの測定結果において、縦軸のパワー(V)は、めっき膜中の各元素の含有率と比例関係にあることから、めっき膜は、Sn含有率が底面側から表面側に向かって単調増加している組成傾斜膜であることが再確認された。
【0050】
そして、耐蝕性は、表面のSn含有率が、10重量%未満では「不可」であったが、10重量%以上25重量%未満では、「可」、そして、25重量%以上では、「優」であった。
【0051】
なお、めっき時間を120分超とすることで、Sn含有率が75重量%超のめっき膜の成膜も可能ではあるが、生産性の観点から好ましくない。このため、めっき膜10の表面のSn含有率は、25〜75重量%であることが好ましい。
【0052】
なお、めっき膜の底面のSn含有率、言い換えれば、初期析出領域のSn含有率は2.5〜5重量%程度であることから、表面のSn含有率が25〜75重量%であることは、表面のSn含有率が底面のSn含有率の5〜30倍であることを意味している。
【0053】
めっき膜10の高い耐食性は、表面に形成されたSn含有率の高い、いわゆるSnリッチ領域の効果と考えられる。均一にSn含有率が高いめっき膜は成膜速度が遅いと考えられる。これに対して、本実施形態のめっき膜は、表面に向かって徐々にSnリッチとなる組成傾斜膜であるため、めっき液30が80℃、pH9.5の条件において、成膜速度が、6μm/hr以上と実用上問題のないレベルである。
【0054】
ここで、硫酸アンモニウムの効果について説明する。無電解Niめっき液にSnイオンを加えると、析出速度が大きく減少する。特に、金属光沢のある均一性の高いめっき膜が成膜できる、0.2M/dm
3のSnを含むめっき液では析出反応が停止してしまった。
【0055】
これに対して、めっき液に硫酸アンモニウムを0.1M/dm
3以上添加することで、実用上問題のないレベルの6μm/hr以上の析出速度が得られた。すなわち、実施形態のめっき液では、硫酸アンモニウムは公知の無電解めっき液における機能とは異なり、析出促進剤としての機能を有している。さらに、めっき膜10が組成傾斜膜となる原因も、硫酸アンモニウムの添加により析出反応が連続して高速に進行しているためと考えられる。
【0056】
なお、硫酸アンモニウムは、0.3M/dm
3以上添加しても析出速度に大きな変化はなく、0.5M/dm
3超添加すると、析出速度が、やや減少する傾向にあった。このため、硫酸アンモニウムは、0.1M/dm
3以上0.5M/dm
3以下であることが好ましい。
【0057】
また、Sn溶液は、調製後、熟成を行い安定したSn錯体を形成することが好ましい。すなわち、SnCl
4・5水和物とグルコン酸Naとを溶解後、1週間、室温で放置したり、加温したりすることで、溶解直後の錯体よりも、安定した構造の錯体が形成されると考えられる。安定したSn錯体を含むめっき液を用いることで、よりSn含有率の高いめっき膜を短時間のめっき時間で成膜できる。
【0058】
以上の説明のように、Sn含有率が底面側から表面側に向かって単調増加している組成傾斜膜である無電解NiSnPめっき膜は、耐蝕性に優れている。また、ニッケル塩と、スズ塩と、次亜リン酸と、第1錯化剤と、第2錯化剤と、硫酸アンモニウムと、を含む無電解めっき浴は、成膜速度が速く、かつ、耐蝕性に優れている無電解NiSnPめっき膜を成膜できる。
【0059】
本発明は、上述した実施形態等に限定されるものではなく、本発明の要旨を変えない範囲において、種々の変更、改変等が可能である。