特許第6095157号(P6095157)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6095157発泡断熱シート及びこれを用いた発泡断熱容器
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6095157
(24)【登録日】2017年2月24日
(45)【発行日】2017年3月15日
(54)【発明の名称】発泡断熱シート及びこれを用いた発泡断熱容器
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/10 20060101AFI20170306BHJP
   B32B 5/24 20060101ALI20170306BHJP
   B32B 27/20 20060101ALI20170306BHJP
   B65D 65/40 20060101ALI20170306BHJP
   B65D 81/38 20060101ALI20170306BHJP
【FI】
   B32B27/10
   B32B5/24 101
   B32B27/20 Z
   B65D65/40 D
   B65D81/38 B
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-29493(P2013-29493)
(22)【出願日】2013年2月18日
(65)【公開番号】特開2014-156108(P2014-156108A)
(43)【公開日】2014年8月28日
【審査請求日】2015年9月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000223193
【氏名又は名称】東罐興業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083183
【弁理士】
【氏名又は名称】西 良久
(72)【発明者】
【氏名】光石 拓己
(72)【発明者】
【氏名】冨森 亮一
(72)【発明者】
【氏名】広瀬 全克
【審査官】 加賀 直人
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−083934(JP,A)
【文献】 特開平05−042929(JP,A)
【文献】 特開2010−214638(JP,A)
【文献】 特開2006−168770(JP,A)
【文献】 特開2010−173259(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 27/10
B32B 5/24
B32B 27/20
B65D 65/40
B65D 81/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原紙と、
該原紙の外面上に積層された低融点の熱可塑性合成樹脂からなり加熱処理によって発泡可能な発泡層と、
該発泡層の外面上に積層され、前記加熱処理により発泡しない高融点の熱可塑性合成樹脂からなる発泡安定層と、
該発泡安定層に充填される酸化チタン、シリカ、又は粘土系化合物からなる充填剤と、
前記発泡安定層の外面上に印刷により形成される印刷層と、
前記原紙の内面上に積層され、前記加熱処理により発泡しない高融点の熱可塑性合成樹脂とからなり、
前記充填剤は、前記発泡安定層の厚みが15μm〜30μmの場合、含有される充填剤が最大で単位面積当たり8.4g/m〜16.9g/mの含有量となり、前記発泡安定層への充填剤の含有量を増減することで発泡安定層の表面の光沢性をコントロールすることができることを特徴とする発泡断熱シート。
【請求項2】
発泡安定層が、厚みが15μmの場合、充填剤が単位面積当たり4.7g/mを超え8.4g/m未満の範囲で含有させることで、発泡安定層の表面が光沢又は微細な凹凸を有するマット調の熱可塑性合成樹脂からなっていることを特徴とする請求項1に記載の発泡断熱シート。
【請求項3】
請求項1または2に記載の発泡断熱シートを、容器の胴部に用いてなり、該胴部は加熱による発泡が設けられていることを特徴とする発泡断熱容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、美麗な印刷を行うことができる発泡断熱シート及びこれを用いた発泡断熱容器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、紙容器に断熱層を設ける場合、原紙に積層した熱可塑性合成樹脂の発泡層を、原紙中に含有されている水分の加熱蒸発により発泡させて断熱層を形成する構成が知られている。
上記発泡表面は、発泡高さの増加に伴い、外観の平滑性が低下する。
また、発泡前の発泡層の表面に印刷を施した場合には、発泡によって印刷抜けが見られ、デザインの美麗性が損なわれるという欠点があった。
そこで、特開2009−83934号の断熱性発泡紙製容器の製造方法では、原紙の片面には高融点の熱可塑性合成樹脂層を、他方の面には外側に印刷層を有する低融点の熱可塑性合成樹脂層(発泡層)を設けた基材紙により、前記印刷層が外側となるように上下開口の筒状胴部材を成型しており、前記印刷層が、前記低融点の熱可塑性合成樹脂層の表面に白インキを下地として印刷した後、当該白インキ層の表面に色インキを印刷する構成が開示されている。
また、特開2006−168770(特許第4523398号)公報の断熱性発泡紙製容器の製造方法では、白インキ層を設けず発泡させる低融点の熱可塑性合成樹脂層(発泡層)の上に単一色の印刷層を設けて、容器外側面の発泡を全面的に抑制し制御して平滑な発泡外側面を形成する構成が開示されている。
そこで、低融点の熱可塑性合成樹脂層の表面に白インキの上に色インキを印刷し、又は単一色のインキを印刷する場合、これらのインキにより印刷層で発泡による色調を覆い、また塗布部分の発泡を抑制することができるが、発泡面の発泡高さを揃えるにはインキを直接に前記熱可塑性合成樹脂層の全面に印刷して発泡を抑制させる必要があった。
一方、特開平5−42929号(特許第3596681号)公報には、容器胴部材及び底板部材からなる紙製容器において、容器胴部材の原紙の外壁面に、低融点の熱可塑性合成樹脂フィルムと高融点の熱可塑性合成樹脂フィルムとを二重にラミネートし、加熱により内側の低融点の熱可塑性合成樹脂フィルムのみを発泡させて、外層フィルムへの液体の浸透や滲出を防止することによる平滑で光沢のある2層構造の断熱性紙製容器が記載されており、紙の他面には、加熱時に蒸気圧を保持する層として、高融点の熱可塑性合成樹脂フィルムをラミネートする構成が記載されている。
上記構成では、低融点の熱可塑性合成樹脂フィルムの発泡性(あるいは発泡倍率)は、該フィルムの膜厚および該フィルムと原紙との層間強度によりコントロールしている。
そこで、低融点の熱可塑性合成樹脂フィルムにラミネートした高融点の熱可塑性合成樹脂フィルム上に印刷を施すことが考えられるが、上記構成では、膜厚と層間強度の相関関係によるので、発泡高さについて広範囲でコントロールすることは困難であり、また、外層となる高融点熱可塑性合成樹脂フィルムの光沢や微細な凹凸のコントロールはできなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−83934号公報
【特許文献2】特開2009−190756号公報
【特許文献3】特開平5−42929号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この発明は、上記事情に鑑みて創案されたものであり、その主たる課題は、
外層となる高融点の熱可塑性合成樹脂フィルム自体の発泡を抑制し安定させる機能又は、前記熱可塑性合成樹脂フィルムに含有する発泡抑制充填剤により発泡層である低融点の熱可塑性合成樹脂フィルムの発泡高さのコントロールや、印刷の地色に適した光沢(色調や明暗)に設定し、更に前記高融点熱可塑性合成樹脂の表面の微細な凹凸形状を形成させることでグリップ性を向上させうる発泡断熱シート及びこれを用いた発泡断熱容器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を達成するために、請求項1の発泡断熱シートの発明では、
原紙と、
該原紙の外面上に積層された低融点の熱可塑性合成樹脂からなり加熱処理によって発泡可能な発泡層と、
該発泡層の外面上に積層され、前記加熱処理により発泡しない高融点の熱可塑性合成樹脂からなる発泡安定層と、
該発泡安定層に充填される酸化チタン、シリカ、又は粘土系化合物からなる充填剤と、
前記発泡安定層の外面上に印刷により形成される印刷層と、
前記原紙の内面上に積層され、前記加熱処理により発泡しない高融点の熱可塑性合成樹脂とからなり、
前記充填剤は、前記発泡安定層の厚みが15μm〜30μmの場合、含有される充填剤が最大で単位面積当たり8.4g/m〜16.9g/mの含有量となり、前記発泡安定層への充填剤の含有量を増減することで発泡安定層の表面の光沢性をコントロールすることができることを特徴とする。
また、請求項2の発明では、
発泡安定層が、厚みが15μmの場合、充填剤が単位面積当たり4.7g/mを超え8.4g/m未満の範囲で含有させることで、発泡安定層の表面が光沢又は微細な凹凸を有するマット調の熱可塑性合成樹脂からなっていることを特徴とする。
請求項3の発明では、
請求項1または2に記載の発泡断熱シートを、容器の胴部に用いてなり、該胴部は加熱による発泡が設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
この発明は、発泡安定層の熱可塑性合成樹脂フィルムによって、発泡層の発泡高さの抑制及び安定と、発泡安定層の表面の光沢、色調や明度、ミラー調や微細な凹凸面を有するマット調などを用途に応じて設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】発泡断熱シートの部分断面図である。
図2】(a)断熱容器の断面図、(b)は胴部のbの部分拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
原紙の外面上に発泡層を設け、該発泡層の外面上に発泡層より高い融点で水蒸気透過性の低い熱可塑性合成樹脂フィルムからなる発泡安定層を設け、該発泡安定層の上に印刷を施すことで、発泡の抑制及び安定と発泡安定層の表面の光沢や微細な凹凸面の調整を実現した。
【実施例1】
【0009】
図1は、本発明の実施例1の発泡断熱シート1を示す断面図である。
この発泡断熱シート1は、原紙2と、該原紙2の外面上に積層された低融点の熱可塑性合成樹脂フィルムからなる発泡層3と、該発泡層3の外面上に積層された高融点の熱可塑性合成樹脂フィルムからなる発泡安定層4と、該発泡安定層4の外面上に印刷により形成される印刷層5と、前記原紙2の内面上に積層される高融点の熱可塑性合成樹脂フィルムからなる内面保持層6とからなっている。
【0010】
[原紙]
原紙2は、断熱発泡容器用に用いられる含水率を有する原紙であればよいが、例えば、100g/m〜400g/m位の坪量であって、約2〜10%、好ましくは4.5〜8%程度の含水率を有するものが使用される。
【0011】
[発泡層]
発泡層3は、低融点の熱可塑性合成樹脂フィルムからなっており、ポリエチレンが好ましいが、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリエステル、ナイロンなどのような公知の熱可塑性のフィルムが用いられる。
発泡のための加熱温度は、一般には、約110℃〜約200℃の範囲内であるが、原紙2および発泡層3の種類に応じて適宜定めることができる。
【0012】
[発泡安定層]
発泡安定層4は、発泡層3を発泡させるための加熱処理によっても発泡しない高い融点の熱可塑性合成樹脂フィルムであって、腰が強い(剛性がある)、又は発泡層の樹脂より伸びが悪い、又は水蒸気透過率が低い物性を有している。
例えば、水蒸気透過率の低い低密度ポリエチレン(LDPE)や高密度ポリエチレン(HDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)などを用いることができる。
【0013】
発泡安定層4は、その素材の比重の大小により発泡高さをコントロールすることができる。
また、発泡安定層4は、印刷インキを印刷する地色として適切な光沢、色調や明度とすることで、印刷の美麗性を向上させうる。
また、発泡安定層4の表面をミラー調や微細な凹凸を有するマット調にすることができる。
【0014】
これらの特徴に合わせて発泡安定層4に用いる熱可塑性合成樹脂フィルムの素材を適宜選択して用いることができる。
また、高融点の熱可塑性合成樹脂フィルムに充填剤を含有させて発泡安定層4としてもよい。
即ち、上記要件を満たす充填剤としては、例えば、酸化チタン、シリカ、または粘土系化合物などが挙げられる。
そこで、充填剤として酸化チタンを用いた場合について説明する。
【0015】
[発泡高さのコントロール]
発泡層3の発泡長さのコントロールを検証するため、最内層にLLDPEとLDPEのブレンド樹脂(融点129℃)、発泡層にLDPE(融点106℃)を用い、発泡安定層4となるLDPE(融点110℃、15μm厚)へ酸化チタン(比重4.1)を含有させた発泡安定層4を用いて、発泡テストを実施した。
発泡安定層4への酸化チタン含有量条件は、(1)1.9g/m(10wt%)、(2)4.7g/m(20wt%)、および(3)8.4g/m(30wt%)とした。
【0016】
テストの結果、酸化チタンの含有量の増加に伴い、発泡層3の発泡高さを抑制し安定させことが確認できた。
ただし、前記発泡安定層(15μm厚)4に対して、発泡層3のコントロールが可能となる範囲は下記の通りである。
酸化チタン含有量Xは以下の範囲が望ましい。
0g/m<X≦8.4g/m(酸化チタン30wt%)
上限値の8.4g/mを超えると、製膜の形成が不安定となり、ラミネートができなくなる。
【0017】
上記範囲は熱可塑性合成樹脂フィルムが15μmの場合の範囲であって、厚みが増えることで上限値も広がるが、製膜の形成が安定する範囲内が好ましい。
その他の充填剤においても同様であり、いずれも製膜の形成が不安定とならない範囲で発泡安定層4への含有量を増加させることで発泡層3の発泡高さを抑制し安定させることができる。
【0018】
この実施例では、白インキを用いず発泡安定層4となる熱可塑性合成樹脂フィルムに充填剤を含有させるので、白インキよりも大量に含有させることができ、発泡高さのコントロールを広範囲に行うことができる。
即ち、白インキ(酸化チタン含有量30wt%とする)の場合、一般的にインキの塗布量は、2〜10g/m程度であるので、酸化チタンは単位面積あたり0.6〜3.0g/m程度含有することになる。
【0019】
これに対して、熱可塑性合成樹脂フィルムの場合、厚みが15μmの場合には、樹脂全体の重量は、最大で28.1g/mとなり、含有される酸化チタンは単位面積あたり8.4g/mを含有することになる。
熱可塑性合成樹脂フィルムの厚みが30μmの場合には、樹脂全体の重量は、最大で56.2g/mとなり、含有される酸化チタンは単位面積あたり16.9g/m含有することになる。
【0020】
これにより、酸化チタンなどの充填剤の含有量が印刷インキに比べて大量に含有しうることが分かる。
従って、例えば、発泡層3の発泡高さをインキに比してより低く発泡させる(抑制し安定させる)ことができ、スタック時のブロッキングを軽減させることができる。
【0021】
[光沢性のコントロール]
前述の酸化チタンの各含有量条件による発泡安定層4の光沢性のコントロールについて検証するため、発泡テストを実施した。
テスト結果、酸化チタン含有量の増加に伴い、発泡安定層4はその表面に形成される微細な凹凸が促進され、これに比例して光沢度(色調や明度)が低下することを確認した。
【0022】
ただし、発泡安定層4(厚み15μm)に対して、表面の光沢度変化を示す範囲を下記とする。
酸化チタン含有量X1の場合、
0g/m<X1≦4.7g/m(酸化チタン10wt%)
X1の範囲では発泡安定層4の表面はミラー調となる。
【0023】
酸化チタン含有量X2の場合、
4.7g/m<X2<8.4g/m(酸化チタン30wt%)
X2の範囲では発泡安定層4の表面はマット調となる。
従って、前記充填剤の含有量によって発泡安定層4の表面をミラー調やマット調にすることができる。
その他の充填剤においても同様であり、いずれも含有量を増加させることで除々にミラー調からマット調にコントロールすることができる。
【0024】
[グリップ性]
前述のように、酸化チタン含有量の増加に伴い、発泡安定層4はその表面に形成される微細な凹凸が僅かに大きくなり、紙コップ形状に成型した際、スリップしにくくなって、グリップ性を向上させることができる。
この場合も、酸化チタン以外の充填剤においても同様であり、いずれも含有量を調整することでグリップ性を向上させることができる。
【0025】
以上から、発泡安定層4が、熱可塑性合成樹脂フィルムに充填剤を含有させる場合には、その含有量によって、発泡の高さの抑制及び安定と、ミラー調からマット調にいたる光沢(色調や明度)と、表面の微細な凹凸によるグリップ性の各要素が関連しあってコントロールすることができるので、断熱容器の用途やデザインの美麗性に応じて、充填剤の最適な含有量を定めて、断熱容器を成形することができる。
【0026】
[印刷層]
前記発泡安定層4の外面には、適宜印刷を施して印刷層5を形成する。
印刷層5は、発泡安定層4の外面の全部又は一部に形成されるものでもよい。
この発明では、印刷の方法やインキの色彩、厚みなどは特に限定されない。
この印刷層5が形成された発泡断熱シート1は、例えば、容器の胴部として用いられ、容器が成形される。
この成形された容器は、加熱処理により加熱され、前記胴部11の発泡層3を発泡させて発泡断熱容器10が完成する(図2参照)。
【0027】
断熱容器の形状は図示例に限定されない。
また、上記実施例では、発泡層と発泡安定層とはラミネートする場合を示したが接着剤を用いて積層する構成でもよい。
その他、この発明は、上記実施例に限定されるものではなく、要するにこの発明の要旨を変更しない範囲で種々設計変更することができる。
【符号の説明】
【0028】
1 発泡断熱シート
2 原紙
3 発泡層
4 発泡安定層
5 印刷層
6 内面保持層
10 発泡断熱容器
11 胴部
図1
図2