特許第6095208号(P6095208)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6095208環化化合物の製造方法、及び、環化化合物を含有する溶液の発光方法
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  • 特許6095208-環化化合物の製造方法、及び、環化化合物を含有する溶液の発光方法 図000025
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6095208
(24)【登録日】2017年2月24日
(45)【発行日】2017年3月15日
(54)【発明の名称】環化化合物の製造方法、及び、環化化合物を含有する溶液の発光方法
(51)【国際特許分類】
   C07D 417/04 20060101AFI20170306BHJP
   C12Q 1/26 20060101ALI20170306BHJP
【FI】
   C07D417/04
   C12Q1/26
【請求項の数】6
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2012-265382(P2012-265382)
(22)【出願日】2012年12月4日
(65)【公開番号】特開2014-108957(P2014-108957A)
(43)【公開日】2014年6月12日
【審査請求日】2015年12月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】899000079
【氏名又は名称】学校法人慶應義塾
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】一色国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 毅
(72)【発明者】
【氏名】西山 繁
(72)【発明者】
【氏名】井岡 秀二
(72)【発明者】
【氏名】牧 昌次郎
(72)【発明者】
【氏名】丹羽 治樹
【審査官】 早乙女 智美
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−219381(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/060821(WO,A1)
【文献】 特表2010−516734(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
CAplus/REGISTRY/CASREACT(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)に記載の化合物に酸を接触させることによって、下記化学式(II)に記載の環化化合物を製造する方法
【化1】
(式中、R1、R2及びR3は、それぞれ独立して、H、または、前記酸との接触によってHとなる置換基であり、かつ、R4は、OH、または、前記酸との接触によってOHとなる置換基である)。
【請求項2】
前記酸がブロンステッド酸またはルイス酸であることを特徴とする、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記酸が、塩酸、酢酸、モノフルオロ酢酸、ジフルオロ酢酸、トリフルオロ酢酸、トルエンスルホン酸、硫酸、硝酸、リン酸、過塩素酸、臭化亜鉛、塩化スズ、塩化アルミニウム、臭化リチウム、塩化リチウム、三フッ化ボラン、三塩化ボラン、三臭化ボラン、四塩化チタン、トリフルオロメタンスルホン酸銅、トリフルオロメタンスルホン酸銀、トリフルオロメタンスルホン酸イッテルビウム、トリフルオロメタンスルホン酸スズ、ヨウ素、及び、臭素からなる群から選択される1つ以上の酸であることを特徴とする、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
化学式(I)に記載の化合物が、下記一般式(III)に記載のアミノ酸を構成アミノ酸として含有するタンパク質またはペプチドから製造されることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法。
【化2】
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法によって、化学式(II)に記載の環化化合物を製造する工程と、
前記環化化合物に、ルシフェラーゼを接触させる工程と、
を含む、発光方法。
【請求項6】
前記ルシフェラーゼが、ホタルルシフェラーゼであることを特徴とする、請求項5に記載の発光方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環化化合物の製造方法、及び、環化化合物を含有する溶液の発光方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生物発光として知られるホタルの発光は、ホタルルシフェリンに、ATP及びマグネシウムイオンの存在下でホタルルシフェラーゼが作用することにより発光する。この発光系は、量子収率が極めて高いことから、従来からATPの微量測定などに応用されている(例えば、非特許文献1を参照)。
近年では、リシンのε−アミノ基にホタルルシフェリンを結合させた化合物を用いてペプチドを合成した後、このペプチドにホタルルシフェラーゼを作用させて発光させることによるペプチド標識方法や(例えば、特許文献1を参照)、ホタルルシフェリンがペプチド結合したルシフェリンペプチド化合物と抗体との複合体に、C反応性タンパク質を作用させた後、ホタルルシフェラーゼをさらに作用させて発光させることによるC反応性タンパク質の検出方法が報告されている(例えば、特許文献2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010− 30918号公報
【特許文献2】特開2011− 37791号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】化学辞典 第1版、第748及び1360頁、1994年、株式会社東京化学同人発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、環化化合物の製造方法、及び、環化化合物を含有する溶液の発光方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る環化化合物の製造方法は、下記一般式(I)に記載の化合物に酸を接触させることによって、下記化学式(II)に記載の環化化合物を製造する工程を含む。
【化1】
(式中、R、R及びRは、それぞれ独立して、Hまたは上記酸との接触によってHとなる置換基であり、かつ、Rは、OHまたは上記酸との接触によってOHとなる置換基である)。
【0007】
酸は、ブロンステッド酸またはルイス酸であることが好ましく、例えば、塩酸、酢酸、モノフルオロ酢酸、ジフルオロ酢酸、トリフルオロ酢酸、トルエンスルホン酸、硫酸、硝酸、リン酸、過塩素酸、臭化亜鉛、塩化スズ、塩化アルミニウム、臭化リチウム、塩化リチウム、三フッ化ボラン、三塩化ボラン、三臭化ボラン、四塩化チタン、トリフルオロメタンスルホン酸銅、トリフルオロメタンスルホン酸銀、トリフルオロメタンスルホン酸イッテルビウム、トリフルオロメタンスルホン酸スズ、ヨウ素、及び、臭素からなる群から選択される1つ以上の酸であっても良い。
【0008】
また、化学式(I)に記載の化合物は、下記一般式(III)に記載のアミノ酸を構成アミノ酸として含有するタンパク質またはペプチドから製造されても良い。
【化2】
【0009】
本発明に係る発光方法は、上記のいずれかの方法によって、化学式(II)に記載の環化化合物を製造する工程と、その環化化合物にルシフェラーゼを接触させる工程と、を含む。
ルシフェラーゼは、ホタルルシフェラーゼであることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によって、環化化合物の製造方法、及び、環化化合物を含有する溶液の発光方法を提供することが可能になった。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態に係る、発光波長を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、上記知見に基づき完成した本発明の実施の形態を、実施例を挙げながら詳細に説明する。なお、本発明の目的、特徴、利点、および、そのアイデアは、本明細書の記載により、当業者には明らかであり、本明細書の記載から、当業者であれば容易に本発明を再現できる。以下に記載された発明の実施の形態及び具体的な実施例などは、本発明の好ましい実施態様を示すものであり、例示又は説明のために示されているのであって、本発明をそれらに限定するものではない。本明細書で開示されている本発明の意図並びに範囲内で、本明細書の記載に基づき、様々な改変並びに修飾ができることは、当業者にとって明らかである。
【0013】
本発明に係る環化化合物の製造方法は、下記一般式(I)に記載の化合物に酸を接触させることによって、下記化学式(II)に記載の環化化合物を製造する工程を含む
【化3】
(式中、R、R及びRは、それぞれ独立して、Hまたは上記酸との接触によってHとなる置換基であり、かつ、Rは、OHまたは上記酸との接触によってOHとなる置換基である)。
【0014】
この製造方法に用いる酸の種類は、特に限定されず、当業者であれば、一般式(I)に記載の化合物が有する置換基R、R、R及びRの性質などを考慮しながら、適宜適切に選択することができる。
例えば、この酸は、ブロンステッド酸であっても良く、ルイス酸であっても良い。ブロンステッド酸の例として、塩酸、酢酸、モノフルオロ酢酸、ジフルオロ酢酸、トリフルオロ酢酸、トルエンスルホン酸、硫酸、硝酸、リン酸、及び、過塩素酸が挙げられ、塩酸またはトリフロオロ酢酸であることが好ましいが、これらに限定されない。また、ルイス酸の例として、臭化亜鉛、塩化スズ、塩化アルミニウム、臭化リチウム、塩化リチウム、三フッ化ボラン、三塩化ボラン、三臭化ボラン、四塩化チタン、トリフルオロメタンスルホン酸銅、トリフルオロメタンスルホン酸銀、トリフルオロメタンスルホン酸イッテルビウム、トリフルオロメタンスルホン酸スズ、ヨウ素、及び、臭素が挙げられるが、これらに限定されない。
【0015】
一般式(I)中の置換基R、R及びRは、Hであるか、または、上記酸と接触することによってHとなる置換基であれば、特に限定されない。また、置換基Rは、OHであるか、または、上記酸との接触によってOHとなる置換基であれば、特に限定されない。
及び/またはRが、酸との接触によりHとなる置換基である場合には、一般式(I)に記載の化合物に酸を接触させると、まず一般式(I)においてR及びRの少なくともいずれか一方がHである化合物が生じ、このようにして生じた1級または2級アミノ基がベンゾチアゾール環のα位のカルボニル基を分子内求核攻撃することによって、化学式(II)に記載の環化化合物中の3,4−ジヒドロ−2H−ピロール環が生成する。Rが、酸との接触によりHとなる置換基である場合には、この3,4−ジヒドロ−2H−ピロール環が生じる前、同時または後のいずれのタイミングでHとなっても良い。また、Rが、酸との接触によってOHとなる置換基である場合には、この3,4−ジヒドロ−2H−ピロール環が生じる前、同時または後のいずれのタイミングでOHとなっても良い。
【0016】
このような、酸と接触することによってHとなる置換基R、R、R及びRを、当業者であれば、適切に設計することができる。
置換基Rとして、例えば、Me基、tert−Bu基、Bn基、PMB基及びAllyl基などの、アリールまたはアリルで置換された、または、無置換のアルキル基、BOM基、MOM基、MEM基、THP基及びEE基などの、一般式(I)に記載の化合物が有する水酸基と一緒になってアセタールを形成する置換基、Ac基、Bz基及びPiv基などのアシル基、並びに、TIPS基、TES基、TMS基、TBDPS基及びTBS基などのアルキルシリル基であっても良く、TIPS基、TES基、TMS基、TBDPS基及びTBS基などのアルキルシリル基であることが好ましく、TBS基であることがより好ましいが、これらに限定されない。
置換基R及びRは、同一であっても異なっていても良く、例えば、Moc基(メトキシカルボニル基)、Eoc基(エトキシカルボニル基)、Boc基、Alloc基、Fmoc基、Troc基及びCbz基などのカーバメート基、Me基、Et基、tert−Bu基、Bn基、PMB基及びAllyl基などの、アリールまたはアリルで置換された、または、無置換のアルキル基、並びに、Ac基、Bz基及びPiv基などのアシル基であっても良く、Moc基(メトキシカルボニル基)、Eoc基(エトキシカルボニル基)、Boc基、Alloc基、Fmoc基、Troc基及びCbz基などのカーバメート基であることが好ましく、Boc基であることがより好ましいが、これらに限定されない。なお、R及びRのいずれか一方がHであることが好ましく、この場合において他方がBoc基であることがより好ましいが、これに限定されない。
また、Rとして、例えば、メトキシ基、エトキシ基、iso−プロポキシ基、tert−ブトキシ基、ベンジルオキシ基、p-メトキシベンジルオキシ基及び2−プロペニルオキシ基などの、アリールまたはアリルで置換された、または、無置換のアルキルオキシ基であっても良く、tert−ブトキシ基であることが好ましいが、これらに限定されない。
【0017】
一般式(I)に記載の化合物に酸を接触させる方法は、特に限定されず、必要に応じてその化合物を適切な溶媒に分散させたうえで酸を加え、攪拌、振とう及び静置などの公知の方法によって接触させることができる。
また、一般式(I)に記載の化合物に酸を接触させる温度及び時間は、特に限定されず、当業者であれば、一般式(I)に記載の化合物及び化学式(II)に記載の環化化合物の安定性や反応の進行の程度などを考慮しながら、適宜適切に設定することができるが、例えば、温度は、-78℃〜130℃であっても良く、-20℃〜100℃であることが好ましく、0℃〜80℃であることがより好ましく、室温〜70℃であることがさらに好ましい。また、時間は、5分〜1週間であっても良く、10分〜3日間であることが好ましく、30分〜1日であることがより好ましい。
【0018】
製造された化学式(II)に記載の環化化合物は、ATP及びマグネシウムイオンの存在下で、例えばホタルルシフェラーゼなどのルシフェラーゼを作用させることによって発光することができるため、ホタルルシフェリンと同様に、ATPの微量測定を始めとする様々な用途に応用することができる。加えて、化学式(II)に記載の環化化合物は、ホタルルシフェリンに比べて酸素、光、酸及び熱などに対して極めて安定であり、さらに、人工的に調製されたホタルルシフェリン類縁体の中では強い発光強度を生じうる。
【0019】
一方で、一般式(I)に記載の化合物は、ルシフェラーゼを作用させても発光しないことから、一般式(I)に記載の化合物に、発光が必要な段階で酸を接触させ、化学式(II)に記載の環化化合物へと変換することによって、発光可能な状態に切り替えることが可能である。この機能を利用して、例えば、pH状況のモニタリング及びルイス酸性金属の検出に用いることができる。
例えば、発光を利用する測定キットなどの工業製品中に、一般式(I)に記載の化合物と酸とを含ませておき、発光が必要な段階でこの化合物と酸とを接触させることによって化学式(II)に記載の環化化合物へと変換し、発光基質とすることができる。
【0020】
また、一般式(I)に記載の化合物は、α-アミノ酸構造を有することから、この化合物を用いてタンパク質またはペプチドを製造することができる。即ち、下記一般式(III)に記載のアミノ酸を構成アミノ酸として含有するタンパク質またはペプチドを製造することができる。なお、一般式(III)に記載のアミノ酸の置換基Rは、一般式(I)に記載の化合物の置換基Rと同じである。
【化4】
【0021】
このタンパク質またはペプチドが含有する、一般式(III)に記載のアミノ酸以外の構成アミノ酸は、L-アミノ酸であってもよく、D-アミノ酸であっても良いが、L-アミノ酸であることが好ましい。なお、本明細書では、分子量が5000以上のものをタンパク質といい、分子量が5000未満のものをペプチドという。
【0022】
一般式(III)に記載のアミノ酸を構成アミノ酸として含有するタンパク質またはペプチドに対し、酵素または酸・アルカリ触媒を用いて分解することによって、一般式(I)に記載の化合物を遊離させることができる。遊離した一般式(I)に記載の化合物は、酸を接触させることによって化学式(II)に記載の環化化合物を生成し、さらにルシフェラーゼを作用させることによって発光させることができるため、一般式(III)に記載のアミノ酸を構成アミノ酸として含有するタンパク質またはペプチドは、発光機能を有する標識されたタンパク質またはペプチドとして用いることができる。
このタンパク質またはペプチドを、酵素を用いて加水分解する際の酵素は、当業者であれば、適宜適切に選択することができるが、例えば、EC3.4群に属する酵素が挙げられ、具体的には、ペプシン、スブチリシン、トリプシン、キモトリプシン、キシン、フューリン、カテプシンD、パパイン、サーモリシンなどのプロテアーゼであっても良いが、これらに限定されない。
また、化学的に加水分解する際には、酸及び塩基のいずれを触媒として用いても良いが、遊離した一般式(I)に記載の化合物を、引き続き酸と接触させることによって化学式(II)に記載の環化化合物を生成することを考慮すれば、酸で加水分解することが好ましい。ここで、酸は、ブロンステッド酸であっても良く、ルイス酸であっても良いが、ブロンステッド酸であることが好ましい。ブロンステッド酸の例として、塩酸、酢酸、モノフルオロ酢酸、ジフルオロ酢酸、トリフルオロ酢酸、トルエンスルホン酸、硫酸、硝酸、リン酸、及び、過塩素酸が挙げられ、塩酸またはトリフロオロ酢酸であることが好ましいが、これらに限定されない。
【0023】
一般式(III)に記載のアミノ酸を構成アミノ酸として含有するタンパク質またはペプチドを製造する場合、一般式(I)に記載の化合物は、アミノ基とカルボキシル基との2つの反応点を有することから、タンパク質またはペプチドの末端のみならず、任意の箇所に含有させることができ、また、必要に応じて複数箇所に含有させることができる。従って、タンパク質またはペプチド内の任意の箇所を標識することができる。さらに、タンパク質またはペプチド内の複数箇所に含有させた場合には、発光強度を向上させることができる。
なお、酵素で加水分解する場合、使用する酵素によって、アミノ酸特異的に切断される。従って、その場合、一般式(III)に記載のアミノ酸を切り出すことができるように、酵素の特異性を考慮して、その周囲のアミノ酸配列を設計する必要がある。
【0024】
一般式(III)に記載のアミノ酸を構成アミノ酸として含有するタンパク質またはペプチドは、上述のように、一般式(I)に記載の化合物を含有または遊離しただけでは発光基質とならず、化学式(II)に記載の環化化合物へと変換して初めて発光基質となることから、発光が必要な段階で酸を接触させることによって、発光基質にするタイミングを調節することが可能である。
【0025】
本発明に係る発光方法は、上述の方法によって製造された化学式(II)に記載の環化化合物を含む溶液に、ルシフェラーゼを接触させる工程を含む。この発光方法によって、化学式(II)に記載の環化化合物は、547 nmの極大発光波長を有する光を発することができる。また、この発光方法においては、他のホタルルシフェリン類縁体を用いたときに比べて、強い強度の光が生じ得る。
ルシフェラーゼの種類は、化学式(II)に記載の環化化合物を発光させることができれば特に限定されないが、ホタルルシフェリンを基質とできるルシフェラーゼであることが好ましく、ホタルルシフェラーゼであることがより好ましい。なお、ルシフェラーゼは、天然由来であっても良く、組換え型であっても良い。
化学式(II)に記載の環化化合物を溶解させる溶媒の種類を含む、ルシフェラーゼを接触させる際の条件は、ホタルルシフェリンをホタルルシフェラーゼによって発光させる際の条件を参照しながら、当業者であれば、適宜適切に設定することができる。例えば、pH6-8のリン酸カリウム緩衝液中、ATP及びマグネシウムイオンの存在下で、室温にてルシフェラーゼを接触させることによって、化学式(II)に記載の環化化合物を発光させても良いが、これに限定されない。
【実施例】
【0026】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲は下記の実施例に限定されることはない。
【0027】
[実施例1]基質の調製
(1)(R)−2−(tert−ブトキシカルボニルアミノ)−5−(6−ヒドロキシベンゾ[d]チアゾール−2−イル)−5−オキソペンタン酸tert−ブチル(前駆体1)の調製
(1−1)2−ブロモ−6−メトキシベンゾ[d]チアゾールの調製
【化5】
【0028】
乾燥させた臭化銅(II)(2.70 g, 11.6 mmol)と亜硝酸イソブチル(2 mL, 15.0 mmol)とを、アルゴン雰囲気下、室温にてアセトニトリル(150 mL)に加えた後、6−メトキシベンゾ[d]チアゾール−2−アミン(1.80 g, 9.99 mmol)のアセトニトリル(50 mL)溶液を、同じく室温にて加えた。得られた混合物を、65℃に加熱し、この温度を保ちながらアルゴン雰囲気下で4時間撹拌した。
反応混合物を室温まで放冷した後、2 M塩酸(30 mL)を加え、クロロホルム(3×150 mL)で抽出した。合わせた有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、溶媒を減圧留去した。得られた残渣を、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(シリカゲル200 g; ヘキサン:酢酸エチル(2:1))にて精製することによって、2−ブロモ−6−メトキシベンゾ[d]チアゾール(2.32 g, 収率95%)を、赤褐色固体として得た。生成物の物性測定値は、下記の通りである。
【0029】
2−ブロモ−6−メトキシベンゾ[d]チアゾール
IR (film) 1603, 1221 cm-1.
1H NMR (400 MHz, CDCl3)δ 7.85 (1 H, d, J = 8.8 Hz), 7.24 (1 H, d, J = 2.4 Hz), 7.06 (1 H, dd, J = 2.4, 8.8 Hz), 3.87 (3 H, s).
13C NMR (100 MHz, CDCl3)δ 158.1, 146.8, 138.6, 135.5, 123.3, 115.8, 103.6, 55.9.
ESI-HRMS calcd for C8H679BrNOS 242.9353 (M+H)+, found, m/z 243.9459.
【0030】
(1−2)2−ブロモベンゾ[d]チアゾール−6−オールの調製
【化6】
【0031】
2−ブロモ−6−メトキシベンゾ[d]チアゾール(555 mg, 2.28 mmol)を、アルゴン雰囲気下、室温にて塩化メチレン(10 mL)に溶解した。得られた溶液に、1 M三臭化ホウ素塩化メチレン溶液(4 mL)を、室温にて加えた。得られた混合物を、アルゴン雰囲気下、室温で7時間撹拌した。
反応混合物を氷水に加えた後、クロロホルム(3×30 mL)で抽出した。合わせた有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、溶媒を減圧留去した。得られた残渣を、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(シリカゲル80 g; ヘキサン:酢酸エチル(3:1))にて精製することによって、2−ブロモベンゾ[d]チアゾール−6−オール(521 mg, 収率99%)を、褐色固体として得た。生成物の物性測定値は、下記の通りである。
【0032】
2−ブロモベンゾ[d]チアゾール−6−オール
IR (film) 3118, 1598 cm-1.
1H NMR (400 MHz, CD3OD)δ 7.72 (1 H, d, J = 8.8 Hz), 7.26 (1 H, d, J = 2.4 Hz), 6.97 (1 H, dd, J = 2.4, 8.8 Hz).
13C NMR (100 MHz, CD3OD)δ 156.5, 145.6, 138.5, 134.8, 122.5, 116.0, 105.6.
ESI-HRMS calcd for C7H479BrNOS 228.9197 (M+H)+, found, m/z 229.9303.
【0033】
(1−3)2−ブロモ−6−(tert−ブチルジメチルシリルオキシ)ベンゾ[d]チアゾールの調製
【化7】
【0034】
2−ブロモベンゾ[d]チアゾール−6−オール(794 mg, 3.45 mmol)を、アルゴン雰囲気下、室温にてN,N-ジメチルホルムアミド (42 mL)に溶解させ後、引き続き、tert-ブチルジメチルクロロシラン(1.75 g, 11.6 mmol)とイミダゾール(1.41 g, 20.7 mmol)とを、室温にて加えた。得られた混合物を、アルゴン雰囲気下、室温で24時間撹拌した。
反応混合物に飽和塩化アンモニウム水溶液(50 mL)を加えた後、クロロホルム(3×30 mL)で抽出した。合わせた有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、溶媒を減圧留去した。得られた残渣を、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(シリカゲル80 g; ヘキサン:酢酸エチル(3:1))にて精製することによって、2−ブロモ−6−(tert−ブチルジメチルシリルオキシ)ベンゾ[d]チアゾール(1.13 g, 収率95%)を、褐色液体として得た。生成物の物性測定値は、下記の通りである。
【0035】
2−ブロモ−6−(tert−ブチルジメチルシリルオキシ)ベンゾ[d]チアゾール
IR (film) 1597, 1270 cm-1.
1H NMR (400 MHz, CDCl3)δ 7.79 (1 H, d, J = 8.8 Hz), 7.19 (1 H, d, J = 2.4 Hz), 6.94 (1 H, dd, J = 2.4, 8.8 Hz), 0.97 (9 H, s), 0.20 (6 H, s).
13C NMR (100 MHz, CDCl3)δ 154.0, 147.3, 138.4, 135.9, 123.2, 120.3, 111.1, 25.7, 18.2, -4.4.
ESI-HRMS calcd for C13H1879BrNOSSi 343.0062 (M+H)+, found, m/z 344.0168.
【0036】
(1−4)(R)−5−オキソピロリジン−1,2−ジカルボン酸ジtert−ブチルの調製
(1−4−1)(R)−5−オキソピロリジン−2−カルボン酸tert−ブチルの調製
【化8】
【0037】
(R)−5−オキソピロリジン−2−カルボン酸(3.21 g, 24.9 mmol)を、アルゴン雰囲気下、室温にて酢酸tert-ブチル(100 mL)に溶解した後、引き続き、60%過塩素酸水溶液(1.5 mL)を、室温で加えた。得られた混合物を、アルゴン雰囲気下、室温で24時間撹拌した。
反応混合物に飽和炭酸水素ナトリウム水溶液(50 mL)を加えた後、クロロホルム(3×30 mL)で抽出した。合わせた有機層を、無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、溶媒を減圧留去することによって、(R)−5−オキソピロリジン−2−カルボン酸tert−ブチル(4.62 g, 収率quant.)を、白色固体として得た。生成物の物性測定値は、下記の通りである。
【0038】
(R)−5−オキソピロリジン−2−カルボン酸tert−ブチル
IR (film) 3454, 1737 cm-1.
1H NMR (400 MHz, CDCl3)δ 5.97 (1 H, br), 4.16 (1 H, m), 2.38 (3 H, m), 2.11 (1 H, m), 1.48 (9 H, s).
13C NMR (100 MHz, CDCl3)δ 177.8, 171.1, 82.5, 56.1, 29.4, 28.1, 24.9.
ESI-HRMS calcd for C9H15NO3 185.1052 (M+H)+, found, m/z 186.1113.
[α]25D -1.11 (c 1.00, CHCl3).
【0039】
(1−4−2)(R)−5−オキソピロリジン−1,2−ジカルボン酸ジtert−ブチルの調製
【化9】
【0040】
(R)−5−オキソピロリジン−2−カルボン酸tert−ブチル(367 mg, 1.98 mmol)と二炭酸ジ-tert-ブチル(0.55 mL, 24.6 mmol)とを、アルゴン雰囲気下、室温にてテトラヒドロフラン(10 mL)に溶解した後、N,N-ジメチル-4-アミノピリジン(58.4 mg, 0.478 mmol)を室温で加えた。得られた混合物を、アルゴン雰囲気下、室温で2時間撹拌した。
反応混合物に純水(25 mL)を加えた後、酢酸エチル(3×50 mL)で抽出した。合わせた有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、溶媒を減圧留去した。得られた残渣を、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(シリカゲル300 g; ヘキサン:酢酸エチル(1:1))にて精製することによって、(R)−5−オキソピロリジン−1,2−ジカルボン酸ジtert−ブチル(591 mg, 収率quant.)を、黄色液体として得た。生成物の物性測定値は、下記の通りである。
【0041】
(R)−5−オキソピロリジン−1,2−ジカルボン酸ジtert−ブチル
IR (film) 1739,1717 cm-1.
1H NMR (400 MHz, CDCl3)δ 4.38 (1 H, dd, J = 2.4, 9.3 Hz), 2.48 (1 H, m), 2.35 (1 H, m), 2.20 (1 H, m), 1.90 (1 H, m), 1.41 (9 H, s), 1.39 (9 H, s).
13C NMR (100 MHz, CDCl3)δ 173.7, 170.4, 149.3, 83.2, 82.2, 59.6, 31.1, 27.9, 27.8, 21.6.
ESI-HRMS calcd for C14H23NO5 285.1576 (M+H)+, found, m/z 286.1650.
[α]25D +33.6 (c 1.00, CHCl3).
【0042】
(1−5)(R)−2−(tert−ブトキシカルボニルアミノ)−5−(6−(tert−ブチルジメチルシリルオキシ)ベンゾ[d]チアゾール−2−イル)−5−オキソペンタン酸tert−ブチルの調製
【化10】
【0043】
2−ブロモ−6−(tert−ブチルジメチルシリルオキシ)ベンゾ[d]チアゾール(528 mg, 1.53 mmol)を、アルゴン雰囲気下、室温にてテトラヒドロフラン(15.3 mL)に溶解させることによって、溶液Aを調製した。また、(R)−5−オキソピロリジン−1,2−ジカルボン酸ジtert−ブチル(558 mg, 1.96 mmol)を、アルゴン雰囲気下、室温にてテトラヒドロフラン(10 mL)に溶解させることによって、溶液Bを調製した。
このようにして調製した溶液Aに、アルゴン雰囲気下、-78℃にて2.7 Mのn-ブチルリチウムヘキサン溶液(0.63 mL)を加えた後、10分間撹拌した。さらに、得られた混合物に、アルゴン雰囲気下、-78℃にて溶液Bを加えた後、-78℃を保ちながら2時間撹拌した。
反応混合物を室温に戻した後、飽和塩化アンモニウム水溶液 (50 mL)を加え、クロロホルム(3×30 mL)で抽出した。合わせた有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、溶媒を減圧留去した。得られた残渣を、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(シリカゲル200 g; ヘキサン:酢酸エチル(5:1))、その後、ゲル浸透クロマトグラフィーにて精製することによって、(R)−2−(tert−ブトキシカルボニルアミノ)−5−(6−(tert−ブチルジメチルシリルオキシ)ベンゾ[d]チアゾール−2−イル)−5−オキソペンタン酸tert−ブチル(360 mg, 収率43%)を、黄色液体として得た。生成物の物性測定値は、下記の通りである。
【0044】
(R)−2−(tert−ブトキシカルボニルアミノ)−5−(6−(tert−ブチルジメチルシリルオキシ)ベンゾ[d]チアゾール−2−イル)−5−オキソペンタン酸tert−ブチル
IR (film) 1717 cm-1.
1H NMR (400 MHz, CDCl3)δ 7.99 (1 H, d, J = 9.2 Hz), 7.34 (1 H, d, J = 2.4 Hz), 7.07 (1 H, dd, J = 2.4, 9.2 Hz), 5.18 (1 H, d, J = 8.0 Hz), 4.30 (1 H, d, J = 6.0 Hz), 3.31 (2 H, m), 2.30 (1 H, m), 2.11 (1 H, m), 1.47 (9 H, s), 1.40 (9 H, s), 1.00 (9 H, s), 0.24 (6 H, s).
13C NMR (100 MHz, CDCl3)δ 194.3, 171.5, 164.0, 156.1, 155.5, 148.6, 139.1, 126.2, 121.7, 111.9, 82.3, 79.9, 53.6, 34.5, 28.4, 28.1, 27.2, 25.7, 18.4, -4.2.
ESI-HRMS calcd for C27H43N2O6SSi 550.2533 (M+H)+, found, m/z 551.2599.
[α]25D -7.16 (c 1.00, CHCl3).
【0045】
(1−6)(R)−2−(tert−ブトキシカルボニルアミノ)−5−(6−ヒドロキシベンゾ[d]チアゾール−2−イル)−5−オキソペンタン酸tert−ブチルの調製
【化11】
【0046】
(R)−2−(tert−ブトキシカルボニルアミノ)−5−(6−(tert−ブチルジメチルシリルオキシ)ベンゾ[d]チアゾール−2−イル)−5−オキソペンタン酸tert−ブチル(133 mg, 0.242 mmol)を、アルゴン雰囲気下、室温にてテトラヒドロフラン(3 mL)に溶解した。得られた溶液に、1 Mのフッ化テトラ-n-ブチルアンモニウムのテトラヒドロフラン溶液(1 mL)、酢酸(0.057 mL)、及び、純水(0.018 mL)からなる混合溶液を、アルゴン雰囲気下、室温にて0.3 mL加えた。得られた混合物を、アルゴン雰囲気下、室温で1時間撹拌した。
反応混合物に飽和塩化アンモニウム水溶液(20 mL)を加えた後、酢酸エチル(3×30 mL)で抽出した。合わせた有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、溶媒を減圧留去した。得られた残渣を、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(シリカゲル80 g; ヘキサン:酢酸エチル(1:1))にて精製することによって、(R)−2−(tert−ブトキシカルボニルアミノ)−5−(6−ヒドロキシベンゾ[d]チアゾール−2−イル)−5−オキソペンタン酸tert−ブチル(前駆体1、100 mg, 収率95%)を、黄色固体として得た。生成物の物性測定値は、下記の通りである。
【0047】
(R)−2−(tert−ブトキシカルボニルアミノ)−5−(6−ヒドロキシベンゾ[d]チアゾール−2−イル)−5−オキソペンタン酸tert−ブチル
IR (film) 3322, 1729,1700 cm-1.
1H NMR (400 MHz, CDCl3)δ 7.89 (1 H, d, J = 9.0 Hz), 7.30 (1 H, d, J = 2.5 Hz), 7.09 (1 H, dd, J = 2.5, 9.0 Hz), 5.35 (1 H, d, J = 8.0 Hz), 4.28 (1 H, d, J = 5.2 Hz), 3.29 (2 H, m), 2.28 (1 H, m), 2.10 (1 H, m), 1.46 (9 H, s), 1.43 (9 H, s).
13C NMR (100 MHz, CDCl3)δ 194.0, 171.6, 162.8, 157.1, 156.0, 147.7, 139.4, 126.4, 117.7,106.8, 82.7, 80.9, 53.7, 34.5, 28.4, 28.1, 27.1.
ESI-HRMS calcd for C21H28N2O6S 436.1668 (M+H)+, found, m/z 437.1746.
[α]25D -17.2 (c 1.00, CHCl3).
【0048】
(2)3−ヒドロキシ−2−(6−ヒドロキシベンゾ[d]チアゾール−2−カルボキシアミド)プロパン酸(前駆体2)の調製
(2−1)6−ヒドロキシベンゾ[d]チアゾール−2−カルボニトリルの調製
【化12】
【0049】
6−メトキシベンゾ[d]チアゾール−2−カルボニトリル(766 mg、4.03 mmol)に、アルゴン雰囲気下、室温にてピリジニウムクロライド(19.5 g)を加えた。得られた混合物を、アルゴン雰囲気下で200℃に加熱することによって塩化ピリジニウムを融解させた後、200℃に保ちながら1時間撹拌した。
反応混合物を室温にまで放冷した後、2 M塩酸(250 mL)を加え、さらに、酢酸エチル(3×100 mL)で抽出した。合わせた有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、溶媒を減圧留去した。得られた残渣を、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(シリカゲル85 g; ヘキサン‐酢酸エチル(1:1))にて精製することによって、6−ヒドロキシベンゾ[d]チアゾール−2−カルボニトリル(710 mg、収率89%)を、白色固体として得た。生成物の物性測定値は、下記の通りである。
【0050】
6−ヒドロキシベンゾ[d]チアゾール−2−カルボニトリル
mp 155-170℃ decomp.
IR(film): 3217, 2228 cm-1.
1H NMR (400 MHz, CD3OD)δ 7.94 (1 H, d, J = 6.8 Hz), 7.36 (1 H, d, J = 2.4 Hz), 7.13 (1 H, dd, J = 6.8, 2.4 Hz).
13C NMR (100 MHz, CD3OD)δ 160.3, 147.3, 139.0, 133.9, 126.6, 119.6, 114.3, 107.0.
ESI-HRMS calcd for C8H4N2OS 176.0044 (M+H)+, found, m/z 177.0100.
【0051】
(2−2)6−ヒドロキシベンゾ[d]チアゾール−2−カルボン酸メチルの調製
【化13】
【0052】
6−ヒドロキシベンゾ[d]チアゾール−2−カルボニトリル(633 mg、3.59 mmol)のメタノール溶液(50 mL)に、炭酸カリウム(496 mg、3.59 mmol)を室温にて加えた後、得られた混合物を、室温で24時間撹拌した。
反応混合物に2 M塩酸(3 mL)を加えた後、酢酸エチル(3×60 mL)で抽出した。合わせた有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、溶媒を減圧留去した。得られた残渣を、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(シリカゲル100 g; ヘキサン‐酢酸エチル(1:1))にて精製することによって、6−ヒドロキシベンゾ[d]チアゾール−2−カルボン酸メチル(751 mg、収率94%)を、黄色固体として得た。生成物の物性測定値は、下記の通りである。
【0053】
6−ヒドロキシベンゾ[d]チアゾール−2−カルボン酸メチル
mp 197-200℃.
IR(film): 3157, 1739 cm-1.
1H NMR (400 MHz, CD3OD)δ 7.95 (1 H, d, J = 8.9 Hz), 7.37 (1 H, d, J = 2.3 Hz), 7.11 (1 H, dd, J = 2.3, 8.9 Hz), 4.01 (3 H, s).
13C NMR (100 MHz, CD3OD)δ 163.6, 158.7, 155.9, 147.7, 139.3, 125.9, 118.3, 106.3.
ESI-HRMS calcd for C9H7NO3S 209.0147 (M+H)+, found, m/z 210.0203.
【0054】
(2−3)6−(メトキシメトキシ)ベンゾ[d]チアゾール−2−カルボン酸メチルの調製
【化14】
【0055】
6−ヒドロキシベンゾ[d]チアゾール−2−カルボン酸メチル(284 mg、1.35 mmol)のN,N-ジメチルホルムアミド溶液(5 mL)に、水素化ナトリウム(60 mg、1.50 mmol)とクロロメチルメチルエーテル(510 μL, 6.75 mmol)とを、室温にて加えた。得られた混合物を、室温で30分間撹拌した。
反応混合物に純水(10 mL)を加えた後、酢酸エチル(3×60 mL)で抽出した。合わせた有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、溶媒を減圧留去した。得られた残渣を、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(シリカゲル80 g; ヘキサン‐酢酸エチル(1:1))にて精製することによって、6−(メトキシメトキシ)ベンゾ[d]チアゾール−2−カルボン酸メチル(207 mg、収率61%)を、黄色液体として得た。生成物の物性測定値は、下記の通りである。
【0056】
6−(メトキシメトキシ)ベンゾ[d]チアゾール−2−カルボン酸メチル
IR(film): 1743, 1093 cm-1.
1H NMR (CDCl3)δ 8.08 (1 H, d, J = 9.2 Hz), 7.57 (1 H, d, J = 2.5 Hz), 7.23 (1 H, dd, J = 2.5, 9.4 Hz), 5.23(2 H, s), 4.03(3 H, s), 3.48(3 H, s).
13C NMR (CDCl3)δ 161.2, 157.2, 155.9, 148.5, 138.5, 126.2, 118.7, 106.9, 94.8, 56.3, 53.6.
ESI-HRMS calcd for C11H11NO4S 253.0409 (M+H)+, found, m/z 254.0486.
【0057】
(2−4)3−ヒドロキシ−2−(6−ヒドロキシベンゾ[d]チアゾール−2−カルボキシアミド)プロパン酸メチルの調製
【化15】
【0058】
6−(メトキシメトキシ)ベンゾ[d]チアゾール−2−カルボン酸メチル(232 mg, 0.91 mmol)のメタノール溶液(10 mL)に、トリエチルアミン (1.8 mL, 12.8 mmol)と、D体またはL体のセリンメチル塩酸塩(1.01 g, 6.39 mmol)とを室温で加えた。得られた混合物を、室温で3日間攪拌した。
反応混合物に2 M塩酸(3 mL)を加えた後、クロロホルム(3×60 mL)で抽出した。合わせた有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、溶媒を減圧留去した。得られた残渣にトリフルオロ酢酸(3 mL)を加え、室温で30分間攪拌した。混合物を減圧濃縮し、得られた残渣を、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(シリカゲル100 g; ヘキサン‐酢酸エチル(1:1))にて精製することによって、3−ヒドロキシ−2−(6−ヒドロキシベンゾ[d]チアゾール−2−カルボキシアミド)プロパン酸メチル(207 mg、収率61%)を、白色固体として得た。生成物の物性測定値は、下記の通りである。
【0059】
3−ヒドロキシ−2−(6−ヒドロキシベンゾ[d]チアゾール−2−カルボキシアミド)プロパン酸メチル
IR(film): 3373, 3262, 1749, 1653 cm-1.
1H NMR (400 MHz, CD3OD)δ 7.92 (1 H, d, J = 8.8 Hz), 7.34 (1 H, d, J = 2.4 Hz), 7.07 (1 H, dd, J = 2.4, 8.8 Hz), 4.74 (1 H, t, J = 4.0, 7.2 Hz), 4.05 (1 H, dd, J = 4.0, 7.2 Hz), 3.80 (3 H, s).
13C NMR (100 MHz, CD3OD)δ 171.8, 162.1, 159.8, 159.6, 147.8, 140.1, 126.2, 117.6, 62.8, 56.4, 53.1.
ESI-HRMS calcd for C12H12N2O5S 296.0467 (M+H)+, found, m/z 297.0569.
D: [α]25D -4.7 (c 1.00, CH3OH).
L: [α]25D +6.3 (c 1.00, CH3OH).
【0060】
(2−5)3−ヒドロキシ−2−(6−ヒドロキシベンゾ[d]チアゾール−2−カルボキシアミド)プロパン酸の調製
【化16】
【0061】
D体またはL体の3−ヒドロキシ−2−(6−ヒドロキシベンゾ[d]チアゾール−2−カルボキシアミド)プロパン酸メチル(12.8 mg, 0.046 mmol)のメタノール溶液(1 mL)に、25 mM水酸化ナトリウム水溶液(5 mL)を室温で加えた。得られた混合物を、室温で25分間攪拌した。
反応混合物に2 M塩酸(0.1 mL)を加えた後、酢酸エチル(3×30 mL)で抽出した。合わせた有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、溶媒を減圧留去することによって、3−ヒドロキシ−2−(6−ヒドロキシベンゾ[d]チアゾール−2−カルボキシアミド)プロパン酸(10.1 mg、収率100%)を、白色固体として得た。生成物の物性測定値は、下記の通りである。
【0062】
3−ヒドロキシ−2−(6−ヒドロキシベンゾ[d]チアゾール−2−カルボキシアミド)プロパン酸
IR(film): 3388, 2942, 1729, 1652 cm-1.
1H NMR (CD3OD)δ 7.90 (1 H, d, J = 8.8 Hz), 7.32 (1 H, d, J = 2.4 Hz), 7.04 (1 H, dd, J = 8.8 2.4 Hz), 4.65 (1 H, t, J = 3.4 Hz), 4.05 (1 H, dd, J = 3.4, 11.7 Hz), 3.96 (1 H, dd, J = 3.4, 11.7 Hz).
13C NMR (CD3OD)δ 171.5, 160.6, 159.1, 157.4, 146.8, 138.7, 124.9, 117.1, 106.1, 61.5, 55.1.
ESI-HRMS calcd for C11H10N2O5S 282.0310 (M++H), found, m/z 283.0379.
D: [α]25D -8.9 (c 1.00, CH3OH).
L: [α]25D +10.2 (c 1.00, CH3OH).
【0063】
[実施例2]環化反応
(1)(R)−2−(tert−ブトキシカルボニルアミノ)−5−(6−ヒドロキシベンゾ[d]チアゾール−2−イル)−5−オキソペンタン酸tert−ブチルからの環化反応
(1−1)酸性条件
【化17】
【0064】
(R)−2−(tert−ブトキシカルボニルアミノ)−5−(6−ヒドロキシベンゾ[d]チアゾール−2−イル)−5−オキソペンタン酸tert−ブチル(前駆体1、20.8 mg, 0.0476 mmol)を、アルゴン雰囲気下、室温にてトリフルオロ酢酸(1 mL)に溶解した。得られた混合物を、アルゴン雰囲気下、室温で24時間撹拌した。
反応混合物を減圧濃縮した後、得られた残渣を、分取薄層逆相シリカゲルカラムクロマトグラフィー(20 cm×20 cm×1.75 mm×1 枚; 純水:メタノール(1:1))にて精製することによって、(R)−5−(6−ヒドロキシベンゾ[d]チアゾール−2−イル)−3,4−ジヒドロ−2H−ピロール−2−カルボン酸(10.3 mg, 収率82%)を、褐色固体として得た。生成物の物性測定値は、下記の通りである。
【0065】
(R)−5−(6−ヒドロキシベンゾ[d]チアゾール−2−イル)−3,4−ジヒドロ−2H−ピロール−2−カルボン酸
IR (film) 3088, 2924, 1677 cm-1.
1H NMR (400 MHz, CD3OD)δ 7.91 (1 H, d, J = 9.2 Hz), 7.35 (1 H, d, J = 2.5 Hz), 7.07 (1 H, dd, J = 2.5, 9.2 Hz), 4.96 (1 H, m), 2.51 (1 H, m), 2.29 (1 H, m).
13C NMR (100 MHz, CD3OD)δ 173.7, 173.4, 158.3, 157.8, 147.2, 138.1, 124.7, 116.9, 106.0, 73.8, 35.1, 26.1.
ESI-HRMS calcd for C12H10N2O3S 262.0412 (M+H)+, found, m/z 263.0490.
[α]25D -26.5 (c 1.00, CH3OH).
【0066】
(1−2)塩基性条件
【化18】
【0067】
(R)−2−(tert−ブトキシカルボニルアミノ)−5−(6−ヒドロキシベンゾ[d]チアゾール−2−イル)−5−オキソペンタン酸tert−ブチル(前駆体1、20.8 mg, 0.0476 mmol)を、アルゴン雰囲気下、室温にて4 M塩酸の酢酸エチル溶液(500μL)に溶解した。得られた溶液を、アルゴン雰囲気下、室温で24時間撹拌した。反応混合物のTLC分析(逆相(RP-18), 水:メタノール(1:2))を行った結果、この時点で、脱保護体と目的物である環化体((R)−5−(6−ヒドロキシベンゾ[d]チアゾール−2−イル)−3,4−ジヒドロ−2H−ピロール−2−カルボン酸)とが生成していた(脱保護体: Rf値原点付近、UV照射陽性、ニンヒドリン呈色陽性。環化体: Rf値=0.7付近、UV照射陽性、ニンヒドリン呈色陰性)。
反応混合物を減圧濃縮した後、得られた残渣をメタノールに溶解した(1.0 mL)。得られた溶液に、N,N-ジメチル-4-アミノピリジン、トリエチルアミン、または、水酸化ナトリウムのいずれかの塩基を室温にて3等量加え、室温のまま30分間撹拌した。この結果、いずれの場合においても、脱保護体、環化体共に化合物は分解してしまい、目的物である環化体を得ることはできなかった。
【0068】
(2)3−ヒドロキシ−2−(6−ヒドロキシベンゾ[d]チアゾール−2−カルボキシアミド)プロパン酸からの環化反応
【化19】
【0069】
(2−1)トリフルオロ酢酸
D体またはL体の3−ヒドロキシ−2−(6−ヒドロキシベンゾ[d]チアゾール−2−カルボキシアミド)プロパン酸(3.4 mg、0.0081 mmol)のジクロロメタン溶液(2 ml)に、アルゴン雰囲気下、0℃でトリフルオロ酢酸(10 μl)を加えた後、得られた混合物を0℃で30分間撹拌した。
反応混合物のTLC分析を行った結果、化合物は分解してしまい、D体及びL体のいずれの前駆体2からも、目的物である環化体を得ることはできなかった。
【0070】
(2−2)ジエチルアミノ硫黄トリフルオリド
D体またはL体の3−ヒドロキシ−2−(6−ヒドロキシベンゾ[d]チアゾール−2−カルボキシアミド)プロパン酸(2.8 mg、0.0067 mmol)に、アルゴン雰囲気下、7 mMジエチルアミノ硫黄トリフルオリドのジクロロメタン溶液(2 ml)を室温にて加えた。得られた混合物を、90度にまで加熱し、この温度を保ちながら30分間攪拌した。
反応混合物のTLC分析を行った結果、化合物は分解してしまい、D体及びL体のいずれの前駆体2からも、目的物である環化体を得ることはできなかった。
【0071】
(2−3)塩酸
D体またはL体の3−ヒドロキシ−2−(6−ヒドロキシベンゾ[d]チアゾール−2−カルボキシアミド)プロパン酸(5.4 mg、0.012 mmol)のジクロロメタン溶液(2 ml)に、アルゴン雰囲気下、2 M塩酸水溶液(50μL)を0℃にて加えた後、0℃を保ちながら30分間撹拌した。
反応混合物のTLC分析を行った結果、化合物は分解してしまい、D体及びL体のいずれの前駆体2からも、目的物である環化体を得ることはできなかった。
【0072】
[実施例3]発光強度及び波長の測定
(1)溶液の調製
発光強度及び波長を測定するに当たって、まず、以下の4つの溶液を調製した。
溶液1:pH 6の50 mMリン酸カリウム緩衝液に、(R)−2−(tert−ブトキシカルボニルアミノ)−5−(6−ヒドロキシベンゾ[d]チアゾール−2−イル)−5−オキソペンタン酸tert−ブチル(前駆体1)、3−ヒドロキシ−2−(6−ヒドロキシベンゾ[d]チアゾール−2−カルボキシアミド)プロパン酸(前駆体2、D体を使用)、(R)−5−(6−ヒドロキシベンゾ[d]チアゾール−2−イル)−3,4−ジヒドロ−2H−ピロール−2−カルボン酸(環化体)、または、ホタルルシフェリンである基質を、100μMの濃度で溶解した溶液
溶液2:MgとATPとを、それぞれ200μMの濃度で含有する水溶液
溶液3:pH 8の500 mMリン酸カリウム緩衝液
溶液4:35%の濃度でグリセリンを含有するpH 8の50 mMリン酸カリウム緩衝液に、ホタルルシフェラーゼ(Photinus pyralis(ホタル)由来、Sigma-Aldrich社製またはPromega社製の組換え型)を10μg/mLの濃度で溶解した溶液
【0073】
(2)発光強度の測定
溶液1、3及び4を20μLずつ量り取り、均一に混合した後、測定機(アトー株式会社製ルミネッセンサーAB-2270-R)に入れた。測定機内の混合溶液に、暗下で溶液2を40μL加えることによって発光させ、この発光強度を測定した。
ホタルルシフェリンの発光強度を1とした場合の、他の各基質の発光強度の測定結果を、表1に示す。
【表1】
【0074】
表1が示すように、前駆体1及び2は、発光強度比において、バックグラウンドと有意な差がなく発光が観測されなかったのに対し、環化体は、バックグラウンドに対して非常に高い値を示し、ホタルルシフェリン誘導体の中でも強い光を発することが観測された。
【0075】
(3)発光波長の測定
上記「(2)発光強度の測定」において発光が観察された、環化体とホタルルシフェリンとについて、それぞれの発光波長を測定した。方法は、以下の通りである。
「(2)発光強度の測定」で調製した溶液1、3及び4を4.0μLずつ量り取り、均一に混合した後、測定機(アトー株式会社製微弱発光蛍光スペクトル測定装置AB‐1850)に入れた。測定機内の混合溶液に、暗下で溶液2を8.0μL加えることによって発光させ、この発光波長を測定した。
結果を、図1に示す。なお、規格化強度は、環化体とホタルルシフェリンとのそれぞれについて、極大発光波長の強度を1とすることによって求めた。
【0076】
[実施例4]安定性の測定
(R)−5−(6−ヒドロキシベンゾ[d]チアゾール−2−イル)−3,4−ジヒドロ−2H−ピロール−2−カルボン酸(環化体)とホタルルシフェリンとの安定性を比較するべく、これら各化合物(5.0 mg)を、表2に示す溶媒(500μL)及び試薬(各化合物に対して約3等量)中で、空気存在下、室温にて1時間攪拌し、攪拌後に化合物が残存しているか、または、分解しているかを測定した。
結果を、表2に示す。例えば、「100%」と記載されている場合には、化合物が分解・変換などされることなく、元の化合物のまま100%回収できたことを示し、また、「分解」と記載されている場合には、化合物が分解・変換などされることによって、元の化合物が全く回収されなかったことを示す。
【表2】
【0077】
この結果、ホタルルシフェリンは、いずれのpH及び溶媒であっても容易に分解し不安定であるのに対し、環化体は、強酸〜中性領域において、水及び有機溶媒のいずれの中でも、全く分解せず極めて安定であることが示された。
図1