【実施例】
【0067】
以下、本発明のいくつかの態様に係る実施例によって、さらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例によって何ら制限されるものではない。なお、以下の合成例において、化合物の純度は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により求めた。HPLC分析の条件は次のとおりである。
カラム:SHISEIDO 製 SUPERIOREX ODS
溶離液:アセトニトリル:水=80:20(体積比)の混合溶媒
検出波長:254nm
【0068】
(合成例1) 4,4’−ジヒドロキシベンジルの合成
【0069】
4,4’−ジメトキシベンジル5.0gを酢酸95mlに溶解する。これに70℃にて、48質量%HBr水溶液31.2gを10分間で滴下する。滴下後、110℃で70時間攪拌する。その後、水150gを添加して結晶化する。これをろ過し、結晶を水250gで洗浄した後、乾燥することで、目的物である4,4’−ジヒドロキシベンジルを4.0g得る。
【0070】
(合成例2) 2,2−ジメトキシ−1,2−ジ−(4−アセトキシ)フェニルエタン−1−オンの合成
【0071】
4,4’−ジヒドロキシベンジル1.6gと硫酸0.16gとをメタノール12.8gに溶解して、25℃とする。これにオルト蟻酸トリメチル4.2gを滴下して15時間攪拌する。その後、トリエチルアミン3.0gを30℃で添加して5分間攪拌後、溶媒であるメタノールを留去する。そして、得られた残渣にアセトニトリル14gを加えることで結晶化する。これをろ過して得られた結晶を再びアセトニトリル14gに分散する。それにトリエチルアミン1.7g及びジメチルアミノピリジン0.081gを添加した後、アセトニトリル5.0gで希釈した無水酢酸1.7gを30℃で滴下する。滴下終了後、25℃にて2時間攪拌した後、3質量%NaHCO
3水溶液64gを添加して5分間攪拌する。その後、酢酸エチル32gで抽出し、水10gで3回洗浄、飽和食塩水10gで1回洗浄を行った後に溶媒を留去することで、2,2−ジメトキシ−1,2−ジ−(4−アセトキシ)フェニルエタン−1−オンを1.35g得る。得られた化合物の純度は99.2%である。
【0072】
(合成例3) 2,2−ジメトキシ−1,2−ジ−(4−シクロヘキサノイルオキシ)フェニルエタン−1−オンの合成
【0073】
4,4’−ジヒドロキシベンジル1.6gと硫酸0.16gとをメタノール12.8gに溶解して、25℃とする。これにオルト蟻酸トリメチル4.2gを滴下して15時間攪拌する。その後、トリエチルアミン3.0gを30℃で添加して5分間攪拌後、溶媒であるメタノールを留去する。そして、得られた残渣にアセトニトリル14gを加えることで結晶化する。これをろ過して得られた結晶を再びアセトニトリル14gに分散した。それにトリエチルアミン1.7g及びジメチルアミノピリジン0.081gを添加した後、アセトニトリル5.0gで希釈したシクロヘキサンカルボニルクロライド2.4gを30℃で滴下する。滴下終了後、25℃にて2時間攪拌した後、3質量%NaHCO
3水溶液64gを添加して5分攪拌する。その後、酢酸エチル32gで抽出し、水10gで3回洗浄、飽和食塩水10gで1回洗浄を行った後に溶媒を留去することで、2,2−ジメトキシ−1,2−ジ−(4−シクロヘキサノイルオキシ)フェニルエタン−1−オンを1.70g得る。得られた化合物の純度は99.5%である。
【0074】
(合成例4) 2,2−ジメトキシ−1,2−ジ−(4−ウンデカノイルオキシ)フェニルエタン−1−オンの合成
【0075】
4,4’−ジヒドロキシベンジル1.6gと硫酸0.16gとをメタノール12.8gに溶解して、25℃とする。これにオルト蟻酸トリメチル4.2gを滴下して15時間攪拌する。その後、トリエチルアミン3.0gを30℃で添加して5分間攪拌後、溶媒であるメタノールを留去する。そして、得られた残渣にアセトニトリル14gを加えることで結晶化する。これをろ過して得られた結晶を再びアセトニトリル14gに分散する。それにトリエチルアミン1.7g及びジメチルアミノピリジン0.081gを添加した後、アセトニトリル5.0gで希釈したラウリル酸クロライド3.7gを30℃で滴下する。滴下後、25℃にて2時間攪拌した後、3質量%NaHCO
3水溶液64gを添加して5分間攪拌する。その後、酢酸エチル32gで抽出し、水10gで3回洗浄、飽和食塩水10gで1回洗浄を行った後に溶媒を留去する。その後、得られた残渣をカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル:ヘキサン=1:4(体積比))で精製することにより、2,2−ジメトキシ−1,2−ジ−(4−ウンデカノイルオキシ)フェニルエタン−1−オンを1.52g得る。得られた化合物の純度は99.6%である。
【0076】
(合成例5) 2,2−ジメトキシ−1,2−ジ−[4−(4−メトキシ)ベンゾイルオキシ)フェニルエタン−1−オンの合成
【0077】
4,4−ジヒドロキシベンジル1.6gと硫酸0.16gをメタノール12.8gに溶解して、25℃とする。これにオルト蟻酸トリメチル4.2gを滴下して15時間攪拌する。その後、トリエチルアミン3.0gを30℃で添加して5分間攪拌後、溶媒であるメタノールを留去する。そして、得られた残渣にアセトニトリル14gを加えることで結晶化する。これをろ過して得られた結晶を再びアセトニトリル14gに分散して15℃とする。そこにトリエチルアミン1.7g、ジメチルアミノピリジン0.081gを添加した後、アセトニトリル3.0gで希釈した4−メトキシベンゾイルクロリド2.1gを20℃で滴下する。滴下後、15℃にて1時間攪拌した後、3質量%NaHCO
3水溶液64gを添加して5分攪拌する。その後トルエン32gで抽出し、水10gで3回洗浄、飽和食塩水10gで1回洗浄を行った後に、溶媒留去することで、2,2−ジメトキシ−1,2−ジ−[4−(4−メトキシ)ベンゾイルオキシ)フェニルエタン−1−オンを2.02g得る。得られた化合物の純度は99.1%である。
【0078】
(合成例6) 2,2−ジメトキシ−1,2−ジ−(4−メタンスルホニルオキシ)フェニルエタン−1−オンの合成
【0079】
4,4’−ジヒドロキシベンジル1.6gと硫酸0.16gとをメタノール12.8gに溶解して、25℃とする。これにオルト蟻酸トリメチル4.2gを滴下して15時間攪拌する。その後、トリエチルアミン3.0gを30℃で添加して5分間攪拌後、溶媒であるメタノールを留去する。そして、得られた残渣にアセトニトリル14gを加えることで結晶化する。これをろ過して得られた結晶を再びアセトニトリル14gに分散する。それにトリエチルアミン1.7g及びジメチルアミノピリジン0.081gを添加した後、アセトニトリル5.0gで希釈した塩化メタンスルホニル1.9gを30℃で滴下する。滴下終了後、25℃にて2時間攪拌した後、3質量%NaHCO
3水溶液64gを添加して5分攪拌する。その後、酢酸エチル32gで抽出し、水10gで3回洗浄、飽和食塩水10gで1回洗浄を行った後に溶媒を留去することで、2,2−ジメトキシ−1,2−ジ−(4−メタンスルホニルオキシ)フェニルエタン−1−オンを1.47g得る。得られた化合物の純度は98.9%である。
【0080】
(合成例7) 2,2−ジメトキシ−1,2−ジ−(4−t-ブチルオキシカルボニルオキシ)フェニルエタン−1−オンの合成
【0081】
4,4’−ジヒドロキシベンジル1.6gと硫酸0.16gとをメタノール12.8gに溶解して、25℃とする。これにオルト蟻酸トリメチル4.2gを滴下して15時間攪拌する。その後、トリエチルアミン3.0gを30℃で添加して5分間攪拌後、溶媒であるメタノールを留去した。そして、得られた残渣にアセトニトリル14gを加えることで結晶化する。これをろ過して得られた結晶を再びアセトニトリル14gに分散した。それにトリエチルアミン1.7g及びジメチルアミノピリジン0.081gを添加した後、アセトニトリル5.0gで希釈した無水酢酸3.5gを30℃で滴下する。滴下後、25℃にて2時間攪拌した後、3質量%NaHCO
3水溶液64gを添加して5分攪拌する。その後、酢酸エチル32gで抽出し、水10gで3回洗浄、飽和食塩水10gで1回洗浄を行った後に溶媒を留去することで2,2−ジメトキシ−1,2−ジ−(4−t-ブチルオキシカルボニルオキシ)フェニルエタン−1−オンを1.58g得る。得られた化合物の純度は99.1%である。
【0082】
(合成例8) 2,2−ジエトキシ−1,2−ジ−(4−アセトキシ)フェニルエタン−1−オンの合成
【0083】
オルト蟻酸トリメチルのかわりにオルト蟻酸トリエチルを用い、硫酸のかわりにトリフルオロメタンスルホン酸セリウム(III)を用い、また、メトキノンを添加してから溶媒を留去した後の操作をカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル:ヘキサン=1:5(体積比))による精製とした以外は、合成例2と同様の操作を行うことで、2,2−ジエトキシ−1,2−ジ−(4−アセトキシ)フェニルエタン−1−オンを収率52モル%、純度97.3%で得る。
【0084】
(合成例9) 3,3’−ジメトキシベンジルの合成
【0085】
3−メトキシブロモベンゼンを出発原料として非特許文献1の合成方法にしたがって、3,3’−ジメトキシベンジルを収率64モル%で得る。
【0086】
(合成例10) 3,3’−ジヒドロキシベンジルの合成
【0087】
出発原料を4,4’−ジメトキシベンジルのかわりに3,3’−ジメトキシベンジルとした以外は、合成例1と同様の操作を行って、目的物である3,3’−ジヒドロキシベンジルを収率90モル%で得る。
【0088】
(合成例11) 2,2−ジメトキシ−1,2−ジ−(3−アセトキシ)フェニルエタン−1−オンの合成
【0089】
4,4’−ジヒドロキシベンジルのかわりに3,3’−ジヒドロキシベンジルを用い、オルト蟻酸トリメチルを滴下後の攪拌時間を48時間とし、また、メトキノンを添加してから溶媒を留去した後の操作をカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル:ヘキサン=1:9)による精製とした以外は、合成例2と同様の操作を行い、2,2−ジメトキシ−1,2−ジ−(3−アセトキシ)フェニルエタン−1−オンを収率62モル%、純度99.1%で得る。
【0090】
(合成例12) 2,2−ジメトキシ−1,2−ジ−[4−(2−クロロ)−アセトキシ]−フェニルエタン−1−オンの合成
【0091】
クロロアセチルクロライドを用い、また、メトキノンを添加してから溶媒を留去した後の操作を省略した以外は合成例3と同様の操作を行って、目的物である2,2−ジメトキシ−1,2−ジ−[4−(2−クロロ)−アセトキシ]−フェニルエタン−1−オンを粗収率58モル%で得る。
【0092】
(合成例13) 2,2−ジメトキシ−1,2−ジ−[4−(2−アセトキシ)−アセトキシ]−フェニルエタン−1−オンの合成
【0093】
合成例12で得た2,2−ジメトキシ−1,2−ジ−[4−(2−クロロ)−アセトキシ]−フェニルエタン−1−オンの粗体1.0gとヨウ化ナトリウム0.03gとをN,N−ジメチルホルムアミド7.0gに溶解する。これに酢酸ナトリウム0.49gを添加して50℃で15時間攪拌する。その後、3質量%NaHCO
3水溶液を添加して5分間攪拌する。その後、トルエン20gで抽出し、水10gで3回洗浄、飽和食塩水10gで1回洗浄を行った後溶媒を留去する。得られた残渣をカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル:ヘキサン=3:2(体積比))で精製することにより、2,2−ジメトキシ−1,2−ジ−[4−(2−アセトキシ)−アセトキシ]−フェニルエタン−1−オンを収率68モル%、純度96.3%で得る。
【0094】
(比較合成例1) 2,2−ジメトキシ−1,2−ジ−(4−メトキシ)フェニルエタン−1−オンの合成
【0095】
4,4’−ジメトキシベンジル1.8gと硫酸0.16gとをメタノール12.8gに溶解して、25℃とする。これにオルト蟻酸トリメチル4.2gを滴下して15時間攪拌する。その後、トリエチルアミン3.0gを30℃で添加して5分間攪拌後、溶媒であるメタノールを留去する。その後、酢酸エチル32gで再溶解し、水10gで3回洗浄、飽和食塩水10gで1回洗浄を行った後に溶媒を留去することで、2,2−ジメトキシ−1,2−ジ−(4−メトキシ)フェニルエタン−1−オンを1.6g得る。得られた化合物の純度は98.9%である。
【0096】
(揮発性試験)
合成例2で得られた2,2−ジメトキシ−1,2−ジ−(4−アセトキシ)フェニルエタン−1−オン(実施例1)、合成例5で得られた2,2−ジメトキシ−1,2−ジ−[4−(4−メトキシ)ベンゾイルオキシ)フェニルエタン−1−オン(実施例2)、比較例としてIRGACURE651及び比較合成例1で得た2,2−ジメトキシ−1,2−ジ−(4−メトキシ)フェニルエタン−1−オンをそれぞれ5.00mgアルミ製容器に秤量して示差熱-熱重量同時測定装置(TG−DTA:Material Analysis and Characterization製 TG−DTA 2000S)により130℃、15分間の重量減少を測定することで揮発性を評価した。
【0097】
【表1】
【0098】
表1に示す通り、比較例2のメトキシ基を付加したものはIRGACURE651と比較して分子量の増加が小さく十分に揮発性を低減できず、揮発性を低減させるためにはより大きな置換基の導入が必要になる。一方、汎用的でかつ比較的分子量の小さな電子吸引性基であるアセチル基及びメシル基を付加した実施例1,2のどちらの場合においても溶媒揮発工程で利用される温度において、従来のIRGACURE651と比較して揮発性を十分に低減させることが出来た。
【0099】
(感度評価)
メトキシ-ポリエチレングリコールアクリレート(商品名:ライトアクリレート130−A、共栄社化学(株)製)(モノマーA)、プロピレングリコールジグリシジルエーテルアクリル酸付加物(商品名:エポキシエステル70PA、共栄社化学(株)製)(モノマーB)、ペンタエリスリトールテトラアクリレート(商品名:ライトアクリレートPE−4A、共栄社化学(株)製)(モノマーC)及び合成例2で得られた2,2−ジメトキシ−1,2−ジ−(4−アセトキシ)フェニルエタン−1−オン(実施例1)、合成例5で得られた2,2−ジメトキシ−1,2−ジ−[4−(4−メトキシ)ベンゾイルオキシ)フェニルエタン−1−オン(実施例2)、比較例としてIRGACURE651及び比較合成例1で得た2,2−ジメトキシ−1,2−ジ−(4−メトキシ)フェニルエタン−1−オンをそれぞれ秤量してプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)で希釈して室温(25℃)で撹拌混合して、表2に示す光硬化性組成物を調製した。
【0100】
【表2】
【0101】
次に、得られた光硬化性組成物をあらかじめヘキサメチレンジシラザン(HMDS)処理を行ったシリコンウェハ上にスピンコートし、その後130℃で3分間 Prebake(PB)を行い約10μmの膜を作製した。これを、バンドパスフィフィルターを用いて露光波長が365nm±5nmとなるようにした高圧水銀灯を光源としてフォトマスクを介して露光装置(HMW―661C―3 オーク製作所)を用いて露光することにより光硬化性組成物を硬化させた。硬化後、現像溶媒で1分間現像、PWで1分間洗浄することで100μmのパターンを作成し、その際の最小露光量を感度(E
max)とした。サンプルの積算露光量は照度計(UIT―150−A, ウシオ電機株式会社)の365nm受光器を用いて得られた照度から算出した。
【0102】
【表3】
【0103】
表3に示す通り、実施例に示す電子吸引性置換基を有する重合開始剤を用いた場合、揮発性が低いため溶媒揮発工程で揮発することなく膜中に残存するため、比較例よりも高感度であった。さらに実施例2に示す重合開始剤のように分子量の大きな置換基を導入しても感度を損なうことなく目的の硬化物を得られた。分子量の大きな置換基の導入は、揮発性の低減と膜中から経時によって溶出するブリードアウト現象に効果的である。比較例2に示す電子供与性基を有する重合開始剤はモル吸光係数が高いにも関わらず感度は実施例1,2と同程度であった。電子供与性基を置換することでフェニル基が安定化されて長波長化するが開始剤のラジカル発生効率に影響を与えないことが示唆される。つまり、高い透過率を必要とする厚膜のアプリケーション用途においては電子供与性基を付加することでのモル吸光係数の増加が不利に働く場合があると考えられる。