特許第6095129号(P6095129)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6095129
(24)【登録日】2017年2月24日
(45)【発行日】2017年3月15日
(54)【発明の名称】光学異性体用分離剤
(51)【国際特許分類】
   G01N 30/88 20060101AFI20170306BHJP
   B01J 20/26 20060101ALI20170306BHJP
   C08F 38/00 20060101ALI20170306BHJP
【FI】
   G01N30/88 201W
   G01N30/88 201X
   G01N30/88 101K
   B01J20/26 G
   C08F38/00
【請求項の数】6
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2014-514754(P2014-514754)
(86)(22)【出願日】2013年5月10日
(86)【国際出願番号】JP2013063134
(87)【国際公開番号】WO2013168783
(87)【国際公開日】20131114
【審査請求日】2016年4月12日
(31)【優先権主張番号】特願2012-108689(P2012-108689)
(32)【優先日】2012年5月10日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人名古屋大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】100100549
【弁理士】
【氏名又は名称】川口 嘉之
(74)【代理人】
【識別番号】100126505
【弁理士】
【氏名又は名称】佐貫 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100131392
【弁理士】
【氏名又は名称】丹羽 武司
(74)【代理人】
【識別番号】100160945
【弁理士】
【氏名又は名称】菅家 博英
(72)【発明者】
【氏名】八島 栄次
(72)【発明者】
【氏名】飯田 拡基
(72)【発明者】
【氏名】タン チェンリン
(72)【発明者】
【氏名】内藤 裕樹
【審査官】 大瀧 真理
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/024718(WO,A1)
【文献】 特表2011−522684(JP,A)
【文献】 Yuki Naito et al.,Enantioseparation on Helical Poly(phenylacetylene)s Bearing Cinchona Alkaloid Pendant sas Chiral Stationary Phases for HPLC,Chemistry Letters,2012年 6月28日,41(8),809-811
【文献】 Zhenglin Tang et al.,Remarkable Enhancement of the Enantioselectivity of an Organocatalyzed Asymmetric Henry Reaction Assisted by Helical Poly(phenylacetylene)s Bearing Cinchona Alkaloid Pendants via an Amide Linkage,ACS Macro Letters,2012年,1(2),261-265
【文献】 Garret M. Miyake et al.,Synthesis of Helical Poly(phenylacetylene)s Bearing Cinchona Alkaloid Pendants and Their Application to Asymmetric Organocatalysis,Journal of Polymer Science, Part A: Polymer Chemistry,2011年,49(24),5192-5198
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 30/88
B01J 20/26
C08F 38/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)で表わされる構造を有するらせん高分子と、前記らせん高分子を担持する担体とを有し、前記らせん高分子が前記担体に担持されてなる光学異性体用分離剤。
【化1】
(式(I)中、Xは2価の芳香族基、単結合またはメチレン基を表し、Rは水素または炭素数1〜5のアルコキシを表し、nは5以上の整数を表す。Xが2価の芳香族基の場合、Yは−CONH−、−COO−、−NHCONH−、−NHCSNH−、−SO2NH−、または−NHCOO−を表し、Xが単結合またはメチレン基の場合、Yは−COO−、−NHCONH−、−NHCSNH−、または−NHCOO−を表す。)
【請求項2】
前記式(I)中のXが2価の芳香族基であり、Yが−CONH−、−COO−、−NHCONH−、−NHCSNH−、−SO2NH−、または−NHCOO−である、請求項1に記載の光学異性体用分離剤。
【請求項3】
前記式(I)中のXが単結合またはメチレン基であり、Yが−COO−、−NHCONH−、−NHCSNH−、または−NHCOO−である、請求項1に記載の光学異性体用分離剤。
【請求項4】
前記式(I)中のXがフェニレン基であり、Yが−CONH−である、請求項1または2に記載の光学異性体用分離剤。
【請求項5】
前記式(I)中のRが、水素またはメトキシ基であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の光学異性体用分離剤。
【請求項6】
前記担体がシリカゲルであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の光学異性体用分離剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光学異性体用分離剤に関し、らせん構造を有する高分子を有する光学異性体用分離剤に関する。
【背景技術】
【0002】
光学異性体は、医薬やその原料として用いられる。このような生体に作用させる用途では、光学異性体は、通常は一方の光学異性体のみが用いられ、非常に高い光学純度が要求される。このような高い光学純度を要する光学異性体の製造方法としては、光学分割能を有する光学異性体用分離剤を収容するカラムを、液体クロマトグラフィー、疑似移動床クロマトグラフィー及び超臨界流体クロマトグラフィー等のクロマトグラフィーにおいて用いることによって、ラセミ体のような光学異性体の混合物から一方の光学異性体を分離する方法が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
光学異性体用分離剤には、光学活性な部位を有する高分子を用いることができる。このような光学異性体用分離剤は、通常、シリカゲル等の担体とその表面に担持される前記高分子とから構成され、カラム管に収容されて光学分割に用いられる。
【0004】
一方、光学活性な部位を有する高分子には、種々の高分子が知られている。このような高分子としては、例えば、芳香環に光学活性なアミノ酸又はその誘導体がアミノ結合したアミド基を有する芳香族イソニトリルをリビング重合させてなる、同一の単量体からなる右巻き又は左巻きのらせん構造からなる主鎖構造を有するポリ芳香族イソシアニド誘導体が知られている(例えば、特許文献2及び非特許文献1参照。)。また、このポリ芳香族イソシアニド誘導体からなる光学異性体用分離剤も知られている(特許文献3)。
また、光学活性な部位を有する高分子として、シンコナアルカロイドを化学結合により導入したフェニレンアセチレンモノマーを重合して得られるらせん高分子が知られており、これを有機合成の触媒として用いる例も知られている(例えば非特許文献2及び3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第02/030853号
【特許文献2】国際公開第2007/063994号
【特許文献3】国際公開第2011/024718号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】J.Am.Chem.Soc., 131, 6709 (2009)
【非特許文献2】J.Poly.Sci.A, 49, 5192 (2011)
【非特許文献3】ACS Macro Lett., 1, 261 (2012)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、光学活性な部位を有するらせん高分子による新規な光学異性体用分離剤を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
光学異性体用分離剤には、光学活性な部位を有する高分子による種々の光学異性体用分離剤が知られている。このような光学異性体用分離剤は、光学分割において、高分子の物性によっては耐溶剤性や光学分割能において優れた特性を示すことがあるが、その一方で、光学分割時における高分子の形状や有効な官能基の位置関係等の要因により、期待された光学分割能が得られなかったり、又は期待以上の光学分割能が得られることがある。
【0009】
本発明者らは、シンコナアルカロイドをペンダント基として有するらせん高分子を担体へ担持させたところ、得られた担持物が種々の光学異性体に対して光学分割能を発現することを見出し、以下に示す本発明を完成させた。
【0010】
[1] 下記式(I)で表わされる構造を有するらせん高分子と、前記らせん高分子を担持する担体とを有し、前記らせん高分子が前記担体に担持されてなる光学異性体用分離剤。
【化1】
(式(I)中、Xは2価の芳香族基、単結合またはメチレン基を表し、Rは水素または炭素数1〜5のアルコキシを表し、nは5以上の整数を表す。Xが2価の芳香族基の場合、Yは−CONH−、−COO−、−NHCONH−、−NHCSNH−、−SO2NH−、または−NHCOO−を表し、Xが単結合またはメチレン基の場合、Yは−COO−、−NHCONH−、−NHCSNH−、または−NHCOO−を表す。)
[2] 前記式(I)中のXが2価の芳香族基であり、Yが−CONH−、−COO−、−NHCONH−、−NHCSNH−、−SO2NH−、または−NHCOO−である、[1]に記載の光学異性体用分離剤。
[3] 前記式(I)中のXが単結合またはメチレン基であり、Yが−COO−、−NHCONH−、−NHCSNH−、または−NHCOO−である、[1]に記載の光学異性体用分離剤。
[4] 前記式(I)中のXがフェニレン基であり、Yが−CONH−である、[1]または[2]に記載の光学異性体用分離剤。
[5] 前記式(I)中のRが、水素またはメトキシ基であることを特徴とする[1]〜[4]のいずれかに記載の光学異性体用分離剤。
[6] 前記担体がシリカゲルであることを特徴とする[1]〜[5]のいずれかに記載の光学異性体用分離剤。
【発明の効果】
【0011】
本発明の光学異性体用分離剤は、前記式(I)で表わされる構造を有するらせん高分子を担体に担持させてなる。よって、本発明によれば、光学活性な部位を有する高分子による新規な光学異性体用分離剤が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】(a)本発明にかかるらせん高分子(原料モノマーとしてアミノ化処理されたシンコニジンまたはキニンを用いたもの)の構造を示す図である。(b)本発明にかかるらせん高分子(原料モノマーとしてアミノ化処理されたシンコニンまたはキニジンを用いたもの)の構造を示す図である。(c)本発明にかかるらせん高分子(原料モノマーとしてアミノ化処理されていないシンコニンを用いたもの)の構造を示す図である。
図2】本発明の光学異性体用分離剤を用いて光学分割された各物質の構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の光学異性体用分離剤は、下記式(I)で表わされる構造を有するらせん高分子と、前記らせん高分子を担持する担体とを有し、前記らせん高分子が前記担体に担持されている。
【0014】
【化2】
【0015】
式(I)中、Xは2価の芳香族基、単結合またはメチレン基を表し、Rは水素または炭素数1〜5のアルコキシを表し、nは5以上の整数を表す。Xが2価の芳香族基の場合、Yは−CONH−、−COO−、−NHCONH−、−NHCSNH−、−SO2NH−、または−NHCOO−を表し、Xが単結合またはメチレン基の場合、Yは−COO−、−NHCONH−、−NHCSNH−、または−NHCOO−を表す。
【0016】
前記らせん高分子は、左巻き又は右巻きのいずれかであればよい。本発明の光学異性体用分離剤による光学分割は、前記らせん高分子と光学分割の目的物との相互作用によることから、本発明の光学異性体用分離剤の光学分割能は目的物に応じて異なる。前記らせん高分子を左巻き及び右巻きのいずれか一方の巻き方向のらせん高分子とすることによって、特定の目的物に対する光学分割能が発現し、又は向上することが期待される。
【0017】
前記Xは2価の芳香族基、単結合またはメチレン基を表す。芳香族基は、酸素、窒素、及び硫黄等のヘテロ原子やハロゲン原子を含んでいてもよい。芳香族基は、複数種を含んでいてもよいし、単一であってもよい。芳香族基は、前記らせん高分子を製造する際の取り扱いの容易さの観点から、炭素数が5〜14であることが好ましく、炭素数が6〜10であることがより好ましい。このような2価の芳香族基としては、例えば、フェニレン基をはじめ、以下に示す一価の基の任意の位置にもう一つの結合部位を有する芳香族基が挙げられる。2価の芳香族基は、上記の取り扱いの容易さの観点、及び特定の目的物に対する光学分割能の発現や向上が期待される観点から、単一であることが好ましい。このようなXの具体例としてはフェニレン基が挙げられる。
【0018】
【化3】
【0019】
前記Xがメチレン基である場合には、そのメチレン基には立体障害の小さな置換基を有していてもよいが、立体障害を低減させるために無置換であることが好ましい。
【0020】
前記Xが2価の芳香族基、単結合またはメチレン基であることで、前記高分子がらせん構造を形成することから、本発明の所期の効果を得ることができる。
【0021】
前記Rは、式(I)中の水素または炭素数1〜5のアルコキシ基である。炭素数1〜5のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基を好ましく挙げることができる。Rは、前記らせん高分子を製造する際の取り扱いの容易さの観点、及び特定の目的物に対する光学分割能の発現や向上が期待される観点から、水素またはメトキシ基であることが好ましい。
【0022】
前記Yは、−CONH−、−COO−、−NHCONH−、−NHCSNH−、−SO2NH−、または−NHCOO−である。このような基は、後述する官能基を有する化合物を特定のシンコナアルカロイドと反応させることによって得ることができる。
また、前記Yが上記の中から選ばれるものであることで、前記高分子がらせん構造を形成すること、また光学分割能を発揮するうえで重要となる水素結合可能な部位を有することから、本発明の所期の効果を得ることができる。
【0023】
前記nは、5以上であればよく、光学分割能の発現又はその向上の観点からは、大きいことが好ましく、前記らせん高分子の製造や光学異性体用分離剤の製造における取り扱いの容易さの観点からは、ある上限値を有することが好ましい。これらの観点から、通常nは100〜700である。
【0024】
前記らせん高分子の数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)は、光学分割能の発現又はその向上の観点からは、大きいことが好ましく、前記らせん高分子の溶剤への溶解性の観点からは、ある上限値を有することが好ましい。これらの観点から、20,000〜1,000,000であることが好ましい。前記らせん高分子の分子量分散(Mw/Mn)は前記らせん高分子の巻き方向が同じであれば特に限定されない。
【0025】
前記らせん高分子のMn、Mw、及びMw/Mnは、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)によって求めることができる。また前記nは、SECに加えて、NMRやIR等の通常の構造解析手段によって、前記らせん高分子の構成単位を特定することによって求めることができる。
【0026】
前記らせん高分子のMn、Mwは、後述する重合の工程において用いる重合開始剤とモノマーとのモル比を10〜1000の範囲で調整することによって調整することができる。
例えば、前記らせん高分子のMnやMwを大きくすることは、重合開始剤とモノマーとのモル比を大きくすることにより可能となる。
【0027】
前記らせん高分子は、例えば以下の方法により製造することができる。
まず、光学活性な分子として知られているシンコナアルカロイドを準備する。
前記シンコナアルカロイドとしては、市販されているキニン、キニジン、シンコニン、シンコニジン等を利用できる。
このようなシンコナアルカロイドについて、前記Yが−CONH−、−NHCONH−、−NHCSNH−または−SO2NH−である場合には、前記シンコナアルカロイドを予めアミノ化処理したものを原料として用いる。
そのようなアミノ化処理としては公知の方法を用いることができるが、例えばTetrahedron: Asymmetry.,6,1699 (1995)に記載の方法や特開2010−24173号公報に記載の方法が挙げられる。これらの方法によれば、9−アミノシンコナアルカロイドを合成することができる。
前記Yが−COO−または−NHCOO−である場合は、シンコナアルカロイドをそのまま用いる。
【0028】
前記Xが2価の芳香族基である場合は、アミノ化処理された9−アミノシンコナアルカロイドを、エチニル基を有する芳香族カルボン酸(Yが−CONH−の場合)、エチニル基を有する芳香族イソシアネート(Yが−NHCONH―の場合)、エチニル基を有する芳香族イソチオシアネート(Yが−NHCSNH−の場合)、エチニル基を有する芳香族スルホン酸ハロゲン化物(Yが−SO2NH−の場合)と反応させ、またはアミノ化処理されていないシンコナアルカロイドを、エチニル基を有する芳香族カルボン酸ハロゲン化物(Yが−COO−の場合)、またはエチニル基を有する芳香族イソシアネート(Yが−NHCOO−の場合)と反応させ、それぞれのモノマーを合成する。
また、前記Xが単結合またはメチレン基である場合は、アミノ化処理された9−アミノシンコナアルカロイドのアミノ基を、イソシアネートまたはチオシアネート、クロロホルメートへと変換したのち、エチニル基を有するアミン(Yが−NHCONH―、−NHCSNH−または−NHCOO−の場合)と反応させ、またはアミノ化処理されていないシンコナアルカロイドを、エチニル基を有するカルボン酸ハロゲン化物もしくは縮合剤存在下でエチニル基を有するカルボン酸(−COO−の場合)と反応させ、それぞれのモノマーを合成する。
【0029】
前記2価の芳香族基を構成する芳香族環としては、下記の芳香族環が挙げられる。
【0030】
【化4】
【0031】
上述した芳香族カルボン酸ハロゲン化物または芳香族スルホン酸ハロゲン化物、アルキルカルボン酸ハロゲン化物のハロゲンとしては、臭素、塩素、ヨウ素が挙げられるが、入手の容易性から塩素であることが好ましい。
エチニル基を有する芳香族カルボン酸の具体例としては、4−エチニル安息香酸が特に好ましく挙げられる。
エチニル基を有する芳香族イソシアネートの具体例としては、4−エチニルフェニルイソシアネートを挙げることができる。
エチニル基を有する芳香族イソチオシアネートの具体例としては、4−エチニルフェニルチオイソシアネートを挙げることができる。
エチニル基を有する芳香族スルホン酸ハロゲン化物の具体例としては、4−エチニルベンゼンスルホン酸クロリドを挙げることができる。
エチニル基を有する芳香族カルボン酸ハロゲン化物としては4−エチニル安息香酸クロリドが特に好ましく挙げられる。
エチニル基を有するアミンの具体例としては、プロパルギルアミンを挙げることができる。
エチニル基を有するカルボン酸ハロゲン化物の具体例としては、プロピオール酸クロライドを挙げることができる。
エチニル基を有するカルボン酸の具体例としては、3−ブチン酸を挙げることができる。
【0032】
上述した、エチニル基を有する芳香族カルボン酸と、アミノ化処理されたシンコナアルカロイド(9−アミノシンコナアルカロイド)とを、縮合剤として4−(4,6−ジメトキシ−1,3,5−トリアジン−2−イル)−4−メチル−モルフォリニウムクロリド(以下、DMT−MMとも記載する)を用い、THFなどの溶媒中で反応を起こさせることで、例えば、下記式(II)または(III)で表されるモノマーを合成することができる。
【0033】
【化5】
【0034】
【化6】
【0035】
式(II)及び(III)において、Rは前記したとおりのものである。
【0036】
上記式(II)または(III)で表されるモノマーの合成と同様に、アミノ化処理されたシンコナアルカロイド(9−アミノシンコナアルカロイド)を出発原料として用い、エチニル基を有する芳香族イソシアネートまたはエチニル基を有する芳香族チオシアネートをTHFなどの溶媒中で反応させ、またはエチニル基を有する芳香族スルホン酸ハロゲン化物をトリエチルアミン(以下、NEt3とも記載する)存在下ジクロロメタンなどの溶媒中で反応させることで、前記のX(2価の芳香族基)、Y(−NHCONH−、−NHCSNH−または−SO2NH−)を有するモノマーを合成することができる。
また、アミノ化処理されたシンコナアルカロイド(9−アミノシンコナアルカロイド)を、THFなどの溶媒中でホスゲンおよびチオホスゲンと処理することにより、それぞれアミノ基をイソシアネート基またはチオシアネート基へと変換したのち、前述したエチニル基を有するアミンと反応させることで、前記のX(単結合またはメチレン基)、Y(−NHCONH−または−NHCSNH−)を有するモノマーを合成することができる。
【0037】
一方、上述したエチニル基を有する芳香族カルボン酸ハロゲン化物と、シンコナアルカロイドとを、トリエチルアミン(以下、NEt3とも記載する)を用い、THFなどの溶媒中で反応を起こさせることで、下記式(IV)または(V)で表されるモノマーを合成することができる。
【0038】
【化7】
【0039】
【化8】
【0040】
式(IV)及び(V)において、Rは前記したとおりのものである。
【0041】
上記式(IV)または(V)で表されるモノマーと同様の手法により、シンコナアルカロイドと、エチニル基を有するカルボン酸ハロゲン化物と反応させることにより、X(単結合またはメチレン基)、Y(−COO−)を有するモノマーを合成することができる。
シンコナアルカロイドとエチニル基を有する芳香族イソシアネートをTHFなどの溶媒中で反応させ、前記のX(2価の芳香族基)、Y(−NHCOO−)を有するモノマーを合成することができる。また、シンコナアルカロイドをTHFなどの溶媒中でトリホスゲンで処理することにより、ヒドロキシル基をクロロホルメート基へと変換したのち、エチニル基を有するアミンと反応させることで、前記のX(単結合またはメチレン基)、Y(−NHCOO−)を有するモノマーを合成することができる。
【0042】
上記で合成した式(II)〜(V)で表されるモノマーを、触媒として[Rh(nbd)Cl]2(nbd:ノルボルナジエン)を用い、溶媒として、トリエチルアミンを加えたジメチルホルムアミド(DMF)を用いて、17〜26時間、約30℃、窒素雰囲気下で重合反応を行わせると、前記式(I)で表されるらせん高分子を得ることができる。
重合時の温度を調製することで、らせん高分子の円二色性を調整することができる。
【0043】
エチニル基を有する芳香族カルボン酸またはエチニル基を有する芳香族カルボン酸ハロゲン化物を構成する芳香族環がベンゼンである場合、前記Yはフェニレン基となり、合成されるらせん高分子は、シンコナアルカロイドをペンダント基として有するポリフェニルアセチレンとなる。
具体的な構造式は以下で表されるものになる。下記式(VI)及び(VII)で表されるらせん高分子は、アミノ化処理したシンコナアルカロイドを用いて合成したモノマーを重合したものである。一方、下記式(VIII)及び(IX)で表されるらせん高分子は、アミノ化処理していないシンコナアルカロイドを用いて合成したモノマーを重合したものである。以下の式(VI)〜(IX)において、nは通常、100〜700である。
【0044】
【化9】
【0045】
式(VI)において、原料物質としてシンコニジンを用いたものは上記Rは水素であり(poly-ACd)、キニンを用いたものは上記Rはメトキシ基になる(poly-AQn)。
【0046】
【化10】
【0047】
式(VII)において、原料物質としてシンコニンを用いたものは上記Rは水素であり(poly-ACn)、キニジンを用いたものは上記Rはメトキシ基になる(poly-AQd)。
【0048】
【化11】
【0049】
式(VIII)において、原料物質としてシンコニジンを用いたものは上記Rは水素であり(poly-Cd)、キニンを用いたものは上記Rはメトキシ基になる(poly-Qn)。
【0050】
【化12】
【0051】
式(IX)において、原料物質としてシンコニンを用いたものは上記Rは水素であり(poly-Cn)、キニジンを用いたものは上記Rはメトキシ基になる(poly-Qd)。
【0052】
らせん高分子の巻き方向は、CDスペクトルの符号から求めることができる。すなわち、前記らせん高分子の主鎖吸収帯である400〜530nm付近のCDスペクトルに現れるピークが正であれば、そのらせん高分子は左巻きのらせん高分子であり、400〜530nm付近のCDスペクトルに現れるピークが負であれば、そのらせん高分子は右巻きのらせん高分子であることが分かる。
【0053】
前記らせん高分子は担体に担持される。前記担体には、カラム管に収容され、光学分割における化学的及び物理的な耐久性を有する担体を用いることができる。このような担体としては、光学異性体用分離剤の担体として公知の担体を用いることができ、例えば、シリカ、アルミナ、マグネシア、ガラス、カオリン、酸化チタン、ケイ酸塩、及びヒドロキシアパタイト等の無機担体、及び、ポリスチレン、ポリアクリルアミド、ポリアクリレート等の有機担体、が挙げられる。前記担体は、目的物に対する光学分割能を高める観点から、多孔質であることが好ましい。担体は粒子状であってもよいし、カラム管に一体的に収容される一体型担体であってもよいが、光学異性体用分離剤の製造及びそのときの取り扱いの容易さの観点から、粒子状であることが好ましい。このような担体の具体例としてはシリカゲルが挙げられる。
担体の粒径としては、通常3〜15μmのものを用いる。
【0054】
前記らせん高分子は、担体の表面に物理的吸着によって、担体に担持(固定)される。このような物理的吸着は、前記らせん高分子を含有する溶液に、前記担体を浸漬した後、溶剤を留去することによって行うことができる。
上記担体に対する前記らせん高分子の担持量は、分離剤全量の100重量部に対して通常、10〜30重量部であり、15〜25重量部であることが好ましい。
【0055】
前記担体は表面処理されていてもよく、そのような表面処理は担体の種類に応じて公知の技術によって適宜に行うことができる。例えば担体がシリカである場合には、表面処理剤としては、例えば、アミノ基やグリシジル基を有する有機ケイ素化合物が挙げられる。
【0056】
また、本発明の光学異性体用分離剤は、HPLC、疑似移動床クロマトグラフィー、超臨界流体クロマトグラフィー等の種々のクロマトグラフィーにおいて充填剤として用いることによって、光学分割やそれによる光学異性体の製造に用いることができる。このような光学分割において、移動相には種々の有機溶剤、その混合溶剤、有機溶剤と水との混合溶剤等の液体を用いることができ、特に、THFのような高い溶解性を有する溶剤を移動相として用いることができ、移動相の種類や組成によっても、種々の構造の光学異性体に対して光学分割能を発現することが期待される。
【実施例】
【0057】
本発明の実施例を以下に示す。
なお、以下の実施例において、NMRスペクトルは、Varian VXR−500S分光計(Varian社製)を用いて、500MHzで操作し、内部標準物質としてテトラメチルシラン(TMS)を用いて測定した。
IRスペクトルは、JASCO FT/IR−680分光光度計(日本分光株式会社製)を用いて測定した。
吸収スペクトル及び円二色性(CD)スペクトルは、光路長1.0cmの石英セルを25℃で用いて、それぞれJASCO V570分光光度計及びJASCO J820分光円二色計を用いて測定した。温度調整は、ペルチェ式恒温キュベットホルダー(JASCO PTC−423)を用いて行った。
ポリマーの濃度は、モノマーユニットを基に計算した。
【0058】
旋光度は、光路長2.0cmの石英セルを用いて、JASCO P−1030旋光計を用いて測定した。
【0059】
ポリマーの数平均分量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)は、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)から求めた。SECは、紫外・可視検出器(JASCO UV−1570、280nm)とカラムオーブン(JASCO CO−1565)を備えたJASCO PU−908液体クロマトグラフを用いて行った。
カラムには、二本のTosoh TSKgel Multipore HXL−M SECカラム(30cm、東ソー社製)を用い、溶離液には、0.5重量%のテトラ−n−ブチルアンモニウムブロミド(TBAB)を含有するトリクロロメタン/2,2,2−トリフルオロエタノール(9/1:v:v)を用い、流速を0.5mL/minとした。分子量校正曲線は、ポリスチレン標準物質(東ソー社製)を用いて得た。
キラルHPLC分析は、キラルセル ODカラムまたはキラルセルOJ−Hカラム(0.46cm (i.d.)×25cm、ダイセル)を用い、マルチUV可視光検出器(JASCO MD−2010 Plus)及び旋光度検出器(JASCO OR−2090 Plus)を備えたJASCO PU−908液体クロマトグラフを用いて行った。溶離液には、2−プロパノール/n−ヘキサンを用いた。
質量分析は、ESI−MSにより行った。レーザラマンスペクトルは、JASCO RMP−200分光光度計を用いて取得した。
【0060】
<アミノ化処理されたシンコナアルカロイドの合成>
アミノ化処理されたシンコニジン(ACd)、アミノ化処理されたシンコニン(ACn)、アミノ化処理されたキニン(AQn)、及びアミノ化処理されたキニジン(AQd)は、既報(Tetrahedron: Asymmetry., 6, 1699 (1995), Eur.J.Org.Chem., 2119 (2000), Eur.J.Org.Chem., 3449 (2010))に従い合成を行った。原料となるシンコニジン、シンコニン、キニン及びキニジンは、市販されているものを購入して用いた。
【0061】
<モノマーの合成>
アミノ化処理された各シンコナアルカロイドとアミノ化処理されていないシンコナアルカロイドについて、後述するポリマーを合成するための原料となるモノマーを合成した。
【0062】
(合成例1:アミノ化処理されたシンコニジンにかかるモノマーの合成)
4−(4,6−ジメトキシ−1,3,5−トリアジン−2−イル)−4−メチル−モルフォリニウムクロリド(以下、DMT−MMとも記載する:3.39g12.3mmol)を、(4−カルボキシフェニル)アセチレン(896mg,6.13mmol)と上記ACd(1.80g,6.13mmol)を含む無水THF(35mL)に添加し、室温で一晩撹拌した。水(500mL)を反応混合物に添加し、混合物を酢酸エチルを用いて抽出した(250mL×5)。有機層を塩水を用いて洗浄し(200mL×5)、Na2SO4を用いて一晩かけて脱水した。濾過後、溶媒を留去し、残差をカラムクロマトグラフィー(SiO2、トリクロロメタン/メタノール=1/0〜20/3、v/v、次いでNH−SiO2、酢酸エチル/n−ヘキサン=2/1,v/v)より精製し、モノマー(M−ACd:1.61g,62%)を白色固体として得た。このモノマーの物性を以下に示す。
【0063】
<M−ACd>
融点 237-238 °C. IR (film, cm-1): 3296 (νN-H), 2104 (νCC), 1637 (νC=O). 1H NMR (500 MHz, CDCl3): δ8.89 (d, J = 4.6 Hz, 1H, Ar), 8.46 (d, J = 8.6 Hz, 1H, Ar), 8.14 (d, J =7.5 Hz, 1H, Ar), 7.86 (bs, 1H, -NHCH-), 7.76-7.72 (m, 3H, Ar), 7.64 (t, J = 7.9 Hz, 1H, Ar), 7.54-7.52 (m, 2H, Ar), 7.50 (d, J = 4.5 Hz, 1H, Ar), 5.74-5.67 (m, 1H, -CH=CH2), 5.41 (bs, 1H, -NHCH-), 5.00-4.94 (m, 2H, -CH=CH2), 3.32-3.27 (m, 1H), 3.19 (s, 1H), 3.18-3.03 (m, 2H), 2.80-2.70 (m, 2H), 2.35-2.29 (m, 1H), 1.72-1.59 (m, 3H), 1.44-1.37 (m, 1H), 1.07-1.02 (m, 1H). 13C NMR (125 MHz, CDCl3): δ166.7, 150.2, 148.8, 141.33, 141.32, 134.0, 132.4, 130.7, 129.3, 127.3, 126.9, 125.7, 123.3, 119.5, 114.85, 114.81, 82.9, 79.7, 60.6, 56.2, 40.99, 40.97, 39.7, 28.0, 27.4, 26.1. HRMS (ESI+): m/z calcd for C28H27N3O (M+H+), 422.2232; found, 422.2240. Anal. Calcd (%) for C28H27N3O: C, 79.78; H, 6.46; N, 9.97. Found: C, 79.77; H, 6.39; N, 10.17.
【0064】
他のアミノ化処理されたシンコナアルカロイドにかかるモノマー(ACn、AQn、AQd)についても、上記合成例1の方法と同様の操作により、合成を行った。各モノマーの物性について以下に示す。
<M−ACn>
収率: 31%. 融点 112-114 °C. IR (film, cm-1): 3297 (νN-H), 2105 (νCC), 1637 (νC=O). 1H NMR (500 MHz, CDCl3): δ8.88 (d, J = 4.5 Hz, 1H, Ar), 8.42 (d, J = 8.4 Hz, 1H, Ar), 8.14 (dd, J = 8.5 Hz, 1H, Ar), 7.90 (bs, 1H, -NHCH-), 7.77-7.71 (m, 3H, Ar), 7.62 (t, J = 7.4 Hz, 1H, Ar), 7.54-7.53 (m, 2H, Ar), 7.49 (d, J = 4.6 Hz, 1H, Ar), 5.97-5.90 (m, 1H, -CH=CH2), 5.39 (bs, 1H, -NHCH-), 5.20-5.10 (m, 2H, -CH=CH2), 3.19 (s, 1H), 3.07-2.95 (m, 5H), 2.87-2.80 (m, 1H), 2.36-2.29 (m, 1H), 1.69 (bs, 1H), 1.55-1.48 (m, 1H), 1.45-1.38 (m, 1H), 1.05-0.97 (m, 1H). 13C NMR (125 MHz, CDCl3): δ 166.7, 150.2, 148.8, 140.3, 140.2, 134.1, 132.4, 130.7, 129.3, 127.3, 126.8, 125.6, 123.3, 119.4, 115.23, 115.21, 82.9, 79.7, 60.6, 49.47, 49.45, 47.2, 39.3, 27.4, 26.8, 25.5. HRMS (ESI+): m/z calcd for C28H27N3O (M+H+), 422.2232; found, 422.2252. Anal. Calcd (%) for C28H27N3O: C, 79.78; H, 6.46; N, 9.97. Found: C, 79.80; H, 6.49; N, 9.97.
【0065】
<M−AQn>
収率: 92%. 融点 231-233 °C. IR (film, cm-1): 3295 (νN-H), 2105 (νCC), 1637 (νC=O). 1H NMR (500 MHz, CDCl3): δ8.71 (d, J = 4.5 Hz, 1H, Ar), 8.03 (d, J = 9.2 Hz, 1H, Ar), 7.81 (bs, 1H, -NHCH-), 7.76-7.72 (m, 3H, Ar), 7.50 (d, J = 8.4 Hz, 2H, Ar), 7.40-7.37 (m, 2H, Ar), 5.76-5.69 (m, 1H, -CH=CH2), 5.41 (bs, 1H, -NHCH-), 5.00-4.94 (m, 2H, -CH=CH2), 3.98 (s, 3H, -OCH3), 3.31-3.26 (m, 1H), 3.19 (s, 1H), 3.20-3.14 (m, 2H), 2.77-2.71 (m, 2H), 2.31 (bs, 1H), 1.70-1.61 (m, 3H), 1.48 (t, J = 11.6 Hz, 1H), 1.05-1.01 (m, 1H). 13C NMR (125 MHz, CDCl3): δ 166.5, 157.9, 147.8, 145.0, 141.34, 141.31, 134.0, 132.4, 132.1, 128.4, 127.3, 125.7, 121.6, 114.9, 114.8, 102.0, 82.9, 79.7, 60.3, 56.2, 55.8, 41.1, 39.7, 31.7, 28.1, 27.5, 26.3. HRMS (ESI+): m/z calcd for C29H29N3O2 (M+H+), 452.2338; found, 452.2356. Anal. Calcd (%) for C29H29N3O2: C, 77.13; H, 6.47; N, 9.31. Found: C, 76.99; H, 6.41; N, 9.29.
【0066】
<M−AQd>
収率: 46%. 融点 114-116 °C. IR (film, cm-1): 3295 (νN-H), 2103 (νCC), 1638 (νC=O). 1H NMR (500 MHz, CDCl3): δ8.73 (d, J = 4.6 Hz, 1H, Ar), 8.02 (d, J = 9.2 Hz, 1H, Ar), 7.87 (bs, 1H, -NHCH-), 7.77 (d, J = 8.3 Hz, 2H, Ar), 7.64 (d, J = 2.7 Hz, 1H, Ar), 7.54 (d, J = 8.6 Hz, 2H, Ar), 7.43 (d, J = 4.6 Hz, 1H, Ar), 7.39-7.37 (m, 1H, Ar), 5.98-5.91 (m, 1H, -CH=CH2), 5.37 (bs, 1H, -NHCH-), 5.16-5.13 (m, 2H, -CH=CH2), 3.98 (s, 3H, -OCH3), 3.19 (s, 1H), 3.11-2.91 (m, 5H), 2.36-2.34 (m, 1H), 1.73 (bs, 1H), 1.64-1.52 (m, 2H), 1.47-1.42 (m, 1H), 1.10-1.05 (m, 1H). 13C NMR (125 MHz, CDCl3): δ166.5, 157.9, 147.7, 145.0, 140.54, 140.52, 134.0, 132.4, 132.0, 128.3, 127.3, 125.6, 122.1, 115.01, 114.99, 101.3, 82.9, 79.7, 60.6, 55.64, 55.59, 49.5, 47.1, 39.1, 27.4, 26.9, 25.6. HRMS (ESI+): m/z calcd for C29H29N3O2 (M+H+), 452.2338; found, 452.2320. Anal. Calcd (%) for C29H29N3O2: C,77.13; H, 6.47; N, 9.31. Found: C, 76.97; H, 6.45; N, 9.28.
【0067】
(合成例2:アミノ化処理されていないシンコナアルカロイド(シンコニン)にかかるモノマーの合成)
4−エチニルベンゾイルクロライド(1.80g,11.0mmol)を含む無水THF(50mL)を、シンコニン(2.94,10.0mmol)とトリエチルアミン(2.78mL,20.0mmol)および無水THF(100mL)の混合溶液に窒素雰囲気下0℃で滴下したのち、室温で一晩撹拌した。得られた懸濁液を濾過し、母液から溶媒を留去して得られた黄色固体をカラムクロマトグラフィー(SiO2、トリクロロエタン/酢酸エチル=1/3、v/v)および再結晶(酢酸エチル/n−ヘキサン=1/4、v/v)により精製し、モノマー(M−Cn:2.99g,71%)を白色固体として得た。このモノマーの物性を以下に示す。
【0068】
融点 144-146 °C. IR (film, cm-1): 3278 (ν≡C -H), 3067 (ν=C -H), 2103 (νCC), 1715 (νC=O). 1H NMR (500 MHz, CDCl3): δ8.88 (d, J = 4.5 Hz, 1H, Ar), 8.29 (d, J = 8.0 Hz, 1H, Ar), 8.13 (dd, J = 8.5, 0.9 Hz, 1H, Ar), 8.05-8.03 (m, 2H, Ar), 7.74-7.71 (m, 1H, Ar), 7.65-7.61 (m, 1H, Ar), 7.58-7.56 (m, 2H, Ar), 7.45 (d, J = 4.6 Hz, 1H, Ar), 6.77 (d, J = 7.4 Hz, 1H, -OCH-), 6.05-5.98 (m, 1H, -CHCH2), 5.14-5.07 (m, 2H, -CHCH2), 3.47-3.42 (m, 1H), 3.25 (s, 1H, -CCH), 2.99-2.90 (m, 2H), 2.83-2.69 (m, 2H), 2.31-2.26 (m, 1H), 1.97-1.92 (m, 1H), 1.86 (bs, 1H), 1.68-1.56 (m, 3H). 13C
NMR (125 MHz, CDCl3): 165.1, 150.1, 148.7, 145.6, 140.3, 132.4, 130.7, 129.8, 129.7, 129.4, 127.4, 127.1, 126.2, 123.4, 118.7, 115.1, 82.8, 80.6, 74.8, 60.0, 50.0, 49.3, 39.8, 27.8, 26.6, 24.2. HRMS (ESI+): m/z calcd for C28H26N2O2 (M+H+), 423.2073; found, 423.2064. Anal. Calcd (%) for C28H26N2O2: C,79..59; H, 6.20; N, 6.63. Found: C, 79.59; H, 6.22; N, 6.36.
【0069】
<重合>
上記M−ACd、M−ACn, M−AQn,及びM−AQdの重合は、乾燥窒素雰囲気で満たした乾燥ガラスアンプルにおいて、[Rh(nbd)Cl]2を触媒として用いて行った。具体的な操作は以下の通りである。
モノマーM−ACd(422mg、1.00mmol)を乾燥アンプルに移し、真空ラインにより脱気させた後、窒素を充満させた。この操作を三回繰り返し、三方活栓をアンプルに取り付け、無水ジメチルホルムアミド(DMF:4.20mL)及びトリエチルアミン(NEt3:140μL、1.00mmol)をシリンジを用いて加えた。これに、[Rh(nbd)Cl]2のDMF溶液(0.0125M)(0.8mL)を30℃で加えた。モノマー及びロジウム触媒の濃度は、それぞれ0.2M及び0.002Mであった。
26時間後、生成したポリマー(poly-ACd)を過剰のジエチルエーテル中に析出させ、これをジエチルエーテルで洗浄し、遠心分離により収集した。
生成物をトリクロロメタンからジエチルエーテルに再析出させることにより精製し、析出させたpoly-ACdをジエチルエーテルにより洗浄して、真空下、室温で一晩乾燥した(312mg、74%収率)。同様の操作により、poly-ACn、poly-AQn、poly-AQdを調製した。
各ポリマーのMn及びMw/MnについてはSECを用いて測定した。
各ポリマーの重合に関する情報は以下の通りであった。
【0070】
上記M−Cnの重合は、乾燥窒素雰囲気で満たした乾燥ガラスアンプルにおいて、[Rh(nbd)Cl]2を触媒として用いて行った。具体的な操作は以下の通りである。
モノマーM−Cn(886mg、2.10mmol)を乾燥アンプルに移し、真空ラインにより脱気させた後、窒素を充満させた。この操作を三回繰り返し、三方活栓をアンプルに取り付け、無水ジメチルホルムアミド(DMF:9.0mL)及びトリエチルアミン(NEt3:290μL、2.10mmol)をシリンジを用いて加えた。これに、[Rh(nbd)Cl]2のDMF溶液(0.014M)(1.5mL)を30℃で加えた。モノマー及びロジウム触媒の濃度は、それぞれ0.2M及び0.002Mであった。
18時間後、生成したポリマー(poly-Cn)を過剰のジエチルエーテル中に析出させ、これをジエチルエーテルで洗浄し、遠心分離により収集した。
生成物をトリクロロメタンからジエチルエーテルに再析出させることにより精製し、析出させたpoly-Cnをジエチルエーテルにより洗浄して、真空下、室温で一晩乾燥した(770mg、87%収率)。 各ポリマーのMn及びMw/MnについてはSECを用いて測定した。このポリマーの物性を以下に示す。
【0071】
各ポリマーの分光分析データは以下の通りであった。
<poly-ACd>
IR (film, cm-1): 3327 (νN-H), 1652 (νC=O). 1H NMR (500 MHz, CDCl3/CF3CD2OD (31/1, v/v), 55℃): δ8.60 (s, 2H, -NHCH-, Ar), 8.44 (s, 2H, Ar),8.06 (s, 2H, Ar), 7.77-7.39 (m, 5H, Ar), 6.66 (s, 1H, -NHCH-), 5.80-5.38 (m, 2H, -CH=CH2), 4.94 (s, 2H, -CH=CH2), 3.34-2.64 (m, 3H), 2.59-1.80 (m, 3H), 1.66-0.84 (m, 5H). Anal. Calcd (%) for (C28H27N3O・5/3H2O)n: C, 74.48; H, 6.77; N, 9.31. Found: C, 74.63; H, 6.59; N, 9.09.
【0072】
<poly-ACn>
IR (film, cm-1): 3309 (νN-H), 1647 (νC=O).1H NMR (500 MHz, CDCl3/CF3CD2OD (31/1, v/v), 55℃): δ8.81 (s, 2H, -NHCH-, Ar), 8.42 (s, 2H, Ar), 8.12 (s, 2H, Ar), 7.80-7.35 (m, 5H, Ar), 6.24-5.38 (m, 3H, -NHCH-, -CH=CH2), 5.15 (s, 2H, -CH=CH2), 3.23-2.73 (m, 3H), 2.57-1.77 (m, 3H), 1.68-0.83 (m, 5H). Anal. Calcd (%) for (C28H27N3O)n: C, 79.78; H, 6.46; N, 9.97. Found: C, 79.98; H, 6.64; N, 9.98.
【0073】
<poly-AQn>
IR (film, cm-1): 3326 (νN-H), 1652 (νC=O). 1H NMR (500 MHz, CDCl3/CF3CD2OD (31/1, v/v), 55℃): δ8.65 (s, 1H, -NHCH-), 8.50 (s, 2H, Ar), 7.96 (s, 2H, Ar), 7.69 (s, 1H, Ar), 7.46-7.04 (m, 4H, Ar), 6.69 (s, 1H, -NHCH-), 5.57 S6 (s, 1H, -CH=CH2), 5.37 (s, 1H), 4.94 (s, 2H, -CH=CH2), 3.91 (s, 3H, -OCH3), 3.07-2.79 (m, 3H), 2.48-1.94 (m, 3H), 1.63-0.86 (m, 5H). Anal. Calcd (%) for (C29H29N3O2・H2O)n: C, 74.18; H, 6.65; N, 8.95. Found: C, 74.36; H, 6.67; N, 8.88.
【0074】
<poly-AQd>
IR (film, cm-1): 3310 (νN-H), 1646 (νC=O). 1H NMR (500 MHz, CDCl3/CF3CD2OD (31/1, v/v), 55℃): δ8.65 (s, 1H, -NHCH-), 8.34 (s,2H, Ar), 7.92 (s, 2H, Ar), 7.59 (s, 1H, Ar), 7.46-7.04 (m, 4H, Ar), 6.64 (s, 1H, -NHCH-), 5.81 (s, 1H, -CH=CH2), 5.55 (s, 1H), 5.02 (s, 2H, -CH=CH2), 3.86 (s, 3H, -OCH3), 3.10-2.52 (m, 3H), 2.33-1.97 (m, 3H), 1.63-0.88 (m, 5H). Anal. Calcd (%) for (C29H29N3O2・0.7H2O)n: C, 75.04; H, 6.60; N, 9.05. Found: C, 75.01; H, 6.40; N, 8.92.
【0075】
<poly-Cn>
IR (film, cm-1): 1719 (νC=O). 1H NMR (500 MHz, CDCl3, 50℃): δ8.82 (s, 1H, Ar), 8.21 (s, 1H, Ar), 7.76-7.46 (m, 4H, Ar), 7.35 (s, 1H, Ar), 6.98-6.77 (m, 3H, Ar, -OCH-), 5.73 (s, 1H), 5.42 (s, 1H), 4.84 (s, 1H), 4.48 (s, 1H), 3.10-2.40 (m, 3H), 1.63-0.84 (m, 8H). Anal. Calcd (%) for (C28H26N2O2)n: C, 79.59; H, 6.20; N, 6.63. Found: C, 79.33; H, 6.35; N, 6.43.
【0076】
<光学異性体用分離剤の作製>
上記で合成したpoly-AQn、poly-AQd、poly-ACd、poly-ACn、poly-Cn(図1参照)はそれぞれ既報に従い合成した。それぞれの数平均分子量(Mn)および多分散度(Mw/Mn)は、上述した装置及び条件で測定を行った。その結果、それぞれ以下の値を得た。poly−AQn:Mn=3.1・105, Mw/Mn =3.1, poly−AQd: Mn=9.3×104, Mw/Mn=1.9,poly−ACd:Mn=1.4×105, Mw/Mn=2.4, poly−ACn:Mn=9.3×104, Mw/Mn=2.1, poly−Cn:Mn=3.9・104, Mw/Mn=4.7
【0077】
アミノプロピルトリエトキシシラン処理を施したシリカゲル(粒径7μm, 平均孔径100nm)0.75gに、クロロホルム/2,2,2−トリフルオロエタノール=90/10(v/v)混合溶媒に溶解させ多poly−AQn0.25gを均一に塗布した後、溶媒を減圧留去することにより、シリカゲルにpoly−AQnがコーティングされた光学異性体用充填剤を得た。この充填剤を25cm×0.20cmのステンレス製カラムにスラリー充填法により加圧充填を行いカラムを作製した。同様の手法により、poly−AQd、poly−ACd、poly−ACn、poly−Cnをコーティングしたシリカゲルを充填したカラムを作成した。これらのカラムを用い、液体クロマトグラフィー法により、図2に示す化合物の不斉識別能(保持係数k1’、分離係数)の評価を行った。結果を表1および2に示す。
【0078】
【表1】
aかっこ内の符号は、最初に溶出したエナンチオマー(旋光度検出)を示す(以下の表2でも同様)。
bかっこ内の符号は、最初に溶出したエナンチオマー(CD検出(254nm))を示す。
【0079】
【表2】
aかっこ内の符号は、最初に溶出したエナンチオマー(旋光度検出)を示す。
【0080】
表1の光学分割において、液体クロマトグラフィーは、移動相にヘキサン/2−プロパノール=90/10(v/v)混合溶媒を用いて、流速0.1mL/min、検出波長254nm、温度25℃で行った。また、表2のアミノ酸誘導体の液体クロマトグラフィーは、移動相に酢酸を2%添加したヘキサン/2−プロパノール=90/10(v/v)混合溶媒を用い、検出波長230あるいは240nmで行った。ベンゼンを用いたそれぞれのカラムの理論段数は約1500−2000であった。保持時間は、トリ−tert−ブチルベンゼンの溶出時間(t0)を用いて評価した。
【0081】
検出された光学異性体の同定は、UV/Vis多波長検出器(MD−2010 Plus、日本分光、254nm)と旋光度検出器(OR−2090 Plus、日本分光)を用いて行った。
表2中「Boc」はtert-ブトキシカルボニル基を表す。
【0082】
表中、保持係数k1’は以下の式(1)求めた。分離係数αはk1’に対するk2’の比である。
保持係数(kn’)=(tn−t0)/t0 (1)
(式中、tnはn番目に検出される光学異性体の保持時間を示す。)
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明の光学異性体用分離剤によればらせん高分子におけるらせん構造の長さ、光学活性部位の種類、及び、らせん高分子の巻き方向等の因子の組み合わせによって、光学分割における目的物の分離を可能にし、又は分離効率を向上させ、又は溶出順序を逆転させることが期待される。したがって、シリカゲルのような担体へのらせん高分子の化学結合、移動相の新たな組成の検討、らせん高分子中の光学活性な部位の組み合わせの検討、及び、らせん構造の巻き方向や長さの検討によって、新たな光学異性体の分離条件の発見や改良が期待される。
図1
図2