【実施例】
【0032】
以下の実施例によって、本発明の有用代謝産物の生産方法について詳細に説明するが、本発明は各実施例に限定されるものではない。
【0033】
<実施例1>
(使用機器)
本実施例において植物育成装置として使用した機器は、CCS社製ELUX−1096LED植物育成装置である。本実施例においては、これを設定温度20℃に設定し、ヒラタケ中のシキミ酸の製造実験を行った。ヒラタケ菌糸に照射する光の光源としては、CCS社製のLED光源パネルISLシリーズ305×302を用いた。また、発光強度の測定には、LI−COR社製LI−250Light−Meterに、同社製のLI−190QuantumSensor、またはPPSystemInternational社製660/730nmSKR110Sensorを取り付けて使用した。
【0034】
(接種源菌糸体の調製)
Pyrex(登録商標)ガラスシャーレ(内径90mm)内に調製した2.5%寒天濃度改変MA培地(組成:2%麦芽エキス、2%グルコース、0.1%ペプトン)の中央に、供試菌として準備した市販菌種のヒラタケKH―3株(株式会社千曲化成社製)を接種し、これを温度20℃に設定された暗所に設置して、培養を行った。この作業により、シャーレ内では、菌糸体コロニーが同心円状に生長するため、その外周部分から、コルクボーラーを用いて、直径約6mmのディスク状に切り出し、これを本実施例の接種源として用いた。
【0035】
(光照射を行うサンプルの調製)
Pyrex(登録商標)ガラスシャーレ(内径90mm)内に調製した2.5%寒天濃度GPY培地(組成:5%グルコース、2.5%ポリペプトン、2.5%酵母エキス)の中央に、前記のとおりに準備した接種源を接種し、これを温度20℃に設定された暗所に設置して、培養を行った。本実施例における実験においては、直径が6mmまで生長したコロニーと、直径が20mmまで生長したコロニーをサンプルとして使用した。
【0036】
(光の波長の変化実験)
菌糸体に照射する光の波長を変えて、菌糸の生長に及ぼす光波長の影響を確認する実験を行った。前記のとおりに用意したサンプルに、発光強度を95μmolm
−2s
−1に設定した青色、緑色、赤色、遠赤色の各波長の単色光を照射して、それぞれの菌糸体コロニーの生長を観察、比較した。生長変化の追跡は、約24時間ごとに菌糸体コロニーの直径の最大値および最小値を測定してその平均を求め、その値を菌糸体コロニーの生長量変化とする評価方法である。なお、各単色可視光の中心波長は、青色光470nm、緑色光525nm、赤色光660nm、遠赤色光735nmである。
【0037】
図1は、サンプルに各波長の光を照射してその生長を評価した結果のグラフを示す。図から、赤色光と遠赤色光を照射したサンプルでは、菌糸体コロニーは、光を照射せずに暗所で培養した場合と同様の速度で生長していることが認められる。また、緑色光を照射したサンプルでは、菌糸の生長は著しく遅くなり、青色光の照射によっては、菌糸の生長は完全に停止していることが認められる。これにより、ヒラタケ菌糸の生長抑制は、緑色光より波長が短い場合に確認され、青色光にとくに顕著な現象であることが認められる。
【0038】
(青色光の発光強度の変化実験)
菌糸体に照射する青色光の発光強度を変えて、光強度が菌糸の生長に及ぼす影響を確認する実験を行った。前記のとおりに用意したサンプルに、発光強度を6μmolm
−2s
−1、11μmolm
−2s
−1、26μmolm
−2s
−1、51μmolm
−2s
−1、および105μmolm
−2s
−1に設定した青色光を照射しながら1週間培養し、それぞれの菌糸体コロニーの生長を観察、比較した。評価方法は上記実験と同様である。
【0039】
図2は、照射する青色光の発光強度を変化させて、菌糸体コロニーの生長を評価した結果のグラフを示す。図から、照射する青色光の発光強度が大きいほど、菌糸体コロニーの生長が抑制されることが認められる。また、照射光の発光強度が105μmolm
−2s
−1のサンプルでは、生長が完全に停止していることが認められる。また、いずれのサンプルでも、実験開始から3日経過以降、生長速度が一定となり、安定することが認められる。このことから、青色光照射による菌糸の生長抑制効果は、照射する光の発光強度に依存すること、さらにその抑制効果は、持続的に安定していることが認められる。
【0040】
(青色光の断続照射実験)
青色光照射と暗所保存を交互に繰り返す断続照射が、菌糸体コロニーの生長に及ぼす影響を評価する実験を行った。前記のとおりに用意したサンプルに、105μmolm
−2s
−1に設定した青色光を3日間照射して、その後3日間は暗所培養を行い、これを交互に21日間繰り返した。評価方法は上記実験と同様である。
【0041】
図3は、青色光照射と暗所培養とを交互に繰り返して、菌糸体コロニーの生長を評価した結果を示す。図から、青色光照射と暗所培養とを3日ごとに繰り返すと、光照射による菌糸体の生長が抑制された状態と、光照射を中断したことによる菌糸体コロニーの生長の回復が交互に現れていることが認められる。これは、青色光のシグナルが伝達されたことにより、ヒラタケの菌糸生長に関与する遺伝子の発現、および抑制が繰り返し誘導されたことによるものであると考えられる。
【0042】
(シキミ酸の抽出方法)
上記の実験によって生長したヒラタケ菌糸中の、シキミ酸の含有量を評価するため、菌糸体含有代謝産物の抽出を行った。抽出方法は以下のとおりである。
I.菌糸体への青色光照射による生長抑制実験によって所定の大きさに生長した菌糸体コロニーのシャーレから、培地表面の菌糸体を、スクレーバー(住友ベークライト社製 スミロンMS−93100)(登録商標)を用いて採取した。本実施例では、コロニーの直径は60mmまで生長させた。
II.上記Iの工程で採取した試料50mgに、氷冷下で50μM内部標準物質を含むメタノール溶液500μLを加え、これを、卓上型破砕機(BMS社製 BMS−M10N21)を用いて、1500rpm、120秒×3回の条件で破砕した。
III.上記IIの工程で破砕した破砕溶液に、クロロホルム500μLと、Milli−Q水200μLとを添加し攪拌、混合し、これを2300×g、4℃、120分の条件で遠心分離を行った。
IV.上記IIIの工程で遠心分離した溶液のうち、水層を限外ろ過チューブ(MILLPORE社製 ウルトラフリーMC UFC3 LCC遠心式フィルターユニット5kD)に400μL×1本だけ移し取った。
V.上記IVの工程で移し取った溶液を、さらに9100×g、4℃、120分の条件で遠心分離を行い、限外ろ過を行った。
VI.上記Vの工程のろ液を乾固させ、これを再びMilli−Q水25μLに溶解して、これを生長実験で得られた菌糸体の評価用試料とした。
【0043】
(シキミ酸の定量)
上記の方法によって準備された各試料について、含有するシキミ酸を定量解析した。解析に使用した機器には、キャピラリー電気泳動―飛行時間型質量分析計(AgilentTechnologies社製 AgilentCE−TOFMS System)を使用しており、これをアニオンモードに設定し、各試料の陰イオン性代謝物質の分析を行った。解析に使用した試料は、ヒラタケを暗所で培養したOM−1、OM−1と同様の開始試料に青色光を12時間照射したOM−2、同様に青色光を36時間照射したOM−3の3試料について解析を行った。
【0044】
【表1】
【0045】
表1は、上記方法によってシキミ酸の定量解析を行った結果を示す。含有量の算出は、CE−TOFMSを用いて測定した濃度(nmol/g)に、シキミ酸の分子量の174.15を乗じて行った。表から、試料に照射する青色光の照射時間が長くなるに従って、試料中のシキミ酸の含有量が増加していることが認められる。このことから、本発明による菌糸体中のシキミ酸の増加量は、青色光照射の照射時間と強い相関があると認められる。
また、本発明に係る方法が、菌糸体中のシキミ酸含有量を増加させるのに有効であることが確認できる。
【0046】
<実施例2>
(培養条件および有機層成分の抽出方法)
実施例1に記載のシキミ酸の抽出方法と同様の方法を用い、有機層から有機層成分を抽出した。
【0047】
(抽出物の癌細胞増殖への影響)
得られた有機層成分について、癌細胞増殖への効果を検討した。
FBS(MP Biomedicals社製)を10%添加したRPMI培地(SIGMA社製)で、ヒト前立腺癌細胞PC−3(財団法人ヒューマンサイエンス振興財団より入手)を培養した。前記のとおりに調製した有機層成分を用いて、PC−3細胞の細胞増殖への影響を細胞数の顕微鏡観察によって解析した (
図4)。
暗所(0h)および青色光(48h)照射条件下で培養した菌糸体から抽出した有機層成分をエタノール(EtOH)で溶解したものを、最終濃度が、0.2%(v/v)および2% (v/v)になるように培地に添加し、48時間培養後に細胞数を顕微鏡で観察した。
【0048】
図4に示すように、コントロール(
図4A)に比べて、暗所由来サンプルの添加によって、濃度依存的な細胞数の減少がみられた(
図4B、C)。また、青色光照射サンプルの添加においても同様に、細胞数の減少がみられたが、細胞増殖抑制効果は、青色光照射サンプルの方が暗所由来サンプルに比べて顕著であった(
図4D、E)。
【0049】
(抽出物で処理された癌細胞の半定量RT−PCRによる遺伝子発現解析)
(1)試料の調製
培養したPC−3細胞を6wellプレート(NUNC(商標登録 MULTIDISH)で、各wellが50%になるまで培養した。これに、前記調製した有機層成分を用いて、半定量RT−PCRによる遺伝子発現解析を行った。エタノール(EtOH)で溶解した有機層成分を最終濃度が、0.2% (v/v)および2% (v/v)になるように培地に添加し、48時間培養後に半定量PCR解析を行った。
【0050】
培養後、培地を除去し、PBSで洗浄した後、TRIzolを500μL添加してピペッティングし、RNAを回収した。
回収したRNAに100μLクロロホルムを添加して混合し、室温で2〜3分置いた後、遠心分離(13,000rpm 15分 4℃)を行い、上清を回収した。この上清に同量のイソプロパノールを添加し転倒混和して室温で10分置いた後、遠心分離(13,000rpm 10分 4℃)し、上清をデカンテーションした。
これに70%エタノールを添加してペレットを洗浄した後、遠心分離(13,000rpm 5分 4℃)し、上清をデカンテーションし、室温でペレットを乾燥した後、DEPC水を20μL添加して溶解したものを試料とした。
【0051】
(2)RT−PCR
ReverTra Ace(登録商標)キット(TOYOBO社製)および2×GoTaq(登録商標)Green Master Mix(Promega社製)を用いて、RT−PCRを行った。
まず、上記(1)で調製した試料をDEPC水で250ng/μLに希釈した。これを用いて表2の組成としたものを、サーマルサイクラーで次の工程1〜3で処理し(工程1:30℃、10分間、工程2:42℃、60分間、工程3:95℃、5分間)、cDNA(complementary DNA)を合成した。
【表2】
【0052】
合成したcDNAを鋳型とし、表3に示した各遺伝子を増幅するプライマー(β−actin、Smad4、c−myc)および内因性コントロールとして18SrRNAを増幅するプライマーを用いて、表4の組成としたものをサーマルサイクラーで次の工程1〜3で処理し(工程1:95℃、5分間、工程2:1)95℃、30秒間、2)56℃、40秒間、3)72℃、1分間;1)〜3)を1サイクルとし、23サイクル(18SrRNA、β−actin)または31サイクル(Smad4, c−myc)、工程3:72℃、5分間)、DNAを増幅した。
増幅したDNAをアガロースゲルで電気泳動し、臭化エチジウムで染色してE−Graph(ATTO)でゲルを撮影した。ImageJを用いて各バンドの蛍光強度を数値化することによって半定量分析を行なった。その結果、
図5〜
図7に示すように、c−myc(
図6)およびSmad4(
図7)遺伝子の発現は、暗所および青色光照射由来由来サンプルの添加によってはほとんど低下しなかったが、β−actin遺伝子の発現は、青色光照射サンプル(2% v/v)の添加で約25%抑制された(
図5)。
【0053】
【表3】
【0054】
【表4】
【0055】
(抽出物で処理された癌細胞の定量RT−PCRによる遺伝子発現解析)
定量RT−PCR法(リアルタイムPCR)
上記の逆転写反応によって得られたcDNAを1/100に希釈して鋳型として用いた。定量RT−PCRに用いた試薬の組成およびプライマーを、それぞれ表5および表6に示す。
【0056】
リアルタイムPCR用試薬の組成
【表5】
【0057】
リアルタイムPCR用プライマー
【表6】
【0058】
調製した試薬をStepOne(登録商標)リアルタイムPCRシステム(Appllied Biosystems)にセットし、ΔΔCT法により定量解析を行った。
図8に示すように、FABP5遺伝子の発現は、暗所および青色光照射由来由来サンプルの添加によって有意に低下したが、青色光照射サンプルの方がその効果は強く、青色光照射サンプル(2% v/v)の添加によってFABP5遺伝子の発現が約65%抑制され、青色光照射によって抗腫瘍性物質の生産量が増加することが示された。