【実施例1】
【0049】
まず、
図2を参照して、ステータコア70の磁極ティース71に、直巻式巻線機によりコイル線を巻線させる状態と、従来の巻線機で巻線速度を速くした場合に、発生し易かったオーバーシュートについて説明する。
図2(A)図は理解を容易にするため、ステータコアの一部とコイル線を案内させる内筒60の先端部とを斜視図により説明している。なお、
図2(A)図では、内筒60の想像線を一点鎖線で示している。ステータコア70は、環状をなす薄板が複数枚積層されてなり、その上下の端面にはインシュレータ80,80が装着される。
【0050】
ステータコア内面に突出されて形成された磁極ティース71に挟まれて、コイル線を巻線させるスロット73が、ステータコア70を貫通している。磁極ティース71の内方側は、周方向に突出されたフランジ部72とされ、隣り合うフランジ部72とフランジ部72とに挟まれた隙間に、コイル線を送出させるニードル64が通過される。ニードルは、内筒60の先端部に取り付けられたニードルヘッド部63の外面から放射状に3箇所、ステータコアの径方向に進退自在に装着されている。
【0051】
内筒60の下部から3本のコイル線90が供給され(
図3参照)、ニードル64の先端は、コイル線を送出しながら、インシュレータ80が装着された磁極ティースのフランジ部72の周りを周回する。ニードルの先端が周回する毎に、コイル線一本分の太さの幅で径方向に進退される。それが繰り返されて、磁極ティース71にコイル線90が巻線される。
【0052】
次にオーバーシュートについて、
図2(B)図と
図2(C)図を参照して簡単に説明する。
図2(B)図の上図は揺動運動の時間経過に伴う振幅を示し、下図は直線運動の時間経過に伴う振幅を示している。また、
図2(C)図はニードルの先端の周回軌道を示している。揺動運動の変位と直線運動の変位を合成して周回軌道が形成される。周回軌道において、上方頂部をα、上方の揺動運動の終端をβ、下方の揺動運動の始端をγ、下方底部をδ、下方の揺動運動の終端をε、上方の揺動運動の始端をζとし、
図2(B)図と
図2(C)図に示している。各記号は以下の図においても同一の位置を示している。
【0053】
従来の巻線機により、コイル線を高速で巻線しようとするとニードルの方向転換の際に、サーボモータの回転運動を急速に停止させる必要があり、揺動運動においては上方の揺動の終端βと、下方の揺動運動の終端εにおいて、オーバーシュートが発生していた。また、直線運動においては、上方頂部αと下方底部δにおいてオーバーシュートが発生していた。その結果、揺動運動と直線運動を合成させた周回運動においては、
図2(C)図に示したように、α、β、δ、εの各点でニードルの先端が振動して、巻線の不揃いの原因の一つとなっていた。
【0054】
さて、実施例1では、直線運動方向変換手段にクランク機構を有し、揺動運動方向変換手段にカム機構を有するニードル周回手段1と、それを備えた巻線機を、
図1、
図3から
図5を参照して説明する。
図1は、巻線機の構成の概要を説明する斜視図である。
図3は、巻線機の構成を断面により説明する説明図である。
図4は、クランク機構34の構成の一部を説明する説明図である。
図5は、周回運動とインシュレータを説明する説明図である。
【0055】
巻線機は磁極ティースに、ニードルの先端を周回してコイル線を巻線させる直巻式の巻線機とされている。ニードル周回手段1は、ニードル64の先端をステータコアの軸方向に往復直線運動させる直線運動手段30と、ニードルの先端をステータコアの周方向に往復揺動運動させる揺動運動手段10と、周回軌道を変更させる周回軌道制御手段とを備えている。この外に、ニードルの先端をステータコアの径方向に進退運動させるニードル進退手段50(
図1参照、破線で図示)と、コイル線を供給させる内筒60と、内筒の周囲に配設される外筒61とを備えている。なお、
図1では、内筒60の想像線を一点鎖線で示している。
【0056】
まず、
図1,
図3,
図4を参照して、ニードルをステータコアの軸方向に運動させる直線運動手段30を説明する。直線運動手段30は、一方向に回転される直線運動用のサーボモータ31と、サーボモータにより回転される円盤35と、円盤の中心軸36から偏心された位置に突出された竿体37と、ステータコアの軸方向に往復直線運動される板体38とを備えている。竿体37は、円盤の中心軸36との離間距離が変更可能なようにスライド手段43を介して円盤35に固定されている。
【0057】
サーボモータ31は、プーリ32とタイミングベルト33を介して、円盤の中心軸36に回転運動を伝達させている。前記中心軸36が回転されると、円盤35に備えられた竿体37が、円軌道を描くようにして、前記中心軸36の周りに回転される。板体38の中央部には、水平方向に伸びる長孔39が穿孔されており、前記長孔39に、竿体37が挿通されている(
図1参照)。円盤35の回転に応じて、竿体37の上下方向の振幅に、正弦波の垂直成分の割合を乗じた変位幅の直線運動が抽出され、長孔を有する板体38を、竿体37が図上において垂直方向に移動させる。
【0058】
また、板体38には、内筒60を保持させる保持部40が備えられ、往復直線運動を内筒60に伝達させている。前記保持部40と内筒60の対向面には、夫々、水平方向に円周形状をなす円周溝41が彫られており、円周溝にベアリング42が嵌装されている(
図3参照)。そのため、内筒60が往復揺動運動される際には、ベアリング42が滑動されて内筒60は自在に回転し、板体38が軸方向に往復直線運動される際には、ベアリング42が内筒60と板体38とを一体に連動させる。
【0059】
また、往復直線運動を発生させるサーボモータ31は、揺動運動発生用のサーボモータ11と、ニードルを進退させるサーボモータとから独立した状態で、基台91に固定されている(
図3参照)。なお、
図1においては、ニードル周回手段の構成の理解を容易にするため、基台の図示を省略している。ここで、独立した状態とは、いずれかのサーボモータが、他のサーボモータの重量を負担していない状態のことをいう。
【0060】
次に、
図4を参照して、円盤面に備えられた竿体のスライド手段43を説明する。
図4(A)図は、クランク機構34を平面図により説明する説明図を示し、
図4(B)図は、竿体37の位置をスライドさせた状態を、側面図により説明する説明図を示している。
図4(A)図には、竿体の位置を固定させるねじ軸体46の一部を破線で示し、
図4(B)図には、竿体を中心軸側にスライドさせた状態を破線で示している。
【0061】
スライド手段43は、レールをなす嵌合凸部44と、前記嵌合凸部と嵌合される嵌合凹部45と、竿体37を位置固定させるねじ軸体46とからなっている。嵌合凸部44は、円盤面に沿って径方向に伸びて形成されている。嵌合凹部45は、竿体37の基端部に固着されている。嵌合凸部44と嵌合凹部45の嵌合部分の形状は、外方が縮小された断面形状の溝形状とされており、水平方向に遊びが発生しないように固定されている(
図5(A)図参照)。ねじ軸体46は、嵌合凹部と嵌合凸部とが位置ずれがないように、嵌合凹部45の側面から嵌合凸部44に挿通される。
【0062】
クランク機構34において、板体38(
図3参照)が往復直線運動される距離は、竿体37が旋回される際に描く円の直径により決定される。そのため、竿体37を嵌合凸部44に沿って摺動させ、円盤の中心軸36と竿体37との距離を変更させると(
図4(B)図参照)、竿体37が描く円の直径が変更される。それに伴って、板体38が往復直線運動される距離も変更される。積層厚さが異なるステータコアに変更された場合には、竿体37の固定位置を嵌合凸部44に沿って摺動させ、往復直線運動の距離を変更させればよい。
【0063】
次に、
図1,
図3を参照して、揺動運動手段10の構成を説明する。揺動運動手段10は、揺動運動用のサーボモータ11と、揺動運動方向変換手段をなすカム機構とを備えている。カム機構は、サーボモータ11から入力された一方向のみの回転運動を、往の揺動運動、停止状態、復の揺動運動、停止状態を順に繰り返す往復揺動運動に変換させる。
【0064】
サーボモータ11は、プーリ12とタイミングベルト13を介して、カム機構の入力軸15に回転運動を伝達させている。前記入力軸15が回転されると、カム機構により、サーボモータ11から入力された一方向のみの回転運動が往復揺動運動に変換される。カム機構は、入力軸15とカム部本体14と出力軸16とからなっている。入力軸15に回転運動が入力されると、カム部本体14において、図示していないカムフォロアがカム溝に沿って摺動されて、出力軸16に往復揺動運動が出力される。
【0065】
カム機構の出力軸16から、外筒61に、リンク機構20を介して往復揺動運動が伝達される。リンク機構20は、出力軸16に装着された揺動主動部21と、揺動主動部から延びる一対の連結竿23と、連結竿と連結される揺動従動部22を有している(
図1参照)。リンク機構20は、いずれも剛性のある竿体等から構成されており、弛みや遊びが発生しにくく、動作応答性が高くされている(
図3参照)。実施例1では、複数本のニードルを同時に進退させるために、内筒60と外筒61とに位相差を発生させるニードル進退手段50を介して、揺動従動部22の動作を、内筒60と外筒61とに伝達させている。
【0066】
具体的には、揺動従動部22の動作が、連結軸52を介して筐体部51に伝達される(
図3参照)。そして、筐体部51に連結された軸受け部53を介して、内筒60に往復揺動運動が伝達される。なお、軸受け部53と内筒60との対向面には、直線溝54が備えられ、前記直線溝にベアリング55が嵌装されており、内筒60の直線運動が許容されている。また、筐体部51に内蔵されたウォーム56が、外筒に一体に固着されたウォームホイール57と咬合されており、ウォーム56を介して、外筒61に往復揺動運動が伝達される。
【0067】
ウォーム56が回転されていない状態では、ウォーム56とウォームホイール57との咬合位置が変化されず、内筒と外筒とに位相差は生じないため、筐体部51と内筒60と外筒61とが同期して往復揺動運動される。一方、ウォーム56が回転された場合には、ウォームホイール57の咬合位置が変化される。そうすると、外筒61が、筐体部51から伝達された往復揺動運動に、ウォーム56の回転分を加えた動作を行うことになり、外筒61と内筒60との間に位相差が発生し、ニードルが径方向に進退される。なお、ニードル進退手段50は一例であり、これに限定されない。
【0068】
ここで、
図3を参照して、ニードル64の先端に、直線運動、揺動運動を伝達させる、内筒60の構成を簡単に説明する。
図3には、ステータコア70を破線で示している。内筒60は、中心部にコイル線90を送出させる空間を有すると共に、先端部に、ニードルを装着させるニードルヘッド部63を備えている。ニードルヘッド部63には、内筒60と交差する方向に伸びるニードル64が、放射状に三本取付けられており、同時に三か所の磁極ティース71に巻線を行うことが可能とされている(
図2(A)図参照)。
【0069】
各々のニードル64の下面には、カムフォロア65が取付けられている。また、ニードルヘッド部63は、ニードルが進退されるニードル摺動溝66を備えている。また、中間筒62の天面には、螺旋形状のカム溝67が刻設され、カム溝に前記カムフォロア65が摺動可能に嵌装されている。カムフォロア65が、カム溝67に沿って摺動されると、ニードル64が前記ニードル摺動溝66に沿って、ステータコアの周方向に進退運動される。
【0070】
内筒60は、中間筒62と連結されており、ニードルヘッド部63がステータコアの軸方向に往復直線運動される際には、内筒60と中間筒62とが連動して直線運動される。一方、ニードルヘッド部63がステータコアの周方向に往復揺動運動される際には、内筒60と中間筒62とは自在に回転可能とされている。外筒61は、中心部が中空とされた筒体とされ、内部に中間筒62と内筒60とが挿通されている。また、外筒61は、中間筒62と連結されており、中間筒62の直線運動を許容すると共に、周方向の回転運動については、外筒61と中間筒62とを連動させている。
【0071】
ここで、
図5を参照して、本発明の周回軌道制御手段による周回軌道について説明する。
図5(A)図は揺動運動方向の変位を示し、
図5(B)図は直線運動方向の変位を示している。本発明の揺動運動用のサーボモータ11と直線運動用のサーボモータ31は、いずれも一方向のみに回転され、回転速度が変更されるだけであるためα、β、δ、εの各点においてオーバーシュートが発生しない(
図5(A)図、
図5(B)図参照)。そうすると、揺動運動と直線運動を合成させた周回運動も、振動によるぶれがない所定の軌道を通過する(
図5(C)図)参照)。また、揺動運動と直線運動の対応する一周期の時間Tは同一とされている(
図5(A)図、
図5(B)図参照)。実施例2以降においても同様とされる。
【0072】
仮に、いずれかの点で、回転運動に不測の振動が発生しても、往復揺動運動の移動変位は、カム機構により制限されている。そのため、揺動運動の終端の位置が、磁極ティースがなす隙間を通過するように設定された位置から外れにくい。同様に、直線運動の移動距離についても、上述したように、竿体と円盤の中心軸との距離により決定されるため、周回軌道全体の高さが変化されることもない(
図5(C)図参照)。
【実施例2】
【0073】
次に、
図6を参照して、異なる形状のインシュレータに対応できるように、周回軌道制御手段により周回軌道を制御させたニードル周回手段2を説明する。
図6(A)図は、略台形形状をなすように、上辺と下辺が平行とされ、上辺と下辺を垂直線と斜辺とにより繋いだ、上方が狭い六角形形状の立設壁82を有するインシュレータに適用した周回運動の例を示している。
【0074】
具体的には、前記垂直線の長さa(
図6(A)図参照)だけ直線部の長さを長くして、略台形形状の立設壁82を有するインシュレータに対応できるように、周回軌道を変更させた例を示している。
図6(B)図は、
図6(A)図の周回軌道に合成される、ニードルの先端の揺動運動の変位を示している。
図6(C)図は、
図6(A)図の周回軌道に合成される、ニードルの先端の直線運動の変位を示している。
【0075】
さて、半円形状の立設壁に適した周回軌道(
図6(A)図破線参照)を、そのまま略台形形状の立設壁82に適用すると、立設壁82の垂直辺と斜辺とがなす隅部83とニードルの先端68とが接触される(
図6(A)図一点鎖線丸印参照)。そこで、実施例2のニードル周回手段2においては、周回軌道制御手段により、前記垂直線の長さa(
図6(A)図参照)だけ直線部の長さを長くしている。
【0076】
直線部の長さを長くするために、直線運動と揺動運動の一周期の時間Tを同一としたまま、揺動運動が停止状態とされている時間(
図6(B)図において0からζ)を変えないで、直線運動用のモータの回転速度を速くして直線部の長さを長くさせている。具体的には、元の直線距離(H)に対する、直線距離に上下の垂直線の長さが加わった長さ(H+2×a)の割合((H+2×a)/H)を、揺直線運動用のサーボモータの回転速度に乗じて速度を加速させる。直線部の長さを変更後は、揺動運動の揺動時間(
図2(B)図のζからβの間)を変えないで、直線運動用のサーボモータの回転速度を減速させればよい。
【0077】
直線部が長くなると、曲線部の起点の位置(
図6(A)図、ζ点参照)が、磁極ティース71の上縁部よりも曲線部の頂部αに寄った位置となる。そうすると、略台形形状の立設壁の垂直辺と斜辺とがなす隅部83とニードルとが接触しない周回軌道とすることができる(
図6(A)図参照)。この実施例では、直線運動用のサーボモータを加減速させる例を挙げたが、直線運動用のサーボモータに対して、揺動運動用のサーボモータを相対的に減速しても同一の効果が得られることは勿論のことである。