特許第6095162号(P6095162)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6095162
(24)【登録日】2017年2月24日
(45)【発行日】2017年3月15日
(54)【発明の名称】立方晶窒化ホウ素焼結体
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/5831 20060101AFI20170306BHJP
   B23P 15/28 20060101ALI20170306BHJP
【FI】
   C04B35/5831
   B23P15/28 A
【請求項の数】3
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-73693(P2013-73693)
(22)【出願日】2013年3月29日
(65)【公開番号】特開2014-198637(P2014-198637A)
(43)【公開日】2014年10月23日
【審査請求日】2015年10月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】503212652
【氏名又は名称】住友電工ハードメタル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松田 裕介
(72)【発明者】
【氏名】岡村 克己
(72)【発明者】
【氏名】平野 力
(72)【発明者】
【氏名】深谷 朋弘
【審査官】 小川 武
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−182242(JP,A)
【文献】 特開昭61−168569(JP,A)
【文献】 特開昭58−060680(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/111261(WO,A1)
【文献】 国際公開第2007/145071(WO,A1)
【文献】 特開平03−205364(JP,A)
【文献】 特開平04−099805(JP,A)
【文献】 特開昭58−164750(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/00−35/84
C22C 29/16
B23P 15/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
立方晶窒化ホウ素粒子と結合材と被覆材とを含み、
前記立方晶窒化ホウ素粒子の含有率が80体積%以上99体積%以下であり、
前記結合材は、タングステンおよびコバルトを含み、
前記被覆材は、前記結合材と異なり、
前記被覆材は、クロム、ニッケルおよびモリブデンからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を含む金属であり、
前記被覆材の含有率が0.1質量%以上1.5質量%以下であり、
前記立方晶窒化ホウ素粒子が前記被覆材により被覆されてなり、
前記被覆材による被覆率は、70%以上である、立方晶窒化ホウ素焼結体。
【請求項2】
前記結合材は、炭素、窒素、ホウ素および酸素からなる群より選ばれた少なくとも1種の元素をさらに含む、請求項1に記載の立方晶窒化ホウ素焼結体。
【請求項3】
前記立方晶窒化ホウ素粒子の含有率が85体積%以上93体積%以下である、請求項1または請求項2に記載の立方晶窒化ホウ素焼結体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は立方晶窒化ホウ素(以下、cBNとも記す。)を主体として含む焼結体に関する。さらに詳細には、特にcBNの含有量が高い、高cBN含有率焼結体に関する。
【背景技術】
【0002】
cBNは、ダイヤモンドに次ぐ高い硬度を有するとともに、熱伝導率が高い、鉄系材料との親和性が低いなどの特徴を有することが知られており、その焼結体は切削工具に利用されている。
【0003】
切削工具に用いられるcBN焼結体には、大別すると、高cBN含有率焼結体と低cBN含有率焼結体との2種の組成がある。前者はcBN粒子の含有率が高く、cBN粒子同士が直接結合し、残部がCoやAlを主成分とする結合材で結合された焼結体組織を有するものである。これに対して、後者は、cBN粒子の含有率が低く、cBN粒子同士が接触する部位が少ないため、TiNやTiCのようなセラミックス材料を介して、粒子が結合された焼結体組織を有する。
【0004】
上記のような高cBN含有率焼結体として、たとえば、特開2004−331456号公報(特許文献1)には、88〜97体積%のcBNと結合相と不可避不純物とからなるcBN焼結体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−331456号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
高cBN含有率焼結体は、上記のようにcBN粒子同士が直接結合した焼結体組織を有する。このように、熱伝導率が高いcBN粒子が連続して結合した焼結体組織とすることにより、切削加工時に被削材との摩擦によって生じる熱を放散しやすくなるという利点を有する。そのため、高cBN含有率焼結体は、熱衝撃による損傷が支配的な鋳鉄の切削加工などに好適である。また、高い硬度を有するcBN粒子の含有率が高いため、機械的な摩耗が支配的な焼結合金の切削加工にも適している。
【0007】
かかる高cBN含有率焼結体は、cBN粒子と結合材とを混合し、該混合物をcBNがhBN(六方晶窒化ホウ素)に変換しない圧力温度条件で焼結することにより製造されている。この際、結合材がcBN粒子同士の結合を促進する成分を含むことにより、cBN粒子同士が直接結合した部位(ネックグロースとも呼ばれる)が形成され、強固な焼結体組織を得ることができると考えられている。
【0008】
従来、結合材として、多種多様な元素や化合物が検討されてきた。そして、数種の元素または化合物を混合して結合材を構成することにより、各成分が相乗的に作用し、cBN粒子同士の結合を促進するとともに、焼結体組織全体を強固に結合できると考えられてきた。そのため、焼結前の混合物を得る際に、混合物中に結合材をより均一に分散させることによって、焼結体工具の耐摩耗性や耐欠損性の改善が図れるとの技術思想が定着しており、この思想に基づき分散プロセスの改良を軸として、焼結体工具の性能改善が続けられてきた。
【0009】
しかしながら、近年、被削材の硬度化、難削化が進むとともに、被削材の形状もより複雑化するなど、焼結体工具の使用条件は過酷化を極めている。特に複雑形状の加工は、断続切削となりやすく、機械的な摩耗や刃先の欠損によって工具寿命が低下するケースが増加している。そして、上述のような従来思想に基づく小幅な改良によっては、ユーザーの要求水準に追いつけていなのが現状である。さらに、従来思想に基づく改良効果は、ほぼ飽和状態に達しており、これ以上大幅な性能改善は望めない状況にある。
【0010】
本発明は、上記のような現状に鑑みなされたものであって、その目的とするところは、優れた耐摩耗性および耐欠損性を有する立方晶窒化ホウ素焼結体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、焼結体組織を構成する各成分の個別の作用について鋭意研究を重ねたところ、結合材を構成する各成分を組織中に均一に分散させるよりも、特定の成分ごとに、特定の箇所に局在させる方が焼結体組織全体を結合する作用が発現しやすいことを知見した。そして、該知見に基づきさらに検討を重ねたところ、特定の成分をcBN粒子同士の粒界に局在させるとともに、cBN粒子の存在しない空隙部には他の成分を局在させることより、結合強度が飛躍的に高められた焼結体組織を構築できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
すなわち、本発明の立方晶窒化ホウ素焼結体の製造方法は、立方晶窒化ホウ素粒子の含有率が80体積%以上99体積%以下である立方晶窒化ホウ素焼結体の製造方法であって、立方晶窒化ホウ素粒子を準備する第1の工程と、被覆材で該立方晶窒化ホウ素粒子を被覆することにより被覆粒子を得る第2の工程と、該被覆粒子と結合材とを混合することにより混合物を得る第3の工程と、該混合物を焼結する第4の工程と、を含むことを特徴とする。
【0013】
ここで、上記被覆粒子は、上記被覆材で実質的に全面が被覆された粒子であることが好ましい。
【0014】
また、上記結合材は、タングステン(W)、コバルト(Co)およびアルミニウム(Al)からなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を含むことが好ましい。また、上記結合材は、炭素(C)、窒素(N)、ホウ素(B)および酸素(O)からなる群より選ばれた少なくとも1種の元素をさらに含むことが好ましい。
【0015】
上記被覆材は、クロム(Cr)、ニッケル(Ni)およびモリブデン(Mo)からなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を含むことが好ましい。
【0016】
さらに、上記第2の工程は、物理蒸着法により上記被覆材で上記立方晶窒化ホウ素粒子を被覆する工程であることが好ましい。
【0017】
そして、本発明の立方晶窒化ホウ素焼結体は、立方晶窒化ホウ素粒子と結合材と被覆材とを含み、該立方晶窒化ホウ素粒子の含有率が80体積%以上99体積%以下であり、該結合材は、タングステン、コバルトおよびアルミニウムからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を含み、該被覆材の含有率が0.1質量%以上1.5質量%以下であり、該立方晶窒化ホウ素粒子が該被覆材により被覆されてなることを特徴とする。
【0018】
ここで、上記立方晶窒化ホウ素焼結体は、上記立方晶窒化ホウ素粒子が上記被覆材により実質的に全面を被覆されてなることが好ましい。
【0019】
また、上記結合材は、炭素、窒素、ホウ素および酸素からなる群より選ばれた少なくとも1種の元素をさらに含むことが好ましい。
【0020】
また、上記被覆材は、クロム、ニッケルおよびモリブデンからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を含むことが好ましい。
【0021】
さらに、上記立方晶窒化ホウ素粒子の含有率が85体積%以上93体積%以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明の立方晶窒化ホウ素焼結体は、優れた耐摩耗性および耐欠損性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】実施の形態に係る立方晶窒化ホウ素焼結体の焼結体組織の一例を示す模式図である。
図2】従来の立方晶窒化ホウ素焼結体の焼結体組織の一例を示す模式図である。
図3】実施の形態に係る立方晶窒化ホウ素焼結体の製造方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明に係わる実施の形態について、さらに詳細に説明する。
<立方晶窒化ホウ素焼結体>
本実施の形態の立方晶窒化ホウ素焼結体(以下、cBN焼結体とも記す)は、立方晶窒化ホウ素粒子(以下、cBN粒子とも記す)を80体積%以上という高い含有率で含み、残部として結合材、被覆材を含むものである。かかるcBN焼結体は、焼結合金や鋳鉄などの切削加工に好適な切削工具を構成することができる。本実施の形態のcBN焼結体は、上記のような成分を含む限り他に任意の成分を含むことができ、たとえば、不純物などが含まれていたとしても何ら差し支えない。
【0025】
本実施の形態のcBN焼結体は、cBN粒子が特定の元素を含む被覆材によって被覆されてなる焼結体組織を有する。図1および2を参照して、本実施の形態のcBN焼結体を説明する。
【0026】
図1および2は、cBN焼結体の断面を、たとえば、走査型透過電子顕微鏡(STEM:Scanning Transmission Electron Microscope)などで観察した際の観察視野の一例を模式的に示す図である。図1は本実施の形態に係るcBN焼結体を示し、図2は従来のcBN焼結体を示す。
【0027】
図1に示すように、本実施の形態のcBN焼結体においては、cBN粒子1の表面が被覆材2によって被覆されている。すなわち、cBN粒子1が被覆粒子となっている。そのため、cBN粒子1同士が接触して接合している部位(粒界)には、被覆材2が一様に分布している。図示していないが被覆粒子同士が接触している部位には、粒子間にネックグロースが形成され、これを起点として粒子同士が結合している。そして、cBN粒子が存在しない空隙部は、結合材3によって満たされている。なお、焼結体組織中の結合材は結合相と呼ばれることもある。
【0028】
ここで、本実施の形態の被覆材は、後述するように、ネックグロースの成長を促進する作用が特に強い元素から構成されている。そのため、本実施の形態のcBN焼結体では、cBN粒子同士の結合力が極めて高い。これにより、本実施の形態のcBN焼結体からなる切削工具は、優れた耐摩耗性を示すとともに、断続切削における欠損の発生率を顕著に低減することができる。
【0029】
これに対して、図2に示す従来のcBN焼結体には、cBN粒子同士が接触して接合している部位(図2中、点線で示している)は存在するが、このような部位に、本実施の形態の被覆材のような元素はほとんど分布していない。これは、従来のcBN焼結体においては、被覆材と類似の元素を含んでいたとしても、それらは結合材と一体として取り扱われ、組織全体に均一に分散するように製造されているからである。このため、従来のcBN焼結体では、cBN粒子同士の結合力が弱く、たとえば、断続切削のように、大きな衝撃が繰り返し加わる条件下では、容易にcBN粒子同士の結合が解かれ、それを起点として亀裂が伝播することにより欠損を発生させる。
【0030】
焼結体組織において、元素の分布が上述した状態であることは、たとえば、STEMの断面観察視野において、エネルギー分散型X線分析(EDS:Energy Dispersive X-ray Spectroscopy)を行ない、元素マッピングを行なうことにより確認することができる。この際、STEMによる観察は、STEM高角度散乱暗視野法(HAADF−STEM:High-Angle Annular Dark-field Scanning Transmission Electron Microscopy)を用いることが好ましい。
【0031】
以下、本実施の形態の立方晶窒化ホウ素焼結体を構成する各成分について説明する。
<立方晶窒化ホウ素粒子>
本実施の形態において、cBN粒子は80体積%以上99体積%以下の含有率でcBN焼結体に含まれている。cBN粒子は、優れた硬度と熱伝導率を示す材料であり、含有率が上記の範囲を占めることにより、断続切削のように刃先に熱衝撃が加わる条件下でも、十分な工具寿命を示す。ここで、cBN粒子の含有率が80体積%未満であると、cBN粒子同士が十分に接触できない場合があり、熱伝導率が低下する傾向にある。他方、99体積%を超えると、焼結体組織において、後述する結合材の存在量が過度に少なくなるため、靭性が低下する傾向にある。なお、cBN粒子の含有率は好ましくは85体積%以上93体積%以下である。
【0032】
ここで、このような体積%は、cBN焼結体を製造する際に用いるcBN粒子からなる粉末(以下、cBN粉末とも記す)の体積%を上記の範囲(すなわち、80体積%以上99体積%以下)として、その他原料と混合することにより、実現することができる。また、cBN焼結体を切断し、その断面をSTEMなどで観察することにより測定することもできる。
【0033】
また、cBN粒子は、焼結体組織の強度を高めるとの観点から、その平均粒径は小さいことが好ましく、5μm以下の平均粒径であることが好ましい。また、焼結体組織の靭性を高めるとの観点から、cBN粒子の平均粒径は0.5μm以上であることが好ましい。さらに、焼結体組織の強度と靭性のバランスの観点からは、cBN粒子の平均粒径は1μm以上3μm以下であることがより好ましい。
【0034】
<結合材>
本実施の形態の結合材は、焼結体組織中において、cBN粒子間の空隙を充填するように存在し、組織全体を保持、結合する作用を有するものである。かかる結合材は、タングステン(W)、コバルト(Co)およびアルミニウム(Al)からなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を含むものである。そして、結合材は、炭素(C)、窒素(N)、ホウ素(B)および酸素(O)からなる群より選ばれた少なくとも1種の元素をさらに含むことが好ましい。
【0035】
すなわち、結合材は、W、CoまたはAlの単体の元素から構成されていてもよく、これら2種以上の元素の相互固溶体から構成されていてもよい。また、W、CoおよびAlから選ばれた1種以上の元素と、C、N、BおよびOから選ばれた1種以上の元素との化合物から構成されていてもよい。そして、これの化合物は、固溶体となっていてもよい。
【0036】
W、CoおよびAlから選ばれた1種以上の元素と、C、N、BおよびOから選ばれた1種以上の元素との化合物または固溶体としては、たとえば、WC、WC、W3Co3C、CoWB、CoC、CoCr、TiAlN、TiAlCrN、TiAlSiN、TiAlSiCrN、AlCrN、AlCrCN、AlCrVN、TiAlBN、TiAlBCN、AlN、AlCN、AlB、Al23などを挙げることができる。なお、本実施の形態において上記のように化合物を化学式で表わす場合、原子比を特に限定しない限り、従来公知のあらゆる原子比を含むものとし、必ずしも化学量論的範囲のもののみに限定されるものではない。たとえば単に「CoCr」と記す場合、「Co」と「Cr」の原子比は50:50の場合のみに限られず、従来公知のあらゆる原子比が含まれるものとする。
【0037】
このような結合材はcBN粒子との結合力が高く、化学的にも安定であることから、焼結体工具の耐摩耗性を向上させることができる。なお、結合材の含有率は2質量%以上20質量%以下であることが好ましい。
【0038】
<被覆材>
本実施の形態の被覆材は、cBN粒子同士の粒界においてネックグロースの成長を促進させる作用が特に強い元素から構成されるものであり、いわば結合促進材ともいうべきものである。
【0039】
かかる被覆材は、クロム(Cr)、ニッケル(Ni)およびモリブデン(Mo)からなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を含むことが好ましい。従来、このような元素群は、結合材の一部として考えられてきたものであるが、本実施の形態は、これらをことさら被覆材として用いることに特徴を有する。被覆材は、上記のような元素を含む限り、他の成分を含むことができる。すなわち、上記のような元素を含む化合物やその固溶体などであってもよい。そのような化合物としては、たとえば、CrCo、Mo2C、NiC、NiAl、CrAl、CoCrAlなどを挙げることができる。
【0040】
被覆材の含有率はcBN焼結体全体に対して、0.1質量%以上1.5質量%以下であることを要する。被覆材の含有率が0.1質量%未満であると、ネックグロースが十分に成長せず結合強度が不十分となる場合があり、1.5質量%を超えると被覆材自体の強度が低いため、却って靭性が低下する場合がある。なお、被覆材の含有率はより好ましくは0.1質量%以上1.0質量%以下である。
【0041】
また、耐摩耗性の観点からは、焼結体組織中において被覆材は結合材よりも少ない質量含有率であることが好ましく、結合材全体に対する被覆材の占める割合は0.1質量%以上50質量%以下であることが好ましい。
【0042】
本実施の形態において、被覆材はcBN粒子の表面において被覆層を構成していてもよい。かかる被覆層は単層であってもよく、複層であってもよい。また、被覆層は複数の元素から構成されていてもよい。
【0043】
本実施の形態において、cBN粒子は実質的に全面が被覆材によって被覆されていることが好ましい。ここで、「実質的に全面が被覆されている」とは、次のようにして測定される「被覆率」が70%以上であることを示し、必ずしも粒子表面のすべてが被覆されていることを示すものではない。
【0044】
被覆率は、具体的には以下のようにして算出する。まず、cBN焼結体を切断し、該断面をSTEMを用いて1000〜10000倍の倍率で観察する。観察視野画像においてcBN粒子に外接する四角形を描き、該四角形を4行4列の部分領域に分割する。そして、cBN粒子の外周部(輪郭線)が含まれる部分領域を測定点として決定する。このとき、cBN粒子同士が接触して接合している界面も輪郭線とする。また、測定点の総数は少なくとも10点以上となるように、倍率と視野を調整することが好ましい。
【0045】
次に、同視野においてEDS分析を実行し、上記のようにして決定された測定点のうち、被覆材元素が0.1質量%以上の濃度で検出される測定点を計数する。計数された測定点を、総測定点で除した値の百分率を「被覆率」とする。
【0046】
そして、上記のように、被覆率が70%以上であるcBN粒子は被覆材により実質的に全面が被覆されているとみなすものとする。そして、さらに、焼結体において任意に選ばれた100個のcBN粒子が実質的に全面が被覆されているとみなすことができる場合は、焼結体組織全体にわたって、cBN粒子は実質的に全面が被覆されているとみなすものとする。なお、かかる被覆率は好ましくは80%以上であり、より好ましくは90%以上である。
【0047】
また、上記の測定において、断面観察用のサンプルは、たとえば、集束イオンビーム装置(FIB:Focused Ion Beam system)、クロスセクションポリッシャー装置(CP:Cross section Polisher)などを用いて作製することができる。
【0048】
上記のように、実質的に全面を被覆された被覆粒子は、たとえば、従来公知の物理蒸着(PVD)装置を用いて、粒子を被覆することにより得ることができる。物理蒸着法は、薄く均一な被覆層を形成するとの観点から、粒子を被覆する方法として好ましい。
【0049】
以上に説明した本実施の形態の立方晶窒化ホウ素焼結体は、以下のような製造方法によって製造される。すなわち、以下のような製造方法によって製造された立方晶窒化ホウ素焼結体は、上記のような焼結体組織を含み、優れた耐摩耗性および耐欠損性を示す。
【0050】
<立方晶窒化ホウ素焼結体の製造方法>
図3は本実施の形態のcBN焼結体の製造過程を示すフローチャートである。図3に示すように、本実施の形態の製造方法は、第1の工程〜第4の工程を含むことを特徴とする。以下、各工程について説明する。
【0051】
<第1の工程>
第1の工程(S101)では、cBN粒子を準備する。すなわち、cBN粉末を準備する。cBN粉末の平均粒径は、たとえば、0.5μm以上5μm以下とすることができる。また、適宜分級などを行なうことにより、cBN粉末の粒度分布を調整してもよい。
【0052】
<第2の工程>
第2の工程(S102)では、被覆材でcBN粒子を被覆することにより被覆粒子を得る。ここで、cBN粒子を被覆する方法としては、従来公知の方法を採用することができるが、物理蒸着法を採用することが好ましい。物理蒸着法を用いることにより、粒子の表面をより薄くかつ均一に被覆することができる。ここで、物理蒸着法としては、たとえば、高周波(RF)スパッタリング法、めっき法、ビーム蒸着法などを挙げることができる。
【0053】
粒子を被覆する方法として、RFスパッタリング法を採用する場合、予備実験を行なって、スパッタリング時間と被覆量との検量線を作成し、該検量線に基づき、所定の被覆量となるように適宜条件を調整すればよい。
【0054】
<第3の工程>
第3の工程(S103)では、先の工程で得られた被覆粒子と結合材とを混合して混合物を得る。ここで、結合材として複数の金属や化合物を用いる場合には、あらかじめ、それらを、たとえばボールミルなどを用いて、粉砕、混合しておくことが好ましい。被覆粒子と結合材との配合比率は、焼結体においてcBN粒子が所定の含有率で含まれるように適宜調整すればよい。被覆粒子と結合材との混合は、従来公知の方法で行うことができ、たとえば、ボールミルなどの粉砕機、混合機によって行なうことができる。
【0055】
このようにして得られた被覆粒子と結合材とからなる混合物は、真空炉で熱処理することにより、脱ガスしておくことが好ましい。
【0056】
<第4の工程>
第4の工程(S104)では、先の工程で得られた混合物を焼結して焼結体を得る。具体的には、該混合物を超高圧装置に導入し、所定の圧力、温度を所定時間保持することによりcBN焼結体を得ることができる。
【0057】
超高圧焼結時の圧力は、5.0GPa以上10.0GPa以下であることが好ましい。また、超高圧焼結時の温度は、1500℃以上2000℃以下である好ましく、超高圧焼結の処理に要する時間は、5分以上30分以下であることが好ましい。
【0058】
以上のようにして、本実施の形態に係るcBN焼結体を得ることができる。
【実施例】
【0059】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0060】
<実施例1>
<cBN焼結体の製造>
以下のようにして、cBN焼結体を作製した。まず、平均粒径1.2μm程度のcBN粉末を準備した(第1の工程)。次いで、RFスパッタリングPVD装置を用いて、被覆材であるCrでcBN粒子の表面を被覆することにより被覆粒子からなる粉末を得た(第2の工程)。このとき、cBN焼結体全体に対する被覆材(Cr)の占める割合が0.6質量%となるようにスパッタリング条件を調節した。
【0061】
次いで、WC粉末とCo粉末とAl粉末とを粉砕混合して得た混合物を、真空中において1200℃で30分間熱処理することにより化合物を得た。該化合物を遊星ボールミルで粉砕することにより、結合材の粉末を得た。
【0062】
次いで、被覆粒子からなる粉末と結合材の粉末とを、cBN焼結体においてcBN粒子の含有率が93体積%となるように配合し、内壁がテフロン(登録商標)製のポットとSi製のボールメディアを用いて、ボールミル混合法により均一に混合することにより混合粉末を得た(第3の工程)。
【0063】
さらに、この混合粉末を真空炉において900℃で20分間保持することにより、脱ガスを行なった。脱ガス後の混合粉末をMo製カプセルに充填後、超高圧装置を用いて、圧力6.5GPa、温度1600℃で20分間保持することにより、cBN焼結体を得た(第4の工程)。
【0064】
<比較例1>
上述の「cBN焼結体の製造」において、第2の工程を実行しない以外は実施例1と同様にして、比較例1に係るcBN焼結体を得た。すなわち、比較例1に係るcBN焼結体は、被覆材を含有していない。
【0065】
<実施例2〜5、比較例2および3>
cBN焼結体全体に対する被覆材(Cr)の占める割合を、表1に示す数値とした以外は、実施例1の「cBN焼結体の製造」と同様にして、実施例2〜5、比較例2および3に係るcBN焼結体を得た。
【0066】
<比較例4>
上述の「cBN焼結体の製造」において、第2の工程を実行せず、第3の工程において、cBN粒子からなる粉末と結合材とCr粉末とを混合することにより混合粉末を得る以外は、実施例2と同様にして、比較例4に係るcBN焼結体を得た。すなわち、比較例4に係るcBN焼結体は、被覆材となり得る元素を含んでいるが、cBN粒子は該元素によって被覆されていない。
【0067】
<実施例6および7>
上述の「cBN焼結体の製造」において、第2の工程でCrの代わりにNi、Moを使用した以外は、実施例2と同様にして実施例6および7に係るcBN焼結体を得た。
【0068】
<実施例8〜10および比較例5〜9>
上述の「cBN焼結体の製造」において、第3の工程で焼結体におけるcBN粒子の含有率が表1に示す値となるように配合した以外は、実施例1および比較例1と同様にして、実施例8〜10および比較例5〜9に係るcBN焼結体を得た。
【0069】
<焼結体組織の分析>
上記のようにして得られた被覆材を含有する各cBN焼結体に対して、STEM観察およびEDS分析を行ない、被覆材元素でマッピングを行なったところ、実施例1〜10に係るcBN焼結体では、cBN粒子の輪郭が明瞭に確認できる程度にcBN粒子が被覆材によって被覆されていることが確認された。すなわち、cBN粒子同士の粒界にも被覆材が存在していることが確認された。また、上述の方法によって求めた被覆率は、いずれも70%以上であった。したがって、これらの焼結体において、cBN粒子は実質的に全面を被覆材によって被覆されていたとみなすことができる。
【0070】
これに対して、比較例4のcBN焼結体で、cBN粒子同士の粒界におけるCrの検出量は僅かであり、CrのマッピングによってはcBN粒子の輪郭は明瞭には確認できなかった。また、上述の方法によって求めた被覆率も70%に満たないものであった。
【0071】
<切削性能の評価>
次に、上記のようにして得られた実施例および比較例のcBN焼結体を用いて切削工具を作製し、切削性能(耐摩耗性および耐欠損性)を評価した。具体的には、上記で製造されたcBN焼結体を超硬合金製の基材にロウ付けし、所定の形状に成型することにより切削工具を作製した。
【0072】
そして、各切削工具を用いて、焼結部品の弱断続切削を行なうことにより、切削性能を評価した。すなわち、下記の条件で切削加工を行ない、3km切削した時点の刃先の脱落量を比較することにより、耐摩耗性および耐欠損性を評価した。結果を表1に示す。
【0073】
<切削条件>
被削材 :0.8C−2.0Cu−残Fe(JPMA記号:SMF4040)
切削速度 :Vc=200m/min.
送り量 :f=0.1mm/rev.
切り込み量:ap=0.2mm
湿式切削(切削液あり)。
【0074】
【表1】
【0075】
表1中、切削性能の欄に示す数値は、比較例1に係る切削工具の脱落量を基準とした相対評価値である。この相対評価値は、比較例1に係る切削工具の脱落量を、それぞれの切削工具の脱落量で除した値に100を乗じて算出した値である。すなわち、この数値が大きいほど脱落量が少なく、耐摩耗性および耐欠損性が優れていることを示している。
【0076】
表1から明らかなように、立方晶窒化ホウ素粒子と結合材と被覆材とを含み、該立方晶窒化ホウ素粒子の含有率が80体積%以上99体積%以下であり、該結合材は、タングステン、コバルトおよびアルミニウムからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を含み、該被覆材の含有率が0.1質量%以上1.5質量%以下であり、該立方晶窒化ホウ素粒子が該被覆材により被覆されてなる、実施例に係るcBN焼結体を用いた切削工具は、かかる条件を満たさない比較例に係るcBN焼結体を用いた切削工具に比し、優れた耐摩耗性および耐欠損性を示した。
【0077】
以上のように本発明の実施の形態および実施例について説明を行なったが、上述の各実施の形態および実施例の構成を適宜組み合わせることも当初から予定している。
【0078】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点において例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上述した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0079】
1 cBN粒子、2 被覆材、3 結合材。
図1
図2
図3