【実施例】
【0042】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、本実施例により何ら限定されるものではない。なお、以下の実施例において、硫化銅からなる微粒子の形状や個数、セルロース系繊維材料の体積固有抵抗値及び強度は、以下の方法により測定している。
【0043】
[繊維材料内部に生成された微粒子の観察]
導電性セルロース系繊維材料に対して、超薄切片法及びFIB(集束イオンビーム)法を用いて繊維材料の切片を作成し、TEM(透過型電子顕微鏡)により切片の断面に表出した微粒子を観察した。超薄切片法では、切片作成時にしわ(アーティファクト)が入りやすく、FIB法では、薄膜加工中の熱ダメージにより網目構造が観察される問題点があるため、両者の切片をTEMにより観察して微粒子の形状や繊維材料の断面に表出する微粒子密度を測定した。なお、FIB法では、細く絞った集束イオンビームを試料表面に照射してエッチングすることにより、試料表面の加工を行う。薄膜試料を加工する場合には、イオンビームで薄膜試料表面から加工していき、最終的には電子線が通過する厚さ(100nm以下)まで加工して観察用の試料としている。繊維材料の断面に対するTEMの観察条件は、以下の通りに設定した。
<FIB法>
試料調製 FIB法:マイクロサンプリングシステム(日立製FB−2000A)
観察装置 透過型電子顕微鏡(日立製H−7100FA)
観察条件 加速電圧 100kV
<超薄切片法>
試料調製 超薄切片法
観察装置 透過型電子顕微鏡(日立製H−7100FA)
観察条件 加速電圧 100kV
【0044】
[繊維材料の表面の観察]
SEM(走査型電子顕微鏡;KEYENCE社製の3D real view 顕微鏡VE9800)を用いて、導電性セルロース系繊維材料の表面を観察した。観察する前に、繊維材料の表面にイオンコーターを用いて金コーティングを行った。
【0045】
[繊維材料の導電性(体積固有抵抗値)測定 Ω・cm]
導電性セルロース系繊維材料からなる繊維5〜10本を無作為に選択してスライドガラスに並列配置し、配列した繊維の両端に銀ペーストを塗布して固定した。電極間距離を5mmに設定し、直流電源装置(TRIO PR−602A DC POWER SUPPLY)を用いて測定繊維に電圧を1〜5V印加させた。そして、設定電圧における電流値をデジタルマルチメータ(三和電気計器株式会社製)により測定した。電流測定は、設定電圧で5回測定した。そして、体積固有抵抗値(ρ)(Ω・cm)=R×(S/L)により、各繊維の体積固有抵抗値を求めた。なお、Rは試験片の抵抗値(Ω)、Sは断面積(cm
2)及びLは長さ(5mm)である。ここで、繊維の断面積は、繊維を顕微鏡下で観察することにより算出した。
【0046】
[布帛の導電性(体積固有抵抗値)測定 Ω・cm]
導電性セルロース系繊維材料からなる布帛の表面を、エタノールを染みこませたウエスを用いて洗浄し、抵抗率計(三菱化学アナリテック株式会社製抵抗率計MCP−T370)により布帛の体積固有抵抗値を測定した。測定方法は、四探針法に準拠して行い、抵抗率補正係数を4.532に設定した。
【0047】
[繊維材料の強伸度測定]
導電性セルロース系繊維材料からなる繊維10本を無作為に選択し、選択した繊維を支持体にエポキシ樹脂により固定した。圧縮試験機(KATO TECH CO.,LTD製高精度圧縮試験機)を用いて、測定条件(チャック間距離20mm、引張伸び歪み検出2mm/10V、引張荷重検出100g/10V)を設定し、繊維の強伸度を測定した。
【0048】
[布帛の強伸度測定]
導電性セルロース系繊維材料からなる布帛を矩形状(10mm×50mm)に切り出して測定に用いた。測定には、引張試験機(東洋ボールドウィン株式会社製テンシロン型引張り試験機UTM−III−500)を用い、測定条件(チャック間距離30mm、引張速度10mm/分)を設定して布帛の強伸度を測定した。
【0049】
[布帛の通電による発熱量評価]
導電性セルロース系繊維材料からなる布帛を矩形状(30mm×50mm)に切り出し、電極間距離が40mmとなるように、対向する辺部に導電性ペースト(藤倉化成株式会社製導電性ペーストD−500)を塗布し、常温で24時間乾燥して電極を形成した。形成した電極に対して直流電源装置(トリオ商事株式会社製直流電源装置PR−602A)を用いて電圧15Vを印加した。電圧印加後の布帛の発熱量を評価するために、サーモグラフィ(株式会社アピステ製サーモグラフィFSV−7000E)を用いて、温度分布の経時変化を測定した。測定条件は放射率1とし、測定温度が低いため温度補正は行わなかった。
【0050】
[実施例1]
(1)導電性セルロース系繊維材料からなる導電性糸の製造
キュプラ繊維からなる糸(旭化成株式会社製)に対して、酢酸銅(II)一水和物(ナカライテスク株式会社製)を濃度5g/リットル及び水酸化ナトリウム(ナカライテスク株式会社製)を濃度9重量%でそれぞれ溶解した25℃の水浴中に滞留時間が120秒になるように導糸して含浸処理を行った。含浸処理した糸を、引き続き、硫化ナトリウム九水和物(ナカライテスク株式会社製)を濃度40g/リットル及び水酸化ナトリウム(ナカライテスク株式会社製)を濃度9重量%でそれぞれ溶解した25℃の水浴中に滞留時間が120秒になるように導糸して硫化還元処理を行った。これらの含浸処理及び硫化還元処理を4回繰り返した後、十分な水洗後110℃の熱風で乾燥して導電性セルロース系繊維材料からなる導電性糸を得た。
【0051】
(2)導電性セルロース系繊維材料からなる導電性糸の評価
得られた導電性糸の初期弾性率、破断伸度及び破断強度は、それぞれ178.5MPa、2.7%及び94.8MPaであった。導電性糸の体積固有抵抗値は、2.8×10
-1Ω・cmであった。導電性糸の繊維の外観は良好で糸斑等はなかった。
図1は、SEMで撮影した繊維表面に関する写真である。
図1の写真に示すように、析出した硫化銅からなる微粒子が表出しているが、スムースな繊維表面であることがわかる。この導電性糸に含まれる硫化銅の重量について、示差熱重量分析装置(島津製作所製TG/DTA同時測定装置DTG−60)を用いてDTA−TG(示差熱/熱重量)分析を行った。約600℃までDTA−TG分析を行った結果、残存重量は8重量%であった。
【0052】
図2は、TEMで撮影した導電性糸の繊維の断面に関する写真である。
図2に示すように、硫化銅からなる微粒子として、繊維内部の平均粒子径50nm以下の不定形微粒子と繊維外周部の長さ200nm以下の棒状微粒子が存在して相互に連なっていることが観察された。平均粒子径50nm以下の不定形微粒子の密度は118個/(μm)
2で、棒状微粒子の密度は54個/(μm)
2であった。
【0053】
[実施例2]
(1)導電性セルロース系繊維材料からなる導電性糸の製造
実施例1と同様のキュプラ繊維からなる糸に対して、実施例1と同様の酢酸銅(II)一水和物を濃度10g/リットル及び実施例1と同様の水酸化ナトリウムを濃度9重量%でそれぞれ溶解した25℃の水浴中に滞留時間が120秒になるように導糸して含浸処理を行った。含浸処理した糸を、引き続き、実施例1と同様の硫化ナトリウム九水和物を濃度40g/リットル及び実施例1と同様の水酸化ナトリウムを濃度9重量%でそれぞれ溶解した25℃の水浴中に滞留時間が120秒になるように導糸して硫化還元処理を行った。これらの含浸処理及び硫化還元処理を4回繰り返した後、十分な水洗後110℃の熱風で乾燥して導電性セルロース繊維材料からなる導電性糸を得た。
【0054】
(2)導電性セルロース系繊維材料からなる導電性糸の評価
得られた導電性糸の初期弾性率、破断伸度及び破断強度は、それぞれ172.1MPa、2.1%及び73.1MPaであった。導電糸の体積固有抵抗値は、7.4×10
-2Ω・cmであった。導電性糸に含まれる硫化銅の重量について、実施例1と同様にDTA−TG分析を約600℃まで行った結果、その残存重量は15重量%であった。また、実施例1と同様に、TEMで撮影した導電性糸の繊維断面の写真に基づいて分析したところ、繊維内部の平均粒子径50nm以下の不定形微粒子と繊維外周部の長さ200nm以下の棒状微粒子が存在して相互に連なっていることが観察された。平均粒子径50nm以下の不定形微粒子の密度は249個/(μm)
2で、棒状微粒子の密度は113個/(μm)
2であった。
【0055】
[実施例3]
(1)導電性セルロース系繊維材料からなる導電性糸の製造
実施例1と同様のキュプラ繊維からなる糸に対して、実施例1と同様の酢酸銅(II)一水和物を濃度20g/リットル及び実施例1と同様の水酸化ナトリウムを濃度9重量%でそれぞれ溶解した25℃の水浴中に滞留時間が120秒になるように導糸して含浸処理を行った。含浸処理した糸を、引き続き、実施例1と同様の硫化ナトリウム九水和物を濃度40g/リットル及び実施例1と同様の水酸化ナトリウムを濃度9重量%でそれぞれ溶解した25℃の水浴中に滞留時間が120秒になるように導糸して硫化還元処理を行った。これらの含浸処理及び硫化還元処理を4回繰り返した後、十分な水洗後110℃の熱風で乾燥して導電性セルロース系繊維材料からなる導電性糸を得た。
【0056】
(2)導電性セルロース系繊維材料からなる導電性糸の評価
得られた導電性糸の初期弾性率、破断伸度及び破断強度は、それぞれ201.8MPa、2.1%及び78.8MPaであった。導電性糸の体積固有抵抗値は、6.4×10
-2Ω・cmであった。導電性糸に含まれる硫化銅の重量について、実施例1と同様のDTA−TG分析を約600℃まで行った結果、その残存重量は21重量%であった。また、実施例1と同様に、TEMで撮影した導電性糸の繊維断面の写真に基づいて分析したところ、繊維内部の平均粒子径50nm以下の不定形微粒子と繊維外周部の長さ200nm以下の棒状微粒子が存在して相互に連なっていることが観察された。平均粒子径50nm以下の不定形粒子の密度は528個/(μm)
2で、棒状微粒子の密度は240個/(μm)
2であった。
【0057】
[実施例4]
(1)導電性セルロース系繊維材料からなる導電性糸の製造
実施例1と同様のキュプラ繊維からなる糸に対して、実施例1と同様の酢酸銅(II)一水和物を濃度40g/リットル及び実施例1と同様の水酸化ナトリウムを濃度9重量%でそれぞれ溶解した25℃の水浴中に滞留時間が120秒になるように導糸して含浸処理を行った。含浸処理した糸を、引き続き、実施例1と同様の硫化ナトリウム九水和物を濃度40g/リットル及び実施例1と同様の水酸化ナトリウムを濃度9重量%でそれぞれ溶解した25℃の水浴中に滞留時間が120秒になるように導糸して硫化還元処理を行った。これらの含浸処理及び硫化還元処理を4回繰り返した後、十分な水洗後110℃の熱風で乾燥して導電性セルロース系繊維材料からなる導電性糸を得た。
【0058】
(2)導電性セルロース系繊維材料からなる導電性糸の評価
得られた繊維の初期弾性率、破断伸度及び破断強度は、それぞれ218.6MPa、2.7%及び104.5MPaであった。導電性糸の体積固有抵抗値は3.4×10
-1Ω・cmであった。導電性糸の繊維の外観は良好で糸斑等はなかった。
図3は、SEMで撮影した繊維表面に関する写真である。
図3の写真に示すように、析出した硫化銅からなる微粒子が表出しているが、スムースな繊維表面であることがわかる。この導電性糸に含まれる硫化銅の重量について、実施例1と同様のDTA−TG分析を約600℃まで行った結果、残存重量は28重量%であった。
【0059】
図4は、TEMで撮影した導電性糸の繊維の断面に関する写真である。
図4に示すように、硫化銅からなる微粒子として、繊維内部の平均粒子径50nm以下の不定形微粒子と繊維外周部の長さ200nm以下の棒状微粒子が形成されて相互に連なっていることが観察された。平均粒子径50nm以下の不定形微粒子の密度は743個/(μm)
2で、棒状微粒子の密度は337個/(μm)
2であった。
【0060】
[実施例5]
(1)導電性セルロース系繊維材料からなる導電性糸の製造
実施例1と同様のキュプラ繊維からなる糸に対して、実施例1と同様の酢酸銅(II)一水和物を濃度5g/リットル及び実施例1と同様の水酸化ナトリウムを濃度9重量%でそれぞれ溶解した25℃の水浴中に滞留時間が120秒になるように導糸して含浸処理を行った。含浸処理した糸を、引き続き、実施例1と同様の硫化ナトリウム九水和物を濃度5g/リットル及び実施例1と同様の水酸化ナトリウムを濃度9重量%でそれぞれ溶解した25℃の水浴中に滞留時間が120秒になるように導糸して硫化還元処理を行った。これらの含浸処理及び硫化還元処理を4回繰り返した後、十分な水洗後110℃の熱風で乾燥して導電性セルロース系繊維材料からなる導電性糸を得た。
【0061】
(2)導電性セルロース系繊維材料からなる導電性糸の評価
得られた繊維の初期弾性率、破断伸度及び破断強度は、それぞれ139.6MPa、2.7%及び82.7MPaであった。導電性糸の体積固有抵抗値は7.3×10
-1Ω・cmであった。導電性糸に含まれる硫化銅の重量について、実施例1と同様のDTA−TG分析を約600℃まで行った結果、残存重量は5重量%であった。TEMで撮影した導電性糸の繊維の断面を観察したところ、硫化銅からなる微粒子として、繊維内部の平均粒子径50nm以下の不定形微粒子と繊維外周部の長さ200nm以下の棒状微粒子が形成されて相互に連なっていることが観察された。平均粒子径50nm以下の不定形微粒子の密度は78個/(μm)
2で、棒状微粒子の密度は34個/(μm)
2であった。
【0062】
[実施例6]
(1)導電性セルロース系繊維材料からなる導電性糸の製造
実施例1と同様のキュプラ繊維からなる糸に対して、実施例1と同様の酢酸銅(II)一水和物を濃度5g/リットル及び実施例1と同様の水酸化ナトリウムを濃度9重量%でそれぞれ溶解した25℃の水浴中に滞留時間が120秒になるように導糸して含浸処理を行った。含浸処理した糸を、引き続き、実施例1と同様の硫化ナトリウム九水和物を濃度10g/リットル及び実施例1と同様の水酸化ナトリウムを濃度9重量%でそれぞれ溶解した25℃の水浴中に滞留時間が120秒になるように導糸して硫化還元処理を行った。これらの含浸処理及び硫化還元処理を4回繰り返した後、十分な水洗後110℃の熱風で乾燥して導電性セルロース系繊維材料からなる導電性糸を得た。
【0063】
(2)導電性セルロース系繊維材料からなる導電性糸の評価
得られた繊維の初期弾性率、破断伸度及び破断強度は、それぞれ161.2MPa、2.5%及び80.5MPaであった。導電性糸の体積固有抵抗値は1.9×10
-1Ω・cmであった。導電性糸に含まれる硫化銅の重量について、実施例1と同様のDTA−TG分析を約600℃まで行った結果、残存重量は12重量%であった。
【0064】
TEMで撮影した導電性糸の繊維の断面に関する写真を観察したところ、硫化銅からなる微粒子として、繊維内部の平均粒子径50nm以下の不定形微粒子と繊維外周部の長さ200nm以下の棒状微粒子が形成されて相互に連なっていることが観察された。平均粒子径50nm以下の不定形微粒子の密度は290個/(μm)
2で、棒状微粒子の密度は133個/(μm)
2であった。
【0065】
[実施例7]
(1)導電性セルロース系繊維材料からなる導電性糸の製造
実施例1と同様のキュプラ繊維からなる糸に対して、実施例1と同様の酢酸銅(II)一水和物を濃度5g/リットル及び実施例1と同様の水酸化ナトリウムを濃度9重量%でそれぞれ溶解した25℃の水浴中に滞留時間が120秒になるように導糸して含浸処理を行った。含浸処理した糸を、引き続き、実施例1と同様の硫化ナトリウム九水和物を濃度20g/リットル及び実施例1と同様の水酸化ナトリウムを濃度9重量%でそれぞれ溶解した25℃の水浴中に滞留時間が120秒になるように導糸して硫化還元処理を行った。これらの含浸処理及び硫化還元処理を4回繰り返した後、十分な水洗後110℃の熱風で乾燥して導電性セルロース系繊維材料からなる導電性糸を得た。
【0066】
(2)導電性セルロース系繊維材料からなる導電性糸の評価
得られた繊維の初期弾性率、破断伸度及び破断強度は、それぞれ144.4MPa、2.2%及び71.3MPaであった。導電性糸の体積固有抵抗値は2.1×10
-1Ω・cmであった。導電性糸に含まれる硫化銅の重量について、実施例1と同様のDTA−TG分析を約600℃まで行った結果、残存重量は19重量%であった。TEMで撮影した導電性糸の繊維の断面を観察したところ、硫化銅からなる微粒子として、繊維内部の平均粒子径50nm以下の不定形微粒子と繊維外周部の長さ200nm以下の棒状微粒子が形成されて相互に連なっていることが観察された。平均粒子径50nm以下の不定形微粒子の密度は525個/(μm)
2で、棒状微粒子の密度は236個/(μm)
2であった。
【0067】
[実施例8]
(1)導電性セルロース系繊維材料からなる導電性糸の製造
実施例1と同様のキュプラ繊維からなる糸に対して、実施例1と同様の酢酸銅(II)一水和物を濃度40g/リットル及び実施例1と同様の水酸化ナトリウムを濃度9重量%でそれぞれ溶解した25℃の水浴中に滞留時間が120秒になるように導糸して含浸処理を行った。含浸処理した糸を、引き続き、実施例1と同様の硫化ナトリウム九水和物を濃度10g/リットル及び実施例1と同様の水酸化ナトリウムを濃度9重量%でそれぞれ溶解した25℃の水浴中に滞留時間が120秒になるように導糸して硫化還元処理を行った。これらの含浸処理及び硫化還元処理を4回繰り返した後、十分な水洗後110℃の熱風で乾燥して導電性セルロース系繊維材料からなる導電性糸を得た。
【0068】
(2)導電性セルロース系繊維材料からなる導電性糸の評価
得られた繊維の初期弾性率、破断伸度及び破断強度は、それぞれ209.8MPa、3.6%及び143.8MPaであった。導電性糸の体積固有抵抗値は3.6×10
1Ω・cmであった。導電性糸に含まれる硫化銅の重量について、実施例1と同様のDTA−TG分析を約600℃まで行った結果、残存重量は3重量%であった。TEMで撮影した導電性糸の繊維の断面を観察したところ、硫化銅からなる微粒子として、繊維内部の平均粒子径50nm以下の不定形微粒子と繊維外周部の長さ200nm以下の棒状微粒子が形成されて相互に連なっていることが観察された。平均粒子径50nm以下の不定形微粒子の密度は68個/(μm)
2で、棒状微粒子の密度は31個/(μm)
2であった。
【0069】
[実施例9]
(1)導電性セルロース系繊維材料からなる導電性糸の製造
実施例1と同様のキュプラ繊維からなる糸に対して、実施例1と同様の酢酸銅(II)一水和物を濃度40g/リットル及び実施例1と同様の水酸化ナトリウムを濃度9重量%でそれぞれ溶解した25℃の水浴中に滞留時間が120秒になるように導糸して含浸処理を行った。含浸処理した糸を、引き続き、実施例1と同様の硫化ナトリウム九水和物を濃度20g/リットル及び実施例1と同様の水酸化ナトリウムを濃度9重量%でそれぞれ溶解した25℃の水浴中に滞留時間が120秒になるように導糸して硫化還元処理を行った。これらの含浸処理及び硫化還元処理を4回繰り返した後、十分な水洗後110℃の熱風で乾燥して導電性セルロース系繊維材料からなる導電性糸を得た。
【0070】
(2)導電性セルロース系繊維材料からなる導電性糸の評価
得られた繊維の初期弾性率、破断伸度及び破断強度は、それぞれ198.1MPa、2.5%及び120.7MPaであった。導電性糸の体積固有抵抗値は2.0×10
0Ω・cmであった。導電性糸に含まれる硫化銅の重量について、実施例1と同様のDTA−TG分析を約600℃まで行った結果、残存重量は11重量%であった。TEMで撮影した導電性糸の繊維の断面を観察したところ、硫化銅からなる微粒子として、繊維内部の平均粒子径50nm以下の不定形微粒子と繊維外周部の長さ200nm以下の棒状微粒子が形成されて相互に連なっていることが観察された。平均粒子径50nm以下の不定形微粒子の密度は278個/(μm)
2で、棒状微粒子の密度は126個/(μm)
2であった。
【0071】
[実施例10]
(1)導電性セルロース系繊維材料からなる導電性糸の製造
実施例1と同様のキュプラ繊維からなる糸に対して、実施例1と同様の酢酸銅(II)一水和物を濃度40g/リットル及び実施例1と同様の水酸化ナトリウムを濃度9重量%でそれぞれ溶解した25℃の水浴中に滞留時間が120秒になるように導糸して含浸処理を行った。含浸処理した糸を、引き続き、実施例1と同様の硫化ナトリウム九水和物を濃度80g/リットル及び実施例1と同様の水酸化ナトリウムを濃度9重量%でそれぞれ溶解した25℃の水浴中に滞留時間が120秒になるように導糸して硫化還元処理を行った。これらの含浸処理及び硫化還元処理を4回繰り返した後、十分な水洗後110℃の熱風で乾燥して導電性セルロース系繊維材料からなる導電性糸を得た。
【0072】
(2)導電性セルロース系繊維材料からなる導電性糸の評価
得られた繊維の初期弾性率、破断伸度及び破断強度は、それぞれ199.4MPa、1.3%及び110.5MPaであった。導電性糸の体積固有抵抗値は1.3×10
-1Ω・cmであった。導電性糸に含まれる硫化銅の重量について、実施例1と同様のDTA−TG分析を約600℃まで行った結果、残存重量は25重量%であった。TEMで撮影した導電性糸の繊維の断面を観察したところ、硫化銅からなる微粒子として、繊維内部の平均粒子径50nm以下の不定形微粒子と繊維外周部の長さ200nm以下の棒状微粒子が形成されて相互に連なっていることが観察された。平均粒子径50nm以下の不定形微粒子の密度は788個/(μm)
2で、棒状微粒子の密度は354個/(μm)
2であった。
【0073】
図5は、実施例1から実施例10で得られた酢酸銅及び硫化ナトリウムの濃度の組み合せを変化させた場合の導電性糸に関する体積固有抵抗値及び酢酸銅(II)一水和物の濃度を5g/リットル、10g/リットル、20g/リットルと変化させた場合の導電性糸に関する体積固有抵抗値を示す。
図5に示すように、硫化ナトリウムの濃度が高くなると体積固有抵抗値は低くなる傾向が認められた。このことは、硫化銅の残留重量が大きくなるとともに棒状微粒子の密度が大きくなっている結果と合致している。
【0074】
[実施例11]
レーヨン繊維(株式会社クラレ製)からなる糸に対して、実施例1と同様の酢酸銅(II)一水和物を濃度10g/リットル及び実施例1と同様の水酸化ナトリウムを濃度9重量%でそれぞれ溶解した25℃の水浴中に滞留時間が120秒になるように導糸して含浸処理を行った。含浸処理した糸を、引き続き、実施例1と同様の硫化ナトリウム九水和物の濃度を5g/リットル、10g/リットル、20g/リットル、40g/リットル、80g/リットルと変化させて、水酸化ナトリウムの濃度をいずれも9重量%に設定して溶解した25℃の水浴中に滞留時間が120秒になるように導糸して硫化還元処理を行った。これらの含浸処理及び硫化還元処理を2回又は4回繰り返した後、十分な水洗後110℃の熱風で乾燥して導電性セルロース繊維材料からなる導電性糸を得た。得られた導電性糸の体積固有抵抗値は、3×10
-1Ω・cm〜2×10
2Ω・cmの範囲の値であった。
【0075】
[実施例12]
実施例11と同様のレーヨン繊維からなる糸に対して、実施例1と同様の酢酸銅(II)一水和物を濃度20g/リットル及び実施例1と同様の水酸化ナトリウムを濃度9重量%でそれぞれ溶解した25℃の水浴中に滞留時間が120秒になるように導糸して含浸処理を行った。含浸処理した糸を、引き続き、実施例1と同様の硫化ナトリウム九水和物の濃度を5g/リットル、10g/リットル、20g/リットル、40g/リットル、80g/リットル、120g/リットルと変化させて、水酸化ナトリウムの濃度をいずれも9重量%に設定して溶解した25℃の水浴中に滞留時間が120秒になるように導糸して硫化還元処理を行った。これらの含浸処理及び硫化還元処理を2回又は4回繰り返した後、十分な水洗後110℃の熱風で乾燥して導電性セルロース繊維材料からなる導電性糸を得た。得られた導電性糸の体積固有抵抗値は、2×10
-1Ω・cm〜6×10
0Ω・cmの範囲の値であった。SEMで撮影した繊維表面を観察したところ、繊維の外観は良好で糸斑等はなく、繊維表面には硫化銅粒子が分散析出していた。
【0076】
図6は、含浸処理と硫化還元処理の回数及び硫化ナトリウムの濃度の組み合せを変化させた場合の導電性糸に関する体積固有抵抗値の測定結果を示すグラフである。硫化ナトリウムの濃度及び処理回数を変化させることで、導電糸の体積固有抵抗値を大幅に変更できることがわかった。
【0077】
[実施例13]
(1)導電性セルロース系繊維材料からなる導電性布帛の製造
キュプラ繊維からなる布帛(旭化成せんい株式会社製)に対して、実施例1と同様の水酸化ナトリウムを濃度6重量%で溶解した25℃の水浴中に滞留時間が120秒になるように導入し、引き続き、実施例1と同様の酢酸銅(II)一水和物を濃度70g/リットルで溶解した25℃の水浴中に滞留時間が120秒になるように導入して含浸処理を行った。含浸処理した布帛を、引き続き、実施例1と同様の硫化ナトリウム九水和物を濃度80g/リットルで溶解した25℃の水浴中に滞留時間が120秒になるように導入して硫化還元処理を行った。これらの含浸処理及び硫化還元処理を8回繰り返した後、十分な水洗後110℃の熱風で乾燥して導電性セルロース繊維材料からなる導電性布帛を得た。
【0078】
(2)導電性セルロース系繊維材料からなる導電性布帛の評価
得られた導電性布帛の初期弾性率、破断伸度及び破断強度は、それぞれ313.6MPa、6.6%及び25.8MPaであった。導電性布帛の体積固有抵抗値は、2.4×10
1Ω・cmであった。導電性布帛に含まれる硫化銅の重量について、実施例1と同様にDTA−TG分析を約600℃まで行った結果、その残存重量は12重量%であった。
【0079】
[実施例14]
(1)導電性セルロース系繊維材料からなる導電性布帛の製造
実施例13と同様のキュプラ繊維からなる布帛に対して、実施例1と同様の水酸化ナトリウムを濃度6重量%で溶解した25℃の水浴中に滞留時間が120秒になるように導入し、引き続き、実施例1と同様の酢酸銅(II)一水和物を濃度70g/リットル及びクエン酸(ナカライテスク株式会社製)を濃度10g/リットルでそれぞれ溶解した25℃の水浴中に滞留時間が120秒になるように導入して含浸処理を行った。含浸処理した布帛を、引き続き、実施例1と同様の硫化ナトリウム九水和物を濃度80g/リットルで溶解した25℃の水浴中に滞留時間が120秒になるように導入して硫化還元処理を行った。これらの含浸処理及び硫化還元処理を8回繰り返した後、十分な水洗後110℃の熱風で乾燥して導電性セルロース繊維材料からなる導電性布帛を得た。
【0080】
(2)導電性セルロース系繊維材料からなる導電性布帛の評価
得られた導電性布帛の初期弾性率、破断伸度及び破断強度は、それぞれ352.8MPa、16.6%及び28.7MPaであった。導電性布帛の体積固有抵抗値は、7.2×10
0Ω・cmであった。
【0081】
[実施例15]
(1)導電性セルロース系繊維材料からなる導電性布帛の製造
実施例13と同様のキュプラ繊維からなる布帛に対して、実施例1と同様の水酸化ナトリウムを濃度6重量%で溶解した25℃の水浴中に滞留時間が120秒になるように導入し、引き続き、実施例1と同様の酢酸銅(II)一水和物を濃度70g/リットル及び実施例14と同様のクエン酸を濃度30g/リットルでそれぞれ溶解した25℃の水浴中に滞留時間が120秒になるように導入して含浸処理を行った。含浸処理した布帛を、引き続き、実施例1と同様の硫化ナトリウム九水和物を濃度80g/リットルで溶解した25℃の水浴中に滞留時間が120秒になるように導入して硫化還元処理を行った。これらの含浸処理及び硫化還元処理を8回繰り返した後、十分な水洗後110℃の熱風で乾燥して導電性セルロース繊維材料からなる導電性布帛を得た。
【0082】
(2)導電性セルロース系繊維材料からなる導電性布帛の評価
得られた導電性布帛の初期弾性率、破断伸度及び破断強度は、それぞれ588.0MPa、13.3%及び36.9MPaであった。導電性布帛の体積固有抵抗値は、4.3×10
0Ω・cmであった。
【0083】
[実施例16]
(1)導電性セルロース系繊維材料からなる導電性布帛の製造
実施例13と同様のキュプラ繊維からなる布帛に対して、実施例1と同様の水酸化ナトリウムを濃度6重量%で溶解した25℃の水浴中に滞留時間が120秒になるように導入し、引き続き、実施例1と同様の酢酸銅(II)一水和物を濃度70g/リットル及び実施例14と同様のクエン酸を濃度50g/リットルでそれぞれ溶解した25℃の水浴中に滞留時間が120秒になるように導入して含浸処理を行った。含浸処理した布帛を、引き続き、実施例1と同様の硫化ナトリウム九水和物を濃度80g/リットルで溶解した25℃の水浴中に滞留時間が120秒になるように導入して硫化還元処理を行った。これらの含浸処理及び硫化還元処理を8回繰り返した後、十分な水洗後110℃の熱風で乾燥して導電性セルロース繊維材料からなる導電性布帛を得た。
【0084】
(2)導電性セルロース系繊維材料からなる導電性布帛の評価
得られた導電性布帛の初期弾性率、破断伸度及び破断強度は、それぞれ313.1MPa、8.9%及び24.3MPaであった。導電性布帛の体積固有抵抗値は、2.9×10
0Ω・cmであった。
【0085】
[実施例17]
(1)導電性セルロース系繊維材料からなる導電性布帛の製造
実施例13と同様のキュプラ繊維からなる布帛に対して、実施例1と同様の水酸化ナトリウムを濃度6重量%で溶解した25℃の水浴中に滞留時間が120秒になるように導入し、引き続き、実施例1と同様の酢酸銅(II)一水和物を濃度70g/リットル及び実施例14と同様のクエン酸を濃度70g/リットルでそれぞれ溶解した25℃の水浴中に滞留時間が120秒になるように導入して含浸処理を行った。含浸処理した布帛を、引き続き、実施例1と同様の硫化ナトリウム九水和物を濃度80g/リットルで溶解した25℃の水浴中に滞留時間が120秒になるように導入して硫化還元処理を行った。これらの含浸処理及び硫化還元処理を8回繰り返した後、十分な水洗後110℃の熱風で乾燥して導電性セルロース繊維材料からなる導電性布帛を得た。
【0086】
(2)導電性セルロース系繊維材料からなる導電性布帛の評価
得られた導電性布帛の初期弾性率、破断伸度及び破断強度は、それぞれ536.4MPa、25.6%及び39.0MPaであった。導電性布帛の体積固有抵抗値は、2.7×10
0Ω・cmであった。
【0087】
図7は、実施例13から実施例17で得られたクエン酸添加濃度と導電性布帛の体積固有抵抗との関係を示している。
図7に示すように、クエン酸の濃度が上昇するに従い体積固有抵抗が低下する傾向が認められる。
【0088】
[実施例18]
実施例13から実施例17で得られた導電性布帛について、通電による発熱量の評価を行った。
図8は、通電時間(秒)と布帛の平均温度(℃)との関係を示すグラフである。クエン酸の濃度が高いほど定常状態の平均温度が高くなっており、さらに定常状態の温度に達するまでの時間が短時間であることがわかる。また、定常状態では布帛全体がほぼ均一な発熱状態となっており、1時間発熱状態としたままでも導電性布帛に変化は認められず、発熱前と同様の導電性を維持しており、十分な耐熱性を有することが確認できた。また、70℃の熱水中に導電性布帛を12時間浸漬した状態のままでも特に変化は認められず、熱水への浸漬前と同様の導電性を備えていた。
【0089】
[比較例1]
実施例1と同様に含浸処理及び硫化還元処理を行う際に、水酸化ナトリウムを添加せずそれ以外は同じ条件で処理を行った。得られた糸の初期弾性率、破断伸度及び破断強度は、それぞれ214.5MPa、8.9%及び180MPaであった。また、糸の体積固有抵抗は検出限界外であった。