特許第6095076号(P6095076)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6095076新規ラジカル重合開始剤並びに光硬化性組成物及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6095076
(24)【登録日】2017年2月24日
(45)【発行日】2017年3月15日
(54)【発明の名称】新規ラジカル重合開始剤並びに光硬化性組成物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 69/16 20060101AFI20170306BHJP
   C08F 2/50 20060101ALI20170306BHJP
   C07C 67/27 20060101ALI20170306BHJP
   C07C 69/75 20060101ALI20170306BHJP
   C07C 69/92 20060101ALI20170306BHJP
   C07C 69/67 20060101ALI20170306BHJP
   C07C 309/66 20060101ALI20170306BHJP
   C07C 69/96 20060101ALI20170306BHJP
【FI】
   C07C69/16CSP
   C08F2/50
   C07C67/27
   C07C69/75 A
   C07C69/92
   C07C69/67
   C07C309/66
   C07C69/96 Z
【請求項の数】6
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2015-16076(P2015-16076)
(22)【出願日】2015年1月29日
(62)【分割の表示】特願2012-555852(P2012-555852)の分割
【原出願日】2012年1月30日
(65)【公開番号】特開2015-91872(P2015-91872A)
(43)【公開日】2015年5月14日
【審査請求日】2015年2月2日
(31)【優先権主張番号】特願2011-21231(P2011-21231)
(32)【優先日】2011年2月2日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000222691
【氏名又は名称】東洋合成工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101236
【弁理士】
【氏名又は名称】栗原 浩之
(72)【発明者】
【氏名】榎本 智至
【審査官】 村守 宏文
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/105479(WO,A1)
【文献】 特開2008−247940(JP,A)
【文献】 特表2004−515612(JP,A)
【文献】 特開平05−310635(JP,A)
【文献】 特開2009−138150(JP,A)
【文献】 特開2010−217438(JP,A)
【文献】 特開2005−082679(JP,A)
【文献】 特表平11−509329(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(B)で表されることを特徴とする化合物。
【化1】
(式中、E及びEのそれぞれは、置換基を有していてもよい、アルキルカルボニル基、アルキニルカルボニル基、アラルキルカルボニル基、アリールカルボニル基、アルキルオキシカルボニル基、アルケニルオキシカルボニル基、アルキニルオキシカルボニル基、アラルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アルキルスルホニル基、アルケニルスルホニル基、アルキニルスルホニル基、アラルキルスルホニル基、及び、アリールスルホニル基からなる群より選択されるいずれかを表し、及びEのそれぞれの炭素原子の総数が20以下であり、互いに同一でも異なっていてもよい。R及びRのそれぞれは、置換基を有していてもよい、直鎖もしくは分岐鎖の炭素原子の総数が1〜4のアルキル基又はアルケニル基を表し、互いに同一でも異なっていてもよい。)
【請求項2】
前記化合物は、2,2−アルコキシ1,2−ジ−フェニルエタン−1−オン誘導体からなることを特徴とする請求項に記載の化合物。
【請求項3】
前記化合物は、ラジカル重合開始剤として作用する請求項1又は2に記載の化合物。
【請求項4】
請求項1〜のいずれか一項に記載の化合物を含有することを特徴とする光硬化性組成物。
【請求項5】
さらにラジカル重合性化合物を含有することを特徴とする請求項に記載の光硬化性組成物。
【請求項6】
4,4’−ジヒドロキシベンジルとオルトカルボン酸トリアルキルエステルとを酸触媒の存在下で反応させた後に、エステル化反応させることにより、前記化合物を得る請求項1〜のいずれか一項に記載の化合物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明に係るいくつかの態様は、紫外線等の光を照射することによりラジカルを発生するラジカル重合開始剤として用いることができる新規化合物、その製造方法及びラジカル重合開始剤並びに光硬化性組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リソグラフィー、フレキソグラフィー、シルクスクリーンのUV硬化インキ、ソルダーレジスト、電子工業用材料等のためのエッチレジスト、カラーフィルターレジスト、UV粉体塗料、水系UV塗料、紫外線吸収剤併用塗料、木工製品の仕上げ塗料、プラスチック並びに金属コーティング等の分野において、ラジカルにより重合するラジカル重合性化合物(ラジカル重合性のモノマー等)と、紫外線等の光を照射することによりラジカルを発生しラジカル重合性化合物の重合を開始するラジカル重合開始剤とを有する光硬化性組成物が用いられており、ラジカル重合開始剤として、例えば、アセトフェノン系のラジカル重合開始剤が知られている(特許文献1及び2参照)。
【0003】
そして、アセトフェノン系のラジカル重合開始剤として知られている2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オンは、紫外線等の光の照射により自己開裂することでラジカルを発生させてラジカル重合性化合物の重合を開始する化合物であり、IRGACURE651の製品名でBASF社から市場に提供されている。2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オンは、他のアセトフェノン系のラジカル重合開始剤、例えば1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン(IRGACURE184、BASF社)や2−ヒドロキシ−1−{4−[4−{2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオニル}−ベンジル]−フェニル}−2−メチルプロパン−1−オン(IRGACURE127、BASF社)と比較して、波長365nmの吸光度が高く、工業的に有用な高圧水銀灯等が発する光の輝線に含まれる波長成分であるi線(波長365nm)を効果的に利用することができる利点がある。さらに、光分解によって生じるメチルラジカルの高い反応性により高感度で目的の硬化物を得られる。
【0004】
このようなラジカル重合開始剤を用いた光重合は、熱重合と異なり、加熱の必要が無く室温付近で紫外線等の光照射により硬化物を得ることができるため、材料の変質のリスクが少なく且つ熱重合と比較して極短時間で硬化物を得ることができる利点があり、工業的に広く用いられている有用な手法である。しかしながら、フォトリソグラフィー用途のように均一な膜厚で樹脂を調整するために溶剤に希釈して塗布する工程を含む場合、硬化前に溶剤を揮発させるプロセスにおいてラジカル開始剤が揮発してしまう問題がある。そして、この揮発する現象の影響は、硬化時間を短時間化するためにラジカル重合開始剤の添加量を増やした場合に、より顕著に現れる。
【0005】
例えば、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン(IRGACURE2959、BASF社)や、2−ヒドロキシ−1−{4−[4−{2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオニル}−ベンジル]−フェニル}−2−メチルプロパン−1−オン(IRGACURE127、BASF社)は、低揮発性であるため溶剤を揮発させる際に重合開始剤の揮発は抑制できるが感度が十分でなく、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−1ブタノン−1−オン(IRGACURE369)は同じく低揮発性であるが、365nmの吸光係数が大きいため厚膜のリソグラフィー用途では硬化不良を起こすことが懸念される。
【0006】
ここで、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オンを、(メタ)アクリロイルオキシ基を有するものとすることで、ブリードアウトを減少させた技術が開示されている(特許文献3参照)。
【0007】
しかしながら、特許文献3に示されている化合物である2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オンのケタール構造のように分子量の大きな置換基あるいはヘテロ原子を含む置換基を有している場合は、発生するラジカルの可動性が低くあるいは活性が低いためにラジカル開始剤として十分な機能を発揮しない場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平02−180909号公報
【特許文献2】特開昭49―55646号公報
【特許文献3】特開平04−305574号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Tetrahedron Letters Vol. 36. (40)(1995)p. 7305-7308
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明のいくつかの態様はこのような事情に鑑み、低揮発性と高い反応性及び適度な透過率を保持できる新規化合物、その製造方法及びラジカル重合開始剤並びに光硬化性組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は上記課題を解決するため鋭意検討した結果、下記式(A)で表される、2,2-アルコキシ1,2−ジフェニルエタン−1−オンのフェニル基に電子吸引性基を付加する構造とすることで高い反応性と低揮発性を両立できるラジカル重合開始剤となることを見出し、本発明に係るラジカル重合開始剤を完成するに至った。
【0012】
本発明の一つの態様に係る化合物は、下記式(A)で表されることを特徴とする化合物である。
【0013】
【化1】
(式中、EWG及びEWGのそれぞれは、水素原子又は電子吸引性基を表し、互いに同一でも異なっていてもよい。ただし、EWG及びEWGのうち一つが水素原子の場合は、他方は電子吸引性基であることが好ましい。R及びRのそれぞれは、置換基を有していてもよい直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基もしくはアルケニル基を表し、互いに同一でも異なっていてもよい。)
【0014】
上記の化合物の揮発性を低減するためには、EWG及びEWGのいずれも電子吸引性基であることが好ましい。
【0015】
上記の化合物のフェニル基に結合しているカルボニル基は電子吸引性基であるため、当該フェニル基に電子供与性基を導入してしまうと、電荷移動相互作用により吸収波長が長波長シフトすることがあるため、例えば、光学部材又は表示体の構成部材等の特に可視領域における高い透過率が要求される部材を製造する際の光ラジカル重合開始剤として電子供与性基を有するものが適さない場合もある。それに対して、本発明の一つの態様に係る化合物のようEWG及びEWGの少なくともいずれか一方は電子吸引性基であるため、当該化合物の吸収波長が極端に長波長シフトせず、可視域における高い透過率が要求される部材には好適である。
【0016】
上記式(A)で表さられる化合物において、生成するラジカルと反応するハロゲン原子はEWG及びEWGのいずれとしても導入しないほうが望ましい。励起三重項状態からラジカル生成反応が生起しない場合又はEWG及びEWGとして項間交差を促進するハロゲン原子等の重原子を含まないほうが好ましい。また、上記式(A)で表される化合物を半導体素子等のデバイスの製造に用いる場合において、ハロゲン原子がデバイスの配線の劣化等の原因となるときは、ハロゲン原子を含まないほうが良い場合がある。
【0017】
上記式(A)で表される化合物において、発生するラジカルに高い可動性あるいは高い活性を付与する場合等は、R及びRの炭素原子の総数が1乃至4であることが好ましい。
【0018】
上記式(A)で表される化合物において、さらに高い可動性及び高い活性を付与する場合は、R及びRは炭素原子の総数が1乃至4のアルキル基であることが好ましい。
【0019】
本発明の他の態様に係る化合物は、下記式(B)で表されることを特徴とする。
【化2】
(式中、E及びEのそれぞれは、置換基を有していてもよい、アルキルカルボニル基、アルケニルカルボニル基、アルキニルカルボニル基、アラルキルカルボニル基、アリールカルボニル基、アルキルオキシカルボニル基、アルケニルオキシカルボニル基、アルキニルオキシカルボニル基、アラルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アルキルスルホニル基、アルケニルスルホニル基、アルキニルスルホニル基、アラルキルスルホニル基、アリールスルホニル基を表し、互いに同一でも異なっていてもよい。R及びRのそれぞれは、置換基を有していてもよい分岐鎖のアルキル基もしくはアルケニル基を表し、互いに同一でも異なっていてもよい。)
【0020】
上記の式(B)で表される化合物を、重合性化合物等と混合する場合等は相溶性を確保するために、E及びEのそれぞれは、典型的には炭素原子の総数が1乃至20であることが好ましいが、その一方で、揮発性を低減するためには、炭素原子の総数が4以上、さらには8以上とするのが好ましい。つまり、相溶性と低揮発性とを両立するためには、炭素原子の総数が4乃至20又は8乃至20であることが求められる場合がある。
【0021】
上記の置換基の少なくとも一部が酸素原子、窒素原子又は硫黄原子等のヘテロ原子であってもよい。
【0022】
上記式(B)で表される化合物において、発生するラジカルに高い可動性あるいは高い活性を付与する場合等は、R及びRの炭素原子の総数が1乃至4であることが好ましい。
【0023】
上記式(B)で表される化合物において、さらに高い可動性及び高い活性を付与する場合は、R及びRは炭素原子の総数が1乃至4のアルキル基であることが好ましい。
【0024】
上記式(B)で表される化合物は、ラジカル重合開始剤として好適である。
【0025】
本発明の一つの態様に係る光硬化性組成物は、上記の化合物のいずれか少なくとも一つ
を含有することを特徴とする。
【0026】
上記の光硬化性組成物において、さらにラジカル重合性化合物を含有することが好ましい。
【0027】
本発明の一つの態様に係る化合物の製造方法は、上記式(B)の化合物の製造方法であって、4,4‘−ジヒドロキシベンジルとオルトカルボン酸トリアルキルエステルを酸触媒の存在下で反応させた後に、エステル化反応をさせることを特徴とする。
【発明の効果】
【0028】
本発明のいくつかの態様は優れた効果の発現に寄与する。例えば、上記式(A)で表される化合物の典型例である2,2-アルコキシ1,2−ジ−フェニルエタン−1−オン誘導体は、2,2-アルコキシ1,2−ジフェニルエタン−1−オンの構造を有するため、ラジカル重合開始剤として用いることができる。また、当該化合物は、i線(波長365nm)に吸収を有するので工業的に有用な高圧水銀灯等に多く含まれる波長成分であるi線を効果的に利用することができる。また、芳香環に置換基を付加することで揮発性を低減することができる。そして、置換基が電子吸引性基であることで低揮発性でありながら高い反応性を発現する。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の一つの態様に係る化合物は、式(A)で表される化合物である。
【0030】
【化3】
(式中、EWG及びEWGのそれぞれは、電子吸引性基を表し、互いに同一でも異なっていてもよい。R及びRのそれぞれは、置換基を有していてもよい直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基もしくはアルケニル基を表し、互いに同一でも異なっていてもよい。ただし、EWG及びEWGのいずれか一方が水素原子の場合は、他方は電子吸引性基である。)
【0031】
上記の化合物において、電子吸引性基とは、例えば、アルキルカルボニル基、アルケニルカルボニル基、アルキニルカルボニル基、アラルキルカルボニル基、アリールカルボニル基、アルキルカルボニルオキシ基、アルケニルカルボニルオキシ基、アルキニルカルボニルオキシ基、アラルキルカルボニルオキシ基、アリールカルボニルオキシ基、アルキルオキシカルボニル基、アルケニルオキシカルボニル基、アルキニルオキシカルボニル基、アラルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アルキルオキシカルボニルオキシ基、アルケニルオキシカルボニルオキシ基、アルキニルオキシカルボニルオキシ基、アラルキルオキシカルボニルオキシ基、アリールオキシカルボニルオキシ基、アルキルスルホニル基、アルケニルスルホニル基、アルキニルスルホニル基、アラルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、アルキルスルホニルオキシ基、アルケニルスルホニルオキシ基、アルキニルスルホニルオキシ基、アラルキルスルホニルオキシ基、アリールスルホニルオキシ基、ニトロ基、ニトロソ基、トリフルオロメチル基等のパーフルオロアルキル基、シアノ基、少なくとも一つの水素がアルキル基に置換されていてもよいホスホン酸基、トリアルキルシリル基、トリアルキルゲルミル基、トリアルキルスタニル基、置換基を有していてもよいアミド基及び置換基を有していてもよいアルケニル基等が挙げられる。
【0032】
上記の化合物において、二つのベンゼン環を連結する炭素鎖に含まれる一つの炭素原子に結合したベンゼン環の炭素原子のメタ位にEWG又はEWGを有する場合は、例えば、アルキルオキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基及びアリールチオ基等のベンゼン環に非共有電子対を有する原子が結合している置換基も電子吸引性基として機能する。
【0033】
なお、上記化合物において、EWG及びEWGのそれぞれは、互いに同一でも異なっていてもよいが、合成の簡便性という観点からは互いに同一であることが好ましい。
【0034】
上記の化合物の電子吸引性基としては、特にアルキルカルボニルオキシ基、アリールカルボニルオキシ基、アルキルオキシカルボニルオキシ基、アリールオキシカルボニルオキシ基、アルキルスルホニルオキシ基及びアリールスルホニルオキシ基が好ましい。これは、合成原料を市場から容易に入手することが出来るためである。アルキルカルボニルオキシ基及びアリールカルボニルオキシ基は市場から入手できる誘導体が豊富であるという利点をさらに有する。
【0035】
上記の電子吸引性基のうちアルキル、アルケニル、アルキニル、アラルキル及びアリール基を有する置換基については、市場からの入手が容易な炭素原子の総数が20以下のものが好ましい。さらに好ましくは、安価に入手可能な炭素原子の総数12以下が好ましく、光硬化性樹脂との相溶性などを加味すると炭素原子の総数8以下がより好ましい。
【0036】
上記の電子吸引性基に酸素原子、ケイ素原子、ゲルマニウム原子、リン原子、硫黄原子及び窒素原子等のヘテロ原子を含有させることで分子間の相互作用が強まり、あるいは分子量が増加し、揮発性を低下させることできる。さらに、これらのヘテロ原子を上記電子吸引性基に適宜含有させることにより重合性化合物若しくはモノマーとの相溶性や組成物における溶解度を調整することができる。
【0037】
上記のヘテロ原子を含む置換基のうち、酸素原子、硫黄原子、リン原子及び窒素原子等の非共有電子対を有する原子を含む電子吸引性基は、水素結合等の分子間相互作用や分極による分子間の静電相互作用により揮発性を低減できるために特に好適である。
【0038】
上記式(A)で表される化合物の典型例である2,2-アルコキシ1,2−ジ−フェニルエタン−1−オン誘導体は、フェニル基と共役したカルボニル基、さらにフェニル基が当該カルボニル基を介して近接しているため、紫外線等の光(例えば、波長200nm〜400nm)のうち比較的長波長の313nm〜365nmの光を照射しても、自己開裂して、例えば室温でも短時間のうちに効率よくラジカルを発生する。よって、上記誘導体は、ラジカル重合開始剤として有用である。
【0039】
なお、上記誘導体からのラジカル発生には工業的に有用な高圧水銀灯が発する光の輝線に含まれるi線(波長365nm)を利用することが可能であるため、上記誘導体は工業的にも利用し易いという利点を有する。
【0040】
また、上記式(A)で表される化合物の二つのフェニル基上の置換基を適宜選択することにより、揮発性、ラジカル発生効率等吸収特性を調整することが可能である。例えば、チャンバー内で当該化合物を含む光硬化性組成物を硬化する場合であっても、チャンバー内の汚染を抑制することが可能となる。
【0041】
上記化合物の典型例である2,2-アルコキシ1,2−ジ−フェニルエタン−1−オン誘導体の製造方法としては、例えば、4,4’−ジヒドロキシベンジルとオルトカルボン酸トリアルキルエステルとを酸触媒の存在下で反応させる工程を含む。
【0042】
まず、4,4’−ジヒドロキシベンジルとオルトカルボン酸トリアルキルエステルとを、例えば、アルキルアルコール等を含む有機溶媒で希釈して、酸触媒の存在下で反応させる。これにより、4,4’−ジヒドロキシベンジルをアセタール化する。
【0043】
4,4’−ジヒドロキシベンジルは、市場にて容易に入手可能な4,4’−ジメトキシベンジルから製造することができる。具体的には、例えば、4,4’−ジメトキシベンジルに臭化水素を反応させることにより得られる。
【0044】
オルトカルボン酸トリアルキルエステルは、所望の性能や製造コスト等を考慮して適宜選択することができるが、典型的な例としては、例えば、オルト蟻酸トリアルキルエステル、オルト酢酸トリアルキルエステル、オルトクロロ酢酸トリアルキルエステル、オルトプロピオン酸トリアルキルエステル、オルト酪酸トリアルキルエステル、オルトイソ酪酸トリアルキルエステル、オルト吉草酸トリアルキルエステル、オルト安息香酸トリアルキルエステルが挙げられる。低コストで製造することに重点を置く場合等は、上記のオルトカルボン酸トリアルキルエステルの中で、最も汎用的で安価なオルト蟻酸トリメチルエステルであることが好ましい。
【0045】
上記のアルキルアルコールとしては、例えば、25℃で液体である直鎖又は分岐状のアルキル基を有するアルコールが好ましい。さらに、上記のアルキルアルコールは、上記のオルトカルボン酸トリアルキルエステルのアルキル基と同一のアルキル基を有することが好ましい。そのようにすれば、仮にアセタールの交換反応が生起しても副生成物が生じないからである。
【0046】
また、酸触媒としては、ブレンステッド酸やルイス酸が挙げられ、ブレンステッド酸としては、硫酸、塩化水素、トリフルオロ酢酸、メタンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸等が挙げられ、ルイス酸としては、トリフルオロメタンスルホン酸セリウム(III)、トリフルオロメタンスルホン酸ハフニウム(IV)、トリフルオロメタンスルホン酸ランタン(III)、トリフルオロメタンスルホン酸イットリウム(III)、トリフルオロメタンスルホン酸ネオジウム(III)、トリフルオロメタンスルホン酸インジウム(III)等の水溶液中で安定なルイス酸が挙げられるが、これらに限られるものではない。
【0047】
4,4’−ジヒドロキシベンジルとオルトカルボン酸トリアルキルエステルを酸触媒の存在下で反応の条件は目的物に応じて適宜設定することができるが、典型的な反応条件は、例えば、0〜70℃で10〜100時間反応させるというものである。
【0048】
4,4’−ジヒドロキシベンジルとオルトカルボン酸トリアルキルエステルを酸触媒の存在下で反応させた後に、さらにエステル化反応を行うことにより、フェニル基に直接エステル基を結合することにより、上記式(B)で表される化合物を得ることができる。
【0049】
エステル化反応に利用する化合物としては、例えば、カルボン酸塩化物、カルボン酸無水物、スルホン酸塩化物、二炭酸ジアルキル等が挙げられる。
【0050】
4,4’−ジヒドロキシベンジルとオルトカルボン酸トリアルキルエステルを酸触媒の存在下で反応させた生成物をエステル化する反応条件は、目的物に応じて適宜設定することができる。典型的な反応条件は、例えば、塩基性条件下で10〜100℃で1〜10時間反応させるというものである。
【0051】
上記式(A)及び(B)で表される化合物は、上述したように、光ラジカル重合開始剤として機能し、上記式(A)又は(B9で表される化合物及びラジカル重合性化合物を含有することで、リソグラフィー、フレキソグラフィー、シルクスクリーンのUV硬化インキ、ソルダーレジスト、電子工業用材料等のためのエッチレジスト、カラーフィルターレジスト、UV粉体塗料、水系UV塗料、紫外線吸収剤併用塗料、木工製品の仕上げ塗料、プラスチック並びに金属コーティング等の分野において用いることができる本発明のいくつかの態様に係る光硬化性組成物とすることができる。例えば、上記式(A)又は(B)で表される化合物及びラジカル重合性化合物又はモノマーを非重合性の溶媒で希釈して、本発明のいくつかの態様に係る光硬化性組成物を調製することができる。なお、上記式(A)又は(B)で表される化合物及びラジカル重合性化合物又はモノマーを適宜選択すれば、溶媒を含まない光硬化性組成物を調製することもできる。
【0052】
上記の溶媒の例としては、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系化合物、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル、酢酸メトキシエチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のエステル系化合物、ジエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、フェニルセロソルブ、ジオキサン等のエーテル系化合物、トルエン、キシレン等の芳香族化合物、ペンタン、ヘキサン等の脂肪族化合物、塩化メチレン、クロロベンゼン、クロロホルム等のハロゲン系炭化水素、メタノール、エタノール、ノルマルプロパノール、イソプロパノール等のアルコール等を挙げることができる。
【0053】
ラジカル重合性化合物は、一分子中に1個以上のラジカル重合性基を有する化合物であり、一分子内のラジカル重合性基の種類や数は、所望の塗膜の粘度、硬化物の硬度及び透過率等の性質に応じて適宜設定することができる。例えば、より硬度を向上させるために複数のラジカル重合性基を一分子内に設けることができる。
【0054】
一分子中にラジカル重合性基を1個のみ有するラジカル重合性化合物としては、例えば、(メタ)アクリル酸、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n−ノニル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、2−ジシクロペンテノキシエチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシエトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシエトキシエチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、シクロヘキサンジメタノールモノ(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシエトキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、ビフェニル(メタ)アクリレート、ビフェノキシエチル(メタ)アクリレート、ビフェノキシエトキシエチル(メタ)アクリレート、ナフタレン(メタ)アクリレート、ナフタレンオキシエチル(メタ)アクリレート、ナフタレンオキシエトキシエチル(メタ)アクリレート、フェナントレン(メタ)アクリレート、フェナントレンオキシエチル(メタ)アクリレート、フェナントレンオキシエトキシエチル(メタ)アクリレート、アントラセン(メタ)アクリレート、アントラセンオキシエチル(メタ)アクリレート、アントラセンオキシエトキシエチル(メタ)アクリレート、ノルボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニルオキシエチル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、フェニルエポキシ(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロイルモルホリン、ダイアセトン(メタ)アクリルアミド、N−[2−(メタ)アクリロイルエチル]−1,2−シクロヘキサンジカルボイミド、N−[2−(メタ)アクリロイルエチル]−1,2−シクロヘキサンジカルボイミド−1−エン、N−[2−(メタ)アクリロイルエチル]−1,2−シクロヘキサンジカルボイミド−4−エン等の単官能性(メタ)アクリレート系モノマーや、N−ビニルピロリドン、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、4−ヒドロキシスチレン、酢酸アリル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、安息香酸ビニル等のビニル系モノマー等が挙げられる。
【0055】
一分子中にラジカル重合性基を2個有するラジカル重合性化合物としては、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールピバリン酸エステルジ(メタ)アクリレート、ビス(オキシメチル)トリシクロ[5.2.1.0(2,6)]デカンジ(メタ)アクリレート、2,2−ビス(4−(アクリルオキシジエトキシ)フェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタクリルオキシジエトキシ)フェニル)プロパン、トリシクロ[5.2.1.0(2,6)]デカン−3,8−ジイルジメチルジメタクリレート、ビスフェノール−A−ジグリシジルエーテルジ(メタ)アクリレート、1,4−シクロヘキサンジメタノールのエチレンオキサイド変性ジアクリレート、エチレンオキサイド変性テトラブロモビスフェノール−A−ジ(メタ)アクリレート、フェニルジ(メタ)アクリレート、フェニルジオキシエチル(メタ)アクリレート、フェニルジオキシエトキシエチル(メタ)アクリレート、ビフェニルジ(メタ)アクリレート、ビフェニルジオキシエチル(メタ)アクリレート、ビフェニルジオキシエトキシエチル(メタ)アクリレート、ナフタレンジ(メタ)アクリレート、ナフタレンジオキシエチル(メタ)アクリレート、ナフタレンジオキシエトキシエチル(メタ)アクリレート、フェナントレンジ(メタ)アクリレート、フェナントレンジオキシエチル(メタ)アクリレート、フェナントレンジオキシエトキシエチル(メタ)アクリレート、アントラセンジ(メタ)アクリレート、アントラセンジオキシエチル(メタ)アクリレート、アントラセンジオキシエトキシエチル(メタ)アクリレート等の2官能性(メタ)アクリレート系モノマー等が挙げられる。
【0056】
一分子中にラジカル重合性基を3個以上有する光重合性化合物としては、フェニルトリ(メタ)アクリレート、フェニルトリオキシエチル(メタ)アクリレート、フェニルトリオキシエトキシエチル(メタ)アクリレート、ビフェニルトリ(メタ)アクリレート、ビフェニルトリオキシエチル(メタ)アクリレート、ビフェニルトリオキシエトキシエチル(メタ)アクリレート、ナフタレントリ(メタ)アクリレート、ナフタレントリオキシエチル(メタ)アクリレート、ナフタレントリオキシエトキシエチル(メタ)アクリレート、フェナントレントリ(メタ)アクリレート、フェナントレントリオキシエチル(メタ)アクリレート、フェナントレントリオキシエトキシエチル(メタ)アクリレート、アントラセントリ(メタ)アクリレート、アントラセントリオキシエチル(メタ)アクリレート、アントラセントリオキシエトキシエチル(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンエトキシトリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートトリ(メタ)アクリレート等の3〜6官能(メタ)アクリレートモノマー等が挙げられる。
【0057】
さらに、一分子中にラジカル重合性基を2個以上有するオリゴマーであるラジカル重合性化合物としてはウレタン(メタ)アクリレート、エステル(メタ)アクリレート等のオリゴマー(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0058】
なお、本明細書において、(メタ)アクリロイルという呼称は、アクリロイル及びメタアクリロイルの総称として用いている。
【0059】
また、本発明のいくつかの態様に係る光硬化性組成物は、上記式(A)又は(B)で表される化合物以外のラジカル重合開始剤を含有していてもよい。当該他のラジカル重合開始剤としては、アセトフェノン、ベンゾフェノン、ベンジルジアルキルケタール、α−ヒドロキシアルキルフェノン類、α−アミノアルキルフェノン類、アシルフォスフィンオキサイド類、チタノセン類及びオキシムエステル類、トリハロメチルトリアジン類、その他トリハロメチル基を有する化合物等が挙げられる。
【0060】
上記のような主に光照射によりラジカルを発生させるラジカル開始剤以外にも、例えば、2,2‘−アゾビス(イソブチロニトリル)、過酸化ベンゾイル等の主に加熱によりラジカルを発生させるラジカル開始剤を用いることができる。
【0061】
上記のようなラジカル開始剤以外にも、例えば、スルホニウム塩、ヨード二ウム塩及びアンモニウム塩等に代表される光又は熱により酸又は塩基を発生させる開始剤を添加することも可能である。
【0062】
上述のように、複数の開始剤を組成物に含有させることにより、例えば、多段階の硬化や、パターニング後の硬化が容易となる。
【0063】
また、本発明のいくつかの態様に係る光硬化性組成物は、対象とする用途や性質等に応じて、光増感剤、非光硬化性オリゴマーや非光硬化性ポリマー、密着性付与剤(例えば、シランカップリング剤)、有機溶剤、レベリング剤、可塑剤、充填剤、消泡剤、難燃剤、安定剤、酸化防止剤、香料、熱架橋剤や、重合禁止剤等の添加物を含有させてもよく、これらは、単独で又は2種類以上を組み合わせて含有させてもよい。
【0064】
上記の光硬化性組成物に添加する有機溶剤としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系化合物、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル、酢酸メトキシエチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のエステル系化合物、ジエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、フェニルセロソルブ、ジオキサン等のエーテル系化合物、トルエン、キシレン等の芳香族化合物、ペンタン、ヘキサン等の脂肪族化合物、塩化メチレン、クロロベンゼン、クロロホルム等のハロゲン系炭化水素、メタノール、エタノール、ノルマルプロパノール、イソプロパノール等のアルコール等を挙げることができる。
【0065】
上記の光硬化性組成物が含有する上記式(A)又は(B)で表される化合物の量は、目的とする用途や性質等によって適宜選択される。一例としては、上記式(A)又は(B)で表される化合物の含有量は、例えば、0.1〜60質量%であり、典型的には、0.5〜30質量%であり、さらに典型的には、1〜10質量%である。
【0066】
上記の光硬化性組成物に、例えば、波長200〜400nmのいずれかの波長の光を照射することにより、上記式(A)又は(B)で表される化合物が自己開裂してラジカルを発生し、このラジカルをトリガーとして、上記式(A)又は(B)で表される化合物自身又は必要に応じて添加するラジカル重合性化合物が重合して、光硬化物が形成される。そして、上記式(A)で表される化合物は二つのフェニル基のそれぞれに結合したエステル基を有するため、上記式(A)又は(B)で表される化合物や上記式(A)又は(B)で表される化合物が開裂して生成する化学種はエステル基等の電子吸引性基を有するため、容易に揮発せず光硬化物内に保持される。それ故、光硬化後に従来問題となっていた経時によるラジカル重合開始剤成分及びその開裂物のブリードアウトを大幅に抑制することができる。
【実施例】
【0067】
以下、本発明のいくつかの態様に係る実施例によって、さらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例によって何ら制限されるものではない。なお、以下の合成例において、化合物の純度は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により求めた。HPLC分析の条件は次のとおりである。
カラム:SHISEIDO 製 SUPERIOREX ODS
溶離液:アセトニトリル:水=80:20(体積比)の混合溶媒
検出波長:254nm
【0068】
(合成例1) 4,4’−ジヒドロキシベンジルの合成
【0069】
4,4’−ジメトキシベンジル5.0gを酢酸95mlに溶解する。これに70℃にて、48質量%HBr水溶液31.2gを10分間で滴下する。滴下後、110℃で70時間攪拌する。その後、水150gを添加して結晶化する。これをろ過し、結晶を水250gで洗浄した後、乾燥することで、目的物である4,4’−ジヒドロキシベンジルを4.0g得る。
【0070】
(合成例2) 2,2−ジメトキシ−1,2−ジ−(4−アセトキシ)フェニルエタン−1−オンの合成
【0071】
4,4’−ジヒドロキシベンジル1.6gと硫酸0.16gとをメタノール12.8gに溶解して、25℃とする。これにオルト蟻酸トリメチル4.2gを滴下して15時間攪拌する。その後、トリエチルアミン3.0gを30℃で添加して5分間攪拌後、溶媒であるメタノールを留去する。そして、得られた残渣にアセトニトリル14gを加えることで結晶化する。これをろ過して得られた結晶を再びアセトニトリル14gに分散する。それにトリエチルアミン1.7g及びジメチルアミノピリジン0.081gを添加した後、アセトニトリル5.0gで希釈した無水酢酸1.7gを30℃で滴下する。滴下終了後、25℃にて2時間攪拌した後、3質量%NaHCO水溶液64gを添加して5分間攪拌する。その後、酢酸エチル32gで抽出し、水10gで3回洗浄、飽和食塩水10gで1回洗浄を行った後に溶媒を留去することで、2,2−ジメトキシ−1,2−ジ−(4−アセトキシ)フェニルエタン−1−オンを1.35g得る。得られた化合物の純度は99.2%である。
【0072】
(合成例3) 2,2−ジメトキシ−1,2−ジ−(4−シクロヘキサノイルオキシ)フェニルエタン−1−オンの合成
【0073】
4,4’−ジヒドロキシベンジル1.6gと硫酸0.16gとをメタノール12.8gに溶解して、25℃とする。これにオルト蟻酸トリメチル4.2gを滴下して15時間攪拌する。その後、トリエチルアミン3.0gを30℃で添加して5分間攪拌後、溶媒であるメタノールを留去する。そして、得られた残渣にアセトニトリル14gを加えることで結晶化する。これをろ過して得られた結晶を再びアセトニトリル14gに分散した。それにトリエチルアミン1.7g及びジメチルアミノピリジン0.081gを添加した後、アセトニトリル5.0gで希釈したシクロヘキサンカルボニルクロライド2.4gを30℃で滴下する。滴下終了後、25℃にて2時間攪拌した後、3質量%NaHCO水溶液64gを添加して5分攪拌する。その後、酢酸エチル32gで抽出し、水10gで3回洗浄、飽和食塩水10gで1回洗浄を行った後に溶媒を留去することで、2,2−ジメトキシ−1,2−ジ−(4−シクロヘキサノイルオキシ)フェニルエタン−1−オンを1.70g得る。得られた化合物の純度は99.5%である。
【0074】
(合成例4) 2,2−ジメトキシ−1,2−ジ−(4−ウンデカノイルオキシ)フェニルエタン−1−オンの合成
【0075】
4,4’−ジヒドロキシベンジル1.6gと硫酸0.16gとをメタノール12.8gに溶解して、25℃とする。これにオルト蟻酸トリメチル4.2gを滴下して15時間攪拌する。その後、トリエチルアミン3.0gを30℃で添加して5分間攪拌後、溶媒であるメタノールを留去する。そして、得られた残渣にアセトニトリル14gを加えることで結晶化する。これをろ過して得られた結晶を再びアセトニトリル14gに分散する。それにトリエチルアミン1.7g及びジメチルアミノピリジン0.081gを添加した後、アセトニトリル5.0gで希釈したラウリル酸クロライド3.7gを30℃で滴下する。滴下後、25℃にて2時間攪拌した後、3質量%NaHCO水溶液64gを添加して5分間攪拌する。その後、酢酸エチル32gで抽出し、水10gで3回洗浄、飽和食塩水10gで1回洗浄を行った後に溶媒を留去する。その後、得られた残渣をカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル:ヘキサン=1:4(体積比))で精製することにより、2,2−ジメトキシ−1,2−ジ−(4−ウンデカノイルオキシ)フェニルエタン−1−オンを1.52g得る。得られた化合物の純度は99.6%である。
【0076】
(合成例5) 2,2−ジメトキシ−1,2−ジ−[4−(4−メトキシ)ベンゾイルオキシ)フェニルエタン−1−オンの合成
【0077】
4,4−ジヒドロキシベンジル1.6gと硫酸0.16gをメタノール12.8gに溶解して、25℃とする。これにオルト蟻酸トリメチル4.2gを滴下して15時間攪拌する。その後、トリエチルアミン3.0gを30℃で添加して5分間攪拌後、溶媒であるメタノールを留去する。そして、得られた残渣にアセトニトリル14gを加えることで結晶化する。これをろ過して得られた結晶を再びアセトニトリル14gに分散して15℃とする。そこにトリエチルアミン1.7g、ジメチルアミノピリジン0.081gを添加した後、アセトニトリル3.0gで希釈した4−メトキシベンゾイルクロリド2.1gを20℃で滴下する。滴下後、15℃にて1時間攪拌した後、3質量%NaHCO水溶液64gを添加して5分攪拌する。その後トルエン32gで抽出し、水10gで3回洗浄、飽和食塩水10gで1回洗浄を行った後に、溶媒留去することで、2,2−ジメトキシ−1,2−ジ−[4−(4−メトキシ)ベンゾイルオキシ)フェニルエタン−1−オンを2.02g得る。得られた化合物の純度は99.1%である。
【0078】
(合成例6) 2,2−ジメトキシ−1,2−ジ−(4−メタンスルホニルオキシ)フェニルエタン−1−オンの合成
【0079】
4,4’−ジヒドロキシベンジル1.6gと硫酸0.16gとをメタノール12.8gに溶解して、25℃とする。これにオルト蟻酸トリメチル4.2gを滴下して15時間攪拌する。その後、トリエチルアミン3.0gを30℃で添加して5分間攪拌後、溶媒であるメタノールを留去する。そして、得られた残渣にアセトニトリル14gを加えることで結晶化する。これをろ過して得られた結晶を再びアセトニトリル14gに分散する。それにトリエチルアミン1.7g及びジメチルアミノピリジン0.081gを添加した後、アセトニトリル5.0gで希釈した塩化メタンスルホニル1.9gを30℃で滴下する。滴下終了後、25℃にて2時間攪拌した後、3質量%NaHCO水溶液64gを添加して5分攪拌する。その後、酢酸エチル32gで抽出し、水10gで3回洗浄、飽和食塩水10gで1回洗浄を行った後に溶媒を留去することで、2,2−ジメトキシ−1,2−ジ−(4−メタンスルホニルオキシ)フェニルエタン−1−オンを1.47g得る。得られた化合物の純度は98.9%である。
【0080】
(合成例7) 2,2−ジメトキシ−1,2−ジ−(4−t-ブチルオキシカルボニルオキシ)フェニルエタン−1−オンの合成
【0081】
4,4’−ジヒドロキシベンジル1.6gと硫酸0.16gとをメタノール12.8gに溶解して、25℃とする。これにオルト蟻酸トリメチル4.2gを滴下して15時間攪拌する。その後、トリエチルアミン3.0gを30℃で添加して5分間攪拌後、溶媒であるメタノールを留去した。そして、得られた残渣にアセトニトリル14gを加えることで結晶化する。これをろ過して得られた結晶を再びアセトニトリル14gに分散した。それにトリエチルアミン1.7g及びジメチルアミノピリジン0.081gを添加した後、アセトニトリル5.0gで希釈した無水酢酸3.5gを30℃で滴下する。滴下後、25℃にて2時間攪拌した後、3質量%NaHCO水溶液64gを添加して5分攪拌する。その後、酢酸エチル32gで抽出し、水10gで3回洗浄、飽和食塩水10gで1回洗浄を行った後に溶媒を留去することで2,2−ジメトキシ−1,2−ジ−(4−t-ブチルオキシカルボニルオキシ)フェニルエタン−1−オンを1.58g得る。得られた化合物の純度は99.1%である。
【0082】
(合成例8) 2,2−ジエトキシ−1,2−ジ−(4−アセトキシ)フェニルエタン−1−オンの合成
【0083】
オルト蟻酸トリメチルのかわりにオルト蟻酸トリエチルを用い、硫酸のかわりにトリフルオロメタンスルホン酸セリウム(III)を用い、また、メトキノンを添加してから溶媒を留去した後の操作をカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル:ヘキサン=1:5(体積比))による精製とした以外は、合成例2と同様の操作を行うことで、2,2−ジエトキシ−1,2−ジ−(4−アセトキシ)フェニルエタン−1−オンを収率52モル%、純度97.3%で得る。
【0084】
(合成例9) 3,3’−ジメトキシベンジルの合成
【0085】
3−メトキシブロモベンゼンを出発原料として非特許文献1の合成方法にしたがって、3,3’−ジメトキシベンジルを収率64モル%で得る。
【0086】
(合成例10) 3,3’−ジヒドロキシベンジルの合成
【0087】
出発原料を4,4’−ジメトキシベンジルのかわりに3,3’−ジメトキシベンジルとした以外は、合成例1と同様の操作を行って、目的物である3,3’−ジヒドロキシベンジルを収率90モル%で得る。
【0088】
(合成例11) 2,2−ジメトキシ−1,2−ジ−(3−アセトキシ)フェニルエタン−1−オンの合成
【0089】
4,4’−ジヒドロキシベンジルのかわりに3,3’−ジヒドロキシベンジルを用い、オルト蟻酸トリメチルを滴下後の攪拌時間を48時間とし、また、メトキノンを添加してから溶媒を留去した後の操作をカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル:ヘキサン=1:9)による精製とした以外は、合成例2と同様の操作を行い、2,2−ジメトキシ−1,2−ジ−(3−アセトキシ)フェニルエタン−1−オンを収率62モル%、純度99.1%で得る。
【0090】
(合成例12) 2,2−ジメトキシ−1,2−ジ−[4−(2−クロロ)−アセトキシ]−フェニルエタン−1−オンの合成
【0091】
クロロアセチルクロライドを用い、また、メトキノンを添加してから溶媒を留去した後の操作を省略した以外は合成例3と同様の操作を行って、目的物である2,2−ジメトキシ−1,2−ジ−[4−(2−クロロ)−アセトキシ]−フェニルエタン−1−オンを粗収率58モル%で得る。
【0092】
(合成例13) 2,2−ジメトキシ−1,2−ジ−[4−(2−アセトキシ)−アセトキシ]−フェニルエタン−1−オンの合成
【0093】
合成例12で得た2,2−ジメトキシ−1,2−ジ−[4−(2−クロロ)−アセトキシ]−フェニルエタン−1−オンの粗体1.0gとヨウ化ナトリウム0.03gとをN,N−ジメチルホルムアミド7.0gに溶解する。これに酢酸ナトリウム0.49gを添加して50℃で15時間攪拌する。その後、3質量%NaHCO水溶液を添加して5分間攪拌する。その後、トルエン20gで抽出し、水10gで3回洗浄、飽和食塩水10gで1回洗浄を行った後溶媒を留去する。得られた残渣をカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル:ヘキサン=3:2(体積比))で精製することにより、2,2−ジメトキシ−1,2−ジ−[4−(2−アセトキシ)−アセトキシ]−フェニルエタン−1−オンを収率68モル%、純度96.3%で得る。
【0094】
(比較合成例1) 2,2−ジメトキシ−1,2−ジ−(4−メトキシ)フェニルエタン−1−オンの合成
【0095】
4,4’−ジメトキシベンジル1.8gと硫酸0.16gとをメタノール12.8gに溶解して、25℃とする。これにオルト蟻酸トリメチル4.2gを滴下して15時間攪拌する。その後、トリエチルアミン3.0gを30℃で添加して5分間攪拌後、溶媒であるメタノールを留去する。その後、酢酸エチル32gで再溶解し、水10gで3回洗浄、飽和食塩水10gで1回洗浄を行った後に溶媒を留去することで、2,2−ジメトキシ−1,2−ジ−(4−メトキシ)フェニルエタン−1−オンを1.6g得る。得られた化合物の純度は98.9%である。
【0096】
(揮発性試験)
合成例2で得られた2,2−ジメトキシ−1,2−ジ−(4−アセトキシ)フェニルエタン−1−オン(実施例1)、合成例5で得られた2,2−ジメトキシ−1,2−ジ−[4−(4−メトキシ)ベンゾイルオキシ)フェニルエタン−1−オン(実施例2)、比較例としてIRGACURE651及び比較合成例1で得た2,2−ジメトキシ−1,2−ジ−(4−メトキシ)フェニルエタン−1−オンをそれぞれ5.00mgアルミ製容器に秤量して示差熱-熱重量同時測定装置(TG−DTA:Material Analysis and Characterization製 TG−DTA 2000S)により130℃、15分間の重量減少を測定することで揮発性を評価した。
【0097】
【表1】
【0098】
表1に示す通り、比較例2のメトキシ基を付加したものはIRGACURE651と比較して分子量の増加が小さく十分に揮発性を低減できず、揮発性を低減させるためにはより大きな置換基の導入が必要になる。一方、汎用的でかつ比較的分子量の小さな電子吸引性基であるアセチル基及びメシル基を付加した実施例1,2のどちらの場合においても溶媒揮発工程で利用される温度において、従来のIRGACURE651と比較して揮発性を十分に低減させることが出来た。
【0099】
(感度評価)
メトキシ-ポリエチレングリコールアクリレート(商品名:ライトアクリレート130−A、共栄社化学(株)製)(モノマーA)、プロピレングリコールジグリシジルエーテルアクリル酸付加物(商品名:エポキシエステル70PA、共栄社化学(株)製)(モノマーB)、ペンタエリスリトールテトラアクリレート(商品名:ライトアクリレートPE−4A、共栄社化学(株)製)(モノマーC)及び合成例2で得られた2,2−ジメトキシ−1,2−ジ−(4−アセトキシ)フェニルエタン−1−オン(実施例1)、合成例5で得られた2,2−ジメトキシ−1,2−ジ−[4−(4−メトキシ)ベンゾイルオキシ)フェニルエタン−1−オン(実施例2)、比較例としてIRGACURE651及び比較合成例1で得た2,2−ジメトキシ−1,2−ジ−(4−メトキシ)フェニルエタン−1−オンをそれぞれ秤量してプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)で希釈して室温(25℃)で撹拌混合して、表2に示す光硬化性組成物を調製した。
【0100】
【表2】
【0101】
次に、得られた光硬化性組成物をあらかじめヘキサメチレンジシラザン(HMDS)処理を行ったシリコンウェハ上にスピンコートし、その後130℃で3分間 Prebake(PB)を行い約10μmの膜を作製した。これを、バンドパスフィフィルターを用いて露光波長が365nm±5nmとなるようにした高圧水銀灯を光源としてフォトマスクを介して露光装置(HMW―661C―3 オーク製作所)を用いて露光することにより光硬化性組成物を硬化させた。硬化後、現像溶媒で1分間現像、PWで1分間洗浄することで100μmのパターンを作成し、その際の最小露光量を感度(Emax)とした。サンプルの積算露光量は照度計(UIT―150−A, ウシオ電機株式会社)の365nm受光器を用いて得られた照度から算出した。
【0102】
【表3】
【0103】
表3に示す通り、実施例に示す電子吸引性置換基を有する重合開始剤を用いた場合、揮発性が低いため溶媒揮発工程で揮発することなく膜中に残存するため、比較例よりも高感度であった。さらに実施例2に示す重合開始剤のように分子量の大きな置換基を導入しても感度を損なうことなく目的の硬化物を得られた。分子量の大きな置換基の導入は、揮発性の低減と膜中から経時によって溶出するブリードアウト現象に効果的である。比較例2に示す電子供与性基を有する重合開始剤はモル吸光係数が高いにも関わらず感度は実施例1,2と同程度であった。電子供与性基を置換することでフェニル基が安定化されて長波長化するが開始剤のラジカル発生効率に影響を与えないことが示唆される。つまり、高い透過率を必要とする厚膜のアプリケーション用途においては電子供与性基を付加することでのモル吸光係数の増加が不利に働く場合があると考えられる。