特許第6095072号(P6095072)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ プロテオテク,インコーポレイテッドの特許一覧

特許6095072アミロイド病およびシヌクレイノパチーの処置のためのカフェイン含有化合物および組成物
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6095072
(24)【登録日】2017年2月24日
(45)【発行日】2017年3月15日
(54)【発明の名称】アミロイド病およびシヌクレイノパチーの処置のためのカフェイン含有化合物および組成物
(51)【国際特許分類】
   C07D 473/06 20060101AFI20170306BHJP
   A61K 31/522 20060101ALI20170306BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20170306BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20170306BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20170306BHJP
   A61P 25/16 20060101ALI20170306BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20170306BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20170306BHJP
【FI】
   C07D473/06CSP
   A61K31/522
   A61P9/00
   A61P9/10
   A61P25/28
   A61P25/16
   A61P25/00
   A61P3/10
【請求項の数】22
【全頁数】44
(21)【出願番号】特願2014-538819(P2014-538819)
(86)(22)【出願日】2012年10月10日
(65)【公表番号】特表2014-532643(P2014-532643A)
(43)【公表日】2014年12月8日
(86)【国際出願番号】US2012059481
(87)【国際公開番号】WO2013062762
(87)【国際公開日】20130502
【審査請求日】2015年10月9日
(31)【優先権主張番号】61/552,077
(32)【優先日】2011年10月27日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】514093132
【氏名又は名称】プロテオテク,インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】ProteoTech,Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】110001302
【氏名又は名称】特許業務法人北青山インターナショナル
(72)【発明者】
【氏名】エスポージト,ルーク
(72)【発明者】
【氏名】ハンソン,ケルシー
(72)【発明者】
【氏名】ヤドン,マリサ,シー.
(72)【発明者】
【氏名】レイク,トーマス
(72)【発明者】
【氏名】クマール,アニル
(72)【発明者】
【氏名】スノー,アラン,ディー.
(72)【発明者】
【氏名】カミングス,ジョエル
【審査官】 井上 千弥子
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2009/0042940(US,A1)
【文献】 国際公開第00/069464(WO,A1)
【文献】 特表2005−509036(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
A61K
A61P
CAplus/REGISTRY/CASREACT(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】

式中、R1−3は独立して、水素、メチル、およびベンジル基で置換されており、R1−3の少なくとも2つは、常に置換されたベンジルであり、かつ前記ベンジル基は2つの水酸基で置換されている化合物からなる群から選択されることを特徴とする化合物ならびにその薬学的に許容される塩。
【請求項2】
請求項1に記載の化合物において、
からなる群から選択されることを特徴とする化合物。
【請求項3】
請求項1に記載の化合物および薬学的に許容される賦形剤を含むことを特徴とする医薬組成物。
【請求項4】

式中、R1−3は独立して、水素、メチル、およびベンジル基で置換されており、R1−3の少なくとも2つは、常に置換されたベンジルであり、かつ前記ベンジル基は2つの水酸基で置換されており、アミロイド又はα−シヌクレイン原繊維の形成、堆積、蓄積、あるいは持続性の処理に用いられる、化合物からなる群から選択されることを特徴とする化合物ならびにその薬学的に許容される塩。
【請求項5】

式中、R1−3は独立して、水素、メチル、およびベンジル基で置換されており、R1−3の少なくとも2つは、常に置換されたベンジルであり、かつ前記ベンジル基は2つの水酸基で置換されており、アミロイド病、又はシヌクレイノパチーを患っている哺乳類のこれらの疾病の治療に用いられる、化合物からなる群から選択されることを特徴とする化合物ならびにその薬学的に許容される塩。
【請求項6】
請求項5に記載の化合物において、前記アミロイド病が、アルツハイマー病、II型糖尿病、全身性AAアミロイドーシス、ダウン症候群、オランダ型アミロイドーシスを伴う遺伝性脳出血、および大脳β−アミロイド血管障害からなる疾患の群から選択されることを特徴とする化合物
【請求項7】
請求項5に記載の化合物において、前記アミロイド病がアルツハイマー病であることを特徴とする化合物
【請求項8】
請求項5に記載の化合物において、前記シヌクレイノパチーが、パーキンソン病、家族性パーキンソン病、レビー小体病、レビー小体変異型のアルツハイマー病、レビー小体型認知症、多系統萎縮症、およびグアムのパーキンソン認知症症候群からなる群から選択されることを特徴とする化合物
【請求項9】
請求項5に記載の化合物において、前記シヌクレイノパチーがパーキンソン病であることを特徴とする化合物
【請求項10】
請求項5に記載の化合物において、前記化合物が、0.1mg/kg/日〜1000mg/kg/日の量で調剤されることを特徴とする化合物
【請求項11】
請求項5に記載の化合物において、前記化合物が、1mg/kg/日〜100mg/kg/日の量で調剤されることを特徴とする化合物
【請求項12】
請求項5に記載の化合物において、前記化合物が、10mg/kg/日〜100mg/kg/日の量で調剤されることを特徴とする化合物
【請求項13】
包装材料、包装材料内に含有され、β−アミロイド又はα−シヌクレインの原繊維および/又は凝集物の形成、堆積、蓄積、あるいは持続性の処理のために使用される、請求項1に記載の化合物又はその薬学的に許容される塩、ならびに化合物又はその薬学的に許容される塩がβ−アミロイド又はα−シヌクレインの原繊維および/又は凝集物の形成、堆積、蓄積、あるいは持続性の処理のために使用されることを表示するラベルを含むことを特徴とする製品。
【請求項14】

式中、R1−3は独立して、水素、メチル、およびベンジル基で置換されており、R1−3の少なくとも2つは、常に置換されたベンジルであり、かつ前記ベンジル基は2つの水酸基で置換されている化合物からなる群から選択されることを特徴とする化合物ならびにその薬学的に許容される塩の、アミロイド又はα−シヌクレイン原繊維の形成、堆積、蓄積、あるいは持続性の処理用薬剤の製造における使用。
【請求項15】

式中、R1−3は独立して、水素、メチル、およびベンジル基で置換されており、R1−3の少なくとも2つは、常に置換されたベンジルであり、かつ前記ベンジル基は2つの水酸基で置換されている化合物からなる群から選択されることを特徴とする化合物ならびにその薬学的に許容される塩の、アミロイド病又はシヌクレイノパチーを患っている哺乳類におけるこれらの疾病の治療用薬剤の製造における使用。
【請求項16】
請求項15に記載の化合物の使用において、前記アミロイド病が、アルツハイマー病、II型糖尿病、全身性AAアミロイドーシス、ダウン症候群、オランダ型アミロイドーシスを伴う遺伝性脳出血、および大脳β−アミロイド血管障害からなる疾患の群から選択されることを特徴とする使用。
【請求項17】
請求項15に記載の化合物の使用において、前記アミロイド病がアルツハイマー病であることを特徴とする使用。
【請求項18】
請求項15に記載の化合物の使用において、前記シヌクレイノパチーが、パーキンソン病、家族性パーキンソン病、レビー小体病、レビー小体変異型のアルツハイマー病、レビー小体型認知症、多系統萎縮症、およびグアムのパーキンソン認知症症候群からなる群から選択されることを特徴とする使用。
【請求項19】
請求項15に記載の化合物の使用において、前記シヌクレイノパチーがパーキンソン病であることを特徴とする使用。
【請求項20】
請求項15に記載の使用において、投与される前記化合物が、0.1mg/kg/日〜1000mg/kg/日の量であることを特徴とする使用。
【請求項21】
請求項15に記載の使用において、前記化合物が、1mg/kg/日〜100mg/kg/日の量で投与されることを特徴とする使用。
【請求項22】
請求項15に記載の使用において、投与される化合物の量が、10mg/kg/日〜100mg/kg/日の量であることを特徴とする使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、本発明の化合物および薬学的に許容される塩、その合成、それらを含有する医薬組成物、ならびにアルツハイマー病などで観察されるβアミロイド病、およびパーキンソン病などのシヌクレオパチーの処置とそのような処置のための薬物の製造とにおけるその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
アルツハイマー病は、細胞外アミロイド斑として、また脳血管壁内アミロイドとして存在する、原線維形態をした、β−アミロイドタンパク質またはAβと称される39〜43アミノ酸ペプチドの蓄積を特徴とする。アルツハイマー病における原線維Aβアミロイド沈着は、患者にとって有害であると考えられ、最終的に、アルツハイマー病に特有な特徴である毒性および神経細胞死をもたらす。証拠の蓄積により、アミロイド、より具体的には、Aβ原線維の形成、沈着、蓄積、および/または残留がアルツハイマー病の病変形成の主要な原因因子として示唆される。さらに、アルツハイマー病の他にも、いくつかのアミロイド病が、Aβ原線維の形成、沈着、蓄積、および残留を伴い、それらには、例えば、ダウン症候群、これに限定されないが、オランダ型遺伝性脳出血などのコンゴ好染血管障害を伴う障害、および大脳β−アミロイド血管障害が挙げられる。
【0003】
パーキンソン病は、アミロイドの多くの特性を示す異常な原線維タンパク質沈着物の形成、沈着、蓄積、および/または残留を特徴とする別のヒト障害である。パーキンソン病では、α−シヌクレインのフィラメントからなる細胞質レビー小体の蓄積が、病変形成において、また治療標的として重要であると考えられる。α−シヌクレインの形成、沈着、蓄積、および/または残留を阻害できるか、または予め形成されたα−シヌクレイン原線維(またはその一部)を破壊できる新規の薬剤または化合物は、パーキンソン病および関連するシヌクレオパチーの処置にとって可能性のある療法と見なされる。α−シヌクレインの35アミノ酸断片は、in vitroでまたはパーキンソン病の患者の脳で観察されるように、アミロイド様原線維を形成する能力を有する。α−シヌクレインのこの部分がパーキンソン病、シヌクレオパチー、および関連障害の患者すべてに観察されるレビー小体の形成にとって重要であると考えられるので、このα−シヌクレイン断片は、相対的に重要な治療標的になる。さらに、原線維を形成し、コンゴレッドおよびチオフラビンS(アミロイド原線維沈着物を検出するのに使用される特異的染色剤)陽性のα−シヌクレインタンパク質が、パーキンソン病、レビー小体病(Lewy in Handbuch der Neurologie,M.Lewandowski,ed.,Springer,Berlin pp.920−933,1912;Pollanen et al,J.Neuropath.Exp.Neurol.52:183−191,1993;Spillantini et al,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 95:6469−6473,1998;Arai et al,Neurosci.Lett.259:83−86,1999)、多系統萎縮症(Wakabayashi et al,Acta Neuropath.96:445−452,1998)、レビー小体型認知症、およびレビー小体変異型のアルツハイマー病の患者の脳でレビー小体の一部として見出されている。パーキンソン病では、原線維は、この疾患の患者の脳で発現し、コンゴレッドおよびチオフラビンS陽性で、かつ主にβ−プリーツシート二次構造を含有する。
【0004】
アルツハイマー病の治療標的としてのアミロイド
アルツハイマー病はまた、社会に重い経済的負担を課す。最近の研究では、重度の認知障害がある1人のアルツハイマー病患者を家庭または養護施設で介護する費用は年間47,000ドル超であると見積もられた(A Guide to Understanding Alzheimer’s Disease and Related Disorders)。2〜20年にわたり得る疾患のために、家族および社会のアルツハイマー病に対する全費用は膨大になる。患者およびその介護者の両方の医療経費および逸失賃金による、米国におけるアルツハイマー病の年間経済負担額は、800億ドル〜1000億ドルと見積もられる(2003 Progress Report on Alzheimer’s Disease)。
【0005】
アルツハイマー病の最初のFDA承認薬であるタクリン塩酸塩(「Cognex」)は、アセチルコリンエステラーゼ阻害剤である(Cutler and Sramek,N.Engl.J.Med.328:808 810,1993)。しかしながら、この薬物は、アルツハイマー病患者において認知改善をもたらすことに限定的にしか成功せず、また初期に肝毒性などの主要な副作用を示した。2番目のFDA承認薬であるドネペジル(「アリセプト」)は、同様にアセチルコリンエステラーゼ阻害剤であり、アルツハイマー病患者において若干の認知改善を示すことから、タクリンよりも有効であるが(Barner and Gray,Ann.Pharmacotherapy 32:70−77,1998;Rogers and Friedhoff,Eur.Neuropsych.8:67−75,1998)、治癒薬とは考えられていない。したがって、アルツハイマー病患者にとってより有効な処置が必要であることは明らかである。
【0006】
アルツハイマー病は、ベータアミロイドタンパク質、Aβ、またはβ/A4と称される39〜43アミノ酸ペプチドの沈着および蓄積を特徴とする(Glenner and Wong,Biochem.Biophys.Res.Comm.120:885−890,1984;Masters et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 82:4245−4249,1985;Husby et al.,Bull.WHO 71:105−108,1993)。Aβは、いくつかの代替的にスプライスされた変異体が存在する、β−アミロイド前駆体タンパク質(APP)と称されるより大きな前駆体からプロテアーゼ切断により派生する。APPの中で最も存在量が多い形態には、695、751、および770アミノ酸からなるタンパク質が含まれる(Tanzi et al.,Nature 31:528−530,1988)。
【0007】
小さなAβペプチドは、アルツハイマー病患者の脳にアミロイド沈着物の「斑」を形成する主要成分である。さらに、アルツハイマー病は、神経細胞の細胞質内に異常に蓄積する二重ラセン状フィラメントからなる、数多くの神経原線維の「もつれ」の存在を特徴とする(Grundke−Iqbal et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 83:4913−4917,1986;Kosik et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 83:4044−4048,1986;Lee et al.,Science 251:675−678,1991)。したがって、アルツハイマー病の病理学的な特徴は、「斑」および「もつれ」の存在であり、β−アミロイドが斑の中心核に沈着している。アルツハイマー病の脳に見出される他の主要な病変型は、脳柔組織内の血管壁および脳の外側に位置する髄膜血管壁の両方におけるβ−アミロイドの蓄積である。血管壁に局在化したβ−アミロイド沈着は、脳血管性アミロイドまたはコンゴ好染血管障害と呼ばれる(Mandybur,J.Neuropath.Exp.Neurol.45:79−90,1986;Pardridge et al.,J.Neurochem.49:1394−1401,1987)。
【0008】
長年にわたり、アルツハイマー病における「β−アミロイド」の重要性ならびにこの疾患に特徴的な「斑」および「もつれ」が疾患の原因であるかまたは単なる結果であるかに関して科学的な論争が続いている。最近数年内の研究により、β−アミロイドは実際にアルツハイマー病の原因因子であって、単なる罪のない傍観者と見なすべきではないことが示されている。細胞培養においてアルツハイマー病Aβタンパク質が短時間で神経細胞の変性を引き起こすことが示された(Pike et al.,Br.Res.563:311−314,1991;J.Neurochem.64:253−265,1995)。研究では、それが、神経毒性作用の原因となる原線維構造(主にβ−プリーツシート二次構造からなる)であることが示唆される。Aβはまた、海馬の切片培養において神経毒性であることが見出され(Harrigan et al.,Neurobiol.Aging 16:779−789,1995)、トランスジェニックマウスにおいて神経細胞死を誘導する(Games et al.,Nature 373:523−527,1995;Hsiao et al.,Science 274:99−102,1996)。さらに、アルツハイマー病Aβのラット脳への注射は、記憶障害および神経細胞の機能障害を引き起こす(Flood et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 88:3363−3366,1991;Br.Res.663:271−276,1994)。
【0009】
おそらく、Aβアミロイドがアルツハイマー病の病変形成に直接関与していることを示す最も説得力のある証拠は遺伝学研究に由来する。Aβの産生が、その前駆体であるβ−アミロイド前駆体タンパク質をコードする遺伝子の変異に起因する可能性があることが発見された(Van Broeckhoven et al.,Science 248:1120−1122,1990;Murrell et al.,Science 254:97−99,1991;Haass et al.,Nature Med.1:1291−1296,1995)。早発性家族性アルツハイマー病を引き起こす、ベータアミロイド前駆体タンパク質遺伝子中の突然変異の同定は、アミロイドがこの疾患の基となる病変形成過程の中心であることを示す最も強力な論拠になる。疾患を引き起こす4つの突然変異の発見が報告され、それにより家族性アルツハイマー病の発症におけるAβの重要性が実証された(Hardy,Nature Genet.1:233−234,1992に概説されている)。これらの研究のすべてから、ヒト患者の脳における原線維Aβの形成、沈着、蓄積、および/または残留を低減、除去、または防止するための薬物の提供が、有効な治療法として役立つことが示唆される。
【0010】
他の種々のヒト疾患もまた、アミロイド沈着を示し、全身の臓器(すなわち、中枢神経系の外側に位置する臓器または組織)を通常巻き込み、アミロイド蓄積が臓器機能障害または機能不全をもたらす。いくつかの異なる臓器および組織に顕著なアミロイド蓄積をもたらすこれらのアミロイド病(下記に論じる)は、全身性アミロイドーシスとして知られている。他のアミロイド病では、2型糖尿病患者の90%で膵臓などの単一臓器が冒されることがある。このタイプのアミロイド病では、膵臓ランゲルハンス島のβ細胞が、膵島アミロイドポリペプチド(IAPP)として知られるタンパク質から主としてなる原線維アミロイド沈着物の蓄積により破壊されると考えられる。そのようなIAPPアミロイド原線維の形成、沈着、蓄積、および残留の阻害または低減は、2型糖尿病の新規の有効な処置をもたらすと考えられる。アルツハイマー病、パーキンソン病、および「全身性」アミロイド病では、治癒療法も有効な処置も現在存在せず、患者は通常、疾患発症から3〜10年以内に死亡する。
【0011】
アミロイド病(アミロイドーシス)は、存在するアミロイドタンパク質の型および基礎疾患に従って分類される。アミロイド病には、各アミロイドが独自のアミロイドタンパク質のタイプからなることを含むいくつかの共通の特徴がある。アミロイド病には、これらに限定されないが、アルツハイマー病、ダウン症候群、オランダ型アミロイドーシスを伴う遺伝性脳出血、拳闘家認知症、封入体筋炎(Askanas et al,Ann.Neurol.43:521−560,1993)、および軽度認知障害に関連したアミロイド(ここで、特定のアミロイドは、ベータアミロイドタンパク質またはAβと呼ばれる)、慢性炎症、種々の形態の悪性腫瘍、および家族性地中海熱に関連したアミロイド(ここで、特定のアミロイドは、AAアミロイドまたは炎症関連アミロイドーシスと呼ばれる)(全身性AAアミロイドーシスとしても知られる)、多発性骨髄腫および他のB細胞疾患に関連したアミロイド(ここで、特定のアミロイドはALアミロイドと呼ばれる)、2型糖尿病に関連したアミロイド(ここで、特定のアミロイドタンパク質は、アミリンまたは膵島アミロイドポリペプチドまたはIAPPと呼ばれる)、クロイツフェルト−ヤコブ病、ゲルストマン‐シュトロイスラー症候群、クールー、および動物スクレーピーを含むプリオン病に関連したアミロイド(ここで、特定のアミロイドはPrPアミロイドと呼ばれる)、長期間の血液透析および手根管症候群に関連したアミロイド(ここで、特定のアミロイドはα−ミクログロブリンアミロイドと呼ばれる)、老人性心臓アミロイドーシスおよび家族性アミロイド性末梢神経障害に関連したアミロイド(ここで、特定のアミロイドはトランスチレチンまたはプレアルブミンと呼ばれる)、ならびに甲状腺髄様癌などの内分泌腺腫瘍に関連したアミロイド(ここで、特定のアミロイドはプロカルシトニン変異体と呼ばれる)が含まれる。さらに、アミロイド様原線維を形成し、コンゴレッドおよびチオフラビンS(アミロイド原線維沈着物を検出するのに使用される特異的染色剤)陽性のα−シヌクレインタンパク質が、パーキンソン病、レビー小体病(Lewy in Handbuch der Neurologie,M.Lewandowski,ed.,Springer,Berlin pp.920−933,1912;Pollanen et al,J.Neuropath.Exp.Neurol.52:183−191,1993;Spillantini et al,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 95:6469−6473,1998;Arai et al,Neurosci.Lett.259:83−86,1999)、多系統萎縮症(Wakabayashi et al,Acta Neuropath.96:445−452,1998)、レビー小体型認知症、およびレビー小体変異型のアルツハイマー病の患者の脳でレビー小体の一部として見出されている。本開示の目的のために、パーキンソン病は、原線維(コンゴレッドおよびチオフラビンS陽性で、主にβ−プリーツシート二次構造を含有する)がこの疾患の患者の脳で発現するという事実により、アミロイド様疾患の特徴も示す疾患とここでは見なされる。
【0012】
例えば、慢性炎症、種々の形態の悪性腫瘍、および家族性地中海熱に関連したアミロイド(すなわち、AAアミロイドまたは炎症関連アミロイドーシス)(Benson and Cohen,Arth.Rheum.22:36−42,1979;Kamei et al,Acta Path.Jpn.32:123−133,1982;McAdam et al.,Lancet 2:572−573,1975;Metaxas,Kidney Int.20:676−685,1981)ならびに多発性骨髄腫および他のB細胞疾患に関連したアミロイド(すなわち、ALアミロイド)(Harada et al.,J.Histochem.Cytochem.19:1−15,1971)を含む全身性アミロイドーシスは、中枢神経系の外側に通常位置する種々の異なる臓器および組織でアミロイド沈着を伴うことが知られている。これらの疾患におけるアミロイド沈着は、例えば、肝臓、心臓、脾臓、胃腸管、腎臓、皮膚、および/または肺に起こり得る(Johnson et al,N.Engl.J.Med.321:513−518,1989)。これらのアミロイドーシスの大部分の場合に、明確な治癒療法も有効な処置も存在せず、アミロイド沈着の結果は、患者に有害となり得る。例えば、腎臓におけるアミロイド沈着は腎不全をもたらすことがあり、一方心臓におけるアミロイド沈着は心不全をもたらすことがある。これらの患者の場合、全身の臓器におけるアミロイド蓄積により、通常3〜5年以内に最終的に死に至る。他のアミロイドーシスは、単一の臓器または組織を冒すことがあり、例えば、アルツハイマー病およびダウン症候群の患者の脳で見出されるAβアミロイド沈着:クロイツフェルト−ヤコブ病、ゲルストマン‐シュトロイスラー症候群、およびクールーの患者の脳で見出されるPrPアミロイド沈着;2型糖尿病患者の90%の膵臓ランゲルハンス島で見出される膵島アミロイド(IAPP)沈着(Johnson et al,N.Engl.J.Med.321:513−518,1989;Lab.Invest.66:522 535,1992);長期間の血液透析を受けた患者で観察される手根管症候群をもたらす、内則神経におけるα−ミクログロブリンアミロイド沈着(Geyjo et al,Biochem.Biophys.Res.Comm.129:701−706,1985;Kidney Int.30:385−390,1986);老人性心臓アミロイド患者の心臓で観察されるプレアルブミン/トランスチレチンアミロイド;ならびに家族性アミロイド性末梢神経障害を有する患者の末梢神経において観察されるプレアルブミン/トランスチレチンアミロイド(Skinner and Cohen,Biochem.Biophys.Res.Comm.99:1326−1332,1981;Saraiva et al,J.Lab.Clin.Med.102:590−603,1983;J.Clin.Invest.74:104−119,1984;Tawara et al,J.Lab.Clin.Med.98:811−822,1989)において観察される。
【0013】
パーキンソン病およびシヌクレオパチー
パーキンソン病は、細胞質内レビー小体の存在によって病理学的に特徴づけられる神経変性障害であり(Lewy in Handbuch der Neurologie,M.Lewandowski,ed.,Springer,Berlin,pp.920−933,1912;Pollanen et al.,J.Neuropath.Exp.Neurol.52:183−191,1993)、レビー小体の主要成分は、140アミノ酸のタンパク質(Ueda et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:11282−11286,1993)であるα−シヌクレイン(Spillantini et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 95:6469−6473,1998;Arai et al.,Neurosci.Lett.259:83−86,1999)からなるフィラメントである。家族性早発性パーキンソン病を引き起こす、α−シヌクレインにおける2つの優性突然変異が記載され、レビー小体がパーキンソン病および関連障害における神経細胞の変性に機序的に寄与することが示唆されている(Polymeropoulos et al.,Science 276:2045−2047,1997;Kruger et al.,Nature Genet.18:106−108,1998)。最近になって、in vitroの研究により、組換えα−シヌクレインが実際にレビー小体様の原線維を形成し得ることが実証された(Conway et al.,Nature Med.4:1318−1320,1998;Hashimoto et al.,Brain Res.799:301−306,1998;Nahri et al.,J.Biol.Chem.274:9843−9846,1999)。最も重要なことには、パーキンソン病に関連したα−シヌクレインの突然変異が両方とも、この凝集過程を加速し、そのようなin vitro研究がパーキンソン病の病変形成に対して適切であり得ることが実証された。α−シヌクレインの凝集および原線維形成は、核形成依存の重合過程の基準を満たす(Wood et al.,J.Biol.Chem.274:19509−19512,1999)。この点に関して、α−シヌクレイン原線維形成は、アルツハイマー病のβ−アミロイドタンパク質(Aβ)原線維の原線維形成と類似している。α−シヌクレイン組換えタンパク質、およびα−シヌクレインの35アミノ酸ペプチド断片である非Aβ成分(NACとして知られる)は両方とも、37℃でインキュベートされると原線維を形成することができ、コンゴレッド(偏光下で観察すると赤/緑の複屈折を示す)およびチオフラビンS(正の蛍光を示す)などのアミロイド染色に対して陽性である(Hashimoto et al.,Brain Res.799:301−306,1998;Ueda et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:11282−11286,1993)。
【0014】
シヌクレインは、α−、β−、およびγ−シヌクレインから構成される、シナプス前神経細胞の小型タンパク質のファミリーであり、その中のα−シヌクレイン凝集物のみがいくつかの神経系疾患に関連している(Ian et al.,Clinical Neurosc.Res.1:445−455,2001;Trojanowski and Lee,Neurotoxicology 23:457−460,2002)。いくつかの神経変性疾患の病因におけるシヌクレイン(具体的には、α−シヌクレイン)の役割が、いくつかの観察から明らかになった。病理学的には、シヌクレインは、パーキンソン病に特徴的な封入体であるレビー小体の主要成分として同定され、その断片が、異なる神経系疾患であるアルツハイマー病のアミロイド斑から単離された。生化学的には、組換えα−シヌクレインは、レビー小体型認知症、パーキンソン病、および多系統萎縮症の患者から単離されたα−シヌクレインの超微細構造の特徴を再現した原線維を形成することが示された。さらに、家族性パーキンソン病のまれな症例にもかかわらず、シヌクレイン遺伝子内の突然変異を同定することにより、シヌクレイン病理と神経変性疾患との間の明白な関連が実証された。パーキンソン病、レビー小体型認知症、多系統萎縮症、およびレビー小体変異型のアルツハイマー病などの疾患スペクトルにおいてα−シヌクレインが共通に関与していることから、「シヌクレオパチー」の包括的用語の下にこれらの疾患が分類されている。
【0015】
パーキンソン病のα−シヌクレイン原線維およびアルツハイマー病のAβ原線維は両方とも、主にβ−プリーツシート構造からなる。本発明の実施例で説明されるように、アルツハイマー病のAβアミロイド原線維形成を阻害することが見出された化合物はまた、α−シヌクレイン原線維形成の阻害にも有効であることが示された。したがって、これらの化合物は、アルツハイマー病の治療薬として有効であることに加えて、パーキンソン病および他のシヌクレオパチーのための治療薬としても役立つであろう。
【0016】
パーキンソン病およびアルツハイマー病は、β−プリーツシート二次構造に富んだミスフォールディングしたタンパク質から主に構成される不溶性の凝集物の不適当な蓄積を特徴とする(Cohen et al.,Nature 426:905−909,2003;Chiti et al.,Annu.Rev.Biochem.,75:333−366,2006に概説されている)。パーキンソン病では、α−シヌクレインは、レビー小体の一部として、これらの凝集物の主要構成成分であり、ミスフォールディングおよび凝集するその傾向を増大させる、α−シヌクレインの突然変異が家族性パーキンソン病で観察される(Polymeropoulos et al.,Science 276:1197−1199,1997;Papadimitriou et al.,Neurology 52:651−654,1999)。具体的には電子伝達系の複合体Iの機能障害の結果として生じるミトコンドリアの機能障害もまた、パーキンソン病の共通の特徴である(Schapira et al.,J.Neurochem.,54:823−827,1990;Greenamyre et al.,IUBMB Life,52:135−141,2001に概説されている)。パーキンソン病の病因におけるミトコンドリア障害についての直接的な証拠は、最初、パーキンソン症毒素N−メチル−4−フェニル−1,2,3,6−テトラヒドロピリジン(MPTP)の活性代謝物であるMPP+(1−メチル−4−フェニル−2,3−ジヒドロピリジニウム)が複合体Iを阻害するという観察から得られた(Nicklas et al.,Life Sci.,36:2503−2508,1985)。続いて、別の複合体I阻害剤であるロテノンが、MPTPモデルで見られるドーパミン作動性神経細胞の挙動変化および喪失に加えて、前述のα−シヌクレイン陽性細胞質内凝集物を再現するので、α−シヌクレイン凝集に対する改善されたモデルであることが示された。このタイプのロテノン毒性は、ラット(Betarbet et al.,Nat.Neurosci.,3:1301−1306,2000;Panov et al.,J.Biol.Chem.,280:42026−42035,2005)、ラット脳切片(Sherer et al.,J.Neurosci.,23:10756−10764,2003;Testa et al.,Mol.Brain Res.,134:109−118,2005)、線虫(C.elegans)(Ved et al.,J.Biol.Chem.,280:42655−42668,2005)、および培養細胞(Sherer et al.,J.Neurosci.,22:7006−7015,2002)を含む複数のモデル系で認められ、複合体Iの阻害から生じる酸化的障害が増大した結果であることが示されている。酸化的障害と突然変異α−シヌクレインの病変形成との関係をよりよく理解するために、A53T α−シヌクレインを過剰発現する神経芽細胞腫細胞株(BE−M17細胞を使用する)が当技術分野で確立されている。これらの細胞では、A53T α−シヌクレインは、種々の酸化ストレス誘導剤に応答して凝集し、ミトコンドリアの機能障害および細胞死を増大させる(Ostrerova−Golts et al.,J.Neurosci.,20:6048−6054,2000)。これらの細胞は、酸化ストレス誘導物質としてのロテノン処理に適し、そのため、α−シヌクレインの凝集/原線維形成を阻害する可能性のある薬剤を試験するのに特に有用である。
【0017】
アルツハイマー病およびパーキンソン病で発生する、アミロイドの形成、沈着、蓄積、および/または残留を阻止する潜在的な治療薬として新規の化合物または薬剤を発見および同定することが切望されている。
【発明の概要】
【0018】
本発明は、下記の化合物およびそれらの化合物の他の修飾形態および誘導体、ならびにアミロイド病およびシヌクレオパチーの処置におけるそれらの使用に関する。
【0019】
本発明の化合物は、一般式
[式中、
1−3は独立して、水素、メチル、およびベンジル基で置換され、Rは、水素またはフェニル基で置換されている(ここで、フェニルまたはベンジル基は独立して、H、OH、F、Cl、Br、グルクロニド、スルフェート、シアノ、メチル、NH、SH、CHOH、CN、CF、NHSOCH、N(CH、NHCH、N(CN)、NHCN、C(CN)、NH(C=O)NH、NH(C=O)CH、(C=NH)NH、(C=NOH)NH、O(C=O)OCH、およびNH(C=O)Hから選択される最大2つの基で置換されている)]ならびにその薬学的に許容される塩を有する。
【0020】
本発明の化合物は、上記の一般式[式中、Rはベンジル基で置換され、RまたはRは独立して、メチルまたはベンジル基のいずれかで置換され、Rは水素で置換されている(ここで、ベンジル基はそれぞれ、2つのヒドロキシル基で置換されている)]を有する。
【0021】
本発明の化合物は、これらに限定されないが、下記のものを含む。
【0022】
別の態様では、本発明は、本発明の化合物および薬学的に許容される賦形剤を含む医薬組成物;ならびに薬学的に許容される賦形剤および唯一の活性成分として本発明の化合物を含む医薬組成物である。
【0023】
別の態様では、本発明は、例えば医薬組成物として本発明の化合物の治療有効量を投与することにより、哺乳動物、特にヒトにおけるアミロイド病またはシヌクレオパチーを処置する方法である。
【0024】
別の態様では、本発明は、アミロイド病またはシヌクレオパチーの処置のための薬物の製造における本発明の化合物の使用である。
【0025】
別の態様では、本発明は、本発明の化合物、すなわち、上記の式もしくはリストの化合物の調製方法、および/またはその薬学的に許容される塩の形成方法である。
【0026】
別の態様では、本発明は、in vitro環境における、Aβ、IAPP、他のアミロイド、およびα−シヌクレインまたはNACの原線維形成の処置方法である。この方法は、本発明の化合物の治療有効量をin vitro環境に投与するステップを含む。好ましくは、化合物は、Aβ、IAPP、およびNACに対するその活性に関して下記の群から選択される。
【0027】
さらに、化合物の塩、エステル、エノールエーテルもしくはエノールエステル、アセタール、ケタール、オルトエステル、ヘミアセタール、ヘミケタール、溶媒和物、水和物、またはプロドラッグを含む、任意の薬学的に許容される誘導体を提供する。
【0028】
ベータアミロイドまたはα−シヌクレインの原線維または凝集物を破壊し、脱凝集し、かつその除去、低減、またはクリアランスをもたらすために、そのような化合物および組成物を使用する方法を提供し、それによって、シヌクレオパチーのための新規の処置を提供する。
【0029】
さらに、アミロイド病およびシヌクレイン病またはシヌクレオパチーの1つまたは複数の症候の処置、予防、または寛解のための方法を提供する。一実施形態では、この方法は、アミロイドまたはα−シヌクレインの原線維形成を阻害または防止し、アミロイドまたはα−シヌクレインの原線維の増加を阻害または防止し、かつ/または予め形成されたアミロイドもしくはα−シヌクレインの凝集物およびアミロイドもしくはα−シヌクレインの関連タンパク質の沈着物の分解、破壊、および/もしくは脱凝集をもたらす。アミロイド病としては、これらに限定されないが、アルツハイマー病、II型糖尿病、全身性AA、およびプリオン病が挙げられる。シヌクレイン病としては、これらに限定されないが、パーキンソン病、家族性パーキンソン病、レビー小体病、レビー小体型認知症、多系統萎縮症、およびグアムのパーキンソン認知症症候群が挙げられる。
【発明を実施するための形態】
【0030】
定義
本出願では、下記の用語は、その用語が文献またはそうなければ公知技術の別のところで異なるように使用されているか否かに関係なく、下記の意味を有するものとする。
【0031】
本明細書で使用する場合、「アミロイド病」または「アミロイドーシス」は、Aβアミロイド原線維の形成、沈着、蓄積、または残留に関連する疾患である。そのような疾患としては、これらに限定されないが、アルツハイマー病、ダウン症候群、オランダ型アミロイドーシスを伴う遺伝性脳出血、および大脳β−アミロイド血管障害が挙げられる。さらに、全身性AAアミロイドーシスおよびII型糖尿病のIAPPアミロイドーシスなどの他のアミロイド病も、アミロイド病である。
【0032】
本明細書で使用する場合、「シヌクレイン病」または「シヌクレオパチー」は、α−シヌクレイン原線維の形成、沈着、蓄積、または残留に関連する疾患である。そのような疾患としては、これらに限定されないが、パーキンソン病、家族性パーキンソン病、レビー小体病、レビー小体型認知症、多系統萎縮症、およびグアムのパーキンソン認知症症候群が挙げられる。
【0033】
「原線維形成」は、β−アミロイドの原線維、フィラメント、封入体、沈着物、およびα−シヌクレインの原線維、フィラメント、封入体、沈着物等の形成、沈着、蓄積、および/または残留を指す。
【0034】
「原線維形成の阻害」は、そのようなβ−アミロイド原線維またはα−シヌクレイン原線維様沈着物の形成、沈着、蓄積、および/または残留の阻害を指す。
【0035】
「原線維または原線維形成の破壊」は、主にβ−プリーツシート二次構造で通常存在する、予め形成されたβ−アミロイドまたはα−シヌクレインの原線維の破壊を指す。本明細書に提供する化合物によるそのような破壊は、チオフラビンT蛍光測定、コンゴレッド結合、円偏光二色性スペクトル、チオフラビンS、およびα−シヌクレイン凝集およびXTT細胞傷害性アッセイなどの細胞ベースアッセイなどの種々の方法によって評価され、本出願に提示する実施例で示される、アミロイドまたはシヌクレインの原線維の顕著な減少または分解を含み得る。
【0036】
「神経保護」または「神経保護の」は、神経細胞に対する損傷(神経変性)を防御、軽減、緩和、寛解、および/または減弱する化合物の能力を指す。
【0037】
「哺乳動物」には、ヒトと、伴侶動物(ネコ、イヌ等)、実験動物(例えば、マウス、ラット、モルモット等)、および家畜(ウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、ブタ等)などの非ヒト哺乳動物との両方が含まれる。
【0038】
「薬学的に許容される賦形剤」は、一般に安全かつ無毒で、望ましい医薬組成物を調製するのに通常有用な賦形剤を意味し、獣医学用途またはヒト医薬用途に許容される賦形剤を含む。そのような賦形剤は、固体、液体、半固体、またはエアゾール組成物の場合には気体であってもよい。
【0039】
「治療有効量」は、疾患を処置するために被験体または動物に投与する場合、その疾患に対して、所望の程度の処置、予防、または症候寛解をもたらすのに十分な量を意味する。特定の実施形態における「治療有効量」または「治療上有効な投与量」は、未処置の被験体に比べて、一実施形態では少なくとも20%、他の実施形態では少なくとも40%、他の実施形態では少なくとも60%、またさらに他の実施形態では少なくとも80%、計測可能な量で、β−アミロイドまたはα−シヌクレインの原線維の形成、沈着、蓄積、および/または残留を阻害、低減、破壊、分解するか、あるいはアミロイド病またはシヌクレイノパチーなど、これらの状態に関連した疾患の1つまたは複数の症候を処置、予防、または寛解する。哺乳動物被験体の処置のための、本明細書に提供する化合物またはその組成物の有効量は、約0.1〜約1000mg/被験体の体重Kg/日、例えば、約1〜約100mg/Kg/日、他の実施形態では約10〜約500mg/Kg/日である。広範囲の開示組成物投与量は、安全かつ有効であると考えられる。
【0040】
用語「徐放性成分」は、これらに限定されないが、ポリマー、ポリマーマトリックス、ゲル、透過性膜、リポソーム、マイクロスフェア等、またはそれらの組合せを含む、活性成分の持続的放出を容易にする1つまたは複数の化合物として本明細書に定義される。
【0041】
複合体が水溶性の場合、その複合体は、適切な緩衝液、例えば、リン酸緩衝生理食塩水または他の生理学的に適合する溶液の中で製剤化することができる。あるいは、得られる複合体が水性溶媒中で難溶性の場合、その複合体は、Tweenなどの非イオン性界面活性剤またはポリエチレングリコールで製剤化することができる。したがって、化合物およびその生理学的な溶媒は、例えば、吸入もしくは通気(口または鼻のいずれかを通して)による投与、または経口、頬側、非経口、もしくは直腸投与のために製剤化することができる。
【0042】
本明細書で使用する場合、化合物の薬学的に許容される誘導体には、その塩、エステル、エノールエーテル、エノールエステル、アセタール、ケタール、オルトエステル、ヘミアセタール、ヘミケタール、溶媒和物、水和物、またはプロドラッグが含まれる。そのような誘導体は、当業者により、そのような誘導体化についての公知の方法を使用して容易に調製され得る。製造される化合物は、毒性作用を実質的に与えることなく、動物またはヒトに投与することができ、薬学的に活性であるかまたはプロドラッグである。薬学的に許容される塩としては、これらに限定されないが、アミン塩、例えば、これらに限定されないが、N,N−ジベンジルエチレンジアミン、クロロプロカイン、コリン、アンモニア、ジエタノールアミンおよび他のヒドロキシアルキルアミン、エチレンジアミン、N−メチルグルカミン、プロカイン、N−ベンジルフェネチルアミン、1−パラ−クロロベンジル−2−ピロリジン−1’−イルメチル−ベンゾイミダゾール、ジエチルアミンおよび他のアルキルアミン、ピペラジン、ならびにトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン;アルカリ金属塩、例えば、これらに限定されないが、リチウム、カリウム、およびナトリウム;アルカリ土類金属塩、例えば、これらに限定されないが、バリウム、カルシウム、およびマグネシウム;遷移金属塩、例えば、これに限定されないが、亜鉛;ならびに他の金属塩、例えば、これらに限定されないが、リン酸水素ナトリウムおよびリン酸二ナトリウム;さらに鉱酸塩、例えば、これらに限定されないが、塩酸塩および硫酸塩;ならびに有機酸塩、例えば、これらに限定されないが、酢酸塩、乳酸塩、リンゴ酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩、アスコビル酸塩、コハク酸塩、酪酸塩、吉草酸塩、およびフマル酸塩が挙げられる。薬学的に許容されるエステルとしては、これらに限定されないが、カルボン酸、リン酸、ホスフィン酸、スルホン酸、スルフィン酸、およびボロン酸を含む酸性基の、これらに限定されないが、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリール、アラルキル、ヘテロアラルキル、シクロアルキル、およびヘテロシクリルエステルが挙げられる。薬学的に許容されるエノールエーテルとしては、これらに限定されないが、式C=C(OR)(式中、Rは、水素、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリール、アラルキル、ヘテロアラルキル、シクロアルキル、またはヘテロシクリルである)の誘導体が挙げられる。薬学的に許容されるエノールエステルとしては、これらに限定されないが、式C=C(OC(O)R)(式中、Rは、水素、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリール、アラルキル、ヘテロアラルキル、シクロアルキル、またはヘテロシクリルである)の誘導体が挙げられる。薬学的に許容される溶媒和物および水和物は、1つまたは複数の溶媒分子または水分子、または1〜約100、または1〜約10、または1〜約2、3、もしくは4の溶媒分子または水分子と化合物との複合体である。
【0043】
本明細書で使用する場合、処置とは、疾患または障害の症候の1つまたは複数を寛解させるか、またはそうでなければ有益に変化させる任意の方法を意味する。疾患の処置にはまた、予め形成されたβ−アミロイドまたはα−シヌクレインの原線維の破壊などによって、その疾患に罹患しやすい可能性があるが、まだその疾患の症候を経験も呈してもいない被験体に、その疾患が発症するのを予防すること(予防的処置)、その疾患を抑制すること(その進行を遅延または阻止すること)、その疾患の症候または副作用を軽減すること(緩和療法を含む)、およびその疾患を緩和すること(疾患を退縮させること)が含まれる。本明細書で使用する場合、特定の化合物または医薬組成物の投与により特定の障害の症候を寛解するとは、恒久的か一時的か、持続的か一過性かにかかわらず、化合物の投与に起因または関連させることができる任意の軽減を指す。
【0044】
本明細書で使用する場合、α−シヌクレイン原線維の形成、沈着、蓄積、凝集、および/または残留の阻害は、パーキンソン病、レビー小体病、および多系統萎縮症など、α−シヌクレインを伴ういくつかの疾患に対して有効な処置であると考えられる。
【0045】
本明細書で使用する場合、アミロイド原繊維の形成、沈着、蓄積、凝集、および/または残留の阻害は、アルツハイマー病、II型糖尿病、および全身性AAアミロイドーシスなど、アミロイドを伴ういくつかの疾患に対して有効な処置であると考えられる。
【0046】
本明細書で使用する場合、プロドラッグとは、in vivo投与すると、化合物の生物学的、薬学的、または治療的に活性な形態に、1つまたは複数の工程または過程によって代謝されるか、または別の方法で変換される化合物である。プロドラッグを製造するために、活性化合物が代謝過程により再生されるように、薬学的に活性な化合物を修飾する。プロドラッグは、薬物の代謝安定性または輸送特性を変化させるように、副作用もしくは毒性をマスクするように、薬物の風味を改善するように、または薬物の他の特性もしくは性質を変化させるように設計することができる。当業者は、薬学的に活性な化合物を知るならば、in vivoにおける薬力学的過程および薬物代謝についての知識によって、その化合物のプロドラッグを設計することができる(例えば、Nogrady(1985)Medicinal Chemistry A Biochemical Approach,Oxford University Press,New York,pages 388−392を参照のこと)。
【0047】
本発明の化合物の一部について化学構造を示す。化合物の名称には、IUPAC名[http://www.chem.qmul.ac.uk/iupacに見出され得る、the coalition of the Commission on Nomenclature of Organic Chemistry and the Commission on Physical Organic Chemistryにより確立された、承認IUPAC(International Union of Pure and Applied Chemistry)システムにより誘導される名称]、付加または置換によりIUPAC名から誘導される名称(例えば、「ベンゾ[1,3]ジオキソール−5−イル」の代わりに、「フェニル」から誘導される「3,4−メチレンジオキシフェニル」を使用することによる)、および反応物名から誘導される名称など種々のものがある。しかしながら、使用する名称は、化学構造に明示的に等しく、当業者により容易に理解されると考えられる。
【0048】
「薬学的薬剤」または「薬理学的薬剤」または「医薬組成物」は、好ましくは純粋またはほぼ純粋な形態で、処置のために使用される化合物または化合物の組合せを指す。本明細書では、薬学的薬剤または薬理学的薬剤は、本発明の化合物を含む。化合物は、80%均一、好ましくは90%均一まで精製されることが望ましい。99.9%均一まで精製された化合物および組成物は、有利であると考えられる。試験または確認として、HPLC上で適切な均一化合物は、当業者が単一の鋭いピークバンドとして同定するものを生じるであろう。
【0049】
本明細書に提供する化合物は、キラル中心を含有する可能性があることを理解されたい。そのようなキラル中心は、(R)または(S)配置のいずれかであっても、またはそれらの混合物であってもよい。したがって、本明細書に提供する化合物は、鏡像異性的に純粋であっても、または立体異性もしくはジアステレオ異性の混合物であってもよい。本明細書に提供する化合物のキラル中心がin vivoでエピマー化され得ることを理解されたい。そのため、当業者ならば、in vivoでエピマー化を受ける化合物の場合、(R)形態の化合物の投与が、(S)形態のその化合物の投与と等価になることを認識するであろう。
【0050】
本明細書で使用する場合、実質的に純粋とは、当業者が純度を評価するために使用する、薄層クロマトグラフィー(TLC)、ゲル電気泳動、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、および質量分析(MS)などの標準分析法により測定するときに、容易に検出可能な不純物がないように見えるほど十分均一であること、あるいは、さらなる精製により、酵素活性および生物活性など、物質の物理的および化学的性質に検出可能な変化が起こらないほど十分純粋であることを意味する。実質上化学的に純粋な化合物を製造するための化合物の精製方法は、当業者に公知である。しかしながら、実質上化学的に純粋な化合物は、立体異性体の混合物である可能性がある。そのような実例では、さらなる精製により、化合物の比活性が増加する可能性がある。
【0051】
本明細書で使用する場合、任意の保護基、アミノ酸、および他の化合物についての略語は、他に指示がない限り、その慣用使用、承認された略語、またはIUPAC−IUB Commission on Biochemical Nomenclatureに準拠したものである((1972)Biochem.11:942−944を参照のこと)。
【0052】
本発明の化合物
本発明の化合物は、一般式
[式中、
1−3は独立して、水素、メチル、およびベンジル基で置換され、Rは、水素またはフェニル基で置換されている(ここで、フェニルまたはベンジル基は独立して、H、OH、F、Cl、Br、グルクロニド、スルフェート、シアノ、メチル、NH、SH、CHOH、CN、CF、NHSOCH、N(CH、NHCH、N(CN)、NHCN、C(CN)、NH(C=O)NH、NH(C=O)CH、(C=NH)NH、(C=NOH)NH、O(C=O)OCH、およびNH(C=O)Hから選択される最大2つの基で置換されている)]ならびにその薬学的に許容される塩を有する。
【0053】
本発明の化合物は、下記のものからなる群から選択される。
【0054】
本発明の化合物は、上記に示す式[式中、Rはベンジル基で置換され、RまたはRは独立して、メチルまたはベンジル基のいずれかで置換され、Rは水素で置換されている(ここで、ベンジル基はそれぞれ、2つのヒドロキシル基で置換されている)]を有する。
【0055】
本発明の化合物は、本明細書に開示する本発明の任意の化合物と薬学的に許容される賦形剤とを含む医薬組成物に組み込まれる。
【0056】
本発明はまた、アミロイドまたはα−シヌクレインの原線維の形成、沈着、蓄積、または残留を処置する方法であって、本明細書に開示する本発明の任意の化合物の有効量で原線維を処置することを含む方法を提供する。
【0057】
本発明はまた、アミロイド病またはシヌクレイノパチーに罹患している哺乳動物においてアミロイド病またはシヌクレイノパチーを処置する方法であって、本明細書に開示する本発明の任意の化合物の治療有効量を投与することを含む方法を提供する。
【0058】
本発明は、アミロイド病が、アルツハイマー病、II型糖尿病、全身性AAアミロイドーシス、ダウン症候群、オランダ型アミロイドーシスを伴う遺伝性脳出血、および大脳β−アミロイド血管障害からなる疾患の群から選択されると規定する。
【0059】
本発明は、アミロイド病が、アルツハイマー病であると規定する。
【0060】
本発明は、シヌクレイノパチーが、パーキンソン病、家族性パーキンソン病、およびレビー小体病、レビー小体変異型のアルツハイマー病、レビー小体型認知症、多系統萎縮症、およびグアムのパーキンソン認知症症候群からなる群から選択されると規定する。
【0061】
本発明は、シヌクレイノパチーがパーキンソン病であると規定する。
【0062】
本発明は、アミロイド病またはシヌクレイノパチーを処置する方法において、本発明の化合物を、0.1mg/kg/日〜1000mg/kg/日の量で投与すると規定する。
【0063】
本発明は、アミロイド病またはシヌクレイノパチーを処置する方法において、本発明の化合物を、1mg/kg/日〜100mg/kg/日の量で投与すると規定する。
【0064】
本発明は、アミロイド病またはシヌクレイノパチーを処置する方法において、本発明の化合物を、10mg/kg/日〜100mg/kg/日の量で投与すると規定する。
【0065】
本発明はまた、包装材料、包装材料内に含有され、β−アミロイドまたはα−シヌクレインの原線維および/または凝集物の形成、沈着、蓄積、または残留の処置のために使用される、本発明の化合物またはその薬学的に許容される塩、ならびに化合物またはその薬学的に許容される塩がβ−アミロイドまたはα−シヌクレインの原線維および/または凝集物の形成、沈着、蓄積、または残留の処置のために使用されることを表示するラベルを含む製品を提供する。
【0066】
本発明の化合物は、これらに限定されないが、以下のものから選択される化合物である。
【0067】
本発明の化合物の合成
本発明の化合物は、当業者に一般に公知の方法によって、その知識および実施例1を含む本出願の開示を考慮すれば調製することができる。
【0068】
これらの化合物を調製するのに使用される出発物質および試薬は、Aldrich Chemical Company(Milwaukee,WI)、Bachem(Torrance,CA)、Sigma(St.Louis,MO)、またはLancaster Synthesis Inc.(Windham,NH)などの商業的供給業者から入手可能であるか、Fieser and Fieser’s Reagents for Organic Synthesis,vols.1−17,John Wiley and Sons,New York,NY,1991;Rodd’s Chemistry of Carbon Compounds,vols.1−5 and supps.,Elsevier Science Publishers,1989;Organic Reactions,vols.1−40,John Wiley and Sons,New York,NY,1991;March J.:Advanced Organic Chemistry,4th ed.,John Wiley and Sons,New York,NY;およびLarock:Comprehensive Organic Transformations,VCH Publishers,New York,1989などの参考文献に記載される手順に従って、当業者に周知の方法により調製される。
【0069】
ほとんどの場合において、水酸基について保護基が導入され最終的に除去される。適切な保護基は、Greene et al.,Protective Groups in Organic Synthesis,Second Edition,John Wiley and Sons,New York,1991に記載されている。他の出発物質または初期中間体は、上記収戴の物質の加工によって、例えば当業者に周知の方法によって調製することができる。
【0070】
本発明の出発物質、中間体、および化合物は、沈殿、濾過、蒸留、結晶化、クロマトグラフィー等を含む、従来の手法を使用して、単離および精製することができる。化合物は、物理定数および分光学的方法を含む、従来の方法を使用して特性評価することができる。
【0071】
薬理および有用性
本明細書に提供する化合物は、それ自体で使用すること、無機酸または有機酸から誘導される薬学的に許容される塩の形態で投与すること、または1つまたは複数の薬学的に許容される賦形剤と組み合わせて使用することが可能である。語句「薬学的に許容される塩」は、健全な医学的判断の範囲内で、過度の毒性、刺激、アレルギー反応等がなく、組織に接触させて使用するのに適し、かつ妥当なベネフィット/リスク比に相応した塩を意味する。薬学的に許容される塩は当技術分野で周知である。塩は、本明細書に提供する化合物の最終的な単離および精製の間にその場で調製するか、または酸性薬物または塩基性薬物をそれぞれ適切な塩基または酸と反応させることにより別個に調製することができる。有機酸または無機酸から誘導される典型的な塩としては、これらに限定されないが、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、酢酸塩、アジピン酸塩、アルギン酸塩、クエン酸塩、アスパラギン酸塩、安息香酸塩、硫酸水素塩、グルコン酸塩、フマル酸塩、ヨウ化水素酸塩、乳酸塩、マレイン酸塩、シュウ酸塩、パルミチン酸塩、ペクチン酸塩、コハク酸塩、酒石酸塩、リン酸塩、グルタミン酸塩、および重炭酸塩が挙げられる。有機塩基または無機塩基から誘導される典型的な塩としては、これらに限定されないが、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、アンモニウム塩、メグルミン塩などのモノアルキルアンモニウム塩、ジアルキルアンモニウム塩、トリアルキルアンモニウム塩、およびテトラアルキルアンモニウム塩が挙げられる。
【0072】
活性成分の実際の投与量レベルおよび本明細書に提供する医薬組成物の投与方法は、特定の患者に対して有効な治療効果を達成するために変更することができる。本明細書に提供する化合物の「治療有効量」という語句は、任意の医学的処置に適用可能な妥当なベネフィット/リスク比で、障害を処置するのに十分な化合物の量を意味する。しかしながら、提供の化合物および組成物の合計1日使用量は、健全な医学的判断の範囲内で主治医により決定されることになることを理解されたい。本明細書に提供する化合物の合計1日用量は、約0.1〜約1000mg/kg/日の範囲であり得る。経口投与の目的のためには、用量は、約1〜約500mg/kg/日の範囲であり得る。所望により、有効な1日用量を、投与の目的のために複数回投与に分割することができる;その結果、単回投与の組成物は、そのような量を含有しても、1日用量を構成するためにその約数となる量を含有してもよい。任意の特定の患者に対する、具体的な治療有効用量レベルは、処置される障害および障害の重症度;患者の病歴、使用される特定の化合物の活性;使用される特定の組成物、患者の年齢、体重、健康状態、性別、および食事、投与時間、投与経路、処置期間、使用される特定の化合物の排出速度、使用される特定の化合物と併用してまたは同時に使用される薬物等を含む種々の要因に依存する。
【0073】
提供する化合物は、1つまたは複数の無毒の薬学的に許容される希釈剤、担体、補助剤、ならびに抗菌剤および抗真菌剤、例えばパラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸等と共に製剤化することができる。適切な流動性は、例えば、レシチンなどのコーティング材料の使用により、分散液の場合には要求される粒子サイズの維持により、また界面活性剤の使用により維持することができる。一部の場合では、薬物の効果を延長するために、皮下注射または筋肉内注射からの薬物の吸収速度を低下させることが望ましい。これは、油などの難水溶性のビヒクル中に結晶性または非晶質の原体を懸濁させることによって達成することができる。そこでは、薬物の吸収速度は、その溶解速度に依存し、さらに溶解速度は結晶サイズおよび結晶形態に依存し得る。注射用剤形の吸収延長は、モノステアリン酸アルミニウムまたはゼラチンなどの吸収遅延剤の使用により達成することができる。
【0074】
本明細書に提供する化合物は、固体または液体の形態で経腸的または非経口的に投与することができる。注射剤に適した組成物は、生理学的に許容される、滅菌の等張水溶液または非水溶液、分散液、懸濁液、またはエマルジョン、および滅菌の注射用溶液もしくは懸濁液に再構成するための滅菌粉末を含むことができる。適切な水性および非水性の担体、希釈剤、溶媒、またはビヒクルの例としては、水、エタノール、ポリオール(プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセロール等)、植物油(オリーブ油等)、オレイン酸エチルなどの注射可能な有機エステル、およびそれらの適切な混合物が挙げられる。これらの組成物はまた、防腐剤、湿潤剤、乳化剤、および分散剤などの補助剤を含有することができる。懸濁液は、活性化合物に加えて、エトキシル化イソステアリルアルコール、ポリオキシエチレンソルビトールおよびソルビタンエステル、微結晶性セルロース、メタ水酸化アルミニウム、ベントナイト、寒天およびトラガカント、またはこれらの物質の混合物などの懸濁剤を含有してもよい。
【0075】
本明細書に提供する化合物はまた、皮下もしくは静脈内に、または筋肉内に、または胸骨内に、または鼻腔内に注射または点滴により、あるいは滅菌の注射用懸濁液または油性懸濁液の形態で点滴手法により投与することができる。化合物は、滅菌の注射用水性または油性懸濁液の形態であってもよい。これらの懸濁液は、上記に記載された湿潤剤および懸濁剤を適切に分散させることを用いる公知技術により製剤化することができる。滅菌の注射用調製物はまた、例えば1,3−ブタンジオールの溶液のような、非経口的に許容される無毒の希釈剤または溶媒の滅菌注射用溶液または懸濁液であってもよい。使用可能な許容されるビヒクルおよび溶媒の中には、水、リンゲル液、および等張食塩水がある。さらに、滅菌の不揮発性油が、溶媒または懸濁媒として従来通りに使用される。この目的のために、合成モノグリセリドまたはジグリセリドを含む、任意の無刺激性不揮発性油を通例通りに使用することができる。加えて、オレイン酸などの脂肪酸を注射剤の調製に使用できることが見出されている。投与レジメンは、最適の治療効果を提供するために調整することができる。例えば、毎日投与量をいくつかに分割して投与しても、治療状況の緊急性に比例して投与量を低減してもよい。
【0076】
注射用デポ形態は、ポリラクチド−ポリグリコリドなどの生分解性ポリマー中に、薬物のマイクロカプセル化マトリックスを形成させることにより製造される。薬物とポリマーとの比ならびに使用される特定のポリマーの性質に応じて、薬物放出の速度を制御することができる。他の生分解性ポリマーの例としては、ポリ(オルトエステル)およびポリ(酸無水物)が挙げられる。デポ注射用製剤はまた、体組織と適合するリポソームまたはマイクロエマルジョンの中に薬物を捕捉することにより調製される。注射用製剤は、例えば、細菌保持フィルターによる濾過により、または使用直前に滅菌水もしくは他の滅菌注射用媒体に溶解または分散し得る滅菌固体組成物の形態で滅菌剤を組み込むにより滅菌することができる。
【0077】
経口投与のための固体投与剤形としては、カプセル剤、錠剤、丸剤、散剤、および顆粒剤が挙げられる。そのような固体投与剤形では、活性化合物は、少なくとも1つの不活性な薬学的に許容される賦形剤または担体、例えばクエン酸ナトリウムまたはリン酸二カルシウム、ならびに/または(a)充填剤もしくは増量剤、例えばデンプン、ラクトース、スクロース、グルコース、マンニトール、およびケイ酸;(b)結合剤、例えばカルボキシメチルセルロース、アルギネート、ゼラチン、ポリビニルピロリドン、スクロース、およびアラビアゴム;(c)湿潤剤、例えばグリセロール;(d)崩壊剤、例えば寒天、炭酸カルシウム、ジャガイモデンプンもしくはタピオカデンプン、アルギン酸、特定のシリケート、および炭酸ナトリウム;(e)溶解遅延剤、例えばパラフィン;(f)吸収促進剤、例えば第四級アンモニウム化合物;(g)湿潤剤、例えばセチルアルコールおよびモノステアリン酸グリセロール;(h)吸収剤、例えばカオリンおよびベントナイト粘土、ならびに(i)滑沢剤、例えばタルク、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、固体ポリエチレングリコール、ラウリル硫酸ナトリウム、およびそれらの混合物と混合することができる。カプセル剤、錠剤、および丸剤の場合には、投与剤形はまた、緩衝剤を含んでもよい。同様のタイプの固体組成物はまた、ラクトースまたは乳糖のような賦形剤および高分子量ポリエチレングリコール等を使用する、軟質および硬質ゼラチンカプセル剤中の充填剤として使用することができる。
【0078】
錠剤、糖衣錠、カプセル剤、丸剤、および顆粒剤の固体投与剤形は、腸溶性コーティングおよび医薬製剤分野で周知の他のコーティングなどのコーティングおよびシェルと共に調製することができる。これらは、場合によっては、乳白剤を含有してもよく、また1つまたは複数の活性成分を、腸管の特定の部分でのみ、またはそこで優先的に、場合によっては遅延的に放出するような組成物であってもよい。
【0079】
使用し得る埋め込み型組成物の例としては、ポリマー物質およびワックスが挙げられる。錠剤は、錠剤の製造に適した、薬学的に許容される無毒の賦形剤と混合した化合物を含有する。これらの賦形剤は、例えば、不活性希釈剤、例えば炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、ラクトース、リン酸カルシウム、またはリン酸ナトリウム;顆粒化剤および崩壊剤、例えばトウモロコシデンプン、アルギン酸;結合剤、例えばトウモロコシデンプン、ゼラチン、アラビアゴム、ならびに平滑剤、例えばステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸、またはタルクであってもよい。錠剤はコーティングされていなくてもよく、胃腸管における崩壊および吸収を遅延させて、それによってより長期間にわたる持続的作用を提供するために、公知の手法によりコーティングされていてもよい。例えば、モノステアリン酸グリセロールまたはジステアリン酸グリセロールなどの除放性材料を使用することができる。さらに、経口使用のための製剤は、化合物が不活性固体希釈剤、例えば炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、またはカオリンと混合されている、硬質ゼラチンカプセル剤として提供されてもよく、活性成分が水性または油性媒体、例えばピーナッツ油、流動パラフィン、オリーブ油と混合されている、軟質ゼラチンカプセル剤として提供されてもよい。
【0080】
経口投与のための液体投与剤形としては、薬学的に許容されるエマルジョン、溶液、懸濁液、シロップ剤、およびエリキシル剤が挙げられる。活性化合物に加えて、液体投与剤形は、例えば、水または他の溶媒、可溶化剤、および乳化剤など、当技術分野で通常使用される不活性希釈剤、例えば、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、炭酸エチル、酢酸エチル、ベンジルアルコール、安息香酸ベンジル、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、ジメチルホルムアミド、油類(具体的には、綿実油、落花生油、トウモロコシ油、胚芽油、オリーブ油、ヒマシ油、およびゴマ油)、グリセロール、テトラヒドロフルフリルアルコール、ポリエチレングリコール、およびソルビタンの脂肪酸エステル、ならびにそれらの混合物を含有してもよい。不活性希釈剤に加えて、経口組成物はまた、湿潤剤、乳化剤および懸濁化剤、甘味料、香味料、および芳香剤などの補助剤を含有してもよい。
【0081】
クルクミンのために開発されたものなど、難水溶性化合物の溶解性、溶出性、およびin vivo経口吸収性の改善をもたらす、液体形態およびペレット形態の自己マイクロエマルジョン化薬物送達システム(SMEDDS)などの他の経口送達システムを製剤化することができる(European Journal of Pharmaceutics and Biopharmaceutics 76(2010)475−485)。
【0082】
水性懸濁液は、水性懸濁液の製造に適した賦形剤と混合した化合物を含有する。そのような賦形剤は、懸濁剤、例えばカルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルピロリドン、トラガカントゴム、およびアラビアゴムであり;分散剤または湿潤剤は、天然のリン脂質、例えばレシチン、または脂肪酸とアルキレンオキシドの縮合生成物、例えばステアリン酸ポリオキシエチレン、または長鎖脂肪族アルコールとエチレンオキシドの縮合生成物、例えばヘプタデカエチレンオキシセタノール、または脂肪酸(例えばヘキシトール)から誘導される部分エステルとエチレンオキシドの縮合生成物、例えばモノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビトール、または脂肪酸および無水ヘキシトールに由来する部分エステルとエチレンオキシドの縮合生成物、例えばモノオレイン酸ポリエチレンソルビタンであってもよい。水性懸濁液はまた、1つまたは複数の防腐剤、例えばp−ヒドロキシ安息香酸エチルまたはp−ヒドロキシ安息香酸n−プロピル、1つまたは複数の着色剤、1つまたは複数の香味料、あるいは1つまたは複数の甘味料、例えばショ糖またはサッカリンを含有してもよい。
【0083】
油性懸濁液は、植物油、例えば落花生油、オリーブ油、ゴマ油、もしくはヤシ油の中に、または流動パラフィンなどの鉱油の中に化合物を懸濁することにより製剤化することができる。油性懸濁液は、粘稠化剤、例えば密蝋、固形パラフィン、またはセチルアルコールを含有してもよい。下記に示すものなどの甘味料、および香味料を、風味よい経口用調製物を提供するために添加してもよい。これらの組成物は、アスコルビン酸などの抗酸化剤の添加により保存することができる。水の添加による水性懸濁液の調製に適した分散性の散剤および顆粒剤は、分散剤または湿潤剤、懸濁剤、および1つまたは複数の防腐剤と混合した活性成分を提供する。適切な分散剤または湿潤剤および懸濁剤は、すでに上記に記載のものによって例示されている。さらなる賦形剤、例えば甘味料、香味料が存在してもよい。
【0084】
本明細書に提供する化合物は、水中油型エマルジョンの形態であってもよい。油相は、植物油、例えばオリーブ油もしくは落花生油、または鉱油、例えば流動パラフィン、あるいはこれらの混合物であってもよい。適切な乳化剤は、天然のゴム、例えばアラビアゴムまたはトラガカントゴム、天然のリン脂質、例えば大豆レシチン、および脂肪酸と無水ヘキシトールから誘導されるエステルまたは部分エステル、例えばモノオレイン酸ソルビタン、ならびにエチレンオキシドと前記部分エステルの縮合生成物、例えばモノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタンであってもよい。エマルジョンはまた、甘味料および香味料を含有してもよい。シロップ剤およびエリキシル剤は、甘味料、例えばグリセロール、ソルビトール、スクロースと共に製剤化することができる。そのような製剤はまた、粘滑剤、防腐剤、香味料、および着色剤を含有してもよい。
【0085】
一実施形態では、化合物は、投与の容易さおよび投与量の均一性のために投与量単位形態で製剤化することができる。本明細書で使用する投与量単位形態とは、単一投与量として、処置される被験体に適した物理的に個別の単位を指し;それぞれは、治療有効量の化合物および少なくとも1つの医薬賦形剤を含有する。製剤は、パーキンソン病などのα−シヌクレイン原線維形成に関連した疾患の処置など、対象とする処置方法を表示するラベルが表示されているか、または同封されている容器内に投与量単位形態を含むことになる。直腸投与または膣投与のための組成物は、好ましくは、室温では固体であるが体温では液体になる、したがって、直腸または膣腔では融解して活性化合物を放出するココアバター、ポリエチレングリコール、または坐剤ワックスなど、適切な非刺激性賦形剤または担体と本明細書に提供する化合物を混合することにより調製することができる坐剤である。
【0086】
本明細書に提供する化合物はまた、リポソームの形態で投与することができる。リポソームを形成させる方法は当技術分野で公知である(Prescott,Ed.,Methods in Cell Biology l976,Volume XIV,Academic Press,New York,N.Y.)。当技術分野で公知のように、リポソームは、一般にリン脂質または他の脂質物質から誘導される。リポソームは、水性媒体に分散する、単層または多重層の水和液晶により形成される。リポソームを形成することができる、無毒で生理学的に許容される代謝可能な任意の脂質を使用することができる。リポソーム形態の本組成物は、本明細書に提供する化合物に加えて、安定剤、防腐剤、賦形剤等を含有することができる。好ましい脂質は、天然および合成のリン脂質ならびにホスファチジルコリン(レシチン)である。
【0087】
本明細書に提供する化合物またはその薬学的に許容される誘導体はまた、処置される被験体の体内の特定の組織、受容体、または他の領域を標的化するように製剤化することができる。多くのそのような標的化方法が当業者には周知である。そのような標的化方法はすべて、即時用組成物での使用のために本明細書に企図される。標的化方法の非限定例については、例えば、米国特許第6,316,652号明細書、同第6,274,552号明細書、同第6,271,359号明細書、同第6,253,872号明細書、同第6,139,865号明細書、同第6,131,570号明細書、同第6,120,751号明細書、同第6,071,495号明細書、同第6,060,082号明細書、同第6,048,736号明細書、同第6,039,975号明細書、同第6,004,534号明細書、同第5,985,307号明細書、同第5,972,366号明細書、同第5,900,252号明細書、同第5,840,674号明細書、同第5,759,542号明細書、および同第5,709,874明細書号を参照されたい。
【0088】
一実施形態では、腫瘍標的リポソームなどの組織標的リポソームを含むリポソーム懸濁液はまた、薬学的に許容される担体として適切であり得る。これらは当業者に公知の方法に従って調製することができる。例えば、リポソーム製剤は、米国特許第4,522,811号明細書に記載のように調製することができる。手短に言えば、多重膜小胞(MLV)などのリポソームは、フラスコ内で卵ホスファチジルコリンおよび脳ホスファチジルセリン(7:3モル比)を乾燥することにより形成させることができる。本明細書に提供する化合物の、2価カチオンを含まないリン酸緩衝生理食塩水(PBS)溶液を加え、フラスコを振盪して脂質膜を分散させる。得られた小胞を洗浄して被包されていない化合物を除去し、遠心分離によりペレット化した後、PBS中に再懸濁する。
【0089】
徐放製剤
本発明は、高い循環レベル(10−9および10−4Mの間)で、本発明の化合物を所望の標的(すなわち、脳または全身の臓器)に送達するための除放製剤の使用を含み、開示もされる。パーキンソン病の処置についての好ましい実施形態では、化合物の循環レベルは、10−7M以内に維持される。このレベルが、全身性に患者内を循環するか、または好ましい実施形態では、脳組織中に存在し、最も好ましい実施形態では、脳または他の組織中のα−シヌクレイン原線維沈着物に局在化する。
【0090】
化合物レベルは、所望されるように、一定期間にわたり維持され、本開示および本発明の化合物を使用して、当業者により容易に決定され得ることが理解される。好ましい実施形態では、本発明は、一定レベルの治療化合物が、48〜96時間の間、血清中で10−8〜10−6Mの間に維持されるように徐放製剤を含む、独自形式の投与を含む。
【0091】
そのような除放性および/または放出制御性製剤は、当業者に周知の送達デバイスの徐放性手段により製造することができ、それらは、例えば、米国特許第3,845,770号明細書;同第3,916,899号明細書;同第3,536,809号明細書;同第3,598,123号明細書;同第4,008,719号明細書;同第4,710,384号明細書;同第5,674,533号明細書;同第5,059,595号明細書;同第5,591,767号明細書;同第5,120,548号明細書;同第5,073,543号明細書;同第5,639,476号明細書;同第5,354,556号明細書、および同第5,733,566号明細書に記載されており、これらの開示はそれぞれ、参照により本明細書に組み込まれる。これらの医薬組成物は、例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、他のポリマーマトリックス、ゲル、透過性膜、浸透圧系、多層コーティング、マイクロ粒子、リポソーム、マイクロスフェア等を使用して、1つまたは複数の活性化合物の遅延放出または持続放出を提供するために使用することができる。本明細書に記載のものを含む、当業者に公知の適切な徐放製剤を、本発明の医薬組成物について使用するために容易に選択することができる。したがって、徐放性に適合する、経口投与に適した単回単位投与剤形、例えば、これらに限定されないが、錠剤、カプセル剤、ジェルキャップ、カプレット、散剤等が本発明に包含される。
【0092】
好ましい実施形態では、徐放製剤は、これらに限定されないが、微結晶性セルロース、マルトデキストリン、エチルセルロース、およびステアリン酸マグネシウムなどの活性化合物を含有する。上記に記載のように、開示化合物の特性と適合する、被包化のための公知の方法はすべて、本発明に包含される。除放製剤は、本発明の医薬組成物の粒子または顆粒を、種々の厚さの徐々に溶解するポリマーでコーティングすることによって、またはマイクロカプセル化することによって被包されている。好ましい実施形態では、除放製剤は、哺乳動物に投与約48時間〜約72時間後に医薬組成物の溶出が可能になる、種々の厚さ(例えば、約1ミクロン〜200ミクロン)のコーティング材料で被包されている。別の実施形態では、コーティング材料は、食品認可の添加剤である。
【0093】
別の実施形態では、除放製剤は、徐々に溶解するポリマー担体と共に薬物を錠剤へと圧縮することにより調製されるマトリックス溶出デバイスである。好ましい一実施形態では、内容全体が参照により本明細書に組み込まれる米国特許第4,710,384号明細書および同第5,354,556号明細書に開示のように、コーティングされた粒子のサイズは、約0.1〜約300ミクロンの間の範囲である。粒子のそれぞれは、活性成分がポリマー全体にわたって均一に分布したマイクロマトリックスの形態をしている。
【0094】
内容全体が参照により本明細書に組み込まれる米国特許第4,710,384号明細書に記載のものなど、圧縮中の実質的な破損を防止するのに十分な柔軟性を可能にするために、コーティングの中に比較的高いパーセントの可塑剤を含む、除放製剤を開示する。可塑剤の具体的な量は、コーティングの性質および使用する特定の可塑剤に応じて変動する。この量は、形成される錠剤の放出特性を試験することにより、経験的に容易に決定することができる。薬物放出が迅速すぎる場合には、より多くの可塑剤を使用する。放出特性はまた、コーティングの厚さの関数である。相当量の可塑剤を使用すると、コーティングの徐放性能は低下する。したがって、コーティングの厚さを若干増加させて、可塑剤量の増加を補償することができる。一般には、そのような実施形態における可塑剤は、コーティングの中に除放性材料の約15〜30%、好ましくは20〜25%の量で存在し、コーティングの量は、活性物質重量の10〜25%、好ましくは15〜20%になる。薬学的に許容される従来の可塑剤はいずれもコーティングに組み込むことができる。
【0095】
本発明の化合物は、除放性および/または放出制御性製剤として製剤化することができる。徐放性医薬品はすべて、その非持続性対応物が達成した薬物治療を超える改善を行うことが共通の目標である。理想的には、医学的処置における、最適に設計された除放製剤の使用は、症状を治療または抑制するために使用される原体を最小限にすることを特徴とする。除放製剤の利点には以下のことが含まれる:1)組成物の活性の延長、2)投与頻度の低減、および3)患者のコンプライアンスの増大。さらに、除放製剤は、作用の開始時間または組成物の血中レベルなどの他の特性に影響を及ぼすために使用することができ、そのため、副作用の発現に影響を及ぼすことができる。
【0096】
本発明の除放製剤は、所望の治療効果を迅速にもたらす治療組成物量を最初に放出し、長期間にわたってこのレベルの治療効果を維持するために、徐々にかつ継続的にさらなる量の組成物を放出するように設計される。この一定レベルを体内で維持するためには、治療組成物は、代謝されて体内から排泄される組成物に置き換わる速度で投与剤形から放出されなければならない。
【0097】
活性成分の持続放出は、種々の誘発因子、例えば、pH、温度、酵素、水、または他の生理的条件もしくは化合物により刺激することができる。本発明の文脈における、用語「徐放性成分」は、これらに限定されないが、活性成分の持続放出を容易にするポリマー、ポリマーマトリックス、ゲル、透過性膜、リポソーム、マイクロスフェア等、またはそれらの組合せを含む、1つまたは複数の化合物として本明細書に定義される。
【0098】
複合体が水溶性の場合、その複合体は、適切な緩衝液、例えば、リン酸緩衝生理食塩水または他の生理学的に適合する溶液の中で製剤化することができる。あるいは、得られる複合体が水性溶媒中で難溶性の場合、その複合体は、Tweenなどの非イオン性界面活性剤またはポリエチレングリコールで製剤化することができる。したがって、化合物およびその生理学的な溶媒は、例えば、吸入もしくは通気(口または鼻のいずれかを通して)による投与、または経口、頬側、非経口、もしくは直腸投与のために製剤化することができる。
【0099】
経口投与のための調製物は、活性化合物の放出制御を付与するように適切に製剤化することができる。好ましい実施形態では、本発明の化合物は、液体の形態で容易に製剤化することができる個々のマイクロ粒子の制御放出粉末として製剤化される。徐放性粉末は、活性成分と、場合によっては、少なくとも1つの無毒なポリマーを含む賦形剤とを含有する粒子を含む。
【0100】
この粉末は、液体ビヒクル中に分散または懸濁することができ、有効期間の間、その徐放特性を維持する。これらの分散剤または懸濁剤は、化学的安定性および溶出速度に関する安定性の両方を有する。粉末は、可溶性、不溶性、透過性、不透過性、または生分解性であり得るポリマーを含む賦形剤を含有することができる。ポリマーは、ポリマーであってもコポリマーであってもよい。ポリマーは、天然ポリマーであっても合成ポリマーであってもよい。天然ポリマーには、ポリペプチド(例えば、ゼイン)、多糖(例えば、セルロース)、およびアルギン酸が含まれる。代表的な合成ポリマーには、これらに限定されないが、内容全体が参照により組み込まれる米国特許第5,354,556号明細書の第3カラム、33〜45行目に記載のものが含まれる。特に適切なポリマーには、これらに限定されないが、内容全体が参照により組み込まれる米国特許第5,354,556号明細書の第3カラム46行目、第4カラム8行目に記載のものが含まれる。
【0101】
本発明の徐放性化合物は、例えば、筋肉内注射または皮下組織および種々の体腔へのインプラントならびに経皮デバイスによる非経口投与のために製剤化することができる。一実施形態では、筋肉内注射剤は、水性または油性の懸濁液として製剤化される。水性懸濁液では、徐放性作用は、複合体形成時の活性化合物の溶解性低下または溶出速度の減少に一部は起因する。同様の手法は、活性化合物の放出速度が、油から周囲の水性媒体への活性化合物の分配により決定される、油性の懸濁液および溶液でも取られる。油溶性で、望ましい分配特性を有する活性化合物のみが適する。筋肉内注射に使用され得る油としては、これらに限定されないが、ゴマ油、オリーブ油、落花生油、トウモロコシ油、アーモンド油、大豆油、綿実油、およびヒマシ油が挙げられる。
【0102】
数日から数年に及ぶ期間にわたって徐放性を付与する薬物送達の高度に発展した形態は、薬物負荷ポリマーデバイスを皮下または種々の体腔に埋め込むことである。インプラントに使用されるポリマー材料は、生体適合性でありかつ無毒でなければならないが、例としては、これらに限定されないが、ヒドロゲル、シリコーン、ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、または生分解性ポリマーが挙げられる。
【実施例】
【0103】
実施例1:本発明の化合物の合成
本発明の化合物は、当業者に一般に公知の方法によって、その知識および以下の実施例を含む本出願の開示を考慮すれば調製することができる。
【0104】
これらの化合物を調製するのに使用される出発物質および試薬は、Aldrich Chemical Company(Milwaukee,WI)、Bachem(Torrance,CA)、Sigma(St.Louis,MO)、またはLancaster Synthesis Inc.(Windham,NH)などの商業的供給業者から入手可能であるか、Fieser and Fieser’s Reagents for Organic Synthesis,vols.1−17,John Wiley and Sons,New York,NY,1991;Rodd’s Chemistry of Carbon Compounds,vols.1−5 and supps.,Elsevier Science Publishers,1989;Organic Reactions,vols.1−40,John Wiley and Sons,New York,NY,1991;March J.:Advanced Organic Chemistry,4th ed.,John Wiley and Sons,New York,NY;and Larock:Comprehensive Organic Transformations,VCH Publishers,New York,1989などの参考文献に記載される手順に従って、当業者に周知の方法により調製される。
【0105】
3,4−(ビスベンジルオキシ)安息香酸ベンジルエステル:
無水炭酸カリウム(10.9g、79.5mmol)を、3,4−ジヒドロキシ安息香酸(3.5g、22.7mmol)の無水DMF溶液(100ml)に加えた後、塩化ベンジル(8.8g、69.2mmol)を加えた。得られた懸濁液を、アルゴン雰囲気下にて60℃で一晩撹拌した。反応混合物を水(150ml)に注ぎ、酢酸エチル(3×50ml)で抽出した。有機抽出物を合わせて、水、食塩水溶液(それぞれ50ml)で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。溶媒を減圧除去した。収量=9.4g、98%収率。PRO−04−35。
【0106】
3,4−(ビスベンジルオキシ)ベンジルアルコール:
3,4−(ビスベンジルオキシ)安息香酸ベンジルエステル(ロット番号PRO−04−35、9.0g、21.2mmol)の無水エーテル溶液(60ml)を、水素化アルミニウムリチウム(0.89g、23.31mmol)のエーテル懸濁液(30ml)に滴下して加えた。水和硫酸ナトリウムを徐々に加えることにより、3時間後に反応混合物をクエンチした。反応混合物を30分間撹拌した後に濾過し、濾液を減圧濃縮して白色固体としてアルコールを得た。PRO−04−36A、6.3g、93%収率。
【0107】
3,4−(ビスベンジルオキシ)ベンジルクロリド:
3,4−(ビスベンジルオキシ)ベンジルアルコール(ロット番号PRO−04−36A、6.0g、18.7mmol)を、塩化チオニル(12ml)およびDMF(0.2ml)に室温で加え、反応混合物を60℃に2時間加熱した。過剰の塩化チオニルを減圧除去した。黄色の残査をヘキサン中の20%酢酸エチルに溶解し、短層のシリカゲルに通した。シリカゲルをヘキサン(200ml)中の20%酢酸エチルでフラッシュする。洗浄液を合わせて減圧濃縮し、所望のクロリドを黄色の固体として得た。PRO−04−36B、5.1g、81%収率。
【0108】
3−メチル−1,7−ビス(3’,4’−ジヒドロキシベンジル)キサンチン:
3−メチルキサンチン(200mg、1.2mmol)のN,N−ジメチルホルムアミド溶液(5ml)を、3,4−ビス−ベンジルオキシ−ベンジルクロリド(ロット番号PRO−04−36B、1.02g、3mmol)およびNaH(96mg、4mmol)、および0.5当量のヨウ化テトラブチルアンモニウムで処理し、60℃に12時間加熱した。反応混合物を水に注ぎ、酢酸エチル(3×30ml)で抽出した。有機抽出物を合わせて、水、食塩水溶液(30ml)でそれぞれ洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。溶媒を減圧除去し、生成物を、40%酢酸エチル/ヘキサンを使用するシリカゲル上のフラッシュカラムクロマトグラフィーにより精製して、所望の生成物を得た。600mg、78%収率。この生成物を、酢酸エチル(25ml)およびメタノール(10ml)および酢酸(1ml)に溶解し、10%Pd−Cの存在下にて、55PSIで2時間、水素化した。触媒を濾去し、溶媒を減圧除去した。残査を、ヘキサン中の50%酢酸エチルから100%酢酸エチルによりシリカゲルカラム上で溶出して精製した。所望の生成物を灰白色の固体として単離した。収量=400mg PD 151。
【0109】
7−メチル−1,3−ビス(3’,4’−ジヒドロキシ)ベンジルキサンチン:
7−メチル−1,3−ビス(3’,4’−ジヒドロキシ)ベンジルキサンチンを、先の実験に記載された基本手順に従って、7−メチルキサンチン(200mg、1.2mmol)から合成した。収率150mg PD 150。
【0110】
1−メチル−1,3−ビス(3’,4’−ジヒドロキシ)ベンジルキサンチン:
1−メチル−1,3−ビス(3’,4’−ジヒドロキシ)ベンジルキサンチンを、先の実験に記載された基本手順に従って、1−メチルキサンチン(200mg、1.2mmol)から合成した。収率200mg PD 152。
【0111】
8−ブロモ−3−メチル−7−(3’,4’−ジベンジルオキシ)ベンジルキサンチン:
3−メチル−8−ブロモキサンチン(294mg、1.2mmol)のN,N−ジメチルホルムアミド溶液(5ml)を、NaH(96mg、4mmol)、3,4−ビス−ベンジルオキシ−ベンジルクロリド(ロット番号PRO−04−36B、1.02g、3mmol)およびヨウ化テトラブチルアンモニウム(0.5当量)に加えた。溶液を60℃に12時間加熱した。反応混合物を水に注ぎ、酢酸エチル(3×30ml)で抽出した。有機抽出物を合わせて、水、食塩水溶液(30ml)でそれぞれ洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。溶媒を減圧除去し、生成物を、40%酢酸エチル/ヘキサンを使用するシリカゲル上のフラッシュカラムクロマトグラフィーにより精製して、所望の生成物を得た。511mg、78%収率。
【0112】
8−ブロモ−1,3−ジメチル−7−(3’,4’−ジベンジルオキシ)ベンジルキサンチン
8−ブロモ−3−メチル−7−(3’,4’−ジベンジルオキシ)ベンジルキサンチン(511mg;0.94mmol)およびヨウ化メチル(426mg;3mmol)のN,N−ジメチルホルムアミド溶液(5ml)を、炭酸カリウム(138mg;1.0mmol)に加え、60℃に6時間加熱した。反応混合物を水(25ml)に注ぎ、酢酸エチル(3×25ml)で抽出した。抽出物を合わせて、無水硫酸マグネシウムで乾燥し、減圧濃縮した。生成物を、30%酢酸エチル/ヘキサンで溶出する、シリカゲル上のフラッシュクロマトグラフィーにより精製して、所望の生成物を得た。535mg、95% PRO−04−42。
【0113】
1,3−ジメチル−7−(3’,4’−ジベンジルオキシ)ベンジル−8−(3’,4’−ジメトキシフェニル)キサンチン
8−ブロモ−1,3−ジメチル−7−(3’,4’−ジベンジルオキシ)ベンジルキサンチン(535mg、0.95mmol)および3,4−ジメトキシフェニルボロン酸(182mg;1mmol)の1,4−ジオキサン溶液(5ml)を、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)(77mg、0.1mmol)および炭酸カリウム(277mg、2mmol)で処理した。混合物を、アルゴン雰囲気下で70℃に12時間加熱した。反応混合物を減圧濃縮した。残査を、ヘキサン中の40%酢酸エチルから70%酢酸エチルによりシリカゲルカラム上で溶出して精製した。所望の生成物を灰白色の固体として単離した。収率500mg、81% PRO−04−43。
【0114】
1,3−ジメチル−7−(3’,4’−ジベンジルオキシ)ベンジル−8−(3’,4’−ジヒドロキシフェニル)キサンチン
三臭化ホウ素(1.62g;6.48mmol)を、1,3−ジメチル−7−(3’,4’−ジベンジルオキシ)ベンジル−8−(3’,4’−ジメトキシフェニル)キサンチン(500mg、0.81mmol)の無水ジクロロメタン溶液(12ml)に−70℃で加えた。1時間後に、反応混合物を室温に加温し、6時間撹拌した。メタノール(3ml)を加え、反応混合物を一晩撹拌した。反応混合物を減圧濃縮した。残査を、ヘキサン中の70%酢酸エチルから100%酢酸エチルによりシリカゲルカラム上で溶出して精製した。所望の生成物を灰白色の固体として単離した。収率110mg;26% PD 154。
【0115】
8−ブロモ−1,3,7−トリメチル−キサンチン
8−ブロモ−3−メチルキサンチン(300mg;1.2mmol)およびヨウ化メチル(1.42g;10.0mmol)のN,N−ジメチルホルムアミド溶液(5ml)を、炭酸カリウム(662mg;4.8mmol)に加え、60℃に6時間加熱した。反応混合物を水(25ml)に注ぎ、酢酸エチル(3×25ml)で抽出した。抽出物を合わせて、無水硫酸マグネシウムで乾燥し、減圧濃縮した。生成物を、酢酸エチルで溶出するシリカゲル上のフラッシュクロマトグラフィーにより精製して、所望の生成物を得た。315mg;92% PRO−04−45。
【0116】
1,3,7−トリメチル−8−(3’,4’−ジメトキシフェニル)キサンチン:
8−ブロモ−1,3,7−トリメチルキサンチン(315mg、1.15mmol)および3,4−ジメトキシフェニルボロン酸(230mg;1.26mmol)の1,4−ジオキサン溶液(5ml)を、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)(88mg、0.14mmol)および炭酸カリウム(277mg、2.0mmol)で処理した。混合物をアルゴン雰囲気下で70℃に12時間加熱した。反応混合物を減圧濃縮した。残査を、ヘキサン中の70%酢酸エチルから100%酢酸エチルによりシリカゲルカラム上で溶出して精製した。所望の生成物を灰白色の固体として単離した。収率297mg、78% PRO−04−46。
【0117】
1,3,7−トリメチル−8−(3’,4’−ジヒドロキシオキシフェニル)キサンチン:
三臭化ホウ素(1.62g;6.48mmol)を、1,3,7−トリメチル−8−(3’,4’−ジメトキシフェニル)キサンチン(297mg、0.90mmol)の無水ジクロロメタン溶液(12ml)に−70℃で加えた。1時間後に、反応混合物を室温に加温し、6時間撹拌した。メタノール(3ml)を加え、反応混合物を一晩撹拌した。反応混合物を減圧濃縮した。残査を、酢酸エチルによりシリカゲルカラム上で溶出して精製した。所望の生成物を灰白色の固体として単離した。収率210mg;82% PD 153。
【0118】
実施例2:化合物は、予め凝集したパーキンソン病のα−シヌクレイン原線維を破壊/阻害する
化合物は、α−シヌクレイン原線維の破壊剤/脱凝集剤であることが見出された。この一連の研究では、予め形成されたパーキンソン病の原線維(すなわち、α−シヌクレイン原線維からなる)の分解/破壊/脱凝集を引き起こす、本明細書に提供する特定の化合物の効力を分析した。下記に記載のパートAおよびBでの研究のために、最初に、69μMのα−シヌクレイン(rPeptide,Bogart,CA)を、20mMの酢酸ナトリウム緩衝液(pH4)中で、旋回振盪(1,300rpm)させながら37℃で4日間インキュベートして、α−シヌクレインを凝集および原線維形成させた。
【0119】
パートA:チオフラビンT蛍光測定
一試験では、チオフラビンT蛍光測定を使用して、α−シヌクレイン原線維に対する化合物の作用を測定した。試験化合物に加えて、この実験には、参照用に3つの対照化合物(化合物1、2、および3)が含まれた。このアッセイでは、チオフラビンTが、原繊維タンパク質に特異的に結合し、この結合により、形成された原線維の量に正比例する、485nmでの蛍光の増強が生じる。蛍光が強いほど、形成された原線維の量が多い(Naki et al.,Lab.Invest.65:104−110,1991;Levine III,Protein Sci.2:404−410,1993;Amyloid:Int.J.Exp.Clin.Invest.2:1−6,1995)。
【0120】
上記に記載した最初のα−シヌクレイン原線維化に続いて、α−シヌクレイン(6.9μM)混合物を、単独でまたは化合物の1つの存在下(10:1、1:1、0.1:1、および0.01:1の試験化合物:α−シヌクレインのモル比)で、リン酸緩衝生理食塩水、pH7.4+0.02%アジ化ナトリウム中にて、振盪(200rpm)させながら37℃で2日間インキュベートした。2日間の共インキュベーション後、50μl(5μg)の各インキュベーション混合物を、150μlの蒸留水および50μlのチオフラビンT溶液(すなわち、250mMのリン酸緩衝液、pH6.8中の500μMのチオフラビンT)を含有する96ウェルマイクロタイタープレートに移した。チオフラビンT試薬の最終濃度は、50mMのリン酸緩衝液、pH6.8中に100μMである。ELISAプレート蛍光測定器を使用して、485nm(444nmの励起波長)で蛍光を読み取った。緩衝液のみまたは対応するα−シヌクレイン含有反応液に等しい濃度で化合物のみを含有する希釈反応液(ブランク)から得られたシグナルを差し引いて、その反応液中のタンパク質原線維含量に比例する、各α−シヌクレイン含有反応液中のチオフラビンT蛍光量を定量した。
【0121】
2日間インキュベーションの結果を下記に示す。各化合物について、チオフラビンT蛍光の%阻害を表1に示す。この試験から、本明細書に提供する化合物が、予め形成されたパーキンソン病のα−シヌクレイン原線維を破壊/脱凝集することがわかる。
【0122】
パートB:コンゴレッド結合データ
コンゴレッド結合アッセイでは、α−シヌクレイン凝集物のコンゴレッドへの結合を変化させる所与の試験化合物の能力を定量する。このアッセイでは、コンゴレッドが原繊維タンパク質に特異的に結合し、その結合量が形成された原線維量に正比例する。上記に記載した最初のα−シヌクレイン原線維化に続いて、α−シヌクレイン凝集物および試験化合物を、2日間インキュベートし、次いで0.2μmフィルターを通して真空濾過した。次いで、コンゴレッドでフィルターを染色した後、フィルターに保持されたα−シヌクレイン量を定量した。フィルターを適切に洗浄した後における、試験化合物の存在下でのフィルター上のコンゴレッド色のいかなる低下も(試験化合物の非存在下、すなわちα−シヌクレインのみでのタンパク質のコンゴレッド染色に比較して)、凝集したコンゴレッド親和性α−シヌクレインの量を減少/変化させる、したがって、α−シヌクレイン原線維の分解/破壊/脱凝集を引き起こす試験化合物の能力を表した。
【0123】
一試験では、陽性参照(対照)化合物を含む、本明細書に提供する化合物の非存在下または増大する量の存在下(10:1、1:1、0.1:1、0.01:1の試験化合物:α−シヌクレインのモル比)で、α−シヌクレインを2日間インキュベートした後、コンゴレッドを結合するα−シヌクレイン原線維の能力を測定した。2日間インキュベーションの結果を下記の表2に示す。この試験の結果から、本発明の化合物が、コンゴレッドに結合するパーキンソン病型α−シヌクレイン原線維を阻害するそれらの能力により示されるように、予め形成されたα−シヌクレイン凝集物を破壊/脱凝集/分解することがわかる。
【0124】
実施例3:化合物は、新たに溶解したパーキンソン病のα−シヌクレインタンパク質が原線維(すなわち、β−シート二次構造)を形成することを破壊/阻害する
チオフラビンT蛍光測定
化合物がα−シヌクレインβ−シートの形成を阻害できるか否かを試験するために、実施例2に記載のものと同じアッセイを利用したが、α−シヌクレインは新鮮で、予め原線維化させていないものであった。新鮮な野生型α−シヌクレインを、9.5mMのリン酸塩、137mMの塩化ナトリウム、および2.7mMの塩化カリウムを含有する緩衝液(リン酸緩衝生理食塩水;PBS)に溶解し、pHをpH7.4に調整した。次いで、この溶液を凍結乾燥し、1.0mlの脱イオン水に0.5mg/ml(35μM)で溶解した。上記に示すように、試験化合物を(典型的には、10:1、1:1、0.1:1、および0.01:1の試験化合物:α−シヌクレインのモル比で)、α−シヌクレインに加えた。24〜38時間の共インキュベーション後、インキュベーション混合物を1:10に希釈し、50μlの各希釈インキュベーション混合物を、150μlの蒸留水および50μlのチオフラビンT溶液(すなわち、250mMのリン酸緩衝液、pH6.8中の500μMのチオフラビンT)を含有する96ウェルマイクロタイタープレートに移した。50mMのリン酸緩衝液、pH6.8中に、α−シヌクレインの最終濃度は0.7μMであり、チオフラビンT試薬の濃度は100μMであった。一部の実験では、200μlの各希釈インキュベーション混合物を、50μlの500μMチオフラビンT溶液と96ウェルマイクロタイタープレート中で混合し、100μMのチオフラビンT試薬の存在下、2.8μMのα−シヌクレインを得た。ELISAプレート蛍光測定器を使用して、485nm(444nmの励起波長)で蛍光を読み取り、緩衝液のみまたは化合物のみをブランクとして差し引いた。チオフラビンT反応で後に使用されるα−シヌクレインが0.7μMであっても2.8μMであっても、陽性対照化合物1は、α−シヌクレイン凝集の阻害においてほぼ同様に作用した。
【0125】
表3に示すこの試験の完了結果から、本発明の化合物は、チオフラビンT蛍光測定により評価すると、α−シヌクレインのβ−シート二次フォールディングの形成を妨害するそれらの能力によって示されるように、α−シヌクレイン凝集を妨害することがわかる。
【0126】
実施例4−本発明の化合物は、パーキンソン病に関連したα−シヌクレイン原線維および/または凝集物の強力な破壊剤/阻害剤である
パーキンソン病は、その主要成分がα−シヌクレインであるレビー小体と呼ばれる神経細胞内の不溶性凝集物の蓄積を特徴とする(Dauer et al.,Neuron,39:889−909,2003に概説されている)。α−シヌクレインの常染色体優性突然変異が家族性パーキンソン病のサブセットを引き起こすため、またこれらの突然変異により、α−シヌクレインが凝集し、レビー小体を形成する可能性が増大するため、凝集したα−シヌクレインが、病因および疾患進行に直接関与すると提案されている(Polymeropoulos et al.,Science 276:1197−1199,1997;Papadimitriou et al.,Neurology 52:651−654,1999)。構造研究から、細胞内のレビー小体がβ−プリーツシート二次構造を高度に有するミスフォールディングされたタンパク質を大きな割合で含有することが明らかになった。したがって、本明細書に記載する化合物の多くが、上記に記載するin vitroアッセイ(チオフラビンT蛍光測定法およびコンゴレッド結合アッセイ)において、α−シヌクレイン凝集物の分解/破壊/脱凝集を引き起こすので、パーキンソン病に関連したα−シヌクレイン凝集を阻害または防止する、これらの化合物の効力を測定するための試験を生細胞でも実施した。
【0127】
化合物の治療能力を試験するために、細胞ベースのアッセイを利用した。このアッセイでは、ミトコンドリアの酸化ストレスを誘導し、α−シヌクレイン凝集を引き起こすためにロテノンを使用する。このアッセイでは、α−シヌクレイン原線維を含む、高含量のβ−シートを有する構造への蛍光色素チオフラビンSの結合を利用する。したがって、固定細胞のチオフラビンS陽性染色の程度を定量的に評価することにより、ロテノンのみで処理された細胞に比較して、α−シヌクレイン凝集物の量を阻害/防止または減少させる、試験化合物の能力を試験する。この試験を以下の例で示す。
【0128】
これらの試験を実施するために、ヒトα−シヌクレイン凝集が実験的に誘導される細胞培養モデルを使用した。A53T突然変異ヒトα−シヌクレインで安定にトランスフェクトされたBE−M17ヒト神経芽細胞腫細胞を入手した。細胞培養試薬をGibco/Invitrogenから入手し、10%のFBS、ペニシリン(100単位/ml)、ストレプトマイシン(100μg/ml)、および500μg/mlのG418を添加したOPTIMEM中で、以前に記載されたように(Ostrerova−Golts et al.,J.Neurosci.,20:6048−6054,2000)、細胞を増殖させた。
【0129】
チオフラビンSは、脳組織(Vallet et al.,Acta Neuropathol.,83:170−178,1992)および培養細胞(Ostrerova−Golts et al.,J.Neurosci.,20:6048−6054,2000)を含むin situで、凝集したタンパク質構造を検出するために使用することが一般的であり、一方、チオフラビンTは、可溶性タンパク質のβ−プリーツシート構造に富んだ原線維への凝集を分析するためのin vitro試薬として使用されることが多い(LeVine III,Prot.Sci.,2:404−410,1993)。したがって、酸化ストレス誘導剤(この場合にはロテノン)に応答して形成される、β−プリーツ構造を高度に含有する凝集物を検出するために、以前に記載のもの(Ostrerova−Golts et al.,J.Neurosci.,20:6048−6054,2000)を若干改変して、チオフラビンSの組織化学を培養細胞について使用した。手短に言えば、これらの試験のために、ポリ−D−リジンでコーティングされたスライドガラスチャンバー上にて約4.5〜5.5×10細胞/cmで細胞を増殖させた。16〜18時間後に、示されるように、500nMまたは2μMのロテノン(Sigma)またはビヒクル(0.05% DMSO)で細胞を処理した。ロテノン(またはビヒクル)添加の15分以内に、化合物を指示濃度で加えるか、または細胞培養培地のみ(化合物なし)を加える模擬処理を実施した。同一の処理を48時間後に繰り返した。さらに24時間後に、3%パラホルムアルデヒドで25分間、細胞を固定した。PBS洗浄および脱イオン水洗浄の後に、細胞を、50%エタノール中で25分間、0.015%チオフラビンSとインキュベートし、50%エタノール中で4分間の洗浄を2回、脱イオン水中で5分間の洗浄を2回行った後、光退色を防止するように設計された水ベースの包埋剤を使用してマウントした。チオフラビンSに結合する凝集物を、他に指示がない限り、High Q FITCフィルターセット(480〜535nmのバンド幅)および20倍対物レンズを使用する螢光顕微鏡で検出した。処理条件を知らされていない実験者が、1条件当たり8〜20の間(通常16〜18)の代表画像を、Q Captureソフトウェアを使用して、選択し画像化した。チオフラビンS陽性の凝集物の量を評価するために、チオフラビンS陽性の封入体が占める、領域ごとの合計面積を、画像解析および定量化により決定した。この目的のために、プレセットサイズまたはピクセル強度閾値パラメーターを超えないバックグラウンド蛍光をImage Pro Plusソフトウェアを使用して除去した。細胞と無関係な見かけの蛍光を手作業で除去した。他に指示がない限り、群間の比較は、所与の処理条件についてチオフラビンS陽性封入体の平均相対量を比較することによりなされた(すなわち、ロテノンのみで処理された細胞に対して所与の濃度でロテノンおよび試験化合物で処理された細胞)。統計分析は、GraphPad Prism(GraphPad Inc)を用いて実施した。平均値(2つの試料)の間の差は、スチューデントt検定により評価した。複数の平均値の間の差は、ロテノンのみで処理した細胞に比較して、一要因ANOVA、次いでDunnettのポストホック検定によって評価した。下記に示すデータから、ロテノンのみで処理された細胞に比較して、試験化合物とロテノンで処理された細胞では、チオフラビンSの蛍光が統計的に有意に(p<0.05)減少(阻害パーセントとして報告)することが示される。
【0130】
チオフラビンSに結合する凝集物を定量的に検出するアッセイの能力を検証するために、A53T α−シヌクレインを過剰発現するBE−M17細胞の染色を実施した結果、ビヒクルで処理された対照細胞に比較して、チオフラビンS陽性の凝集物がロテノン用量依存的に増大することが明らかになった(図示せず)。40倍対物レンズで得られた高倍率画像により、チオフラビンS陽性の凝集物が、パーキンソン病に関連する病理学的な特徴である細胞質内レビー小体の蓄積に類似して、細胞内および細胞質に存在することが示された(図示せず)。チオフラビンS陽性の凝集物が占める領域を定量することにより、500nMおよび2μMのロテノンが、強固な凝集を誘導するのに十分であり(図示せず)、したがって、これらの凝集物の形成を減弱する化合物の能力を試験するのに有効な用量であることが確立された。
【0131】
上記のプロトコールを使用して、A53T α−シヌクレインを過剰発現する、ロテノンで処理されたBE−M17細胞において、チオフラビンS陽性の凝集物を低減、阻害、防止、または除去する能力について、選択した化合物を試験した。試験した化合物の一部は、ロテノンのみで処理された細胞に比較して、チオフラビンS陽性の封入体が減少することにより示されるように、ロテノンの存在下で、α−シヌクレインの凝集および原線維形成を顕著に破壊、防止、または阻害した。例えば、500nMのロテノンのみで処理された細胞は、チオフラビンS陽性の凝集物の強固な存在を示したが、500nMまたは2μMのPD−151を添加すると、ロテノンのみで処理された細胞に比較して、これらのロテノン誘導凝集物の存在量がそれぞれ52%および84%、顕著に減少した。同様に、2μMのロテノンのみで処理された細胞では、チオフラビンS陽性の凝集物が強固に存在したが、2μMまたは5μMのPD−151を添加すると、ロテノンのみで処理された細胞に比較して、これらのロテノン誘導凝集物の存在量がそれぞれ58%および60%、顕著に減少した。したがって、PD−151は、ヒトA53T α−シヌクレインを発現する細胞において、チオフラビンS陽性の凝集物を低減、阻害、防止、および/または除去した。
【0132】
さらに、同様の方法で試験すると、PD−152も、所与の濃度で、ロテノン誘導のチオフラビンS陽性の封入体の顕著な破壊/防止/阻害を示した。例えば、500nMのロテノンのみで処理された細胞は、チオフラビンS陽性の凝集物の強固な存在を示したが、2μMまたは5μMのPD−152を添加すると、ロテノンのみで処理された細胞に比較して、これらのロテノン誘導凝集物の存在量がそれぞれ54%および55%、顕著に減少した。同様に、2μMのロテノンのみで処理された細胞では、チオフラビンS陽性の凝集物が強固に存在したが、500nMまたは2μMのPD−152を添加すると、ロテノンのみで処理された細胞に比較して、これらのロテノン誘導凝集物の存在量がそれぞれ78%および79%、顕著に減少した。したがって、PD−152も、ヒトA53T α−シヌクレインを発現する細胞において、チオフラビンS陽性の凝集物を低減、阻害、防止、および/または除去した。
【0133】
まとめると、試験化合物PD−151およびPD−152は、A53T α−シヌクレイン発現BE−M17細胞において、α−シヌクレイン凝集物の形成、沈着、および/または蓄積を効果的かつ強力に低減、防止、および/または阻害した。
【0134】
実施例5:本発明の化合物は、アルツハイマー病Aβ 1−42の原線維または凝集物の強力な破壊剤/阻害剤である
先の実施例で調製した化合物は、パーキンソン病α−シヌクレインタンパク質の原線維または凝集物の強力な破壊剤/阻害剤であることが見出された。一連の研究では、予め形成されたアルツハイマー病のアミロイド原繊維(すなわち、Aβ 1−42原線維からなる)の分解/破壊/脱凝集を引き起こす化合物の効力を分析した。
【0135】
パートA−チオフラビンT蛍光測定
一試験では、チオフラビンT蛍光測定法を使用して、化合物およびカフェイン(陰性対照として)の作用を測定した。このアッセイでは、チオフラビンTが、原繊維アミロイドに特異的に結合し、この結合により、形成されたアミロイド原繊維の量に正比例する、485nmにおける蛍光の増強が生じる。蛍光が強いほど、形成されたアミロイド原繊維の量が多い(Naki et al.,Lab.Invest.65:104−110,1991;Levine III,Protein Sci.2:404−410,1993;Amyloid:Int.J.Exp.Clin.Invest.2:1−6,1995)。
【0136】
この試験では、予め原線維化されたヒトAβ 1−42(rPeptide)の1mg/mL溶液(蒸留水)30μLを、単独または化合物の1つもしくはカフェインの存在下(10:1、5:1、1:1、0.1:1、または0.05:1の試験化合物:Aβのモル比)で、37℃で2日間インキュベートした。反応液中のAβの最終濃度は、リン酸緩衝生理食塩水、pH7.4+0.02%アジ化ナトリウム中、300μLの最終容量で、0.1mg/mL(22μM)である。2日間の共インキュベーション後、50μLの各インキュベーション混合物を、150μLの蒸留水および50μLのチオフラビンT溶液(すなわち、250mMのリン酸緩衝液、pH6.8中の500μMのチオフラビンT)を含有する96ウェルマイクロタイタープレートに移した。ELISAプレート蛍光測定器を使用して、485nm(444nmの励起波長)で放出蛍光を読み取り、緩衝液のみまたは化合物のみをブランクとして差し引いた。
【0137】
2日間インキュベーションの結果を表4に示す。例えば、カフェインは、すべての試験濃度でAβ 1−42原線維の顕著な阻害を引き起こさなかったが、化合物はすべて、予め形成されたAβ 1−42原線維の用量依存的な破壊/分解/脱凝集を引き起こした。試験した化合物はすべて、予め形成されたAβ 1−42原線維の破壊に有効であった。これらの結果は、チオフラビンT蛍光の強固な阻害を示した陽性対照化合物から得られた結果(図示せず)に類似している。例えば、試験化合物:Aβを10:1のモル比で使用すると、本発明の化合物はすべて、チオフラビンT蛍光を少なくとも63%阻害した。試験化合物:Aβモル比が5:1では、阻害レベルは17〜87%の範囲であり、PD−153以外のすべての化合物は、この5:1(試験化合物:Aβ)濃度で少なくとも74%の阻害を示した。等モル濃度(1:1の試験化合物:Aβのモル比)でも、PD−153以外のすべての化合物について、チオフラビンT蛍光の少なくとも54%の阻害があった。興味深いことには、このアッセイでは、PD−150およびPD−154は、準化学量論的濃度(すなわち、0.1:1および0.05:1の試験化合物:Aβのモル比)でAβ原線維/凝集物に対して有効であった。この試験から、本発明の化合物は、アルツハイマー病型Aβ原線維の強力な破壊剤/阻害剤であり、通常、用量依存的にその作用を及ぼすことがわかる。
【0138】
パートB:コンゴレッド
コンゴレッド結合アッセイでは、β−アミロイドのコンゴレッドへの結合を変化させる試験化合物の能力を定量する。このアッセイでは、Aβ 1−42(チオTアッセイのために調製した)および試験化合物を、2日間インキュベートし、次いで0.2μmフィルターを通して真空濾過した。次いで、コンゴレッドでフィルターを染色した後、フィルターに保持されたAβ 1−42の量を定量した。フィルターを適切に洗浄した後における、試験化合物の存在下でのフィルター上のコンゴレッド色のいかなる低下も(試験化合物の非存在下における、アミロイドタンパク質のコンゴレッド染色に比較して)、凝集したコンゴレッド親和性Aβの量を減少/変化させる、試験化合物の能力を表した。
【0139】
一試験では、化合物またはカフェインの非存在下または増大する量の存在下で(10:1、5:1、1:1、または0.1:1の試験化合物:Aβのモル比)、コンゴレッドを結合するAβ原線維の能力を測定した。2日間インキュベーションの結果を表5に示す。カフェインは試験したすべての濃度で、コンゴレッドへのAβ 1−42原線維の結合を顕著に阻害しなかったが、化合物は、コンゴレッドへのAβの結合を用量依存的に阻害した。例えば、PD−150、PD−151、およびPD−152はそれぞれ、10:1の試験化合物:Aβのモル比で使用した場合、Aβ 1−42原線維へのコンゴレッドの結合を顕著に阻害し(59〜63%阻害の範囲)、また5:1の試験化合物:Aβのモル比で使用した場合も、コンゴレッドの結合を顕著に阻害した(46〜48%阻害の範囲)。チオフラビンT蛍光アッセイについての結果と同様に、この試験からも、本発明の化合物は、コンゴレッドへのAβ原線維の結合により評価すると、Aβ原線維の強力な破壊剤/阻害剤であり、通常、用量依存的にその作用を及ぼすことがわかる。
【0140】
実施例6:本発明の化合物は、β−シートを含有する原線維構造へのAβのin vitro変換を直接阻害/破壊する
パートA:チオフラビンT蛍光測定
化合物がAβのβ−シート形成を阻害できるか否かを試験するために、実施例5に記載のものと同じアッセイを利用したが、Aβは、アッセイの開始時に非原線維状態で存在するように調製した。この非原線維状態を達成するために、凍結乾燥したヒトAβ 1−42(rPeptide)を、2mMのNaOHを使用して、1mg/mL(220μM)に溶解し、1MのNaOHを少量(μL)添加して、pHを10.5に調整した。次いで、透明な溶液を凍結して再度凍結乾燥し、9.5mMのリン酸塩、137mMの塩化ナトリウム、および2.7mMの塩化カリウムを含有する緩衝液(リン酸緩衝生理食塩水;PBS)に、2mg/mL(440μM)のAβ濃度に溶解した。試験化合物の原液とAβ溶液を等量含有する最終反応液が、試験化合物:Aβのモル比を10:1、5:1、1:1、および0.5:1にするとともに、1mg/mL(220μM)の最終Aβ濃度になるように、別々のチューブにて、試験化合物の原液をPBS中で種々の濃度に調製した。次いで、Aβ+試験化合物(またはAβ+Aβ凝集の対照としてのPBS)を含有する反応液を、24時間インキュベートし、そのインキュベーション混合物を0.05mg/mLのAβに1:20希釈し、50μlの各希釈インキュベーション混合物を、150μlの蒸留水および50μlのチオフラビンT溶液(すなわち、250mMのリン酸緩衝液、pH6.8中の500μMのチオフラビンT)を含有する96ウェルマイクロタイタープレートに移した。50mMのリン酸緩衝液、pH6.8中で、Aβの最終濃度は2.2μMであり、チオフラビンT試薬の濃度は100μMであった。ELISAプレート蛍光測定器を使用して、485nm(444nmの励起波長)で蛍光を読み取り、PBS緩衝液のみまたは化合物のみをブランクとして差し引いた。
【0141】
表6に示すこの試験の完了結果から、本発明の化合物は、チオフラビンT蛍光測定により評価すると、Aβのβ−シート二次フォールディングの形成を妨害するそれらの能力によって示されるように、Αβ凝集を妨害することがわかる。例えば、PD−150、PD−151、およびPD−152はそれぞれ、10:1の試験化合物:Aβのモル比で使用した場合、チオフラビンT蛍光を顕著に阻害し(61〜93%阻害の範囲)、また5:1の試験化合物:Aβのモル比で使用した場合も、チオフラビンT蛍光を顕著に阻害した(23〜87%阻害の範囲)。陽性対照化合物(対照4)は予想通りに作用し、試験化合物:Aβのモル比≧1:1でAβ凝集を完全に(100%)阻害したが、陰性対照化合物(カフェイン)は、試験したいずれの濃度でも(50:1、10:1、および1:1)、Aβ凝集を阻害しなかった。この試験から、本発明の化合物は、チオフラビンT蛍光測定法により評価すると、β−シートに富んだAβ原線維形成の強力な阻害剤であり、化合物は、通常、用量依存的にその作用を及ぼすことがわかる。
【0142】
パートB:円偏光二色性(CD)分光法
いくつかの化合物が、チオフラビンT陽性の凝集物の存在量を低減することが示されたので(表6)、化合物がβ−シート含有構造へのAβの変換を直接阻害することを、円偏光二色性(CD)分光法を使用して、独立して確認することを試みた。この目的のために、チオフラビンT蛍光測定アッセイ(この実施例のパートA)で使用したAβ反応を、24時間の凝集で評価した。Aβのみも、凝集前のt=0でのCDスペクトル分析により評価した(t=0、アンフォールディングした参照対照)。24時間後、反応液をPBS中で20倍希釈し、各反応液のCDスペクトルを、0.1cmの経路長セルを使用して、Jasco J−810分光旋光計で取得した。スペクトルはすべて、0.1nmのステップサイズ、1nmのバンド幅、および0.05mg/mlのAβ濃度で記録した。スペクトルは、600V未満のダイノード電圧をなお供給する最短波長で調整した。次いで、調整したスペクトルを、フーリエ変換による雑音除去から開始し、次いでブランクのスペクトル(Aβなしのビヒクルのみ)を差し引くデータ処理ルーチンに付した。次いで、これらのブランク補正スペクトルを260nmでゼロとし、単位を1000分の1度から比楕円率に変換した。
【0143】
β−シートの百分率は、以前の報告(Ramirez−Alvarado et al.,J.Mol.Biol.,273:898−912,1997;Andersen et al.,J.Am.Chem.Soc.,121:9879−9880,1999)と一致して、約218nmでの楕円率最小値を使用し、かつほぼ完全にフォールディングした基準値およびアンフォールディングした基準値に標準化した尺度を参照して、処理スペクトルから決定した。完全にフォールディングした基準値は、24時間原線維化(完全原線維化)されたAβのスペクトルについて記載の計算を実施し、この差を100%β−シートの任意値に割り当てることにより、見出した。アンフォールディングした基準値は、開始時点(t=0)での同じ試料からのスペクトルと、ここで見出された差を0%β−シートの任意値とすることにより得た。次いで、これらのβ−シート百分率の値を使用して、試験化合物:Aβの所与のモル比で化合物により誘導される、β−シートのそれぞれの相対的%阻害を得た。
【0144】
最初に、Aβ 1−42が、β−シートに富んだ構造に実際に変換されることを確認するために、また本発明者らのシステムにおいてこの変換を24時間に時間設定することを確立するために、Aβのみのインキュベーション混合物(化合物なし)のアリコートを採取し、CDスペクトルを収集した。24時間のインキュベーションにおいて、CD分析により、明白な比楕円率の最小(218nm)および最大(197nm)によって示されるように、大量のβ−シートに富んだ構造が明らかになった(図示せず)。しかしながら、試験化合物PD−150、PD−151、PD−152、PD−153、または陽性対照化合物(対照4)を個々に適切な濃度で反応混合物に含めると、24時間のインキュベーションにおいて、最小値(218nm)の変化の大きさが、Aβのみと比較して減少し、スペクトルはランダムコイル構造の特徴に近くなった。したがって、本発明者らは、本発明の化合物の一部は、天然にアンフォールディングしているAβのβ−シートに富んだ構造への変換を種々の程度に阻害すると結論する。一方、陰性対照化合物であるカフェインは、楕円率最小値(218nm)の変化の大きさに影響を及ぼさなかった。これらの結果を表7にまとめる。Aβにおけるβ−シートの形成を阻害する試験化合物の具体的な例として、化合物PD−150は、試験化合物:Aβのモル比≧5:1で使用した場合、少なくとも62%の阻害をもたらした。まとめると、これらの結果から、本発明の化合物の一部は、アルツハイマー病などのアミロイド病の特徴であるAβ凝集に対して強力な阻害および防止を示すことがわかる。
【0145】
実施例7−本発明の化合物は、血漿および脳において、中枢神経系障害の処置を目的とした薬物に一致した、治療に適切なレベルを示す
本発明の選択化合物について、野生型マウスを使用して、以下の血漿薬物動態(PK)パラメーター:最高濃度(Cmax)、および時間対濃度プロットから誘導される曲線下面積(AUC)を決定した。さらに、Cmax−脳およびAUC−脳としてそれぞれ表現される、本発明の選択化合物における、マウス脳の最高濃度、および経時的な脳暴露の全体量を決定した。この方法を確立するために、2つの対照化合物の50mg/kg腹腔内(i.p.)注射を使用して、脳および血漿の化合物レベルを評価した。これらの結果から、これらの対照化合物の血漿レベルおよび脳取り込み量が迅速に上昇し、その後、投与6時間後までに血液から完全にクリアランスされることがわかった。本発明の化合物を評価するための典型的な実験では、CD−1雌性マウスを使用し、投与後の時点(例えば、投与7、15、30、および60分後)ごとに4匹のマウスに相当する試料サイズ(n)とした。血漿および脳における曝露量が高いことが予想される場合には、初期の暴露量を評価するために早期の時点を選んだ。ただし、脳および血漿のレベルが、最短の評価時点(7分)で最高であったため、より早期の時点(0〜7分の間)でのさらに高い曝露量を見逃した可能性がある。
【0146】
これらの試験のために、各化合物を、PBS+0.1%のアスコルビン酸(w/v)中の20%のポリエチレングリコール(PEG)−400に5mg/mLで製剤化した。投与容量は10mL/kg体重とした。マウスに試験化合物を腹腔内注射により投与し、予定した屠殺の約2〜3分前に、2.5%のアベルチンで深く麻酔をかけた。一旦麻酔をかけたならば、全血を心穿刺により取り出し、適当なEDTA含有チューブに移し、直ちに氷冷した。その後、左心室のカニューレ挿入および下行大動脈のクランプによる、15ml超の冷0.9%生理食塩水を用いた各マウスの完全な灌流を行った。脳を回収し、ドライアイス上で凍結して、試験化合物の生物分析のために−80℃に保存した。標準の遠心分離手法により、1時間以内に全血から血漿を抽出した。酢酸エチルを使用して、血漿および脳ホモジネートから化合物を(液−液)抽出した後、これらの新規の化合物のために開発した方法(すなわち、HPLC勾配および質量分析パラメーター)を使用して、HPLC/MS定量を行った。すべての方法は、関連するマトリックスおよび溶媒における十分な安定性を確立すると共に、内部定量対照を使用した。適切なマトリックス(すなわち、20%のPEG−400/PBS+0.1%のアスコルビン酸)に添加した化合物を用いて作成した検量線を使用して、定量化を達成した。これらの試験にとって十分である、5〜25ng/ml(血漿)および5〜25ng/g(脳)の定量感度の下限を確立した。種々の投与後時点での脳および血漿の濃度を決定した後、選択した血漿(CmaxおよびAUC)および脳(Cmax−脳およびAUC−脳)のPKパラメーターを、WinNonLinソフトウェア(Pharsight Inc)を用いて決定した。本発明の化合物について決定した値を、治療上適切な経路および用量レベル(50mg/kgのi.p.注射)で投与されると、生物学的作用(すなわち、α−シヌクレインの脳レベルの低減および運動機能の改善;データを示さず)に十分なレベルで血漿および脳に存在することが知られている陽性対照化合物についての値と比較した。
【0147】
上記に記載のプロトコールを使用して、例えば、PD−151が血漿Cmax=5,340ng/mLおよび血漿AUC=212,417分*ng/mLを有することが決定された。この血漿曝露量は、血漿Cmax=8,230ng/mLおよび血漿AUC=420,406を示す陽性対照化合物に比べて遜色がない。脳では、PD−151は、Cmax−脳=59.2ng/gおよびAUC−脳=2,147分*ng/gを示す。この脳暴露量は、Cmax−脳=94.6ng/gおよびAUC−脳=7,029分*ng/gを示す陽性対照化合物に比べて遜色がない。PD−150も受け入れ可能な血漿および脳暴露量を示した。例えば、PD−150は、血漿Cmax=3,284ng/mL、血漿AUC=127,662分*ng/mL、Cmax−脳=99.5ng/g、およびAUC−脳=3,048分*ng/gを示す。
【0148】
まとめると、これらの結果から、本発明の化合物の一部は、一次標的が脳タンパク質である、アルツハイマー病またはパーキンソン病などの中枢神経系障害を処置することを目的とした薬物に一致した、血漿および脳暴露量を有することを示すことがわかる。例えば、本発明の化合物のレベルは、疾患関連動物モデルにおいて対照化合物が治療有効量で投与される場合のその対照化合物に匹敵する脳および血漿曝露量を示す(すなわち、対照化合物との差は3.3倍以下である)。