特許第6095152号(P6095152)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6095152
(24)【登録日】2017年2月24日
(45)【発行日】2017年3月15日
(54)【発明の名称】油脂分解用微生物製剤及び廃液処理方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/00 20060101AFI20170306BHJP
   C02F 3/34 20060101ALI20170306BHJP
   C12R 1/01 20060101ALN20170306BHJP
【FI】
   C12N1/00 R
   C02F3/34 Z
   C12N1/00 R
   C12R1:01
【請求項の数】2
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-166341(P2012-166341)
(22)【出願日】2012年7月26日
(65)【公開番号】特開2014-23474(P2014-23474A)
(43)【公開日】2014年2月6日
【審査請求日】2015年5月8日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 公益社団法人日本生物工学会学際的脂質創生研究部会、『第2回学際的脂質創生研究部会講演会講演要旨集』、第13頁、平成24年1月27日 (刊行物等) 『第2回学際的脂質創生研究部会講演会』、公益社団法人日本生物工学会学際的脂質創生研究部会、平成24年1月27日 (刊行物等) 『国立大学法人福島大学修士論文発表会』、国立大学法人福島大学、平成24年2月14日 (刊行物等) 社団法人 日本農芸化学会、『日本農芸化学会2012年度大会講演要旨集』、平成24年3月5日 (刊行物等) 『日本農芸化学会2012年度大会』、社団法人 日本農芸化学会、平成24年3月24日
【微生物の受託番号】NPMD  NITE P-1393
(73)【特許権者】
【識別番号】592008767
【氏名又は名称】株式会社松本微生物研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】505089614
【氏名又は名称】国立大学法人福島大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】特許業務法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】杉森 大助
(72)【発明者】
【氏名】牧 孝昭
(72)【発明者】
【氏名】笹平 俊
【審査官】 田中 耕一郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−200765(JP,A)
【文献】 特開2012−075396(JP,A)
【文献】 特開2010−214310(JP,A)
【文献】 Namita Gupta, et al., Process Biochemistry, 2007, 42, pp518-526
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00−C12N 15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
40℃且つpH4で油脂分解能を有するバークホルデリア マルティボランス(Burkholderia multivorans)R128株(受託番号NITE −1393)を含有することを特徴とする油脂分解用微生物製剤。
【請求項2】
油脂を含む廃液中に、40℃且つpH4で油脂分解能を有するバークホルデリア マルティボランス(Burkholderia multivorans)R128株(受託番号NITE −1393)を添加することにより、前記廃液中の油脂を分解させることを特徴とする廃液処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油脂分解能力を有する微生物を用いた微生物製剤及び同微生物を用いた廃液処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
食品加工工場や商業施設の厨房などから排出される排水には多量の油脂が含まれるため、下水道や浄化槽等への配管設備の機能を著しく妨げるおそれがある場合には、該配管設備にグリーストラップ(グリース阻集器)を設置することが義務づけられている。しかし、こうしたグリーストラップでは、油脂の蓄積によるトラップ機能の低下、トラップの閉塞による排水管の閉塞、悪臭発生などの問題が生じることがある。
【0003】
そこで、前記のような問題を解決するために、油脂分解能力を有する微生物(油脂分解微生物)を利用した生物学的処理法が提案されており、こうした油脂分解微生物を含有した微生物製剤も開発されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、ロドトルラ パシフィカ(Rhodotorula pacifica、FERM P−21121)及び、クリプトコッカス ローレンティ(Cryptococcus laurentii、FERM P−21122)を利用した油脂分解用微生物製剤が開示されており、この微生物製剤によれば、低窒素、低リン濃度の環境下でも高い油脂分解効果を得ることができ、且つ30℃以下の低い温度でも各種油脂を効率よく分解することができると記載されている。
【0005】
ところが、油脂濃度の高い排水に対して上記のような生物学的処理法を適用すると、油脂分解微生物によって油脂が生分解された際に生成される脂肪酸により、排水が酸性になる。特にその傾向はグリーストラップで強く、グリーストラップ排水はpH3.5〜4.5を示す。従来知られている油脂分解微生物の大部分は、油脂分解能力の至適pHが8前後である。このため、前記のような低pHの環境下では、油脂分解能力を十分に発揮できない。
【0006】
これに対して、本発明者らは微生物を探索した結果、低pHの環境下でも高い油脂分解効果を有する微生物を見いだし、この微生物を含有する油脂分解用微生物製剤及び該微生物を用いた廃液処理方法に関する特許出願を行った(特許文献2参照)。特許文献2に開示されている油脂分解用微生物製剤及び廃液処理方法は、ラオウルテラ プランティコーラ(Raoultella planticola)を利用したものであり、pH3前後の低pH条件下でも高い油脂分解効果を奏する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008-142042号公報
【特許文献2】特開2012-105635号公報
【特許文献3】特開2008-220201号公報
【特許文献4】特開平09-085283号公報
【特許文献5】特開2004-242553号公報
【特許文献6】特開2002-125659号公報
【特許文献7】特開2010-214310号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、グリーストラップには厨房などで使用された熱水が流れ込むことが多く、このような場合には水温が40℃を超える。しかしながら、上記した微生物製剤に用いた微生物は35℃を超えると油脂分解活性が低下し、40℃では油脂分解活性が完全に消失してしまう。
【0009】
本発明は上記のような課題に鑑みて成されたものであり、その目的とするところは、40℃且つpH4で優れた油脂分解能力を発揮することのできる微生物を用いた微生物製剤及び廃液処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために成された本発明に係る油脂分解用微生物製剤は、40℃且つpH4で油脂分解能を有するバークホルデリア マルティボランス(Burkholderia multivorans)を含有することを特徴としている。
【0011】
また、本発明に係る廃液処理方法は、油脂を含む廃液中に、40℃且つpH4で油脂分解能を有するバークホルデリア マルティボランス(Burkholderia multivorans)を添加することにより、前記廃液中の油脂を分解させることを特徴としている。
上記した油脂分解用微生物製剤或いは廃液処理方法においては、前記微生物として、バークホルデリア マルティボランス(Burkholderia multivorans)R128株(受託番号NITE −1393)を用いることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
上記のバークホルデリア マルティボランスに属する微生物は、pH3.5〜pH9前後の広いpH範囲において、また、30℃〜45℃の温度範囲で優れた油脂分解能力を発揮する。そのため、この微生物を含む本発明の油脂分解用微生物製剤を用いることにより、また、この微生物を用いる本発明の廃液処理方法を実施することにより、従来既知の微生物では十分な油脂分解を行うことが困難であったグリーストラップ等の40℃且つpH4の環境下においても、高効率な油脂分解を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1Burkholderia multivorans R128株及び標準株NBRC−102086のpH4、40℃における油脂分解能力の経時変化を示すグラフ。
図2】各種pHにおけるBurkholderia multivorans R128株の油脂分解能力を示すグラフ。
図3】各種pHにおけるBurkholderia multivorans R128株の油脂分解能力を示すグラフ。
図4】各種温度におけるBurkholderia multivorans R128株の油脂分解能力を示すグラフ。
図5】各種温度におけるBurkholderia multivorans R128株の油脂分解能力を示すグラフ。
図6】各種油脂分解条件におけるBurkholderia multivorans R128株及び標準株NBRC−102086の油脂分解能力を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0014】
これまでバークホルデリア(Burkholderia)属に属する微生物において油脂分解能を有する例はいくつか報告されている(特許文献3〜7)。例えば特許文献3には、油脂分解能を有する微生物フサリウム・スピーシーズ(Fusarium sp.)とバークホルデリア・スピーシーズ(Burkholderia sp.)DW2−1株を併用する廃水処理方法が開示されている。この廃液処理方法によれば、バークホルデリア・スピーシーズ(Burkholderia sp.)DW2−1株の併用により、30℃におけるフサリウム・スピーシーズ(Fusarium sp.)の油脂分解能の向上がみられることが記載されている。
【0015】
また、特許文献4及び5には、バークホルデリア・セパシア(Burkholderia cepacia)を用いた廃液処理方法が開示されている。特許文献4では、バークホルデリア・セパシア(Burkholderia cepacia)FERMP−15034株が50℃の高温で好気的に油脂を分解することが、特許文献5には、バークホルデリア・セパシア(Burkholderia cepacia)FERMP−15034株が常温(30℃)で高い油脂分解能を有することがそれぞれ記載されている。
【0016】
特許文献6には、バークホルデリア・セパシア(Burkholderia cepacia)AIK菌株が20℃〜35℃の温度範囲で優れた油脂分解能を有すること、及び30℃且つpH7〜pH8において優れた油脂分解能を有することが記載されている。
【0017】
特許文献7には、異なる複数種類のバークホルデリア・マルチボランス(Burkholderia multivorans)に属する微生物を用いることにより、温度又はpHが変動しても安定して油脂分解を行うことができる廃液処理方法が開示されている。この廃液処理方法に用いられる微生物としてバークホルデリア・マルチボランス(Burkholderia multivorans)SB−B株(S73株)、及びバークホルデリア・マルチボランス(Burkholderia multivorans)SB−H株(815株)が挙げられており、前者は10℃且つpH7で油脂分解能を有し、後者は30℃且つpH4〜pH7で、あるいは、pH7且つ20℃〜30℃で油脂分解能を有すると記載されている。
【0018】
このように、バークホルデリア(Burkholderia)属に属する微生物について、低温(10℃)から高温(50℃)までの様々な温度で、或いは様々なpHで油脂分解能を発揮することが報告されているが、低pH且つ高温という厳しい条件下で油脂分解能力を発揮する微生物は報告がない。そこで、本発明者らは、バークホルデリア(Burkholderia)属に属する微生物において、低pH条件下で且つ35℃以上の高温下でも優れた油脂分解能力を発揮することのできる微生物を探索するため、油脂含有人工下水培地(pH4)を用いて土壌等の500試料に対して集積培養を行い、スクリーニングを行った。その結果、油脂分解活性が高かった1つの菌株を選抜した。この菌株について、光学顕微鏡による形態観察を行ったところ、以下のような結果が得られた。
【0019】
【表1】
【0020】
同菌株の16S rDNA(16S rRNA遺伝子)の塩基配列は、配列表の配列番号1に示した通りである。
【0021】
以上の試験結果及び塩基配列から、本発明者らは上記の菌株を、バークホルデリア マルティボランス(Burkholderia multivorans)と同定し、同菌株をBurkholderia multivorans R128と命名した。この菌株は、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに寄託されている(受託日:2012年7月24日、受託番号:NITE −1393)。
【0022】
これまで同属同種の微生物において低pHで、且つ高温下で油脂分解能を示す例は報告されていない。そこで、本発明者らは、前記バークホルデリア マルティボランスR128株と、その標準株であるバークホルデリア マルティボランスNBRC−102086を用いてその油脂分解能力を確認するための試験を行った。試験結果については後述するが、バークホルデリア マルティボランスR128株及び同標準株NBRC−102086はいずれも従来から知られている油脂分解微生物に比べて35℃以上の高温下で高い油脂分解能力を発揮し、しかも両者はほぼ同等の油脂分解能力を示した。従って、本発明に係る微生物製剤及び廃液処理方法に用いられる油脂分解微生物は、バークホルデリア マルティボランスR128株及びその標準株NBRC−102086に限定されず、バークホルデリア マルティボランスという菌種を指す。
【0023】
本発明に係る微生物製剤は、上記のバークホルデリア マルティボランスを含有するものである。該微生物の製剤化方法としては、例えば、村尾澤夫他1名編「応用微生物学改訂版」(1993年、培風館)、上島孝之著「産業用酵素」(1995年、丸善)、又は微生物研究法懇談会編、「微生物学実験法」(1993年、講談社)などに記載されている方法を用いることができる。以下に具体的な製剤化方法を列挙するが、本発明に係る微生物製剤は下記の方法で製造された物に限定されるものではない。
【0024】
液状製剤とする場合には、例えば、以下のいずれかの方法で製剤化することができる。
(A)上記微生物を肉汁培地などの一般栄養培地で12時間〜36時間程度培養し、必要に応じてこれにpH調整剤などを添加して製剤とする。
(B)遠心分離等により上記(A)の培養物から菌体を回収し、該菌体を生理食塩水等の媒体に適当な濃度となるように懸濁する。そして、必要に応じてこれにpH調整剤などを加えて製剤とする。
(C)限外ろ過膜(UF膜)等により上記(A)の培養物を適当な濃度に濃縮し、必要に応じてこれにpH調整剤等を添加して製剤とする。
(D)遠心分離等により上記(A)の培養物から菌体を回収し、該菌体を肉汁培地等の培地に懸濁する。そして、必要に応じてこれにpH調整剤などを加えて製剤とする。
【0025】
粉末製剤とする場合には、例えば、以下のいずれかの方法で製剤化することができる。
(a)上記微生物を肉汁培地などの一般栄養培地で12時間〜36時間程度培養し、必要に応じてこれにpH調整剤などを加え、凍結乾燥等によって乾燥させて製剤とする。
(b)遠心分離等により上記(a)の培養物から菌体を回収し、該菌体を生理食塩水又はスキムミルクとグルタミン酸ナトリウム等から成る溶液等の媒体に適当な濃度となるように懸濁し、必要に応じてこれにpH調整剤などを加え、凍結乾燥等により乾燥させて製剤とする。
(c)遠心分離等により上記(a)の培養物から菌体を回収し、該菌体を肉汁培地等の培地に懸濁し、必要に応じてこれにpH調整剤等を加え、凍結乾燥等によって乾燥させて製剤とする。
(d)上記(a)から(c)のものに、繊維くず、おがくず、白土、ケイソウ土などの微粉体を加えて製剤とする。
【0026】
また、上記の方法の他に、担体結合法、架橋法、包括法、複合法等の公知技術により、上記の微生物を種々の固定化用材料によって固定化してもよい。更に、上記微生物を他の公知の錠剤化技術によって錠剤化するようにしてもよい。
【0027】
本発明に係る廃液処理方法は、油脂分を含む廃液に上記のバークホルデリア マルティボランスを添加することにより前記廃液中の油脂分を分解させるものである。上述した通り、本発明の微生物は酸性領域においても高い油脂分解能力を維持できるものであるから、本発明に係る廃液処理方法は、例えば、上述のグリーストラップ内の廃液の処理等に好適に適用することができる。なお、本発明に係る微生物製剤及び廃液処理方法で用いられる微生物(以下「本発明に係る油脂分解微生物」と呼ぶ)は、30℃〜45℃においてより高い分解率を得ることができるため、比較的高温の温水が流入することの多いグリーストラップに好適に対応することができる。
【0028】
上記本発明に係る微生物製剤及び廃液処理方法は、動植物由来の油脂、特に動物性の油脂の分解に好適に用いることができる。
【実施例】
【0029】
以下、本発明に係る油脂分解用微生物製剤及び廃液処理方法の効果を確認するために行った試験例について説明する。
【0030】
(試験例1)
実際にグリーストラップ槽から採取した排水を使用して、本発明に係る油脂分解微生物(実施例)及び別の油脂分解微生物(比較例)の40℃、pH4における油脂分解能力を比較した。なお、前記本発明に係る油脂分解微生物としては、上述のバークホルデリア マルティボランス(Burkholderia multivorans)R128株(受託番号:NITE −1393)、及びその標準株であるNBRC−102086株を使用した(以下、試験例1〜4において同じ)。また、比較例(以下、対照区)の油脂分解微生物としては、市販の油脂分解微生物資材を使用した。
【0031】
まず、長野県松本市の和食レストランのグリーストラップ槽より採水した排水を7%HClでpH4.0に調整し、1000 mLビーカーに1000 mL分注した。この排水に1x108細胞/mLに調整した油脂分解微生物をそれぞれ10 mLずつ植菌し、40℃で4日間(96時間)、撹拌機を用いて撹拌し、n−ヘキサン抽出物質濃度(油脂濃度)の経時変化を測定した。なお、n−ヘキサン抽出物質の測定は、昭和49年環境庁告示第64号付表4に基づいて行った。
【0032】
上記の結果を図1に示す。対照区の油脂分解微生物は、別途行った25℃での4日間処理では本発明の油脂分解微生物とほぼ同等の高い油脂分解能力を示したが、40℃、pH4での4日間の試験では、図1に示すように、殆ど油脂を分解しなかった。一方、本発明に係る油脂分解微生物(Burkholderia multivorans)およびその標準株であるNBRC−102086株は極めて強い油脂分解活性を示した。なお、対照区の微生物による油脂分解能力の至適温度は25℃であるが、40℃における油脂分解能力は25℃における油脂分解能力の50%以下であることから、対照区の微生物の油脂分解能力は40℃では顕著に抑制されていることが分かる。一方、本発明に係る油脂分解微生物による油脂分解能力の至適温度は35℃であるが、30℃〜45℃ではほぼ同等の油脂分解能を示す。このことから、対照区の油脂分解微生物と比べて本発明に係る油脂分解微生物は、35℃を超える高温でも油脂分解能力が低下せず、且つ、30℃〜45℃という広い温度範囲で油脂分解能力が変化しないことが確認された。
【0033】
(試験例2)
本発明に係る油脂分解微生物の各種pHにおける油脂分解能力を評価した。
【0034】
油脂分解能力は、以下の手順によって評価した。
(1)バッフルフラスコに培地100 mL、混合油脂(サラダ油:ラード油:牛脂=1:1:1(w/w))3000 ppm を加えたものに本発明に係る油脂分解微生物の前培養液を1%接種し、40℃、120 rpm で24時間振盪培養を行った。前記培地の組成は以下の表2の通りである。pH調整は、pH3〜6は塩酸で、pH7〜9はNaOHで行った。
【0035】
【表2】
【0036】
(2)培養終了後にオートクレーブ処理を行わずに、以下の手順でクロロホルム−メタノール抽出を行った。
まず、培養液全量を分液ロートに入れ、クロロホルム−メタノール(3:1(v/v))溶液40mLで培養フラスコを洗浄し、その洗液で培養液中の油脂分を抽出した。クロロホルム層(下層)のみを分取し、水層(上層)は再度クロロホルム−メタノール溶液40mLで抽出した。その後、クロロホルム層(下層)と水層(上層)をそれぞれ遠心管に移し,10000 rpm で10分間遠心分離後、これらを分液ロートに静かに戻し、クロロホルム層(下層)のみ分取した。
(3)その後、無水硫酸マグネシウムで脱水、ろ過した後、ろ液をナス型フラスコに取り、溶媒を減圧除去して残った油脂重量を測定した。
(4)対照区として、前培養液を接種しないものも同様に24時間振盪培養及び抽出を行い、残存油脂重量を測定した。
(5)対照区と実験区(前培養液を接種したもの)中の残存油脂量から、油脂分解率を下式により算出した。
油脂分解率(%)=[(対照区の残存油脂重量−実験区の残存油脂重量)/対照区の残存油脂重量]×100
【0037】
以上による油脂分解能力の評価試験(n=3)の結果を図2に示す。グリーストラップの排水は通常pH3.5〜4.5と極めて低い値を示す。このような排水中で油脂を効率的に分解するためには、こうした酸性環境下で強い油脂分解能力を示す微生物が必要である。本発明に係る油脂分解微生物は、図2に示す通り、pH3.5〜9で優れた油脂分解活性を示すので、グリーストラップ及びその後段の工程において使用できる極めて適用範囲の広い油脂分解微生物であるといえる。
【0038】
(試験例3)
本発明に係る油脂分解微生物の各種pHにおける油脂分解能力を試験例2とは別の培地を用いて評価した。本試験例3で用いた培地の組成を以下の表3に示す。培地の組成が異なる以外は、試験例2と同様にして行った。
【表3】
【0039】
上記による油脂分解能の評価試験(n=3)の結果を図3に示す。試験例2ほどではないものの本試験例3においても、本発明に係る油脂分解微生物の油脂分解能力はpH3.5〜9の間で高い値を示した。
【0040】
(試験例4)
本発明に係る油脂分解微生物の各種温度における油脂分解能力を評価した。
【0041】
油脂分解能力の評価は、培地をpH4(pHは塩酸で調整)とし、培養温度を20℃〜50℃の間で種々に変えた点以外は、試験例1と同様にして行った。
【0042】
上記による油脂分解能力の評価試験(n=3)の結果を図4に示す。本発明に係る油脂分解微生物の油脂分解能力は20℃〜35℃で急増し、40℃〜50℃で急減したが、35℃〜40℃ではほぼ一定であった。特に、30℃〜45℃では、3000 ppm のサラダ油:ラード:牛脂=1:1:1(w/w)から成る混合油脂を1日あたり約40%〜60%分解した。このように、本発明に係る油脂分解微生物は広い温度範囲で高い油脂分解能を示す油脂分解微生物であるといえる。
【0043】
(試験例5)
本発明に係る油脂分解微生物の各種温度における油脂分解能力を評価した。
【0044】
油脂分解能力の評価は、培地をpH4(pHは塩酸で調整)とし、培養温度を25℃〜45℃の間で種々に変えた点以外は、試験例2と同様にして行った。
【0045】
上記による油脂分解能力の評価結果を図5に示す。本発明に係る油脂分解微生物の油脂分解能力は25℃〜35℃で急増し、35℃〜50℃で漸減した。そして、30℃〜45℃では、3000 ppm のサラダ油:ラード:牛脂=1:1:1(w/w)から成る混合油脂を1日あたり約40%〜60%分解した。このように、本発明に係る油脂分解微生物は広い温度範囲で高い油脂分解能を示す油脂分解微生物であるといえる。
【0046】
(試験例6)
本発明に係る油脂分解微生物としてバークホルデリア マルティボランスR128株及び標準株NBRC−102086を使用し、同微生物の各種pH及び各種温度における油脂分解能力を評価した。
油脂分解能力の評価は、培地をpH4とpH8の2種類とした点、及び培地温度を25℃と40℃の2種類とした点以外は、試験例1と同様にして行った。
【0047】
上記による油脂分解能力の評価結果を図6に示す。図6から明らかなように、本発明に係る油脂分解微生物はR128株と標準株はいずれも、25℃及び40℃いずれの温度条件下においても、pH4とpH8の双方で優れた油脂分解能力を発揮した。
【0048】
(試験例7)
本発明に係る油脂分解微生物としてバークホルデリア マルティボランスR128株を使用し、各種油脂に対する分解能力を評価した。
油脂分解能力の評価は、油脂の種類が異なる以外は、試験例1と同様にして行った。
上記による油脂分解能力の評価結果を下記の表4に示す。
【表4】
表4から明らかなように、本発明に係る油脂分解微生物は、オレイン酸や該オレイン酸のような不飽和脂肪酸を多く含む油脂に対して高い分解能力を発揮し、パルミチン酸やステアリン酸のような飽和脂肪酸に対する分解能力は低いことが分かった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]